8/8(土) この子を残して 9/6(日) 二十四の瞳

№14
2015.6.1 発行
木下恵介の映画について作家赤川次郎氏が書いたものを、けいすけクラブ会員の S さんが届けてくれ
た。赤川氏は、木下恵介 DVD 全集を買って観るほど、木下作品のファンだと言う。赤川氏は木下映画に
魅せられた点を、次のように述べている。
-略私自身、木下恵介をリアルタイムで見
て来たわけではなく、その名前は興行的に成功し
た「二十四の瞳」や「喜びも悲しみも幾歳月」に
代表されてしまって、
「真面目だが、ちょっと気恥
ずかしくなるような感傷的な映画」を作る人と思
っていた。
そのイメージが変ったのは、ビデオで「野菊の
如き君なりき」を見たときで、そとには感傷を突
きつめた末に、みごとな「詩」が生まれていた。
「これは凄い作家だ!」と、驚いた私は、木下作
品を見続け、高峰秀子に脳天気なストリッパーを
演じさせた「カルメン故郷へ帰る」の大らかな笑
いから、書割のセットに文楽の浄瑠璃と太棹三昧
線が鳴り渡る「楢山節考」
、自由への渇望を正面か
ら叩きつけた「女の園」など、ほとんど一作ごと
に作風が変ると言っていいほどの多彩な作品群に
圧倒されてしまった。
あえて選ぶとすれば、
「野菊の如き君なりき」と、
実験的精神の結晶「楢山節考」
、そして徹底したリ
アリズムで、母親と子供たちの救いのない葛藤を
描いた「日本の悲劇」
。もし木下恵介に関心を持っ
たら、この三本をぜひ見てほしい。
木下作品に共通しているのが、常に「名もな
い平凡な人々」の視点に立ったドラマ作りである
ことは、大方の評価の通りである。私が木下作品
に共感するのは、
「英雄嫌い」という点にあるのか
もしれない。戦国時代を描いた「笛吹川」は、戦
さに狩り出されて次々に息子たちを失っていく農
民の悲劇が描かれて、どこにも武将の「勇ましさ」
はない。
-略確かに「二十四の瞳」を見て泣かない人は今も
あるまいが、そこには昨今の「泣ける」ことを売
りにした多くの作品とは、根本的に違うものがあ
る。木下恵介の涙は、激しい怒力に裏打ちされた
涙、社会や時代の非人間的なあり方への抗議の涙
なのだ。
今、木下作品に人々が共感するというのは、世
の中が再び危うい空気に覆われつつあることの証
かもしれない。木下恵介の原点は「戦争」「貧困」
そして「封建的な因襲」への怒りである。
-略-
木下恵介の作品が、高度成長時代に入って見られ
なくなり、企画も通らなくなったことは象微的で
ある。
「戦争」や「貧困」が、もはや切実な問題で
なくなったと、人々は考えたのだろう。今、木下
作品を見る人は、どんな涙であれ、この社会と深
くつながっていることを忘れないでほしい。
-略-
岩波書店発行『図書』2013.3 月号 赤川次郎著「灯台はどこを照らすのか」より
今、木下惠介が生きていたら、どんなテーマで映画をつくるのか想像してみるのも興味深い。
終戦 70 年記念特別企画
終戦から 70 年の節目の年。激動の時代を生き、出征体験もある木下恵介が、映画監督と
してみつめた戦争とは。木下作品の中から3作を選び、木下恵介の下で助監督を務めた横
堀幸司氏による講演とセットで開催。※詳細は当記念館イベント案内をご覧ください。
7/5(日)
陸軍
上映 13:00~講演 14:30~
8/8(土) この子を残して
上映 13:00~講演 15:10~
9/6(日) 二十四の瞳
上映 13:00~講演 15:50~
C 1944 松竹
○
C 1983 松竹
○
C 1954 松竹
○
出征の息子を見送る母親のラスト
シーンが話題に
長崎で被爆した永井隆博士の手記
の映画化
戦争という時代の荒波に翻弄さ
れる女教師と 12 人の教え子たち
木下恵介監督 1957 年公開作品
喜びも悲しみも幾年月
の余韻
5 月の上映会は、木下作品の中から、「喜びも悲しみも幾年月」と「カルメン故郷に帰る」の 2
作を上映した。この2作で主演しているのが高峰秀子である。2010 年(平成 22)に亡くなってか
ら、今年の 12 月で 5 年になる。昭和の大女優への想いも込めながら、
「喜びも悲しみも幾年月」
について、稚拙な感想を書かせていただくことをお許し願いたい。
「喜びも悲しみも幾年月」は、木下監督の 28 作目の作品。
灯台守夫婦の信頼と愛情を何十年間にも渡って描いた長編
なのに、観る者を退屈させることがない。戦争の時代と日
本の変化、転勤先の各地の灯台の美しい風景、字幕や地図、
人生の応援歌のような主題歌でつなぎ、次はどこでどんな
話になるのかと、胸を踊らすような興奮を覚える。
四季折々の日本の美しい風景と、そこに屹立する灯台
の威容が、なんとも絵になり、イーストマン・カラーの美
しさにも目を瞠る。
青い海と空をバックに垂直に立つ白い灯台の姿は、場面
のめまぐるしい変化に統一感を与え、木下惠介も各地の紹
C 1957 松竹
○
介にはサービス満点。また、佐田啓二と高峰秀子の名演も
物語に真実味を与えている。時の推移と共に佐田啓二が威厳ある父親に、高峰秀子が包容力ある
母親へと変わっていくのもこの映画の大きな楽しみでもある。年代記を得意とするまさに木下惠
介らしい秀作。ただ、桂木洋子の役柄はもったいない感じがする。
ラストシーンも印象的。かつて新婚の二人が到着した灯台の冒頭シーンと同じく、新たな赴任
地となる灯台への坂道。霧が二人を包み始め、やがてその霧の中に消えていくシーンである。永
遠に灯台の灯を守るために・・というラストも見事だ。
余談になるが、この映画に出てきた灯台は順に、観
音崎灯台→石狩灯台→伊豆大島灯台→水ノ子島灯台
→女島灯台→弾崎灯台→御前崎灯台→安乗埼灯台→
男木島灯台→御前埼灯台→日和山灯台。海上保安庁に
確認したところ、現在、国内には大小含めて 5,309
基、いわゆる私たちが思い浮かべる灯台は 3,221 基
(防波堤灯台含む)あるそうだ。長崎県五島市の男女群
島の女島にある女島灯台が最後の有人灯台だったが、
2006 年 12 月 5 日に無人化され、国内の灯台守は
珍しい四角柱の安乗埼灯台(三重県)
いなくなった。〈館長 原田昌典〉
去る 5 月 24 日に高峰秀子没後 5 年記念とし
て、高峰秀子さんが木下映画に初出演した『カル
メン故郷に帰る』の上映と併せ、高峰秀子さんに
関する著書も数多く書かれている斎藤明美さんの
トークショーを開催しました。「女優高峰秀子は、
いつも心だけは自由でありたいと願っていた」と
の言葉が
印象的でした。
予定時間をオー
バーしてのお話
で、ご本人もぜ
ひ続きの機会を
と仰っていまし
た。
けいすけクラブ予定
良い手来年度の予告
◇1 回 6 月 27
日(土)13:30 場所:木下惠介記念館
木下作品「陸軍」について
子役出演者から当時の話を聞く
◇2 回 7 月 5 日(土)15:00
場所:木下惠介記念館
木下作品「陸軍」について
講師横堀幸司氏との意見交換
◇3 回 8 月 8 日(土)16:00
場所:木下惠介記念館
木下作品「この子を残して」について
講師横堀幸司氏との意見交換
◇4 回 10 月 3 日(土)(時間他未定)
はじまりの道を訪ねて(仮)
◇5 回 1 月 10 日(土)13:30 場所:木下惠介記念館
内容未定
◇6 回 3 月 5 日(土)13:30
場所:木下惠介記念館
内容未定
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