Y染色体欠失検出キット Ver.1.1

はじめに
不妊症の原因、診断、および治療は、科学研究の
分野において益々重要になってきています。不妊症
の人口に対する頻度については様々な推測がされて
いますが、夫婦の15%が何らかの不妊症の問題を持
ち、その約半数が(少なくとも部分的には)男性の
不妊症によるとされています。初期の男性不妊症の
評価は、精液の分析とホルモンテストに焦点を当て
ていました。精液の分析によりazoospermia(無精
子症:射精液中に動いている精子が見られない)、
oligozoospermia(精子過少症:1mlあたりの精子の
数が2 0 0 0万未満)、精子数は正常であるが形態が異
常であることなどがわかります。さらに複雑なテス
トにはカリオタイピング(核型決定)があります。
最初のホルモン治療で精子のパラメーターの改善が
見られないときは、ほとんどの場合、患者はAssisted
Reproductive Technology(ART:生殖補助技術)に
よる治療を受けます。
Y染色体の欠失
男性不妊症の原因には感染症や化学物質への露出、
トラウマ、免疫または内分泌系の疾患、遺伝子疾患
があります。現在は、遺伝的要因による男性不妊症
の理解へと多くの研究が進められています。その中
でも特に、男性不妊症と Y染色体欠失との関連性を
解明することに関心が持たれてきました。精子形成
におけるY染色体の長腕(Y q)の重要性は、無精子
症の男性とその父親の比較細胞遺伝学的研究により
最初に示されました。続いて行なわれたクローニン
グにより、Yリンク遺伝子(R B M、D A Z遺伝子ファ
ミリー、DFFRY、DBYなど)が発見されました。そ
れらの遺伝子は正常な精細胞の形成に必要とされ、
発現は精巣に限られています。精子形成に必要とさ
れる遺伝子中とその周辺にネストしたS T S《シーク
エンスタグサイト》のPCRによる増幅から、精子細
胞の生産と関係するA Z F a、A Z F b、A Z F cの大領域
が定義されました。不妊症の患者で自然に発生する
欠失区間であるSubinterval(下位区間)により、追
加のA Z Fまたは以前に定義されたA Z Fの下位区間と
考えられる領域、すなわちproximal AZFa とd i s t a l
A Z F a (D F F R YとD B Yを含む)、pro xima l AZFb
(SMCYを含む)
、middle AZFbとdistal AZFb(RBM1
を含む)、およびpr oxi mal A ZFc(以前はA Z F d )、
middle AZFc(D A Zを含む)とdistal AZFc(表1)
の同定へと導かれました。 A Z F a 、A Z F b、A Z F c、
proximal AZFc(AZFd)のこれらの4つの領域にお
ける欠失は、男性の不妊症と関連しています。ほと
んどの場合、欠失の位置と特定の遺伝型との間には
っきりとした関連性はありません。しかし、 Y 染色
体の欠失と不妊症との間には、ある程度の一般化が
できます。AZFaの欠失がある男性では75%がSertoli
細胞しか持たず、25%が重度の精子過少症と関連す
る部分的な精子形成の停止の症状があります。複数
のA Z F領域を含む大きな欠失がある検体は、通常同
じように重度の遺伝型を示します。AZFbおよびAZFc
Multiplex
Master Mix
A
B
C
D
Locus/STS 1
DAZ/SY254
SMCY/ SYPR3
DYS219/SY128
DYS236/SY152
中の欠失は、無精子症または精子過少症と関連して
います。最後に、proximal AZFc(AZFd)欠失を持
つ患者は精子の形態が異常で、無精子症と正常の間
の精子数を持ちます。
Y染色体欠損の特定と解析は、男性の不妊症研究
の重要な手段です。 Y 染色体については他に、精子
形成や男性不妊症に必要な特定の遺伝子産物の同定、
特定の遺伝子型とそれに該当する形質との関連、お
よび男性不妊症の疫学的パラメーターとの関連が研
究されています。この研究のゴールは男性不妊症に
含まれる遺伝学的プロセスの完全な理解です。この
理解により正確な診断テストと治療の開発が可能に
なります。重度の男性の不妊症の治療のための細胞
質内精子注入法(ICSI)の使用は、男性不妊症と関
係する遺伝的変異の同定の必要性を示す一つの例で
す。ICSIには卵への精子または精子細胞の直接の注
入が含まれます。I C S Iを行なうY 染色体欠失を持つ
患者は、欠失を男性の子孫に引き継ぐ可能性があり
ます。明かに、これは個人の遺伝型についての情報
提供の可能性が治療の決断に影響を与えうる分野と
言えます。
The Y Chromosome Deletion
Detection System, Version 1.1(a,b)
YリンクのSTSの増幅反応を使ってY染色体の欠失
をスクリーンした6 , 0 0 0人以上の例が発表されてい
ます。この大きな蓄積データにも関わらず、今まで
は標準化されたスクリーニングのプロトコルが確立
Chromosome Deletion Detection Systemでは、す
べてのA Z F領域から非多形の病理に関連するS T S中
の欠失を検出します。1 8のプライマーは、4 つのマ
ルチプレックスP C R増幅反応のセット(M u l t i p l e x
Master Mix)として組み合わされており、4つの増
幅反応で18のローカスの検定が可能です。
さらに、このシステムではスクリーニングプロト
コールの標準化と再現性を強化しました。このキッ
トではPCRに必要な手順は最少化されています。し
たがってピペッティングエラーやコンタミの可能性
も最小限に抑えられています。
再現性
Y Chromosome Deletion Detection Systemは、再
現性や正確さに関して徹底的に試験されてきました。
また最適な性能を保証するために品質管理されてい
ます。このシステムにはコントロール反応が含まれ、
増幅反応の試薬に間違いがないことを確認し、ゲノ
ムDNAのサンプルに問題があるかどうかを同定する
ことができます。また、ポジティブコントロールの
Male Genomic DNA が含まれ、増幅反応の評価がで
きます。ポジティブコントロール反応中に適切な増
幅産物があるということは、試薬が期待通りに働い
ていることを示しています。
内部コントロール
各Multiplex Master Mixには、XリンクのSMCXロ
ーカスの領域を増幅するコントロールプライマーが
含まれます。このプライマーは増幅反応とDNAサン
プルに問題がないことを確認するための内部コント
ロールです。図2は、Y染色体に欠損を持つDNAサン
プルとMale Genomic DNA の陽性コントロールの比
較を示しています。このデータはAZFdとAZFcに欠
失があることを示しています。
詳細はTechnical Manual No. 234 (TM234)をご覧下
さい。
図1.Y Chromosome Map
されていなかったため、結果の解析が困難でした。
特に、スクリーニングに使われたSTSの位置や数(発
表された研究ではSTSの数が1∼131)が大きく違っ
ていました。この問題は、この分野の発展を妨げて
いると繰り返し言われてきました。Y Chromosome
Deletion Detection System, Version 1.1(カタログ番
号M D 1 1 0 1 )は、Y染色体の欠失を同定するための標
準の手法を提供します。
Y Chromosome Deletion Detection SystemではY
染色体上の18ローカスの有無をスクリーニングする
ための試薬とプロトコールを提供します。S T Sの選
択には多くの研究を組み合わせたデータを参照して
います。表1にこのシステムに含まれる S T Sを示し
ます。表2 では使用しているS T S を他の研究と比較
しています。表2 の詳細についてはホームページを
ご覧ください(w w w . p r o m e g a . c o m / m o l d x /)。Y
Internal
Locus/STS 2
DYS240/SY157
DYS218/SY127
DYS212/SY121
DYS223/SY133
Locus/STS 3
DYS271/SY81
DAZ/SY242
DYF51S1/SY145
DYS237/SY153
Locus/STS 4
DYS221/SY130
DAZ/SY239
DAZ/SY255
DYS215/SY124
図2.Y染色体欠失検査
Multiplex A Master Mix(レーン1と2)、Multiplex B Master
Mix(レーン4と5)、Multiplex C Master Mix(レーン7と8)、
Multiplex D Master Mix(レーン10と11)のそれぞれの反応に
おける増幅産物。コントロールの Human Male genomic
DNA(+;レーン1、4、7、9)とY染色体に欠失を持つ男性
からのゲノムDNAのテストサンプル (−;レーン2、5、8、
11)を比較した。マーカーには50bp DNA Step Ladder (カ
タログ番号:G4521)を使用。レーン3、6、9は空き。ゲル
は4% NuSieve® 3:1 Plus Reliant ® gelを使用。
Locus/STS 5
KAL-Y/SY182
DAZ/SY208
SMCX
SMCX
Control
SMCX
SMCX
表1.キットに含まれるプライマーセット
10
10
a, b:特許に関する記載については Promega Notes No.74 17ページをご覧ください。
プロメガテクニカルサポート 03-3669-7980
e-メール:[email protected]