海外テロ事件における危機管理広報対応の事例分析

日外協セミナー・講演会ダイジェスト
海外危機管理広報セミナー〈第 2 部〉パネルディスカッション(2013 年 9 月 10 日開催)
海外テロ事件における危機管理広報対応の事例分析
―アルジェリア人質事件を振り返って
【司会・パネリスト】
黒田明彦 氏 ㈱電通パブリックリレーションズ
松尾 崇 氏 ㈱電通パブリックリレーションズ
西川裕治 (一社)日本在外企業協会
松尾(司会):今年 1 月のアルジェリア人質事
件での日揮の広報対応の特徴は何か。
黒田:今回は現場がアルジェリアであり、即座
ディスカッションの様子(左から松尾氏、黒田氏、西川)
私も公表に踏み切った。ただ、事件の全体像が明
らかになるにつれて多少後悔したのだが。今回の
日揮広報の対応は、これまでの他社事例をよく研
に報道管制が敷かれた。また、事件発生当初は日
究しているとの印象を受けた。被害者の場合は、
揮経由の情報が報道の中心であった。
今では実名非公表が定着している。
西川:結果的には、遠藤広報・IR 部長の対応
一方で、同じく社員が死亡した BP は事件解決
のうまさが目に付いた事案だった。ペルー人質事
後の早い時期に自社 HP で、犠牲者を「会社のた
件や9・11 のように現地からのメディア情報が
めに犠牲になったヒーロー」として顔写真入りで
溢れると、企業広報はその確認で忙殺される。黒
公表していた。この文化の違いは興味深く、日本
田さんの説明にもあったが、メディアが企業から
企業の参考にもなる。
あふ
の情報に依存する場合は、企業の広報対応はやり
やすくなる。
松尾:確かに正解はないかもしれない。日揮は
日本政府が実名報道に応じた後でも、犠牲者家族
松尾:事件発生から時系列で見た場合、前半と
後半での報道や広報の流れはどうだったか。
黒田:前半で注目されたのは、日揮の危機管理
や広報対応の的確さや、社長が羽田から現地に向
への配慮ということで公表を控えた。
会場からの質問:そもそも非常に危険な場所で
仕事をすることに関して、企業のリスク管理を問
う報道が少なかったと思うがどうか。
かうなどアクションの速さが強い印象を残したこ
西川:経営上の危機管理は、広報の危機対応実
とだ。後半では実名報道の是非が大きく注目され
務とは別の次元で議論されるべき問題だ。経営判
たことだ。
断をする前に広報としての意見を上程するのは当
人質テロでの実名報道対応
松尾:実名報道について、ペルー日本大使公邸
人質事件などでの経験を踏まえて、どう思うか。
然だが、広報の立場だけ考えると、いったん経営
が決断したことに関しては、
「何か起きたらどう
対応するか」を徹底的に考えておくことが現実的
だと思う。
西川:私が広報に着任して2カ月半目にペルー
今回、危機管理面での批判報道が(一部メディ
事件が発生した。当然、危機広報の経験も知識も
アを除き)意外と少なかったのは、日揮のスムー
なく大いに戸惑った。メディアは人質の実名報道
ズな広報対応がその遠因になっていると思う。も
を当然のように求めてきたが、まずは他社の動向
し、広報対応で躓いていたら、報道が危機管理そ
を見た。数社が実名公表するのを確認してから、
のものに大きく振れた可能性は高かったと思う。
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2013 年 11月号
つまづ