た ば と 健 こ 康 2014 年 10 月 鳥取大学保健管理センター はじめに ~鳥取大学構内全面禁煙 6 年目~ 喫煙は、喫煙者自身の健康だけではなく、受動喫煙により周囲の人の健康も害します。日本では、2003 年 5 月に健康増進法が設定され、 “学校等公共の場では受動喫煙の防止につとめること”と提言されまし た。また、日本政府は、2005 年にWHOにより発効された、 「たばこの規制に関する世界保健機関枠組 み条約」を批准しています。 鳥取大学においては、 ・未成年者も多く在籍し、教育機関としての未成年者への禁煙指導 ・国の設置した「国立大学法人」として、敷地内は公共的な場所と考えられること ・鳥取市では、2008 年 4 月から「鳥取市快適な生活環境の確保に関する条例」が施行され、原則公 共の場での喫煙を禁止していること等 を踏まえて、かつ、教育・健康・環境安全上の観点から、 ① 多数の未成年者が在籍する大学構内での受動喫煙の防止と学生・職員等の健康増進 ② 教育機関における喫煙防止教育の一層の推進 ③ 吸い殻のポイ捨て防止 以上 3 点を構内禁煙化の目的とし、2009 年 10 月1日より、構内全面禁煙となりました。そして、本 年 10 月からは禁煙 6 年目となりました。 喫煙は、 “たばこに含まれるニコチンに対する、身体的・精神的依存症”であり、喫煙病(喫煙関連疾 患+ニコチン依存症)という病気であると捉えることもできます。ただ、やっかいなのは、 ☆ 体調不良に気づいた時には、病気が進行した状態になっている場合がある ☆ 依存症のため、自分 1 人ではなかなかやめることが出来ない場合が多い ☆ 非喫煙者も、喫煙者のはき出すたばこの煙(副流煙。喫煙者が吸い込む煙は主流煙)により、 健康被害を受けている(受動喫煙) ことです。 保健管理センターでは、禁煙外来(ニコチンパッチの処方を含む)・呼気CO濃度測定などを通して、 学生・職員の皆様に対する禁煙活動に取り組んでいます。また、ホームページ上に、禁煙シリーズを連 載しており、今年 6 月で 11 回目に達しました。そこで今回、今までの禁煙シリーズを一つにまとめて みました。学生・職員の皆様には、シリーズを振り返りながら、喫煙が健康・生活へ及ぼす影響につい ての理解を深めていただき、喫煙される方は、是非この機会に、禁煙にチャレンジしてみませんか。 2014 年 10 月 鳥取大学保健管理センター 准教授・医師 三島香津子 1 目 1. 次 主流煙と副流煙 ・・・・・・・・・・・・・・・・2012 年 9 月掲載 2. 喫煙と排出(排気)ガス ・・・・・・・・・・・・・・・・2013 年 9 月掲載 3. たばこと“生活習慣病” ・・・・・・・・・・・・・・・・2014 年 3 月掲載 4. たばこと“口” ・・・・・・・・・・・・・・・・2013 年 1 月掲載 5. たばこと“お肌” ・・・・・・・・・・・・・・・・2013 年 6 月掲載 6. たばこと“お金” ・・・・・・・・・・・・・・・・2014 年 1 月掲載 7. たばこのパッケージ ・・・・・・・・・・・・・・・・2014 年 6 月掲載 8. 禁煙治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・2012 年 11 月掲載 9. 禁煙治療と“体重” ・・・・・・・・・・・・・・・・2013 年 3 月掲載 10. 禁煙治療と“健康” ・・・・・・・・・・・・・・・・2013 年 11 月掲載 (掲載内容は、一部改変しています) 2 1.主流煙と副流煙 喫煙は、喫煙者本人の健康を害するだけでなく、周囲の人の健康も害します。たばこの煙に含ま れる有害物質がこれらの健康障害を引き起こしますが、たばこの煙には、以下の 2 種類があります。 主流煙:喫煙者本人が吸い込む煙 副流煙:火のついた、たばこの先から立ち上る煙 (喫煙者が吸い込んだ後、口からはき出す煙は呼出煙と呼びます。 副流煙と呼出煙をあわせて“環境たばこ煙”と言います。) たばこの煙の中には、約 4000 種の化学物質が含まれ、そのうち 200 種は有害物質です。副流 煙は、主流煙の何倍もの有害物質を含んでいます。主流煙中の有害物質を1としたときの、副流煙 中有害物質の倍数を示したものが、図1です。三大有害物質は、一酸化炭素・ニコチン・タールで すが、いずれも副流煙が多くなっています。キノリン・ジメチルニトロソアミン・ベンゾ(a)ピレン は発がん物質です。また、副流煙はアルカリ性で、目や鼻の粘膜を刺激します。 家族に喫煙者がいると、配偶者の肺がんのリスクが上昇することや、喘息の子供がいる割合が高 くなることが解っています。また、赤ちゃんの尿からも、ニコチン代謝物が検出されます。 自身のためだけでなく、あなたの大切な人・家族のためにも、禁煙しましょう。 4.7倍 一酸化炭素 46倍 アンモニア ニコチン 2.8倍 タール 3.4倍 副流煙 主流煙 11倍 キノリン 19~129倍 ジメチルニトロソアミン 3.4倍 ベンゾ(a)ピレン 0 5 10 15 20 図1:有害物質の主流煙に対する副流煙中の倍数 ( “厚生労働省の TABACCO or HEALTH 最新たばこ情報”HPより引用・グラフ作成) 3 2.喫煙と排出(排気)ガス 一酸化炭素(CO)は、車の排出(排気)ガスの成分の一つです。法律で、アイドリング時、普 通乗用車では 1%以下、軽乗用車では 2%以下に規制されています。COは、酸素よりも血液中の ヘモグロビン(身体の組織に酸素を運ぶ働きがあります)と強く結合するため(酸素の 200~250 倍)、身体は酸欠状態となり、運動能力の低下や、多血症、血栓症(心筋梗塞や脳梗塞など)等の疾 患を誘発します。 COは、たばこの煙に含まれている三大有害物質の一つです。主流煙(喫煙者が吸い込む煙)中 のCOは、なんと 3~4%に達します。喫煙者が急性CO中毒にならないのは、喫煙が間歇的な吸入 だからに過ぎません。喫煙者の呼気は、喫煙後 1 時間以上経っても環境基準を超えるCOを含んで います。たばこを吸うことは、喫煙者自らが、CO等有害物質で汚染された環境を選んでいるとい ってもよいでしょう。 保健管理センターには、マイクロCOモニター(電話の子機くらいの大きさ)という専用の機器 があり、簡単に呼気CO濃度を測定することが出来ます。測定は 1 分程度で終了します。また、予 約制で禁煙外来を行っています。2013 年度は、2 名のかたが禁煙に成功しました。CO測定に興 味のある方、禁煙についてご相談のある方は、是非一度センターにお問い合わせください。 引用:禁煙医療のための基礎知識(神奈川県内科医学会編) 4 3.たばこと“生活習慣病” 毎日の不適切・不健康な生活の積み重ねによって引き起こされる病気を、生活習慣病といいます。 循環器疾患(心筋梗塞・狭心症など) ・脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)・糖尿病・が ん・慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)等、様々な疾患が、生活習慣病の範疇に含まれてい ます。 喫煙は、これらの生活習慣病の危険因子です。日本での大規模な疫学調査結果では、喫煙が生活 習慣病と強く関連していることが報告されています(図1)。また、糖尿病を発症しやすいことも 25 の疫学調査の解析から解っています(図2) 。その他、メタボリックシンドロームは動脈硬化の 危険因子ですが、喫煙が加わると、より動脈硬化のリスクが高くなります。 “たばこを吸わない” “禁煙”は、 生活習慣病の予防のためにも重要です。 図1.喫煙が原因として占める割合(男性) 全死因 27.8% 38.6% 全がん 非喫煙者 60.8% 食道がん 73.4% 喉頭がん 胸部大動脈瘤及び解離 慢性閉塞性肺疾患 消化性潰瘍 1.23倍 23.0% 44.1% 虚血性心疾患 くも膜下出血 禁煙者 69.2% 肺がん 脳卒中 1 52.0% 口腔・咽頭がん 全循環器疾患 図2.糖尿病の発症リスク 20本>喫煙 10.4% 1.29倍 42.6% 65.6% 20本≦喫煙 60.3% 1.61倍 76.0% 図1.K Katanoda et al. J Epidemiol 2008;18(6) p251-264 より引用・一部抜粋 図2.厚生労働省健康局がん対策・健康増進課編。禁煙支援マニュアル(第二版) 5 2013;p13 より引用 4.たばこと“口” 食事をしたり会話をしたり、毎日休むことなく動いている私たちの“口”は、喫煙者にとっては、 たばこを吸う部位であり、真っ先にたばこの中の各種有害物質に暴露されます。そのため、喫煙は、 口腔領域の様々な疾患と関係しています。 例えば、口腔癌の最大の危険因子は喫煙であり、歯周病の大きな原因の 1 つは喫煙です。たばこ に含まれる有害物質による、 “発がん性・歯肉(はぐき)の血流低下・歯垢や細菌の増加等”が影響 しています。また、喫煙により歯や歯茎に色素沈着を来しますが、親の喫煙による受動喫煙が原因 と考えられる色素沈着が、乳幼児にみられるとの報告があります。また、乳幼児については、受動 喫煙と虫歯が関連しているとも言われています。喫煙者自身は気付かない事がありますが、喫煙者 では口臭も多く認められています。 このように、喫煙は、喫煙者自身・その周囲の人達の、口の健康や審美的な面からも悪影響を与 えているのです。 本文引用:尾崎哲則 喫煙と口腔疾患.日医雑誌 2012;141:1955-1958 20 歳代女性の歯・歯茎 喫煙者 非喫煙者 BBC NEWS http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/1566191.stm 6 5.たばこと“お肌” “スモーカーズ・フェイス”を皆さんはご存知ですか? たばこを吸うと、ニコチン・一酸化炭素等の有害物質の影響で、 ・血管が収縮し血流が悪化 ・肌の細胞に必要な酸素が不足 ・コラーゲン等の成分が減少 します。その結果 “潤いが低下し、くすんだ顔色の、しわが多く、ほほがこけ、たるんだ” 年齢よりぐんと老けて見える、喫煙者独特の顔貌となります。このような顔貌を“スモーカーズ・ フェイス”と言います。 日差しが強い季節には、男女問わず紫外線ブロックは欠かせません。が、喫煙は、紫外線以上の ダメージを肌に与えているのです。 双子の姉妹 ↑喫煙者 非喫煙者↑ BBC NEWS http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/1566191.stm 7 6.たばこと“お金” たばこは、1 箱だいたい 410 円です。喫煙者は、たばこ代ぶん、非喫煙者より余分にお金を使っ ています。では、1 日 1 箱(20 本)吸う喫煙者のたばこ代金は、いったいどのくらいになるので しょう? たばこ代金合計 出来ること・買える物など・・ 1 ヶ月 約 12,300 円 外食、エステ、ゴルフコース ゲレンデ日帰り旅行 など・・ 3 ヶ月 約 37,000 円 国内レジャー施設へ旅行、タブレット購入 6 ヶ月 約 74,000 円 沖縄旅行、高級スーツ新調 など・・ 1年 約 15 万円 グアム旅行、パソコン購入 など・・ 5年 約 75 万円 豪華寝台列車 3 泊 4 日旅行、高級腕時計購入 など・・ など・・ 10 年 約 150 万円 軽自動車購入、ヨーロッパ旅行 など・・ 30 年 約 450 万円 自動車購入、世界 1 周クルーズ旅行 など・・ これらのお金を貯金しておけば、生活に必要なお金にゆとりもうまれますね。 また、喫煙は健康に悪影響を及ぼしますが、その分、喫煙者は医療費も多くかかると推測されま す。宮城県の住民に対する調査では、たばこを吸わない 70 代の女性で、家庭で夫がたばこを吸う 女性(受動喫煙者)の医療費は、夫が吸わない女性(受動喫煙がない)の 1.4 倍かかっていたと報 告されています(朝日新聞デジタル 2013 年 6 月 18 日版より)。 喫煙者は、将来的に見ると、医療費の面からも、非喫煙者よりも多大なお金を支出しています。 禁煙することで、お金が貯まる・使えるお金が増える・健康になる、こんなよいことはありません ね。 8 7.たばこのパッケージ 喫煙は、私たちの健康に様々な悪影響をおよぼすことを、今までこのシリーズでお伝えしてきまし た。けれども、日本国内では、20 歳以上であれば、誰でもたばこを買うことが出来ます。 【日本のたばこ】 そのため、日本のたばこのパッケージには、健康への影響を警告する表記 を行うことが法律で義務づけられています。パッケージの赤枠の部分に、健 康への警告文等が記載されています。例えば、左のたばこには、以下の文章 が記載されています。 「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなりま す。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙 者に比べて約 2 倍から 4 倍高くなります。 (詳細については、厚生労働省のホー ム・ページ www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/main.html をご参照ください。)」 【EUのたばこ】 日本以外の国ではどうでしょうか。EUのたばこのパッケージには、健康 への影響を警告する写真等が記載されています。左のパッケージの赤枠内 「Smoking kills」の部分に表記されます。以下にその例をあげてみました。 より具体的に、健康への影響がイメージできますね。その他、アメリカ・ブ ラジル、日本のたばこが輸出されているタイなど各国で、同様の表記がされ ています。 画像:厚生労働省・財務省HP及び http://www.tobacco-biyou.jp より引用・ 一部抜粋 肺がん 皮膚の老化 子供への悪影響 禁煙支援 9 ニコチン依存 8.禁煙治療 何度も禁煙しようとしたが挫折してしまった・・、という方はいませんか? 喫煙は、たばこに 含まれるニコチンへの身体的依存と、習慣性から来る心理的依存からなる依存症です。そのため、 自力での禁煙は難しいことが多く、治療が必要となる場合が少なくありません。心理的ケア・禁煙 指導は勿論大切ですが、禁煙を補助する治療薬があります。治療薬には、以下の 2 点の作用があり ます ① ニコチン離脱症状(いらいら・眠気など)の発現を抑制する、 ② たばこを吸いたいと感じにくくさせる、 実際の治療薬には、 “ガム・パッチ剤・内服薬(錠剤) ”の3種類があります。それぞれが次のよう な作用を持っています。 ニコチンガム・ニコチンパッチ剤 = ①の作用 内服薬(バレニクリン) = ①+②の作用 ガムやパッチ剤は薬局で買えますが、内服薬は医師の処方が必要です(パッチ剤も、医師の処方が 必要な物があります) 。また、以下の要件を全て満たすと、保険診療で禁煙治療が受けられます。 禁煙治療が保険診療で受けられる条件 1.ニコチン依存症に係わるスクリーニングテスト(TDS)等で、ニコチン依存症と診断された者 2.ブリンクマン指数(1日喫煙本数×喫煙年数)が 200 以上の者 3.直ちに禁煙することを希望し、「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説 明を受け、当該治療を受けることを文章により同意している者 けれども、喫煙を開始してまだ数年・1 日の本数が少ないなど、ブリンクマン指数が 200 未満の 方は、保険診療に該当しません。この様な方を支援するため、鳥取県独自の禁煙治療費助成事業が あります。鳥取県に住民票があり、上記の保険診療条件 2 に該当しない方は、保険適用相当額が助 成されます。 詳細はとりネット(https://www.pref.tottori.lg.jp/kinenshien/)をご参照ください。 また、保健管理センターでも禁煙外来を予約制で行っています。禁煙を考えていらっしゃる方は、 ぜひセンターまで御連絡ください(内線 2492) 。 10 9.禁煙治療と“体重” 「禁煙すると太る」 、と言う喫煙者は少なくありません。喫煙中は、たばこに含まれるニコチンの 薬理作用により、基礎代謝が亢進しています。また禁煙後は、味覚が鋭敏になり、食事がとてもお いしく食べられます。そのため、 “禁煙 1 年後で平均約 2kg の体重増加を 8 割に認める”、と報告 されています。けれども、この体重増加は一時的です。禁煙後は、食材本来の味を感じられること で自然と薄味になり、徐々に適正体重に戻っていきます。また、生活習慣病や、喫煙・ニコチンに よる健康障害のリスクが軽減することは言うまでもありません。喫煙による総死亡リスクに相当す る体重増加は 40kg と考えられています。禁煙による体重増加のデメリットより、禁煙するメリッ トのほうが大きいのです。 本文引用:舘秀和,清野裕. 禁煙指導のこつー体重増加への対応.日医雑誌 11 2012;141:1962 10.禁煙治療と健康 喫煙は健康に様々な悪影響を及ぼし、その結果、喫煙者は、たばこを吸わない人より 10 年寿命 が短いと報告されています。けれども、禁煙すれば影響は軽減され、禁煙が早ければ早いほど、健 康な身体に近づくことができます。 図:ファイザーHPより引用;Doll, R. et al. : BMJ 328 (7455) : 1519, 2004 禁煙するとよくなること 8 時間 後 2日 血液中CO濃度低下・体内酸素濃度上昇 後 食事がおいしくなる(味覚の改善) 3 ヶ月 後 1年 後 肺機能の改善 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症など)のリスクが低くなる 10 年 後 肺がんのリスクが半減する 15 年 後 心臓病により死亡するリスクが非喫煙者と同等になる。 禁煙すると、最初は、ニコチン依存からの離脱がつらくて、たばこを吸いたくなるかもしれま せん。けれども、たばこがじわりじわりと健康を害していくのと反対に、禁煙すれば、健康な身体 を徐々に取り戻すことが出来るのです。 12
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