最初の5時間を越えて ∼教科「情報」の指導法に関する研究∼ 情報研究委員会 高等学校部会 Ⅰ はじめに 学習指導要領の移行に伴い、平成 15 年度より高等学校では普通教科「情報」の授業が行わ れている。小・中学校では、コンピュータやインターネットの活用が盛んに行われ、必要な場 面で機器を利用して必要な情報の活用が行われているという。 平成 15 年度本部会では、初めて普通教科「情報」の授業を担当することになる教員が本当 に必要としている情報は何かを探ることを第一に考え、高等学校の普通教科「情報」の現状を 把握し、中学校で行われている授業展開を調査するために、県内の公立高等学校、公立中学校 にアンケートを実施した。その中で、中学校と高等学校の指導内容を概観し、各校が抱えてい る問題点を明らかにした。特に最初の5時間にどのような授業展開をしているかを、各高等学 校の具体的な事例に基づき、まとめを行った。それらの過程を通して、高等学校では中学校で 行われている授業と同じ内容を取扱っている場面が数多くあることが分かった。また、生徒に もアンケートを行ったところ、教員が考えている授業内容と、生徒の希望する授業内容の意識 の差が明確になった。それを受け平成 16 年度は、教員と生徒の意識の差が大きかった画像と 音声について取り上げることとした。実際、多くの学校で履修させている普通教科「情報」の うち「情報A」において、「内容と取扱い」の項目に「文字、数値、音声、画像等の多様な情 報をディジタル化してコンピュータに取り込んだり表示したりする活動」とあり、どの教科書 でも多様な情報を統合する内容で取り扱っている。そこで画像と音声について、誰でも扱える ソフトウェアを用いた授業展開を研究主題とした。 100.0 90.0 80.9 80.0 75.8 75.8 86.3 70.0 60.0 59.1 49.4 50.0 68.1 62.9 30.3 22.6 20.0 13.6 10.0 25.8 25.8 12.1 10.6 ョン シ 15.2 13.6 30.0 10.6 34.8 27.3 15.2 13.6 15.0 3.0 画 像 処 音 理 楽 表 ホ 現 ー ・鑑 ム 賞 ペ ー ジ の 検 索 電 子 ホ メ ー ー ム ル ペ ー ジ の 作 校 成 内 ネ ッ トワ ー ク デ ー タ ハ ベ ー ー ド・ ス ソ フ トの 知 識 プ ロ グ ラ ミン グ 情 報 モ ラ ル プ レ ゼ ン テ ー 表 計 算 プ ロ ワ ー 図1 28.8 6.1 3.0 0.0 0.0 43.9 36.2 30.0 生徒 51.7 48.5 46.2 47.0 38.6 40.0 1学期 2学期 48.5 43.9 65.2 生徒の希望する内容と教員が実施した(しよう)としている内容(平成 15 年度調査) 図1の生徒のデータは全回答数からの割合(パーセンテージ)を示す。教員の1・2学期の - 25 - データは回答を得られた 66 校中における割合を示す。 Ⅱ 研究主題 研究主題として画像と音声を扱う授業を取り上げ、その展開例を示すとともに、その上で必 要となる事項についても示すこととした。 紙面の関係上、本稿ではその中の一部について記述し、全内容は開発作品集の CD-ROM に資 料として収録する。 1 画像と音声を利用した授業など (1) 画像 生徒は「コンピュータ・グラフィックス(CG)」に強い関心があり、教材として取り上げら れることを期待している。一般に、使い勝手の良いソフトウェアは高価なものが多く、生徒人 数分購入することは難しい。そこで「DOGA-E1」[1]というフリーソフトがあり、これを使って 3次元の CG アニメーションを作成する授業を行った。このフリーソフトは小学生から CG アニ メーションを作成できるように開発されている。 (2) 音声 生徒の身近な情報通信機器である携帯電話の着信メロディを教材とした授業実践を考えた。 使用したソフトウェアは「万能着信メロディ(体験版)」である。他にフリーソフトも検討し たが、譜面を直接入力することで手軽に着信メロディが完成できるという扱いやすさと、デー タをフロッピーディスクに落とすことにより自分の携帯電話で利用できる点で、このソフトウ ェアを選択した。 (3) メディア・リテラシー教育の実践 コマーシャルの作成を題材に実習を行った。作品制作の技術や知識を身に付けることを第一 の目標とし、その過程において情報の送り手と受け手の両方の視点に立つことを通してメディ ア・リテラシーを身に付けることも目標の一つとした。具体的にはテレビコマーシャルで使わ れている技法の分析を通して、送り手の意図の存在に気づき、コマーシャルの作成を通して送 り手が訴えたいことは誇張され、それ以外は切り捨てられることを理解する。実習ではこのよ うなメディア・リテラシーを意識しながら作品制作ができる技術や知識を育成した。 (4) 動画 授業実践をビデオ撮影し報告としてまとめる際、編集作業が必要となった。動画編集により 情報の送り手の意図したものをより忠実かつ的確に受け手へ伝えることができる。今回、直接 動画を扱った授業実践は行わなかったが文字、音声などの情報の統合として効果的な展開が考 えられる。そのための動画編集ソフトとして「Microsoft Windows ムービーメーカー」を紹介 したい。このソフトウェアは OS が「Microsoft Windows XP」であることが条件になるが、無 料で使うことができ、比較的操作が簡単である。 - 26 - 2 授業を展開する上で必要となる事項 (1) 授業で音楽データを使用する場合の著作権の扱い 授業を実施する時の大きな問題の一つとして著作権が挙げられる。特に音楽教材を取り扱う 場合は、自分で作曲することが難しく既存のものを使うことが多くなるだろうと想定される。 その上、情報技術の進歩から、音楽はただ聞くだけではなく、その活用形態は年々変化し拡大 している。それに伴い著作権法も改正を重ねていくので、教員はその動向に常に気を配ってい なければならない。 そこで、授業で音楽を使用するにあたり、教員が常に意識しなければならない著作権の問題、 著作権管理団体から許諾を取る方法、そのときに必要な許諾料についてまとめた。 (2) 音声データのファイル変換 音声データを扱うファイルには様々な形式が存在する。今回、音声を扱う授業展開例を作成 するに当たり、これらのファイル形式について予備知識を持って臨む必要性を感じた。ここで は音声ファイル変換を扱うフリーソフトを紹介しながら、実際に変換を行い、それぞれの特徴 について整理した。 Ⅲ 研究の経過 平成 15 年度、普通教科「情報」の現状についてアンケート調査を行いその分析を行った。 その分析を通して、授業内容と、生徒が希望する内容に大きな差があることが分かった。特に、 図1から分かるように画像や音声に関して生徒の興味関心は高いが、授業であまり取り扱われ ていない。そこで、研究主題としてこの画像と音声を扱う授業展開を取り上げることとした。 授業展開例を作成した上で、実際に委員が勤務校において授業を行い、その様子をビデオに撮 影した。撮影したビデオは報告のため編集を行った。なお、平成 15 年度に引き続き、インタ ーネット上のディスクスペースを共有するなど連絡を密に行い、効率的に作業が行えるよう工 夫した。 第2回部会(平成 16 年8月9日)で、画像と音声について取り上げる内容を絞り込み、そ の授業展開例について研究することにした。次回部会までにそれぞれの委員が実施できそうな 授業展開例や、実際に授業で使用するフリーソフトについて研究することとした。 第3回部会(平成 16 年 10 月 21 日)では、委員が持ち寄った授業展開例やフリーソフトに ついて協議をし、研究対象の絞り込みをおこなった。その中で、授業を展開していく上でいく つかの必要となる事項があることがわかり、これらについても研究の対象とすることとした。 第4回部会(平成 16 年 11 月 24 日)では、研究対象にした授業展開例や必要となる事項を 精選し、教材等について作業分担をした。また、研究発表会の原稿と CD に収録する内容につ いて、その作業分担をした。次回部会までにこれらの草案を各委員が作成してくることにした。 第5回部会(平成 16 年 11 月 24 日)では、使用する画像等の中に使用許諾を得ることが難 しいものがあることが分かり変更を余儀なくされたが、研究発表会用原稿と CD に収録する内 容について各委員が持ち寄ったものを合わせ、完成させた。さらに研究発表会の発表内容につ いて協議した。 - 27 - Ⅳ 研究の成果 1 画像と音声を利用した授業など (1) 画像 ア 授業展開例 (ア) 対象 情報A 1年 (イ) 題材 情報の総合的な処理とコンピュータの活用「3D画像の制作とアニメーション」 (ウ) 目標 1 デジタル化した図形や画像を作成するための知識と技術を得る。 2 立体的に図形を見る能力を育てる。 (エ) 授業過程 導 学習活動(○教師●生徒) 予想される生徒の活動 1 本時の学習課題をつかむ CG アニメーション作成の ○学習内容提示 流れを知る 面をプロジェクタで提示 ・モデリング し、説明する。 入 「CG 作成ソフトで動物や ものを作りアニメーションを ・モーションデザイン 付けます。」 ・レンダリング 2 CG 作成方法の基礎を知る ・プロジェクタ画面を通 ○基本操作(パーツの挿入・ して基本操作を理解す 展 移動・回転・拡大・縮小、 3D画像の見方など)の説 開 1 明 留意事項 PowerPoint で作成した画 る ・インストラクター機能 を使う ●基本操作を理解する ・コンピュータの起動 3 ・「DOGA-E1」の起動 作りたいものを作成する 図2 作品例 ア)パーツを選び、前・ ●何を作るか各自決定し、作 成する 横・上と3Dの4つ の視点から作成す る。 イ)着色する。 4 アニメーションを設定す る 5 ウ)背景を選択する。 エ)アニメーションを設 指定されたドライブに保 図3 授業風景 定する。 存する イ 評価と課題 (ア) 生徒アンケート結果より 「CG 作成の授業は楽しかったですか」の問いに対して 89%の生徒が「楽しかった」「どち らかといえば楽しかった」と回答し、「またやってみたい」と回答した生徒は 94%を超えて いる。 (イ) 評価と課題 - 28 - パーツを置いていくだけで3Dグラフィックスを作ることができるなど、他のソフトウェア に比べて操作が簡単になっている。パーツに制限があるが生徒の自由な発想を実現できるため、 ゲームのキャラクター風の作品を作るなど短時間で高度な作品を完成させる生徒もいた。生徒 の中には3視点(前・横・上)からの画面になかなか慣れず、思った所にパーツが移動できな いで苦労する場面もあった。3Dの動画を扱う上で3次元座標上での表記など理論的な部分の 説明についてどの程度にするべきなのか悩むところであった。1時間のみの授業では、操作方 法や3D投影図に慣れることを目標に、簡単な構造の作品を作れば良いのではないかと思う。 できた作品を互いに見せ合う様子が見られ、コンピュータによる「ものづくり」は生徒の意 欲を十分喚起する題材であることを感じた。また、立体画像に様々な色を付けることができる ので、色による作品の雰囲気の違いを感じ取ることができたように思う。この特徴を生かして 形や色、表面材質の違いを意識した「ものづくり」の一環としての「もののデザイン」の授業 展開も考えられる。発展的な授業も考えていきたい。 (2) 音声 ア 授業展開例 (ア) 対象 情報A 1年 (イ) 題材 情報の総合的な処理とコンピュータの活用「音声や動画を扱おう」 (ウ) 目標 1 身近な携帯電話で使われる着信メロディの作成を通して音声データについての知識と技 術を得る。 2 MIDI などの様々な音声データの意味について理解する。 3 音楽には著作権があることを知り著作権に配慮できるようになる。 (エ) 授業過程 学習活動 導 入 予想される生徒の活動 留意事項 ・音の鳴るものは ・楽器、テレビ、CD、電話等 ・音を録音するものは ・テープレコーダー、ビデオ、CD-R 等 ・音って何 ・知らない。 ・オリジナル着信メロディ ・コンピュータの起動 情報モラル指導の ・「万能着信メロディ(体験版)」の 一環として著作権 を作ってみよう ・著作権について説明 起動 にふれる。 ・プリントを参照して着信メロディ作 展 りを行う。 ア) 音符を選び、鍵盤をクリックして 入力 開 イ) 自動伴奏をクリックし、好きなパ ターンを選択 図4 授業風景 ウ)「再生」ボタンをクリックして音を 確認 エ) 各人の携帯電話に合う形式で保存 - 29 - 授業中に携帯電話 を使用できないた め、着信メロディ の自分の携帯電話 への転送方法を教 える。 イ 評価と課題 音声を題材とする際に、携帯電話の着信メロディは生徒に興味を抱かせる内容である。授業 後の感想を見ると「面白かった」「ぜひもう一度でやってみたい」など、おおむね好評であっ た。 展開例は、着信メロディを作ることに主眼を置いている。音声ファイルを変換することによ ってファイルサイズがどう変わるかや、違ったファイル形式によって音の聞こえ方にどんな違 いが表れるかなど、ただ楽しいだけの授業に終わらない様に、この後どのように展開し、まと めていくかが大切である。 今回使用したソフトウェアは体験版のため無料で使えた。音声を扱うことができるソフトウ ェアが導入されなかった場合、我々が授業展開をする際にフリーソフトや体験版など、ある程 度安価で使い勝手のよいものを探す必要がある。また、使用した曲についての著作権の知識が 必要となるので、興味本位だけでは進められない。 ※紹介したソフトウェアは万能着信メロディ(体験版)[2]:現在は体験版が存在しない。 (3) メディア・リテラシー教育の実践 ア 授業展開例 (ア) 対象 情報A 2年 (イ) 題材 テレビコマーシャルの分析とコマーシャル制作 (ウ) 目標 1 コマーシャルの中に隠されている送り手の意図は何かを理解し、そのために使われてい る技法を知る。 2 プレゼンテーションソフトを用いてデジタルデータを統合させる技術を習得する。 3 著作権などに十分留意し、作品を制作する。 (エ) 学習指導計画 1 コマーシャルの分析(2時間) Web ページ「Net で見よう TV-CM」[3]にあるコマーシャルを繰り返し観察し、絵コンテ を作成することによって、その中にある技法を研究・分析し、レポートを作成する。 2 Microsoft PowerPoint の操作説明(1時間) 写真や音の挿入方法、オートシェイプの扱い方、リハーサルを経て自動プレゼンテーシ ョンにする方法など、自動プレゼンテーションを使った 15 秒コマーシャルの作成方法を 中心に講義と実習を行う。 3 コマーシャルの作成(5時間) テーマやコンセプトを決定し、絵コンテを作成する。絵コンテに沿って PowerPoint の スライドを用いてコマーシャルを完成する。 4 作品の発表と評価(2時間) 自己評価シートと作業記録を提出させ、自己評価とする。また、発表を一人ずつ行い、 相互評価を行う。 イ 評価と課題 2人組になりコマーシャルを分析させた。カットごとに絵コンテにする作業を、他人と意見 交換することで、コマーシャルに潜む意図を確認しながら進めることができたように思う。レ - 30 - ポートを公開して相互評価をする時間がとれなかったのが残念である。 コマーシャルは1人1作品を制作させた。15 秒に収めるというルールであったため、「無 駄を省き必要なことを強調する」ことを行わざるを得なかったようである。BGM はインターネ ット上の著作権フリーの素材を利用させた。BGM によって作品の雰囲気が大きく変わり、アニ メーションのタイミングなどを工夫し、実質4時間の実習であったが、凝った作品を作り出し ていた。作品はクラス全員の前で発表し、8観点で相互評価を行った。自分の 15 秒の作品が 自動プレゼンテーションで流れるのに対して、生徒は「大変緊張する」と言っていた様子から 分かるように、見られることで意欲が高まり、良い作品作りをしようという気持ちになること ができたのではないかと思う。 今回は BGM については著作権フリーの素材を用いた。画像については、自分で撮影した写真 を使用するだけではなくインターネット上の画像も使用した。授業における複製は著作権の権 利制限により許諾を必要としないが、授業以外の場では許諾を得る必要がある。著作権につい ては情報モラルの指導としても工夫した展開を考えたい。 (4) ア 動画編集 使用ソフト:Windows ムービーメーカー Windows ムービーメーカーを使用すると、ビデオカメラや Web カメラなどからビデオやオー ディオをコンピュータに取り込み、タイトル、ビデオ切り替え効果、またはビデオ特殊効果な どを追加してオーディオやビデオコンテンツを編集し、ムービーを作成することができる。動 画編集は以下の3つの段階を経て行う。 ビデオの取り込み → ムービーの編集 → ムービーの完了 ここではムービーの編集方法について取り上げる。 イ 動画編集の手順 (ア) クリップを分割する ビデオクリップは、2つに分割するこ とができる。この方法はクリップの中間 に画像やビデオ切り替え効果を挿入する 場合に便利である。 (イ) クリップの配置 クリップをストーリーボードにドラッ グアンドドロップし、希望する順序に再 配置する。 (ウ) ビデオ特殊効果、ビデオ切り替え効果 図5 クリップの配置 ビデオ特殊効果として再生スピードの変化などを加えることができる。 ビデオ切り替え効果はクリップが切り替わるときの効果である。 クリップの配置と同じようにクリップ上かクリップの間にドラッグアンドドロップし、希 望する順序に再配置する。 - 31 - 図6 ビデオ特殊効果 図7 ビデオ切り替え効果 (エ) タイトルを作成する タイトル作成画面にタイトルとなる文字を入力する。 図8 タイトルの入力 図9 作成されたタイトル (図5のパッケージ写真の使用に際して、Microsoft Corporation 発行のガイドラインに準拠 しています。また、図5から図9の画面写真については Microsoft Corporation のガイドライ ンに従って画面写真を使用しています。) 2 授業を展開する上で必要となる事項 (1) 授業で音楽データを使用する場合の著作権の扱い 学校における著作物の使用は、著作権法第 35 条に「学校その他の教育機関における複製 等」として定められている。その内容は「学校その他の教育機関(営利を目的として設置され ているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程にお ける使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著 作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び 態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」である。 この著作権の権利制限により、授業で音楽データを複製できると考えられる。また著作権に は原則 50 年の保護期間(映画は 70 年)がありその期間を過ぎたものについては、著作者の許 諾なしに自由に作品を使用できる。ここで問題となるのは着信メロディのようなデータ変換で ある。また、編曲なども同様で、現時点ではこれらの部分についての著作権の権利制限の解釈 の仕方は関係・管理団体でも意見が分かれている。例えば、作品自体は保護期間が過ぎていて も、録音そのもの(オーディオデータ、MIDI データを含む)については演奏者などに著作隣 接権が保護されている場合があり、許諾を得なくてはならない。 - 32 - 本研究で取り上げた着信メロディの作成は、授業の範囲内で生徒が作成しており、生徒個人 が楽しむ分には許諾を得る必要はないと考えた。もちろん作品をほかの人に配布したりインタ ーネット上に公開したりするような場合についてはその音楽の著作権を確認しなければならな い。著作権のある音楽について許諾を得るとき、著作者が著作権管理団体に管理を委託してい る場合は著作権管理団体(JASRAC 管理楽曲であれば JASRAC)の許諾を得ることが必要である。 音楽の著作権確認にあたっては、「J-WID」[4]を参照して確認できる。また、JASRAC 管理楽 曲を着信メロディとしてインターネット上で公開したりする場合は「J-TAKT」[5]から許諾申 込手続きを行うことができる。 (2) 音声データのファイル変換 音声のファイルとして良く聞かれる形式は「WAVE」、「MIDI」、「MP3」である。ここでは これらの変換を行った。それらの詳細な説明についてはアスキーデジタル用語辞典[6]、IT 用 語辞典 e-Words[7] などを参照されたい。 ア WAVE ファイルから MIDI ファイルへの変換 WAVE ファイルは音声をデジタルデータに変換してファイル化したものであるのに対し、 MIDI ファイルはシンセサイザなどに内蔵されている MIDI 音源をどのように鳴らすのかを記し た制御信号が書かれたファイルである。これらの異なった種類のファイルについて WAVE ファ イルから MIDI ファイルに変換したい時、WAVE ファイルはボーカルだけにするなど、ある一定 の条件下で変換を行うことになる。ここではフリーソフトである「採譜の達人」[8]を使用す る。この「採譜の達人」は、単音だけでなく和音も解析し、WAVE ファイルから MIDI ファイル への変換を行うことができる。実際にこれらの変換作業を通して、WAVE ファイルから MIDI フ ァイルへの変換がいかに難しいかが理解できた。 元の WAVE ファイルとでき上がった MIDI ファイルのファイルサイズを比較すると MIDI ファ イルがいかに小さいかが確認できる。今回 422KB の WAVE ファイルを MIDI ファイルに変換した ところ、2KB になった。 ファイル形式 WAVE MIDI 圧縮率 ファイルサイズ 422KB 2KB 0.47% 表1 イ WAVE ファイルから MIDI ファイルへの圧縮 WAVE ファイルから MP3ファイルへの変換 MP3ファイルは、WAVE ファイルなどの情報の中から、人間に聞こえないデータを取り除き 圧縮する。CD クオリティの音では、音の劣化がほとんど分からないくらいの状態で、ファイ ルサイズを小さくすることができる。 ファイルを変換するには、専用のソフトウェアが必要である。これらのソフトウェアは多く 存在するが、今回は、①CD→WAVE の変換に「CD2WAV32」[9](フリーソフト)、②WAVE→MP 3の変換に「午後のこ∼だ for Windows」[10](フリーソフト)を使用した。 MP3ファイルは WAVE ファイルの 10 分の1以下のサイズになった。今回 21837KB の WAVE フ ァイルを MP3ファイルに変換したら、1982KB になった。 双方のファイルをMicrosoft Windows MediaPlayerを使用し、聞き比べてみたが、その差を 感じなかった。 - 33 - ファイル形式 WAVE MP3 圧縮率 フィイルサイズ 21837KB 1982KB 9.08% 表2 WAVE ファイルから MIDI ファイルへの圧縮 Ⅴ 研究のまとめ 今回、画像と音声についての授業展開例などを中心に示した。教員側に苦手意識はあったが、 授業を行った後に生徒に取ったアンケートの結果からは良い評価が得られたと思う。画像と音 声などを含む情報の加工は、教科「情報」の目標である「情報を適切に収集・処理・発信す る」ことにおける「処理」の部分であり、適切な「発信」へとつながる重要なポイントである。 また、著作権や情報モラルは教科「情報」を指導する上でも、生徒の活動を評価する観点とし ても常に意識すべき点であり、それらに対する配慮の必要性がますます高まっていることを改 めて感じた。今回、研究の授業展開例も改善する余地は多い。研究委員自身も含め、今後の授 業改善のための第一歩となれたらと考えている。 平成 15 年度のアンケートから「教科『情報』の今」を知ることができたが、各校でさらに 工夫された授業が行われていると思う。情報社会は日々進化しており、入学してくる生徒の情 報機器の操作能力は飛躍的に向上していくであろう。それに合わせた積極的な授業改善が必要 になる。幸いなことにインターネット上にはフリーソフトが数多くあり、市販されているもの の中にも体験版があり、個々の生徒、学校のレベルに応じて内容を吟味して活用できる。これ らの活用方法や授業展開について各種の研修会や研究会に参加することで多くの先生方と情報 交換することは非常に有意義と考える。新しい教科を発展させていくために、知識を共有し、 教科「情報」の目標が達成できるように内容をできるかぎり分かりやすく、生徒に伝えていき たいものである。 参考URL等 [1] http://www.doga.co.jp/ptdoga/ [2] http://www.ssitristar.com/bannou/index.html [3] http://www8.big.or.jp/ cmsearch/ [4] http://www2.jasrac.or.jp [5] http://j-takt.jasrac.or.jp/ [6] http://yougo.ascii24.com/ [7] http://e-words.jp/ [8] http://www.pluto.dti.ne.jp/ araki/soft/st.html [9] http://www.forest.impress.co.jp/lib/pic/music/mp3/cd2wav32.html [10] http://www.forest.impress.co.jp/lib/pic/music/mp3/gogonocoda.html - 34 - Ⅵ 委員名簿 番号 委 員 名 所 属 校 教 科 備 考 1 山口 博 湖 西 高 等 学 校 理 科 部 2 市川 幸子 沼津城北高等学校 数 学 副部会長 3 松永 恭介 静岡商業高等学校 商 業 4 鳴海 晶 修善寺工業高等学校 理 科 5 池谷 明治 吉原工業高等学校 工 業 6 田川 泰之 磐田西高等学校 商 業 指導助言者 静 岡 県 教 育 委 員 会 会 長 筒井 昌博 北川 浩 静 岡 県 総 合 教 育 セ ン タ ー 加藤 剛史 静 岡 県 総 合 教 育 セ ン タ ー - 35 - 高校教育課
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