MLA連携における図書館と文学館 め、﹃ 日 本 十 進 分 類 法 ﹄ を 用 い た 排 列 順 序とは異なり、まるで書斎を再現するか のような、作家の個性が反映された展示・ 公開の形態となっている。 法政大学 岡野 裕行 作家自身の意向を尊重する同館の文学 資料アーカイブズは面白い事例だが、こ のような取り組みを実現可能とするには、 している。同館ではそれらの資料を、﹁新 ①作家自身が存命中であること、②図書 文学資料アーカイブズへの期待 川 和 江 コ レ ク シ ョ ン ﹂ と し て 整 備 し 、 広 館側の受入体制が整っていること、③作 く展示・公開を行っている。 図書館で提供される多様なサービスの 家自身に排架の権限が与えられているこ 一 般 に 文 学 資 料 の 寄 贈 に 関 し て は、 と、 な ど の 諸 条 件 が 必 要 と な る だ ろ う。 うち、まっさきに思い浮かぶのは、図書 作 家 が 没 し た 後 に、 そ の 遺 族 が 寄 贈 者 や雑誌・新聞などに代表される、さまざ 作家自身による排架・展示という事例を、 ま な 図 書 館 資 料 の 貸 出 サ ー ビ ス で あ る。 と な る こ と が 多 い。 そ の 場 合、 も と も 他館でも実施できるように一般化するこ との所有者である作家自身が不在とな しかし図書館には、貸出サービスの対象 とはおそらく困難だが、文学資料アーカ る た め、 文 学 資 料 ア ー カ イ ブ ズ に お い とならない資料も所蔵されている。その イブズの一つのあり方として、注目に値 本近代文学館は、そもそも﹁文学の専門 て は、 ア ー カ イ ブ ズ 学 で 重 要 視 さ れ る 具体例としては、それぞれの地域ゆかり する取り組みになるだろう。 図書館﹂を念頭に形作られた施設だとい 三 原 則︵ 出 所 原 則、 原 秩 序 尊 重 の 原 則、 の文学作家が遺した手稿資料︵直筆原稿 うことを踏まえておく必要があるだろう。 3 文学館における文学資料アーカ や書簡など︶や遺品のような、一点もの 原 形 保 存 の 原 則 ︶ が、 遵 守 さ れ な い こ 同館事務局の伊藤義男氏は、既存の図書 イブズの事例︵日本近代文学館︶ ともありうる。 の文学資料の類を挙げることができる。 館や博物館の活動を参考として日本近代 一方、文学資料の収集・保存を活動の 一方、ゆうき図書館の場合、寄贈者の それらは古書店経由で購入されるもの 文学館が成立したという歴史的背景を述 目的としている専門施設には、全国各地 新川氏自身が、直筆原稿や写真などの展 もあるが、作家自身やその遺族からの寄 べ た 上 で、 文 学 館 一 般 の 特 徴 に つ い て、 ︶ に点在する文学館がある。日本における 示レイアウトはもとより、図書資料の排 贈や寄託により、まとまった形で図書館 次のようにまとめている ︵1。 本格的な文学館活動は、1962年の日 列順序にも手を加えている点に特色が に受入されることも多い。それらを文学 図書館や博物館にはそれぞれ長い歴 資料アーカイブズとして体系的に保存し、 ある。作家自身の主観的な判断のもとに、 本近代文学館︵東京都目黒区︶の設立に 史があり、図書館学や博物館学という 始まるが、その活動の歴史は、図書館や 寄贈図書の排列順序が決定されているた 適切な方法で利用者に公開していくこと 学問の対象ともなっています。当館は、 博物館と比べてしまうと短いものであり、 が、図書館活動には求められている。 あるいは﹁文学館﹂は、といってもよ ようやく半世紀ほどの時間を積み重ねた 2 図書館における文学資料アーカ いのかもしれませんが、手探りをしつ と い う 状 況 に あ る 。 そ れ で も 日 本 近 代 文 イブズの事例︵ゆうき図書館︶ つ、一言でいえばそうした図書館から 学館の設立以降、この半世紀ほどの間に、 資料の整理の知恵を借り、博物館から 地域にまつわる作家の資料を網羅的に収 は展示の知恵を借りてきたといえま 集対象とする文学館、作家個人を資料収 しょうか。 集の対象とした文学館など、さまざまな 形態の文学館が、全国各地に形作られて す な わ ち、 文 学 館 と 呼 ば れ る 施 設 は、 いる。その数は、特に1990年代以降 図書館としての性質を有する一方で、同 における増加が著しい。 時に博物館としての性質も有しつつ、そ 今日の文学館は、博物館の一種と見な れらを融合させる形で、独自の発展を遂 されがちな施設である。しかし、全国的 ︶ げた中間的な存在となっている ︵2。 な文学館設立運動のきっかけとなった日 全 国 の 公 共 図 書 館 や 大 学 図 書 館 で は、 館内に資料展示室や展示コーナーを併設 することで、そのような一点ものの貴重 な文学資料を、利用者に公開しているこ とがある。例えば、2004年に開館し たゆうき図書館︵茨城県結城市︶の場合、 地元出身の詩人・新川和江氏︵ゆうき図 書館名誉館長︶が、詩に関する図書資料、 直筆原稿、写真資料など約一万点を寄贈 1 ゆうき図書館の「新川和江コレクション」の様子。図 書の排列は、すべて寄贈者の新川和江氏の意向が反映 されている。書架の 3 段目は展示ケースになっており、 直筆原稿や写真などが納められている。 日本近代文学館の外観。文学資料の収集・保存・閲覧・ 展示などの業務を行うだけでなく、図書や雑誌を復刻 したり、 「声のライブラリー」 「夏の文学教室」 「文学 館演習」などのさまざまなイベントを定期的に催した りしている。 10 丸善ライブラリーニュース 第 11 号 ついても、2009年 月に廃止の話題 わゆるMLAと称される施設のすべての 4 文学館マネジメントの課題 が 持 ち 上 が っ た が 、 こ ち ら は 市 民 に よ る 性質を有するがゆえに、文学館はその立 熱心な反対運動により、施設の移転によ 文学館活動は、1990年代以降の文 ち位置を明確化することが難しく、活動 学館数の増加によってますます活発化し、 る活動継続という落とし所が探られてい の方向性を探ることも容易ではない。例 ︶ そ し て つ い 先 日 に は 、 立 原 道 造 る ︵4。 1995年には、業界団体である全国文 え ば 、 神 奈 川 近 代 文 学 館 ︵ 神 奈 川県横浜 記 念 館︵ 東 京 都 文 京 区 ︶ が、 ﹁長引く経 学館協議会が発足するに至っている。し 市 ︶ の 館 長 ・ 紀 田 順 一 郎 氏 は、 ﹁収蔵品 済不況という社会情勢の中で、開館以来、 をいかに活用するかという理念について かし、昨今においては、文学館を廃止し 赤字経営を余儀なくされてまいりまし ようとする動きが、全国各地で相次ぐと い え ば、 文 学 館 と い う も の は 普 遍 的 な、 た ﹂﹁ 芸 術 活 動 に 対 す る 社 会 情 勢 は 好 転 いう厳しい事態となっている。 または永久の時間の中で、ある文学が読 の兆しが見えず、当館のような財政基盤 ここ数年のなかでもっとも大きな話 まれ続けてきたのは何故なのかというこ が極めて脆弱な記念館の存続には、大変 題 と な っ た の は、 2 0 0 8 年 3 月 に 橋 とを問いかけ、そこに現代の視点からの 厳しい現実に直面いたす日々が続いてお 新たな照明をあてていくことを目的とす 下徹大阪府知事によって推し進められ ります﹂という声明文を出すことで、文 た、 大 阪 府 立 国 際 児 童 文 学 館︵ 大 阪 府 る 以 外 に な い ﹂﹁ 作 家 の 生 誕 百 年 と か 没 学館事業の継続困難を訴え、2010年 吹 田 市 ︶ の 移 転 統 合 問 題 で あ る。 さ ま 後二十年だとか、冠をつけるのが得意だ 9月いっぱいでの休館という決断に至っ ざまな関係団体が継続的な反対運動を が、世の皮相な動きに左右されることな ︶ 前述した日本近代文学館の て い る ︵5。 行 っ て き た が、 幾 度 も の 議 論 が 繰 り 返 く、大所を見据えて運営していくほかは 場合も、公的な援助を得ておらず、財団 さ れ た 末 に、 最 終 的 に は 大 阪 府 立 中 央 ない﹂というように、文学館活動の理念 ︶ 文学 法人として独立財政のもとに運営してい 図 書 館︵ 大 阪 府 東 大 阪 市 ︶ へ の 移 転 統 に つ い て の 展 望 を 述 べ て い る ︵7。 館のような文化政策事業には、長い目で る た め、 資 金 面 で の 不 安 は 常 に つ き ま 合 が 決 定 さ れ て い る。 大 阪 府 立 国 際 児 ︶ い ず れ に し ろ、 こ れ ら その活動を見守り続ける姿勢が必要とな と っ て い る ︵6。 童文学館は2009年 月いっぱいで るが、そのような理解を幅広く得るため 活 動 が 停 止 さ れ、 2 0 1 0 年 5 月 以 降、 の文学館に共通する問題は、財政基盤が 不安定なことにより、文化事業としての には、文学館側からの積極的な取り組み 大阪府立中央図書館国際児童文学館と 継続性を保つことが困難なことである。 やアピールも求められることになる。 し て 再 出 発 し た こ と は、 ま だ 記 憶 に 新 ︶ 廃止が検討される文学館が目立つ 紀田氏は﹁大所を見据えて﹂と述べて しい出来事である ︵3。 また、浜松文芸館︵静岡県浜松市︶に よ う に な っ た 昨 今 だ が、 そ の 一 方 で、 いるが、そのような視点を求められてい 2010年4月に藤沢周平記念館︵山形 るのは、単に文学館を運営している職員 県鶴岡市︶が新規開館し、さらには、富 や、自治体などの管理団体だけではない 山ふるさと文学館︵富山県富山市︶の建 はずである。図書館情報学や博物館学は 設が現在検討中となっているなど、文学 もとより、アーカイブズ学や文学研究に 館を取り巻く動向に、新たな展開がもた 携 わ る 人 た ち に と っ て も、 本 腰 を 入 れ らされている状況もある。これまでの文 て考察の対象とすべき主題となるだろう。 学 館 政 策 の あ り 方 を 塗 り 替 え る よ う な、 少なくとも、今後の文学館研究について 今日的な新しい取り組みを期待したい。 は、 そ れ ら の 諸 分 野 の 人 た ち が 協 同 し、 複眼的に文学館を研究対象としていくこ 5 文学館の理念と とが求められるだろう。 MLA連携への期待 そしてまた、前述した新川氏のように、 今日では図書館内における寄贈資料の取 り扱いにまで関心を払い、自らの意向を 12 万博記念公園内に存在していた、大阪府立国際児童文 学館の外観。現在は廃止され、大阪府立中央図書館国 際児童文学館として移転開館している。 博物館︵ ︶、図書館︵ Library ︶ 、 Museum ︶ と い う よ う な、 い 文 書 館︵ Archives 展示に反映させている作家も登場するよ うな時代となっている。このことは、﹁作 家の個人蔵書が、文学資料アーカイブズ の対象となりうる﹂ことが、今日の作家 自身にとっても自明となっていることを 示唆している︵一昔前の作家ならば、自 らの遺した個人蔵書や遺品が、どのよう な形で後世に伝えられていくのかは、本 人の与り知らぬ領域だったはずである︶。 文学資料アーカイブズの諸問題は、既に 作家自身にとっても、見過ごすことので きない主題となっているわけである。 とすれば、文学資料アーカイブズの諸 問 題 は、﹁ 文 学 資 料 を ど の よ う に 残 し て いくか﹂というような、保存技術レベル の 議 論 に 留 め る だ け で は 不 十 分 だ ろ う。 そ う で は な く て、﹁ 文 学 資 料 ア ー カ イ ブ ズを積極的に活用できる環境を、どのよ うに整備していけばよいのか﹂というよ うな広い視野を持った問題意識を、文学 や文学館活動に関心を持つあらゆる分 野の人たちが共有できるように、積極的 に認識を変え、それを実行に移していか ねばならないだろう。 ︵キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科兼任講師︶ 注 ︵ ︶伊藤義男﹁日本近代文学館の現状と課題﹂﹃昭 和文学研究﹄ no.60, 2010, p.93-97. ︵ ︶岡 野 裕 行﹁ 図 書 館 情 報 学 は 文 学 資 料 の 諸 問 題をどう考えていくか﹂ ﹃勉誠通信﹄ 200908, no.11, p.7-9. ︵ ︶向川幹雄﹁大阪国際児童文学館の状況﹂﹃昭 和文学研究﹄ no.60, 2010, p.98-102. ︵ ︶﹁ 存 廃 問 題 に 揺 れ る﹁ 文 学 館 ﹂ 問 わ れ る 存 在意義﹂﹃中日新聞﹄ 2010-03-16, p.11. ︵ ︶立 原 道 造 記 念 館﹁ 立 原 道 造 記 念 館 の 運 営 に ついて︵現状報告とお願い︶﹂ 2010-07, http://www.tachihara.jp/kyukan.pdf ︵ ︶前掲︵ ︶ ︵ ︶紀 田 順 一 郎﹁ 新 し い 文 学 館 像 に 向 け て ﹂ ﹃昭 和文学研究﹄ no.60, 2010, p.79-87. 丸善ライブラリーニュース 第 11 号 11 1 2 3 4 5 7 6 12 1
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