ゼニゴケを用いて受精のしくみを理解する Keywords: 有性生殖,性染色体,精子走化性,基部陸上植物,ゲノム ●研究概要 生殖に対する理解は,生物学の基本的な課題の一つで あるとともに,産業においても高い利用価値があります。 有性生殖では 「雌」 および 「雄」 という二つの性が生じ, それぞれから卵と精子が形成されます。卵と精子は互い を特異的に認識し,融合して受精します。私たちは,雌雄 を決定する性染色体がどのように進化してきたのか,卵と 精子はどのように互いを認識して融合するのか,という問 題にゼニゴケというモデル生物を使って取り組んでいます。 所属 生物工学科 細胞工学研究室 教授 氏名 大和 勝幸 Katsuyuki T. YAMATO ● 研究テーマ ・性染色体のなりたちを探る ゼニゴケは雌雄異株であり、性染色体をもちます。ゼニゴケのY染色体の塩基配列は既に明らかにされて いますが(論文1),X染色体についてはほとんど不明です。X染色体の塩基配列を明らかにし,それをY染色 体と比較すれば,両者の進化の道筋を明らかにすることができます。これは,染色体一般がどのように進化 するかを理解する上でも重要です。また,X染色体とY染色体を比較することで,ゼニゴケにおける性決定・性 分化を制御するしくみを遺伝子レベルで明らかにできると期待されます。 重要な農作物は全て被子植物ですが,元はコケ植物のような祖先植物から進化してきました。そのため, 被子植物にはゼニゴケなどのコケ植物にも共通するしくみが数多く残されています(被子植物との共通性)。 遺伝子構成が単純なゼニゴケにおいて有性生殖のしくみが明らかになれば,より複雑な構造やしくみをもつ 被子植物の有性生殖のしくみをより深く理解できると考えています。 ・精子が卵にたどりつき融合するしくみを明らかにする 一般に,運動性をもつ精子は自力で泳いで卵に到達します。 これは,卵あるいはその周辺の細胞が何らかの誘引物質を放 出し,精子はその濃度勾配を感知して卵の位置を把握してい ると考えられます。しかし,これまでに動物などを使って数多く の研究がなされていますが,精子が卵に引き寄せられるしくみ について詳しいことは明らかにされていません。 ゼニゴケは,植物でありながら動物に見られるような精子を 使って受精します(動物との共通性)。また,遺伝子レベルの研 究を進めるための様々なリソース(ゲノム情報や遺伝子操作技 術など)が充実しています。ゼニゴケという調べやすい研究材 料を使うことによって,動植物に共通する基本的な受精のしく みを明らかにできると期待しています。 精子 誘引 融合 卵 受精 図1 受精にいたる段階 図2 ゼニゴケの雄株(左)と雌株(右) 雄株は2本の鞭毛をもつ精子を形成する。 精子は水中を泳いで雌生殖器内の造卵器 に入り,さらにその中にある卵にたどり着い て受精が起こる。 ● 論文.特許等 【論文】 1. Yamato, K.T., et al. Gene organization of the liverwort Y chromosome reveals distinct sex chromosome evolution in a haploid system. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 104:6472-6477 (2007)
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