連 載 第6回 DDS IC を使った 低周波発振器の製作

連 載
R8C/15 付録マイコン基板活用企画
第6回 DDS IC を使った
低周波発振器の製作
タイニー・マスタ
Tiny Master
今回は,10 Hz から 300 kHz までの安定した正弦波
を出力する低周波発振器を製作します.
きるようにしたので,ちょっとした実験や測定用の基
準信号発生器として使うことができます.
ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ(DDS)専
用 IC AD9834(アナログ・デバイセズ)を使って製作
したので,10 ビット分解能の D − A 変換によりひずみ
低周波発振器の機能と構成
の少ないきれいな正弦波が得られます.
外観を写真 6 − 1 に示します.小型で持ち運びがで
● 機能と仕様
製作する低周波発振器の機能と仕様を表 6 − 1 に示
ステップ切り替え
周波数可変
します.電源は AC アダプタで 9 V 程度のものを使い
ます.
AD9834 の能力としては,最高 10 MHz 以上の出力
も可能なのですが,今回はスプリアスが少なくきれい
な正弦波が出力できることを活用して 300 kHz までの
低周波用としました.
出力可変
● 全体の構成
低周波発振器の全体構成を図 6 − 1 に示します.正
弦波と矩形波は AD9834 で出力します.正弦波は,
正弦波出力
矩形波出力
AD9834 の出力をロー・パス・フィルタ(LPF)を通し
てから出力電圧を可変抵抗で調整できるようにし,そ
の後 OP アンプで増幅して外部へ出力しています.矩
形波は AD9834 から直接外部へ出力しています.
写真 6 − 1 製作した低周波発振器の外観
項 目
電源
出力周波数
出力電圧
表示
機 能
備 考
DC9V から 10V
常時約 100 mA
出力 (
1 SIN)
正弦波出力
10Hz から 300 kHz
(1 Hz 単位可能)
周波数可変ステップはスイッチにより
10Hz 単位と 1kHz 単位を切り替え
出力 2
(SQR)
矩形波出力
10 Hz から 25 MHz 表示は 1 MHz まで
出力 (
1 SIN)
出力インピーダンス 約 600 Ω
出力電圧 0 〜 4VP − P 可変抵抗で任意
出力 2
(SQR)
CMOS レベル出力
液晶表示器 16 文字× 2 行表示
周波数可変ステップ表示
現在出力周波数(6 桁表示)
2005 年 12 月号
AC アダプタ使用
表6−1
低周波発振器の仕様
ロータリ・エンコーダ
で周波数可変
周波数カウンタ用出力
汎用
このマークは当該記事で使用されている部品の相当品一式の購入サポー
トが行われる予定であることを示します.詳しくは広告ページ「トラン
ジスタ技術 サポート企画」
(p.12)
を参照ください.
239
付録マイコン基板
50MHz発振器
出力電圧調整
プログラムまたは
ステップ切り替え
液晶表示器
R8C/15
ロー・パス・
フィルタ
AD9834
内蔵
クロック
20MHz
VR
正弦波出力
OPアンプ
矩形波出力
8V
5V
3端子
レギュレータ
DC9V〜12V
図6−1
低周波発振器の構成
ロータリ・
エンコーダ
AD9834 の周波数調整は付録マイコン基板の
I OUTB
I OUT
FS ADJUST
1
20
R8C/15 で行います.そのために,16 ビットのシリア
ル出力が必要になるので,ソフトウェアでシリアル信
REFOUT
2
19
COMP
3
18 AGND
号を生成します.発振周波数の変更はロータリ・エン
コーダで行います.ロータリ・エンコーダの制御もソ
AVDD
DVDD
4
17 V I N
CAP/2.5V
6
DGND
7
14 SCLK
MCLK
8
13 SDATA
FSELECT
9
12 SLEEP
フトウェアで行います.出力周波数値は LCD に表示
します.
電源は,R8C/15 と AD9834 は通常の 5 V でよいの
ですが,OP アンプの電源は出力電圧を高くしたいの
で 8 V としています.
5
AD9834
PSELECT 10
16 S I GN B I T OUT
15 FSYNC
11 RESET
図 6 − 2 AD9834 のピン配置
プログラムの書き込み用のコネクタは,変換用のケ
ーブルを使って小型のコネクタとします.さらに,こ
アドレスで,内蔵 ROM の正弦波データを読み出して
のコネクタのピンを周波数設定ステップの切り替え用
出力します.そのデータを D − A 変換してアナログの
にも使います.
正弦波に変換しています.
位相加算器で使われる加算データが,外部から設定
DDS IC AD9834 の使いかた
される 28 ビットの周波数データと 12 ビットの位相デ
ータになり,このデータによって周波数と位相が決定
● AD9834 の特徴
されます.2 組のデータを一定周期で切り替えながら
今回の低周波発振器のなかで,重要な働きをする
DDS IC について説明します.AD9834 は,図 6 − 2 の
加算することもできるようになっています.
周波数の設定データは SPI インターフェースで転送
ように小型の 20 ピン・フラット・パッケージなので,
変換基板に実装して使いました.
され,データ長は 28 ビットとなっています.位相変
調のための位相シフト・データも SPI で転送され,デ
AD9834 の仕様を表 6 − 2 に示します.変調信号が
ータ長は 12 ビットとなっています.これらのデータ
出力できるように二つの周波数レジスタと位相レジス
タを内蔵しています.そのため,FSK や PSK などの
を保存するレジスタは 2 組ずつ用意されていて,瞬時
に切り替えて 2 種類の周波数を交互に出力することが
変調信号を使う用途に適しています.
また,信号出力のスプリアスが小さいこと,消費電
できるようになっています.この機能が変調機能にな
ります.
流が少ないことが特徴で,いろいろなローカル信号発
振器用途にも適しています.今回もこのスプリアスが
コンパレータも内蔵しており,出力正弦波から矩形
波を生成することもできるようになっています.
少ないことを活用して,ノイズが少なくひずみの少な
いきれいな信号の発生器としています.
● クロックと出力周波数の関係
ここでは,AD9834 の周波数の元となるクロックを
● AD9834 の内部動作
50 MHz としているので,(50 MHz ÷ 210)までは 10 ビ
ットの分解能で出力できることになります.つまり,
AD9834 の内部ブロック構成を図 6 − 3 に示します.
基本は,一定周期で順次出力される位相加算器からの
240
約 49 kHz までは 10 ビット分解能の正弦波で出力され
2005 年 12 月号