京都カナリヤ会 会報 第11号

京都カナリヤ会 会報 第11号
2013年7月
「京都カナリヤ会」はいつでも、誰もが、発症する危機を報知し
有害物質による健康被害者の支援と予防活動を推進する市民の会です。
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目 次
1.
活動報告............................................................................................................................................5
活動報告
2.
特別寄稿 蓄積する
蓄積する化学汚染
する化学汚染と
化学汚染と見えない人権侵害
えない人権侵害―次世代
人権侵害 次世代へのリスクを
次世代へのリスクを考
へのリスクを考える .......................................6
2.1. 特別寄稿 1
弁護士 南
「改正建築基準法施行から 10 年」
昌宏
2.2. 特別寄稿 2
弁護士 谷
「受動喫煙は人権侵害」
直樹
2.3. 特別寄稿 3 「ヒューマンライツとしての受動喫煙対策:サイレントマジョリティに向けて」
村田陽平
3.
ネットワーク紹介
ネットワーク紹介 ................................................................................................................................10
4.
「学校・保育園等では薬剤散布を禁止して」
子どもの未来と環境を守る会名古屋
カナリヤ講話
カナリヤ講話 .....................................................................................................................................13
「PM2.5 の健康影響について」
5.
6.
国際ソロプチミスト京都-北山 公開例会 にて
化学物質問題...................................................................................................................................17
化学物質問題
5.1.
水俣病:最高裁が初認定…熊本訴訟、基準柔軟運用促す
5.2.
農水省・環境省発―住宅地等における農薬使用-新通知
5.3.
EU、ミツバチ減少で殺虫剤禁止 12 月から、保護強化
5.4.
PM2.5「70 超」で注意喚起 44 府県が態勢
5.5.
週平均「20 超」で ぜんそく発作増
5.6.
京都清掃工場、排ガス発生を隠蔽 工場長がデータ改ざん指示
5.7.
女性クールビズ「香り」推奨を撤回
PM2.5 巡る調査
環境省、文書も削除
原発/震災
原発 震災/放射性物質問題
震災 放射性物質問題 ...............................................................................................................19
6.1.
原発輸出の不誠実
日本国内では慎重な一方、疑問残る官民推進
6.2.
原子力規制委が敦賀 2 号直下に活断層と認定、原電の廃炉判断焦点に
6.3.
南海トラフ
6.4.
福島第 1 で高濃度の放射性物質 東電、新たな汚染否定的
6.5.
原発 10 社、廃炉検討ゼロ=新基準でも再稼働方針―選別進まぬ可能性
M8 以上 60~70% 調査委「切迫性高まる」
6.6. 「原発事故による死亡者は出てない」自民・高市政調会長
7.
6.7.
原発新基準:選別加速…老朽基、迫る廃炉
6.8.
放射能汚染による格付け
6.9.
吉田元所長が死去
原発の光と影
タバコ問題
タバコ問題 関連情報 ........................................................................................................................23
7.1.
喫煙の有害性検討、厚労省が初の専門委発足決定
7.2.
喫煙と「胎児の脳への影響」
7.3.
喫煙と歯周病
7.4. 「たばこ」PM2.5 の塊
喫煙の居酒屋は北京並み 脳卒中やがんリスク高まる
7.5.
どうする受動喫煙対策 職場と公共施設以外でも甘えを排し 厳しい規制を
7.6.
ロシア、禁煙法案可決=下院
7.7.
WHO 2013 年の世界禁煙デー
7.8.
禁煙世界地図 (屋内完全禁煙の国)
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
3
医療と
医療と社会問題 ................................................................................................................................26
8.
8.1.
アレルギー、教員に研修…自公が対策法案提出へ
8.2.
子宮頸がんワクチン、検討会「一時的に接種推奨控える」
8.3.
歯科疾患と全身への影響
8.4.
いじめ防止法案が成立 防止策や迅速調査、学校の義務に
8.5.
政府、若者の自殺対策強化を提言 13 年版白書
8.6.
<生活保護>12 年度は月平均 213 万人 過去最多を更新
有害物質 SOS 受信 対応記録.........................................................................................................29
対応記録
9.
9.1.
ショッピングセンター店内のタバコ煙がひどい
9.2.
大学構内で受動喫煙の苦痛
9.3.
家族が喘息で入会希望
9.4.
こどもがシックハウス症状で転居したい
9.5.
京都市北部周辺の住宅環境について
9.6.
シックハウスで症状悪化、弁護士を紹介してほしい
10. 「新たなシックハウス」
たなシックハウス」の要因と
要因と対策につ
対策について
について.........................................................................................32
いて
参考 1 生活環境におけるシックハウス対策 厚生労働省の案内
参考 2 住宅関連業者の対応―被害者が司法的救済を求めた事例
11. 会員便り
会員便り ...........................................................................................................................................33
11.1. 会の事業と総会について
11.2. 会報 10 号に掲載の「携帯イヤホンマイクで電磁波予防」は疑問
11.3. 会報 10 号の「携帯電話使用と電磁波被ばくリスク」の内容について
11.4. 「マンションの外壁塗装工事で 6 カ月の避難」
11.5. 「母乳と子どものアレルギー」
11.6. 私の震災体験から
12. カナリヤの視点
カナリヤの視点 ..................................................................................................................................36
13. 危機を
危機を予告した
予告した人
した人々 ..........................................................................................................................37
14. お知らせ ...........................................................................................................................................38
自然エネルギー関連ニュース
『第 4 の革命 - エネルギー・デモクラシー』
再生可能エネルギーへの
%移行は
再生可能エネルギーへの 100%
移行は可能!
可能!
ドキュメンタリー映画『第 4 の革命』は、私たち一人ひとりに向けられた
メッセージ映画。
爆発的な風力発電導入を実現した、ドイツの 1990 年の電力買い取
り法、そして 2000 年にドイツで制定され、その後太陽光発電の導入の起爆剤となった「再生可能エネルギー法」。こ
れら 2 つの法律を制定させた中心人物こそ『第 4 の革命―エネルギー・デモクラシー』のメイン出演者である、ヘルマ
ン・シェーア氏である。太陽エネルギー、風力、水力、地熱エネルギーは、世界中の誰でも平等に利用できる自然
エネルギー源だ。そしてこれらのエネルギーは持続可能で、お金もかからず、尽きることなく長い間利用することがで
きる。国際的なムーブメントを起こし、世界をエネルギーシフトしていくためには、再生可能エネルギーの可能性につ
いての知識を広めることが必要不可欠だ。この知識を人々に分かりやすく伝えるために、 このドキュメンタリー映画
『第 4 の革命 - エネルギー・デモクラシー』は製作された。
当会で DVD を購入すれば上映会も可能です
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
1. 活動報告
<今期の主な活動>
1.1.
平成 24 年度事業報告書・平成 25 年度計画の作成・案内送付
1.2.
学習図書の送付 「未来につづく命に原発はいらない」
学習会の案内 「第 9 回 京都・環境教育ミーティングー平成 25 年 3 月 2 日(土)」ほか
1.3.
1) 要望書「住宅地の農薬使用について」新通知の周知徹底を願い府庁担当課宛に届けました。
2) 要望書「庁舎内喫煙室の撤去並びに敷地内禁煙」を京都地方裁判所所長宛に提出しました。
1.4.
カナリヤ講話 「PM2.5 の健康影響について」 国際ソロプチミスト京都-北山-公開例会にて
1.5.
有害物質 SOS 受信対応 ・ブログ「カナリヤの声」発信
<内容紹介>
1.2. 私たちが日頃から危惧している人災と天災の行方を学ぶ機会として、下記の
学習会を案内しました。
「大震災、原発事故と私たちの生活、環境・教育」
平成 25 年 3 月 2 日(土) 於: 龍谷大学 深草キャンパス 2 号館
田中克(NPO 法人森は海の恋人)
川野眞志(元京大原子炉実験所)
木下知己(NPO 法人 教育研究機関化学物質管理ネットワーク)
KYOTO 地球環境の殿堂 表彰式& 京都環境文化学術フォーラム
平成 25 年 2 月 17 日(日)国立京都国際会館
・ヴァンダナ・シヴァ氏(1952 年生 インド)環境哲学者・物理学者。
環境や農業・食糧問題に関する近代の西洋中心的な考え方に警鐘を鳴らし、
伝統的スタイルに根ざした価値感や社会構成の重要性など、環境と共生する思想の普及に貢献。
・エイモリー・B・ロビンス氏(1947 年生 アメリカ)ロッキーマウンテン研究所 理事長。
エネルギー利用の効率化や化石資源から再生可能エネルギーへの転換に関する学術研究で地球環境問
題の解決に貢献。
1.3 要望書
要望書 1
「住宅地の農薬使用について」新通知が一般市民まで周知徹底するために農薬危害防止月間中の
府民だよりに要約を掲載するほか、地域自治会や賃貸住宅業者等を通じての策を願いました。
要望書 2
京都地方裁判所の「庁舎内の喫煙室の撤去により建物内を全面禁煙とすること」並びに「敷
地内禁煙とすること」を健康増進法第 25 条と以下の理由により要望しました。
・ 職員はもとより、法曹関係者、一般市民が訴訟の手続き、照会、調停、裁判、本人訴訟
などで訪れる庁舎内で各階に設置された喫煙室からのタバコ煙に曝されていること。
・ 「喫煙室や空気清浄機の使用では受動喫煙を防止できない」
(*参考 3)
・ タバコ煙など化学物質に感度の高い空気弱者は、呼吸器ほか眼の痛み、頭痛を被り、待
機室で既に正常な思考が妨害されることも考えられます。
・ 喫煙と受動喫煙が様々な健康障害の原因となることは科学的に明らかです。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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2. 特別寄稿
蓄積する
蓄積する化学汚染
する化学汚染と
化学汚染と見えない人権侵害
えない人権侵害―次世代
人権侵害 次世代へのリスクを
次世代へのリスクを考
へのリスクを考える
はじめに
安全で健康的な住宅と環境を求めることは、すべての国民の基本的な権利であり、憲法 25 条が保障す
る生存権の土台となるものです。私たちの生活の基盤である住宅・職場・学校において健康障害を引き
起こすシックハウスの問題は、平成 15 年に施行された建築基準法で解決したのでしょうか。
当会は有害物質 SOS 受信のまとめとして会報 9 号に「新たなシックハウス」の問題を提起しました。
昨年 9 月には、厚労省が 10 年ぶりに「シックハウス問題に関する検討会」を再開しました。
厚労省公表のシックハウス要因の中に「たばこの煙」が明記されています。
住宅では自宅外発生の室内空気汚染によっても安息と健康を損なう要因があり、中でもタバコ煙の室内
流入は避けることが不可能なシックハウス問題となっています。
2.1. 特別寄稿 1
「改正建築基準法施行から 10 年」
弁護士 南 昌宏
シックハウス問題の現状と課題
昨年 9 月、厚生労働省において、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会が 10 年ぶりに開
催され、以後、開催が重ねられており、未規制物質対策のスクリーニングとして有効と考えられる総揮
発性有機化合物(TVOC)の指標のあり方について検討されるなど、新たな住宅における化学物質規制
について議論がされています。
解決のための課題の一つとして、裁判上でも目安となりうる新たな化学物質の規制と指針値の改定が求
められているものと考えられます。
1.規制による従来物質の使用の減少
2003 年(平成 15 年)7 月 1 日に、改正建築基準法が施行され、ホルムアルデヒドとクロルピリホス
の 2 物質について、法規制の対象とされました。この改正建築基準法が施行されてから 10 年が経過しま
した。
2003 年の建築基準法の改正は、シックハウス防止のためになされたものであり、この建築基準法改正
以前の建築基準法には、シックハウス症候群を引き起こす化学物質に関する規準はありませんでした。
住宅における化学物質使用の法規制としては、改正建築基準法以外には住宅品質確保法があります。
また、法律以外では、厚生労働省によって室内空気の化学物質濃度に関する指針値が、13 の化学物質に
ついて定められております。
厚生労働省による室内空気の化学物質に関する指針値は、一定の指標となっており、規制がなされて
いる化学物質(ホルムアルデヒド、トルエンなど)の室内空気濃度については、指針値に比較してかな
り低い値におさまっている場合が多いとされております。
また、新築マンション購入後、指針値を超えるホルムアルデヒドが放散されていた可能性が高いとさ
れた場合において、多額の損害賠償を認める裁判例が出ております。
そのため、少なくとも厚生労働省によって室内空気の化学物質濃度に関する指針値が定められている
13 の化学物質については、使用が減っているといわれております。
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2.現在の問題
しかし、現在、指針値が定められた 13 の化学物質以外の化学物質への代替化がすすみ、代替した化学
物質が使用されるようになっており、規制の及ばない化学物質の室内空気濃度については高く検出され
ることがあるとされております。
代替化学物質は多種多様なものであり、それらの代替化学物質については、規制がなされておらず、
また、その代替化学物質の安全性も確保されていません。代替化学物質は無害であるとは限らず、別の
有害物質が使用されているだけということも十分ありえます。
そうであるにもかかわらず、建築基準法は化学物質に関する規制についての改正をしておりませんし、
厚生労働省によって定められている室内空気の化学物質濃度に関する指針値についても改定がなされて
おりません。
法規制あるいは指針値の有無は、裁判においても重要な意味があります。例えば、未規制の化学物質
を住宅の床下処理に使用し、未規制の化学物質によって化学物質過敏症に罹患したとして未規制の化学
物質と化学物質過敏症の罹患との因果関係を認めつつも、当該化学物質が、指針値が定まっている 13 の
化学物質以外の物質であり、業者が未規制の化学物質と化学物質過敏症の罹患を具体的に予見すること
は不可能であったとして、業者側の責任を否定している裁判例があります。仮に、当該化学物質につい
て何らかの法規制、指針値が定められておれば、結論が変わった可能性があると思われます。
3.今後について
新たな化学物質の開発が日々続けられていることからすれば、新たな法規制が必要となっていると思
われます。
安心を得るべき場所である住宅が、安心を得ることができない場所となることは許されるべきではな
く、シックハウス問題が解決されることを切に望みます。
<南 昌宏 弁護士> 京都弁護士会:2009 年登録
所属:京都弁護士会 2011 年公害対策・環境保全委員会 化学物質部会 部会長
*新進気鋭の南弁護士に当会も大変お世話になっています。
2.2. 特別寄稿 2
「受動喫煙は人権侵害」
弁護士 谷 直樹
2010 年 6 月 11 日、第二東京弁護士会人権擁護委員会 において、「受動喫煙防止部会」の設立が承認
されました。
同年 7 月 13 日の人権擁護委員会において、受動喫煙防止部会(部会長は岡本光樹先生)の受動喫煙に
関する勉強会が開催され、私はオブザーバーで参加しました.
岡本部会長の講義と質疑,自由な討論が行われました.
その中で.私としては.マンションにおける受動喫煙問題が気になりました.
マンションのベランダで喫煙する人がいて,ホタル族と呼ばれています.このホタル族がいるマンシ
ョンでは,タバコの煙(副流煙)のため.窓があけられない,ベランダに洗濯物を干せない,どこから
ともなくタバコの臭いが漂ってくる,という大変困った状況が生じています.
ホタル族の多くは,自室内の家族には有害な副流煙を吸わせたくない,自室をタバコ臭くし資産価値
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を下げたくない,などの動機で,ベランダでタバコを吸っています.有害性の認識の認識はあるのです.
ベランダはマンション所有者全員の共有部分で区分所有者の専用使用権が認められています.しかし,
そこで有害物質を発散し他人に不快感を与え,他人の生命身体を危険にさらすことが許容されるか,が
問題です.受忍限度論が言われることがありますが,たとえ微量でも,タバコ煙の不快感は,強烈で耐
え難いものがあります.タバコ煙の場合,この量までなら生命健康に安全という安全域はありません.
したがって,受動喫煙問題に受忍限度論はあてはまらないでしょう.
他人にタバコ煙が及ぶような形の喫煙,受動喫煙を強いる形の喫煙は,他人の生命身体,幸福追求権
への侵害と考えられるのではないでしょうか.
人権問題として受動喫煙問題にアプローチすることで,解決策を見出すことができるように思います.
すこし先の話になるのでしょうが.日弁連の人権大会で,受動喫煙問題のシンポジウムを行い,受動
喫煙防止の具体的な提言をまとめることも考えられると思います.タバコ規制法の立法化も時間の問題
でしょう.今,タバコ問題は大きく動きつつあります.第二東京弁護士会人権擁護委員会受動喫煙防止
部会の今後の活動に期待します.
(谷 直樹/法律事務所のブログ掲載文を一部加筆でご寄稿を願いました)
谷 直樹/法律事務所のブログ<http://medicallaw.exblog.jp>より、
(その後のタバコ関連記事から了解を得て転載)
2013 年 1 月 9 日の記事
名古屋地裁平成 24 年 12 月 13 日判決,マンションベランダからの受動喫煙被害で喫煙者に賠償を命じる
(報道)
昨年 12 月 28 日に中日新聞,東京新聞等が報じていた判決ですが,昨日の読売新聞「「ホタル族」喫煙、
賠償命令…階上女性が提訴」でも報じられています.
名古屋地裁平成 24 年 12 月 13 日判決は,近隣住民に配慮しない喫煙の仕方は違法であるとして,マンショ
ンベランダで喫煙を続けた階下の 61 歳男性に対し慰謝料 5 万円の支払いを命じました.
この判決は確定しております.
原告代理人弁護士は,名古屋弁護士会副会長の北條政郎先生です。
このようなマンションベランダでのホタル族による受動喫煙被害は,非常に多く,大変困っている,という
話をよく聞きます.喫煙者が考える以上に,受動喫煙者は深刻な被害を受けているのです.
判決で有害なタバコの煙が近隣住民に及ぶような喫煙の仕方が違法であると確認されたことを受けて,行
政,立法によって近隣住民にタバコの煙が及ぶ形態でのマンションベランダでの喫煙,換気扇下での喫煙が
規制されることを期待いたします.
<谷 直樹 弁護士> (谷直樹 法律事務所)1997 年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
所属団体:医療問題弁護団(副幹事長) ・薬害肝炎被害救済弁護団
患者の権利オンブズマン東京(幹事長) ・患者の権利法をつくる会(世話人)
医療事故情報センター(正会員) ・日本禁煙学会(評議員)
* 谷 直樹 弁護士は、患者側の弁護士として医療事件を専門に受任され、適正な解決の実現に向けて活躍され
ています。医療事件と薬害事件,タバコ煙害事件に集中するため,それら以外の事件は取り扱っていないとの
ことですが、理不尽な社会問題に対し弱者への視点をブログで発信されています。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
2.3. 特別寄稿 3
「ヒューマンライツとしての受動喫煙対策:サイレントマジョリティに向けて」
村田陽平
国際的なタバコ対策の進展に比べて,日本ではメディアをはじめ,
「喫煙者
(愛煙家)は肩身が狭い」などの喫煙者の立場に偏った表現がいまだに使用さ
れています。受動喫煙被害の当事者が「肩身が狭い」とすら言うことのできな
い状況に追い込まれていることを鑑みれば,日本では基本的な人権(ヒューマ
ンライツ)に対する意識が低いと言わざるを得ません。
この構造の原因を考えるうえで,サイレントマジョリティという視点が有効
になります。サイレントマジョリティとは「静かな多数派」と訳されるように,
「発言はしないが現体制を支持している多数派」のことを指す用語です。最近
の日本人の喫煙率は約 20%にすぎないにもかかわらず,
日本の受動喫煙対策が
非常に遅れているのは,
約 80%の非喫煙者の多くがサイレントマジョリティに
なっていることが大きな要因として考えられるでしょう。
私が昨年末に刊行した『受動喫煙の環境学:健康とタバコ社会のゆくえ』は,
そのような観点から,タバコ規制の国際条約(FCTC)を最初に批准した国の一つでありながら,受動喫煙
対策の「後進国」である日本の現状に警鐘を鳴らし,よりよい社会環境の実現に向けた議論の道筋を示した
ものです。
序章「能動喫煙から受動喫煙へ:タバコ対策の新たな時代」で,従来十分に認識されてこなかった環境タバ
コ煙の健康被害である「受動喫煙症」を説明し,身近な環境問題として受動喫煙対策に取り組む意義を示し
ています。
第Ⅰ部(第 1 章~第 3 章)
「日本の受動喫煙被害の実態」では,どのような社会環境が人々に受動喫煙被害
をもたらしているのかを考察しています。第 1 章「受動喫煙に対する認識の遅れ:「後進国」としての日本」
で,世界各国の受動喫煙対策と日本の生活空間の汚染状態を説明したうえで,第 2 章「受動喫煙をめぐる多
様な社会環境:日常空間で遭遇する健康被害」と第 3 章「労働環境にみる受動喫煙症患者の苦難:守られない従
業員の健康」で,受動喫煙被害者へのインタビュー調査から日常空間における健康被害を明らかにしていま
す。
第Ⅱ部(第 4 章~第 5 章)
「日本のタバコ広告の深層」では,タバコ広告の表象の問題を考察しています。
第 4 章「商品広告にみるタバコと「男らしさ」:「ホープ」を事例に」で,タバコ広告がジェンダーアイデン
ティティのレベルで喫煙行為を肯定的に訴えている側面を,第 5 章「マナー広告にみるタバコのススメ:「大
人たばこ養成講座」を事例に」で,喫煙マナー広告が喫煙者の日常的場面を肯定的に提示する「喫煙者養成」
の性質を持ち,受動喫煙を副次的に捉えている側面を,それぞれ明らかにしています。
第Ⅲ部(第 6 章~第 7 章)
「日本の受動喫煙対策のポリティクス」では,なぜ日本の受動喫煙対策が遅れて
いるのかを考察しています。第 6 章「公共空間におけるタバコ産業の分煙戦略:喫煙スペースの生産」で,タ
バコ産業の分煙戦略は受動喫煙防止の視点が不十分なまま喫煙空間の整備を目的にしていること,第 7 章「受
動喫煙防止条例へのタバコ産業の抵抗:公共空間をめぐる攻防」で,地方自治体の受動喫煙防止条例に抵抗す
るタバコ産業の背景には利権をめぐる日本の特殊な社会経済構造があることを示しています。
以上の議論を踏まえ,終章「受動喫煙のない社会環境に向けて:「先進国」のための条件」では,受動喫煙
対策は人間の環境権/健康権などヒューマンライツ(人権)の保護において重要なものであり,地域/個人
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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間の感情的議論に陥らないようにするために,国が早急に統一的な受動喫煙防止法を構築する必要があるこ
とを結論づけています。
本書を通じて,これまで十分に焦点があてられなかった受動喫煙被害の実態や日本の受動喫煙対策の遅れ
への認識が深まり,受動喫煙をめぐる社会環境の改善に向けた本質的かつ建設的な議論が展開していく契機
になることを期待しています。とくに「喫煙者対非喫煙者」という構図で捉えられる傾向にある受動喫煙の
議論に対して,
「他者から不本意に健康被害をうける」という問題の本質を踏まえると,スモークフリーな社
会環境の整備が非喫煙者/喫煙者にかかわらず重要な問題です。
今後は,受動喫煙問題を,健康など医学的視点のみならず,ヒューマンライツなど法学/倫理学的視点か
らも幅広く捉えていくことで,日本のサイレントマジョリティの意識を変容させる必要性があるでしょう。
まずは,身近なサイレントマジョリティに対して「本当に肩身が狭いのは誰なのか?」と問いかけてみること
が第一歩だと思います。国が早急に受動喫煙対策防止法を制定するために,今後もさまざまな努力を重ねて
いきましょう。
【著書紹介】 村田陽平著『受動喫煙の環境学:健康とタバコ社会のゆくえ』(世界思想社,2012 年)
【著者紹介】●略歴:京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了,博士(文学),日本学術振興会特別研究
員,京都大学次世代研究者育成センター助教(白眉研究者)などを経て,現在,近畿大学文芸学部(文化・歴史学
科)専任講師
●専門:人文地理学,ジェンダー論,社会環境論
●他の著書・論文:『空間の男性学:ジェンダー
地理学の再構築』(京都大学学術出版会,2009 年),保健師による地域診断の現状と課題:「健康の地理学」に向
けて(E-journal GEO 5: 154-170, 2011 年,共著)など
●受賞歴:日本地理学会賞奨励賞(2004 年)
*著者の村田陽平氏は,人文・社会科学研究者として受動喫煙被害者の視点を重視し,調査・分析によって
受動喫煙の環境問題を論じている。日常的に受動喫煙に苦しむ被害者の実態を多くの事例から示すなど,これ
までにない学際的な観点から実態と問題を究明している。なぜ日本が受動喫煙の後進国であり続けるのかを問
い,それは物言わぬ傍観者の存在があると指摘している。文献が豊富に紹介され,人の命よりもビジネス優先
の国を知る歴史的な図書でもある。当会ブログで 5 月の学習図書として紹介しました。
3. ネットワーク紹介
ネットワーク紹介
農薬使用による環境汚染と子どもたちへの影響を身近に察知した時、子どもたちを守らなければと会を立
ち上げ、市民団体や議員、そしてマスコミの支援を得ながら行政と連携で公共施設の農薬散布の見直しを確
実に進められた、愛知県名古屋市の「子どもの未来と環境を守る会名古屋」の力強い活動を紹介します。
8年間に亘る記録は反農薬東京グループ(http://home.e06.itscom.net/chemiweb/ladybugs/)情報誌に掲載さ
れています。私たちもその取組に学びたいと寄稿をお願いしました。
学校・保育園等では薬剤散布を禁止して
子どもの未来と環境を守る会名古屋
私たちが愛知県と名古屋市へ、公共施設の農薬・薬剤散布について見直しを図るよう働きかけるきっかけ
となったのは、東山動物園の広範囲にわたる園内樹木への農薬散布でした。
平成17年春のことです。反農薬東京グループに相談、新聞記者の取材を受けて記事にしていただき、また、
議員に立ち会っていただいて見直しをお願いしました。その後も、科学館や小学校給食室での室内殺虫剤散
布など、子どもたちが利用する様々な施設で、農薬や殺虫剤の定期散布が行われていることを知り、多くの
人が訪れる公共の施設で、市民や利用者に知らされることなく、農薬や薬剤の散布が、害虫等の発生の有無
10
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
にかかわらず、安易に行われていること自体が非常に問題であると強く感じ、子どもの未来を守りたいとの
強い思いから会を立ち上げました。
愛知県や名古屋市の複数の施設について農薬と室内殺虫剤散布の状況を調べ、複数の議員に薬剤散布の問
題について訴え、まず、室内殺虫剤散布の問題を平成18年3月の市議会で取り上げていただくこととなりま
した。時間の制約から質問が屋内の薬剤散布に限られたため、他の市民団体のご協力も得て、議員立ち会い
のもと、名古屋市と愛知県へ、公共施設の農薬・薬剤散布の実態調査と見直し(定期散布の中止や市民への
周知等)
、取り組み方針の策定などを求める要望書を3月末に提出し、新聞記事掲載も求め、掲載されました。
名古屋市の回答は、実態調査は実施するが、薬剤散布の見直しについては国の通知や法改正の周知に努め
るとあるのみで、指針の策定はかないませんでした。それでも、市が18年度から翌年度にかけて実施した市
有施設の17年度薬剤散布状況調査の結果をもとに、ご協力くださった市民団体の情報誌で散布実態と見直し
を訴え、取材協力も求めて新聞記事に掲載され、再び、平成19年9月に市議会で質問していただいて、漸く、
基本指針を策定するとの答弁を得ました。名古屋市は、平成20年1月に「名古屋市の施設等における農薬・
殺虫剤等薬剤の適正使用に係る基本指針」を策定、その後平成19年度分から薬剤の使用状況調査を継続して
います。
指針策定から5年が経過、昨年末に平成23年度薬剤使用状況調査結果概要を公開しました。
(*詳しくは反
農薬東京グループの「てんとう虫情報」第183、191、192、197、209、219、259、260号をご覧ください。)
◆基本指針策定から5年、薬剤使用施設件数、薬剤使用量ともに減少
表1は薬剤使用施設等件数の5年間の推移です。対象施設等の約3分の1が薬剤を使用、屋外の農薬等の使用
は1割強の施設と減少しました。屋内も平成19年度から21年度まで減少、22年度の増加は主に教育委員会の
食毒剤や消毒剤の以前の報告漏れのためです。
表1.名古屋市の施設等における薬剤使用施設等件数の推移
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
屋外
屋内
屋外
屋内
屋外
屋内
屋外
屋内
屋外
屋内
薬剤使用施設等
349
272
272
212
202
183
199
464
166
442
542
426
340
546
508
調査対象施設等
1238
1428
1532
1573
1531
※複数施設等で一括して薬剤を使用している場合、1 件として計上している所もあるため、施設等数とは一致しない
薬剤の使用量の5年間の推移は表2のとおりで、全体では屋外・屋内ともに平成19年度から減少しています。
屋外は除草剤が21、22年度、他の薬剤が23年度に増加しました。屋内消毒剤の22年度の減少など回答の間
違いや回答漏れ等による増減もあります。有機リン系殺虫剤も減少してはいますが、23年度に屋内で増加し、
まだ741Lと7.79kg、屋外で88Lと87kgも使用されています。
実施方法等は、屋内の殺虫剤で散布以外の方法の割合が増加していました。
表2.名古屋市の施設等における薬剤使用量の推移(希釈前の量、単位:㍑(液体)、kg(固体))
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
区分
液体
固体
液体
固体
液体
固体
液体
固体
液体
固体
殺虫剤
796
401
644
132
587
81
412
128
552
154
屋
(有機リン)
(250)
(347)
(181)
( 52)
(142)
( 41)
(140)
( 78)
( 88)
( 87)
外
殺菌剤
1324
645
1377
194
823
141
623
222
759
249
除草剤
44
19
44
13
65
62
148
0.30
98
9.55
農薬以外
574
391
517
317
483
215
475
177
502
211
小計
2754
1456
2602
752
1978
498
1672
527
1913
623
殺虫剤
2554
464
3969
52
1700
113
1497
440
1366
264
屋
(有機リン)
(2058)
(365)
(1239)
( 31)
(749)
( 42)
(610)
( 5.17)
(741)
(7.79)
内
防蟻剤
64
7.67
82
0.06
40
0.50
35
35
殺そ剤
92
59
77
0.24
73
36
消毒剤
5082
0.09
295
0.10
591
3.50
319
3.20
590
4.50
小計
7700
564
4346
111
2331
193
1852
517
1991
304
※屋外の植物成長調整剤と展着剤は省略。使用量10(㍑,kg)以上は小数点以下四捨五入、太字で表記(有機リンを除く)。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
11
◆有機リンの使用中止を
平成23年度調査結果詳細をみると、有機リンの使用量はごみ処理工場で増加、市民利用スペースでは減少し
ていたもののまだ多く、福祉施設や附属病院等の室内散布や、学校や幼稚園、バラ園、植物園、農業公園等で
の農薬散布がありました。上記統計に含まれない有機リン使用もあり、屋外の農薬以外で、児童福祉施設等の
建物外周に、ムカデ対策等として防疫用や不快害虫用の殺虫剤が散布されていました。子どもや薬剤弱者が利
用する施設での使用はすぐにも中止すべきです。
有機リンについては平成18年3月に国会でも質疑応答があり、従来の知見に加えごく微量での慢性毒性の懸
念が指摘され、脳神経系への影響が深刻とされています。EUでは2009年の農薬リスク評価でほとんどの有機
リン系農薬が不認可となりました。揮発性が高く周辺大気を汚染し、特に屋内では室内塵に長期間残留、気温
の上昇でガス化し室内空気を汚染します。住宅地、公共施設等で使用すべきではありません。
「国が認可して
いる薬剤だから使用できる」のかもしれませんが、自治体で、やむをえず薬剤を使用する場合に、市民の健康
リスクや環境への悪影響を低減するために、よりリスクが低い薬剤を「選択する」ことは可能なはずです。
◆室内殺虫剤散布の中止 と 学校や保育園等での薬剤散布禁止を
有機リンだけでなく、ピレスロイド系やネオニコチノイド系など、神経毒性を有し、発達毒性や生態影響が
懸念される薬剤は、できる限り使用してほしくありません。室内殺虫剤散布や樹木への農薬散布をやめた施設
は、本当にたくさんあります。図書館は屋外も屋内も薬剤散布をしていません。病院局も仕様書でやむをえな
い場合のピレスロイド系殺虫剤の散布を認めていますが、その散布もなくなり、使用薬剤はベイト剤だけでし
た。日常の清掃、トラップ等物理的防除と毒餌等空気を汚染しない薬剤の併用で室内殺虫剤散布を止めること
は可能です。
屋外は、早期発見と物理的防除に取り組み、街路樹や公園樹木を無農薬で管理する土木事務所が増えました。
東山動物園も樹木を無農薬で管理していますが、隣接する植物園や他の農業公園で使用薬剤の種類も回数も多
く、取り組みに差があります。学校・幼稚園も件数、量ともかなり減少でも、まだ69校・14園で散布。一部で
BT剤の使用もありますが、フェニトロチオンや劇物のDDVPやDEP等の有機リン系の殺虫剤を、希釈液で
200L~500L、あるいは1000L散布という学校等もありました。一方、保育園は11園でBT剤を希釈液で30L~
90L散布。担当課で園から毛虫等発生の報告を受け薬剤を指定し発注、21年度もすべてBT剤で、担当異動時
の引き継ぎがなく22年度にマラソン等有機リンを使用するも、指針所管課が薬剤の選定について指導していま
した。
基本指針は平成22年4月に改正、薬剤使用の際の配慮を求める対象を拡げ、子どもの他にも妊婦や病人など
化学物質に対する感受性が高い人に対して配慮することとされ、薬剤の選定についても解説編で「薬剤の毒性
にも配慮する」と記載し、講習会でも毒性等を考慮した薬剤の選定について取り上げるようになりました。
5年間の推移をみると指針の策定と運用を評価できると思います。関係者の皆さんに感謝しています。ただ
施設によって取り組みに差があり、各局各課で仕様書等での見直しを図る他、もう一歩進めて、子どもや薬剤
弱者が日常利用する施設では薬剤散布を原則禁止としてほしいと思います。
*薬剤使用の危険性について、こどもの感受性に悟る保護者とこれを支援する市民団体、議員の力が結集して、行政を
動かし、社会通念を変えていく8年に亘る粘り強い活動の記録は子どもの未来と環境を守る貴重な指南書となります。
全国に先駆けた愛知県と名古屋市の取り組みとマスコミの協力も大きな力です。
*散布された農薬の大部分は土壌に留まることなく気流に乗って大気中に拡散し、人や生態系に影響を与えていることは、
タバコ煙のガス成分と同様に避けられない身近な問題です。この記録に学び、住宅敷地内の農薬使用と喫煙についても
周辺への被害予防策を講じれば、がん発生の増加ほか疾病の予防に繋がります。
12
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
4. カナリヤ講話
カナリヤ講話
いつもご支援を頂きましてありがとうございます。
国際ソロプチミスト京都-北山様には当会の設立 2 年目の
2010 年からお声をかけて戴きまして、農薬・殺虫剤、タバコを
はじめとする空気汚染によって健康障害に喘ぐ少数の弱者に、
ご理解とご支援を賜りました。
その中で 2011 年の春に、京都ロータリークラブ様の社会奉仕
部門へ当会の活動を推薦下さり、私達が最も必要としていた PM2.5 の測定機を寄贈して下さいました。
それから 2 年後の今年、急に中国から飛散する空気汚染が報道され日本中で PM2.5 騒ぎがおきました。こ
れまで、環境省はじめ各自治体でも PM2.5 の測定はしており、基準値が超えるレベルも出ていたのに何故、
今になって煽るように報道し始めたのかと思えるほど、見えない空気汚染情報が社会を不安にしています。
本日は空気汚染の痛みを感知する発症者が、事実を正しく理解することを伝えたいと願って資料を作成い
たしました。また生活の場で身近に発生している PM2.5 の測定データを画像でご紹介しながら、私たちが日
常的に曝されている pm2.5 -タバコ煙の驚くべき高い濃度と被曝の実態報告をさせて頂きます。
国際ソロプチミスト京都-北山 例会 講話
PM2.5 の健康影響について
2013 年 6 月 27 日
京都カナリヤ会 広瀬
1.PM2.5 とは?
「PM」は英語で「Particulate Matter」の略。日本語では「粒子状物質」と呼ぶ。
µm(ミクロン、マイクロメートル=100 万分の 1 メートル)単位の固体や液体の微粒子のことで、主に汚染
の原因物質として大気中に浮遊する粒子状の物質を指す言葉である。
・毛髪(
毛髪(断面)
断面)
・黄砂
・タバコの煙
・タバコの煙
・ディーゼル車排
・ディーゼル車排ガス
車排ガス
・アスベスト断面
・アスベスト
断面
80μ
80μm
4μm
0.01~
0.01~1.0μ
1.0μm
0.1~
0.1~0.3μ
0.3μm
0.02~
15μ
0.02
~15
μm
μm マイクロメートル=100 万分の1メートル
nm ナノメートル= 10 億分の1メートル
概ね 5μm 以下になると肺胞にまで達し始める。
タバコ煙ガスは直径 0.5 ナノメートル前後の微粒子
20nm (0.02μm) 付近が肺胞への沈着が最も多く鼻
PM2.5 とサイズ比較
呼吸よりも口呼吸のほうが呼吸器の奥に沈着。
粒子状物質は屋外だけではなく屋内の空気にも。
2.PM2.5 の成分と発生源
PM 2.5 は、単一の化学物質ではなく、炭素、硝酸塩、硫酸塩、 NOx(窒素酸化物)
、SOx(硫黄酸化物)
、
金属を主な成分とする様々な物質の混合物である。PM2.5 は発生源によって成分が異なる。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
13
PM(粒子状物質)の発生源は工場の排煙やディー
ゼル車の排気ガス、野焼きなどの人間による経済
活動や喫煙、火山などの自然活動も含まれる。
PM は、主に物質の粒径によって分類され、2.5μ
m 以下の粒径の微小粒子を PM2.5 と定義され「微
小粒子状物質」と呼ばれている。
粒径が 10μm 以下のものは SPM と定義され「浮
遊粒子状物質」と呼ばれる
<粒子状物質の化学組成>
(中央環境審議会大気環境部会資料より)
環境大気中に存在する粒子状物質の化学組成は、無機成分(硫酸塩、硝酸塩、塩化物等)
、炭素成分(有機炭
素)(OC)、元素状炭素(EC)、炭酸塩炭素(CC)等)
、金属成分、土壌成分等に分類される。
① 硫酸塩
硫酸塩の生成については、二酸化硫黄(SO2)が大気中で水と反応するとともに、OH ラジカル 2 と反応し、
亜硫酸(H2SO3)や硫酸(H2SO4)となる。さらに、アンモニア(NH3)と反応し、硝酸アンモニウム( (NH4)2SO4
及び H(NH4)SO4)を形成する。大気中に存在する粒子状物質には、硫酸(H2SO4)と硫酸塩が共存する。
②硝酸塩
一酸化窒素(NO)はオゾン(O3)や RO2 ラジカル 3 と反応し、二酸化窒素(NO2)になる。日中には、光解離し
てオゾン(O3)を発生させるが、これと共に OH ラジカルと反応して硝酸イオン(NO3-)を形成する。硝酸
(HNO3)は、日中ばかりではなく夜間にも生成する。この硝酸(HNO3)は、アンモニア(NH3)と反応して硝酸
アンモニウム(NH4NO3)を形成する。硝酸塩は粒子状物質であるが、温度が上がると再び硝酸(HNO3)とア
ンモニア(NH3)になり、ガス状物質と粒子状物質の間で可逆的に変化する。
3.PM(粒子状物質)の発生源と大気汚染
日本の PM2.5 発生源
・ディーゼル車の廃ガス
・工場・船舶・航空機
・石油・石炭使用排煙
・タバコ煙・野焼き
・中国からの黄砂と工場排煙
・石炭排煙、車の排ガス
・火山灰
中国国内の PM2.5 発生源
・火力発電に使用する石炭燃焼排煙
・多量の工場排煙 ・タバコ煙 ・黄砂
・トラックなどのディーゼル車の排気ガス
・石炭を用いた暖房システムからの排煙
・汚染物質を多く含んだ軽油の利用
14
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
その成分は、二酸化硫黄(SO2)が太陽による光化
学反応を受けてできた硫酸塩が多く、石炭由来の水
銀や鉄などの重金属類も多く含まれる。
黄砂は土壌成分だけではなく重金属の他に 6000 種
ものカビや細菌が付着しており、喘息などアレルギ
ー疾患の憎悪に深く関わっていることが究明されて
いる。
4.「PM2.5」の健康に及ぼす影響
人間が呼吸を通して微粒子を吸い込んだ時、鼻、喉、気管、肺な
ど呼吸器に沈着することで健康への影響を引き起こす。
粒子径が小さいほど、肺の奥まで達する(沈着する)が、概ね 5µm
以下になると吸入量の 1-2 割が肺胞に達し始める。
PM2.5 は粒径が微小であるため呼吸とともに肺などの呼
吸器の奥に入り込む。
肺から血液や脳、生殖器などにも入りこむ。
PM2.5 以下の微小粒子は細胞内に取り込まれる。
PM2.5 は体内で活性酸素を多量に産生し、炎症を起こす。
これらが健康被害を引き起こす。
肺胞は
肺胞は血液―
血液―ガス交換
ガス交換の
交換の場
酸素を取り込み、二酸化炭素を放出す
5.PM2.5 の健康影響に関する疫学調査結果
PM2.5 の基準値
PM2.5・
・DEP(
(ディーゼル車排
ディーゼル車排ガス
車排ガス微粒子
ガス微粒子)
微粒子)の影響
● 人への健康影響報告
2011 年 5 月公表:環境省
•
肺ガン
•
気管支喘息
(その後、因果関係を否定)
•
心疾患・脳血管疾患・糖尿病疾患者死亡率上昇
•
花粉症・皮膚炎 (グレー)
●
動物実験での影響の報告
•
人への影響と同様の報告に加えて
•
生殖器影響 ・脳神経細胞の減少
(アルツハイマー・パーキンソン病様の行動発症 )
● 日本の
日本の基準値
μg/m 以下
・1 年の平均値が
平均値が 15μ
・かつ 1 日の平均値が
μg/m3 以下
平均値が 35μ
● WHO の指針値
μg/m3
・ 年平均 10μ
・ 24 時間平均 25μ
μg/m3
(嵯峨井 勝 元国立環境研究所総合研究官の講演録より)
<注意喚起の
注意喚起の内容>
内容>
環境省基準(
環境省基準(日平均値が
日平均値が 70μ
70μg/m3 超)
・屋外での活動を控える ・屋外での長時間の激しい運動や外出をできるだけ減らす
・屋内においても換気や窓の開閉を最小限にする
・呼吸器系や循環器系疾患のある人、高齢者、子ども等は、体調に応じてより慎重に行動することが
望まれる (参考:環境省大気汚染物質広域監視システム【そらまめ君】速報値)
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
15
6.微小粒子状物質 PM2.5 対策
<対策> 1 浮遊微粒子除去
・窓を閉める(閉めても PM2.5 は室内に流入する。外も室内も避けられない)
・マスクも完全なものはないが、着用した方が防げる
・空気清浄機も PM2.5 以下の超微小粒子に効果は確実ではない
・うがい、手洗い、洗顔、眼の洗浄、外出時の着衣や髪の付着粒子を除去
・掃除機は粒子を吹き上げる
掃除機の排気で室内が汚染される!
・口呼吸の方が微粒子の吸引量が多い
微粒子捕集可能と表示の機種を
・抗酸化・抗炎症食
<対策>2 抗酸化食物
ビタミン C
果物、野菜、豆、ナッツ類
ビタミン E
植物油、オリーブオイル
7.最も身近で危険な PM2.5 ―微小粒子有害物質は肺に長く沈着
タバコの煙成分 PM2.5 微粒子は肺の末梢領域まで到達する。
・タバコの煙は超微小粒子、肺に蓄積する最も危険
な毒物、60 種以上の発がん物質を含有する
・タバコに放射性物質ポロニウム含有
・タバコ煙を吸引すると内部被曝を起す
・職場や家庭、住宅近隣からの受動喫煙
・喫煙席の居酒屋は北京並み
・日本人の喫煙関連死亡者数は年間 15 万人
PM2.5――
恐るべきはタバコ煙
るべきはタバコ煙ガスのナノ微小粒子
ガスのナノ微小粒子
タバコ煙は 4000 種のガス状物質と浮遊粒子状物質
の混合物である。タバコ煙ガスは 0.5nm 前後の超
微小粒子であり、内 400 種類は有害物質である。
*nm(ナノメートル)= 10 億分の1メートル
日本の喫茶店内の PM2.5 濃度は北京並みのレベル
(京都禁煙推進研究会 HP より)
2011 年、京都ロータ
リークラブから当会
に寄贈された
PM2.5 濃度測定機
8.今後の課題
大気汚染問題は中国の PM2.5 だけではない。日本の都市部の PM2.5 は以前から環境基準を超えていた。
国内の車や工場の排出ガスが主要な原因とされている。今回の中国から PM2.5 飛来騒ぎで日本国内の発生源
から目をそらすことなく、これを機会に国は中国への技術協力と国内の対策、国民は大気環境・空気への関
心を高め、身近な空気汚染の発生源を知って行政と共にきれいな空気の環境を作る努力を続けて行くことが
求められる。それは、私たちと未来の子どもたちのための健全な命を繋ぐ地球規模の環境保全となる。
*【参考文献】 ・環境省ホームページ「微小粒子状物質( PM2.5) に関する情報サイト」
・東京都くらし情報 Web
・中央環境審議会大気環境部会資料・厚生労働省たばこ健康影響評価専門委員会審議会資料他 研究論文
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
5. 化学物質問題
5.1. 水俣病:最高裁が初認定…熊本訴訟、基準柔軟運用促す
2013 年 4 月 16 日
毎日新聞
水俣病と認められなかった熊本県水俣市の女性の遺族が県に認定を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第 3
小法廷(寺田逸郎裁判長)は 16 日、水俣病と認めた 2 審・福岡高裁判決を支持し、県側の上告を棄却した。遺族
の勝訴が確定した。最高裁による水俣病患者認定は初めて。司法が行政判断を覆して未認定患者救済の道を広
げたため、新たに裁判で認定を求める患者が相次ぐ可能性がある。国が最終解決と位置づける水俣病被害者救済
特措法による救済の在り方にも影響が出そうだ。
5.2. 農水省・環境省発―住宅地等における農薬使用-新通知
平成 19 年 1 月 31 日付けの通知を廃止し、平成 25 年 4 月 26 日に農水省・環境省から都道府県知事 宛
に新通知が発出されました。(http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tekisei/jutakuti/20130426tuchi.html)
昨年パブコを募集し国会議員と市民団体の要望交渉などを経て発出された新通知の一部を紹介します。
■1:
「住宅地等における農薬使用に際しての遵守事項」では、農薬使用者、農薬使用委託者、殺虫、殺菌、
除草等の病害虫・雑草管理(以下「病害虫防除等」という。)の責任者、農薬の散布を行う土地・施設等
の管理者(市民農園の開設者を含む。)
(以下「農薬使用者等」という。
)に対して別紙の事項を遵守する
よう指導すること。
(別途:てんとう虫情報の解説文を同封しています)
▶別紙 1 :公園、街路樹等における病害虫防除に当たっての遵守事項
学校、保育所、病院、公園等の公共施設内の植物、街路樹及び住宅地に近接する森林等、人が居住し、
滞在し、又は頻繁に訪れる土地又は施設の植栽における病害虫防除等に当たって遵守すること。
▶別紙 2:住宅地周辺の農地の遵守事項では、住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を
含む。)において栽培される農作物の病害虫防除に当たっては、次の事項を遵守すること。農薬の散布に
当たっては、事前に周辺住民に対して、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類及び農薬使用者等
の連絡先を十分な時間的余裕をもって幅広く周知すること。その際、過去の相談等により、近辺に化学
物質に敏感な人が居住していることを把握している場合には、十分配慮すること。
5.3. EU、ミツバチ減少で殺虫剤禁止 12 月から、保護強化
2013 年 5 月 24 日
共同通信
欧州各地でミツバチが減少している事態に対処するため、欧州連合(EU)の欧州委員会は 24 日、原因の一つと
されるネオニコチノイド
ネオニコチノイド系
ネオニコチノイド系の殺虫剤 3 種類の使用を今年 12 月から EU 全域で禁止することを決定した。専門家によ
ると、一部は日本でも製造、販売されているという。
ミツバチの減少は欧州だけでなく、日本を含む世界各地で問題になっており、植物など生態環境への影響が懸
念されている。欧州委は、ミツバチは蜂蜜を作るだけでなく、植物の花粉を運んで受粉させる上で重要な役割を担
っているとして、ミツバチ減少に危機感を強め、保護強化に乗り出した。
5.4. PM2.5「70 超」で注意喚起 44 府県が態勢
2013 年 3 月 30 日
朝日新聞
大気汚染物質 PM2・5 について、「1 日平均で 1 立方メートルあたり 70 マイクログラムを超えそうな場合には外出
を控える」などとした国の暫定指針に従い、44 府県が注意喚起をする態勢を整えたことが環境省のアンケートでわ
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
17
かった。
同省によると、北海道、福島県、東京都を除いて注意喚起の基準を日平均で 70 マイクログラムとし、その可能性
が高くなりやすいとして国が明示した「早朝の時間平均が 85 マイクログラムを超えた場合」などに、各府県がインター
ネットや防災無線、テレビ、ラジオを通じて注意喚起の情報を出していた。
ただし、大阪府内では早朝の数値が低くても 70 マイクログラムを超えた事例もあり、同省では暫定指針の改善も検
討するとしている。
5.5.
週平均「20 超」で ぜんそく発作増 PM2.5 巡る調査
2013 年 3 月 25 日 朝日新聞デジタル
健康への影響が心配されている微小粒子状物質「PM2・5」について、濃度が週平均値で 1 立方メートル当たり
20 マイクログラム程度を境に、発作を起こすぜんそく患者が増えるという結果が、兵庫医大の島正之教授(公衆衛
生学)らの研究チームの調査で出た。子どもと高齢の患者で影響が出やすいのも確認された。金沢市で開かれてい
る日本衛生学会で 26 日に発表する。
研究チームは、発作を起こしたぜんそく患者数を 1 週間ごとに集計している兵庫県の姫路市医
師会の協力を得て、昨年 1~7 月の同市内の PM2・5 の濃度の変化との関連を調べた。
期間中の PM2・5 の濃度は週平均値で 12・1~32・1 マイクログラムの範囲で、患者数は 1 週
間で 187~314 人だった。
統計解析の結果、週平均値で PM2・5 の濃度が 15・8 マイクログラム以下の場合に比べ、19・7~24・5 マイクロ
グラムの場合は発作患者数が 14%増、24・5 マイクログラム超で 19%増となり、明確な差が出た。15・8~19・7 マ
イクログラムの場合では差が出なかった。年齢別でみると、PM2・5 が 8・7 マイクログラム増えるごとに、14 歳以下で
24%増、65 歳以上で 12%増と影響を確認できたが、15~64 歳では明確な差がなかった。
5.6. 京都清掃工場、排ガス発生を隠蔽 工場長がデータ改ざん指示
2013 年 6 月 17 日 共同通信
京都府宇治市の「折居清掃工場」で 5 月、工場の運営団体が定める基準値を超す排ガスが発生したにもかかわ
らず、工場長が計測データを「0ppm」に書き換えるよう指示、発生がなかったように改ざんしていたことが 17 日、分
かった。工場は京都府や運営団体にも報告していなかった。宇治市など 3 市 3 町で構成する運営団体「城南衛生
管理組合」が同日明らかにした。総排出量は不明としているが、健康被害の報告はないという。
排ガス発生と改ざんは工場長の申告で 6 月 14 日に発覚。工場長は「気が動転してこれまで報告しなかった」と話し
ているという。
5.7. 女性クールビズ「香り」推奨を撤回 環境省、文書も削除
2013 年 6 月 8 日 朝日新聞
環境省が今夏初めて「女性のクールビズ」を提案し、洗濯の時に使う香り付き柔軟剤や
制汗剤を薦めたところ、
「香料などの化学物質で体調を崩す人を増やす」と市民団体が撤回を求めた。
環境省は配慮の必要を認め、削除作業を進めている。 「女性のクールビズ」は先月 20 日に発表。ファ
ッションなどの事例とともに、汗やにおいへの対策として「香り付き柔軟剤」「制汗剤、冷却スプレー、
汗ふきシート」を挙げた。
これに対し、農薬や化学物質の安易な使用に反対する「反農薬東京グループ」など 3 団体が 3 日、撤
回を求めた。室内や電車、バスで、柔軟剤などのにおいで具合が悪くなる人が出ることや、化学物質過
敏症の患者が外出しにくくなることが考えられると指摘した。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
6. 原発/震災
原発 震災/放射性物質問題
震災 放射性物質問題
6.1. 原発輸出の不誠実 日本国内では慎重な一方、疑問残る官民推進
毎日新聞 2013 年 3 月 25 日 東京夕刊
ウミガメのいる美しい海と緑豊かな山に囲まれたベトナム原発建設予定地
のニントゥアン省タイアン村=2012 年 2 月撮影、伊藤正子さん提供
◇過去
過去に
過去に 8 メートル超
メートル超の津波/
津波/テロ多発
テロ多発/
多発/地震頻発
原発事故がどれほどの災いをもたらすか、日本はとことん味わわされた。国内の原発は全 50 基中 48
基が停止中、新増設は困難で、原発政策は根本的な見直しを迫られている。であれば、他国には利用を
勧めないのが普通の神経だろう。だが、原発輸出の準備は着々と整えられている。
「ベトナムの技術・管理レベル、政府の行政能力、汚職や腐敗がはびこっている状況からして、日本か
らベトナムに原発を輸出してほしくはありません」。ベトナムの歴史的文書の研究を行っている国立ハン
ノム研究所のグエン・スアン・ジエン博士(42)は、伊藤正子・京都大大学院准教授(ベトナム現代史
専攻)にそう訴えた。今月 16 日、ハノイ市内で会った時のことだ。
ジエン博士は昨年 5 月、原発建設に反対する署名活動をインターネットで始めた。ベトナム政府の圧
力で中止を余儀なくされたが、集めた数百人分は日本政府に送った。伊藤さんは「ベトナムは経済的に
は自由な面が多いが、政治的には一党独裁で言論や集会の自由が制限されています。政策批判は難しく、
逮捕・拘禁の恐れもある。ジエン博士は必死の思いで署名を集めたのです。でも日本政府からは何の返
事もない。不誠実ではないでしょうか」と憤る。
2010 年 10 月、菅直人首相(当時)とベトナムのグエン・タン・ズン首相の会談で、日本は中南部・ニ
ントゥアン省タイアン村のニントゥアン第 2 原発 2 基の建設協力パートナーとなった。現在、プラント
輸出に向けての準備が進められ、予定地の地形・地質の調査やどの原子炉が適当かなどを評価する事業
を日本原子力発電が行っている。今月中にもベトナム政府に概要を報告予定だ。敦賀原発直下の活断層
問題で経営不安に陥っている日本原電が調査担当とは、いかにも皮肉だ。
(後略)
6.2. 原子力規制委が敦賀 2 号直下に活断層と認定、原電の廃炉判断焦点に
2013 年 5 月 15 日
東京 ロイター
原子力規制委員会は 15 日、日本原子力発電の敦賀原発 2 号機(福井県)の原子炉建屋の真下を通る破
砕帯(断層)が「耐震設計上考慮する活断層である」とする報告書をまとめた。
国は活断層の真上に原子炉など重要施設の設置を認めておらず、同 2 号機の再稼動は絶望的な状況だ。
今後は 2 号機の廃炉に関して同社と株主である電力会社などの判断に焦点が移る見通し。
昨年 9 月の発足以来、規制委は敦賀原発のほか、関西電力<9503.T>大飯原発(福井県)や東北電力
<9506.T>東通原発(青森県)など全国の原発 6 カ所で破砕帯調査を順次進める計画だが、原子炉直下に
活断層があると認定するのは初めて。有識者会合をリードした規制委の島崎邦彦委員長代理は、評価会
合の結びで、「安全が低い状態を改善する第一歩を踏み出すことができた」と強調した。
規制委の田中俊一委員長は、廃炉の是非については、民間企業の財産処分に絡む問題だとして、「
(規制
委として)判断しない」
(昨年 12 月の会見)との姿勢を明確にしており、判断の主体は原電側に委ねら
れることが確実だ。(後略)
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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6.3. 南海トラフ M8 以上 60~70% 調査委「切迫性高まる」
2013 年 5 月 25 日 東京新聞
政府の地震調査委員会は二十四日、南海トラフ全域でマグニチュー
ド(M)8 以上の巨大地震が三十年以内に起きる確率は 60~70%とす
る新たな予測を正式に公表した。南海トラフでの地震は「多様な形で
起きる」とし、
「東海」
「東南海」
「南海」に分けていた従来の領域別の
確率算出を取りやめた。個別の地震を念頭に進めてきたこれまでの地
震防災対策の見直しが迫られそうだ。
従来の発生確率は東南海 70~80%、南海 60%程度。東海地震は参
考値で 88%とされていた。
調査委は、東日本大震災が想定外の広域巨大地震だったことから予
測手法を見直した。過去の発生記録を精査すると、連動する領域や規模などはさまざまで「個別の地震
ごとに確率を求めるのは適切ではない」と方針転換した。
新たな予測によれば、南海トラフ沿いでは百~二百年の周期で巨大地震が発生。その震源域は、西端
を九州の日向灘にするなど、これまでに比べ、大幅に広げた。
M9 級の地震の発生頻度は「百~二百年周期の巨大地震より一桁以上低いと考えられる」とした。過去
に発生した記録がないため確率算出は見送った。
調査委の本蔵義守委員長は「東海や東南海では確率が下がったように受け取れるが、新たな予測の 60
~70%も非常に高い数字。地震への切迫度が高まっていると受け止めてほしい」と呼び掛けた。
南海トラフは静岡県の駿河湾から九州沖に延びる海溝。内閣府の有識者会議は、M9 級の地震が起きる
と最大で死者は三十二万三千人に上るとの被害想定を出している。
6.4. 福島第 1 で高濃度の放射性物質 東電、新たな汚染否定的
2013 年 6 月 19 日
共同通信
東京電力は 19 日、福島第 1 原発で、2 号機タービン建屋東側(太平洋側)に設置した観測用の井
戸の水から、法定基準の約 30 倍に当たる高濃度の放射性ストロンチウムと約 8 倍のトリチウムを検
出したと発表した。
東電によると、井戸から海までの距離は約 27 メートル。原子力・立地本部の福田俊彦部長は「海
水の放射性物質濃度は過去の変動の範囲内にあり、海水に影響は出ていない」として、新たな海洋汚
染に否定的な見方を示した。井戸は昨年設置。今年 5 月 24 日に採取した水を分析したところ、昨年 12
月の測定時に比べ、ストロンチウムは約 116 倍、トリチウムは約 17 倍に上昇していた。
6.5. 原発 10 社、廃炉検討ゼロ=新基準でも再稼働方針―選別進まぬ可能性
2013 年 7 月 7 日
時事通信
東京電力福島第 1 原発事故を教訓に、原子力規制委員会が策定した原発の新しい規制基準が 8 日に施
行される。基準を満たすには巨額の対策費用が必要で、老朽化した原発を中心に選別が進むとみられて
いたが、原発を保有する電力会社など 10 社のうち、現時点で新たな廃炉を具体的に検討している社はな
いことが各社への取材で分かった。
原発の運転期間は原則 40 年だが、延長を申請する方針の社もある。電力会社に廃炉の判断を委ねる
現在の制度では、安全性に懸念がある原発が再稼働を認められないまま存続する可能性もある。
新基準は、事故の際に格納容器内の圧力を下げるため放射性物資を減らして排気する「フィルター付
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
きベント」や、免震重要棟などの緊急時対策所、原発を操作する中央制御室が使えない場合の「第 2 制
御室」などの整備を求めている。規制委が新基準に基づいて審査し、安全が確認されなければ再稼働で
きない。国内には現在 50 基の商用原発があるが、時事通信が原発を保有する電力 9 社と原発専業の日本
原子力発電に取材したところ、新たに廃炉を予定したり、廃炉の検討に入ったりしたと回答した社はな
かった。
6.6. 「原発事故による死亡者は出てない」自民・高市政調会長
2013 年 6 月 17 日 朝日新聞
自民党の高市早苗政調会長は 17 日、神戸市の党兵庫県連の会合で、「事故を起こした東京電力福島第一原
発を含めて、事故によって死亡者が出ている状況ではない。安全性を最大限確保しながら活用するしかない」と原
発再稼働を目指す考えを強調した。
原発事故により多くの避難者が出ている現状で「死亡者が出ていない」との理由を挙げて、再稼働方針を強調す
る姿勢には、批判が出る可能性もある。
自民党は参院選公約の最終案で、再稼働について「地元自治体の理解を得られるよう最大限の努力をする」と
推進する考えを盛り込んでいる。高市氏は産業競争力の維持には電力の安定供給が不可欠としたうえで、「原発は
廃炉まで考えると莫大(ばくだい)なお金がかかるが、稼働している間のコストは比較的安い」と語った。
6.7. 原発新基準:選別加速…老朽基、迫る廃炉
2013 年 6 月 19 日
原発 50基の稼働年数
毎日新聞
原子力規制委員会は 19 日、東京電力福島第 1 原発事故を
踏まえた原発の新規制基準を決定した。7 月 8 日施行という
閣議決定を経て、同日から再稼働申請を受け付ける。毎日新
聞が 10 電力会社に実施したアンケートや取材では、4 社が 6
原発 12 基を 7 月中に申請する見通しだ。福島第 1 原発とは
タイプが異なり、西日本に多い加圧水型(PWR)原発では、安
全対策が一部猶予されているため、申請情勢は「西高東低」
になりそうだ。規制基準に加え、原発の運転期間を原則 40 年
とする「40年運転制限制」も同時施行されるため、老朽原発
を照準にした選別の流れは加速する。
◇規制委新基準決定
7 月中の申請が見込まれるのは、北海道電力泊 1〜3 号機
(北海道)▽関西電力高浜 3、4 号機と大飯 3、4 号機(ともに
福井県)▽四国電力伊方 3 号機(愛媛県)▽九州電力玄海 3、
4 号機(佐賀県)と川内 1、2 号機(鹿児島県)の 12 基。いず
れも PWR で運転期間は 30 年以内。このタイプは西日本を中
心に 24 基あり、排気(ベント)時に放射性物質を除く「フィルター付きベント装置」の設置が 5 年間猶予されている。
福島第 1 原発と同じ沸騰水型(BWR)は 26 基ある。格納容器の体積が PWR に比べると小さく、圧力が高まって
危機的状況に陥るまでの時間が短く設置は猶予されていない。東北電力は東通(青森県)、女川(宮城県)両原発
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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について「見通しが立たない」と、7 月の申請断念を表明。東京、北陸、中部、中国、日本原子力発電の各社も「申
し上げる段階にない」と申請時期への言及は避けた。フィルター付きベント装置の設置には数十億円かかる。規制
委に「直下に活断層がある」と認定された原電の敦賀 2 号機(福井県)以外は BWR で、原子炉のタイプが明暗を
分けた。
規制委は、事務局の原子力規制庁に 3 チームを設置して審査に臨む。基準を満たしていると判断すれば、地元
自治体の同意を得たうえで、政府が再稼働の可否を判断する。基準では、これまで電力会社の自主努力に任せて
いた過酷事故対策を義務化。事故時に冷却を遠隔操作する「特定安全施設」の設置も求める。
6.8. 放射能汚染による格付け
NPO 食品と暮らしの安全基金
No.15Web レポートより
食品汚染の実態から放射能汚染を格付けすると、最悪の国
は日本。大きな放射能汚染を地図に記載してみると、世界中
に危険が。進む道は核廃絶です。
6.9. 吉田元所長が死去 原発の光と影
2013 年 7 月 9 日 毎日新聞
東京電力福島第 1 原発事故の収束作業を指揮した吉田昌郎元所長(58)が 9 日死去した。
原子炉への海水注入の中断を求める東電本店の指示を無視し、独断で注入を続けるなど毅然(きぜん)とした態
度が評価された一方、震災前に第 1 原発の津波対策の拡充を見送ったことも明らかになった。
原発立国の光と影を背負ったまま、58 年の生涯を閉じた。
「事故の記録を書こうと思っているが、なかなか筆が進まないんだ」。吉田氏は一昨年、友人の医師にこう打ち明
けた。回想録を出版し、印税を被災者への寄付に充てようと考えていた。
しかし食道がんの治療で体調が安定せず、執筆は中断しがちだったという。
*関連ニュース
2013 年 7 月 9 日 NHK ニュースより
東京電力によりますと、事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ 70 ミリシーベルトで、東京
電力はこれまで「被ばくが原因で食道がんを発症するまでには少なくとも 5 年かかるので、事故による被ばくが影響し
た可能性は極めて低い」と説明しています。
2013 年 7 月 10 日 ブログ 院長の独り言 より
http://onodekita.sblo.jp/article/70771596.html
東電 吉田昌郎 元所長が死去。被曝の関連を直ちに否定するが、現在も恐るべき調査が続行中
東電は 70 ミリシーベルト程度なので、今回の被曝が影響しているとは考えられないと発表しておりますが、
【1972 年に制定 電離放射線障害防止規則】
第四条
事業者は、管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の
受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないように
しなければならない。
この制限を超えて被曝しておきながら、5 年間たっていないから食道癌にはならないとはよく言ったものです。
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7. タバコ問題
タバコ問題 関連情報
7.1. 喫煙の有害性検討、厚労省が初の専門委発足決定
2013 年 3 月 27 日
読売新聞
厚生労働省の厚生科学審議会の部会は 27 日、たばこの健康影響をより明確にするための専門委員会を新年度に
発足させることを正式決定した。
喫煙の有害性に絞って検討する場を同省として設けるのは初めて。学識経験者らがたばこの有害性を厳密に裏
付け、今後の喫煙者の減少に役立てる。
専門委員会では、たばこの煙に含まれる物質を詳細に分析するほか、ポロニウムなど有害性があるとされる特定
の物質と、個々の病気の発症への影響を物質ごとに検証する。それぞれの物質に関する国内外の研究結果も収
集して分析し、結果を取りまとめて公表する予定だ。
7.2. 喫煙と「胎児の脳への影響」
出典:母子健康協会 > ふたば > No.74/2010 > 特集「子どもたちをタバコから守るために」より
静岡市保健所長 加治正行
妊娠中の喫煙の最も深刻な害の一つは、胎児の脳を傷つけることです。
喫煙する妊婦から生まれた子どもは、喫煙しない妊婦から生まれた子ども
に比べて知能の発達が劣り、小児期に知能指数にして 4~6 ポイント低下
するとの報告があります(図 1)。成長後の知能に関するデータはまだ少
ないのですが、デンマークで 18 歳男性を対象に調査したところ、喫煙し
ていた母親から生まれた男性では、知能指数が 6.2 ポイント低かったと報
告されています。
さらに近年、妊婦の喫煙と子どもの発達障害の関連についての研究が進み、
喫煙する妊婦から生まれた子どもは、注意欠如/多動性障害(ADHD)を
発症する率が 2~3 倍に増加するとの報告が相次いでいます(図 2)。
また、
喫煙する妊婦から生まれた子どもは、様々な問題行動を起こしやすく、反
社会的行動や暴力犯罪を犯す率が高くなるとの調査結果も出ています。
7.3. 喫煙と歯周病
e―ヘルスネット 厚生労働省
喫煙は、歯周病の二大危険因子のひとつで、喫煙と歯周病は密接に関連しています。そして、口腔、特に、歯周
組織は、能動喫煙だけでなく、受動喫煙でも、直接、悪影響を受ける最初の関門になります。
また、親の喫煙により、子供の歯肉に、メラニン色素沈着として早期に高率にあらわれます。
しかし、適切に診断した上で、本人が禁煙、もしくは、周囲の受動喫煙がなくなれば、歯周病は改善します。
<喫煙による歯周病への影響>
喫煙は、癌、循環器疾患(心臓病、脳卒中)、呼吸器疾患(肺気腫、喘息)などの多くの病気の原因であることは
よく知られています。一方、タバコ煙の入口となる消化器としての口腔、特に、歯肉を含めた歯周組織は、直接、そ
の影響を受けることになります。したがって、歯周病も同じように、喫煙と関連性が強いことは多くの研究により支持さ
れ、喫煙は、糖尿病と並んで、歯周病の二大危険因子となります。
すなわち、一酸化炭素やニコチンなどによる免疫能、微小循環系、好中球機能、サイトカイン産生などへの影響
により、歯周組織における宿主応答(抵抗性)や治癒に悪影響を及ぼします。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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7.4. 「たばこ」PM2.5 の塊 喫煙の居酒屋は北京並み 脳卒中やがんリスク高まる
2013 年 3 月 10 日 日本経済新聞
中国で発生した微小粒子状物質(PM2.5)が大陸から飛来する越境汚染への関心が高まっている。
ところが、身近なところに濃度が極めて高い場所がある。喫煙可能な室内だ。例えば、禁煙していない居酒屋だと、
北京市の最悪時の濃度と変わらない。専門家は屋内の全面禁煙を訴えている。
「PM2.5 はたばこの煙も危険だ」。医師らでつくる日本禁煙学会は 2 月、こんな見解を発表した。
直径が 2.5 マイクロ(マイクロは 100 万分の 1)メートル以下の微粒子は化石燃料や草木などが燃えたときに発生す
る。たばこの煙もそのひとつで、フィルターを介せずに周囲に広がる副流煙に多い。中国から飛来する PM2.5 よりも
「受動喫煙の影響の方が大きい」と主張する。
7.5. どうする受動喫煙対策 職場と公共施設以外でも甘えを排し 厳しい規制を
週刊東洋経済 2012 年 6 月 23 日号
6 月 8 日、厚生労働省が「がん対策推進基本計画」を公表した。(中略)
この中で、予防の重点項目として比較的大きく扱われているのが受動喫煙を含むたばこ対策だ。
喫煙による肺がん罹患(りかん)率の高さはあらためて書くまでもないが、肺がんのみならず、喫煙が多くのがんや心
血管疾患、呼吸器系疾患に重大な影響を及ぼすことは、すでに多くの人の知るところだ。また、喫煙者本人は、高
温燃焼を経た煙をさらにフィルターを通して吸うが、副流煙は、低温で燃焼度が低いうえフィルターを通さないため、
有毒物質を多く含む。喫煙者本人よりも受動喫煙者の健康被害が大きいのだ。
WHO(世界保健機関)の提唱する「たばこ規制枠組み条約」の批准から 8 年。国内でも、オフィスや路上、公共施
設での分煙は、かなり浸透しているといっていい。たばこの煙が苦手だと口にすると「空気を読めない、身勝手なヤ
ツ」と冷ややかに扱われた一昔前に比べれば隔世の感がある。もちろん、「その席では喫煙しない」というだけで喫煙
席からの煙にさらされっぱなしの「名ばかり禁煙席」や、オフィスビル内は全面禁煙となっているものの、ビル外の公
開空地に灰皿を置いただけで囲いも空気浄化設備もないものを「喫煙所」と称しているケースも多い。
厚労省の公表では「全面禁煙か喫煙所を設けている事業所が 64%になった」とされるが、実態の検証が必要だろ
う。実際、東京都中央区や港区をはじめとして、路上に灰皿を置いただけの喫煙所はいまだに数多くあり、通行人や
近隣のビル入居者はつねにたばこ煙にさらされている。
<進まない住居エリアの対策>
それでも公共施設や職場の環境はまだましだ。住宅エリアでのたばこ煙害については、いまだに何の対策も取られて
いない。WHO の枠組み条約第八条「たばこの煙にさらされることからの保護」は公共施設と職場環境を対象とし、
住宅周辺での受動喫煙に関しては、無視されているレベルといっていい。
家庭、といっても喫煙者のいる家庭内だけが問題なのではない。住宅密集地に軒を接して建てられている戸建て住
宅や集合住宅などは、被害防止対策が未整備どころか、いまだに“無法地帯”だ。一時期、JT(日本たばこ産業)が
気配りある喫煙として推奨していたために、いまだに玄関先の共用廊下やベランダでの喫煙が絶えない。その煙が
流れる先は、自分の家ではなく近隣の住戸だ。そんな所で喫煙されれば、煙は否応なく入り込んでくる。窓を閉めエ
アコンを稼働させても、最近の建物は 24 時間強制換気システムになっているからだ。それでなくても節電が声高に
叫ばれている中で、窓を閉め切ってエアコンをかけること自体がはばかられるご時世でもある。
換気扇の下での喫煙も、気配りのある喫煙と信じられているようだ。しかし、有害物質を除去しないままの煙を屋外
に流出させているという点で、ベランダ喫煙と同じく近隣住民に健康被害を与えているという状況に変わりはない。
だが、こと住宅の場合、被害があっても表ざたにすることはなかなか困難だ。近所付き合いに支障が生じることを恐
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れ、せいぜい窓を閉める程度が関の山。仮に心臓疾患など持病について説明し丁寧に頼んだとしても、まともに対
応してもらえるとは限らない。かえって被害者宅に向かって煙を吹きかけたり、ベランダの仕切り越しに火のついたま
まの吸い殻を投げ込むなど、犯罪すれすれの嫌がらせを受けることも少なくない。喫煙者のモラルに帰することはた
やすいが、受動喫煙による被害の認知度が低いことにも起因する。さらに、被害者を救済するための法的な裏付け
もない。被害者は泣き寝入りするほかないのだ。
<まだある喫煙者側の甘え>
ベランダ喫煙に関しては、煙害のみならず、火災のリスクも大きい。特に集合住宅の火災の原因の中で、近年大きく
増えているのがベランダ喫煙によるもの。10 年に東京消防庁が特に注意を呼びかけたほどだ。その後も、絶えず都
内各消防署による注意喚起が行われている。
分譲マンションなどでは自治会に申請する、賃貸なら管理人や大家に訴えるなどの手段はあるものの、自治会長や
大家自身が喫煙者なら、対応が形式的なものに終わり、実際には何の効果も得られない可能性は高い。大手のマ
ンション管理会社の中には、被害の訴えがあったときのために、共用部分へ煙の流出を起こさないように促す掲示
文の雛形など準備しているところもあるが、現状では特殊な例といっていいレベルだ。多くの管理会社は「自治会か
ら訴えがあれば、その都度対応を考える」程度にとどまっており、積極的な被害防止にまでは至っていない。
喫煙者に対する禁煙指導は、元を断つ意味で重要な戦略だ。勤め人にとっては、一日の大半を過ごす職場や公共
施設の完全禁煙、分煙も望ましいことではある。だが、生活の基盤である家庭周辺のたばこ煙対策は、大きく後れを
取っている。体調不良などで休養したくとも、家庭の環境が職場より劣悪なら、安心して休養することができない。従
業員の健康管理に問題が生じれば、企業社会にとっても損失となる。
たとえば、ピアノなど音の大きな楽器を演奏する家庭では、吸音材・防音材の設置や、窓の二重化など、余裕がある
家庭なら数十万円から数百万円をかけて防音工事を行い、近隣に迷惑をかけないように気を配るのが当然とされ
ている。一方、喫煙に関しては、社会の目が甘いこともあり、「自分一人くらい大目に見てもらえるはず」「大目に見る
べきだ」という甘えが喫煙者側にある。
JT が主張するように、たばこは嗜好品であり、喫煙は本人の選択である。これを外部から強制してやめさせることは
できない。だが、非喫煙者にとって、ことに心臓疾患や呼吸器系疾患を持つ者にとって、たばこ煙は暴力そのものだ。
喫煙者自身の家庭だけでなく、近隣住民の健康を損なわないよう、たばこ煙排気からの有害物質除去、あるいはた
ばこ煙そのものの排出規制など、厳しい義務を課すべきである。 (シニアライター:小長洋子)
7.6. ロシア、禁煙法案可決=下院
2013 年 2 月 13 日 時事通信
ロシア下院は 12 日、公共エリアの喫煙やたばこの広告などを禁止する包括的な禁煙法案を可決した。上院の承
認とプーチン大統領の署名を経て今月中に成立する。6 月から段階的に施行、2014 年 6 月にはホテルや飲食店も
禁煙となる。 英調査会社によると、ロシアは中国に次いで世界第 2 位のたばこ消費国で、11 年の市場規模は 220
億ドル(約 2 兆円)。約 40%とされる喫煙率の高さが人口減少に拍車を掛けているとして、メドベージェフ首相の主
導の下、政府が法案を提出していた。
7.7. WHO 2013 年の世界禁煙デー
テーマは「タバコの宣伝、販売促進活動、スポンサー活動を禁止しよう ban tobacco advertising, promotion
and sponsorship」です。
(日本禁煙学会理事の松崎道幸医師の翻訳文が掲載されている案内サイトより)
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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世界禁煙デーの最終目標は、現在と未来世代の人々を甚大な健康破壊から救うだけでなく、タバコ使用
とタバコ煙曝露がもたらす社会的、環境的、経済的被害をもなくすることにあります。
喫煙による年間の死者は 600 万人、WHO 発表
2013 年 07 月 11 日
AFP=時事
7.8. 禁煙世界地図(屋内完全禁煙の国)
今、世界 176 の国と地域が禁煙を進めようと努力
しています。これらの国々は WHO=世界保健機関の
加盟国の内、『たばこ規制枠組み条約』を批准した
国々です。日本も批准しています。
8. 医療と
医療と社会問題
この項は、私たちが健康で幸せな一生を送るための生活の安全と適正な医療を考える為に今号から新
たに設けました。ガンをはじめ 4 大疾病がこの数十年に多発してきた社会にも目を向けましょう。
下記は平成 8 年に文部科学省が公表した 21 世紀医学・医療懇談会第 1 次報告の冒頭文の一部です。
医学・医療に対する最近の社会的ニーズは,疾病の治療だけでなく,人が健康で幸せな一生を送るた
めにどうするのかという視点を含んでおり,疾病の予防からリハビリテーション,介護までを一貫して
考えることが求められている。患者は,病者であると同時に一人の生活者であり,人権の主体であるこ
とを踏まえた医療や社会環境の整備が必要であり,ノーマライゼーションの発想が重要である。
最近の医療人をめぐる状況を踏まえると,特に豊かな人間性,深い教養及び医療人としての倫理性に
ついては,改めてその重要性を強調する必要があると考える。
医療人は,人間性への深い洞察力を持ち,医学・医療に関する幅広い専門知識を有するとともに,医学・
医療を取り巻く環境の変化に適切に対応できるよう,倫理的・法的な知識や医療経済を含めた社会問題
に関する知識についても修得するよう努めることが求められている。また,当然のことながら,知識だ
けにとどまることなく,臨床面での対応を適切に行いうる能力や態度を修得することが不可欠である。
8.1. アレルギー、教員に研修…自公が対策法案提出へ
2013 年 4 月 24 日 読売新聞
自民、公明両党は、国によるアレルギー疾患対策を強化する対策基本法案をまとめ、24 日の自民党厚生
労働部会に報告した。
学校現場で食物アレルギー事故が相次いでいることを踏まえ、教職員らへの研修などを盛り込んだほか、
国に基本指針の策定を義務づけた。両党は今国会に法案を提出し、成立を目指す。
法案は、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、花粉症などのアレルギー疾患に悩む国民が増えているこ
とから、国に総合的な対策推進を求めるものだ。基本指針は、患者や専門家らをメンバーとして厚生労
働省内に設置する協議会の意見をもとに、厚労相が策定し、5 年ごとに見直す。
法案では、東京都調布市の市立小学校で昨年、乳製品にアレルギーがある 5 年生女児の死亡事故が起き
たことなどを踏まえ、教育現場での安全対策の強化を打ち出し、専門知識を持つ栄養士や調理師らの育
成を進めることを盛り込んだ。
26
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
8.2. 子宮頸がんワクチン、検討会「一時的に接種推奨控える」
2013 年 6 月 14 日 朝日新聞デジタル
【森本未紀】子宮頸(けい)がんワクチンの接種後に長期的な痛みやしびれを訴える人が相次いでいるため、厚生
労働省の検討会は 14 日、一時的に接種の推奨を控えるとの意見をまとめた。これを受け、厚労省は自治体に通知
を出す。定期接種は中止しないものの、自治体に接種対象者に案内を出さないよう求める。
定期接種のワクチンで推奨を控えるのは異例。接種対象者は希望すれば、これまでどおり無料で受けられるが、
医療機関は接種者に対し、推奨していないことを説明する。
検討会では、ワクチン接種後に体に痛みが出るなどの健康被害 43 例について議論した。委員からは「患者に何が
起きたのか調査が必要」との声が相次いだ。同省は秋以降、16 の大学病院で、痛みなどの症状と予防接種との因
果関係の有無を調べ、積極的な接種を推奨すべきか結論を出す。
このワクチンは、4 月から小学 6 年~高校 1 年の女子を対象に原則無料で受けられる定期接種になっている。ごく
一部で重い副作用も報告されている。副作用が出た場合は、予防接種法に基づき、国が因果関係を認定すれば
市町村から医療費などが給付される。
8.3. 歯科疾患と全身への影響
口腔は他の消化器と比べると死亡率は低く予防も忘れがちとなるが、食べるための入り口であり、呼吸
器、消化器、循環器系や脳にも繋がり、ストレスの影響も大きく受ける非常に大事な機能を担っている。
口腔施術に起因する全身への影響が重篤に至るなど、口腔ケア医療の重要性に対する認識が予防となる。
歯は生きる上で最も大切な咀嚼による食物栄養摂取のほか会話や意思疎通に必須である。
むし歯は歯の喪失の原因となり、食物摂取の楽しみ、社会生活の自信および生活の質を損なうだけでな
く、治療によっても発生する噛み合わせ異常が全身に影響し、更に歯周病から糖尿病や脳卒中との関連
も究明されている。口腔疾患はかなりの疼痛と不安を、不適切な施術は社会的機能障害を引き起こす。
また、歯科治療の際に使用する歯科材料(金属、薬剤など)によって健康を損ねることもある。
乳幼児期から
乳幼児期から高齢期
から高齢期までの
高齢期までの口腔
までの口腔と
口腔と歯の保健の
保健の重要性を
重要性を再認識する
再認識することで、日常の手入れによって虫歯の
する
発生を予防し生涯にわたる健康を保つことが求められている。(歯科口腔保健推進法 2011.8.5 成立)
■ 口と歯の健康
e-ヘルスネット - 厚生労働省
▶虫歯
虫歯の
虫歯の治療の
治療の流れ
むし歯が歯の表層に限られる場合は、削らず再石灰化を期待します。むし歯が大きくなると、歯を削り、
詰め物やかぶせものをつける治療を行います。むし歯がさらに進行して歯髄(しずい)に達すると、歯髄を
除去する必要があります。その場合は、多くは、土台をたててかぶせ物をする治療が必要になります。
▶削
削る必要のないむし
必要のないむし歯
のないむし歯の場合
むし歯(う蝕・う蝕症)は、口の中にいる細菌が酸を出して歯を溶かす現象です。この現象を脱灰
脱灰とよんで
脱灰
います。むし歯
むし歯の原因となる
原因となる菌
となる菌はミュータンスレンサ球菌
はミュータンスレンサ球菌と
球菌と乳酸桿菌がその代表的な菌とされています。
乳酸桿菌
ともに、砂糖
砂糖から
砂糖から主
から主として乳酸
として乳酸をつくる
乳酸をつくる能力
をつくる能力を
能力を持った菌
った菌です。また、ミュータンスレンサ球菌は水に溶
けない歯垢
歯垢(
歯垢(プラーク)
プラーク)を作る能力を持っています。このように細菌によって作られた酸によって歯が
溶けてゆきますが、初期の段階では溶けた部分が元にもどることがわかってきました。
この現象を再石灰化
再石灰化とよんでいます。
再石灰化
歯が溶け始めるとき、歯の表面ではなく歯の中から溶けてゆきます。この溶けた部分を表層下脱灰層
脱灰層と
脱灰層
言います。歯の表面にあるエナメル質は主にカルシウムとリン酸からできていて、このカルシウムが酸
によって溶け出します。しかし、唾液中
唾液中にはカルシウム
唾液中にはカルシウムがあるので、そのカルシウムが表層下脱灰層に
にはカルシウム
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
27
入り込んで溶けた部分を埋めてゆきます。このように歯
歯は脱灰と
脱灰と再石灰化を
再石灰化を常に繰り返しています。
■【脱灰と再石灰化
脱灰と再石灰化】1
日の中で飲食をするたび、脱灰と再石灰化が繰り返し行なわれます。脱灰と再石灰化
脱灰と再石灰化
のバランスが崩れ、脱灰が進むと虫歯ができてしまいます。 食事をすると
~3 分で脱灰が
食事をすると 2~
脱灰が始まります。
まり
食後 30 分~40 分すると、
すると、再石灰化が
再石灰化が始まり、歯の
まり
表面から溶け出していた成分が戻り歯
歯は修復され
修復されま
され
す。飲食すると、プラーク中の細菌が酸を作り出し
ます。臨界 PH(歯の表面が解け始める限界値)以
下になると、歯の表面からカルシウムイオンやリン
酸イオンが溶け出します。この現象を脱灰といいま
す。しばらくすると、唾液の働きにより細菌の作り
出した酸を洗い流す作用や、緩衝能による中和作用によって、溶け出したカルシウムイオン・リン酸イ
オンが歯の表面に戻ります。脱灰した部分を修復してくれます。これが再石灰化です。
(*食後の歯磨きは 30 分~40 分後が良いということが理解できます)
8.4. いじめ防止法案が成立 防止策や迅速調査、学校の義務に
2013 年 6 月 21 日 朝日新聞デジタル
いじめ防止対策推進法案が 21 日、参院本会議で可決、成立した。いじめ対策が法制化されるのは初め
てで、今秋にも施行される。いじめの早期発見や防止のための組織設置などが学校に義務づけられる。
一方、加害側への出席停止措置などについて、「防止につながらない」などの指摘もある。
法案は、自民、民主など 6 党が共同提出。
「教育現場の意見が十分に反映されていない」などとして共
産、社民両党は反対した。
条文では、いじめを「一定の人的関係にある他の子による心理的・物理的な影響を与える行為」とし、
さらに「対象の子が心身の苦痛を感じているもの」と定義した。インターネットでの行為も含まれる。
小中学校や高校などは、複数の教職員やスクールカウンセラーらによる組織を置き、いじめ対策など
を検討することが定められる。校内での相談窓口の設置やいじめに関する定期調査、道徳教育の充実な
ども決められた。いじめがあった場合、学校は、速やかな事実確認▽被害側への支援▽加害側への指導・
助言――を実施。犯罪のような行為は、警察への通報義務も定めた。子どもの生命が危ぶまれるような事
例では、アンケートなどで迅速に調査し、結果を被害者側へ適切に提供する必要もある。
<いじめ法案>大津自殺遺族「息子が命がけでつくった法律」
2013 年 6 月 21 日
毎日新聞
いじめ防止対策推進法の成立を受けて、大津市の中 2 男子自殺で息子を亡くした父親(47)が 21 日午
前、文部科学省で記者会見した。父親は時折、声を詰まらせ、ハンカチで涙をぬぐいながら「息子が今、
生きている子供たちのために命がけでつくった法律。
『日本の学校はあの時から変わった』と実感できる
まで法律の運用を見守りたい」と話した。
一方、父親は、いじめが起きた時の対応に外部の専門家の参加を義務づけたり、被害者の保護者の「知
る権利」を担保したりすることを求めてきたが、具体的な文言は条文に盛り込まれなかった。
「教師がい
じめを発見できることが大前提となっている。教育現場からいじめをなくすことができるのかを徹底的
に考え、現場でいじめを見逃さない、いじめから生徒を守るという意識改革が重要」と語った。
28
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
8.5. 政府、若者の自殺対策強化を提言 13 年版白書
2013 年 6 月 18 日
共同通信
政府は 18 日午前の閣議で 2013 年版自殺対策白書を決定した。20 代の死因の半数近くを自殺が占める
「深刻な状況」と指摘し、若年層に重点を置いた対策の強化を提言した。
白書に盛り込んだ警察庁の統計では、12 年の自殺者は 2 万 7858 人で、前年に比べて 2793 人減少。
1997 年以来 15 年ぶりに 3 万人を下回った。ただ中長期的に自殺が増加する懸念もあり、悩みや不安に
関する世論調査の動向を注視すべきだとした。
厚労省の 11 年の調査によると、20 代の死因のうち約 47%が自殺だった。警察庁は「就職の失敗」に
よる自殺が 07 年の 60 人に対し、12 年は 149 人に増加したと説明。
8.6. <生活保護>12 年度は月平均 213 万人 過去最多を更新
2013 年 6 月 12 日 毎日新聞
厚生労働省は 12 日、今年 3 月時点の全国の生活保護受給者数が 216 万 1053 人だったと発表した。こ
れで昨年度は月平均 213 万 5743 人(概数)となり、2011 年度の 206 万 7244 人を上回って過去最多を
更新した。3 月の統計を踏まえた昨年度の月平均受給世帯数も 155 万 8490 世帯(同)で過去最多。厚労
省は「厳しい経済状況や高齢化の影響もあり、当面は増加傾向が続くのでは」としている。
厚労省によると、3 月は受給者数、世帯数とも過去最多。受給者数は前月を 5835 人上回り、初めて 216
万人を突破した。前月比増は 11 カ月連続。世帯数は 157 万 8628 世帯と前月比 3985 世帯増。前月比増
は 59 カ月連続だった。
受給世帯は高齢者世帯が最も多く 70 万 4442 世帯(44.6%)
。続いて、働ける年代層を含む「その他
世帯」28 万 8483 世帯(18.3%)▽傷病者世帯 28 万 7934 世帯(18.2%)▽障害者世帯 17 万 9259
世帯(11・4%)▽母子世帯 11 万 1776 世帯(7.1%)など。その他世帯が傷病者世帯を初めて上回っ
た。(中略)
生活保護費の 13 年度予算は 3.7 兆円と国・地方の財政を圧迫しており、政府は日常生活費にあたる
「生活扶助」を 8 月からの 3 カ年で最大 10%の切り下げに踏み切る方針。制度改正につながる生活保護
法改正案と生活困窮者自立支援法案は、国会で審議が続いている。
9. 有害物質 SOS 受信 対応記録
9.1. ショッピングセンター店内のタバコ煙がひどい
(2013.2.13)
入り口の喫煙スペースが、ピロティ状になっているのでかなり煙がこもるのです。
よく利用するのですが、入口付近で強い受動喫煙に遭っています。調査をお願いします。
返信:
確認しました。1 階入口からかなり強いタバコ煙を感知して目も鼻も喉も痛く、後頭痛の直撃を受けました。
建物中ほどのトイレの隣に喫煙室があり複数の喫煙者が喫煙中、次々と出入りするたびに放散される煙と
残留ガスが店内に拡散していることが判りました。再度の訪問で責任者に申し入れます。
9.2. 大学構内で受動喫煙の苦痛
(2013.6.12)
建物内での実質オープンエア―の喫煙所、敷地内での建物に隣接した喫煙所のため、学生・職員が日常的に
受動喫煙の害に苦しめられております。これは極めて深刻な事態ですので、確認・改善勧告をしていただける
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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と助かります。
返信:
了解しました。
以前にも大学の職員から依頼があり、何度も確認の上、京都禁煙推進研究会から改善要望書を出して
頂きました。大学の労組も関わって喫煙場所を規制し指定するところまで改善した例があります。
9.3. 家族が喘息で入会希望
(2013.2.5)
突然のメールで失礼します。御会のホームページを拝見しその活動にとても賛同いたしました。
つきましては、ぜひ御会に入会させていただきたいのですが、会員と賛助会員の違いはどういったものがあるのでしょ
うか? 当方家族がぜんそくを患っており、特に原発事故後の身体の変化が著しく東京から京都に引っ越してまいり
ました。専門医に受診してはいませんが、ぜんそくのかかりつけ医師からは化学物質過敏症かもねくらいで軽くあしら
われてしまっています。この程度では有害物質による健康被害発症者とは言えないかもしれませんが、賛助会員で
も結構ですので入会のお許しをいただけましたら幸いです。
返信:
入会ご希望のメールを拝受しました。当会のウェブサイトをご覧下さり、ありがとうございます。
ご家族様が喘息の症状で、東京から避難されて来られたとのこと、ご苦労はいかばかりかとお察し申し上げ
ます。当会の、会員と賛助会員の違いと入会の手続きについては下記のとおりでございます。
会員は、当人、またはご家族が有害物質による健康被害者(アレルギー、シックハウス、化学物質過敏
者、がん疾患の方々)を対象としています。賛助会員は、この実態を理解し支援する市民ほか研究者、医
師、弁護士ほかどなたでも入会可能です。よって、貴方様の場合は、会員としての登録となります。
但し、会員は面談の上で、入会の手続きをして頂きますので、お出かけ下さいますか。
場所は、河原町五条のひとまち交流館 2 階ですが、ほかの場所でも結構です。
ご都合の日時と場所をご連絡下さればお待ちいたします。
9.4. こどもがシックハウス症状で転居したい
(2013.3.3)
はじめまして。現在大阪府在住で、春から 1 年生になる男児の母です。
子どもは、シックハウス症候群であろうという診断で、京都府に転居を考えています。
京都市の知識がないので教えて頂きたく、メールさせてもらいました。まずは京都市の小学校のワックスや改装時の
シックスクール対策、給食の添加物等の対応はある程度よいものであるか。
また北区でも交通量が割とあるように思いますので、比較的安心な地域があれば教えていただけませんでしょうか。
返信:
春から 1 年生になるお子さまが入学前に転居を考えておられるのですね。もう、3 月ですから、これから物件
探しをされて今月中に転居は難しいと存じます。お子さまのお具合に合わせて住宅室内の下見も一度では
決められない難題です。物件の紹介後に何度か周囲の環境、通学路などの確認が要となります。
学校給食について、京都府、京都市の学校では、食物アレルギー対応の給食が実施されているようです。
アレルギーほかシックハウスなど化学物質に感度の高い児童は医師の診断書、学校あての意見書により、
保護者と一緒に個別対策をしている例があります。
また、どの地域が良いかということも、夫々に条件が違いますので申し上げられませんが、基本的な希望を
まとめて仲介業者に依頼すると探してくれる業者もいるようです。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
当会では、転居を余儀なくされている会員の住宅探しに同行することはしておりますが、斡旋はいたしており
ません。まずは、京都で通院をされておられる医院の先生に相談されることがよろしいかと存じます。
くれぐれも、お大事になさって下さいますよう、ご無事を祈っています。
9.5. 京都市北部周辺の住宅環境について (2013.5.8)
突然のお問い合わせ失礼いたします。
京都市内の農薬や化学物質被害についてインターネットで調べている間に、貴会の機関紙に
たどり着きました。
もし可能でしたら情報をお知らせいただけると幸いです。我が家は現在、故郷の京都市内に
住宅を探しています。人体への影響をなるべく少なくするような住宅を建てることを考えています。
我が家は、小学生、幼稚園の 3 人の子どもがおり、これまで、転勤に伴う引っ越しで、改装直後の住宅に 3 度住
んでいて、化学物質にさらされている頻度が多く、アトピー症状、アレルギー症状もあるので、思案しています。
現在検討中の物件が、北山の方にあります。周囲は農地が多く、住宅と極めて近接しています。住宅密集地が
多い京都市内のイメージとは違い、緑もあり、畑もあり、子どもたちが四季を感じる好い環境だとは思いましたが・・気
になるのは農薬の件です。登下校で毎日さほど広くない道の両側に農地が、当該物件の数軒先には農地が広がっ
ています。敏感な方々で、この地域で何らかの身体的不調を感じられるという報告など何かご存じのことがありました
らお知らせいただけませんでしょうか。
返信:
当会ホームページをご覧下さりありがとうございます。3 人のお子様がアレルギー症状で住宅と環境に苦
慮される状況をお察しいたします。
転居先探しは現地の周囲の状況を調べる(住宅、工場、施設、公園、農地、焼却炉など)何度か
現地に立って空気を感じることが大事だと思います。北の方は緑が多く農地もあり農薬散布も多いの
では、と察しておられるとおりではないでしょうか。
現地の調査をされて、お子様のアレルギーがどのレベルまで耐えられるかということで主治医
に相談されることも必要かと存じます。私どもの会員が家探しの際に依頼があれば同行していま
すが、以上のようなお返事でお役に立てますかどうか、ご参考までに申し上げます。
安心して住める土地に出会えますようにと祈っています。
9.6. シックハウスで症状悪化、弁護士を紹介してほしい
(2013.6.11)
もう、引っ越そうと考えていますが、シックハウス問題に関わってくれる弁護士さんを紹介して戴けませんか。
返信:
シックハウス問題に詳しい弁護士はいますが、依頼する前に、体調不良となった自宅の何が原因かを確
定することが先ですね。問題解決の窓口となっている業者グループもあり、すぐに対応するようですが、依
頼しても、シックハウス要因が検出されない結果であれば更に原因を探すことになり、高額な経費がかかり
ます。
当会の会員であれば、その前に訪問して感度査察で確認の上、VOC 簡易測定機などにより原因を確認
できることもあります。その上で、測定業者に依頼した測定結果により、弁護士紹介をします。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
31
「新たなシックハウス」
たなシックハウス」の要因と
要因と対策について
対策について
10.
参考 1
生活環境におけるシックハウス対策 厚生労働省の案内
(1)シックハウス症候群とは
近年、住宅の高気密化などが進むに従って、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、
それによる健康影響が指摘され、
「シックハウス症候群」と呼ばれています。その症状は、目がチカチカ
する、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまです。
(2)シックハウス症候群の原因
住宅の高気密化・高断熱化などが進み、化学物質による空気汚染が起こりやすくなっているほか、湿度
が高いと細菌、カビ、ダニが繁殖しやすくなります。それだけではなく、一般的な石油ストーブやガス
ストーブからも一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が放出されます。たばこの煙にも
有害な化学物質が含まれています。シックハウス症候群は、それらが原因で起こる症状です。
(3)主な防止対策
カビ・ダニ対策としては、住宅環境、日常生活でカビ・ダニ発生の原因と思われる点を改善し、換気や
掃除等により、効果的なカビ・ダニ対策を講じる必要があります。化学物質対策リフォームなどの前に、
工務店や設計者と十分な話し合いを行い、自分の希望をしっかり伝えて材料選びを行うことが大切です。
*案内されている要因の一つ、
「タバコの
タバコの煙
タバコの煙」は自宅外要因でも
自宅外要因でも発生
でも発生する
発生する「新たなシックハウス」
たなシックハウス」と捉え、
建材による「シックハウス」と「新たなシックハウス」の問題についてこれまでの事例を紹介します。
参考 2
住宅関連業者の対応―被害者が司法的救済を求めた事例 (会員の記録より)
1. 戸建て改装工事に使用した塗装剤による室内空気汚染の被害 2 件
1)業者が使用したクレオソート油により化学物質過敏症を発症し、賠償請求の調停で和解成立
議員に支援を求め、シックハウス問題の窓口案内で測定業者、弁護士に恵まれたが、臭気が染み
ついた家財、寝具、衣類などを処分しても住めない自宅から避難の転居生活を余儀なくされた。
2)改装工事で業者が使用した剥離剤、塗装剤などで体調悪化、一時避難生活の被害で調停―和解
シックハウス問題の窓口案内に連絡すると様々な業者が訪れたが、シックハウス特定物質を確認で
きず何度も繰り返し多額の経費が発生。調停は弁護士に依頼したが証拠書類は自力で作成した。
2. 賃貸住宅入居中の室外要因による室内空気汚染被害 2 件
1)禁煙マンション隣室からのタバコ煙で被害の調停―和解(引越し費用負担のみで転居)
入居時に「喫煙をすれば退去」の誓約書を提出させた禁煙マンションが非喫煙者を擁護しなかった
賃貸管理会社の対応が問題。受任弁護士の受動喫煙被害に対する認識も重要。
2)賃貸住宅で受動喫煙による被害の訴えを精神疾患症状と告知され謝罪を求めた調停でー謝罪せず。
「禁煙ではないが喫煙入居者不在」を確認の上で入居したが、隣室は空室と不在であるのに室内に
終日流入するタバコ煙や揮発剤に曝され続け被害症状が悪化した。医師の意見書により求めた実態
の調査と改善にも応じず訴えを否定し退去勧告を重ねた管理者が、当人の訴えは精神疾患症状であ
ると退去後に保証人宛に文書で告知したので、人権侵害、名誉棄損による信用失墜など被った精神
的苦痛に対し謝罪を求めた。しかし、認識の違いとの回答があり、複数の弁護士に相談の上、謝罪
文を求めた調停も不調に終わった。
32
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
11.
会員便り
会員便り
11.1. 会の事業と総会について
京都市 M・Y
これまでの 5 年間の事業計画や総会は、役員の方々の尽力で実に好ましい状況で充実していたと思いま
す。私自身がシックハウス症ですので、多くの情報を頂き感謝しています。
私にとっても、また同じように困っている方々にとって大事な会です。
役員も会員も夫々の症状を負いながらの活動は一時的な人力パワーの低下もあるでしょう。
できれば会員募集をして運営の負担軽減なども考え、総会は 2 年ごとに開催することを提案します。
11.2. 会報 10 号に掲載の「携帯イヤホンマイクで電磁波予防」は疑問
京都市 J.S
いつも本当にお世話さまです。お送り頂きました会報 10 号の 27 頁に掲載のイヤホンマイ
クの件で、私は疑問があります。
脳に受ける被害は直接に耳に当てて使用するよりは電磁波の軽減があるのかも知れません。
しかし、逆にイヤホンのコードがアンテナの役を果たして危険ではないかとも指摘されています。
例えば、ウイーン医師会が作成した「携帯電話使用のルール」10 カ条の第 9 番目に「イヤホンマイク
も安全ではないだろう。ケーブルが電磁波を誘導するかも知れない」と書かれています。
私たちはその発表(2005 年)があってからイヤホンマイクは使っていません。
神戸の藤井先生(歯科医)は歯の治療に使われた金属(詰めたり、被せたりした)で、電磁波が誘
導され体調を崩した患者さんの例を幾つか発表されています。いずれも、その金属を外してセラミッ
クに換えると、その不調が即座になくなっています。(実験時の DVD 付き書籍を発売)
結論を申し上げると、携帯電話の使用はこうしたら安全という神話よりは、可能な限り使わない方
が良い、使用時間はなるべく短く(3 分以内)、緊急の場合以外は電源もオフにする、一度、携帯電話
を使ったら 15 分は置くというルールも大事にした呼びかけの方が良いと思います。
京都市内でも、すでに被害者が出ています。電波の届かないところを求めて、昼間は例えば仁和寺
の奥の谷へ避難している人もいます。自分では使わない携帯電話の電磁波が電磁波に弱い人たちを追
いやっています。化学物質の場合も同じだと思います。
11.3. 会報第 10 号の「携帯電話使用と電磁波被ばくリスク」の内容について
2013 年 3 月 4 日
M
貴会の会報 10 号に、携帯電話使用時間を電磁波被ばくリスクの指標とした研究を紹介し
た記事で、年間 100 時間使用と脳腫瘍リスクの 5%増加という研究結果を引用して、その
程度の携帯電話使用の発がんリスクが「全ガンリスクが 5%増えると読み替えて」いる記述
がありましたが、これは、まったく誤りです。
脳腫瘍で死亡するリスクは、全ガン死の 300 分の 1 です。携帯電話使用で脳腫瘍リスク
が 5%増加するとしても、それが全ガンリスク増加に寄与する割合は、その 300 分の 1 にすぎません。
それを全ガンリスク増加率に「言い換えている」のは誤りです。速やかに訂正をお願いいたします。な
お、この意見に異論のある場合は、連絡をくだされば真摯に対応いたします。
*専門家より上記の指摘を受け、更に第三者の意見と執筆者の了解を得て、会報 10 号 27 頁に掲載の 6-6 記
事中、
「脳腫瘍のリスク上昇」が「全 ての癌のリスク上昇」と混同している記述について訂正します。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
33
11.4. 「マンションの外壁塗装工事で 6 カ月の避難」
滋賀県 A
昨年の夏から遠く離れた古い戸建て住宅を借りての避難生活をして今年 1 月末に帰ってきました。
環境良好地での生活は化学物質や電磁波に過敏な者には回復の効果があることを体験しました。
そして、再び劣悪環境で命を削っていることを毎日実感しています。何とかしたいものです。
11.5. 「母乳と子どものアレルギー」
京都市 アレルギーっこの母親
母乳を飲ませたい。
産後の母体には大変ですが、母乳を飲ませながら我が子が育ちゆく姿に接する喜びは幸せに満ちあふれるものです!
上の子の頃は、アレルギーの子どもは母乳が原因で症状が出るので母親も除去食をする指導が主流でした。最近では
「母乳から子どもへのアレルギーの影響はほぼ無い」ことが科学的に証明されていると聞いています。そして、今回の出
産時には医師から母親の除去食は必要ないと言われました。
それでも、授乳期間中は私自身が食べたものを記録しながら甘いものや油のきついものを含め 5 大
アレルゲンには気をつけて食事をしてきました。
ところが… 大丈夫だろうと私が食パンを食べた直後の母乳を飲んだ我が子のほっぺが真っ赤にた
だれました。お祝いに頂いたお寿司を食べた時は親子で寝込み、受診してセシウムとわさびが原因と
判りました。
また、頂き物の立派な鯛を食べた後もセシウムに反応したらしく、授乳後に子どもの肌がでこぼこに腫れる強い症状
が出ました。このような経過から子どもは直接食べていなくても母乳を通して確実に症状が出ること、母乳の内容に過
敏に反応する子もいることを体感しました。(このような症状は上の子には出たことがなかったのですが)
子どもが 1 歳を過ぎて、母乳からの影響がますます増えてきたのを感じ、断乳しなくては…と思いながら断乳の寂しさ
も手伝って迷っていると、家族に「体によくないと思うんやったら早くやめるべきやろう!」と忠告されて「子どもの体が一
番大事!」と我にかえりました。そんな戸惑いを経て粉ミルクに切り替えると、幾分か母乳による症状も和らぎホッとしま
した。
やはり過敏症の子は母乳からの影響も過敏に受けていると感じた 1 年余り…私の生活にも注意を払い、母乳からの
影響が出るのは食べ物からだけではないだろうと農薬散布の時期は外出を控えたり、喫煙のあるような場所は控えたり
等、どんな空気を吸うかにも気をつけて暮らしていました。
このような試行の中で、我が子はよく喋る 2 歳になりました。肌もずいぶんきれいになって赤くただれる事もなくなり、
上の子の頃に比べると喘息も出ず、発熱も下痢も少なく過ごせています。
小児科医師の角田和彦先生が言われていた 「3 歳までどれだけ化学物質を暴露したかがその後の症状の出方を
大きく左右します」という言葉を胸に あと一年気をつけながら暮らしたいと思います。
<参考>
「アレルギーを起こさない授乳・離乳食」 監修:角田和彦
http://www.atopinavi.com/navicontent/list?c1=health&c2=1&c3=81
母乳中には、母親が体に蓄えてきた脂肪分が多く含まれている。 母乳には、母親の体に蓄積された脂肪分も多く
含まれます。そのため、母親の脂肪に汚染食品や化学物質が多く含まれていれば、多量の汚染物質が母 乳中に含
まれることになりアレルギーの悪化原因となります。出産の何年も前から(子どもの頃から)
、汚染食品や化学
物質を避けた食習慣を持つことが理想的です。母乳中にはお母さんが現在食べている食材の栄養が優先的に移行
するので、母親がきちんとした食事をして授乳することが大切です。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
11.6. 私の震災体験から
二つの大震災を間接的に体験して思う事
佐賀 N・T
平成 7 年 1 月 17 日の朝、6 時過ぎ、親類から電話がありました。
「あなたの実家の付近で大変な事が起こっているから、すぐ テレビをつけてみて!」
テレビの画面にあっと驚く間もなく、実家に電話をかけました。
実家は、兵庫県芦屋市の借り上げ社宅、活断層の真上であったため、お隣は全壊、お向かいの方は亡くなられ近所に
は大きな被害がでましたが、実家は半壊でした。両親もなんとか、その時は怪我もなく無事でした。
翌日の夕方、ワゴン車に水、オニギリ、下着など、当面、生活に必要と思われる品を詰め込み、当時 5 歳だった末娘
だけを連れて、夫と共に高速に乗りましたが、広島で道路は閉鎖、夫は、地図を片手に真っ暗な山道に入りました。室
内灯を点けっ放しにして、片手に地図、片手にハンドルの夫・・・私は末娘を抱いて一睡も出来ないまま、明け方、芦屋
の山手、有馬に出たときは、本当に嬉しくて・・・・。ただ、二股の一方の道を進むと、大きな石が道路をふさぎ、その先
の道は崩れて無くなっていました。引き返して、しばらく行くと見慣れた街並が現れましたが、道路は盛り上がり、自動販
売機はグニャリと曲がり、娘は、「コワい、コワい」と言い続けていました。
両親が避難している場所に行き無事な姿を見たとたん、身体中から力が抜けたように感じたのを思い出します。
それからの 1 年間は、日々が飛ぶように流れていきました。
震災後、毎月、2~3 回、後片付けに両親の元に通いましたが、通うたびに復興していく街並がありました。その時、感じ
たのは、人の力の凄さです・・・悲しみを乗り越えて行く人々の力に私自身が勇気を戴きました。
しかし、両親は被災者として大きな精神的なダメージを受けたようで、震災後、4 年で父は末期癌に倒れ、母は、そ
れから 6 年後、大動脈瘤破裂であっという間にこの世を去りました。両親を知る誰もが、震災に遭わなかったら後 10 年
はお元気で長生きされたのに・・・と悔やんで下さいました。
さて、一昨年の 3.11・・・その時、私は、東京に居ました。午後 1 時過ぎ、西部新宿線の井荻駅の普通電車の中で、
特急電車が通り過ぎるのを待っていました。急に左右に大きく揺れだした電車、反対ホームを見ると、ホームの女性が
大きな柱にしがみついているのをみて、これは地震だ・・・と思いました。
電車は全線ストップの状態の中、私はバスで荻窪に出ました。東京に住む息子と娘、自宅
の夫とメールでやり取りをしていましたが、そのうちに携帯電話は充電切れしました。公衆
電話は機能していたので、待ち合わせ場所を連絡して、車でかけつけてくれる長男を待ち
ました。
町中は 人、人、人、で溢れ、冷静に早足で歩いていく人もあれば、殺気だった気配で走っていく若い女性、交番の
おまわりさんに詰め寄る人々、長蛇の列でバスを待つ人々・・・・これが、東京の街・・・しばし呆然とみつめていました。
ふと、近くに居た女性が声をかけてくれました。「どちらへ帰られるんですか?大変な事になりましたね」 私は「娘のいる
小平に行きたいのですが、これでは無理のようですね」と答え、彼女は、足早に歩き始めました。「どうぞ少しでも早く、お
子さんと会えますように!」心から祈りました。
それから、夜中の 12 時半に目黒に住む長男と落ち合うまでの間、震度5 強の地震に見舞われた大都会の異常な光
景を眺めていました。目黒から荻窪まで普段であれば 30 分ですが、この時は 3 時間半かかり、往復7 時間もかかって、
忙しい最中、迎えにきてくれた長男の顔を見た時、安堵と感謝で喜びがこみ上げました。
想像もつかない地震の被害を、その後知るにおいて、私たちは、「その時」のための最も必要な家族との連絡の備え
として、携帯の充電器や公衆電話のテレフォンカードも普段から携行することだと思いました。ビニール袋(黒色が良い)
もバックに入れて置くなどのことは簡単に出来ることですね。そして、何よりも大切なことは、日頃から状況判断を的確に
するための訓練を積んでおくことが大事だと思います。
二つの震災から思ったことは、人はどんな状況下に置かれても、希望を失わず前へ前へ進むことが出来る、「明るい
日」と書く「明日」は誰のもとにもやって来る、あきらめずに、ひたむきに、明日へ向かうことができるということです。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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12.
カナリヤの視点
カナリヤの視点
参院選が始まった。今後の日本の行方に関わる今回の参院選挙は、これまでになく重要な選挙である。
安倍政権の発足から 7 カ月、いまだに原発事故の影響に苦しむ人々が仮設住宅での生活を余儀なくされ、故郷に
帰れない多くの被災者がいる現状を差し置いて、首相として原発再稼働や海外への原発輸出を進めている。
今回の選挙の最大の争点は、デフレ脱却を掲げる経済政策「アベノミクス」の先行きを有権者がどのように評価す
るかである。具体的な方向は原発再稼働、消費税引き上げ、社会保障費の冷遇、所得格差の拡大、環太平洋パ
ートナーシップ協定(TPP)による外国産品輸入増と国内農業の崩壊懸念などにとどまらないと予想されている。
更に、基本的人権の尊重など人類普遍の原則と戦争への深い反省から生まれた平和憲法の改正は、改悪と考
えられる。
結果次第では日本の政治の転換点になる選挙であり、これを判断する有権者の真価が問われる。
平成 24 年度版「自殺対策白書」から、“自殺者数が 14 年連続で 3 万人を超える/学生・生徒自殺、初の 1000
人超、 11 年、雇用悪化が影/昨年、大学生らの自殺 初の 1000 人突破 就職失敗で孤立感” 等の新聞報道
のとおり、若い人命が奪われる社会問題が表面化している。
長い過酷な苦しみにも誰にも助けられることなく逝った無念の死によって初めて動く国の対策は「いじめ防止法案
成立」「自殺総合対策大綱」など、学校、職場での若年いじめ対策や若年向け雇用支援策として決定し公表した。
「強い国よりやさしい社会」を、「1%の大富裕層のためではなく 99%を切り捨てず、安心して子供を産み育て、働
き続け、年を取ることができる社会をつくる」と公約を掲げる候補者が選ばれないのは、なぜか。
受動喫煙や有害化学物質による健康障害の対策を公約に入れて進み始めた前政権も 1 年で交替してしまった。
農薬やタバコ煙、放射能、原発事故の影響に苦しむ国民が安心して暮らせる対策の実施は政治の責任である。
経済成長よりも、「いのち第一」、脱 「原発」、脱 「有害物質」、
これらを公約に掲げ実行できる政党と候補者を選ぼう。
レイチェル・カーソン著 『沈黙の春』 第 14 章
「4 人に一人」 より
癌の原因になるものを野ばなしにしておきながら、癌の薬を見つけようと治療の研究に莫大な費用をかけるばか
りで、予防という絶好の機会は捨ててかえりみない……。大部分の発癌物質は、人間が環境に作意的に入れてい
る。そして、その意志さえあれば、大部分の発癌物質をとりのぞくことができる。
化学的発癌因子が私たちの世界に入ってくるのには、二つの道がある。一つは、もっとよいらくな生活を求める
ため、もう一つは、私たちの経済ならびに生活様式がこのような化学薬品の製造や販売を要求するため。現代の
杜会から、化学的発癌物質をぜんぶとりのぞくのは、あまりにも非現実的と思われるかもしれない。だが、その多く
は、私たちの生活に不可欠なものとはかぎらない。それらをとりのぞけば、私たちの上にのしかかる発癌物質の圧
力も大幅に減り、四人にひとりがいずれ癌になるという脅威も、大幅に弱まるだろう。
なすべきことは、発癌物質をとりのぞくことだ。食物、水道、空気のすべてが発癌物質で汚染している。どれも私
たちがいつも身にふれるものであり、危険はこのうえなく大きい。ごくわずかずつ、くりかえし何年も何年もかけて私た
ちのからだに発癌物質がたまっていく・・。
いますでに癌にかかっている者、すでに癌をからだのなかにかかえている者、こういう人たちのために薬や治療
法を見つけることは、いうまでもなく必要だが、まだ癌の魔手がとどいていない者、そして、まさにまだ生れ出てこな
い未来の子孫たちのために、何としても、癌予防の努力をしなければならない。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
13.
危機を
危機を予告した
予告した人
した人々
国民が決める、ドイツの脱原発
田口理穂
2011 年 04 月 04 日
WEBRONZA Global Press - 朝日新聞社
ドイツ・ハノーファーで 3 月 14 日に開かれた反原発デモ
ドイツは福島の原発の事故について、最も過敏に反応している国だと言われる。 ニュース
を報じるドイツのテレビ局は大阪から中継し、ルフトハンザは一時成田就航を中止し、新聞で
はアポカリプセ(黙示録)という語を使って日本の運命を論じている。どうして日本人はもっと
遠くへ避難しないのか、まだ東京に留まっているのか、という質問も受ける。
3 月 11 日の東日本大震災を受け、アンゲラ・メルケル首相(キリスト教民主同盟 CDU)は 14 日にはすべての原
発の点検と、昨秋決定したばかりの稼動期間延長を 3 カ月間停止することを発表した。
15 日には、旧型原発 7 基の暫定的停止を決定し、すでに旧型 7 基と新型 1 基の計 8 基を停止している。21 日
には全国 600 ヵ所で 11 万人が反原発デモに出かけ、26 日には 21 万人がベルリンなど 4 都市での大規模デモに
参加した。(中略)
ドイツの原発は、1962 年にカール原子力発電所が初めて操業を開始し、89 年のグライスヴァルト原発を最後に
新しい原発は建設されていない。原発による電力の供給比率は全体の 26%と、フランスの 82%、スウェーデンの
46%と比べて少ない。緑の党は 30 年以上前から脱原発を推進しており、2000 年の脱原発決定には与党として大
きな役割を果たした。
反原発運動は 60 年代からあったが、1986 年のチェルノブイリ原発事故の際、ドイツでも牛乳や野菜に放射能が
検出され、多くの人が我が子の健康を心配し、反原発の機運が再燃した。
今回の福島の件では、チェルノブイリで味わった恐怖感が再びよみがえり、多くのドイツ人が胸を痛めている。緑の
党の市長を持つ南ドイツのフライブルクで反原発運動が盛んなのは、川向こうのフランスに原発があり、またチェルノ
ブイリから流れ出た放射能がいまだ野生のキノコやイノシシに見つかるからだ。(中略)
反原発運動が盛り上がる一方で、代替エネルギーの利用が積極的に行われている。
ウラン、石油、天然ガスを輸入に頼るドイツでは、風力や水力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーが推進
され、1991 年には電力供給法により再生可能エネルギーの買い取りが義務化された。さらに 2000 年の再生可能
エネルギー法により、自然エネルギーの買い取り価格が高額に固定されたため、自然エネルギー発電施設が投資
の対象となり、父兄が太陽発電装置を学校に設置したり、市民団体が一般市民に風力発電の出資を募るなど、大
きな成果をみせている。
福島原発の事故後は、自然エネルギーに乗り換える人が急増。ドイツラジオ放送局によると、これまで 10 万人程
度だった自然エネルギー電力会社の顧客は 12 万人に増えた。グリーンピースエネルギー社のホームページには 1
日 1 万 8000 人が訪れ、そのうち 1 割が同社からの電気購入契約を結んだという。
ドイツにおいて再生可能エネルギーが占める割合は全電力の 17%。連邦政府環境省は自然エネルギーの促進
と天然ガス発電所の建設により、電力供給の低下や Co2 の増加を招くことなく、2017 年までに脱原発が可能だと発
表している。
ドイツ国民はデモや選挙を通じて、原発は不要だと主張している。ドイツの脱原発が欧州全体、ひいては人類全
体の希望となることを多くの人が願っている。
*田口理穂:ジャーナリスト、ドイツ語通訳。日本で新聞記者を経て、1996 年よりドイツ・ハノーバー在住。州立ハノーバー
大学卒業。社会学修士号。ドイツの環境政策や経済、社会情勢など幅広く執筆。
京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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14.
お知らせ
学習図書の案内 『ドイツは脱原発を選んだ』 岩波ブックレット(525 円)
「原発は倫理的ではない」という著者ミランダ・A. シュラーズは環境政策の気鋭の研究者で福島第一原
発の事故後にドイツのメルケル政権が設置した原発問題倫理委員会のメンバーである。
冷戦期、東西対立の最前線で核戦争の脅威を肌で感じたドイツの人びとは、スリーマイル島とチャルノ
ブイリの原発事故を経て、緑の党を成長させ、脱原発を選択した。フクシマの危機をきっかけに脱原発
の期日を前倒しにしたドイツの決断と、再生可能エネルギーへの転換のビジョンを解説する。
こどもと女性の起業/就労を支援する「WAC プラザ」に当会世話人代表名で 5 月に入会しました。
「空気質の向上啓発と認証事業」では引き続き、管理に優れた施設に表彰プレートを配布しています。
*空気質の管理に優れた施設の推薦をお願いします。(京都市外も可)
「空気質の管理に優れた施設」の選考基準
1.建物および敷地内の禁煙を徹底している施設であること
2.洗面所・トイレに芳香剤・消毒剤・殺虫剤・除菌剤などを配置していないこと
3.複数で数回に亘る室内空気質の査察により決定する
4.目視と感度査察の結果により計測器による空気質の測定も行う
5.施設管理者の化学物質と健康影響への理解と室内空気質の保全対策
▶当会への入会手続きについて
入会ご希望の方には下記の連絡方法をお知らせください。 (お申込み後に手続きをご案内します)
ホームページのメールフォームから、またはファックス、郵便にて連絡先をお知らせ下さい。
本人またはご家族がアレルギー、シックハウスなど化学物質に過敏な症状の方、タバコ煙や農薬・殺
虫剤などの被曝で困っている方は面談の上で会員に、健常な方で生活環境の保全、被害予防の支援をし
て下さる方は賛助会員でご入会して頂きます。
(今年度より、年会費は 1,000 円です)
郵便送付先 600-8127 京都府京都市下京区梅湊町 83-1
「ひとまち交流館」2 階 京都市市民活動総合センター メールボックス№57
京都カナリヤ会
FAX 075-344-0465 (京都カナリヤ会あて明記)
会費・寄付金の振込口座
郵便振替口座( 記号 00950-7-206972 )「京都カナリヤ会」宛
▶室内空気汚染の測定について
会員から希望があれば訪問-感度査察と簡易測定機による測定も可能です。
<編集後記>
参院選は梅雨空の下で始まり、猛暑の到来と共に舌戦たけなわとなり白熱しています。
先行きに暗雲、日本の行方を彷彿とさせる日々に、ネット選挙情報では「原発」に関心が集中と報じられています。
見えない有害物質に曝されている現代を、ナチスの強制収容所に収容された精神科医ヴィクトール・E・フランクル
の過酷な迫害体験の著『夜と霧』に準えて、今、放射能、農薬、殺虫剤、タバコなどに追われている受難者も列島
各地の「収容所」で生きていると偲びました。世界中の人々の感動を呼び、読み継がれている名著『夜と霧』から、
繰り返してはならない非人道的人災を心に刻み、毅然として生きられる未来への願いを込めてお届けします。
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京都カナリヤ会会報第 11 号 (2013 年 7 月)
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発行日 発行 2013 年7月15 日
京都カナリヤ会 (編集責任者:広瀬晴美)
600-8127 京都市下京区梅湊町83-1 ひとまち交流館2 階
京都市市民活動総合センター メールボックスNo.57
FAX E-MAIL WEBSITE 075-344-0465
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