Vol.3 No.5

environment Update
−海外環境関連情報誌−
第 17 号
Vol.3
No.5
(2002.
1)
CONTENTS
WEEE& RoHS、EEE の最新動向
EU の WEEE
&
RoHS、
EEE 指令制定の動向
独英の環境担当官答える「WEEE
&
2
RoHS
指令案の質問」
6
ブリュッセル短信
欧州委員はロビーイストを歓迎?
NEC Europe Ltd. Br
ussel
Of
fice
杉
山
隆
13
EUの環境政策
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
18
講演録
環境格付けの動向について
ニッセイ基礎研究所 社会
研究部門 上
席主任研究員 川村
雅彦
組合員のページ
寄稿
松下電器 環境フ
ォーラム
松下電器産業株式会社
環境本部
吉
村
孝史
48
モニタリング
欧州
米国
・連載 欧州環境規制動向
〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報
⑱
・連載 米国における環境関連動向
〜在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報
52
⑬
74
環境・安全グループニュース
新刊図書のご案内
81
環境・安全グループ担当委員会活動状況
事務局便り
82
85
36
EU の WEEE & RoHS、
EEE 指令制定の動き
環境・安全グループ
当組合ブラッセル事務所からの情報を基に、最近の WEEE & RoHS 指令案の審議動向と EEE 指令案
の立案を巡る動向を次のとおり整理してみました。
1. WEEE & RoHS
(1) 審議動向
欧州議会と理事会の共同決定手続きに従い審議中の WEEE & RoHS 指令について、理事会は昨年 12
月 4 日に、先に採択された欧州議会の修正意見に基づき「共通の立場(common position)
」を正式に
採択しました。
理事会は、既に昨年 6 月 7 日に「共通の立場」の採択を見込んだ「政治的合意」を採決しているが、
今回の「共通の立場」と「政治的合意」のテキストと比べると、指令案の条項については法制上の理
由などによる一部表現の変更があるものの、
実質的な内容は変わっていないと判断されます。
ただし、
両指令とも「政治的合意」のテキストには空欄となっていた前文が今回新たに記述されていて、その
内容は「欧州議会の修正意見の前文」に対し表現の変更、追加、削除が行われています。
この理事会版指令案である「共通の立場」はその後欧州議会に送られ、12 月 13 日に受理されてい
ます。今後審議は第 2 ラウンドに入りますが、既報のとおり指令制定までのプロセスで最も可能性の
高いといわれているスケジュールを次のとおり整理してみました。
(2) スケジュール
年.月/日
理事会
欧州議会
2001.5/15
12/4
本会議で修正意見を多数採択
共通の立場(common position)を
正式採択
12/13
共通の立場を受理
2002.3-4
第二読会(原則 3 ヶ月、最長 4 ヶ
月)
環境委員会採決
本会議採決
共通の立場を修正か?
6-7?
第二読会(原則 3 ヶ月、最長 4 ヶ
月)
、再度共通の立場を採択か?
7-9?
調停委員会(6-8 週間)
8-9?
第三読会(6-8 週間)
、調停案審議
2002 年末?
<指令制定>
第三読会(6-8 週間)
、調停案審議
官報告示により<指令発効>
2004 年央まで?
加盟国、法令整備(指令発効から 18 ヶ月以内)
2005 年央?
加盟国、法令施行(法令制定後 12 ヶ月)
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EU の WEEE & RoHS、EEE 指令制定の動き
(3) 産業界の動きと今後の主な論点
JBCE、EICTA、AeA の日欧米の 3 団体は、共通の立場の採択後、第二読会での審議に向けて、業界
団体がこれまでの個別によるロビー活動では限界があるとのことから、日欧米共同ポジションペーパ
ーを作成し、これを基に三者で連携を取りながら欧州議会議員への働きかけを行っています。今後の
論点を含む詳細について別掲の JBCE が報道関係に記者発表した文書をご参照下さい。また、ポジシ
ョンペーパー原文(英語)をご希望の向きは環境安全グループまでお申し出ください。
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EU の WEEE & RoHS、EEE 指令制定の動き
なお、リサイクル費用の分担を個別責任方式とすることに関しては NGO との協調による働きかけ
も検討中と伝えられています。
2. EEE
前号でお伝えしましたとおり、主要産業界の反対、ドラフト作成担当官の空席、ビジネスインパク
ト調査の実施などを理由に、環境配慮設計を目的とする EEE 指令案(2001.2 付新 1.0 次版1)の改訂
作業は止まっています。
その後、新しい担当官(drafter)として Mr. Papadoyannakis が着任したとのことです。また、EEE
指令制定についての最近の欧州委員会企業総局の考え方として次のようなことが伝えられています。
(1)スケジュール
① ビジネスインパクト分析調査
企業総局はビジネスインパクト分析調査を準備中である。調査受託機関と産業界との会合を 1
月末に開催予定している。会合は幅広い産業界に呼びかけ、会合では、調査受託機関が 3 つシ
ナリオ(指令、自主規制、何もしないでそのまま)にそって検討状況を説明する予定である。
② 技術上の問題に関する産業界とのワークショップ
技術上の問題評価するため、企業総局、産業界(おそらく NGO も含む)とのワークショップを
2 月末に開催予定である。
1
テキスト和訳は environment Update Vol.2, No.6 に掲載
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EU の WEEE & RoHS、EEE 指令制定の動き
(2)要旨
①
一般
法律文書は法律家でない人にとっては修正コメントを提出するには困難さがあるので、会合で
は法律文書が明確にできないところについて説明するつもりである。
② 省エネルギー指令案との関係
企業総局は、担当部局(環境総局)が何をしようとしているかまだ承知していない。現時点で
は、EEE 指令と省エネ指令は補完的になるべきであるし、またそうなるであろうとしかいえな
い。EEE 指令がすでに制定されていたら、省エネ指令は必要なかったであろう。
③ 設計に関する要求
もし EEE 指令がこのまま進まなければ、代わって環境総局が共同体設立条約 175 条に基づいた
(ミニマム要求のため加盟国はより厳しい法を導入可能)環境配慮設計指令を提案するという
事態に産業界は直面するであろう。これは最近の IPP に関する担当官の見解表明からも明らか
である。
④LCT
企業総局は LCA(Life Cycle Assessment)実施の難しさを十分承知している。LCT(Life Cycle
Thinking)と LCA は異なるものであって、EEE 指令案で実際に提案している LCT 要求事項につ
いては既に多くの企業が実施しているものであるので、追加的な作業について心配に及ばない。
これは小企業には適用しない。
⑤技術規格
LCT 規格が個別製品毎(PC、複写機など)に作成されるとは企業総局は予測していない。ただ
し単一の一般的な規格をすべての製品に適用することは難しいと思われるので、製品の性格に
より、特定の等級を配慮される必要がある。規格は同じ性格を有する製品グループ毎に作成さ
れる可能性が高い。それぞれのグループをどこまで含めるのかは産業界が決めることである。
TV は一つのグループを形成するであろう。
⑥政治的判断
政治的判断は産業界に委ねるべきでない。同時に、種々の環境問題について社会における優先
事項が変化するので、指令がすべてを決定できるわけではない。例えば、今日 CO2 はもっとも
重要な問題の一つであるが、将来そうでなくなるかもしれない。指令が社会的なニーズの変化
に弾力的に自己適合していくことは困難である。企業総局は、多様なステークホールダーで構
成する委員会がこのような業務を遂行し、その上標準化機関や企業にガイダンスを提供する、
というポジションである。
□
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独英の環境担当官答える「WEEE & RoHS 指令案の質問」
環境安全グループ
当組合貿易と環境専門委員会(委員長:キヤノン松藤洋治・環境技術センター主席)は、去る 12 月 5
日にドイツ連邦環境省廃棄物担当次官 Dr. Schnurer およびイギリス通商産業省規制問題・リサイクル
政策課長 Dr. Downs を迎えて、WEEE & EEE 指令案を巡る意見交換を行った。両氏は BSEF などが主
催する「難燃プラスチックセミナー2001」の講師として来日したところ、BSEF JAPAN 代表の徳勢正
昭氏のアレンジでこの会合が実現した。当日は WEEE & RoHS 指令案に関する日本側の質問と、欧州
側から見た日本メーカーのリサイクルなどの取組み状況の質問といった双方向の意見交換ができた。
以下は、前者のテーマに関するQ&Aを編集したものである。
(注:文中の S は Dr. Schnurer、D は Dr. Downs、B は BSEF 関係者)
いうのも、市場関係者の中にはフリーライダー
(ただ乗り)をするものがいて、彼らは設置、
導入されているシステムの恩恵を得ようと思
うが、必要な負担、責任を負いたくないと思っ
ているからである。そして第 3 はお金の流れ
を追わなければいけないという教訓である。こ
れは最も難しいけれども最も重要な教訓であ
ると思っている。というのも、ほとんどのリサ
イクリングの作業は非常に費用が高くつくわ
けで、リサイクリングの結果として発生する二
次的な材料の価格よりもリサイクリングの費
用のほうが高いということが多々ある。そこで
きちんとした資金の支払い制度を確立する必
要がある。つまり誰がお金を払うのか、いくら
払うのか、誰にお金を払うのか、そして払われ
たお金をどのようにして使うのかきちんと把
握する必要がある。包装の分野では、以上の 3
つの教訓に対する解決策というのは比較的シ
ンプルに簡単に導き出すことができるかと思
う。というのも、包装は紙、段ボール、鉄鋼、
アルミニウム、ガラス、プラスチックといった
ような特定の材料を扱っている。例えばアルミ
ニウムの缶であれは簡単に分離することもで
きるし、どういった業者が係わっているのかと
いうこともすぐに分かる。材料がすぐに分かる
からである。しかし、製品の場合は状況がもっ
と複雑かと思う。
はじめに
S:そもそも欧州でいろいろと議論が始まったの
は、10 年前に製品に関する規制について議論
が始まったことに端を発しているかと思う。そ
の時は包装に関する政令についての議論が
多々行われていた。輸入も含め生産者責任の原
則を高めようという方向で、そしてこれをさま
ざまな製品について適用していこうという方
向で議論が進んでいた。生産者責任の原則を実
際に実施するということになると、複雑な要素
がいろいろとからんでくることになるかと思
う。また、包装に関する規制についてもいろい
ろと問題が出てきている。10 年間ドイツにお
ける包装に関する規制から学んだ教訓は主に
3 つあった。
まず第 1 は、生産者責任の原則を実施するた
めにはいわゆるロジスティックスと言われて
いる部分に着目しなければいけないことを学
んだ。ロジスティックスとはすなわち、廃棄物
を収集し、分別し、前処理をし、リサイクリン
グをし、リサイクルできない材料については廃
棄をするという、一連の材料が廃棄物になって
からリサイクリングされるまでの流れという
ことに着目しなければいけないということを
学んだ。第 2 は情報の流れ、データの流れを
追う必要があるということである。包装廃棄物
がどこで発生し、どこにとどまるのか、そして
最終的にどこに行くのかという流れをきちん
とおわなければいけないということである。と
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そして次は自動車の分野でるが、3 年前からド
イツでは自動車のリサイクリングに関する制
度が実施されている。この自動車のリサイクリ
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独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
ングは先程述べた教訓の 3 つ目に該当する。
すなわち、誰が自動車メーカーに影響を与える
ことなくコストを支払えばいいのかというこ
とが話題になっている。自動車メーカーとして
はリサイクリングの制度がきちんと確立され
ていることが重要になるわけである。自動車の
分野ではデータの流れが非常に複雑な状況に
なっている。というのも、3 年前にドイツで自
動車のリサイクリングに関する国内法が実施
されてから気づいたことだが、廃自動車がドイ
ツ市場の外、東欧諸国に廃自動車が輸出されて
いることが分かった。また海上輸送という形で、
アフリカ大陸やアジア大陸にも輸出されてい
るということも判明した。ということで第 1
番目の教訓、すなわち材料という意味では制度
が確立し、比較的機能しているが、2 つ目のデ
ータの流れという意味ではまだ複雑な状況に
ある。使用済みの自動車に関しは欧州指令もあ
る。ベルリンで閣僚理事会にて議論、審議をさ
れていて、そしてドイツで新法の制定に向けて
の作業も進んでいて、議会で審議され、そして
上院で通過されなければいけないということ
で第 1 ステップが今日現在行われているとい
う段階である。資金の流れ、お金の流れがここ
で問題になると思う。生産者、輸入業者が基本
的に廃自動車を回収し、処理すなわち解体する、
そしてリサイクリングする上でのコストを基
本的に負担するという方向で話が進んでいる。
最後に電気電子機器については実は一番複雑
な分野である。というのも世界的に数多くの生
産者、製造者がもうすでに存在しているし、ま
た非常に短いサイクルで革新的になっていく
ということがいえるからである。従って電気電
子機器の場合は、古い機器の材料を再利用する
ということにあまり意味がないわけで、また、
リサイクリングのコストも多くの場合はそう
いった電気電子機器の販売価格そのものより
も高くつくということがいえる。ドイツでは
1991 年から、すなわち 10 年ほど前からこの分
野では生産者責任の原則を導入しようと努力
を続けてきたが、正直いってこの試みは成功し
ていない。唯一できたのは、3 年前に規則の草
案を比較的限られた IT 機器の分野で作ること
ができたということである。この際には日本企
業の多くの方に積極的に支援いただいた。開発
システム導入に向けてのワーキングコミッテ
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ィ・サイクル作業委員会が設置され、そこでは
日、米、独企業、また欧州諸国の革新的な企業
の方々にいろいろと協力をいただいた。このシ
ステムを導入することによって他の機器でも
参考にできるようなモデルを作ることができ
たと思う。すなわち責任を分担するということ
である。地方自治体、地域社会に回収の責任を
基本的に担ってもらい、生産者そして輸入業者
はその後から責任を負うという意味での責任
分担のモデルを確立することができた。この
IT 機器に限定して作業を進めていたモデルだ
が、連邦政府、そして議会で合意を得ることが
できたものの、いわゆるセカンドチェンバー、
ドイツでは連邦国であるということで、16 の
州から同意を得なければいけないが、この 16
の州から合意を得ることができなかった。その
主な理由は、政治的なものと思われる。という
のも、この 16 の州はパイロットプロジェクト
という形で最初は限定するのではなく、最初か
ら全ての電気電子機器を対象にした方がいい
との考えをもっていたことが主な理由で失敗
に終ったわけである。この分野では、欧州全体
では決定を得るという段階に近づいていて、ド
イツ国内以上に議論、審議が進んでいる状況で
ある。すべての電気電子機器を網羅した形での
議論、審議が進んでいて、回収とリサイクリン
グに関する数値目標も定める方向である。ドイ
ツ国内ではこのようなことまでは話が及んで
いなかった。また欧州の規制では製品基準を設
ける、すなわち特定の物質の使用を廃止してい
くことについても話し合いが行われている。た
とえばドイツような一国だけでは、このような
ことはできないし、話が及んでいない。世界的
にもっていくのが理想的ではあるのだろうが、
欧州内では少なくともこのような方向で話が
進んでいる。今までドイツでなにをしてきたの
かについて第 1 次的な情報を提供した。すな
わちドイツは欧州の指令の動きを見守ってい
くことになっている。
D: 具体的に私が担当している部門では生産者責
任関連の指令についての作業をしている。生産
者責任関連の指令というと、廃電気電子機器、
自動車、包装そしてバッテリーを対象としてい
る。後ほどこの点については詳細にお話しする
が、様々な指令を担当している中で、WEEE は
最も複雑かつ実証する上でも最も難しい指令
7
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独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
になることは皆気づいていると思う。この
WEEE 指令の目的とそこからもたらされる環
境上のメリットについては全面的にサポート
をしているが、今後 2、3 年かけて業界の方々
と議論し、また利害関係者の理解を得た上で、
ビジネス上コストが最低限になるような形で
環境上のメリットをもたらすという取組みを
していかなければならない。
例えば、必要であれば適用除外のリストに含め
る物質を追加するように提案することはでき
るが、多数決になっているので、1 加盟国が提
案をしてそれが即合意されるというわけには
いかない。加盟国そして欧州委員会の多数決に
よって決まるので、将来具体的にどのような分
野がどう変わるかは現段階ではまだはっきり
といえない。適用除外の提案の一例として、は
んだ付けに使われる鉛について適用除外リス
トに入れてもらうよう提案しようとしている
が、他の加盟国からの多数決を得ることができ
ていない。もう一つリスクアセスメントについ
て、難燃剤のリスクアセスメントには TAC が
おそらくこの分野の分析、検討をこれから行っ
ていくと思われる。
具体的には将来オクタ DBE
とデカ DBE を禁止する項目として追加するの
か、あるいは適用除外に入れるのか議論をしな
ければいけない。この 2 点についてはリスク
アセスメントの結果をもってそれを検討して
決めることなので、現段階では具体的にどうな
るのかまだ分からない。まとめとして、RoHS
指令に関しては EU 加盟国の国内法で実施をし
た時に加盟国の間で異なった形で実施される
ことはありえないということである。
Q: 法的枠組み;EU 法と国内法の整合、EU 法を
越える項目、EU 法を変える場合の判断基準
などについて。
D: 2 つの指令の間できちんと区別をしておく必
要があると思う。RoHS 指令は、条約の第 95
条に基づいている指令案であって、すなわち
Harmonizing Directive 整合性指令であり、す
べての加盟国に法的拘束力がある指令である。
したがって、各国が RoHS の規制を実施するに
あたっては flexibility 柔軟性はない。したがっ
てすべての加盟国、英国、ドイツ、フランス、
その他のすべての加盟国が、この規制の実施に
関しては柔軟性を持つことができないが、私が
理解している範囲では一つだけ柔軟性をもて
る部分がある。それは有害物質の禁止を実施す
るタイミングである。今現在、理事会の決定が
出ていて、これが欧州議会の第二読会にて審議
されることになるので、第二読会で若干の小さ
な変更が加えられることはあるかもしれない
が、いつから禁止をしていくかが問題になって
いる。おそらくは 2007 年の 1 月 1 日から禁止
になると思われるが、加盟国はこの 2007 年 1
月 1 日以前から禁止してもよいという柔軟性
があると思う。実際には、この 2007 年 1 月 1
日以前から禁止する決定を行う加盟国は出て
こないと思う。というのも今から 2007 年まで
の時間はもうすでに非常に短く、この間に指令
に合わせて製品の設計とか、生産の状況を一部
変えて行く必要が出てくるかと思うので、この
2007 年までの時間を十分に使ってこの作業を
各国が進めていくことになるのではないかと
思う。私共この指令の中の規則すべてに満足し
ているわけではない。後で修正に向けての議論
をする機会は与えられている。具体的には
Technical Adaptin Committee(TAC)技術
適用特別委員会にて修正に向けての議論をす
る機会が与えられていて、もし修正提案があれ
ばこの委員会に提案を持ち込むことはできる。
JMC environment Update
しかしながら WEEE は状況がもっと複雑で、
条 約 175 条 に 基 づ い て い る minimum
standard、最小限の要求事項を定めているもの
であるので、加盟国はこの minimum standard
を越えてもっと厳しい規制を国内法に導入す
ることができる。もちろんより厳しくする際に
は、環境保護上必要でまた市民(人間)の健康
安全上必要であることが承認されなければ厳
しくすることができないが、ドイツの指令では
この指令の内容より厳しくすることには多分
ならないと思う。というのも、WEEE 指令の規
則はもう既に非常に厳しいものであって、もう
これ以上厳しくする必要はないと我が国では
考えているからである。もちろん minimum
standard の実施に関して flexibility を持たせ
たいと思っている部分もある。先程も述べたよ
うにそれは具体的に回収の分野になる。我が国
の回収モデルである、地域社会、地方自治体が
電気電子機器の回収について基本的に責任を
持つというモデルをひきつづき我が国で導入
し続けていきたいと思っている。このように地
方自治体に回収責任を持ってもらった方がが
8
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独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
安く上がるから、そしてこれが一番良い方法で、
そして回収率が高くなると考えているからで
ある。このようにすれば産業界は回収に関する
コストを支払わないでよいことになり、実際こ
のようなモデルが我が国のワークショップの
サイクル委員会で作られている。
なインフラを作るべきであるとの規定がある
が、この点についても、おそらく英国の小売店
はきっと指令の中でオプションとしてあがっ
ているものを選択するのではないかと思う。店
内で回収するというよりも第三者を使うと方
向になりつつある。
最後に柔軟性をもっと持たせたいと思ってい
る点についてもう一つ付け加えると、WEEE 指
令は再生、再利用とリサイクリングに関して非
常に厳しい規制を設けている。エネルギーリカ
バリーの割合として定められている割合が非
常に低いということで我が国ではこの点にも
う少し柔軟性を持たせてプラスチック材料の
エネルギーリカバリーをもう少し行うことが
できるようになればと思っている。またフィー
ドストックリサイクリングも行っていきたい
と思っている。フィードストックリサイクリン
グはリサイクリングの一種であって、エネルギ
ーリカバリーの一種ではないことを力説した
いと思う。これは我が国でのプラスチック包装
材のリサイクリングの経験から分かったこと
だが、こういった材料のリサイクリングでは非
常に複雑かつコストが高くつくということで
ある。廃電気電子機器のリサイクリングについ
てはもっと複雑になるということが経験上分
かっているので、マテリアルリサイクリングだ
けで非常に高い割合、率を達成するのは非常に
難しいと思っているので、エネルギーリカバリ
ーとフィードストックリサイクリングをもっ
と行えるような状況にしたいと思っている。
ということで、今から述べることは最終的には
我が国の関係大臣が決めることですので、現段
階ではっきりと保証はできないが、おそらく回
収地点以前の回収の段階のコストを生産者に
負担させるいうことにはおそらくならないと
思う。センター化させた回収地点とはすなわち、
地方自治体が管轄するセンター、中央的な回収
地点となるかと思うが、独立経営されているも
のも含まれると思う。他の要求事項についての
詳細は後ほどお話しすることができればと思
うが、いずれにししてもセンター化させた回収
地点以降の処理とリサイクリングについては、
生産者に 100%コストを負担してもらうこと
になるかと思う。具体的にどのような支払い制
度にしていくのかについてはまだ議論が必要
で、皆さんは例えば、visible fee の考え方に興
味があるかと思う。詳細は後ほどお話しできれ
ばと思う。
Q: 新規 EU 加盟国 :英国やドイツでの WEEE
の施行について何も心配していなが、理事
会案の中にすでにアイルランドとギリシャ
についての猶予期間が認められている。
2005 年までには中欧諸国の EU 加盟も想定
されるとしたら、もっと各国ごとの厳格さ
に大きな差が出ると、Schnurer さんが述べ
たように東欧に廃棄物を流出したほうがま
じめなリサイクルよりはるかにコストが安
いという場合が起こる、あるいは CIS の国
が欧州の廃棄物業者に既にアプローチして
いるという話しも聞いている。こういった
抜け穴のような話しが起こると、ここにい
るまじめにリサイクルを考えている企業は
そういう抜け穴を使用する企業に対抗でき
なくなる訳だが、それについてどう見てい
るのか。
D: 今ご発言内容に全面的に賛成である。今の説明
のおかげで WEEE と RoHS 指令に関し各 EU 加
盟国が何をやってよくて、何をやってはいけな
いのかはっきりしたと思う。
英国のアプローチは次のとおり。英国政府は一
般的な政策として EU 指令にあまり多くの磨
きをかけないという政策を掲げている。すなわ
ち、minimum standard は必ずや達成したいと
思っているが、WEEE と RoHS の内容を越えて
もっと厳しくするというつもりない。すでに非
常に demanding な厳しい要求がされている。
S: 非常に難しい状況を今ご指摘された。確かに
EU の既存の加盟国の間では他の加盟国よりも
遅いスピードで実施することが認められてい
る加盟国がある。こういったことが認められて
いる国々では往々にして回収、廃棄物処理そし
てリサイクリングの状況、発展が遅れている
回収については、英国では既に国民一人当たり
4kg 以上、おそらく 7kg 以上にまでなっている
と思う。
指令の中では消費者が商品を返しやすいよう
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独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
関する規制で起こっていることである。各企業
にコスト上の基準を満たしてもらう、もちろん
インフラも英国に欲しいが、ただコスト上リサ
イクル用に廃棄物を輸出した方がいいという
ことであれば、我々はそれでも構わない。以上
のご説明である程度ご心配が拭われればと思
う。ただ今述べたようなことには条件があって、
各国でコストが同じである、そしてただ乗りが
いないということが前提である(笑)
。
国々になるわけだが、この遅いスピードで実施
することができるということは、WEEE のみ
について認められるのであって、RoHS につい
ては認められていない。いずれにしても一部の
加盟国はもう少し時間をかけて、回収やリサイ
クリングの目標値を達成する猶予が与えられ
ることは確かにあるが、これは特には問題にな
らないと思う。ドイツからギリシャ、アイルラ
ンドに流出する廃棄物の量はさほど多くない
ものと思っているからである。新しい加盟国が
EU に加わると確かに状況はもう少し複雑にな
る。少なくとも 2004 年から 2005 年あたり
までの間に 5 ヶ国新しい加盟国を見込んでい
る。うち 4 ヶ国は加盟する時点で欧州の規制
に準拠することができるのではないかと考え
られている。唯一、1 国だけポーランドが問題
になっていて、ポーランドはドイツの隣国とい
うことで 2 国間の条約があるが、この 2 国間
の条約により、ポーランドはドイツから 2009
年までリサイクル用の廃棄物を輸入しない、具
体的には、金属、プラスチック、紙、段ボール
のリサイクル用廃棄物がこの条約で決まって
いる。2009 年以降は確かに難しい状況になる
かもしれないが、願わくばその頃までにはポー
ランドも埋め立て地や回収といったような全
ての分野で欧州の基準を満たしていることが
期待されている。また同じくポーランドについ
て全てのいわゆる green waste は OECD スキー
ム等で事前にそれらの green waste を輸出す
る場合には輸出国政府と輸入国政府との間で
きちんと通知されているということが義務付
けられているので、きちんと通知されたもの以
外は EU 加盟国からポーランドに輸出されない
ことになっている。不法輸入についてはもちろ
んカバーしていませんが。
Q: 回収・費用負担の範囲:理事会案では家庭か
らの回収費用を含め、生産者・輸入業者がす
べて費用負担することも可能としているが、
これにはかなり無理があるのではないか。イ
ギリスとドイツはそうしないとのことだが、
他の加盟国ではどういうニュアンスなのか、
あるいは EU でどうとっているか
D: その文言はかなり前からテキストに入ってい
た。すなわちセンター化された回収地点から最
低限のコストの負担を生産者に求めることが
できるという文言であるので、中央回収地点以
前についてもある程度のコスト負担を生産者
に求めるという可能性を秘めている。確かに指
摘のような内容のオプションは事実入ってい
るわけであるが、もしこの点について心配であ
れば他の加盟国に向けてロビー活動をなさる
ことを薦める。そしてほとんどの加盟国に合意
してもらうようにもっていくことを薦めるが、
現実問題として各加盟国が国内の生産者の立
場が加盟国の生産者の立場よりも不利な立場
になるような方向にわざわざもっていくとい
うことはおそらくないと思う。確かにオプショ
ンとしては存在するが、わざわざ国内の企業の
反対を受けてまでこのオプションを実施する
ことはあり得ないと思う。とはいえ、オプショ
ン行使の可能性がないわけではない。数多くの
D: 指摘の点はおそらく問題にならないと思う。重
加盟国がこのオプションを行使しようと思っ
要なのは各国がどのように指令を実施するの
た場合には、オプションが実際に行使される可
かその実施の方法ではないかと思う。英国では
能性があるわけである。そしてもし数多くの、
コストをできる限り下げるためにマーケット
例えば 13 ないしは 14 の加盟国でこのオプシ
ベースの市場に基軸をおいたアプローチをと
ョン行使の合意がとれていれば、英国政府も同
っていきたいと思っている。またある企業が別
じ方向に向けた話を大臣が進めていくことに
な企業と違う扱いを英国内、欧州内でされるこ
なるかと思うので、他の加盟国にロビー活動を
とはないので、これは問題になり得ないと思う。
と先程いったが、念のために英国にもロビー活
また英国ではもし経済的に理がかなっていれ
動をなさることを薦めます(笑)
。
ば、リサイクリング用に輸出するとことも問題
ないと思っている。実際これは我が国の包装に
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
れないが、共同システムとなった場合に経済的
に理にかなっていない場合という文言が出て
いるわけだが、経済的に理にかなっていないと
いうこと、例えばわざわざ裁判所などで立証し
たくないわけである。とりわけ玩具部門ですと、
小さな企業による小さな製品がたくさんあっ
て、状況が複雑なわけですから、経済的に理に
かなっていないことを立証しなければいけな
い状況には陥りたくないのである。
Q: 費用負担システム:費用の回収やリサイク
ル全体の仕組みの中で、特に費用を含めて
個別負担と共同負担の両方を認めようとし
ているが、共同負担の場合はいろいろと抜
け道がでてくる、あるいは一生懸命環境や
っているところが損するのではないかとい
るような意見もあるが、両国はどういう仕
組みをとられるか。
S: もし理想的なシステムがあればもう既に参考
にして実施されているかと思うが、すなわちは
理想的なシステムはないと、どのシステムも問
題をそれなりにかかえているということであ
る。包装に関するドイツの経験から独占的なシ
ステムを導入してはならないと思っている。す
なわちある特定の企業とか、ビジネスに全面的
な責任を負わせることにはしたくないので、競
争できる環境を作りたいと思っている。かとい
って、何百も何千もの生産者、輸入業者がそれ
ぞれ別個のシステムを運営することにもなら
ないかと思うので、可能性としては生産者、輸
入業者の代わりに第三者が責任を持っていく
つかのシステムが共存して競争しあうことに
なるのではないか、そしてリサイクリングを行
うことになるのではないかと思う。他の EU 諸
国を見ると例えばオランダでは独占的な制度
が導入されている。オランダは小国なので、こ
のような独占的制度でも理にかなっているの
かもしれないがドイツのような大きな国でこ
のような独占的な制度を導入したいとは思っ
ていない。
Q: リサイクル、再生率:リサイクル率について
具体的計算する式が作られるか。あるいは各
国では用意されるのか。
S: 確かに指摘あった点は欧州の規制の弱点とな
っている一つの点である。すなわち実際に回収
された材料のリサイクリングしか欧州の規制
は扱っていない、回収されない材料は欧州の規
制は対象にしていないというのが弱点である。
定義は、リユース、リサイクリング、マテリア
ルリサイクリングが対象となっている。すなわ
ち古い部品をまた別の用途で再利用するとい
う作業が定義の中に含まれていてリサイクリ
ングの場合には、エネルギーリカバリーはリサ
イクリングの中には含まれていない。マテリア
ルリサイクリングは、もちろんプラスチックに
関するマテリアルリサイクリングという点に
ついては、プラスチックの材料をそのまま別の
目的に再利用することで、エネルギーリカバリ
ーの作業はここでは伴わない。ドイツの包装に
関する政令では、マテリアルリサイクリング、
メカニカルリサイクリングだけとなってしま
D: 今ご指摘あったことに私全面的に賛成する。英
うと、混在プラスチック、ミックスプラスチッ
国の包装の状況を見ると、compliance 上のス
クのリサイクリングを行うことが非常に複雑
キームが 17 あって、それぞれが競争しあって
になってしまうという経験を有している。そこ
いる。それに加えて個々の企業が個々の
でフィードストックリサイクリングを発明し
compliance の規制を設けることもできている。
たわけである。これは、プラスチックの材料を
それから各生産者が個々に責任を負いつつ同
その化学物質に分解するわけで、炭化水素等の
時に共同システムを導入することも可能かと
ような物質になるのではないかと思うが、そこ
思う。また欧州議会は個々の生産者の責任に力
から新しい材料に使いなおすもので、無駄にす
点を置くべきであると熱心に主張している。こ
ることなくきちんとしたループの中で再利用
の欧州議会の主張に英国は反対していないが、
を、材料の再利用をしていくことができる。こ
その文言がどうなるのか懸念している。一部議
れはエネルギーリカバリーとは違う。
会で提案している文言の中には、例えば経済的
に理にかなっていない場合以外は個々の生産
D: 英国では、リサイクリング率はある程度指令案
者が責任を持つとなっている。ここで英国が気
で定義されている。すなわち処理施設へのイン
になっているのは、これは英国の法律が運営さ
プットそしてアウトプットまたはリサイクリ
れている方法に由来する状況であるのかもし
ング施設へのインプットとになっている。しか
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独英の環境担当官答える 「WEEE & RoHS 指令案の質問」
しながら、欧州連合内でこのように解釈されて
いるリサイクリング率の定義についていくつ
かの企業が訴訟を欧州の裁判所にておこして
いる。従ってこの裁判の結果次第ではリサイク
リング率の定義が若干変わるかもしれない。ま
とめとしてはリサイクリング率の定義は将来
変わるかもしれない非常に不明瞭な定義であ
るためにもっと明確なものにしたいと思って
いる。明確な定義がされてないと各国の間のリ
サイクリング率の比較をすることが非常に難
しくなってしまう。
Q: リサイクル率の定義は各国ごとに変わって、
各国ごとにクリアしていかないと法律違反
になるのか。
D: 15 ヶ国の加盟国に 15 の法制度が存在する。そ
して各国でどのように欧州の定義が解釈され
るかは裁判所が法律の体系、法律の知識に基づ
いてまた判決に基づいて決めていくことにな
る。しかしながら良い知らせとして伝えたいの
は英国とドイツあるいは他の加盟国には第三
者のスキームがある。英国では compliance
scheme という言葉を先程使ったが、これが第
三者スキームに相当するもので、もし準拠して
いるのかどうかというところの作業を各社が
個別に行うことが大変であればお金さえ払え
ばこのスキームに作業を任せることもできる。
リサイクリング率の定義の際には法律家では
なくエンジニアの方々に全面的に定義設定に
参加してもらいたいと思う。
Q: RoHS 指令:その有害物質についての考え方あ
るいはそのリスクアセスメントについて。特に
リスクアセスメントとその政策との整合性は
とれていくのか。それからもう一つは臭素系難
燃剤は本当に使っていけないんだろうか。特に
代替の燐酸系だとかえって問題おこしている
ので意見を聞きたい。
B: 確かにリスクアセスメントは現在進行中であ
る。電子機器にはペンタ BDE は使われていな
いので、心配の必要がないと思いうが、問題に
なりうるのはオクタとデカと TBBPA で、オク
タとデカのリスクアセスメントがまもなく結
果が出るかと思う。TBBPA についてはあと 1
年ほどは作業がかかると思われる。
JMC environment Update
BSEF は臭素系難燃剤のメーカーの集まりであ
って、このリスクアセスメントの作業に協力を
している。そして人間への毒性、また環境毒性
関連の情報等提供を行っていて、特にデカに関
しては慎重に検討した後、良い判断を下してい
ただくよう主張をしている。一つ問題になって
いるのは、様々な種類の難燃剤の間できちんと
定義付けというか、各種難燃剤の間の区別がき
ちんとされていないことが問題になっている。
例えばペンタの材料は確かに特定のバイオテ
クとか、特定の動物に検出されているが、デカ
は周りの環境ではほとんど検出されておらず、
人間などの組織細胞に入るということはない
とされている。これは意図的かどうか分からな
いが、特定の規制当局とか、環境活動家はこの
ように難燃剤の間でも大きな違いがあるにも
かかわらず、それに気づいていない、あるいは
気づいていないふりをしている方がいる。あり
とあらゆる難燃剤の中でも臭素系難燃剤に関
する研究が最も優れていて毒性に関する情報
が非常に豊富に揃っている。とりわけ BSEF
が臭素系難燃剤の研究の大きな部分を担って
いるので、BSEF の研究についての情報をもし
入用であれば、喜んで提供する。またウェブサ
イト BSEF.com にも豊富な情報が掲載されてい
る。そして臭素系難燃剤を本当に使ってはいけ
ないのかどうかという点については、もちろん
使っていただきたいと思う。防火性の重要性が
国際的に昨今高まってきている。代替物質につ
いての指摘があったがこれは非常にすばらし
い点かと思う。そういった意味でも各種難燃剤
の情報をなるべく公開していくということが
非常に重要かと思う。米国ではしばしばフライ
パンから火が燃えているところにはわざわざ
いってはいけないというようによく言うが、こ
れはどういう意味かというと、わざわざ知らな
いことをするよりも、知ってる事に取り組んだ
方がよいというふうによく言っている。
□
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ブリュッセル短信
欧州議員はロビーストを歓迎?
JBCE 環境委員会委員長
NEC Europe Ltd. Brussels Office
杉山 隆
欧州議員はロビーイストを歓迎?
11 月 20 日に、B・K・S・H という渉外のコンサルティングをやっている会社が、欧州議員に対して
行ったロビーイングに関するアンケート調査結果を発表するパーティに招待された。数年前、ヨル
ゲンセン在日 EU 代表特命全権大使がブリュッセルにきた際、日本産業界とのランチが催され、産
業界側から何故か小職とトヨタの社長だけが呼ばれたことがあった。大使の真ん前に席が用意され
たので、大いに JBCE の宣伝をした。そのランチを主催したのが B・K・S・H であった。
さてこのパーティは、
ブリュッセルにある欧州議会の敷地内にあるソルベイ図書館跡で行われた。
ソルベイというのは苛性ソーダの製法を開発して、ベルギーの工業が大いに発展する原動力になっ
た会社である。巨額の富を手にしたソルベイ氏の個人図書館は、今世紀初頭に建築されたアールデ
コ調の華麗な建物であるが、一歩足を踏み入れると奥のほうでは弦楽 4 重奏団がバロック音楽を奏
でている。この手のパーティにありがちなこけおどしである。人込みをかき分けかき分け顔見知り
のロビーイストを探すが、不思議なことに EICTA のメンバーも、アメリカ系業界のメンバーもいな
い。環境問題だけではなく、著作権や情報社会などで活躍しているロビーイストにも出っくわさな
い。JBCE のメンバー数人に会っただけである。どうもわれわれの業界とは異なる連中が招待されて
きているようであった。何しろ、ブリュッセルにはロビーイストなる人種が 1 万人以上いるそうで
あるから、ジャンルの違う会合では、会ったこともない所謂ロビーイストばかりであってもおかし
くはない。そうこうするうちバロック音楽も終わり、アンケート結果の紹介が始まった。
「われわれの調査によると、欧州議員の 62%は業界のロビーイングが有効に働いていると評価し
ている。しかし、実に 37%の議員が有効には働いていないと答えている。今ブリュッセルのロビー
イストは 1 万人いるといわれているが、単純な計算では、実に 3,700 人のロビーイストはほとんど
有効なロビー活動をしていないということになる。それほど単純ではないとしても、議員一人あた
りに同じ費用がかかっているとすると、3 分の 1 以上の費用が無駄に費やされたことになる。有効
なロビー活動とはどのように評価されているのか、われわれのアンケート調査結果を参考に、ロビ
ー活動を見直すことをお勧めする。
」
なかなかうまい導入である。この調査は、欧州議員 75 名を対象に 10 分間の電話インタビューを
行い、それを集計した物であるらしい。
「ロビーイングの成功しない理由として欧州議員があげているものは、①偏った、科学的でない
不適当な情報(3 分の 1 の議員)
、②欧州議会の重要性を理解していない(16%)
、③適切な議員に
アプローチしていない(17%)
、④一般的な、価値のない情報(19%)
、⑤タイミングよく情報を持
ってこない(16%)などがあげられているが、56%もの欧州議員が指摘するのは個人的に接触して
こないことを問題視している。欧州議員にとっては、ロビーイストと接触することはわずらわしい
ことではなく、むしろ自分の判断材料となる科学的な根拠や業界の意見を直接訴えることを歓迎し
ている。しかしながら、あまりにも強硬な主張や感情的な意見の陳情はむしろ逆効果を与える
(13%)
。
」
JMC environment Update
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欧州議員はロビーイストを歓迎?
「そこで B・K・S・H としては次のようなリコメンデーションをしたい。
① まず、欧州議会及び議員が業界に与える影響の重要性を理解して、誰に接触するべきか、彼ら
が何を聞きたいと思っているかを理解する。
② 欧州議員とのチャネルを開拓・維持し、彼らと接触することで、どのような情報を供給したら
言いかを把握し、それに回答する。
③ 法律の成立プロセスを理解し、簡潔で意味のある情報を議員にタイミングよく供給すること。
」
まあ非常に一般的な結論で、ロビーイングをやっている身からするとごく常識的な話であるが、
欧州議員とのインタビューというバックデータがあるゆえに説得力をもつ。これからロビーイング
をやろうという輩には参考になるデータかもしれない。それにしても、このところのロビー関係の
セミナー、コンフェランス、パーティなどの開催件数の増加は目を見張るものがある。欧州議会の
権限が強化されて2年。欧州議員も法律の修正、改定などにおける自分達の力を自覚し始め、ロビ
ーイングは花盛りである。そのような中、これまで漫然とロビーイングをしてきた業界団体などで
力を失ってきているところもかなりあり、これからは効果的なロビー活動ができる団体に淘汰され
ていきそうである。
JBCE は現在のところ非常にうまくロビー活動を展開しているという評価が高い。これも、藤井事
務局長と議員とのコンタクトなどをアレンジしている White & Case のポレ弁護士の能力の賜物で
あろう。実際、どの欧州議員にアプローチして、どのような情報を出すべきか、しかも要点を絞り、
簡潔な情報をそろえるといった戦略・戦術の部分はこの両名のアイディアによるところが多い。
我々
業界の人間は情報を収集して、ポジションペーパーなどのバックグラウンドデータなどを揃える。
そして議員とのミーティングでは、業界の一員という立場で議員に訴える。うまく歯車がかみ合っ
て効果的なロビー活動が展開されている状況である。実際、各社から年間 3、000 ユーロ(36 万円)
という非常に低額の会費でこれだけの成果をあげている団体は他にはないであろう。もちろん日本
機械輸出組合が事務方を担ってくれているからできる技ではあるが。
ただ、この B・K・S・H のデータで、欧州議員が最も頼りにしている情報収集源として、①自分のス
タッフ(39%)
、②専門家の意見(21%)
、③新聞(15%)そして 4 番目にやっと業界からの情報(12%)
をあげており、今後のロビー活動には、議員のアシスタントとの接触を密にすること、新聞発表な
どを重視することが必要となってくる。来年のロビー活動の課題のひとつである。
肥大化のつけ? −EICTA で EEE のポジションまとまらず−
12 月に 10 日ほど日本出張をしたため、EICTA(欧州情報通信家電機器工業会)における EEE の
ポジションペーパーをめぐる激論に参加できなかったが、今後の業界の方向を見るうえでも重要な
議論がなされているので紹介したい。
EEE 指令というのは電気・電子機器の環境設計の標準化を図ろうという物である(正式名称は、
Impact on the Environment of Electrical and Electronic Equipment)
。基本的な枠組みとしては、
Essential Requirements という基本的な要求項目を設定し、それを欧州の標準化団体(Celenec)な
どに渡して標準化を図り、その標準に従って設計された機器は EEE ラベルなる物を貼って、EU 域
内のどこでも販売できるという物。すでに WEEE、RoHS というリサイクル法案があり、エネルギー
節減指令案も準備されている状況で本当に必要なのか、
欧州の標準化団体による非関税障壁の問題、
業界にとってのメリットが全く見えないなど、
多くの業界が否定的な見方をしている指令案である。
それにもかかわらず、産業総局(旧第 3 総局)はビジネス界に与える影響度の調査(BIA、Business
Impact Assessment)をすすめており、最近業界関係者との精力的な情報交換会を開催している。
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欧州議員はロビーイストを歓迎?
JBCE としてはまだ正式なポジションを固めていないが、産業総局から JBCE と打ち合わせをしたい
と申し込みがあり、12 月 10 日、藤井事務局長が本件を担当しているフェルナンド・ルイスと執筆を
担当することになるパパドヤナキスに会った。彼の報告によると、
① スケジュール: BIA は始まっている。1 月末までには BIA を担当する会社と産業界のミーテ
ィングを設定する。参加は自由で、幅広い産業界に参加を呼びかける。BIA は、1)指令(法律)
、
2)業界の自主規制、3)何も手を打たない、の 3 つのシナリオの長所、短所について検討する
が、担当する会社から現在の進行状況を説明する。2 月中旬には産業総局と産業界(NGO も入
れる)との技術面での評価のためのワークショップを開催する。
② 法律文書というのは専門家でないと修正などのコメントが出しにくいので、これらのミーティ
ングで法律文書では明確化できないポイントなどを説明する。
③ エネルギー節減指令案については環境総局が何をしようとしているか分からない。今言えるこ
とは、EEE とエネルギー節減指令案は補完的なものであるべきで、そうなるだろうということ。
EEE がすでに存在していたら、エネルギー節減指令などは必要なかっただろう。
④ もし産業総局が主導する EEE がうまくいかなければ、環境総局が 175 条に基づいた環境設計の
指令を持ち出すだろう(EU 加盟国での自由裁量権が大きい)
。最近の IPP の動きを見れば分か
る。
⑤ 産業総局は LCA(Life Cycle Assessment)を実施させることが非常に難しいのは理解している。
LCT(Life Cycle Thinking)と LCA とは異なる物である。EEE が提案している LCT に関しては、
すでに多くの大企業が実施している。日本企業は EEE による追加の作業を心配する必要はない。
EEE は小企業には適用されないかもしれない。
⑥ 技術標準: LCT の標準が個々の製品に細分化されて作られるとは思わない(産業総局が標準
を作るわけでなく、標準化団体が作るので予測として言っている)
。しかし、製品全体に適用で
きる一般的な標準というのも考えにくく、共通の性格を持つ製品群毎に作られるだろう。どの
ような製品群にするかは産業界次第である。
⑦ 政治的な判断は企業に任せるべきではない。また指令自体もすべてを決定できるわけではない。
社会における環境対策の優先順位は時と場合で変化する。たとえば現在 CO2 の削減が最大の課
題の一つになっているが、将来はそうではないかもしれない。指令がこのような社会的な要求
に自分を柔軟に適合していくのを期待するのは無理がある。産業総局は各方面の関係者による
委員会にこのような仕事を任せ、標準化団体と産業界にガイダンスを与えるのが仕事である。
例えば、
冷蔵庫のエネルギー消費の 90%は使用中に使われる。
よって標準化団体と産業界には、
委員会から使用時のエネルギー消費量を削減することを重点に置くようアドバイスがされるで
あろう。
(藤井事務局長が、
「ある機器で、鉛の使用によって CO2 の消費量が抑えられる場合、CO2 の削
減と鉛の使用制限とどちらに優先順位を置くべきかといった問題もこの委員会で決定するの
か」と質問したところ)
委員会でもこのような重要な判断は出来ないであろう。そのような難しい判断は社会的なコン
センサスが必要である。
⑧ 最後に、藤井事務局長より、関連する日本の法律は、LCT の概念を入れておらず、標準化の過
程も入っていないので、EEE とは異なることを強調した。
さて、EICTA である。EICTA は欧州情報事務機器工業会(Eurobit)と欧州通信機器工業会(ECTEL)
が合体して出来たが、更に昨年 10 月に欧州家電工業会(EACEM)が合併され、文字どおり欧州に
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欧州議員はロビーイストを歓迎?
おける情報、通信、家電業界が団結した最大の組織になった。ここでポジションペーパーが出れば、
欧州の電機業界の大部分を代表した意見となって、ロビー活動は非常に強化されることになる。更
に情報業界からは米国の、家電業界からは日本の企業が参加して、日米欧の意見が反映されること
になる。非常にハッピーな話のように思えるが、どっこいそうは行きそうもない。内部の意見の対
立で、ポジションを固められない傾向が如実に出てきたのである。
12 月 19 日、EICTA は EEE に関して前述の産業総局のフェルナンド・ルイス、パパドヤナキスと
会合を持つことになった。以前にも報告したが、EICTA はすでに EEE に対するポジションペーパー
を発行している。小職も偶然にタスクフォースに参加したので経緯はよく知っているが、IBM やフ
ィリップスの標準化部隊が中心となって作った物で、WEEE などをやっていた各社の環境の部隊は
殆ど参加していなかった。更に、タスクフォースのメンバーとして当初に登録したメンバー以外の
新規参入を認めなかったため、批判が殆ど抑えられて非常に閉鎖的な雰囲気の中で作られた。ポジ
ションとしては EEE をポジティブに捉え、業界としての要望を伝えるという形の物になった。その
後、EEE のドラフトがまじめに検討されるにつれて業界の中に批判が高まり、特に AeA(米国電気
工業会)に雇われた弁護士が作った非常にネガティブなポジションペーパーが米国を中心とした企
業の代表的な意見となり、家電工業会(EACEM)のポジションペーパーもこれをベースとした物だ
ったため、
EEE 指令自体を疑問視する立場の物となった。
10 月に EACEM が EICTA に吸収される際、
EEE に対するこれまでの EICTA のポジションペーパーが問題となり(非民主的な決定の仕方も問題
視され)
、新生 EICTA のポジションの見直し作業が始まった。
この議論はちょうど小職がストラスブール出張中に行われたため参加できなかったが、そこでは
激論が戦わされ、喧嘩状態にまで発展したようである。結局は AeA が出したような明確なポジショ
ンを固められず、
かといって 12 月 19 日の産業総局とのミーティングで何も提出できなければ、
「無
言の承認」として EEE を認めたことになってしまうという焦りがあって、12 月に入り小職の日本
出張中に最後の詰めが行われたようである。
EICTA が纏め上げたペーパーは、
「EICTA Policy Statement on EEE」と銘打った物で、EEE ドラフ
トの文面を支持しないこと。WEEE & RoHS やエネルギー削減指令などとの整合性が取れていない
こと。EEE 指令がもたらすメリットが見えないことを指摘した物になっている。この簡単なペーパ
ーですら、その文面を巡って激しいやり取りがあった。
EICTA does not support the current text of the draft EEE Directive (Impact on the Environment of
Electrical and Electronic Equipment. In addition, some members have therefore emphasizes the
urgent need for the Commission to adopt a coherent approach to future EU environment policy.
ペーパーの第二段落はこのような文面になっている。先ず一行目の the current text of the draft
EEE Directive の the current text of という部分を付けるか外すかで大激論。この部分を外すと、
「EEE 指令自体を支持しない」となって、ネガティブな米国系の AeA の立場とほぼ一致する。反対
にこの部分が入ることにより、
「現在出されているドラフトの中身を支持しない」となって、中身を
変更すれば支持するというポジティブな立場に変わる。JBCE は一昨年の公聴会では「JBCE does not
support the current text of the draft EEE Directive」とやったから、EICTA の文面とは整合が取れて
いる。この部分を取るか取らないかで、主に米系、日系の企業と、欧州系の企業が電子メールをや
り取りし、中には EEE タスクフォースに参加したメンバーの表決を独自で作って、
「この部分を外
す意見が大多数である」とやったメンバーが居たため、EICTA 環境委員会の委員長が「権限もない
人間が採決まがいの事をするのは越権行為であり、二度とこのようなことをしないように」と怒り
のメールをまわす始末。
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欧州議員はロビーイストを歓迎?
更に、この文章の 2 行目の「some members」という表現がおかしいという指摘が出た。EEE の
タスクフォースに出たメンバーの大部分は米系と日系の企業であり、彼らの中ではこの意見が大部
分を占めていたので、「the majority of members」とすべきだというのである。そうでなければ、
「EICTA の大部分のメンバーは必要性を将来の EU の環境政策の首尾一貫したアプローチの必要性
を認めていないと読めてしまう」というわけである。
数十通の e-mail が飛び交い、けなしあいに近いやり取りが行われた後にこの文章で妥協したよう
で、一応 12 月 19 日の会議には提出したようである。しかし、その後になっても、この文章は公に
するべきでないとか、もっときちっとしたポジションを作るべきだとか不満が渦巻いており、1 月
から始まる産業総局との一連のミーティングの前に、再度打ち合わせが行われることになった。図
体が大きくなった分、
ポジションを固められないという事態が続けば、
個々の企業が連合を組んで、
バラバラな状態でロビー活動に走り回るというようなことになりかねない。
以上
JBCE:
AeA:
EICTA:
WEEE:
RoHS:
在欧日系ビジネス協議会
米国電気工業会
欧州情報通信家電機器工業会
廃電気・電子機器リサイクル法案
有害物質使用規制法案
JMC environment Update
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環境政策の視点からも注目される
「欧州の標準化に関する活動報告書」
環境安全グループ
昨年 9 月に欧州委員会は、
「欧州の標準化に関する 1999 年以降の活動」についての報告書を発表
しました。
報告書は、ニューアプローチ指令の施行・運用にみられるように欧州単一市場指令の要求に適合す
る整合規格の果たす役割を評価するなど EU における標準化を巡る当局の考え方や取組みの現状、
さらには ICT 機器などの技術革新のスピードが早い製品への対応など今後の課題などを整理してい
ます。
特に、環境政策と標準化については、IPP グリーンペーパーの中で目標達成に標準化が有効なツー
ルとして貢献すること、また、整合規格が EEE の環境配慮設計に取り入れられることが持続的な開
発と高度な環境保護を達成すると言及し、
同報告書は環境政策の視点からも注目されます。
以下は、
同報告書の仮訳です。
なお、欧州委員会が先に公表した「ニューアプローチに基づく指令の実施ガイド」について、欧
州委員会の翻訳ライセンスを得てその「対訳版」を当環境安全グループで刊行したので、別掲の「新
刊図書のご案内」をご覧ください。
2001 年 9 月 26 日
COM (2001) 527 final
仮訳
1999 年に理事会及び欧州議会によって採択された
欧州の標準化に関する
決議に従って取られたアクションに関する
理事会と欧州議会に対する
欧州委員会からの報告
I.
序文
1.
1999 年に、理事会1と欧州議会2の双方が、標準化に関する決議を採択した。これらの決議は
「ニュー・アプローチのもとでの欧州の標準化における効率(Efficiency)と説明責任
(Accountability)
」3に関する委員会通達に関係したものであった。双方の決議とも、ニュー・
アプローチのもとでの欧州の標準化の成果を認めた。また、主なチャレンジ項目を明らかに
し、将来の作業に対して明瞭なアジェンダを設定した。理事会の決議は欧州の標準化のステー
クホルダーに対する行動計画となった。
2.
欧州委員会からの本報告は、理事会と議会の要請に従い、1999 年以降の最も重要な展開を述
べることを目指している。報告では共同体と EFTA における標準化をめぐる広範囲の関連性を
1
2
3
欧州における標準化の役割に関する 1999 年 10 月 28 日づけ決議、OJ C 141, 19. 5. 2000
欧州委員会からの報告に関する 1999 年 2 月 12 日づけ決議、OJ C 150, 28. 5. 1999
COM (1998) 291 final of 13. 5. 1998
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
述べた後で、
決議に述べられたもっと具体的な根幹をなす領域における展開を分析している。
決議の中で確認されたいくつかの行動はまだ継続中なので、これは中間報告とみなすべきも
のである。本報告は基本的に欧州の標準化の案件に対して水平的な見解をとっている。
II.
広範囲の関連性:1999 年以来の出来事と欧州の標準化に関する方向
3.
欧州の標準化は、共通規格と必要に応じた技術仕様を作成することに関心のある利害関係者
による、利害関係者のための自主的な活動である。これら共通仕様は、法的に認可された欧
州標準機関、CEN、CENELEC および ETSI において確立した原則にもとづいて合意されたもの
である。欧州規格は、単一市場と欧州経済領域(European Economic Area)が機能するため
の重要な要因となっている。またこれら規格は、企業間の競争、技術革新、健康と安全保護、
消費者の利益、環境保護等も含め共同体の多くの目的を支えることに重要な役割を果たして
いる。共通規格の必要性は、増大する取引のグローバル化や技術の収斂によって一層高まっ
ている。
4.
1999 年以来の欧州の標準化にとって重要であったいくつかの政治的な出来事:
4.1.
現在の欧州における統治に付いて考察4すると、規則を代替する形式および民主的な法制度
/専門性を重視している。今日、共同体のニュー・アプローチは単一市場法令の多くの領域
に適用され、共通の欧州規格を法令のサポートに使用し、うまく運用され、共同規制のモデ
ルとなっている。共同体法令と政策に関連して規格を使用することは、標準化プロセスと標
準化に責任のある機関、特にすべての利害関係者の全面的なかかわり合いについての一定の
原則を要求している。
4.2.
リスボンの欧州理事会5では、
世界レベルで欧州の競争力を引き上げることを意図し、
e-Europe
という表現を作り出した。これに続いて、フェイラでは、欧州理事会は欧州の情報化社会に
道を開く e- Europe・行動計画に対する欧州委員会の提案を支持した。規格と共通技術仕様
は、e- Europe を起動するための必要条件である。
4.3.
イエーテボリの欧州理事会で、持続可能な開発のための戦略が採択された6。この戦略は、
2003 年以降は EU の政策領域におけるすべての決定はその経済的、社会的、環境的な効果に
関し評価されなければならないことを求めている。市場の「グリーン化」は第 6 次環境行動
計画「我々の未来-我々の選択」2001-20107の重要な課題として見られている。またこの
計画は環境保護要件を標準化も含めた共同体政策に統合する必要を知らせている。環境側面
は技術革新と事業機会の原動力と考えられ、製品のライフサイクルの全局面を通じて配慮さ
れなければならない。欧州委員会の包括的製品政策(integrated product policy = IPP)8に関
するグリーン・ペーパーは、環境に優しい製品の設計、製造、使用、再使用、リサイクルの
中で規格が果たし得る重要な役割を認めている。
4.4.
グローバルな貿易取引は増え続けている。国際規格の使用は、市場アクセスを高め、貿易取
引を容易にする。国際標準化は、関係者に対しグローバルに適用できる解決を提供する。グ
4
5
6
7
8
欧州の統治:白書 COM (2001) 428 final of 25. 7. 2001 参照
2000 年 3 月 23 日と 24 日のリスボン欧州理事会:議長決定、SN 100/00
http://ue.eu.int/en/Info/eurocouncil/index.htm
COM (2001) 31 final of 21. 1. 2001
COM (2001) 68 final of 7. 2. 2001
JMC environment Update
19
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
ローバルに認証される国際規格の欠落が貿易摩擦の源になり得る。
4.5.
共同体は、高度な首尾一貫したレベルの消費者の健康と安全の保護の確保に非常な重要性を
伴っている。欧州委員会は、一般製品安全に関して共同体法の基で欧州規格を拡大して使用
して、域内市場の正しい機能性が発揮され、消費者の健康と安全の保護の確保に寄与できる
ようにすることを提案した。
4.6.
健全な財政管理への約束に照らして、欧州委員会は財政支援とその政策の実施の間の強いリ
ンク(例えば、活動ベースの予算編成によって)を強調している。欧州の標準化は多くは民
間ベースでファイナンスされているが、欧州委員会は欧州標準化機関に対する財政的に関与
する政策を検討している。多くの場合、共同体の支援には EFTA の分担も含まれる。
III.
重要な政策課題
III. 1. 標準化の原則
5.
共同体法は、CEN、CENELEC、ETSI を欧州の標準化機関として認定している9。また、標準
の意味を定義している多くの共同体の法的行動も存在する10。これらの定義は、同一ではない
けれど、一般的な言葉での関連ガイドで確立された定義と整合および、標準化ならびに国際
標準化機関によって発表された関係諸活動に関する定義11と整合している。
6.
理事会は、1999 年の決議で欧州の標準化の原則を繰り返して、それは独立し、かつ認可さ
れた標準化機関内において誰でも参加できて透明性に基づいた自主的でコンセンサスに基づ
く活動であることを確認している。さらに規格は、すべての関係者の標準化プロセスへの十
分なかかわりの結果としての高度の受容可能性をもつべきこと、および標準は相互に密接に
関連しているべきことを理事会は確認した。また、理事会は規格は健全な科学的研究に基づ
くべきであり12、技術革新と競争に対応できるべきであることを強調した。これらの原則は長
い間欧州標準化機関と加盟国の関連機関によって施行されてきた13。
7.
7.1.
決議以降、諸原則の意味がさらに具体化
国際的レベルにおいて、貿易上に対する技術障壁(technical barrier to trade = TBT)に関す
る WTO 協定では、遵守が任意である規格と強制的である技術的規格との間にはっきりした
区別をつけている。WTO 加盟国は、規格を法的目標の達成および国内レベルで望ましいレ
ベルの保護の達成に適切であるとみなすという前提で技術規制の基礎として国際規格を使用
しなければならない。国際規格の使用によって、あるレベルの土俵を支え、国際貿易ルール
に適合するとみなすことを創り出す。この協定は国際規格を技術的規制の基礎として使用す
ることに力点を置いているが、どのような国際規格が、またどのような組織が規制を作るか
は明示していない。このような状況によって、WTO は TBT 協定の核心をなす条項との関係
で国際規格の作成のための原則を採択することを急ぐことになった。WTO は、透明性、開
9
10
11
12
13
指令 98/34/EC の付属書Ⅰ
例えば、指令 98/34/EC の 1 条;理事会決議 87/95 の 1(3)条;指令 93/36/EEC の付属書Ⅲ
ISO/IEC ガイド 2:1996
研究、技術開発と表示のための欧州共同体枠組計画は、事前/共同の基準となる研究をその優先的目標として採択した。標準
化をサポートする研究プロジェクトに対する要求のいくつかが5次枠組計画で発表され、約 3 千万ユーロの共同体資金を受け
た。さらに、その結果を利用するための手段として、共同研究センターが欧州標準機関の技術委員会と作業グループにインプッ
トを行い、特にその調和に関して分析方法の有効性とベンチマーキングを提供している
CEN/CENELEC/ETSI の共同ステートメント、
「欧州標準作業の基本原則と組織」
、ルクセンブルグ、1991 年 12 月 3-4 日を参照
JMC environment Update
20
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
放性、公正性、意見の一致、有効性、関連性、首尾一貫性を国際標準化に適用されるべき原
則と考えている。
(III. 6.も参照のこと)
7.2.
同じ市場レベルで営業している企業間の水平的な協力によって引き起こされる競争の制限の
可能性に関しては、欧州委員会は EC 条約の第 81 条の適用に関する通報を発表した14。こ
の通報の中で、標準化は、民間企業で結ばれたか、もしくは、公共機関、または指令 98/34/EC
で認可された標準化機関のような一般的な経済的関心のサービスの運営を任された機関の庇
護のもとに決定された、水平的協力協定の一種類であるべきだと考えられている。
7.3.
個々のケースの分析次第で、実際の、ないしは潜在的な競争相手を排除することを目指した
広範な協定との脈絡で規格が使用されたら、ほとんど常に競争を制限することになる。規格
は、関係者に生産や技術および/または革新技術に対する共同のコントロールを付与したら
競争を制限することになる。
競争の制限は、
合意された規格を遵守していない代わりの規格、
または製品を関係者がどの程度自由に展開することができるかにかかっている。また、規格
が特定の機関に遵守テストの独占権を与えるなら、
または規制条項で課せられていないのに、
適合のマーキングに制限を課せば、競争は制限されることになる。欧州委員会は、原則とし
て、非差別的で、開かれた、透明な手順にもとづいて、規格が認可された標準化機関で採択
されたなら、標準化協定は競争を制限していないものと考える。
8.
規格の受入れ可能性はすべての関係者の完全なかかわりにかなりの程度依存している。標準
化プロセスにおける社会的な利害関係者の参加15は、強力な説明責任の局面をもっている。そ
れはコンセンサスの品質を高め、規格をより代表性のあるものにする。従って、理事会は規
格の作成に積極的に参加し、標準化プロセスの管理に貢献するようすべての関係者に対し求
めた。
9.
標準化は多くのセクターに対して市場誘導型の、自己資金型(self-funded)の活動である一
方で、開かれた、公平な、そして透明性のある方法で運用される標準化インフラの維持に社
会的な利益が存在している。これは特に規格が法令をサポートしている領域において重要で
ある。規格の作成は、そのプロセスの中に意味あるインプットを収めるために提供されなけ
ればならない人的、そして財政的資源の見地から時間がかかりお金がかかるものである。中
小企業および社会的な利害関係者の参加は、資源と技術的専門知識の不足によって阻害され
てしまう。代表者の専門性のレベルの著しい相違も意見の一致を見出そうとするプロセスを
阻害し、そのため規格作成に遅れが生じてしまう。
10.
当局からの財政的サポートはこの点を配慮する必要がある。分散化した欧州の標準化システ
ムにおいては、利害関係者の参加がバランスを保たれ、特に、多くの欧州および国際規格案
は最終的な採択の前に国の照会を経るものであるから、国のレベルでバランスがとれている
ことが重要である。利害関係者のバランスのとれた参加は、欧州レベルの標準化プロセスで
も同等に重要である。欧州委員会は、欧州レベルの標準化への参加に関する様々な利害関係
者の状況を分析したが、それによって以下のことがいえる:
14
15
OJ C 3 of 6. 1. 2001, p. 2-30
社会的な利害関係人は、標準化における消費者、健康、安全、及び環境上の利益を代表している
JMC environment Update
21
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
10.1.
The European Association for the C0-ordination of Consumer Representative in
Standarsisation = ANEC は 1995 年に設立され、欧州委員会によって財政的にサポートされ
続けてきた。欧州を通じた技術専門家のネットワークをコーディネートすることによって、
ANEC は標準化作業に参加している。ANEC は標準化における関係者のバランスのとれた代
表を求めている16。彼らは EU と EFTA における消費者の標準化への参加に対する国の準備状
況を調べ17、状況は 1995 年に比べて改善したと結論づけた。しかしながら、北欧における
国家標準化への良くできた代表と、南欧諸国での不満足な消費者代表との間にはギャップが
ある。
10.2.
European Trade Union Technical Bureau for Health and Safety=TUTB は欧州の標準化の健康
および安全局面における従業員の利益を代表し、技術専門家のネットワークをコーディネー
トしている。欧州委員会からの財政的サポートを受け続けている。欧州委員会と TUTB は一
緒になって CEN と CENELEC の作業を、特に機械類の安全、人体保護機器、ならびに人間工
学的設計との関係で監視している。
10.3.
European Office of Craft、Trade and Small and Medium-Sized Enterprises for Standardization
Technical Office = NORMAPME は欧州の標準化におけるこれらビジネスの利益を代表して
いる。1995 年以来欧州委員会は NORMAPME に補助金を与えている。欧州委員会は、欧州
の標準化における中小企業の立場を推進する一環として、最近中小企業に安定したサービス
を提供する目標をもって入札を行った18。
10.4.
欧州委員会は環境目的を達成するためにも欧州標準化機関とその関係者との共同作業をさら
に展開する意向である。また委員会は欧州標準化機関における環境上の利益を代表すること
にかかわるサービスをサポートすることを計画している19。環境的な大きさを完全に統合す
るためには、このサービスからの代表の単なる参加だけでは不充分である。それは標準化プ
ロセスへのすべての参加者のやる気にも依存している。欧州委員会は 2002 年に標準化と環
境保護に関するペーパー作成を意図している。
III. 2. 標準化と市場ニーズ
11.
1999 年の理事会決議は、欧州の標準化機関に対しその製品とサービスのレンジを多様化し、
製品の段階的システムを開発することによって、新しい市場ニーズに適応するよう求めた。
また、決議は欧州委員会が標準化の新しいデリバラブル(deliverable)の使用に対する諸原則
の共同体枠組をいかに作成すべきか、また ICT の領域とそれ以外の分野の標準化の違いが対
応できるのかどうかについて調査するよう要求した20。
12.
標準化の受入れは、規格についての市場における関連性に関係しており、関係者の参加だけ
の問題ではない。市場の関連性は、規格の品質と進歩の技術的状況、その適用性、中立性、
ならびにその作成時間に大きく依存している。この関連で、整合規格の一覧表はニュー・ア
16
17
18
19
20
欧州における標準化の役割に関する 1999 年の理事会決議についての 2001 年 3 月のポジション・ペーパー
(ANEC 2001/GA/007)
標準化への消費者の参加に関する 2001 年 5 月のレポート
公開入札募集 2001/S 117-079423, OJ S 117 of 21. 6. 2001 参照。
公開入札募集 2001/S 71-048238, OJ S 71 of 11. 4. 2001 参照。
1999 年 10 月 28 日の理事会決議、ポイント 13-15、OJ C 141 of 19. 5. 2000。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
プローチやその他の欧州指令に基づく委任に応じて増加した一方21、欧州規格の大部分は純粋
な市場ニーズに対応して作成されていることについて留意すべきである。しかしながら、市
場のニーズが絶えず展開するにつれて、新しく標準化された製品とサービスがユーザーに付
加価値をもたらし、標準化機関が提供する現存の製品とサービスのレンジを補完している。
13.
いくつかの分野、特に情報通信技術(information and communications technology = ICT)分
野における技術とプロセスの急速な発展は、同様に共通仕様についても急速に創造する必要
性をもたらした。競争を容易にし公の利益を満足させるべき、標準化の役割と、ICT 分野に
おける新しいグローバルな産業フォーラムの役割に関する意見については追求されなければ
ならない。しかし、同様に他のセクターにおいて、例えば、環境分野において、欧州標準に
到達するのに要する時間は、環境問題が長びいて、この時間内において悪化することを考え
ると懸念の種である。標準化機関における時には長すぎるプロセスを見て、市場に求められ
ている仕様を作成するために民間のコンソーシアムやフォーラムが急速に広がった。しかし
ながら、もっと安定したビジネスと技術的解決に対する新たな関心が ICT 分野に見られ、コ
ンソーシアムと標準化機関の間の親善関係が期待されている。
14.
標準化機関外で共通仕様を作成する傾向は、ICT から他の分野へと広がり、かつ、早急なコ
ンセンサスの形成と共通仕様の速やかに作成する必要性は、標準化におけるより一般的な問
題となってきている。
従って、
ICT 分野における標準化に関係した共同体法の具体的な規定22、
特に公共調達は、若干関連性を減じてきている。また、特定の分野や活動分野で用いられる
ガイドラインや実施規範(code of conduct)のような非技術的なコンセンサス文書が作られ
る傾向が見られる。標準化以外の他のバックアップ活動には、規格使用者のためのカウンセ
リングやサポート・サービス、ならびに市場ウォッチ機能のようなものがある。
15.
より速い時間スケール(「市場への時間(time to market)」の要素)に基づくデリバラブル
(deliverables)を提供する必要のため、欧州標準化機関からのデリバラブルの新しいポート
フォリオができた。CEN はワークショップ協定(Workshop Agreements = CWA)を作り
始めた。欧州レベルのワークショップの提案はいかなる利害関係者からも出席できる。参加
はすべての利害関係者に開かれている(加盟国だけではない)
。協定は原則としてビジネス計
画に基づいていて、コメントを求めて Web 上に掲載される。CWA はワークショップ参加者
のコンセンサスを表わしている。ETSI 規格は規範文書である。それは ETSI のメンバーの投
票によって採択されている。ETSI 規格は適切な手順に従って EN(欧州規格)になることが
できる。
16.
CEN、CENELEX、および ETSI は、それぞれ彼らの欧州規格(ENs)のコレクションに加えら
れるべき 3 つの新しい共通のデリバラブルに関して合意に達し、その製品レンジに含めた。
1. 技術仕様は公式制度外で作成された仕様のための入口として機能する。
2. ガイドはユーザー
ならびに規格作成者に対する情報文書である。3. 技術レポートは規格の使用に関する情報を
与えると共に、技術的解決を論ずる情報文書である。
21
22
単一市場スコアボード:2000 年 5 月 22 日の No6、2000 年 11 月 24 日の No7、2001 年 5 月 28 日の No8 参照。
情報技術と遠隔通信の分野における標準化に関する理事会決議 87/95/EEC 参照
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環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
17.
欧州標準化機関は新しいデリバラブル作成に大きな柔軟性を示し、また政治的イニシアティ
ブに対応するつもりである。
(新しい)市場ニーズに対応した新しいデリバラブルを推進する
さらなる努力は、新しい参加者をひきつけるはずである。この点で、新しい参加者が始めた
作業をオープンな受容力のあるやり方で統合する標準機関の気持ちは極めて重要である。欧
州標準化機関の製品レンジ拡大に関するとりあえずの結果は CWAs の成功物語で明らかにさ
れた。1998 年以来、30 を超えるワークショップが様々な ICT およびその他の分野で作られ
た。ワークショップは 1300 人以上の参加者をひきつけ、36 の CWAs をもたらした。
18.
2000 年 6 月、
ポルトガルのフェイラの欧州理事会は、
欧州委員会の 1999 年 12 月の e-Europe・
イニシアティブを基に形成された包括的 e- Europe2002 行動計画を支持した23。このイニシア
ティブは欧州を通じてデジタル技術の理解の加速を目指し、すべての欧州人がデジタル技術
を使うのに必要なスキルを持つようにすることを目指している。それは、リスボンの欧州理
事会のために欧州委員会が定めた欧州の経済および社会再生のアジェンダにおいて中心的な
役割を演じている。このイニシアティブの達成には野心的な目標と厳しい最終期限が定めら
れた。2000 年 6 月に、3 つの欧州標準化機関が共通のローリング行動計画を作った:即ち、
e-Europe・イニシアティブへの欧州標準化の貢献24である。この共同プログラムは政治的目
標と最終期限を満たすために必要な標準化活動を定め、監視している。更に続いて、これら
標準化アクションに必要な場合共同体のサポートのために欧州委員会と欧州標準化機関の間
で協定が締結された。
19.
欧州委員会と標準化・適合性評価に関する上級担当者の諮問グループの間で新しいデリバラ
ブルの公的な政策との関連性に関する討議が行われた。討議は、当局は新しいデリバラブル
の作成を監視ないしは競争に対して考えられる負のインパクトに照らしてデリバラブルを調
査することができると結論づけた25。ある場合には、共同体政策の中に新しいデリバラブルを
使用することは興味のあることかもしれない。デリバラブルは、共同体の活動およびコンセ
ンサスがある場合、ないしはコンセンサス形成のプロセスが比較的短い時間しかない場合の
領域において、国境を越えて使用できる。それらはマーケットの手段として欧州の企業の競
争力を高め、域内市場を強化し、研究、開発および技術革新との結合を強化する活動に特に
関連している。しかしながら、新しいデリバラブルは公式な規格と混合されてはいけない。
討議の結果示されたことであるが、現在の制作の段階では、新しいデリバラブルは、ニュー・
アプローチ指令をサポートするものとして整合規格に置き換えるには不適切であるように見
えるし、健康や職業上の安全のようなテーマに対応するのにも不適切で、またそれらはデリ
バラブルの機能ではないであろう。
20.
新しいデリバラブルが公的な政策に使用されるためには、その受入れ可能性を保証するとい
う一定の原則に新しいデリバラブルを創りだす文書、プロセス、そして組織が合致する必要
がある。1999 年の理事会決議に応じて、欧州委員会サービスはこれらの基準を細かく定めた
予備文書を作成し26、加盟国の代表で構成される諮問機関とこれら原則化について協議した。
製品の段階的システムおよびデリバラブル(deliverables)のレンジの拡大に関する欧州標準
化機関とそのメンバーによるさらなる決定の後、この文書は再考されることになっている。
JMC environment Update
24
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
必要ならその様式はより正式なものになる。
21.
新しい欧州標準化のデリバラブルとサービスは国家レベルでいつも充分にサポートされてい
るようには見えない。しかしながら、加盟国の標準化機関と加盟国サイドのコミットメント
は、新デリバラブルをサポートし、解決が混乱しないようにするために必要である。加盟国
の標準化機関と欧州標準化機関の間の新デリバラブルに関する定期的な情報交換は、協力関
係による相乗効果が産み出され、適切な時期と場所において欧州レベルの作業が始まるよう
にするであろう。
III. 3. 当局の役割
22.
公的政策はマーケットの不完全さを補完し、中小企業の振興、労働者、消費者および環境上
の利益の増大を含め標準化の潜在的な社会・経済的便益を実現するようにしなければならな
い。同じように、技術革新政策は、特許のような技術革新者の権利を守る手段と、開かれた
自主的な標準によって技術革新を普及させる手段との間にバランスを取らなければならない。
従って、標準化のために安定した、透明性のある法的、政治的および財政的枠組を維持する
ことは当局の利益である27。
23.
1999 年の理事会決議28は、共同体政策により規格を広範囲に利用した結果としての新しい広
がりに鑑みて、欧州の標準化における当局の正当な権利を強調した。欧州委員会は共同体政
策におけるより広い標準化の利用についてその通達の中で規格の潜在力を説明した29。その結
果、欧州標準化機関は欧州の政策に応じてその活動領域をさらに広げた。このことは欧州の
規制者と欧州標準化機関の間に存在するパートナーシップの精神を示すものであり、それは
以下に述べたようなものである。
23.1.
欧州規格は加盟国の省庁および軍備庁の防衛調達において重要な役割を演じることができる。
調査によれば、国の軍事仕様を欧州や国際的な民間規格に置き換えられることにより政府に
とって効率の増加と調達コストの低減につながることが示された。2000 年 11 月に、欧州委
員会は 21 世紀における欧州の防衛調達に関する会議を組織したが、その中で、欧州レベル
で防衛セクターの標準化プロセスを調和させ、民間の標準化とインターフェースさせること
を検討した。欧州標準化機関は議論への参加に招待され、CEN は防衛標準と手順の欧州ハ
ンドブックを編集するプラットフォームであると確認された。
23.2.
2000 年の初頭に刊行された食品の安全に関する白書30の中で、欧州委員会は EU において食
品安全の最高の基準を確保することをその最優先事項の一つとしてみなしていることを示し
た。この点、食品ないしは食品に触れる材料の安全要件の遵守をチェックする分析方法が必
要であることは留意しなければならない。新しい分析方法の開発の進歩が非常に速いので、
委員会は原則として、ある場合には適切と考えられても、具体的な分析方法を法令に規定す
23
24
25
26
27
28
29
30
COM (2001) 140 final of 13. 3. 2001
http://www.cenorm.be/isss/Major_Activities/eEurope/eeur.htm
http://www.etsi.org/eeurope/eeurope.htm
水平的協力協定に対する EC 条約の 81 条の適用性に関するガイドライン、OJ C 3 of 6. 1. 2001, p. 2-30
SOGS N 363 R 3
1999 年 10 月 28 日の理事会決議、OJ C 141, 19. 5. 2000
脚注 27 参照
COM (1995) 412 final of 30. 10. 1995
COM (1999) 719 final of 12. 1. 2000
JMC environment Update
25
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
ることは避けようとしている。有効な方法に対する品質基準を設けることはより弾力性を有
し、好ましいアプローチである。有効とされた方法は、執行当局、産業界、ならびに認証試
験所(certification laboratories)に法的な限度に適合されること確保する手段を与えてくれ
る。欧州規格を使用することはこの分野で調和を果たす一つの可能性であり、CEN は既に「食
品分析―水平的方法」の分野で約 50 の規格を作り、食品に触れる材料の分野で 28 の方法を
強制的なものとした。
23.3.
情報化社会に関する電子サービス等の開発という新しい分野は、欧州の標準化が欧州の法規
およびと e - Europe のような政治的イニシアティブをサポートできるもう一つの分野である。
電子署名に対する共同体の枠組に関する指令(1999/93/EC)31と電子通信ネットワークおよ
びサービスに対する共通規制の枠組に関する指令についての委員会案32はこの事例である。
前者は、電子署名に関する専門グループおよび CEN と ETSI の共同作業を含むものであっ
て、電子署名指令の要求事項を支援するのに必要な規格を提供する33。後者は、電子通信サー
ビスに対する適切な技術的解決の選択を提供するものであって、それは域内市場における一
貫性と相互情報交換性を守るために欧州標準化機関によって正式なものとされる。
23.4.
ロード・テレマティーク(Road Telematics)と知能輸送(Intelligent Transport)の領
域の欧州の標準化は、交通データの収集、交換分野および交通データ放送、通行料賦課のよ
うなアプリケーションのための専用短期通信(Dedicated Short Range Communication =
DSRC)の分野、自動車体認識(Automatic Vehicle Identification)
、人間/機械インターフェー
ス規格ならびにスマート・カードの分野で進歩している。電子料金回収システムは欧州での
交通の流れを容易にするため国境を越えて相互運用可能であることが重要である。欧州委員
会は、DSRC 等の関連標準の開発、発効、試験の作業の完了を CEN に求めた34。CEN の作業
に加えて、フォーラムとコンソーシアムにおいて、また関係者による理解メモのもとで、こ
の分野で進歩が果たされた。
24.
24.1.
31
32
33
34
35
36
37
38
当局による広範囲な規格の使用は、EU における規制環境を改善し単純化するために払われた
甚大な努力に関係している。リスボンの欧州理事会は、ビジネスと市民がクリアで、効果的
な、急速に変化している世界の市場環境で充分作動しうる規制環境を必要としており、正式
な規制が必ずしもその答えではないということを強調した35。代替の、補完的アプローチが時
に効果的な解決策を与えてくれる。挑戦すべき課題は、規制のやりすぎを避けつつ高度の保
護を確保することである36。技術的調和と標準化へのニュー・アプローチは、これら 2 つの
要件を結びつける一つのモデルであって、かつ、理事会は、このニュー・アプローチが可能
な限り法規を改善し単純化する手段としてまだカバーされていない分野に適用できるかどう
かを調査するようよう欧州委員会に求めた37。
理事会指令 92/59/EEC に代る一般的な製品安全に関する新指令についての委員会案38は、
指令 1999/93/EC, OJ L 13, 19. 1. 2000,p. 12
COM (2000) 393 final of 12. 7. 2000
欧州電子署名標準化イニシアティブ(EESSI)に関するもっと詳しい情報は、以下を参照のこと:
http://www.ict.esti.fr/eessi/EESSI-homepage.htm.
COM (1998) 795 final of 21. 12. 1998
COM (2001) 79 final of 7. 2. 2001
COM (2001) 130 final of 7. 3. 2001
欧州における標準化の役割に関する理事会規制、OJ C 141, 19. 5. 2000
COM (2000) 139 final of 29. 3. 2000
JMC environment Update
26
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
製品安全査定のクライテリアをより良く定め、この関連での欧州と加盟国の規格の役割を明
らかにするという目的を追求している。この案は(ニュー・アプローチの考え方に沿って)
、
欧州委員会の委員のもとに、欧州標準化機関の作成した欧州規格を遵守する製品は指令の一
般的な安全要件に従ったものとみなすことができるとしている。
24.2.
2001 年 2 月 7 日に、欧州委員会は包括的製品政策(Integrated Product Policy = IPP)
に関するグリーンペーパーを採択した39。その目的は、全ライフサイクルを通じて広範囲な
製品の環境パフォーマンスを改善すべく、その役割と欧州レベルでとることができる可能な
施策に関する論議を始めることである。このグリーンペーパーでは、標準化は IPP のゴール
に貢献する潜在的なツールの一つとして認められている。従って、グリーンペーパーは、い
かにニュー・アプローチが製品設計の分野で新しいイニシアティブに一番良く適用できるか、
いかに環境特性が製品の標準に組織的に統合できるか、についての答えを求めた。
24.3.
電気電子機器(EEE)の環境配慮設計に関する要求事項を調和し、整合規格の使用が可能に
なるとする委員会案に基づき作業が進行中である40。この指令は、これら製品の環境への全
体的なインパクトを改善し、資源の効率的な利用を行い、持続可能な開発と両立する高度の
環境保護を達成することを目指しながら、域内市場の中でのこれら製品の自由移動の確保を
意図したものである41。
25.
欧州委員会と欧州標準化機関とのパートナーシップはそれぞれの関係者に対する独自の役割
を必要とする。理事会は創造されるべき協力と透明性についての新しいメカニズムを求めた
1999 年にこのことを強調した42。1984 年の欧州委員会と欧州標準化機関の協力のための一般
ガイドライン43および 1992 年の理事会決議44に加えて、欧州委員会担当部局は標準化におけ
る当局の役割に関する予備的作業文書を作成した45。この文書は、出発点として、当局が標準
化の自主性と標準化機関の独立性を尊重しつつ、公の利益に対する義務を果たす必要をとり
あげた。それはニュー・アプローチのもとでの標準化に焦点を当てている。
26.
もしも当局が整合規格がニュー・アプローチ指令の基本的要求事項を完全には満足していな
いと思ったら、当該規格やその関連の部分の発行は撤回される。これは、
「標準セーフガード
条項」
、またの名を「正式の反対」と呼ばれるものによって行われる。整合規格に対する加盟
国または欧州委員会の正式の反対に関する行政手続きの細かいガイドラインは、
指令 98/34/EEC
46
による諮問委員会との共同作業で作成された 。しかしながら、1999 年以降ニュー・アプロー
チのもとでの整合規格の全体のうち、10 規格が正式の反対にあっていることは留意すべきで
ある。
39
40
41
42
43
44
45
46
COM (2001) 68 final of 7. 2. 2001
http://www.europa.eu.int/comm/enterprisc/electr_equipment/eee/index.htm
環境保護と持続可能な開発の域内市場政策への統合の戦略、2001 年 6 月 15-16 日にイエーテボリの欧州理事会に提出された
理事会文書 8970/01
1999 年 10 月 28 日の理事会決議、OJ C 141, 19. 5. 2000 を参照
このガイドラインは当初欧州委員会、CEN および CENELEC の間で合意された。彼らは現在欧州遠隔通信標準協会(ETSI)の活
動等、1984 年以来の関連の展開を考慮に入れつつ見直しを行っている
1992 年 6 月 18 日の理事会決議、OJ C 173, 9. 7. 1992 を参照
SOGS N 302
98/34 委員会文書 no 49/99 の 2000 年 4 月 3 日づけ改定 2 を参照のこと
JMC environment Update
27
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
27.
このシステムをさらに改善し、正式の反対を防止するという観点で、欧州標準化機関は、理
事会と欧州議会が提案する追加的メカニズムを採択できる。一つの意見が、欧州システムの
透明性をさらに高め、加盟国レベルでステークホルダーの関係者に残された留保事項に関す
る情報を提供するというものである。欧州委員会は欧州標準化機関との討議中にこの示唆を
行った。CEN だけがこの件を追求したということである。
III. 4. 効率性
28. 産業界、当局等の関係者は、市場で効果的に使えるよう、あまり時間がかからないで入手で
きる高品質の規格を作成し合意できる効率の良い標準化システムに関心がある。標準化プロ
セスのマネージメントは、
第一に欧州標準化機関とそのメンバーの責任である。
1999 年以降、
欧州標準化機関は効率を高め合意を改善するためにそのプロセスを見直し続けてきた。
29.
オンライン作業、無料のインターネットによるデリバラブルの提供、ならびにウェブ・ベー
スのアプリケーションの使用の増大によって、ETSI は効率化の前線に踊り出た。CEN では、
インターネットによる作業、アクセス、および規格の発注を目指す e-CEN と称する類似のプ
ロジェクトの実施が進んでいる。また、CEN は様々な問題に関して最良の慣行を明らかにす
るベンチマーキング・イニシアティブを開始した。CENELEC は、定められたベンチマークを
基礎にその技術体の機能を評価する監査システムを設置した。彼らの構造と組織的な調整が
異なっていても、これら 3 つの欧州標準化機関は確かに最良の慣行の交換によって相互に学
ぶことができる。理事会に求められたように47、ETSI はプロセスのできるだけ速い段階です
べての関係者に対するアクセスを改善し、不必要な遅れのリスクに伴うボトルネックをなく
そうとするための記名投票を利用している。CEN の電子作業も記名投票の可能性を開くであ
ろう。
30.
多くの措置が加盟国レベルで実行されてきた: 好例の一つが、欧州委員会が財政的に援助
したフィンランド標準化機関によって実施されたベンチマーキングの演習である。このプロ
ジェクトは 4 つの国家標準化機関の標準化プロセスにおける 59 の最良の慣行の認識という結
果をもたらした。最良の慣行はカストマー・サービス、マネージメント、セールス、マーケ
ティングといった領域で確認された。この演習は参加した標準化機関のグループに業務上の
勧告を行い、そのそれぞれに具体的な勧告を行って終わった。標準のインパクトも多くのス
タディーにより様々な角度から調べられた48。
31.
標準化と標準化政策の改善のための絵を完成し問題点を明らかにするため、欧州委員会は、
理事会の要請に基づき EU と EFTA における標準化の全体的なインパクトの調査を始めたと
ころである49。外部の調査・チームがどの経済的、政治的局面がどの程度標準によって影響さ
れたかを調べるよう依頼された50。この調査計画では、労働者の健康と安全、消費者の保護、
環境、技術革新、通商のような局面を研究することを提案している。このようなインパクト・
アセスメントの証拠がニュー・アプローチで規制されるいくつかの分野のために収集される
ことになる。注目すべき他の分野には、欧州規格の可能性が大きな将来の成長セクターを含
47
48
49
50
1999 年 10 月 28 日付け決議、OJ C 141, 19. 5. 2000 のポイント 23
DIN Deutsches Institut für Normung e.V. (Hrsg): Gesamtwirtschaftlicher Nutzen der Normung, Beuth Verlag, GmbH,
Berlin/Wien/Zürich 2000; 及び Swann, G. M. P., 標準化の経済性:通商産業局、
標準技術規制部長へのレポート、
マンチェスター・
ビジネス・スクール、2000
1999 年 10 月 28 日づけ決議、OJ C 141, 19. 5. 2000 のポイント 25
授与通知 Nr. 043202、OJ S 63, 30. 3. 2001
JMC environment Update
28
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
む。もう一つ別の調査が競争的で持続可能な成長に関する共同体研究プログラムのもとで行
われている。それは「標準化と知的財産権」との相互作用を論じている51。そのねらいは、標
準化プロセスと知的財産権(特許、商標、ソフトウェアの保護)登録との間の技術的、法的、
経済的関係を調べることである。
32.
1999 年以来欧州規格に関する作業は進展してきた。付属書 1 は過去 18 ヶ月間に採択された
欧州規格の数の増加動向を示している。それは欧州規格のほんの僅かな部分だけが委員会か
らの委任(mandate)で作成されたという事実を図で示している。大部分は純粋に市場主導
である。こういう局面は、欧州標準化のコストが 90%以上マーケットのプレヤ―によって負
担されている事実によって実証されている。
33.
ニュー・アプローチ指令の関係での標準化に関しては、整合規格のプログラムは、玩具、非
自動重量計、ガス器具、ならびに単純な圧力容器の領域で完成間近である。人体保護設備と
医療デバイスは共にニュー・アプローチ指令でカバーされた分野であるが、かなりの進歩が
報告されている。機械安全領域における欧州標準化の作業は進んでおり、既に 360 以上の整
合規格があって、その内 250 は共同体法の要件に適合していると見做されている。圧力機器
に関する指令との関係で 700 以上の整合規格のプログラムが目論まれている。2001 年半ばま
でに、約 450 の標準ができており、その内 50 が調和されている。依然として多くの作業が予
想されているのは、包装と包装廃棄物、民間使用爆発物、爆発の可能性がある環境、および
リクリエーション用手工芸品などである。後者の標準化作業は国際標準化機関(ISO)で行わ
れている。電子技術の標準化も進んでおり、2000 年末までに 84%の整合規格が批准された。
この作業は基本的に、EMC(電磁波両立性)
、人間や獣の医療行為における電気機器、鉄道用
電 気 機 器 、 機 械 類 の 電 気 安 全 性 、 な ど の 領 域 で 国 際 電 子 技 術 委 員 会 ( International
Electrotechnical Commission = IEC)の対応した作業を基礎にしている。
34.
最近まで、建築材にはなんらの整合規格も存在していなかった.これが変化し、重要なステッ
プが建設資材の最初の整合規格に関し合意がもたらされた。セメント、固定防火システム、
合成繊維、建設支え、昇降設備、などの整合規格が建設資材整合規格の対象の最初のグルー
プのものである。別の 60 の規格が開発の最終段階にあり、またほぼ同じ数のものが 2001 年
末までに完成するよう計画されている。このような策定は、貿易取引に対する技術的障害を
除去し、新しい市場を創造し、遵守コストを低減することによって建設製品の域内市場を拡
大すると期待される。一般的な基礎のもとに、また標準化委任(standardisation mandates)
のもとでの効率改善の手段として、委員会は、進み具合をトレースし、進歩のない領域に対
する財政的サポートをやめることを目指して、定期的分野別検討会合を調整した。
35.
委任書(mandates)は、それによって当局が欧州標準化当局に技術仕様を作成することを依
頼することによる標準化活動についての参考文書である。
指令 98/34/EC は、
このツールを使っ
て個別の指令の規定で補完することができる委任書作成の一般的な枠組みを規定している。
標準化の委任書は公共政策と標準化の自発的環境との重要なインターフェースである。1999
年以来委員会は 26 の命令書を欧州標準化機関に提示してきた。13 の委任書はニュー・アプ
ローチに関係しており、7 つの委任書は、ライター、はしご、耐火パジャマ、子供の安全等
のような消費者保護要件を取扱っている。残りの委任書は、エネルギー、環境保護、ならび
51
OJ S 15, 22. 1. 2000 参照。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
に域内市場(郵便サービス)の分野における法規に関係している。高速鉄道ネットワークの
相互情報交換に関する標準化活動が 52 の欧州規格を作り出し、別に 49 が進捗中である。公
の利益に関係した委任書のもう一つ別の事例は、人道的地雷除去に関して求められる作業で
ある。
36.
理事会は、委任書52が正確に効率的に作成されるべきことおよび、委任書でカバーされる標準
化は徹底的なモニタリング53に従うべきことを強調した。委任書の範囲、作成、ならびに管理
をさらに改善し、ニュー・アプローチ・ガイドの将来の編集を補完するために、欧州委員会
サービス部局は標準化委任書の役割と作成に関する予備文書を編集し加盟国と議論した54。
この演習は、標準化委任書のモニタリングに関する類似の文書によってフォローアップされ
る。
III. 5. ファイナンシング
37.
将来の欧州標準化のファイナンシング問題は、その重要性を増すであろう。産業界が寄付し
続けるためには、このシステムはその魅力を維持し、かつ競争力に対するその付加価値を証
明する必要がある。メンバーの寄付に依存して機能している ETSI を除いて、CEN と CENELEC
のシステムはその加盟国による規格の販売に大きく依存している。販売は益々プレッシャー
を受けている。欧州の加盟国家標準化機関は今、彼らが持っている規格は益々類似のものに
なりつつあるのみならず、電子的に入手容易なものにもなりつつあることが分ってきた。販
売競争は鋭く、国際的になっている。従って、問題は異なったサイズの分散化した国家機関
にもとづく欧州標準化システムが如何にして財政的に成り立つかである。この問題は今後数
年間の見通しの中で、比較的小規模という新規加盟候補国からの追加的標準化機関をとりこ
もうとする欧州標準化機関にとって益々緊急なものになっている。
38.
理事会はこの問題を取上げ、そして委員会は欧州標準化機関がこの件で合同スタディーを実
施するよう示唆した。3 機関は将来の挑戦にどうやったら一番良く対応できるかについて、
しかし違ったやり方で調査した。
38.1.
CEN は経営コンサルタントにファイナンス・システムに関する委託調査を実施した。この
調査によって、マーケット・プレーヤーが基本的に CEN システムをファイナンスしている
ことが分った。彼らは 2000 年に 7 億ユーロという推定合計コストの 93%に貢献した。欧
州共同体と EFTA からの貢献は比較的小さく
(2%)
、
これは EC と EFTA がこのシステムによっ
て彼らの政策を推進したという比較的強力な影響に比べるとお金の割に値打ちがあった。ま
たこの調査はマーケット・プレーヤー、特に産業界のコミットメントがこのシステムの効率
とユーザーへの優しさの改善が行われるか否かにかかっていることをはっきりさせた。この
調査は、標準化活動をファイナンスする代わりの方法、またはワークショップ協定(III. 2.
参照)のような新しいタイプの標準化がさらに開発されなければならないことを勧告した。
それは、もしも CEN システムがその魅力を維持したいのであれば、標準化の製品およびサー
ビスの多様化が重要であると述べた。欧州委員会はそのファイナンス・システムを調査すべ
く CEN のイニシアティブを歓迎し、CEN への EC/EFTA のサポートが優先することがこの調
査で分ったことを強調した。しかし、委員会は、CEN のマネージメント・センターの役割が、
JMC environment Update
30
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
特に拡大するシステムの中の一貫性を強化するという点で重要性を増していると考えている。
38.2.
また、
ETSI の調査は標準化コストの大部分が作業への直接的な参加を通じてメンバーによっ
て負担されていることを明らかにした。ETSI はそのメンバーシップのベースを維持、拡大
し、例えば、
「インターネット・プレーヤー」を含むことを意図している。この成長するメ
ンバーシップを保持するため、ETSI は、作業における高い効率性、広範囲のデリバラブル、
そして第三世代のパートナー・プロジェクトの場合と同様に標準化の諸原則にコミットした
パートナーとのプロジェクトの開放性などを確保する必要があるとしている。またこの調査
は EC/EFTA 政策の承認と支援が ETSI のメンバーにとって基本的に重要であると述べている。
38.3.
CENELEC は同じチャレンジに挑んでいるようであるが、それに対する対応はいささか非先
行的であって、CEN が行った調査で分ったことに対する彼らのリアクションをベースにする
ことを決定している。
39.
1990 年以降、欧州共同体と EFTA は、欧州標準化システムに対する彼らの支援をニュー・ア
プローチ指令施行のための整合規格の作成に焦点を合わせてきた。1998 年からは、EC/EFTA
の財政的支援は 3 本の柱でできている。即ち、(a) 欧州標準化機関の中央事務局、(b) 標準
化プロセスの品質、(c) 具体的な作業項目の設定である。品質を高める措置として、
「ニュー・
アプローチ」のコンサルタントの仕事、および共通的でない共同体言語への翻訳が含まれる。
具体的な作業項目としては、ニュー・アプローチ指令にかかわる整合規格の作成、消費者保
護のような共同体政策にかかわる欧州規格、
あるいは e-Europe のような欧州政策イニシアティ
ブにかかわる標準活動が含まれる。
40.
2001 年に、欧州標準化機関に対する EC/EFTA の支援は欧州と国際レベルの両方で欧州標準
化の一貫性、効率性および透明性を増大するために見直された。これらの目的を達成するた
めに、また健全な財政管理原則に沿って、欧州委員会は課題の一覧表について 3 つの欧州標
準化機関と合意し、個々の課題に関する定期的レポートを求めた。この新しい調整は以下の
項目に関する優先性を与えている:(a) 新しい標準化活動を構築し計画する意識を高めるこ
と、(b) 標準化作業のより良き管理と関連の財政的手続を確実にすること、(c) 標準化プロセ
スを早め、広範囲の参加を可能にする電子作業ツールを始めること、(d) 3 つの欧州標準化機
関の間のベンチマーキングの開始により性能と市場関連性を増強すること、(e) EU 政策を支
援する欧州標準化の利点に関し情報と通信を増大させること。
III. 6. EU と国際的な範囲の拡大
41.
52
53
54
55
規格、特に国際規格は貿易と市場アクセスを容易にし、製品とサービスの品質と安全を高め、
国境を越えて知識、技術、ならびにマネジメント慣行を広げることができる。これが、規格
が経済的統合と世界貿易において重要な要素となった理由である。欧州の統合に関しては、
1999 年に理事会は、加盟候補国とその標準化機関が欧州標準化機関のメンバーになろうとす
る努力をはっきりとに歓迎した55。
1985 年 5 月 7 日付け理事会決議、OJ C 136, 4. 6. 1985 参照
1999 年 10 月 28 日付け理事会決議、OJ C 141, 19. 5. 2000 参照
SOGS N 404
1999 年 10 月 28 日づけ理事会決議、§17、OJ C 141, of 19. 5. 2000
JMC environment Update
31
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
42.
ほとんどすべての加盟候補国が、
多くが欧州郵便通信管理会議
(European Conference on Postal
and Telecommunications Administrations = CEPT)のメンバーシップであることを通して、ま
た ETSI への企業と行政の直接的参加により、ETSI のフル・メンバーである。加えて、加盟
候補国の標準化機関はフル・メンバーになることを目指した CEN と CENELEC の補助メンバー
である。チェコ共和国の国家標準化機関は 1997 年までに CEN と CENELEC のフル・メンバー
となった。1999 年以降、欧州標準化機関の補助メンバーはフル・メンバーシップになるた
めに著しい努力をした。フル・メンバーとしての資格の最も重要な基準は欧州標準(EN)の
80%の移管であり、CEN と CENELEC の著作権政策の受入れである。さらに、候補国は、標準
化が自主的で、非政府活動として実施できる法的枠組を作る必要がある。CEN と CENELEC か
らの情報によると、いくつかの加盟申請中の国家標準化機関は 2001 年にフル・メンバーシッ
プの正式の申請を提出したということである。2002 年までにはもっと多くが予想される。
43.
加盟候補国とその標準化機関が CEN と CENELEC のフル・メンバーになるために行った努力
には、加盟候補国における全体的な品質保証システムの改善を目指した共同体の地域技術援
助プログラム(PRAQ)56からの財政的サポートを伴っていた。PRAQⅢプログラムは 2000 年
末で消滅した。さらなる財政的サポートと技術的援助が関連の加盟候補国の受益者の特定の
ニーズを考慮して継承パートナーシップのもとで国毎に PHARE プログラムにより提供され
続ける。
44.
CEN と CENELEC のメンバーシップの拡大が共同体の拡大に遅れないことが重要である。もし
新しい加盟国が法規はできているのに、共同体の法規と政策をサポートする欧州標準化シス
テムの一部にならなかったら、それは拡大域内市場の機能にとって壊滅的である。CEN と
CENELEC のメンバーシップの拡大はまたその内部手続の変更を必要とする。従って、CEN と
CENELEC は現在新しい制度的アレンジメントの考慮とニース条約で提供された共同体のルー
ルを含む構造的な手続きの変更に対する勧告を準備中である。欧州委員会はこれらのイニシ
アティブを歓迎している。
45.
国際的に取引される物はできるだけ国際規格を必要とする。標準化は主に市場主導の活動で
あるから、欧州のシステムを推進し、欧州外の国際標準化と密接なリンクをとることは欧州
のステークホルダーの重大関心事である。欧州委員会はこの関係で欧州のステークホルダー
が彼らの努力を続けるよう仕向けている。また標準化と規格の使用は共同体の対外通商政策
の一部であって57、かつ、共同体は WTO の貿易の技術的障害に関する協定(Agreement on
Technical Barriers to Trade=TBT 協定)のような規格に関する国際協定を遵守しなければなら
ない。加えて、欧州委員会担当部局は国際標準化に関する欧州の政策原則に関する文書を作
成した58。この文書は国際標準化における欧州のステークホルダーと協議の上で作成された。
それはより良い協調と一貫性を達成するために現行の政策を要約し、
さらに明確化している。
それは理事会から要求されたような参考文書およびガイダンス資料として役立てることがで
きる。
46.
規格と標準化に関係する共同体の政策は、二国間ならびに地域毎の協定と同様に、国際的な
らびに多国間交渉においても一つの役割を果たしている。原則としてこの関係で共同体の活
56
57
58
品質保証に関する地域プログラム(Programme régional relatif à I’Assurance Qualité = PRAQ)
COM (96) 564 final of 13. 11. 1996
SEC (2001) 1296 of 26. 7. 2001
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
動には3つのタイプがある。共同体は、
(1)国際標準化の原則に関する共通の理解を推進す
る、(2)規格を受け入れる法的条件の創造を促す、
(3)第三国がその規制、規格、及び適合性
評価インフラを欧州や国際的な要求事項と合わせるよう技術的援助を提供することである。
共同体の技術援助の目的の一つは、発展途上国が国際標準化に効果的に参加できるようにし
て、これら諸国を世界経済により良く統合することである。1999 年以降、多くの活動がこの
分野で追求されてきた。
46.1.
TBT 協定の 3 年見直しの 2 回目がおこなわれ、国際標準化関連の諸原則に関する共同体の見
解59を約 140 カ国と分け合う機会が与えられた。共同体は、法規に使用される国際標準はい
かなる参加国に向かっても開放性と公平性の精神をもって、かつ透明性をもって作成される
必要があると説明した。共同体は、国際規格が首尾一貫性がなければならないこと、即ち、
異なる、矛盾した要求事項を規定するべきでないことを強調した。従って、共同体は、国際
規格を作成する機関の状態が重要であると考える。国際機関としての体質が、国家的立場の
偏らない取扱いを保証し、国際標準の間の一貫性を確実にする条件と考えられる。WTO で
の討議中、共同体は単一性の原則を支持した。即ち、標準化の各領域でたった一つの国際機
関がアクティブであるべきだというのである60。
46.2.
2000 年 11 月までに、TBT 協定の 3 年見直しの 2 回目は、国際規格の作成の原則に関する決
定についての結論を出した61。共同体は、協定を TBT 協定施行改善の適当な方法と考えた。
国際規格を作成する機関に適用されるべきクライテリアを明白に構成するものではないが、
この決定は、特定の国際標準化活動への参加が少なくともすべての WTO メンバーの関連機
関に開かれていることをはっきりさせた62。それは、参加はできるだけ、WTO メンバーのテ
リトリーにおいて関連する標準化活動を代表する一つの代表団によって行われるべきことを
強調した。さらに一連のクライテリアが、国際規格が首尾一貫しており、お互いに矛盾して
いないことを確実にした。欧州委員会の観点からは、国の代表にもとづいて運営されている
国際機関はこれら原則の実施に適したものである。
46.3.
国際規格が貿易の容易化と市場アクセスで果たし得る役割は、規制で無視されたら阻害され
てしまう。また、理事会は欧州の貿易パートナーが規格を受け入れることができる規制のモ
デルを導入することを求めた63。最初のステップがこれに関して貿易パートナーと意見の一
致が見られるよう踏み出された。例えば、ASEM64規格および適合性評価会合が最善の規制
慣行のためのガイドラインに合意した。
これらガイドラインの適用は自主的である一方、
TBT
協定による各国の義務の遂行にあたって ASEM パートナーの実際上の参考として役立ってい
る。そのほか、このガイドラインは、規制が必要な場合、その規制は性能特性の面で規定さ
れ、できる限り国際規格に沿った規格を遵守することによって守られるか守られているとみ
なされるかされるものと規定している。
59
60
61
62
63
64
G/TBT/W/87, 14. 9. 1998 及び改定 1, 30. 9. 1999; G/TBT/W/133, 11. 4. 2000; G/TBT/W/149, 1. 11. 2000
G/TBT/W/149, 1. 11. 2000
G/TBT/W/9, 10. 11. 2000 の付属書 4
労働者、消費者、ならびに環境関係のグループのような関係当事者が標準化プロセスにすべての関連の段階で完全にかかわっ
ているべきだということを強調した理事会決議、ポイント 39、OJ C 141, 19. 2000 を参照
理事会決議、ポイント 34、OJ C 141, 19. 2000 を参照
アジア・欧州・ミーティングは 15 の EU 加盟国と 10 のアジアの国々:ブルネイ・ダルサ―ラム、中国、インドネシア、日本、
韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムからなっている
JMC environment Update
33
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
46.4.
規格を受け入れることができる規制のモデルの利点は OECD での議論のテーマでもあった。
この分野で OECD はそのメンバーの規制改革の経験のいくつかのものを分析し討議した。そ
れは、例えば、国際規格による技術規則の国際的調和は不必要な貿易障害を回避する一つの
手段であると結論した。このため、新しいプロジェクトが、国際的調和の可能性と前提条件
を開発し、規格が通信ターミナル機器の分野で果たし得る役割を開発するべくスタートした
65
。
46.5.
国際連合の欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe =
UN/ECE)、特にその技術的調和と標準化政策に関する作業チームは、規制コミュニティー
と標準化コミュニティーの間のインターフェースを提供している。2 年の間、標準化と規制
技術に関する専門家のアドホックグループが国際規格を使った技術調和のための国際モデル
について作業を行ってきた66。この概念は、一定の製品または製品グループに規制が必要な
場合、基本的な法的要件に関する政府の協力を認めるものである。また、政府は共通の規制
目的を満たすために適用される関連の国際規格と適合性評価手続きを明らかにする。
47.
規制と標準化の間のインターフェースに関して、またそれぞれの当事者の独立性について、
理事会は、欧州の利益が国際標準化機関と政府間フォーラムに首尾一貫して示されているよ
うにする必要を強調した67。これは関連当事者間の情報交換と協議の適切なメカニズムを必要
とする。欧州委員会担当部局は、加盟国、EFTA および加盟候補国からの高官との関連情報の
交換のための新しいグループの運営を始めた。標準化と適合性評価に関係する高官の諮問グ
ループ、
ならびに指令 98/34/EC による諮問68委員会との国際問題に関する定期的交換もある。
48.
欧州の標準化機関との密接な仕事の関係も確立された。関連する国際的展開は ETSI によって
非常に注意深くフォローされている。CENELEC はそのメンバーのために国際標準化において
活発なプラットフォームを作った。CEN は国際的ならびに諸問題を討議するために定期的に
会合を開くグループを作った。欧州委員会のスタッフはこのグループにオブザーバーの資格
で参加するよう招かれた。これら 3 つの欧州標準化機関が、AMN (Mercosur Association for
Standardization)のような中南米の地域標準機関とも緊密な連携を作ったことは留意すべき
である。
49.
欧州の国際標準化への強いコミットメント
(理事会は欧州の標準化機関とその国際パートナー
との間の協力協定の立派さを強調した)を再確認する一方で、欧州の当事者は、それが適用
されるケースで共同体法規と国家要件を考慮に入れなければならない。理事会は、職場の健
康および安全規定のような調和されていない分野における共同体法規の基本要件と国家要件
にはっきりと言及した69。これは、例えば、整合規格が関連の国際的作業に基づくことができ
るかどうか、そしてどの程度できるかについてのケース・バイ・ケースの考慮を行うという
結果になった。
この査定は、
CEN と CENELEC のためにそれぞれ ISO および IEC ならびにウィー
ンおよびドレスデン協定との枠組の調整のもとで実施されている。遠隔通信の分野では、協
力協定が ITU と ETSI の間で締結された。国際標準の国家標準への転換を容易にし、最大限の
65
66
67
68
69
TDTC/WP (2001) 11 改定 1
UN/ECE/TRADE/WP. 6/2000/8
1999 年 10 月 28 日付けの理事会決議、ポイント 37、OJ C 141, 19. 5. 2000
指令 98/34/EC による諮問委員会はその参加オブザーバーおよび加盟国と欧州の標準化機関と共に年に 2 回ミーティングを開く
1999 年 10 月 28 日付けの理事会決議、OJ C 141, 19. 5. 2000 のポイント 38
JMC environment Update
34
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境政策の視点からも注目される「欧州の標準化に関する活動報告書」
首尾一貫性が得られるよう、規格がモジュラー様式で書かれ、規格が製品関連の局面を、適
用される関係の工程、生産方法、および環境要件とは分けて取扱うことが重要と考えられる。
IV.
50.
結論
本文書は理事会と欧州議会の 1999 年の決議に答えた中期レポートである。それは、取られた
多くのイニシアティブを記述し、欧州の標準化システムが拡張されたメンバーシップに適合
し、それが国際レベルで推進されるようさらに改善するという観点で継続中である。欧州委
員会は、さらなる作業と報告に関する意見とガイダンスを受けるという観点で理事会と欧州
議会と共に本レポートを議論することを提案する。
付属書 1
1999 年 10 月 31 日現在と 2001 年 6 月 30 日現在の欧州標準の数
強制的
非強制的
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
ETSI
ETSI
'99年10月31日
'01年6月30日
114
203
強制的
2269
3051
非強制的
JMC environment Update
35
CEN
CEN
'99年10月31日
'01年6月30日
717
1029
5462
6862
CENELEC
CENELEC
'99年10月31日
'01年6月30日
754
790
3309
3795
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講 演
環境格付けの動向について
ニッセイ基礎研究所 社会研究部門
上席主任研究員 川村 雅彦
当組合、貿易と環境専門委員会(委員長 キャノン株式会社 松藤 洋治 氏)では、昨年 11 月 28 日
に ニッセイ基礎研究所 川村 雅彦 氏をお招きし、
「環境格付けの動向について」ご講演いただきま
した。同氏のご校閲を得て、講演要旨を次のとおり掲載いたします。
はじめに
環境経営と環境格付け(川村仮説)
」にあげたような
6つの連鎖的要因が考えられると申し上げています。
2001 年 11 月 2 日、環境経営学会により「環境経
営格付機構」が設立されましたが、私は新しく設け
られた「環境格付け委員会」に委員として参加して
おります。個人的にもこれまで「企業の環境経営」
を研究しており、その中でも環境およびソーシャル
な部分を含む格付ないし企業の評価を主たるテーマ
としています。
本日の講演テーマである「環境格付け」というの
は、企業が環境問題をどのように認識し、いかなる
環境戦略に基づいて、どのように取り組み、どのよ
うな環境パフォーマンスを示しているかを評価し、
ランク付けすることです。地球環境や地域環境を保
全するには、行政の政策も重視しなければなりませ
んが、私は企業をグリーン化することが最も効果的
であるというスタンスに立ち、企業全体の環境経営
を嵩上げしたいという思いで仕事をしています。
本日は、日本機械輸出組合の「貿易と環境専門委
員会」からお招きいただきましたので、
「企業の環境
格付け」に関する私の理解や考え方をお話し申し上
げたいと思います。
【 環境経営と環境格付けの接点 】
まず 1 番目は、そもそも環境問題自体の質的・構
造的変化です。日本の場合は、1960 年代に甚大な被
1. なぜ「環境格付け」が求められるのか?
害をもたらした産業公害から、1980 年代後半に顕在
しばしば、なぜ「環境格付け」が必要なのかとい
化した地球環境問題や廃棄物問題、有害化学物質に
う質問を受けます。その際、私は改善の兆しが見え
よる汚染問題への変化です。産業公害は特定の汚染
ない環境問題の深刻化を背景として、企業経営の視
事業者がいて特定の被害者がいるという構図ですが、
点からみると、図表 1:
「環境問題の変化がもたらす
地球環境問題では殆どの場合、加害者が同時に被害
JMC environment Update
36
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
者であるという違いがあります。さらに、日常の生
彼らは、企業から自主的に公表される環境情報や環
活や通常の業務そのものが環境問題の原因となって
境への取り組みが妥当なものか、
知りたくなります。
いることが特徴です。
そこで最後の6番目ですが、企業の環境への取り
2 番目には、環境政策の 経済的手法 へのシフ
組みやその成果について、総合的かつ客観的に評価
トがあります。環境問題の変化に合わせて、政策の
する必要が出てきたのです。
それがもう一歩進んで、
方も変わってきたのです。いろいろな政策手法があ
いわゆる「環境格付け(Eco Rating)
」が要求される
りますが、象徴的に言えば、 規制的手法 中心から
ようになったと、私は理解しています。
経済的手法 中心に変わってきたのです。私は、
これに 枠組的手法
なお、図表 1 のタイトルに(川村仮説)とありま
も含めております。産業公害
すが、これは私が提唱したもので、
「平成 13 年版 環
時代には、エンド・オブ・パイプ型規制という工場
境白書」にも文章として同様のことが記載されてい
端にフィルターを付けさせるというような直接的規
ます。
制でした。しかし、1990 年代にはいると、課税や課
徴金の賦課とともに、
「何々をいつまでに何パーセン
2. 「市場のグリーン化」とステークホルダーの
変化
トにする」という大きな枠組みだけを設定して、市
場競争原理に基づき、環境負荷を減らすために具体
市場のグリーン化が進むにつれて、ステークホル
的に何をするかは企業が自主的に決めるというやり
ダーの行動にも明確な変化がみられ、環境淘汰が現
方に変わりました。私は、環境政策が環境問題の変
実のものとなりつつあります。ステークホルダーの
化に対応してきちんと変わったことで、
「市場のグリ
変化については、図表 2:
「企業を取り巻くステーク
ーン化」が進展すると期待しています。
ホルダーの行動変化」に示すとおりですが、それぞ
それでは、市場のグリーン化とはどのようなこと
れ濃淡があるものの、今後、企業は市場においてま
でしょうか。市場が「環境」を重視し始めたのです。
すます環境面から評価・淘汰されていくことは間違
つまり、
「環境」が、企業経営にとって競争条件およ
いないと思います。
び評価基準になってきたということです。これまで
は製品やサービスの品質、価格、納期などが競争原
理でしたが、それに「環境」が新たに追加されたの
です。
3 番目は、
「環境」という競争条件と評価基準の出
現による「環境淘汰」のはじまりです。すなわち、
商品およびそれを提供する企業が、
「環境」によって
徐々に市場において淘汰されるようになってきたの
です。
4 番目は、このような環境淘汰を認識した企業か
ら、
「環境経営」への転換を図りはじめたことです。
日本企業の場合は、1990 年代の中頃から家電業界を
中心に欧州の輸出市場への対応という形で環境経営
が導入されました。やがて、環境問題へきちんと対
市場のグリーン化には3つの領域が考えられます。
応していることを自ら市場にアピールする企業がで
その第 1 は、単純に商品(製品とサービス)を環境
てきたのです。
面から評価・購入するという意味で「商品市場のグ
リーン化」です。第 2 は、日本でも最近みられるよ
5 番目は、企業側の環境情報開示に対応した、ス
うになった「資本市場のグリーン化」です。これは、
テークホルダー(利害関係者)の企業評価ニーズの
投融資などのカネの流れにおいても環境面から評価
高まりです。企業の廻りには、消費者、取引先、株
されるという意味です。第 3 は、まだ日本ではあま
主・投資家、金融機関、従業員、地域住民、行政、
NPO など、いろいろなステークホルダーがいます。
JMC environment Update
37
り顕在化していませんが、
「労働市場のグリーン化」
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
環境経営の 4 原則(十分条件)
です。
① 本業における取り組み
最近、学生が就職先として企業を選ぶ時に、当該
企業の環境への取り組み姿勢を評価の一つとする場
② 拡大生産者責任を認識した取り組み
合も出てきています。私自身、中途で会社を替わっ
③ 連結環境経営を認識した取り組み
た人間ですが、今後は転職の際などにも、環境への
④ 持ち味を活かした独自性のある取り組み
取り組み姿勢から企業が判断されるかも知れないな
この 7 要素は、これがなければ環境経営が成
り立たない最低限の必要条件であり、4 原則の
方は、必要条件に加えて、これをもって十分と
いえる条件という意味です。数学の「必要十分
条件」に相当します。7 要素は、ISO14001 認
証や環境会計、環境報告書などの環境経営の具
体的なツールではなく、あくまでも基本的な考
え方を示したものです。
という意味で、そうネーミングしました。
3. 環境経営の 7 要素と 4 原則
(1)
リアクティブ型からプロアクティブ型の環境経
営への転換
市場のグリーン化は、わが国の少子高齢化・
グローバル化・IT 化と同次元の不可逆的な社会
経済構造の大転換であることを認識する必要が
あります。企業経営に着目すれば、護送船団方
式や業界内の横並び意識、経営の内向性・閉鎖
性に代表される日本企業の戦後システムの崩壊
と同時進行していると思います。
4 原則の①の「本業」については、本業の周
辺領域でお茶を濁さずに、もちろん本業での真
摯な取り組みが必要です。②の「拡大生産者責
任(EPR)
」は、製造段階だけの取り組みではな
く、事業の上流から下流、つまり設計、調達お
よび輸送、使用、廃棄、回収なども含めたライ
フサイクル全体での取り組みという意味です。
特に、製造業では製品の使用段階、回収段階ま
でを見なければ殆ど意味がないと理解していま
す。③の「連結環境経営」とは、環境経営の責
任範囲としてどの事業所までを含むかという問
題です。一般論としては、会計上の連結子会社
と一致させるべきだと考えています。④の「独
自性」は、 横並びをやめよ という意味で、
特にこれからの日本企業に求められるところで
はないかと思います。私は、このような 7 要素
と 4 原則が全部揃って、はじめて企業の環境保
全の取り組みとしては100点満点であると理解
しています。
これまで長い間、企業の環境問題への取り組
みは環境法規制にリードされつつ、消費者団体
などに監視されるという、 受け身の立場 に
ありました。しかし、市場のグリーン化という
時代潮流を認識するならば、環境法規制の遵守
は当然としても、規制受動型のリアクティブな
経営から、環境法規制や市場動向の先を読み能
動的に行動し社会に働きかけていくプロアクテ
ィブな環境経営への転換は必然です。
(2)環境経営の基本要件
私は、企業を環境面から評価する場合、その
大前提として、
次のような環境経営の7要素
(必
要条件)と環境経営の 4 原則(十分条件)があ
ると思います。
(3)環境経営の導入期から普及期へ
環境経営の 7 要素(必要条件)
さて、図表 3:
「市場のグリーン化がもたら
す環境経営の深化」
で申し上げたいのは、
現在、
わが国の環境経営がひとつの転換点にさしかか
っていることです。私は、1996 年から 2001 年
までを「環境経営の第Ⅰ期(導入期)
」と認識
しています。
1996 年は ISO14001 が正式に発行
した年ですが、わが国もこの辺りから電気業界
を中心に ISO の認証取得が始まっています。少
し時差があって、各企業の環境報告書の発行が
増え、
次に環境会計の導入が増えてきています。
① 経営トップのコミット
② 組織体制と環境計画の整備
③ 従業員の全員参加
④ 経営資源の効率的・効果的投入
⑤ 環境負荷の継続的低減への努力
⑥ 環境リスクの把握と回避
⑦ ステークホルダーへの情報開示
JMC environment Update
38
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
5. 環境格付けの評価対象 ( 取り組み か 成
果 か?)
一方、日経新聞で「第1回環境経営度調査」が
公表されたのが 1997 年 12 月でした。1998 年
にはわが国初のエコファンドが発売され、環境
面にも配慮した金融商品が広く認知されるよう
になりました。2001 年という年は、私は、日
本の主要企業がほぼ環境経営を導入した環境経
営の第Ⅰ期の終わりと見ています。第Ⅱ期は、
環境経営が普及するとともに、質・量ともに深
化する時期だと期待しています。
一方、環境格付けにおいても、被評価企業におけ
る環境経営の目的達成のための 取り組み を評価
するのか、それとも、その結果である 成果 を評
価するのか、
明確に意識する必要があると思います。
敢えて申し上げると、
これまではどちらかと言うと、
取り組み に評価の重点がありました。 取り組み
の評価とは、環境保全に対する経営理念や取り組み
状況を評価することで、多くは定性的な評価項目と
なります。
これに対して、 成果 の評価とは、環境経営の
目的に照らしてどれだけ達成できたかを評価するこ
とです。多くの場合、環境負荷などの数値データに
よる評価が可能です。たとえば資源投入量やエネル
ギー使用量、生産段階だけでなく輸送や使用・消費・
廃棄段階における環境負荷の排出量などの実績が、
環境側面としての努力の 成果 です。図表 4:
「環
境経営と環境格付けの接点」を参照ください。詳細
は、後ほど「ニッセイ基礎研方式」ということで申
4. 環境経営の 手段 と 目的 の峻別
し上げます。
私の環境経営の評価に対する基本スタンスは、
「環
境経営の 手段 と 目的 の峻別」です。むろん、
両方とも環境格付けの評価対象にはなります。企業
の環境経営の実践では、 手段 と 目的 を明確に
分けて考えなければなりません。 手段 を目的化し
ないことです。たとえば、環境 ISO の認証を取得す
ることは環境経営の 目的 ではない。成果がでた
かどうかが重要なのです。ISO の認証を取得したり
環境報告書を発行したりすることは重要ではあるけ
【 環境格付けの内外動向 】
れども、あくまでも環境経営のためのツールに過ぎ
6. 環境格付けの多様な評価尺度
ません。目的を達成するために、手段があるはずで
す。
欧米およびわが国における環境(社会的責任)格
それでは、環境経営の 目的 とは何でしょうか。
付けでは、伝統的な財務パフォーマンスの格付けと
私は次のように考えます。①企業活動に伴うあらゆ
は異なり、多様な評価尺度(視点)があります。私
る環境負荷を継続的に削減すること、②環境負荷の
なりに纏めると図表 5:
「環境格付けにおける多様な
削減により環境効率(Eco-Efficiency)を高めつつ環
評価尺度」のようになります。まず、企業経営の成
境リスクを低減すること、③環境競争力や環境信用
果として、左側太線の楕円「財務パフォーマンス」
、
力の強化により業績向上と持続的発展を図ること、
中央の太線四角「環境経営パフォーマンス」
、そして
の 3 つです。しかし、これは私の考える 目的 で
右側に「社会的責任パフォーマンス」があります。
あって、別の考え方があると思います。
環境について申し上げると、最初に出てくるのは右
上の「環境マネジメントパフォーマンス」ですが、
これは 取り組み の評価に相当します。 成果 の
JMC environment Update
39
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
評価は、数値データで表現される「環境負荷パフォ
い株価指数を開発しています。このように、それぞ
ーマンス」です。
れ見方は多様です。
他方、
「環境経営パフォーマンス」から左下方に
降りると「環境リスクマネジメント力」があります。
「力」と書いていますが、これは能力の意味で、ア
メリカの Innovest が採用する指標です。また「持続
可能性(sustainability)
」から評価するところもあり
ますが、スイスの SAM S.G.などが代表例です。持続
可能性については、評価者や企業によって考え方が
異なりますが、社会面・倫理面から企業の持続性と
いうことで出てくる指標です。最後に、左上に「環
境効率」がありますが、これは WBCSD(持続可能な
発展のための世界経済人評議会)が提唱している概
8. 日本の環境格付けの概要
念です。
日本の状況を申し上げると、現時点では、図表 7:
要するに、現在のところ、環境格付けの評価尺度
「草創期にあるわが国の環境格付け」のタイトルに
は多様だということを言いたいのです。そこで、評
ある通り 草創期 ないし 黎明期 にあります。
価尺度によって格付け結果も違ってくるでしょうか
社会的責任格付けないし持続可能性格付けの要素を
ら、評価される方もどの評価尺度で評価されている
含みつつ「環境」を核とする形で動いていますが、
かを慎重に見極める必要があります。
まだわが国では消費者が商品を購入したり投資家が
7. 欧米の環境格付けの概要
投資先を決定する際に、環境面から直接的に企業を
評価できる指針(環境格付け)は確立されていませ
図表 6:
「欧米における環境格付けの概要」は、主
ん。しかしながら、企業の環境ランキングや 環境
要な評価・格付け機関のホームページから私が作成
格付けの前段階的なもの は、さまざまな機関がす
したものです。左のコラムをご覧いただくと判るよ
でに実施しています。私は、①環境配慮型ファンド
うに、殆どが「社会的責任」の格付け機関であり、
系、②環境情報提供系、③企業ランキング系、④グ
「環境」に特化したところはありません。しかし、
リーン購入ガイド系、⑤先駆的な環境格付け試論系
Oekom(独)は元々環境からスタートしていますか
の 5 つに分類しています。
ら環境中心ですし、Innovest(米)では 環境リス
ク=財務リスク という認識のもと環境負荷自体は
評価対象にしていません。また、SAM S.G.(スイス)
は、ダウジョーンズの株価指数 DJGI に持続可能性
(Sustainability)の S を加味した DJSGI という新し
JMC environment Update
40
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
環境格付け視点の変化の 1 番目として、
「拡
大生産者責任の徹底」があります。これは企業
の環境責任範囲の拡大ことで、
「責任」という
より、むしろ「責務」という言葉の方が良いと
思いますが、上流・下流、ライフサイクル(時
間軸)での広がりを意味します。これまでの評
価の中心は、どちらかというと「生産段階」が
多かったのですが、これからは「生産段階」は
当然として、上流・下流、そして資源の還流ま
で評価対象となります。
①について申し上げると、わが国の環境配慮型フ
ァンドは、
私の理解するところでは今9本あります。
近々、モルガン・スタンレー投信は、環境ではなく
2 番目は、私が最近使っている言葉で「連結
環境経営への拡張」があります。評価の対象と
すべき事業所の範囲(空間軸)が広がって行く
という意味です。すでに財務会計では連結会計
が導入されましたが、これと同じ発想で親会社
単独の評価だけでは不十分であり、グループ企
業を含めた 連結 の評価が不可欠です。
法令順守に焦点を当てたファンドを発売すると聞い
ています。これらを広い意味で ソーシャル・ファ
ンド と呼べば、10 本目ということになります。フ
ァンドの愛称名を挙げると、日興の「日興エコファ
ンド」
、安田火災の「ぶなの森」
、興銀第一ライフの
「エコ・ファンド」
、UBS 住友の「エコ博士」
、三和
系の「みどりの翼」があります。最近では、社会面
や持続可能性にも配慮したファンドが登場し、朝日
ライフの「あすのはね」
、日興の「globe」
、大和住銀
の「Mrs.グリーン」があります。なお、三井住友海
上の「海と空」では CO2 の排出量を評価項目として
います。
②としては、NTT データ経営研究所が IRRC(米)
と提携して環境情報提供を行い、
さらにInnovest
(米)
と提携してオンライン型の有料環境格付けをおやり
になっています。③では先程の日経環境経営度調査
が有名です。⑤には、日本興行銀行による実験的ス
コアリングや「環境経営学会」による環境格付けの
試行があり、私の研究もここに含めます。
9. 環境格付けの展望
(1)わが国の展望
日本における今後の環境格付けは、どのよう
な方向に向かうのでしょうか。この点について
は、図表 8:
「変容する環境格付けの方向性」
として 4 つあげてみました。これには、こうし
たいという私の希望も多分に含まれています。
JMC environment Update
41
3 番目は、
「成果主義への移行」です。環境
ISO の認証を取得したとか、環境報告書を出し
たとか、環境会計を公表したということは、直
接的な評価対象とはせずに、環境負荷の削減状
況や製品・サービスの環境側面に評価ウェイト
が移っていくということです。
これについては、
ドイツのOekomの評価手法に少し似ています。
4番目は、
「社会的責任格付けの模索」
です。
この点については、欧米でもまだ「これ」とい
うものはありませんが、わが国でも全体として
は、環境面プラス社会面・倫理面を評価対象と
するようになると思います。私も、そのような
評価をするつもりです。ただし、これを「サス
テナビリティ」と呼ぶかどうかです。GRI のト
リプル・ボトムラインではないですけれども、
経済面・財務面を含むのか、含まないのかとい
う問題があります。
(2)欧米の展望
欧米の場合はどうでしょうか。
イギリスでは、
2000 年 7 月の年金法の改正により、年金運用
受託者に運用基準に関する情報開示が義務付け
られました。投資銘柄(企業)の選定に当たっ
ての環境面・社会面・倫理面の考慮の度合い、
また株主総会での議決権行使に関する基本方針
も公表する必要がでてきたのです。これに対応
して、英国保険協会は自主的なガイドラインを
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
作り、投資対象企業に同様の要求を突き付けて
います。
ドイツでも、年金制度破綻の防止を目的とし
て、年金制度改正が 2001 年 7 月に連邦議会で
成立しました。個人年金および機関年金の運用
者は、基金の投資運用に当たって倫理面・社会
面・環境面への配慮の程度について報告書を公
表することが義務化されました。フランス、カ
ナダ、オーストラリアもほぼ同じ動きがあり、
法律も整備されてくると思います。
なお、EU 委員会はグリーンペーパーと呼ば
れる「企業の社会的責任に関する欧州フレーム
ワーク(草案)
」を公表していますが、このこ
とからも、今後の企業評価は環境だけに止まる
ものではないと思います。
【環境格付けの手法(ニッセイ基礎研方式)
】
最後に、
ニッセイ基礎研究所の環境格付け方式
(試
論)をお話します。環境格付けの手法(評価尺度)
としては、まず、取り組み状況を評価した Ver.1、次
に環境効率を数字だけで評価する Ver.2、そして、ま
だ個別に企業を評価していないけれども、環境リス
クおよび環境リスクへの対応度をもって評価する
Ver.3 からなっています。
10. 環境格付けの試み(Ver.1)
:異業種間の取
り組み状況を評価する
(1)評価の枠組み
図表 9:
「異業種横断型の環境格付け試論」
(ニッセイ基礎研方式 Ver.1)
」は、2000 年 6
月、企業名を匿名にして発表した格付けの結果
です。
(注)にありますように、それぞれの企
業の 1999 年版環境報告書を情報源とする暫定
的試算です。この環境格付けの枠組みは、右端
の「環境負荷パフォーマンス」
、右から 2 番目
の「環境マネジメントパフォーマンス」という
評価軸に分かれています。それぞれの得点の合
計を、中央の「環境パフォーマンス」で総合評
価の環境格付けとしています。
JMC environment Update
42
この Ver1.で評価軸にしているのは、
「環境
マネジメントパフォーマンス(EMP)
」におけ
る組織体制、
環境計画、
情報開示の3 評価軸と、
「環境負荷パフォーマンス(ELP)
」における環
境負荷、環境リスク、環境コストの 3 評価軸の
計 6 軸です。環境負荷については、3 年連続し
て総量と原単位が下がっていることを評価条件
としています。環境リスクや環境コストについ
ては、1999 年版環境報告書の当時は、まだ数
字として捉えられませんでしたので、企業の認
識とその対応策をもって点数化しました。
Ver1.で特徴的なことは、ローマ数字で表記
してある「業種類型」です。実は、環境問題に
おける異業種間の横断的な評価はたいへん難し
いのですが、
ここでは独自の業種類型を作って、
それぞれの環境負荷の程度に応じてEMPとELP
に異なるウエイトを付けました。詳細な説明は
省きますが、
主要な環境問題として図表10:
「業
種別の環境負荷指数」1 行目にある①地球温暖
化、②廃棄物増大、③水質汚濁、④大気汚染、
⑤土壌汚染を選択し、それぞれに個別業種の生
産時と使用時における負荷の具合を指数化して、
5 つの業種類型(Ⅰ〜Ⅴ)を決めました。今の
ところ、これは実証データに基づくものではあ
りませんが、環境負荷の大きな順に、
「業種類
型」として化学、鉄鋼をⅠ、自動車、電機器具
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
をⅡ、パルプ・紙、一般機械、エネルギー業、
建設業をⅢ、非鉄金属、窯業、運輸・通信業、
流通業をⅣ、食品・飲料、繊維・アパレル、出
版・印刷をⅤに分類しています。
(2)評価の結果
詳細な取り組み評価項目と点数は省きますが、
環境マネジメントパフォーマンス(EMP)と環
境負荷パフォーマンス(ELP)にはそれぞれ 32
の評価項目、計 64 項目があり、すべて定性的
な評価項目に対して 2 点満点で点数化していく
方法を採用しました。図表 9 は上位 30 社を示
したものです。
この表で一番上の電機A社を見ると、
「環境
負荷パフォーマンス」格付けは A+で、点数は
53.7 です。その下の一般機械A社は「環境負荷
パフォーマンス」格付けは A++ですが、点数は
46.8 です。一般機械A社の点数が低いのに、格
付けが A++となっているのは、図表 12 右端の
「業種類型」のⅡ(電機)とⅢ(一般機械)の
違いからくる評価ウエイトの違いによるもので
す。総合格付けでは、電機A社が A++(評点
91.2)
、一般機械A社は A+(評点 89.4)となっ
ています。トリプル A に相当するのが A++で
す。
11. 環境格付けの試み(Ver.2)
:環境効率を評価
する
(1)評価の枠組み
私の評価上の問題意識は、繰り返し申し上げ
ますが、環境経営は 取り組み 状況ではなく、
あくまでも取り組みの結果である 成果 を評
価するということです。具体的には、どれだけ
の資源やエネルギーを使って、どれだけの経済
価値を生み出すことが出来たか。あるいは、ど
れだけ外へ環境負荷を排出することで、どれだ
け収益を生み出したのかという意味です。単純
に、環境負荷の量ということではありません。
このような考え方は、
「環境効率」と呼ばれ
ます。ソニー、NEC、リコーといった先駆的
な企業においては既に導入されており、実際に
報告書にも明記されていますが、
マネジメント・
ツールとしてお使いになっています。これらの
企業では、私がこれから申し上げるよりも精緻
におやりになっているのではないかとも思いま
すが、基本的にはあくまでも財務データと環境
負荷データをリンクさせて評価するということ
です。最近では環境会計を導入する企業が増え
てきたことから、両者はだいぶリンクされてき
ましたが、まだまだ壁があります。
さて「環境効率」とは、 企業活動に伴う環
境影響を最小化しつつ、企業により創造される
価値を最大化する ことを意味します。この概
念は WBCSD が提唱したものです。それを私な
りにアレンジして具体的に数値化した結果(ニ
ッセイ基礎研・環境経営インデックス)が、2001
年 8 月に日本経済新聞や環境新聞に取り上げら
れました。
このように環境保全への取り組み自体を評価
する場合、どういう評価の仕組みにしても、定
性的な状況を点数化していくという問題があり
ます。私の場合、今日と明日では評価結果が異
なります。また同じ評価項目でも、隣の人と私
とでは点数が異なるということが必ず出てきま
す。それゆえ、取り組みの評価を一所懸命にや
ればやるほど、ある意味では結果が判らなくな
るという問題があるように思います。
JMC environment Update
43
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
議論があるところです。特に、PRTR について
は、化学物質は土壌汚染だけではなく、空中に
も水中にも排出されますが、取り敢えず土壌汚
染ということで PRTR の排出量、移動量を暫定
的に使おうということです。具体的な EEI の計
算には、
(式 3)のように「CO2 による EEI」で
は分母に CO2 排出量、分子に売上高もしくは営
業利益で算出します。同様に廃棄物、BOD、N
Ox、PRTR について EEI を計算します。
(2) ニッセイ基礎研・環境経営インデックス
(NEMI)
環境効率の概念を定量化する基本式(式 1)
は、分母に「環境影響」
、分子に「製品もしく
はサービスの価値」で計算します。私は、分母
の「環境影響」を「環境負荷」と呼び変えてい
ます。図表 11:
「環境効率の向上のイメージ」
を見てください。縦軸が「製品もしくはサービ
スの価値」
、横軸が「環境影響(環境負荷)
」で
すが、楕円 D は最悪のパターンです。太線楕円
A は、負荷が小さく価値が高いので環境効率は
最も高くなります。楕円 B と C は、数字にすれ
ば同じですが、何を努力しなければいけないか
が全く違うということです。
環境効率の基礎指標として、環境負荷の経済
価値集約度を表わす「環境効率指標
(Eco-Efficiency Index:略称 EEI)
」
(式 2)で
は、分母に「環境負荷の排出量」
(トン)
、分子
に「売上高または営業利益(億円)
」と定義し
ています。
評価対象とすべき環境問題にはいろいろある
と思いますが、暫定的に図表 12:
「CRA に基
づく環境問題の重要度(リスク)の重み付け」
では、図表 10 でも申し上げた ①地球温暖化、
②廃棄物増大、③水質汚濁、④大気汚染、⑤土
壌汚染を取り上げています。これを数字にしな
ければいけませんので、
それぞれについてCO2、
廃棄物、BOD、NOx、PRTR の排出量、移動量
を代替指標としました。これが適切かどうか、
JMC environment Update
44
次に検討すべきことは、これら 5 つの環境問
題は重みが同じであるかどうかです。今回は、
図表 12 のタイトルにある
「CRA」
(Comparative
Risk Assessment:比較リスク評価法)を用いて
ウエイトを付けました。これは、アメリカ環境
庁(EPA)が開発した地域環境政策の優先順位
の決定手法で、もともと質の違う環境問題に対
して、その地域において何が一番優先度の高い
環境政策かを評価する方法です。
専門家、
住民、
NPOなどが集まって議論を繰り返して問題を絞
り込み、その結果、リスクの高いものを「優先
度の高い政策課題」とするやり方です。この方
法しかないという訳ではありませんが、この方
法で国立環境研究所が日本を対象に行った研究
を基に、私なりに調整して 5 つの環境問題にウ
ェイトを付けました。
その結果は図表 12 右端の「CRA による重み
付け」のとおりですが、5 指標間では 3 倍の差
となりました。③の水質汚濁(BOD)は 100%
のうち 11%配分、これに対して⑤の土壌汚染
(PRTR)は 30%、これが最も多いのですが、
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
③の 3 倍です。①の地球温暖化(CO2)は 24%
ですから、BOD に対し CO2 は 2 倍のリスクを
もつことになります。このウエイトは恣意的で
はないけれども、今後の検討が必要です。
最後に、
これらを指数化した上で足し合わせ、
(式 4)のようにインデックスとしました。こ
れを「ニッセイ基礎研・環境経営インデックス
(略称 NEMI)
」と名づけ、商標登録を申請し
ています。
(3)評価の結果
ある程度データが揃っている業界に NEMI を
適用してみた試算結果は、図表 13:
「ニッセイ
基礎研・環境経営インデックスの実験的適用の
結果」のとおりです。今回は業界の平均 EEI を
用いて指数化しているため、
いずれの業界も100
点が平均点となります。化学業界については売
上高・営業利益 NEMI ともに環境効率性と収益
性の差からバラツキが大きいこと、トイレタリ
ー業界ではデータ開示度と収益性の差から
NEMI の格差は大きいことが特徴です。ビール
業界については、ゼロエミッション達成もあり
売上高 NEMI の差は大きくありませんが、収益
性の差から営業利益 NEMI は拡大しています。
電機業界では売上高 NEMI の差は比較的大きい
けれども、収益性の影響により営業利益 NEMI
は縮小しております。これを見ると、業種ごと
に企業間の環境効率にはかなりのバラツキがあ
ることが分かります。
ただし、
ここで注意しなければならないのは、
同一業種内においても環境負荷データの開示範
囲が意外と統一されていないことです。連結環
境経営の視点から言えば、親会社単独のみのデ
ータもあれば、海外連結会社を含んだデータも
あり、さまざまです。また、拡大生産者責任の
視点からは、各企業とも製造段階のデータが中
心であり、輸送や使用段階のデータは必ずしも
開示されていません。最新の資料を入手したつ
もりでも、企業ごとにデータの開示範囲が大き
く異なっていては、説得力のある公平な格付け
は難しいところがあります。もちろん、私ども
の評価手法にも未整備なところが残されている
ことを忘れてはなりません。
12. 環境格付けの試み(Ver.3)
:環境リスクマネ
ジメント力を評価する
(1)企業の環境リスク
現代の企業経営リスクには、事故・災害リス
ク、経営判断リスク、外部要因リスクなどいろ
いろありますが、地球環境問題の顕在化ととも
に新たに「環境リスク」が加わりました。ただ
し、環境リスクといっても、特別なものではな
く、あくまで一つの経営リスクに過ぎず、判断
や対応を間違ったりすることにより経済的・財
務的に損害を被る経営リスクということです。
図表 14:
「損害形態別にみた企業の環境リス
ク要因」に私の考える企業の環境リスク3種を
示しています。まず「コンプライアンス・リス
ク」は現行法令による環境リスクであり、遵守
すべき環境関連の法令・規制を前提とする法的
制裁リスクや付随する経済的損害リスクです。
次の「リーガル・リスク」はコンプライアンス・
リスクの延長線にあり、今後の環境規制強化に
JMC environment Update
45
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
よって法令面で起こりうるリスクです。私は規
制強化の方向性については、気候変動防止、循
環型社会形成、有害物質汚染防止の 3 つだと理
解しています。3 番目の「市場的・社会的リス
ク」は環境問題への配慮や対処を怠ったことに
よる、法令によらない市場における排除・淘汰
や財務的損害あるいは社会的制裁や信用力喪失
のリスクです。
ネッスル社に買収されました。
欧州全土に拡大したシェル不買運動:環境意識の
高い消費者にシェルが屈した事件です。1991 年、英
国シェルは北海油田の老朽化した巨大な貯油タンク
を、
政府許可を得て深海底への投棄を決定しました。
しかし、グリーンピースが残存有害物質を理由に反
対したため、シェルガソリンの不買運動は欧州全土
に広がりました。同社は計画を変更せず所定海域へ
タンクを曳航したのですが、解体・投棄の直前にな
って結局断念しました。シェルは甚大な費用負担だ
けでなく、良好な企業イメージを失墜させてしまっ
たのです。
金融機関の浄化責任を認定した判決群:米国スー
パーファンド法に基づき、銀行が担保権を行使して
汚染土地の 所有者 あるいは融資先への 経営関
与者 として、浄化費用負担の責任を認定された判
決です。メリーランド信託銀行訴訟では、担保不動
産の潜在的な環境問題の調査・発見の責務があると
(2)企業の環境リスクの実例
ここで、ご存知の方もいらっしゃるかも知れ
ませんが、企業経営の環境リスクに関する実例
を幾つかご紹介します。いずれも環境リスクに
対する判断や対処の誤りによって、取り返すこ
との出来ない事態になってしまったケースです。
では、日常業務に直接関与していなくとも、有害物
質取り扱いに影響を与え得る「施設の管理者」とし
ての責任が問われました。
完成直前のマンションを解体させた土壌汚染:
2000年に大阪府豊中市の野村不動産のマンション建
倒産に追い込まれたアスベスト訴訟:米国のアス
設現場で、環境基準を大幅に上回る有害化学物質が
ベスト最大手のマンビル社が倒産に追い込まれた事
検出されました。しかも 27 ある環境基準物質のうち
件です。かつてアスベストは優れた工業用原料とし
22 が出たのです。現場はかつて産業廃棄物処分場で
て広く使われていました。しかし、従来から長期吸
あったものの、法制定前であったため規制対象外と
入による呼吸器疾患の危険性が指摘されていたにも
なっていたのです。野村不動産は既に分譲を開始し
拘わらず、同社は利用者に対して充分に警告してこ
ていたけれども、
居住者の被害発生を回避するため、
なかったため、1973 年には製造物責任(PL)が認定
汚染者不明のまま、ほぼ完成していた 9 階建てマン
され、訴訟は 3 万件に達しました。賠償金は 20 億ド
ションを全部解体しました。現在、前所有者に対し
ルを越えたため、ついにマンビル社は 1982 年に会
て土地売買契約の無効を求めています。
社更生法を申請しました。
(3)環境リスクマネジメント力
経営判断ミスがもたらしたペリエ事件:1990 年に
さて、環境リスクをどう判定・把握し、回避・
低減するのか。
方法はいろいろあると思います。
図表 15:
「環境リスクマネジメント力をどう評
価するか?」の基本式にあるように、私は、
「環
境リスク度」はどれくらいか、それに対する「環
境リスク対応度」がどれくらいあるのか、とい
うふうに考えてみました。環境リスク度につい
ては、個別企業の努力もありますが、恐らく業
種別に構造的なものがあるのではないかという
米国で発泡性ミネラルウオーター「ぺリエ」に発ガ
ン性のベンゼン混入が発見されました。ペリエ社は
直ぐに回収し、従業員のミスによるもので影響は限
定的と発表しました。その後欧州でも検出され世界
的問題に発展したため、同社は 源泉に問題ない
としつつも、全世界の在庫を回収しました。しかし、
実は源泉の炭酸ガスが減ったためにベンゼンを含む
別鉱泉のガスを注入したことが判明したのです。ぺ
リエの傷ついた製品イメージは回復せず、1992 年に
JMC environment Update
されました。フリート・ファクターズ事件(1990 年)
46
Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境格付けの動向について
ことで、基本式 2 行目にあるように、
「業種別
環境リスク度」と「企業別環境リスク度」の
2 つに分けます。
次に「環境リスク対応度」については、図表
16:
「環境リスク対応度の主な評価項目」に書
いてある通り、
私は3つの領域を設定しました。
まず
「環境リスクマネジメントの体制」
ですが、
これは環境リスクに対してどのような体制・仕
組で対処するのかということです。具体的な環
境リスク対応力としては、
「リアクティブなリ
スク対応度」と「プロアクティブなリスク対応
度」の 2 つ側面から評価することにしました。
「リアクティブなリスク対応度」というのは、
すでに見えている具体的な状況にどう対応して
いるかを評価するものです。これに対して「プ
ロアクティブなリスク対応度」では、政策・経
済・社会の大きな流れの中でより積極的・先行
的に対応しているかを評価したいと考えていま
す。
Ver.3 にプロアクティブなリスク対応度を入
れた理由は、Ver.1 と Ver.2 では環境ビジネ
スとか、環境に関わる技術開発、R&D などを明
確に評価出来ないという批判があったからです。
そこで、構造的な需要衰退に対してどう対応す
るのか、あるいは商品戦略をどう見直すのかと
いうことを、
マーケット対応力という意味で
「プ
ロアクティブなリスク対応度」と考えました。
なお、図表 16 の「リアクティブなリスク対応
度」の最下段の④サプライチェーンマネジメン
トは、端的にはグリーン調達ということですけ
れども、ここにはもっとソーシャルな意味も含
めています。今後は、納入先や取引先の企業の
あり方自体も問われていくということです。
13. 今後の展開
環境格付け(ニッセイ基礎研方式)の今後の展開
としては、
「環境保全のためにどのような取り組みを
しているのか?」
(Ver.1)
、
「環境負荷をどれだけ出し
て経済価値をどれだけ生み出しているのか?」
(Ver.2)
、
「環境リスクをどう評価し、どう対処しよ
うとしているのか?」
(Ver.3)の 3 つを束ねなければ
いけないと思っています。
どのように束ねるか。社会的な部分を入れてサス
テナビリティみたいなものを考えなければいけない
であろうし、その場合、財務面をどうするか、入れ
るべきか否か。取り敢えず、環境面+社会面・倫理
面という形で考えていますが、個別企業の考え方も
含めて、いま検討しているところです。
おわりに
誌面の都合もあり、一部資料の掲載を省略しましたので、お判りにくいところもあるかと思います。資料
のご請求、あるいは環境格付けについてのお考え、ご質問、ご批判などおありの方は、ニッセイ基礎研究所
の川村(e-mail:kawam@nli-research.co.jp)
、もしくは日本機械輸出組合環境安全グループ(e-mail:ima-t
@imcti.or.jp)までご連絡下さい。
ありがとうございました。
JMC environment Update
47
Vol.3 No.5 (2002. 1)
寄 稿
松下電器 欧州環境フォーラム
松下電器産業株式会社
環 境 本 部
吉村 孝史
松下電器が日本企業で初めて欧州で開催しました環境フォーラムについてご紹介申し上げます。
欧州環境フォーラムの経緯
(ブリュッセルの JMC 欧州事務所も訪問)
欧州で環境フォーラムを開催するにあたり、社内の経営幹部及び社外の有識者に開催候補地に関し意
見を求めたところ、複数の方から環境首都として有名なフライブルグ市の名が挙がった。開催場所、
顧客動員等、
半信半疑で同市を訪問したところ、
市を挙げて開催を支援するとの暖かい言葉を頂いた。
思えばこれが最後まで実務面で又精神的にフォーラム成功を支える大きな力となった。
当初の見込み入場者数 1,000 名は 9 月の米国における同時テロ発生により大幅な修正を余儀なくされ、
欧州各地からの VIP の出席が危うくなった。これに対し、積極的に参加者を召集する等、支援を頂い
たのがベーメ市長をはじめフライブルグ市の幹部の方々であり、JMC 欧州事務所の関係者である。
総入場者数:
総入場者数は最終的に 1,200 名 (内プレス関係者 30 名)となり、当初の目標 1000 名を超える来場者
となった。
また主な VIP としてバーデンベルデン
ベルグ州経済副大臣、南西ドイツ経済
連合会会長、フライブルグ市・ベーメ
市長、フライブルグ大学総長を含め 67
名が来場され、メディア関係も欧州各
地より出席頂き、参加者からは大変な
好評を頂くことができた。
バーデンベルデンベルグ州経済副大臣(左)
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
松下電器 欧州環境フォーラム
テープカット:
公式行事は 2001 年 12 月 5 日(水)午後 12 時 45 分からのテープカットでスタートした。テープカ
ットには地元フライブルグ市のベーメ市長、同市と姉妹都市の松山市代表(当初出席予定の中村市長
の代理 竹村主幹)及び松下側から少徳常務を含め 5 名の幹部がはさみを入れた。テープカットに先
立ち少徳常務より「海外での初の環境フォーラム開催に当たりフライブルグ市当局や関係の皆様のご
支援に心より感謝申し上げます。
」と挨拶し、ベーメ市長より「環境問題に熱心に取り組むフライブル
グを選ばれたのは我々にとり大変光栄であり、また大変意義深いこと」と話された。
写真左より
伊勢取締役、ラインハルトヨーロッパ
松下電器社長、伊藤環境本部長、
ベーメ/フライブルグ市長、
正徳常務、
石田取締役、松山市/竹村主幹(中村
市長代理)
展示会場
展示会場は 5 日、6 日の 2 日間午前 9 時から午後 5 時まで開場し、地元の大学、研究所関係者などに
加え一般招待客も多く来場し、商品の見学や当社の環境取り組みに熱心に質問がされた。
①
②
③
④
⑤
展示ゾーン構成(50 部門から約 160 点を出展)
松下電器の歴史と概要
⑥ 製品リサイクル
基本理念と環境マネジメントシステム
⑦ 燃料電池、EV バッテリーなどの新しい環境
環境ビジョンなどの行動計画
事業
製品企画・設計・調達の取り組み
⑧ フライブルグ市、松山市コーナー
環境に配慮した製品郡
(製品アセスメント展示コーナー)
JMC environment Update
(ソリューション展示コーナー)
49
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松下電器 欧州環境フォーラム
記者会見:
12 月 5 日午後 1 時から行われ、欧州を中心に世界 14 ヵ国より環境・ビジネス誌の担当記者 30 名が出
席。会見では、冒頭ベーメ市長がご挨拶され、松下グループの取り組み姿勢を高く評価。続いて少徳
常務が「地球環境との共存」を基本理念として取り組む松下グループの環境活動の概要を紹介、ライ
ンハルト社長より燃料電池や電気自動車用バッテリー、エコーネットやリサイクル技術への取組みな
ど今回の出展品目の中からハイライトの紹介並びに今後欧州で実施される各種環境規制に先駆けた松
下グループの取組みを説明した。
ドイツの有力紙、フランスの経済紙レゼ
コー、スペインの一般紙エル・ムンド、
イタリアのコリア・デラ・セラ、など。
またドイツの ARD(ドイツ最大の放送
局)が放映のため出席。チェコやスロバ
キア、ハンガリー、ポーランドなど東欧
からの出席者も多く環境問題への関心の
高さを伺わせた。
日系では日経新聞、
日本工業新聞が出席。
メディアからは京都議定書の CO2 排出規制が実行された場合の経営への影響、製品リサイクルの海外
展開の見通し、今後の海外でフォーラム実施予定等の質問がなされた。
なお、ドイツのテレビネットワークARDの地元局がフォーラムの展示を取材し、ラインハルト社長
とベーメ市長にもインタビューして夜のニュースで 1 分程度紹介した。
基調講演とパネルディスカッション:
燃料電池をテーマとした地元フラウンホーファ研究所ヘブリング博士による基調講演に続き、パネル
ディスカッションが行われ、同博士とフライブルグ市、環境NGOのエコ・インスティチュート、ダイ
ムラーベンツ社及び当社など異なる立場の代表によるパネラーが参加し、燃料電池技術と将来のエネ
ルギー政策について活発な議論を戦わせた。環境に関する課題を抽出しお互いに共有するというこの
フォーラムの趣旨に合致した内容のセッションは、参加者にも大変好評で 150 席の会場は立見が出る
ほどの盛況振りであった。
フラウンホーファー研究所 Dr.ヘブリング講演
JMC environment Update
シンポジューム会場
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
松下電器 欧州環境フォーラム
招待コンサート:
第 1 日目の夜には、欧州パナソニックが社会貢献活動の一環として支援している欧州バロックオーケ
ストラ(EUBO)がコンサートを実施。欧州各国の有望な若手音楽家を育てEUの連帯感醸成に貢献
する EUBO の活動を通じ当社の企業姿勢を紹介する一助になった。
フォーラム:
12 月 6 日午前 10 時 30 分からは「持続可能な
社会」をメインテーマに近未来学者のハンブル
グ大学/オパショフスキー博士、他 4 名の講
演が行われ、当社からも MDDG 社/ビュット
ナー社長、Dr.末次が講演を行い、いずれの会場
も満席であった。
未来学者 Dr. オパショフスキーによる基調講演
オパショフスキー博士からもこのようなセミナー
を開催されたことに大変感謝したいと挨拶を
頂いた。
フライブルグ市環境局長 Dr. ベルナー)
各会場での挨拶の中でベーメ市長、フラウンホーファ研究所ヘブリング博士、エコインスティチュー
トより今回のフォーラム開催に関し、パナソニックがこのようなフォーラムをフライブルグで開催さ
れたことに対し大変感謝申し上げますとの言葉が述べられた。
今回のフォーラムを海外で実施するに当たり欧州で開催したのは良かった。その中でもフライブルグ
市を選んだのは同市が環境のオピニオンリーダー発祥の地でもあり、環境関係の研究所、団体等が多
く集まっており、商品を通じて当社の環境取り組みを紹介することができ、参加者からも非常に好評
であった。又、今回の環境フォーラムが契機となり、2002 年に入りフライブルグ市ベーメ市長、松山
市中村市長、フラウンホーファ研究所ヘブリング博士のフォーラムは、一過性に終わらず引き続きよ
り緊密な関係が続きてゆくことになっている。
以上
〔当組合、貿易関連環境問題対策委員長〕
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
連載
欧州環境規制動向
〜 在ブラッセル弁護士モニタリング情報 ⑱
I.
EU
1.
閣僚理事会、難燃剤に関する予備協定に調印
した1。共同体のダイオキシンおよび PCB 戦略は、2
部構成となっている。第 1 部では、ハザードの特定、
リスク評価、リスクマネジメント、研究、市民に対
2001 年 9 月 27 日の域内市場理事会において、EU 各
する情報提供、第三国および国際機関との協力など、
国閣僚は、特定の危険物質および調剤の販売ならび
に使用を制限する指令案(指令 76/769/EEC の修正)
に関して「共通の立場」の採択に向けて全会一致の
政治的合意にようやく達することができた。これは、
ペントブロモジフェニルエーテル(penta-BDE)の
などの長期(10 年)対策も明らかにしている。
これは、ダイオキシン/PCB に関する環境問題の全
EU における販売および使用禁止を目指すものであ
体像を明らかにし、現在の動向の理解促進に役立ち、
る。penta-BDE は、主として家具や室内装飾品用の
よって政策の立案および評価の推進に貢献するもの
軟質ポリウレタンフォームの製造に使用されている
と思われる。第 2 部は、食品および飼料中の「最大
臭素系難燃剤の一つである。製品の環境リスクに関
限度の設定」
、食品および飼料に含まれる適正基準を
する評価では、同フォームの製造および使用により
超えたダイオキシンを「早期警告」するツールの役
生じるハザード(hazard)を最小限に抑える必要性
割を果たす措置レベルの設定、ならびに飼料および
を指摘した。これに鑑み、欧州委員会は、難燃剤が
食品における「目標レベル」の設定、という 3 本柱
確認された品目の販売を禁止する提案を 2001 年
で構成される戦略を提案する。大部分の欧州人に影
1 月に提出した。その他のポリウレタンフォーム用
響するダイオキシンの曝露レベルを、食品科学委員
に使われる別の臭素系難燃剤デカブロモジフェニル
会が定める許容摂取量よりも低いレベルにまで削減
エーテル(deca-BDE)については、現在進められて
いるリスク評価の結果待ちとすることが決定された。
従って理事会は、deca-BDE およびオクタブロモジ
フェニルエーテル(octa-BDE)の両方を禁止すると
の欧州議会の方針(9 月 6 日採択)を却下した。
するためには、当該目標値を達成することが必要で
ある。
3.
ロエタン(HCE: hexachloroethane)の使用規制強化
を採択した2。2003 年 6 月 30 日から、非鉄金属の製
理事会と欧州議会双方の承認が必要である。理事会
造または加工における HCE の使用が禁止される。こ
と議会の対立点の調整に向け交渉が必要となろう。
れは、委員会によれば、HCE がヒトの健康に悪影響
を及ぼすかどうかは判明されていないものの、とり
欧州委員会、ダイオキシンおよび PCB 削減
戦略を採択
わけ水生生物に対し容認しがたい環境リスクを及ぼ
すことからとられた措置である。HCE は、最小限度
委員会は、2001 年 10 月 24 日、環境、動物用飼料お
よび食品に存在するダイオキシンおよびポリ塩化ビ
1
フェニル(PCB)の削減戦略についての通達を採択
2
JMC environment Update
欧州委員会、危険物に対し新規制を提案
欧州委員会は、10 月 29 日、化学製品のヘキサクロ
法律として拘束力を得るため、当該指令案は、閣僚
2.
短・中期(5 年)の対策を特定している。また、デ
ータ収集、モニタリングおよび監視(serveillance)
52
理事会、欧州議会および経済社会評議会に対する欧州委員会の
通達、
「ダイオキシン、フランおよびポリ塩化ビフェニルに対
する共同体戦略」
、COM(2001)593 最終版。
「環境リスク削減:委員会が精製剤ヘキサクロロエタンに対す
る規制を強化」IP/01/1505、2001 年 10 月 29 日を参照のこと。
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
の多孔率を得ることができる(=浄化率が高い)こ
れることを保証することを目的としている。一連の
とから不純物の含有量を下げ、各種非鉄金属の製造
勧告の 3 番目にあたるこの勧告は、次の 5 種類の既
および加工に使用されてきた。他の使用による特別
存物質のリスク評価の結果と勧告されたリスク削減
の危険は一切ない。
;
策をまとめたものである:アクロレイン(C3H4O)
;ノニルフェノール、
、4硫酸ジメチル(C2H6O4S)
委員会が EU 全域に対し HCE の使用規制を初めて導
;t-ブチルメチルエーテ
ノニルフェノール(C15H24O)
入したのは、この化学物質のリスク削減の必要性が
。
ル(C5H12O)
明確に認められた 1997 年のことである。この当初
の規制は、より危険度の低い代替物が入手可能なわ
提案されたリスク削減措置は、アクロレインおよび
ずかの工業プロセスにのみ適用された。今回採択さ
硫酸ジメチルに対する労働者保護に向け、EU 法に従
れた新指令は、実際のところ、特定の危険物質およ
い職業上の曝露限度を定めるものである。また、ノ
び調剤の使用を制限する指令76/769 の付属書Ⅰの8
ニルフェノール、4-ノニルフェノールについては、
回目の修正である。
その商業化および当該物質が広く使用されている数
多くの分野での使用を制限することを勧告している。
4.
欧州委員会、危険物に対する新規則を採択
他の分野については、公害対策措置(IPPC 指令)や、
委員会は、11 月 19 日、
「危険な化学品の輸出入に関
水に関する枠組み指令などその他の共同体法律文書
する国際的な事前の情報に基づく同意手続」の EU
を適用して、環境におけるこの 2 種類の物質の量を
レベルにおける実施についての新規則を採択した。
確実に管理するべきである。最後に、委員会は、メ
この新規則は、化学物質リストに最近追加された項
チル t-ブチルエーテル(MTBE: tert-Butyl methyl
目を考慮に入れるべく、理事会規則 EEC 2455/92(決
ether)に汚染された地下水の早期発見のためのサー
定 2000/657/EC の修正)の付属書Ⅱを正訂すること
ベイランス・プログラムを提唱している。欧州レベ
を目的とする。そして、塩化エチレン、エチレンオ
ルにおけるこれらのプログラムでは、地下貯蔵設備
キシド、リンデンおよびパラチオン(エチルパラチ
の建設および使用、サービスステーションでのガソ
オン)に関するものである。
リン販売、欧州標準化委員会(CEN)策定の技術整
合規格、貯蔵設備の建設・使用などに、利用可能な
規則 2455/92 は、禁止もしくは厳しく規制された化
最善の技術(BAT: best available technologies)を適
学物質の第三国への輸出入に関し、国連環境計画
用するべきである。さらに、地下水および貯水タン
(UNEP)および国連食糧農業機関(FAO)によって
クの MTBE レベルを測定するために、IPPC 指令に基
制定された事前の情報に基づく同意手続の EU にお
づき付与される認可に対する不服申し立て制度が提
ける実施に関する規定である。この現行の任意手続
案されている。
は、国際的に取り引きされる特定の危険な化学物質
6.
手続に関するロッテルダム条約に定められており、
欧州議会、閣僚理事会案より緩やかな化学
物質の禁止案を提示
手続が正式に発効するまでの間、暫定的に適用され
議会は、驚くべきことに、EU 環境閣僚が 6 月の閣僚
および殺虫剤に適用される事前の情報に基づく同意
る。現行の EU 規則では、EU から参加諸国への化学
理事会で合意したものより緩やかな有害化学物質の
物資の輸出に対し手続を課している。
禁止を可決した。
5.
欧州委員会、危険物質のリスクに関する戦略
を公表
11 月 15 日にストラスブールで開かれた本会議にお
委員会は、一連の危険物質に対するリスク削減戦略
上市承認について単一制度(REACH 制度)を設置す
に関する勧告を発表した。この勧告は、既存物質に
るという EU の化学物質戦略を採決し、禁止期日を
よるリスクの評価と管理に関する規則を適用する上
2020 年とすることを支持した。また、戦略を策定し
で、11 月 7 日に採択されたもので、工業生産される
た欧州委員会の白書に関し議会の環境委員会が出し
化学物質が完全に安全な方法で生産、使用、処分さ
た報告書および決議を、多くの範囲において、その
いて、既存および新規化学物質の登録、評価および
厳しい要求を希薄にした。同白書は法的拘束力を有
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
するものではないが、重要なこととして、将来の法
極めて憂慮される物質を含有する製品には、ラベル
律制定の指針を担うものである。実質的に議会は、
を表示すべきであるが、ただしラベルは警告にはあ
採決において、2002 年その提出が見込まれる法案の
たらないとしている。
争点を明らかにしたといえよう。
議会はさらに、化学物質の子供や胎児への影響をヒ
環境保護論者は化学業界からの圧力に屈服したと欧
トの健康評価の基準として採用するべきであると主
州議会議員(MEP)を非難しており、またかつてな
張している。
い強力な業界ロビー活動(とりわけドイツの化学業
界からドイツ MEP に対して)が展開されたと伝えら
欧 州 化 学 工業 連 盟 ( CEFIC: European Chemical
れたものの、化学物質戦略に関する採決は、大方委
Industry Council)は、この決議を、
「現実的で実行可
員会案を支持するものとなった。
能な、科学的根拠に基づいた化学物質規制に取り組
むよう欧州委員会に明確なシグナルを発するもの」
環境閣僚は、6 月にさらに一歩踏み込み、難分解性
として歓迎している。そして、決議は「実行可能な
生体内蓄積性毒性化学品(PBTs)に加え、極めて難
欧州化学物質政策」を求めるものだと述べている。
分解性および生体内蓄積性の高い物質、ならびに内
7.
とを要求していた。閣僚理事会は、また、製造量
欧州議会環境委員会、短連鎖塩化パラフィン
に関する提案を承認
1 トンの基準を下回る化学物質も含めるべきとの考
欧州議会環境委員会は 2001 年 10 月 6 日、短連鎖塩
えであった。いずれの動きも、一部有害物質の段階
化パラフィンの販売および使用を制限する旨の欧州
的廃止期日を早めることになるものであった。
委員会の提案に同意した。この提案は、閣僚理事会
分泌攪乱物質を化学物質認可戦略の対象に含めるこ
の承認もすでに受けている。
環境委員会のラポーター Inger Schörling 欧州議会
議員(スウェーデン緑の党)はさらに進んだ内容の
短連鎖塩化パラフィンは、ドリルの潤滑・冷却液と
提案をしたが、これは議会の採決で否決された。議
して金属加工において使用されているが、難分解性
会は、発癌性、変異原性または生殖毒性化学品(CMR)
有機汚染物質であることから、水中環境にとって有
であることが判明している物質、ならびに国際的認
害であると考えられている。
知の難分解性有機汚染物質(POPs)に限るべきであ
ると希望している。しかし、妥協案の文言により、
委員会は、2001 年 5 月、短連鎖塩化パラフィンを規
PBTs および殺虫剤も対象とすべきかどうかを検討
制するために、危険物質の販売および使用に関する
するよう、委員会に要請する可能性も残されている。
指令 76/769/EC の修正案を提出した。理事会はこの
委員会案に賛同し、2001 年 6 月、
「共通の立場」を
議会はまた、年間製造量 1 トン未満の化学物質は対
採択した。
象にしないと決議し、Schörling 案を否決し、委員会
案を支持した。
物質ならびに濃度 1%以上を呈す形態にある短連鎖
塩化パラフィンが禁止の対象となることとなり、委
同議員は、
「極めて憂慮すべき」物質は直ちに禁止す
員会によれば、これにより同物質の販売は事実上全
べきである、という要求については支持された。た
面禁止となる。
だしその使用が社会にとって不可欠であり、より安
全性の高い代替物質が存在しない場合に限り一時的
議会は当初、短連鎖塩化パラフィンに対する禁止を
に認可し、2020 年以降禁止する。
塗料あるいは塗装の可塑剤およびゴム、プラスチッ
ク、あるいは織物に含有される難燃剤に対しても適
工業製品に存在する化学物質について、議会は新制
用範囲を広げる修正を要求したが、委員会はこれら
度の対象としたいと考えており、より安全な代替物
の修正を却下した。
質が利用可能になり次第、遅くとも 2012 年までに
は、禁止しなければならないとの意見である。また、
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委員会は、かかる用途に対する禁止が、現在の科学
国が排出量を増加させてしまっても、他の加盟国が
知識ならびにこれまでに行われたリスク評価調査の
排出量を削減し、EU 全体として共同で目標を達成で
結果に鑑みても正当化されるものではないとの意見
きるというものである。理事会決定は、また、2002
であった。欧州議会環境委員会は、この欧州委員会
年 9 月に開かれる持続可能な開発に関する地球サミ
の説明を受入れた。
ットまでに共同体ならびに加盟国が批准法律文書を
国連事務総長に共同で委託できるよう、加盟各国に
8.
対し 2002 年 6 月 14 日までに批准を準備することを
欧州委員会、京都議定書および排出権取引
制度の批准を提案
求めるものである。
委員会は、2001 年 10 月 23 日、気候変動に取組む主
要な政策パッケージを採用した。これは、EC にとっ
b. 欧州気候変動プログラムの実施に関する通達:
ては京都議定書批准に関する提案、EU 域内における
EU は、京都議定書の批准と早期発効のみならず、議
温室効果ガス(GHG)排出権取引に関する指令案、
定書に定めた 8%の排出量削減目標達成も公約して
ならびに GHG 排出削減に向けたさらなる措置を示
いる。従って委員会は、EU 域内における GHG 排出
す通達から構成されている。これにより委員会は、
の削減強化に向けた一連の対策 10 項目を発表した。
2002年9月にヨハネスブルクで開催される持続可能
かかる対策は、欧州気候変動プログラム(ECCP)の
な開発に関する地球サミット−「リオ+10」までに
もと短期間での実行が可能であり、とりわけ費用対
京都議定書を発効するという EU の公約を再確認す
効果の高いものとして特定されたものである。
るものとなった。ヴァレストレム(M. Wallström)
欧州環境委員は、次のように述べた。
「これらの提案
対策の一部は、委員会のエネルギー供給の安全性に
により私たちは、気候変動対策においてリーダーシ
関するグリーン・ペーパー、および最近発表された
ップを発揮するという EU の待望を追求する。批准
共同輸送政策に関する白書にすでに盛り込まれてい
手法と併せて、排出権取引制度をはじめ他の排ガス
る。委員会は、今後 2 年にわたりこれらの対策実施
削減措置を提案することによって、これまで行って
のための具体的な提案を行う意向である。例えば、
きた公約を達成すべく真剣に取り組むという姿勢を
コージェネレーションに関する法律、エンドユース
実証したいと考えている。京都議定書の他の締約国
機器におけるエネルギー効率要件、エネルギー需要
も批准と実施に向けて早急に措置を講ずることを望
管理、ならびに公共調達および道路輸送から他の輸
むものである。気候変動との取組みに一刻の猶予も
送手段への転換におけるエネルギー効率促進などの
ない。
」さらに、
「排出権取引制度は、最も費用対効
取組みが含まれている。
果の高い方法で排出量を削減する EU 戦略において
加えて、委員会は、共同体の GHG モニタリング・メ
重要な礎となるだろう。
」と付言した。
カニズムを京都議定書の要件に沿った提案、そして
a. 京都議定書の批准に関する理事会決定:
新 EU 排出権取引制度における京都議定書に基づく
EU における GHG の排出量を 2008〜2012 年の期間
クリーン開発メカニズムおよび共同実施からの排出
中に1990年の水準から8%削減するという目標を含
権クレジットの利用に関する提案を行う意向である。
め、京都議定書を EU にとって拘束力のあるものと
するためには、欧州共同体および加盟諸国双方が京
これらの対策は、委員会の ECCP のもとで特定され
都議定書を批准することが不可欠である。従って委
たおよそ 40 に及ぶ施策リストに盛り込まれている。
員会は、共同体を代表して議定書締結に関する理事
ECCP は、2000 年 3 月に委員会が開始し、GHG 排出
会決定案を提出した。理事会により採択されれば、
を削減するための費用対効果の高い方法を特定し、
同決定は、京都議定書に定められた 8%削減目標達
それらについて勧告を行う上で、幅広い方面からス
成に対する加盟各国の貢献に対しても法的な拘束力
テークホルダーおよび専門家の参加を得てきた。最
を有するものとなる。このいわゆる「責任分担
初の成果は 2001 年 6 月に報告書にまとめられ、7 月
(burden-sharing)
」はすでに 1998 年 6 月 16 日に環
の会議で発表された。40 項目の施策案は、EU が京
境理事会の承諾を得ている。これにより、一部加盟
都目標値を達成するために必要と思われる量の約 2
倍の総排出削減量を生み出すものと見込まれる。通
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達に発表された 10 項目の対策だけでも、2010 年の
続と十分に調整が図られることになる。加盟国は認
EU 予測排出量と京都目標値(CO2 340 メトリック
可に基づき、毎年各施設に対し排出枠を配分する。
トン相当)との格差の半分近くを埋めるに十分と思
そして、排出量の削減を図るためにかかる排出枠を
われる。これはすべて、低コストでの負担(CO2 換
徐々に削減していく。取引の可能なこの排出枠であ
算で 1 メトリックトンあたり 20 ユーロ未満)
で実現
るが、施設の経営体が取引を強要されることはない。
可能である。
経営体は毎年 3 月 31 日までに、
前歴年における施設
の排出量に相当する割当量を供出しなければならな
ECCP は引き続き実施され、第 1 段階ですでに特定さ
い。同指令は、十分な割当量を供出しない経営体に
れた他の排出量削減策もさらに綿密に検討される予
対し統一した課すべき罰則を定める。加盟国は、
定である。
2005 年〜2007 年の間、委員会が承認した各国の配
分計画に、そして政府助成および加盟各国における
c. GHG 排出権取引に関する指令:
分野間競争歪曲を回避できるよう一定の基準に従い、
EU 域内 GHG 排出権取引制度は、費用対効果の最も
無償で排出割当量を配分する。委員会は、2008 年〜
高い方法で京都目標を達成するための委員会戦略に
2012 年の間は、後の段階において統一した配分法を
おいて、重要な礎となるものである。排出権取引は、
明らかにする。
かかる排出量削減が最小コストで賄えることを確保
することにより、排出量削減のコストを削減するで
加盟国は割当量の保有と譲渡の正確な会計を確保す
あろう。同時に、対象となる活動から予定の排出削
べく国内登録簿を作成し、委員会は割当量の個別の
減分を達成することができることから、環境面でも
記録を保管するために共同体レベルでの中央管理官
有効である。委員会は 2000 年 3 月にグリーン・ペ
(Central Administrator)を任命する。加盟国は、同
ーパーを発表し、排出権取引に関する広範な協議を
指令の実施状況につき毎年委員会に報告する。指令
開始し、さらに同制度の詳細な構想については、
はまた、施設からの排出量のモニタリングおよび報
ECCP のもとでステークホルダーとの議論が進めら
告の原則も定め、これに基づき委員会は、後の段階
れている。同指令案は、排出権取引に対する EU の
でより詳細なガイドラインおよび経営体の報告の検
枠組み、および EU 全域に及ぶ排出権市場を確立す
証基準を採用する。
ることを目的とするものである。それによって、域
内市場の適切な機能を確保すると共に、個別の国内
ヴァレストレム委員は排出権取引に対する相当な関
排出権取引制度から生じうる競争の歪みを防止する
心を認め、以下を強調した:
ものである。
「排出権取引案は、欧州の環境政策にとって重要な
委員会は、EU では 2005 年に排出権取引を開始し、
新機軸である。私達は、事実上新しい巨大市場の創
第 1 段階においては大規模工業事業およびエネルギ
出を続けており、最もコスト意識の高い方法で温暖
ー事業から排出される CO2 を対象とすることを提案
化防止目標を達成するため、市場原理を活用するこ
している。
とを決意した。また、市場を適切に機能させ環境利
益をもたらすために、必要なメカニズムを構築しな
ければならない。
」
これらは、2010 年における EU 域内の CO2 総排出量
のおよそ 46%に相当し、域内では約 4,000〜5,000
の施設が影響を受けるであろう。委員会は、2004 年
さらに、
「排出権取引は、今後数十年にわたり他の分
に同指令の適用範囲を他の分野および GHG にまで
野や GHG も取引対象としていく中で、ますます重要
拡大することを検討している。
な役割を果たすであろう。私達 EU の制度は、新生
の国際排出権取引制度とも十分に適合するでしょう。
同指令の対象となる各施設は、GHG 排出認可を各加
とは言え、第一歩として、制度が十分な管理のもと
盟国の権限のある当局に申請しなければならない。
に機能することを証明し、制度への信頼を確立する
本認可手続きは、不必要な官庁の煩雑な手続を回避
ことが不可欠である。
」と言い添えた。
するため、IPPC に関する指令 96/61/EC に基づく手
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最後に、次のように述べた:
ヴァレストレム環境委員は、次のように述べた。
「こ
れは気候変動に対する国際的闘いの中で画期的な出
「本日この気候変動に関する一連のパッケージ措置
来事である。ブエノスアイレスから、ハーブそして
が欧州委員会によって採択されたことに大変満足し
ボンを経てマラケシュに至る道は長く険しい道程で
ている。批准案は、京都議定書の 2002 年までの発
あり、極めて大切な乗客を一人途中で失ったとは言
効に一歩近付けてくれる。排出権取引案は、私達が
え、このような成功を収めることができたのは歓び
新手段を使うことにより、どれほど公約実現を意図
に耐えない。京都議定書が 1997 年に採択されて以
しているかを示すものである。通達は、EC がどれか
来 4 年に及ぶ困難な交渉をここに終え、今度は議定
一つの対策あるいは分野に絞り京都公約を達成しよ
書を発効し、GHG 削減に本格的に取り組む道を開く
うとするのではなく、広範な活動領域での同時行動
を起こす意向であることを強調する上で重要である。
時間的余裕もなくなりつつあり、理事会が迅速に私
ない。それを人々が期待していることだ。EU のよう
に他の締約国すべても、2002 年 9 月の持続可能な開
達の提案を採択することを期待している。
」
9.
ため新たな旅に出る。足早に歩を進めなければなら
発に関する地球サミットまでに議定書を発効するた
めの施策を講ずるべきである。
」
EU、気候変動と取組むための運用ルールに
関するマラケシュ合意を歓迎
Deleuze 団長は、
「もう一度繰り返して言う。
EU は、
EU は、
2001 年11 月10 日付プレスリリースの中で、
気候変動に対する闘いに関する国際交渉においてリ
GHG排出量削減のための国際的枠組みである京都議
ーダーシップを発揮した。
」と述べた。
定書の運用化という目的を達成したことを明らかに
した。2 週間に及ぶ困難な交渉の末、マラケシュで
また、ヴァレストレム委員は、
「全世界の人々は、気
開かれた気候変動枠組み条約第 7 回締約国会議
候変動の脅威に直面し、一致団結への意思を明確に
(COP7)は、気候変動取組みの運用ルールについて
表明した。
」と強調した。
合意に達した。合意されたパッケージは、遵守ルー
ル、いわゆる「柔軟性措置」
、ならびに締約国のモニ
COP7 の最も重要な成果は以下のとおりである:
タリングおよび報告義務に関する決定事項を含む。
7 月に行われたボンの政治的合意の実効化。す
締約国すべては、パッケージが京都議定書の遅延な
べての規定が法律文化された。
き批准に十分であろうとのことで意見が一致した。
議定書は、先進工業諸国の GHG 総排出量の 55%を
根拠のしっかりした遵守制度の制定。京都議定
占める 55 締約国によって批准されなければならな
書発効後に実施に移される。
い。
京都メカニズムのルールと法性の決定。これに
よりクリーン開発メカニズム(CDM)の迅速な
EU 代表団長を務めた Olivier Deleuze は、
「京都議定
開始および共同実施(JI)プロジェクトの開始
書は救われた。当初の一部諸国の抵抗を排除して、
が可能となる。
ボン合意を公式に承認ならびに保持することができ
国際排出権取引の 2008 年からの開始。
た。今や一般市民に向かい、地球全体を脅かしてい
モニタリングおよび報告手続の確立、ならびに
る気候変動の深刻な影響をくい止めるためにようや
京都メカニズムの運用の透明性と確実性の確
く行動を起こすことができると報告できる。マラケ
保。
シュ会議の成功は、9 月 11 日の悲劇的事件にもかか
吸収源活動(sinks activities)すなわち森林管理
わらず、国際社会がグローバルな難題に積極的に取
や農業の土地利用からのクレジットの譲渡に
り組むことができることを実証するものである。そ
関するルールの制定。
れは、より持続可能な将来の構築に向けて引き続き
協力することができるすべての国の能力に対する、
気候変動に適合するための後発開発途上国に
一般市民および政治指導者の信頼の証に他ならな
対する支援。
い。
」と言明した。
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10. 欧州委員会、吸収源による GHG の吸収量を
検証する方法を発表
分達の研究が世界で最も進んだものであり、炭素サ
GHG排出量の削減目標を補う方法として炭素吸収源
るものであると、報告書中で述べている。
イクルに関する世界の研究の「テンプレート」とな
の利用に対し長年にわたる異論にもかかわらず、委
員会は、2001 年 11 月 13 日、京都議定書の実施にお
「京都議定書が欧州社会に与える政策面での影響か
いて「基本的役割」を果たすことになる、森林によ
ら、リーダーシップを維持することが私達にとって
る GHG の吸収量を検証する方法を構築したと発表
戦略的に重要である。
」と、カーボグループの主導的
した。
地位の参加者であるイタリア人科学者 Riccardo
Valentini は指摘している。
「欧州の研究グループがついに開発した独自の新手
措置の包括的効果を実証するのに利用でき、そして
11. 排出権取引に関する欧州電気事業者連盟の
見解
将来は拡大されてより正確さを増すであろう。
」と、
欧州レベルで設置されるいかなる取引制度も、とも
EU の科学者がまとめた報告書「The Carbon Sink:
かく初期においては企業の自主的関与を基盤とし、
Absorption Capacity of the European Terrestrial
Biosphere(炭素吸収源:欧州の陸生生物圏の吸収能
すべての GHG を対象とすべきである。また、結果と
力)
」は記している。
たらすために要求される点に厳しく限定されるべき
法により、いずれは欧州全域での京都議定書の実施
して発生しうるいかなる罰則も、望ましい行動をも
である。欧州の排出権取引制度創設のための指令案
また委員会は、欧州における産業の炭素排出量の
を委員会が発表したのに伴い、欧州電気事業者連盟
3 分の 1 近くは、吸収源として欧州の生物圏に吸収
(Eurelectric)はプレスリリースを出した。欧州の電
されることを証明する新たな科学的証拠があると述
気技術者達はプレスリリースの中で、結果がどのよ
べている。EU の科学者グループが達したそのような
うなものであれ、このように設置される制度ならび
結論にもかかわらず、研究者らは、生物圏の供給源
に予定割当配分は、企業にとって各社自らの活動を
としての長期的能力は「極めて脆弱」であり、
「長く
計画できるという十分な保証を与えるものでなくて
続く特質ではないだろう」と述べている。
はならないと強調している。また、同じ領域内で二
重に負担を負うようなことがあってはならず、加盟
にもかかわらず、吸収源の検証における突破口は、
国間あるいは産業分野間での競争歪曲を回避すべき
GHG 排出量を 2012 年までに 1990 年の水準から 8%
である。
削減するという京都議定書の目標を達成するための
EU の取組みが重要な役割を果たすだろうと述べて
欧州の電力業界は、本指令案が有効な手段となりう
いる。
るものと考え、本指令案に関する建設的な協議に積
極的に参加したいとの意向を改めて明らかにした。
8 つの研究プロジェクトから成る「カーボヨーロッ
そして、長年にわたり気候変動に関する同様の協議
パ(CarboEurope)」と呼ばれるプロジェクト郡
に参加し、一貫して市場指向型の政策および対策の
(cluster)は、以下のような結論も下している:
策定に積極的なアプローチをとってきたと述べた。
また、GETS 1 および 2 の排出権取引シミュレーショ
陸生生物圏の炭素吸収源は、今では科学的に測
ン、および本プロジェクトの第 3 段階である GETS 3
定可能であり、2012 年までに独立した炭素検
の GHG 排出削減義務のひとつであるメカニズムの
証システムの実施が期待できる。
技術的実行可能性においてこれまで積み上げてきた
生物圏炭素供給源の将来は安全ではなく、欧州
経験を提示している。Eurelectric は、将来の欧州メ
の研究グループは、2050 年までに炭素吸収源
カニズムにおいて考慮すべきキーとなる一般的要素
は飽和密度に達し、その後は衰退すると予想す
を概説している:
る。
−
EU の科学者はまた、こと吸収源の研究に関しては自
JMC environment Update
欧州の制度を加盟国の義務遂行のための戦略と
適応させる。
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
−
−
排出権取引参加者に、エネルギー税あるいは
に関する必要なすべての協議は数ヵ月のうちに終わ
IPPC 制限など、余分な負担を課さない。
らせ、12 月には各国元首が手続を決定しなければな
早急に京都議定書で掲げる GHG 6 種すべてを含
らないと述べた。
める。
−
また、
「12 月に全会一致の合意に達することができ
他の柔軟性措置、あるいは国内の措置、を基盤
とするプロジェクトからのクレジットを認める。
−
実際の排出権取引を害するような提案をするこ
−
ない時期に来ている」と述べた。
「それはより密接な
協力を意味するものだ」
。
「より密接な協力(いわゆ
とを回避する。
−
なければ、方向転換し、別の道を探らなければなら
る「先行統合」
)
」は、2000 年 12 月に交渉されたニ
工場レベルではなく、分野または企業レベルで
ース条約の一部として EU 加盟国が合意した手続き
正式な遵守を確立する。
である。これにより加盟国は、全会一致が見られず
排出権取引市場の流動性を制約するような検証
に阻まれる法律制定に関しても前進を図ることがで
プロセスを回避する。
きる。
Eurelectric は、いかなるメカニズムも、国内経済に
しかしながら、より密接な協力の手続きを活用する
衝撃を与えることは避けるべきであり、加盟国間あ
には、まずニース条約を批准しなければならない。
るいは産業分野間にいかなる歪みをも生じさせるべ
2001 年前半、アイルランドの有権者はニース条約加
きではなく、各国の事情を考慮に入れるべきである
盟を否決した。同条約を実施するには、全加盟国が
と主張している。
批准することが必要である。
12. EU 各国蔵相、エネルギー調和税の決定を
12 月まで棚上げ
エネルギー調和税と EU エネルギー市場の自由化を
EU 各国蔵相は、2001 年 9 月 22−23 日、2001 年末
Bolkestein)欧州税制委員は、そのような動きには反
までに EU 全加盟国 15 ヶ国のエネルギー調和税を全
対だと述べた。
「エネルギー調和税を巡る情勢だけ
会一致で合意するか、あるいはごく一部の国に初め
でも十分に複雑だ。それをもう一つの複雑な問題で
て課税実施を認める手続きに着手するかの決定を行
あるエネルギー自由化と関連付けても、大きな利点
った。
があるとは思えない。
」とも述べた。
経済相および蔵相閣僚会議の非公式協議において、
エネルギー自由化の問題は、大半の加盟国がエネル
スペインおよびアイルランドは引き続きエネルギー
ギー市場を完全自由化しているのに対し、自由化し
調和税に反対を唱えた。両国は、課税がインフレに
ていない国もあることから、EU では大いに議論を呼
及ぼす影響に懸念を表明すると共に、いかなるエネ
んでいる。しかし、中でも市場が閉鎖的であるフラ
ルギー調和税も、EU がエネルギー市場を完全自由化
ンスなどの国は、Electricite de France など国有公益
した後に実施すべきであると主張した。
事業体を抱えており、他の加盟国企業を買収してい
連動させる問題について、ボルケスタイン(F.
る。
委員会ならびに大多数の加盟国は、エネルギー調和
税は、EU が京都議定書の GHG 削減目標を達成する
匿名希望のある欧州委員会高官は、スペインが、エ
上で必要とする決定的な政策であると考えている。
ネルギー自由化の問題をエネルギー調和への動向を
京都条約は、先進工業諸国に対し、2008 年から 2012
阻む手段に利用していると述べている。
年までの期間に GHG 排出量を共同で 1990 年の水準
より 5.2%削減することを求めており、EU は 2012
委員会は 1997 年に初めてエネルギー調和税を提案
年までに、GHG を 8%削減することを約束している。
した。この提案は、1992 年に提案の炭素税が閣僚理
事会で阻止された後に行われたものである。
ベルギーのレインデルス(D. Reynders)蔵相は、前
述の 2 加盟国に対し苛立ちを募らせながら、技術面
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
租税に関する提案はすべて、閣僚理事会の全会一致
ものである。
の承認を受けなければならない。欧州議会には、税
制問題に関する拒否権はない。
当該車種の「始動」要件は、より厳しい排出規制と
燃料の質に関する基準を導入した 2000 年の EU「自
13. 省エネ家電に関する協定を欧州委員会が
承認
動車オイル」立法計画の対象にはなっていない。
委員会の競争総局は、11 月 26 日、家庭用食器洗機
液化石油ガスあるいは天然ガスで作動する火花点火
2003 年 1 月 1 日をもって、新指令では、ガソリン、
型エンジンも適用対象となる3。
および給湯器の省エネ化を進めるため欧州メーカー
との協定を承認した。決定に先立ち、欧州家電メー
議会環境委員会は、5 月 15 日に議会が採択した修正
カーは、高消費電力電気製品の製造および輸入の取
りやめに合意した。
「協定を検討した委員会は、省エ
に対し、EU 加盟 15 ヶ国政府を代表する閣僚理事会
ネおよび環境利益は競争規制を補って余りあるとの
からの異議はなかったことを報告した。かかる修正
結論に至った。
」と、同日の声明で述べている。
には、都市公害の主要汚染源と指摘されている軽量
運搬車輌の一酸化炭素および炭化水素に対する低温
排出ガス規制の強化が盛り込まれている。
欧州家電工業会(CECED)は、2000 年 6 月、欧州の
ほぼすべての製造業者の参加を得て、法的に独立し
た 2 つの協定を発した。高消費電力電気製品のボイ
理事会は、拘束力のある法制定に向け、修正案に署
コットは、電気給湯器が 2001 年 12 月 31 日、食器
名する予定である。
洗機が 2003 年 12 月 31 日に実施に移される。協定
即ち英国、ベネルックス 3 国およびスペイン市場を
15. 閣僚理事会、二輪車および三輪車に関する
「共通の立場」を採択
併せた規模相当の製品が影響を受けることになる。
自動二輪車あるいは三輪車の型式認定を扱う指令案
関係者はまた、共同省エネ目標の追求、家電のより
に関する「共通の立場」
(COM(1999)276)が、10
エネルギー効率の高い利用法に関して消費者に提供
月 29 日、理事会によって採択された。同指令案は、
する情報公開の向上、そして適正技術の開発推進に
現行の指令 92/61/EE を廃止し、新しくインフォメー
も合意した。協定の成果についてはモニタリングが
ション・シート、型式認定用のナンバリング・シス
行われ、定期報告が委員会に提出され、一般市民も
テム、および技術認証など、文書および行政手続き
閲覧することができることとなる。同協定は、水平
の統一を図るものである。また、例えば、騒音・汚
的協力に関するガイドライン(環境協定第 7 章)に
染物質放出テストの結果書式を導入し、各加盟国内
定める原則に照らし分析された。委員会は、すでに
で流通が認められる製造中止の車両台数について新
2000 年 1 月、洗濯機に関する同様の CECED 協定を
たな要件を加えている。理事会は、閣僚が信じる「最
承認している。いずれの場合も協定は競争にかなり
の影響を及ぼすので、委員会は、同協定が消費者に
新技術により生じるニーズに対応し、高水準の交通
安全を保証する現実的な解決策」を反映する修正を
実質的・技術的便益をもたらすかどうかを評価しな
いくつか「共通の立場」に加えた。
締結以前に販売された電気製品のおよそ 4 分の 1、
ければならなかった。
14. 欧州議会、「始動(Cold Start)」による
自動車排出ガス削減ルールを採択
議会は、11 月 14 日、EU 域内の自動車排出ガス規制
法の格差を是正するための法案を承認した。
この規則は、ライトバンおよびユーティリティカー
3
ならびに乗客定員 6 名以上あるいは総重量 2,500
キロ以上のカテゴリー車の「始動」排出量に関する
JMC environment Update
60
自動車による大気汚染防止策に関する指令および修正指令
70/220/EEC(コールドスタート・テスト)。欧州委員会文書
COM(2000)487、2000 年 12 月 19 日付 EU 官報 C365E、p.268
に発表。
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
16. 自動車の CO2 排出量削減に関する欧州委員
会報告
Change)に関する委員会通達に関連したものである。
委員会によれば、自動車の CO2 排出量削減に関する
委員会は、EC 条約 95 条に基づき提案された新たな
共同体戦略の実施は、「相当の進展」を遂げた。
措置が、欧州の認可制度を形作り、各国当局の発行
11 月 8 日に採択された本件に関する欧州委員会の第
するあらゆる新規認可に対し義務付けられる、と説
2 次報告書において、委員会は、加盟数ヶ国が指令
明している。また、1995 年発表通達において、乗用
99/94/EC(新車の CO2 排出量サーベイランス・プロ
車の総 CO2 排出量の削減を目指す戦略を提案し、
グラム)の発効を延期していることに特に言及して
1996 年 6 月1 日に理事会により承認された。
そして、
いる。共同体の戦略は、2005 年、遅くとも 2010 年
2005 年(遅くとも 2010 年)までにすべての乗用車
までに、
平均 CO2 排出量を乗用車の新車の場合 120 g
の CO2 排出量を 120 g/㎞とする目標を定め、3 つの
/㎞、特定の新車の場合も 120 g/㎞にすることを
柱を基盤としている。即ち、自動車業界との任意協
目指す。欧州自動車工業会(ACEA)ならびに日本自
定(欧州の ACEA、日本の JAMA および韓国の KAMA
動車工業会および韓国自動車工業会(JAMA、KAMA)
と締結した協定)、燃費ラベル表示制度(指令
は、2008〜2009 年までに排出量 140 g/km を達成す
1999/94/EC)
、および乗用車新車の平均 CO2 排出量
るために燃費削減を公約した。
をモニタリングするプログラム(決定
1753/2000/EC)である。また、財政措置の適用も定
めている。
報告書によれば、すべての自動車工業会は、EU 市場
で販売された自動車の平均 CO2 排出量の削減に成功
している。ACEA は 2000 年までに、中間目標値であ
軽量商用車(N1 車)とは貨物輸送に使用される総重
る 165〜170 g/㎞の上限をすでに達成した。JAMA
量 3.5 トン未満の車両である。ACEA によれば、現在
N1 車のメーカーは 11 社あり — 2000 年の EU 域内
は、平均 CO2 排出量を 183 g/㎞にまで下げた。こ
れは 1995 年水準の 6%削減に相当する。1995 年か
における販売台数は約 180 万台 — 約 94 のベー
ら 2000 年までにおける KAMA の成果は、197 g/㎞
シックモデルが生産され、各モデルには最低 10 種類
から191 g/㎞へと、
その削減幅はわずかであった。
のバージョンがある。これら車両の CO2 排出量は、
「欧州委員会は、KAMA がその努力を大いに強化し、
今後遅れを取り戻すことを願っている。
」と報告書は
EU 域内において道路輸送による総 CO2 排出量の
記している。最終目標を達成するためには、更なる
量を規制するため、委員会は、N1 車も適用対象に含
努力が必要であり、年間の削減率が現行水準を大幅
めるよう、指令 80/1268/EEC の適用範囲の拡大を提
に上回る約 2%に維持する必要がある。同時に、委
案している。さらに、乗用車の CO2 排出量に関する
員会は共同体が引き続き財政措置に取り組むことを
モニタリング・プログラムの採択に関して議会で公
提案している。
約したように、軽量商用車の具体的な CO2 排出量を
10%近くを占めている。同カテゴリー車の CO2 排出
測定する統一手続の範囲と影響について調査を行っ
たことを明らかにしている。専門家は、同カテゴ
17. 欧州委員会、軽量ユーティリティ・カーの
排出削減案を提案
リー車の燃費および CO2 排出量の測定にも、指令
70/220/EC(自動車の大気汚染防止措置に関する国内
委員会は、軽量商用車(N1)の二酸化炭素(CO2)
法に近似)の排出量測定テストを適用するのは技術
排出量および燃費を測定するための統一義務基準の
的に適切であり、かつ費用対効果もより高いと見て
導入を目指す指令案を提出した。これは、乗用車を
いる。
対象とした既存の制度(COM(2001)543)と同種
のものである。同指令案は、既存の指令 80/1268/EEC
18. 欧州委員会、加盟 11 カ国に対し乗用車の
CO2 排出量のモニターを怠ったとして違反
手続を開始
を修正し、N1 カテゴリーの車両も対象とするよう適
用範囲を拡大したものである。これは、とりわけ輸
送分野における、より正確な測定を通して GHG 排出
量を削減する戦略を提案している欧州気候変動プロ
委員会は、オーストリア、ギリシャ、フィンランド、
グラム(EPCC: European Programme on Climate
スペイン、デンマーク、ベルギー、イタリア、アイ
ルランド、ルクセンブルク、ポルトガルおよびスウ
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
ェーデンに対し、乗用車新車の CO2 平均比排出量の
モニタリングに関する 2000 年決定(1753/2000/EC)
議会は、345 票対 195 票で、この提案を騒音枠組指
の重要な要素を遵守していないとして、違反手続を
令に転換する修正を採択し、委員会に対し 3 年以内
開始することを決定した。
に特定の騒音発生源に関するフォローアップ案の策
定に着手するよう求めた。
ヴァレストレム委員は、講じられた法的手続につい
てコメントし、次のように述べた。
「関係加盟国がで
EU は、自動車および産業用機械による騒音発生に関
きるだけ早く要求するデータを提出することを望む。
する法律を制定しているが、今回の指令案は環境雑
それは、乗用車 CO2 排出削減および燃料節約改善に
音に対する EU 初の措置である。同案は、EU 域内共
向けた委員会戦略案の重要な要素である。また、加
通の測定方法および問題地域を特定する「騒音地図」
盟国が京都議定書に定められた GHG 排出削減の目
のデザインを決め、最終的にこれに従い各国が騒音
標を達成する上でも役立つものである。
」2000 年決
規制計画を策定することを目指すものである。
定は、共同体制度が適切に機能し、EU 内で登録され
た乗用車新車の CO2 平均比排出量をモニターできる
今回の議会での決議により、同指令の最終版につい
よう最低限のデータが編纂されるよう図ることを目
て EU15 加盟国政府を代表する閣僚理事会との「調
的としたものである。さらに、加盟国に対し要請時
停」交渉が始まることになる。これまでのところ、
にはデータを委員会に提出し、モニタリング情報を
閣僚は議会案を時期尚早として棄却している。
収集・伝達する権限ある当局を任命し、決定条項を
いかに実施する計画なのかを委員会に報告すること
議会では環境保護活動家が、24 時間前に欧州人権裁
を義務付けている。情報の収集、伝達、モニタリン
判所が下した先例的事件の判決に勇気付けられてい
グ、および実施に関する報告の期日は 2001 年 2 月
た。裁判所が、ロンドンのヒースロー空港の夜間飛
28 日であった。
行による睡眠妨害は人権侵害にあたると裁定したの
だ。
関係加盟国は、定められた 2001 年 2 月 28 日の期日
までにいかに規定を実施する計画であるかについて、
委員会案の議会における綿密な調査は、緑の党のメ
委員会に一切報告を行っていない。また、フィンラ
ンバーで欧州議会環境委員会の副委員長を務めるオ
ンドを除きこれらの諸国は、2001 年 2 月 28 日の期
ランダのルー(A. de Roo)議員が調整役を務めた。
日までにモニタリング情報を収集・伝達する権限あ
同議員は、前日の「完璧なタイミング」の裁判所の
る当局を指名していない。さらに、フィンランドを
判決について、
「今後の騒音防止政策に対し重要な
除き、2001 年 7 月 1 日の期限までに乗用車 CO2 排出
シグナル」を送る「画期的な判決」であると評し、
量に関する必要なデータを委員会に提出していない。
「議会は、今こそ EU にとって本格的な騒音公害政
一方、数ヶ国はこれら要件の一部を満たしたことを
策を策定すべき時だ、という明確なシグナルを送っ
言及すべきだが、これも定められた期限を過ぎてか
た。私達もまた、今度の指令目標をさらに厳しい内
らのことである。例えば、デンマークとイタリアは
容とした。即ち、閣僚の目指す単なる騒音緩和とい
データを提出した。
うよりは、騒音削減に重点を置くことである。これ
が、生活の質の向上を直接もたらすであろう。
」と言
19. 欧州議会、騒音基準に関する新法を要求
い添えた。
議会は、2001 年 10 月 3 日、EU 全域での騒音公害対
ヴァレストレム委員は、議会のキーとなる要求に対
策要求の推進を決議した。
する支持を断った。そして「
[委員会が]策定したい
議員達は、委員会に対し、環境騒音曝露の測定に関
と望んでいる革新的な騒音政策の成功は、とりわけ
する提案を将来的に拘束力のある基準の立法基盤に
収集できるデータの有用性にかかっている。
」と指摘
したいとの考えである4。
4
COM(2000)468、2000 年 11 月 28 日付官報 C337、p.251 に発
表。
環境騒音の評価と管理に関する指令案、委員会文書
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
した。現在の欧州全域での比較可能なデータの不足
の種類および古さにより正確な状況は異なってくる
が「明白な」障害となっている。
ものの、多くの場合、結局大幅なコスト増を招くこ
とになるだろう。これに関連して、既存設備から排
また、
「例えば、各種道路車輌の[騒音]規制を定め
出される水銀およそ 12,000 トンから 15,000 トンを
た数多くの市場アクセス法規がすでにある。新し
徐々に処理しなければならないが、この処置は環境
い・・・法を導入するよりは既存の法律の騒音基準
に深刻な影響を及ぼしうると専門家は警告している。
を厳しくする方が簡単であるし、手早いでろう。
」と
BAT 利用がもたらす便益を保持するためには、水銀
述べた。
の安全を確保および制御された処理を可能にする条
件を最優先していくことが必要である。専門家はこ
20. IPPC 指令:参考文書の公表
れを、既存の設備を BAT に効率的に転換するための
委員会は、包括的汚染防止管理に関する指令
必要不可欠な条件と考えており、転換計画に確実に
96/61/EC(いわゆる IPPC 指令)の規定に従い、書
多大な影響を与える要素であり、そして産業一般お
面による手続を通し、4 つの新文書を採択した。文
よび特に各関係施設と緊密な協力を必要とするもの
書は、ガラス製造分野、鉄金属加工、塩素およびナ
である。
トリウム産業、ならびに工業用冷却システムに関す
るものである。IPPC 指令は、欧州委員会に対し、指
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
令の正しい実施に不可欠な利用可能な最善の技術
(BAT)に関する情報交換を実施することを求めて
いる。この情報交換の結果は、BAT およびフォロー
II. ドイツ
アップ・メカニズムなど他の重要な側面に関するデ
ータを記した「参考文書」に記録されている。これ
1.
を含む)委員会の関連業務の代表とともに、加盟国、
政府、企業に対する EMAS 監査実施奨励法
を採択
加盟候補国、業界団体および環境 NGO の専門家で構
2001 年 9 月 19 日 に 政 府 が 採 択 し た 新 法
成される専門作業グループにより起草される。2001
(Privilegierungs verordnung)によると、ドイツは、
年 7 月に参考文書の最初のシリーズが委員会により
EU 環境管理・監査スキーム
(EMAS: European Union’s
採択され、発行された。今後 4−5 年間に同作業グル
Eco-management and audit scheme)に自主参加す
ープが刊行予定しているおよそ 30 点の文書のうち、
る企業に対し、排ガスおよび廃棄物管理規制緩和な
現在のところ 10 点が入手可能である。
どの優遇措置を約束している。
さらに具体的に述べると、塩素およびナトリウム産
EU は 1993 年に EMAS 規則を初めて公表し、2001
業に関する BAT 参考文書に関して、EU 理事会は、
年に「共同体環境管理・監査スキームへの団体によ
2001 年 6 月、委員会に対し、塩素およびナトリウム
る自主参加を認める規則 761/2001」として同措置を
産業の転換に関する法的状況を明らかにし、すべて
実質的に改定している。
らの文書は、
(共同研究センターである欧州 IPPC 局
の関係当事者を考慮して水銀の使用が及ぼしうる影
響 or 起こりうる結果を確認するよう求めた。この分
今回の法令は、連邦参議院(Bundesrat)を通過しな
析は現在も進行中で、委員会がこの件に関する最初
ければ発効できないが、2001 年 4 月発効の EU 規則
の報告書を、環境理事会の 2001 年 12 月の会合にお
761/2001 を実施するための国内法を構成するもの
いて加盟国に提出しなければならない。このように
である。
提議された問題から明らかなように、未決の BAT 文
書は、既存の施設から排出される水銀を削減するこ
いわゆる EMAS Ⅱとして知られる
「2001 年 EU 規則」
とを定めれた一連の措置の一定条件における適用を
は、加盟国とって自主監査に参加する企業に対する
規定している。EU および加盟候補国で製造されてい
規制上の優遇措置提供の自由裁量を与えるものであ
る塩素の 60%以上が、水銀電解施設で生産されてい
る。EU は、EMAS 監査を企業にとってさらに魅力的
るものである。最良利用可能技術への転換は、設備
な制度にするため同規則を改定している。これまで
JMC environment Update
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
大半の企業が、EMAS プロセスより国際標準化機構
あるいはリサイクリングに対し責任を負うと規定さ
の ISO 14000 環境管理シリーズの認証取得を選択し
れている。
てきたからである。
同法には、リサイクル業者との契約に関して事業所
そこで、生産と管理における環境管理原則の採択お
に自由裁量を与え、地方のゴミ集積所あるいは焼却
よび記述、ならびに認定技術専門家によるかかる慣
施設を運営する地方公営企業が支配する廃棄物管理
行の認証を含む監査の実施を奨励するインセンティ
制度に競争を創出するという意向があった。再利用
ブを企業に与えようと考えたのである。
可能な原料は、民間のリサイクル会社、通常は発生
源となる企業に低コストで売却、または引き渡すこ
トリッティン(Trittin)環境総のプレスリリースによ
とができる。同法によると、残りの廃棄物−実際に
ると、EMAS 原則が要求する国内統制(internal
再利用できない廃棄物−だけは、適切な処分を保証
controls)
は州統制と同等であるとし、
ドイツの EMAS
すべく公営の廃棄物処理会社が引取らなければなら
認定企業には、州の定期的排ガスおよび廃棄物管理
ないとされている。通常、この方がコスト高になる。
の統制を免除することができる。
しかし、官民の機関同様に企業も再利用可能な原料
また、州の承認を必要とする産業工場の操業および
と廃棄物を混ぜ合わせ、その混合物を再利用可能と
/または建設の許可を得るための文書は、EMAS 承
宣言してしまうと、同省は述べている。
認用の情報を直接入手でき、企業および当局の業務
簡素化につながると述べた。
民間のリサイクル業者は、一方、このような混合廃
棄物の内わずかな量しか再利用できない。それどこ
2.
政府、商業廃棄物管理改善法を採択
ろか、単に安価な処分場にほとんどを投棄している
内閣は、2001 年 11 月 7 日、事業所に対して単純な
だけであるという。結果的に、地域の公営廃棄物処
非有害性廃棄物の徹底的な分別およびリサイクリン
理会社が引き受ける事業所からの再利用できない廃
グ対策の強化を義務付ける新しい商業廃棄物法
棄物は見込みより少なくなり、高品質かつ費用のか
かる焼却施設あるいはごみ集積場を費用効率的に運
5
(Gewerbeab fallverordnung)を採択した 。
営できないと、説明している。
同法を起草した環境省のプレスリリースによると、
「目的は、原料あるいはエネルギーの再生による廃
同省によると、民間の廃棄物管理業者への変更とい
棄物の無害性および高品質な再利用を保証すること
う選択肢をもたない公共事業体(public households)
である」という。そして、事業所がリサイクル可能
が割高料金を負担して公営施設の料金を支払わなけ
な原料とゴミを混ぜ合せ、再利用可能と宣言してい
ればならないので、事業所の費用のかからない「擬
ることに言及し、
「現在実施されているような見せ
似リサイクリング(pseudo-recycling)
」慣行の費用
かけの再利用は終息させる」としている。さらに、
を負担しているようなものだという。
地域の公的処分サービスが、地域事業所からの妥当
新法では、事業所が紙、ガラス、金属、プラスチッ
な量の廃棄物を引き受けるようにするという。
ク、繊維、および生物分解性物質など、リサイクル
同法の発効には、ドイツ議会両院の承認が必要であ
可能な原料を分別回収するためのスペースを敷地内
る。審議の日程はまだ公表されていない。
に用意しなければならないとし、もしそのような場
所の確保が技術的に不可能な場合、あるいは耐え難
1996 年廃棄物管理およびリサイクリング法
い経済的負担となる場合にしか分別回収は免除され
(Kreislaufwirtschafts- und Abfallgesetx)によると、
ない。
事業所はその単純廃棄物−家庭ゴミに相当−の処分
いずれにしろ、リサイクル用廃棄物は、他の素材の
5
含有量が 5%以下でなければならないとしている。
「連邦政府内閣が商業廃棄物法を採択」を参照。プレスリリー
ス。2001 年 11 月 7 日。
JMC environment Update
また、同廃棄物を受入れるリサイクル会社は、その
64
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
85%を確実にリサイクルしなければならない。リサ
III. 英国
イクルできない廃棄物は発生源である事業所で分別
されなければならないし、さらに地域の公営廃棄物
1.
処理場または焼却施設に提供されなければならない
という。
3.
環境庁は、2001 年 9 月 28 日、イングランドおよび
ウェールズにおける企業パフォーマンスの優劣に関
独連邦カルテル庁、
リサイクリング会社 DSD
の反競争的行動を調査
する第 3 回年次報告書の発表にあたり、汚染は容認
可能なリスクであるとする企業の姿勢を改めさせる
連邦カルテル庁(Bundeskartellam)は、グリーン・
には、英国の汚染に対する罰金を大幅に引き上げる
ドット・リサイクル会社 Duales System Deutschland
べきであると述べている。
社 (DSD)と主要な仕事関係者がグリーン・ドット競
争相手のボイコットを呼びかけているという申立て
1999 年には 566 件の企業および個人が起訴された
について調査を行っている。
のに対し、2000 年は 694 件もあったという。しかし、
特に未処理下水、酸および燃料漏れなどのリスクを
同庁の職員は、2001 年 10 月 24 日、DSD、ドイツの
一般市民に曝露した犯罪に対する罰金が小額である
小 売 業 協 会 (HDE: Hauptverband des Deutschen
ことについて特に懸念を表明している。
Einzelhandels)、商標登録製造業者協会(Markenverband)
、リサイクリング業協会(Bundesverband
同庁が起訴した企業の 2000 年の平均的罰金は、前
der Deutschen Entsorgungswirtschaft)
、食品製造業
者 協 会 ( Bundesvereinigung
環境庁、汚染罰金制度は十分な抑止力を発揮
していないと主張
der
年度 or 1999 年の 6,800 ポンド(9,987 ドル)から
Deutschen
2000 年には 8,532 ポンド(12,532 ドル)に上昇し
Ernährungsindustrie)の事務所を調査した。
た。しかし、罰金額は汚染企業を抑止するには十分
ではないという。
同調査のきっかけとなったのは、グリーン・ドット
の競争相手である Belland/Vision からの苦情であっ
さらに肯定的な表現で、
『企業の環境パフォーマン
た。DSD と関係者がその顧客や会員が競合のリサイ
スに注目をあてる(Publishing Spotlight on Business
クリング会社へ変更するのを妨害しようとしている
』と題する同報告書では、
Environmental Performance)
と申し立てたのである。
特にエネルギー、化学および鉱物、ならびに金属業
界が排出するダイオキシン、二酸化イオウ、揮発性
連邦カルテル庁はプレスリリースの中で、DSD はい
有機化合物、粒子状物質の著しい削減に注目してい
わば独占的立場にあるので、同申立てが真実である
るが、環境犯罪の起訴件数の増加についても特筆し
と 判 明 し た 場 合 、 深 刻 な 反 ト ラ ス ト 法 ( the
ている。化学業界による揮発性有機化合物の排出は
Bundeskartellgesetz)違反になると示唆している。
12%減少し、燃料および電力分野による二酸化イオ
同庁が DSD と 4 取引団体の違反を確認した場合、最
ウの排出は 6%減少している。
高 100 万ドイツマルク(約 450,500 or 45 万 500 ド
ル)の罰金が課せられる。
水関連企業による「深刻な」汚染事件の件数も減少
している。しかし、年間の起訴件数が増加したのは、
廃水・水質汚染事件の総件数が 18%も増えたのが一
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
因であるとしている。
2000 年度には、7 名の企業役員および上級管理者が
個人的に有罪判決を受けるか、あるいは罰金を課せ
られている。またさらに 2 名の役員が警告を受けて
いる。あらゆる規模の企業において、役員および上
級管理職が環境問題に対する配慮を高めるよう求め
JMC environment Update
65
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
ている。
制すべきであるとしている。
2000 年度に同庁が汚染企業として頻繁に起訴した
ノニルフェノールはすでに EU の 2000 年水に関する
企業名を掲載するとともに、裁判所が課した罰金額
枠組み指令に基づき、最優先禁止対象として提案さ
別に違反企業に順位をつけている。違反企業ワース
れている。EU の既存化学物質に関する見直しに基づ
ト 1 は Thames Water であった。その他には、
き最近実施されたリスク評価の結果を受けて、まも
Railtrack や Southern Water がはいっている。
なく規制が進展する見込みである。
2.
このような動きを見越した一部加盟国は、自国内に
化学物質ステークホルダー・フォーラム、界
面活性剤の禁止を要求
おける当該物質の使用中止措置をすでに講じている。
EU 各国における同様の展開に同調するかのように、
自主的措置による使用の著しい削減を確認したノル
英国政府諮問委員会も、一般的な産業用界面活性剤
ウェーは、最近、オクチルフェノール、ノニフェノ
の使用禁止に向けた業界の迅速な自主対応を呼びか
ール、ノニフェノール・エソキシレート類(単体お
けた。
よび化合物)の製造、使用および販売の初めての全
面的禁止を整備した。この措置は、ごく一部の例外
内分泌撹乱物質のノニフェノール、アクチルフェノ
的使用(塗料とニス)を除く全てを対象とし、2001
ール、そのエソキシレート類の販売および使用に関
年度末より施行される。デンマークではすでに業界
する EU 規制には少なくとも 4 年かかるとして、英
との自主協定によりほとんどの用途について禁止措
国化学物質ステークホルダー・フォーラムは、環境
置を導入している。
放出削減および既存リスク最小化のためにも「多く
3.
の用途に使用されている当該化学物質の自主的置換
を早期に進める必要があることは明かである」と各
欧州委員会、英国における HCFCs の一時使
用および販売を承認
委員会は、英国におけるオゾン枯渇物質ハイドロク
省に警告を促した。
ロロフルオロカーボン(HCFCs)の使用および販売
フォーラムは、政府の化学物質戦略に基づき 1999
を暫定的に承認することを決定した。本決定は 11
年 12 月に設立され、環境および人間の健康に対する
月 23 日に発表され、承認期限は 2002 年 12 月 31 日
潜在的影響に関する懸念に対処するのに必要とされ
までである。
るリスクマネジメント手法について、幅広い見解を
HCFCs の使用および販売は、規則 EC 2037/2000 に
反映した助言を与えることを目的としている。
規定され、特に、冷却剤としての HCFCs 使用に関し
そして、ノニフェノール、オクチルフェノール、そ
て、2000 年 12 月 31 日以降に製造された冷却機器に
のエソキシレート類の使用に関する見直しの結果、
使用する場合には 2001 年 1 月 1 日より、溶剤に使
「立法措置に先立ち、関連の製造業者および使用者
用される場合には 2002 年 1 月 1 日からの全面禁止
による自主的行動」を求めている。
を規定している。しかしながら、同規則第 7 条では、
特定用途の代替物質が存在しないこと、あるいは代
特に、7 分野−産業用/施設用および家庭用のクリ
替物質が技術的もしくは経済的に実現不可能である
ーニング/洗剤製品、繊維、皮革、農業(特に動物
ことを証明できる場合には、委員会が HCFCs の使用
薬であるが、現段階で別の措置が提案されている殺
および販売について暫定的免除(waiver)を与える
虫剤は除く)
、金属、パルプおよび紙、ならびにシャ
ことを認めている。
ンプーその他のパーソナルケア製品を含む化粧品−
における当該物質の販売を直ちに中止すべきである
現在、委員会が認めているウェイヴァーの内容を以
としている。同様に、製造活動、自家消費(captive
下に示す。
use)
、フェノール/ホルムアルデヒド樹脂、プラス
− オート・カスケード低温冷却システム搭載の冷
チック安定剤、乳化重合を含む調剤の製造および使
却機器に使用される HCFCs の場合(決定 C
用、当該物質を含む製品の処分による環境放出を規
(2001)3647)
。Telemark Cryogenics が例外適用
JMC environment Update
66
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欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
を申請。同申請は、総使用量 10kg と推定される
HCFC-123およびHCFC-124に関するものである
排出権取引は、気候変動対策としての効率的な市場
が、これは EU で冷却剤として使用されている
ベースの政策手法である。排出目標達成にかかる排
HCFCs総量
(2,226トン)
の0.005%に相当する。
出削減コストにより、企業は排出削減に投資したり、
委員会は、例外適用期間に HCFC-123 の輸入可
あるいは目標以上に排出削減を達成して得た?余剰
能量に 20kg という上限を設けた。同社は、また、
分を、削減コストが高く排出権購入による目標達成
2002 年 2 月 15 日までに、国内当局に代替製品
を希望する他国に販売することができる。かかるメ
開発に関する経過報告書を提出しなければなら
カニズムにより、費用対効果の高い方法で総体的な
ない。
排出削減が可能となる。
− クリーニング溶剤として使用される HCFCs の場
取引メカニズムの設計には、多くの重要な選択肢を
合(決定 C(2001)3648)
。ウェハー上のシリ
必要としている。例えば、自主的制度の場合、企業
コンチップのテストに使用するプローブのメー
の参加を促す財政的インセンティブが必要となる場
カーである Kulicke & Soffa が申請。HCFC-225
合があるが、強制的システムには国の支援は必要な
は、電流を中断させ腐食の原因となるハンダ残
留物を除去するのに使用されている。同申請は、
年間総使用量27kg と推定されるHCFC-141 に関
されている HCFCs 総量(380 トン)の 0.07%未
英国は、GHG 排出削減を目的として自主的取引制度
満である。また同社は、2002 年 1 月 31 日まで
を導入する意向である。同制度では、5 年間にわた
に、国内当局に代替製品開発に関する経過報告
りネットで年間 3,000 万ポンドの税金をインセンテ
書を提出しなければならない。
ィブとして提供する。対象となるのは、確実な排出
削減への参加および取組みと引換えに、制度を利用
企業が国家当局に提出した情報を基に、関係加盟国
する全事業体である。企業はインセンティブを利用
(この場合は英国)は、代替製品研究開発に関する
するために入札する。
経過状況を委員会に報告しなければならない。その
後委員会は、承認した免除の更新 or 見直しについて
さらに、排出権取引制度および気候変動協定の目標
決定を下す。
達成者には、排出権割当てをお互いに売買すること
を認める排出取引制度を設立する。
欧州委員会、英国排出権取引制度を承認
委員会は、国家助成ルールに基づき、英国の GHG 排
インセンティブ資金と取引メカニズムは共に、特定
出権取引制度を承認した。同制度は、2002 年初頭に
企業に利益を授与し、加盟国間の貿易に影響を及ぼ
開始されることになっている。委員会が承認したこ
す可能性があるため、いずれも国家助成とみなさな
とにより、EU 全域での取引開始に先立ち、英国は早
ければいけない。しかしながら、委員会は、同制度
くも取引経験を積むことが可能となる。EU 全域の制
は環境保全を促進する国家助成に関する共同体ガイ
度については、委員会は、最近になって理事会およ
ドラインに整合するものであると考えている。
び議会に提案したばかりである(本レポートの EU
セクションを参照)
。委員会は、英国制度の進取の側
この評価の根拠は次に示す意見にある。排出権取引
面を認めながらも、英国のアプローチと委員会指令
は、京都目標を達成するために必要不可欠な競争志
案との実質的な相違点が将来的に市場の歪みに発展
する可能性があると示唆している。そうなった場合、
EC 法との整合性を保つよう、英国制度の修正が提案
向型の手段であること。同制度は、現行基準を上回
る企業に報いるものであり、結果として環境に恩恵
をもたらすものであること。現在の制度様式は、EU
されることになる。但し委員会は、英国政府が自ら
排出権取引制度が施行されるまでという時間的に限
の責任で同じ目的に向けて取組むことを歓迎すると
定されたものであること。自主的制度の選択はイン
している。
JMC environment Update
最後に重要なこととして、整合メカニズムの設計が
制度の信用に影響する。
するものであるが、
同量は EU で溶剤として使用
4.
い。参加者の規模が排出削減の達成能力を決定する。
センティブを必要とするが、環境目標が達成されな
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
かった場合には確実にインセンティブを取戻すメカ
算案の環境関連項目に関する発表によると、2001 年
ニズムがあること。
度の歳入増により、スタッフ増員、大気・騒音公害削
減の対策強化、および自然・産業リスク防止への一層
英国の制度は、委員会が先頃 EU 全域における排出
の配慮が可能であるという。
権取引に関する指令案として提出した内容と著しく
異なっている。EU 案は、財政的インセンティブのな
同大臣は記者会見で、新予算は社会党連立政権によ
い強制的手法に基づくものである。英国制度とは対
る環境保全への継続的コミットメントの証であると
照的に、電力・熱生産施設にはその排出ガスに対して
発言しながらも、待望のエネルギー税実施あるいは
直接的責任を課し負わせている。すなわち、さらに
ディーゼル燃料税引上げ案がジョスパン(L. Jospin)
低コストの排出削減を可能とする選択肢である。ま
首相によって 2002 年度予算から削除されたことを
た、EU 案は、排出枠を上回る排出について、不足分
認めた。
を補う義務に加え、CO21 トン当たり換算で罰金を義
務付ける予定である。英国は近い将来において同様
2002 年中頃に予定されている大統領選の社会党有
の罰金を導入する意向 or 予定である。
望候補である同首相は、9 月初旬、投票までの期間、
税の全体的負担を緩和する意向を公表した。このこ
委員会は、EU 全域制度の施行に先立ち排出権取引制
とにより、気候変動対策に新税を導入する望みは実
度の導入に踏み切るという英国政府の積極的な自発
質的に一切絶たれたのである。
性を歓迎し、早い段階で英国制度から学習経験が得
られるとして支援しようとしている。
しかしながら、予算案には、エネルギー消費および
GHG排出の削減を目的とするいくつかの税関連措置
しかしながら、委員会はまた、英国の手法と委員会
が含まれている。
の指令案との実質的な相違点が将来的に市場の歪み
をもたらす可能性を示唆している。そうなった場合、
2002 年度の運輸関連予算案では、電気、天然ガスあ
委員会は、EC 法への円滑な適合を目指し、英国制度
るいはガソリン/代替燃料のハイブリッドを動力と
の修正を提案することになる。但し、委員会は、英
するクリーン燃料車の購入に対し、一回限りの税額
国政府が自らの責任で同じ目的に向けて取組むこと
控除として 1,525 ユーロ(1,400 ドル)を提供する。
を歓迎するとしている。
税額控除は、クリーン燃料車の取得の際、フランス
が無鉛燃料車に触媒式排気ガス浄化装置使用を義務
付けた 1992 年 1 月 1 日以前に初年度登録した車を
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
廃棄する場合には、2,300 ユーロ(2,115 ドル)に増
額される。
IV. フランス
住宅関連予算案では、2001 年度にエネルギー消費の
削減奨励を目的に導入した住宅改善に関する税額控
1.
予算案、環境支出を増加
除を繰越し延長している。同決定により、2002 年に
は、バイオマス、地熱・水力・太陽発電などの代替
政府は、2001 年 9 月 18 日、2002 年度予算案を公表
エネルギー源を動力とする断熱、省エネ温水器およ
した。その中で、環境支出を 6.4%増加させるととも
び暖房設備を新設した個人への最大控除額は、4,000
に、国家気候変動行動計画の一環として個人および
ユーロ(3,680 ドル)に拡大される。
企業によるエネルギーおよび化石燃料消費の削減奨
民間企業に関しては、2007 年 1 月 1 日までの期間に
励を目的として、多数の減税を提案している。
購入および設置したすべての設備に対し、汚染削減
2002 年度の環境省予算は一挙に 7 億 6,120 万ユーロ
あるいはエネルギー消費削減を目的とする環境投資
(7 億ドル)に増加する。9 月 18 日のコッシェ(Y.
には、例外的に 12 ヶ月という減価償却期間を提供す
Cochet)環境・国土整備相による 2002 年度政府予
る。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
1990 年の水準から 20%の排出削減を目指している。
この措置は、代替エネルギー生産機器への投資に迅
速な償却も認めていて、環境目標に配慮した企業の
コミットメントの重要な要素は、化石燃料ベースの
中期投資戦略の立案が改善させるという。
廃棄物を製造用燃料として使用するケースが増えた
ことによる CO2 排出について「climate neutral(気候
2.
セメントメーカーLafarge 社、GHG 排出削
減計画を公表
変動に対してニュートラル、即ちどちらともいえな
仏セメント業界大手 Lafarge 社は、2001 年 11 月 6
とである。Lafarge 社は、このような「エネルギー再
日、国際的気候変動対策の一環として、世界中の製
生」は第一次化石燃料の必要を減少させるので、結
造施設における GHG の削減計画を公表した。
果として生じる CO2 排出は全体的排出レベルから割
い)
」なものとして扱うべきであると判断しているこ
引くべきであると主張している。
同社のグローバル・コミットメント−世界自然保護
グループの第一次『持続可能な開発に関する報告書
基金(WWF: the World Wildlife Fund との共同起草で
モロッコ、マラケシュ気候変動会議と同時期に公表)
』の刊行と同時
(Sustainable Development Report)
−は、2010 年までにセメント生産量 1 トン当たりの
に、新しい気候変動行動計画を発表した。
CO2 排出量を、1990 年の1トン当たりの排出量に比
「WWF/Lafarge コンサベーション・パートナーシ
較して 20%削減することである。
ップ」の枠組みの中で作成され、Lafarge 社の世界
経済成長予測を考慮に入れた新排出削減計画による
75 ヶ国の製造拠点に関係する経済、社会、および環
と、1990 年の排出量と比較した場合、世界の工業国
境問題を取り上げている。その中で、特にパフォー
の製造施設における 2010 年の CO2 排出量は実質
マンスおよび戦略に焦点をあて、将来の目標を設定
15%削減されることになる。
している。
世界を代表するセメントメーカーであり、コンクリ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ート、屋根材、および石膏など別の建設資材のトッ
プメーカーでもある Lafarge 社は、世界中の製造施
設におけるエネルギー効率の改善、廃棄物燃料の拡
V. デンマーク
大利用、低炭素プロセスの普及など、一連の技術革
新を排出削減計画の根拠としている。
1.
新政権発足
同社は、1990 年に 6,100 万トンのセメントを生産し
ている。これは、CO2 排出量 4,500 万トン、すなわ
2001 年 11 月 27 日、デンマークに新自由保守連立政
ち生産量 1 トン当たり 746 kg に相当する。2000 年
権が誕生した。新しい環境相はシュミット(Hans
末までに、グループのセメント生産量は 8,000 万ト
Christian Schmidt)−自由党−48 歳である。同相は、
ンに増加する一方、CO2 排出量は 7,000 万トン、す
1995 年以来、自由党の環境問題報道官を務めている。
なわち生産量 1 トン当たり 670 kg に急増した。
同時に、環境エネルギー省は環境省に名称変更した。
生産量および排出量双方の増加は、2000 年中頃に英
これに関連して、気候変動に関する交渉および国際
国のセメントメーカーBlue Circle 社を取得したこと
的義務に関する国家レベルでのフォローアップ調整
に大きく起因していると考えられる。Blue Circle 社
以外のエネルギー問題は、新財務および貿易・産業
は、新しい汚染削減および省エネルギー技術の導入
省に移管された。さらに、デンマークの発展途上国
で、Lafarge 社に遅れをとっている。
に対する環境支援(DANCED: Danish environmental
assistance to developing countries)は、外務省に移
また、2010 年までに、世界中の製造施設の慣行を改
管された。逆に、全国調査および土地台帳は、住宅
善し、さらに 1 トン当たり CO2 約 590 kg、すなわち
都市問題省から環境省へと移管された。
JMC environment Update
69
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
ギーの増加により、2000 年の CO2 排出量は 2.1%減
新政府の政策文書には特に以下の内容が記述されて
少した。1988 年と比較して、総エネルギー消費量は
いる。
2%強の増加、CO2 排出量は 11%の減少、そして GDP
−
は 27%の増大である。
将来の世代がクリーンな環境の中で生きられ
るようにするために積極的な環境政策を実施
3.
する。今後も国際環境条約で規定する公約を達
重要文書
成していく。政府の目標は、公害対策の点で主
政府は以下に示す 3 つの重要な報告書を採択したこ
要先進国の一つになることである。
−
とに読者の注意を喚起したい。
意欲的な環境目標は、最も経済的に効率的な方
法で達成するべきである。環境に対する明確な
−
責任と、取組み効果が最も大きいまさにその分
ト類に関する分析的化学物質管理、NERI 技術
野での汚染削減を目的とする現実的な国際協
報告書 No.373。
力を結合した環境政策を立案する。
−
環境エネルギー省、玩具に使用されるフタレー
−
環境エネルギー省、環境プロジェクト No.636
「環境評価研究所」を設立する。国際水準の高
2001、危険物質自己分類アドバイザリーリス
い研究を通じて、同研究所は、国内および世界
トに関する報告書。
における現在および長期的環境状況の見直し、
環境イニシアティブの効果の評価、そしてかか
−
環境エネルギー省、作業文書 No.27 2001、臭
素含有電子部品の分析。
る知識および見識を一般市民および政治的意
思決定者に普及に対して責任を負う。
−
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
環境分野の国際的取組みを強化する。同国の負
担 or 費用により海外で達成した CO2 排出削減
分が同国の実績および国際公約の遵守として
VI. スウェーデン
見 な さ れ る の で 、「 共 同 実 施 ( joint
implementation)
」の可能性があれば利用する。
1.
グリーン税制に関する国際協定に向けて取組
廃棄物削減には禁止措置より課税が有効
む。第一歩として、EU でのグリーン税制に対
する共通の最低税率を実施すべきである。
今後の廃棄物管理策定に関する政府報告の中で、ス
ウェーデン環境庁(EPA)は、廃棄物の減量および
2.
持続可能な開発への廃棄物管理の導入のためには、
デンマーク、エネルギー消費減少
経済的政策手法の方が、廃棄物分別に関する一層の
デンマーク環境庁(DEA)によると、同国の総エネ
禁止措置および法整備の導入より望ましいと論じて
ルギー消費量が減少している。2000 年の消費は
0.7%減少した。道路輸送エネルギーの消費量さえ、
1980 年以来初めて減少している。その上、3.2%と
いる。
・ 焼却可能な廃棄物の埋立て料金を、2001 年度の
いう経済の成長を伴っている。つまり、経済成長が
1 トン当たり 250 スウェーデンクローネ(約 25
資源の消費拡大につながるという悪循環を絶つこと
ドル)から 2005 年度までに 1 トン当たり 460
に成功した。
スウェーデンクローネに段階的な引き上げ
・ 有機廃棄物のコンポスト化および嫌気性消化に
2000 年、再生可能エネルギーは総エネルギー消費量
対する設備建設の投資援助強化
の 11%を占め、風力発電量は 50%近く増加した。
風力発電は、今や総電力供給量の 12.8%を占めてい
・ バイオガス燃料に対する課税のさらなる軽減、
ならびにバイオガス使用の社用車に対する低率
る。
課税の維持
エネルギー消費量の減少とともに、再生可能エネル
JMC environment Update
70
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
しかしながら、環境規約の明確化に関する提案も含
予算案には 2003 年度および 2004 年度の予算見通し
まれている。
が含まれ、それによると政府は少なくとも 2004 年
まで環境支出の継続的増額を計画している。
・ 地方自治体は、他の家庭ゴミに対する責任と同
様に、有害家庭ゴミ(塗料、溶剤など)の回収
2004 年度の推定環境支出は 41 億 6,000 万スウェー
に責任をもち、この種の廃棄物の分別と回収用
デンクローネ(3 億 9,810 万ドル)
、すなわち 2000
の施設を確保しなければならない。
年度と比較して 144.7%の増加である。また、同予
算案によると、2003 年度の推定環境支出は 33 億
・ 「商業活動」
(事業所、工場、店舗−つまり、家
庭ゴミと分類されないもの)から発生するすべ
5,000 万スウェーデンクローネ(3 億 2,010 万ドル)
ての廃棄物に対する責任は、最初にその廃棄物
である。
を発生させた者が負わなければならない。そし
て、廃棄物の最小化に努力するとともに、廃棄
環境調査に対する国家資金は、現在の 2 億 970 万ス
物の処理施設への輸送、再生あるいは処理を保
ウェーデンクローネ(2,010 万ドル)から 40.5%増
証しなければならない。
の2 億9,460 万スウェーデンクローネ(2,820 万ドル)
となっている。また、2004 年度の推定調査支出は 3
近年の廃棄物増加にもかかわらず、埋め立て地ある
億 2,870 万スウェーデンクローネ(3,120 万ドル)
いは焼却施設に送られる廃棄物が増えていない。む
である。
しろ、再生される廃棄物が増えている。現在、家庭
ゴミの 3 分の 1、主に紙とパッケージが再生されて
今回の予算配分の目玉は、春の予算案とともに意欲
いる。2000 年、ゴミ埋立て税が導入され、2002 年
的な環境プログラムが紹介されたことである。そこ
から、生分解性廃棄物も含めて焼却可能な廃棄物の
には新年度予算に含むべき政府の方針が示されてい
埋立ても禁止される。しかしながら、焼却施設が不
る。同プログラムの目的は、一世代すなわち 2025
足しているため例外が生じることになる。例外対象
年までにあらゆる負の環境トレンドを抑制すること
廃棄物については分離課税の引き上げにより、焼却
である。
施設の建設が加速するかもしれない。
政府の試算によると、2001 年〜2010 年までの政策
2.
実施に 445 億 3,000 万スウェーデンクローネ(43 億
政府予算案、環境支出増大
ドル)を支出するという。この数字にはスウェーデン
政府の 2002 年度予算案では、環境支出を著しく増
の各省庁の支出が含まれる。
やし、2004 年までに同支出を 2000 年の支出レベル
の倍以上に増やすことを提案している。
その他の予算支出は、政府の気候変動政策の財源と
する目的である。この政策は現在起草中だが、2001
同案の支出計画総額は 1,710 億スウェーデンクロー
年末までに完了する予定である。
ネ(686 億ドル)であるが、環境支出は、環境調査
に対する国家資金も含めて31 億2,000 万スウェーデ
2002 年度予算にすでに含まれている気候変動政策
ンクローネ(2 億 9,860 万ドル)である。同予算案
の特徴の一つは、気候変動プロジェクト助成金を、
は 2001 年 9 月 20 日に一院制議会に提出され、12
地方で実施する地方自治体に移行されるようになる。
月に議会で採決の予定である。同予算案は現連立政
2004 年までに地方自治体への気候変動助成金は倍
権を構成する 3 党が策定したものであるため、議案
増され 4 億スウェーデンクローネ(3,830 万ドル)
は承認される見込みである。会計年度は暦年通りな
となる。連邦政府は現在、地方が実施する一般的な
ので、同予算案は 2002 年 1 月 1 日に発効すること
環境プロジェクトの助成金を地方自治体に提供して
になる。
いるが、気候変動プロジェクト資金が導入されれば、
段階的に中止される。
財務省の数字によると、2002 年度予算案では 2001
年度より環境支出が 44.8%増となっている。また、
JMC environment Update
71
また、予算案には「グリーン税スワップ(green tax
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
swap)
」が含まれている。これにより、電力税およ
う。しかしながら、環境負担は、環境への害がなく
び二酸化炭素税の税収増が所得税減税の財源となる。
なるほど著しく小さくなったわけではないとしてい
この提案のもと、
2002 年に国税である炭素税は 15%
る。さらに、環境の質の向上といってもそれはほん
増税され、電力消費税は 1 キロワット当たり 0.012
の僅かで、1989 年、1993 年、1998 年、そして 2001
スウェーデンクローネ(0.0012 ドル)増税される。
年 6 月に刊行された 4 回の NEPP の中で政府が定め
また、廃棄物発生者税は 1 トン当たり 250 スウェー
た環境目標は達成できていない。
デンクローネ(23.92 ドル)から 288 スウェーデン
『環境バランス 2001 年』は、の環境の現状に関す
クローネ(27.56 ドル)に増税される。
る年 1 回の見直しであり、環境の質、環境政策の効
かかる増税による税収分が、労働者および定年退職
果、および政策目標の達成度について記述している。
者を対象として一律所得税控除の財源となる。
2000 年のオランダ経済は好調であった。そのため、
エネルギー税および廃棄物税の引き上げと直接税の
工業生産、輸送、エネルギー利用など多くの汚染行
引き下げを抱き合わせる手法はこれまでにもあった
為も増えていった。しかしながら、多くの分野で、
が、両者を明確に結び付けたのは今回の予算案が初
経済成長に伴なう汚染行動の著しい増加にもかかわ
めてである。
らず、技術的手法により環境への負荷は下がったと
いう。但し、二酸化炭素の排出量は同傾向の例外で
財務省統計によると、1999 年には、二酸化炭素税に
あった。
より 260 億スウェーデンクローネ(25 億ドル)の財
源が生み出された。
過去 10 年間、道路交通および工業生産の伸びは国民
予算案では、燃料オイル消費にかかる現行税率とイ
用および廃棄物生産の伸びはそれに比例して下回っ
オウ排出税の変更はないが、排出限度の上限は引き
た。1990 年〜2000 年の GNP 平均、すなわち財貨・
下げられる。所定の計算式に基づき、各種燃料の消
サービスの平均生産は年率 3.5%の伸びであったが、
費に関連する総排出量が算出される。
エネルギー使用の伸びは 1%に留った。
また予算案には、代替燃料税制度が含まれている。
また、農業、エネルギー使用、GHG 排出、車の増加
これにより、特定の環境開発プロジェクトに使用さ
が大気汚染に与えた影響に関する問題など、直面す
れる燃料は燃料税が免除される。ネットで炭素排出
るキーとなる環境問題について詳述している。
総生産(GNP)の伸びを上回ったが、エネルギー利
量増加にならないプロジェクトも免除対象となる。
農業分野では、アンモニア、窒素、およびリンを排
出する集約的牧畜業が特に懸念されるが、土壌や地
表水の酸性化の原因となる窒素排出量は、20 年ぶり
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
に初めて大幅に減少している。1 月に導入された厳
しい有機質肥料政策が減少の一因となっている。同
VII.オランダ
政策により、牧畜家には集約的農業技術を駆使し、
糞尿および農薬など、土壌に投入したミネラルをす
1.
政府、経済成長を達成しながらも環境の質が
向上と報告
べて明らかにすることが義務付けられている。報告
基準は土壌の種類によって異なる。
オランダ国立公衆衛生・環境保護研究所(RIVM)が
作成した『環境バランス 2001 年(Environmental
2000 年度の暫定的数字によると、1980 年と比較し
』報告書によると、政府が第一次国家
Balance 2001)
て窒素排出量は 27%、リン排出量は 39%減少して
環境政策計画(NEPP: National Environment Policy
いる。その結果、土壌および地表水に含まれる硝酸
Plan)を刊行した 1989 年以降、同国の環境の質は経
塩の濃度は低下しているが、依然として EU 窒素排
済成長を達成しながらも全般的に向上しているとい
出基準を上回っている。
JMC environment Update
72
Vol.3 No.5 (2002. 1)
欧州環境規制動向〜在ブラッセル弁護士モニタリング情報⑱
1999 年から 2000 年にかけての GHG 全排出量は横
ばいであったが、
2002年の二酸化炭素排出量は1999
年を 1%上回っていた。1990 年の水準と比較して、
GHG 総排出量は 3%、二酸化炭素排出量は 8%も増
加している。2008 年〜2012 年の期間に 1990 年比で
GHG 排出量を 6%削減するという当初の目標は、経
済成長を抑制すれば、依然として達成可能であると
いう。
エネルギー利用に関連する GHG 排出を削減する技
術的手法は十分あるが、それには「オランダ気候政
策実施計画」(第一段階:1999 年 6 月、第二段階:
2000 年 3 月)に示した対策措置をすべて予定通り完
璧に実行しなければならない。また、石炭に関する
協定および他国による GHG 削減計画などすでに著
拠とし、政府は協定の拘束力を宣言している。協
定は、2001 年〜2003 年まで、
「汚染者負担原則」
に基づき自動車製造業者および輸入業者が国内で
登録する車 1 台につき 45 ユーロの負担を特別基
金に拠出することを定めている。
同基金はその後、
ELV の解体およびリサイクリング費に充当される。
破損した車の約 90%が解体され、17 種類の素材
と部品がリサイクルされている。同制度の運営管
理 は 民 間 の 有 限 責 任 会 社 Auto Recycling
Nederland(ARN)が行っている。委員会は、製造業
者および輸入業者が独自のシステムを利用するか
ARN 以外の代替制度に参加するなど、独自で自社
ELV を処理できるので、同制度には国家財源は投
入されていないし、国家援助的要素はないとの結
論を出した。
しく遅れている措置が挙げられると指摘している。
車は年々増加しており、自動車交通の規制に関する
政府目標は実現していない。最新の「国家交通輸送計
画」の中で政府は、自動車交通の規制に関する目標を
明示していない。1985 年〜2000 年の効率改善は
15%〜20%であったが、自家用車の排気量と重量の
増大により相殺されてしまった。
交通省は、いわゆるキロメートル課税
(kilometerheffing)を準備している。2003 年からト
ラックを対象に同プラグラムの導入を目指している。
同税は 1 キロメートル当たり 7 セントで、2003 年ま
でに徐々に全国的に導入していく。交通大臣は、段
階的導入は 2010 年までに完了し、その段階で自動
車も同制度の対象にするという。
同時に、自動車に課す特別消費税を 25%削減し、道
路税を撤廃する計画がある。
2.
欧州委員会、オランダの中古車リサイクル計
画を承認
使用済み自動車(ELV: end-of-life vehicles)に関す
る廃棄物処分制度には、国家援助的要素(政府助
成金)は含まれていない。委員会は、2001 年 2
月、リサイクリング目的の自動車部品解体に対す
る拠出金が関連コストに対して過剰補償となる懸
念があるとして、
同制度の厳密な調査を開始した。
委員会によると、同制度は企業間の自主協定を根
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
連載 米国における環境関連動向
~在ワシントン/コンサルタントによるモニタリング情報 ⑬
● はじめに
本報告は製品の貿易と環境問題のミクロ情報に焦点を当て、製品に対する有害化学物質規制のほか、
製品の貿易と環境規制動向、回収、リサイクル、環境に関する国際標準化、米国における環境ビジネ
ス動向、環境問題に関する米国のキーパーソンなど、米国企業の企業経営と環境をめぐる数々の問題
を包括的に分析する。
特に、今回の報告では、
「業務用事務通信機器のエネルギー消費」と題するエネルギー省の新報告書の
ほか、自動車をめぐる燃料効率化・排出 CO2削減の現状、環境規制で注目される市場主義アプローチ
などをまとめている。また、環境問題に関する米国のキーパーソンについては、エネルギー省のスペ
ンサー・エイブラハム(Spenser Abraham)長官を取り上げる。
今号のポイント
・ エネルギー省は「業務用事務通信機器のエネルギー消費」と題する新報告書を発表し、インター
ネットやコンピューター機器などの通信機器が米国の電力供給に大きな影響を与える可能性は
極めて低いとまとめている。
・ 連邦議会では 2001 年春以降、自動車に一定の燃費効率を求める CAFE (corporate average fuel
efficiency;企業平均燃費)規制を強化する論議が盛んになっている。
・ より効率の良い燃料開発のために、ダイムラークライスラーらが、燃料電池自動車の開発を進め
る「燃料電池連合(Fuel Cell Alliance)
」を結成し、産官協力で、開発に取り組んでいる。
・ 現在、環境規制に関して、注目されているのが、
「市場主義(market-based)アプローチ」への
転換である。
・ エネルギー省のスペンサー・エイブラハム(Spencer Abraham)長官は、国のエネルギーを管理
し、エネルギー業界の規制を行うトップとして、米国の環境行政の方向性を決める人物の一人と
して注目されている。
1. 業務用事務通信機器のエネルギー消費
ネルギー省から委託されて研究をまとめた形に
なっている。報告書によると、インターネット
やコンピューター機器などの通信機器が米国の
電力供給に大きな影響を与える可能性は極めて
低いと報告し、「これまで指摘されていた事務
通信器機の電力消費が米国電力供給に及ぼす影
響はわずかである」としている。
エネルギー省は「業務用事務通信機器のエネル
ギー消費(Energy Consumption by Commercial
Office and Telecommunications Equipment)
」と
題する新報告書を、2001 年 12 月、発表した。
報告書は調査会社のアーサー・D・リトルがエ
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
具体的には、インターネットやコンピューター
機器などの通信機器は現在、全米の総使用電力
の 3%に相当するが、2010 年には 4%と微増に
過ぎないとしている。
この報告書の結果はこれまでの研究結果と大き
く異なっている。1999 年には環境保護団体の
「グリーニング・アース・ソサエティ(Greening
Earth Society)
」の研究者が「1998 年の段階で
インターネットは既に全米の総使用電力の 8%
から 13%を使っている。2010 年から 2020 年に
かけては、総使用電力の 3 割から 5 割がイン
ターネットによるものになる」
と指摘していた。
エネルギー省のエイブラハム長官は「グリーニ
ング・アース・ソサエティ」の研究結果をひき、
2001 年 3 月、
「インターネットの利用増による
電力不足で、2020 年までに全米で 1,900 もの新
しい発電所が必要となっている」と発言し、全
米に注目された。
地球温室効果ガスである CO2を削減すること
ができる。クルマ社会の米国では、石油燃料の
65%を車が消費し、地球温暖化ガスの排出量の
3 分の 2 をこの車の排ガスが占めているといわ
れる。それだけに、自動車をめぐる燃料効率化・
排出 CO2削減努力が、注目されてきた。
CAFE 規制強化をめぐるの連邦議会などでの議
論
連邦議会では 2001 年春以降、自動車に一定の
燃費効率を求める CAFE(corporate average fuel
efficiency;企業平均燃費)規制を強化する論議
が盛んになっている。
現在の CAFE 基準は乗用車が1ガロンにつき、
27.5 マイル、SUV(Sports Utility Vehicle)やミ
ニバン、ライトトラックが1ガロンにつき、20.7
マイルとなっている。これについて、SUV に対
する規制が乗用車よりも緩い点を改定し、乗用
車と SUV の差をなくし、いずれも1ガロンにつ
き、27.5 マイルとする規制強化法案がダイア
ン・ファインシュタイン(カリフォルニア州選
出、民主党)
、オリンピア・スノウ(メイン州選
出、共和党)の 2 人の上院議員から提出されて
いる。この法案は上院のエネルギー包括法案の
一環として 2001 年秋に提出され、現在、審議
が続けられている。
アーサー・D・リトルのカート・ロス氏は「グ
リーニング・アース・ソサエティの研究結果は、
特に、メインフレームコンピュータの電力消費
など、あまりにも誇張されている」と指摘して
いる。一方、「グリーニング・アース・ソサエ
ティ」で研究を担当したマーク・ミルズ氏は「私
の研究は、インターネットだけではなく、情報
化経済がエネルギーにもたらす影響を総合的に
分析したものであり、批判は正しくない」と反
論している。
2. 自動車をめぐる燃料効率化・排出 CO2削減
の現状
ファインシュタイン議員は「全米科学アカデ
ミーが 2001 年秋にまとめた報告書でも CAFE 規
制強化の必要性を強調している」
とし、
「アラス
カの国立公園(ANWR)の石油採掘を行うより
もずっと効果的である」と述べている。特に、
現在、米国で売られている車のほぼ半数が SUV
などのライトトラックであり、「法律の抜け穴
を防ぐのが重要」と指摘している。さらに、自
動車メーカーが努力するだけで自然破壊を防ぐ
ことができるほか、テロ事件の余波で、もし、
中東情勢が緊迫した場合のエネルギー危機は国
内の努力で改善できる点も強調している。これ
に関して、上院の共和党側は「CAFE 規制強化は
民間の経済活動に対する政府の過度の介入であ
る」と主張し、燃費効率が良い車を購入する際
の減税政策の有効性を強調している。
自動車をめぐっては、1990 年代から燃料効率
化・排出 CO2削減の動きが目立っている。燃料
の効率がよくなると、
それだけ燃料を節約でき、
下院でも、2011 年までに乗用車の CAFE 規制を
1 ガロンにつき、37.5 マイルとする規制強化法
案がシャーウッド・ボラート(ニューヨーク州
カリフォルニア州の電力危機などのため、2001
年春前後から米国では省エネルギーに非常に関
心が強くなって中、ブッシュ政権は対策の一環
として、電気製品が使用中でない場合にも電力
を使う問題(待機電力問題)に対応する大統領
令を 2001 年夏に発している(当誌 Vol.3 No.3
参照)。そんな中、今回の報告書は IT 関連の電
力が予想よりも大きくないことを示しており、
今後、さらなる調査が行われていくものとみら
れている。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
マケイン議員は CAFE 規制強化には賛成してい
るが、ANWR の採掘も訴えているため、民主党
側との溝は少なくなく、議会専門誌「ナショナ
ルジャーナル」によると、上院版のエネルギー
包括法案が通過するのは、2002 年春以降になっ
てからという見方が強い。
選出、共和党)、エドワード・マーキー(マサ
チューセッツ州、民主党)の両議員から提出さ
れたが、9 月中に否決され、下院版のエネルギー
包括法案が通過している。
CAFE 規制は石油危機の対策の一環として、
1975 年、カーター政権が導入した。規制緩和を
訴えたレーガン時代には CAFE 規制強化が連邦
議会で真剣に議論されることはなかった。その
後、クリントン前大統領が 92 年の大統領選挙
戦中、
「2000 年までに1ガロン当たり 40 マイ
ルの基準に強化する」と公約したが、結局、産
業界や議会内から反対が多く、強化は先延ばし
になっていた。また、CAFE 規制が事実上、欧州
車の対米輸出の差別になっているという欧州か
らの外圧も目立っていた。
燃料電池自動車開発の動向
燃料電池(Fuel Cell)は、水素と酸素を化合さ
せ、電気を作り出し、モーターを回すシステム
である。水の電気分解とは逆の原理で、天然ガ
スやガソリンなどから取り出した水素と、空気
中の酸素を化学反応させて、電気を作る仕組み
であり、 排出物の大半は水で、二酸化炭素や窒
素酸化物など大気汚染の原因物質はほとんど排
出されない。燃焼を起こさないことから、内燃
機関のガソリン車と比べると、CO2 排気量を3
割程度削減できるほか、エネルギー効率も、燃
焼と比べて 40%から 60%ほど高くなるため、
燃料電池は、現在、代替エネルギーとしては非
常に注目されている。
ここ数年、CAFE 規制強化はここ数年、ほとんど
議会で論じられておらず、CAFE 規制に関する調
査費用予算すら認められていない。また、現在
のエネルギー省長官であるスペンサー・エイブ
ラハムは 2000 年秋の選挙で落選するまでの上
院議員時代、CAFE 規制強化を強硬に反対してい
たことで知られている。
アメリカのビッグスリー
(ゼネラルモーターズ、
フォード、ダイムラークライスラー)は 2001
年夏、CAFE 規制強化に対する自動車業界内の対
応を検討するための会合を行った。会合では、
ゼネラルモーターズとダイムラークライスラー
が強化に絶対反対するという姿勢を明らかにし
たものの、フォードは CAFE 強化に柔軟に対応
する姿勢をほのめかしたため、ビッグスリー
揃っての抗議は実現しなかったものの、
その後、
個々の自動車メーカーがそれぞれロビー活動を
行っている。ロビー活動の内容としては、CAFE
規制強化反対と伴に、もし、強化された場合、
燃費効率の良い車を購入したカスタマーに対す
る税金控除を認める、などのインセンティブを
行うことを議会や連邦政府に訴えている。
上院での CAFE 規制強化法案については、エネ
ルギー委員会委員長のジェフ・ビンガマン
(ニューメキシコ州選出)ら民主党側だけでは
なく、共和党側でも例えば、ジョン・マケイン
(アリゾナ州選出、共和党)ら有力議員が規制
に賛同しているため、規制強化がエネルギー包
括法案に含まれる可能性も少なくない。
一方で、
JMC environment Update
76
しかし、水素は保存や扱いが難しく、特殊な合
金にためる技術もまだ改善途上であるほか、ガ
ソリンエンジンやディーゼルエンジンの洗練さ
れた内燃機関に太刀打ちするのが難しいため、
やはり、「ガソリンエンジンが相手では勝ち目
が薄い」という見方がほとんどである。それで
も、燃料電池技術は最近になってようやく実用
に近くなったほか、技術革新で価格も利用可能
な程度に落ち着きつつある。一方。自動車車内
で、扱いやすいメタノール(メチルアルコール)
や天然ガスから水素を取り出す方式の燃料電池
車の研究も続けられている。いずれにしても、
一層の燃料電池システム全体の小型化、耐久信
頼性の向上、大幅なコスト低減など、供給設備
の普及な、今後の課題となっている。
燃料電池はイオンを運ぶ電解質の違いによって、
いくつかの種類に大別される。代表的なのが、
ポリマー電解質燃料電池(PEFC = Polymer
Electrolyte Fuel Cell)
、アルカリ燃料電池(AFC =
Alkaline Fuel Cell)、リン酸燃料電池(PAFC =
Phosphoric Acid Fuel Cell)
、溶融炭酸塩燃料電池
(MCFC = Molten Carbonate Fuel Cell)
、固体酸
化物燃料電池(SOFC = Solid Oxide Fuel Cell)
など、様々なタイプの燃料電池技術の開発が現
在、進められている。この中では、リン酸型の
Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
技術が長年、続けられている。また、ポリマー
を基にした電池も、将来性が最も期待されてい
る。燃料としては、水素を高圧ボンベに詰める
方法、極低温にして液化したり、吸蔵合金に貯
えるやり方も試行されている。
一方、燃料電池技術は、家庭向けの小容量から
業務用の大容量まで幅広い電力需要にも対応で
きる。次世代のクリーンエネルギーとして、既
に大規模な発電所への応用も検討されている。
発電用燃料電池開発では、コネチカット州ウィ
ンザーの ONSI が知られている。同社は、様々
な燃料を水素ガスに変換する燃料処理システム
や、一酸化炭素を付加的な水素に変換するシフ
ト・コンバーター、異種硫黄とハロゲン化物の
除去システムなどを含めた、様々な補足システ
ムを開発している。ONSI は、国内外で 170 以
上の発電所や電力会社に燃料電池技術を稼働し
ている燃料電池による発電時間は 280 万時間を
超え、発電用燃料電池市場をほぼ独占する形と
なっている。提供先の一つが、ニューヨーク電
力公社(NYPA: New York Power Authority)で、
10 フィートの大きさの燃料電池を提供し、
ニューヨーク市内にあるセントラルパークの一
部の電力が燃料電池で賄われている。
2002 年1月上旬には、産学官共同の次世代車開
発 プ ロ ジ ェ ク ト と し て 知 ら れ て い る PNGV
(Partnership for a Next Generation Vehicle;次
世代自動車パートナーシップ)に代わるプロ
ジェクトとして、燃料電池車開発にブッシュ政
権が積極的に助成していくことを明らかにした
ばかりである。この新プロジェクトは「フリー
ダムカー(Freedom Car)
」と呼ばれ、まだ、予
算や詳しい内容などは明らかになっていないも
のの、燃料電池車開発に対する官民協力プロ
ジェクトで、潤沢な助成が期待されている。
中止となる PNGV は 1993 年にクリントン大統
領の提唱で始まった。乗用車で燃料 1 ガロン当
たり 80 マイル(1 リットル当たり約 34km)の
超低燃費性能の達成を目標にしており、プロト
タイプ車の完成を 2004 年に予定している。
1993 年時点での 6 人乗り中型車と同程度の利
便性と安全性を保ちつつ、燃費は 3 倍に、価格
は現行車並みの次世代自動車の完成を狙ってお
り、排出ガスのクリーン化だけなく、設計から
生産までの時間短縮など生産技術面での改善も
目指している。
PNGV には、エネルギー省、環境保護局(EPA)
など政府の 7 省庁のほか、
ゼネラルモーターズ、
フォード、ダイムラークライスラーなどの自動
車大手や関連企業と約 20 の大学、ロスアラモ
ス研究所など 19 の国立研究所が参加していた。
しかし、政府予算をつぎ込んでも効果が上がら
ないという意見が連邦議会などで少なくなく、
プロジェクトそのものの廃止も 2000 年から検
討され続けていた。
燃料電池技術を応用した自動車については、ト
ヨタ、日産、本田のほか、GM、フォード、ダイ
ムラークライスラー、フォルクスワーゲンを含
む多くの自動車メーカーが燃料電池技術を応用
した自動車開発を急いでいる。ほとんどの自動
車メーカーが 2003~2005 年の市販を目指して
いる。
JMC environment Update
77
燃料電池のエネルギー抽出は、施設内や一般の
家屋の中でも行われることができることから、
既存のエネルギー源のバックアップとして、ま
たは、基本のエネルギー供給システムの補足と
して、
独自のエネルギー供給体系を構築できる。
将来的に一般市民が電力会社から電気を買う代
わりに燃料電池を使い、自分で直接電力を生産
することができるようになる可能性を示唆して
いる。もしこれが実現されれば、送電線にて輸
送されるエネルギー量を削減し、よって輸送の
間に失われるエネルギーを節約できることにな
る。エネルギー省によると、発電所からエンド・
ユーザーに送信される間に失われる電力は 8%
から 10%になるといわれており、これを削減す
ることで、一般に必要とされるエネルギー量を
大幅削減できる可能性がでてくる。
既に、
ニュー
ヨーク市のタイムズスクウェアに建設されたコ
ンデ・ナスト・ビル(Conde Nast Building)に
は、200 キロワットの燃料電池が設置されてお
り、温水、建物の外側を照らす照明、そしてバッ
クアップ電力を生成している。このビルは 48
階建てで、燃料電池のほか、太陽電池も利用さ
れており、
48階建ての建物の上から 11階には、
電気生成ソーラー・パネルが埋め込まれている。
太陽電池は薄い青色をしたガラスで覆われてお
り、見た目にも美しく、観光客らの視線を集め
ている。
Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
現在、連邦議会では燃料電池の開発のための優
遇税制を検討する法案が提出されている。これ
は、ジョゼフ・リーバーマン(コネチカット州
選出、民主党)とオリンピア・スノウ(メイン
州選出、共和党)の両上院議員が 2001 年夏に
提出したもので、家庭用だけではなく、業務用
の燃料電池応用製品を購入した場合、額に応じ
たタックス・クレジットが与えられる仕組みに
なっている。
(フォードの例)
フォードは 1997 年、ダイムラークライスラー
(当時はダイムラー)と、燃料電池の開発メー
カーであるカナダのバラード社などとコンソー
シアムに加わり、
燃料電池の開発を進めている。
このプロジェクトには、マツダなども参加して
いる。
同時多発テロ事件以後、有事の際のエネルギー
開発をめぐる論議が再び、活発になっており、
現在、この法案の行方が注目されている。
(ダイムラークライスラーの例)
燃料電池自動車は、1998 年にダイムラーベンツ
(現在のダイムラークライスラー) が 2004 年
の市販を目指すと発表したことをきっかけに、
次世代のクリーンエネルギー自動車として各社
一斉に力を入れ始めた。ダイムラークライス
ラーは、燃料電池の技術ベンダーであるバラー
ド・パワー・システムズ(Ballard Power Systems)
と「燃料電池連合(Fuel Cell Alliance)
」を結成
し、自動車メーカーの中でも積極的に燃料電池
開発に取り組んでいる。また、2001 年 12 月に
は、
「今後、
数年間で 14 億ドルもの予算を投じ、
燃料電池自動車の開発を急ぐ」と発表したばか
りである。
ダイムラークライスラーは、これまで、燃料電
池を応用したバス「シロータ」を 2002 年末を
めどに欧州で発売すると発表している。これま
で、米国やカナダで、実験レベルの燃料電池搭
載の自動車運行はあったものの、商業用に発売
するのは世界的にも初めてであるという。
現在、
1台あたり 120 万ドルと非常に高価になってい
る。
「シロータ」
について、
ダイムラークライスラー
は 2002 年末までに 30 車程度発売すると発表し
ている。一方、再充電などの煩雑さや普及に伴
うメタノールの生産増や販売設備網の整備など
の問題も少なくなく、商用販売も1台あたり
120 万ドルと非常にコストが掛かっており、
「あくまでも環境への取り組みへの PR 段階」
(環境アナリスト)という声が多い。
JMC environment Update
78
エンジンと電気モーターを組み合わせたハイブ
リッド車については、トヨタ自動車やホンダな
ど、日本メーカーの独壇場だったが、米国の自
動車メーカーも商品化に本格的に取り組み始め
た。その中でも、フォードはハイブリッド車の
商品化で進んでおり、SUV(スポーツ用多目的
車)の「エスケープ」のハイブリッド車を 2003
年内に発売する計画で進めている、排気量 2
リットルの 4 気筒エンジンに補助動力のモー
ターを組み合わせるという。
(ゼネラルモーターズの例)
ゼネラルモーターズは 2001 年 7 月、水素方式
の燃料電池車に関する技術を持つ米国とカナダ
の企業と相次いで提携し、開発体制を強化し、
燃料電池自動車の実用化を急いでいる。ゼネラ
ルモーターズによると、1)今後、3 年以内に燃
料電池車の走行距離をガソリン車並みに伸ばす、
2)市販時期も当初予定の 2010 年より早める、
3)水素注入設備のデファクト規格獲得を目指
すという――としている。
カリフォルニア州の無公害車導入規制の現状
大気汚染に悩まされているカリフォルニア州で
は現在、2003 年をめどに販売されている車輌の
10%を低公害車に限定する、全米初の無公害車
販売義務規制の導入を進めている。このうち
2%は有害物質をほぼゼロに抑える無公害車
(zero-emission vehicles = ZEVs)にさせるとい
い、電気自動車や燃料電池車などの導入を念頭
に置いている。
自動車メーカー大手はこの規制の導入を阻止す
るために、各種ロビー活動を続けており、州議
会の公聴会などで、燃料電池を利用した車輌の
生産コストが高い点や、電池交換の煩雑さや走
行距離が限定される点などについて、積極的に
発言している。例えば、ゼネラルモーターズの
代表は「無公害車は採算が全く取れない」と指
摘している。しかし、同州大気資源委員会(Air
Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
Resource Board)はいまのところ、規制を緩め
る案に全員一致で反対しており、
いまのところ、
規制が導入される可能性が高くなりつつある。
州大気資源局は「規制に適合する技術を確立し
たメーカーが、市場シェアを獲得する」とメー
カー側にも理解を求めている。
また、既に、無公害車のユーザーについては、
州から助成金が出されており、2001 年春現在、
カリフォルニア州には 2300 台の無公害車が走
行している。規制では 2003 年までにこの数を
少なくとも 5 万台近くまで増やすとうたってい
る。
カリフォルニア州は元々、環境規制が厳しいこ
とで知られており、低公害車導入規制も 1990
年前後から論じられてきた。ピート・ウイルソ
ン(Pete Wilson 共和党)前知事時代に一時的
に環境規制は緩和されたが、グレイ・デービス
(Gray Davis 民主党)現知事が就任した昨年
から再び、環境規制が厳しくなる傾向にあると
いわれている。
このプログラムの中では、特に日本メーカーの
貢献が目立っている。例えば、ホンダは 2001
年7月、燃料電池車の動力源となる水素を発生
させて貯蔵し、車に供給する「水素ステーショ
ン」の実験施設を、米カリフォルニア州の研究
所内に建設し、実用化を目指している、水素の
安全な充てん方法などの研究が中心で、技術面
では、試験管代わりになる高分子の薄膜をいか
に安く作るか、触媒の白金をどれだけ節約でき
るかなどの研究が行われている。
3. 市場主義アプローチ
一方で、カリフォルニアと同様の無公害車導入
規制を検討していたニューヨークとマサチュー
セッツ両州では、2002 年秋、電気自動車の普及
が遅れていることを理由に、規制の導入を 2003
年ではなく、2007 年以降に先送りした。カリ
フォルニア州でも電気自動車の普及が進まない
ことを理由に、無公害車の下にガソリン車で対
応可能な Super Ultra Low Emission Vehicle のラ
ンクをその下に新設するなど、政策側も開発の
遅れに対応しようとしている。
カリフォルニア燃料電池パートナーシップ
カリフォルニア州では、「カリフォルニア燃料
電 池 パ ー ト ナ ー シ ッ プ ( California Fuel Cell
Partnership)
」という州政府と自動車メーカーら
との産官協力プログラムが続けられている。
フォード、ダイムラークライスラー、ゼネラル
モーターズ、フォルクスワーゲン、トヨタ自動
車、ホンダ、日産、現代自動車などの自動車メー
カー、シェル、BP、テキサコなどの石油メーカー、
自動車用燃料電池を生産提供する技術ベンダー
のバラード・パワー・システムズなどが参加し
ている。バラード・パワー・システムズは 1983
年より、陽子交換膜(PEM: Proton Exchange
Membrane)燃料電池の開発を行っている代表
JMC environment Update
的な燃料電池技術ベンダーであり、同社はもと
もと潜水艦用に固体高分子型(PEM)燃料電池
を開発してきた企業で、さらに燃料電池技術を
小型化し、自動車用の燃料電池を開発を行って
いる。また、「カリフォルニア燃料電池パート
ナーシップ」には、エネルギー省・運輸省など
の連邦政府の省庁も参加している。
79
全米工学アカデミーのディーナ・リチャーズら
によると、現在、環境規制に関して、注目され
ているのが、これまでの「命令規制(command
and control)」のアプローチから、「市場主義
(market-based)アプローチ」への転換だとい
う。市場主義アプローチは市場経済に政府が介
入するのを控えるという経済イデオロギーであ
り、特定の企業や産業を政府が重点的に支援す
るのは、政府が「強者」を恣意的に選ぶことで
あり、好ましくないとする一方で、市場メカニ
ズムを重視した方が効果的な産業政策を行うこ
とができる、というアプローチである。技術革
新の速度が速い環境浄化技術分野に関しては、
政府機関が積極的な産業支援を進めても、技術
革新に政策を柔軟に適応させていくのが、難し
いと考え、市場の競争原理を利用し、規格開発
を進める点がこのアプローチの特徴である。ま
た、企業活動が自由に行えるように、規制緩和
を急ぐ点もポイントとなっている。
つまり、市場主義アプローチとは、市場原理に
乗っ取った環境保護コストの負担であり、例え
ば、企業が流出した廃棄物の汚染率が高ければ
高いほど、その企業に高い税金を課すアプロー
チである。現在、米国では既に導入されている
排出件取引(emission trading)も、この市場主
義アプローチの一つであり、企業にとっては、
Vol.3 No.5 (2002. 1)
米国における環境関連動向~在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報⑬
廃棄量を自主的に減らせば、他の企業に売却で
きるため、環境対策を進めるうえで大きなメ
リットになっている。米国ではブローカーによ
る排出権売買が盛んでインターネットによる取
引も既に始まっている。
しかし、コスト決定の段階においては、廃棄に
かかる適正なコストを定めるのが極めて難しい
ほか、
排出権を購入する企業が増えた場合など、
全体の排出量が減るとは限らず、このアプロー
チには数々の問題もある。
米国の企業経営者の多くは、国家による経済介
入に対して極めて強い拒否反応を示すのが一般
的である。一般的に政府の権威に対して批判的
であり、連邦政府の機能拡大を「大きな政府(big
government)」と揶揄してきた。特に、環境政
策についても、これまで、政府の規制に対して
強く反対するのが一般的であり、そのため、例
えば、ドイツなどと比べると、産業界側が政府
に歩み寄って、環境対策で協力するようなケー
スは比較的少ないといわれてきた。
エイブラハム氏は前上院議員であり、2000 年
11 月の選挙で落選するまで、連邦議会の中で唯
一のアラブ系(レバノン系)であった。そのた
め、人種マイノリティや助成を閣僚に登用しよ
うとするブッシュ大統領からの意向があったた
め、エネルギー省長官に任命されたといわれて
いる。
エイブラハム長官は上院議員時代には、環境保
護関連法案には反対し続けてきた経緯がある。
これは、自由競争と規制緩和を強調するエイブ
ラハム氏のイデオロギーによるところが多いと
いわれている。エイブラハム氏は上院議員時代
の 1999 年、エネルギーに関する規制緩和を徹
底し、エネルギー省の組織そのものを廃省する
法案を提出したこともある。
環境保護団体はエイブラハム長官に対して、概
して批判的であり、例えば、資源保全有権者連
盟(League of Conservation Voters)は、2000
年の選挙戦では、エイブラハム氏の上院議員落
選を狙った、資源保全有権者連盟などが同氏の
環境保護に対する立場を痛烈に非難したテレビ
CM を多数スポンサーしている。
しかし、世界的な環境保護の動きが高まる中、
企業の環境・エネルギー保全に対する認識も大
きく変化しつつある。特に、“環境に優しい企
業”という PR 効果も大きい。ランド研究所の
研究員、スーザン・レスター女史によると、廃
棄量を抑えることによりリソースを節約するこ
とができる以上に、企業にとっては、顧客が重
要であり、
「環境にやさしい」
ことはその企業の
市場価値を上げることにつながるため、環境対
策を講じているとしている。そのため、企業の
研究開発(R&D)のポートフォリオに環境対策
が含まれるケースが急増しているという。
エイブラハム長官は、ブッシュ政権の中では、
行きすぎた環境保護を抑え、開発のバランスを
とることを主張しており、今後も、環境保護を
全面的に訴えたクリントン政権時代と一線を画
したエネルギー・環境政策のリーダーシップを
取るものとして注目されている(ハーバード大
卒、49 歳)
。
そ れ も あ っ て 、「 命 令 規 制 ( command and
control )」 の ア プ ロ ー チ か ら 、「 市 場 主 義
(market-based)アプローチ」への転換が注目
されているといえる。
4. スペンサー・エイブラハム(エネルギー庁
長官)
エネルギー省のスペンサー・エイブラハム
(Spencer Abraham)長官は、国のエネルギー
を管理し、エネルギー業界の規制を行うトップ
として、米国の環境行政の方向性を決める人物
の一人である。
JMC environment Update
80
Vol.3 No.5 (2002. 1)
新刊図書のご案内
環境安全グループでは、今般次の3冊の書籍を刊行しました。
Ⅰ.ニューアプローチ・グローバルアプローチに基づく指令の実施ガイド〔対訳版〕
欧州では、2000 年に「Guide to the implementation of directives based on New Approach and the
Global Approach」が公表され、CEマーキング、省エネ、環境等の指令の実施についてわかり易く
解説がされているため、当組合は欧州委員会から翻訳に関するライセンスを得た上で、CEマーキ
ング対策委員会・
「ニューアプローチ指令WG」を設置し、翻訳及び編集作業を行ったものです。
内
容 : 指令の適用範囲、責任、指令への適合、適合性評価手順、ノーティファイド・
ボディ(NB)、CE マーキング、市場監視、対外的観点
販 売 価 格 : 10,000 円(組合員割引価格 5,000 円)(消費税込み、送料別)
次の 2 点は専門機関に委託して調査したものです。
Ⅱ.
「中国・韓国・台湾の製品安全基準・認証制度調査報告書」
内
容 : 法規制の概要、基本法( 関連規則、規制対象製品、所管機関、認証機関、試験
機関、適合マーク、通関時の証明書提出、規格の国際整合化、 工場検査、相互
承認協定、海外の認証・試験機関との提携)
、申請手続き(認証の申請、適合証
明書、テストサンプル数、CB レポート受け入れ、第三者試験機関、メーカーラ
ボ試験レポートの受け入れ、申請資料、試験機関、試験費用、証明書有効機関、
証明書更新、工場検査)
販 売 価 格 : 4,000 (組合員割引価格 2,000 円)(消費税込み、送料別)
Ⅲ.「中東欧主要国と米国の製品安全基準・認証制度調査報告書 −ハンガリー・ポーランド・
チェコ・米国−」
内
容 :
中東欧
米国
EU 加盟について、規制の概要(基本法、関連規則、規制対象品目、所管機関、
認証機関、適合性評価、適合性マーク/認証マーク、規格の国際整合化、相互
承認協定、海外の認証・試験機関と MOU 提携)
、申請手順(認証取得のための
申請手順、その他機関の試験レポート・CB レポート・メーカーラボ試験レポー
トの受け入れ、申請資料、証明書有効期限および更新期限、工場検査)
、労働安
全衛生、市場検査
法的な背景と関連機関、国家規格と技術基準、国家認定試験所、認証制度
販 売 価 格 : 5,000 円 (組合員割引価格 2,500 円)(消費税込み、送料別)
購入ご希望の向きは当組合ホームページ(http://www.jmcti.org)にアクセスして下さい。□
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Vol.3 No.5 (2002. 1)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
1. 貿易関連環境問題対策委員会
<平成 13 年度 通算第 67 回委員会(1/18;組合会議室)>
・
「WTO 時代中国の環境問題への対応」
〜経済発展と変わる官民の環境意識〜
―― 三菱総合研究所 産業・市場戦略研究本部 主任研究員 小林 守 氏より中国の環境問題の潮流、
環境保護への取組み、環境意識等について講話を伺った後、意見交換ならびに質疑応答を実施
した。
・
「中国における化学物質届出制度と手続き」
〜現有化学物質名録の追加届出手続き等について〜
―― 日本化学工業品輸出組合 業務部部長 北山 勝弘氏より中国における化学物質届出制度と手続
きについて講話を伺った後、意見交換ならびに質疑応答を実施した
・松下電器グループ・欧州環境フォーラム 2001 の開催結果について
―― 昨年ドイツ・フライブルグで開催された欧州環境フォーラム 2001 の開催結果について
松下電器産業㈱ 吉村 孝史氏より報告を伺った。
2. 貿易と環境専門委員会
<平成 13 年度 第 7 回委員会(11/28;組合会議室)>
・
「環境格付けの動向について」
ニッセイ基礎研究所 社会研究部門 主任研究員 環境アナリスト 川村 雅彦氏より環境格付けの動向
について講話を伺った後、質疑応答を行った。
・先頃ドーハで開催された第 4 回閣僚会議における WTO 閣僚宣言の中から「貿易と環境」について事務
局から説明した。
<平成 13 年度 臨時委員会(12/ 5;組合会議室)>
・EU の環境政策について
―― ドイツ連邦環境省、ヘルムット・シュヌラー博士 英国通産省、マーク・ダウンズ博士来
日の機会を捉え WEEE & RoHS、日本メーカーのリサイクルへの取り組み等について意見交換を
行った。
<平成 13 年度 第 8 回委員会(12/19;組合会議室)>
・
「COP7 の概要について」
―― 経済産業省産業技術環境局 環境政策課 地球環境対策室 課長補佐 井上 博雄氏 より「COP7 の
概要について」講演を伺った後質疑応答を実施した。
・貿易と環境に関する海外動向について
―― WEEE & RoHS をはじめ、貿易取引に関連する環境問題について情報交換を行った。
<平成 13 年度 第 9 回委員会(1/22;組合会議室)>
・
「WTO における貿易と環境作業プログラムについて」
経済産業省 通商政策局 通商機構部 参事官補佐 菊地 浩明氏より WTO における貿易と環境作業プロ
グラムについて講話を伺った後、質疑応答を行った。
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Vol.3 No.5 (2002.1)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
3.
環境法規専門委員会
<平成 13 年度 第 7 回委員会(12/21;組合会議室)>
・欧州環境規制に関する定期レポートの内容分析
―― 各委員が担当地域ごとに企業活動への影響、解釈上のコメント等について報告、その後、質疑
応答および意見交換を実施した。
・環境法規に関する情報交換
―― WEEE & RoHS/EEE、EU 化学規制の見直しなどにつき情報交換した。
・活動報告書作成について
―― 作成の方針を確認した。
4. 環境問題関西委員会
<平成 13 年度第 7 回委員会(12/14;大阪支部会議室)>
・「ISO14001 と化学物質管理」について(島津製作所の事例紹介)
―― ㈱ 島津製作所 環境・安全推進室 専門課長 天野輝芳氏より、環境目標、化学物質管理の取組
み、環境経営の概念等について講話を伺い、意見交換した。
・欧米の動向について
―― WEEE & RoHS にかかる日米欧の 3 団体のポジション・ペーパーの概要を報告するとともに、米
国の鉛、水銀規制の動向等について情報交換した。
<平成 13 年度第 8 回委員会(1/23;大阪支部会議室)>
・「我が国の環境格付の動向とエコファンドにおける環境評価」について
―― ㈱ インターリスク総研 環境部 上席コンサルタント 汲田 仁一 氏より、環境格付の動向、エ
コファンドの環境評価手法、課題等について講話を伺い、質疑応答を行った。
・欧米の動向について
―― 化学物質規制の動向、EIA の鉛規制の対応、米国包括エネルギー法案の動向等について情報交換
した。
5. 基準・認証問題専門委員会
MRA ワーキンググループ
<第 5 回 WG(11/29)
;組合会議室)>
<第 6 回 WG( 1/ 9)
;組合会議室)>
―― 「日欧相互承認ガイドブック」を作成するため、提出された・担当原稿について意見交換を行
うと共に、相互承認協定及び国内法についてスタディーを実施
R & TTE ワーキンググループ
<第 4 回 WG(11/29;組合会議室)>
―― 「CE マーキングガイドブック – R & TTE 指令編 –」を作成するため、提出された・担当原稿に
ついて意見交換を実施
6. 海外製造物責任(PL)問題対策委員会
<平成 13 年度第 3 回委員会(11/27:大阪支部会議室)>
・米国主要州の PL 制度実態調査 – カリフォルニア、ニューヨーク、テキサス – の調査結果(最終報告)
について
―― 標記調査の最終報告について委託先より報告があり、内容の検討をした。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002.1)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
・中・東欧主要国の PL 制度実態調査 – ポーランド、ハンガリー、チェコ – の調査結果(中間報告)に
ついて
―― 標記調査の中間報告について委託先より報告があり、内容の検討をした。
・海外における PL 関連の動きについて
―― 米国の PL 訴訟動向について情報交換した。
<平成 13 年度第 4 回委員会(12/20:大阪支部会議室)>
・「企業の危機管理における PL と広報対応」について
―― 淑徳大学 国際コミュニケーション学部 経営環境学科 教授 藤江俊彦氏より、企業の経営と危
機管理、製品と表示上の欠陥、事態発生時の対応、マスコミの対応などについて講和を伺い、
質疑応答を行った。
・米国主要州の PL 制度実態調査 – カリフォルニア、ニューヨーク、テキサス – の調査結果(確認事項)
について
―― 標記調査の質問事項、確認事項等について委託先より報告があった。
・中・東欧主要国の PL 制度実態調査 – ポーランド、ハンガリー、チェコ – の調査結果(最終報告)に
ついて
―― 標記調査の最終報告について委託先より報告があり、内容の検討をした。
・海外における PL 関連の動きについて
―― 製品安全の取組みについて意見交換した。
JMC environment Update
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Vol.3 No.5 (2002.1)
事務局便り
◇ 2002 年がスタートしましたが、果たしてどんな一年となるのでしょうか。何よりも深刻な経
済不況からの脱出が我が国の緊急課題ですが、一方で時間の経過とともに確実に迫ってくるの
が日韓共催のワールドカップサッカーです。
◇ 海外の環境問題の中の最大の関心事項である WEEE & RoHS
指令も 2002 年に入っていよいよ第
二ラウンドの審議プロセスに入りました。そして、どうやら本年中には制定されるのでは、と
先が見えてきました。思えば、同指令の第1次ドラフトが提示されたのが 1998 年 4 月で、こ
れを機会に在欧日系企業が JBCE を設立して WEEE 指令案などに対するロビーイング活動を開始
したのは第 2 次ドラフトが提示される前の 7 月、即ち前回のワールドカップ・フランス大会の
最中でした。設立会合の日の夜、フランス vs クロアチアの準決勝を組合ブラッセル事務所応
接室でテレビ観戦したことを思い出します。あれから 4 年か….。
◇ 今号は、定例の情報に加えて、環境格付け、標準化などの記事も取り上げたため、随分とボリ
ュームのあるものになってしまいました。これにはご案内のとおり環境問題のスコープがます
ます拡大していることが背景にあります。企業の社会的責任、倫理、労働安全、製品関連の種々
の消費者保護などなども当誌に登場してくるのでしょうか。
◇ また、今号から組合員企業のページを設けました。トップバッターは当組合の貿易関連環境問
題対策委員会委員長会社・松下電器産業(株)にお願いしました。同委員会の委員長である吉村
孝史氏に同社が昨年12月に初めて欧州で開催した「環境フォーラム」の結果についてレポー
トしていただきました。成功裏に終了した同フォーラムは、その後もさまざまな反響があるよ
うで、単に一過性に終わらず今後に継続する企画であったと伺い、ご同慶の至りであります。
◇ 年明けのスキー行は群馬県の尾瀬岩鞍スキー場でした。一般に若者の趣味の多様化、折りから
の経済不況、スキーからスノーボードへ、などを理由にスキー人口が減少し、また高速道路の
整備に伴い宿泊から日帰りへのシフトなどにより、地元関連産業は厳しい事態に直面している
ようです。ここ岩鞍スキー場は男女国体コースを有し、ゴンドラを備えて西山という奥の方ま
で開発された東京近郊では規模の大きなスキー場のため以前は正月や週末には長蛇の列のゴ
ンドラ・リフト待ちとアクセス道路の渋滞が激しく我々も敬遠していた場所だったのですが、
最近は今だにボーダー拒否のキー専用ゲレンデというハンデはあるもののゴンドラは待ちな
しで乗車できました。どこのスキー場も似たような状況と聞いています。その対策として、一
部のスキー場は百名山ブームに飛びついた中高年需要を掘り起こして、2匹目の泥鰌を期待し
ている由。こちとら中高年ゆえ、シルバー券の資格がどこも 55 歳以上になることを切望して
います(実際購入する時の思いは複雑で、ましてや身分証明書の提示を求めずに申し出のまま
シルバー券を売ってくれた時などは、少しは疑って欲しい、ナンテ…)
(TI)
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