規制改革推進のための3か年計画

医 業 経 営 情 報 レ ポ ー ト
「規制改革推進のための3か年計画」
にみる医療制度改革の方向性
Contents
1│示された規制改革推進のための具体的計画
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2│レセプト請求を中心とした医療IT化の加速
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3│医療従事者の資格制度と労働環境の変革
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4│診療報酬体系とその他規制改革が促進される項目
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5│規制改革推進施策が医療にもたらす影響
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
示された規制改革推進のための具体的計画
規制の見直しと医療をめぐる問題
構造改革の柱として国と政府が推進してきた規制改革は、これまで四次にわたる政府計
画を策定しており、平成 19 年1月からは首相の諮問機関「規制改革会議」や全閣僚で構成
される「規制改革推進本部」による議論と数次の答申を踏まえ、同年6月 22 日に『規制改
革推進のための3か年計画(以下、「本計画」)』が閣議決定されました。
医療分野は、このうち重点計画事項のひとつに掲げられており、規制見直しによって行
政のあり方が「事前規制型」から「事後チェック型」へ転換していくことに伴って、新た
に求められるルールの創設や必要な規制の実効性確保・向上へ向けた措置の実施計画が示
されています。今後の国政・政権動向によって少なからず影響を受けると共に、毎年度の
評価と改定が予定されており、未だ流動的であることは否めないものの、直近の医療をめ
ぐる各制度改革の方向性が示されているものとして、本計画を読み解く必要があります。
したがって、本レポートでは、本計画において明示された計画事項のうち、医療機関に
影響を及ぼすものとして医療分野に関する計画の概要を紹介します。
医療を取り巻く規制見直しの具体的項目
医療分野において示された計画内容は、平成 19 年度中に検討・結論をなし、速やかに措
置実施となるものも含めて多岐にわたっています。医療の質向上と安全性は確保しつつ、
競争原理の導入により効率化を図り、官主導のシステム脱却のための規制のあり方の改革
について、積極的かつ抜本的改革を目指すものです。
(1)改革事項の計画
本計画においては、当面の改革事項として、下記のように平成 19 年度から 21 年度まで
の3か年にわたって取り組む事項を確定させ、着実かつ速やかな実施を図る取り組みの推
進がうたわれています。
■平成 19 年度から 21 年度までの3か年に取り組む改革事項
●医療のIT化
●レセプトの審査・支払に係るシステムの見直し
●医療従事者の資格制度の見直し
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●医療従事者の労働派遣
●高度技能を有する外国人医師の受入促進
●後発医薬品の使用促進策の更なる推進
●地域医療に貢献する医療機関に対する診療報酬のあり方
●診療報酬の診断群別包括支払方式の普及と定額払い方式への移行促進
等
(2)明示された具体的検討・実施時期
上記の措置事項は、それぞれ検討や実施時期が具体的に示されています。規制改革の加
速化を目標のひとつに掲げている裏づけともいえます。
実施が明示された措置項目
●レセプトのオンライン請求化【20 年度順次義務化・23 年度当初より原則化】
●オンライン請求対応電子点数表・点数計算ロジック整備【20 年度点数表完成】
●医薬品・医療材料への標準コード付与【19 年度中結論・措置】
●地域医療貢献医療機関に対する診療報酬評価のあり方検討【19 年度結論・措置】
●診断群分類別包括支払方式の普及と定額払い方式への移行促進【19 年度結論・措置】
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レセプト請求を中心とした医療IT化の加速
医療データの有効活用を目指して
平成 13 年に「医療のIT化」という基本方針が示されて以降、国と厚生労働省は様々な
インセンティブを設けて、その流れを加速してきました。
とりわけ、レセプトのオンライン請求化に関しては、今後進めるべき医療IT化の試金
石として位置づけ、平成 18 年厚生労働省令により同 20 年度から順次義務化、同 23 年度以
降、全ての医療機関と薬局に対し、原則として義務化されることが既に規定されています。
(1)レセプトのオンライン請求化の促進
レセプトのオンライン請求については、その基礎となる電子点数表を平成 20 年度診療報
酬改定に合わせて完成させるべく準備が進められているほか、早期に完全実施を図るため
に、厚生労働省は次の3点の周知徹底を図ることとしています。
■オンライン請求化の期限内完全実施
(1)オンライン請求化の期限は努力目標で
はなく義務である
(2)義務化において現行以上の例外規定を
設けない
(3)義務化の期限以降、オンライン以外の手
法による請求に対しては診療報酬が支
払われない
医療機関へのインセンティブ施策
+
①診療報酬支払期間の短縮
(現行最長3ヶ月⇒1 ヶ月程度)
②診療報酬点数加算の引き上げ
等
●レセプトのオンライン請求化のメリット
「合理化・効率化による経費節減」「患者本位のデータ利用促進」
⇒ 被保険者に有益であり、診療報酬において考慮されるべき
レセプトデータについては、多くの医療情報が含まれる貴重なデータであることから、
これらのデータ収集・蓄積、ならびに分析によって、統計学的・疫学的なデータに基づく
質の高い医療を研究し、実践する上で非常に有用であると考えられます。
したがって、オンライン請求化によって診療情報の収集・蓄積が進み、加えて平成 20 年
度から実施される特定健康診査結果に基づく健康情報についても収集・蓄積されることに
なります。これらを相互に関連付けることによって、より活用の範囲が拡大され、医療機
関間あるいは介護・保健分野との連携促進にも有益に作用することが期待されています。
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(2)レセプトの審査・支払に係るシステムの見直し
①支払基金の業務効率化
現在、被用者保険に係るレセプトの審査・支払業務は、支払基金において実施されており、年間
約8億件にのぼるレセプト処理数のうち、電子レセプトが占める割合は3分の1であり、いまな
お3分の2は紙ベースでの処理が行われています。
電子レセプトはオンライン請求の前提となるため、診療報酬におけるインセンティブを設け、支
払基金側も医療機関に対してその普及促進を働きかけてきましたが、未だに大部分がオンライン
化されてはおりません。結果的にレセプト審査・支払業務は高いコストを費やす結果となってい
る現状ですが、オンライン請求の義務化に伴って、審査・支払業務の効率化と共に、システム開
発によって明らかに不適切な保険請求(単純計算ミス、ルール逸脱等)については、自動的に誤
りを指摘する対応が可能になります。
審査・支払業務効率化の具体的計画事項
●審査のあり方を含む業務フローの抜本的見直し
●業務効率化計画の作成【平成 19 年度末まで】
平成 20 年度から、原則完全オンライン化となる同 23 年度までの年度ごとの数値目標を含む
工程表
等
●上記計画に基づく手数料適正化の数値目標明示【平成 19 年度末まで】
審査・支払業務に係る手数料算出根拠を明らかにする
*業務効率化計画、手数料適正化の見通しの積極的公表(HP掲載等)
●オンライン請求の進展で期待される効率化の視点による効果
明らかに不適切な内容を記載したレセプトの自動チェック機能
高度に医学判断を要する審査対象となるレセプトの区分機能
②支払審査機関間における受託競争の促進
オンライン化による審査・支払業務の効率化は、国民が負担する医療保険事務費用を軽減するこ
とができるため、これを確実に遂行することを目指して、審査支払機関間における競争原理を導
入することが必須条件だといえます。
これに先立ち、「規制改革・民間開放推進会議」の提言により、平成 19 年度から健康保険およ
び国民健康保険の各保険者が支払基金と各都道府県国保連のいずれに対しても審査・支払を委託
できる仕組みが実現化されています。今後、更なる受託競争の促進によって効率化を図るための
取り組みが進められることになります。
受託競争促進のための具体的計画事項
●公正な受託競争環境の整備
一定の情報(手数料、審査取扱件数、再審査率、財務情報)の公開
●支払基金と各都道府県国保連の審査・支払部門のコスト比較
財務情報公開のための統一的ルール設定
●保険者・審査支払機関間の契約モデルの提示
●保険者指定の審査支払機関にレセプト請求可能なインフラ整備
●レセプト照合等の審査ロジック公開
●紛争処理のあり方の見直し
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医療従事者の資格制度と労働環境の変革
医療従事者に求められる資質の確保
医療法および医師法等の改正によって、特に医師を中心とした医療資格者・医療関連免
許取得者については、その資質の確保を図るべく、一定以上の水準を維持することを目的
とする各制度の運用を厳格に実施することを明示しています。
(1)医療従事者の資格制度の見直し
①医師等医療資格者の一定以上の資質確保【逐次実施】
医療法および医師法等の改正によって、医師免許取得者については「行政処分を受けた医師等に
対する再教育」が義務付けられることになりましたが、当該制度を実効性あるものとするために、
厳格な運用に向けた具体的措置を逐次実施し、医師等の免許取得者を確保すべく取り組むとして
います。
一方、医療制度改革の柱のひとつである「安心・安全で質の高い医療の提供」の実現に向けて、
医療事故の発生予防・再発予防のためのヒヤリハット事例の収集・分析の継続、そして事故発生
の原因等、重大な情報提供などの事業・施策を、総合的観点から講ずることを明示しました。
②医師の資質維持・向上のための取り組み【平成 19 年度検討・結論】
医師という職業は、免許取得を起点とした生涯にわたる修練と研鑽が求められ、かつ特に臨床医
にとっては、知識・技能の水準が患者の生命に直接的に関わるものであることから、医師として
一定水準以上の知識および技能を維持することは絶対的条件であり、その向上を図ることは患者
の信頼の担保として求められているところです。
これらにより、医師の資質について専門的かつ客観的・定期的なチェックをするための取り組み
を進めるべく、次のように具体的な施策が検討されています。
医師の資質維持・向上のために検討されている施策
●定期講習の受講等義務付け
医療保険制度・医療安全情報のキャッチアップのサポート
●医療安全等ガイドラインの提供・改定・周知等
望ましい水準を示すことによる資質の向上
●医師ないし保険医資格更新制度導入
医療事故防止、医師の技術・技能に対する信頼担保のための患者側の要求
③総合的視点による医師資格制度の見直し【速やかに検討開始、平成 19 年度中結論】
医療の専門分化が進み、「医師免許」だけでは個々の医師の専門領域を表しきれない状況となっ
ている一方で、専門医あるいは認定医等の医師免許を補完することを目的とした資格については、
学会等により付与されるため、必ずしも技術的評価が伴ってない、あるいは各専門資格間におけ
る評価基準に統一性がない等の指摘がなされています。
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
また、医療施設の機能分化、在宅診療の推進によって、診療所が提供するプライマリケアの重要
度が増しており、いわゆる「はしご受診」を防止するためにも、初期診断における医師の技能や
問診等のコミュニケーション能力の向上が求められるようになっています。
これらの事情を踏まえ、次のような取り組みを進める計画事項が挙げられています。
専門・機能分化への対応のために検討されている施策
●専門医等の資格取得に際する質の確保
学会等の自治・自発性を尊重しつつ専門医資格等付与に対する公的サポート
国際標準にも合致する知識・臨床上の技能等を有する専門医のあり方の検討
●総合診療医の育成
プライマリケアにおける総合的診断力等向上のための研修充実
全科に係る基本的新弾力を有する総合診療医の育成等に対する公的サポート
プライマリケアを担う医師の知識・技能・資質のあり方の検討
(2)医療従事者の労働派遣
医療従事者に関する労働派遣については、平成 18 年4月より産前産後休業、育児休業、
介護休業中の労働者の業務およびへき地を含む自治体病院等における医師等の一般労働派
遣が可能となりました。この結果、へき地を抱える県庁所在地の市においても医師の一般
労働派遣が可能となったことから、一定の前進があったものと評価されています。
しかし、地域間あるいは診療科目間で医師の偏在・不足が課題として指摘されている現
状は変わらず、こうした偏在解消のためのひとつのツールとしてドクターバンク等の就職
あっ旋・紹介制度が定着しつつあるといわれます。こうした動きは医師に限らず、平成 18
年度診療報酬改定以降の全国的な傾向であった看護師囲い込みの反動から、都道府県ナー
スセンターの行うナースバンク事業も現場での効果を上げており、潜在看護師の掘り起こ
し等を重視した取り組みを進める自治体も増えてきています。
したがって、医療分野における労働者派遣のニーズ等様々な要素を考慮した上で、平成
19 年度中に医療従事者の派遣労働を可能とするべく検討し、結論を得るものとしました。
●医療従事者の労働派遣検討【平成 19 年度中に検討・結論】の要素
①医療分野における労働者派遣のニーズ
②医療従事者に係る紹介予定派遣の運用状況
③医療サービスの質への影響度
④院内の同一チーム内で働く常勤職員の負担度合
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
医師と他医療従事者間の役割分担のあり方
近年、医師と看護師ほか多くの医療従事者の協働により患者の治療に当たるチーム医療
の重要性が増すにつれて、これら多職種間の業務分担の柔軟化等によって、チーム医療の
推進や生産性の向上が期待されるようになった一方、医師とコ・メディカル間の具体的な業
務や責任の分担について、具体的な検討や見直しが行われる機会を逸していました。
さらに、医療の高度化を背景にしたコ・メディカルの業務範囲拡大や、これに対応する教
育水準の高度化の要請も認められているなか、医師および看護師等の不足から、チーム医
療実施のための人材確保が困難な状況が指摘されており、その推進の障害となっている状
況も見受けられるのが現状です。
したがって、このような医療職種間の業務分担の見直しを通じて、多職種が相互に業務
を補完し、特に不足する医療職種の役割を代替しつつも適切な医療を提供できるようにす
ることによって、医療人材不足の緩和を図るひとつの方法として考えられます。
医師とコ・メディカル間の役割分担のあり方に関する検討施策
●医師、コ・メディカル、医療補助者の役割分担のあり方を検討・整理
●看護職の教育の充実と看護職の活躍の機会の拡大について検討・措置
諸外国の事例を参考【平成 19 年度中に結論・逐次措置】
外国人医師の受入促進のための環境整備
現在、外国の医師免許を有する外国人医師が医療に関する知識及び技能の習得を目的と
して入国した場合には、関連法に定めるいわゆる臨床修練制度(*)によって、厚生労働大
臣の許可を条件として指導医の指導監督の下で臨床を行うことができるほか、平成 15 年の
改正を経て、知識及び技能習得に加え「これに付随して行う教授を目的として」臨床が許
可されるに至っています。
したがって、本制度の運用によっては、事実上高度な技術等を有する外国人医師が、口
頭や講義等に限らず臨床において術式等を行い、教授することも可能な状況であるものの、
実際には次のような課題が指摘されています。
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
●臨床修練制度に対して指摘される課題
①制度自体および運用についての周知徹底が不十分
②一層の修練・教授を希望する場合の期間延長等の制度運用柔軟化の必要性
③臨床修練許可の審査手続・期間等の迂遠
したがって、外国人医師が日本国内で制約なく臨床現場において治療を施すことは、法
律上認められていないのが現状です。しかし、本制度運用の余地は広いため、制度自体の
周知徹底を図ると共に、臨床修練許可に係る審査の迅速化を含めて、利用促進と円滑な運
用を図るための施策を引き続き進める旨を明示しています。
(*)臨床修練制度
「外国医師又は外国歯科医師が行う臨床修練に係る医師法第 17 条及び歯科医師法第 17
条の特例等に関する法律」
(昭和 62 年法律第 29 号)に基づき、一定の条件の下で外国人
医師等が臨床において術式を行うことができる制度であり、平成 15 年改正によって修練
に「付随して行う教授を目的」とした臨床が許可された。
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
診療報酬体系とその他規制改革が促進される項目
強化すべき診療報酬項目に対する評価のあり方
平成 18 年度診療報酬改定においては、在宅医療支援や小児医療、夜間・休日対応、また
地域連携によるこれらの 24 時間対応等について、診療報酬上一定の評価を与えており、今
後も地域医療に貢献する医療機関に対しては、高いインセンティブを設けていく方向が窺
われますが、改定後の運用状況を精査し、それらを踏まえた診療報酬上の評価のあり方に
ついて、今後さらに検討がなされていくことが示されています。
(1)医療施設体系のあり方見直しとの関連
厚生労働省「医療施設体系のあり方に関する検討会」による最終報告書において、地域
医療支援病院と特定機能病院についての議論がなされ、平成 20 年4月施行の医療計画に一
定の役割を担うとする予測によって、今後、果たしている個別の機能・役割を評価してい
く方向で考えるべきであり、施設類型としての位置づけを含め、これらの要件の見直しが
必要という見解や意見が付け加えられました。
地域の医療連携体制を構築する上で、拠点となる地域医療支援病院や特定機能病院だけ
ではなく、一定の領域で高い専門性を有する開業医や、地域に密着する中小規模病院の果
たす役割も重要であるという認識の下で「地域連携」が一層重要なテーマとなっています。
改定後の状況を踏まえた診療報酬上の評価のあり方についてさらに検討し、次期診療報酬
改定への反映を目指して、平成 19 年度中に結論を得ることとしたものと考えられます。
(2)定額払方式への移行促進策
平成 17 年3月に閣議決定された「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」
(同年3
月 25 日)においては、『診療報酬体系の透明化とEBMの一層の推進』が方針のひとつと
して示されており、そのうちの詳細項目として、診療報酬の診断群分類別包括支払方式の
普及と定額払方式への移行促進が計画として既に挙げられていました。
よって、段階的に実施されたDPCの試行的導入の検証結果を踏まえて、最終的な目標
としての診断群別定額払方式の導入を検討し、平成 19 年度中に結論を得て実施するものと
しています。ここでは、米国をはじめとする海外における諸外国の診断群別定額払い方式
(DRG−PPS(*)等)の導入効果を参考にし、日本の医療事情および医療費動向、
将来の社会構造予測等を考慮して、日本型DRG-PPSを構築する方向で検討を進めるこ
とが予定されています。
(*)DRG-PPS:Diagnosis Related Group-Prospective Payment System
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
他領域と関連して規制改革が進められる項目
(1)後期高齢者医療制度導入との関わり
平成 20 年4月施行が控えている後期高齢者医療制度は、独立の診療報酬体系となる方向
で議論が進められています。それは、施設医療に頼りがちな後期高齢者を外来診療、ある
いは在宅医療へ誘導する期待が込められ、このうち在宅医療のキーポイントとして訪問看
護の重視が述べられ、同ステーションの増加など訪問看護の充実を図る方策を検討すると
いう厚生労働省の方針が明らかとなっています。
当該制度施行に向けた準備が進められる中で、具体的な診療報酬体系は未だ明確になっ
てはいないものの、外来定額制(いわゆる人頭払い)や一人一入院定額制の導入が検討さ
れるなど、従来の体系とは異なる仕組みが加わる可能性は否めない状況となっています。
新たな考え方のシステムをスタートさせるにあたっては、関連する各分野においても規
制のあり方の改革が伴うことになり、その意味においては、広く規制緩和への動きを活発
化させる力になると考えられます。
(2)株式会社による医業経営の解禁等
株式会社による医業経営の解禁については、これまでも、さらに今後も議論が継続され
るものですが、当面の施策として、下記の事項を実施することが本計画において示されま
した。
①株式会社の経営する医療機関の取扱可能範囲の拡大【平成 19 年度以降検討】
各地方自治体からの具体的要望に応じて精力的に追加検討
②非営利性徹底の貫徹とガバナンス等に係る経営安定化の取り組み
【平成 19 年度中に検討、速やかに措置】
改正法医療法人への移行促進と外部の意見聴取システム導入の具体的方策
平成 16 年 10 月から構造改革特区において、株式会社による経営参入が認められたとこ
ろですが、可能とされる対象は自由診療であり、かつ「高度な医療等(個別に6件を列挙)」
に限るとされているため、特区における実現数はわずか1件という現状でした。この状況
を打破するため、当該医療機関が取り扱うことのできる医療行為の範囲を追加する方向で
検討されるものです。
また、非営利性の徹底を目指す医療法人制度改革に対応すべく、株式会社における社外
役員制や経営委員会制等を参考にした外部意見を聴取する組織体制を、社団医療法人にお
いても導入可能とするための方策についても検討し、措置する計画となっています。
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
規制改革推進施策が医療にもたらす影響
各制度改革にみる今後の規制改革の方向性
(1)規制緩和が医療機関にもたらすもの
医療をめぐる規制緩和としては、平成 18 年 10 月より実施された「保険外併用療法」が
記憶に新しいところですが、これは混合診療の全面解禁を進めようとする「規制改革・民
間開放推進会議」の要求に一部応える形で、特定療養費制度の対象範囲を拡大するという
施策となったものです。
このように、規制改革・民間開放推進会議の主張する具体的な要求項目について厚生労
働省の示した対応は、保険外併用療法を例に挙げると次のような状況となっています。
規制改革・民間開放推進会議の主張する項目
厚生労働省の対応案
抗がん剤等の保険適応外奨励への使用 ○
保険未収載の医療材料の術中使用 ○
欧米で承認されている国内未承認薬等について、
確実な治験実施につなげ、保険診療と併用による
制度的に切れ目ない体制を確立
乳がん治療により摘出された乳房の再建術○
医療技術ごとに医療機関に求められる一定水準
の要件を設定して対応
保険未収載の確立された治療法 ○
舌がん摘除後の形成術 ○
PPH法による痔治療 ○
子宮筋腫の動脈塞栓療法 ○
盲腸ポート手術 ○
必ずしも高度でない先進技術について保険導入の前
段階として保健医療との併用を認める
⇒ 新たに約 100 技術、約 2,000 医療機関が対象に
ピロリ菌除去、腫瘍マーカー等の追加実施○
適切なルールの下に保険診療との併用を認める
入院理由とは異なる検査等(患者の希望)○
予防的処置 ○
外国人患者のための通訳 ○
保険診療とは別個のものとして患者負担を求め
るサービスであることを明確化
医師、看護師の手厚い配置 △
今後検討
[出典]厚生労働省資料
特定療養費制度は大学病院など特定の病院のみが対象となっていましたが、保険外併用
療法となって、一定の水準を満たした医療機関であれば利用できるようになりました。し
たがって、このような規制緩和施策は、高度機能を有する一部の大病院だけが享受してき
た制度を広く開放することになり、ここに競争原理を導入することによって、提供する医
療の質を向上させ、ひいては患者側が求める医療に応える医療機関が存続すべきとする厚
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「規制改革推進のための3か年計画」にみる医療制度改革の方向性
生労働省の意向が投影されているともいえます。
同様に、株式会社の医業経営参入に係る議論については、従来の経過措置型医療法人に
おける持分払い戻し請求を要因とする経営安定の阻害等を回避するため、安心・安全な医
療提供の基盤として、医療法人の経営安定化を求めるという考え方に基づくものです。
規制改革の推進によって、医業経営における効率化と安定化を図ることを目的として掲
げられているだけではなく、質の高い医療を提供する医療機関に対しては、アウトカムで
それをチェックした上で経済的インセンティブを設けていこうという方向性が隠されてい
るといえるでしょう。よって、医療機関としては、国と厚生労働省の施策の後追いだけで
はなく、医療の本旨に従った経営方針を明確にし、自院のありたい姿の実現に向けた計画
策定が求められています。
(2)後発医薬品の使用促進
発医薬品をめぐっては、厚生労働省において、平成 18 年度薬価制度改革による画期的新
薬の加算率の引上げの実施、後発医薬品の使用促進のための処方せん様式の変更による患
者自身が後発医薬品を選択できる仕組みの導入など、先発医薬品の適正評価、後発医薬品
の使用促進等の取組を行っているところであり、このような取組を継続することが必要と
されています。
●後発医薬品の価格設定の考え方
薬効等の治療上の効果が同等
⇒
特許期間後の先発医薬品と後発医薬品は同価格
安全性・有効性等に関する情報量と製薬企業の情報提供・安定供給等の体制に格差
⇒
先発医薬品は後発医薬品よりも価格が高くなる
後発医薬品の使用促進を図る観点から、薬価制度の体系を見直し、先発医薬品メーカー
の新薬開発インセンティブが保たれるような保険償還制度が存在し、安全使用の観点から
情報提供、安定供給等が同等に保たれている場合には、保険償還価格は効果に対する価格
評価とし、同じ価格とするいわゆる「参照価格制度」を導入すべきという議論もあります。
医薬品は、比較的早い段階から規制緩和の対象とされてきましたが、現行施策の状況を
踏まえつつ、診療報酬改定と薬価制度の体系の見直し等を含む更なる使用促進が進む見通
しであり、医療機関としては、今後の方策を予測して対応することが求められます。
規制改革推進のための各方策は、日本の医療制度に市場原理と効率化の視点を持ちこみ、
医療機関に安全な医療提供の基盤となる経営の安定、さらに質の高い医療提供を要求して
いるといえます。
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