通勤時間の決定要因 一橋大学 4 年 寺崎裕基 要旨 通勤時間とは自宅と勤務地の移動時間である。とくに首都圏において、長時間通勤や 通勤ラッシュの混雑は労働者の生産性を低下させる問題となっている。近年は情報通信 技術が発達し、集積の経済による輸送や取引のコスト抑制の効果が小さくなったため、 本社の郊外移転や在宅勤務制度など、企業の側に労働者の通勤時間を短縮する動きがあ る。一方で、労働者はどのように通勤時間を決定しているのだろうか。 本稿では、通勤時間は転居などにより、労働者自身によって調整が可能だと考え、労 働者が賃金率や個人の要因によってどのように通勤時間を決定するのか分析を行った。 具体的には日本版 General Social Surveys の 2000-2003,2006,2008,2010 年のマイクロ データを用いて、通勤時間を被説明変数、賃金率と年齢、配偶者の有無、家族人数を説 明変数とする男女別の回帰分析を行った。 分析の結果、男性・女性共に賃金率が高いほど通勤時間が長いことが確認された。ま た、男性は年齢が高いほど通勤時間が長くなるが、女性には年齢の影響が確認されなか った。女性は配偶者が同居している場合に通勤時間が短くなることが確認されたが、男 性にはその影響は確認されなかった。年齢の効果は、ある年齢で通勤に適切な位置に住 宅を購入した男性が、その後の転勤や転職などによって通勤時間が長くなるためと考え られる。住宅を購入した労働者は転居のコストが高くなり、通勤時間のコストを受け入 れることになる。配偶者の効果は、夫婦やカップルでは男性の収入が家計の主たる収入 となっている事が多く、男性の仕事に合わせて住居が決定されるため、女性の通勤時間 が調整の役割を果たすためである。 これらの結果から、賃金率は通勤時間に影響を与えることが分かった。また、夫婦や カップル間の、男性の仕事に合わせて住居を決定し、女性の通勤時間が調整の役割を果 たすという通勤時間の関係性が明らかになった。
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