性同一性障害について 06JN0992 淵田あゆみ(指導教員:久世淳子) 1.はじめに 積極的・消極的、美しい・汚い、派手な・地味ななど人を表 性同一性障害とは、生物学的には完全に正常であり、しかも 自分の肉体がどちらかの性に所属しているかをはっきり認知 す形容詞を用いて、5件法で尋ねた。 ③ している。しかし、その反面で、人格的には自分が別の性に属 性同一性障害についての意識 していると確信している状態を指す障害名である。 「同一性」という言葉は、古典的観点からは、性別を構成す 障害扱いされていることや同性婚について意見を自由記述し てもらい、また、性同一性障害をテーマにとりあげたドラマや ドキュメントなどを見たことがあるか、それを見て何か変わっ る諸要素を3つに分けて、社会的な性(社会的に認知されてい たかを尋ねた。 る性)と、心理的な性(自分が自認する性や、性欲などと共に ④ 体験している性)、そして身体的な性(特に外生殖器に現れた 性)の3つが同一であることを志向している。 成年男子の 50%が成年期を通じてもっぱら異性愛的であり、 属性 戸籍上と自分が認識している性別を記入してもらった。 手続き 被験者に講義内で質問紙に回答してもらった。 人口の4%が生涯もっぱら同性愛的で、残りのほぼ半数(46%) 仮説 が両方の性別の人に性的に反応した。また、全男性集団の 37% ①性別間では、男性同士の恋愛は危険視されているので、男性 は思春期(人間の生殖機能・生理機能が発達し心身ともに子供 から大人に変化する時期のこと)と高年期(65 歳以上)との間 に尐なくとも1度以上の同性愛の経験を持っていた。女性の良 性愛傾向はそれほど高い数字ではなかったと報告がされてい る(キンゼイ)。その割合は定かではないとしても、尐ない数 の方が理解が尐ないのではないかと考える。 ②性役割に対して思いが強い人のほうが理解が尐ないのではな いかと考える。 3.結果 まず、性差観得点の平均と標準偏差を求め、表 1 に示した。 の人々に両性愛傾向があることには間違いないと考えられる。 男女共に、先行研究より、今回の方が、平均得点が低かった。 同性に性的興奮や性的な魅力を感じてしまい、それで性同一性 また、男女間の得点差が小さくなっていた。 のあり方に不安や不全感を抱くという性同一性不全者も、かな 表 1.性差観スケールの平均得点 りの広がりを持っていると考えられる。 そこで、最近、メディアや教育などでも取り上げられ、世間 男 女 伊藤:1997 76.64(13.92) 73.60(13.96) ( )内は標準偏差 今回 68.54.(14.93) 68.25(15.12) にも知られるようになった言葉だが、まだ身体障害者や知的障 SD 法で得られたデータで主因子法を用いて、バリマックス 害者より、性同一性障害者や同性愛者に偏見の目が持たれてい 回転を実施し、因子分析を行ったところ、3因子が抽出された。 るように感じる。そこで、さまざまな情報を得られる現在で、 第 1 因子には「積極的な」 、 「明るい」 、 「愛嬌のある」 、 「たくま 周りの人々がどのような意識を持っているのかを質問紙法を しい」 、 「人懐こい」 、 「生き生きとした」 、 「動的な」などの項目 用いて調査した。 が含まれ、外交的因子とした。第2因子には「楽しそうな」、 2.方法 「清潔な」 、 「美しい」 、 「派手な」、 「親しみやすい」 、 「やさしい」、 調査対象者 「生き生きとした」などの項目が含まれ、美因子とした。第3 日本福祉大学に在学している学生 152 名で、美浜キャンパス (男 39 名、女 77 名)と半田キャンパス(男 23 名、女 12 名) で調査した。 性差観スケール(伊藤 因子:t(97.076)=-1.276, ns; わがまま因子:t(149)=-0.409, ns)、 1997;1998;2000) 自己に関する情報以外のさまざまな事柄や状況を性別に関 連づけて認知する枠組みを性差観と名づけ、これを測定する尺 度を作成したものを用いた。 ② れ、わがまま因子とした。 3 つの因子について男女間(外交的因子:t(149)=-0.627, ns; 美 調査項目 ① 因子には「わがままな」 、 「厳しい」 、 「荒い」などの項目が含ま 性同一性障害者のイメージ:SD 法 キ ャ ン パ ス 間 ( 外 交 的 因 子 :t(42.999)=-0.998, ns; 美 因 子:t(42.189)=-0.684, ns; わがまま因子:t(150)=-0.810, ns)での 差を調べたところ、統計的に有意な差は見られなかった。 次に、性同一性障害を障害扱いすることについて肯定派、否 定派の人数を表2に示した。否定の意見が男女とも美浜の方が 因子に有意な差が見られた(外交的因子:t(149)=0.714, ns; 美因 多い割合を示している。 子:t(24.413)=1.886, ns; わがまま因子:t(149)=2.083, p=0.039)。 表2.障害とするべきか否か 美浜 半田 性別 男 女 男 女 合計 否定 27 (77%) 55 (93%) 13 (62%) 8 (80%) 103 (82%) 肯定 8 (23%) 4 (7%) 8 (38%) 2 (20%) 22 (18%) 合計 35 59 21 10 125 性同一性障害を障害とするべきかという質問に対し、肯定的 な意見を持つ人と否定的な意見を持つ人との比較(図1)ではわ がまま因子に有意な差が見られた(外交的因子:t(25.453)=-0.52 2, ns; 美因子:t(23.052)=1.369, ns; わがまま因子:t(123)=2.047, p=0.043)。 4.考察 性差間得点が、先行研究より低くなったことについて、メデ ィアの影響などが考えられる。最近テレビなどでも、「スカー トを履く男性が増えている」だとか「流行語に草食男子が選ば れる」などと報道されているように、若い世代を中心に「男は 男らしく」という考えが薄れてきているのも大きな要因の一つ であると考えられる。 性同一性障害を障害とするべきかという質問に対して、美浜 同性の結婚を認めるべきかという問いに対して、肯定派、否 の男子学生と半田の男子学生の間で、割合に大きく差がでた。 定派の人数を表3に示した。男性の割合を見ると、美浜の男子 理由として、「今まで性同一性障害をテーマにとりあげたドラ 学生の方が肯定している人が多いことがわかる。同性の結婚を マやドキュメントを見たことがありますか」という質問に、美 認めるべきかという質問に対し、肯定的な意見を持つ人と否定 浜の学生の中で、社会学の講義内でビデオを見たという回答が 的な意見を持つ人の 3 つの因子得点を比較したところ、統計的 多く見られたことから、美浜での授業で,理解が深まっていると には因子得点に差が見られなかった(外交的因子:t(147)=-0.062, 考えられる。また、全体的に女子学生の方が見たことがある人 ns; 美因子:t(147)=1.292, ns; わがまま因子:t(147)=0.499, ns)。 数が多かったことが、女子学生のキャンパス間の差が見られな 表3.同性婚を認めるべきか否か かった要因ではないかと考えられる。以上のように、現代の学 美浜 半田 性別 男 女 男 女 合計 否定 2 (5%) 3 (4%) 8 (35%) 0 (0%) 13 (9%) 肯定 35 (95%) 73 (96%) 15 (65%) 12 (100%) 135 (91%) 合計 37 76 23 12 148 性同一性障害をテーマにとりあげたドラマやドキュメントを 見たことがある人のない人の人数を表4に示した。見たことが ある人が、 美浜、 半田ともに女性の方が多い割合を示している。 表4.性同一性障害のドラマなどをみたことがあるか 美浜 半田 合計 性別 男 女 男 女 ある 29 (76%) 71 (95%) 15 (65%) 10 (83%) 125 (84%) ない 9 (24%) 4 (5%) 8 (35%) 2 (17%) 23(16%) 合計 38 75 23 12 148 -また、性同一性障害をテーマにとりあげたドラマやドキュメ ントを見たことがある人とない人との比較(図2)でもわがまま 生は、ドラマや授業でこのテーマに触れ、考える機会を与えら れることによって、意識が変わり、理解が深めていることがわ かる。 今回は、社会学の講義と重なったこともあり、差が見られな い項目が多くあったので、機会があれば、全く異なった思考の 人や、世代の人との比較を行いたい。 5.参考文献 Kinsey AC et al.(1948) Sexual Behavior in the Human Male.(永井潜、安藤畫一訳(1950)人間に於ける男性の性行為。 コスモポリタン社) 心理学測定尺度集Ⅰ(サイエンス社)性差観スケール(伊藤 (1997;1998;2000)
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