芸術の秋に名演を聞く - メディキット県民文化センター

芸 術 の 秋 に 名 演 を 聴 く
紀尾井シンフォニエッタ東京
宮崎公演
Ⓒ三好英輔
いよいよ公演が迫ってきた紀尾井シンフォニエッタ東京の宮崎公演。
その公演の魅力について、去る 9 月 8 日(土)の当劇場主催公演に出演
されたピアニスト阪本幹子さん(宮崎大学准教授)にお話を伺いました。
精緻なアンサンブルを聴かせるところに、
最大の魅力があるオーケストラ
“オーケストラ”というと、約 100 名から成る大編成を
想像される方や、迫力のある響きで圧倒されるような音楽
を期待する方が多いかもしれませんが、今回の『紀尾井シ
ンフォニエッタ東京』(以下、紀尾井)というオーケストラ
は、決して大きな編成ではありません。
オーケストラに所属している演奏者は、室内楽のような
小編成のアンサンブルに魅力を感じてオーケストラの仕
事とは別に室内楽活動を行う方が多いのですが、特に紀尾
井はソリストや室内楽奏者としても第一線で活躍してい
るメンバーが多く、アンサンブルに対して高いクオリティ
ーを求めています。そんな“お互いを聴き合って音楽を構
築する”というオーケストラを指揮者が束ねることによっ
て、メンバー全員の息が揃った温かく緻密な響きを聴かせ
てくれると思います。1995 年に誕生した紀尾井は、当時
から小編成で上質なアンサンブルを聴かせるオーケスト
ラとして音楽界の注目を浴びていましたが、方向性を変え
ることなく現在もその質を保ち続けているのは、非常に素
晴らしいことです。
揺るがない音楽観を貫く
今回のピアニストであるペーター・レーゼルは、ドイツ
の伝統的な、いわゆる正統派の音楽を追究する実直なピア
ニストで、真摯な姿勢で音楽を紡ぐ紀尾井との相性は抜群
だと思います。
今年 3 月に彼の演奏を聴く機会がありましたが、ある意
味で新鮮に聞こえたのは、若い頃に録音された CD の演奏
と印象が変わらなかったことです。「自分はこのように音
楽を捉え、向き合っている」という彼独自の哲学が貫かれ
ていて、若い頃から現在に至るまでその姿勢がぶれていな
いように感じました。今は芸術もメディアに載らないと売
れないような時代になっているので、本質を追究するとい
うよりも、一見派手でイベント的な演奏を目指す演奏家が
増えてきていると思います。その中で、彼は表に出ず黙々
と自分の音楽を追究し続けているところが魅力であり、昔
からの姿勢を貫いてこれた何よりの強さでもあります。も
ちろん、それを支えたのは、彼の芸術に敬意を示し愛好す
る世界中の人たちがいるからだと思いますね。
指揮者のクリスティアン・エーヴァルトも、レーゼルと
目指す方向を同じくしている芸術家だと感じています。彼
も派手なパフォーマンスをするタイプではないけれども、
彼の音楽を心待ちにしている人が必ずいる、そんな指揮者
だと思います。
3拍子揃った上質の音楽を楽しむ
プログラムにある前半のハイドンでは、紀尾井が得意と
する古典的編成で緻密なオーケストラの響きを、そして後
半のブラームスでは、ロマン派の豊かな響きをどのように
聴かせてくれるのか、とても楽しみです。特にブラームス
のピアノ協奏曲は、ピアニストにとって超絶技巧が必要と
される難曲中の難曲なので、宮崎でも聴ける機会は滅多に
ありません。しかも、この曲の中にはピアノとオーケスト
ラの美しいかけ合いもたくさんあり、後期ロマン派の織り
成す繊細で美しいメロディを、この極上の組み合わせで聴
けるのはとても楽しみです。
2 曲とも、ラフマニノフやチャイコフスキーのような華
やかな曲ではありませんが、深まる秋にふさわしく、また
アンサンブルに自信のある紀尾井らしい選曲です。指揮者、
ソリスト、オーケストラの 3 つが揃った上質の音楽を意識
してみると、いつもよりワンランク上の聴き方で楽しめる
と思います。是非、今年は真の“芸術の秋”を味わってい
ただきたいですね。
指揮者 クリスティアン・エーヴァルトからのメッセージ
ペーター・レーゼルとは 30 年以上の長い間、数
多く共演を重ねてきました。レーゼルは音楽家とし
てこの上なく真摯に作品と向き合い、私はそこに好
感を持っています。
ハイドンの交響曲第 101 番は、魅力、機智、ユー
モアと活力、それらが整然とした形式とうまく組み
合わさっています。ブラームスのピアノ協奏曲第 2
番には人生を肯定するエネルギーとその強さがあ
ります。
今回、優秀なオーケストラと素晴らしい聴衆に恵
まれた日本で、レーゼルと共演でき、また、ハイド
ンとブラームスの創作活動の絶頂期、人生のもっと
も幸福な時期に書かれた二つの名曲を演奏できる
ことを、とりわけ楽しみにしています
クリスティアン・エーヴァルト
公演情報
※劇場ホームページからもご覧いただけます。
紀尾井シンフォニエッタ東京 宮崎公演
11月4日(日) 開場15:15 開演16:00
・・・問合せ先・・・
メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)チケットセンター
☎ 0985-28-7766 (9:00~20:00 月曜休館)