石炭灰を用いた降雨により流出しにくい緑化基盤材の開発に関する研究

石炭灰を用いた降雨により流出しにくい緑化基盤材の開発に関する研究
Technical Study of Tree planting base material which cannot flow out easily due to the rain using coal ashes
篠原久雄
*1
堀正路
要旨
緑化基盤材と種子を混合して法面に吹き付ける法面緑化工においては、早期の発芽と法面の侵食防止のため、草
本植物や浸食防止材が用いられることが多い。ところで、梅雨などの降雨時期や冬季の植物の生育が遅い時期など
には一旦吹き付けた基盤材が降雨あるいは降雪等により流出するおそれがある。このため、このような場合には基
盤材の表面侵食を防止するために金網の設置が行われるが、
金網を設置する方法では施工にコストがかかることや
基盤材が結合していないため、表面が徐々に浸食されるおそれがある。
このため、抜根材チップを堆肥化したバーク堆肥と石炭灰を有効に活用し、金網なしでも降雨や湧水により侵食
や流出しにくい緑化基盤材の開発を行った。すなわち、吹き付け材料として、抜根材チップを堆肥化したバーク堆
肥と石炭灰(クリンカアッシュ)を用い、透水性や保水性を高め植物の生育を促すとともに、セメントを固結材と
することにより、水和反応が早く早期に強度発現するため、施工時期に制限されにくく、また、石炭灰(クリンカ
アッシュ)の配合により適度な透水係数を有し、降雨時にも吹き付け材を不飽和な状態におくことにより、金網な
しでも降雨や湧水により侵食や流出しにくい緑化基盤材の開発を行った。
キーワード:緑化基盤材、降雨、金網なし、抜根材チップ、石炭灰
湧水箇所では基盤材が流出するおそれがある。また、
1.はじめに
固くなり過ぎ保水性が不足し、植物の発芽障害や初期
切り土法面や盛土法面の侵食防止と安定のために、
緑化基盤材と種子を混合して法面に吹き付ける法面
生育の遅延等の副次的な問題が発生する危険性があ
緑化工が用いられることが多い。ところで、梅雨など
る。また、石灰系侵食防止材は水和反応が遅く早期に
の降雨時期や冬季の植物の生育が遅い時期などには
強度発現しないという欠点もある。また、高分子系樹
一旦吹き付けた基盤材が降雨あるいは降雪等により
脂は、紫外線などによる分子構造の劣化や、凍上・凍
流出するおそれがあることから、法面緑化工において
結などの物理的な外力によって接合力が短期間しか
は、早期の発芽と法面の侵食防止のため、草本植物を
維持できないため、発芽・生育に長期間を有する植物
用いたり、基盤材の接合力を高めるために、セメント
群落を造成する場合には法面侵食が生じるおそれが
系侵食防止材や石灰系侵食防止材、高分子系樹脂を用
ある。また、金網や繊維等を混入する方法では施工に
いたりする。また、金網や繊維の混入等により基盤材
コストがかかることや基盤材が結合していないため、
の剥離を防止する方法もある。
表面が徐々に浸食されるおそれがある。
ところで、早期の発芽と浸食防止のために、草本植
また、資源循環型社会の形成を図るためには抜根材
物を用いる方法については、地球温暖化対策及び本来
や石炭灰(クリンカアッシュ)あるいは廃ガラスの有
の植性種の形成を図る観点からは、ポット苗及び根株
効利用が求められている。
チップを用いた木本植物の利用が好ましい。しかし、
このため、今回、抜根材のチップを堆肥化したバー
ポット苗や根株チップを用いた木本植物の植栽は生育
ク堆肥と石炭灰(クリンカアッシュ)にセメントを固
が遅いため、周囲から飛んできた雑草の繁茂により植
結材として用いることにより、金網なしでも降雨や湧
栽した木本植物の成育が阻害されたり、木本植物が枯
水により流出しにくい緑化基盤材の開発を行った。
すなわち、石炭灰(クリンカアッシュ)の透水性と
れたりするおそれがある。
また、侵食防止材を基盤材に配合する方法では、基
保水性により通常の基盤材よりも透水係数が大きく、
盤材が強く接合し、基盤材の透水性が不足するため、
さらにセメントを固結材としているため、硬化時間が
早く、透水係数が大きいため、降雨等に対して飽和し
*1(有)サンエー建材
1
材料と比較して通水性、保水性に優れている。
にくいため、金網なしでも降雨等により流出しにくく、
さらに、これに廃ガラスを発泡させた発泡ガラスを加
3)発泡ガラス
えることにより、吹き付けたときに空気の抵抗が大き
く固く締まりにくく、また、石炭灰(クリンカアッシ
発泡ガラスは廃ガラスを高温の釜で発泡させて製造
ュの)保水性により種子にとってより好ましい環境と
したものである。今回の実験では泡ガラスを5〜10
なるものである。
mm程度の大きさに粉砕して用いた。
3.吹き付け実験
1)吹き付け実験概要と配合
バーク堆肥に石炭灰と独立気泡を有する発泡ガラス
発芽した種子
とセメントを混合した配合で吹き付け実験を行った。
斜面を約5分の勾配に成形し、金網を用いずに斜面に
石炭灰
向けて吹き付け機で厚さ3cmの吹き付けを行った。吹
発泡ガラス
き付け実験の配合を表−2に示す。ここで、石炭灰と
してフライアッシュをFA、クリンカアッシュをCA
金網なしでも降雨や湧水により流
出しにくい。発泡ガラスにより閉ま
りにくく発芽しやすくなる。
で表す。また、発泡ガラスは、5〜10mm程度に粉
砕して用いた。その際、発泡ガラスの単位重量を測定
図−1 構想図
したところ0.255kg/Lであった。
2.吹き付け材料の性状
番
号
1)バーク堆肥
バーク堆肥として今回の実験では、抜根材チップ7
①
②
③
④
5%とヤシ繊維25%を用いて製造したバーク堆肥を
用いた。この成分表を表−1に示す。
表−1 成分分析試験結果
項目
単位
水分
%
窒素全量(N)
%
りん酸全量(P2O5) %
加里全量(K2O)
%
有機物(強熱減量)
%
炭素率(C/N)
−
陽イオン交換容量
meq/100g
PH(乾物相当量1:10 −
水,23℃)
分析成績
乾物当たり値
58.17 −
0.60
1.43
0.58
1.39
0.38
0.91
34.91 83.46
30
36.9
88.2
7.0
表−2 基本配合(乾燥重量比)
バー FA CA セメ 発泡 水
計
ク堆
ント ガラ
肥
ス
25.29 1.5 4.95 0.5 2
16.26 50.5
25.29 1.5 4.95 1
2
16.26 51
25.29 1.5 7.61 2.5 2
19.6 58.5
25.29 − 7.61 2.5 −
22.1 57.5
種
0.04
0.04
0.04
0.04
表−1の配合をバーク堆肥の含水比58.17%、
CAの含水31.38%で修正すると表−3ようにな
る。なお、バーク堆肥と発泡ガラスのところの( )
内の数字は容積(L)を表す。
表−3 基本配合(自然状態重量kg)
番 バーク FA C セメ 発泡ガ 水 計
号 堆肥
A ント ラス
6.5 0.5
2(7.84L) 0
50.5
① 40(80L) 1.5
40(80L)
1.5
6.5
1
2(7.84L)
0
51
②
10
2.5
2(7.84L) 2. 58.5
③ 40(80L) 1.5
2)石炭灰(クリンカアッシュ)
クリンカアッシュは、火力発電所で石炭を燃焼した
④ 40(80L)
ときにボイラ底部の水槽(クリンカホッパ)に落下し
−
10
2.5
−
5
5
57.5
なお、種の配合は表−4のようにした。
表−4 種の配合(自然状態重量g)
種の種類
重量(g)
オーチャードグラス
1
トルフェス
23
クリーピングレッドフェスク
12.6
メドハギ
3.4
計
40
た石炭灰を粉砕して得られるもので、上記水槽におい
て赤熱状態から急冷水洗されるので化学的に安定して
いる。また、その粒径は粒度調整により、ほとんどが
粗砂〜細礫程度の大きさとなっている。クリンカアッ
シュは、シリカとアルミナを主成分とし、小さな孔隙
を多数有する、いわば多孔質の石炭灰である。したが
って、クリンカアッシュは、砂などの一般の土壌構成
吹き付け実験後の状況を写真−1に示す。
2
種
0.04
0.04
0.04
0.04
写真−2 5ヶ月後状況
(左 3 つは発泡ガラスあり右端がなし)
写真−1 吹き付け実験状況
たことからもわかるように、施工時期の制約を受けに
2)実験結果
くく、降雨や湧水による流出の可能性の低い吹き付け
吹き付け実験後状況を観察した。①は少し柔らかく、
吹き付け後30分ぐらいして水をかけたところ吹き付
材を提供できる。その後、状況の観察を行った。その
け材が少し流れた。これに対し、②、③、④は当初少
結果を表−5に示す。なお、固さについては山中式土
し柔らかいが、徐々に固くなり、吹き付け後30分ぐ
壌硬度計で土壌硬度として測定した。また、PHはP
らいして水をかけても吹き付け材は流れなかった。こ
Hメーターで測定した。また、5ヶ月後の状況を写真
れにより、吹き付け材に石炭灰、発泡ガラス、セメン
−2に示す。
トを配合することにより水をかけても流れなくなり、
通常の土の吹き付けは土壌硬度が約10〜13mmで
急勾配で金網なしでも降雨や湧水等に対して安定なこ
あり、①はこの範囲にある。しかし、前述のように、
とがわかる。また、今回の場合、セメントを固結材と
吹き付け後水をかけると流れることから急勾配で金網
しているため、固結材なしの場合や石灰系の固結材を
なしに吹き付けることは難しいと考えられる。②、③、
用いた場合よりも固結時間が短く、固結度も大きくな
④についてはこれより固くなっており、急勾配で金網
る。このため、30分という短い時間でも流れなかっ
なしに吹き付けることが可能と考えられる。しかし、
表−5 状況の観察
土壌硬度が硬くなりすぎると種子が発芽しなくなる。
経過日 番号 硬度(mm)
数
7日後 ① 11
②
③
④
28日 ①
後
②
③
13.7
19
21.7
12
13.7
20.3
④
38日 ①
後
22.0
12
②
③
④
5ヶ月 ①
後
②
③
④
14
21
24
−
−
−
−
PH
状況
この限界値は約27mm〜30mm程度と言われており、
備考
今回の場合発泡ガラスを配合しなかった④は24mmと
7.7 後少し(数本)の発芽 5日目に少し降
がみられた。
雨あり、それ以
外は晴れ。
8.7 7日後発芽なし
9.0 7日後発芽なし
8.7 7日後発芽なし
6.9 少し発芽(周辺部) 21日目雨、2
4日目雨、28
7.0 発芽(全面)
6.6 少し発芽(数本)(④ 日目朝雨、それ
以外は晴れ。
より多い)
6.9 少し発芽(数本)
6.8 30cm角の発芽本数115 30日目雨、3
本、発芽した種子の長 2日目雨、33
さ6cm
日目雨、それ以
6.8 30cm角の発芽本数95 外は曇りまたは
本、発芽した種子の長 晴れ。
さ10cm
6.8 30cm角の発芽本数20
本、発7発芽した種子
の長さ5cm
6.7 30cm角の発芽本数1
本、発芽した種子の長
さ2cm
−
植被率 100%
判定基準は3ヶ
月
後で70〜80%
−
植被率 100%
以
上
、50〜70%
−
植被率 87%
の
場
合
は1〜2ヶ
−
植被率 59%
月様子をみる。
かなり固くなっている。このため種子がほとんど発芽
していない。これに対し、発泡ガラスを配合した③は
21mmと④より柔らかくなっており、種子の発芽もみ
られる。
PHについては石炭灰とセメントを配合するため当
初大きくなるが、その後バーク堆肥と反応したり、降
雨で流れたりするため小さくなりほぼ1ヶ月程度で7
前後となっており、問題のないことがわかる。
この吹き付け材料について吹き付け実験後38日後
と51日後に、供試体を切り取り、単位重量、含水比、
透水係数を測定した。その結果を表−6に示す。
表−6 単位重量と透水係数
番
単位重量
含水比
乾燥密度
透水係数
号
(g/cm3)
(%)
(g/cm3)
(×10−2cm/s)
①
0.542 35.
16 0.401
−
②
0.541 37.
57 0.393
−
③
0.830 55.
80 0.533 1.19
④
1.025 74.
34 0.588 2.14
注)−は未測定
これより、①、②に比べ③、④は単位重量が大きく
3
なっており、密に詰まったことがわかる。また、③と
れた「セメント及びセメント系固化材の地盤改良及び
④を比べると1割ほど④の方が単位重量が大きくなっ
改良土の再利用に関する当面の措置について」の通達
ており、密に詰まったことがわかる。なお、表−2よ
の運用に際し指定された、「セメント及びセメント系
り、③、④について密度の換算をすると発泡ガラスに
固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要
よる影響は約2%(バーク堆肥80L,FA1.5L、
項(案)」の「試験方法(JIS K 0102 65.2.1に規定)」
CA10L、セメント0.8Lとすると③は56kg
に従った。
で100.1L、④は52.5kgで90.8Lとな
番 バー
号 ク堆
肥
⑤ 25.29
(40)
る。)であり、表−4ではそれ以上の値となっている。
これより、発泡ガラスを配合することにより吹き付け
材が密に締まり過ぎるのを防ぐことができ、適度な空
隙を有するため、種子の発芽に好適な環境となること
がわかる。
表−7 基本配合(乾燥重量比)
FA CA セメ 発泡 水
計
ント ガラ
ス
− 11.42 2
1.5
19.79 60
(15) (2) (1.5) (1.5) (60)
注)( )は自然状態重量比
また、一般的に植生基盤材のみを吹き付けた時の透
水係数は2×10−3cm/s程度であり、
今回の場合、
4.試験吹
石炭灰(クリンカアッシュ)を配合することにより、
4.1.試験施吹の概要
−2
吹き付け材の透水係数は③で1.19×10 、④で
この緑化基盤材を用いて、試験吹を行った。その概
2.14×10−2と、望ましいとされている1×10
要を表−8に示す。なお、吹き付け法面は砂防工事の
−3
cm/s程度以上となった。このように石炭灰を配
仮設道で切り土面からは湧水がいくつか見られる状
合することにより通常の吹き付け材よりもより多くの
況であった。また、発砲ガラスは2〜3mm程度の市販
透水性を確保することが出来る。このため、降雨や湧
の発砲ガラスを用いた。試験吹き前の法面の状況を写
水による流出の可能性がより低くなる。なお、③より
真−3に、試験吹き後の法面の状況を写真−4に示す。
も④の方が透水係数が大きくなったのは、③が独立気
表−8 試験吹の概要
施工箇所
実施日
法面勾配
内容
泡を有する発泡ガラスを配合したため、水が通りにく
かったためと考えられる。
また、含水比については、独立気泡を有する発泡ガ
ラスを配合した①、②、③については35%〜55%
配合
程度、発泡ガラスを配合しなかった④は74%程度と
面積(m2)
適度な水分を有することがわかる。これにより、石炭
織田町三崎 切土法面
平成15年4月28日
3分 t=3cm
発泡ガラ 発泡ガラスなし
通常タイプ
スあり
(ラスなし)
表−7の 表−7で発泡ガラスを除 バーク堆肥
配合
いた配合(それ以外は同じ) のみ
30m2 5m2
5m2
灰(クリンカアッシュ)を配合することにより適度な
保水性を有することがわかる。なお、①、②、③に比
べ④の含水比が高いのは、今回用いた発泡ガラスが独
立気泡を有する発泡ガラスのためと考えられる。
表−7に示す配合で供試体を作製し、六価クロムの
溶出試験を行った。ここで、石炭灰としてフライアッ
写真−3 試験吹の前の状況
シュをFA、クリンカアッシュをCAで表す。また、
発泡ガラスは、5〜10mm程度に粉砕して用いた。
その際、発泡ガラスの単位重量を測定したところ0.25
5kg/Lであった。また、バーク堆肥の含水比58.1
7%、CAの含水31.38%とする。
その結果は、0.01mg/L未満と土壌環境基準
0.05mg/Lをクリアーした。なお、なお、この
写真−4 試験吹の後の状況
測定は、建設省より2000年3月24日付けでなさ
4
4.2.試験吹の結果
表−10 現地での試験結果
施工方法
吹き付け時に作製した供試体の試験結果を表−9
に、現地での試験結果を表−10に示す。なお、供試
発 芽 2週間後
状況
体は地面にモールドを設置し、上から吹き付けて製作
1ヶ月後
した。表−9より、透水係数は4.49×10−3cm/sと、
一般的に言われている植生基盤材のみを吹き付けた時
硬 度 3時間後
(mm) 1週間後
2週間後
の透水係数2×10−3cm/s程度よりも大きくなった。
しかし、前回の吹き付け実験の透水の係数より小さく
なっており、これは、用いた発砲ガラスの大きさや配
1ヶ月後
合、供試体の作製方法にもよると考えられるが、今後
とも検討していきたい。
PH(2時間後)
発泡ガラスあり 発泡ガラスなし 通常タイプ(ラ
スなし)
少し発芽(乾所) あまり発芽して 良く発芽(乾所)
少し発芽(濡所) いない(乾所)
良く発芽(濡所)
少し発芽(濡所)
少し発芽(乾所) あまり発芽して 良く発芽(全体
良く発芽(濡所) いない(乾所)
に乾いていた)
良く発芽(濡所)
19(乾所)
20(乾所)
14(乾所)
20.5(乾所) 22(乾所)
16(乾所)
21(乾所)
24(乾所)
18(乾所)
16(濡所)
17(濡所)
14(濡所)
22(乾所)
25(乾所)
19(乾所)
16(濡所)
18(濡所)
−(全体に乾い
ていた)
7
7
6.6
吹き付け後1ヶ月後(5月下旬)状況を写真−5に
示す。1ケ月後の状況では、発砲ガラスありのところ
は、少し湿ったところでは良く発芽していたが、乾い
たところでは少ししか発芽していなかった。また、湧
水箇所での吹き付け材の流出は見られなかったが、上
から流水のあるところでは、吹き付け材が少し流れて
いた。発砲ガラスなしのところでは、少し湿ったとこ
ろでは良く発芽していたが、乾いたところではあまり
発芽していなかった(発砲ガラスありよりは少ない。)。
発泡ガラスあり
なお、ここでは湧水や流水はなかったので流出につい
発泡ガラスなし
バーク堆肥のみ
ては確認できなかった。通常のバーク堆肥のみのとこ
ろでは、全体的に良く発芽していた。
写真−5 1ヶ月後状況
今回の場合、セメント及び発砲ガラスの割合を前回
なお、吹き付けの判定基準は、「植被率が3ヶ月後
の時よりも少なくしたことから発砲ガラスありとな
で70〜80%以上、50〜70%の場合は1〜2ヶ月様子をみ
しとでは、土壌硬度が多少小さくなった程度であまり
る。」なので、今後とも状況の観察を続けて行きたい。
差がなく、従って発芽状況についても前回ほどの違い
はみられなかった。むしろ、法面からの湧水により吹
5.まとめ
き付け材が湿っているか乾いているかによる差の方
今回、産業廃棄物を有効に活用し、金網なしでも降
が大きくなった(湿っているところの方が発芽状況が
雨や湧水により流出しにくい緑化基盤材の開発を行っ
良好)。しかし、発砲ガラスありの方が若干ではある
た。その結果、抜根材のチップを堆肥化したバーク堆
が土壌硬度が小さく、また、発芽状況についても多少
肥と石炭灰(クリンカアッシュ)にセメントを固結材
良かった。また、湧水箇所での吹き付け材の流出は見
として用いることにより、石炭灰(クリンカアッシュ)
られなかった。これらのことから、透水係数を大きく
の透水性と保水性により通常の基盤材よりも透水係数
しセメントを固結材とすることにより吹き付け材を
を大きくでき、さらにセメントを固結材としているこ
降雨や湧水から流出しにくくすることが可能と考え
とにより、硬化時間が早く、透水係数が大きいため、
られる。
降雨等に対して飽和しにくく、金網なしでも降雨等に
表−9 供試体(発泡ガラスあり)の試験結果
単位重量(g/cm3)
含水比(%)
乾燥密度(g/cm3)
透水係数(×10−3cm/s)
六価クロム溶出量(mg/L)
より流出しにくく、発泡ガラスの混入により締め固ま
0.997
122.89
0.454
4.49
0.01未満
りにくく種子の発芽にとって好適な環境となることが
明らかとなった。
これにより、産業廃棄物としての抜根材や石炭灰(ク
リンカアッシュ)あるいは廃ガラスを有効に利用し、
5
金網なしでも降雨や湧水により流出しにくい緑化基盤
材を提供することが可能となった。
謝辞
この研究は、(財)福井県産業支援センターの企業
共同研究支援事業により、福井県雪対策・建設技術研
究所、(有)サンエー建材の共同で行われたものであ
る。本研究に当たり、朝日土木事務所、北陸電力(株)、
(株)協立商事など多くの方々に助言と多大な協力を
頂いたことを記し謝辞とする。
6