噴流発生音の相似則に関する基礎研究

日本機械学会 2011 年度年次大会 [2011.9.11-14]
CopyrightⒸ2011 一般社団法人 日本機械学会
J091031
噴流発生音の相似則に関する基礎研究
佐々木 良太*1,西村 正治*2
後藤 知伸*3,重森 正宏*4
Basic study on similarity law of several shapes of jet noise
Sasaki Ryota*1 ,Masaharu Nishimura,Tomonobu Goto,Masahiro Shigemori
*1
Tottori Univ. Dept. of Mechanical Engineering
Koyama-chou-minani 4-110, Tottori-shi, Tottori, 680-8552 Japan
This paper presents a basic study on similarity law of several shapes of the subsonic speed jet noise around 120m/sec. In
this experiment, we paid attention to the influence of the aspect ratio and the R of the nozzle corner on the jet noise. Jet noises
generated from several shapes of nozzle with the same opening area were evaluated by the similarity law. It was clarified that
the main sound source radiated from the jet with the speed around 120m/sec was the di-pole source. Moreover, because the
spectrum patterns of the generated sound are mainly affected by the sound field (that is shape of the object),it is supposed that
the object influences the sound field by the reflection and the diffraction. In addition, the flat nozzle generated the lowest
noise in our experiment.
Key Words : nozzle, jet noise, similarity law of several sharpes
1. 緒
言
現在,ノズルから吹き出す高速噴流を利用する機器に対する発生音対策は,あまり検討されていない.そこで
本研究は,吹き出し流速 120m/sec 付近での噴流発生音に着目し,検討を行う.吹き出し流速 120m/sec 付近での
噴流発生音は,境界層の乱れや吹き出し口からの渦放出などの,渦と吹き出し口エッジ部との干渉によって発生
する吹き出し口表面の圧力変動が発生源である,双極子(di-pole)音(発生音響パワーが U6 に比例)が支配的であ
る低亜音速噴流と,せん断領域や混合領域での強い乱れ自身が発生源である四極子(quadra-pole)音(発生音響パワ
ーが U8 に比例)が支配的となる高亜音速噴流の境目ぐらいにあたる(図 1).そこで,吹き出し口形状の異なるノ
ズルを用いて噴流発生音を低亜音速噴流と高亜音速噴流の場合において相似則を整理し,種々の形状ノズルの音
の発生メカニズムを明確にすることを狙う.その結果として,低騒音化の指針を見出していく.具体的には,同一開
口面積である種々の形状ノズルにおいて様々な流速とその各流速での騒音を計測し,相似則により評価を行う.
Fig.1
*1
*2
Jet structure
学生員,鳥取大学 大学院工学研究科(〒680-8552 鳥取県鳥取市湖山町南 4-101)E-mail: [email protected]
*3
*4
正員,鳥取大学
正員,鳥取大学
パナソニックエコシステムズ
[No.11-1] 日本機械学会 2011 年度年次大会 DVD-ROM 論文集 〔2011.9.11-14,東京〕
2. 噴 流 発 生 音 計 測 試 験
2・1 試 験 概 要
本研究対象とする吹き出し流速 120m/sec 付近は,吹き出し口からの渦放出による吹き出し口表面の圧力変動が
発生源で,発生音響パワーが U6 に比例する低亜音速噴流とせん断域や混合域での強い乱れ自身が発生源で,発生
音響パワーが U8 に比例する高亜音速噴流のちょうど境目にある.そこで,ノズル形状の違いも含めて di-pole 音,
quadra-pole 音における相似則による無次元化整理を行い,吹き出し流速 120m/sec 付近での噴流発生音における支
配音を明確にし,音の発生メカニズムについて考察する.
2・2 供 試 ノ ズ ル・試 験 装 置
本計測では吹き出し口形状が噴流発生音にどのように影響するのか研究を行う.そこでノズルの設計・作成を
行うにあたり,アスペクト比や開口部コーナの R に着目した.また,開口面積を 200mm2 とし,代表ノズル断面
形状例を図 2 に示すようにノズル内部を縮流の少ないテーパ形状としテーパの傾斜αを 12.6 [deg]に統一した.加
えて,本計測における代表寸法をノズル径ベースとした時の Re 数範囲は,Re=1.5×105~3×105 である.
使用する試供ノズルを「吹き出し口形状」の種類から分類すると,(1)正方形(2)正円形(3)長方形(4)長方形縁 R
付き(5)スリット状の 5 種類である.この試供ノズルの概略図を図 3 に示す.
(1)正方形では,遷移領域を長く保つ形状であり,寸法は 14.14mm×14.14mm である.
(2)正円形では,(1)との対であり,角がなく滑らかな形状であり,寸法はφ15.96mm である.
(3)長方形では,R 付きとの比較や(1) ,(5)も同様であるがアスペクト比を考慮したものであり,寸法は 6mm×
33.33mm である.
(4)長方形 R 付きでは, 開口部コーナに R3 を付けることによる影響を調べるものであり,寸法は 6mm×34.6mm
+ R3 である.
(5)スリット状では,縮流により吹き出し直後において増速し,短距離において減速を期待した形状であり,
寸法は 1.6mm×125mm である.
Fig.2
Example of nozzle internal
Fig.3
Kind of nozzle
本計測で使用する試験装置を図 4 に示す.本試験装置は,送風機による騒音の影響を受けず,吹き出し口にお
いて流速や乱れ強さの計測が行えるようになっている.具体的には,送風機による音源を消音器とエンクロージ
ャにより減音を図り,消音器とチャンバを繋ぐことにより,流れの整流化を図った.また,吹き出しゼロ距離に
熱線を設置し流速や乱れ強さの計測を行う.更に,吹き出し口中心点から同一高さ,45°,500mm 離した位置に
1/2 インチマイクロホンを設置し音圧レベルの計測を行う.
Fig.4
Testing machine
2・2 噴 流 発 生 音 計 測 結 果 お よ び 無 次 元 化 整 理
各種供試ノズル毎に,様々な吹き出し流速における噴流発生音の計測を行った.代表例として正方形ノズルの
噴流発生音計測結果を図 5 に示す.これより,相対的な音の大きさを比較するために無次元化整理を行う.ここ
で,遠距離音場において,音響双極子による音響パワーは式(1)
,音響四極子による音響パワーは式(2)のよう
に表すことができ,これらを式(3)へ代入することにより無次元化式(4)
,
(5)を得る.式(4)を用いて双極
子音(6 乗則)と式(5)を用いて四極子音(8 乗則)の 2 種類を整理し図 6,図 8 に示す.この時の横軸はストロー
ハル数 St であり,発生音が渦周波数で支配されると仮定した.
無次元化式(4)
,
(5)において,実周波数fによる整理も考えるため式(6)
,
(7)のように書き換える.その
際,式(6)を用いて双極子音(6 乗則)と式(7)を用いて四極子音(8 乗則)の 2 種類を整理し図 7,図 9 に示す.
実周波数 f ベースでは,発生音は音場(物体の形状)によって支配されることを念頭に置いた.
Fig.5
Sound pressure level at each flow velocity
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
ここで,
,
. ’, , , , , は,音響パワーレベル,比音響パワーレベル,ストローハル数,流体密
度,音速,放射面積,周波数である.放射面積 を吹き出し口面積とし,吹き出し口高さ×吹き出し口幅で表す.
また,各種ノズル形状において各流速における比音響パワーレベルの平均をとり比較した結果を図 10 に示す.
Fig.6
Nondimensional acoustic power level
Fig.7
deduced by the 6th power law (Square nozzle)
Fig.8
Nondimensional acoustic power level
Fig.10
deduced by the 6th power law (Square nozzle)
Fig.9
deduced by the 8th power law (Square nozzle)
Nondimensional acoustic power level
Nondimensional acoustic power level
deduced by the 8th power law (Square nozzle)
Comparison of nozzle shape
2・3 実 験 結 果 お よ び 考 察
各種供試ノズルそれぞれ各流速が 6 乗則による無次元化整理でよく整理された.このことから,噴流発生音源
はノズル吹き出し口エッジ部での物体と渦(乱れ)との干渉による,圧力変動と考えられる. また,周波数に関
して,ストローハル数ベースより固定周波数の方がよく整理されている.このことは,発生音の周波数は自由渦の
周波数で支配されているというよりは,音場(物体の形状)で支配されていると考えられる.本整理では物体に
よる反射や回折による音場への影響を考慮していないことが影響していると考える.さらに 5 種の供試ノズルに
おいて,騒音レベルが高い順に正方形ノズル,正円形ノズル,長方形ノズル,長方形縁 R 付きノズル,スリット
状ノズルであった.スリット状ノズルの騒音レベルが他の供試ノズルと比べ非常に小さいことから,指向性の可
能性を考慮し,図 11 に示すように指向性計測を行った.吹き出し口中心点から上方向に,45°,500mm 離した位
置において計測を行い,比較を行ったが指向性の影響は見られなかった.結果としてスリット状ノズルの騒音レ
ベルが一番小さいと言える.
Fig.11
Sound directivity of slit nozzle
3. 結 言
本計測結果より,吹き出し流速 120m/sec 未満での噴流発生音は発生音響パワーが U6 に比例する低亜音速噴流
であると言える.つまり,ノズルで発達した境界層内の乱れがノズル開口部のエッジを通過する際の渦の加速度
運動や,ノズル開口部直後のせん断層内の乱れによって発生するエッジ付近の圧力変動に起因すると推察する.
また,物体による反射や回折による音場への影響が作用していると推察する.さらに吹き出し口形状において,
吹き出し口幅はスリット状ノズルのように細長くなると噴流発生音が抑えられる.今後の検討課題としては境界
層厚さ,乱れなどの計測,シミュレーション解析により物体による反射や回折による音場への影響を明確にする
ことである.
4. 参 考 文 献
[1] 日本音響学会,
“音源の流体音響学”
,コロナ社,(2007)
[2] 社河内敏彦,
“噴流工学”
,森北出版,(2004)