地域包括ケアを支える都市機能及び 生活支援産業に関する調査 報 告 書

地域包括ケアを支える都市機能及び
生活支援産業に関する調査
報
告
書
平成 28 年 3 月
公益財団法人
ちゅうごく産業創造センター
巻
頭
言
平成 12 年にこれまでの福祉政策を大きく転換したといわれる「介護保険法」が施行されたが、
この法律はその後 5 回もの改正が行われてきた。その理由は急速な高齢化の進行と財政負担の逼
迫への対応を踏まえ、効率的・効果的な制度運用をいかに行うかの調整の連続であったといえる。
その中でも特筆すべきは平成 17 年の改正であり、「予防重視」と「ケアマネジメントの見直し」
が打ち出された。そのねらいは介護や医療のサービス受給者増大をいかに抑制するのか、また、
行政や介護制度の枠組みによるサービス提供だけに依存するのではなく、いかに自らが 健康維持
に励むかという「自助」の考えや地域社会が互いに助け合う「互助」の考えの徹底を求め、その
ために住民や関係団体の参加と連携をもととした地域社会の仕組みの再構築にあったといえる。
この方向は本調査のテーマである「地域包括ケアシステム構築」につながるものである。
国(厚生労働省)においては、団塊の世代が 75 歳以上となる平成 37 年を目標として地域包括
ケアシステムの構築を目指すとしている。平成 17 年から現在までの 10 年間を前期とすれば、こ
れからの平成 37 年までの 10 年間を後期とみなすことができる。国立社会保障・人口問題研究所
による人口推計によると平成 37 年には高齢化率は 30.3%となり、3 人にひとりが高齢者の時代を
迎えることとなる。今後 10 年間の展開がいかに重要であるかの認識が求められる。
本報告書は、このような高齢社会の到来を見据えた地域包括ケアシステムの構築をねらいとし
たものであり、そのため有識者等へのヒアリング調査や先進地視察、自治体へのアンケート調査
による地域包括ケアに関わる実態の把握と諸課題を整理し、課題解決のための取組を取りまとめ
ている。さらにはこれらの調査結果を踏まえて、地域包括ケアシステムの構築 のために有効と考
えられる各種事業を提案している。
本調査においての大きな特徴は二つある。一つは、地域包括ケアシステムの構築は住み慣れた
地域において生活の自立をめざすことから、暮らしやすい地域づくりの視点を大事にしているこ
とである。健康・福祉・医療などはもちろん包括ケアシステム構築のための根幹であるが、これ
らを支える基盤としての交通や通信、生活支援などのサービス(都市機能)の確保が求められる。
しかし、これまでこのような基盤となる支援サービスを対象とした調査は十分とはいえず、本調
査はこの点に焦点をあてている。
二つめの特徴は、地域包括ケアのために有効と考えられる事業を整理し、その担い手として行
政ではなく民間の経営に委ね、効率的・効果的なサービス提供を期待できる事業を整理している
ことにある。本調査のねらいのひとつにはこれらの事業が複合して新たな産業の形成可能性を探
ることとしている。
平成 28 年 3 月
「地域包括ケアを支える都市機能及び生活支援産業に関する調査」委員会
委員長
戸田 常一
地域包括ケアを支える都市機能及び生活支援産業に関する調査
委 員 会 名 簿
(委員:所属名の50音順、敬称略)
区
分
委員長
氏
名
所
属
・
役
職
戸田
常一
広島大学大学院社会科学研究科教授
副委員長 加藤
博和
米子工業高等専門学校教養教育科准教授
委
員
吉田
伸司
一畑電気鉄道株式会社
委
員
角田
英人
株式会社奥村組
広島支店
委
員
松下
督克
医療法人光臨会
荒木脳神経外科病院
委
員
中井
良司
株式会社山陰合同銀行
委
員
武部
清隆
サンキ・ウエルビィ株式会社
経営企画室
委
員
谷口
精寛
清水建設株式会社
営業部長
委
員
平井
信義
中国経済産業局
産業部
委
員
平岡
憲司
中国経済連合会
部長
委
員
山内
博文
一般社団法人中国地域ニュービジネス協議会
委
員
和田
淳秀
鳥取県
委
員
奥川
泰光
日本通運株式会社
広島支店
総務次長
委
員
八木
克哉
日本電気株式会社
中国支社
公共第二営業部長
委
員
長谷川
委
員
開原
委
員
委
営業部
地域振興部
広島支店
商工労働部
営業課長
事務部長
副調査役
取締役室長
流通・サービス産業課
商工政策課
課長
専務理事
係長
特定非営利活動法人日本ホリスケア協会
理事長
茂晴
株式会社日立製作所
課長代理
藤原
薫
広島県
員
佐伯
一夫
広島電鉄株式会社
経営企画部
交通政策課長
委
員
山根
幸真
株式会社山口銀行
地域振興部
係長
委
員
山﨑
晶子
山口県
長寿社会課
オブザーバー
中前
陽香
中国経済産業局
事務局
佐原
一弘
公益財団法人
〃
楫野
肇
〃
常務理事
〃
木村
宜克
〃
調査部長
〃
石橋
正浩
〃
調査部部長
〃
石岡
孝冶郎
〃
調査部部長
泉
洋一
〃
田立
善人
〃
調査役
〃
本末
直巳
〃
研究員
シンクタンク
剛
取締役経営推進部長
健康福祉局
健康福祉部
中国支社
企画部
地域包括ケア・高齢者支援課
産業部
参事
地域包括ケア推進班
流通・サービス産業課
ちゅうごく産業創造センター
株式会社山陰経済経営研究所
地域振興部長
主幹
係員
専務理事
調査目的と報告書の構成
【調査目的】
わが国は現在、国民の約 4 人に 1 人が 65 歳以上であり、世界に例をみないスピードで高
齢化が進行している。このような中、団塊の世代(約 800 万人)が 75 歳以上となる平成 37
年(2025 年)以降は、国民の医療・介護需要の更なる増加が見込まれている。
このため、厚生労働省は、平成 37 年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の
目的のもと、可能なかぎり住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けるこ
とができるよう、在宅医療・介護を基軸とした地域の包括的な支援・サービス提供体制(地
域包括ケアシステム)の構築を推進している。
一方、平成 16 年に開始した新しい臨床研修制度により域内における医療の確保が一層困
難になるものと懸念され、また福祉・介護分野では、労働力人口が減少し、限られた労働
力の中から、国民のニーズに的確に対応できる質の高い福祉・介護人材を安定的に確保し
ていくことが喫緊の課題となっている。
そこで、本調査では、
「病院・介護施設中心」から「在宅中心」に大きく舵を切られた政
策に対応し、住民が住み慣れた地域において安心で健康的な生活を全うするための住まい
およびこれに関わる都市機能のあり方、そして、交通・物流・通信など生活全般の基礎と
なるインフラ及びそれを支える産業の可能性について調査・分析する。
報告書の構成と調査フロー
1.高齢社会の動向と地域包括ケアの概要 (報告書3~22頁参照)
2.有識者等へのヒアリング調査と自治体へのアンケート調査 (報告書23~49頁参照)
3.地域包括ケアシステムを支える都市機能のあり方と課題の抽出 (報告書50~59頁参照)
4.都市機能をめぐる課題の解決方策
の検討 (報告書60~61頁参照)
5.地域包括ケアシステムを支える事業
と事業主体の検討 (報告書62~77頁参照)
(補論)ケーススタディによる都市機能及び生活支援産業に関する検証 (報告書78~102頁参照)
―ⅰ―
1.高齢社内の動向と地域包括ケアの概要 (報告書 P3~P22 参照)
(1)中国地域の高齢化の現状
中国地域の人口推移をみると、65
歳以上人口は平成 32 年まで増加する
図表 1.1
実績値
800
見通しとなっている。
736
694
17
34
400
423
436
となる見通しとなっている。
200
平成 42 年には 142 万人と 22 年に比べ
4 割以上増加する見通しとなってい
687
19
38
700
21
44
26
48
758
32
55
775
774
777
40
49
57
59
67
81
600
年には 33.4%と 3 人に一人が高齢者
なお、「75 歳以上」人口をみると、
(%)
推計値
36.6
699
15
32
高齢化率についてみると、平成 42
中国地域の高齢化の推移と将来推計
(万人)
6.8
7.3
229
207
458
8.3
475
9.3
492
10.1
499
11.5
510
773
765
750 739 31.8 32.8 33.4
717
70
86
692 664
100 29.6
110
89
121
90 25.7
138
93
142
108
23.0
107
20.6
89
80
17.7
516
15.0
514
12.8
500
483
457
426
403
386
370
634
138
80
349
35
30.0
603
132
89
319
172
160
170
172
165
142
125
114
106
101
94
87
79
72
67
64
40
45
50
55
60
H2
7
12
17
22
27
32
37
42
47
52年
0
S30
る。
0~14歳(左軸)
15~64歳(左軸)
75歳以上(左軸)
高齢化率(右軸)
40.0
34.4
20.0
10.0
0.0
65~74歳(左軸)
資 料:平 成 22 年 以 前 は 総 務 省「 国 勢 調 査 」、27 年 以 降 は 国 立 社 会 保 障 ・
人 口 問 題 研 究 所「 日 本 の 将 来 推 計 人 口( 平 成 25 年 3 月 推 計 )」の
出生中位・死亡中位推計結果。
(2)地域包括ケアシステムの概要
国は、平成 37 年をめどに「地域包括ケアシステム」の構築を目指すことを掲げている。
その内容は、「平成 37 年(2025 年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目
的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けるこ
とができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構
築を推進する」となっている。
また、地域包括ケアシステムは「医療・看護」、「介護・リハビリテーション」、「保健・
予防」、「福祉・生活支援」、「すまいとすまい方」の 5 つの要素で構成されている。
図表 1.2
地域包括ケアシステムの姿(左)と構成要素の概念図(右)
資 料 : と も に 厚 生 労 働 省 HP よ り
本調査では、こうした厚生労働省の考え方を踏まえ、地域包括ケアシステムを支える「都
市機能」とそれを支える「生活支援産業」に焦点を当てて調査を進める。
なお、ここでの「都市機能」とは「交通」、「情報通信」、「セキュリティ」ならびに「住
まい」などの生活を支える基盤を指すこととする。
―ⅱ―
2.有識者等へのヒアリング調査と自治体へのアンケート調査 (報告書 P23~P49 参照)
1章を踏まえ、中国地域および国内他地域の事例を分析し、地域包括ケアシステムを支
える都市機能およびそれを支える産業の課題や参考になる事項を抽出する。
(1)有識者ヒアリング調査
全国的に地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みは始まったばかりである。そこ
で、この分野に知見のある以下の有識者に地域包括ケアシステムの構築が求められる背景
や現状での問題点などについて尋ねた。
図表 2.1
有識者ヒアリング調査の訪問先
分類
訪問先
学識経験者 県立広島大学保健福祉学部、明治大学理工学部
医療法人光臨会荒木脳神経外科病院(広島市)、
医療関係者
一般社団法人広島市西区医師会
川崎市健康福祉局地域包括ケア推進室、厚生労働省地域医療計画課、
公的機関
広島県地域包括ケア推進センター
調査機関 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
有識者ヒアリング調査から得られたポイントは以下のとおりである。
図表 2.2
項目
地域における医療・
介護・保健の現状
有識者ヒアリング調査から得られたポイント
ポイント
・介護保険制度を維持するためには負担と給付のバランスを見直す必要がある。
・退院後に自宅に帰られない場合など住み替えなどによって高齢者の「住まい」
を確保する必要がある。
地域包括ケアシステムの
・住み替え資金を確保しやすい仕組みづくりが必要である。
構築に取り組むうえで
・有償ボランティアを活用して生産年齢人口の減少に対応する必要がある。
抱えている課題
・資源に制約のある中山間地域では、各主体が連携して資源不足を補うような工
夫が求められる。
・買い物などで高齢者の移動を支えるためには、地域の実態に合わせた交通シス
地域包括ケアシステムを テムを形成、運用する必要がある。
支える都市機能の
・救急搬送時において、ICTを利用して情報の伝達・共有を図る必要がある。
整備状況
・ICTを活用して医療・介護の連携を強化する必要がある。
・今後、介護保険制度の対象から外れるサービスは民間事業者にとって新たなビ
ジネスチャンスにつながることが期待できる。
産業界に対する期待
・高齢者が安心して生活できるような都市機能を整備する必要がある。
・多様な主体が役割を分担しながら各種サービスを提供することが求められる。
その他
・自治体については、地域包括ケアシステムの構築に向けて部局間の垣根を超え
た取り組みが求められる。
・福祉活動を継続的に行うためには、無償ではなくビジネスの視点を取り入れる
ことが必要である。
・高齢者だけが集まって生活するのではなく、多様な世代の交流が必要である。
―ⅲ―
(2)先進地域事例視察およびヒアリング調査
全国各地で地域包括ケアシステムの構築に向けてさまざまな取り組みが行われている。
そのなかから、特徴ある取り組みや事業に着手してから一定年数が経過しており、その効
果が少しずつ表れ始めている地域や主体を選定し、実際に訪問して取り組み経緯や内容、
効果、課題などのヒアリング調査を実施した。
図表 2.3
機能分類
住まい
先進地域事例視察およびヒアリング調査訪問先
訪問先
Share金沢(金沢市)、株式会社誠心(太宰府市)、
NAGAYA TOWER(鹿児島市)
富山市都市整備部交通政策課(富山市)、
交通
南地区コミュニティ運営委員会(大野城市)、
健軍商店街振興組合(熊本市)
株式会社インテック(富山市)、
情報通信
新川地域在宅医療療養連携協議会(黒部市)
ALSOKあんしんケアサポート株式会社(東京都大田区)、
セキュリティ
株式会社アライブメディケア(東京都渋谷区)
暮らしの保健室(東京都新宿区)、パーソナルボディマネジメント株式
その他の
会社(福岡市)、高齢者総合ケアセンターこぶし園(長岡市)、
生活支援事業
株式会社日本介護福祉グループ(東京都墨田区)
各ヒアリング先 から 得られた地域包括ケアシステムを支えるために 必要なポイントを
「住まい」、「交通」、「情報通信」、「セキュリティ」、「その他の生活支援事業」の 5 つに分
けて整理すると以下のとおりとなる。
図表 2.4
項目
ヒアリング先から得られたポイント
地域包括ケアシステムを支えるために必要なポイント
・安定した住まいの確保が前提である
住まい
・家族と近い位置で生活する ・施設であっても自宅に近い住環境を整える
・退院後に自宅で生活できない場合の住み替えを推進する
・公共交通の活性化により外出機会を創出する
交通
・交通事業者の継続的な事業運営ができるような制度設計が必要
・ニーズに合わせた柔軟な運行スケジュールを設定する
・データを活用して事業展開を推進する
情報通信
セキュリティ
・使いやすさに考慮したデザインを工夫する
・ICTを利用した情報共有による効率性の高い在宅医療を提供する
・相談サービスを通じて気軽に利用できる環境づくりが重要である
・セキュリティ関連サービスが医療・介護以外の時間を埋める
・在宅復帰直後における手厚いサービスが重要である
・権利保護の充実についてニーズに対応する
その他の
・予防に対するインセンティブを導入する必要がある
生活支援事業
・予防の強化による健康寿命の延伸が今後の重要課題となる
・科学的知見に基づいた運動プログラムの提供が必要となる
―ⅳ―
(3)自治体ヒアリング調査
中国地域内の米子市、大田市、岡山市、尾道市、宇部市及び島根県の 6 自治体に訪問し
て、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みについてヒアリング調査を行った。問
題点は以下のとおりである。
図表 2.5
機能分類
住まい
自治体ヒアリングから得られた問題点
地域包括ケアシステムを構築するうえで抱えている問題点
・多くの高齢者が現在の住み慣れた地域で生活することを望んでいるため、介護が必要な状態に
陥ってもできる限り自宅で生活できるような住まいの提供や退院後の短期的な住まいとしての
介護施設の提供が必要であると考えている。
・中山間地域では、患者宅までの距離が遠く離れているため、訪問診療や訪問看護において移動
交通
情報通信
に時間がかかっている。
・コミュニティバスが運行しているものの、交通空白地域を完全にカバーしているわけではない。
・医療介護間の連携において、メンバーの入れ替わりなどにより情報共有が途切れてしまうことが
ある。
・医療機関側の在宅医療に対する取り組みがあまり積極的ではない地区がある。
・独り暮らしの男性高齢者の多くは家事が苦手なことなどから栄養摂取に偏りがみられる。
・中心市街地から離れた地域では、買い物支援を必要としている高齢者が多く存在している。
・要支援1、2の高齢者から「ゴミ出し」など身の回りの世話を手伝ってもらいたいという要望が多
く聞かれている。
・単なる体操やサロン活動による介護予防事業ではなく個々の高齢者に適したサービスの提供。
その他の
生活支援事業 ・認知症患者の増加は深刻な問題である。
・介護が必要になる原因が明確ではない。
・社会との接点を持てるような通い・憩いの場所が少ない。
・介護サービスに対する適正な評価指標と客観的な評価システムが構築されていない。
・介護予防の成果が表れるまでには、一定の時間を必要する。
(4)自治体アンケート調査
中国地域の全 107 市町村に対して地域包括ケアシステムの構築状況に関するアンケート
調査を実施した(回答数 40)。結果の概要は以下のとおりである。
図表 2.6
自治体アンケートから得られた現状と課題
項目
アンケート結果概要
・半数以上の自治体において、本格的な取り組みはこれからである。
自治体の地域包括ケア ・特徴的な取り組みとしては、社会福祉協議会と連携した高齢者の孤立を防ぐ取組、医療と
システムの構築に向け 福祉の連携ネットワークの構築、ボランティアによる生活支援サービスの提供、ボランテ
た取り組み状況
ィア活動へのポイント付与、認知症への対応、ボランティアによる保険外サービスといっ
た回答があった。
・現状では50%以上の自治体が民間事業者と連携しており、民間事業者が保有するノウハウ
を求めている。
自治体が把握している
・コンビニエンスストアは移動販売や見守り活動など、地域とのかかわりを持とうと積極的
民間事業者の取り組み
に取り組んでいる。
状況
・「食材配達」「移動販売」「住宅の増改築」「セキュリティ(防犯)」といった分野に対
して民間企業の事業展開を期待している。
・民間事業者としては、「生活支援サービス充実」や「医療・介護間の連携」「在宅医療の
現時点あるいは今後に 充実」が促進されるようなサービスを提供することが地域包括ケアシステムの構築におい
向けた課題
て果たすべき役割といえる。
・専門職の担い手不足や交通インフラに対する不安を抱えている。
―ⅴ―
3.地域包括ケアシステムを支える都市機能のあり方と課題の抽出 (報告書 P50~P59 参照)
2 章で実施した実態調査を踏まえ、地域包括ケアシステムを支えるために必要な都市機能
のあり方と解決すべき課題を導出すると以下のようになる。
図表 3
都市機能のあり方と解決すべき課題
【あり方】
高齢者のニーズやライフステージに適した安心して生活できるような住まいを確保する。
住
ま
い
【解決すべき課題】
①低所得者の住み替え支援
②退院後の住まいの確保
③既存住宅の修繕支援
④住み替え支援・資金確保
⑤高齢者の孤立を防ぐことと地域との交流・共生ができる関係構築
【あり方】
高齢者が気軽に外出でき、地域社会との接点を持ちやすくなり、まちづくりや地域活性化に
つながるような交通サービスを提供する。
交
通
【解決すべき課題】
①交通政策と連動したまちづくり
②規制緩和などによる高齢者の移動支援
③コミュニティバスの利便性向上・運営支援
④中山間地域での訪問診療、訪問看護支援
【あり方】
高齢者の健康に関する情報を収集・蓄積・分析した健康管理や多職種による情報共有などが
円滑に行われるようなサービスを開発・提供する。
情
報
通
信
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
【解決すべき課題】
①患者情報の共有による医療と介護の間にある知識・情報の壁の解消
②ICTの利用拡大
③患者情報共有システムの利便性向上
④健康データの収集・管理・活用およびデータ活用の能力向上
⑤情報通信機器の利用促進
⑥救急搬送時における情報伝達手段の構築
【あり方】
自宅で生活する高齢者や遠方で生活している家族に生じる心理的不安を緩和することができ
るような見守りサービスを提供する
【解決すべき課題】
①認知症高齢者などの安否確認
②平常時の相談による信頼関係の構築
―ⅵ―
4.都市機能をめぐる課題の解決方策の検討 (報告書 P60~P61 参照)
3 章で導出した地域包括ケアシステムを支えるための都市機能のあり方を踏まえ、課題を
解決するための方策は以下のとおりである。
図表 4
都市機能をめぐる課題の解決方策
都市機能
解決方策
安定した住まいの確保が前提。また、既存住宅の改修、住み替え時の資金確保、家賃負担の軽減といった
住まい
方策も必要。有料老人ホームの運営事業者については、地域住民との交流機会の創出や高齢者が社会との
つながりを持ちやすいような支援といった取り組みが必要。
交通弱者である高齢者が多様な交通サービスを享受できるような環境の整備が必要。そのためには既存サ
ービスの拡充に加え、規制の緩和や新たな主体による交通事業の展開等の取り組みが求められる。在宅医療
交通
の推進に向けては、医師や看護師等が高齢者宅へ訪問する際の支援策等を講じることも必要。
ICTを活用して医療・介護の連携や機能を高めるような取り組みが必要。高齢者自身がICTを活用して健康
情報通信
づくりに取り組めるような商品やサービスを開発することも必要。
高齢者を見守るような取り組みが必要。今後は、地域が一体となって高齢者を支えていくことが求められ
セキュリティ るため、高齢者が安心して生活できるような環境を整える必要。認知症高齢者が急増するため、高齢者本人
だけでなく家族も安心できるようなサービスの提供も必要。
5.地域包括ケアシステムを支える事業と事業主体の検討 (報告書 P62~P77 参照)
(1)事業の検討
4 章で述べた解決方策に基づき、地域包括ケアシステムを支えるために有効な事業、事業
の手法および支援策を検討すると以下のとおりになる。
図表 5.1
地域包括ケアを支えるために有効と考えられる事業、手法および支援策
■住まい
事業名
概要
①低価格型有料老人ホーム
空き家や各種施設を活用して、建設コストを抑えた有料老人ホームの建設。
②低所得者向け賃貸住宅入居支援促進 不動産業者が低所得者に保有物件を賃貸する際、不動産業者に対する支援。
高齢者が賃貸住宅を借りやすくなるように、家賃の未払い等の発生時に公的機関等
③高齢者賃貸保証
の連帯保証。
自宅の段差解消やスロープの設置、引き戸への変更等の住まいのリフォームサービ
④住宅リフォーム
スの提供。
⑤コミュニティ型賃貸住宅
⑥不動産の有効活用
⑦施設と住民の交流促進
何らかの共通点を持つ人同士が集まって生活できるような住環境の提供。
所有住宅が新たな買い手に魅力的に映るようなリノベーション。
入居者やその家族以外の地域住民が気軽に利用できるように、施設内の一部をオー
プンスペースとして開放。
■交通
事業名
概要
①公共交通を軸としたコンパクトなま 人口減少社会に対応して、諸機能や施設を集積することで効率性を高めて、より良
ちづくり
い行政サービスを提供できるようなまちづくりの展開。
同じタクシーでも都市部と中山間地域では需要と供給が異なることから、地域の実
②柔軟な料金体系による輸送サービス
情に合わせて柔軟な料金体系を用いることで、地域住民の利用拡大。
③交通空白地域における多様な主体に バスやタクシーが運行していない地域で、規制緩和を活用してボランティアドライ
よる運行サービス
バー等による有償送迎ができるようなサービスの提供。
退院時の搬送や移動しながら緊急性の低い医療行為を受ける必要がある場合等に、
④搬送サービス
救急車に代わって患者を送迎するサービスの提供。
⑤運行内容調整
利用者のニーズに合わせたルート設定や運行頻度の調整。
―ⅶ―
コミュニティバスが継続的に運行できるよう、運賃以外の収入を確保するような支
⑥継続運行支援
援の実施。
⑦在宅医療に関する移動支援
訪問診療、訪問看護に取り組む病院・診療所・事業者に対して患者宅への訪問時に
発生する費用の補助。
■情報通信
事業名
①患者情報共有システムの開発
②低価格システム開発
③患者情報システム標準化
④健康データ管理把握
⑤ユニバーサルデザイン機器開発
⑥救急搬送支援システム開発
概要
多職種間において、患者情報の共有や意見交換ができるような情報共有システムの
開発。
利用する医療機関や介護事業者にとって必要な機能のみを搭載した低価格で使いや
すい情報共有システムの開発。
異なるシステム同士で患者データの相互交換ができるような編集システムの開発。
病気や介護状体重や血圧、摂取カロリー等の健康に関するデータを収集し解析する
ようなサービスの提供。
高齢者が使いやすいように、大きなボタンや持ち運びまたは身に着けやすい簡易な
操作といった使いやすいデザインの機器の開発。
救急車と病院を情報でつなぐことや受け入れ病院を確認する時間が短縮できるよう
なシステムの開発。
■セキュリティ
事業名
概要
①高齢者安否確認
高齢者の健康状態等を定期的に把握するような見守りサービスの提供。
②緊急通報駆けつけ
■その他の生活支援事業
体調を崩した際、緊急で駆けつけられるようなサービスの提供。
事業名
①調理方法指導
概要
各種調理方法の紹介や指導、栄養に関する情報提供を行うサービスの提供。
②療養食提供
外出が困難な高齢者には食べやすいようなサイズや堅さに調整したお弁当や総菜の
開発といったサービスの提供(配達)。
③資産管理サービス
高齢者の財産・資産に関する相談サービスや管理代行サービス提供。
④遺品整理サービス
故人や遺族の希望に基づいて遺品を「残すもの」「売却するもの」「廃棄するも
の」等に仕分けて整理するサービスの提供。
⑤家族介護者相談
介護に関する悩みを相談・支援するようなサービスの提供。
⑥家族介護者の一時的休息支援(レス 在宅介護の要介護状態にある高齢者を一時的に預かり、家族介護者を介護から解放
パイトケア)
⑦移動販売
して休息がとれるようなサービスの提供。
食料品などを積んだ販売車が地域の公民館等へ出向き、買い物の機会の提供。
⑧買い物付き添い支援
高齢者を小売店への送迎し、買い物に付き添うようなサービスの提供。
⑨注文・購入代行
インターネット環境にある人材や組織が高齢者の意向を聞いて代わりに操作するよ
うなサービスの提供。
⑩荷物輸送代行
商店街やショッピングセンター等で買い物を行った際に発生する手荷物を高齢者宅
へ運ぶサービスの提供。
⑪介護事業者成功報酬
介護事業者に対して、施設利用者の要介護度が改善された際に何らかの報酬を与え
るようなインセンティブ制度の導入。
⑫ヘルスケアポイントサービス
高齢者が介護予防に取り組んだ際にポイントが加算されるような制度の導入。
⑬趣味嗜好型介護予防
機能訓練の一環として余暇やレジャーに関するメニューを取り入れたサービスの提
供。
⑭病気介護リスク解析
病気や介護状態に陥る兆候を事前に把握できるように、健康に関するデータを収集
し解析するようなサービスの提供。
⑮オーダーメイド型健康プログラム
提供
健康状態や身体機能には個人差があるため、高齢者一人ひとりに適した運動プログ
ラムサービスの提供。
⑯社会参加機会創出
⑰生涯学習プログラム提供
健康と病気・介護の隙間にいる高齢者に対して、充実した時間を過ごすことができ
るようなサービスの提供。
認知症にならないように高齢者の五感を刺激するようなレクリエーションサービス
の提供。
―ⅷ―
(補論)ケーススタディによる都市機能及び生活支援産業に関する検証 ( 報 告 書 P78~P102 参 照 )
5 章で検討した事業を、島根県大田市(中山間地域)と岡山県岡山市(都市地域)にそ
れぞれ当てはめて有効なものなのかを検証する。
(1)有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び支援策
両市の現状を踏まえ、地域包括ケアシステムを支えるうえで必要と考えられる ものを検
討すると以下のとおりになる。
図表 6.1
大田市と岡山市において有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び支援策
大田市(中山間地域)
・不動産の有効活用
住まい
・低価格型有料老人ホーム建設
・柔軟な料金体系による輸送サービス
・交通空白地域における
交通
多様な主体による運行サービス
・運行内容調整
・遠隔診療支援
情報通信
・医療事務補助作業
・行動分析
セキュリティ ・高齢者安否確認
岡山市(都市地域)
・住宅リフォーム
・施設と住民の交流促進
・路線バスの運行内容調整
*ヒアリング調査で状況を把握できな
かったため、本調査では提案できない
・高齢者安否確認
・調理方法指導
・荷物輸送代行
・動画配信による体操教室
・娯楽サービスを活用した介護予防
・調理方法指導
その他の
・移動販売
生活支援事業
・地域資源を活用した介護予防
(2)地域間比較による特徴の整理
上記で検討した両市で有効と考えられるものから、中山間地域と都市地域におけるそれ
ぞれの特徴を導き出すと以下のとおりになる。
図表 6.2
事業の特徴
中山間地域
・長期間だけでなく、短期間も含めた住み替え
住まい
施設の量的な確保
・交通サービスの「量」と「質」をともに充せる
交通
ような事業
・自宅と各種施設の距離を埋め、各種サービスを
情報通信
効率よく提供
・遠方で生活する子供家族へ高齢者の様子を定期
セキュリティ
的に伝えるようなサービス
・自宅から最寄りの小売り店舗までの距離が遠い
ことから物流面で日常生活を支えるためのニー
その他の
ズが高い
生活支援事業
・地域資源を活用して経済の活性化につなげるよ
うな予防方法の提供
都市地域
・自宅で快適に生活できるような住空間の提供
・既存の交通サービスは量的な充足は高いことか
ら、今後は効率的に配分して利便性の向上を図
ることが必要
*ヒアリング調査で状況を把握できなかった
ため、本調査では提案できない
・相談も兼ねた見守りサービス
・より良い生活習慣を身につけるための食育や料
理方法など提供
・エンターテイメント性の高い予防メニュー
(3)事業展開のポイント
上述した特徴を踏まえ、中山間地域と都市地域において事業を展開する際のポイントは
以下のとおりである。
図表 6.3
事業展開の
ポイント
事業展開におけるポイント
中山間地域
都市地域
・距離のハンディを埋めるような事業展開が必要。 ・高齢者との信頼関係の構築。
・継続的な事業運営につながる仕組みづくり。
・競合相手が多いことから、工夫した製品・サー
ビスの提供が必要。
―ⅸ―
目
次
調査の目的 ................................................................................................................... 1
1.高齢社会の動向と地域包括ケアの概要 ................................................................. 3
1.1.高齢社会と社会保障給付に関する動向 ...................................................... 3
1.1.1.全国の高齢化の現状と将来予測 ...................................................... 3
1.1.2.中国地域の高齢化の現状と将来予測 ............................................... 4
1.1.3.高齢社会の様相 ............................................................................... 6
1.1.4.社会保障給付に関する動向 ............................................................. 9
1.2.地域包括ケアシステムの概要 ................................................................... 11
1.2.1.医療および介護に係る法制度等の変遷.......................................... 11
1.2.2.「地域包括ケア」という概念 .......................................................... 12
1.2.3.介護保険制度の導入と法改正の流れ ............................................. 13
1.2.4.地域包括ケアシステムの概要 ........................................................ 15
1.3.小括 .......................................................................................................... 20
1.3.1.高齢社会への対応ポイント ........................................................... 20
1.3.2.地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み事項 .................... 21
2.有識者等へのヒアリング調査と自治体へのアンケート調査 ............................... 23
2.1.有識者へのヒアリング調査 ...................................................................... 23
2.1.1.実施概要 ........................................................................................ 23
2.1.2.有識者ヒアリング調査におけるポイント ...................................... 24
2.2.先進地域事例視察およびヒアリング調査 ................................................. 27
2.2.1.実施概要 ........................................................................................ 27
2.2.2.先進地域事例視察およびヒアリング調査におけるポイント ......... 29
2.3.中国地域の自治体ヒアリング調査............................................................ 34
2.3.1.実施概要 ........................................................................................ 34
2.3.2.自治体ヒアリング調査から見える問題点 ...................................... 35
2.4.中国地域の自治体へのアンケート調査 .................................................... 36
2.4.1.実施概要 ........................................................................................ 36
2.4.2.アンケート調査結果 ...................................................................... 37
2.4.3.自治体アンケート調査結果から見える現状と課題 ........................ 48
3.地域包括ケアシステムを支える都市機能のあり方と課題の抽出 ........................ 50
3.1.都市機能のあり方 ..................................................................................... 50
3.1.1.住まい ............................................................................................ 50
3.1.2.交通 ............................................................................................... 51
3.1.3.情報通信 ........................................................................................ 51
3.1.4.セキュリティ ................................................................................. 52
3.2.都市機能をめぐる課題 ............................................................................. 53
3.2.1.住まい ............................................................................................ 53
3.2.2.交通 ............................................................................................... 55
3.2.3.情報通信 ........................................................................................ 57
3.2.4.セキュリティ ................................................................................. 59
4.都市機能をめぐる課題の解決方策の検討 ........................................................... 60
4.1.住まい ....................................................................................................... 60
4.2.交通 .......................................................................................................... 60
4.3.情報通信 ................................................................................................... 60
4.4.セキュリティ ............................................................................................ 61
5.地域包括ケアシステムを支える事業と事業主体の検討 ...................................... 62
5.1.事業の検討 ............................................................................................... 62
5.1.1.住まい ............................................................................................ 62
5.1.2.交通 ............................................................................................... 64
5.1.3.情報通信 ........................................................................................ 66
5.1.4.セキュリティ ................................................................................. 68
5.1.5.その他の生活支援事業 ................................................................... 69
5.2.事業の整理と事業主体 ............................................................................. 73
5.2.1.事業の整理 ..................................................................................... 73
5.2.2.各事業の実施主体 .......................................................................... 74
(補論)ケーススタディによる都市機能及び生活支援産業に関する検証 ................ 78
1.調査方法とモデル地域の選定 .......................................................................... 78
1.1.調査方法 ............................................................................................... 78
1.2.モデル地域の選定 ................................................................................. 79
2.調査結果 .......................................................................................................... 80
2.1.大田市 80
2.2.岡山市 88
3.地域間比較 ....................................................................................................... 95
3.1.中山間地域と都市地域の特徴比較 ........................................................ 95
3.2.事業を展開するうえでのポイント ...................................................... 101
103
あとがき
資料編 ...................................................................................................................... 105
1.有識者ヒアリング調査結果 ............................................................................... 106
1.1.学識経験者 ............................................................................................. 106
1.1.1.県立広島大学保健福祉学部
1.1.2.明治大学理工学部
教授
准教授
園田
狩谷
眞理子
明美
氏 .............. 106
氏 ............................. 109
1.2.医療関係者 ............................................................................................. 112
1.2.1.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院 ........................................... 112
1.2.2.一般社団法人広島市西区医師会
理事
落久保裕之
氏
113
1.3.公的機関 ................................................................................................. 115
1.3.1.川崎市健康福祉局地域包括ケア推進室........................................ 115
1.3.2.厚生労働省医政局地域医療計画課 ............................................... 117
1.3.3.広島県地域包括ケア推進センター ............................................... 119
1.4.調査機関 ................................................................................................. 123
1.4.1.三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 ....................... 123
2.先進地域事例視察およびヒアリング調査結果 .................................................. 124
2.1.住まい ..................................................................................................... 124
2.1.1.Share 金沢 ................................................................................... 124
2.1.2.株式会社誠心 ............................................................................... 128
2.1.3.NAGAYA TOWER ....................................................................... 133
2.2.交通 ........................................................................................................ 136
2.2.1.富山市都市整備部交通政策課 ...................................................... 136
2.2.2.大野城市南地区コミュニティ運営委員会 .................................... 141
2.2.3.健軍商店街振興組合 .................................................................... 145
2.3.情報通信 ................................................................................................. 148
2.3.1.株式会社インテック .................................................................... 148
2.3.2.新川地域在宅医療療養連携協議会 ............................................... 152
2.4.セキュリティ .......................................................................................... 156
2.4.1.ALSOK あんしんケアサポート株式会社 ..................................... 156
2.4.2.株式会社アライブメディケア ...................................................... 160
2.5.その他の生活支援事業 ........................................................................... 164
2.5.1.暮らしの保健室 ........................................................................... 164
2.5.2.パーソナルボディマネジメント株式会社 .................................... 168
2.5.3.高齢者総合ケアセンターこぶし園 ............................................... 172
2.5.4.株式会社日本介護福祉グループ .................................................. 176
3.自治体ヒアリング調査結果 ............................................................................... 179
3.1.島根県 ..................................................................................................... 179
3.2.大田市 ..................................................................................................... 182
3.3.米子市 ..................................................................................................... 185
3.4.尾道市 ..................................................................................................... 187
3.5.宇部市 ..................................................................................................... 190
3.6.岡山市 ..................................................................................................... 192
4.中国地域の自治体向けアンケート調査票 ......................................................... 196
調査の目的
わが国は、世界に例をみないスピードで高齢化が進行している。65 歳以上の
人口は、現在 3,000 万人を超えており(国民の約 4 人に 1 人)、2042 年の約 3,900
万人でピークを迎え、その後も、75 歳以上の人口割合は増加し続けることが予
想されている。このような中、団塊の世代(約 800 万人)が 75 歳以上となる 2025
年以降は、国民の医療・介護の需要が、更に増加することが見込まれている。
このため、厚生労働省においては、2025 年を目途に、高齢者の尊厳の保持と
自立生活の支援の目的のもと、可能なかぎり住み慣れた地域で自分らしい暮ら
しを人生の最期まで続けることができるよう、在宅医療・介護を基軸とした地
域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進
している。
一方、医療・福祉・介護の需要は高齢者の絶対数に連動するといわれており、
都市部、中山間地域にかかわらず医療・福祉・介護の人材確保が問題とされて
いる。医療分野では、2004 年に開始した新しい臨床研修制度により研修医が研
修先を自由に選べるようになった結果、これまでの医局人事が崩壊しつつあり、
勤務医の首都圏シフト等により域内における医療の確保が一層困難に なるもの
と懸念される。また、福祉・介護分野では、労働力人口が減少し、全産業的に
労働力の確保が困難となっていくことが見込まれる中で、限られた労働力の中
から、国民のニーズに的確に対応できる質の高い福祉・介護人材を安定的に確
保していくことが喫緊の課題であり、国民生活を支える福祉・介護制度を維持
するうえで、不可欠の要素となっている。
そこで、本調査では、「病院・介護施設中心」から「在宅中心」に大きく舵を
切られた政策に対応し、住民が住み慣れた地域において安心で健康的な生活を
全うするための住まいおよびこれに関わる都市機 能のあり方、そして、交通・
物流、通信等生活全般の基礎となるインフラ及びそれを支える産業の可能性に
ついて調査・分析する。
‐ 1 ‐
本報告書の構成と調査フロー
1. 高齢社会の動向と地域包括ケアシステムの概要
現状と背景
文献調査から高齢化 の 動向や地域包括ケア の 概要などに
ついて整理する。
2.有識者等へのヒアリング調査と自治体へのアンケート調査
中国地域内外の事例を調査し、地域包括ケアを支
える都市機能及び生活支援産業の課題や参考にな
実態調査
る事項を抽出する。
3.地域包括ケアシステムを支える都市機能のあり方と課題の抽出
実態調査を踏まえ、地域包括ケアを支えるための四つの
都市機能(「住まい」「交通」「情報通信」「セキュリティ」)
のあり方と解決すべき課題を抽出する。
分
析
4.都市機能をめぐる課題の解
5.地域包括ケアシステムを支え
決方策の検討
る事業と事業主体の検討
地域包括ケアの構築を支える
都市機能及び生活支援産業につい
ために、四つの都市機能をめぐ
て、課題を解決するための事業を
る課題の解決方策について
検討する。また、各事業において
検討する。
展開が期待できる実施主体につい
て整理する。
具体的な提案
方向性の提示
(補論)ケーススタディによる都市機能及び生活支援産業に関する検証
地域包括ケアの構築を通じた産業形成の可能性を
探るために、検討した事業を実際に中国地域の
特定の地域に当てはめて有効性を検証する。
‐ 2 ‐
検
証
1.高齢社会の動向と地域包括ケアの概要
本章では、全国および中国地域の高齢化の現状や将来予測 、地域包括ケアの
概要について、文献・資料から整理を行う。
1.1.高齢社会と社会保障給付に関する動向
1.1.1.全国の高齢化の現状と将来予測
わが国の高齢化率をみると、平成 22 年時点で 23.0%とおおよそ 4 人に一人が
高齢者となっている。将来推計をみると、総人口が減少するのに対し、高齢者
数は増加することから、平成 37 年には 30.3%、平成 52 年には 36.1%へ上昇す
る見通しとなっている。
なお、いわゆる「団塊の世代(昭和 22 年~24 年に生まれた世代)」が 75 歳以
上を迎える平成 37 年の「75 歳以上」人口は 2,179 万人と平成 22 年(1,407 万
人)に比べ 1.5 倍に増加し、その後も増加が続く見通しとなっている。一方、
「65
~74 歳」は、平成 27 年の 1,749 万人をピークに減少に転じる見通しとなってい
る。
これらのことから、今後の高齢者の構成は「75 歳以上」人口が中心となると
いえる。
図表 1.1
14,000
実績値
(万人)
11,706
12,000
10,000
わが国の高齢化の推移と将来推計
11,194
9,008
139
338
9,430
164
376
9,921
189
434
10,467
224
516
284
602
366
699
12,105
471
776
推計値
12,693 12,777 12,806 12,660
12,410
12,361 12,557
597
717
892
1,109
900
1,301
1,160
1,407
1,407
1,646
1,517
1,879
29.1
(%)
12,066
2,179
30.3
1,749
11,662 11,212
31.6
2,278
1,733
1,407
8,000
6,000
4,646
5,109
5,650
6,295
6,786
7,353
7,590
7,861
7,873
20.2
7,752
2,000
5.3
5.7
6.3
3,883
3,781
3,648
7.1
3,432
7.9
3,517
3,578
2,245
2,223
17.4
7,497
30
1,495
1,645
20
7,089
6,783
12.1
9.1
10,728
23.0
14.6
4,000
33.4
1,479
26.8
7,056
40
36.1
6,559
6,278
10.3
5,910
5,393
10
3,501
3,249
2,857
2,596
2,409
2,287
2,176
2,015
1,849
1,698
1,562
1,467
12
17
22
27
32
37
42
47
52年
0
0
S30
35
40
45
19歳以下(左軸)
50
55
60
20~64歳(左軸)
H2
7
65~74歳(左軸)
75歳以上(左軸)
高齢化率(右軸)
資料:平成 22 年以前は総務省「国勢調査」、同 27 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本
の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計)」の出生中位・死亡中位推計結果 。
注:昭和 30 年~平成 22 年の総数は年齢不詳を含む。
‐ 3 ‐
1.1.2.中国地域の高齢化の現状と将来予測
a.中国地域の高齢化の現状
中国地域の人口推移をみると、総人口は平成 7 年をピークに減少に転じてお
り、全国に比べ早い時期から減少しつつある。そのうち、65 歳以上人口は平成
32 年まで増加する見通しとなっている。
高齢化率についてみると、平成 22 年時点で 25.7%と全国(23.0%)よりも高
く、平成 37 年には 32.8%と 3 人に一人が高齢者となる見通しとなっている。
なお、「75 歳以上」人口をみると、平成 22 年時点で 100 万人と「65~74 歳」
(93 万人)を上回っている。さらに、平成 37 年には 138 万人と 22 年に比べ 36.8%
増加する見通しとなっている。
図表 1.2
中国地域の高齢化率の推移と将来推計
(万人)
実績値
(%)
推計値
36.6
800
736
699
15
32
694
17
34
687
19
38
700
21
44
26
48
758
32
55
775
774
777
40
49
57
59
67
81
600
400
200
423
436
6.8
7.3
229
207
458
8.3
172
475
9.3
160
492
10.1
170
499
11.5
172
510
765
33.4
31.8 32.8
717
70
86
692 664
100 29.6
110
89
121
90 25.7
138
93
142
108
23.0
107
20.6
89
80
750
34.4
739
17.7
516
15.0
514
12.8
165
773
142
500
483
457
426
403
386
370
634
138
80
349
35
40
45
50
55
60
H2
30.0
603
132
89
319
125
114
106
101
94
87
79
72
67
64
7
12
17
22
27
32
37
42
47
52年
0
S30
0~14歳(左軸)
15~64歳(左軸)
75歳以上(左軸)
高齢化率(右軸)
40.0
20.0
10.0
0.0
65~74歳(左軸)
資料:平成 22 年以前は総務省「国勢調査」、27 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将
来推計人口(平成 25 年 3 月推計)」の出生中位・死亡中位推計結果。
注:昭和 30 年~平成 22 年の高齢化率は、分母となる総数は年齢不詳を含んだ数値を使用して算
出している。
‐ 4 ‐
b.県別にみた高齢化の状況
中国地域の 5 県別に高齢化の変化(平成 22 年→37 年)をみると、いずれの県
も「75 歳以上」人口が増加する見通しとなっている。ただ、増加率をみると、
島根県(15.5%増)や鳥取県(23.2%増)に対し、岡山県や山口県は 30%を超
える伸びを示し、さらに広島県に至っては 53.8%増と大幅に増加する見通しと
なっている。
このように中国地域全体として高齢化が進展する見通しのなかで、
「75 歳以上」
に限ってみると、特に大都市を抱える地域でその影響を受けやすいと考えられ
る。
図表 1.3
■平成22年
県名
総人口
中国地域を県別にみた高齢化の現状と将来推計
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
単位:人、%
中国地域
588,667
717,397
1,945,276
2,860,750
1,451,338
7,563,428
うち65~74歳
68,519
88,662
234,845
341,052
193,912
926,990
うち75歳以上
85,095
118,736
249,873
335,608
210,782
1,000,094
26.3
29.1
25.1
23.9
28.0
25.7
高齢化率
■平成37年
県名
総人口
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
単位:人、%
中国地域
519,861
621,882
1,811,274
2,688,800
1,275,187
6,917,004
うち65~74歳
74,038
88,976
221,035
328,043
173,381
885,473
うち75歳以上
104,817
137,168
345,904
516,240
278,089
1,382,218
高齢化率
34.4
36.4
31.3
31.4
35.4
32.8
75歳以上増加率
23.2
15.5
38.4
53.8
31.9
38.2
資料:平成 22 年は総務省「国勢調査」、37 年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人
口(平成 25 年 3 月推計)」の出生中位・死亡中位推計結果。
注:平成 22 年の総人口は年齢不詳を含んでいる。
‐ 5 ‐
1.1.3.高齢社会の様相
ここでは、高齢者に関するいくつかのデータをみることでその状況について
把握する。
a.高齢者世帯に関する状況
高齢者世帯の見通しについてみることにする。平成 22 年時点で「世帯主が 65
歳以上の単独世帯数」は 4,980 千世帯、また「世帯主が 65 歳以上の夫婦のみ世
帯数」は 5,403 千世帯となっている。そして、将来推計をみると、
「世帯主が 65
歳以上の夫婦のみ世帯数」は 32 年をピークに減少に転じる見通しであるが、
「世
帯主が 65 歳以上の単独世帯数」は 47 年まで一貫して増加する見通しとなって
いる。
これらの世帯数が総世帯数に占める割合をみると、平成 22 年時点の 20.0%か
ら平成 37 年には 25.7%へ、そして平成 47 年には 28.0%へ増加する見通しとな
っている。
今後、独り暮らしや夫婦のみの高齢者世帯が増加すると見込まれ、在宅であ
っても安心して暮らすことができるような支援が必要である。
図表 1.4
世帯主が 65 歳以上の単独世帯及び夫婦のみ世帯数の推計
(千世帯)
実績値
20,000
(%)
推計値
30.0
25.7
24.9
15,000
26.6
28.0
25.0
23.1
20.0
10,000
6,679
7,007
7,298
7,622
20.0
6,008
4,980
5,000
15.0
5,403
6,209
6,512
6,453
6,328
6,254
H22
27
32
37
42
47年
0
10.0
世帯主が65歳以上の単独世帯数(左軸)
世帯主が65歳以上の夫婦のみ世帯数(左軸)
世帯主が65歳以上の単独世帯と夫婦のみ世帯が世帯総数に占める割合(右軸)
資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(平成 25 年 1 月推計)
‐ 6 ‐
b.要介護(要支援)認定率
次に、年齢と介護状況の関係性についてみることとする。年齢階層別の要介
護(支援)認定率(平成 26 年 12 月審査分)をみると、「75~79 歳」で 10.7%、
「80~84 歳」で 23.6%、
「85~89 歳」で 42.8%と、80 歳を超えたあたりから認
定率が急激に上昇している。
このため、この関係性を考慮すると、今後の高齢者数の増加に伴い、要介護
認定者も増加していくことが懸念される。
そこで、国としては介護保険制度において、要支援 1、2 あるいはそれ以外の
認定を受けていない高齢者に対して要介護状態に陥らないように予防給付サー
ビスを見直す等、介護予防に力を入れた施策を展開しようとしている。
図表 1.5
(万人)
1,000
年齢階級別人口と要介護(支援)認定率
(%)
100.0
925
78.1
793
800
80.0
63.0
629
600
60.0
488
42.8
400
40.0
308
23.6
200
2.2
20
4.7
37
65~69
70~74
10.7
67
115
132
20.0
133
84
42 33
0
0.0
人口(左軸)
75~79
80~84
85~89
要介護(支援)認定者数(左軸)
90~94
95歳以上
要介護認定率(右軸)
資料:厚生労働省「介護給付費実態調査報告月報」(平成 26 年 12 月審査分)、総務省統計局「人口
推計」(平成 26 年 12 月 1 日概算値)
‐ 7 ‐
c.認知症高齢者数の動向
高齢者は、加齢に伴い心身にさまざまな変化がみられる。そのなかで、認知
症に対する不安がいろいろなところで取り上げられている。
厚生労働省が発表した数値(推計)によると、平成 24 年時点の認知症高齢者
数は 65 歳以上人口の 15.0%にあたる 462 万人と言われている。
そして、平成 37 年には 730 万人へと増加する見通しとなっている。
図表 1.6
認知症高齢者の推計
(万人)
(%)
1,200
30.0
25.4
23.2
1,000
20.6
800
20.0
18.0
15.0
16.0
600
953
400
730
631
200
462
830
10.0
525
0
0.0
H24
27
認知症高齢者数(左軸)
32
37
42
52年
65歳以上人口に占める有病率(右軸)
資料:厚生労働省「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成 26 年度)
注:各年齢の認知症有病率が上昇する場合の推計値。
このように高齢者単身世帯の増加が予測されることを勘案するとともに、認
知症高齢者が増加することは日常生活に支障をきたす高齢者が増加することに
もつながると予想され、社会および地域全体で高齢者を支えていくことが求め
られる時代になりつつある。
‐ 8 ‐
1.1.4.社会保障給付に関する動向
a.国民医療費の動向
わが国における国民医療費(保険給付+患者負担)の推移(平成元年度以降)
をみると、平成 24 年度は 39 兆円となっている。このうち、後期高齢者(老人)
部分の医療費をみると、平成元年度の 6 兆円から増加していき、24 年度は 14 兆
円と 20 数年で約 2.5 倍に増加している。
また、医療費に占める後期高齢者(老人)医療費の割合は、平成 24 年度時点
で 34.9%を占めている。
図表 1.7
国民医療費の動向
36.838.437.237.537.936.936.135.1
34.235.5
34.033.032.833.434.034.534.9
33.1
30.631.6
29.5
29.4
28.8
28.2
39
36 37 39
33 33 34 35
32
32
31
31
31
30
27 28 29 30
老人医療の対象年齢の引き上げ
23 24 26
70歳以上 → 75歳以上
20 21 22
25 25 26
22 23 23 24
20 21 21
19 19 19 19(~H14.9)
(H19.10~)
18 19 19 19
18
17
14 15 15 17
13 13 14
6 6 6 7 7 8 9 10 10 11 12 11 12 12 12 12 12 11 11 11 12
(兆円)
60
40
20
0
5
H元
10
15
後期高齢者(老人)医療費(左軸)
後期高齢者(老人)医療費の割合(右軸)
(%)
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
24 年度
20
若人医療費(左軸)
また、平成 15 年度以降の国民医療費の増加率を要因分解してみると、「高齢
化による影響」と「その他(医療の高度化や患者負担の見直し 等)」によって増
加していることがうかがえる。
図表 1.8
国民医療費増加率の内訳
(%)
6
4
1.9
2
0
1.6
0.1
1.8
1.2
1.5
0.1
3.2
1.3
1.8
0.0
3.0
3.4
3.9
1.8
1.5
1.5
2.2
2.1
1.3
1.5
1.3
▲ 0.8
1.4
1.6
0.2
0.1
▲ 1.0
▲2
2.0
▲ 0.1
▲ 0.1
3.1
▲ 0.2
1.6
0.4
1.4
0.0
▲ 0.2
23
24年度
2.1
1.2
▲ 3.2
▲4
H15
16
17
診療報酬改定
18
19
人口増加の影響
20
21
高齢化
22
その他
資料:ともに厚生労働省保険局調査課「医療保険に関する基礎資料」(平成 26 年 12 月)
注:四捨五入の関係から、各項目の合計が一致しない。
このように増加する医療費に対して、保険料及び財政負担が大きくなりつつ
あることから医療保険制度の持続可能性が懸念されている。そこで、国 として
は予防の強化や後発医薬品の利用拡大等の政策を展開することで、医療費の抑
制に努めようとしている。
‐ 9 ‐
b.社会保障給付に係る将来推計
社会保障制度国民改革会議が提出した「社会保障に係る費用の将来推計」に
よると、平成 24 年度の社会保障給付費は、
「年金」が 53.8 兆円、
「医療」が 35.1
兆円、「介護」が 8.4 兆円、「子ども・子育て」が 4.8 兆円、「その他」が 7.4 兆
円で合計では 109.5 兆円となっている。
そして、平成 37 年度には、「年金」が 60.4 兆円、「医療」が 54.0 兆円、「介
護」が 19.8 兆円、「子ども・子育て」が 5.6 兆円、「その他」が 9.0 兆円で合計
では 148.9 兆円となっている。特に「医療(53.8%増加)」と「介護(135.7%
増加)」が高齢化によって膨張する見通しとなっている。
図表 1.9
社会保障給付に係る将来推計
(兆円)
148.9
9.0
5.6
150
19.8
109.5
7.4
4.8
8.4
100
54.0
35.1
50
53.8
60.4
H24
37年度
0
年金
医療
介護
子ども・子育て
その他
資料:社会保障制度国民改革会議「社会保障に係る費用の将来推計」 (平成 25 年 3 月)
注:四捨五入の関係から、各項目の合計が一致しない。
高齢化に伴い、財政への負担も大きくなりつつあり、今後、諸給付制度を持
続可能なものとするためには、さまざまな工夫が求められる。
‐ 10 ‐
1.2.地域包括ケアシステムの概要
1.2.1.医療および介護に係る法制度等の変遷
「地域包括ケアシステム」について述べる前に、医療と介護に関連する法制
度の変遷について簡単に触れておく。
医療については、戦後間もない昭和 23 年に、医療法が施行された。その後、
昭和 60 年から適宜見直されており、直近では平成 26 年に第 6 次医療法の改正
が行われ、
「地域包括ケアシステム」の構築に必要な在宅医療を推進する内容と
なっている。
一方、介護に関しては、老人福祉法や老人保健法がそれぞれ昭和 38 年、同 58
年に施行された。その後、高齢化に対応するために介護保険法が平成 12 年に施
行され、改正を経て今日に至っている。
図表 1.10
年代
医療及び介護に関連する主な法整備等の変遷
医療に関する動き
介護に関する動き
23年 医療法が施行。
国民皆健康保険制度、国民皆年金制度の導入
36年
昭和
38年
48年
老人福祉法が施行。
老人医療費が無料化される。
公立みつぎ総合病院(広島県尾道市)の山口昇医師が、
「地域包括ケア」という言葉を使い始める。
老人保健法が施行。
50年代
58年
60年
第1次医療法の改正。
・医療計画制度の導入など
元年
ゴールドプランを策定。
第2次医療法の改正。
4年
・看護と介護の明確化、医療の類型化など
第3次医療法の改正。
9年
・インフォームドコンセントの法制化など
第4次医療法の改正。
12年
・一般病床と療養病床の区別など
13年
15年
17年
平成
18年
第5次医療法の改正。
・医療機能の分化、地域医療の連携体制の構築など
高齢者住まい法が施行。
厚生労働省が高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者
介護」を公表。そのなかで、初めて「地域包括ケア」と
いう言葉が使用される。
介護保険法の改正。
・介護予防の重視など
老人福祉法の改正。
介護保険法の改正。
・介護サービス事業者の業務管理体制の整備など
高齢者住まい法の改正。
・既存の3種類の賃貸住宅を「サービス付き高齢者住
宅」に一本化など
老人保健法の改正。
・後期高齢者保健制度が発足
厚生労働省が「地域包括ケア研究会報告書」を公表。
介護保険法の改正。
・地域包括ケアの推進など
介護保険法の改正。
・一部高齢者の自己負担の引き上げなど
20年
22年
23年
26年
介護保険法が施行。
第6次医療法の改正。
・在宅医療の推進など
資料:厚生労働省等のホームページを参考に作成。
‐ 11 ‐
1.2.2.「地域包括ケア」という概念
本調査のテーマに掲げられている「地域包括ケアシステムの構築」という概
念は、昭和 50 年代に広島県御調町(現在は尾道市御調町)の公立みつぎ総合病
院の山口昇医師が展開した医療と福祉を一体的に推進するシステム構築の実践
であり、同医師によって命名された。
当時の同病院では、脳卒中や心筋梗塞等で入院した高齢患者が、退院して 1
~2 年後に「寝たきり」状態になって再入院してくるケースが顕著になっていた。
しかも、その患者の多くに褥瘡ができていたり、また、安易におむつをあてた
りすることによって生ずる失禁状態や、認知症の症状が進行 したり等の状態に
なっていることが多かった。その原因としては、家族の介護力の不足 、不適切
な介護、医療・リハビリテーションの中断、閉じこもり生活、不適当な住環境
等、さまざまなことが考えられた。
そこで、山口医師はこのような「つくられた寝たきり」に対応するために「寝
たきりゼロ作戦」を掲げ、昭和 49 年から患者宅へ出向いた医療(現在でいう「在
宅ケア」)、訪問看護、保健師の訪問、リハビリテーション等の活動を導入し、
「待
ち」の姿勢だった医療を「出前型」に切り替えた。
その一方で、ヘルパー等の派遣といった福祉分野に関しては 行政のサービス
範囲であったため、十分な対応ができていなかった。そこで山口医師は医療と
福祉を一体化させようと考え、昭和 58 年に同病院内に健康管理センター(現:
保健福祉センター)を併設し、町住民課の福祉担当部門と社会福祉協議会のホ
ームヘルパー、厚生課の保健担当部門の保健師等を移管し、所長は病院長が兼
務した(昭和 59 年開設)。これによって高齢者支援の窓口が一本化されたため、
個別のニーズに対して素早くかつ効果的な対応が可能になる 等、一体的な推進
体制を構築することとなった。
病院と行政の連携・統合に続き、介護施設や福祉施設等を順次病院に併設し
ていき、同病院を核に「医療」、「福祉」、「保健」、「介護」が連携して高齢者の
日常生活を支援する「地域包括ケアシステム構築」の体制ができあがっていっ
た。
‐ 12 ‐
1.2.3.介護保険制度の導入と法改正の流れ
a.介護保険制度の導入
山口医師が「地域包括ケアシステムの構築」に取り組んでから約 20 年後の平
成 12 年(2000 年)に介護保険制度が施行された。この背景として、高齢者数の
増加に伴う介護ニーズの多様化や、核家族化による高齢者を支えてきた家族環
境の変化等から、それまでの老人福祉・老人医療といった制度による対応に限
界がみられ始めていたことが挙げられる。そこで、高齢者の介護を社会全体で
支え合う仕組みとして介護保険制度が創設された。
b.法改正の流れ
(a)平成 17 年の改正
介護保険制度は導入後定期的に見直しが行われている。施行から 5 年経過し
た平成 17 年の法改正(施行は一部平成 17 年 10 月施行、残りは平成 18 年 4 月)
では、
「予防重視型システムへの転換」、「施設給付の見直し」、「新たなサービス
体系の確立」、「サービスの質の確保・向上」、「負担の在り方・制度運営の 見直
し」の 5 つの視点に基づき、保険料やケアマネジメントの見直しや各種サービ
スの充実が図られた。
(b)平成 20 年の改正
平成 20 年の改正では、介護サービス事業者に対して法令順守責任者の選任や
法令順守規程を整備すること等の義務付けと介護サービス利用者に対する保護
等が図られた。
(c)平成 23 年の改正
平成 23 年にも改正が行われた(24 年 4 月施行)。このとき、国の分析による
と、平成 37 年には高齢者数が 25%増、認知症高齢者数が 55%増と大幅に増加
することから、介護保険給付費が総額で 19~25 兆円に達すると推計されていた。
そのため、介護保険を持続可能な制度とするためにも、 同年の改正は入院中
心の医療から在宅で日常生活を営みながら医療・予防・介護・生活支援のそれ
ぞれのサポートを受けられるような体制を目指すこととし、その推進を図るよ
うな内容となった(介護保険法第 5 条第 3 項)。
取り組みとしては「医療と介護の連携の強化等」、「介護人材の確保とサービ
スの質の向上」、「高齢者の住まいの整備等」、「認知症対策の推進」、「保険者に
よる主体的な取り組みの推進」、「保険料の上昇の緩和」の 6 つの柱を基に、平
成 37 年に向けてさまざまな整備が行われることになった。
‐ 13 ‐
(d)平成 26 年の改正
直近では平成 26 年に改正(27 年 4 月から順次施行)が行われている。この改
正は地域包括ケアシステムの構築に向けて市町村の権限を強化するとともに、
介護保険制度の創設以来はじめて自己負担割合を引き上げる 等、給付費抑制に
重点を図る内容となっている。改正の主な内容は以下のとおりである。
①地域包括ケアシステムの構築
高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるようにするため、介護、医療、
生活支援、介護予防の充実を図る。
・全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村が取り組む地域支
援事業に移行し、多様化を図る。
・特別養護老人ホームの新規入居者を、原則、要介護 3 以上に重点化する。
(既入居者は除く)
②費用負担の公平化
低所得者の保険料軽減を拡充するとともに、保険料上昇をできる限り抑え
るため、所得や資産のある人の利用者負担を見直す。
・一定以上の所得のある利用者の自己負担を引き上げる。
・低所得者の施設利用者の食費・居住費を補填する「補足給付」の要件に資
産等を追加する。
‐ 14 ‐
1.2.4.地域包括ケアシステムの概要
a.地域包括ケアシステムとは
国は、高齢者、特に 75 歳以上人口の急激な増加や、それに伴う社会保障に関
連する費用の増大等に対応するため、平成 37 年をめどに地域包括ケアシステム
の構築を目指すことを掲げている。
なお、厚生労働省の資料は「平成 37 年(2025 年)を目途に、高齢者の尊厳の
保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分ら
しい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・
サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進」していくと 記載し
ている。
図表 1.11
厚生労働省が示す地域包括ケアシステムの姿
資料:厚生労働省 HP より
‐ 15 ‐
b.地域包括ケアシステムの構成要素
地域包括ケアシステムについては、平成 24 年度に厚生労働省が「地域包括ケ
ア研究会」を立ち上げて議論を重ね「地域包括ケアシステム構築における今後
の検討のための論点」をまとめている。ここでは、その報告書を 基に、地域包
括ケアシステムのポイントを整理する。
(a)地域包括ケアシステムの 5 つの要素と関連性
「地域包括ケア研究会」によると、従来、地域包括ケアシステムを構成する
要素を詳しく表現すると「介護・リハビリテーション」、
「医療・看護」、
「保健・
予防」、「福祉・生活支援」、「すまいとすまい方」となり、各構成要素はその役
割に基づいて相互に関係あるいは連携しながら提供されて高齢者の在宅生活を
支えている。
同研究会では、これらをわかりやすく表現する方法として植木鉢と植物を用
いて説明している。地域での生活基盤となる「すまいとすまい方」を「植木鉢」
に例え、また、生活を営むための「生活支援・福祉サービス」を「土」とした。
そして、「介護」、「医療」、「予防」を「植物」に例え、植木鉢と土がしっかりし
ていないと専門的なサービスを提供しても十分な力を発揮することが難しいと
説明している。
本調査では、こうした厚生労働省の考え方を踏まえ、地域包括ケアシステム
を支える「都市機能」とそれを支える「生活支援産業」に焦点を当てて調査を
進める。
なお、ここでの「都市機能」とは「交通」、「情報通信」、「セキュリティ」 並
びに「住まい」などの生活を支える基盤を指すこととする。
図表 1.12
厚生労働省が示す地域包括ケアシステム構成要素の概念図
資料:厚生労働省「地域包括ケア研究会」資料 より
‐ 16 ‐
(b)本調査の対象領域について
このように地域包括ケアシステムは、できる限り「在宅」での暮らしを基本
としているため、「医療・看護」、「介護・リハビリテーション」、「保健・予防」
といった専門性の高いサービスを安心して受けるためには、
「すまいとすまい方」
や「生活支援・福祉サービス」といった部分の整備が必要であると考えられる。
その多くは民間事業者が提供している事業であり、現在、
「すまい」に ついては、
住宅メーカー等によるリフォーム等の修繕やサービス付き高齢者向け住宅等の
事業が展開されている。他方、「生活支援・福祉サービス」としては、配食や家
事援助、移動販売、安否確認等の事業が展開されている。
今後、高齢者が住み慣れた地域で安心して過ごせるような 地域包括ケアシス
テムを構築していくためには、既存のサービスにおいて 、利便性の向上を図る
こと、あるいは規制緩和や制度変更等に伴い新たな市場または産業としての可
能性が期待できる事業を創出していくことが求められる。
そこで本調査では、都市機能(「交通」、「情報通信」、「セキュリティ」、「 住ま
い」等)のあり方を整理したうえで、都市機能を活用して、どのような事業あ
るいは産業創出の可能性があるのかについて調べること にする。
図表 1.13
サービス分類
本調査の対象領域(イメージ図)
移動
通信
警備・保護
外出支援
生活
安否確認
配食
現在、
提供されている
主な
生活支援・
福祉サービス
食材調達
移動販売
家事援助
本
調
査
の
対
象
領
域
現時点で
想定される
都市機能を
活用した
サービス
都市
機能
・救急タクシー
・乗り合いタクシー
・コミュニティバス
・LRT
など
交通
交通機関
鉄道
道路
・遠隔健康相談
・SNSを利用し
・見守りサービス
・緊急呼び出し
た在宅介護支援
・リノベーション
・リフォーム
・住み替え
など
など
情報通信
インターネット
など
セキュリティ
※LRT:Light Rail Transit(次世代型路面電車システム)
‐ 17 ‐
住まい
(c)「地域包括ケアシステム」を支える 4 つの区分
「地域包括ケアシステム」を支える区分として、費用負担 者の観点からみる
と「公助」、「共助」、「自助」、「互助」の 4 つが挙げられる。
まず「公助」とは、公的な負担つまり税による負担である。「共助」とは、介
護保険や医療保険といったリスクを共有するグループ(被保険者)の負担を指
す。「自助」とは「自ら負担する」という自分のことは自分で行うということに
加え、一般的なサービスを自費で利用することも含まれる。
そして、最後に「互助」は、「共助」に近いものがあるが、例えば、地域住民
やボランティア等による費用負担が明確に裏付けられていない自発的な支援を
指すといえる。
図表 1.14
自助・共助・公助・互助の概要
資料:厚生労働省ホームページより
‐ 18 ‐
この 4 つの区分は時代や社会情勢等によって範囲や役割が変化してきた。都
市部等では人間関係が希薄化してきたため、「互助」の存在が弱いが、人口が集
中することで、さまざまな商品やサービス市場が育ったため「自助」によって
多くをまかなうことができる。一方、中山間地域では、隣近所との関係が強い
ことから「互助」によって支え合ってきた面が強いといえる。
今後は「公助」や「共助」の拡充に期待することが容易ではないため、ある
程度の「自助」による負担や、地域住民やさまざまな主体による積極的な 取り
組み等によって「互助」を強化していくことで「地域包括ケアシステム」の構
築を目指していくことが求められる。
「自助」に関しては、上述したように消費者(高齢者やその家族)が 費用を
負担する部分であることから、民間事業者としてはビジネスチャンスの拡大が
期待できるといえる。
図表 1.15
公助
○介護保険・医療保
険の公費部分
○自治体が提供する
サービス
「自助」と「互助」によるビジネスチャンスの拡大
共助
○介護保険・医療保
険制度による給付
自助
互助
○介護保険・医療保
険の自己負担分
○自身や家族による
対応
○ボランティアなど
の支援
○民間事業者による
サービス提供
○コミュニティビジ
ネス
ビジネスチャンスの拡大
‐ 19 ‐
1.3.小括
本章では、文献調査から高齢化の現状や高齢者にかかわる各種データと地域
包括ケアシステムの背景や概念等について整理した。ここでは、それらについ
ての小括を行う。
1.3.1.高齢社会への対応ポイント
統計資料から今後の超高齢社会に対応するポイントとしては以下の 3 点が挙
げられる。
a.今後の高齢者の人口は 75 歳以上人口が中心となる。
b.高齢者を支える体制づくりが必要になる。
c.社会保障給付費を持続可能性のあるものにする必要がある。
a.今後の高齢者の人口は 75 歳以上人口が中心
これまでの高齢者の推移をみると、65 歳以上人口が増加するなかで、「65 歳
~74 歳」人口が「75 歳以上」人口に比べ多い状況にあった。今後も高齢者が増
加するなかで、その差は縮まり、中国地域の場合、平成 22 年時点で「75 歳以上」
人口の方が多くなっている。今後もこの傾向が続くことから、高齢者を一括り
にするのではなく、その構造に着目して施策を講じていく必要がある。
b.高齢者を支える体制づくりが必要
高齢者の年齢構造が変わるなかで、独り暮らし世帯が平成 22 年の 4,980 千世
帯から平成 47 年には 7,622 千世帯と 5 割以上増加する見通しとなっている。ま
た、認知症患者が平成 22 年の 280 万人から平成 37 年には 730 万人へと約 2.6
倍に増加する見通しとなっている。このような環境では、多くの高齢者が日常
生活を送るうえでさまざまな支障をきたすと考えられるため、各種支援が必要
である。
c.持続可能な社会保障給付制度にすることが必要
高齢者を支えていくためには、年金や医療費、介護保険 等の社会保障が必要
となるが、社会保障のための歳出は増加傾向にあり財政負担が大きくなりつつ
ある。社会保障給付制度を持続可能なものにするような各種の取り組みが必要
となる。
‐ 20 ‐
1.3.2.地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み事項
厚生労働省は、団塊の世代が 75 歳以上となる平成 37 年をめどに「地域包括
ケアシステム」の構築を目指している。そして、この構成要素として「医療」、
「介護」、「保健」、「介護予防・住まい・住まい方」、「生活支援・見守り」の 5
つを挙げている。さらに同省では、平成 26 年 7 月に「全国介護保険担当課長会
議」を開催して、この 5 つの構成要素を基に具体的な取り組み明示した。ここ
では、同会議の資料に基づきその内容について述べる。
a.介護給付等対象サービスの充実・強化
b.在宅医療の充実及び介護の連携による継続的な支援体制の整備
c.介護予防の推進
d.日常生活を支援する体制の整備
e.高齢者の住まいの安定的な確保
a.介護給付等対象サービスの充実・強化
高齢者が安心して生活できるようにするためには、事業者の適切なサービス
提供を確保するとともに、介護サービスの質の向上を図り、必要となったとき
に適切で良質な介護サービスを利用できる環境を整備することが必要で ある。
b.在宅医療の充実及び介護の連携による継続的な支援体制の整備
高齢者が住み慣れた地域での生活を継続するためには、退院支援、日常の療
養支援、急変時の対応、看取り等様々な局面で医療と介護の連携が不可欠であ
り、そのための体制整備が必要である。
c.介護予防の推進
心身機能が低下した高齢者に対する歩行等のリハビリテーションだけでなく、
引きこもらないための外出機会の創出につながる活動意欲を高める介護予防も
必要である。また、地域内で生きがいや役割を持って生活できるような居場所
や出番づくりといった社会参加に結びつくような仕組みづくりも必要である。
‐ 21 ‐
d.日常生活を支援する体制の整備
高齢者が地域で安心して在宅生活を継続していくために必要となる多様な生
活支援等のサービスを整備するため、市町村が中心となって事業主体への支
援・協働体制の充実・強化を進めることが必要である。
e.高齢者の住まいの安定的な確保
住まいは医療・介護・保健等のサービスが提供される前提である。ただし、
高齢者向けの住まいと言っても、自宅での療養や自宅と施設の両方を利用、高
齢者専用住宅あるいは各種施設等多様であり、地域のニーズに応じて適切に高
齢者の住まいを供給していく必要がある。
産業界としては、この 5 項目の取り組みの促進に寄与する事業を展開するこ
とで地域包括ケアシステムの構築のために一定の役割を果たすことができると
いえる。
<参考文献>
大橋謙策・白澤政和編『地域包括ケアの実践と展望―先進的地域の取り組みから
学ぶ―』中央法規出版,平成 26 年.
一般財団法人高齢者住宅財団監『実践事例から読み解くサービス付き高齢者向け
住宅―地域包括ケア時代の住まいとサービスを目指して―』中央法規出版 ,平成
25 年.
厚生労働省「地域包括ケアシステム」サイト
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_ko
ureisha/chiiki-houkatsu/
高橋紘士編『地域包括ケアシステム』オーム社,平成 24 年.
地域包括ケア研究会『地域包括ケア研究会報告書』三菱 UFJ リサーチ&コンサル
ティング,平成 21 年.
地域包括ケア研究会『地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための
論点』三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング,平成 25 年.
東京大学高齢社会総合研究機構編『地域包括ケアのすすめ―在宅医療推進のため
の多職種連携の試み―』東京大学出版会,平成 26 年.
‐ 22 ‐
2.有識者等へのヒアリング調査と自治体へのアンケート調査
本章では、中国地域内および国内他地域の事例を分析し、地域包括ケアシス
テムを支える住まいやこれに関わる都市機能および生活支援産業の課題や参考
になる事項を抽出する。
2.1.有識者へのヒアリング調査
2.1.1.実施概要
全国的にみると、
「地域包括ケアシステム」の構築に向けた取組は始まったば
かりの動きである。そこで、この分野に知見のある有識者(学識経験者、 医療
関係者、公的機関など)に対してヒアリング調査を実施し、「地域包括ケアシス
テム」が求められる背景や現状で顕在化している課題などについて 尋ねた。
図表 2.1
項
有識者ヒアリングの実施要領
目
内
容
・地域における医療・介護・保健の現状把握
目的
・地域包括ケアシステムの構築に向けた課題の把握
・地域包括ケアシステムを支える都市機能の整備状況
・産業界に対する期待
方法
訪問先
など
・訪問によるヒアリング
・学識経験者、医療関係者、公的機関、調査機関など
本調査では、以下の有識者に訪問した。各訪問先の詳細なヒアリング内容は
資料編を参照されたい。
図表 2.2
分類
学識経験者
医療関係者
公的機関
調査機関
有識者ヒアリング訪問先一覧
訪問先
資料編掲載頁
県立広島大学保健福祉学部 准教授 狩谷 明美 氏
106~108 頁
明治大学理工学部 教授 園田 眞理子 氏
109~111 頁
医療法人光臨会荒木脳神経外科病院
112 頁
一般社団法人広島市西区医師会 理事 落久保裕之氏
113~114 頁
川崎市健康福祉局地域包括ケア推進室
115~116 頁
厚生労働省地域医療計画課
117~118 頁
広島県地域包括ケア推進センター
119~122 頁
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社
123 頁
‐ 23 ‐
2.1.2.有識者ヒアリング調査におけるポイント
有識者ヒアリング調査から、地域包括ケアシステムを構築する際の課題を整
理すると以下のとおりになる。
a.地域における医療・介護・保健の現状
①負担と給付のバランス
介護保険制度の導入から約 15 年が経過するなか、高齢者数の増加に伴い介護
保険給付の費用は増加の一途をたどっている。一方で、生産年齢人口の減少や
財政状況はひっ迫しており、制度を維持していくためには負担と給付のバラン
スを見直す必要がある。
b.地域包括ケアシステムの構築のための課題
①住み替え等による「住まい」の確保
地域包括ケアシステムを構築するためには「住まい」の確保が前提となる。
住み替えについては、高所得者は比較的可能だが低所得者は容易に行えない点
が課題となっている。また、退院後の住居の確保(一時的な住まいを含む)も
課題であり、不動産業者等と連携して取り組む必要がある。
②住み替え資金の確保
郊外から中心部への住み替えを希望している高齢者が存在しているものの、
地価等の下落により希望価格で売却できず、住み替えを断念するケースが散見
されるようである。住み替え資金を確保できるよう、リバースモーゲージのよ
うな取り組みや仕組みづくりが必要である。
③ボランティアの活用による担い手不足の解消
生産年齢人口の減少による担い手不足が懸念される中、国は地域住民や 市民
グループ等の「多様な主体」によるボランティア活動やサービス提供を期待し
ている。特に、様々な知識や経験を保有している高齢者への期待が高い。また、
ボランティア活動を継続的に行うためには、有償によるサービス提供を前提と
した仕組みを構築することが必要である。
‐ 24 ‐
④資源不足を補う工夫
都市部では、生活支援産業や医療・介護サービスが一定程度揃っているが、
中山間地域では、若年人口の流出や医師の高齢化による開業医の閉院といった
各種資源の減少が深刻な問題となっている。このような環境では、地域住民や
民間事業者、行政等の各主体が協力・連携して支えあっていく必要があると考
えられる。
c.地域包括ケアシステムを支える都市機能の整備状況
①交通システムの最適化
高齢者の移動を支えるためには、公共交通機関が重要な役割を果たすと考え
られるが、多くの地域ではバス路線の縮小等に伴い十分に機能しているとは言
い難い状況にある。今後、高齢者が買い物や通院等で気軽に外出できるように
するためには、ニーズに即した交通サービスの提供が必要である。
②ICT を利用した情報の伝達・共有
現在、救急搬送時の情報伝達はメモ用紙を利用したアナログな手法を用いる
場合が多いようである。適切な処置を施すためには、正確な情報を迅速に伝え
ることが求められ、その方法の一つに ICT を利用したシステムの構築が考えら
れる。
③ICT の活用による医療・介護の連携及び機能強化
地域包括ケアシステムは、在宅での医療や介護の提供が中心となることから、
両者の連携とそれによる機能の強化が不可欠になってくると考えられる。そこ
で、広島市西区医師会では ICT を活用して三つの事業を展開しているが、医師
や介護事業者が ICT を敬遠していること等から思うように普及していないよう
である。しかし、高齢者の増加が見込まれる中で、医療・介護の質の維持には
効率性を高めることが不可欠であるため、ICT の利用促進を図ることが必要であ
る。
d.産業界に対する期待
①新しい市場の創出によるビジネスチャンス
現在の介護保険制度を維持していくためには、今後、保険の対象から外れる
サービスが出てくると想定され、その部分が新しい市場としてビジネスチャン
スにつながると考えられる。また、高齢者が安心して在宅で生活していくため
には、民間事業者が生活支援に関わる多様なサービスを提供していくことが必
要となってくる。
‐ 25 ‐
②安心して生活できるような都市機能・生活支援サービスの整備
在宅医療が進まない背景の一つに、自宅で過ごす多くの時間は保険の対象外
となるため、多くの高齢者にとって安心して生活することができない点が挙げ
られる。そこで、都市機能の向上や生活支援サービスの提供によって安心して
生活できる環境を整備することが重要である。
e.その他
①役割分担によるサービスの提供
国は医療制度改革に伴う病床数の削減、介護保険制度の改正による介護予防
事業の強化等、高齢化に対応した各種施策を展開している。これらに伴い、今
後、国以外の主体の果たすべき役割が大きくなると考えられるため、多様な主
体が一定の役割を分担しながら高齢者を支える社会システムを構築していく必
要がある。
②部局間を超えた取り組み
地域包括ケアシステムは、医療や福祉だけではなく、住まいや生活支援とい
った多岐にわたる分野にかかわってくる取り組みである。このため、自治体内
において、福祉部門だけでなく産業振興や住宅建設等の部局と連携を図りなが
ら事業を進めることが必要になってくる。
③ビジネスの視点を取り入れた福祉の提供
地域全体で高齢者を支えていくためには、行政や民間事業者に加えて、ボラ
ンティアによるサービスの提供が不可欠である。ただし、継続的な活動にする
ためには、有償による仕組みを取り入れた方が望ましいと考えられる。また、
活動内容によっては新たなビジネスへと発展することが期待できるため、商業
化の可能性を探りながら活動することも必要である。その結果として高齢者や
障がい者への雇用等地域経済の活性化に結びつくことが期待できる。
④多世代交流による地域づくり
地方創生の一つに「日本版 CCRC」の検討が挙がっているが、高齢者だけが集
まって生活するのではなく、若年層や子育て世代等多様な世代が交流を行いな
がら生活することが望ましいと考えられる。
‐ 26 ‐
2.2.先進地域事例視察およびヒアリング調査
全国各地で地域包括ケアシステムの構築に向けてさまざまな取り組みが行わ
れている。そのなかから、特徴ある取り組みや事業に着手してから一定年数が
経過しており、その効果が少しずつ表れ始めているところを選定し、実際に訪
問して取り組み経緯や内容、効果、課題等のヒアリング調査を実施した。
2.2.1.実施概要
a.調査目的
先進的な取り組みを行っている企業などに訪問することで、本調査の対象で
ある、地域包括ケアシステムを支えるために都市機能(「すまい」、「交通」、「情
報通信」、
「セキュリティ」)はどのような役割を果たす必要があるのかを把握す
ることである。
b.訪問先
「住まい」と「交通」に関しては各 3 ヵ所、「情報通信」と「セキュリティ」
は各 2 ヵ所、「その他の生活支援事業」は 4 ヵ所にそれぞれ訪問した。訪問先は
以下のとおりである。
なお、各訪問先の詳細なヒアリング内容は資料編を参照されたい。
図表 2.3
訪問先
■住まい
訪問先(所在地)
資料編掲載頁
Share 金沢(石川県金沢市)
124~127 頁
株式会社誠心(福岡県太宰府市)
128~132 頁
NAGAYA TOWER(鹿児島県鹿児島市)
133~135 頁
■交通
訪問先(所在地)
資料編掲載頁
富山市都市整備部交通政策課(富山県富山市)
136~140 頁
大野城市南地区コミュニティ運営委員会(福岡県大野城市)
141~144 頁
健軍商店街振興組合(熊本県熊本市)
145~147 頁
■情報通信
訪問先(所在地)
資料編掲載頁
株式会社インテック(富山県富山市)
148~151 頁
新川地域在宅医療療養連携協議会(富山県黒部市)
152~155 頁
‐ 27 ‐
■セキュリティ
訪問先(所在地)
資料編掲載頁
ALSOK あんしんケアサポート株式会社(東京都大田区)
156~159 頁
株式会社アライブメディケア(東京都渋谷区)
160~163 頁
■その他の生活支援事業
訪問先(所在地)
資料編掲載頁
暮らしの保健室(東京都新宿区)
164~167 頁
パーソナルボディマネジメント株式会社(福岡県福岡市)
168~171 頁
高齢者総合ケアセンターこぶし園(新潟県長岡市)
172~175 頁
株式会社日本介護福祉グループ(東京都墨田区)
176~178 頁
‐ 28 ‐
2.2.2.先進地域事例視察およびヒアリング調査におけるポイント
各ヒアリング先で得られたポイントを、「住まい」、「交通」、「情報通信」、「セ
キュリティ」、「その他の生活支援事業」の 5 つに分けて整理すると以下のとお
りとなる。
a.住まい
「住まい」については以下の 3 点が挙げられる。
①家族と近い位置で生活する
②施設であっても自宅のような住環境を整える
③住み替えの推進
① 家族と近い位置で生活する
高齢者の独り暮らしや高齢者のみの世帯が増える中、㈱アライブメディケア
で聞かれたように、家族には高齢者と離れて暮らす場合でも容易に足を運ぶこ
とができる地域で生活してもらいたいという願望を持っている。そこで、有料
老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等への住み替えによって家族と過ご
す時間が増え安心して生活することが期待できる。
②施設であっても自宅のような住環境を整える
多くの高齢者が自宅で過ごしたいという願望を持つ中、やむを得ず施設に入
居するケースがある。そのような高齢者が気兼ねなく生活するためには、㈱誠
心のようにドアではなく引き戸を用いることや無機質な内装ではなく木材を多
用する等、
「施設」という印象を軽減し一般的な戸建てと変わらないような住環
境を提供する配慮が必要である。
② 住み替えの推進
暮らしの保健室が立地している戸山ハイツは大規模住宅団地であり、高層階
で多くの高齢者が生活している。その多くの方は、費用負担等の問題から低層
階への引っ越しに対して消極的な姿勢のようである。身体機能が低下する前に
利便性の高いエリア等へ引っ越すことで、より充実した生活を過ごすことがで
きるため、安心して住み替えられるような制度やサービスの提供が必要になる
と考えられる。
‐ 29 ‐
b.交通
「交通」については以下の 3 点が挙げられる。
①公共交通の活性化による外出機会の創出
②資金の確保による継続的な事業運営
③ニーズに合わせた柔軟な運行スケジュール
① 公共交通の活性化による外出機会の創出
富山市では、ライトレールの整備や既存路線の一部延伸、IC カードの発行、
運賃料金の優遇等に取り組んだ結果、高齢者の外出頻度が増加した。外出する
ことは、生きがいをもって日常生活を営んでいくために不可欠のものであり、
高齢者の介護予防にも繋がっている。
②資金の確保による継続的な事業運営
路線バスの空白地帯には、コミュニティバスや自主運行バスを運行させるこ
とで対応しているが、運賃収入だけで経費を賄うことは困難である。自治体 か
らの補助金にも限度があるため、一部の自主運行バスは地域住民や地元企業か
ら協賛金を得ながら事業を展開しており、継続的な事業運営には活動資金の確
保が重要である。
③ 二ーズに合わせた柔軟な運行スケジュール
各地で民間路線バスの撤退・縮小が相次ぐ中、自治体はコミュニティバスを
運行することで、地域住民の移動支援を行っている。しかし、利用者が目的地
へ移動あるいは別の交通機関にスムーズに乗り換えられるような運行ルートや
タイムスケジュールでなければ利活用されないため、大野城市南地区コミュニ
ティ運営委員会にように利用者のニーズに合わせた移動サービスを提供するこ
とが求められる。
‐ 30 ‐
c.情報通信
「情報通信」については以下の 3 点が挙げられる。
①データを活用した事業展開
②使いやすさを考慮したデザイン
③ICT を利用した情報共有による効率性の高い在宅医療の提供
①データを活用した事業展開
情報通信技術の発達に伴い、今日ではさまざまな行動をデータとして蓄積で
きるようになってきている。㈱インテックでは、このような技術を活用して、
「い
きいきシニア倍増計画 in とやま」で高齢者の体重や血圧、歩数等の健康データ
を収集・蓄積した。ただし、現状ではデータの収集にとどまっており、詳細な
分析までには至っていない。今後は、専門家等と連携して分析することで、新
たなビジネスの創出へ結びつけることが期待される。
②使いやすさを考慮したデザイン
情報通信機器の利用を促すためには、手軽に持ち運びができたり、簡単に操
作できたりといった要素が重要となってくると考えられる。 ㈱インテックが参
画した「いきいきシニア倍増計画 in とやま」ではポケットサイズの活動量計を
利用し、専用装置にかざすだけでパソコン上に専用ページが表示される 等、使
いやすさを考慮したデザインとなっていた。パソコン、携帯電話、スマートフ
ォンの普及に伴い、これから高齢者になる世代はデジタル機器の利用にあまり
抵抗を感じないと考えられるが、利用頻度を高めるためには簡易な操作でデー
タの計測や読み取り等が行える機器を開発することが重要になると考えられる。
③ICT を利用した情報共有による効率性の高い在宅医療の提供
在宅で医療・介護サービスを受ける場合、入院時と異なり医師や看護師 等が
患者の健康状態を常に把握することは難しいといえる。そのため、逐次チェッ
クできるような仕組みづくりが患者の不安解消と各種専門職の負担軽減につな
がると考えられる。新川地域在宅医療療養連携協議会では、紙を利用した連携
パスに対して早めに見切りをつけ、ICT を導入したことから、多職種間での連携
がスムーズにいくようになった。今後は増加する高齢者に対して 、生産年齢人
口の減少による担い手不足が懸念されるが、ICT を活用することで効率性を高め、
各患者に対して充実した在宅医療・介護を提供することが期待できる。
‐ 31 ‐
d.セキュリティ
「セキュリティ」については以下の 2 点が挙げられる。
① 利用者との信頼関係により気軽に利用できる
② 公的サービスの隙間を埋める
①気軽に利用できる
ALSOK あんしんケアサポート㈱の緊急通報・相談事業利用者の平均年齢は約
80 歳である。このため、大きなボタンを押すだけで受信センターにつながる等、
わかりやすい仕組みにすることで、利用しやすい環境を整えている。また、緊
急通報時は平常時と異なり心理的な余裕がなくなり、円滑なコミュニケーショ
ンがとりにくくなると考えられる。そこで同社では、毎月 1 回は同社から利用
者に対して連絡を取り、性格や健康状態、持病等の特性把握や、会話を通じて
信頼関係の構築につなげている。
②公的サービスの隙間を埋める
医療や介護等の専門職が自宅に訪れている時間はわずかであり、1 日の多くは、
公的サービスの範囲外となる。その間を安心して過ごすことができるよう、隙
間を埋めることが必要である。このようなサービスはセキュリティ分野が果た
す役割の一つといえる。
e.その他の生活支援事業
「その他の生活支援事業」については以下の 5 点が挙げられる。
①在宅復帰直後における手厚いサービス
②権利保護の充実
③予防に対するインセンティブの導入
④予防の強化による健康寿命の延伸
⑤科学的知見に基づいた運動プログラムの提供
①在宅復帰直後における手厚いサービス
退院してから日常生活を送ることができるようになるまでは、ある程度の期
間が必要である。この慣れるまでの期間は、本人および家族に対して大きな負
担がかかるため、医療・介護の連携や生活支援サービスの手厚い提供 等によっ
て支える必要があると考えられる。
‐ 32 ‐
②権利保護の充実
今後は独り暮らしや高齢者のみの世帯が増加することから、高齢者が亡くな
られた後に対するサポートも必要になってくると考えられる。 ㈱アライブメデ
ィケアで聞かれたように、既に信託制度等のサービスはあるものの、その種類
は多いとは言えないため、サービスの拡大が 求められている。また、法的な保
護が弱い部分があるため、すべてを安心して利用できるとは言い難い状況にあ
る。デリケートな問題ではあるが、自治体や民間 事業者が連携して権利を保護
するような仕組みを構築していくことが必要である。
④ 予防に対するインセンティブの導入
現在の介護保険制度は、介護サービスを利用するときに保険が適用されると
ともに自己負担割合が小さい仕組みとなっている。これでは、介護予防に取り
組む動機が働きにくく、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されること
なく生活できる期間)を延ばす考えが浸透しにくいといえる。 暮らしの保健室
で聞かれたように今後は、運動やリハビリ等により身体機能が向上・改善され
た際に、何らかのインセンティブが与えられるような制度を導入する等して、
予防への取り組みを図っていくことが必要になると考えられる。
④予防の強化による健康寿命の延伸
平均寿命が延びる中、拡大する医療費を抑制するためには、健康寿命を延ば
すことが重要になる。そのためには、新川地域在宅医療療養連携協議会で聞か
れたように、現在の医療では対応が難しいとされる「老衰と認知症」への予防
が必要であり、特に、咀嚼機能の保持、食生活の改善、軽い運動、他者とのコ
ミュニケーションの維持の 4 点への取り組みが求められる。民間事業者として
は、これらに関するサービスを提供することで貢献することができると考えら
れる。
⑤科学的知見に基づいた運動プログラムの提供
今後、介護予防への取り組みが一層重要になると考えられるなか、その効果
を高めるためには、高齢者の身体機能や目的に合わせた指導が求められる。そ
こで、㈱パーソナルボディマネジメントは、高齢者一人ひとりに合わせ、科 学
的な根拠に基づいた運動指導を提供することで、利用者から高い支持を得てい
る。
‐ 33 ‐
2.3.中国地域の自治体ヒアリング調査
中国地域内でも地域包括ケアシステムの構築に向けてさまざまな取り組みが
行われている。そのなかから、特徴ある取り組みや住民主体の活動 等がみられ
る自治体を選定して、取り組み経緯や内容、効果 、課題等のヒアリング調査を
実施した。
2.3.1.実施概要
a.調査目的
中国地域における各自治体の地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み
状況や抱えている課題を把握し、今後の検討するための参考とする。
b.訪問先・日程
平成 27 年 10 月 9 日(金)から 10 月 22 日(木)にかけて以下の 1 県と 5 市
の計 6 自治体に訪問した。
なお、各訪問先の詳細なヒアリング内容は資料編を参照されたい。
図表 2.4
県名
訪問先一覧
自治体名(訪問先)
資料編掲載頁
島根県
島根県(医療政策課)
179~181 頁
島根県
大田市(高齢者福祉課)
182~184 頁
鳥取県
米子市(長寿福祉課)
185~186 頁
広島県
尾道市(高齢者福祉課)
187~189 頁
山口県
宇部市(高齢者総合支援課)
190~191 頁
岡山県
岡山市(医療政策推進課)
192~195 頁
‐ 34 ‐
2.3.2.自治体ヒアリング調査から見える問題点
自治体へのヒアリング調査では、米子市、大田市、岡山市、尾道市、宇部市
の 5 つの自治体に訪問して、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みに
ついてヒアリングを行った。ここでは、各自治体が地域包括ケアシステムの構
築に向けて取り組む中で生じている問題点について「住まい」、「交通」、「情報
通信」、「その他の生活支援事業」に分けて整理する。
a.住まい
・多くの高齢者が現在の住み慣れた地域で生活することを望んでいるた
め、介護が必要な状態に陥ってもできる限り自宅で生活できるような住
まいの提供や退院後の短期的な住まいとしての介護施設の提供が必要
であると考えている。
b.交通
・中山間地域では、患者宅までの距離が遠く離れているため、訪問診療や
訪問看護の移動に時間がかかっている。
・コミュニティバスが運行しているものの、交通空白地域を完全にカバー
しているわけではない。
c.情報通信
・医療・介護間の連携において、メンバーの入れ替わりなどにより情報共
有が途切れてしまうことがある。
・医療機関側の在宅医療に対する取り組みがあまり積極的ではない。
d.その他の生活支援事業
・独り暮らしの男性高齢者の多くは家事が苦手なことなどから栄養摂取に
偏りがみられる。
・中心市街地から離れた地域では、買い物支援を必要としている高齢者が
多く存在している。
・要支援 1、2 の高齢者から「ゴミ出し」など身の回りの世話を手伝って
もらいたいという要望が多く聞かれている。
・単なる体操やサロン活動による介護予防事業では高齢者のニーズに即し
ていない。
・認知症患者の増加は深刻な問題である。
・介護が必要になる原因が明確ではない。
・社会との接点を持てるような通い・憩いの場所が少ない。
・介護サービスに対する適正な評価指標と客観的な評価システムが構築さ
れていない。
・介護予防の成果が表れるまでには、一定の時間を必要とする。
‐ 35 ‐
2.4.中国地域の自治体へのアンケート調査
中国地域内の市町村を対象にアンケート調査を実施し、地域包括ケアシステ
ムの構築状況や市町村独自の取り組み、今後考えられる課題 等について整理す
る。
2.4.1.実施概要
本調査では、中国地域の 107 の市町村を対象に郵送によるアンケート調査を
実施した。質問項目としては、地域包括ケアシステムの構築に取り組み始めた
時期や、平成 37 年に向けて想定される課題、自治体独自の取り組み状況や民間
事業者との連携状況等がある。回答数は 40 自治体であり、回収率は 37.4%であ
った。
図表 2.5
自治体へのアンケート調査の実施要領
項目
概要
調査名称
地域包括ケアを支える民間事業者からの支援等に関するアンケート調査
調査目的
自治体の地域包括ケアシステム構築に向けた取り組み状況の把握
調査対象
中国地域内の107市町村
実施時期
平成27年7月22日(水)~8月5日(水)
調査方法
郵送によるアンケート
・ 地域包括ケアシステムの構築に取り組み始めた時期
・ 自治体内における特徴的な取り組み
・ 抱えている課題
主な調査項目
・ 民間事業者との連携状況
・ 今後、取り組みたいこと など
回収数
40 ( 回収率:37.4% )
‐ 36 ‐
2.4.2.アンケート調査結果
a.地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み状況
(a)取り組み始めた時期
地域包括ケアシステムの構築に取り組み始めた時期について尋ねたところ(1
つ回答)、「第 5 期介護保険事業計画(24~26 年度)」が 55.3%で過半数を超え
最も多くなっている。次いで、
「 第 4 期介護保険事業計画(21~23 年度)」が 13.2%、
「第 3 期介護保険事業計画(18~20 年度)」が 7.9%となっており、多くの自治
体では取り組み始めてからあまり期間が経っていないことがうかがえる。しか
し、
「介護保険制度導入以前(~平成 11 年度)」が 13.2%と、取り組み始めてか
ら 15 年以上経過している自治体もみられる。
図表 2.6
地域包括ケアシステムの構築に取り組み始めた時期
(%) 0.0
20.0
介護保険制度導入以前(~平成11年度)
2.6
第2期介護保険事業計画(15~17年度)
2.6
7.9
第4期介護保険事業計画(21~23年度)
13.2
第5期介護保険事業計画(24~26年度)
わからない
60.0
13.2
第1期介護保険事業計画(12~14年度)
第3期介護保険事業計画(18~20年度)
40.0
55.3
5.3
n = 38
‐ 37 ‐
(b)取り組み状況
各自治体において、最も進んでいる取り組みについて尋ねたところ(3 つまで
回答)、「介護サービスの提供」が 64.1%で最も多く、次いで「介護・予防の推
進」が 61.5%、「自治体と各種機関の連携」が 59.0%と続いている。
一方、地域包括ケアシステムを構築していくうえで求められている「在宅医
療の実施(15.4%)」や「生活支援サービスの提供(12.8%)」といった項目は
多くの自治体では取り組みがあまり進んでいない。
また、「その他」を詳しくみると、「権利擁護システム」や「地域団体活動と
の連携」、「小地域ケア会議やサロン」といった回答であり、そのような取り組
みが進んでいる自治体もある。
図表 2.7
(%)
進んでいる取り組み状況
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
介護サービスの提供
64.1
介護・予防の推進
61.5
自治体と各種機関の連携
59.0
地域住民とボランティアによる活動
28.2
在宅医療の実施
15.4
生活支援サービスの提供
高齢者向け住まいの整備
その他
12.8
7.7
10.3
n = 39
‐ 38 ‐
(c)自治体が実施している特徴的な取り組み
各自治体が地域包括ケアシステムの構築に向けた特徴的な取り組みの有無に
ついて尋ねたところ、
「ある」が 57.5%で過半数以上の自治体が何らかの特徴的
な取り組みを行っている。
図表 2.8
自治体が実施している特徴的な取り組みの有無
ない
42.5%
ある
57.5%
n = 40
特徴的な取り組みが「ある」と回答した自治体にその内容について尋ね(自
由回答)、意見を集約すると「体操教室の開催」が 11 件、「サロン活動」が 10
件、「見守り活動」と「健康指導」がともに 3 件、「生活支援」が 2 件となって
いる。
図表 2.9 自治体が実施している特徴的な取り組み内容
自治体が実施している特徴的な取り組み
件数
体操教室の開催
11
サロン活動
10
見守り活動
3
健康指導
3
生活支援
2
‐ 39 ‐
(d)住民主体の介護予防や生活支援に関する取り組み
自治体内においてボランティアや NPO 等が主体となった介護予防や生活支援
に関する取り組みの有無について尋ねたところ、
「ある」が 80.0%とほとんどの
自治体で何らかの取り組みが行われている。
図表 2.10
住民主体の介護予防や生活支援に関する取り組みの有無
ない
20.0%
ある
80.0%
n = 40
住民主体の取り組みが「ある」と回答した自治体にその内容について尋ね(自
由回答)、意見を集約すると、「家事支援サービス」と「サロン活動」がともに
13 件、「見守り活動」が 7 件、「宅配サービス」と「移送支援」がともに 5 件、
「体操教室の開催」が 4 件、「空き店舗を活用した物販販売」と「認知症カフェ
の開催」がともに 2 件、「傾聴」と「ミニデイサービス」がともに 1 件となって
いる。
図表 2.11
住民主体で実施している特徴的な取り組み内容
住民主体の取り組み
件数
家事支援サービス
13
サロン活動
13
見守り活動
7
宅配サービス
5
移送支援
5
体操教室の開催
空き店舗を活用した物販販売
認知症カフェの開催
傾聴
ミニデイサービス
4
2
2
1
1
‐ 40 ‐
(e)自治体独自の取り組み
地域包括ケアシステムの構築に向けて国から示された提案(多職種連携や生
活支援サービスの体制整備)以外の自治体独自の取り組みの有無について尋ね
たところ、「ある」が 15.4%、「ない」が 84.6%であり、現時点では独自の取り
組みを行っている自治体は少ない状況にある。
図表 2.12
自治体独自の取り組みの有無
ある
15.4%
ない
84.6%
n = 39
独自の取り組みが「ある」と回答した自治体にその内容について尋ねたとこ
ろ(自由回答)、社会福祉協議会と連携した高齢者の孤立を防ぐ取り組みや医療
と福祉の連携ネットワークの構築、ボランティアによる生活支援サービスの提
供、ボランティア活動のポイント付与、認知症への対応、ボランティアによる
保険外サービスの提供、といった回答があった。
図表 2.13
自治体独自の取り組み内容
地域独自の取り組み
・既存の通い場として市内180カ所のサロンや全市的な見守り、支え合い体制である「もやいネット」を
整備し、現在、市内32地区社協に「もやいネット地区ステーション」とコーディネーターを配置して
いるところである。
・福祉医療ネットワークの開催。
・校区内におけるボランティアによる生活支援サービス、保健師と地域支援員で構成する地域・保健福
祉支援チームの設置、地域で創出された新しいサービス(プロジェクト)の促進・拡大をするための
プロジェクト支援員を配置している。
・介護支援ボランティア制度・・・高齢者(要介護認定者を除く)が介護保険施設でボランティア活動
に取り組んだ実績に応じてポイントを付与し、ポイントは交付金または特産品等引換券に転換するこ
とができる。
・“認知症になっても安心して住み続けられるまち”を目指して、多種多様な関係が集い、できること
を話し合う場をつくり、活動を展開している。
・有償ボランティアによる介護保険外サービスの提供。
‐ 41 ‐
b.自治体が把握している民間事業者の取り組み状況
(a)民間事業者との連携状況
民間事業者との連携した取り組みを行っているのか尋ねたところ、
「行ってい
る」が 57.9%、「行っていない」が 42.1%であり、半数以上の自治体が民間事
業者と連携して何らかの取り組みを行っている。
図表 2.14
民間事業者との連携状況の有無
行ってい
ない
42.1%
行ってい
る
57.9%
n = 38
民間事業者との連携を「行っている」と回答した自治体にその内容について
尋ね(自由回答)、意見を集約すると、配食事業者等が高齢者宅を訪れた際に安
否確認を行うような協定を締結しているが 12 件と最も多く、ついで、認知症患
者等が徘徊しているときに自治体等へ連絡する見守り支援が 4 件、高齢者宅へ
緊急通報装置を設置する際の費用補助が 1 件といった内容であった。
図表 2.15
民間事業者と連携した取り組み内容
地域独自の取り組み
高齢者宅を訪れた際の安否確認
件数
12
認知症患者などを対象とした見守り支援
4
緊急通報装置の設置にかかる補助事業
1
‐ 42 ‐
(b)民間事業者の特徴的な取り組み
自治体内において、民間事業者による特徴的な事業展開がみられるのかどう
かを尋ねたところ(自由記入)、9 つの自治体から以下のような回答があった。
コンビニエンスストアによる移動販売や見守りといった生活支援に関するサー
ビスや薬局による服薬指導等、既存の地域資源を活用した取り組みが目立って
いる。
図表 2.16
民間事業者による特徴的な取り組み
回
答
・コンビニエンスストアが食材の移動販売を行っている。
・協定等は結んでいないが、利用者に異常があった場合などに、民間配食業者か
ら地域包括支援センターの担当ケアマネージャー等に連絡が入ることもある。
・コンビニエンスストアとの福祉に関する包括協定において、見守り、徘徊者の
保護、高齢者雇用、買物サービスなどコンビニエンスストアを起点として幅広
い地域連携を検討しているところである。
・今後、買物支援や宅配サービスで見守りや生活支援(著とした困りごと)を組
み合わせたサービスを提供する予定である。
・コンビニエンスストアが高齢者への店内商品の宅配サービスをしている。
・高齢者が集まるサロン等の会場に移動販売車に来てもらっている。
・薬局にカフェを設け、服用や生活相談に加え、憩いの場として提供している。
また、スーパーマーケットに体操教室を併設して、健康づくりを実施している。
・高齢者見守り、安否確認サービスの取組を行っている。
‐ 43 ‐
(c)生活支援サービスのための事業主体
生活支援に関するサービスについて、望ましい事業主体が民間事業者 か自治
体のどちらかについて尋ねたところ、「食材配達」や「移動販売」、「住宅の増改
築」、「セキュリティ(防犯)」の 4 つについては、「最初から民間事業者が行う
もの」が 50%以上となっている。これらのサービスは既に多くの民間事業者が
参入していることから、行政が積極的に関与するといった認識を持っていない
ことがうかがえる。
また、「配食サービス」や「安否確認」、「外出支援」、「家事援助」は「原則的
に民間事業者がすべきものであるが、補助金を出して、その後自立させるもの」
の割合が高い。生活上必要なサービスだが、採算性があまり高くないこと 等か
ら、行政による補助が必要であると認識しているようである。
一方、
「認知症予防」、「健康増進」、「介護者支援」、「公共交通手段の確保」に
ついては「行政が行うべきもの」が 50%以上と高い割合を占めている。これら
については、これまで行政が担ってきた事業であること 等から、民間事業者に
よる事業展開はあまり想定していないことがうかがえる。
図表 2.17
(%)
生活支援サービスにおける望ましい事業主体
0.0
20.0
40.0
食材配達
80.0
75.8
移動販売
23.5
50.0
介護施設の建設・管理・運営
14.7
42.9
配食サービス
安否確認
12.5
25.0
外出支援
18.8
医療情報の活用
17.6
家事援助
公共交通手段の確保 2.9
認知症予防 3.0
9.1
28.1
17.6
23.5
30.3
3.0
18.8
31.3
29.4
21.2
47.1
36.4
60.6
55.9
66.7
33.3
57.6
最初から民間事業者が行うもの
原則的に民間事業者がすべきものであるが、補助金を出して、その後自立させるもの
行政から民間事業者に委託すべきもの
行政が行うべきもの
‐ 44 ‐
2.9
40.6
48.5
15.2
11.8
30.3
46.9
5.9
5.9
22.9
18.8
28.1
15.2
健康増進 3.0
23.5
33.3
28.1
3.1
11.8
31.4
33.3
通信手段の確保
3.0
28.1
58.8
セキュリティ(防犯)
100.0
21.2
68.8
住宅の増改築
介護者支援
60.0
3.1
(d)民間事業者に期待すること
自治体が地域包括ケアシステムを構築していくうえで民間事業者に対して期
待している点について尋ねたところ(自由回答)、18 自治体から以下のような回
答があった。
主な意見としては、基本的な生活支援サービスさらにはニーズをとらえた細
かなサービスの提供や、今年度から開始している新総合事業における提案とい
った意見が挙げられる。また、詐欺被害を防ぐための講習会の開催やインター
ネット環境の整備、サロン等通いの場の提供といった民間事業者が保有してい
るノウハウ等を活用した事業の展開を期待していることがうかがえる。
図表 2.18
民間事業者に期待していること
回答
・新たな総合事業の中で生活支援協議体を立上げることになっているが、その中で民間事業者の方もメンバーに
入っていただき、地域支援サービスについて、寄与していただくことを考えていただき、提案していただきた
いと考えます。また、認知症患者の増加により、高齢者が詐欺に巻き込まれたり、理解がないために本人の生
活へ悪い影響を受けるなどの事象が発生しています。理解を深めるための研修会などを積極的に行っていただ
きたいと思います。
・自らのお金で負担する能力がある人に対して、サービスをきめ細やかに提供してほしい。社会貢献として、取
り組めることがあったらしてほしい。
・本市のように人口が少なく集落が点在している地域では生活支援サービスはビジネスとして成り立たないと思
われ、営利目的とする民間事業者の参入等はほとんど期待できない。地域の自治会等コミュニティ組織や介護
保険事業を行う社会福祉法人(社協含む)にその役割を担ってほしいと考えている。
・過疎地、離島への移動販売、掃除等の家事援助を充実してもらいたい。また、取引がある客に対して安否確認
(異常を感じた場合の連絡先の確保を含む)や災害時の避難場所等の援助も行ってもらいたいと考えている。
・食材等、日常生活に必要な物資の宅配、移動販売、また、地域住民の互助を補完する役割を期待したい。
・生活支援サービスへの参入など、地域住民の暮しを支える分野での協力について期待しています。
・地域コミュニティ連携の中で介護予防・生活支援サービスの担い手として期待している。
・生活支援サービス提供体制の確保に向けた議論の場への参画や民間ならではの複合的なサービスの提供を期待
している。
・普段の商業活動に加え、利用者(顧客)のニーズや生活背景を気にかけていただき、情報提供してもらいた
い。
・高齢者のニーズの中でも行政では支援しにくいニーズについて安価で対応できるサービスを実施してもらいた
い(例えば、定期的に洗濯したいが、大型のため干すことが難しいシーツや、カーテン等の洗濯など)。
・個人の嗜好が強いサービスは、特に民間事業者により選択肢を広げて頂きたい。需要と供給のバランスもある
かと思うが、市域が狭いことを利点とし、民間事業者の参入を期待しています。
・中山間地域の介護予防・生活支援サービスへの参入。
・生活支援サービスへの参入。
・ネット環境をよくしていくのに協力してほしい。いろいろな情報を集約提供するのに、まずはネット環境の充
実が必要。例えばWi-Fiアクセスポイントを増やし、タブレット端末を利用しやすくしたり、情報補完のセキュ
リティを高めたクラウド化などでマンパワー不足を補うなど(介護保険の要介護認定調査も安全なクラウドが
あると、自宅でも仕事(パソコン入力)ができ、辞める人も少なくなるかもしれない)。
・今後、増加が予想される独居の高齢者に対する食材等の移動販売、または配食サービスと、それらに伴う安否
の確認。
・新しい総合事業の実施に向けて民間事業者とも連携して取り組んでいきたい。
・食材、弁当等の配達、安価な移送支援、買物や受診のための送迎サービス。
・カフェやサロンなどの通いの場を創出してほしい。また、生活支援サービスも併せて検討していただきたい。
‐ 45 ‐
c.現時点あるいは今後に向けた課題
(a)地域包括ケアシステムを構築していくうえで抱えている課題
各自治体において、地域包括ケアシステムを構築していくうえで抱えている
課題について尋ねたところ(6 つまで回答)、
「 生活支援サービスの充実」が 85.0%
と多くの自治体が、高齢者が安心して生活できるよう各種生活支援サービスの
提供を求めていることがうかがえる。
次いで「地域包括ケアシステムに対する住民の理解向上」が 65.0%となって
おり、住民にとってはまだまだ浸透していないことがうかがえる。
このほかには「医療・介護間の連携」が 62.5%、
「在宅医療の充実」が 60.0%
「通い・憩いの場の提供」が 52.5%と続いている。
図表 2.19
地域包括ケアシステムを構築していくうえで抱えている課題
(%) 0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
生活支援サービスの充実
85.0
地域包括ケアシステムに対する住民の理解向上
65.0
医療・介護間の連携
62.5
在宅医療の充実
60.0
通い・憩いの場の提供
52.5
専門職人材などの養成
37.5
役所内における部署間の連携
35.0
介護サービスの充実
20.0
高齢者向け住宅拡充
20.0
住民のニーズ把握
15.0
権利の擁護
12.5
介護する家族の理解向上
12.5
県との情報交換・連携した取組
特にない
その他
100.0
7.5
0.0
12.5
n = 40
‐ 46 ‐
(b)今後、不足すると見込まれるサービスや各種インフラ等
地域包括ケアシステムの構築の目安となる今から 10 年後(平成 37 年)を見
据えて、どのようなサービスや各種インフラ 等が不足すると見込まれるのか尋
ねたところ(3 つまで回答)、「医療・介護・保健等の専門職」が 62.5%で最も
多い。多くの自治体で高齢者を支える担い手不足を懸念している。
次いで、「公共交通網(路線バス、航路等)」が 60.0%であり、路線バスの運
行便数の減少等から高齢者の移動を支えるインフラに対する不安を抱えている。
このほかには、「医療サービス」が 40.0%、「住民活動(自治振興会等)」が
37.5%、「生活支援に関する民間事業所」が 35.0%と続いている。
図表 2.20
今後、不足が見込まれるサービスや各種インフラ等
(%)
0.0
20.0
40.0
医療・介護・保健等の専門職
60.0
80.0
62.5
公共交通網(路線バス、航路など)
60.0
医療サービス
40.0
住民活動(自治振興会等)
37.5
生活支援に関する民間事業所
35.0
介護サービス
20.0
情報通信インフラ
2.5
その他
2.5
n = 40
‐ 47 ‐
2.4.3.自治体アンケート調査結果から見える現状と課題
自治体へのアンケート結果をまとめると、以下のことがいえる。
a.自治体の地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み状況
まず、地域包括ケアシステムの構築に取り組み始めた時期としては、第 5 期
介護保険事業計画(平成 24~26 年度)が半数以上であることから、多くの自治
体がこれから本格的に取り組むところである。取り組みが進んでいる内容とし
ては、「介護サービス(介護保険に基づく)」や「介護・予防の 推進」といった
従来の国が示してきた内容となっている。
また、自治体が実施している特徴的な取り組みとしては、「体操教室の開催」
や「サロン活動」等予防に関する内容や高齢者の孤立を防ぐような内容が目立
った。住民主体の取り組みとしては、「家事支援サービス」や「サロン活動」と
いった地域とのかかわりを持ってもらうようなボランティア活動の回答が多か
った。
そして、独自の取り組みを行っている自治体は現状では多くない状況にあっ
た。ただし、内容をみると、保健師との連携や介護施設内でのボランティア活
動に参加した場合のポイントの付与、有償ボランティアによる介護保険外サー
ビスの提供と、地域で工夫していることがうかがえる。
b.自治体が把握している民間事業者の取り組み状況
地域包括ケアシステムを構築していくためには、自治体や地域住民だけでな
く、民間事業者の力も必要になってくる。現状では 50%以上の自治体が民間事
業者と連携しており、民間事業者が保有するノウハウを求めていることがうか
がえる。
また、民間事業者による特徴的な取り組みとしては、コンビニエンスストア
による移動販売や見守り活動等が目立ち、積極的に地域とのかかわりを持とう
と取り組んでいることがうかがえた。コンビニエンスストアは全国に 5 万店以
上立地しており、インフラの一つとして地域に存在していることから、今後、
さらにいろいろなサービスを提供することが期待されていると いえる。
さらに、生活支援に関する各種サービスの事業主体について、
「食材配達」、
「移
動販売」、「住宅の増改築」、「セキュリティ」等は「民間事業者が行うもの」の
割合が高くなっており、民間による事業展開が期待されている。
‐ 48 ‐
c.現時点あるいは今後に向けた課題
現時点でほとんどの自治体は「生活支援サービスの充実」を課題と捉えてお
り、民間事業者が地域包括ケアシステムの構築において果たすべき役割といえ
る。加えて、「医療・介護間の連携」や「在宅医療の充実」といったことにも懸
念を抱いており、民間事業者としてはこれらのことを促進させることができる
ようなサービスの提供が求められている。
また、今後に向けた課題としては、「医療・介護・保健等の専門職」の担い手
不足が懸念されている。今後は、高齢人口の増加に対して生産年齢人口は減少
することから、すべてを専門職に依存するのではなく、知識を必要としない簡
易な介護サービス等は地域住民や民間事業者が担うなどの役割分担が必要にな
ってくると考えられる。さらに、公共交通サービスが不足するものとみられて
おり、多くの自治体が交通インフラに対する不安を抱えていること もうかがえ
る。
図表 2.21
アンケート調査結果のまとめ
a.自治体の地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組み状況
⇒半数以上の自治体において、本格的な取り組みはこれからである。
⇒特徴的な取り組みとしては、予防や高齢者の孤立を防ぐような内容が目立つ。
⇒住民主体の取り組みとしては、地域とのかかわりを持ってもらうようなボラン
ティア活動の回答が多い。
⇒現状では独自の取り組みを行っている自治体は多くないが、内容をみると各地
域で工夫している。
b.自治体が把握している民間事業者の取り組み状況
⇒現状では 50%以上の自治体が民間事業者と連携しており、民間事業者が保有
するノウハウを求めている。
⇒コンビニエンスストアは移動販売や見守り活動など、地域とのかかわりを持と
うと積極的に取り組んでいる。
⇒「食材配達」、「移動販売」、「住宅の増改築」、「セキュリティ(防犯)」といっ
た分野に対して民間事業者の事業展開を期待している。
c.現時点あるいは今後に向けた課題
⇒民間事業者としては、「生活支援サービスの充実」や「医療・介護間の連携」、
「在宅医療の充実」が促進されるようなサービスを提供することが地域包括ケ
アシステムの構築において果たすべき役割といえる。
⇒専門職の担い手不足や交通インフラに対する不安を抱えている。
‐ 49 ‐
3.地域包括ケアシステムを支える都市機能のあり方と課題の抽出
前章では、ヒアリング調査とアンケート調査を実施した。ヒアリング調査で
は、有識者、先進地域、自治体とそれぞれ異なる立場から地域包括ケアシステ
ムの構築を目指すうえでのポイントや問題点 等についてうかがった。また、自
治体アンケート調査では、各自治体が地域包括ケアシステムの構築を目指すな
かで抱えている問題点や民間事業者に期待している分野 等について把握した。
なお、ここでは、本調査の主たる調査対象である 4 つの都市機能について、
そのあり方と課題を検討する。
地域包括ケアシステムの構築を支えるためには都市機能以外の分野での取り
組みも必要であるが、この点については「その他の生活支援事業」として、課
題解決に向けた事業を検討する 5 章で取り扱うこととする。
3.1.都市機能のあり方
これまでの実態調査から、本調査の対象である 4 つの都市機能(「住まい」、
「交
通」、「情報通信」、「セキュリティ」)のあり方は以下のとおりである。
3.1.1.住まい
「住まい」のあり方
⇒高齢者のニーズやライフステージに適し安心して生活できるような
住まいを提供する
国は、地域包括ケアシステムの構築において、住み慣れた地域で生活を送る
ことを目指している。これにより、在宅で医療・介護サービスを受けることに
なるため、住まいの確保は地域包括ケアシステムの構築においての前提となる
要素である。ただし、一言で高齢者と言っても、個人の健康状態や経済状態等
によって、一人ひとりの高齢者が希望する住まいの形はいろいろあると考えら
れることから、退院後または所得や資産の違いに応じた住まいの確保や新たな
住まいへの住み替え、さらには身体機能に応じた既存住宅の改修等のニーズに
即した多様な住まいを提供できるようなサービス・機能の充実が必要である。
‐ 50 ‐
3.1.2.交通
「交通」のあり方
⇒高齢者が気軽に外出でき、地域社会との接点を持ちやすくなり、まち
づくりや地域活性化につながるような交通サービスを提供する
地域包括ケアシステムは、できる限り在宅での生活を基本として、病院や介
護施設への通院・通所または地域の公民館や各種商業施設等へ通い、外出する
ことを目指している。そこで、先進地域視察でみたように、富山市(136~140
頁)では公共交通を活性化させ、また、健軍商店街振興組合(145~147 頁)は
地元のタクシー会社と連携して高齢者の買い物荷物と高齢者自身の送迎サービ
スを展開することで、それぞれ高齢者の外出機会を創出していた。さらに、 大
野城市南地区コミュニティ運営委員会(141~144 頁)では、住民ボランティア
が主体となってコミュニティバスを運行していた。このように、 交通弱者であ
る高齢者が外出するためには、既存の公共交通と そのすき間を埋める各種交通
サービスとの連携による充実した交通ネットワークの整備や規制の緩和等によ
って、高齢者が気軽に外出できるような環境を整える必要がある。
これらの支援を行うことで日常生活の満足度を高めるだけでなく 、外出を通
じて社会参加や生きがいづくりといった介護予防にもつなげ ることが期待でき
る。特に中山間地域では公共交通が脆弱であるため、都市部よりも手厚い支援
が必要である。
3.1.3.情報通信
「情報通信」のあり方
⇒高齢者の健康に関する情報を収集・蓄積・分析した健康管理や多職種
間の情報共有などが円滑に行われるようなサービスを開発・提供する
地域包括ケアシステムの構築においては、医療と介護の連携が求められてい
る。新川地域在宅医療療養連携協議会(152~155 頁)では、医師が率先して ICT
を導入して在宅医療・介護連携に取り組んでいた。このように情報通信技術を
活用することで、利便性が向上することやこれまであまり接点がなかった医療
と介護間で意思疎通を図りやすくなることが期待でき、円滑な医療・介護サー
ビスを提供することが期待できる。
また、専門職だけでなく、高齢者自身もできるだけ疾病や要介護に陥らない
ように介護予防に取り組む必要がある。そこで、㈱インテック(148~151 頁)
では、体重や血圧等を測定する活動量計を開発して高齢者の介護予防への取り
‐ 51 ‐
組みを支援していた。このような高齢者の健康データを収集・管理し可視化す
るような取り組みも地域包括ケアシステムの構築には必要である。
3.1.4.セキュリティ
「セキュリティ」のあり方
⇒自宅で生活する高齢者や遠方で生活している家族に生じる心理的不
安を緩和することができるような見守りサービスを提供する
統計資料で確認したように、今後の世帯構成としては高齢者の独り暮らし世
帯の増加が見込まれている。地域包括ケアシステムでは、自立した生活を送る
ことができるうちは自宅で生活することが望まれるものの、このような核家族
化に加え、近所づきあいの希薄化等に伴い、高齢者が家族や親類と離れて生活
することで孤立しやすくなり、また、持病を抱えている高齢者等は緊急時に個
人で対応せざるを得ない状況に陥ることが考えられる。そこで、ALSOK あんしん
ケアサポート㈱(156~159 頁)では緊急通報サービスを展開して見守り支援を
行っていた。また、暮らしの保健室(164~167 頁)では、無料の相談事業を行
い、高齢者の困りごとに対応している。このように、電子機器や通信機器を利
用したサポートや定期的な訪問等により、高齢者やその家族が安心して生活す
ることができると考えられる。
‐ 52 ‐
3.2.都市機能をめぐる課題
調査対象である都市機能の「住まい」、
「交通」、
「情報通信」、
「セキュリティ」
ごとに、これまでの文献調査や実態調査から浮かび上がってきた問題点から、
解決すべき課題を整理する。
3.2.1.住まい
前節で導出したあり方を基に実態調査の問題点を整理すると、
「住まい」にお
いて解決すべき課題として、①低所得者の住み替え支援、②退院後の住まいの
確保、③既存住宅の修繕支援、④住み替え支援・資金確保、⑤高齢者の孤立を
防ぎ地域との交流・共生ができる関係構築の 5 点が挙げられる。以下ではそれ
ぞれについて説明する。
「住まい」において解決すべき課題
①低所得高齢者の住み替え支援
②退院後の住まいの確保
③既存住宅の修繕支援
④住み替え支援・資金確保
⑤高齢者の孤立を防ぎ地域との交流・共生ができる関係構築
a.課題①:低所得高齢者の住み替え支援
広島県地域包括ケア推進センター(119~122 頁)でのヒアリングで聞かれた
ように、高齢者のなかでも高所得者は比較的容易に住み替えを行えるが、低所
得高齢者は、より良い環境で生活したくても経済状況を背景に住み替えに至ら
ないことがある。その背景には、現行の有料老人ホームは安全性の面 等から認
可基準が非常に高いため、結果として入居費用が高額になってしまう傾向にあ
る。そこで、低所得高齢者でも安心して生活できるような住環境を提供する必
要がある。
b.課題②:退院後の住まいの確保
高齢者は他の年代に比べで疾患にかかりやすいため、入退院を繰り返しやす
い年齢である。広島県地域包括ケア推進センター(119~122 頁)で聞かれたよ
うに、退院後、何らかの事情で入院前の住居に戻ることができない高齢者が新
しい住居を探す際に、不動産業者の高齢者への貸与に対する理解が不足してい
ること等から住まいを確保しにくいことがある。そこで、高齢者が賃貸住宅を
借りやすくなるような支援や保証制度が必要である。
‐ 53 ‐
c.課題③:既存住宅の修繕支援
地域包括ケアシステムの構築では、出来る限り住み慣れた地域や自宅で生活
することが求められている。尾道市(187~189 頁)でのヒアリング調査におい
て、不便な地域で生活していても、高齢者は自宅での生活を望んでいるといっ
た意見が聞かれた。しかし、戸建て住宅は長期間暮らすことで老朽化すること
や高齢者は筋力の低下に伴い住居内設備の不便を感じ やすくなることから、こ
れらに対応するような整備が必要になってくる。そこで、高齢者が 快適に生活
できるようなリフォームや修繕への支援が求められる。
d.課題④:住み替え支援・資金確保
暮らしの保健室(164~167 頁)や明治大学の園田教授(109~111 頁)から聞
かれたように、高齢者の住み替えが促進されていない状況にある。その理由と
して、心理面と経済面の不安が障害になっているようであり、それを取り除く
必要があると考えられる。例えば、心理面では新たな居住地での人間関係を容
易に構築できるような支援が必要であり、また、経済面では既存の所有住宅の
売却の可否や売却価格、住み替え時に発生する費用負担に対する不安を取り除
く必要があると考えられる。
e.課題⑤:高齢者の孤立を防ぎ地域との交流・共生ができる関係構築
各地で有料老人ホームが建設される中、運営事業者である Share 金沢(124~
127 頁)や㈱誠心(128~132 頁)、㈱アライブメディケア(160~163 頁)は地域
とのつながりや交流を持ちながら運営に努めている。しかし、有料老人ホーム
は施設内で介護サービスが完結するため、地域住民は施設内の様子を知るよう
な機会がない。また、すべての地域住民が自地域内での有料老人ホーム建設に
賛同しているわけではない。そこで、事業者としては地域住民から理解を得ら
れるような取り組みが必要である。
‐ 54 ‐
3.2.2.交通
前節で導出した都市機能のあり方を基に実態調査の問題点を整理すると、
「交
通」において解決すべき課題として、①交通政策と連動したまちづくり、②規
制緩和等による高齢者の移動支援、③コミュニティバスの利便性向上・運営支
援、④中山間地域での訪問診療、訪問看護支援の 4 点が挙げられる。以下では
それぞれについて説明する。
「交通」において解決すべき課題
①交通政策と連動した街づくり
②規制緩和等による高齢者の移動支援
③コミュニティバスの利便性向上・運営支援
④中山間地域での訪問診療、訪問看護支援
a.課題①:交通政策と連動した街づくり
現在、モータリゼーションの進展による公共交通利用者の減少に伴い、各地
域で路線バスが減便、撤退している。公共交通は地域住民が自由に移動するこ
とを補完する社会基盤の一つである。超高齢社会への突入に伴い、今後 、公共
交通の必要性が一層増すと考えられ、街づくりにおいて重要な要素となる。高
齢者にやさしい街づくりに向けて持続可能な公共交通ネットワークを形成して
いくためには、各地域の実情に基づいて各種車両や軌道、運行システム、料金
体系、行政と民間事業者の役割分担等についてのあり方を検討する必要がある。
b.課題②:規制緩和等による高齢者の移動支援
路線バスの減便、撤退に加え、宇部市(190~191 頁)のように 70 歳以上高齢
者の免許保有率が 30%台といった自治体では、多くの高齢者は自由に外出しに
くい状況にあるといえる。外出機会の減少により高齢者が孤立することや認知
症に陥ることが懸念されるため、それらの抑制に向けて 気軽に外出できるよう
な環境を整える必要がある。
また、貨物や旅客輸送サービスは規制が多い分野である ため、他の産業に比
べ新規事業を起こしにくいといえる。しかし、高齢者が外出しやすい環境をつ
くるためには既存の輸送サービスの有効活用や規制の緩和等、地域の実態に合
わせた仕組みづくりが必要である。
‐ 55 ‐
c.課題③:コミュニティバスの利便性向上・運営支援
民間バス路線の撤退や交通空白地域への対応として、各地でコミュニティバ
スが運行されている。しかし、各地で聞かれたように、住民から運行範囲の拡
大や増便の要望が出る等、地域によっては使い勝手があまりよくないようであ
る。そこで、住民ニーズを踏まえることやさらなる利便性を高めるために既存
の路線バス等を補完・連動した運行ルートや発車・到着時刻となるような仕組
みが必要であると考えられる。
また、多くのコミュニティバスは、利用者数が少ないため運賃収入のみでの
事業運営は難しい状況にある。そこで、事業を継続することができるような 仕
組みづくりが必要である。
d.課題④:中山間地域での訪問診療、訪問看護支援
地域包括ケアシステムの構築において、 在宅での医療・介護サービスを受け
られることができるような体制づくりが期待されている 。しかし、島根県(179
~181 頁)でのヒアリング調査で聞かれたように中山間地域では人口密度が低い
こと等から、訪問診療、訪問看護において多くの移動時間がかかり効率が悪い
状況にある。そこで、在宅医療を推進するためには、 医療や介護を提供する側
の負担を軽減するような仕組みも必要になってくる。
‐ 56 ‐
3.2.3.情報通信
前節で導出したあり方を基に実態調査の問題点を整理すると、
「情報通信」に
おいて解決すべき課題として、①患者情報の共有による医療と介護の間にある
知識・情報の壁の解消、②ICT の利用拡大、③患者情報共有システムの利便性向
上、④健康データの収集・管理・活用およびデータ活用能力の向上 、⑤情報通
信機器の利用促進、⑥救急搬送時における情報伝達手段の構築の 6 点が挙げら
れる。以下ではそれぞれについて説明する。
「情報通信」において解決すべき課題
①患者情報の共有による医療と介護の間にある知識・情報の壁の解消
②ICT の利用拡大
③患者情報共有システムの利便性向上
④健康データの収集・管理・活用およびデータ活用の能力向上
⑤情報通信機器の利用促進
⑥救急搬送時における情報伝達手段の構築
a.課題①:患者情報の共有よる医療と介護の間にある知識・情報の壁の解消
地域包括ケアシステムでは、医療や介護、予防、生活支援が一体的に提供さ
れることが望まれていることから、医療と介護の連携が不可欠である。しかし、
宇部市(190~191 頁)や岡山市(192~195 頁)へのヒアリング調査等で聞かれ
たように、お互いの連携に対する意識が低いことや意思の疎通がうまくいかな
いことがみられるようである。そこで、効率的な在宅医療に取り組むためには、
医師や看護師、介護従事者等が患者情報を共有し、相互に補完し合うことが必
要である。
b.課題②:ICT の利用拡大
医療・介護の連携促進において情報共有が不可欠なことは上述したが、広島
市西区医師会(113~114 頁)でのヒアリング調査で聞かれたように一部の医師
や介護事業者は ICT を敬遠していること等から、地域によっては普及が進んで
いないようである。その理由としては、システム機器の導入・運用コストが高
いという経済的理由や、多職種間で患者情報を共有することに対する心理面で
の抵抗感があると考えられる。これらの原因を取り除くような取り組みが必要
である。
‐ 57 ‐
c.課題③:患者情報共有システムの利便性向上
新川地域在宅医療療養連携協議会(152~155 頁)で聞かれたように、富山県
では同一県内において二次医療圏域ごとに異なる患者情報共有システムを導入
している。しかし、レセプト情報等を基に疾病予防等の分析を行うためには、
多くの患者データを収集・蓄積することが望ましいと考えられる。そこで、異
なるシステム間でデータを共有できるような仕組みを構築することが必要であ
る。また、国としても異なるシステム同士が接続できるよう標準化を推進しよ
うとしている。
d.課題④:健康データの収集・管理・活用およびデータ活用の能力向上
国は高齢者が増加する中で、介護保険給付額の削減 等を目的に介護予防に力
を入れている。㈱インテック(148~151 頁)で聞かれたように介護予防の効果
を高めるためには、高齢者の健康に関するデータを収集、蓄積して状況や変化
等を把握する必要がある。また、データを有効活用するためには、分析能力を
向上させるような取り組みも必要である。
e.課題⑤:情報通信機器の利用促進
上述した健康データを管理する機器が開発されても、それが普及しなければ
多くのデータを収集し、より正確な分析を行うことができない。そのためには、
高齢者でも抵抗なく使えるようなサイズやボタン表示等の情報通信機器の開発
が求められる。
f.課題⑥:救急搬送時における情報伝達手段の構築
荒木脳神経外科病院(112 頁)へのヒアリング調査で聞かれたように、救急隊
は受け入れ病院に対して患者の容体に関する情報を正確に伝えることが求めら
れるが、患者の症状等は口頭で伝えにくい部分があるため、救急車と病院にお
ける意思疎通がうまくいかないことがある。また、一刻を争う症状にもかかわ
らず、受け入れ病院の打診については、1 件ずつ確認する等、効率が悪い状況に
ある。そこで、情報共有や効率性を高めるような仕組みが必要である。
‐ 58 ‐
3.2.4.セキュリティ
前節で導出した都市機能のあり方を基に実態調査の問題点を整理すると、
「セ
キュリティ」において解決すべき課題として、①認知症高齢者等の安否確認と
②緊急時の対応の 2 点が挙げられる。以下では両課題について説明する。
「セキュリティ」において解決すべき課題
①認知症高齢者等の安否確認
②平常時の相談による信頼関係の構築
a.課題①:認知症高齢者等の安否確認
地域包括ケアシステムでは、高齢者が自立した生活を送れる期間はできるだ
け住み慣れた地域で生活することを目指している。しかし、 高齢者世帯の将来
推計でみたように、今後は独り暮らし世帯が急増する見通しとなっていること
から、高齢者が孤立しやすい環境になることが懸念される。尾道市(187~189
頁)で聞かれたように、高齢者が孤立することで社会との接点が減少し、認知
症等へのリスクが高まることから、孤立を防ぐような取り組みが必要である。
また、遠方で暮らす家族にとっては、独り暮らしの親の健康状態や生活状況等
について定期的に把握できれば、不安が多少でも解消できると考えられる。
b.課題②:平常時の相談による信頼関係の構築
高齢者にとっては、「気軽に相談できる。安心して話を聞いてくれる。」とい
うことに大きな関心があり、高齢者からの相談や会話は、話が終わるまで聞く
という姿勢が信頼関係の構築や高齢者のニーズの把握につながる。
‐ 59 ‐
4.都市機能をめぐる課題の解決方策の検討
前章では、実態調査を踏まえて、地域包括ケアシステムを支えるための都市
機能のあり方と現状で抱えている課題について整理した。
本章では、それらの課題を解決するための方策について述べる。
4.1.住まい
住まいに関する課題を踏まえて、それらを解決するための方策としては、ま
ず、様々な事情により安定した住まいを確保できていない高齢者への支援が必
要である。また、既存の住宅に手を加えて暮らしやすい住まいへ改修すること
や住み替え時の資金をうまく生み出すような仕掛けや逆に家賃負担を軽減する
といった資金に関する方策も必要である。そして、有料老人ホームの運営事業
者については、地域住民から理解あるいは賛同されるような交流機会の創出や
高齢者が地域社会とのつながりを持ちやすいような支援といった人間関係の構
築にかかる取り組みも必要である。
4.2.交通
交通に関する課題を踏まえて、それらを解決するための方策としては、まず、
交通弱者である高齢者が多様な交通サービスを享受できるような環境を整える
ことが必要である。既存の公共交通機関は採算性の悪化 等により縮小・撤退し
ていることから、自由な移動手段を持たない高齢者にとっては、生活しにくい
環境にある。そのため、規制の緩和や新たな主体による交通事業の展開 等に取
り組むことが必要である。
また、在宅医療を推進する観点からは、高齢者だけでなく医療や介護を提供
する専門職が移動する際の支援も必要である。医師や看護師等が高齢者宅へ訪
問する際の支援策等を講じることで円滑な医療・介護サービスの提供が期待さ
れる。
4.3.情報通信
情報通信に関する課題を踏まえて、それらを解決するための方策としては、
ICT を活用して医療・介護の連携を高めるような取り組みが必要である。すでに
高齢者の増加に対して生産年齢人口が減少しており、その傾向が加速すること
から医療や介護のさらなる担い手不足が懸念されている。このため、効率よく
医療・介護サービスを提供するには、医療・介護間の意思疎通を高め、お互い
を補完できるような取り組みが必要である。
また、ICT を活用して高齢者自身が健康づくりに取り組めるような商品やサー
ビスを開発することも必要である。健康寿命を延ばすためには、介護予防への
‐ 60 ‐
取り組みを強化することが必要であり、高齢者が介護予防に取り組みやすくな
るような支援や事業者の健康にかかわる分析能力を向上させるような取り組み
が必要である。
4.4.セキュリティ
セキュリティに関する課題を踏まえて、それらを解決するための方策として
は、高齢者を見守るような取り組みが必要である。独り暮らし高齢者が増加す
るなかで、特に都市部では近所付き合いが希薄化していること 等から、高齢者
が孤立しやすい状況にある。そのため、平常時においても高齢者が孤立しない
ように気軽に相談できる態勢の整備も必要である。
今後は、地域が一体となって高齢者を支えていく必要があることから、高齢
者が安心して生活できるような環境を整える必要がある。また、認知症高齢者
が急増するため、高齢者本人だけでなく家族も安心できるような環境づくりの
ためのサービスの提供が必要になる。
‐ 61 ‐
5.地域包括ケアシステムを支える事業と事業主体の検討
前章では、地域包括ケアシステムを支える 4 つの都市機能(「住まい」、
「交通」、
「情報通信」、
「セキュリティ」)において、解決すべき課題の方策について述べ
た。本章では、4 つの都市機能および「その他の生活支援事業」について、課題
を解決するための事業、事業手法及び支援策を検討する。
さらに、検討を行った後に各事業の推進のために期待される実施主体につい
て整理する。
5.1.事業の検討
5.1.1.住まい
「住まい」において、3 章で整理した課題を解決するための事業、事業手法及
び支援策として、①低価格型有料老人ホーム建設、②低所得者向け賃貸住宅入
居支援促進、③高齢者賃貸保証、④住宅リフォーム事業、⑤コミュニティ型賃
貸住宅、⑥不動産の有効活用、⑦施設と住民の交流促進の 7 つを提案する。以
下では、それぞれについて説明する。
事業名
内容
高齢者が自力で生活することが困難になった場合、施設等
【事業①】
低価格型有料
老人ホーム建
への住み替えが必要になると考えられる。その際、特に低所
概要
得高齢者は経済状況を考慮すると、低負担で生活できるよう
な住まいが必要になることから、増加している空き家や既存
の各種施設を活用して、建設コストを抑えた有料老人ホーム
設
を建設する。
概要
不動産業者が低所得者に保有物件を賃貸する際、不動産業
者に対して支援を行う。
東京都文京区
【事業②】
「文京すまいるプロジェクト」
低所得者向け
入居制限を受けやすい高齢者、障がい者、ひとり親世帯を
賃貸住宅入居
参考
対象に、住まいの確保と地域で自立した生活を送ることがで
支援促進
事例
きるように支援する事業。一定の条件を満たした賃貸住宅を
保有している不動産業者を協力店として登録し、高齢者が同
物件に入居した場合に、不動産業者に対して毎月 1 万円の謝
礼を渡している。
高齢者が退院後に新しい住居を探す際に、住まいを確保し
【事業③】
高齢者賃貸保
証
概要
にくいことがあるため、高齢者が賃貸住宅を借りやすくなる
ように、家賃の未払い等の発生時に公的機関等が連帯保証を
行う。
‐ 62 ‐
事業名
内容
高齢者の身体機能の低下等に対応して、自宅の段差解消や
スロープの設置、引き戸への変更、安全な浴室への転換等の
【事業④】
住宅リフォー
概要
ム
バリアフリーに対応した快適な生活を送ることができるよ
うな住まいへのリフォームサービスを提供する。
また、高齢者が安心してリフォーム事業者に注文できるよ
う業界団体が認証制度を設ける。
住み替え時に隣人等と人間関係を構築しやすいように、何
概要
らかの共通点を持つ人同士が集まって生活できるような住
環境を提供することで住み替えにかかる心理的不安を解消
することが期待できる。
【事業⑤】
㈱安田不動産(東京都千代田区)
コミュニティ
「コミュニティ賃貸マンション」
型賃貸住宅
参考
事例
音楽好きな人をターゲットにした「コミュニティ賃貸マン
ション」を建設し、賃貸している。通常の賃貸マンションに
入居者共有の音楽スタジオやシアタースペースを設置する
ことで、入居者のプライバシーを確保しつつ入居者同士の交
流を図ることが可能となっている。
住み替えが促進されない理由として、所有住宅の売却がう
まくいかないことや希望する金額で売却できないこと等が
【事業⑥】
不動産の有効
考えられる。そこで、不動産業者等が土地や建物の仲介事業
概要
活用
を行うことで円滑な売却が期待できる。また、所有住宅の価
値を高めることで、高齢者が希望する売却価格に近付けるこ
とが期待できるため、新たな買い手に魅力的に映るようなリ
ノベーションを行う。
入居者やその家族以外の地域住民が気軽に利用できるよ
概要
うに、施設内の一部をカフェやギャラリー等のオープンスペ
ースとして開放する。また、施設内の見学等を自由に受付け、
施設内の様子や入居者との交流機会を設ける。
①㈱アライブメディケア(東京都大田区)
【事業⑦】
地元百貨店が運行する循環バスの停留所を設置。施設内の
施設と住民の
共有スペースを地域内のサークル活動でも利用できるよ
交流促進
参考
事例
うに開放している。
②Share 金沢(石川県金沢市)
施設内に公園や温浴施設、レストランを設置している。
③㈱誠心(福岡県太宰府市)
有料老人ホーム内にカフェやギャラリー、図書室を設置し
ている。
‐ 63 ‐
5.1.2.交通
「交通」において、3 章で整理した課題を解決するため、①公共交通を軸とし
たコンパクトなまちづくりの強化、②柔軟な料金体系による輸送サービス、③
交通空白地域における多様な主体による運行サービス 、④搬送サービス、⑤運
行内容調整、⑥継続運行支援、⑦在宅医療に関する移動支援の 7 つを提案する。
以下では、それぞれについて説明する。
事業名
内容
人口減少社会に対応して、諸機能や施設を集積することで
概要
効率性を高めて、より良い行政サービスを提供できるような
【事業①】
まちづくりを展開する。
公共交通を軸
富山市
としたコンパ
「コンパクトなまちづくり」
クトなまちづ
参考
鉄軌道をはじめとした公共交通を活性化させ、その沿線に
くりの強化
事例
住居、商業、業務、文化等の都市諸機能を集積させることに
より、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづ
くりの実現を目指している。
同じタクシーでも都市部と中山間地域では需要と供給が
概要
異なることから、地域の実情に合わせて柔軟な料金体系を用
【事業②】
いることで、地域住民の利用意欲を高める。
柔軟な料金体
健軍商店街(熊本県熊本市)
系による輸送
サービス
「お出かけ支援サービス」
参考
事例
買物に困っている地区の住民を対象に商店街まで片道 350
円で送迎するサービスを実施している。通常のタクシー料金
の 3 割程度の運賃で商店街まで移動することができる。
【事業③】
バスやタクシーが運行していない地域で、規制緩和を活用
交通空白地域
における多様
してボランティアドライバー等による有償送迎ができるよ
概要
うなサービスを提供する。
な主体による
運行サービス
‐ 64 ‐
事業名
内容
退院時の搬送や移動しながら緊急性の低い医療行為を受
概要
ける必要がある場合等に、救急車に代わって患者を送迎する
サービスを提供する。
【事業④】
㈲やぐちタクシー(広島県広島市)
搬送サービス
「民間救急車サービス」
参考
事例
救急車両と同様の車両を用いて、退院時の自宅への搬送や
旅行先で病気や事故に遭遇し病院から自宅へ帰宅する時等
に搬送するサービスを提供している。
概要
利用者のニーズに合わせたルート設定や運行頻度に調整
する。
南地区コミュニティ運営委員会(福岡県大野城市)
【事業⑤】
運行内容調整
「コミュニティバスふれあい号」
参考
市からの委託事業として、住民主体のコミュニティバス
事例
「ふれあい号」を運行している。運行時に、地域住民の利用
動向や商業施設あるいは病院等の新規立地に合わせて運行
ルートを適宜変更し、利便性を高めている。
概要
収入を確保するような支援を行う。
㈲まちづくり公社呉羽(富山県富山市)
【事業⑥】
継続運行支援
コミュニティバスが継続的に運行できるよう、運賃以外の
「協賛金の提供」
参考
事例
呉羽地区自主運行バス「呉羽いきいきバス」の運行には、
市からの委託金と地元住民や企業等から協賛金を提供して
もらうことで経費を賄っている。
概要
【事業⑦】
在宅医療に関
する移動支援
訪問診療、訪問看護に取り組む病院・診療所・事業者に対
して患者宅への訪問時に発生する費用を補助する。
島根県
参考
事例
「在宅医療推進支援制度」
市町村が行う在宅医療(訪問診療、訪問看護)の推進に関
する事業に対して、県が市町村の事業費を補助する制度を創
設している。
‐ 65 ‐
5.1.3.情報通信
「情報通信」において、3 章で整理した課題を解決するため、①患者情報共有
システムの開発、②低価格システム開発、③患者情報システム標準化、④健康
データ管理把握、⑤ユニバーサルデザイン機器開発、⑥救急搬送支援システム
開発の 6 つを提案する。以下では、それぞれについて説明する。
事業名
内容
医師や看護師、介護従事者、薬剤師等の多職種間において、
概要
患者情報の共有や訪問時の記録記入、意見交換ができるよう
な情報共有システムを開発する。
①新川地域在宅医療療養連携協議会(富山県黒部市)
「あんしん在宅ネットにいかわ」
【事業①】
富山県内の新川医療圏と滑川市、中新川郡において、ICT
患者情報共有
システムの開
発
を利用した患者情報共有システムを用いて多職種間による
参考
事例
在宅医療連携に取り組んでいる。
②島根県医療政策課
「まめネット」
島根県内全域を対象に、ICT を利用した患者情報共有シス
テムを利用して多職種間による在宅医療連携に取り組んで
いる。患者宅への訪問時にはタブレット端末を利用してい
る。
【事業②】
低価格システ
利用する医療機関や介護事業者にとって必要な機能のみ
概要
発する。
ム開発
【事業③】
患者情報シス
を搭載した低価格であり、使いやすい情報共有システムを開
異なるシステム同士で患者データの相互交換ができるよ
概要
うな編集システムを開発する。
テム標準化
病気や介護状態に陥る兆候を事前に把握できるように、体
概要
重や血圧、摂取カロリー等の健康に関するデータを収集し解
析するようなサービスを提供する。
【事業④】
㈱タニタ(東京都板橋区)
健康データ管
理把握
「無料健康管理アプリ
ヘルスプラネット」
参考
同社の体組成計や歩数計で測定した体重・体脂肪、歩数等
事例
のデータを収集する。データをパソコン・スマートフォンへ
送信して、グラフ化する等をして時系列変化を閲覧できるよ
うになっている。
‐ 66 ‐
事業名
内容
高齢者が使いやすいように、大きなボタンや画面、数値表
概要
【事業⑤】
い簡易な操作といった使いやすいデザインの機器を開発す
る。
ユニバーサル
㈱インテック
デザイン機器
開発
示といった視覚面での工夫や持ち運びまたは身に着けやす
「いきいきシニア倍増計画 in とやま」
参考
事例
同事業で使用した活動量計は、専用機器にかざすだけでパ
ソコン上の個人専用ページにジャンプしてデータを閲覧で
きる等、使いやすいデザインとなっている。
搬送時のミスマッチを減少するためには、救急車と病院を
概要
情報でつなぐことや受け入れ病院を確認する時間が短縮で
きるようなシステムを開発する。
【事業⑥】
日本マイクロソフト㈱
救急搬送支援
「クラウドサービス ofice365」を活用した救急搬送支援システム
システム開発
参考
事例
救急搬送時に救急車内でタブレット端末を利用して、事故
現場の状況や心電図等画像を医療機関とリアルタイムで共
有できる。また、複数の病院へ患者の受け入れ打診を行える
等、救急搬送時の効率化につながっている。
‐ 67 ‐
5.1.4.セキュリティ
「セキュリティ」において、3 章で整理した課題を解決するため、①高齢者安
否確認、②緊急通報駆けつけの 2 つを提案する。以下では、それぞれについて
説明する。
事業名
内容
概要
高齢者の健康状態等を定期的に把握するような見守りサ
ービスを提供する。
㈱こころみ(東京都渋谷区)
「つながりプラス」
【事業①】
契約している独り暮らし高齢者に専属の担当者(コミュニ
高齢者安否確
認
ケーター)が毎週 2 回電話して体調や近況についての会話を
参考
事例
行う。そして、その結果を家族にメールでレポートする会話
型の見守りサービスを提供している。会話内容をそのままレ
ポートするため日常の様子を把握しやすいことや家族に伝
えにくいことをコミュニケーターに話こともあるため、困り
ごと等を把握しやすい等のメリットがある。
独り暮らしであっても安心して生活できるように、体調を
概要
崩した際、緊急で駆けつけられるようなサービスを提供す
る。
ALSOK あんしんケアサポート㈱(東京都大田区)
【事業②】
「予防型緊急通報サービス」
緊急通報駆け
つけ
高齢者宅に緊急通報装置を設置して、高齢者が体調不良時
参考
に装置の緊急ボタンを押すと専用コールセンターにつなが
事例
る。看護師や保健師等が症状を確認した後、協力員や駆けつ
け員が駆けつけるあるいは救急車の要請を行う等の見守り
サービスを提供している。また、月に 1 回以上は同社から高
齢者へ電話をかけて近況等について会話を行っている。
‐ 68 ‐
5.1.5.その他の生活支援事業
「その他の生活支援事業」において、3 章で整理した課題を解決するため、①
調理方法指導、②療養食提供、③資産管理サービス、④遺品整理サービス、⑤
家族介護者相談、⑥家族介護者の一時的休息支援(レスパイトケア)、⑦移動販
売、⑧買い物付き添い支援、⑨注文・購入代行、⑩荷物輸送代行、⑪介護事業
者成功報酬、⑫ヘルスケアポイントサービス、⑬趣味嗜好型介護予防、⑭病気
介護リスク解析、⑮オーダーメイド型健康プログラム提供、⑯社会参加機会創
出、⑰生涯学習プログラム提供の 17 つを提案する。以下では、それぞれについ
て説明する。
事業名
内容
概要
【事業①】
調理方法指導
食に対する興味関心を高めるよう、各種調理方法の紹介や
指導、栄養に関する情報提供を行うサービスを提供する。
㈱ABC Cooking Studio(東京都千代田区)
参考
事例
「未病を治そう 1day レッスン」
未病に関する食知識の発信と「未病を治す」をテーマとし
た調理レッスンを提供している。
外出が困難な高齢者には食べやすいようなサイズや堅さ
概要
に調整したお弁当や総菜の開発といったサービス提供(配
達)も効果的であると考えられる。
【事業②】
㈱シルバーライフ(東京都新宿区)
療養食提供
高齢者様向けに味付け、栄養バランス等に配慮した弁当を
参考
事例
日替わりで提供している。弁当には「小町」、
「普通食」、
「カ
ロリー調整食」、
「低たんぱく食」、
「ムース食」の 5 種類を準
備し、健康状態に合わせられるように配慮している。
概要
【事業③】
資産管理サー
ビス
高齢者の財産を守るために、資産に関して気軽に相談でき
るサービスや管理代行サービスを提供する。
城南信用金庫(東京都品川区)
参考
事例
「いつでも安心サポート」
高齢になり判断能力が低下した場合に備え、自宅への現金
配達、振り込みの代行、後見制度手続きの紹介 等財産管理に
関する 7 つの支援サービスを提供している。
【事業④】
遺品整理サー
故人や遺族の希望に基づいて遺品を「残すもの」「売却す
概要
るもの」「廃棄するもの」等に仕分けて整理する。
ビス
‐ 69 ‐
事業名
内容
【事業⑤】
家族介護者相
介護に関する悩みを相談・支援するようなサービスを提供
概要
する。
談
【事業⑥】
在宅介護の要介護状態にある高齢者を一時的に預かり、家
家族介護者の
一時的休息支
族介護者を介護から解放して休息がとれるようなサービス
概要
援(レスパイト
を提供する。
ケア)
概要
き、地域住民に買い物の機会を提供する。
㈱広電ストア(広島県広島市)
【事業⑦】
移動販売
食料品や日用品を積んだ販売車が地域の公民館等へ出向
参考
事例
「移動販売車ヒロデンジャー」
住宅団地に大型バスを改造した移動販売車を週 3 日、1 回
あたり 7 時間営業している。社内には野菜、生鮮食品、冷凍
食品、日用品等 380 品目を揃えている。
概要
高齢者を小売店への送迎し、買い物に付き添うようなサー
ビスを提供する。
【事業⑧】
買い物付き添
い支援
㈱バイタルリード(島根県出雲市)
参考
事例
「ショッピングリハビリツアー」
高齢者をスーパーまで送迎し、買い物に付き添うサービス
を提供している。また、スーパー内では体力測定と健康体操
とエステを行っている。
概要
聞いて代わりに操作するようなサービスを提供する。
NPO 法人共働のまち大野城南コミ(福岡県大野城市)
【事業⑨】
注文・購入代行
インターネット環境にある人材や組織が高齢者の意向を
参考
事例
「ごきげんお届け便」
イオン九州と連携して、高齢者の代わりにインターネット
で購入を希望する商品を注文し、イオン九州の店舗が高齢者
宅へ宅配する買い物支援を行っている。
概要
発生する手荷物を高齢者宅へ運ぶサービスを提供する。
健軍商店街(熊本県熊本市)
【事業⑩】
荷物輸送代行
商店街やショッピングセンター等で買い物を行った際に
参考
事例
「らくらくお買い物システム」
軽貨物免許を取得した㈲肥後タクシーが、商店街内での買
い上げ品を顧客の自宅へ輸送することで買い物時の荷物の
負担を軽減する。
‐ 70 ‐
事業名
内容
介護事業者に対して、施設利用者の要介護度が改善された
概要
際に何らかの報酬を与えるようなインセンティブ制度を導
入する。
【事業⑪】
岡山市医療政策推進課
介護事業者成
「デイサービス改善インセンティブ事業」
功報酬
参考
市が指定する評価指標(外部研修への参加、認知症高齢者
事例
の受入数、利用者の日常生活機能の維持・改善度合い)等の
複数の評価指標を用いて介護事業者を評価して、上位の事業
所に対して奨励金を支払う。
概要
【事業⑫】
高齢者が介護予防に取り組んだ際にポイントが加算され
るような制度を設ける。
岡山市医療政策推進課
ヘルスケアポ
「介護予防ポイント事業」
イントサービ
参考
ス
事例
要支援認定から非該当となった高齢者が、市内のフィット
ネスクラブや健康教室に通った際にポイントが加算され、一
定程度貯まると特産品等と交換できる事業を実施している。
概要
機能訓練の一環として余暇やレジャーに関するメニュー
を取り入れたサービスを提供する。
①社会福祉法人夢のみずうみ村(山口県山口市)
「カジノを取り入れた生活力向上プログラムの提供」
デイサービス施設のプログラムの一つにカジノ(麻雀・ル
【事業⑬】
趣味嗜好型介
護予防
ーレット・カードゲーム・輪投げ・ボーリング・カルタ等の
参考
事例
遊技)を提供している。
②㈱クボタライフ九州(熊本県熊本市)
「農作業を取り入れたデイサービス施設」
農機具メーカーの㈱クボタが出資している介護サービス
事業者。施設内に園芸用温室を設置して、利用者が野菜作り
を行い、収穫後は食している。また、屋上にはハーブ園を設
置している。
‐ 71 ‐
事業名
内容
病気や介護状態に陥る兆候を事前に把握できるように、健
概要
康に関するデータを収集し解析するようなサービスを提供
する。
①味の素㈱(東京都中央区)
「アミノインデックス」
【事業⑭】
血液中のアミノ酸濃度を測定することで、胃がんや大腸が
病気介護リス
ク解析
ん等の7種類のがんに対するリスクを探る分析サービスを
参考
有料で行っている。
事例
②ケアプロ㈱(東京都中野区)
「セルフ健康チェック」
自己採血による血液検査を行い、血糖値や中性脂肪、コレ
ステロール等の数値を計測する。1 回 500 円~と低価格であ
り、結果がその場でわかるため気軽に受診できる。
健康状態や身体機能には個人差があるため、高齢者一人ひ
概要
とりに適した運動プログラムサービスを提供することで健
康の維持・向上につながることを期待する。
【事業⑮】
㈱パーソナルボディマネジメント(福岡県福岡市)
オーダーメイ
「マンツーマン指導によるトレーニング」
ド型健康プロ
グラム提供
参考
事例
高齢者の身体的特徴を把握し、また、どのような状態にな
りたいのかをトレーナーと相談する。そして、専属のトレー
ナーがマンツーマンで付き、専門性の高い知識を生かし科学
的根拠に基づいて、身体機能の改善に向けた体のケアを行っ
ている。
【事業⑯】
社会参加機会
健康と病気・介護の隙間にいる高齢者に対して、充実した
概要
時間を過ごすことができるようなサービスを提供する。
創出
概要
【事業⑰】
生涯学習プロ
グラム提供
認知症にならないように高齢者の五感を刺激するような
レクリエーションサービスを提供する。
㈱おとなの学校(東京都中央区)
参考
事例
「デイサービス施設おとなの学校」
高齢者の学びの場をコンセプトに、機能訓練・脳リハビリ
等を国語・算数・理科・社会・家庭科・音楽・体育等の「授
業」という形で提供しているデイサービス施設。
‐ 72 ‐
5.2.事業の整理と事業主体
5.2.1.事業の整理
前節では、実態調査から得られた課題を解決するための事業、事業手法及び
支援策を検討した。本調査では、民間事業者として地域包括ケアシステムを支
えるための産業の可能性を探っているが、すべての事業を民間事業者が担うこ
とができるとは言い難いと思われる。そこで 本節では、前節で検討した民間事
業者として各事業への関与しやすさについて整理する。
図表 5.1
地域包括ケアを支えるために有効と考えられる事業、事業手法及び支援策
機能分類
住まい
交通
情報通信
セキュリティ
その他の
生活支援事業
課題解決に有効と考えられるもの
①低価格型有料老人ホーム建設
②低所得者向け賃貸住宅入居支援促進
③高齢者賃貸保証
④住宅リフォーム
⑤コミュニティ型賃貸住宅
⑥不動産の有効活用
⑦施設と住民の交流促進
①公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりの強化
②柔軟な料金体系による輸送サービス
③交通空白地域における多様な主体による運行サービス
④搬送サービス
⑤運行内容調整
⑥継続運行支援
⑦在宅医療に関する移動支援
①患者情報共有システムの開発
②低価格システム開発
③患者情報システム標準化
④健康データ管理把握
⑤ユニバーサルデザイン機器開発
⑥救急搬送支援システム開発
①高齢者安否確認
②緊急通報駆けつけ
①調理方法指導
②療養食提供
③資産管理サービス
④遺品整理サービス
⑤家族介護者相談
⑥レスパイトケア
⑦移動販売
⑧買い物付き添い支援
⑨注文・購入代行
⑩荷物輸送代行
⑪介護事業者成功報酬
⑫ヘルスケアポイントサービス
⑬趣味嗜好型介護予防
⑭病気介護リスク解析
⑮オーダーメイド型健康プログラム提供
⑯社会参加機会創出
⑰生涯学習プログラム提供
‐ 73 ‐
5.2.2.各事業の実施主体
a.自治体が期待している各事業の主体
中国地域の自治体アンケート調査では、いくつかの事業分野における望まし
い実施主体について尋ねた(44 頁)。再掲になるが、これによると、
「食材配達」
や「移動販売」、「住宅の増改築」、「セキュリティ(防犯)」の 4 つについては多
くの自治体が民間事業者による事業展開を期待していることがうかがえる。
また、「介護施設の建設・管理・運営」や「配食サービス」、「安否確認」、「外
出支援」、「家事援助」については、行政による幾分の補助はあるものの、民間
事業者が主体的に取り組んでほしいと考えているようである。
一方、
「通信手段の確保」、
「医療情報の活用」、
「認知症予防」、
「健康増進」、
「介
護者支援」、「公共交通手段の確保」については行政による事業として実施しよ
うという意識が高くなっている。
図表 5.2
(%)
生活支援サービスにおける事業主体(再掲)
0.0
20.0
40.0
食材配達
80.0
75.8
移動販売
23.5
50.0
介護施設の建設・管理・運営
14.7
42.9
配食サービス
安否確認
12.5
25.0
外出支援
18.8
医療情報の活用
17.6
家事援助
公共交通手段の確保 2.9
認知症予防 3.0
9.1
28.1
17.6
23.5
30.3
3.0
18.8
31.3
29.4
21.2
47.1
36.4
60.6
55.9
66.7
33.3
57.6
最初から民間事業者が行うもの
原則的に民間事業者がすべきものであるが、補助金を出して、その後自立させるもの
行政から民間事業者に委託すべきもの
行政が行うべきもの
‐ 74 ‐
2.9
40.6
48.5
15.2
11.8
30.3
46.9
5.9
5.9
22.9
18.8
28.1
15.2
健康増進 3.0
23.5
33.3
28.1
3.1
11.8
31.4
33.3
通信手段の確保
3.0
28.1
58.8
セキュリティ(防犯)
100.0
21.2
68.8
住宅の増改築
介護者支援
60.0
3.1
b.事業主体の分類
自治体アンケート調査の結果を参考に、前章で検討した各事業を展開しやす
い主体を分類すると以下のようになると考えられる。分類にあたっては、取り
扱う個人情報の量と質、採算性、初期投資の多寡、公平性などを判断基準とし
ている。
(a)住まい
「住まい」については前節で 7 つの事業を提案した。このうち、自治体アン
ケート調査を参考に民間事業者が主体となって展開しやすい事業としては「住
宅リフォーム事業」、「コミュニティ型賃貸住宅」、「不動産の有効活用」、「低価
格型有料老人ホーム建設」、「施設と住民の交流促進」の 5 つが挙げられる。
一方、
「低所得者向け賃貸住宅入居支援促進」と「高齢者賃貸保証」について
は、自治体アンケート調査では挙がっていない項目だが事業内容や参考となる
事例を考慮すると、行政による展開の方がふさわしいといえる。
図表 5.3
「住まい」に関する事業展開が期待される主体
・低所得者向け賃貸住宅入居支援促進
・高齢者賃貸保証
行政
・住宅リフォーム事業
・コミュニティ型賃貸住宅
・不動産の有効活用
・低価格型有料老人ホーム建設
・施設と住民の交流促進
事業展開が期待される主体
民間
(b)交通
「交通」については前節で 7 つの事業を提案した。このうち、自治体アンケ
ートや取り上げた事例を参考に民間事業者が主体となって展開しやすい事業と
しては「搬送サービス」が挙げられる。
一方、
「柔軟な料金体系による輸送サービス」、
「交通空白地域における多様な
主体による運行サービス」については、行政と民間が連携しながら取り組む内
容といえる。また、「運行内容調整」と「継続運行支援」はコミュニティバスに
関する事業であることから、こちらも行政と民間の連携がふさわしいと考えら
れる。
そして、
「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりの強化」と「在宅医療
に関する移動支援」については行政による展開がふさわしいといえる。
‐ 75 ‐
図表 5.4
「交通」に関して事業展開が期待される主体
・公共交通を軸としたコンパク ・柔軟な料金体系による輸送サービス
トなまちづくりの強化
・交通空白地域における多様な主体
・在宅医療に関する移動支援
による運行サービス
・運行内容調整
・継続運行支援
行政
・搬送サービス
民間
事業展開が期待される主体
(c)情報通信
「情報通信」については前節で 6 つの事業を提案した。自治体アンケート調
査ではこの分野に関する設問項目がなかったため事業主体については参考とな
る事例から判断する。各事業はシステムや機器の開発であることから、民間事
業者が主体となって展開することが期待されるといえる。
図表 5.5
「情報通信」に関して事業展開が期待される主体
・患者情報共有システムの開発
・低価格システム開発
・患者情報システム標準化
・健康データ管理把握
・ユニバーサルデザイン機器開発
・救急搬送支援システム開発
行政
事業展開が期待される主体
民間
(d)セキュリティ
「セキュリティ」については前節で 2 つの事業を提案した。自治体アンケー
ト調査や取り上げた事例を参考にすると、2 事業とも民間事業者が主体となって
展開することが適している。
図表 5.6
「セキュリティ」に関して事業展開が期待される主体
・高齢者安否確認
・緊急通報駆けつけ
行政
事業展開が期待される主体
‐ 76 ‐
民間
(e)その他の生活支援事業
「その他の生活支援事業」については前節で 17 の事業を提案した。このうち、
自治体アンケート調査や取り上げた事例を参考に民間事業者が主体となって展
開しやすい事業としては「調理方法指導」、
「療養食提供」、
「資産管理サービス」、
「遺品整理サービス」、
「移動販売」、
「買い物付き添い支援」、
「注文・購入代行」、
「荷物輸送代行」、「趣味嗜好型介護予防」、「オーダーメイド型健康プログラム
提供」、「社会参加機会創出」、「生涯学習プログラム提供」が挙げられる。
一方、残りの「家族介護者相談」、「家族介護者の一時的休息支援(レスパイ
トケア)」、
「介護事業者成功報酬」、「ヘルスケアポイントサービス」、「病気介護
リスク解析」については、行政による展開の方が適しているといえる。
図表 5.7
「その他の生活支援事業」に関して事業展開が期待される主体
・家族介護者相談
・家族介護者の一時的休息支援
(レスパイトケア)
・介護事業者成功報酬
・ヘルスケアポイントサービス
・病気介護リスク解析
行政
・調理方法指導
・療養食提供
・資産管理サービス
・遺品整理サービス
・移動販売
・買い物付き添い支援
・注文・購入代行
・荷物輸送代行
・趣味嗜好型介護予防
・オーダーメイド型
健康プログラム提供
・社会参加機会創出
・生涯学習プログラム提供
事業展開が期待される主体
‐ 77 ‐
民間
(補論)ケーススタディによる都市機能及び生活支援産業に関する検証
前章では、実態調査から浮かび上がった問題点を「住まい」、「交通」、「情報
通信」、「セキュリティ」、「その他の生活支援事業」の分野ごとに整理した。そ
して、地域包括ケアシステムを支えるために必要と考えられる事業を検討した。
本章では、産業形成の可能性を探るために、それらの事業を実際に中国地域
の特定の地域に当てはめて有効なものなのかを検証するケーススタディ を行う。
1.調査方法とモデル地域の選定
1.1.調査方法
ケーススタディの方法としては、まず中国地域内からいくつかの地域(自治
体)を選定する。そして、選定した地域(市役所)に訪問してヒアリング 調査
を行い、現状での種事業への取り組み状況や課題 等を踏まえて、前章で挙げた
事業のなかで有効性が高いものがどの程度をあるのかを検証する。
図表補.1
ケーススタディの流れ
モデル地域の選定
モデル地域(自治体)へのヒアリング調査
前章で検討した事業の有効性・必要性に関する確認
モデル地域間の比較
比較からみえる特徴の整理
‐ 78 ‐
1.2.モデル地域の選定
中国地域は、平野部から沿岸部、島嶼部、山間部といろいろな地形を有して
いる地域である。また、各自治体の人口規模をみると、数千人から 100 万人を
超える地域と幅広い自治体で構成されている。これらすべてについて調査する
ことは膨大な労力と時間を必要とすることから困難である。そこで、特定の地
域を選定してケーススタディを行うこととする。
モデル地域を選定する条件は、以下の 3 点とする。
① 都市地域と中山間地域から各 1 地域を選定する。
② 山陽地域と山陰地域から各 1 地域を選定する
③ 実態調査の自治体ヒアリング調査で訪れている地域のなかから選定する。
この 3 点から、本調査では岡山県岡山市と島根県大田市の 2 地域をモデル地
域としてケーススタディを行う。
図表補.2
モデル地域の選定
モデル地域の選定条件
① 都市地域と中山間地域から各 1 地域
② 山陽地域と山陰地域から各 1 地域
③ 実態調査の自治体ヒアリング調査で訪れている地域
岡山県岡山市
島根県大田市
鳥取県
島根県
大田市
岡山県
岡山市
広島県
山口県
‐ 79 ‐
2.調査結果
以下では、大田市と岡山市でのケーススタディ結果を示す。
2.1.大田市
a.大田市の概要
大田市は、島根県の中部に位置し、人口約 3.8 万人で高齢化率が 35.8%の自
治体ある。
地形の特徴としては、北は日本海、南は国立公園三瓶山に挟まれた地域であ
る。人口密度は 86.14 人/k ㎡であり、全国平均(同:340.23 人/k ㎡)の4分の
1程度となっている。
地域包括ケアシステムを構築するうえでの基本単位となる日常生活圏域数を
7 圏域と設定しており、これはまちづくりの基本ブロックと重複したものになっ
ている。
図表補.3
項
■訪
目
問
■面
■世
大田市の概要
帯
■人
内
容
日
平成 27 年 12 月 18 日(金)
積
436.12k㎡
数
16,096 世帯(平成 26 年 4 月 1 日時点)
口
37,568 人(同)
■人
口
密
度
86.14 人/k ㎡(同)
■高
齢
者
数
13,449 人(同)
■高
齢
化
率
35.8%(同)
■日常生活圏域数
7 圏域(まちづくりの基本単位と同じ)
大田市
‐ 80 ‐
b.地域包括ケアシステムに対する考え方
大田市が作成した第 6 期介護保険事業計画では、
「だれもが支え合い安心して暮
らせる長寿社会の実現」を基本理念として地域包括ケアシステムの構築を目指し
ている。
そして、基本目標として①介護予防の総合的な推進、②在宅医療・介護連携の
推進、③認知症対策の推進、④生活支援の充実、⑤安心できる住まいの確保、⑥
介護サービスの充実の 6 つを定めてさまざまな施策を展開している。
図表補.4
基本理念
だ
れ
も
が
支
え
合
い
安
心
し
て
暮
ら
せ
る
長
寿
社
会
の
実
現
大田市の第 6 期介護保険事業計画の体系図
基本目標
基本目標の方向性
①介護予防の総合的な推進
・健康づくりの推進
・介護予防の推進
・介護予防・日常生活支援総合事業の推進
・生きがいづくりの推進
②在宅医療・介護連携の推進
・在宅医療・介護連携の推進
③認知症対策の推進
・認知症対策の推進
④生活支援の充実
・生活支援サービスの確保
・支え合い活動の推進
・権利擁護の推進
⑤安心できる住まいの確保
・安心できる住まいの確保
⑥介護サービスの充実
・サービス基盤の計画的な整備
・低所得者への配慮
・介護給付の適正化
・介護保険の円滑な実施
資料:大田市「大田市高齢者福祉計画第 6 期介護保険事業計画」
‐ 81 ‐
c.地域包括ケアシステムの構築に向けて取り組んでいる事業
大田市では、上述した基本理念、基本目標、取り組み方針に基づいて、以下
のような事業に取り組んでいる。
図表補.5
大田市における取り組み方針と主な事業
主な事業
取り組み方針
・健康づくりの推進
・介護予防の推進
・介護予防・日常生活支援総合事業の推進
・生きがいづくりの推進
・在宅医療・介護連携の推進
①介護予防普及啓発事業、②高齢者体力アップ事業、
③高齢者介護予防まちづくり交流事業、
④地域介護予防活動支援事業 など
①地域の医療・介護サービス資源の把握、
②在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応の協議、
③在宅利用・介護サービスの情報の共有支援、
④在宅医療・介護関係者の研修、⑤地域住民への普及啓発、
⑥在宅医療・介護連携支援センター(仮称)の運営、
⑦24時間365日の在宅医療・介護サービス提供体制の構築、
⑧大田圏域内・関係市町の連携 など
・認知症対策の推進
①認知症重度化予防、②成年後見支援、
③認知症サポーター養成、④認知症ネットワーク など
・生活支援サービスの確保
・支え合い活動の推進
・権利擁護の推進
①見守り活動、②緊急通報装置設置費助成事業、
③ボランティア団体等の育成と活動、
④高齢者虐待事例研究会、⑤日常生活自立支援事業、
⑥成年後見制度の利用支援事業、⑦消費者被害防止 など
・安心できる住まいの確保
①生活支援ハウス、②養護老人ホーム、③軽費老人ホーム、
④有料老人ホーム、⑤サービス付き高齢者向け住宅 など
・サービス基盤の計画的な整備
・低所得者への配慮
・介護給付の適正化
・介護保険の円滑な実施
①訪問介護、②短期入所療養介護、③訪問看護、
④居宅介護支援、⑤通所リハビリテーション、⑥介護老人保
健施設、⑦認知症対応型共同生活介護、⑧特定施設入居者生
活介護、⑨地域密着型特定施設入居者生活介護、⑩定期巡
回・随時対応型訪問介護看護、⑪小規模多機能型居宅介護、
⑫夜間対応型訪問介護、⑬看護小規模多機能型居宅介護、
⑭社会福祉法人軽減制度、⑮家族介護支援事業
⑯在宅生活復帰支援事業 など
資料:大田市「大田市高齢者福祉計画第 6 期介護保険事業計画」
‐ 82 ‐
d.有効性が高いと考えられる事業
大田市高齢者福祉課にヒアリング調査を行い、
「住まい」、
「交通」、
「情報通信」、
「セキュリティ」、「その他の生活支援事業」の各分野において、地域包括ケア
システムを支えるうえで有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び支援策
を確認した。
(a)住まい
「住まい」については、前章で挙げた①低所得者の住み替え支援、②退院後
の住まいの確保、③既存住宅の修繕、④住み替え支援・資金確保、⑤高齢者の
孤立を防ぐことと地域と交流・共生ができる関係構築という 5 つの分野におい
て大田市で有効性が高い。
ヒアリング調査では、住み替えによって発生する既存住宅の維持費用と転居
先での家賃という二重負担がかかることを懸念する意見が聞かれた。
また、住み替え先として期待が寄せられているサービス付き高齢者向け住宅
は家賃が一般的な賃貸住宅に比べ高く設定されているため、特に所得が低い高
齢者にとっては大きな負担になると考えられる。このことから、「住まい」に関
して、有効性が高い事業としては、「不動有効活用事業」が考えられる。既存の
所有住居や土地を売却・賃貸することで、経済的負担を軽減することができれ
ば、住み替えが促進されると考えられる。
また、
「低価格型有料老人ホーム建設事業」も有効な事業だと考えられる。サ
ービス付き高齢者向け住宅の家賃が高い背景には、建物 を新規建設するため、
コストが高くなってしまうことが考えられる。既存の空き家や賃貸住宅 等をリ
フォームして、建設コストを抑えて低家賃で入居できる賃貸住宅を提供するこ
とで、住み替えが促進できると考えられる。ただし、完全な有料老人ホームで
はなく、食事や介護サービスについては入居者が希望する時のみ提供するよう
な柔軟な仕組みで対応することで利用者負担をさらに軽減することが考えられ
る。
図表補.6
課題
「住まい」に関して有効性が高いと考えられる事業
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
住み替え支援
不動産の有効活用
低所得者の
低価格型有料老人
住み替え支援
ホーム建設
住み 替え によ っ て発 生す る費 用を 軽減 す る必
要があるため、既存の所有住居や土地を売却・賃
貸するサービスを提供できれば、高齢者が住み替
えに前向きになることが期待できる。
サー ビス 付き 高 齢者 向け 住宅 は家 賃が 高 いた
め、既存の空き家や賃貸住宅等をバリアフリーに
対応したリフォームを行い、建設コストを抑えて
低家賃で入居できる賃貸住宅を提供する。
‐ 83 ‐
(b)交通
「交通」については、①規制緩和等による高齢者の移動支援、②コミュニテ
ィバスの利便性向上・運営支援、③中山間地域での訪問診療・訪問看護支援と
いう 3 分野で有効性が高い事業、事業手法及び支援策を確認する。
大田市の公共交通の現状をみると、民間のバス会社 1 社が路線バスを運行し
ている。ただし、中山間地域から中心部までの乗車料金が片道 1,000 円を超え
るような地域がみられること等から、運転免許を持っていない高齢者にとって
は大きな負担であるため、気軽に外出することが難しい状況にある。このよう
なこと等から、中山間地域にとって交通は大きな問題となっている。
そこで大田市では、行政、民間問わずに交通弱者の移動支援としてさまざま
な対応策が採られている。民間では、ある診療所においては退職したタクシー
ドライバーを活用して高齢者の送迎を行っている。また、行政としては、公共
交通空白地帯でコミュニティバス運行をタクシー会社へ委託している。
担当者へのヒアリングから聞かれた要望としては、現在の路線バスは駅や病
院等の施設を経由しているが、今後はコミュニティセンターを経由するような
ルート設定にすることで、買い物、通院以外の外出機会を創出につながること
を望んでいる。また、自宅からバス停まで近い住民と遠い住民とでは状況が異
なることから、環境に応じた対応策を講じる必要があるとの意見が聞かれた。
図表補.7
課題
「交通」に関して有効性が高いと考えられる事業
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
柔軟な料金体系に
外出頻度を高めるためには、運賃を抑える
規制緩和等によ
よる輸送サービス
仕組みづくりが必要である。
る高齢者の移動
交通空白地域における
支援
多様な主体による運行
規制を緩和して中山間地域の高齢者が外
出しやすい環境づくりが必要である。
サービス
コミュニティバスだけでなく、路線バスに
コミュニティバ
スの利便性向
上・運営支援
ついても、駅や病院だけを経由するのではな
運行内容調整
く、コミュニティセンター等の施設も経由す
るような運行ルートを設定することで、利便
性を高めることが期待できる。
‐ 84 ‐
(c)情報通信
「情報通信」について、前章では医療・介護の連携や健康データの管理、救
急搬送時における情報伝達等 6 つを提案した。これらが大田市でどの程度有効
なものなのかを確認する。
まず、医療・介護の連携として患者情報の共有システムとして島根県が推進
している「まめネット」があるが、大田市内における利用状況はあまり高くな
いようである。この背景には、市内の開業医は年齢が高いこと 等から電子カル
テを導入していないことが挙げられる。そこで、電子カルテの導入や患者情報
の共有を促進させるためには、設備の導入に加え、高齢の医師に代わってデー
タ入力を行う「医療事務作業補助者」を活用することが効果的だと考えられる。
次に、健康データの管理については、歩数データ等を収集することも重要だ
が、GPS 等を利用して 1 日の行動を記録するライフログを収集して疾病に陥りや
すい生活習慣等を分析するようなサービスの創出を期待しているようである。
さらに、中山間地域の特徴として、高齢者宅から病院や診療所まで遠いこと
が挙げられる。このため、外来でも往診でも移動に時間がかかってしまう。そ
こで、テレビ電話等を利用した遠隔診療を取り入れることは移動の効率性を高
めることが期待できるため、情報通信を活用した有望な事業といえる。
図表補.8
課題
「情報通信」に関して有効性が高いと考えられる事業
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
遠隔診療支援
テレビ電話等を活用して遠隔診療ができ
るようなシステムを開発する。
医師に代わって診断書・処方せん・紹介状
ICT の利用拡大
医療事務補助作業
の作成や、カルテの入力代行、医療情報のデ
ータ処理等を行うことで、ICT の普及に一役
買うことが期待できる。
GPS 等を利用して生活データを記録、収集、
健康データの
管理・収集
行動分析
分析して、介護や生活習慣病等の予防に役立
つようなソフトウェアやアプリケーション
ソフトを開発する。
*いずれの事業も前章で検討した事業ではなく、大田市の現状に基づいて必要と考えられ
る事業である。
‐ 85 ‐
(d)セキュリティ
「セキュリティ」に関しては、①認知症高齢者等の安否確認と②緊急時の対
応、という 2 つの分野に関する事業について有効性を検証する。
安否確認については、現在、大田市内のガス会社等がガス使用量等の変化を
みて家族へ連絡する見守り、安否確認といったサービスを展開している。
また、「緊急時の対応」は、脳血管や心臓、呼吸疾患等を患っている 65 歳以
上の独り暮らし高齢者に対して緊急通報装置を設置費の助成を市が行っている。
これらのことから、前章で検討した「セキュリティ」に関する「緊急通報駆
けつけ事業」と「高齢者安否確認事業」はともに行われている状況にある。た
だし、
「高齢者安否確認事業」に関しては、高齢者の健康状態を定期的に家族に
報告するようなサービスまでは行われていないようであり、サービス内容を工
夫することで参入の余地があるといえる。
図表補.9
課題
「セキュリティ」に関して有効性が高いと考えられる事業
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
すでに提供されているサービスであるが、高齢者
安否確認
高齢者安否確認
の健康状態を定期的に家族へ報告するようなサー
ビスまでは行われていないため、サービス内容を工
夫することで参入の余地はあると考えられる。
(e)その他の生活支援事業
「その他の生活支援事業」については、①栄養管理、②権利保護、③家族介
護者支援、④買い物支援、⑤介護予防への動機づけ、⑥レジャー型介護予防、
⑦健康管理、⑧身体的健康づくり、⑨社会参加という 9 つの分野で有効性が高
い事業を確認する。このなかで、現在、大田市では栄養管理、家族介護者支援、
買い物支援に関する取り組みがみられている。
まず「栄養管理」については、現在大田市が高齢者向けの会食事業を実施し
ており、参加者は調理を行うことでレシピも覚えている。また、高齢者が食事
メニューの写真を撮って携帯メールで管理栄養士へ送り、管理栄養士がその写
真をみてカロリー計算や栄養指導を行っている。さらに、弁当の宅配事業につ
いては、7 つの事業者が市内で事業を展開している。
また、
「家族介護者支援」については、大田市立病院が、介護施設での受け入
れが難しい高齢者については自宅で介護せざるを得ないため、医療分野で補完
できるように相談事業を行っている。
‐ 86 ‐
そして、
「買い物支援」について、市内で移動販売事業を展開している民間事
業者が存在している。ただし、消費者から取扱商品数を増やしてほしいといっ
た要望が出ている。
このように「その他の生活支援事業」に関しては、既に取り組まれている事
業が多い。これらの事業がより高齢者あるいは家族の利便性を高めるために必
要な点としては、
「栄養管理」に関しては、口腔ケアに関する指導や助言 等を取
り入れることで食事の重要性に対する認識がさらに増すと考えられる。また、
「買い物支援」に関しては、消費者の要望に応えられるような商品を取り揃え
た事業展開が求められる。
さらに、ヒアリング調査では「レジャー型介護予防」に対して高い関心を持
たれた。現在、多くのデイサービス施設では体操やレクリエーション 等横一線
のサービスが提供されているが、高齢者のニーズを捉えたサービスを提供でき
ていない印象が強い。団塊世代は多様な趣味を持っている世代であることから、
趣味やレジャー等を取り入れた介護予防に取り組むことが求められる。ヒアリ
ング対応者としては地元の JA や市内に立地している島根県立農林大学校等と連
携して農業を取り入れた介護予防に取り組みたい考えを持っているようである。
なお、このような趣味嗜好型の介護サービスを提供する際には高齢者のモチベ
ーションを高めるようなコーチング力が求められることから、介護事業者はサ
ービス提供のみならず人材育成にも取り組む必要がある。
また、大田市は、現在島根大学と連携して国立公園三瓶山や温泉を活用した
ヘルスツーリズム事業を展開している。市外や県外から参加者が訪れることで
地域経済の活性化にもつながることが期待できる。
図表補.10
課題
「その他の生活支援事業」で有効性が高いと考えられる事業・事業手法・支援策
事業・事業手法・
支援策
栄養管理
調理方法指導
買い物支援
移動販売
レジャー型
地域資源を活用し
介護予防
た介護予防
取り組むうえでのポイント
調理方法や栄養指導だけでなく、口腔ケアの指導
を組み込むことで、食事の重要性や必要性をさらに
理解することが考えられる。
消費者の希望に沿ったような商品を取り揃える
ことが求められる。
地域資源を生かし農業と組み合わせて、野菜や花
き類を栽培・生育するような介護サービスを提供す
ることで高齢者の満足度が高まると考えられる。
島根大学と連携して国立公園三瓶山や温泉を活
用したヘルスツーリズムを展開することで、介護予
防のみならず地域経済の活性化にもつながること
が期待できる。
‐ 87 ‐
2.2.岡山市
a.岡山市の概要
岡山市は、岡山県南東部に位置する県庁所在地であり、政令指定都市でもあ
る。人口は約 70.5 万人で高齢化率が 24.5%となっている。
地形の特徴としては、南部は地味豊かな沃野、北部は吉備高原につながる山
並みが広がっている。
地域包括ケアシステムを構築するうえでの基本単位となる日常生活圏域数は
中学校区と同様の 36 圏域となっている。
図表補.11
項
■訪
目
問
■面
■世
岡山市の概要
帯
■人
内
容
日
平成 27 年 12 月 21 日(月)
積
789.92k㎡
数
314,719 世帯(平成 27 年 3 月末時点)
口
705,310 人(同)
■人
口
密
度
892.89 人/k㎡(同)
■高
齢
者
数
172,604 人(同)
■高
齢
化
率
24.5%(同)
■日常生活圏域数
36 圏域(中学校区と同じ)
岡山市
‐ 88 ‐
b.地域包括ケアシステムに対する考え方
岡山市の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画では基本理念を「ともに支え
合う健康・福祉のまちづくり」として地域包括ケアシステムの構築を目指してい
る。
そして、基本目標として①心身ともに健康で生活できるまちづくり、②安心し
ていきいきと暮らせる福祉のまちづくり、③高齢者の生活を支援するためのまち
づくり、の 3 つを掲げてさまざまな施策を展開している。
図表補.12
基本理念
岡山市の第 6 期介護保険事業計画の体系
基本目標
取り組み方針
①健康寿命の延伸
と
も
に
支
え
合
う
健
康
・
福
祉
の
ま
ち
づ
く
り
1.心身ともに健康に
生活できるまちづくり
②社会参加の促進
③在宅医療・介護の推進
2.安心していきいきと
暮らせる福祉のまちづくり
④認知症高齢者施策の推進
⑤高齢者にやさしいまちづくりの推進
3.高齢者の生活を支援する
ための介護サービス等の充実
⑥介護サービス等の充実
⑦新しい総合事業への取組み
資料:岡山市「岡山市第 6 期高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画(平成 27 年 3 月)」
‐ 89 ‐
c.地域包括ケアシステムの構築に向けて取り組んでいる事業
岡山市では、上述した基本理念、基本目標に基づいて、7 つの取り組み方針を
掲げて、以下のような事業に取り組んでいる。
図表補.13
岡山市における取り組み方針と主な事業
主な事業
取り組み方針
①健康寿命の延伸
②社会参加の促進
①健康教育・健康相談事業、②OKAYAMA!市民体操普及啓発事業
③生活習慣病重症化予防等訪問指導事業、④高齢者食生活改善事業
⑤歯と口腔の健康支援プログラム、⑥健幸ポイントプロジェクト
⑦地域リハビリテーション(元気の出る会)、
⑧元気回復筋力トレーニング、⑨はつらつ元気のつどい事業 など
①生涯現役社会づくり事業、②シルバー人材センター、
③老人クラブ、④シルバーカード事業、⑤敬老事業 など
③在宅医療・介護の推進
①訪問診療スタート支援事業、②岡山市医療連携ネット、
③顔の見えるネットワーク構築会議、④市民出前講座等普及啓発事
業、⑤在宅医療の推進、医療と介護の連携強化、⑥デイサービス改
善インセンティブ事業、⑦医療法人による配食サービス実施事業、
⑧介護機器貸与モデル事業、⑨訪問看護・介護事業者に対する駐車
許可簡素化事業、⑩介護予防ポイント事業 など
④認知症高齢者施策の推進
①認知症支援チーム訪問事業、②認知症地域支援推進員事業、
③認知症サポーター養成講座、④認知症緊急一時保護事業、
⑤認知症SOSネットワーク事業、⑦認知症コールセンター事業、
⑧認知症カフェ等運営事業 など
⑤高齢者にやさしいまちづくりの推進
⑥介護サービス等の充実
⑦新しい総合事業への取組み
①事業者との協働による見守り ②ふれあい給食サービス事業、
③緊急通報システム事業、④家族介護教室事業、
⑤生活・介護支援サポーター養成事業、⑥生活支援ハウス事業、、
⑦成年後見制度利用助成金支給事業、⑧高齢者虐待防止事業
⑨市民後見人養成事業 など
①訪問介護、②短期入所療養介護、③訪問看護、④居宅介護支援、
⑤通所リハビリテーション、⑥介護老人保健施設、⑦認知症対応型
共同生活介護、⑧特定施設入居者生活介護、⑨地域密着型特定施設
入居者生活介護、⑩定期巡回・随時対応型訪問介護看護、⑪小規模
多機能型居宅介護、⑫夜間対応型訪問介護、⑬看護小規模多機能型
居宅介護、⑭認知症対応型通所介護 など
①生活支援サービスの基盤整備、②効果的な介護予防事業の構築、
③多様な生活支援サービスの構築
資料:岡山市「岡山市第 6 期高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画(平成 27 年 3 月)」から抜粋
‐ 90 ‐
d.有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び支援策
岡山市高齢者福祉課へヒアリングを行い、
「住まい」、
「交通」、
「情報通信」、
「セ
キュリティ」、「その他の生活支援事業」の各分野において、市の現状を考慮し
たうえで必要と考えられるものを確認した。
(a)住まい
「住まい」については、①低所得者の住み替え支援、②退院後の住まいの確
保、③既存住宅の修繕、④住み替え支援・資金確保、⑤高齢者の孤立を防ぐこ
とと地域と交流・共生ができる関係構築という 5 つの分野で有効性が高いこと
を確認する。
ヒアリングでは、近年住民から「リフォームを検討しているが、どの建築業
者に相談すればよいのかアドバイスが欲しい」といった問い合わせが増えてい
るとの意見が聞かれた。この背景には、悪質な業者に騙される事件が多く発生
しているため、多くの高齢者がリフォーム業者に対して疑心暗鬼になっている
ことが挙げられる。このため、業界団体としては、認証制度等を設けて安全な
業者であることをアピールし、需要の拡大に努めることが必要である。また、
高齢者宅へ定期的に訪問して、安否確認や困りごとの相談等を受けるといった
見守りサービスも必要な事業といえる。
また、市内の有料老人ホームでは、地域住民と信頼関係を構築するために、
住民が参加できる体操教室を開いたり、施設内で地域の会合を開催できるよう
開放したりして交流を図っているようであり、これも有効な事業といえる。
図表補.14
「住まい」に関して有効性が高いと考えられる事業 ・事業手法及び
支援策
課題
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
業界団体として悪質な業者と区別するよ
既存住宅の修繕
住宅リフォーム
うな認証制度を設けて信頼を高められるよ
うな取り組みを行う。
高齢者の孤立を防
地域住民が参加できる体操教室を開いた
ぐことと地域と交
施設と住民の
流・共生ができる
交流促進
り、施設内で地域の会合を開催できるよう開
放したりして交流を図る。
関係構築
‐ 91 ‐
(b)交通
「交通」については、①規制緩和等による高齢者の移動支援、②コミュニテ
ィバスの利便性向上・運営支援、③中山間地域での訪問診療・訪問看護支援と
いう 3 分野で有効性が高いことを確認する。
現在、岡山市内では 5 社の民間バス事業者が路線バスを運行している。この
ため、他の都市に比べ高齢者が外出しやすい環境にあるといえる。ただし、岡
山市のバス路線の特徴として、JR 岡山駅を基点に各方面へ放射状に運行してい
ることが挙げられる。このため、多くの路線が岡山駅で乗り換える必要があり、
目的によっては遠回りを強いられる場合があるため、一層の利便性向上には路
線バス同士の連携を図る必要があると考えられる。
図表補.15「交通」に関して有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び支援策
課題
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
現在の路線バスルートに横串を刺すような
利便性向上
路線バスの
運行内容調整
運行ルートを設けて取り換えやすくすること
で、利便性が一層向上すると考えられる。
(注)前章で検討した事業ではなく、岡山市の現状に基づいて必要と考えられる事業であ
る。
(c)情報通信
「情報通信」については、①患者情報の共有による医療と介護の間にある知
識・情報の壁の解消、②ICT の利用拡大、③患者情報共有システムの利便性向上、
④健康データの収集・管理・活用およびデータ活用の能力向上、⑤情報通信機
器の利用促進、⑥救急搬送時における情報伝達手段の構築という 6 分野で有効
性が高いことを確認する。
しかしヒアリング調査では、情報通信に関する事業は所管が異なることから、
有効な事業を確認することはできなかった。ただ、岡山県内で、「晴れやかネッ
ト」という名称で病院、診療所、保険薬局、介護施設等で患者情報を共有する
システムを利用して医療・介護連携に取り組んでいる。
(d)セキュリティ
「セキュリティ」に関しては、①認知症高齢者等の安否確認と②緊急時の対
応という 2 つの分野に関して有効性を検証する。
「セキュリティ」に関しては、ともに市の事業として実施されている状況に
ある。ただし、ヒアリング調査では「市内の高齢者数は 17 万人であり、市の事
‐ 92 ‐
業として全高齢者に対する見守りや安否確認を行うことは困難である。このた
め、特に安否確認については民間事業者に参入の余地が十分にある」との声が
聞かれた。岡山市の場合、高齢者数が将来的には 20 万人を超えることから一定
の市場性を有しており、民間事業者として安否確認に関するサービスは期待で
きる分野と言えそうである。
さらに「住まい」で述べたが、高齢者が詐欺等にあわないよう、定期的に自
宅へ訪問して、安否確認や困りごとの相談等を受けるといった見守りサービス
も必要な事業といえる。
図表補.16
「セキュリティ」に関して有効性が高いと考えられる事業、事業手法
及び支援策
課題
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
さまざまな機器が開発されているようであ
安否確認
高齢者安否確認
り競争が激しいこと等から、高齢者の使い勝手
が良い商品を開発する必要がある。
(e)その他の生活支援事業
「その他の生活支援事業」については、①栄養管理、②権利保護、③家族介
護者支援、④買い物支援、⑤介護予防への動機づけ、⑥レジャー型介護予防、
⑦健康管理、⑧身体的健康づくり、⑨社会参加という 9 つの分野で有効性が高
いことを確認する。ヒアリング調査では、口腔ケアに関する取り組みの必要性
が聞かれた。年齢を重ね抵抗力や体力が低下することで口腔内の細菌が増殖し、
その結果として肺炎や血管障害、心臓病、糖尿病等の疾患を引き起こすことが
懸念されている。栄養指導だけでなく口腔ケアに関する説明や指導等を取り入
れたサービスを提供することが効果的であるといえそうである。
また高齢者は、外出意欲は高いものの筋力の低下等から外出頻度が減少して
いるようである。そこで、身体的な負担を軽減するために、買い物時の荷物を
自宅まで代行輸送するようなサービスを提供することで、高齢者が買い 物等の
外出機会の増加につながることが期待できるといえる。
さらに現在、岡山市の「介護予防」に関する取り組み状況をみると「介護予
防への動機づけ」については国の特区制度を活用してインセンティブ事業や介
護ポイント事業に取り組んでいる。また、「社会参加」については、社会福祉協
議会と連携して、高齢者が過去の経験や蓄積した知識を生かして地域貢献等に
取り組む「生涯現役社会づくり事業」を展開しようと試みている。
‐ 93 ‐
これらを踏まえヒアリング調査をしたところ、高齢者福祉課としては体操に
よる介護予防に力を入れたいと考えているようである。なかでも、外出できな
い高齢者や長続きしない高齢者を対象に、ケーブルテレビやインターネット等
を活用した体操の動画配信サービスは事業としての可能性が高いと担当者はみ
ているようである。また、「レジャー型介護予防」についても、介護事業者以外
の民間事業者も既存のサービスを介護予防向けに工夫することで事業として可
能性が期待できるといった意見があった。
図表補.17
「その他の生活支援事業」に関して有効性が高いと考えられる事業 、
事業手法及び支援策
課題
事業・事業手法・
取り組むうえでのポイント
支援策
調理方法だけでなく、「口腔ケア」に関する情
栄養指導
調理方法指導
報提供 や予 防方 法等 を取 り入れ たサ ービ スを提
供することが望ましい。
買い 物時 の荷 物 を自 宅へ 届け るこ とで 身 体的
買い物支援
荷物輸送代行
な負担を軽減できるため、買い物頻度の増加や買
い物点数の増加等が期待できる。
身体的
動画配信による
健康づくり
体操教室
レジャー型
娯楽サービスを
介護予防
活用した介護予防
外出 でき ない 高 齢者 や運 動が 長続 きし な い高
齢者に 対し てイ ンタ ーネ ットや ケー ブル テレビ
等を利用した体操の動画配信を行う。
娯楽 等を 提供 し てい る事 業者 が既 存の サ ービ
スをそのまま提供するのではなく、介護予防向け
に改良して提供することで事業性が期待できる。
‐ 94 ‐
3.地域間比較
前節では、大田市と岡山市におけるケーススタディをそれぞれ行い、両市で
地域包括ケアシステムを構築するうえで必要と考えられる事業の検証を行った。
本節では、両市の結果とこれまで行った実態調査等を比較してそれぞれの特
徴をみることにする。そしてこの特徴を踏まえて、中山間地域と都市地域でそ
れぞれ事業、事業手法及び支援策についてのポイントを整理する。
3.1.中山間地域と都市地域の特徴比較
a.中山間地域の特徴
ケーススタディの結果とこれまでの検討を踏まえると、中山間地域では地域
包括ケアシステムを構築するうえで、「住まい」では「住み替え支援」と「低所
得者の住み替え支援」、「交通」では「高齢者の移動支援」、「コミュニティバス
の利便性向上・利用促進」、
「情報通信」では「ICT の利用拡大」と「健康データ
の管理・収集」、「セキュリティ」では「安否確認」、「 その他の生活支援事業」
では「栄養管理」と「買い物支援」、「レジャー型介護予防」といったそれぞれ
の分野において合計 10 で高い有効性が見込まれることを確認できた。
図表補.18
中山間地域において有効性が高いと考えられる事業、事業手法及び・支援策
機能分類
住まい
交通
情報通信
セキュリティ
その他の
生活支援事業
事業・事業手法・
課題
支援策
住み替え支援
不動産の有効活用
低所得者の住み替え支援
低価格型有料老人ホーム建設
規制緩和等による高齢者の移動
柔軟な料金体系による輸送サービス
支援
交通空白地域における多様な主体による運行サービス
コミュニティバスの利便性向上・利用促進
運行内容調整
遠隔診療支援
ICT の利用拡大
医療事務補助作業
健康データの管理・収集
行動分析
安否確認
高齢者安否確認
栄養管理
調理方法指導
買い物支援
移動販売
レジャー型介護予防
地域資源を活用した介護予防
‐ 95 ‐
b.都市地域の特徴
ケーススタディの結果とこれまでの検討を踏まえると、都市地域では地域包
括ケアシステムを構築するうえで、「住まい」では「既存住宅の修繕」と「有料
老人ホームと地域の関係構築」、「交通」では「利便性向上」、「セキュリティ」
では「安否確認」、「その他の生活支援事業」では「栄養管理」、「介護予防」で
は「身体的健康づくり」と「レジャー型介護予防」といったそれぞれの分野に
おいて合計 7 つで有効性が高いことを確認できた。
図表補.19
都市地域において有効性が高いと事業、事業手法及び支援策
機能分類
事業・事業手法・
課題
支援策
既存住宅の修繕
住まい
認証制度による情報公開
高齢者の孤立を防ぐことと地域と交
流・共生ができる関係構築
交通
セキュリティ
その他の
生活支援事業
施設と住民の交流促進
利便性向上
路線バスの運行内容調整
安否確認
高齢者安否確認
栄養指導
調理方法指導
買い物支援
荷物輸送代行
身体的健康づくり
動画配信による体操教室
レジャー型介護予防
娯楽サービスを活用した介護予防
‐ 96 ‐
c.地域間比較
両地域の結果を比較してそれぞれの特長を導き出す。両地域で有効性が高い
と考えられるものは以下のとおりである。
図表補.20
機能
住まい
中山間地域と都市地域の事業・事業手法・支援策の比較
中山間地域で有効性が高いと考
都市地域で有効性が高いと考え
えられる事業・事業手法・支援策
られる事業・事業手法・支援策
不動産の有効活用
認証制度による情報公開
低価格型有料老人ホーム建設
施設と住民の交流促進
柔軟な料金体系による輸送サービス
交通
交通空白地域における多様な主体による運行サービス
路線バスの運行内容調整
運行内容調整
遠隔診療支援
情報通信
-
医療事務補助作業
(ヒアリング調査で状況を把握できな
かったため、本調査では提案できない)
行動分析
セキュリティ
その他の
生活支援事業
高齢者安否確認
高齢者安否確認
調理方法指導
調理方法指導
移動販売
荷物輸送代行
地域資源を活用した介護予防
動画配信による体操教室
娯楽サービスを活用した介護予防
(a)住まい
中 山 間 地 域→長期間だけでなく、短期間も含めた住み替え施設の量的な
確保へのニーズが高い
都 市 地 域→自宅で快適に生活できるような住空間提供へのニーズが
高い
「住まい」についてみると、中山間地域では住み替えにかかる課題を抱えて
いることが分かった。この背景には、自宅から医療機関や商業施設等が離れて
いることや隣近所との距離が離れていること等から、高齢者が日常生活を送る
うえでさまざまな不便を生じていることに起因していると考えられる。ただし、
住み替えといっても、積雪等がある冬季のみに限った短期的なケースへのニー
ズが強いと考えられる。また、施設については、新規建設よりも空き家等の既
存施設を活用することで高齢者の費用負担を軽減することができれば、住み替
えの促進が期待される。
‐ 97 ‐
一方、都市地域では、特別養護老人ホームや有料老人ホームの施設数が多い
ことからハード面での充足感は高い。その代わり、自宅へのリフォームニーズ
と有料老人ホームと地域住民の関係構築への意識の高さが挙げられた。介護保
険の利用に加え、自治体のリフォーム助成制度を設けることで、高齢者が在宅
で生活しやすい環境を整えやすくなることが期待できる。ただ、悪徳業者の存
在から高齢者は事業者に対して疑心暗鬼になっている部分があるため、不安を
取り除く必要がある。
また、都市地域では中心部や住宅地に有料老人ホームが建設されることが多
いため、近隣住民との関係構築が不可欠である。地域に受け入れられるために
は、地域の施設として存在していくような取り組みが求められる。
(b)交通
中 山 間 地 域→交通サービスの「量」と「質」をともに充足させるような
事業へのニーズが高い
都 市 地 域→既存の交通サービスは量的な充足は高いことから、今後は
効率的に分配して利便性を高めるようなニーズが高い
「交通」についてみると、中山間地域では「量」と「質」の両者が足りない
状況にある。特に自動車を運転できない高齢者にとっては自由に移動できる環
境でなければ、安心して在宅で生活できるとは言い難い。ただし、採算性を考
慮すると、民間事業者のみによる運営では長期的な継続は不可能である。事業
を展開するためには、規制緩和や行政との連携等が必要である。
一方、都市地域では、「質」に対する問題を抱えている状況である。バス事業
者は多く存在しているものの、路線に偏りがみられることから、利用者として
は不便を感じている。今後は、利用者視線に立った交通ネットワークの構築が
必要である。
(c)情報通信
中 山 間 地 域→自宅と各種施設の距離を埋め、各種サービスを効率良く提
供するためのニーズが高い
「情報通信」については、都市地域の分析ができなかったため、中山間地域
の特徴のみについて整理する。
中山間地域では、
「住まい」や「交通」とも関連するが、自宅と各種施設間が
離れていることが多いのでさまざまなサービスにおいて都市地域に比べ効率が
悪くなりやすい。それを解決する手段の一つに情報通信技術が挙げられる。今
‐ 98 ‐
後の医療資源の不足を考慮すると、ICT を活用した医療・介護連携や医療サービ
スの提供は地域包括ケアシステムを構築するうえで必要な事業である。
(d)セキュリティ
中 山 間 地 域→遠方で生活する子供家族へ高齢者の様子を定期的に伝え
るようなサービスのニーズが高い
都 市 地 域→相談も兼ねた見守りサービスへのニーズが高い
「セキュリティ」については、両地域とも「安否確認」へのニーズが高かっ
た。ただ、その中身をみると、中山間地域では、離れて暮らす家族に対して高
齢者の日常の様子等を定期的に伝えることで安心感を与えるようなサービスへ
のニーズが高い。
一方、都市地域では「住まい」でも述べたが詐欺事件等に巻き込まれる高齢
者が多いことから、中山間地域以上に相談も兼ねたサービスが望まれるといえ
る。
(e)その他の生活支援事業
中 山 間 地 域→自宅から最寄りの小売り店舗までの距離が遠いことから
物流面で日常生活を支えるためのニーズが高い
→地域資源を活用して経済の活性化につなげるような介護
予防へのニーズが高い
都 市 地 域→より良い生活習慣を身につけるための 栄養指導や料理方
法等へのニーズが高い
→エンターテイメント性の高い予防メニューに対するニー
ズが高い
「その他の生活支援事業」については、中山間地域、都市地域ともに「栄養
指導」へのニーズが高かった。健康的な生活を送るうえで正しい食生活は必要
な要素であり、栄養指導そのものに地域による違いはみられない。しかし、地
域によって食習慣に違いがあることから、指導内容については地域性を考慮す
る必要があると考えられる。
また、中山間地域では「買い物支援」への要望も高かった。都市地域に比べ
最寄りの各種小売店までの距離が遠いこと等か原因と考えられ、中山間地域特
有の課題といえる。
‐ 99 ‐
さらに、中山間地域では農業やトレッキングといった自然等の地域資源を活
用した介護予防に取り組むことで地域経済の活性化にもつなげようという介護
予防への意識も高かった。
一方、都市地域では娯楽施設が多いこと等から、これらの事業者が介護予防
分野へ参入することが期待されていた。また、動画配信による体操教室の開催
に事業展開の可能性が見受けられ、いずれもエンターテイメント性が高い介護
予防サービスといえる。
図表補.21
機能
住まい
中山間地域または都市地域で必要とされる事業の特徴
中山間地域の特徴
都市地域の特徴
長期間だけでなく、短期間も含め
自宅で快適に生活できるような
た住み替え施設の量的な確保へ
住空間提供へのニーズが高い。
のニーズが高い。
交通
情報通信
セキュリティ
交通サービスの「量」と「質」を
既存の交通サービスは量的な充
ともに充足させるような事業へ
足は高いことから、今後は効率的
のニーズが高い。
に配分して利便性を高めるよう
自宅と各種施設の距離を埋め、各
なニーズが高い。
-
種サービスを効率良く提供する
(ヒアリング調査で状況を把握できな
ためのニーズが高い。
かったため、本調査では提案できない )
遠方で生活する子供家族へ高齢
相談も兼ねた見守りサービスへ
者の様子を定期的に伝えるよう
のニーズが高い。
なサービスのニーズが高い。
その他の
生活支援事業
自宅から最寄りの小売り店舗ま
より良い生活習慣を身につける
での距離が遠いことから物流面
ための食育や料理方法等へのニ
で日常生活を支えるためのニー
ーズが高い。
ズが高い。
また、エンターテイメント性の高
また、地域資源を活用して経済の
い予防メニューに対するニーズ
活性化につなげるような予防へ
が高い。
のニーズが高い。
‐ 100 ‐
3.2.事業を展開するうえでのポイント
大田市、岡山市の特徴を比較して中山間地域と都市地域でそれぞれ事業を展
開するうえで必要な視点を述べる。
a.中山間地域で事業を展開するうえで必要なポイント
大田市の特徴を基に、中山間地域で事業を展開するうえで必要な視点として
は以下の 2 点が挙げられる。
①距離の遠さを克服するような事業展開が必要である
②継続的な事業運営につながる仕組みづくりが必要である
(a)距離の遠さを克服するような事業や支援が必要である
「情報通信」や「その他の生活支援事業」でみられたように、中山間地域の
特徴として、高齢者の自宅から病院・診療所やスーパー 等商業施設までの距離
が遠いことが挙げられる。そのため、移動や生活物資の確保への支援が都市地
域に比べ必要なことが挙げられる。地域包括システムはできる限り在宅で過ご
すことが前提であり、中山間地域で高齢者が安心して自宅で生活するために、
民間事業者にはこのような距離の遠さを克服するような事業展開や支援を行う
ことが求められている。そのためには、情報通信技術を活用した事業展開や、
高齢者宅へ出向くあるいは高齢者を集めて効率性を高めたサービス 提供等が効
果的であると考えられる。
(b)継続的な事業運営につながる仕組みづくりが必要である
中山間地域の特徴として人口密度が低いため都市地域に比べ市場規模が小さ
い点が挙げられる。このため、民間事業者としてはリスクが高いこと等から「交
通」で特徴的にみられたように、参入している民間事業者が少ない。また、都
市地域に比べ行政のパフォーマンスが相対的に大きいものの、財政状況がひっ
迫していること等から、自治体へのヒアリング調査でも聞かれたように今後は
民間事業者や市民グループ、ボランティア等に大きな期待が寄せられている。
中山間地域での事業展開で大きな収益を上げることは難しいため、事業を継
続することは容易でないといえる。そのため、自治体やその他団体 や外部機関
との連携等によって継続的に事業を展開できるような仕組みづくりが必要であ
るといえる。
‐ 101 ‐
b.都市地域で事業を展開するうえで必要なポイント
岡山市の特徴を基に、都市地域で事業を展開するうえで必要な視点としては
以下の 2 点が挙げられる。
①高齢者との間で信頼関係を構築していくことが必要である
②競合相手が多いことから、工夫した製品・サービスの提供が必要である
(a)高齢者との間で信頼関係を構築していくことが必要である
都市地域は中山間地域に比べコミュニティが希薄なこと 等から、特に近くに
家族等がいない独り暮らし高齢者等は孤立しやすい環境にあるといえる。近年、
そのような高齢者を狙ったさまざまな詐欺事件が発生している。岡山市では、
高齢者がリフォームを望んでいても、そのような事件を背景に 躊躇してしまい、
市場の一部が埋もれたままになっているといえる。
高齢者は一度騙されると自宅に引きこもる傾向にあるため、社会との接点が
減ってしまい、結果として認知症等に陥りやすくなってしまうことが懸念され
る。
高齢者が安心して生活するためには、民間事業者としては、丁寧な対応 等に
より信頼関係を構築したうえで製品やサービスを提供するよう心掛けることが
求められる。また、行政としても、高齢者が悪徳業者に騙されないような見守
りや相談事業等を民間事業者と連携しながら取り組むことが求められるといえ
る。
(b)競合相手が多いことから、工夫した製品・サービスの提供が必要である
都市地域は、中山間地域に比べ高齢者数が多いこと等から、一定の市場規模
を有しているといえる。しかし、岡山市へのヒアリング調査で聞かれたように、
見守り等の装置に関して各地の業者が売り込みに来ていること 等から、競争も
激しい地域といえる。
このような環境で事業を展開するためには、他社と差別化を図るような工夫
が求められる。そのためには、他の民間事業者との連携や産学連携等により従
来には見られなかった製品やサービスを開発するような取り組みが必要になる
と考えられる。
‐ 102 ‐
あ
と
が
き
「地域包括ケア」という概念が生まれたのは昭和 50 年代、当時の広島県御調町であっ
た。その中国地域から、この度このような報告書を作成し、発信することは単なる偶然で
あろうか。私たちの問題意識は、既述のように厚生労働省が示した概念図で言う「植木鉢」
と「土」の部分の整備の必要性に着目し、地域包括ケアシステムを支える都市機能(住ま
い、交通、情報通信、セキュリティ)と生活支援産業についての政策提言と「民」を中心
とした産業形成の可能性を探ることであった。
かくして戸田常一・広島大学大学院教授を委員長とする「地域包括ケアを支える都市機
能及び生活支援産業に関する調査委員会」が発足した。委員会を 4 回、小委員会及び打ち
合わせを 6 回、それぞれ開催し、活発に議論・検討を重ねた。その間、有識者ヒアリング
に始まり、北陸地域、九州地域や都内での事例視察、中国地域の各県 1 自治体並びに島根
県への訪問調査などを行い、精力的に情報を収集した。また、中国地域の全 107 市町村に
アンケート調査を実施した。それらのエッセンスを抽出し、あり方と課題、その解決方策
を導出し、有効と考えられる事業を提示した。
上記のヒアリング等によって得られたデータは、本報告書の資料編に収録しており、そ
れぞれの興味・関心に応じて読んでいただけるような構成になっている。
これまでどちらかと言うと、医療・看護、介護・リハビリ、保健・予防のいわゆる「植
物」の方に注目が集まっていた感もあるが、本プロジェクトは「植木鉢」と「土」にフォ
ーカスして民間主導で調査した、意欲的でチャレンジングな仕事であった。
地域包括ケアシステムの構築は、一義的には保険者である自治体(市町村、都道府県)
の責務とされるが、今回の調査(自治体へのアンケート調査やケーススタディなど)を通
じて、当然のことながら各自治体の置かれている状況は多様であり、熟度の違いも感じら
れた。都市機能及び生活支援産業の具体的な事業まで意識した取り組みを今後進めようと
するとき、本報告書が役立つのではないかと考える。
また、市民・地域住民の理解や準備はどうだろうか。地域包括ケアシステムに係る背景・
あり方、現状と課題の考察、提言・提案をまとめている本報告書が、そうした啓発の場面
でもご活用いただけるのではないかと考える。
残された課題として、本報告書は地域包括ケアシステムの構築に有効と考えられる各種
事業とその担い手・事業主体を整理し、提案しているが、それをどのように具現化してい
くかは、本委員会(第 4 回)でも指摘されたところであり、行政の関与や、行政と民間と
の繋ぎ役がポイントといった意見も挙がった。折しも、
「地方創生」の旗が振られ、日本創
成会議は東京圏での“介護難民”の急増を指摘する。とまれ、これら事業が複合して新た
な産業形成が図られることを期待し、あとがきとしたい。
最後に、本調査にご協力いただいた関係各位に深甚なる感謝を申し上げる次第である。
副委員長
‐ 103 ‐
加藤
博和
‐ 104 ‐
資料編
‐ 105 ‐
1.有識者ヒアリング調査結果
1.1.学識経験者
1.1.1.県立広島大学保健福祉学部
准教授
狩谷
明美
氏
狩谷准教授は、老年学や老年看護学の研究を行うとともに、広島県三原市等
で「看取りシステムの構築」に関する研究会を開催している。同准教授に地域
包括ケアシステムの構築に向けた考え方や高齢者の生活に必要な都市機能等に
ついて尋ねた。
訪問日
平成 27 年 4 月 23 日(木)
ヒアリング内容
【介護保険制度について】
■介護保険制度の施行から 15 年間をみると、給付費は一貫して増加しており、このま
までは制度の持続可能性が危ぶまれると考えられる。現在の日本は、世界的にみると
「中負担・高福祉」に分類されるが、今後の生産年齢人口の減少やさらなる 少子高齢
化の進展を考慮すると、負担と受給のバランスを変更する必要があると考えている。
【地域包括ケアシステムの構築について】
■現在、国内の 65 歳以上人口 3,300 万人のうち約 25%は寝たきりの状態にあると言わ
れている。これらの方々を支えられるような「地域包括ケアシステム」を構築するた
めには、医療や介護等の専門職の公助に加え、ボランティア意欲の高い地域住民との
互助とセルフケア意識(自助)の育成が必要となってくる。ただ現状では、そのよう
な人材が多数存在している地域は少ない状況にある。また、民間企業がどこまで地域
に入り込んでサービスを提供するのかということも大きなポイントになるといえる。
■今後、全国の総合病院は政策的に一定数まで減少していき、医療供給機関の機能分化
と在宅療養の推進が考えられる。国内医療機関の 83%を占める 300 床以下の中小総合
病院は減少しており、無床クリニックが、これまで総合病院が果たしていた役割を担
っていくと考えられる。さらに、医療専門職が行っていた介護保険の要支援者向けサ
ービスの一部は、地域のサロン等で元気高齢者が担うようになり、配食等のサービス
は、コンビニやスーパーが行う等、役割分担と民間の多様な主体で高齢者を支えてい
くようなシステムが構築されていくと考えている。
‐ 106 ‐
ヒアリング内容
■広島県内における「地域包括ケアシステム」への取り組みは県内を 7 つの地域に分け
て、地域内で関係者が連携しながら治療や介護を進めていくという考え方から始まっ
ている。ここでは、病院同士の連携(病-病連携)や病院と診療所の連携(病-診連携)
だけではなく、地域の社会資源と連携しながら進めていくことを重視して全国に先駆
けて地域包括支援センターを設置した。
■広島県のほか鳥取県、島根県、山口県は、全国的にみると地域包括ケアシステムの先
進地域と考えている。島根県では、医療機関同士が「まめネット」という患者情報の
共有システムを構築し、鳥取県は「おしどりネット」、山口県萩市の「遠隔医療シス
テム」広島県廿日市市「もみじ医療福祉ネット」等、ICT 利活用による地域包括ケア
システムの連携と推進が取り組まれている。
【高齢者の生活を支える都市機能について】
■インフラ環境をみると、道路整備は進んでいるが、交通システムがうまく機能してい
ない。中山間地域の公共交通機関については、利用者数が少ないため、事業者の経営
環境も難しい状況にあるとみている。
■高齢者が住み慣れた地域で生活するために日産自動車は、スーパー、郵便局、役場等
にアクセスできることが最低限必要であるという考えに基づき、これらの場 所に行け
る全自動運転の自動車の開発に取り組んでいる。このように高齢者のニーズを的確に
捉えた技術開発を他の企業にも期待するが、法整備も必要となる。
【高齢者の生活環境について】
■老人ホームや病院でなく、在宅で最期を迎える「看取り」を増やすことも重要である
と考えている。広島県内では、竹原市、尾道市、大竹市等で在宅看取りの比率が 9%
以上と他の市町に比べ高い地域がある。この背景には、竹原市は離島が多いといった
地理的条件、また、大竹市や尾道市では在宅での看取りを推進しているリーダーの存
在がある。
■すべての高齢者が住み慣れた地域で最期を迎えられる時代ではなくなってきている
とみている。国土交通省は、特に無医地区(半径 4 ㎞の区域内に医療機関が立地して
いない地区)で生活している高齢者に対して、グループホームやケアハウス 、特別養
護老人ホーム等への住み替えを勧めているが、費用負担が大きいこと 等から、すべて
の方が入居できる状況にはない。ただし、冬季には暖かい地域に引っ越して、春季に
地元に帰るといった青森県の事例や短期間の住み替えは可能だと考えている。
‐ 107 ‐
ヒアリング内容
また、医療機関や介護施設が充実している都市に高齢者を集中的に居住させるという
考え方(日本版 CCRC)もあるが、高齢者だけを集めたシニアタウンは、外国でうま
く機能しなかった先例があるため、課題整理が必要である。さまざまな年齢層が交流
しながら生活するようなコミュニティでなければ持続可能な社会の要件を満たさず、
そのための相互扶助の仕組みを再構築することが重要であると考えている。
【高齢者を活用した地域づくりについて】
■高齢者はこれまでの就労経験等からさまざまな分野において専門的な知識を有して
いる世代である。これらの知識を活用して他の世代に伝えることで、地域づくりにも
つながっていくと考えられる。また、元気な高齢者を増やしていくことは、医療費の
減少等にもつながるため、大きな効果を期待できると考えている。
‐ 108 ‐
1.1.2.明治大学理工学部
教授
園田
眞理子
氏
園田教授は建築学が専門であり、少子・高齢化社会に対応した住宅・建築計
画や郊外住宅地の持続と再生に関する計画について研究に取り組まれている。
そこで、同教授に地域包括ケアシステムにおける高齢者の住まいのあり方等に
ついて尋ねた。
訪問日
平成 27 年 12 月 1 日(火)
ヒアリング内容
【住まいの在り方】
■中山間地域の場合、多くの高齢者は持ち家を所有しており、子供家族との同居あるい
は夫婦二人、または独り暮らしをしている。夫婦二人あるいは独り暮らしの場合、高
齢者が最期を迎えるとその家は空き家となってしまう。また、一定の金融資産を保有
していないと有料老人ホーム等の施設入居は難しいと考えている。
■そこで考えられるのが「もう一つの住まい」というものである。新築の施設は初期投
資がかかるので、空き家をリノベーションして、高齢者が集うサロンを作る。台風や
大雨で学校の体育館に一時的に避難するように、介護が必要な時に 、「普通の家」に
避難するような考え方である。最初は、お泊りから始まって、長期滞在やシェアハウ
スといったことも考えられる。
■高齢者の住まいとなると、
「自宅 or 施設」のどちらかしかないのが現状である。そこ
で、その中間に位置づけられる「サロン」的な場所があってもよいと考えている。例
えば、役場跡等は、コミュニティの中心的な場所に立地している傾向が強いことから、
改修してサロンにすることで有効利用ができると考えられる。
■リノベーション費用の捻出については、米国には、民間企業が得た収益の一部を地域
に還元する「the Community Investment Act」という法律がある。日本においても同
様の仕組みをつくり、ファンドを組成してリノベーション費用に充てることができる
のではないかとみている。医療保険や介護保険等をただ無制限に使うだけでなく、そ
うした保険が機動的かつ合理的に活用できるよう、地域での居場所やもう一つの住ま
いに公的資金を投下する考え方もあり得ると考えている。
【郊外団地の問題について】
■郊外団地の開発は、高度経済成長期の後の昭和 40 年代以降ごろから始まり、多くの
団地が開発後 30~40 年目を迎えようとしている。住民が 30 代の頃に建てた住宅ばか
りの住宅地は開発後 40 年目に入ると、男性は元気がなくなり、未亡人が目立ち始め
る。50 年目に入ると全員が 80 代となってしまい、世代交代の時期に差し掛かる よう
である。
‐ 109 ‐
ヒアリング内容
■団地や住宅地の開発は、郊外においてまさに虫食い状に行われた。いわゆるスプロー
ル開発である。したがって、地域は一様ではなく、開発された住宅地の単位毎に同種・
同世代の高齢者が固まって居住し、その単位毎に一挙に高齢化が進み、代替わりがで
きないと空き家だらけになる。つまり、地域には虫食い状に高齢者世帯が集積した塊
(住宅地)が点在している。ただ、20 世紀後半の郊外住宅地の開発履歴は意外なほど
情報が保存されていることから、そのデータを見つければ、どの住宅地・団地がいつ
ごろ高齢化が顕著になるかは比較的簡単に予測できるようになっている。
■日本では、団地の高齢化を悲観的に捉えるが、米国では、50 歳以上が半数以上を占め
ると「自然発生的リタイアメントコミュニティ」と考え ている。その場合、シニアが
塊状に出現した住宅地ごとに、高齢者が住みやすいように各種の施設やサポートやサ
ービスを追加していくようである。
■日本についても、高齢者の多い団地に介護事業所を設けることや空き家をリノベーシ
ョンして、サービス付高齢者向け住宅にすることで「も う一つの住まい」を設置する
といった高齢者が暮らしやすい環境に整備することが必要だと考えている。また、空
き家を次に使う人(若い世代)に繋いでいくよう取り組んでいかないと、その住宅地
の未来はないと考えている。
【住み替えの促進策について】
■現在郊外団地に住んでいる高齢者のなかには、売却して都心部のマンションに住み替
えたいという方が多く存在している。しかし、土地価格の下落等により、現実には郊
外団地の一戸建は希望価格ではなかなか売却できず、住み替えを断念することが多い
ようである。
■そこで、(一社)移住・住みかえ支援機構( JTI)では、持ち家を売却するのでは
なく、賃貸することによって都心に住み替えることが可能な仕組みを提案している。
これは、一戸建ての家屋に耐震性、メンテナンスの条件をつけて、JTIが借り上げ
の最低家賃を保証する仕組みである。例えば、持家に対して最低 3 万円の家賃保証を
得ることができれば、この 3 万円の家賃収入を担保に銀行から融資を受けることがで
きる。つまり、自身の持家を賃貸することによって、住み替え資金が得られる。既に
常陽銀行、北海道銀行、八十二銀行等が融資を行っているようである。
■今後は、高齢者の家をリノベーションして若い人たちが住むようにならなければなら
ないと考えている。若い人たちの意識も少しずつ、新築一辺倒から変わってきている。
住まいの利用も 2 巡目に入って行かなくてはいけないと考えている。
‐ 110 ‐
ヒアリング内容
【住宅性能の問題について】
■現在の建築物のうち昭和 56 年 6 月以前に建てられた物件は耐震性を診断しないと現
行の耐震基準を満たしているかどうかわからないようである。また、木造住宅の場合
は、阪神淡路大震災の影響を受けて、平成 12 年に耐震基準が強化された。それ以降
に建築された住宅であれば耐震性能上の問題はない。さらに平成 18 年以降は、長期
優良住宅という制度が誕生し、これは“二百年住宅”という発想の長寿命住宅である。
■昭和 56~平成 12 年に建てられたものは、耐震性の問題は少ないといえるが、内装や
設備は老朽化しているものが多いようである。こうした物件を若い建築デザイナーが
リノベーションによって改修して付加価値を付けて活用し始めているようである。あ
るいは、スーパーが閉店した跡をリノベーションして昼間は高齢者向け、夜は若者向
けのカフェ等に使うといった事例も生まれている。こうした活動を応援することも、
ストック活用の見地からは重要であると考えている。
【コミュニティビジネスについて】
■中国地方は、広島のような大都市の他に、島根、山口 等の中山間地、島嶼部と様々な
地域を抱えている。NHK 広島の本で「里山資本主義」というのがあり、高齢化が進む
中山間地域の人たちが地域資源を活用して、医療や介護も含めてコミュニティとして
の経済的自立を図る取り組みが紹介されている。4 割以上の高齢化率、過疎による人
口減少といった中でも、うまく経済的な活力を維持している事例となっている。
■隠岐の島の海士町等は、東京市場をターゲットとして町おこしを行っている。高齢者
が最期まで生きがいややりがいを持って、自らが地域の中で役割を果たしている。高
齢化の一方で、いかに若者を呼んでくるか、激しい地域間の争奪戦が始まっている。
■中山間地や島嶼部では、すでに 60 歳代がその親にあたる高齢者を介護する時代とな
っている。また、自分の親だけではなく、コミュニティの中の他人の親をみるような
ことも必要になってきている。そうしたことに対して、例えば 5 万円程度の対価が得
られれば、それに 6 万円の年金をプラスすると、経済的な余裕が生まれ、しかも生き
がいづくりになる。高齢者が、フルタイムではなく週に 2 日働くような就労形態のコ
ミュニティビジネスがこれからは必要だ。
■中山間地には、形が悪くて市場に出せない農作物も出てくる。それを廃棄せず集積し
て加工販売することで、地域の雇用促進につながる。量が増えれば大企業のサイドビ
ジネスとしても展開できる。やはり雇用をいかに創出するかが地域の生き残りの条件
だ。高齢者だけでなく、障害者や若者がいっしょに取り組むことが可能なのが、農業
そして加工販売を加えた 6 次産業である。
‐ 111 ‐
1.2.医療関係者
1.2.1.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院
本調査委員会のメンバーである松下事務部長に、実際の医療現場で起こって
いる問題点等について尋ねた。
訪問日
平成 27 年 4 月 24 日(金)
ヒアリング内容
【同病院の特徴】
■同病院は、12 名の常勤医師と 110 床の脳の専門医院である。年間の救急搬送件数は約
2,400 件となっている。広島市救急隊における脳神経外科領域の年間搬送は約 1 万件
であり、約 4 人に 1 人が同病院に搬送されている。
■当病院への搬送の特徴としては、上記からも分かるように病院の規模に比べ搬送数の
多さが挙げられる。これは、脳に関する病気やケガを診察できる病院数が市内で 2~3
か所と少ないことや、他の病院に比べ生命への危険度が低い患者を多く受け入れてい
ること等が挙げられる。
【救急搬送時の課題】
■救急搬送時の問題点として、情報伝達がアナログであることが挙げられる。救急隊か
ら同病院へ連絡が入った際、事務員は専用用紙に必要事項を記入して医師へ渡す仕組
みになっている。個人情報に関する問題は考慮する必要があるものの、ICT を利用し
て患者のデータを収集できるようなシステムを構築することで、業務の合理化を期待
している。
■また、救急隊から患者の状態に関する画像 等の情報を配信できるような仕組みも必要
だと考えている。特に、脳梗塞は発症から 4 時間半以内に治療をすることで、後遺症
を防ぐことができる確率が高まるといった時間との闘いである。一刻も早い治療を施
すためにも患者の情報を早く入手できるような仕組みが必要であると考えている。
【医師不足について】
■今後、医師不足が深刻な問題になると考えている。絶対数が不足するうえに、大都市
と地方との格差も広がってくるようである。また、脳外科医については、内科等に比
べ担い手が少なくなっているようである。この背景には、リスクの割に給与面で 差が
ないこと等が挙げられるようである。
‐ 112 ‐
1.2.2.一般社団法人広島市西区医師会
医療機関同士の連携や ICT を活用した患者情報共有システムを導入する等、
医療と介護の連携に積極的に取り組んでいる一般社団法人広島市西区医師会 理
事落久保裕之氏に、その取り組み状況等について尋ねた。
訪問日
平成 27 年 6 月 25 日(木)
ヒアリング内容
【広島市西区の現状】
■現在の広島市西区の高齢化率は 20.5%であり、広島市全体(22.4%)に比べ低い状況
にある。西区内に在宅医療支援診療所は 32 カ所あり、人口 10 万人あたりの配置数は
17.0 カ所と全国平均(10.1 カ所)に比べ、在宅医療機能には恵まれているといえる。
一方で、西区内に立地している 12 病院は、すべて個人病院であり、かつ病床数が 200
以下の中小病院となっている。
【医療と介護の連携について】
■医療と介護はこれまであまり結びつきがなかった。しかし、高齢者の急増に伴い、連
携の必要性が増してきているようである。特に、医師とケアマネジャーとの間に生じ
ている垣根をなくす必要性を強く感じている。
■地域包括ケアシステムの構築においては、在宅による医療や介護が中心となっていく
ため関係個所の連携が必要となると考えている。また、国が示した必要病床数の推計
結果によると、平成 37 年時点における広島県内の病床数は平成 25 年に比べ 17%減少
すると見込まれていること等からも、在宅医療の充実が課題になると考えられる。
【西区在宅あんしんネット 3 事業について】
■同医師会では、平成 26 年度に広島県在宅医療推進拠点事業の採択を受け、①在宅あ
んしんマップ、②在宅あんしん病院、③在宅あんしん連携システムの 三つの事業を実
施した。
■「在宅あんしんマップ」とは、西区内に立地している診療所・歯科診療所・薬局・介
護事業所が分かる地図である。インターネットで閲覧できるとともに、印刷物として
関係個所に配付している。情報については随時更新している。
‐ 113 ‐
ヒアリング内容
■「在宅あんしん病院」は、平成 26 年 7 月から開始した、在宅生活者の症状が悪化し
た場合、一時的に区内の荒木脳神経外科病院が預かる仕組みである。かかりつけ医が
訪問視察し病状が悪化していることを発見した場合、患者は同病院へ搬送されて診察
を受けたり入院したりする。その後、後方支援病院への転院あるいは継続的に同病院
で治療を受ける。その後、かかりつけ医とケアマネジャーが相談して、在宅で治療を
受ける流れになる。これまでの実績としては、1 か月あたり 5~6 名程度を受け入れて
いる。
■「在宅あんしん連携システム」は、西区内独自 の患者情報共有システムであり、現時
点で登録している患者数は約 30 名となっている。これまではノートを利用して、か
かりつけ医、訪問薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャー等が患者に関する情報を記入
していたが、緊急時への対応を考慮して ICT を活用した同システムを構築した。同シ
ステムは、患者の同意を得たうえで、同システムに登録し、ノート時の情報やその後
の受診歴や投薬等を入力し更新していく仕組みと なっている。同システムの導入によ
って患者情報を複数の関係病院へ同時に送信できるようになったため、効率性が増し
ている。
【地域包括ケアシステムについて】
■介護事業者は自動車で訪問することが多いことから、在宅で介護サービスを受ける際
には駐車場の確保が必要となる。
■住まいについては、高齢者の住み替えはあまり進んでいないようである。また、サー
ビス付高齢者向け住宅については、価格が高いこと等から十分に普及しているとは言
い難いようである。
■高齢者は食べ物に対する嗜好が他の年代に比べ激しいこと等から、配食サービスは一
筋縄にはいかないとみている。
【抱えている課題】
■同医師会では「在宅あんしん連携システム」の普及があまり進んでいないことを懸念
している。この背景には、医師や介護事業者が ICT を敬遠していることが挙げられる。
そこで、同システムの導入することで時間短縮や省力化につながるといったメリット
をしっかりと伝え、推進していきたいと考えている。また、ICT を活用したシステム
を気軽に導入できるような価格設定や仕様を情報通信メーカーに期待している。
■広島市西区の特性として、急性期病院(急な病気や怪我、持病の急性増悪などで重症
で緊急に治療が必要な状態である患者に対して、入院や手術、検査などの高度で専門
的な医療を行う病院)が少ないことが挙げられ、空きベッドの確保が課題となってい
る。そこで、ベッドの空き状況を管理し、患者とベッドのマッチングができるような
システムの運用を開始する予定となっている。
‐ 114 ‐
1.3.公的機関
1.3.1.川崎市健康福祉局地域包括ケア推進室
神奈川県川崎市は人口 146 万人の政令指定都市である。若年層の流入等によ
り人口は増加傾向にあり、高齢化率も 20%程度と全国的には低い都市である。
しかし、迫りくる高齢化に対応するため、平成 27 年 3 月に「川崎市地域包括ケ
アシステム推進ビジョン」を策定した。そこで、同市の「地域包括ケアシステ
ム」に対する考え方等について尋ねた。
訪問日
平成 27 年 5 月 19 日(火)
ヒアリング内容
【川崎市の概要】
■川崎市は人口 146 万人の政令指定都市である。政令指定都市のなかで面積は最も小さ
く、一方、人口密度は大阪市に次ぎ 2 番目に高い。都市としての利便性が高いことに
加え、地理的に東京都内に近いことから通勤圏として転入者が多い。また、平均年齢
も政令指定都市のなかでは若い方であるため、全国的な人口減少・高齢化とは異なる
動きをしている。
■交通網に関しては、東京都と横浜市に挟まれているという地理的な状況から、よく 整
備されており、また商業機能も充実している。
■過去 10 年間の土地の動きをみると、工場跡地はマンション等に転換する等、様相が
大きく変わったといえる。一方で大規模な空き地が少ないため、新規施設を建設する
際には、既存の土地所有者から購入する必要がある等、土地や空間の使い方が他の都
市とは異なるといえる。
【「川崎市地域包括ケアシステム推進ビジョン」について】
■同市は、現時点では比較的年齢の若い都市であるが、高齢化は 迫ってくる問題なので、
他都市と同様に対応する必要がある。また、同市には 7 つの行政区があり、各区の人
口は概ね 20 万人前後となっている。市全体では人口が多すぎるために住民一人ひと
りの生活をすべてカバーすることはできないことから、行政区単位での取り組みが必
要である。
■地域包括ケアシステムは医療・福祉だけでなく、他の部局の協力を得る必要があるこ
と等から、その上位概念として「川崎市地域包括ケアシステム推進ビジョン」を作成
した。これに基づいて各部局間の調整を行い、市が一丸となって取り組むことができ
るようになった。地域包括ケアシステムでは、住民の意識醸成が最も重要であると考
えている。そのため、まずは地域住民への説明等に力を入れたいと考えている。また、
地域住民や事業者等が主体的に活動する必要があるため、各主体間の調整機能を担う
考えを持っている。
‐ 115 ‐
ヒアリング内容
【地域包括ケアシステムに必要な視点】
■地域全体で高齢者を支えていくためには、ボランティアの協力が不可欠と考えてい
る。その際、無償だけではなく有償によるサービス提供といった 仕組みもなければ、
持続できないと考えている。既存の事業者に対しては、自社の強みを生かして福祉と
いう観点からのサービス提供を期待している。
■また、担当課としても、ビジネスという視点も持ちながら取り組むことで新しい 市場
の創出に貢献できるかもしれないと考えている。そのような場面を発見したら経済産
業セクションへ伝えることでビジネスモデルができるかもしれないと考えている。さ
らに、そこに高齢者雇用や障がい者雇用という視点を盛り込むことができれば、現在、
経済活動の対象になっていない人を取り込むこともできると考えている。
■医療と介護の連携も重要であり、その役割を担うのがケアマネジャーであると考えて
いる。特に退院直後はサポートが必要なことから、同市では昨年度に行政区ごとに在
宅医療を検討する協議会を設置した。これまでにも一部のケアマネジャーは入・退院
時に医師との連携に積極的に行動していたようだが、その取り組みを市内全域での仕
組みとして広げたいと考えている。
■さらに、一部の地域においては、障害者支援センター、こども家庭支援センター、地
域包括支援センターの 3 センターによる連携がみられており、施設間の横の連携も重
要だと考えている。
【課題】
■同市では、マンション群等の新興住宅地の住民において、自治会への未加入や地域活
動への興味・関心が低いようであり、課題となっている。
【その他】
■同市は、高齢者の孤立を防ぐ目的で「地域見守り事業」を行っている。これは、地域
住民や事業者が高齢者宅へ訪問した際に安否確認を行う事業である。その協力事業者
に川崎市地域包括ケアシステム連絡協議会に参画している㈱セブン-イレブン・ジャ
パンが参加している。コンビニエンスストアは店舗数が多いうえに、さまざまな商
品・サービスの開発をしている。高齢者向けにもいろいろ商品を考えているため、協
議会等での意見は参考になるようである。
‐ 116 ‐
1.3.2.厚生労働省医政局地域医療計画課
同課の医師確保等地域医療対策室室長兼在宅医療推進室室長である佐々木氏
はかつて広島県へ出向していた。そこで、地域の在宅医療に詳しい同氏に、厚
生労働省としての「地域包括ケアシステム」に対する考えについて尋ねた。
訪問日
平成 27 年 5 月 19 日(火)
ヒアリング内容
【地域包括ケアシステムについて】
■在宅医療を推進するよう診療報酬制度の改定等が行われてきたが、現状では在宅医療
を進める余地はまだあるとみている。この背景には、高齢者が自宅で過ごす多くの時
間はすぐに医療的対応ができるわけではない状況となってしまうため、安心して生活
することができないこと等が挙げられると考えている。そのような環境から、多くの
高齢者は入院や施設で過ごそうとする傾向が強くなってしまい、結果として、医療・
介護資源が多くかかってしまっている。地域包括ケアシステムを構築するためには、
安心して自宅で過ごすことができるような都市機能や生活支援産業も含めて整備・提
供することが重要だと考えている。
■首都圏では、今後、後期高齢者が急増する見通しである。その対応として、地方創生
の施策の一つとして話題になっている「日本版 CCRC」がある。これは、今後、地方で
は、高齢者数や高齢化率がピークアウトすること等から医療・介護に比較的余裕が生
まれると想定される。そこで、首都圏の高齢者に元気なうちに地方へ移住してもらう
ことで、需要の移転ひいては若者も含め雇用の創出を図ろうとする考えである。
■退院時の高齢者が、日常生活に戻ることができるような住まいの提供が必要だと考え
ている。ただし、その際に、高齢者だけで生活するよりは若年層等との多世代交流も
できるような環境の方が望ましいと考えている。
■現状の医療費や介護費を将来も同じ水準で維持するには、自己負担割合が低く、公的
負担が大きいという試算が成り立つ。地域包括ケアシステムを構築するためには、今
のスタイルである市場経済的な要素も上手く活用することが必要不可欠であると考
えており、そのためには、現在の公的サービスの水準と自己負担割合のバランスを見
直す施策を講じる可能性もあると考えている。
‐ 117 ‐
ヒアリング内容
【事業としての可能性について】
■介護保険制度が施行されてから 15 年が経過した。現在の財政状況や今後の経済成長
等をみると、社会保障給付費だけで高齢者を支えていくことは難しい状況にあるとい
える。このため、今後、特に生活支援サービスについては、今の財源バランスのまま
だと保険給付対象の範囲から外れる部分が少しずつ出てくると思われる。国として
は、その部分に民間企業が参入することを期待している声もある。
■首都圏は、高齢者数や所得面等から、さまざまな生活支援産業において十分な需要が
見込まれるためビジネスとして成立しやすい環境にあるとみている。一方、中国地方
などの地方においては、県庁所在地あるいはそれに近い規模の都市でなければ、事業
性を確保することは難しいとみている。
■首都圏と地方とでは環境の違いから供給できるものが違うとともに、世帯や年齢の構
成の違いからニーズも異なると考えられる。このため、必要な都市機能に違いが出て
くるので、国の全体的な議論だけではなく各地域が現状を見極めて工夫していくこと
が求められる。
‐ 118 ‐
1.3.3.広島県地域包括ケア推進センター
広島県は、平成 29 年度末を目標に県内 125 の日常生活圏域で地域包括ケアシ
ステムの構築を目指している。そこで、各圏域での地域包括ケアシステムの構
築を目的に、平成 24 年 6 月に「広島県地域包括ケア推進センター」を設置した。
同センターでは、各種専門職を各地へ派遣して、医療・介護の連携や在宅ケア
の推進に向けた支援等に取り組んでいる。
訪問日
平成 27 年 6 月 19 日(金)
ヒアリング内容
【組織概要】
■同センターは、常勤 6 名、非常勤 6 名の計 12 名が勤務している。
■運営体制としては、地域包括ケア推進の方針決定やセンターの進行管理や評価を行う
「運営協議会(県医師会や県看護協会等 24 団体で構成されている)」と、事業の具体
的内容を企画・検討する「企画運営小委員会」がある。加えて、実務面を務める「多
職種連携推進ワーキンググループ(以下 WG)」、
「在宅ケア推進 WG」、
「地域リハビリテ
ーション推進 WG」と「在宅看取り検討部会」の 3WG・1 部会で構成されている。
【事業概要】
■同センターの事業は「多職種連携の推進」、
「在宅ケアの推進」、
「地域リハビリテーシ
ョンの推進」、「在宅や施設での看取りの質の保証」の 4 つに大別される。
■「多職種連携の推進」としては、特に医療・介護関係職種間の連携を図るための基盤
づくりを目的に、多職種連携研修会の運営や高齢者の入院・退院時等のカンファレン
ス実施モデル事業、退院調整状況調査の実施による課題抽出と対応策検討等を実施し
ている。
■「在宅ケアの推進」としては、地域包括ケアを進めるうえで中心的な役割を果たすこ
とになる地域包括支援センターの活動支援や地 域ケア会議の運営支援等に取り組ん
でいる。
■「地域リハビリテーションの推進」としては、介護予防を目的に、担当者を対象とし
た地域リハビリテーションの展開方法等の理解・共有を図る研修会の開催や県民に向
けた啓発講演会の開催等に取り組んでいる。
■「在宅や施設での看取りの質の保証」としては、特別養護老人ホームにおける看取り
状況の把握や専門職を派遣して看取りに関する研修の開催等に取り組んでいる。
■また、125 の日常生活圏域で人口(人数・密度)や医療・介護施設等の社会資源や数、
地形等が異なることから、「大都市型」、「都市型」、「団地型」、「中山間地域型」、「島
嶼・沿岸部型」の 5 つに類型化している。
‐ 119 ‐
ヒアリング内容
■平成 26 年度は、125 の日常生活圏域の中から特色ある取り組みを行っている 23 圏域
をパイロット圏域として選定し、集中的な支援を行った。
■なお、125 の日常生活圏域は各市町の設定を合わせた数となっている。厚生労働省で
は、日常生活圏は中学校区を目安としているなか、県内では、合併前の旧町村単位で
分けている市町が多くみられる。一方で 1 市 1 圏域の設定もみられる等、各市町の生
活者としての感覚に基づいて決めているようである。
■地域包括ケアの取り組みが進んでいる圏域をみると、その中心的役割を、医療機関あ
るいは介護施設が、または自治振興会がそれぞれ果たしている等、地域によって取り
組みの形態が異なっているようである。
【地域包括ケアシステムの構築に向けた評価システム】
■広島県・同センターでは、各圏域における地域包括ケアの進捗状況を測る評価システ
ムを設けている。項目としては、国が掲げる「すまい」、
「医療」、
「介護」、
「予防」、
「生
活支援」の 5 項目に、県・同センター独自の視点として「専門職・機関のネットワー
ク」、「住民参画(自助・互助)」、「行政の関与(連携)」を加えた 8 項目としている。
各項目 5 点満点の合計 40 点で評価する仕組みとしている。各市町村の自己評価と県・
同センターが行った客観評価を関係者間で確認する仕組みである。
■まず、今年度中に県内 23 圏域について評価する予定である。評価システムを確立す
ることで、進捗状況のみならず、課題の把握や改善個所を特定する 等、効率的な運営
につなげようとしている。
【地域包括ケアシステムを支える産業界の動き】
■現状では、地域包括ケアシステムの構築に向けて新しい産業が生まれているとは言い
難い状況にあるとみている。
■ただし、平成 27 年度から、介護予防給付における訪問介護と通所介護が地域の実情
に応じた取り組みが可能となる「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」へと移行
した(財源は変わらない)。このため、例えば要支援の方への訪問介護の生活支援サ
ービスについてはホームヘルパー以外の人材で提供することが可能になった。
■現在は移行期間のため、全国的にみると、このような動きはごく一部に限られている
ようである。今後、時間の経過とともに、民間企業が事業展開する分野、ボランティ
アが対応する分野、シルバー人材センター等が対応する分野というようにサービス内
容と事業主体が多様化して分かれてくると考えられる。そうなることで、新しい市場
が創出されると考えている。
‐ 120 ‐
ヒアリング内容
■なお、広島県内では、福山市は 4 月から総合事業に移行しているが、他の市町は、準
備中あるいはまだそこまで至っていないのが現状のようである。
【地域包括支援センターの活動状況】
■国は市町村に対して地域包括ケアシステムを構築するうえで中心的な役割を果たす
「地域包括支援センター」の設置を義務付けている。同センターは市町村が直接設置
する場合と医療法人や社会福祉法人等に委託する形態がある。
■広島県内の地域包括支援センターは委託が多い状況にある。現状の活動状況をみる
と、設置からの経過年数が 10 年と浅いことや業務内容が年々高度化していること、
また、各担当者の力量によるところが多いこと等から、地域によって活動状況に差が
生じているようである。
■なお、同センターとしては、各地の地域包括支援セン ターに対して在宅医療・介護連
携の促進や地域ケア会議の開催支援、認知症対策のアドバイス等に取り組んでいる。
【類型別にみた課題】
■都市部の特徴として「すまい」に関する課題が多く散見されることが挙げられる。金
銭的な余裕がある高齢者は、戸建てからマンション 等への住み替えが比較的可能だ
が、低所得者は難しい状況である。また、退院後に住まいを探すことが難しいこと 等
から、全く縁もゆかりもない地域で暮らさざるを得ない事例があった ようである。さ
らに、人が亡くなった部屋は次の借り手が現れにくいため、高齢者への賃貸に対して
消極的な家主もいるようである。このような状況に対して、広島県では住宅課を中心
に「居住支援協議会」を立ち上げて、高齢者や低所得者の住まいに関する支援につい
て検討しようとするところである。
■中山間地域や島嶼・沿岸部の課題としては「資源不足」が挙げられる。人口数が少な
いことに加え、高齢化も進展しているため、将来的な担い手不足を懸念している。ま
た、医療機関についても、医師が高齢化しているため、閉院もみられるようである。
そのため、地域住民や行政、そして各種専門職 等が協力した体制の構築が求められる
と考えている。
‐ 121 ‐
ヒアリング内容
【生活支援に関する課題】
■現在、同センターが行っている支援事業の多くは福祉や保健に関する分野となってい
る。しかし、現場の声を聞くと、生活支援に関する問題も多 く挙がってくるようであ
る。例えば、交通に関しても圏域でさまざまな工夫がみられるものの、網羅的な取り
組みには至っていない。今後、認知症患者の増加による免許返納等に伴い、さらなる
支援が必要になってくると考えている。
■ただし、交通に関しては今後の重要な課題ではあるが、多くの規制が設けてある分野
であるため、慎重に進めなければならないと考えている。
■中山間地域等では、移動販売サービスを提供している事例がみられるなか、高齢者の
嗜好が多様化しているため、より多くの方のニーズを満たすためにはサービス同士を
組み合わせて効率性を上げるといった工夫をしなければ、事業性を確保することは難
しいと考えている。
【連携に関する課題】
■広島県内では、「HM ネット」に参加している病医院や薬局が同意を得た患者さんと情
報共有する仕組みが構築されている。しかし、運用にかかる様々な課題等から県内す
べての医療機関が導入しているわけではない。今後一層の連携を深めるには、この課
題をいかにして解決していくのかがポイントである。
■医療機関では情報の電子化が進んでいるが、介護分野では電子化が比較的遅れている
ため、医療・介護の連携には、共通したツールを用いることが課題となっている。
■地域包括ケアシステムの構築には、入院・退院時における医療機関とケアマネジャー
との連携が不可欠である。広島県では、医療機関に地域との連携窓口の設置を推進し
ており、その設置数は年々増加しているようである。昨年度の調査では、退院時に病
院からケアマネジャー等に連絡があった割合は全体の 72%であった。ただし、圏域別
にみると地域間で差がみられるようであり、改善の必要があると考えている。
【その他の課題】
■現在は、平成 37 年に向けて各種制度の新設や改正等多岐にわたる分野で仕組みが変
わろうとしている過渡期にあるため、各市町が単独では対応しきれないと考えられ
る。そこで、広島県や同センターの支援が必要ではないかと考えられる。
‐ 122 ‐
1.4.調査機関
1.4.1.三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社(東京都)は、厚生労働省の
「地域包括ケア研究会」で事務局を務め、また、東北地方や北陸地方において
生活支援産業に関する調査を行った実績がある。そこで、同社に産業界として
地域包括ケアシステムの構築に向けた支援の可能性等について尋ねた。
訪問日
平成 27 年 5 月 19 日(火)
ヒアリング内容
【地域包括ケアシステムについて】
■今後、高齢者の更なる増加が見込まれることから、現在の介護保険制度ですべて対応
していては保険制度を維持できなくなると考えている。このため、今後、簡単なサー
ビスについては保険対象から外れると考えられ、その部分が新しい市場として企業の
ビジネスチャンスにつながると考えている。
■在宅中心の医療・介護へ転換するということは、住まいの確保が前提となり、次に生
活するための基盤整備が必要となってくると考えている。企業としては、生活支援に
関わる多様なサービスを提供してマーケットを創出する取り組みが必要であると考
えている。
■また、高度なサービスは専門的な人材が担うが、比較的簡単なサービスについては講
習等を受けた有償ボランティアが担う等、役割を分担しながら取り組まなければ、地
域包括ケアシステムを構築することは難しいと考えている。
【今後の課題について】
■高齢者数が増加する一方で生産年齢人口は減少することから、担い手不足が懸念され
ると考えている。そこで、国は行政や既存の事業者以外に住民や市民グループ等の「多
様な主体」が取り組みに参加し、連携しながら解決していくことを推進している。
■人材の確保には、民間活力の導入とボランティアの活用にポテンシャルがある。今後
は増加する前期高齢者がボランティアとして活動することも期待できる。その際には
少額でもよいから有償による仕組みを構築すると効果的ではないか 。
‐ 123 ‐
2.先進地域事例視察およびヒアリング調査結果
2.1.住まい
2.1.1.Share 金沢
障がい児入所施設等を運営している社会福祉法人佛子園が、金沢市内の国立
病院跡地を活用して多世代交流施設「Share 金沢」を平成 25 年に開設した。敷
地内には温泉やレストラン、農園等が設置されており、障がい者や高齢者、学
生、地域住民が交流できる一つの街が形成されている。そこで、多世代交流や
参加型福祉の街づくりのポイント等について尋ねた。
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 9 月 2 日(水)
■施
設
名
Share 金沢
■所
在
地
石川県金沢市若松町セ 104-1
■開
設
年
平成 25 年
■代
表
者
施設長
奥村
容
俊哉
■事
業
内
容
訪問介護、デイサービス、障がい児入所施設、サービス付き高齢者向け住宅 等
■従
業
員
数
70 名(正規・パート合計)
■運
営
主
体
社会福祉法人
■ホ ー ム ペ ー ジ
佛子園(石川県白山市北安田町 548-2)
http://share-kanazawa.com/
ヒアリング内容
【組織概要】
■社会福祉法人佛子園は、戦後から孤児を受け入れてきた「行善寺(白山市)」が、昭
和 35 年に知的障害児入所施設として新たに設立した法人である。
■その後、石川県内で、障がい者支援施設やグループホーム、高齢者デイサービス、在
宅支援や生活介護、就労事業等の施設を開設し、障がい者(児)や高齢者の支援を行
っている。
■平成 20 年には、小松市で住職が長年不在であった「西圓寺」を、高齢者デイサービ
ス、就労継続支援 B 型施設、温泉施設、レストラン等を備えた地域コミュニティ施設
としてリニューアルして運営している。
■現在は石川県内で、就労継続支援や在宅支援や生活介護等の施設が 11 拠点、グルー
プホームを 19 軒運営している。
■このような取り組みは海外でも高く評価されており、3 カ国の施設と姉妹施設提携を
締結している。また、平成 24 年には「タラヤナ財団(ブータン王国)」とパートナー
シップを締結している。
‐ 124 ‐
ヒアリング内容
【施設概要ついて】
■Share 金沢は、行善寺敷地内の知的障がい児園舎が老朽化したこと 等から、金沢市内
の国立病院跡地を購入して、平成 25 年 9 月に開設した。
■敷地面積は約 3.6 万㎡で、敷地内は、温泉施設、レストラン、物品販売所、障がい児
入所施設、学生向け住宅、サービス付き高齢者向け住宅、民間団体、ドッグラン、農
園、牧場等の施設で構成されている。
■入居している民間団体は、ウクレレスクールやホディケア店、デザイン会社等 10 団
体となっている。
■サービス付き高齢者向け住宅は、平屋建て 4 棟と 2 階建て 2 棟の計 32 世帯あり、現
在は 29 世帯 40 名が生活している。入居者の内訳をみると 6 割は大都市圏出身者(関
東、関西、九州等)であり、地元出身者は 4 割程度となっている。
■敷地内の施設は、入居者だけでなく地域住民が自由に利用できるようにオープンな施
設となっている。
■温泉やレストランの設置や民間団体が入居していること等から、1 日あたりの利用者
数(総数)は、平日が約 200 名、休日は平日の 2 倍の 400 名程度となっている。
<Share 金沢の施設配置図(Share 金沢ホームページより)>
‐ 125 ‐
ヒアリング内容
【建設時のポイントについて】
■Share 金沢を建設する際、①多世代交流、②利用者・地域住民による主体的な参画、
③さまざまな事業主体の参加、④周辺に必要とされる機能の設置の 4 点に注意した。
■この背景には、①グループホームを建設する際の出来事と②西圓寺の再生事業の 2 つ
が大きく影響している。①については、約 10 年前に白山市内でグループホームを建
設した際、近隣住民から「近くに建設しないで欲しい」とのクレームを受けたことが
ある。それまでその地域で多くのグループホームを建設・運営していたことから、地
域の理解を得ていたと認識していたが、その一言で、地域との対話を怠っていたこと
を反省した。②については、上述した西圓寺を再生する際に、デイサービス施設や高
齢者に対する雇用の場(ワークシェア)を設置したことで、その後の地域活性化に貢献
できたことがある。
■この 2 つに基づいて建設地住民との対話を重ねた結果、地域内には高齢者が多いこと
等から、過去に手掛けてきたデイサービス事業や将来を見据えてサービス付き高齢者
向け住宅を建設することとなった。温泉やレストランについては、憩いの場が必要な
ことから設置している。また地域の要望から、安心して犬の散歩ができるようにドッ
グランも整備している。
■民間団体を入居させることで、多様な人々が出入し様々な世代がごちゃまぜでつなが
りあえる仕掛けとなっている。なお、いずれの団体も Share 金沢のコンセプトに賛同
した組織であり、設計段階から関与している。
<サービス付き高齢者向け住宅(左)とアトリエ付き学生向け住宅(右)>
‐ 126 ‐
ヒアリング内容
【運営状況】
■Share 金沢の総事業費は約 20 数億円となっている。建設時には、国からサービス付き
高齢者向け住宅の建設補助金を、石川県から障がい児入所施設の建設補助金を、金沢
市から就労施設建設の補助金をそれぞれ利用した。それ以外の費用については、自己
資金および借入金で調達している。
■収入は、高齢者や学生からの家賃と温泉利用料や物販販売、障がい者支援運営に関す
る支援費となっている。なお、入居している民間団体からは入居者や地域住民に対し
て貢献活動を行ってもらいたいこと等から、家賃を徴収しておらず、互いにウィンウ
ィンの関係となっている。
■現在の Share 金沢単体の経営は厳しい状態であるが、地域とつながりあう関係に重点
をおいている。そのため今後は現在の提供サービスの充実と定員の充足、また地域ニ
ーズからの新たなサービス創出も視野に入れての運営への展望を持っている。
【多世代交流について】
■サービス付き高齢者向け住宅の入居者は敷地内の売店での就労ボランティアを行う
ことで他の入居者と交流することができ、役割があることで生きがいにつながってい
る。
■学生は、低家賃の代わりに自身の特技を生かしてボランティア活動に取り組んでもら
う仕組みとなっている。
■テナントとして入居している多くの民間団体では、障がい者の就労を受け入れること
が可能であり、交流につながっている。
【今後について】
■佛子園は、Share 金沢へ移転した行善寺の障がい児入所施設跡地に「行善寺やぶ」の
建設を進めているところである。これは、Share 金沢等と同様、温泉やレストラン、
就労支援施設に加え、住民自治室やウェルネス事業・プールも設置した交流拠点施設
であり、Share 金沢よりも進んだ取り組みとなっている。建設にあたっては、地方創
生に関連する補助金を活用しており、平成 28 年秋に完成する予定となっている。
<行善寺の開発予定図(佛子園ホームページより)>
‐ 127 ‐
2.1.2.株式会社誠心
太宰府市内で有料老人ホームを運営している同社は、入居者が高い満足度を
得られるよう、家に近い環境での介護サービス提供を心掛けている。そこで、
同社の事業内容や地域づくりのポイント等について尋ねた。
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 27 日(火)
■会
社
名
株式会社誠心
容
■本 社 所 在 地
福岡県太宰府市観音寺町 1 丁目 17-3
■設
立
年
平成 17 年
■代
表
者
代表取締役
吉松
泰子
■事
業
内
容
介護付き有料老人ホーム運営、サービス付き高齢者向け住宅運営
■従
業
員
数
90 名
■ホ ー ム ペ ー ジ
等
http://aclass-seishin.jp/
ヒアリング内容
【会社概要】
■代表の吉松氏はかつて総合病院の訪問看護師として勤務しているなかで、在宅で高齢
者を支えるためには、医療だけでなく生活全般を支えることが必要であると感じてい
た。そこで「高齢者の幸せを第一に考えた介護を実現したい」との思いから病院を退
職して平成 17 年に同社を設立した。
■平成 17 年に介護付き有料老人ホーム「アクラス五条」を、平成 19 年に住宅型有料老
人ホーム「ブランダムール」を、平成 23 年に住宅型有料老人ホーム「アクラスタウ
ン」を、平成 27 年にサービス付き高齢者向け住宅「アクラスヴィレッジ」をそれぞ
れ開設した。
<同社の外観(左)と社内の様子(右)(ともに同社ホームページより)>
‐ 128 ‐
ヒアリング内容
【介護付き有料老人ホーム「アクラス五条」について】
■平成 17 年に建設した「アクラス五条」は、敷地面積は 729 ㎡、建築面積は 422 ㎡、
延べ床面積は 1,381 ㎡の鉄筋コンクリートの 4 階建ての終身介護付き有料老人ホーム
である。
■施設構造は 1 階が事務室とフィットネスジム、カフェ、整体院(テナント)等で構成
されている。また、2、3 階が居住スペースで居室が 30 室と入居者と職員がコミュニ
ケーションを図る「おしゃべりカウンター」が設置してある。そして、4 階は展望風
呂やリビング、テラスとなっている。
■スタッフの配置としては、看護師を含む職員が 24 時間常駐していることや、入居者 1
人に対して職員が 1.5 名以上という手厚い介護体制を敷いている。
■入居者は食事や入浴等を自由に決められる等、一人ひとりのライフスタイルを最大限
尊重した生活を送るなかで介護サービスを提供している。
■1 階のフィットネスジム、カフェ、整体院については入居者だけでなく、地域住民も
利用することができる等、地域に開かれた施設となっている。
<アクラス五条の外観(左)とカフェ(右)いずれも同社ホームページより>
‐ 129 ‐
ヒアリング内容
【住宅型有料老人ホーム「アクラスタウン」について】
■「アクラス五条」を運営するなかで、高齢者が最期まで社会とつながりを持って生活
できるような環境を整えたいとの思いが募り、平成 23 年に住宅型有料老人ホーム「ア
クラスタウン」を建設した。
■場所は「アクラス五条」に隣接しており、建物は鉄筋コンクリート 3 階建てと木造 2
階建てが渡り廊下等で連結されている。
■屋内は個室や夫婦部屋等 35 戸(総定員 50 名)の居室や食堂、浴場、図書室、ギャラ
リー、レストラン、カフェ等で構成されている。内装には天然の無垢材が多用され、
ドアの代わりに木の引戸や襖、障子が使われる等、従来の老人ホームのイメージを払
拭した家庭的な温かみのある雰囲気を醸し出している。
■中庭、テラス等住人同士が交流を深められる共有スペースを多く配置することで、
「コ
レクティブハウス」として施設の充実を図っている。
■図書館、ギャラリー、レストラン、カフェは地域住民も利用可能となっている。なお、
図書室の蔵書は住民からの寄付によって成り立っている。
■高齢者が手厚い介護を受けるためには保険外サービスが多くなってしまい、費用負担
が増大してしまう傾向にある。そこで、同社では見守り支援や生活支援(清掃、買い
物支援等)、身体サービス(介護保険の限度額を超える諸サービス) 等を定額のパッ
ク料金で提供することで、入居者の負担軽減に努めている。
■「アクラスタウン」は、その高いデザイン性が評価され、平成 26 年に高齢者住宅経
営者連絡協議会(東京都)主催の日本一の高齢者住宅を決める「リビング・オブ・ザ・
イヤー2014」の最優秀賞や、一般社団法人日本医療福祉建築協会の「医療福祉建築賞
2014」をそれぞれ受賞した。
<アクラスタウンの外観(左:同社ホームページより)と内部の様子(右)>
‐ 130 ‐
ヒアリング内容
【サービス付き高齢者向け住宅「アクラスヴィレッジ」について】
■平成 27 年、本社(太宰府市観音寺町)に隣接した場所にサービス付き高齢者向け住
宅「アクラスヴィレッジ」を建設した。これは、敷地内にAからDの 4 棟 8 世帯の戸
建て輸入住宅を置いたヴィレッジタイプで全国的にも珍しい形態となっている。
■各棟は、A棟が 2 部屋並んだ平屋建て 2 世帯対応(専有面積約 30 ㎡)、B棟は一戸建
て 1 世帯(専有面積約 50 ㎡)、C棟は 2 部屋並んだ 2 階建て 4 世帯対応(専有面積約
30 ㎡)、D棟は一戸建て 1 世帯(専有面積は約 40 ㎡)となっている。
■戸建て住宅にした背景には、施設ではなく自宅を提供することで近所とのつながりを
持ち、心豊かに生活してもらいたいという考えがある。
<アクラスヴィレッジの配置図(左:同社ホームページより)と内部の様子(右)>
【「アクラス倶楽部」について】
■同社は、高齢者が安心して生活するためには、近所付き合いや地域のつながりが必要
であるという考えに基づいて、高齢者を支える組織「アクラス倶楽部」を平成 26 年
10 月に結成した。これは、地域住民が主体的に地域づくりに取り組めるよう、同社が
サポートするものであり、主役は地域住民となっている。まず、地域を支えるリーダ
ー役となる「アクラス倶楽部サポーター」を募り、その方々を中心に各種勉強会やイ
ベント等を開催している。
■同社が専属スタッフを 2 名配置して、企画等をサポートする体制となっている。
■現在のところ、活動拠点である「アクラス倶楽部ハウス」内で「オルゴール教室」や
「高齢者のメイクアップ術講座」の開催、また「アクラス五条」内にあるフィットネ
スジムを活用して「健康チェック」等のイベントを開催している。
‐ 131 ‐
ヒアリング内容
【今後の事業展開について】
■今後は、既存の有料老人ホームの運営で培った考え方をまちづくりに広げたいと考え
ている。前述の「アクラス倶楽部」はその一環だが、高齢者への支援だけではまちづ
くりは成立しないこと等から、多世代交流を目的に平成 27 年の夏に「アクラスキッ
ズ倶楽部」を立ち上げた。小さな子供や子育て中の母親を対象に「アクラス倶楽部ハ
ウス」の開放やさまざまなイベントを開催していきたいと考えている。
■既存施設の運営やまちづくり活動を通じて、高齢者が在宅で地域社会の一員として最
期まで安心して生活することができる環境を作っていきたいと考えている。
<アクラス倶楽部ハウスの外観(左)と室内(右)>
‐ 132 ‐
2.1.3.NAGAYA TOWER
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 12 月 10 日(木)
■施
設
名
NAGAYA TOWER
■所
在
地
鹿児島県鹿児島市上之園町 3-1
■設
立
年
平成 25 年
■代
表
者
大家
堂園
晴彦
■事
業
内
容
多世代型賃貸マンション
■運
営
主
体
株式会社 THEM
■ホ ー ム ペ ー ジ
容
http://www.nagaya-tower.com/
ヒアリング内容
【組織概要】
■NAGAYA TOWER の大家であり、隣接する堂園メディカルハウス院長である堂園氏は 20
年前にホスピスを始めた。最近では、がん患者だけではなく、心身症、うつ、ストレ
ス、引きこもりといったあらゆる病気で治療に来られる。そのような患者を診るなか
で、孤独感や孤立感が時代とともに深まっていることを問題視し、これらを解消する
ためには共同体をつくることが必要であると考えた。そのため、がん患者だけ、高齢
者だけ、子育て世代だけといった縦割りの考え方ではなく、古くからある江戸時代の
長屋をモデルとし、向こう 3 軒両隣といった、老若男女問わずできることは互いに助
け合っていくことが不可欠との考え方から多世代居住の賃貸住宅を建設することに
した。
<NAGAYA TOWER の外観(左)と隣接する堂園メディカルハウス(右)>
‐ 133 ‐
ヒアリング内容
【高齢者等居住安定化推進事業】
■平成 22 年度の国土交通省の高齢者等居住安定化推進事業に採択され、その補助金と
して、建設費の 1 割と設計費の 3 分の 2 の金額の助成を受けた。4 億円の建設費のう
ち補助対象部分建築費約 1 割の 3 千万円強が補助金となっている。
■建物の中に、コンビニやカフェ等が併設されており、補助金の交付を受ける際、補助
対象分とその他の部分に切り分けて計算して申請する必要があり、書類の作成に時間
を要した。
【賃貸住宅の管理・運営】
■平成 25 年から入居を開始している。家賃は 55,000~95,000 円であり、鹿児島市内の
平均的な家賃の水準よりやや高めになっている。居住面積がゆとりを持った作りとな
っており、日中はイベントが開催されたり、2階に構えている事務局に相談に行ける
ことも家賃の高い理由である。住人の比率は高齢者が約 7 割、それ以外が約 3 割とな
っている。里親里子制度を利用して 4LDK の広いスペースに住んでいる世帯もある。
入居開始から 3 年目になるが家賃の滞納は今のところない。
■学生は、火山灰の掃除や高齢者宅のゴミだしをすることによって家賃の割引が受けら
れる。割引によって、学生にとっては近隣の家賃とほぼ変わらない金額となっている。
ここに住む高齢者は、ほとんどが一人暮らしであり、事務局の提供する安否確認・買
い物代行・介護保険申請等、様々な生活支援サービス費として、家賃に加え月額 25,000
円を支払っている。外部からの食事サービスも利用でき、昼・夜 800 円/1 回という
価格になっている。
■事務局は 3 名であり、10 時~19 時までサポートする体制となっている。時間外に入
居者に何かがあった場合の対応は電話連絡であり、大きな問題事でない限りできるだ
け隣近所で助け合うかたちをとっている。
■要支援 1~要介護 5 の入居者もいる。室内は段差のないバリアフリーのつくりとなっ
ており、相談があれば手すりの設置も可能である。ペットも可となっている。
鹿児島中央駅から近く、交通の便が良いので、遠くで暮らす家族にとっても面会に来
やすい。冬寒い鹿児島県北部の大口市から冬場だけ賃貸 または入居される事例もあ
る。また、研修医が 1 か月程度入居して、ここで実際に医療の研修を行うこともある。
■入居者には、まだ老人ホームには入りたくないという人が多い。本人・家族共に、
「介
護施設に入れられた」というのは、あまりよいイメージを持たれていないようだ。こ
こは、一般的なケアハウスより自由度が高く、あまり細かい管理はしていない点も好
まれているものと思う。
‐ 134 ‐
ヒアリング内容
【NAGAYA TOWER での暮らしについて】
■住人同士が交流できるような工夫が、建物内にも施されている。
■部屋のタイプは 4 種類あるが、そのうち浴槽があるのは 1 タイプ(5 部屋)しかなく、
他は全てシャワーのみとなる。館内には、5 階に時間予約制の岩風呂が用意されてお
り、これは、外出の機会が少なくなり、室内で生活することの多い高齢者に、「少し
でも外に出て、人の住む気配を感じてほしい。」という願いからである。また、風呂
へ向かう際に住人とすれ違えば、交流のきっかけにも つながることを狙いとしてい
る。
■また、建物を俯瞰で見ると、V字型になっており、部屋と部屋が向い合わせに配置さ
れていることから、お互いの存在に気付くことが出来るつくりになっている。
住人同士の交流は、事務局が企画する建物内でのイベントへの参加や、毎晩希望者の
み集まり交流フロアにて食事をする際に生まれる。それだけではなく、自ずと仲良く
なれば自室に招き、テレビを鑑賞したりお茶会をする 等の交流ができている。
また、里親里子の住む小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)の子どもたち
が3階にある広場で遊ぶ姿をみて声掛けをする住人も多く、お互いにさりげなく成長
を見守ることが自然となっている。
【今後の展開】
■最近、鹿児島市でも待機児童が増えていることから、空きスペースを使って保育所と
して利用する場所をつくったり、難病を抱える子どもと家族を受け入れる宿泊所提供
の活動をしている NPO 法人「ファミリーハウス」とも連携を取り、一室を受け入れ先
として開く等、行き先の限られている人々への支援も今後の建物の在り方として考え
ている。
■地域との交流の場をつくる仕組みづくりが今後の課題である。
<NAGAYA TOWER 内のキッチン(左)と住民向け会報誌(右)>
‐ 135 ‐
2.2.交通
2.2.1.富山市都市整備部交通政策課
富山市は、人口減少や高齢化社会に対応すべく約 10 年前から公共交通を軸と
したコンパクトなまちづくりに取り組んでいる自治体である。現存する鉄軌道
の利便性を向上させるとともに、中心市街地に住居や商業等諸機能を集積させ
ることで、人と環境にやさしい未来環境都市を目指している。そこで、公共交
通を活用したまちづくりの内容や高齢者への支援策等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 9 月 1 日(火)
■組
織
名
富山市都市整備部交通政策課
■所
在
地
富山県富山市新桜町 7 番 38 号
容
総合交通体系、公共交通、鉄軌道、バス交通対策
■業
務
内
等
ヒアリング内容
【富山市の概要】
■富山市は、県中央部に位置する人口約 42 万人(平成 27 年 8 月末時点)で県全体の約
4 割を占め、また面積は平成 17 年に周辺 6 町村と合併したことから県全体の 3 割を占
める中核都市である。北は富山湾(水深 1,000m)、南は立山連峰(標高 3,000m)に
囲まれた多様な地形をしている。
■地方都市の特徴である自動車依存が富山県においてもみられており、1 世帯あたりの
自家用車保有台数は全国 2 位の 1.712 台(平成 27 年 3 月末時点)となっている。こ
の一方で公共交通機関利用者は、平成元年から 19 年の 20 年間で JR は 28%減少、私
鉄は 44%減少、路面電車は 42%減少、路線バスに至っては 70%減少している。モー
タリゼーション等による都市の郊外化が進展したため、都市管理コストは上昇し、市
街地の低密度化によって中心市街地は衰退していた。
■平成 18 年に市民を対象にアンケート調査を実施したところ、市民の 3 割は自動車を
自由に使えないことがわかり、そのうち、70%以上が 60 歳以上の高齢者であった。
今後、高齢化が進展することから、その割合は増え、事態の深刻化を懸念していた。
【コンパクトなまちづくりの推進について】
■上記の課題に対応するため、平成 18 年に鉄軌道を始めとする公共交通を活性化させ、
沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させることにより、「公共交
通を軸とした拠点集中型コンパクトなまちづくりの実現」を目指すこととした。
■実現に向けて①公共交通の活性化、②公共交通沿線地区への居住促進、③中心市街地
の活性化の 3 つを基にまちづくりを展開しているところである。
‐ 136 ‐
ヒアリング内容
【公共交通の活性化について】
■公共交通の活性化としては、①公共交通軸の活性化(鉄軌道と路線バス)と②生活交
通の確保を基本方針に掲げて事業に取り組んでいる。
■①公共交通軸の活性化の第 1 事業として、利用者の減少が続いていた旧 JR 富山港線
に日本初の本格的 LRT システムを導入した富山ライトレールの整備が行われた。平成
18 年 4 月に開業し、延業長は 7.6km で片道を約 25 分で運行する。JR 時代に比べ、運
行間隔の短縮、駅数の増加、低床車両の導入によるバリアフリー化、運賃の 200 円均
一化等サービスを向上させた。
■その結果としては、利用者数は、平日は 2.1 倍、休日は 3.4 倍に増加した。時間帯別
では日中、年齢別では高齢者の利用がそれぞれ増加した。利用者の内訳としては、自
動車やバスからの移行が約 25%、これまで乗り物に乗らなかった新規利用者が約 20%
という結果であった。利便性を高めることで利用者が増え、ライフスタイルの変化と
いう効果がみられる。
■富山市では「公設民営」の考え方を導入しており、富山ライトレール㈱は施設の整備
や維持管理に対して市の補助金を受けながら運営することで黒字経営となっている。
■第 2 事業として、富山駅の南側から南方向と西方向に運行している路面電車の一部を
接続させた環状線を平成 21 年 12 月に開業した。同線は日本初の上下分離方式 として、
整備区間の施設整備・管理は富山市が行い、運営は富山地方鉄道㈱が行い、 1 日当た
り約 1,200 人が利用している(環状線運行車両の利用者数)。
■整備効果としては、平成 21 年と 26 年を比較すると、富山駅から中心商業地区への移
動が、平日は約 4 割、休日は約 3 割増加している。
<市内を運行している LRT(左)と路面電車(右)>
‐ 137 ‐
ヒアリング内容
■第 3 事業として、現在、路面電車の南北接続事業に着手している。これは、北陸新幹
線と富山駅周辺の旧北陸本線が高架化されることから、その下で LRT と路面電車を接
続させる事業である。また、歩行者専用の南北自由通路も合わせて整備することにな
っており、平成 32 年 3 月末に開通する予定となっている。
■バス交通の活性化として、幹線バス路線に対して、ノンステップバスの購入に対する
補助金や広告付きバス停およびバス停上屋の整備 等に取り組みイメージアップを図
った。
■②生活交通の確保としては、コミュニティバスの運行や地域自主運行バスおよび路線
バスの路線維持にかかる費用を補助している。路線バスの場合、県や国の補助制度を
利用するためには一定の基準を満たす必要があるため、それらを達成するために足り
ない部分を助成している状況にある。
■自主運行バスの中には、沿線の世帯や企業等から協賛金を提供してもらい運行してい
る路線がある。
■コミュニティバスや自主運行バスについては、運賃収入だけで運営することは難しい
状況にある。
【公共交通の利用促進について】
■富山ライトレールの開業に伴い、平成 18 年 4 月から交通系 IC カードを導入し、利便
性の向上を図っている。また、富山地方鉄道も平成 21 年度、路面電車に富山ライト
レールと相互利用できる IC カードを導入し、以降、路線バス(平成 22 年)や鉄道線
(平成 23 年)にも導入する等、利用者の拡大を図っている。
■モビリティ・マネジメントとして、公共交通の利用を促進するよう、大学生への案内
や講義の開催、市民向け学習フォーラムの開催、情報誌への啓発記事の掲載を行って
いる。最近、力を入れているのは、小学校 3 年生から 6 年生に「のりもの語り教育」
といって、公共交通の重要性等の教材を使いながら学ぶ機会を提供し、大人になって
も公共交通を利用するよう教育している。
■公共交通の維持や運行 に関する平成 27 年度予 算は約 10 億円であり、 一般会計の
0.6%、政策的経費の 1.3%を占めている。他の自治体にアンケートを実施して比較し
たところ、多い状況にある。
‐ 138 ‐
ヒアリング内容
【公共交通沿線への居住推進について】
■富山市では、中心市街地においては平成 17 年から、公共交通沿線居住推進地区では
平成 19 年からそれぞれ建設業者と住民に対して住宅の建設や購入時に支援を行って
いる(戸建て、共同住宅ともに)。 住民に対して中心市街地居住を より誘導したい考
えから中心市街地の方が手厚い助成となっている。
■中心市街地での支援実績(平成 26 年度まで)は、702 件、1,417 戸、308,839 千円と
なっている。利用者は 20 代が 15%、30 代が 40%、40 代が 27%、50 代が 13%、60
代以上が 5%であり、市内の郊外や市外からの転入・転居が 82%となっている。
■公共交通沿線居住推進地区での支援実績(平成 26 年度まで)は、438 件、946 戸、584,326
千円となっている。支援内容に違いを設けることで、中心市街地への誘導を図ってい
る。利用者は 20 代が 12%、30 代が 60%、40 代が 23%、50 代が 4%、60 代以上が 1%
となっている。
■上記の制度とは別に高齢者専用の住み替え支援制度を設けているが、現時点では利用
実績はない。高齢者がマンションを購入して、郊外から中心市街地へ の移住がみられ
るが、既存の戸建住宅はセカンドハウスとして利用されており、他者への賃貸利用等
を行われていない。
【中心市街地における健康寿命の延伸施策について】
■平成 16 年度から、65 歳以上の高齢者を対象に、市内各地から中心市街地へ出かける
際の公共交通機関(富山ライトレール【LRT・フィーダーバス】、富山地方鉄道【電車・
路面電車・路線バス】)の利用料金を 100 円とする割引制度「おでかけ定期券事業」
を行っている。約 2.3 万人(高齢者の約 23%)が同定期券を所有しており、平成 26
年度の利用実績は 1 日あたり 2,633 人となっている。
■また、平成 24 年 7 月から、市内の 12 観光施設において、高齢者が孫と一緒に入館す
る場合、高齢者の入場料が無料になる制度を開始している。入館料収入は減少するが、
施設内での物販収入は増加しているようである。開始前の平成 23 年と平成 26 年の入
り込み客数(総数)を比較すると 7.7%増加しており、外出機会の創出に結びついて
いるといえる。
■さらに、平成 25 年度から、市が管理している公園および施設 4 箇所の敷地内 50 ㎡に
おいて、野菜等を植えることが出来るよう整備し、高齢者の外出機会や小学生 等との
交流機会の創出を図る事業に取り組んでいる。
‐ 139 ‐
ヒアリング内容
【コンパクトなまちづくりの効果】
■ライトレールの運行や市内電車の環状線開業といった公共交通を活性化したこと 等
から、市内電車の利用者数は平成 18 年を底に増加傾向にある(1 日あたり乗車数 H18:
9,779 人→H26:12,179 人)。
■また、中心市街地において再開発事業等の投資が活発化している。特に環状線沿線で
は、平成 17 年以降マンションや商業施設等がオープンしている。また、本年 8 月に
は富山市ガラス美術館と市立図書館がオープンし、平成 28 年にはホテル、シネマコ
ンプレックス、住宅、立体駐車場で構成された複合施設が開業する予定である。この
ほかにも複数の組合が設立される等、地方都市のなかでは投資が活発に行われている
地域といえる。
■人口の変化をみると、中心市街地では平成 20 年から転入超過となっている。また、
公共交通沿線地区でも転出者数が減少傾向にあり、居住支援策の効果が少しずつ表れ
はじめている。また、富山市全体の小学校児童数が減少傾向にあるなか、中心市街地
では平成 19 年から 25 年の 6 年間で 139 人増加している。
■地価の推移をみると、富山市全体の宅地は低下傾向にあるが、環状線区域は横ばいで
推移しており、利便性の向上や開発投資の効果が出ている。
■高齢者については、「お出かけ定期券」の利用実績(総数)が平成 21 年度と 26 年度
とを比較すると約 30%増加しており、外出頻度が増加している。
【今後について】
■全国各地で人口減少が進んでいるなか、地域間で減少速度に差が生じている。緩やか
な減少に留めるためには、魅力的な都市となる必要があると考えている。富山市は、
現在生活している市民だけでなく、20~30 年後に生活する市民のためにもなるような
都市になるべく各種施策を展開していく考えである。
■高齢者については、健康づくりや社会参加等を促進して、健康寿命を延ばすような施
策を展開していく考えである。
‐ 140 ‐
2.2.2.大野城市南地区コミュニティ運営委員会
大野城市南コミュニティ運営委員会は昭和 40 年代から住民主体のまちづくり
に取り組んでいる全国でも先進的な地域である。高齢化が進展するなかで住民
(自助)、行政(公助)、NPO(共助)が役割を分担しながらまちづくりに取り組
んでいる。そこで、高齢者への支援内容や住民主体のまちづくりのポイント 等
について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 28 日(水)
■組
織
名
南地区コミュニティ運営委員会
■所
在
地
福岡県大野城市南ヶ丘 5 丁目 9-1(南コミュニティセンター)
口
29,887 人(南地区、大野城市:98,362 人)
(平成 26 年 3 月末時点)
■人
■高
齢
者
数
6,569 人(同地区、同:18,250 人)(同)
■高
齢
化
率
21.9%(同地区、同:18.6%)(同)
■業
務
内
容
季節のイベント開催、環境活動、機関誌の発行
■ホ ー ム ペ ー ジ
等
http://onojo-com.info/minami/index.php
ヒアリング内容
【南コミュニティの概要】
■大野城市は福岡市の南に隣接する人口約 10 万人の自治体である。日常生活圏域が 4
つ(南、中央、東、北)設定されており、南コミュニティはその一つである。
■南コミュニティは昭和 40 年代に福岡市のベッドタウンとして丘陵地を切り開いた宅
地造成を契機に発展した街である。また、西鉄や JR の沿線であるため交通の便には
恵まれた地域となっている。ただし、開発から 40 年以上経過しており、高齢化率が
21.9%と市内で最も高い地域となっている。
■南コミュニティでは南コミュニティセンターを拠点に、住民主体の「南地区コミュニ
ティ運営委員会(自助)」と行政の「南地域行政センター(公助)」と NPO 法人「共働
のまち大野城南コミ(共助)」の 3 組織が連携しながら町づくりに取り組んでいる。
【南コミュニティの高齢者支援について】
■南コミュニティで行われている高齢者支援として、南地区コミュニティ運営委員会
が、①高齢者移動支援事業「ふれあい号」の運行、②新高齢者支援事業、③ごきげん
お届け便、④暮らしのサポート事業の 4 つが挙げられる。
‐ 141 ‐
ヒアリング内容
【高齢者移動支援事業「ふれあい号」について】
■「ふれあい号」は、移動手段の確保を目的に平成 21 年から市の委託事業として開始
したコミュニティバスである。
■民間のバス路線が縮小するなか、交通の利便性向上を目的に住民主体のコミュニティ
バスを運行することで解決を図るべく開始した事業である。住民主体であるため、停
留所や運行ルートを地区の事情に合わせやすい点が特徴となっている。
■車両は 10 人乗りのワゴン車(市の所有)となっている。また、運行ルートは A コー
ス(毎週月曜・水曜・金曜運行)、B コース(毎週火曜・木曜・土曜運行)の 2 種類あ
り、それぞれ 1 日 4 回運行している。ルートは病院やスーパー等を回る。
■利用者は 65 歳以上の高齢者であり、無料で利用できる。年間利用者は当初 4,000 人
程度であったが、現在は約 1 万人までに増加している。
■ドライバーは住民ボランティアであり、現在 15 名ほど在籍している。1 運行につき
1,000 円の手当を支給している。
■運行経費は年間 260 万円程度であり、燃料費や修繕費、車両保険(約 130 万円)は大
野城市が、ドライバーへの手当等(約 130 万円)は同運営委員会がそれぞれ負担して
いる。同運営委員会の負担分は各世帯から徴収して賄っている。
■課題としては、①将来的なドライバーの確保、②車両規模と利用者のバランスが挙げ
られる。①については、現在のドライバーの平均年齢は 60 代半ばごろだが、企業の
定年制度の延長等により将来的には確保が困難になると懸念している。②について
は、利用者の増加に伴い積み残しが発生している。増 車は経費負担が大きくなり、ま
た、大型車両の導入はドライバーへの技術的負担が大きくなること 等から、対応策が
見つかっていない。
<ふれあい号(左、南コミュニティセンターHP より)と時刻表(右)>
‐ 142 ‐
ヒアリング内容
【新高齢者支援事業について】
■新高齢者支援事業は市との共働事業であり、平成 27 年度から開始している。支援内
容は、①高齢者の徒歩による外出支援、②地域社会への参加促進、③買い物に行けな
い方への移動販売である。
■①は公園での体操や健康遊具を利用したイベント開催や気軽に休憩できるようミニ
ベンチやポケットパーク等を設置するものであり、現在は企画中である。
■②はふれあい号の停留所まで歩くことが困難な方を対象に、文化祭や芸術発表会等の
イベントに送迎する取り組みである。
■③は軽トラックを改装して買い物に行けない高齢者宅へ移動販売を行うものである。
なお、同運営委員会は市民農園を所有しており、そこで栽培された野菜を販売してい
る。
■同事業の目的は高齢者の外出を促すことであり、高齢者の身体機能に応じた事業を展
開しようと考えている。
【「ごきげんお届け便」について】
■平成 23 年から大野城市と NPO 法人「共働のまち大野城南コミ」とイオン九州㈱とが
協定を締結して高齢者を対象に買い物支援事業「ごきげんお届け便」に取り組んでい
る。
■内容としては、インターネット環境にない高齢者がカタログを 基に電話や FAX で同
NPO へ注文を行い、それを同 NPO がネットで注文し、最寄りのイオン大野城店が高齢
者宅へ商品を届ける仕組みである。
<南コミュニティセンターの外観>
‐ 143 ‐
ヒアリング内容
【「暮らしのサポート事業」について】
■住民ボランティアである「おタスケさん」が、高齢者の日常の困りごと等を手伝う事
業である。現在、おタスケさん登録者数は 50 名程度である。
■主な依頼内容としては、不要な家具の運搬、ゴミ出し、庭の草取り、植木の剪定であ
る。
■実費については現金での支払いになるが、謝礼は「ありがとう券(1 枚 100 円)」を渡
す仕組みとなっている。「ありがとう券」が一定枚数貯まると、市指定家庭専用もえ
るごみ袋や大野城市商工会商品券と交換することができる仕組みとなっている。
【抱えている課題について】
■高齢化によって外出機会や意欲が低減していくため、買い物支援が重要な課題だと考
えている。そのため、南地区コミュニティ運営委員会では、外出支援を大きな目的に
いろいろな事業を展開している。
【今後の展望について】
■今後のまちづくりにおいて、住民ボランティアがさまざまな役割を果たす必要がある
と考えられるが、すべてのボランティアが無償で提供するには限界があると考えてい
る。継続的な活動には一定の利用者負担や行政からの支援が必要であると考えてい
る。
<ロコモ予防体操教室の案内チラシ>
‐ 144 ‐
2.2.3.健軍商店街振興組合
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 12 月 9 日(水)
■組
織
名
健軍商店街振興組合
■所
在
地
熊本県熊本市東区若葉 1 丁目 35-18
■設
立
年
昭和 38 年
■代
表
者
理事長
■ホ ー ム ペ ー ジ
森田
憲一
http://www.piacres.net/
ヒアリング内容
【概要】
■健軍商店街は、熊本市の東部にあり市電の終点に位置している。周辺には、公営住宅
や自衛隊の住宅があって、商圏人口は約 3 万人となっている。
■平成 15 年に近隣大型ショッピングセンターが開業したため、同商店街の通行量が 6
千人/日にまで減少した。
■中心市街地の活性化と大型店の出店により、地域の商店街として危機感を抱き、4 つ
の商店街で独自の振興ビジョンを作成し、活性化に取り組んでいる。
【いきいきショッピング推進事業】
■商店街を利用する高齢者は、重たいものやかさばったもの等購入した品物を自宅に持
ち帰るのに苦労する場合が多いようである。そこで商店街では、手荷物を 300 円でタ
クシーが自宅まで宅配する事業を始めた。利用者が 200 円、商店街が 100 円ずつ負担
する仕組みとなっている。
<健軍商店街「ピアクレス」の入り口>
‐ 145 ‐
ヒアリング内容
■宅配サービスは、運送業者によると1回について最低 500 円はかかり、採算が合わな
いとのことであった。一方、肥後タクシーは規制緩和の流れの中で乗客だけでは、タ
クシーを遊ばせておくことが多いため、軽貨物運送業の免許を取得して宅配のサービ
スをすることになった。
■宅配サービスをするようになって、むしろ、高齢者のタクシー利用の増加につながる
ようになった。平成 26 年度の宅配件数は 303 件、乗車件数は 18,356 件で合計 18,638
件と過去最高の利用があった。近所同士の高齢者がタクシーに同乗していくケースも
多い。
<肥後タクシーの乗り場(左)と高齢者の荷物を持つ運転手の様子(右)>
【お出かけ支援サービス事業】
■同商店街の近隣に、スーパーが閉店して買い物に困っている砂取校区がある。そこで、
平成 27 年 5 月から砂取校区住民を対象にタクシーを利用して同商店街までの送迎事
業を開始した。
■運行頻度は毎週 1 往復であり、利用料金は片道 350 円/人となっている。通常のタク
シー料金は 1,000 円程度かかるが、これは往復で 700 円のため、外出機会の創出につ
なげている。
■同事業の利用者は 1 か月あたり 8 名程度であり、上述の「いきいきショッピング推進
事業」に比べ少ない状況にある。しかし、高齢者からは、自分の目で見て商品を選び
たいという要望が強いことや、移動販売は取扱い品目が固定しているため飽きてしま
うといった意見が聞かれること等から、利用者が少なくても同事業を継続していきた
いと考えている。また、店員とのコミュニケーションも楽しみの一つであり、買物時
間が 5 分に対し会話が 30 分といったケースもみられるようである。
‐ 146 ‐
ヒアリング内容
【健軍まちなか図書館「よって館ね」について】
■平成 20 年に九州経済産業局の医商連携のまちづくり委員会の流れを受けて医商連携
の次世代型まちづくりを進めることになった。従来、国は中心市街地の活性化という
ことで補助金を交付してきたが、現実には商店街が活性化してい るところは多くな
い。そこで、商店街と地域の医療機関が連携して何かできないかと考え、同商店街で
は空き店舗を利用して、健康・医療・子育てに関する情報提供、図書の提供、血圧・
体脂肪測定、健康相談等を実施することになった。健康相談については、看護協会か
らボランティアを派遣してもらっている。
■「よって館ね」の利用者数は平成 26 年度に 13,732 人となり、過去最高となっている。
<まちなか図書館「よって館ね」の外観(左)と館内の様子(右)>
【貯筋通帳について】
■貯筋通帳プロジェクトは、鹿屋体育大学の福永副学長が提唱する、毎日行いながら貯
筋していく道具のいらない筋力トレーニングである。70 歳代になると若い時の筋肉量
が半分近くになる。病気やケガで入院すると更に筋肉量が落ち、病気が治った後も歩
けなくなってしまうケースもある。筋肉を付けておけば病気やケガが治った後に普通
の生活の戻れるというものである。
■15 分間の貯筋運動をした後、貯筋通帳に記録して、ある程度の残高になれば、買い物
クーポンがもらえる仕組みである。今年で 3 年目となるが、貯筋運動が公民館やコミ
ュニティセンター等でも普及拡大している。通帳は、1 冊 250 円であるが、これを 100
円で販売している。無料にすると使われないので値段を付けている。クーポンの発行
で商店街の売上げ増加にもつながっている。
‐ 147 ‐
2.3.情報通信
2.3.1.株式会社インテック
富山市に立地する情報通信企業である同社は、平成 24 年度に総務省の「ICT
超高齢社会づくり推進事業」の一つである「いきいきシニア倍増計画 in とやま」
に参画して、ICT を活用して高齢者の健康増進支援と社会参加誘導に取り組んだ。
そこで、同事業の内容や ICT を利用したビジネスの可能性等について尋ねた。
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 8 月 31 日(月)
■会
社
名
株式会社インテック
■本 社 所 在 地
富山県富山市牛島新町 5-5
■設
立
年
昭和 39 年
■代
表
者
代表取締役社長
日下
容
茂樹
■事
業
内
容
技術研究、ICT コンサルティング、ソフトウェア開発
■従
業
員
数
3,666 名
■年 間 売 上 高
1,056 億円
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.intec.co.jp/
等
ヒアリング内容
【会社概要】
■昭和 39 年に設立した情報通信企業であり、現在は全国 22 カ所に事業所を持ち、従業
員数は 3,666 名、売上高は 1,056 億円の企業である。
■平成 20 年には同業の TIS㈱(東京都)と持ち株会社 IT ホールディングスを設立する
等、独立系の情報通信企業としては全国上位に位置している。
【事業概要】
■主な事業としては、技術研究、ICT コンサルティング、ソフトウェア開発、システム・
インテグレーション、アウトソーシングサービス等を手掛けている。
■自治体向けとしては、富山県内 15 市町村すべての基幹システムを受託している。ま
た富山市内においては、観光案内システムや Wi‐Fi スポット整備等を手掛けた実績
がある。
■近年はデータセンター(DC)事業に注力しており、平成 12 年には東京電力㈱と共同
で「アット東京」を設立した。また、平成 21 年には北陸電力㈱と「パワー・アンド・
IT」を設立し、さらに関電システムソリューションズ㈱(大阪府)と協業で DC を設
置している。
‐ 148 ‐
ヒアリング内容
【「いきいきシニア倍増計画 in とやま」について】
■「いきいきシニア倍増計画 in とやま」は、産官学の 12 団体が提案して、総務省の平
成 24 年度補正予算「ICT 超高齢社会づくり推進事業」に採択された事業である。ICT
(情報通信技術)を活用して、高齢者の健康支援等を行いアクティブシニアが活躍す
る地域社会を目指すプロジェクトであり、同社は ICT を提供した。
■同プロジェクトは大きく分けて①介護予防プログラムの実施による「健康増進支援」
と、②高齢者の外出機会を創出する「社会参加誘導」の 2 つの事業がある。
■①「健康増進支援」としては、温泉水を利用したプール 等がある富山市内の介護予防
施設「角川介護予防センター」で、40 歳以上の方を対象にロコモティブシンドローム
(運動器症候群)の予防を目的とした運動教室を 24 回(3 カ月)開催した。参加者に
はデジタル活動量計を貸し出し、来訪ごとに体重や血圧等を測定してパソコン上で推
移を表示した。活動量計を専用機器にかざすだけで自分専用 のページにジャンプする
等、使いやすさに配慮した仕組みになっている。
■②「社会参加誘導」としては、活動量計に蓄積されたデータを計測できるチェックポ
イントを中心市街地 2 カ所に設置したり、イベントを 3 回開催する等して、外出機会
を創出するとともに、中心市街地のにぎわい創出にもつなげた。また、活動量計には
歩数計機能が付属しており、ゲーム要素を組み込んで歩行頻度の向上に取り組んだ。
■同プロジェクトは、単年度事業であることから現在は行われていない。また、同プロ
ジェクトで得たノウハウを基にした新しいビジネス展開は企画段階である。
<いきいきシニア倍増計画 in とやまの概要(総務省ホームページより)>
‐ 149 ‐
ヒアリング内容
【高岡市内での在宅療養における多職種連携システムの運用について】
■平成 25 年 4 月から高岡市、射水市、氷見市の 3 市内の病院および診療所 42 施設(高
岡市:38、射水市:3、氷見市:1)において、電子カルテの閲覧や診療予約を行える
病診連携システムを導入した。
■高岡市医師会は、このシステムをベースに平成 26 年 11 月から多職種連携へと拡大を
図った。連携した施設としては、市内における 4 病院、18 診療所、1 歯科診療所、4
調剤薬局、5 訪問看護ステーション、7 居宅介護支援事業所、3 地域包括支援センター
の計 42 施設であり、利用職員数は 146 名、情報登録患者数は 60 名となっている。
■システム導入の経緯としては、1 点目には、ケアマネジャーと医師間における意見交
換頻度が低かったことがある。2 点目として、これまで電話・FAX・メールに加え、関
係者が記入する「連絡ノート」を患者宅に設置していたが、患者宅でしか閲覧でき な
いことから不便に感じていたことが挙げられる。
■仕組みとしては、既存の病診連携システム内に、多職種関係者がテキスト入力や関係
書類や画像添付を行える「患者メモ」項目を組み込んだ。なお、医師以外についても
同システムへアクセスできるが、診療情報等の一部情報については、医師のみしか閲
覧できないよう利用制限を設けている。
■現在のところ、同システムは参加病院および施設内における有線通信あるいは無線通
信時のみ利用可能であり、患者宅では利用できない仕組みとなっている。患者宅での
利用ニーズに対しては、専用の発信機を設置して閲覧を可能とする仕組みを検討して
いるところである。発信機の電波範囲から外れると利用できなくなるため、セキュリ
ティへの対応も可能となる。
<高岡市における多職種連携の状況(㈱インテック提供資料)>
‐ 150 ‐
ヒアリング内容
【高齢者健康管理クラウド事業について】
■同社は現在、富山市や大学、企業と共同で「おでかけウォッチ」の開発事業に取り組
んでいる。これは、移動距離、経路、歩数、時間、利用した交通機関、訪れた施設 等
を記録できるよう機能を付加した小型の GPS 端末器(「おでかけウォッチ」)を高齢者
に保有してもらい、データを収集して健康管理に役立てようという事業である。
■平成 25 年度に富山市が配布している高齢者専用定期券を保有している高齢者 150 名
を対象に歩数計を渡して数日間行動してもらう実験を行った。そのデータを集計した
結果、定期券を利用して外出した日は利用していない日に比べ約 1,300 歩多く歩くこ
とが判明した。筑波大学の久野教授は 1 歩あたり 0.061 円の医療費削減効果があると
試算しており、それを参考にすると、1 年間で約 7,560 万円(医療費削減効果約 80
円/日×定期券利用者 2,590 人/日×365 日)の削減効果につながると推計できる。
■実験結果をみた富山市長から「歩行数の増加は把握できたが、細かな行動内容も把握
したい」との意見から、本事業に着手することになった。
■現在は機器の開発段階であり、本格運用は平成 28 年度を予定している。
【ICT を利用した事業の可能性について】
■同社では、情報通信を利用したビジネス展開として、「ライフログ」を利用したサー
ビスを開発している。「ライフログ」とは、スマートフォン等に内蔵されている GPS、
モーションセンサー、カメラ等を利用して、個人の日常生活データを記録・蓄積する
ことである。このような行動データを蓄積して利用することで将来的にビジネスに発
展できる可能性があると考えている。
■情報通信機器を利用して、高齢者の健康データ等を蓄積しつつあるが、精度の高い分
析を行うためには、長期間のデータを収集する必要があることから、多少の時間が必
要だと考えている。それと同時に、データを解析する人材が必要になるとも考えてい
る。
■今後、効果的な施策を展開するためには、実証実験 等で蓄積したデータと市が保有し
ている既存の各種データとをマッチングさせることが必要だと考えている。そこで、
ICT が大きな役割を果たしていくと考えている。
‐ 151 ‐
2.3.2.新川地域在宅医療療養連携協議会
富山県北西部に位置する新川医療圏(魚津市、黒部市、入善町、朝日町)で
は、10 年前である平成 17 年から開業医 8 名が在宅医療に取り組むために連携を
取り始めた。その後、薬剤師や訪問看護師等の参加メンバーが増える中、ICT を
利用した在宅医療患者情報共有システムを積極的に導入している。そこで、在
宅医療における多職種間連携のポイント等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 9 月 1 日(火)
■組
織
名
新川地域在宅医療療養連携協議会
■所
在
地
富山県黒部市吉田 599-2
■設
立
年
平成 17 年
■代
表
者
会長
容
在宅医療連携の支援、市民向け啓発活動
数
148 名(医師、病院、訪問看護師、ケアマネジャー
■事
■会
業
内
員
■ホ ー ム ペ ー ジ
藤岡
照裕
等
等)
http://www.niikawa-zaitaku.net/
ヒアリング内容
【協議会の設立経緯】
■10 数年前から在宅の終末期医療に取り組むなかで、開業医への負担が非常に大きくな
っていた。そこで、負担の軽減を図るため、開業医同士で連携しながら取り組むこと
を目的に、平成 17 年、魚津市・黒部市・入善町の開業医 8 名で「新川地域医療連携
懇話会」を設立した。
■同協議会の取り組みとして、平成 18 年に在宅終末期、栄養管理・胃ろうに関する「地
域連携パス」の運用を開始した。連携の感触をつかめたこと等から、平成 19 年に組
織を「新川地域在宅医療療養連携協議会」へと発展させて、参加メンバーが拡大して
いった。
■平成 21 年には、マイクロソフト㈱のソフトを利用した患者情報共有システムを導入
して、多職種連携の強化を図った。
■平成 22 年には、在宅医療を担う医療機関を支援する「新川地域在宅医療支援センタ
ー」を設立した。
■現在の協議会の構成メンバーとしては、在宅医、公的病院、個人病院、地域連携室、
デイサービス、歯科医師、医師会、ケアマネジャー、訪問看護師、薬剤師、訪問リハ
ビリステーション、薬剤師会、自治体等となっている。
‐ 152 ‐
ヒアリング内容
【ICT を利用した連携システム「あんしん在宅ネットにいかわ」について】
■協議会発足当初は、紙ベースの地域連携パスを運用し、FAX 等で送信していた。しか
し、記入回数が増加するにつれ、過去に記入された文字が見えにくくなる 等不便を感
じていた。そのような時、ある医師からマイクロソフト㈱のソフト「Microsoft Groove」
を紹介され、「あんしん在宅ネットにいかわ」の名称で導入することにした。
■ICT の活用については、当初は拒否する医師もいたが、今後の情報共有は ICT の活用
が前提であることを説明・説得し、約 50 カ所に導入して運用を開始した。
■情報共有の仕組みとしては、医師や訪問薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャー等が患
者との対応状況をパソコン上で入力し、情報を更新すると、各メンバーに自動的にデ
ータが同期されるようになっている。また、ディスカッション機能が付いていること
から、気になる点等についてインターネット上で意見交換できるため、実際に会う時
間的負担を軽減できている。
■「あんしん在宅ネットにいかわ」の導入によって、多職種が患者に対する共有認識を
もって訪問できることから、専門性を生かして迅速な対応ができるようになった。
■現在の登録患者数は 70 名である。
■「あんしん在宅ネットにいかわ」の運用コストは、新川地域在宅医療支援センターが
年間利用料(65 万円)を負担し、利用者から 1 カ月あたり 1,000 円を徴収している。
■ただ、「Microsoft Groove」は新規の開発が行われておらず、あと数年しか使用でき
ない状況であることから、近いうちに新しいシステムへと移行する必要がある。
<専門職による診療報告書(左)とディスカッション機能(右)>
‐ 153 ‐
ヒアリング内容
【新・扇状地ネット(下新川地域医療連携ネットワーク)について】
■同協議会の参加メンバーである黒部市民病院は、平成 18 年から電子カルテと地域内
の診療所のパソコンをインターネット回線で接続して、患者情報の閲覧(一方通行)
を可能とする共有システム「扇状地ネット」の運用を開始した(病診連携)。
■平成 25 年からは、診察情報に加え、紹介状の送付・返書や診察のオンライン予約、
さらには薬剤師や訪問看護師、ケアマネジャーも利用できるように機能を刷新して多
職種連携システム「新・扇状地ネット」として運用している。これは、「あんしん在
宅ネットにいかわ」と同様に各関係者が患者の状況記入ができ、またディスカッショ
ン機能が付属している双方向型システムとなっている(富士通製)。
■延べ登録患者数は 3,650 人であり、参加機関数は、医師が 16 名、薬剤師、訪問看護
師、ケアマネジャー等のコメディカル職員が 22 名となっている。
■利用料金は、医師、歯科医師は年間 12,000 円(+消費税)、薬剤師、訪問看護師、ケ
アマネジャー、リハビリ療法士は年間 6,000 円(+消費税)となっている。
<新・扇状地ネットの画面例(新川地域在宅医療療養連携協議会提供資料)>
‐ 154 ‐
ヒアリング内容
【ICT の活用について】
■平成 12 年ごろから、国は ICT を活用したネットワーク推進事業を行ってきたが、そ
の多くはうまくいかなった。この理由としては、現場のニーズに対応していなかった
ことや高額な運営費が負担となったことが挙げられる。このため、誰もが簡単に使え、
安価なシステムが望ましいと考えている。
■「あんしん在宅ネットにいかわ」は、医師以外の職種が積極的に導入し、連携の強化
を図ることができた。このことから、IT 化は多職種連携推進の重要なツールだと考え
ている。
■現在の患者情報共有システムの課題としては、医療や介護の関係者間の情報共有に留
まっていることが挙げられる。今後は患者や家族も参加して、疑問点や不安等の意見
を記入できるようなシステムへ発展させることが望ましいと考えている。
【多職種連携の推進について】
■また、平成 26 年からは、インターネット上の情報共有だけでなく、実際に医療 ・介
護従事者の多職種が集い意見交換を行う「ケアカフェ」を開催している。顔を見て会
話をすることで、職種の壁を下げる効果がみられている。
■新川医療圏のように 2 市 2 町(黒部市、朝日町、入善町)が連携して取り組んでいる
ことから、地方や中山間地域では、医療資源が限られているため行政区分を越えた多
職種連携に取り組んでいく必要があると考えている。
【地域包括ケアシステムの構築について】
■同協議会では、地域住民に対して、在宅医療に対する考え方等を説明する公開講座を
平成 24 年から開催しており、住民への理解向上にも努めている。
■地域包括ケアシステムを構築するためには「連携」と「情報共有」の 2 点が重要だと
考えている。「連携」には、医療・介護だけでなく、医療と地域住民、あるいは地域
住民同士の連携と様々な形態がある。連携を図るためには、自助と互助を育てる必要
があり、民間企業がビジネス展開できる余地が十分にあると考えている。また、「情
報共有」については、現在、多くの人が携帯電話やスマートフォンを所持し、一定の
使用能力を有していることから、情報の共有に十分対応できると考えている。
■健康寿命の延伸には「老衰と認知症」への予防が重要であると考えている。予防に対
しては、①咀嚼機能の保持②食生活の改善③軽い運動④コミュニケーションの維持の
4 点に取り組むことが必要だと考えている。
‐ 155 ‐
2.4.セキュリティ
2.4.1.ALSOK あんしんケアサポート株式会社
同社は電話を利用した緊急通報・相談事業と介護事業を手掛ける会社である。
緊急通報・相談事業では、高齢者との日常的な会話を通じて、一人暮らし高齢
者の孤立の防止や看護師等の専門的知見を活かした電話アドバイスによって、
利用者から高い信頼を得ている。同事業を通じて、セキュリティ面での高齢者
のニーズ等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 8 月 10 日(月)
■会
社
名
ALSOK あんしんケアサポート株式会社
■本 社 所 在 地
東京都大田区山王 1-3-5NTT データ大森山王ビル
■設
立
年
昭和 62 年
■代
表
者
代表取締役社長
宮澤
裕一
■事
業
内
容
緊急通報事業、健康相談事業、介護事業
■従
業
員
数
650 名
■年 間 売 上 高
40 億円
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://acs.alsok.co.jp/
ヒアリング内容
【会社概要】
■昭和 62 年に、高齢者からの緊急通報に対応する安全センター㈱を設立した。平成 12
年に㈱山武(東京都)と資本提携し、平成 24 年に、同社の子会社で介護事業を手掛
けている山武ケアネット㈱と経営統合し、アズビルあんしんケアサポート㈱に名称変
更した。
■平成 27 年に、綜合警備保障㈱(ALSOK)が同社の全株式を取得し、ALSOK あんしんケ
アサポート株式会社に会社名を変更し今日に至る。
【事業概要】
■緊急通報事業は、自治体からの受託業務として開始したことが始まりとなっている。
専用の通報装置を家庭に設置し、「緊急」あるいは「相談」ボタンを押すと受信セン
ターに繋がり、スピーカーを通じて会話することができる仕組みとなっている。
■その後、健康に関する相談事業を手掛け、さらに、家族介護支援相談や特定保健指導
相談、在宅医療機器のコールセンター業務と相談内容の範囲を広げてきている。
■介護事業については、介護保険の範囲内として居宅介護支援、訪問介護、通所介護、
グループホーム事業を手掛けている。
‐ 156 ‐
ヒアリング内容
【緊急通報・相談事業について】
■緊急通報・相談事業は 24 時間対応であり、現在、全国で 6.7 万人が利用している。
契約形態としては、個人との直接契約(約 2 千名)と、自治体の見守り事業(委託)
による利用者(約 6.5 万人)に分けることができる。委託契約を締結している自治体
は、名古屋市やさいたま市等全国で 400 を超えている。
■利用者の 80%は女性であり、平均年齢は 79.9 歳となっている。
■オペレーターには、看護師、保健師、管理栄養士、臨床心理士、心理カウンセラー等
が在籍している。本社には、200 名程度のオペレーターに加え医師が 1 名在籍してい
る。
■1 日あたり 20~30 件程度の緊急通報があり、1 年間で1万件の累計通報件数となる。
利用者 100 名あたり、12 名程度を救助していることになる。
■1 カ月に 1 回「お伺いコール」と称して、同社から高齢者へ連絡を取ることで、健康
状態の確認やコミュニケーションを図るよう努めている。
■通報事業に関しては、同社が全国シェア 1 位となっている。
<緊急通報サービスの仕組み(同社ホームページより)>
‐ 157 ‐
ヒアリング内容
■受信センターは本社以外に、盛岡市、富山市、名古屋市、大阪市、広島市、山口市、
熊本市の全国 7 カ所に設置している。各地の受信センター には 10 名前後が勤務して
おり、本社の 10 分の 1 程度の規模となっている。
■同社では「フィールドレポート」という PDCA システムを設けている。これは、日々
利用者から指摘されたクレーム等を集めて毎月 1 回委員会を開き、再発防止にむけて
検証を行う仕組みである。
■緊急通報サービスをビジネス面からみると、大きな市場ではないようである。参入事
業者としては、かつては電機メーカー等も存在していたが相次いで撤退しており、現
在では、大手あるいは地場の警備事業者がほとんどのようである。緊急通報事業は、
生命にかかわる事業であることからリスクが高い割には、収益が少ない点が特徴であ
る。
【高齢者の特性・ニーズ】
■同社では、①高齢者が安心して通報ボタンを押すことができること、②急病時に適切
に救助できる仕組みにする、という 2 点を重視している。
■①に関しては、高齢者は他の年代に比べ、不意の接触等によってコールボタンを間違
えて押すことがある。それを同社が「誤報」として対応すると、高齢者は罪悪感 等か
ら二度と通報装置を利用しなくなるようである。そこで、同社は二者択一ではなく、
自由に回答できるような聞き方を心掛けることで、気軽に利用できるオペレーション
を意識している。
■②に関しては、オペレーターである看護師が、既往歴等の情報をモニターで確認しな
がら、症状等について尋ねたり、丁寧に聞き返したりして状況を判断し、アドバイス
あるいは救急車の要請等の対応を行っている。
■同社では、緊急通報・相談事業を通じて、高齢者は「気軽に相談できる。また、安心
して話を聞いてくれる。」ことを求めていると感じている。このため、高 齢者からの
相談や会話は、話し終わるまで聞くという傾聴する姿勢 が重要であり、そうすること
で、信頼関係の構築やニーズの発見につながると考えている。
■高い信頼関係を構築した結果、高齢者が手芸品や自作の詩等を同社へ届けてくること
がある。また、稀に、会社へ訪問される高齢者も存在している。
■さらに、契約当初は内向的な高齢者が、オペレーターとの会話を通じて明るくなり、
現在では絵画の個展を開催するほどの活動的な性格になった例もある。このように社
会との接点を設けることで、生きがい等を見つける契機になるといった目に見えない
効果が生まれている。
‐ 158 ‐
ヒアリング内容
【抱えている課題】
■同社では、人材の確保が課題となっている。特に看護師の確保が難しい。このため、
昇給や管理職への昇格等待遇面で安心して勤務できる環境を整えている。
【今後について】
■同社は、現状の在宅医療体制では、特に中・重度の介護者が在宅で安心して暮らすこ
とができる環境とは言い難く、医療・介護の連携を一層深めていく必要があるとみて
いる。
■その連携を高めるには、高齢者の情報収集や各方面への伝達をスムーズに行う必要が
ある。同社のようなコールセンターがその役割を担える可能性があるのか模索してい
るところである。
■同社では、緊急通報・相談事業のような業務においては、全国各地に受信センターを
設置する必要性があまりないと考えている。今後は、本社に人材を集中させて、人材
教育や採用を一括で行うことで効率性を高めようと考えている。
■ALSOK はホームセキュリティ業を主軸に、周辺分野に事業を拡大してきた会社である。
その一つとして「ケア」があり、今回の株式取得に至っている。同社が ALSOK グルー
プに入ってからまだ 7 ヵ月しか経っていないため、連携の強化はこれからである。今
後、ALSOK としては、ホームセキュリティ分野で培った信頼 等を基に、高齢者のニー
ズを把握したうえで適切なサービスをワンストップで提供できるような体制を整え
ることができれば良いと考えている。
<家庭に設置する通報・相談装置>
‐ 159 ‐
2.4.2.株式会社アライブメディケア
株式会社アライブメディケアはセコムグループの介護付き有料老人ホームを
運営している。セコムが培ってきたセキュリティ事業と高齢者向けの医療・介護
事業を融合させた介護サービスを提供している。同社は、平成27年2月に地域包
括ケアシステムの一翼を担う有料老人ホームとして「アライブ品川大井」を開
設した。そこで、同施設の状況を通じて、高齢者の住まいに関する状況につい
て尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 8 月 11 日(火)
■会
社
名
株式会社アライブメディケア
■所
在
地
東京都渋谷区神宮前 6-19-13 J-6 ビル 8 階
■設
立
年
昭和 55 年 6 月
■代
表
者
代表取締役社長
関谷
聡
■事
業
内
容
介護付き有料老人ホームの企画、開発、運営
■従
業
員
数
362 名
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.alive-carehome.co.jp/index.shtml
ヒアリング内容
【会社概要】
■同社の取締役会長である荒井喜八郎が昭和 41 年に不動産事業を手がける株式会社荒
井商店を設立した。その後、昭和 54 年にグループ会社として鶴巻温泉病院(医療法
人社団三喜会、神奈川県湊野市)を開設した。株式会社アライブメディケアは平成 11
年から有料老人ホームの開発・運営を手がけるようになった。そして、平成 14 年に株
式会社荒井商店がセコムグループに入り今日に至っている。
【事業内容】
■有料老人ホーム事業は、平成 11 年、鶴巻温泉病院の近くに「アライブかながわ(35
室)(神奈川県相模原市)」を開設した。その後は東京都内に平成 13 年に「アライブ
杉並松庵(27 室)」、16 年に「アライブ荻窪(37 室)」、18 年に「アライブ世田谷下馬
(62 室)、24 年に「アライブ世田谷代田(30 室)」等 10 ヵ所(412 室)を運営してい
る。
■各施設の入居費用は 1,500 万円から 3,500 万円程度であり、高級老人ホームに分類さ
れる。
‐ 160 ‐
ヒアリング内容
【アライブ品川大井の概要】
■「アライブ品川大井(品川区大井)」は、平成 27 年 2 月に開設した個室型(58 室)の
新施設(5 階建てのうち、1 階から 4 階を使用)である。
■開設から半年程度経過した時点での入所者は 40 名程度となっている。多くの有料老
人ホームは、1 年から 1 年半程度で満室となるよう入居者を受け入れていくが、
「アラ
イブ品川大井」は、入居希望者が多いこと等から、既に 70%程度の入居率となってい
る。入居者の居住地別をみると、大田区住民と品川区住民が 70%程度を占めている。
■サービスの質を高めるために、入居者 2 名に対してスタッフが 1 名以上付く人員配置
となっている。
■医療面に関しては、大田区内の二次救急病院である牧田総合病院と連携して、毎月 2
回の訪問診療や年 2 回の健康診断を実施している。
■セキュリティ面では、
「セコムアクティブ IC タグシステム」を利用して ご家族やスタ
ッフに権限を与えることで、自由な出入を実現し ている。また、双方向画像監視シス
テム「セコムⅨ」により、侵入異常や火災発生時にはセコムのコールセンターと通信
することで、迅速な対応をとることができる体制となっている。
<アライブ品川大井の概観>
<個室に設置されているベッド>
【地域との連携状況】
■介護付き有料老人ホームは医療を除くサービスが施設内で完結してしまうため、地域
とのつながりが弱くなりやすい傾向にある。同社は、「アライブ世田谷下馬(平成 18
年)」を建設する際に地域と の結びつきの重要性を理解したことから、積極的に地域
との係わりを持とうと取り組んでいる。その一つに近隣にある「ダイシン百貨店(大
田区山王)」との連携が挙げられる。ダイシン百貨店は自社で循環バスを運行させて
おり、停留所の一つをアライブ品川大井に設置し入居者や近隣住民が利用している。
また、施設内での出張販売のイベント等も実施している。
‐ 161 ‐
ヒアリング内容
■大田区では、地域包括支援センターが地域の高齢者のサポート 等を行う「おおた高齢
者見守りネットワークみまーも」を運営している。
「みまーも」には 90 近くの各種サ
ークルが存在しており、アライブ品川の共有スペースでイベント等を開催できるよう
開放している。
【事業を通じた効果】
■地域や地元企業と連携することで、地域住民と有料老人ホームの垣根が低くなりつつ
ある。
■有料老人ホームは高齢者の住まいや生活を支える場である。入居者やその家族は安心
して過ごすことができる施設を求めており、セコムが資本参加している点は、入居を
検討する際の判断材料となっているようである。
【地域包括ケアシステムの構築について】
■高齢の両親を抱える家族の多くは、頻繁に会いに行くことができるような距離で暮ら
してもらいたいと考えている。
■高齢者が在宅で安心して生活できる体制を整える必要があることから、在宅医療や訪
問看護といった在宅サービスを充実する必要があると考えている。
■住まいに関しては、「サービス付き高齢者向け住宅」に対する期待が大きいが、入居
者に適したサービスを提供しなければ、生き残っていくことは難しいと考えている。
■一般の事業会社が地域包括ケアシステムに関する分野へ進出する場合、ノウハウの蓄
積に相当な時間を有すること等から、単独ではなく各産業分野の企業と連携してサー
ビスを提供した方が良いと考えている。また、企業がこれまで培ってきた本業を生か
して、既存の社会福祉法人が考えつかないような商品・サービスを提供する必要があ
ると考えている。さらに、地域によって高齢者数、嗜好、所得、医療・介護資源、生
活支援産業の環境等が異なるため、その地域の実態にどこまで近づいてサービスを提
供できるのかがポイントになると考えている。
■退院直後の高齢者が日常生活に戻るためには高齢者本人や家族に対して大きな負担
がかかってしまうため、医療・介護の連携が特に重要になると考えている。
■現在は、成年後見に関する制度が充実しているとは言い難い状況にある。今後、一人
暮らし高齢者が増えるなかで、これらに関する問題や課題が多く発生すると懸念され
るため、制度の充実を図る必要があると考えている。
‐ 162 ‐
ヒアリング内容
【今後について】
■有料老人ホームとしては、「看取り」機能を強化することが必要だと考えている。
■これまで開設したアライブシリーズの有料老人ホームは、入居費用が 2,000 万円から
3,000 万円と高所得層向けであったが、
「アライブ品川大井」は 1,500 万円前後とやや
グレードを下げた価格設定となっている。今後も同様の価格帯の有料老人ホームを増
やして利用者層を拡大しようと考えている。
<共用部扉に設置してある入室管理装置>
‐ 163 ‐
<施設内のリビングルーム>
2.5.その他の生活支援事業
2.5.1.暮らしの保健室
暮らしの保健室は、東京都新宿区で健康や医療等に関する相談事業を無料で
行っている。スタッフとして、看護師やボランティア(専門職を含む)が常駐
し、相談事業以外に住民同士の情報交換や、ぬり絵・手芸・料理の教室等も行
っている。この地域における医療と介護の連携の一翼を担う拠点に、地域包括
ケアシステムの構築に向けたポイント等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 8 月 10 日(月)
■会
社
名
暮らしの保健室(株式会社ケアーズ白十字訪問看護 ステーション)
■所
在
地
東京都新宿区戸山 2-33 戸山ハイツ 33 号棟 125(1 階 商店街)
■設
立
年
平成 23 年
■代
表
者
秋山
容
暮らし、健康、医療、介護に関する相談事業
■事
業
内
正子
■ス タ ッ フ 数
4 名+ボランティア 40 名
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.cares-hakujuji.com/services/kurashi
ヒアリング内容
【設立経緯】
■代表者である秋山氏は新宿区内で訪問看護を 20 年以上手がける中で、高齢者が「病
院に行くほどではないが、少し気になることがある」、あるいは「病院の先生に言わ
れたことがよくわからない」といった不安や疑問等を抱えていることに気付いた。そ
のころ、イギリスでがん患者に対して相談支援事業を行っている「マギーズ・キャン
サー・ケアリング・センター」の存在を知り、これを参考に誰でも気軽に相談できる
窓口を開設したいと考えていた。いろいろ模索していると、都営住宅戸山ハイツの空
き店舗を低価格で借りられることになり、平成 23 年 7 月に「暮らしの保健室」をオ
ープンした。
【戸山ハイツについて】
■都営住宅戸山ハイツは昭和 30 年代から 40 年代に建てられた全 35 棟、3,400 世帯、約
5,900 人が生活する広大な団地である。
■新宿区全体の高齢化率が約 20%であるのに対し、戸山ハイツは 50%を超えており、
都会の中の超高齢化地域となっている。
■また、同団地における一人暮らし高齢者世帯の割合は全体の約 4 割と非常に高くなっ
ている。
‐ 164 ‐
ヒアリング内容
【事業概要】
■「暮らしの保健室」には、4 名の看護師と薬剤師といった専門職の相談アドバイザー
に加え、地域のボランティアスタッフが約 40 名在籍しており、交代で出勤している。
月曜から金曜の午前 9 時から午後 5 時まで営業している。
■相談は全て無料で、内容としては、暮らしから医療・介護等多岐に渡る。毎月 1 回、
がんの療養に関する相談も受け付けている。1 人あたりの平均対応時間は 30 分であ
り、医療機関(約 5 分)のおおよそ 6 倍近くの時間をかけている。
■相談への対応内容としては、
「助言」が約 60%、
「傾聴」が約 15%、
「他機関との連携」
と「他機関への紹介」がそれぞれ約 7%等となっている。最終的に相談者自身が判断
あるいは決断するといった自立を目的としていることから、助言の割合が高くなって
いる。相談には高齢者だけでなく、子育て中の母親や介護している家族 等も訪れてい
る。
■相談事業以外に、鍼灸・ストレッチや塗り絵・手芸といったアクティビティイベント
を曜日ごとに開催している。また、木曜日は管理栄養士による食事指導会を開いてお
り、一人暮らし高齢者を中心に 40 名程度が集まり昼食をとっている(材料費のみ)。
■昨年の年間利用者数は約 2,700 人で、うちアクティビティ利用は約 1,800 人、相談利
用は約 900 人となっている。相談利用のうち約 300 名はがん相談となっている。
■利用者を居住地別にみると 87%が新宿区民であり、残りは新宿区以外の住民となって
いる。電話による相談は遠方からの利用者が多くなっている。
■現在の運営費は、東京都からの「市区町村在宅医療窓口推進事業」と新宿区の「がん
の療養相談事業」による助成金等で賄っている。
<暮らしの保健室の外観>
<室内>
‐ 165 ‐
ヒアリング内容
【他機関との連携状況】
■本業の訪問看護で多くの医療機関や介護施設等と日ごろから付き合いがあるため、相
談に来た高齢者の状況に合わせて適切な受診・通所先を紹介している。
■また、毎月 1 回多職種による勉強会を開催しており、連携の強化に努めている。特に
連携の可視化(高齢者と病院、介護施設、自治体、ケアマネ ジャー等の関係をフロー
チャートで図示している)を意識している。このフローチャートを使うことで、同じ
ような状況に遭遇したときに対応策を講じやすくなるようである。
■大学教授や地元調剤薬局の薬剤師が相談アドバイザーとなっている ことから、「暮ら
しの保健室」が学生の実習や研修の場としての役割も果たしている。
■食品メーカーや飲料メーカーが高齢者向け商品を無償で提供し、利用者の意見を聞く
等のモニタリングの場として利用されることもある。
【事業を通じた効果】
■日本赤十字看護大学のレポートによると、「暮らしの保健室」に通った人がかかりつ
け医を持ち、受診する病院数を減らした例がある。また、安易に救急車 を呼ぶ高齢者
が減少してきた。このようなことから、医療費の削減等に結びつくといった効果がみ
られている。
■多くの自治体が視察に訪れており、ここでの取り組みを参考に、自地域の実情に合わ
せて相談事業を始めている。
■マスコミに取り上げられることで認知度が高まった結果、在宅ケアの感心が高まり訪
問看護や「暮らしの保健室」への就職者が現れた。
【地域包括ケアシステムの構築について】
■地域包括ケアシステムを構築するためには、未病(健康状態の範囲であるが病気に著
しく近い身体又は心の状態)の高齢者が病気にかからないよう心がけることが必要で
あり、そのためには、自治体による生活支援に関する対応・支援が大きな役割を果た
す必要があると考えている。
■その一つとして、定年退職後の前期高齢者が地域内で新たな役割を見出して生活を送
るような仕組みが必要だと考えている。そのような方を対象に高齢者としての過ごし
方等の教育機会を提供することも必要だと考えている。
■現在の保険制度は出来高払いの仕組みとなっている。今後は、予防によって効果が現
れることで給付されるような仕組みへ変えていくことが求められると考えている。
‐ 166 ‐
ヒアリング内容
■IT を利用した医療・介護の連携については、全関係者が情報を共有する必要性はなく、
限られた人数において共有することで十分足りることから大掛かりなシステムを導
入しても効果は薄いと見立てている。また、システムの導入に全ての関係者が賛同し
ているわけでもなく、実際の現場では電話や FAX で間に合っているようである。
■現在、暮らしている地域で最期を迎えるためには、日ごろからの予防が重要だと考え
ている。
■地域包括ケアシステムの構築には、医療、介護、保健等さまざまな分野が連携しなが
ら取り組む必要がある。そのためには、行政機関における部局間同士での連携を一層
深める必要があるとみている。
<暮らしの保健室は戸山ハイツ第 33 棟の 1 階に位置している>
【抱えている課題】
■都会の特徴として、各人がいろいろな情報を持っているが、それらをつなぐあるいは
まとめる役割を果たす人材や機関がないことが挙げられる。今後、一人暮らし高齢者
や認知症患者が増加する中で、それらの個人情報や日々の状況を把握していくこと
で、孤独死等を防いでいく必要があると考えている。
■高齢になる前から住み替えを促すことが必要だと考えている。年齢を経るにつれて引
っ越しや移住に対して消極的になる傾向が強いようである。特に団地の高層階で暮ら
す高齢者は低層階へ簡単に移住できる仕組み等を整える必要があると考えている。
【今後について】
■本年 9 月から新宿区内の看取り家族の家を活用して看護小規模多機能型居宅介護サー
ビスを開所している。今後、訪問看護を受けることが出来る介護施設に対するニーズ
が高まってくると考えられることから、同サービスを提供することを決めた。地域包
括ケアシステムを構築するうえでも必要な施設だと考えている。
‐ 167 ‐
2.5.2.パーソナルボディマネジメント株式会社
同社は、医療とフィットネスの架け橋をテーマに顧客一人ひとりの体の特徴
や状態を把握したうえで、科学的知見に基づいたマンツーマン指導による顧客
一人ひとりに適した健康づくり事業を展開している。そこで、同社の事業内容
や介護予防に対する考え等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 28 日(水)
■会
社
名
パーソナルボディマネジメント株式会社
■本 社 所 在 地
福岡県福岡市南区長丘 1 丁目 17-15
■設
立
年
平成 23 年
■代
表
者
代表取締役
小西
基治
■事
業
内
容
運動指導、各種施設へのトレーナー派遣、イベント企画
■従
業
員
数
8 名(うち 2 名は業務委託)
■ホ ー ム ペ ー ジ
等
http://pbm555.com/
ヒアリング内容
【設立経緯】
■大学卒業後、大手フィットネスクラブに勤務していた小西氏は、多数の顧客に対して
トレーナー1 人という指導方法に疑問を持っていた。また、従来はアスリート向けの
指導を志向していたが、一般の人がわずかな指導でダイエットに成功したり、若返る
様子を見て、一般の人向けトレーニングに魅力を感じるようになっていった。
■そこで、勤務先を退職して平成 23 年に一般の人を対象としたマンツーマンレッスン
のトレーニングジムである同社を立ち上げた。
<同社の外観(左)とレッスン用個室(右)>
‐ 168 ‐
ヒアリング内容
【事業概要】
■同社は、①ぼでぃドック、②パーソナルトレーニング、③ボディメンテナンス、④ス
タジオレッスンの 4 つのサービスを提供している。
■①ぼでぃドックは来店初日にカウンセリングや姿勢・動作・柔軟性・筋力等の身体測
定を行い、自身の現状を把握して問題点や改善点を説明するものである。
■②パーソナルトレーニングは専属トレーナーによるマンツーマン指導である。姿勢の
矯正や関節の可動域調整を個人に適した運動法を用いて行う。
■③ボディメンテナンスは、ストレッチを用いて体の歪みや自律神経の緩和を調整する
同社オリジナルの身体調整法である。
■④スタジオレッスンは、最大 10 名までの少人数スタジオで、ヨガやピラティス、メ
タボ・ロコモ予防体操を提供する(現在、企画中)。
■料金(会員向け)は、
「ぼでぃドック」が 3,240 円/回、
「パーソナルトレーニング(60
分)」が 6,300 円/回、
「ボディマネジメント(60 分)」が 5,250 円/回となっている。
【顧客動向について】
■顧客(学生を除く)の年齢別割合をみると、30 代未満が 20%、40 代が 11%、50 代が
16%、60 代が 18%、70 代が 17%、80 代以上が 15%となっており、50 代以上が 3 分
の 2 を占めている。
■男女比(学生を除く)は、女性が 76%、男性が 24%で女性が圧倒的に多くなってい
る。
■ 利 用 目 的 とし て は 、「 機 能 改 善 ( 24% )」、「 健 康 維 持 ( 21% )」、「 リ ハ ビ リ 介 護 予 防
(17%)」、
「姿勢改善(12%)」、
「ダイエット(9%)」、
「腰痛予防(6%)」、
「競技力向
上(4%)」、
「肩こり改善(3%)」、
「ひざ痛改善(3%)」、
「筋力アップ(1%)」となっ
ている。
■顧客の利用動向としては、①同社のみ利用(週 1~2 回の来店)、②同社と介護保険サ
ービスを併用(週 1 回で自宅への訪問)、③同社と医療機関を併用(隔週~週 2 回の
来店)、④同社とフィットネスクラブを併用(月 1 回~週 1 回の来店)、⑤体のどこか
に痛みを感じたときの調整利用(不定期来店)の 5 パターンに大別できる。
■マンツーマン指導であることから、利用者は無理のない範囲でトレーニングできるこ
とやさまざまな悩みを打ち明けることができるため高く評価している。
■最近 2 か月間の新規顧客のうち 75%が既存客からの紹介で入会しており、口コミによ
って認知度が徐々に高まりつつある。
‐ 169 ‐
ヒアリング内容
【科学的知見に基づいた指導について】
■運動指導事業には国家資格が必要ではないため、顧客の信頼を得にくい部分がある。
そこで同社では、トレーニングの国際ライセンスとして有名な米国の NSCA(全米スト
レングス&コンディショニング協会)のパーソナルトレーナー資格を全社員が保有し
ている。これによって、科学的知見に基づいた指導を行うことが可能となっている。
■また、安全性を考慮して AHA(アメリカ心臓学会)の一次救命処置の資格も全社員が
保有している。
【他企業との連携について】
■現在、デイサービス事業所へのトレーナー派遣と運動プログラムおよび食事メ ニュー
を提供している。これは、デイサービス事業所が差別化戦略として同社の運動指導に
興味を持ったことが契機となっている。他の事業所からも幾つかの引き合いが来てい
る。
■このほかに、整骨院や高等学校部活動、少年向け野球教室、保育園にもトレーナーを
派遣して運動指導を行っている。
■また、福岡市内の専門学校や職業訓練校へ講師を派遣して、指導者の育成にも一役買
っている。
【抱えている課題】
■マンツーマン指導であるため、社員 1 人あたりの生産性を高めることが難しい状況に
ある。また、一定の指導レベルを求めていることから、希望する人材を集めにくい点
が課題となっている。
■一般にスポーツジムのトレーナーは 1 年契約というケースが多く、生活が安定しない
ため定着率が低い。
<ジム内に設置してあるトレーニング器具>
‐ 170 ‐
ヒアリング内容
【介護予防に対する考えについて】
■介護予防の最終目的は高齢者が自立することである。そのためには、専門家による関
節の可動域改善や筋力の上昇に向けたトレーニング等、より効果的なメニューを提供
することが不可欠であると考えている。
■今後は従来からの集団指導と同社のような個別指導の両方を用いて顧客のニーズを
満たす必要があると考えている。連携しているデイサービス施設では集団指導と個別
指導を併用しているが、個別指導に対して高い評価を得ている。
■近年、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)への注目が集まっている。これに
は、機能解剖学と運動学の知識が必要であり、専門家の関与が不可欠だと考えている。
一方で、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)は消費カロリーと摂取カロリ
ーの計算で改善できるため、専門的な知識が必要とは限らない。
■病的疾患にかかる前に運動指導を通じてロコモティブシンドロームを予防し、自立し
た運動習慣を身に付けるための手助けをしたいと考えている。それにより、医療費や
介護費用の削減につなげることができると考えている。
【今後の事業展開について】
■医療保険や介護保険制度の見直しに伴い、デイサービス事業者や整骨院へ通いにくい
高齢者が今後増加していくと考えられる。このような医療・介護と健康の隙間を埋め
ることが事業拡大のチャンスだと考えている。
■医療との連携を図るためには、効果を数値で表し「見える化」することが必要である
と考えている。
■近年、予防医学や健康寿命への関心が高まっていること 等から、健康に投資する人が
増えていくと考えている。
■同社としては、科学的知見に基づいた運動指導法を用いてマンツーマン指導と少人数
グループへの指導を併用することで多くの人の健康づくりに関与し、社会に貢献して
いきたいと考えている。
■マンツーマン指導は 1 回あたりの料金が高いため、利用者は高所得者や健康意識が高
い人等限られた市場であるとみている。そのため、一定の人口規模がある大都市でな
ければ、経営は容易ではないとみている。
‐ 171 ‐
2.5.3.高齢者総合ケアセンターこぶし園
同園は特別養護老人ホーム、通所介護、訪問介護 等を展開している社会福祉
法人である。同園の特徴としては、高齢者が自宅から近い範囲で各種介護サー
ビスを受けられるよう、地域のニーズに合った介護機能を 1 カ所に集めたサポ
ートセンターを設置していることが挙げられる。そこで、地域密着型サービス
を提供するポイント等について尋ねた。
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 11 月 30 日(月)
■組
織
名
高齢者総合ケアセンターこぶし園
■所
在
地
新潟県長岡市深沢町 2278-8
■設
立
年
昭和 57 年
■代
表
者
総合施設長
容
吉井 靖子
■事
業
内
容
特別養護老人ホーム、通所介護、訪問介護、訪問看護
■運
営
主
体
社会福祉法人長岡福祉協会
数
542 名(派遣社員を含む)
■職
員
■ホ ー ム ペ ー ジ
等
http://www.kobushien.com/
ヒアリング内容
【組織概要】
■長岡福祉協会は、昭和 57 年に特別養護老人ホーム「こぶし園」の運営を目的に設立
された社会福祉法人である。現在は指定介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉
施設、短期入所生活介護、通所介護・認知症対応型通所介護、訪問介護( 24 時間 365
日型)、訪問看護(24 時間 365 日型)、小規模多機能型居宅介護、配食サービス( 3 食
365 日型)等 15 の事業を展開している。
■現在の職員数は 542 名で、男女割合は 1:2 となっている。職員のうち、約 7 割が正
規職員であり、準職員は 3 割程度となっている。準職員は介護等に関する資格を保有
していない人が多い状況にある。
■同協会が立地している新潟県長岡市は人口が約 27.7 万人、高齢化率が 28.5%(うち
後期高齢化率 14.9%)の都市である。ただし、同協会の事業範囲は合併前の旧長岡市
(人口約 18 万人)となっている。
‐ 172 ‐
ヒアリング内容
【サポートセンター構想】
■当初はいろいろな施設を各地に分散させて事業を展開していたが、高齢者によって
は、遠方の施設へ通う必要がある等利便性が悪かった。そこで、平成 14 年から各エ
リアで必要なサービスを 1 カ所に集めて介護を提供する「サポートセンター」の展開
を開始した。これによって、在宅であっても特別養護老人ホームと同じように 24 時
間 365 日必要な介護と 3 食の食事を提供することにより自宅での生活を継続させるこ
とができる。また、自宅での生活が困難になった場合にはバリアフリー住宅を提供す
ることで家族介護者の負担を軽減することが可能となっている。
■最初に開設したのがサポートセンター三和(さんわ)であり、その後、旧長岡市内に
次々とサポートセンターを設置していき、現在は 18 カ所まで拡大している。いずれ
のサポートセンターも、自宅から 1~3km程度の距離に立地している。各サポートセ
ンターは、圏域の介護ニーズに応じたサービス内容を用意しているため、サービスの
種類及び数が異なっている。
■サポートセンター三和では、デイサービス、アパート、配食、訪問介護、訪問看護、
居宅介護支援、カフェ等 7 種類のサービスを提供している。大型のショッピングセン
ターのようなものではなく、コンビニのように小さいが在宅生活を継続するために必
要なサービスが揃っている。認知症になって自宅に住めない場合であっても住まいの
提供と生活援助を行うグループホームの提供等も行っている。
■当初、特養こぶし園(定員 100 床)は、住宅地から離れた小高い山の上に建設された。
そこは入居者にとっては自分の生活圏域外の場所であった。入居者を出身地域に 戻
す、入居する人には住み慣れた地域にある施設での生活を継続できるようにと、平成
18 年度より特養の分散化(施設のサテライト化)を開始した。当時は、サテライト特
養という制度がなかったので、長岡市とともに構造改革特区制度により実施した。
■旧長岡市内の 4 カ所にサテライト型特養を展開し、平成 26 年には本体である特養こ
ぶし園(30 床)を、住宅地域に移転・増床した。それぞれの特養は 5 か所のサポート
センターで、重度者の住まいとして、住み慣れた地域での生活を継続するサービスの
一つとしての役割を担っている。
‐ 173 ‐
ヒアリング内容
【特別養護老人ホームについて】
■ユニットケア・個室という新型老人ホームの場合、100 名程度の施設で建設費が総額
約 25 億円かかる。しかし、サポートセンターの場合、社会貢献活動として協働する
土地建物のオーナーが別にいて、初期投資がさほどかからない。
■平成 18 年の介護保険制度の改正によって特別養護老人ホームの食事代と部屋代は自
己負担となっており、自宅に近いサポートセンターで、しかも個室で安心して暮らせ
るということから家族介護者からも好評である。
【配食サービスについて】
■配食サービスの料金は、一般向けが 1,500 円/日、低所得者向けが 990 円/日となっ
ている。調理は、8 カ所のサポートセンター内で行われ、近隣の方に届けている。1
か所に集中して大きな給食センターを作るとかえって初期投資がかかる。各サポート
センターでつくられている食事に数食を追加するという考えであり、そこでは、当然
治療食もつくられているので効率的である。
■毎日の配食とともに、見守り確認が必要な高齢者を対象としている。
【カフェテラスとキッズルームについて】
■いくつかのサポートセンター内には、カフェテラスやキッズルームが設置してあり、
高齢者以外の利用もみられることから、多世代交流や地域づくりの拠点の役割を果た
している。
‐ 174 ‐
ヒアリング内容
【医療・介護の連携について】
■同園は、国の開発研究事業で NTT ドコモとテレビ電話の機能を介護に活用するための
共同開発を行った。平成 25 年には新潟県の事業にも採択され、小型で多機能なテレ
ビ電話を開発した。これはホームヘルパー等介護事業職員の持つ携帯とつながる仕組
みとなっていて、夜間対応も可能である。たとえば、夜間に呼び出しがあっても画面
上でコミュニケーションをするだけで利用者が安心して、訪問しなくてもすむような
場合もある。また、画面を通して利用者の観察をすることができる。
■また、タブレットを活用して業務実績の入力や予定変更・経過記録・報酬入力等の業
務の効率化と、クラウドシステムを活用して 多職種による情報共有と連携を図る仕組
みを構築した。現在は、このシステムを長岡市全体へ拡大できるように現在検討して
いるところである。特に病院・看護だけでなく、介護・福祉にも拡大できればよいと
考える。
■医療・介護の連携においては、介護関係者は医療知識の不足が、医療関係者は介護生
活への認識不足が連携の進まない原因となっており、解消することができるような環
境づくりが必要である。
【課題について】
■同園では、看護・介護職員の人材不足が大きな課題となっている。毎年、5~6 名程度
採用しているが、近年は求職者が減少しつつある。
■育児休業後に復帰した職員の中には、生活の負担軽減として夜勤のないデイサービス
施設へ配置転換する事例もある。また、60 歳定年再雇用の介護福祉士・看護職員がマ
ンパワーとなる場合もある。経験が豊富であるため、若手職員の指導役としても使え
る。
‐ 175 ‐
2.5.4.株式会社日本介護福祉グループ
項
目
内
■訪
問
日
平成 27 年 12 月 1 日(火)
■会
社
名
株式会社日本介護福祉グループ
容
■本 社 所 在 地
東京都墨田区両国 1 丁目 12 番 8 号
■設
立
年
平成 19 年
■代
表
者
代表取締役
容
夜間対応型小規模デイサービス(通所介護)等
■事
業
内
■ホ ー ム ペ ー ジ
小柳
壮輔
http://www.jcgroup.co.jp/
ヒアリング内容
【空き家を活用したデイサービス事業】
■同社は、空き家をリノベーションして小規模のデイサービス事業(通所介護)を展開
している。前社長が、平成 10 年から平成 17 年まで社会福祉施設で現場介護業務や相
談員業務をしていたが、介護の必要な高齢者にとって大規模な施設がよいのか、小規
模な施設がよいのか検討していた。
■一方で都市部を中心に施設に入居できない待機高齢者の数が年々増えている。早くて
5 年待ち、8~9 年後入居ということも当たり前になっていた。平成 12 年に介護保険
制度が導入され、混合介護が認められた。日中はデイサービスが利用でき、夜は自費
で宿泊も可能になった。また、特養待機者からの利用申し込みが相次いだ。
■新規にデイサービス施設を作るとなると、多大な建設費がかかることから、既存の建
物を利用することを考えた。それが空き家であった。また、デイサービスを受ける人
の多くが認知症である。認知症になると自分の若い頃の記憶がよみがえり、住み慣れ
た家、畳やコタツ、そして大勢の家族といった思い出と重なる。空き家には、そうい
った雰囲気が残っていた。
【平成 19 年創業開始】
■まず、1 カ所目は熊谷市で始めた。熊谷市は東京のベッドタウンで、サラリーマンも
いれば農家もある高齢化率も全国平均的な町であり、新幹線の駅があり交通も便利で
ある。
■不動産業者にデイサービスにできる物件を尋ねてみると、よい返事がなかった。たま
たま、建設会社の季節労働者向けの一軒家を使わせてもらえることになり、そこを
2,400 万円かけてリノベーションしてデイサービスを開始した。
‐ 176 ‐
ヒアリング内容
【介護・福祉事業を巡る諸規制】
■空き家を活用した介護サービスを開始する際に、介護福祉の部署は何も言わないが、
建築課はダメということが多い。家屋を介護事業所にする場合、用途変更の手続きが
必要となるが、100 ㎡以内であれば手続きが不要である。また、燃えにくい素材を使
った防災カーテンや自動火災報知機の設置は必須となっている。
■近年、全国的に就寝施設等で死傷者を伴う火災の発生が相次いだこと 等から、平成 30
年までに各種施設においてスプリンクラー設置が義務付けられた。ただ、既存のスプ
リンクラーは設置費用が 500 万円から 700 万円程度かかることから、事業者にとって
は大きな負担である。さらに、水道直結型であるため、床が水浸しになってしまい、
後処理にも費用がかかってしまう。そこで、同社は消火器製造会社と共同で薬剤噴霧
型のスプリンクラーの開発を進めているところである。これにより設置費用が 250 万
円程度と水道直結型に比べ大幅に下がることや後処理負担も軽減できること等から、
事業展開を見込んでいる。
【介護業界の特徴について】
■介護福祉業界は、介護保険制度に基づいて事業を運営しているため、制度設計に収益
環境が大きな影響を受けやすい。今後、社会保障費の抑制を目的に保険対象から外れ
るサービスや介護報酬が削られるものも出てくる。
【全国展開】
■熊谷市に出店するとすぐに満員になり、同市だけで 27 か所まで出店数が増えた。次
に、都内で高齢化率の高い巣鴨と足立区に 1 か所ずつ試験的に出店してみたが、これ
もすぐ満員という状態。さらに、国土交通省のサ高住の設備基準の緩和ということも
追い風となって、現在では全国に 700 事業所を超えるまでとなった。内訳としては北
海道 30、東北 60、関東 360、東海 100、関西・中国・四国 90、九州 60 といった数に
なっている。
‐ 177 ‐
ヒアリング内容
【フランチャイズ化】
■空き家をオーナーから借りて、リノベーションしてデイサービスを行うビジネスモデ
ルであり、これをフランチャイズ化している。各地に支部があり、そこから加盟店に
運営指導を行っている。加盟店は、法人 8 割、個人 2 割という構成である。法人の場
合、業種は、建設業、飲食業等様々である。メガフランチャイジーといって、法人が
ビジネスのリスク分散のために、学習塾、飲食、介護・福祉といった多分野に事業拡
大するケースが増えている。
【世代間交流】
■世代間交流を進めるために、介護と保育を同じ施設で行う事業を行っているが、まだ
2 カ所にとどまっている。なお、両方を実施するとなると、かなり規制のハードルも
高い。
【引きこもり対策】
■「MATCHSTER」は、高齢者向けのコミュニティサイトである。男性の高齢者は、一人
暮らしの場合、引きこもりとなり、認知症になるケースが多い。引きこもりを防止す
るための取り組みとなっている。
【抱えている課題】
■介護福祉職の給料が低いことが大きな問題であると感じている。介護福祉職の従事者
は、三層に分けられる。一番上の層は定職としている層であり、その下にキャリアア
ップをしたいができない層があり、その下に転職を繰り返す層がある。転職を繰り返
す人は、能力的にも問題がある場合も多い。
■求人する側も、リクルート情報誌等の掲載に多額のコストをかけている場合が多い。
そのため、求人サイト「SCOUTME」を立ち上げて、月額 3 万円で求人できるようにな
っている。
【今後の展開】
■これからは認知症予防の分野にビジネス展開の可能性がある。既にある程度、科学的
に明らかになっており、運動、食事、音楽・ゲーム、アロマ等といったものに良い効
果があるようだ。また、コンピュータで認知症かどうかが判定できるソフトも開発さ
れている。運動機能改善のフィットネスジム等もビジネスとして期待できる。
■また、海外での事業展開として、中国、台湾、韓国 等において、デイサービスのフラ
ンチャイズを考えている。これらの国も高齢化社会が到来するので有望な市場と考え
ている。
‐ 178 ‐
3.自治体ヒアリング調査結果
3.1.島根県
島根県は、人口が全国 46 位、高齢化率が全国 3 位、また、中山間地域が多く
みられる等様々な課題を抱えていること等から、地域医療を支えるためにいろ
いろな施策を展開している。そこで、在宅医療の推進に向けた取り組み内容や
課題等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 9 日(金)
■訪
問
先
島根県保健福祉部医療政策課
■所
在
地
松江市殿町 1
口
697,015 人(平成 26 年 10 月 1 日現在)
■人
■高
齢
者
数
220,125 人(同)
■高
齢
化
率
31.6%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.pref.shimane.lg.jp/iryotaisaku/
ヒアリング内容
【島根県の概要】
■島根県は人口約 70 万人で、二次医療圏域としては 7 つの圏域(松江、雲南、出雲、
大田、浜田、益田、隠岐)で構成されている。
■島根県の地域医療における課題としては、①医療資源の確保、②医療資源の効率的運
用の 2 つが挙げられる。①については、医師や看護師といった専門職の人材不足がみ
うけられる。特に県西部地域(大田、浜田、益田)および隠岐地域で顕著となってい
る。これらに対して、無料職業紹介や大学医学部への地域枠推薦入学制度 等を設けて
対応している。②については、病院施設が広範囲に点在し拠点病院までの距離が遠い
こと等が挙げられる。そこで、ドクターヘリの導入や IT を活用した地域医療支援に
取り組んでいる。
‐ 179 ‐
ヒアリング内容
【在宅医療に関する取り組みについて】
■島根県では在宅医療の推進に向けて、平成 25~27 年度にかけて「地域医療再生基金」
を活用して①在宅医療の情報共有の推進、②在宅医療連携推進事業、③医療と介護の
連携のための推進会議及び研修会の開催、④ケア方針確立体制構築推進支援事業、⑤
入退院時における医療機関と在宅支援チーム間の情報共有に関する実態把握事業、⑥
在宅緩和ケアネットワーク推進事業、⑦在宅医療体制整備事業、⑧訪問看護師の現任
教育研修機能施設整備事業、⑨訪問看護師の研修に係る事業、⑩在宅歯科医師・歯科
衛生士に対する研修事業、⑪在宅医療普及啓発事業の 11 事業に取り組んでいる。
【しまね医療情報ネットワーク「まめネット」について】
■平成 14 年に島根県立中央病院とその周辺の診療所の間で迅速な患者紹介、診療予約、
電子カルテ情報の共有を開始した。それをベースに平成 25 年に、全県のシステムと
して島根県が構築したのが「まめネット」である。「まめ」とは島根県の方言で「元
気な」という意味。
■さらに平成 27 年 4 月からは訪問看護や薬局、居宅介護支援事業者等の多職種関係者
も患者の状況を記載できる在宅ケア支援サービスを新たに構築し、在宅医療の連携ツ
ールとして利用できるようになった。設置型 PC だけでなく、移動時や患者宅でも閲
覧できるようタブレットでの利用も可能となっている。
■平成 27 年 9 月末時点での利用施設数は 647(病院 41、歯科診療所 256、介護施設 229
等)であり、登録者数は 18,994 名となっている。
入院医療
【急性期病院】
【医科診療所】
【調剤薬局】
【回復期病院】
カルテ閲覧
調剤情報
調剤情報
事業所に、医師や
看護師、薬剤師が
いる場合、病院
入退院患者の
カルテ閲覧が
可能です
カま
ルめ
テネ
閲ッ
覧ト
サ
ー
ビ
ス
【老人福祉施設】
【老人保健施設】
【訪問看護】
サービスを
受ける方
【訪問介護サービス】
事業所に医師・看護師・薬剤師
がいる場合
調剤情報の取得が可能
介護情報を“まめネット” の
ネットワークで効率的に情報共有
まめネット
在宅ケア支援サービス主な機能
【居宅介護支援事業所】
主治医意見書等の
認定関係書類の閲覧
出雲市(実施準備)
浜田市、雲南市
(検討中)
介護保険者
【歯科診療所】
【患者情報共有機能】
プロファイル
体調・メモ
バイタル・日々記録
ADL・IADL・FIM
スケジュール
電子連絡ノート
情報ボックス
【通所介護事業所】
【便利機能】
カメラ
TODOメモ
オフライン機能
【その他】
記録・報告書
作成支援
ケアプランの交換
<「まめネット」の在宅ケア支援サービスイメージ(島根県提供資料)>
‐ 180 ‐
ヒアリング内容
【訪問診療・看護の支援に対する取り組みについて】
■地域包括ケアシステムにおいて在宅医療が重要となってくることから、訪問診療・看
護の支援に力を入れている。支援制度としては①訪問診療確保対策事業、②訪問看護
確保対策事業、③訪問看護ステーションサテライト整備事業、④医療近接型住まい整
備事業の 4 つがある。①は訪問診療を行う病院や診療所に対する運営費を一部補助、
②は中山間地域での訪問看護にかかる運営費を一部補助、③は中山間地域にサテライ
ト拠点を整備する際の補助、④は社会的入院の解消に向けて医療機関に近接した住ま
いを提供する際の補助がある。
■また、訪問看護事業者に対しては、上記とは別にスキルアップ支援や定着促進支援、
運営支援等を行っている。
【抱えている課題について】
■上述したように、各種の人材不足が課題として挙げられる。医師や看護師だけでなく、
介護人材も不足感が強いようである。特に、今後高齢化が進展し介護需要が拡大する
都市部に人材が流出する可能性があるため、確保に向けて支援策を講じることを考え
ている。
■中山間地域では、患者宅までの距離が遠く離れているため、訪問診療や訪問看護の移
動に時間がかかってしまう。移動による時間や負担の軽減を図らなければ、円滑な在
宅医療を実現することは難しいと考えている。
【今後について】
■平成 29 年度末に、第 6 次医療計画と第 6 期介護保険事業計画が同時に終了すること
になっている。そして、同時に改定するため、それまでに地域包括ケアシステム の骨
格を構築しておく必要があると思われ、残された時間はあまりないと考えている。
‐ 181 ‐
3.2.大田市
島根県大田市は、3 人に一人以上が高齢者という自治体である。高齢者を支え
る仕組みづくりが求められるなか、国立公園三瓶山を活用してヘルスツーリズ
ム事業を展開しよう考えており、健康づくりと地域経済の活性化に同時に取り
組もうとしている。そこで、地域包括ケアシステムの構築に向けた各事業の内
容や成果、課題等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 14 日(水)
■訪
問
先
大田市高齢者福祉課
■所
在
地
大田市大田町大田イ 140-2
口
37,568 人(平成 26 年 4 月 1 日時点)
■人
■高
齢
者
数
13,449 人(同)
■高
齢
化
率
35.8%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.city.ohda.lg.jp/tag/40/
ヒアリング内容
【地域包括ケアシステムに向けた取り組み】
■日常生活圏域として市内を 7 つのエリアに区切っている。しかし、実際のコミュニテ
ィは小学校区単位で形成されていることが多いため、地域づくりに関しては 27 区域
に分けて取り組んでいくことを考えている。
■介護保険制度が導入(平成 12 年)される以前から、市の職員と医療・介護の専門職
等で地域や高齢者に関する情報共有を目的とした「地域ケア会議」を開催しており、
連携して課題の解決に取り組んでいる。
■市内の要支援に該当する高齢者 700 名程度を対象に、興味・関心に関するアンケート
調査を実施したところ、1 位は「温泉・旅行」、2 位は「映画・観劇・演奏会の鑑賞」、
3 位は「お参り・宗教活動」となっていた。これは一部の高齢者であるが、より多く
の高齢者のニーズを把握したうえで、予防事業等を講じていくことが必要だと考えて
いる。
【高齢者べんり手帳について】
■大田市は生活に関する各種相談窓口や配食・外出支援・生活支援を行っている事業所
等、高齢者が生活するうえで必要と考えられる各種事業主体の連絡先を記載した「高
齢者べんり手帳」を毎年発行している。
‐ 182 ‐
ヒアリング内容
【ヘルスツーリズム事業「さんべ健康楽座」について】
■大田市では国立公園の三瓶山がある。平成 26 年度に島根大学医学部と連携して、講
演会と三瓶山周辺でノルディックウォーキングイベント「さんべ健康楽座」を開催し
た。
■平成 27 年度はそれらに加えて、同医学部の医師による健康チェックと呼吸法の講習
会を 2 泊 3 日で開催する予定である(11 月と 28 年 2 月に開催)。
■三瓶山を活用した医療と予防を組み合わせたヘルスツーリズム事業の展開により県
外から誘客することで、地域経済が活性化することを期待している。
<「さんべ健康楽座 2015」のポスター(さんべヘルスツーリズム協議会より)>
‐ 183 ‐
ヒアリング内容
【会食事業について】
■大田市には、食育ボランティアが 100 名程度存在しており、市内 10 カ所のサロンで
食事会を月 2 回程度開催している。参加者からは好評を得ている。
■事業の企画は管理栄養士が、実際の調理はボランティアがそれぞれ行っており、専門
職とボランティアの役割分担によって負担の軽減が図られている。
【抱えている課題】
■大田市を含めた島根県西部地域は医師不足が顕著にみられる地域である。島根県と連
携しながら医師の確保に取り組む考えである。
■医師以外の専門職についても不足感が強く、今後一層強くなることが考えられるた
め、人材の確保が課題となっている。
【今後の展望】
■今後はさまざまな有料サービスを利用して健康を維持することが必要になってくる
時代になると考えている。
■10 年後に後期高齢者となる団塊の世代は、その上の世代と異なり多くの高齢者が何ら
かの趣味を持っている世代である。介護予防事業を実施する際には単なる体操やサロ
ン活動ではなく、ニーズを捉えた趣味・嗜好性の高いメニューを提供することが必要
だと考えている。
■高齢者の孤立を防ぐためにはシステマチックな仕組みではなく、人を介在したふれあ
いのあるサービスを提供することが必要であると考えている。
‐ 184 ‐
3.3.米子市
鳥取県米子市では、住宅団地で住民が運営する商店や、他の地区ではちょっ
とした困りごとに有償でサービスを提供するボランティア活動に取り組む組織
が存在する等、住民主導の高齢者を支える取り組みがいくつかみられる。そこ
で、それらの取り組み内容や市が抱えている課題等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 15 日(木)
■訪
問
先
米子市長寿社会課
■所
在
地
米子市加茂町 1 丁目 1 番地
口
149,842 人(平成 26 年 4 月 1 日現在)
■人
■高
齢
者
数
38,867 人(同)
■高
齢
化
率
25.9%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.city.yonago.lg.jp/1160.htm
ヒアリング内容
【日常生活圏域数】
■日常生活圏域数としては 11 カ所設定しており、これは中学校区に該当する区割りと
なっている。
【住民主体の取り組み】
■昭和 40 年代に県内最大規模の住宅団地が造成された米子市永江地区は、高齢化率が
30%を超える地域である。同地区では 10 年以上前に最寄りのスーパーが撤退してお
り買い物に不便な地域であった。そこで、平成 25 年 2 月に空き店舗を活用して住民
運営によって生鮮品等を販売する「支え愛の店ながえ」がオープンした。また、平成
26 年 4 月には米子市が社会福祉法人と連携して米子市初の認知症カフェ「支え愛カフ
ェ」が併設され、お茶を飲みながら、健康相談等を気軽にできるようになっている(毎
月第 4 日曜のみ開催)。
■現在、米子市内には 150 を超えるサロン活動のグループが存在している。その多くは、
公民館を活用して、生け花やちぎり絵等の趣味に関する活動を実施している。社会福
祉協議会ではこれらのグループに対して、立ち上げ費用として 2 万円、運営費用とし
て毎年 5 千円の支援を行っている。
■同市河崎地区では、元気な高齢者 20 名程度が草取りや買い物の付き添い等を 1 回あ
たり 200 円で提供する有償ボランティアサービスを提供している。現状では、料金が
安いため、逆に遠慮して利用者が伸びていないようである。
‐ 185 ‐
ヒアリング内容
【コミュニティバスについて】
■同市では、中心市街地を走る「だんだんバス」と淀江町地区を走る「どんぐり コロコ
ロ」の 2 つのコミュニティバスが運行している。
■「だんだんバス」は、路線バスや JR を利用されて中心市街地に来られた方が医療機
関、公共施設、大型店舗等への利用を容易にするために 運行している。また、「どん
ぐりコロコロ」は主に旧淀江町内を巡回して地域の生活路線として運行している。
【民間事業者の取り組みについて】
■米子市は、高齢者宅への訪問時に異変に気付いた際に市役所あるいは地域包括支援セ
ンターへ連絡するよう新聞配達や牛乳配達、運輸会社等 11 事業所と協定を結んでい
る。
■同市永江地区の薬局では、店内で服薬指導や生活相談を行えるようにカフェを設置し
ており、地域住民の集いの場となっている。
■今年度から地域支援事業として、市内のスーパーマーケットの休憩室を活用して高齢
者向けの体操教室と買い物の付き添いを合わせた事業を実施している。1 回あたりの
参加者は 10 名程度となっている。現在は 1 店舗のみで実施しているが、今年度中に
は 3 店舗に増やす計画となっている。
【抱えている課題】
■一人暮らしの男性高齢者の多くは、料理ができないこと等から栄養摂取に偏りが見ら
れるため、食生活を支援する取り組みが必要であると考えている。
■中心市街地から遠い地域では、買い物支援を必要としている高齢者が多く存在してい
る。今後、移動販売による訪問や地域住民による付き添い 等で支援ができないのか検
討する考えである。
■要支援 1、2 の高齢者から「ゴミ出し」を手伝ってもらいたいという要望が多く聞か
れている。
■地域によって、住民活動への取り組みに対する温度差がみられている。熱心に取り組
んでいる地域には、核となる人物が存在している。
【今後の展望】
■米子市としては①認知症予防、②介護予防、③地域で高齢者を支えるボランティアの
育成の 3 つを柱に地域包括ケアシステムを構築していきたいと考えている。
‐ 186 ‐
3.4.尾道市
尾道市は、
「地域包括ケア」発祥の地である御調町が含まれることや、尾道市
医師会を中心に、退院患者、家族、ケアマネジャー、医師、看護師、薬剤師、
民生委員等が集まって「ケアカンファレンス」を開いて退院後の生活プランを
決めていく「尾道方式」と呼ばれる全国でも先進的な支援体制が構築されてい
る。そこで、地域包括ケアの先進的な自治体である同市の主な取り組みや課題
等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 19 日(月)
■訪
問
先
尾道市高齢者福祉課
■所
在
地
尾道市久保 1 丁目 15-1
口
144,247 人(平成 26 年 4 月 1 日現在)
■人
■高
齢
者
数
47,005 人(同)
■高
齢
化
率
32.6%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.city.onomichi.hiroshima.jp/www/section/detail.jsp?id=21
ヒアリング内容
【尾道市の概要】
■日常生活圏域は 7 圏域設定している。高齢化の状況をみると、島嶼部である「瀬戸田
(40.9%)」、「因島(37.7%)」、
「向島(34.6)%」は非常に高く、また、中心部であ
る「中央(37.2%)」と御調町が含まれる「北部(32.0%)」も 30%を超えている。
■公共交通機関としてはおのみちバス㈱、本四バス開発㈱、㈱中国バス、鞆鉄道バス㈱
等複数の民間事業者が路線バスを運行しているが、便数が少ないため利便性の低さが
問題点となっている。外出支援として、74 歳以上の高齢者には、おのみちバス優待乗
車証、バス・船舶共通利用券、タクシー利用助成券のいずれかを交付している。
【シルバーリハビリ体操について】
■平成 25 年度から介護予防として「シルバーリハビリ体操」に取り組んでいる。これ
は、関節の運動範囲を維持拡大するとともに筋肉を伸ばすことを主眼としており、茨
城県立健康プラザの大田仁史先生が考案された体操である。開始から平成 27 年 8 月
末までに延べ 23,000 人が体操教室に参加している。
■また、市民を対象とした指導士養成を行っており、ボランティアを活用して普及を図
ろうとしている。平成 27 年 8 月末現在、シルバーリハビリ体操 2 級指導士が約 190
名おり、市内約 40 カ所で教室を開催している。
‐ 187 ‐
ヒアリング内容
【ふれあいサロン事業について】
■介護保険導入以前から、住民ボランティアが主体となって、趣味や料理等を行う高齢
者の交流の場を提供する「ふれあいサロン事業」に取り組んでいる。
■立ち上げ時に社会福祉協議会による指導や年間活動費として 2 万円の補助があり、現
在、市内 170 カ所に設置されている。
■参加者が女性に偏っており、男性の参加を促すような企画や声かけが必要となってい
る。
【おのみち幸齢プロジェクトについて】
■高齢者の健康づくりや生きがいづくり、安心して生活できる環境づくりを目的に「お
のみち幸齢プロジェクト」を展開している。
■事業内容としては、小学生と給食を食べる「ふれあい給食事業」や、まちなかに誰も
が気軽に集えるスペース「ばんこ(尾道の言葉で“ 集いの場所”という意味)」を復
活させる「ばんこづくり事業」等 13 の事業を展開している。
【ねこのて手帳】
■配食や日用品の配達等の高齢者にやさしいサービスを提供しているお店等 や医療機
関等の連絡先を記載した「ねこのて手帳」を居宅介護支援事業所や民生委員へ配布し
て高齢者の困りごとの解決を図っている。
■同手帳の掲載店は、高齢者の見守りに対する協力を行っている。
<ねこのて手帳の表紙>
‐ 188 ‐
ヒアリング内容
【住み替えの状況について】
■多くの高齢者が現在の住み慣れた地域で生活することを望んでいるため、利便性を求
めて住み替えを行う状況はあまりみられない。
■子ども家族との同居を機に引っ越した高齢者の中には、日中に孤立するケースが多い
ようである。そこで、地域とのつながりを持ってもらうよう外出機会を創出するよう
な取り組みを、地域包括支援センターと検討しているところである。
【抱えている課題】
■尾道市では、市内で勤務する介護人材の確保が課題となっている。そこで、市内の介
護保険事業所(居宅介護支援事業所を除く)に新規就労したホームヘルパーまたは介
護福祉士に対して、それぞれ 2 万円、5 万円(市内の専門学校を卒業した場合は 10
万円)の助成金を交付している。平成 24 年度から実施しており、これまでの実績は、
ヘルパー181 名、介護福祉士 127 名となっている。
■また、認知症高齢者の増加は深刻な問題となっている。そこで、認知症予防や認知症
高齢者を支える仕組みが必要である。その際、自治体だけの取り組みには限界がある
ため、民間事業者の協力が必要であると考えている。
■現時点では、介護が必要になる原因がはっきりしていないため、どの時点から予防に
取り組むことが必要なのかを明確にできないことが、介護予防の難しさであると考え
ている。またこれからの時代は、健康の維持に一定の金銭的負担が必要であると認識
している。
【今後の展望】
■尾道市は、在宅での看取り率が広島県内でも高い地域だが、その背景には開業医が積
極的に在宅医療に取り組んできたことが挙げられる。医師の高齢化を考慮すると、10
年後に現在と同じ体制を維持しているのか不安である。そこで、医療の手が届かない
部分は介護が補完するような仕組みを構築していくことが必要になると考えている。
■独り暮らしや認知症高齢者が増加するなか、今後は、権利を擁護するような取り組み
がこれまで以上に必要になってくると考えている。現在、親族以外では弁護士や司法
書士等の第三者後見人が財産管理等を行っているが、今後は市民後見人の役割が期待
されている。ただし、認知症高齢者のプライバシーの問題や後見人を担えるだけの人
材を育成することが必要であり、容易ではないと考えている。
‐ 189 ‐
3.5.宇部市
宇部市は、人口規模に比べ病院や介護施設等が充実している自治体である。
また、地域の課題解決に向けて市独自の人員を配置する 等手厚い支援体制の構
築を目指している。そこで、同市における地域包括ケアシステムの構築に向け
た取り組み内容や課題等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 21 日(水)
■訪
問
先
宇部市高齢者総合支援課
■所
在
地
宇部市常盤町一丁目 7 番 1 号
口
169,491 人(平成 27 年 10 月 1 日現在)
■人
■高
齢
者
数
51,236 人(同)
■高
齢
化
率
30.2%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.city.ube.yamaguchi.jp/
ヒアリング内容
【宇部市の概要】
■日常生活圏域数として 6 圏域を設定している。高齢化の状況をみると、市の北部に位
置する「北部東」と旧楠町で形成する「北部西」はそれぞれ 46.4%、36.9%と非常に
高くなっている。また、市役所が立地している「南部」は 32.2%と市全体(30.2%)
より高い割合となっている。
■医療資源の特徴としては、人口 20 万人に満たない自治体の中では病院数が多いこと
や山口大学医学部附属病院が立地しているため医師数も多い自治体である。また、高
齢者向け施設についても山口県内では人口規模に比べ多く立地している。
【公共交通について】
■宇部市の路線バスは、市営バスと船木鉄道㈱の 2 社が運行している。
■70 歳以上高齢者の免許保有率は 34%程度である。70 歳以上の高齢者の外出支援とし
て 1 乗車 100 円となる「高齢者バス優待乗車証」が発行されている。
【住民主体の取り組み】
■市内のある校区では、3 年前から住民が高齢者宅のゴミ出しや電球交換等を行う団体
を立ち上げて有償ボランティア活動を行っている。利用内容としては、ゴミ出しや庭
の剪定が多く、この活動により、地域の高齢者と顔見知りになることで、見守り活動
等の充実にも繋がっている。
‐ 190 ‐
ヒアリング内容
【宇部市の特徴について】
■宇部市の特徴として、地域包括ケアシステムを構築する際に、地域包括支援センター
を中心に「プロジェクト支援員」と「地域・保健福祉支援チーム」が連携しているこ
とが挙げられる。
■「プロジェクト支援員」は国が設置を義務付けている生活支援コーディネーターに比
べ個別のプロジェクトに入り込んで活動することから、きめ細かい対応ができる。
■「地域・保健福祉支援チーム」は市の保健師と事務職員、市民センター長等で構成さ
れる。これは子どもから高齢者まで、地域の課題全般について把握し、課題の解決に
向けて担当部局や関係機関等との調整を担う役割を果たしている。
【民間事業者との連携について】
■宇部市では平成 25 年度から「地域であんしん見守り愛ネット」という名称で高齢者
の安否確認について民間事業者の 協力を得ている。現在、新聞配達や宅配業者 等 24
事業所が登録している。これによって、通報先が明確になったため、事業者は多少の
異変で連絡することができるようになった。
■同じく、認知症高齢者の見守り支援として「地域であんぜん見守り愛ネット」にも取
り組んでおり、現在、55 の民間事業者と個人 159 名が登録している。
■ある自治会では近隣のスーパーまで 3 キロ以上離れており、買い物に困っていたこと
から、地域包括支援センターが住民と生協の橋渡しを行い、同自治会へ移動販売車が
巡回することになった。この取り組みをみて他の自治会からも要望があり、現在では
6 自治会で実施している。
【抱えている課題について】
■医療・介護間の連携において、メンバーの入れ替わり 等により情報共有が途切れてし
まうことがあるため、常に共有できる仕組みを構築しておく必要があると考えてい
る。
■現在、市内には、身近な地域で、誰もが気軽に集い、様々な交流や活動を行う地域福
祉の拠点「ご近所福祉サロン」が 14 カ所あるが、平成 29 年度までに 42 カ所に拡大
させたいと考えている。その活動内容としては、健康づくりだけでなく、認知症予防
やアクティブなメニューを増やす等充実させたいと考えている。
【今後について】
■今後は①地域ぐるみの健康づくり、②認知症高齢者への支援、③地域の課題解決に向
けた支援体制の構築の 3 つに重点を置いた施策を展開したいと考えている。
■また、今後、様々な分野で民間事業者から提案が挙がることがあれば、積極的に活用
して連携しながら取り組んでいきたいと考えている。
‐ 191 ‐
3.6.岡山市
岡山市では、高齢化の進展や介護給付費の拡大に対応するために、平成 25 年
度に、「岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区~AAA(エイジレス・ア
クティブ・アドバンスト)シティおかやま~」として国の総合特区に申請し、
規制の緩和による効率的な医療・介護体制の整備に取り組んでいる。そこで、
同特区における事業の内容や成果等について尋ねた。
項
目
内
容
■訪
問
日
平成 27 年 10 月 22 日(木)
■訪
問
先
岡山市医療政策推進課
■所
在
地
岡山市北区大供 1 丁目 1-1
口
705,310 人(平成 27 年 3 月末現在)
■人
■高
齢
者
数
172,604 人(同)
■高
齢
化
率
24.5%(同)
■ホ ー ム ペ ー ジ
http://www.city.okayama.jp/
ヒアリング内容
【岡山市の概要】
■岡山市の人口は約 71 万人、高齢化率は 24.5%、介護認定率は 21.3%(平成 27 年 7
月時点)となっている。
■岡山市の医療・介護資源をみると、人口 10 万人あたりの医師数は 384.9 名(政令指
定都市内で 3 位)、病院数が 7.0 院(同 5 位)、また、高齢者 1 万人あたりの通所介護
事業所数は 17.3(同 1 位)、小規模多機能型居宅介護事業所数は 3.8(同 1 位)等と
なっており、医療・介護資源に恵まれた地域となっている。
【在宅医療・介護の推進に向けた取り組み】
■医療政策推進課は、在宅医療・介護の推進を主な目的に平成 23 年度に設置された課
である。市町村レベルで医療政策を遂行することは当時としては珍しく、先駆的な取
り組みとなっている。
■在宅医療・介護を推進するうえで関係者へヒアリングを実施したところ、課題として、
①病院医師の在宅医療への理解・関心が低い、②多職種間の情報共有が積極的に行わ
れていない、③在宅医療を進めるための基盤が整備されていない、④市民の在宅医療
に対する理解が低い、という 4 点が挙げられた。
■これらの課題に対応すべく、①在宅基盤整備(人材育成)、②多職種連携、③市民へ
の普及啓発の 3 分野において各種事業に 24 年度から取り組んできた。当時は、市の
単独事業として取り組んできたが、その後は法改正等から国や県の補助事業を活用で
きるようになった。
‐ 192 ‐
ヒアリング内容
【岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区について】
■上記の取り組みを進めると同時に、平成 25 年 2 月には「岡山型持続可能な社会経済
モデル構築総合特区」が国の総合特区として指定された。これは、高齢者が介護の必
要な状態になっても住み慣れた地域で安心して生活できるよう、在宅介護における 11
項目において規制の緩和等を求める内容となっている。
■このうち、現在のところ、①通所サービスに対する自立支援に資する評価の導入(デ
イサービス改善インセンティブ事業)②最先端介護機器貸与モデル事業(介護機器貸
与モデル事業)③介護予防ポイント事業④医療法人による配食サービスの実施事業⑤
訪問看護・介護事業者に対する駐車許可簡素化事業の 5 事業については実際に実現し
ている事業となっている。岡山市としては、特に①と②に力を入れて厚生労働省と協
議を重ねながら取り組んでいるところである。
■また、⑥在宅医療支援事業⑦お泊りデイサービス業者への規制強化⑧デイサービス送
迎車による外出支援事業の 3 事業については、提案後に国の制度変更等に伴い実施が
可能になった事業である。
■一方、⑨多機能型訪問サービスの創設⑩家族介護者支援(レスパイトケア)推進事業
⑪ICT を活用した居宅療養管理指導事業の 3 事業は現在、厚生労働省と協議中の提案
となっている。
<岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区のイメージ図(内閣府地方創生推進室ホームページより)>
‐ 193 ‐
ヒアリング内容
【デイサービス改善インセンティブ事業について】
■現行の介護保険制度の特徴として、介護状態が重くなるほど介護報酬が加算されるた
め、事業所としては通所者の機能向上に取り組むための運営上の動機づけが働きにく
いことが挙げられる。そこで、この矛盾解消に向けて 5 つの指標(研修への参加状況、
認知症高齢者の受け入れ人数、機能訓練指導員の常勤換算人数等)を設定して一定の
基準をクリアしている事業所を公表するというインセンティブを与えることとした。
平成 26 年度は参加 151 事業所(全事業所数約 300)のうち、60 事業所が基準をクリ
アしていた。
■平成 27 年度に関しては、5 つの指標に加え、「医療・看護必要度」のうち運動機能等
に関する項目を採用して、通所者の状態の改善がみられた事業所に対して奨励金(総
額 100 万円)を支払う等、一層のインセンティブを与える仕組みに変更している。
■岡山市としては、インセンティブ事業に取り組むことで、事業者の意欲を引き出すと
ともに、通所者の状態の改善を狙うとともに、次回の介護報酬改定時に算定に 組み込
まれることを期待している。
【最先端介護機器貸与モデル事業について】
■同事業は、介護保険の対象外となる介護機器を利用する際に、高齢者が 1 割負担で利
用できる制度である。全国から公募して、一定の条件を満たした 6 機器を選定し、平
成 26 年 1 月から高齢者に貸与している。
■6 機器の内訳としては、コミュニケーション型介護ロボット 2 台、外部通信型見守り
機器 1 台、パワーアシストグローブ 1 台、介助者の前屈動作サポート製品 1 台、片手
操作式歩行器 1 台となっている。
■選定された介護機器メーカーは岡山市と委託契約を結び、利用者への貸与と利用効果
調査、利用料の徴収を行っている。
■これまでの延べ利用者数は 6 機器合計で 230 名程度となっている。岡山市としては、
同事業を通じて介護保険の対象となる機器の拡大を目指しているが、効果を測定する
には多くの利用者や長期間のデータを収集する必要があると考えている。
‐ 194 ‐
ヒアリング内容
【介護予防ポイント事業】
■同事業は一定の条件を満たした高齢者が、岡山市内のフィットネスクラブに通うこと
でポイントが加算され、一定ポイントが貯まると現金や特産品と交換できる仕組みで
ある。当初は、要介護(要支援)状態に陥りそうな高齢者を対象にしたいと考えてい
たが、厚生労働省との協議の結果、要介護(要支援)状態が一旦改善して非該当にな
った高齢者のみが対象者となった。その結果、現在は 40 名程度しか対象者が存在し
ない状況にある。
【医療法人による配食サービスの実施事業】
■現在の医療法では、医療法人は配食サービスを提供できない決まりとなっている。し
かし、例えば食事制限のある患者の栄養管理は重要なことから、退院後についても状
況を把握している医師等の指示に基づいた食事を提供することが望ましいと考えら
れる。そこで同事業を提案したところ、厚生労働省の審議会で有識者から賛同を得た
結果、特区ではなく平成 26 年 4 月から全国で実施できる事業になった。
■現在、岡山市内では腎不全や糖尿病といった専門性の高い病気を診察している 3 医院
で提供されている。ただし、自宅への配達ではなく、通院時に渡す仕 組みとなってい
る。
【訪問看護・介護事業者に対する駐車許可簡素化事業】
■現在の制度では、訪問看護・介護事業者は高齢者宅で医療や介護を提供する際、駐車
場所を警察に対して事前に申請する必要がある。申請書には詳細に記載する必要があ
るが手続きを簡素化することで、訪問介護事業者が利用者の緊急の求めに応じて訪問
する場合において、包括的な時間での駐車許可が可能になった。
■岡山県警と協議した結果、平成 26 年 4 月から県内全域で申請内容を簡素化できるよ
うになった。
【抱えている課題】
■介護サービスの向上には、評価する仕組みが必要であると考えている。しかし、評価
指標の設定と客観的な評価をすることが非常に難しいため、試行錯誤している。
■現時点では、デイサービス改善インセンティブ事業の成果があまりみられていない
が、継続的に地道に取り組むことで成果が表れると考えている。
■岡山市では医療機関側の在宅医療に対する取り組みがあまり積極的ではないようで
ある。この要因としては、医療機関が充実していることから、他の施設に依存する傾
向が強いことが挙げられるようである。そこで、岡山市は医療機関に対して在宅医療
に対する研修会を開催して理解の向上を図るよう努めている。
‐ 195 ‐
4.中国地域の自治体向けアンケート調査票
地域包括ケアを支える民間事業者からの支援等に関するアンケート調査
公益財団法人ちゅうごく産業創造センターでは、本年度、中国地域を対象に、
「地域包括ケア
を支える都市機能及び生活支援産業に関する調査」に取り組んでおります。これは、各地で「地
域包括ケアシステム」を構築する際に、交通や情報通信等の分野で民間事業者がどのような支
援(一定の事業性を確保したビジネスの可能性等)ができるのかを検討し提案することを目的
としています。
つきましては、中国地域内の自治体に地域包括ケアシステムの構築状況に関するご意見を聞
かせていただきたく、アンケートを実施することとなりました。お忙しいところ恐縮ですが、
調査にご協力いただきますようお願い致します。
ここで回答して頂いた調査票は、コンピュータ集計により統計的に処理します。個別の自治
体の結果を公表したり、調査目的以外のことに使用したりすることは一切ございませんので、
率直なご意見をお聞かせください。
また、アンケートの集計・分析は㈱山陰経済経営研究所に委託しておりますので、返信用の
封筒にて 8 月 5 日(水)までにご投函ください。(切手不要)
本アンケートについて何かご不明な点等がございましたら、下記までご照会ください。
<アンケートの趣旨等に関するご照会先>
公益財団法人 ちゅうごく産業創造センター(担当:石橋)
〒730-0041 広島市中区小町 4 番 33 号 中電ビル 2 号館 2 階
TEL:082-241-9939 FAX:082-240-2189
<アンケートの設問内容等に関するご照会先>
株式会社 山陰経済経営研究所(担当:本末、田立)
〒690-0061 島根県松江市白潟本町 18 番地
TEL:0852-27-8264 FAX:0852-27-8249
<記入要領>
・選択式の場合、お答えは、該当する番号を回答欄にご記入いただくか、選択肢に○印をお付
けください。なお、「その他」を選択された場合は、( )内に具体的内容をご記入ください。
・直接回答を記入していただく場合は( )等の記入欄にご記入ください。
‐ 196 ‐
1.貴自治体についてお尋ねします。
問1.貴自治体名ならびにご記入者名、電話番号等をご記入ください。
貴
ご
ご
電
自
所
治
属
体
記
話
・
入
役
者
番
名
職
名
号
(
)
-
メ ー ル ア ド レ ス
@
2.地域包括ケアシステムの構築状況についてお尋ねします。
問2.貴自治体における日常生活圏域の数をご記入ください。
日常生活圏域数
(
ヵ所
)
問3.貴自治体ではいつごろから地域包括ケアシステムの構築の取組を始めましたか(1つ)。
①介護保険制度導入以前(~平成 11 年度)
⑤第4期介護保険事業計画(21~23 年度)
②第1期介護保険事業計画(12~14 年度)
⑥第5期介護保険事業計画(24~26 年度)
③第2期介護保険事業計画(15~17 年度)
⑦わからない
④第3期介護保険事業計画(18~20 年度)
問4.貴自治体において、現在の地域包括ケアシステムの構築に向けた進捗状況をどう判断され
ていますか。以下の項目で最も進んでいるもの3つに○印をお付けください。
①在宅医療の実施状況
⑤高齢者向け住まいの整備状況
②介護サービスの提供状況
⑥自治体と各種機関の連携状況
③介護・予防の推進状況
⑦地域住民とボランティアによる活動
④生活支援サービスの提供状況
⑧その他(
‐ 197 ‐
)
問5.貴自治体内では、10 年先(2025 年)を見据えて包括ケアを支える各種施設やインフラ、住民
活動等、どのような項目が不足している、または、不足すると見込まれると考えますか。
当てはまるものに○印をお付けください(3つまで)。
また、○をされた項目について、課題を具体的に記述してください。
不足しているも
項
目
具体的な課題
の、不足すると見
込まれるもの
A. 医療サービス
B. 介護サービス
C . 医療・介護・保健等の専門職
D. 公共交通網(路線バス、航路等)
E. 情報通信インフラ
F. 生活支援に関する民間事業者
G. 住民活動(自治振興会等)
H . その他
問6.貴自治体が実施を支援する、生活支援サービスの提供や介護予防への取り組み等、地域包
括ケアシステムの構築に向けて積極的または特徴的な取組がみられますか(1つ)。
①
ある
→
問7へ
②
ない
→
問8へ
問7.上記で「①ある」と回答された方にお聞きします。具体的にどのような取組がみられます
か。取組とその内容についてご記入ください。
例:住民組織による「健康体操」や「通いの場創出」といった高齢者の孤立を防ぐような取組の支援 等。
‐ 198 ‐
問8.貴自治体内の地域(日常生活圏域程度)において、地域住民が主体(ボランティア・NP
O等)となって独自に実施する、介護保険サービス外の介護予防や生活支援への取組がみ
られますか(1つ)。
①
ある
→
問9へ
②
ない
→
問 10 へ
問9.上記で「①ある」と回答された方にお聞きします。具体的にどのような取組がみられます
か。取組とその内容についてご記入ください。
例:ボランティアによるゴミ出し、見守り等。
問 10.貴自治体内においては、地域包括ケアシステムの構築に向けて、医療・介護 等の多職種間
連携や生活支援サービスの体制整備といった国から提案されているもの以外の独自の取組
がみられますか(1つ)。
①
ある
→
問 11 へ
②
ない
→
問 12 へ
問 11.上記で「①ある」と回答された方にお聞きします。具体的にどのような取組がみられます
か。取組とその内容についてご記入ください。
例:有償ボランティアによる介護保険外サービスの提供等。
‐ 199 ‐
問 12.貴自治体が地域包括ケアシステムを構築していくうえで抱えている課題は何ですか
(6つまで)。
①医療・介護間の連携
⑥通い・憩いの場の提供
⑪役所内における部署間の連携
②介護サービスの充実
⑦生活支援サービスの充実
⑫県との情報交換・連携した取組
③在宅医療の充実
⑧権利の擁護
⑬地域包括ケアシステムに対する地域住民の理解の向上
④専門職人材等の養成
⑤高齢者向け住宅の拡充
⑨介護する家族の理解向上
⑩住民のニーズ把握
⑭特にない
⑮その他(
問 13.問 12 で選択された項目の抱えている課題について、具体的にご記入ください。
例:医療と介護の間の情報共有化が進んでいない。
例:高齢者向け住宅はあるが家賃が高く、入居者が少ない。
‐ 200 ‐
)
3.民間事業者の取組についてお尋ねします。
地域包括ケアシステムを構築するためには、
「医療・看護」、
「介護・リハビリテーション」、
「保
健・予防」が円滑に提供されるよう「生活支援・福祉サービス」や「すまいとすまい方」の拡充
が必要になってきます。そのためには、公的サービスやボランティアだけではなく、民間事業者
が様々な分野に進出して新しいサービスを提供することが望ましいと考えられます。
そこで、貴自治体における民間事業者の動向についてお聞きします。
問 14.貴自治体は、地域包括ケアシステムの構築に向けて民間事業者と連携した取組を行ってい
ますか。
①
行っている
→
問 15 へ
②
行っていない
→
問 16 へ
問 15.上記で「①行っている」と回答された方にお聞きします。具体的にどのような連携した取
組を行っておられますか。取組内容について記入ください。
例:民間事業者が宅配等で高齢者宅を訪れた際に、異変もしくは支援を必要としている高齢
者を発見した場合、自治体あるいは地域包括支援センター等に連絡を行う連携体制を構
築している等。
問 16.貴自治体内の地域包括ケアシステムの構築に向けて、民間事業者に特徴的な事業展開がみ
られるようでしたら、その内容についてご記入ください。
例:スーパーやコンビニ等が店舗にサロンや体操教室を併設して「買い物」と「健康づくり」
を組み合わせたサービスを提供している等。
‐ 201 ‐
問 17.貴自治体内では地域包括ケアシステムの構築に当たって、以下のような生活支援に関する
サービスの提供についてどのようにお考えですか。あてはまるものに○を付けてください。
原則的に民間がすべ
サービス内容
行政が行うべきもの
行政から民間に
きものではあるが、
最初から民間が
委託すべきもの
補助金を出して、そ
行うもの
の後自立させるもの
A. 配食サービス
①
②
③
④
B. 食材配達
①
②
③
④
C. 移動販売
①
②
③
④
D. 家事援助
①
②
③
④
E. 外出支援
①
②
③
④
F. 安否確認
①
②
③
④
G. 認知症予防
①
②
③
④
H.住宅の増改築
①
②
③
④
I.健康増進
①
②
③
④
J.介護者支援
①
②
③
④
K.公共交通手段の確保
①
②
③
④
L.通信手段の確保
①
②
③
④
M.介護施設の建設・管理・運営
①
②
③
④
N.セキュリティ(防犯)
①
②
③
④
O.医療情報の活用
①
②
③
④
①
②
③
④
P.その他
(
)
‐ 202 ‐
問 18.今後、民間事業者に期待すること、あるいは果たしてほしい役割がございましたら、ご自
由にご記入ください。
4.今後の取組についてお尋ねします。
問 19.貴自治体が目指す地域包括ケアの姿や今後取り組みたいこと等について、ご自由にご記入
ください。
*理念・目標等、それに向けた具体的取組、貴自治体の役割、地域資源との連携状況とそ
れぞれの役割、現在の課題と今後の展望等。
以上でアンケートは終わりです。ご協力ありがとうございました。
‐ 203 ‐