研究成果 - アクセス空間 - Keio University

P-3
実世界実時間ネットワーク通信工学
プロジェクトリーダ:
山中 直明
開放環境科学専攻
教授
事業推進担当者:
笹瀬 巌
天野 英晴
大槻 知明
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
教授
教授
教授
研究推進協力者:
浜田 望
重野 寛
眞田 幸俊
矢向 高弘
西 宏章
山口 正泰
安達 宏一
稲森 真美子
総合デザイン工学専攻
開放環境科学専攻
総合デザイン工学専攻
総合デザイン工学専攻
総合デザイン工学専攻
特別研究教員
特別研究教員
総合デザイン工学専攻
教授
准教授
准教授
准教授
准教授
准教授
助教
RA:
M. Liyanage
S. Bouk
C. Sertthin
浅田 順之
M. Sann Maw
菊田 洸
B. Norharyati
西村 晴輝
竹下 秀俊
徳橋 和将
高 山
林 宜徳
遠藤 伶
M. Abu Talip
A. Akagic
Z. Hao
J. Corena Bossa
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
総合デザイン工学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
開放環境科学専攻
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
後期博士課程
助教
3年
3年
3年
3年
3年
2年
2年
2年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
1年
研究の概要
I
(1) 背景
人間の感覚に対して、十分に支援をしうるアクセス空間を実現するため、より
感覚に近い形での通信を行なう基盤的環境が必要となってきている。そのため、
ユビキタスなアクセス空間を、人間の感覚やアプリケーション、ワイヤレス技術
を含めたネットワークの基盤技術、グリーンネットワークやスマートネットワー
ク、及び ICT への発展の観点より検討する。
(2) 目的、計画
本プロジェクトの目的は、「連携」をキーワードに、特にアクセス空間である
ことを意識して研究を行なうことである。つまり、アプリケーションとネットワ
ークとの連携、知覚と通信の連携、ネットワークとデバイスの連携、産業界とア
カデミアの連携、国際連携である。これらを実現するために、大局的に以下の計
画に従い進める。
H19(初年度)

プロジェクトの立上げ

連携プロジェクトルーム整備

RA を中心とした連携とコミュニケーション

高度国際連携の立上げ
H20(実績)

アクセス空間技術、ワイヤレスネットワーク技術の国際連携

上記分野の海外研究者の招聘

コアパートナーとのワークショップ等の連携の開始(5 日)

NoE(Network of Excellence)の拡大とワークショップの開催

RA の海外インターンシップの拡大

プロジェクト内での RA、教員による定期的なワークショップ

ダブルスーパーバイザの実施
H21(昨年実績)

連携中間のサマリー

レビューによる計画の見直し

NoE との連携の強化(Ghent 大学)

NoE の拡大とワークショップの開催

RA の 6 カ月から1年程度の海外研究活動の実施

短期(1か月程度)の RA のインターンシップ実施

学位論文の英語化

ダブルスーパーバイザの本格的実施
H22(今年度実績)

NoE との連携強化

NoE の拡大とワークショップの開催

バーチャルラボの組織化(Telecom Paris Tech, Ghent, Pori Tech Milano)

RA の海外派遣
H23(計画)

プロジェクトとしてのコアパートナーとキーパーソンの招聘

海外拠点化、及び海外からの拠点誘致

ダブルスーパーバイザ

海外での博士指導と連携
(3) 意義
本プロジェクトは、他プロジェクトと連携して、アプリケーションとインフラ、
デバイス技術を融合させるものである。個々は、技術に対して垂直に深掘りし、
分野、産業、技術、国際の連携を水平に行なう「T 字」型のプロジェクトが特色
である。国外では、Ghent 大学、Telecom Paris Tech、ミラノ工科大学、及びイ
ンペリアルカレッジ、国立交通大学(台湾)、シドニー大学とすでにタイトな関係
を作り、ワークショップや共同研究を実施し、研究の連携を行なっている。また、
今年度より、Wiki によるバーチャルラボを3カ所開設し、技術討論や共同研究を
行なっている。一昨年行なった、Ghent 大学との相互接続実験に続き、グリーン
ネットワークのアルゴリズムを慶應大学のテストシステム上で動かす研究に取り
組んでいる。また、海外研究活動のため RA を国際連携拠点へ派遣した。そして、
多くの著名な外国人教授、エンジニアを招聘してレクチャーや共同研究を行なっ
ていただき、グローバルな能力が高い Ph.D.の育成に努める。本プロジェクトの
成果は、単にアカデミアとして論文等で発表するだけでなく、産業界へのトラン
スファーを行なっており、
「可視光通信コンソーシアム」、
「フォトニックインター
ネットラボ」、「けいはんなオープンラボ」等、産学プロジェクトへつなげた。
(4) 研究成果概要
実時間、実空間ネットワークの研究は、ネットワークのインフラ技術に関する
ものから、無線のアーキテクチャ、電磁波伝搬、さらには新しい協調通信や、ア
プリケーションに及ぶ。まず、ブロードバンドモバイルワイヤレス通信に関して、
以下の研究成果をあげた。第 1 に、QoS ベースの MIMO システムにおいて、変
調方式と偏波面を適応的に制御して、システムスループットを最大にする方法を
提案した。計算機シミュレーションにより、提案方式が、BER と送信電力に関す
る一定の条件の下、スループットが向上することを示した。第2として、受信機
選択エラーにより生じる特性損失を補償するために、分散アドホックルーティン
グと協調通信を組み合わせた分散アドホック協調ルーティング方法 1 を提案して
いる。また、方法 2 では、競争確率は、中継通信を行なわないで直接通信を行な
う場合の所要送信機転送電力に基づいて定義される。シミュレーション結果によ
り、アドホック協調ルーティング、分散アドホック協調ルーティング方法 1 と分
散アドホック協調ルーティング方法 2 の所要転送電力は、アドホックルーティン
グ、分散アドホックルーティングと分散アドホック協調ルーティング方法 1 の所
要転送電力より低いことを示す。第 3 として、スペクトラム共有ネットワークに
おいて、ホップ距離の x 軸投影の距離を拡張し、ホップ数を最小化するマルチホ
ップルートを検索するマルチホップ協調ルーティング(MCR)を提案する。第 4
として、周波数リソース不足の問題を解消するためのコグニティブ無線
(CR:Cognitive Radio)において、ライセンスを持つ PU(Primary User)の未
使用領域を検出し、二次利用者である SU(Second User)がその帯域を使用する。
本研究では、集中制御による周波数管理を必要とせず、かつ帯域の一部をサイド
情報として用いずに、PU が SU の用いている帯域を使用し始めた場合に、SU に
よる CP(Cyclic Prefix)を用いた PU の自律的検出法を検討する。ここでは、
PU は変調方式として OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)を用
いることを前提とし、SU は、OFDM の特徴である周期性を利用して、CP と有
効シンボルの相関を求め、相関が高 いものを同期候補とする。第 5 として、
OFDMA システムにおけるブロードキャストに関する研究を行なった。本研究は、
今後のブロードバンド移動通信技術の発展を担う、OFDMA を用いたシステムに
おけるブロードキャスト時のキューイングモデルに焦点を当て、高効率な周波数
利用と良好な QoS を提供するキュー方式を提案している。
アドホックネットワーク、センサネットワークに関する研究としては、第 1 と
して、アドホックネットワークにおいて、ネットワーク符号化の適用を考慮した
経 路 切 替 え を 行 な う ル ー チ ン グ プ ロ ト コ ル の 研 究 を 行 な っ た 。 Distributed
Coding-Aware Routing(DCAR)の複数経路が存在する場合でも、既存経路は固
定されたままとなり、スループットが低下する問題を解決した。経路情報と Route
Request(RREQ)をもとに、ネットワーク符号化の適用条件を考慮した経路の
発見を行ない、経路切替えを行なうことで、既存経路に依存せずにネットワーク
符号化を適用し、スループットを向上するルーチングプロトコルを提案した。ま
た、計算機シミュレーションにより、提案方式が従来方式と比較して、複数経路
が存在する場合において、スループットが向上することを示した。第 1 として、
無線センサネットワークにおいて、セルローテーションを用いることにより、到
達遅延および電力消費を低減するグリッドルーティングプロトコルを研究した。
これは、セル分割方法において、2 分割、4 分割、6 分割した場合のセル間隔の拡
大を試みた。各方式においてセル間隔が拡大されれば、active ノードを各セルに
配置した状態でパケット送信におけるリレーノード数が低減し、パケット到達遅
延および電力消費効率が改善される。計算機シミュレーション NS-2 による特性
評価を行ない、各提案方式が CBRPM よりもパケット到達遅延、消費電気量を低
減することを示した。第3として、無線センサネットワークにおいて、階段状ス
リープを用いた非同期受信者始動型 MAC プロトコルモバイルアドホックネット
ワークにおける効率的なクラスタリング方式を研究した。これは、バッテリー駆
動型の無線センサネットワーク(WSNs)において、省電力を達成する非同期受
信者始動型 MAC プロトコルでは、複数ノードが同時にパケットを保持した場合
のアイドルリスニング時間の増加による、パケットの到達率、遅延時間、および、
電力効率の劣化の問題を解決するものである。
新しいレーダに関する研究として、第 1 としては、放送波を用いたバイスタテ
ィックレーダにおける MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いた移
動目標検出法を検討した。提案方式は受信処理のみで、遅延プロファイルの幅を
相互相関により算出したものより改善するものである。さらに、MUSIC 法を遅
延時間算出に用いた場合、従来では固定目標からの散乱と移動目標からの散乱が
区別できなかったが、提案方式では、移動目標に起因する遅延が生じさせる位相
回転について、帯域内の周波数成分間の相関を低減させることにより、固定目標
のみを抽出し、移動目標と固定目標の類別を実現している。第 2 として、デジタ
ル放送波を用いたバイスタティックレーダにおける MSN アルゴリズムに基づく
目標検出法を検討した。それは、直交周波数多重方式(OFDM)の地上デジタル
テレビジョン放送信号を用いるバイスタティックレーダにおいて、不要波の遅延
時間に関する情報を全く必要としない目標検出法であり、この方法は、MSN ア
ルゴリズムに基づき、特定の遅延時間をもつ信号成分に対して、信号対干渉雑音
比(SINR)を最大にする方法を採用する。第 3 としては、MIMO レーダにおけ
る最適な直交符号の設計として、遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)
および、焼きなまし法(SA:Simulated Annealing)を組み合わせたハイブリッド
GA 及び個体間距離を考慮した交叉個体の選択による多層直交符号探索アルゴリ
ズムを提案した。
アクセス技術の高度化と無線技術との連携の検討としては、第 1 に高度ダイバ
ーシチ技術として、OFDM 信号の分数間隔サンプリングによるダイバーシチ受信
特性を検討した。特に、サンプリング点選択の計算量削減法を提案した。第 2 と
して、時変動チャネルにおけるサンプリング点選択として、サブキャリア間干渉
を最小化するようにサンプリング点を選択する方法を検討した。第 3 として、分
数間隔サンプリングを用いた MIMO 受信機の実験的評価を行なった。大容量の
通信システムを実現するためには、Multiple-Input Multiple-Output(MIMO)
技術の利用が不可欠である。IEEE802.11n に準拠した信号を用いて、分数間隔サ
ンプリング受信方式を用いた MIMO システムの特性を、シールドルーム内のオ
フィス環境において測定した。第 4 として、分数間隔サンプリングを用いたマル
チユーザ MIMO システムを開発した。これは、分数間隔サンプリングによる
MIMO システムを複数ユーザシステムに適用したものであり、送信側は、複数の
アンテナからすべてのユーザの信号を送信する。受信側のサンプル点を増加する
ことによって、通信路の選択肢が増加し、結果として、システム全体の容量が増
加する。第 5 として、屋内通信路における FS-OFDM プリコーディング送信パス
ダイバーシチ技術の検討を行なった。これは、屋内通信路における OFDM シス
テムのプリコーディング送信パスダイバーシチ技術を提案するものである。また、
ダイレクトコンバージョン型 OFDM 受信機における信号歪みのディジタル補正
法を検討した。
また、P2P ネットワークのアプリケーションの研究としては、ブロック収集効
率を改善するためにアップロード実績を用いてピアの利用帯域を増加させる、
P2P ファイル共有手法 UR-CAS を提案する。ただし、ピアが十分に帯域を利用
できていない原因は、ピア性能によって異なる。本研究では、CAS をベースとす
ることで、ブロックのレアリティ問題を考慮しつつ、アップロード実績を用いる
ことで、ピアの利用帯域を増加させる P2P ファイル共有手法 UR-CAS を提案し
ている。UR-CAS では、アップロード実績の受け渡しを行なうことで、各性能の
ピアが帯域を十分に利用できていない問題に対処する。低性能ピアは、他ピアか
ら実績を受け取ることで、必須実績数による制約を回避できる。一方、高性能ピ
アは、他ピアにアップロード実績を渡す見返りとして、ブロックを優先的に入手
できるようにすることで、利用できる帯域量を増加させることが可能となる。
光ネットワークの研究としては、動的マルチキャストルーティングとしては、
波長多重を用いたフォトニックネットワークにおいて、動的なマルチキャストセ
ッションを実現する際に、ノード間の接続率に関する指標を用いることにより、
セッションの変更が生じても適切な経路・波長選択ができるだけ高い確率で維持
できるルーチング・波長割り当て方式を提案した。また、エネルギーエフィシエ
ントネットワークとしては、Green of IT 技術として研究している MiDoRi ネッ
トワークについて述べる。MiDoRi ネットワークでは、ネットワーク全体でのト
ラヒック状況に基づき、ネットワークのトポロジーを自動最適化するものである。
そして、自己組織化を行ない、エネルギーが最も少なくなるように構成させる、
MiDoRi を提案する。最適化の計算としては、存在するリンクを 1 つ 1 つ off に
してみて、そのトポロジーで最適ルートを仮想的に再計算し、最も混在している
リンクの使用率が最小となるトポロジーを探すものがある。理想的なネットワー
クをエネルギーの点で考えると、すべての加入者を、光によって、レイヤの低い
信号のままアグリゲーションして、データセンタ(サービスクラウド)に転送す
る提案がある。サービスクラウドでは、レイヤ 3 のフォワーディングを行ない、
目的としている加入者にフォワードする。アグリゲーションルータは、いわば、
光の加入者系の超大規模、最長遠化とも考えられる。このアグリゲーションネッ
トワークは、D.Colle の述べている〔A〕の効果で、ルータ 12 段と比べて、格段
に LowPower 化される。サービスクラウド中の大規模ルータは、トラヒックに応
じて規格を変更できるものが望ましいが、加入者ルータを複数持つ場合と比べ、
大きな集線効果と、Ticker らが述べている〔B〕のルータの規模の 2/3 乗でパワ
ーが削減できる効果で LowPower 化される。エネルギーのコントロールに ICT
の使う技術としての EVNO(Energy Virtual Network Operator)の中では、ス
マートグリッド自身の構成は、ブラックボックス化して考える。マイクログリッ
ドでは、プールに例えられて、給電や自然エネルギーによる配電は、ちょうどプ
ールに水を入れる行為となり、クーラーや EV へのチャージは、プールから水が
流れ出ることを意味する。ネットワークでは、プールの水位を一定とするために、
制御を行なっている。EVNO は、このプールを仮想的に複数に分けて使う。PLZT
光スイッチを用いたアクセスネットワークとしては、慶應義塾大学山中研究室と
米国のベンチャ企業と共同で開発した 10nsPLZT 光スイッチを光アクセスシス
テムへ適用することで、通信距離および収容者数を大幅に増加する新たなアクテ
ィブ型アクセスシステムの研究を行なう。試作システムを用いた、プロトコルの
検証結果を報告する。そして、クラウド型のネットワークの研究も行なった。ま
た平行して、その制御網、及びパス設定技術を研究した。ハードウェア技術とし
ては、スイッチングハブ用の FPGA の開発、リコンフィギュラブルシステムの研
究開発、実時間ネットワークセンシングの研究を行なった。
音源の分離技術に関しては、従来法同様のマイク間特徴量に加えて、音声の特
性を考慮した分離システムを提案した。その特性の 1 つが調波構造であり、もう
1 つが時間連続性である。調波構造は、音声の、特に母音、母音に類似した音声
のもつ構造である。そのため、干渉音や実験環境の影響を受けにくい。また時間
連続性とは、一般的に、時間フレーム間において、遅延量やスペクトル情報は保
存されるという概念である。この特性を用いて分離マスクを生成する。可視光に
よる位置推定は、可視光通信(VLC: Visible Light Communication)システムに
基づく位置推定法について研究した。VLC 受信機に 6 軸センサを装備し、その受
信機を用いた位置推定法を提案し、物理層シミュレーションモデルを示した。ま
た、理論解析に基づき、その特性を評価した。
(5) 企業に対する連携強化活動
今年度は、アドバイザーの指導に基づき、広く企業のメンバーとの連携交流を
図った。具体的には、企業のメンバーを入れた技術討論会として企業訪問セミナ
ー各 1 回を開催した。企業訪問セミナーは、博士のキャリアパスとしても最重要
な、富士通研究所において、企業の実際の研究者との技術討論を図った。
企業訪問セミナー
富士通研究所技術討論会
日時:
6 月 21 日
時間:
9:30~12:20
月曜日
ディスカッションアイテム:
ポスター発表者とタイトル一覧 G-COE 研究員(博士課程学生)
1. Bouk, SafdarHussain(笹瀬研究室) “Gateway Discovery Algorithm based on
Multiple QoS Path Parameters between Mobile Node and Gateway Node”
2. 浅田 順之 (笹瀬研究室) “Moving Target Detection for the Bistatic Radar
Using Digital Broadcasting Signals”
3. Sann Maw, Maung ( 笹 瀬 研 究 室 ) “Resource Allocation in the MIMO
Wireless Communication System”
4. 林 宜徳 (笹瀬研究室) “Cooperative Routing in Multihop Cognitive
Networks”
5. Sertthin, Chinnapat (大槻研究室) “Eco-Friendly Indoor Positioning
System”
6. Norharyati, Binti Harum (笹瀬研究室) “Peak to Average Power Ratio in
TD-SCDMA using Joint Transmission Technique”
7. 西村
晴輝 (大槻研究室) “屋内通信路における FS-OFDM プリコーディング
送信パスダイバーシチ技術の特性,” “Performance of Precoded Transmit
Path Diversity in FS-OFDM on Indoor Channels”
8. 菊田 洸 (山中研究室) “Scalable Point-to-Multipoint Path Signaling with
GMPLS RSVP-TE”
9. 竹下 秀俊 (山中研究室) “Service Cloud and Optical Aggregation network
for Future Network”
10. 徳橋 和将 (山中研究室) “Active Optical access Network (ActiON) using
PLZT High-speed Optical Switch”
11. 高 山 (山中研究室) “A Novel Traffic Engineering Method using On-chip
Diorama Network on a Dynamically Reconfigurable Processor”
12. 遠藤 伶 (重野研究室) “P2P Hybrid-Search based on Diffusion Rate for
Objects with varying Request Rate”
(7) ワークショップ報告国際連携実施状況
ワークショップ(1)
1st TELECOM Paris Tech - Keio University joint Workshop
日
時:2010 年 9 月 29 日
場
所:TELECOM Paris Tech 大学(フランス)
概
要:本ワークショップでは Energy-aware ネットワーク、次世代ネットワー
クアーキテクチャ、光通信ネットワーク、次世代モバイルネットワーク
アーキテクチャおよび無線、モバイル技術に関する研究成果を互いに発
表し、ワークショップを行った。今回は TELECOM Paris Tech 大学と
の初めてのワークショップであるため、GCOE の RA と先方の研究グル
ー プ 員 と が 相 互 に 講 演 す る 形 式 で 行 っ た . 上 述 の よ う に 、 Maurice
Gagnaire 先生が率いる TELECOM Paris Tech の研究分野は、光通信に
おける波長割当てや WDM 技術、通信プロトコルから多重方式 OFDM、
携帯システム等のモバイル、無線ネットワークに関する研究まで通信ネ
ットワーク全般にわたる。GCOE P3 の RA の研究分野も同様に多岐に
わたる.ワークショップにおいては、講演後の個別議論も活発に行われ、
第二回ワークショップの可能性や学生間の交流、インターンシップ等も
期待できる有意義なものであった。また、Prof. Yves Jaouen のご厚意に
より、大学の光デバイスおよびシステムのラボの見学も行った。
ワークショップ(2)
ミラノ工科大学-慶應大学ワークショップ
日
時:2010 年 10 月 1 日
場
所:ミラノ工科大学(イタリア)Politecnico di Milano Dipartimento di
Elettronica e Informazinone Electrical (room Aipha)
概
要:グリ-ンネットワークアーキテクチャ、ネットワークアプリケーション、
ワイヤレス通信の 3 セッションに分けてワークショップを行った。今回
はミラノ工科大学との初めてのワークショップであるため、慶應大学か
ら GCOE の目的と概要について説明後、GCOE の RA と先方の研究グ
ループと相互にプレゼンテーションを実施し、Q&A を実施する形式を
採った。
先方の研究グループは Achille Pattavina 先生が率いる、オプティカル
ネットワーク、インターコネクションネッワーク理論、トラヒックモデ
リングについて研究しているグループである。該研究グループでは、バ
ックボーネットワークの省電力化、オプティカルネットワーク設計理論
に関する研究や、ネットワークのパーフォーマンス改善、無線アクセス
ネットワークに関する研究などが行われており、6人の Ph.D.学生がワ
ークショップに参加した。
また、相互のプレゼンテーション実施後、付属の光関係の研究所
(DEI-PoliCom Area Risorse Umane e Organizzatione)と研究室の見
学を行った。
ワークショップ(3)
ゲント大学-慶應大学ワークショップ
日
時:2010 年 10 月 4 日
場
所:ゲント大学(ベルギー)
概
要:今回は次世代ネットワークアーキテクチャ、次世代モバイルネットワー
クアーキテクチャおよび無線、モバイル技術についてワークショップを
行った。今回はゲント大学との三回目のワークショップであるため、
GCOE の RA と先方の研究グループ員とが相互に講演する形式を採った.
先方の研究グループは Piet Demeester 先生が率いる、光ネットワーク
グループ(Optical Comunication Networs)である.光ネットワークグル
ープではアクセスネットワーク PON やネットワークの省電力化などの
光ネットワークのアーキテクチャ設計およびプロトコルに関する研究
や、WDN ネットワーク、次世代バックボーンネットワークのアーキテ
クチャに関する研究などが行われており、6人の Ph.D.学生が研究に従
事している.
以下に、今回の先方の講演から 1 点だけ抜粋する.
i) Energy-saving potential of optical bypass ( 発 表 者 : Ward van
Heddeghem)
ネットワーク中のトラヒックの増加に伴い、ネットワークのエネルギー
消費も増加していく.本研究では、光バイパス(optical bypass)技術がコ
アネットワークの消費電力を削減する可能性を検討し、コアネットワー
クの消費電力消費モデルを提案する。Pan-European コアネットワーク
に近いシミュレーションを行った。結果により、光バイパス技術を利用
することによって、コアネットワークの消費電力が半減した。
また、相互の講演の後、ゲント大学の見学、実験室、研究室の見学を行
った。
II
研究成果
(1) ブロードバンドモバイルワイヤレス通信に関する研究成果
(1) MIMO チャネルにおける特異値分解を用いた適応偏波制御法
QoS ベースの MIMO システムにおいて、変調方式と偏波面を適応的に制御し
て、システムスループットを最大にする方法を提案した。この方法ではチャネル
行列を特異値分解した結果を基に通信に使用する偏波を決定し、併せてビット割
り当てを行う。計算機シミュレーションにより特性を評価した結果、提案方式が、
BER と送信電力に関する一定の条件の下、スループットが向上することを示した。
MIMO channel will be selected by selection algorithm
based on channel condition and available RF chains.
Rx2hr
Cross Polarized
Uni Polarized
Proposed
8
Output data
d
10
Mux & RF chain
Input data
Demux & RF Chain
Tx2hr
Rx
Capacity
Rx1Vt
Tx1Vt
Tx
12
6
4
Vt
3
Tx
Feedback link for
antenna selection
and bit loading
図1
Vt
3
Rx
Channel estimation and
computations for antenna selection
and bit loading with SVD
提案における MIMO 通信モデル
2
0
5
10
15
20
SNR [dB]
図2
提案方式による通信容量
(2) クラスタを基づいたマルチホップネットワークにおける分散アドホック
協調ルーティング
クラスタを構成したマルチホップネットワークにおいて、最適ルーティングの
実装の複雑さを低減するために、アドホックルーティングが提案されている。し
かし、この複雑さを低減することより特性損失を生じる。さらに、従来の競争的
なシングルリレー選択法を用いて、アドホックルーティングを実装すると、受信
機選択エラーにより特性損失が生じる。この論文では、複雑さの低減により生じ
る特性損失を補償するために、アドホックルーティングと協調通信を組み合わせ
たアドホック協調ルーティングという方法を提案している。また、従来の競争的
なシングルリレー選択法を用いて、アドホックルーティングを実装した分散アド
ホックルーティングという方法を提案している。その後、受信機選択エラーによ
25
り生じる特性損失を補償するために、分散アドホックルーティングと協調通信を
組み合わせた分散アドホック協調ルーティング方法1を提案している。そして、
分散アドホック協調ルーティング方法 1 の問題点を説明し、分散アドホック協調
ルーティング方法2を提案している。分散アドホック協調ルーティング方法2で
は、競争確率は、中継通信を行わないで直接通信を行う場合の所要送信機転送電
力に基づいて定義される。すなわち、低い所要送信機転送電力を持っているノー
ドに高い競争確率を与える。それに、衝突が生じていない Acknowledgement
(ACK)パケットから、送信機が送信機とその ACK パケットを返したノード間の
チャネルゲインを推定する。そして、送信機は送信機のノード間のチャネルゲイ
ンが最大となるノードを受信機として、また、次に大きいノードをリレーとして
選択する。
シミュレーション結果により、アドホック協調ルーティング、分散アドホック
協調ルーティング方法 1 と分散アドホック協調ルーティング方法 2 の所要転送電
力はアドホックルーティング、分散アドホックルーティングと分散アドホック協
調ルーティング方法 1 の所要転送電力より低いことを示す。しかしながら、分散
アドホック協調ルーティング方法1と分散アドホック協調ルーティング方法 2 で
得られた所要転送電力の低減は複雑さの増加とのトレードオフである。
図3
提案方式の概要
(3) スペクトラム共有ネットワークにおけるホップ数を最小化するマルチホ
ップ協調ルーティングアルゴリズム
スペクトラム共有ネットワークにおいて、ホップ距離の x 軸投影の距離を拡張
し、ホップ数を最小化するマルチホップルートを検索するマルチホップ協調ルー
ティング(MCR)を提案する。最後のホップを除いて、各ホップのコグニティブリ
レーとコグニティブ受信機は、次の手順で選択される。まず、コグニティブ送信
機から最寄りのコグニティブノードをコグニティブリレーとして選択し、コグニ
ティブ宛先ノードをコグニティブ受信機として設定する。そして、もしこの選択
されたコグニティブリレーを用いることが QoS 要求を満たさなければ、QoS 要
求を満たせるコグニティブ受信機候補から、コグニティブリレーの x 座標の差が
最大となるコグニティブノードをコグニティブ受信機として選択する。最後のホ
ップでは、コグニティブリレーが使用可能
な場合は協調通信が行われ、使用不可能な
場合は直接通信が行われる。シミュレーシ
ョン結果より、MCR は従来方式を比較し
て、平均ホップ数を削減し、平均エンドツ
ーエンドの信頼性、平均エンドツーエンド
のスループットおよび所要平均送信電力に
ついて、従来方式より優れていることを示
す。
図4
提案方式の概要
(4) OFDM ベースのコグニティブ無線における SU による Cyclic Prefix を用
いた PU の自律的検出法
周波数リソース不足の問題を解消するために、コグニティブ無線(CR:Cognitive
Radio) が注目されている。CR ではライセンスを持つ PU(Primary User) の未
使用帯域を検出し、二次利用者である SU(Secondary User) がその帯域を使用す
る。従来は PU と SU の干渉を防ぐために、集中制御局が周波数管理を行ってい
る。しかし、セルサイズの縮小化に伴う集中制御局のインフラ整備によるコスト
の増加、及び CR を用いる際に柔軟性に欠けるなどの問題がある。そこで本研究
では、集中制御による周波数管理を必要とせず、かつ帯域の一部をサイド情報と
して用いずに、PU が SU の用いている帯域を使用しはじめた場合に、SU によ
る CP(Cyclic Prefix) を用いた PU の自律的検出法を検討する。ここでは、PU は
変調方式として OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex) を用いるこ
とを前提とし、SU は、OFDM の特徴である周期性を利用して CP と有効シン
ボルの相関を求め、相関が高いものを同期候補とする。そして、この同期候補の
OFDM シンボルから、周波数領域においてパイロットサブキャリアを取り出し、
既 知 の PU の パ イ ロ ッ ト サ ブ キ ャ リ ア と 成 分 ご と に 乗 算 し 、 そ の 結 果 を
IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)することにより、PU の検出を行う。計
算機シミュレーションにより検出率を評価し、検討方法の有効性示す。
図5
検出率
(5)
図6
FA(False Alarm)率
OFDMA システムにおけるブロードキャストに関する研究
近年、移動通信技術とその利用環境はめざましい発展を遂げており、多様化す
るマルチメディア情報を様々な通信環境において高速に送受信できる要求がます
ます高まっている。 特に、マルチパス伝搬路での高速伝送に適した直交周波数分
割多重(OFDM)変調方式や直交周波数分割多元接続方式(OFDMA)を基盤として、
高スループット、 低遅延、 ユーザの要求に応じた柔軟な品質制御を図る研究開
発が精力的になされている。 ブロードバンド移動通信ではチャネルの伝搬状況が
大きく変動する。
本研究は、 今後のブロードバンド移動通信技術の発展を担う、OFDMA を用
いたシステムにおけるブロードキャスト時のキューイングモデルに焦点を当て、
高効率な周波数利用と良好な QoS を提供するキュー方式を提案している。
(2) アドホックネットワーク、センサーネットワークに関する研究成果
(1) アドホックネットワークにおいてネットワーク符号化の適用を考慮した
経路切替を行うルーチングプロトコル
Distributed Coding-Aware Routing (DCAR)は、ネットワーク符号化が適用可
能か否かを考慮した経路選択を行うことでスループットを向上するルーチングプ
ロトコルである。しかし、DCAR では新たに構築する経路に対してのみネットワ
ーク符号化を考慮しているため、複数経路が存在する場合でも既存経路は固定さ
れたままとなり、スループットは低下する。そこで、経路情報と Route Request
(RREQ)をもとに、ネットワーク符号化の適用条件を考慮した経路の発見を行い、
経路切替を行うことで、既存経路に依存せずにネットワーク符号化を適用し、ス
ループットを向上するルーチングプロトコルを提案した。また、計算機シミュレ
ーションにより、提案方式が従来方式と比較して複数経路が存在する場合におい
てスループットを向上することを示した。
(1)
図7
ネットワーク符号化適用のための経路切替
図 8 スループット特性
(2) 無線センサネットワークにおいてセルローテーションを用いることによ
り到達遅延および電力消費を低減するグリッドルーティングプロトコル
無線センサネットワークにおけるグリッドルーティングプロトコルは、ネット
ワークエリアを格子状のセルに区切ることで、動き回るシンクに即座にデータを
届ける必要のあるアプリケーションにおいて、パケット到達遅延と制御パケット
数を低減することができる。なかでも、CBRPM(Cluster-Based Routing Protocol
for supporting Mobile sinks)は、セル内で active 状態となるノードを選択するこ
とで経路選択の効率を高め、消費電力量を低減する。しかしこの方式は、セルを
細かく区切るため、シンクまでのリレーノード数が増大し遅延が大きくなる問題
がある。本研究では、セルを複数の sub セルに分割することで active 状態となる
ノードの存在範囲を限定し、active 状態となるノードを巡回させるセルローテー
ションを導入することにより、セルをより広い間隔で区切ることが可能となる方
式を提案する。提案方式では、セル分割方法において、2 分割、4 分割、6 分割し
た場合のセル間隔の拡大を試みた。各方式においてセル間隔を拡大されれば、
active ノードを各セルに配置した状態でパケット送信におけるリレーノード数が
低減し、パケット到達遅延および電力消費効率が改善される。計算機シミュレー
ション NS-2 による特性評価を行い、各提案方式が CBRPM よりもパケット到達
遅延、消費電力量を低減することを示した。
(3) 無線センサネットワークにおいて階段状スリープを用いた非同期受信者
始動型 MAC プロトコルモバイルアドホックネットワークにおける効率的な
クラスタリング方式
バッテリー駆動型の無線センサネットワーク(WSNs)において、省電力を達成
する非同期受信者始動型 MAC プロトコルでは、複数ノードが同時にパケットを
保持した場合のアイドルリスニング時間の増加による、パケット到達率、遅延時
間、および、電力効率の劣化が問題になる。本研究では、前ホップのノードより
もスリープ時間を一定割合短くする、すなわち等比級数的にスリープ時間を短縮
していく階段状スリープを用いることで、各ノードのアイドルリスニング時間を
低減し、特性向上を図る方式を提案する。本方式では、スリープ時間が等比級数
で与えられるため、アイドルリスニング時間の上限を定式化できる特徴があり、
各ノードのアイドルリスニング時間を低減可能であることを導くことができる。
さらに、シンクは常にソースからのホップ数を取得できるため、ホップ数の変
更にあわせて効率的に変化率を更新することが期待できる。計算機シミュレーシ
ョンを用いた特性評価により、提案方式は RI-MAC と比較して、パケット到達率、
遅延時間、および電力効率について優れた特徴を得られることを示した。
Energy Efficiency(packets/J)
40
RI-MAC
Sk-1=20
Sk-1=30
Sk-1=40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
35
Number of Targets
図9
消費電力の改善
(3) MIMO 方式の研究開発
(1)
ダウンリンクマルチユーザ MIMO システムにおけるグラムシュミット直
交化を用いた直交ビームフォーミング法
MIMO (Multiple-Input Multiple-Output) ダウンリンクシステムにおいて、
複 数 の ユ ー ザ に 対 し て 同 じ 周 波 数 帯 域 を 用 い て 伝 送 可 能 な SDMA
(Space-Division Multiple-Access )を用いることで、 システムは高いキャパシ
ティを得ることができる。マルチユーザ利得により、 SDMA のキャパシティ
は TDMA (Time-Division Multiple-Access)と 比 較 し て 大 き く 改 善 さ れ る 。
SDMA の最適なキャパシティ特性は DPC ( Dirty Paper Coding ) を用いた場
合に得られるが、 完全な CSI ( Channel State Information ) と計算の複雑さ
から実装が困難であることが報告されている。
ユーザからのフィードバック量の制約を考慮した、 様々な SDMA のシステ
ムが近年報告されている。基地局におけるアンテナ数よりも多くのアクティブ
なユーザが存在する場合、ユーザのスケジューリングアルゴリズムは、 マル
チユーザプレコーディング技術を考慮しながら設計する必要がある。従来法で
ある OSDMA (Opportunistic SDMA) アルゴリズムでは、 各ユーザのフィー
ドバック量は、 ビームフォーミングベクトルを直交なベクトルセットに制限
することにより、 数ビットまで抑えている。OSDMA において、 基地局は直
交なビームベクトルセットをブロードキャストし、 各ユーザは最も整合性の
高いビームとその SINR (Signal-to-Interference-plus-Noise Ratio) の情報を
基地局にフィードバックする。基地局はフィードバックされた情報をもとにユ
ーザをスケジューリングする。多くのユーザが存在する場合、 OSDMA はユ
ーザが多いほど高いキャパシティを達成することができる。一方で多くのユー
ザが存在しない場合、 OSDMA のキャパシティは高くならない。
直 交 ビ ー ム フ ォ ー ミ ン グ と 制 限 フ ィ ー ド バ ッ ク を 用 い た LF-OSDMA
(OSDMA with linited feedback) が報告されている。LF-OSDMA において、 各
ユーザは正規化されたチャネルベクトルを、 複数の直交ベクトルセットから
なるコードブックと比較することで、所望ビームフォーミングベクトルを選択
する。そして選択したベクトルのインデックスを、 それを用いて計算された
受信 SINR 値と共に基地局にフィードバックする。ユーザのフィードバック情
報を用いて、 基地局は最大のキャパシティが得られるユーザをスケジューリ
ングする。
LF-OSDMA は高いキャパシティを得られることが報告されている。しかし、
LF-OSDMA は同じサブコードブックに属しているビームフォーミングベクト
ルしか同時にスケジューリングすることができず、そのベクトルを所望とする
ユーザを常に最大数 (送信アンテナ数) スケジューリングすることはできない。
特にユーザが少ない環境において、送信アンテナ数による多重化利得が十分に
得られなくなり、LF-OSDMA のキャパシティは大きく減少する。またサブコ
ードブック数を増加させた場合も、ユーザが少ない環境において、キャパシテ
ィ特性が劣化する傾向がある。
本研究では、MIMO ダウンリンクチャネルにおいて高いキャパシティ利得を
達成する新しい直交ビームフォーミング法を提案した。提案法では、事前に選
択したユーザに対するビームフォーミングベクトルと互いに直交なベクトル
セットを、グラムシュミット直交化を用いることにより生成する。事前に選択
したユーザに対して高いキャパシティを維持しながら、互いに干渉しないビー
ムフォーミングベクトルに他のユーザをスケジューリングすることにより、
送信アンテナ数による多重化利得を獲得し、システム全体として高いキャパシ
ティを達成する。基地局は事前に複数のユーザを選択し、選択されたユーザは
完全な CSI を基地局にフィードバックする。フィードバックされたユーザの中
から、基地局は最もチャネル利得が大きいユーザを選択する。完全な CSI を用
いて、基地局は選択したユーザへのビームフォーミングベクトルを生成し、グ
ラムシュミット直交化を用いることにより、ユニタリ直交ベクトルセットを生
成する。一方、各ユーザは基地局から選択されたユーザの完全な CSI の通知情
報を受け取り、基地局と同様の処理を行うことにより、基地局が生成したもの
と同様のユニタリ直交ベクトルセットを生成する。各ユーザは生成したビーム
フォーミングベクトルセットから所望のビームを選択し、量子化した SINR 値
とともに基地局にフィードバックする。フィードバックユーザの中から、基地
局はキャパシティが最大となるようにユーザをスケジューリングする。
次にシステムモデルについて説明する。基地局と K 人のアクティブユーザか
らなる、ダウンリンクマルチユーザシステムを想定する。基地局は Nt 本の送
信アンテナを持ち、各ユーザは 1 本の受信アンテナを持つと仮定する。基地局
は重みベクトルをスケジューリングされた各ユーザに割り当て、ビームフォー
ミングを行うことにより複数ユーザのデータストリームを分離することがで
きる。この重みベクトルはユニタリ直交ベクトルである。また、スケジューリ
ングしたユーザに対しては等電力の割り当てを仮定する。また、各ユーザのチ
ャネル推定は完全と仮定する。
次に、グラムシュミット直交化を用いた新しい直交ビームフォーミング法を
提案する.提案法は以下のように Step I から Step IV より成り立っている.
Step I
基地局は S ユーザ選択し、CSI 推定に用いるパイロット信号をユーザに送信す
る. ここで、 S は基地局に選択されたユーザ数を表している.
Step II
基地局に選択されたユーザはそれぞれ完全な CSI を基地局にフィードバックす
る.フィードバックされたユーザの中から、 基地局はチャネル利得の最も高
いユーザを選択する.ユーザ u からの完全な CSI を用いて、 基地局は直交な
ユニタリ行列を生成する.
Step III
基地局はユーザに重みベクトルの情報を通知する.
Step IV
基地局からの重みベクトルの通知情報と、 グラムシュミット法を用いること
により、 各ユーザは基地局が生成したものと等しいユニタリ直交行列を生成
することができる.ユニタリベクトルを得るためのアルゴリズムは、 基地局
とユーザにおいて既知のものとする.各ユーザは量子化された SINR をフィー
ドバックし、 基地局はキャパシティを最大化するようにユーザをスケジュー
リングする.
提案法・LF-OSDMA・拡張 LF-OSDMA のフィードバック量・レイテンシ・キ
ャパシティを比較する。
図 10 に ユーザ数に対するフィードバック量の比較を示す。送信アンテナ数
は Nt=4、完全な CSI のフィードバック量は QCSI = 6 bits、SINR の量子化数
は QSINR = 3 bits とする。図より、提案法は拡張 LF-OSDMA よりもスケジュ
ーリングに必要なフィードバック量が少なく、LF-OSDMA とほぼ等しいこと
がわかる。また、提案法とサブコードブック数 M =1 を用いた LF-OSDMA の
フィードバック量の差が一定であることがわかる。この差は基地局に事前に選
択されたユーザからの完全 CSI のフィードバック量に相当する。この結果から
サブコードブック数 M=1 を用いた LF-OSDMA と比較して、提案法のフィー
ドバック増加量は大きくないと言うことができる。User = 100 など、 ユーザ
が多く存在する場合、 提案法は拡張 LF-OSDMA や M=8 を用いた LF-OSDMA
よりも大幅に少ないフィードバック量で達成できることがわかる。
図 10
ユーザ数に対するフィードバック量特性
次に、提案法・LF-OSDMA・拡張 LF-OSDMA のレイテンシを比較する。表 1
に各システムのレイテンシを示す。
BI
は基地局が送信したパイロット信号をセ
ル内のユーザが受信するまでのレイテンシを表し、
ク情報が基地局に受信されるまでのレイテンシ、
ユーザに受信されるまでのレイテンシ、そして
ALL
ad
はユーザのフィードバッ
は基地局からの通知情報が
SELECT
は基地局に選択されたユ
ーザのフィードバック情報が基地局に受信されるまでのレイテンシをそれぞれ表
す。表 1 より拡張 LF-OSDMA と提案法が、LF-OSDMA と比較して長いレイテ
ンシを要することがわかる。実際のシステムの各レイテンシを考慮すると、
LF-OSDMA と比較して提案法のレイテンシの増加量は大きくないことがわかる。
図 11 にユーザ数の変化に対する提案法・LF-OSDMA・拡張 LF-OSDMA のキ
ャパシティ特性の比較を示す。送信アンテナ数は Nt = 4、SNR は 5 dB であり、
LF-OSDMA と拡張 LF-OSDMA のサブコードブック数は M= 1 ,8 とする。 また、
提案法において基地局が事前に選択するユーザ数は S=1 とする。図より、いずれ
のユーザ数においても、 提案法は LF-OSDMA と拡張 LF-OSDMA と比較して大
きなキャパシティ特性の改善があることがわかる。また LF-OSDMA のキャパシ
ティ特性は、ユーザが少ない環境では、サブコードブックサイズの増加とともに
減少することがわかる。一方、拡張 LF-OSDMA は、ユーザが少ない環境では、
LF-OSDMA のキャパシティ特性を大きく改善している。しかし、ユーザが多い
環境では、 LF-OSDMA と拡張 LF-OSDMA のキャパシティ特性の差はほとんど
ない。User = 20 の場合、M=1 を用いた LF-OSDMA と比較して、提案法はキャ
パシティを 2 bps/Hz 改善し、M=8 を用いた拡張 LF-OSDMA と比較して、1
bps/Hz 改善している。User = 100 の場合、M=8 を用いた LF-OSDMA と拡張
LF-OSDMA と比較して、提案法は 0.5 bps/Hz のキャパシティ特性の改善が得ら
れる。
以上のことから、提案法は LF-ODMA と拡張 LF-OSDMA と比較して、大幅な
フィードバック量とレイテンシの増加なしに、高いキャパシティ特性の改善が得
られることがわかる。
図 11
ユーザ数に対する提案法・LF-OSDMA・拡張 LF-OSDMA のキャパシ
ティ特性
図 12 に基地局が事前に選択するユーザ数を変化させたときの、ユーザ数に対
する提案法キャパシティ特性を示す。 送信アンテナ数は Nt = 4、SNR は 5 dB
である。 基地局が事前に選択するユーザ数を増やすと、フィードバック情報量は
増すものの、キャパシティ特性は改善することが分かる。基地局が事前に選択す
るユーザ数は、許容フィードバック情報量と所要キャパシティ特性によって設定
する必要がある。
図 12
基地局が事前に選択するユーザ数を変化させたときの、ユーザ数に対す
る提案法のキャパシティ特性
(4) レーダに関する研究成果
(1) 放送波を用いたバイスタティックレーダにおける MUSIC 法を用いた移
動目標検出法
放送波を用いたバイスタティックレーダでは、下図のように目標の位置標定の
ために送信局から直接伝搬する直接波と目標に散乱されて受信局に到達する散乱
波の到達遅延時間を計測している。遅延時間は相互相関により算出されるのが一
般的であるが、この遅延プロファイルの幅は信号帯域幅で制限される。分解能を
向上するためには広帯域の信号を使用する必要があるが、放送波を利用するレー
ダにおいては、信号諸元を制御することはできない。本研究では、放送波を用い
たバイスタティックレーダにおいて MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法
を用いた移動目標検出法を提案する。提案方式は受信処理のみで遅延プロファイ
ルの幅を相互相関により算出したものより改善するものである。さらに MUSIC
法を遅延時間算出に用いた場合、従来では固定目標からの散乱と移動目標からの
散乱が区別できなかったが、提案方式では、移動目標に起因する遅延が生じさせ
る位相回転について、帯域内の周波数成分間の相関を低減させることにより固定
目標のみを抽出し、移動目標と固定目標の類別を実現している。帯域幅 5.57MHz
の地上デジタルテレビジョン放送波を模擬した信号を用いて、計算機シミュレー
ションにより特性を評価した。その結果、1 つの固定目標と 2 つの移動目標が信
号帯域幅の制限を超えて近接する場合は、図に示すように従来法の Rxx では固定
目標と移動目標の区別がつかなく 3 目標が検出されたのに対して、提案法の結果
である Rzz では固定目標を抑圧しつつ、0.1μs 離隔し、それぞれの SNR が-10dB
である 2 つの移動目標を分離できていることを示した。
scattered signal
g (t )
R2
R1
R
transmitter
図 13
direct signal
f (t )
receiver
バイスタティックレーダの構成
MUSIC SPECTRUM (arb. unit)
5
target
10
P MUA(t)
4
10
s(t)
1000
P MUB(t)
100
10
1
0.1
9
9.5
図 14
10
delay(
)
10.5
2 目標の分離性能
(2) デジタル放送波を用いたバイスタティックレーダにおける MSN アルゴ
リズムを基づく目標検出法
バイスタティックレーダにおいては、送信局から受信局へ直接伝搬する直接波
やそのマルチパス成分が所望信号に干渉するため、これを抑圧することが重要で
ある。この不要波を抑圧する方法として、従来では不要波のレプリカを作成しこ
れを減算する方法が用いられていた。しかし、この方法は不要波の遅延時間を正
確に求める必要があった。本研究では、直交周波数多重方式(OFDM)の地上デジ
タルテレビジョン放送信号を用いるバイスタティックレーダにおいて、不要波の
遅延時間に関する情報を全く必要としない目標検出法を提案する。この方法は、
MSN アルゴリズムに基づき、特定の遅延時間をもつ信号成分に対して信号対干
渉雑音比(SINR)を最大にする方法を採用する。アレー信号処理において、ビーム
の指向方位を走査するのと同様に、目標位置に関連する物理量である遅延時間に
対して受信機の最大感度を走査する。この走査は、周波数領域の受信信号に荷重
を乗算することによって行われる。著者らは SINR を最大にする荷重の算出方法
を明らかにし、計算機シミュレーションにより提案方法を評価した。その結果、
従来法と比較して同等の性能が得られることを示した。
図は、ドップラ周波数が 250Hz である典型的な航空機を模した目標を探知した
ものであり、遅延時間に関する情報を用いずに、従来方法とほぼ同等の性能が得
られている。
11
conventional
proposed
no suppression
Intensity (dB)
20
0
-20
-40
-60
0
10
図 15
20
30
40
50
delay(μs)
60
70
80
提案方式の検出性能
(3) MIMO レーダにおける最適な直交符号の設計
MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダシステムにおいて、遺伝的アル
ゴ リ ズ ム (GA:Genetic Algorithm) お よ び 焼 き な ま し 法 (SA:Simulated
Annealing)を組み合わせたハイブリッド GA 及び個体間距離を考慮した交叉個体
の選択による多層直交符号探索アルゴリズムを提案した。
提案方式では、まず GA で探索を行い、ある一定世代の間、解が変わらなかった
場合において SA に移行し、大域的に局所解がある多相直交符号において GA の
長所である大域探索、SA の長所である局所探索をお互いに補完しあうことで効
率的に行う。また、近い符号系列同士は高い相関を持つため従来方式では探索の
際に無駄な解を生成してしまうが、提案方式では GA において個体間のハミング
距離を遠い順に順位づけし、その順位を重みとして交叉させる個体を選択する確
率に含めることで探索範囲を限定し、かつ解の多様性を維持することが可能とな
り、効果的に探索することができる。計算機シミュレーションを用いた特性評価
により、従来の符号系列と比較し、良い相関特性を持った符号系列を探索するこ
とで提案方式の有効性を示す。
(5) アクセス技術高度化と無線技術との連携の検討
(1)
高度ダイバーシチ技術
(a) 分数間隔サンプリング受信におけるサンプリング点選択
アクセス技術の高度化にはリアルタイムな無線アクセスの実現が必要になる。そ
のためには、ダイバーシチを用いた通信品質の改善が有効である。そこで OFDM
信号の分数間隔サンプリングによるダイバーシチ受信特性を検討した。特にサン
プリング点選択の計算量削減法を提案した。
図 16 は分数間隔サンプリング受信におけるサンプル点選択について説明して
いる。パケットのプリアンブル信号を通常の 8 倍でサンプルし、そのうちの 2 点
を選択する。信号を復調するのではないので、このときの DFT サイズを縮小す
る.図2は誤り率とサンプル点選択の際の DFT サイズの関係である。サンプル
点選択の際の DFT サイズを 64 から 16 に小さくし総計算量を 1/12 にしても、特
性が変わらないことを示した。
拡大
⑥ ⑦ ⑧①② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③
この中から2個選ぶ
図 16
分数間隔サンプリング受信におけるサンプル点選択
図 17
誤り率とサンプル点選択の際の DFT サイズの関係
(b) 時変動チャネルにおけるサンプリング点選択
移動体通信においては Doppler シフトの影響により受信信号が周波数軸上でシ
フトする。図 18 のように周波数シフトは OFDM のサブキャリア間の干渉となる。
そこで(ア)の検討を拡張し、サブキャリア間干渉を最小化するようにサンプリ
ング点を選択する。
図 19 に誤り率特性とビット長で正規化した Doppler シフトの関係を示す。従
来方式(C)に対して提案方式 P)は Doppler シフトの値にかかわらずビット誤
り率を改選する。また分数間隔サンプリングの次数( G)を 2 にするとパスダイ
バーシチ効果によってビット誤り率が低下することを示した。
power
移動
周波数
k
図 18
Doppler シフトの影響
-2
C G=1 15dB
P G=1 15dB
C G=2 15dB
P G=2 15dB
BER
10
-3
10
-4
10 -2
10
10
-1
0
10
1
10
FdTB
図 19
Doppler シフトの影響
(c) 分数間隔サンプリングを用いた MIMO 受信機の実験的評価
大 容 量 の 通 信 シ ス テ ム を 実 現 す る に は Multiple-Input Multiple-Output
(MIMO)技術の利用が不可欠である。IEEE802.11n に準拠した信号を用いて、
分数間隔サンプリング受信方式を用いた MIMO システムの特性を図 20 のような
シールドルーム内のオフィス環境において測定した。図 21 に見通し外環境にお
けるビット誤り率特性を示した。分数間隔サンプリング次数 2( G=2)のときに
約 2~2.5dB 特性改善することが明らかになった。
図 20
0
10
-1
10
-2
10
-3
10
-4
10
-5
G=1(scheme1)(conventional)
G=1(scheme2)
G=2(scheme1)
G=2(scheme2)
BER
10
時実験環境(シールドルーム)
0
図 21
5
10
15
Eb/N0[dB]
20
25
見通し外環境における誤り率特性
(d) 分数間隔サンプリングを用いたマルチユーザ MIMO システム
分数間隔サンプリングによる MIMO システムを図 22 のような複数ユーザシス
テムに適用した。送信側は複数のアンテナからすべてのユーザの信号を送信する。
受信側のサンプル点を増加することによって通信路の選択肢が増加し、結果とし
てシステム全体の容量が増加する。
図 23 はシステム全体の容量とユーザ数の関係を示している。分数間隔サンプ
リングを用いるとシステムの容量が増加する。サンプル点選択を最適化
(optimal)すると容量はより増加するがそのための計算量が増加する.また準
最適(suboptimal)なサンプル点選択でも特性を改善することができる.
s1[l ]
1
OFDM
MODULATOR
T1[l ]
p(t)

2
ˆ 1[l ]
H
1

user 1
M r1
Mt
s 2 [l ]
OFDM
MODULATOR
2
T [l ]
ˆ 2 [l ]
H
1
p(t)
M
user 2
2
r
s K [l ]
TK[l]
OFDM
MODULATOR
ˆ K [l ]
H
p(t)
1
M rK
図 22
user K
分数間隔サンプリングを用いたマルチユーザ MIMO システム
Sum-rate Capacity(bits/s/Hz)
25
23
21
G=1, 20dB
G=2 suboptimal, 20dB
G=2 optimal, 20dB
G=1, 10dB
G=2 suboptimal, 10dB
G=2 optimal, 10dB
19
17
15
13
11
9
7
5
1
2
3
Number of total users
図 23
4
システム容量とユーザ数の関係
(e) 屋内通信路における FS-OFDM プリコーディング送信パスダイバーシチ技術
小型端末の信号処理の負担を軽減するため、マルチパスダイバーシチ合成の信
号処理を受信機ではなく送信機で行う prerake 技術が UWB や CDMA 通信シス
テムにおいて提案されている。一方 OFDM システムでは prerake は検討されて
お ら ず 、 一 本 の ア ン テ ナ 素 子 で パ ス ダ イ バ ー シ チ を 達 成 す る Fractional
Sampling が検討されている。しかしこの方式は受信信号を高いレートでオーバ
ーサンプリングする必要があり、小型受信端末に高速な A/D 変換器が要求される。
そこで屋内通信路における OFDM システムにおけるプリコーディング送信パス
ダイバーシチ技術を提案した。提案方式のシステムブロックを図 24 に示す。図
25 より、本方式は従来方式(prerake)よりも受信特性を改善することができた。
図 24 分数間隔サンプリング
図 25 ビット誤り特性
(f) の方式では送信機側でプリコーディングすることにより、受信機側でダイバ
ーシチ合成することなくパスダイバーシチを達成できる方式を提案した。しかし、
この方式はチャネルが時間的に変動している場合を想定していない。実際の無線
通信環境では無線ノードや障害物等が移動することによりチャネルが時間変動す
る。そのため、OFDM システムではサブキャリア間で干渉しあうキャリア間干渉
(ICI)が生じるという問題がある。そこで本研究は送信機側で用いるプリコーディ
ング行列を最小二乗法で求める。図 26 は受信機が速度 6m/s で移動したときのチ
ャネルを想定してビット誤り率をシミュレーションした結果である。従来方式は
プリコーディングなしと比べて、プリコーディングによるパスダイバーシチ利得
を得られているが、ICI の影響により受信特性が劣化している。一方提案方式は、
ICI による干渉の抑制とパスダイバーシチの両方を達成できている。
10
0
NO CODING
CONV
PRO
BER
10
10
10
10
-1
-2
-3
-4
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
Eb/N0 [dB]
図 26
(2)
ビット誤り率
ダイレクトコンバージョン型 OFDM 受信機における信号歪みのディジタ
ル補正法
(a)DCオフセット及び周波数オフセット存在下における周波数軸IQインバランス
推定法
無線通信技術においてアクセス空間の高度化を実現するには、ダウンリンクの
受信側、つまり移動端末側ではできるだけ低コストかつ低消費電力で受信機を構
成する必要がある。図 27 に示したダイレクトコンバージョン型 OFDM 受信機は
端末の柔軟性、廉価性や電力消費軽減の面で優れているが DC オフセット、周波
数オフセット及び IQ インバランスの影響を受ける。そこで DC オフセット及び
周波数オフセット存在下における微分フィルタを用いた IQ インバランス推定法
を検討した。しかし以前検討した時間軸 IQ インバランス推定方式では、周波数
オフセットが小さいときに推定精度が劣化する。そこでこの問題を解決するため、
周波数軸IQインバランス推定法を提案した。提案方式ではIQインバランスは図28
に示されるような周波数軸上に配置されたパイロット信号を用いて推定される。
計算機シミュレーション結果より、推定精度及びBit Error Rate(BER)は周波数
オフセットが小さいときにも特性が改善されることを示した。
図27 ダイレクトコンバージョン型受信機
図28 周波数軸におけるパイロット信号配置
図29 BER特性(64QAM)
(b)サブキャリア間干渉除去型パイロット信号を用いた IQ インバランス推定法
周波数オフセット存在下のIQインバランス推定において、前記した(ア)の周波
数軸IQインバランス推定法では、周波数オフセットによる干渉を除去できていな
かったためIQインバランスのゲイン差と位相差の推定誤差が十分に改善されて
いなかった。そこで周波数オフセットによるサブキャリア間干渉を除去するよう
に組み合わせたパイロット信号挿入を提案し、干渉を軽減する。提案方法では図
30に示されるようにパイロット信号の隣接シンボルに逆相の信号を挿入し、2本
のシンボルを足し合わせる。これにより干渉成分が軽減し、位相差における推定
値が改善した。
図 30 パイロットによる干渉成分の軽減
図 31 システムモデル
Normalized MSE of  Estimation vs 
2
10
Normarized MSE of  Estimation
Normarized MSE of  Estimation
1
10
0
10
-1
10
EB/No=10[dB]
EB/No=15[dB]
EB/No=20[dB]
-2
10
-3
10
-2
-1
10
10

10
2
10
1
10
0
10
-1
Normalized MSE of  Estimation vs 
EB/No=10[dB]
EB/No=15[dB]
EB/No=20[dB]
10
-2
10
-3
10
-2
10
-1

図 32 ゲイン差の推定誤差特性
(3)
無線電力伝送技術
電子機器を手軽に充電できる方式として無線電力伝送が注目をあつめている。2006
年11月にMIT(Massachusetts Institute of Technology)において、電界・磁界共振を
利用した無線電力伝送技術の実現が発表された。原理としては電場または磁場のどち
らか一方のみを共振させて電力を伝送するという技術であり、電力を送信できる距離
は数十cm、送信できる電力は数百W以下、周波数は数~数百MHz、電力の利用効率
は50~60%であるため、少し離れて使えるワイヤレス給電として注目を集めている。
この無線電力伝送システムは、図33に示されるような送受信アンテナである微少ルー
プアンテナの等価回路から、 データ通信を行う際にはBPF(BandPass Filter)として
見なすことができる。そこでこの無線電力伝送システムにおけるデータ通信を考慮し、
帯域と変調方式について検討した。計算機シミュレーションにおいて、一次変調とし
て64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)変調を用い、2次変調として限られた
帯域幅を最大限に利用し、複雑な等化器を用いずに劣悪な伝送路状況に簡単に適応で
きるOFDM変調方式を用いてBER特性を算出した。SパラメータのS21特性から時間
軸のインパルス応答を求め、OFDMのガードインターバルにおさまるように帯域を設
定することで、AWGNの理論曲線にほぼ近い特性が得られた。
図 33 送受信アンテナ
図 34
BER 特性(コイル間距離 20cm)
(6) P2P ファイル共有におけるアップロード実績を用いたピア帯域の効率的
利用
本研究では、ブロック収集効率を上げるためにアップロード実績を用いたピア
の利用帯域を増加させる P2P ファイル共有手法 UR-CAS を提案する。
(1)
研究背景と問題点
P2P ファイル共有では、対等な立場でネットワークに接続するピアの間でファ
イルを分割した断片を相互に交換することで、ファイルを共有する。この断片の
ことをブロックと呼ぶ。ピア間でブロック交換を繰り返し、全ブロックを集めて
元のファイルを復元する。昨年度は、ピアのブロックの収集効率を下げるブロッ
クのレアリティ問題を考慮した P2P ファイル共有手法 CAS を提案した。ブロッ
クのレアリティ問題とは、ネットワークへの普及率が低く入手が困難なブロック
により、ブロック収集効率が下がりファイル共有が効率的に行えなくなる問題で
ある。CAS では、所持ブロック数に応じて動的に変化する必須実績数をピアに対
する制約として設けている。ここでの実績とは、ピアのアップロード実績であり、
ピアが他のピアに対して渡したブロック数の履歴である。この履歴には、どのピ
アにどのブロックを渡したのかの情報が含まれている。必須実績数とは、新規ブ
ロックを入手するために他ピアに対して必要なアップロード実績数である。この
CAS を適用することで、ブロックのレアリティ問題へ対処することが可能となっ
た。しかし、CAS にはピアのダウンロード帯域を十分に利用できsてない問題が
存在する。ピアの帯域が余っているのに、それを利用できてないことはピアにと
ってブロック収集効率が下がる原因となる。そこで、ブロック収集効率を改善す
るためにアップロード実績を用いてピアの利用帯域を増加させる P2P ファイル
共有手法 UR-CAS を提案する。ピアが十分に帯域を利用できてない原因は、ピア
性能によって異なる。以下で、利用可能な帯域量が少ない低性能ピアと、利用可
能な帯域量が多い高性能ピアそれぞれの原因について図 35 を用いて説明する。
(a)低性能ピアの原因
低性能ピアが帯域を十分に利用できない原因は、必須実績数により新規ブロッ
クの入手が制約されてしまうからである。ピアが他ピアへブロック提供するため
には、他ピアが所持していないブロックを予め入手しておく必要がある。そのた
め、ブロックの入手量がブロック提供量(アップロード実績数)より多くなる場
合が多い。その場合、低性能ピアはアップロード実績数が足りず、新規ブロック
入手のための必須実績数を満たせないために帯域の制限を受けてしまう。そして、
帯域が十分に利用できないピアはブロック入手の効率が下がってしまう。その様
子は図35の低性能ピアの入手ブロック数が2000を越えた辺りに表れている。この
実線で囲われている部分では、入手ブロック数が2000未満の時に比べて時間辺り
の入手ブロック上昇数が減っており、傾きが緩やかになっているのが分かる。
入手ブロック数
3000
2500
2000
CAS 高 性 能
1500
CAS 低 性 能
1000
500
0
0
500
1000
1500
ネ ット ワー ク参 加 時 間 (Ro und)
図35
既存手法CASのブロック入手の様子
2000
(b)高性能ピアの原因
高性能ピアが帯域を十分に利用できない原因は、ピア同士でブロック提供帯域
を奪い合い競合が起こっているからである。P2Pファイル共有では、ピアがブロ
ックを入手するために他のピアがブロックを提供する必要がある。ネットワーク
内におけるピアのブロック提供帯域量は有限であるため、ピアが入手可能なブロ
ック量も有限となる。CASでは所持ブロック数が少ない際のブロック入手制約を
緩めており、ネットワークに参加したばかりの状況なら低性能ピアでも利用でき
るダウンロード帯域量が多い。その結果、性能に関わらず多くのブロックを入手
しようとするピア間で、ピアのブロック提供帯域を奪い合い競合が起こる。この
様子は図35の高性能ピア・低性能ピアの入手ブロック数が2000までの間に表れて
いる。この点線で囲われている部分では、高性能ピア・低性能ピアに関わらずブ
ロック入手の様子に差が無いのが分かる。本来、高性能ピアの方が低性能ピアよ
りも利用可能な帯域量が多いはずなので、より多くのブロック入手が可能である。
(2)
提案手法の概要
本研究では、CASをベースとすることでブロックのレアリティ問題を考慮しつ
つ、アップロード実績を用いることでピアの利用帯域を増加させるP2Pファイル
共有手法UR-CASを提案している。UR-CASでは、アップロード実績の受け渡し
を行うことで、各性能のピアが帯域を十分に利用できていない問題に対処する。
低性能ピアは他ピアから実績を受け取ることで、必須実績数による制約を回避で
きる。一方、高性能ピアは他ピアにアップロード実績を渡す見返りとして、ブロ
ックを優先的に入手できるようにすることで利用できる帯域量を増加させること
が可能となる。以下で、アップロード実績の受け渡し方法、他ピアへ渡すアップ
ロード実績数である対価実績数の決定方法について説明する。
(a)アップロード実績の受け渡し方法
アップロード実績の受け渡しは、ブロック要求時の対価実績数情報の追加と、
要求を受けたピアのブロック送信から成り立っている。UR-CASでは、ブロック
交換の際に行う他ピアへのブロック要求に対価実績数の情報を加えている。対価
実績とは、要求したブロックを提供してくれたピアに対して見返りとして渡すア
ップロード実績のことである。この新たな情報付加にともない、ブロック送信は
対価実績数の多いブロック要求から順番に処理するように変更した。これは、ピ
アがファイル復元に必要な必須実績数を早く満たすために合理的に動くならば、
実績を多く入手できる要求から処理するべきだからである。
(b)対価実績数の決定方法
上記の通り、UR-CASではブロック要求の際に対価実績数情報を付加し、他ピ
アに対してブロックを提供して貰えた際に渡せるアップロード実績数を提示して
いる。各ピアが渡せるアップロード実績は有限であり、その中で効率よく提示し
て多くのブロックを優先的に入手していく必要がある。そこで、UR-CASでは要
求に対してブロックを提供して貰えたか否かで対価アップロード実績数の決定法
を変えている。提供して貰えた場合は、前回の値と同数の対価実績数を提示する
ことでアップロード実績数を余分に消費することを回避している。提供して貰え
なかった場合には、ブロック要求数を減らすことで割り当てられる対価実績数の
値を大きくして要求ブロックが入手できる可能性を高めている。
(3)
シミュレーション評価
UR-CASのブロック収集効率の有用性を示すため、P2Pファイル共有ソフト
BitTorrentで一般的に用いられているファイル共有手法TFT、既存手法CASとの
比較評価を行った。評価項目は、平均ファイル復元時間、ピアの平均ダウンロー
ド帯域量である。平均ファイル復元時間は、ネットワークにピアが参加してから
ファイルの復元を完了するまでに要する時間の平均である。ピアの平均ダウンロ
ード帯域量は、ピアが単位時間辺りに入手したブロック数の平均で表現している。
入手ブロック数が多いほどダウンロード帯域を多く利用できていることになる。
(ア) 図36に平均ファイル復元時間の比較結果を示す。図36を見ると、UR-CAS
が高性能・低性能なピアともに既存手法TFT、CASよりもファイル復元に要する
時間を短縮できているのが分かる。この結果を見ると、低性能ピアのファイル復
元時間の短縮率の方が高性能ピアよりも大きい。つまり、必須実績数による新規
ブロックの入手制約がファイル復元時間へ与える影響が非常に大きかったことが
平均ファイル復元時間(Round)
分かる。
1200
UR-CAS
1000
CAS
TFT
800
600
400
200
0
高性能
図36
低性能
平均ファイル復元時間の比較
(イ)平均ダウンロード帯域量
図37に平均ダウンロード帯域量の比較結果を示す。図37を見ると、UR-CASが高
性能・低性能なピアともに既存手法TFT、CASよりもブロック入手量が多く、ダ
ウンロード帯域の利用量が増加しているのが分かる。低性能ピアの利用帯域量が
増えたのは、新規ブロックの入手制約であった必須実績数により帯域の利用を制
約されていたピアが、高性能ピアからアップロード実績を受け取れるようになっ
たことで、ブロックの入手制約を受けずに帯域を利用できるようになったからで
ある。高性能ピアの利用帯域量が増えたのは、UR-CASでは効率的に対価実績数
を提示しており、多くのピアがアップロード実績を渡す事で優先的にブロックを
入手できるようになったからである。
時間毎平均ブロック入手数
4.5
UR-CAS
4
CAS
3.5
TFT
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
高性能
図37
低性能
平均ダウンロード帯域量の比較
(7) フォトニックネットワークとスマートネットワーク
(1) 動的マルチキャストルーティングに関する研究成果
波長多重を用いたフォトニックネットワークにおいて、動的なマルチキャス
トセッションを実現する際に、 ノード間の接続率に関する指標を用いることに
より、セッションの変更が生じても適切な経路・波長選択ができるだけ高い確
率で維持できるルーチング・波長割り当て方式を提案している. そして、 計算
機シミュレーションにより、 従来方式に比べて、 低いブロッキング確率で動
的なマルチキャストセッションが実現できることを示している。
8
7.5
7
6.5
6
MinCost,W=8
MinD,W=8
MinCost,W=16
MinD,W=16
5.5
5
0
1
2
3
4
5
Offered load per node (Erlang)
図 38
平均受信サイズと単位ノードあたりのロードの関係
(2) エネルギーエフィシエントネットワーク
環境問題としてだけではなく、サステーナブルな世界を作る上で、エネルギー、
言い換えれば、スマートなネットワークへの移行は必須である。Green by IT、
Green of IT と言われ、通信におけるエネルギーの消費をいかに減らすか、また、
IT 技術をいかに環境に役立てるかが、最大の課題である。
通信ネットワークやシステムの Green 化は、LSI の低電圧化やパワーコントロ
ールのように、部品レベルでの見直し、EEE(Energy Efficient Ethernet)のよ
うに、リンクや PC のパワーセービングといったといったシステムやコンポーネ
ントレベルでの低消費電力が重要なアプローチである。一方、例えばオフィスで
は、帰宅後 PC の電源は off にするが、LAN のネットワークの電源は、入りっぱ
なしである。キャリア通信ネットワーク全体でも同様であり、オペレーションの
技術として、Low Power 運転の必要がある。
他方、スマートグリッドは、Energy の送電技術のみではなく、米国のグリー
ンニューデール政策のように、新たな産業としての側面を見せ始めている。ICT
技術を積極的にエネルギーコントロールに用いて、エネルギーの見える化を図り、
15%~30%以上の省エネが家庭ではできると考えられている。日本でのアプロー
チの多くは、Green エネルギーの開発や普及が中心であり、ICT の技術を使った
ものとしては、HEMS と呼ばれ、家庭内のネットワークをマイクログリッド化さ
せているものが中心である。
本稿では、前者の Green of IT に対しては、Layer2 のネットワークにおいて、
ネットワークのトポロジーをトラヒック状況に基づき、最適に変更し、トラヒッ
クを可能な限りアグリゲーションさせ、未使用リンクを作り、リンクパワーオフ
を図る MiDoRi ネットワーク技術を述べる。また、ネットワーク全体の最適化を
求めて、次世代ネットワークのアーキテクチャの一構成法を提案していく。これ
は、いわば、すべてのトラヒックをレイヤの低いところでアグリゲーションさせ、
データセンタに集め、Layer-3 以上の処理をデータセンタ(クラウド)に集中さ
せることにより、大幅な消費電力削減を行なうものである。
また、後者の Green by IT としては、IT の技術を使った再生可能エネルギーを
含めたエネルギーの最適コントロール技術を検討している。これは、必要なエネ
ルギーを、近隣で、かつ、最も有効な(コストや環境インパクト)エネルギーソ
ースとロジカルにマッチングを行ない、仮想的に送電していると考えて制御する
ものである。それらも、複数の仮想エネルギーネットワークオペレータ(EVNO)
がオーバーレイする形でサービスを提供していく。このことにより、エネルギー
の有効利用や平滑化を行ない、Green 化を行なうものである。
(3) ネットワークのグリーン化
まず、Green of IT 技術として研究している MiDoRi ネットワークについて述
べる。MiDoRi ネットワークでは、ネットワーク全体でのトラヒックの状況に基
づき、ネットワークのトポロジーを自動最適化するものである。図 1 に自己組織
化を行ない、エネルギーが最も少なくなるように構成させる、MiDoRi の概要を
示す。図 39 の左のグラフは、ブロードバンドサービスの 1 日のトラヒック需要
の変化を示しており、30~100%の使用率の変化をもつ。この傾向は、むしろ年々
大きくなっており、つまり、もしもネットワーク使用率にスケールする型でネッ
トワークを運用できたら、30%までネットワークを省エネルギー化できることを
示している。
図 39
自己組織化省エネルギーネットワーク MiDoRi の概要
図 39 に、その時のネットワークの運用イメージを示している。つまり、トラ
ヒックがピーク時には、すべてのリンクを ON にして、いわば、メッシュライク
なトポロジーで運用する。一方、トラヒックが少ない場合は、必要最低限のリン
クを ON にして、いわば、バスやリングライクなトポロジーに変化していること
を示している。単純にリンクの消費エネルギーとしては、60%の削減を目指した。
図 40
MiDoRi における構成要素
図 40 に MiDoRi における構成要素を示す。MiDoRi では、Ⓐ経路計算エンジン
(PCE)Ⓑ制御ネットワーク(GMPLS)及びⒸ電源 on/off 可能スイッチから構
成されている。慶應義塾大学では、すでに、ⒶⒷⒸの基本技術を完成させ、プロ
トタイプシステムを実現し、デモンストレーションを行なった。全体の制御の流
れやネットワーク全体のトラヒック状況は、Ⓒのスイッチでモニターされており、
それをⒷの経路計算エンジン(PCE)に通知する。具体的には、VLAN ごとのト
ラヒックを周期的にモニターしており、PCE では、仮想トポロジーをもっていて、
常時ネットワーク全体のトラヒックを知ることができる。Ⓐの PCE では、オペ
レータによって、設定されている周期ごとに、エネルギーとして最適なネットワ
ークトポロジーを計算する。ネットワークトポロジーは、遅延時間(ホップ数)、
リング使用率、トポロジーのダイバージェンス等の制限要件を考慮しながら計算
される。Ⓐの PCE の計算方法としては、ハードウェアエンジンによる全探索手
法、ヒューリスティックな探索、及び、ILP による最適化について検討した。
図 41 に、ヒューリスティックな最適トポロジー計算手法を示す(例は深さが 1)。
存在するリンクを、1 つ 1 つ off にしてみて、そのトポロジーで最適ルートを仮
想的に再計算し、最も混在しているリンクの使用率が最小となるトポロジーを探
すものである。
図 41
ヒューリスティックな最適トポロジ計算(深さ1)
実際には、深さは計算時間や精度のトレードオフとして決定し、先に述べたホ
ップ数等の QoS 制限下で計算を行なう。リンク使用率の最も大きいのが最小とな
ったトポロジーを、再び、さらに 1 本減らし、計算を繰り返し、リンクをはずせ
ないところまで、トポロジーを簡略化する。もちろん、リンクの最大使用率を制
限することにより、計算した仮想トポロジーは、Ⓑの GMPLS を拡張したプロト
コルで、実際のネットワークを制御する。未使用となったリンクも、同様に、PCE
から GMPLS を使って電源を off とされ、これにより、ネットワークの低消費電
力化が図れる。
図 42
MiDoRi の実験装置
本アーキテクチャは、新規に開発したトラヒックをモニタできる L2 スイッチ
と、市販のアラクサラネットワーク社製 AX6700S を用いて、GMPLS のアダプ
ターを開発して実験を行なった。図 42 に、それらの実験の様子を示す。本実験
結果は、慶應テクノモールでデモすると同時に、各種プレスリリースを行なった。
(4) 新世代ネットワークにつながるネットワークアーキテクチャ
慶應義塾大学では、アクセス系 PON のカップラーのかわりに、新規開発した
PLZT 光スイッチを使った ActiON(Active Optical Network)を開発している。
図 43 に本 ActiON の構成を示した。
図 43
ActiON の構成
本技術を使って、新生代ネットワークをどのように構成するべきであるかの一
構成法を検討した。Didier Colle らの検討によると、あるスループットをスイッ
チングする場合、
〔A〕電気ルータに比べ、光スイッチは 1/500 のエネルギー消費量で済む。
という結論を得ている。これは、レイヤ 3 のフォワーディングよりも波長多重フ
ァイバーリンクを MEMS のスイッチで切り替える方が、エネルギーを消費しな
いという結論である。また、R.S.Tucker らは、電気のルータの消費電力について
研究しており、
〔B〕電気ルータでは、消費エネルギーは、スイッチ容量の 2/3 乗に比例する。
という結論を得ている。これは、10Gbps のルータを 100 台並べるよりも、1Tbps
のルータの方が、省エネルギーとなる可能性があるというものである。
また、図 44 に、インターネットにおけるルータホップ数を示す。
図 44
インターネットにおけるルータホップ数
図 44 にあるように、インターネットにおいては、平均で 12 ホップの中継ルー
タを必要としている。これらを考案して、将来のネットワークアーキテクチャを
図 7 に示す。
図 45
サービスクラウド型光アグリゲーションネットワークの提案
図 45 においては、すべての加入者を、光によって、レイヤの低い信号のまま
アグリゲーションして、データセンタ(サービスクラウド)に転送する。サービ
スクラウドでは、レイヤ 3 のフォワーディングを行ない、目的としている加入者
にフォワードする。アグリゲーションルータは、先に図 43 で示した、いわば、
光の加入者系の超大規模、最長遠化とも考えられる。このアグリゲーションネッ
トワークは、D.Colle の述べている〔A〕の効果で、ルータ 12 段と比べて格段に
Low Power 化される。サービスクラウド中の大規模ルータは、トラヒックに応じ
て、規模を変更できるものが望ましいが、加入者ルータを複数持つ場合と比べ、
大きな集線効果と、Ticker らが述べている〔B〕のルータの規模の 2/3 乗でパワ
ーが削減できる効果で、Low Power 化される。
図 46 に、パワー削減効果を示す。1G インタフェースのポート数を横軸にとり、
消費電力を縦軸とした 2 ケタから 3 ケタのパワーの削減が期待される。
図 46
現状の IP ネットワークと提案ネットワークの消費電力比較
さらに、このアグリゲーション型ネットワークの利点としては、図 47 のよう
に、今まではユーザネットワークに備えなければならなかったファイヤーウォー
ルや、NAT の機能は、レイヤの低いところでクラウドに集線されるために、クラ
ウド内に自由にアダプティブに実装でき(SaaS サービス)、また、共有化も進む。
そのため、これまでこれらのサービス実現のために、Box をユーザが持たなけれ
ばならなかったが、コストダウンが図れる。
図 47
サービスファンクションをクラウド内で自由に実現
以上、光ネットワーク技術を利用して、ネットワークの Green 化に取り組んだ
検討結果を述べた。
(5) 新しいエネルギー制御技術 EVNO
NGN(Next Generation Network)は、アプリケーションインターフェースか
らホームネットワークを含めた各種サービス(実世界)をコントロールすること
ができる方式である。図 48 に、NGN のコンセプトを示す。図にあるように、ホ
ームゲートウェイを通して、家庭内のエアコンや、乾燥機のような家電をコント
ロールすることもできる。われわれは、この NGN のアプリケーションとして、
スマートグリッドの制御技術を検討している。
図 48
NGN のコンセプト
スマートグリッド自身の構成は、本 EVNO のコンセプトの中では、ブラックボ
ックス化して考える。図 49 に、マイクログリッドのネットワークを示す。マイ
クログリッドでは、図のように、プールに例えられて、給電や自然エネルギーに
よる配電は、ちょうどプールに水を入れる行為となり、クーラーや EV へのチャ
ージは、プールから水が流れ出ることを意味する。ネットワークでは、プールの
水位を一定とするために、制御を行なっている。
図 49
マイクログリッドネットワークのコンセプト
EVNO(Energy Virtual Network Operator)は、このプールを仮想的に複数
に分けて使う。
図 50 に、仮想的に送電網を分け、EVNO-1~3 とした例を示す。このように、
実際のマイクログリッドを、複数の仮想的なマイクログリッド EVNO でオーバー
レイさせて使用する。
図 50
EVNO における仮想マイクログリッド
各 EVNO では、図 51 に示すように、電力を必要とする地点に対して、最もメ
トリックの低く(例えば、コストや CO2 インパクト)、また、送電距離の短い地
点での供給源を見つけ、仮想グリッドに流し込む。EVNO は、EVNO に契約して
いるユーザの電源の on/off をすることができる。ガス発電機エネファームを on
にして、グリッド内に売電することができる。ここで、2 点間(もしくは、M:N
点間)のバランスを EVNO は取るが、マイクログリッドの場合、あくまでも仮想
送電であり、実際の電力を送電する必要はない。送電コストは、電力会社(もし
くは電力送電会社)へ支払う。
図 51
EVNO の動作コントロール例
EVNO の応用を図 52 に示す。EVNO は、複数のユーザの電源をコントロール
する権利を有しており、いわば、分散仮想発電所である。そのため、ユーザは、
電源の使用権を EVNO に託して、EVNO は、電力価格が上昇したタイミングで
電力会社等に売却する。つまり、エネルギーの投資信託として機能する。
図 52
EVNO の応用
一方、電力を使用するユーザにしてみれば、複数の EVNO と契約することによ
り、相対取引きによって、その時刻、必要な電力を、最も低価格の EVNO から購
入することも可能となる。ちょうど、通信における、長距離通信業者を選択する
ようなものである。どのようにして、EVNO が Green に貢献するかを考える。
(a) 例えば、EV 等を夜間充電しておき、昼間のエネルギーコストが上がると、
EVNO が売却してくれる。
(エネルギーの平滑化)。個人が EV のバッテリーのエ
ネルギーを消費するよりも、より積極的にバッテリーを利用できる。
(b) 一律に電力を売却するよりも、高く売却できる可能性があり、再生可能エネ
ルギー等への投資が進む。
(例えば、エネファームを介して収入があるので、エネ
ファームを購入するモティベーションとなる)
(c) 地産地消的なオペレーションが、自動的に実現する。
(最短経路エネルギーを
積極的に探す)
(d) 蓄電池への投資が進み、エネルギーの平滑化が進む。
その他にも、新しいビジネスが発生する可能性がある。例えば、乾燥機を使用
する際に、複数の EVNO に対してリバースオークションをして、最安値のエネル
ギーを購入する。この EVNO の制御は、通信技術を応用する、つまり、必要なエ
ネルギーに対しての供給源を見つけるのは、P2P のコンテンツサーチを応用した
技術であり、現状のエネルギー源の状況も、OSPF ライクなプロトコルで実現す
る。現在、マッチングの方法を、プロトコルを含めて研究するとともに、テスト
ベットへの参画を計画している。
(8) PLZT 光スイッチを用いたアクティブ型光アクセスネットワーク
(1) 概要
従来のFTTH(Fiber To The Home)で用いられているPONでは、光スプリッタ
を用いて通信事業者と各家庭との間を結ぶ光ファイバの分岐を行っている。光ス
プリッタは、給電を必要としないため低コストでFTTHのシステムを構築できる。
一方で、光スプリッタにおいて光信号が各家庭向けに分配されることに伴い、信
号の電力が低下するため、通信可能な距離や収容可能な加入者数に制約が生じる
ことが課題である。そこで本研究では慶應義塾大学山中研究室と米国のベンチャ
企業と共同で開発した10nsPLZT光スイッチを光アクセスシステムへ適用するこ
とで、通信距離および収容者数を大幅に増加する新たなアクティブ型アクセスシ
ステムの研究を行う。試作システムを用いた、プロトコルの検証結果を報告する。
(2)
PLZT スイッチシステムの制御方法
図 53 に光スイッチシステムの構成例を示す。リモートからの光スイッチのス
ロット割当制御に関して、SA(Slot Allocation)メッセージによる制御法を考案
する。Slot Allocation Module は RAM と FPGA を搭載し、SA メッセージのスロ
ット割当情報を RAM に書込み、RAM から適切なスイッチングシグナルを Switch
Driver へ送る。光スイッチは、その割当に従ってスイッチの出力を切換える。SA
メッセージには、1 フレーム内の各スロットに対して切換え先を示したビットマ
ップが格納される(図 54)。1 フレーム当たり 256 スロットに対応するために、
PON で制御に使用される 64byte の MPCP(Multi-Point Control Protocol)frame
を 280byte に拡張した。各スロット用に 8bit を割当て、0x00:切換え無し、0x01:
ONU1 に切換え、0x02:ONU2 に切換え…0x80:ONU128 に切換えとなる。ま
た上下の各スイッチ用に、タイプを 0x880C と 0x880D と使い分ける。
(3)
図 53
光スイッチシステムの構成例
図 54
Slot Allocation メッセージ
実験および結果
プロトコルの動作検証を行うため、図 55 に示すプロトタイプの実験系を構築
し、ディスカバリプロセスからデータ送信までの一連の動作を試した。図 55 に
示すプロトコルの流れに沿い、映像ストリーミングサーバからユーザ端末への
UDP(一方向通信)によるストリーミング配信、ユーザ端末によるファイルサー
バからの HTTP(双方向通信)によるコンテンツダウンロードが実験系において
実行でき、提案プロトコルの妥当性を確認することができた。
図 55
図 56
(4)
実証実験系
検証されたメッセージの流れ
結論
本稿では、超高速 PLZT 光スイッチを用いたアクティブ型光アクセス網の実現
を目指し、プロトタイプ実証システム上でアクティブ型プロトコルが動作可能で
あることを報告した。今後は光アクセス網のメトロエリアへの拡大やマルチキャ
スト伝送を考慮したプロトコルの実験等を行っていく。
(9)
(1)
クラウドルータ型アグリゲーションネットワークの研究
概要
インターネットは極めて便利なネットワークであり今や欠くことのできない生活基
盤の一つとなっている。しかし、現在インターネットは下記 3 件の重要課題に苦しん
でいる。そこで本研究ではインターネットの 3 件の重要課題についての解決策につい
てネットワークアーキテクチャの視点から研究を進め、該重要課題を解決するネット
ワークアーキテクチャについて提案し、評価した結果を報告する。
課題 1:ネットワークの消費電力の急激な増大。
課題 2:トラヒックのデータセンタ集中化に非対応のネットワーク構成。
課題 3:ラウンドトリップタイムと遅延時間のジッタが大きい。
(2)
新たなネットワークアークテクチャの提案(課題解決策)
(a) 課題 1:ネットワークの消費電力の急激な増大
→施策 1:シンプルなネットワーク構成(図 57 参照)
・ Service Cloud と Optical Aggregastion Network で構成する。
・ Service Cloud はバックボーン側に設置され、集約設置されたクラウド
ルータとアプリケーションサーバから構成される。
・ Optical Aggregastion Network はユーザと Service Cloud 間を接続す
る多重/分離ネットワークである。多重/分離ネットワークは光技術
を用いたネットワークで、ユーザパケットを光のまま多重/分離して
トランンスペアレントにクラウドルータに転送し、クラウドルータで
のみ Layer3 処理を実行する。
(b) 課題 2:トラヒックのデータセンタ集中化に非対応のネットワーク
→施策 2:バックボーン側へのトラヒック集中化に適したネットワーク構成
(図 57 参照)
(c) 課題3:ラウンドトリップタイムと遅延時間のジッタが大きい。
→施策 3:提案ネットワーク内は 1 ホップ構成。(図 57 参照)
尚、既存ネットワークからの円滑なマイグレーションについても考慮し、既存の
アクセスネットワークを生かすネットワーク構成とした。
図 57
(3)
提案ネットワークアーキテクチャ
図 58
消費電力比較結果
提案アーキテクチャの評価結果
(a) ネットワークの消費電力(図 58 参照)
・ 日本のブロードバンド加入者 1 億契約の条件下で、消費電力を
・ 約 1/23 に削減可能。(既存:提案ネットワーク=22MW:960KW)
・ ルータのクラウドルータへの集約設置による、ルータ総容量の
総容量の削減とルータ容量拡大によるバイト当たりの消費電力の削減
効果が大きい。
・ アグリオゲーションネットワークを光化することで、電気と比較し大
幅(約 2 桁)消費電力削減できている。
・ 既存ネットワークからの円滑なマイグレーションを考慮した為、
電気でのレイヤー2 アグルゲーション装置での消費電力が大部分を占
めている。(10 万加入~1 億加入:約 40%~85%)
(b) トラヒックのデータセンタ集中化対応
・ トラヒックのクラウドルータ集中化構成で、要求条件と合致。
(c) ラウンドトリップタイムと遅延時間のジッタの削減
・ 提案ネットワーク内は 1 ホップ化できることにより、ホップ数を大幅
削減可能(北米ネットワークの比較例では、6 ホップ削減)。
(d) 既存ネットワークからの円滑なマーグレーション
・ 既存のアクセスネットワークを生かすネットワーク構成とすることで、
既存ネットワークと提案ネットワークは共存できるので、円滑なマー
グレーションが可能。
(4)
結論
本稿では、現在インターネットの 3 件の重要課題についての解決策についてネ
ットワークアーキテクチャの視点から研究を進め、該重要課題を解決するネット
ワークアーキテクチャについて提案し、提案ネットワークにより、3 件の重要課
題が解決できることを示した。
(10) 省電力のためのネットワークアーキテクチャの研究
(1) 概要
本研究ではネットワークの消費電力を削減するための新しいネットワークア
ーキテクチャおよび省電力化するトラヒックエンジニアリング手法に関する研究
を行っている。新しいネットワークアーキテキチャでは、ルータやスイッチなど
のネットワーク機器のフォワーティングプレーンとコントロールプレーンを分離
し、コントロールプレーンはクラウド技術によってデータセンタ内の仮想マシン
に構築される。新しいアーキテクチャのメリットが二つある。まず、コントロー
ルプレーンがルータなどのネットワーク機器の消費電力の 10%を占めているた
め、分離することによって、ネットワーク消費電力全体の 10%を削減することが
できる。二番目のメリットは、コントロールプレーンのアップグレードが早い。
そのため、省電力を図るための高度なトラヒックエンジニアリング(TE)手法が容
易に実装し、さらにネットワークの消費電力を削減することが可能である。
(2) 新しいネットワークアーキテクチャ RSVP-TE シグナリングの検討
(a) クラウドコントロールプレン
ルータに二つのメインな機能がある。1 つはコントロール機能である。ルータ
内のコントロールソフトウェアがますます複雑になっている。そのため、本研究
では、コントロール機能をルータに分離し、データセンタ内の仮想マシンに設置
し、リモートにルータのフォワーディングプレーンをコントロールする。
図 59
ネットワークアーキテクチャ
(b) ハードウェア経路計算エンジン
省電力を図るために、リンクコストを変更しながら、最適な経路を探索してい
く。リンクコストの変動により、繰り返しの経路計算が必要になる。そのため、
高速に経路を算出するハードウェア経路計算エンジンを提案し、リコンフギュラ
ブルプロセッサに実装し、プロトタイプを作成した。
図 60
ハードウェアエンジンの構築例
(3) トラヒックエンジニアリング手法
消費電力省電力トラヒックエンジニアリング(TE)手法は、ネットワークの
通信品質を保証しながら、稼動していないネットワーク機器のポートの電源
を off にする。ネットワーク全体の消費電力を削減するためには、ピーク時で
ない状況において、トラヒックを一部の経路に集約させることにより、デー
タのないルータのポートの電源を off にし、ネットワーク全体の消費電力を最
小限にする。
(4) 研究方法
本研究では、ルータやスイッチなどのネットワーク機器のフォワーティン
グプレーンとコントロールプレーンを分離するネットワークアーキテクチャ
を提案する。また、コントロールプレーンはクラウド技術によってデータセ
ンタ内の仮想マシンに構築される。提案の提案ネットワークのコントロール
プレーンのプロトタイプを作成するため、複数台のマシンにルータのコント
ロール機能を実装し、コントロールプレーンの各機能およびコントロールプ
レーンとフォワーティングプレーン間の通信プロトコルについて検証、評価
と分析を行う。さらに、フォワーティングプレーンのプロトタイプも作成し、
ネットワークの消費電力に対して、評価と分析を行う。2010 年度の前半はコ
ントロールプレーンとフォワーティングプレーンの機能を論理的に決め、後
半をプロトタイプの作成に移りたいと考えている。
(5) 結論
本稿では、省電力のための新しいネットワークアーキテクチャを提案し、
プロトタイプを作成した。本実験結果により、ネットワーク消費電力の 20%
~30%を削減可能である。
(11) リンクメトリック多様化に向けたパス確立手法
(1) 概要
本研究では、次世代ネットワークにおけるリンクメトリックが多様化された
際に、メトリック情報の配布を行わずにパス確立を行う手法を提案した。現在、
QoS Aware Routing や Optical Impairment Aware Routing、 そして Energy
Aware Routing など、さまざまなメトリックを考慮したパスの確立の提案が行
われている。今後もネットワークに対するメトリック要求は多様化すると考え
られ、従来のソースルーチングを用いたパス確立手法では、メトリック情報配
布のための通信リソースおよび記憶媒体の制限から困難であると考えられる。
そこで本研究では、メトリック情報を配布せず、シグナリングメッセージをフ
ラッディングすることにより、要求するメトリックを満足させるパスのみを通
過させながらパスを確立する手法を提案した。
(2) アルゴリズムの検討
(a) ループ防止アルゴリズム
本研究では、ルーチングプロトコルでメトリック情報を配布する代わりに、シ
グナリングメッセージをフラッディングさせることにより、経路を探索しながら
パス確立を行う。その際、シグナリングメッセージが閉回路を無限に転送されて
しまう「ループ」現象を防ぐことが非常に重要である。提案するアルゴリズムで
は、1)各ノードが到着したメッセージのソースノード ID と、ソースノードから
のコストを記録し、2)次のノードまでのコストを加算して転送する。3)既に記
録されたコストより大きなコストを持つメッセージは破棄する。という3つの処
理を行うだけで、ループを防ぎながら目的ノードまで転送される。
(b) 最適経路導出アルゴリズム
受信されたメッセージが転送される「次のノード」とは、同じシグナリングの
メッセージを受信したことがない全ての隣接ノードである。すなわち、最初にメ
ッセージを受信した場合、転送したノード以外の全ての隣接ノードへと転送され
る。この手法により、メッセージは確実にソースノードから離れる方向へと進む。
そして、異なる経路を通過したメッセージとそれぞれのメトリックを比較するた
めに、メッセージは全てのノード上で一定時間待機する。この待機時間はそのノ
ードまでのホップ数に比例した時間であり、また各ノードでの処理遅延に関係す
る時間である。この時間待つ事により、見かけ上は遠回りだが、要求するメトリ
ックが最短なパスも発見されやすくなる。
図 61
最適経路導出アルゴリズム
(3) コンピュータシミュレーションによる評価
本研究では、コンピュータシミュレーションを用いて提案アルゴリズムの評
価を行った。シミュレーションでは、ランダム発生されたトポロジ上に、適当
に選ばれた 2 点間にパスを確立させた。提案アルゴリズムはループを発生させ
る事無く、目的地ノードまでの経路を発見し、パスが確立されることが検証さ
れた。またその際のブロック発生率および確立までのセットアップ時間はそれ
ぞれ以下の図のとおりである。
図 62
ブロック発生率
図 63
確立までのセットアップ時間
(4) 結論
本稿では、フラッディングを用いたシグナリングを用いることにより、ルー
チングプロトコルによるメトリック情報の配布を必要としないパス確立手法
が提案された。この提案はコンピュータシミュレーションにより評価され、十
分に適用可能であることが示された。これにより、今後、種類が増大するメト
リックを各ノードで管理せずとも、コネクションに基づくパス確立が可能であ
ることが証明された。
(12) 同期型 TDMA を実現するスイッチングハブの FPGA による実現
インターネットに代表されるマルチホップネットワーク網では、スイッチや
ルータがフレームをその宛先に応じて再送することにより接続性を確保して
いる。一般にスイッチやルータは、出力側の様々なメディアアクセス方式に応
じてフレームを送信するために、フレーム全体をメモリ内に受信してから送信
処理を開始するというストアアンドフォワードを基本として転送処理を行う。
そのため、フレーム長に比例する伝送遅延が不可避である。また出力端には待
ち行列が形成され、これもまた遅延の原因となる。要求帯域に応じて待ち時間
を調整可能する待ち行列管理手法は通信 QoS として研究されているが、要求遅
延が指定可能な手法は少ない。
他方、Fieldbus などに代表される工場内通信では、最大通信遅延を保証するた
めに、メディアアクセス方式として TDMA に基づくタイムスロット割り当て
を行うことで、フレームの衝突を避ける工夫がなされている。その一方で、ネ
ットワーク内にスイッチやルータを設置することは想定されておらず、もしネ
ットワーク内にスイッチを置けば、最大通信遅延は保証されなくなる。これは、
スイッチやルータの受信側と送信側のメディアにおいて、TDMA のタイムスロ
ット割り当てが同期されていないことが原因であり、両者の TDMA 周期の最
小公倍数だけ伝送遅延の確率分布が広がることになるからである(図 64 参照)。
図 64
ホップ数に対する伝送遅延の確率分布(TDMA 周期は 100)
そこで我々は以前から、TDMA を基本とするマルチホップネットワークにおい
て、特定通信用のタイムスロットを同期割り当てする手法 Synchronous TDMA
を提案し、PC ルータを用いた試作やネットワークプロセッサを用いた試作を行
ってきた。今年度は、FPGA を用いることにより、10 マイクロ秒のサンプリング
周期のネットワークベース制御システムを実現するために、マイクロ秒精度での
同期型 TDMA 切り替えの実現を試みた。
(1) S-TDMA の概要
(a)Exclusive Mode
Exclusive Mode は、end-to-end の遅延時間を保証するハードリアルタイム通
信をおこなうモードである。リアルタイム通信を行う際には、それに先立って全
ての中継ノードにタイムスロットの予約を行っておく必要がある。各中継ノード
は、時間駆動でモードを切り替え、予約された時間帯には当該リアルタイム通信
に関わるフレームが流れてくることを前提にダムハブのように最短時間で中継を
行う。
(b) Shared Mode
Shared Mode では、従来の Ethernet スイッチと同様のストアアンドフォワー
ド方式と出力側の待ち行列によりフレームの転送処理を行う。ネットワーク上の
全てのノードは、このスイッチを従来のスイッチングハブとして利用することが
できる。
(c) 時刻同期
TDMA のタイムスロット割当てを同期させるためには、ネットワーク全体で高
精度に時刻を同期させておく必要がある。その上で、同一時間帯に共通のタイム
スロット割当てを行うことにより、最小の通信遅延を実現することが可能になる。
(2) S-TDMA スイッチングハブの設計
本研究では、スイッチングハブ設計用に TB-4V-FX60-PRO-FPGA を利用した。
本ボードは、Xilinx 社製の Virtex4-FPGA (XC4VFX60-10FF1152)を搭載し、さ
らに Vitesse 社製の PHY チップ VSC8211 を 2 ポート有しているため、S-TDMA
スイッチングハブを実装するのに適している。内部クロックは 100MHz である。
また、時刻同期システムの設計用に TB-3S-3400DSP-IMG-FPGA を利用した。
本ボードは、Xilinx 社製 SPARTAN3A-FPGA(XC3SD3400A)を搭載しており、
MARVELL 社製 88E1111PHY チップを 2 ポート有しており、時刻同期プロトコ
ルの検証用に用いることにした。内部クロックは 125MHz である。
(3) Exclusive Mode の設計
(a) MII 直結型 Exclusive Mode
MII(Media Independent Interface)には、受信用の Rx_data と Rx_dv、および
送信用の Tx_data と Tx_en がある。FPGA 内で Tx_data に Rx_data を接続し、
Tx_en に Rx_dv を接続することにより、受信したフレームをニブル単位で送信す
ることができ、最も低遅延で転送処理を行うことが可能である。ただし、Rx_dv
のタイミング仕様に依存して、プリアンブルが短縮される可能性がある。
(b) プリアンブル・カットスルー型 Exclusive Mode
MII 直結方式でプリアンブル長が短縮してしまうことを回避するため、FIFO
を用意し、カットスルー方式で転送を行う。従来のカットスルー方式は MAC ア
ドレスを受信してから出力を開始するが、本方式は受信信号で SFD を検知した
段階で送信を始めており、実質プリアンブル部だけを受信した段階で送信を開始
するため、従来のカットスルー方式に比べると低遅延になる。
(c) IEEE 1588 に準拠した時刻同期方式
時刻同期用のフレームを往復させ、両者の送受信の時刻から時刻同期を行うの
が一般的である。この時の同期精度を高めるために、IEEE 1588 ではフレームの
送受信時刻をハードウェアで正確に計測する方法が標準化されている。本研究で
は、Exclusive Mode のハードウェアモジュール内に送受信の時刻を計測する機能
を実装することにより、マイクロ秒精度で時刻同期できるように設計した。
(4) 性能評価
(a) 転送遅延時間の比較
S-TDMA ス イ ッ チ ン グ ハ ブ の 各 モ ー ド と 市 販 の イ ー サ ネ ッ ト ス イ ッ チ
CG-SW08TXPLX の転送遅延時間を表 2 に示す。フレームサイズは全て 1518 バ
イトとして計測した。Exclusive Mode は、どちらの場合も平均遅延を 1 マイク
ロ秒程度に抑えることができており、またジッタ・標準偏差も1マイクロ秒に満
たない。このことから、ネットワークを介して 10 マイクロ秒のサンプリング周
期で通信する制御システムが実現可能ということができる。
MII Exclusive Mode は最も伝送遅延が短く優れた実装であるが、17%ものフレ
ームロスが観測された。これは MII の仕様として Rx_dv の立ち上がりタイミン
グが明確に規定されていないことに起因しており、予想通り Rx_dv を Tx_en に
直結するだけではプリアンブルの短いフレームが送出されてしまう場合が生じた
のである。これに対し、CT Exclusive Mode ではフレームロスなく転送すること
が可能であったが、MII Exclusive Mode よりも 0.6 マイクロ秒ほど転送遅延が延
びている。
表1
転送遅延時間の比較[マイクロ秒]
Mean Delay
Jitter
Max.
Std.
MII Exclusive Mode
0.5
0.2
0.6
0.1
CT Exclusive Mode
1.17
0.40
1.38
0.08
Shared Mode with PPC
239.38
6.48
243.18
0.16
Shared Mode with FPGA
122.88
0.66
123.28
0.09
CG-SW08TXPLX
123.8
0.3
124.0
0.1
(b) 時刻同期の精度評価
周期 1 秒および 2 秒で 1 万回同期操作を行った際のオフセット時間の度数分布
を図 65 に示す。ここから、0.8 マイクロ秒以内の同期精度で常に同期を実現でき
ていることがわかる。
図 65
同期周期に対するオフセット時間の度数分布
(5) 結論
10 マイクロ秒のサンプリング周期のネットワークベース制御システムを実
現するために、マイクロ秒精度での同期型 TDMA 切り替えの実現を試みた。
転送遅延時間は約 1.2 マイクロ秒、同期精度は約 0.8 マイクロ秒を達成した。
これは、提案する S-TDMA スイッチングハブを用いて 100Mbps のイーサネ
ットをマルチホップ接続したネットワークを介して 2 台の PC を接続した場合、
100 バイト程度のフレームを 10 マイクロ秒周期で送受信することが可能であ
ることを示す結果である。
(13) 相互結合網、リコンフィギャラブルシステムの研究開発
(1) ネットワークオンチップの研究
(a)はじめに
最近の半導体チップの設計費とマスク費用の高騰により、多品種なチップを個
別に開発することが困難になっている。そこで、個別に開発された複数のチップ
をパッケージ内で接続する技術が注目され、特に三次元実装技術の開発が盛んで
ある。中でも誘導結合を用いたワイヤレスチップ接続技術は、GCOE のプロジェ
クトの一つであり、黒田研究室によって、応用に耐える技術として開発が進んで
いる。我々の研究グループでは、この技術を利用して三次元動的リコンフィギャ
ラブルプロセッサ MuCCRA-Cube を開発したが、単純に二次元転送路の延長と
して三次元交信路を使ったため、効率良く利用することが難しかった。そこで、
本年度は、誘導結合を利用して NoC を形成して、デッドロックフリーにパケッ
ト転送を行う方法を提案する。誘導結合用インダクタに本提案のルータを付け加
えれば、チップを重ねるだけでデッドロックフリーの NoC を形成することがで
きる。
(b)提案手法
図 66 に提案手法の概念図を示す。誘導結合の最も簡単な構成は単方向である
ことから、3 次元方向に全てのチップにまたがる NoC を形成するために最も簡単
な方法は、アップリンクとダウンリンクをずらして重ねて、リングを形成する方
法である。NoC は最低このリング構造を持ち、各チップでの 2 次元では任意の形
状を構成できることが要求される。この際デッドロックを防ぎながら任意の形状
の NoC を構成する方法として、垂直バブルフロー制御を提案した。この方式は
以下のルールに基づいてパケットを転送する。ルール 1:リング内のパケット転
送の場合、転送先ルータに 1 パケットの空きバッファがあれば前進できる。ルー
ル 2:リング外のルータおよびコアからリング内へのパケット注入は、転送先ル
ータの入力ポートに 2 パケット分の空きバッファがある場合にのみ転送を許可す
る。ルール 3:リング内からリング外のルータおよびコアへのパケット出力の場
合、転送先ルータの入力ポートに 1 パケット分の空きバッファがある場合のみ転
送を許可する。出力ができない場合は、リング内を直進する。つまりリングをも
う一周回ることになる。
プロセッサとキャッシュから成るマルチコアを想定してシミュレーションした結
果、提案手法は、仮想チャネルを利用する手法に比べて 7.9%から 12.5%性能が高
く、ルータの構造が簡単であることから面積が 33.5%小さいことが明らかになっ
た。
(c)プロトタイプチップ
提案手法の有効性を確認するため、プロトタイプチップ Cube-1 を開発した。
このチップは、垂直バブルフロー制御のルータおよび交信用インダクタに単純な
パケット送受信回路を取り付けたもので、パケット転送の信頼性の確認と、消費
電力の測定を行うことができる。図 67 にこのチップのレイアウトを示す。Cube-1
には比較用に共有バスによる接続方式も実装されており、大型のインダクタはこ
れが目的である。図 68 は、誘導結合部の SPICE によるシミュレーション結果を
示しており、4Gbps を越えるデータ転送を確認している。これにより、200MH
z で 32 ビットフリットから成るパケットを転送することができる。Cube-1 は現
在、積層実装中で、1 月中にも実測が可能となる。
図 68
(2)
図 66
垂直バブルフロー制御
図 67
Cube-1 のレイアウト
誘導結合部の転送のシミュレーション結果
超低消費電力リコンフィギャブルプロセッサ SLD-1 の開発
(a) はじめに
動的リコンフィギャラブルプロセッサの大きな利点はエネルギー効率の良
さである。これは演算に必要なデータパスを直接 PE アレイ上に実現すること
ができ無駄のない処理が可能になるためである。しかし、我々は、開発した動
的リコンフィギャラブルプロセッサ MuCCRA-3 の電力を様々なアプリケーシ
ョン、マッピングで測定した結果、さらなる改善の余地を見出した。すなわち、
演算以外に消費される電力として次の 2 点の削減が可能である。①中間データ
をレジスタに格納し、取り出す電力、またそのためのクロックツリーの電力
②データパスを変更するのに必要な電力。この両者を削減するために、大規模
な組み合わせ回路からなる PE アレイを利用し、柔軟性を保持するために小規
模なプログラマブルな μ コントローラを組み合わせたのが SLD(Silent Large
Datapath)である。
(b)SLD の基本構成
SLD の中心は、図 69 に示すように完全に組み合わせ回路で構成された大規模
な PE アレイである。PE アレイは完全に組み合わせ回路であり、メモリから分
配されたデータ入力によって演算が行われ、一定の遅延時間の後に答が回収さ
れる。この時間を制御することで、演算に必要な組み合わせ遅延のみで演算を
行うことが可能である。また、動的リコンフィギャラブルプロセッサと同じく、
構成情報に基づき、PE アレイ上にデータパスが形成されるが、これはアプリ
ケーションの動作中に変更されい。代わりに PE アレイの下部にはプログラマ
ブルな μ コントローラが装備されており、データ RAM からアレイへ与えるデ
ータの順番、回収と書き込みの順番を柔軟に制御する。このため、データパス
の変更なしにでもかなり広い範囲の演算を行うことが可能である。
さらに、PE アレイは組み合わせ回路であるので、データの分配、収集の時
間に対して演算時間が短い場合は、電圧を下げることで、エネルギー効率を高
めることができる。
(c)SLD-1 の実装
SLD のアーキテクチャの有効性を示すため、表 3 に示す仕様で SLD-1 を実装
した。図 70 にこの実チップ写真を示す。図 71 は画像処理を中心とした様々な
アプリケーションプログラムを PE アレイの電圧を変化させてエネルギー効率
を調べたものである。多くのアプリケーションでは、アレイの電圧が 0.7V-1.0V
の辺でエネルギー効率が最大になっており、最も高い場合は 1.35 GOPS/11mW
に及ぶ。この数値は表 2 に示す、他の最新のアクセラレータを上回る。
図 69
表3
SLD-1 の仕様
図 71
SLD-1 の全体構成
図 70
アプリケーションの実行時間
チップ写真
(14) 実時間ネットワークセンシングの研究
(1)
簡易型多地点雷観測システム構成法
落雷被害を軽減することを目的として、気象予報会社や電力会社などへの雷
観測システムの導入が進んでいる。本研究では、汎用パーソナルコンピュータ
(PC)をベースとした低コストで操作の容易な多地点雷観測システムの実現を
目標として、その構成法の研究を進めている。これまでに、簡易型雷観測シス
テムのプロトタイプを試作し、3 地点での同時観測実験を行い、雷パルス波形
の観測(同期精度 1 秒以内)と位置推定が可能であることを確認してきた。
本年度は、これまでに構築した 3 つの観測地点を利用して雷の同時観測を継
続的に実施するとともに、実観測データから求めた落雷位置の推定精度の検証
を進めた。試作システムによる落雷位置の推定例を図 72 に示す。図中の○印は、
一発の落雷の推定位置(範囲)を示している。位置推定の精度を検証するため
に、雷情報提供会社(株式会社フランクリン・ジャパン)から入手した落雷位
置情報(A)と、試作システムによる推定位置情報(B)とを比較した。同時刻
(タイムスタンプの差が 1.4 秒以内)に検出した同一落雷起因と見られる(A)
と(B)の雷データについて、両者の落雷位置間の距離(推定誤差)を求め、
そのヒストグラムを作成した。図 73 は、試作システムにより 2010 年 9 月 13
日 20 時 30 分~21 時 30 分の時間帯に観測した 326 発の落雷の位置推定誤差(距
離)のヒストグラムであり、中央値(median)は 4.2 km、平均値は 8.2 km で
あった。これは、
(A)の平均位置精度 500m に比べて 1 桁以上精度が悪い。こ
の原因としては、観測用アンテナ周辺のビル(鉄骨など)の影響の補正が不十
分であること、観測地点数が少ないこと、TOA など他の観測方式との複合観測
方式を採用していないこと、などが考えられる。経済性を損なわない範囲で、
これらを改善することが今後の課題である。
60
# of observations
50
80%
40
# of observations : 326
median : 4.21
mean : 8.24
min : 0.138
max : 301.5
30
20
0
0%
0
図 72
落雷位置の推定例
40%
20%
10
(8:30pm - 8:40pm, Sep. 13, 2010)
Observation points: Funabashi and Hachioji
60%
Cumulative observations
100%
cumulative
5
10 15 20 25 30 35 40 45 50
distance error (km)
(Saitama pref. Japan, 8:30pm - 9:30pm, Sep. 13, 2010)
図 73
落雷位置の推定誤差分布の例
(15) 時間フレーム位相差分析による音源分離技術
(1)
研究の背景と課題
音声によるヒューマン-マシンインタフェースとしてマイクロホンアレー
による音源分離や音源定位の研究が進められている。特にブラインド音源分離
はマイクロホンの特性や音源の位置などの事前情報を必要とすることなく、観
測された混合音から元の音声を分離して抽出する技術として様々な手法が提
案されている。
代表的な手法として、「音源同士が互いに独立」という仮定を用いた統計的
な情報処理に基づく独立成分分析 ICA と、短時間フーリエ変換を行って得られ
る時間‐周波数領域の各セルの遅延特徴量を基に到来方向推定を行い、所望音
のみを取り出すバイナリマスクを生成する時間‐周波数マスキング法がある。
本論文では後者を用いるが、その特徴や分離法の詳細について研究を行った。
(2)
従来法の問題点
アレーマイクロフォンで獲得した観測信号の遅延量と減衰比からマスキン
グを行う従来法はいくつか問題点があり、それによって分離性能劣化を引き起
こすことがある。一つの原因は低周波数領域における遅延量推定精度が低いこ
とである。すでに実験によって明らかにしたが、遅延量推定の誤差が低域に集
中している。そのため、音源の到来方向推定が誤ったり、遅延量に基づくクラ
スタリングに問題があったりすことになる。また、低域には音声の主要な成分
が集中しているため低域におけるクラスタリングの失敗は、分離精度に大きく
影響をもたらすことになる。従来の遅延ヒストグラムでは、各セルのうち所望
音のピークに近いものを取り出そうとしても、所望音に近接する干渉音源の成
分まで取り出してきてしまうからである。もう一つは、実環境における反響や
残響音が強い場合である。例えば壁と天井に囲まれた比較的小さな空間で実験
を行うと、音源は直接マイクに到達する音の他に、天井、壁、床に当たって到
達する反響音が存在する。その影響が強ければ強いほどマイクで獲得する遅延
情報の精度低下が生じてしまう。その結果正確な到来方向推定が行えずマスク
生成が困難になる。
これらから従来の到来方向のみに頼る手法には限界があると考えられ、その
問題を解決するための提案法を提案した。これまでの従来法に共通する問題点
はマイク間で生じる遅延、信号レベルのみを用いて分離を行っているため、干
渉音や残響の影響の大きな環境や話者同士の間隔が近い場合などに分離精度
が著しく低下する。
(3)
提案手法
提案法では従来法同様のマイク間特徴量に加えて、音声の特性を考慮した分
離システムとなっている。その特性の一つが調波構造であり、もう一つが時間
連続性である。調波構造は音声の特に母音、母音に類似した音声のもつ構造で
ある。そのため、干渉音や実験環境の影響を受けにくい。また時間連続性とは
一般的に時間フレーム間において遅延量やスペクトル情報は保存されるとい
う概念である。この特性を用いて分離マスクを生成する。手法の概略は図 74
に示すとおりである。
図 74
(4)
提案方式
位相差分布図
位相差分布図とは各マイクへの入力信号 X1(k,l)、X2(k,l)の位相の差をとった
値を縦軸が位相差、横軸が周波数の図上にプロットさせた分布図である。この
とき、各点は主にそれぞれの音声の到来方向で表される直線上に集中し、この
直線の傾きは到来方向を表す遅延量と一致する。次の図(図 75)は連続する 4
フレームにおける位相差分布図を並べたものである。各点の色はそれらがどち
らの音声成分かを表し、理想的に色分けされている。これらの各点がどちらの
音声に属するかを判定することが分離問題と言い換えることができる。
図 75
(5)
時間フレーム位相差分布
時間連続性
本研究で用いた音声特性のひとつである時間連続性の概念について説明す
る。一般的に発話音声は短時間ごとでは声の高さや大きさに大きな変化は生じ
ない。これは時間‐周波数領域においても成り立ち、 スペクトルや遅延量の
情報が前後フレーム間で保存される。このことはフレーム毎の音源数を知るた
めの区間推定やマスク生成を行うときに重要な役割を果たす。
(6)
実験による検証
以上の方式を実装して到来方向推定、分離実験を実行した。実験の様子を下
図(図 76)に示す。
図 76
実験
実験における各パラメータの値
サンプリング周波数:8000Hz、
センサ間隔:4cm、
音速:340m/s、マイクと話者間距離: 1.5m
STFT の解析窓:Hamming 窓
STFT のフレーム長: 1024
STFT の間引き幅 L:512
また、結果の一部として、2 つの音源の角度差が 30 度の場合における分離結果
(WDO 値)を図に示す。
図 77
(7)
音源分離性能(WDO 値)
まとめ
本研究では時間周波数マスキングによる音源分離手法に時間連続性と調波
構造などの音声がもつ特徴を取り入れた新たな手法を提案した。
まず、時間周波数領域における音声固有の規則的な形状である調波構造、 前
後フレーム間における情報の連続性に着目し、それを分離指標の一つとして組
み込むことで従来の到来方向に基づく分離では分離が困難な状況においても
精度よく分離音声を得ることを試みた。本手法では大きく 3 つのステップを提
案した。
1)セル選択による音源定位において、時間周波数領域における全セルの中か
ら遅延量推定精度が高いと思われるセルのみを用いることで話者同士が近接
している場合にも定位をおこなうことが可能になった。
2)区間判定においては時間フレーム毎の位相差分布図内の到来方向ラインへ
の点の集中度を求めることにより、 各フレームでの話者数を推定する。この
とき前後フレームの情報も考慮して推定する。これによりフレームの話者数に
応じたマスクを生成することができる。
3)調波構造を用いたマスク生成では、従来の到来方向に基づいて決定した分
離マスクを遅延量推定精度の高い中・高帯域にのみ適用することで、より干渉
音成分を抑制した初期分離信号を得た。 次に、この初期分離信号から自己相
関関数を計算し、ピークから基本周波数の候補を得た。最後に、観測信号のパ
ワースペクトルのピークとの対応付けに加え、基本周波数の時間変動において
最も連続性が高くなるような候補を選出することで、推定基本周波数を得た。
これらの処理によって、平均で 80% 程度の基本周波数推定率、また単純な
到来方向マスクによる分離音に対する基本周波数推定よりもおよそ 25% の改
善を得た。第二段階として、推定した基本周波数を基に調波構造成分を抽出す
るマスクを作成し、従来の到来方向に基づくマスクとの統合を行った。対数周
波数に比例した帯域幅を持ち、時間変動部分のスペクトルの広がりを考慮した
帯域幅を設定し、それを抽出するように設計した。また、低域で顕著であるち
う調波構造の特性から、1kHz 以下の帯域でのみ調波構造マスクを適用し、そ
れ以上の帯域では到来方向による従来のマスクを適用した.以上の手法によっ
て、従来では分離の難しかった音源角度差の小さな状況においても音源分離を
行うことができた。また、母音の強調された明瞭な分離音声を得ることができ
た。従来の手法においては、実環境への応用を考えけないように選択すること
で量子化誤差に対してロバストな位置合わせをすることができた。
(16) CEMS の実装と評価実験
(1)
CEMS
CEMS は日本の資源エネルギー庁の「省エネルギー技術戦略 2007」の中で、
省エネルギー型情報生活空間創生技術(民生分野)の一つとして取り上げられた
新しい概念であり、実環境では実施されていない。CEMS の実現に向けた課題と
しては以下のようなことが挙げられる。

BEMS、HEMS 及び CGS などが有機的に連携する仕組みづくり

安定的かつ効率的にエネルギーを供給するため、変動する需要量や自然エ
ネルギー発電量などの予測手法

電力需給のリアルタイムの情報及び予測値を考慮した電力需給量の最適
化手法

一つの CEMS が対象とする複数建物を束ねたクラスタの決定方法
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を対象としたエネルギー需給計測シス
テムを構築する。大学施設異なるエネルギー需要特性を持つ学科や学部で構成さ
れ、供給システムも複雑であり CEMS のモデル地域として適している。そこで、
当研究室で提案する分散協調型のデマンドコントロールシステム KNIVES (Keio
Network oriented Intelligent and Versatile Energy saving System) を用いて、
エネルギー需給計測システムを構築した。これにより、SFC の現状の電力エネル
ギーの需給状況の把握を可能にした。
(2)
KNIVES
分散協調型デマンドサプライコントロールシステム KNIVES(Keio university
Network oriented Intelligent and Versatile Energy saving System)は主に以下
のようなコンセプトを持つ。

発電量、 消費電力、環境情報のリアルタイム計測データや需要家が有す
る機器の優先度を利用した DSM

複数の需要家の電力需要、 分散電源の発電量を総合管理

コジェネレーションシステムなどの分散電源の効率運用
KNIVES はルートサーバ、広域サーバ・地域サーバ、クライアント端末で構
成されるツリー構造をしている。各サーバは下位サーバやクライアント端末から
各需要家の消費電力、空調制御を行う室内の環境情報、制御状況などのデータを
受信して管理する。クライアント端末は、需要家に設置され、消費電力・環境情
報の測定を行い、サーバからの制御指示に従って電気機器の制御を行う。以上に
より、分散協調型デマンドサプライコントロールを実現する。
サーバ間およびサーバクライアント間のメッセージ送受信には KNIVESML と
呼ぶ XML ベースのマークアップ言語を用いる。また、各サーバはローカルに SQL
データベースを持っており、データベースには下位サーバやクライアント端末か
ら受信したデータや制御情報などが保存されており、通信時に保存や読み出しが
行われる。
図 78
SFC におけるエネルギー計測システム
CEMS 導入に向けた実環境下での電力や熱エネルギーの需給計測システムを
構築した。
受電設備
電圧:6,600V,契約電力:2,200kW
導入時期:2000 年 7 月
容量:300kW × 2 台
ガスエンジン CGS
(本館)
燃料消費量:73.6m³/h (都市ガス 13A)× 2 台
発電効率(HHV 基準/発電端):0.32
発電効率(HHV 基準/送電端):0.29(冬期),0.28(夏期)
6,600V - 37.9A × 2 台
-4P-50Hz-0.8Pf
熱交換機
温水供給熱量:633kW × 1 台,熱利用効率:0.34(HHV 基準)
温水吸収式冷凍機
冷水供給熱量:422kW × 1 台,熱利用効率:0.22(HHV 基準)
表4
図 80
図 81
図 79
(3)
データ取得結果
構築したシステムによって、測定項目をリアルタイムで実験用サーバのデー
タベースに取得することが可能になった。
図 82
図 83
(4)
履歴情報を利用した需要予測
需要予測を行う日と関連のある過去の需要データを選び、30 分毎に電力需要
量の差分を取ることで各時刻の平均需要変動量を算出して、それを現在の測定
値に足すことで次の時刻の需要量を予測した。消費測定値と異なる手法 1 と 2
による需要予測値を表した図を以下に示す。(図 84, 85)
図 84
図 85
表5
需要予測結果
予測日
サンプル日
予測手法
相関係数
平均誤差率
メディア
2010/4/22
4/19~4/21
手法 1
0.9892
0.0705
センター
(Thu)
(Mon~Wed)
手法 2
0.9876
0.0349
2010/4/22
4/8 and 4/15
手法 1
0.9927
0.0497
(Thu)
(Thu)
手法 2
0.9953
0.0351
セミナー
2010/4/22
4/19~4/21
手法 1
-0.2328
0.8812
ゲストハウス
(Thu)
(Mon~Wed)
手法 2
0.9386
0.1637
全建物合計
2010/4/22
4/8 and 4/15
手法 1
0.9981
0.0414
需要量
(Thu)
(Thu)
手法 2
0.9995
0.187
研究棟・
講義室棟
(A,B,C,D,E)
(5)
クラスタの構築法
最適化アプローチによる定量的なクラスタリング手法の提案を行う.
地域
内に複数の CEMS と多数の建物が存在し、どの CEMS にどの建物を所属させ
るかという問題を考えるため、グルーピング行列を用いた行列表現を行い、そ
の結果を示す。SFC では 2 台のガスコジェネが設置されており、一定運転を行
っている.建物内に設置されたコジェネ等の電源を効率よく使用するためには
需要側も一定負荷である事、すなわち電力使用量のばらつき度合いが少ない事
が望ましい.この考えは SFC についてだけでなく一般に CEMS を構築する際
にも重要である.提案するクラスタリング手法では(5)式の様に任意の目標値を
設定し、実測値との二乗誤差について、30 分間に渡り積算した値を評価する.
目標値としてはコジェネの運転計画に基づいた出力値やデマンド目標値など
を設定する.制約式は(6)式で示すように、一つの建物は一つの CEMS にのみ
所属するとした.この様な方法で(5)式を最小化するよう決定変数行列 X につい
て最適化計算を行う.
G1 t  GM t  
 X 11

H1 t  H N t  
X
 1N
M
M
30
2
  Gi (t )  Gi ' (t )
 X M 1  minimize 
i 1

 

 X MN 
t 0
subject to
 X mn  1 n  N
m 1
900
]
W800
k
[
' 700
2
G
',
Power consumption (Group 1)
Power consumption (Group 2)
Target value (Group 1)
Target value (group 2)
1 600
G
n 500
io
t
p 400
m
u
s 300
n
o
rce 200
w
o 100
P
G1
G2
0
0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00
Time t [hour]
図 86
(6)
まとめ
CEMS を想定した大学キャンパス全体の電力エネルギー需給量のリアルタ
イム計測システムを構築し、需要量予測を行うとともに、需要目標に応じて動
的にクラスタリングを行う手法を提案した。
(17) 可視光通信(VLC)システムに基づく位置推定法に関する研究
本研究では、可視光通信(VLC: Visible Light Communication)システムに基
づく位置推定法について研究した。VLC 受信機に 6 軸センサを装備し、その受
信機と用いた位置推定法を提案し、物理層シミュレーションモデルを示した。
また、理論解析に基づきその特性を評価した。
(1)
Switching Estimated Receiver Position (SwERP)法
SwERP 法は位置推定の際、一つの送信機だけを用い、従来の可視光タグに
基づく位置推定法と比べて、位置推定精度を 80 %以上改善することができる。
推定位置は、チルト角  に応じて、 ERP A と ERP B 間でスイッチングさ
れる。図 87、88 にその様子を示す。


H


90
: FOV/2
: Tilt Angle
ERP A
ERP C
図 87
ERP B H : Vertical Height
SwERP 位置推定法
Hyperbola   90   c
AC CC
BE
AE
CE
BP
AP
BH
CH
Circular   0 Ellipse 0    90   c Parabolar   90   c
図 88
SwERP 位置推定法:チルト角による違い
(2)
物理層シミュレーションモデル
VLC 受信機に 6 軸センサを装備し、その受信機と用いた位置推定法を提案し、
以下に示す物理層シミュレーションモデルを示した。提案物理層シミュレーシ
ョ ン モ デ ル は 、 機 械 学 習 法 の 一 つ で あ る サ ポ ー ト ベ ク タ ー マ シ ー ン (SVM:
support vector machines)と回転行列を用いたものである。提案シミュレーシ
ョンモデルは、従来シミュレーションモデルと比べて、総計算時間を 80 %以上
削減することができる。
(3)
マルチバンド受信信号強度位置指紋法
本研究では、コグニティブ無線のマルチバンド機能を用いた位置推定であるマ
ルチバンド受信信号強度位置指紋法について研究している。本年度は特に、そ
の位置推定法で用いる無線マップデータベースの生成法について研究した。生
成した無線マップデータベースは、どのような端末でも用いることができる。
提案法の有効性を、理論解析、実験、レイトレーシングシミュレーションによ
り確認した。特に、屋内で問題となる見通し外(NLOS:Non-Line-of-Sight)環
境での位置推定で、従来法に比べ 50 %以上、推定精度を改善できることを示し
た。
図 89
(4)
レイトレーシングシミュレーション
Joint Transmission を用いた TDD-CDMA の PAPR 低減法
Joint Transmission (JT)は干渉を低減する有効な方法である。JT は基地局
に干渉除去機能を持つため、端末を簡易に構成することができる。しかし、JT
により送信電力が変わるため、ピーク対平均電力比(PAPR: Peak-to-Average
Power Ratio)が変化してしまい、高効率の非線形増幅器を用いた場合、信号に
非線形ひずみを生じてしまう。図 90 に従来法の PAPR の補累積分布特性を示
す。
図 90
従来 JT 法の PAPR の補累積分布特性
この問題に対し、本研究では、JT 処理の際、全てのパスではなく、規範に従っ
て選択した一部のパスのみを用いることで PAPR を低減しつつ、所要のビット誤
り率特性を達成する方法を提案した。以下に提案 2 手法を示す。

Path Selection I (PSI)
第 1 パスから M 本のパスを選択し、JT に用いる。

Path Selection II (PSII)
閾値よりもパス利得が大きなパスのみを選択し、JT に用いる。閾値は平均搬送波
対干渉電力比(CIR: Carrier to Interference Ratio)に基づき決定する。
図 91 に、提案 2 手法の PAPR 特性を示す。PSI では、選択するパス数が少な
いと PAPR が低くなることがわかる。また、4 本中 3 本のパスを選択する場合、
PSI よりも PSII の方が、PAPR 特性は優れていることがわかる。
図 92 に、提案 2 手法の BER 特性を示す。選択するパス数が多いと BER 特性
が良くなることがわかる。これは PAPR 特性と BER 特性にはトレードオフの関
係があるからである。また、4 本中 1、2 本のパスを選択する場合、PSI よりも
PSII の方が、BER 特性は優れていることがわかる。
図 91
従来 JT 法および提案 JT 法の PAPR の補累積分布特性
図 92
従来 JT 法および提案 JT 法の BER 特性