73 石油依存からの脱却を急げ

73 石油依存からの脱却を急げ
平成 19 年(2007)4 月 5 日
トッテン ビル
国内の移動を飛行機から鉄道だけにして久しいが、最近は周りの
人たちにも鉄道へのシフトを呼び掛けている。以前も書いたが「ピー
クオイル」という言葉を知ったためである。日本のメディアや政治家が
それについて論じているのを聞いたことはないが、世界の石油生産
量がピークを迎えつつあるということで、英語のインターネットの世界
でこの言葉を検索すると6万以上の記事が見つかる。それらが共通し
て言うことは、人類は 2005 年から遅くとも 10 年には石油生産量がピ
ークになるというものだ。
新しい油田を見つけて石油を掘っていくと、当然ながら埋蔵量の
半分、つまりピークを過ぎたあたりから生産量は減少に向かう。その
ため、以前と同じ量の石油を採るためにはより多く費用がかかるよう
になる。アメリカの地質学者ハバート氏は、1956 年に、アメリカの石油
生産は 1970 年にピークに達するだろうという予測をし、80 年代にそ
れが正しかったことがわかっている。そしてアメリカは石油輸出国か
ら輸入国になり、2000 年の石油消費量の半分は輸入によるものだ。
このハバート氏の跡を継いだ人たちが、世界全体の石油生産量は
2005 年から遅くとも 10 年の間にピークになると予測している。
日本でも経済産業省が出しているエネルギー統計などでは原油
埋蔵量から予測して可採年数はあと 43 年といわれている。しかしこ
れは単純にあと 40 年間は大丈夫ということではない。石油は深度の
浅い、採掘コストの安いものから使われるため、採りにくい石油が残
ってくる。ピークを超えたということは、これからの石油生産にはより
多くのコストがかかるようになるということだ。それは石油価格の高騰
をもたらし、安い石油燃料の上になりたっている現代の工業社会に
おいてあらゆるものの価格が上がることを意味する。
安い石油エネルギーを使った大量生産、大量消費、大量廃棄とい
う経済は、多くの国民を維持するためというより、むしろ生産者を富ま
せるために仕組まれたシステムだといえるが、石油が今までのように
使えなくなればこのシステムはうまく機能しなくなる。なぜなら代替と
される原子力、風力、水力、太陽、水素などはどれも短所があり、石
油にとって代わることは不可能だからだ。
私たちにできることはエネルギーの使用量を減らすことしかない。
石油が高騰し始めると生活は劇的に変わる。飛行機は手の届かない
乗り物となり、自動車も同様になるだろう。しかし鉄道や自転車による
交通網を築いている社会は比較的少ない影響ですむだろう。輸送費
用が高額になるため世界貿易は劇的に縮小し、人々は地元で生産
されたものを消費する生活にもどるようになる。そのためにも鉄道へ
のシフトを日本は早急に進めるべきだと思うのだ。電気で動く鉄道も
石油燃料を消費するが飛行機や自動車と比べればずっと輸送効率
は高いからである。
アメリカのように自動車を中心とする社会は大打撃を受けるが、ア
メリカもかつては鉄道中心に街づくりが行われ、電鉄会社が無数の
都市を結ぶ都市間輸送を行っていた。しかし第二次大戦後、高速道
路の発達にともない民間企業であった電鉄会社のほとんどは経営が
維持できずに破たんしていった。先日アメリカの鉄道について調べ
たところ、アムトラックに関する興味深い情報を見つけた。
アムトラックは 1971 年に長距離旅客列車として全米で運行を開始
した。ずっと赤字続きで毎年予算獲得に苦労しており、米メディアは
アムトラックへ国庫補助金を出すことが財政赤字の元凶だといわんば
かりの報道をする。しかし実際は、アムトラックへの補助金など微々た
るもので、巨額の補助金を受けているのは高速道路や航空業界であ
る。つまり、アメリカにおける交通基盤が自動車や飛行機になったの
は自由競争の原理によるものではなく、米政府が自動車と航空業界
のために長期にわたり巨額の財政支援を行ってきたからなのだ。
例えば過去 30 年間にアムトラックには 300 億ドルの国庫補助がな
されたが、同時期、米政府は高速道路と航空業界に 1 兆 8900 億ドル
も財政支援をしている。1946年以降、米政府は空港の建設に数10億
ドルも使った。『アムトラック物語』(Frank Wilner 著)によれば、アメリ
カで鉄道に投じられた投資額は国民一人当たりわずか 1.46 ドルで、
最高はスイスの 228.29 ドル、最低はフィリピンの 0.29 ドルだという。ま
た 1971 年から 1994 年にアムトラックへの国家補助が年間 2 億 2000
万ドルを超えた年はなく、この額は郊外の高速道路の 1~2 マイルの
建設費用にすぎない。そして赤字続きのアムトラックはこの投資額で
もうけをださなければ廃止だといわれ続けているのが現状なのであ
る。
日本もアメリカと同様、交通の社会資本投資は、道路整備や空港
建設が鉄道投資を大幅に上回っているはずだ。手遅れになる前に、
自動車中心の、石油に大きく依存しなければ持続不可能な政策から
鉄道へのシフトを日本はすべきである。