いかに防ぐか - 藤田保健衛生大学

藤田学園第 11回市民公開講座テキスト
*講座名*
「くらしと健康」
“腰の痛みと腰からくる足の痛み”
―いかに防ぐか、いかに治すか―
*講
師*
『足のしびれる病気―脊柱管狭窄症とは?―』
■志津
直行
(藤田保健衛生大学医学部整形外科学講師)
『腰骨の変形と、ずれる病気(すべり症)に対応するには』
■中井
定明
(藤田保健衛生大学医学部整形外科学教授)
『腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線』
■庄田
基
(藤田保健衛生大学医学部脳神経外科学教授)
『腰痛リハビリテーション―特に日常生活の運動と姿勢について―』
■岡西
*日
哲夫
(藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科教授)
時*
平成 18 年 10 月 21 日(土) 13:30~16:30
*場
所*
藤田保健衛生大学フジタホール 2000
学校法人藤田学園・藤田学園医学会
プ ロ グ ラ ム
第 11 回藤田学園市民公開講座
テーマ 「くらしと健康」 “腰の痛みと腰からくる足の痛み”
―いかに防ぐか、いかに治るか―
開会の挨拶・案内(13:25-13:30)
辻 孝雄(医学部教授/実行委員長)
学長 挨拶(13:30-13:35)
中野
浩(藤田保健衛生大学学長)
セクション 1(13:35-14:35)
座
演題-1
長:中川
研二(医学部整形外科学教授)
足のしびれる病気―脊柱管狭窄症とは?―
(13:35-14:05)
医学部整形外科学講師
志津
直行
演題-2 腰骨の変形と、ずれる病気(すべり症)に対応するには
(14:05-14:35)
医学部整形外科学教授
中井
定明
休憩(14:35-14:45)
セクション2(14:45-15:45)
座
演題-3
長:森本紳一郎(医学部内科学教授)
腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線
(14:45-15:15)
医学部脳神経外科学教授
演題-4
庄田
基
腰痛リハビリテーション―特に日常生活の運動と姿勢について―
(15:15-15:45)
藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科教授
休憩(15:45-15:55)
総合討論(15:55-16:30)
座
長:中川
研二(医学部整形外科学教授)
森本紳一郎(医学部内科学教授)
次回の案内と閉会の挨拶
滝田 毅(短期大学教授/副実行委員長)
岡西
哲夫
《腰部脊柱管狭窄症とは―その病態・診断・治療法―》
藤田保健衛生大学医学部整形外科学講師
志津直行
脊椎(背骨)には、「脊柱管」といわれる神経の通り道があります。中年期以
降、加齢によって腰の脊椎の一部が変形し、脊柱管が狭くなった状態を「腰部
脊柱管狭窄症」と呼びます。
症状として、脊柱管が狭くなることによって脊柱管の中を通っている神経が
圧迫をうけ、腰痛、足のいたみ、しびれといった様々なものが出現します。ま
た、腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状として「間欠性跛行」があります。「間欠
性跛行」とは座っているとなんともないのですが、しばらく歩き続けていると
脚が痛くなったり、痺れや脱力感が起こって歩けなくなり、少ししゃがんで休
んでいるとまた歩けるようになる、という状態のことを言います。
腰部脊柱管狭窄症の診断は、これらの症状、レントゲン写真や MRI などの
特徴的な画像所見から行なわれています。
腰部脊柱管狭窄症の治療はまず、薬物療法(痛み止め、血流改善薬など)、神
経ブロック(神経の周囲に痛み止めの注射を打つ治療)、コルセットなどの手術
でない治療を数ヶ月行います。そして、これらによっても症状が改善しない場
合は、神経の圧迫を取り除く手術治療を考えることになります。
本院では従来の手術法に比べて、より低侵襲な顕微鏡下手術を行っています。
多くの患者様は、術後1週間で退院可能です。この機会に、腰部脊柱管狭窄症
に関して詳しく勉強してみてください。
【講演者プロフィール】
1991 年、藤田保健衛生大学医学部卒業。1993 年、浜松赤十字病院整形外科勤
務。1997 年、土岐市立総合病院整形外科リハビリテーション部部長。2001 年、
藤田保健衛生大学医学部整形外科学講師、現在に至る。日本整形外科学会専門
医、日本脊椎脊髄病学会認定指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、東
海脊椎外科研究会幹事。
硬膜管
頚椎
神経根(脊髄から分かれた神経の枝)
腰部脊柱管狭窄症とは
脊髄
馬尾神経
胸椎
その病態・診断・治療
腰椎
藤田保健衛生大学整形外科
志津直行
仙椎
「脊髄」は第2腰椎レベルまで
それより尾側は
脊髄より分枝した
「馬尾神経」(神経線維の束)
椎間板
椎間関節
脊柱管
骨・椎間板・靭帯
に囲まれた神経の通り道
硬膜管
椎体
馬尾神経
硬膜管
神経根
椎間板
黄色靭帯
腰部脊柱管狭窄症の症状発現のメカニズム
脊柱管狭窄症
脊柱管(骨・椎間板・靭帯に囲まれ
た神経の通り道)の狭窄
↓
馬尾神経・神経根の圧迫がおこる
椎間板の膨隆
椎間関節
椎間関節の変形
黄色靭帯の肥厚
脊柱管狭窄により
馬尾神経・神経根
が圧迫をうける。
馬尾神経・神経根の中を
走っている血管が
血流障害を起こす。
立位・歩行により、神経に血流不足・
酸素不足が起こり、下肢に痛みを生
じる。
1
①神経根型
脊柱管狭窄症のタイプ
①神経根型
ひとつの神経根に沿った痛み・しびれ・神経脱落症状
が出現
片側性(右か左かのどちらかのみ)のことがほとんど
神経の枝が圧迫を受ける
②馬尾神経型
中央の「神経の束」
が圧迫を受ける
L2
L3
L4
③混合型
L5
①と②の合併
②馬尾神経型
たくさんの神経が圧迫されるので症状が多岐にわたる
下肢、臀部の疼痛・違和感
会陰部の違和感・灼熱感 ・ 膀胱直腸障害・異常勃起
変性すべり症が合併していることが多い。
腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状
神経性(馬尾性)間欠性跛行
神経根型より重症で手術をしないと治らないことが多い。
歩き始めはなんともない
正常
座っているとなんともない
(症状まったくなし)
しばらくすると足にしびれや
痛みがでて歩きづらくなる。
前かがみで少し休めば
楽になりまた歩ける。
腰椎すべり症
立っているとしばらくすると
足にしびれや痛みが出てくる
立つ・歩く
↓
腰をそらす
神経の圧迫が
強くなる。
★神経の中を
通っている血管が
血流障害をおこす。
2
L2
L2
L3
L3
L4
L4
前かがみになる
★神経の中を通っている
神経の圧迫 血管の血流がよくなる。
が和らぐ
後屈
前屈
脊髄造影
後屈
前屈
後
前
前
後
前かがみで歩くと痛くない
椎間板後方が
脊柱管内へ膨隆する
黄色靭帯が
脊柱管内へのたわむ
「自分の足では歩けないが
自転車ならいくらでも乗れる。」
「スーパーでカートを押しているとけっこう歩け
る。」
腰が曲がっているから
「歩いていると前かがみになってくる」
脊柱管狭窄の増悪
腰部脊柱管狭窄症で症状が進行すると歩行時のみならず
安静時にも臀部・下肢・陰部にしびれを生じる。
診断 ①単純レントゲン写真
加齢に伴う脊柱変形
(腰部脊柱管狭窄症に特徴的なものではない)
「痛み」ではないため切迫感がなく、「年のせい」
「疲れのせい」「そのうち治る」と放置されていることが多い。
圧迫による神経のダメージが相当強い
骨棘の形成
椎間板高の狭小化
変性側弯
腰椎前弯の消失
「痛み」よりも重症例のことが多い。
専門医による速やかな診断と治療が必要
3
診断 ②MRI
矢状断像ー硬膜管のくびれ像
MRI 横断像 ー 硬膜管の断面積の狭小化、変形
硬膜管
正常
正常
脊椎症性
脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症
神経根型
腰部脊柱管狭窄症
馬尾型
第4腰椎すべり症
腰部脊柱管狭窄症の治療
「このまま悪くなると寝たきりになってしまうのではないか?」
症状が進行すると一度に歩ける距離は短くなるが
決して寝たきりになってしまう病気ではない。
ただし、
神経根型(下肢の痛みが症状)のものは自然軽快
する症例もあるが、馬尾神経型は時間の経過とともに
悪化する症例が多い。
選択的神経根ブロック
圧迫されている神経根に直接麻酔剤と消炎鎮痛剤
を注射する。
腰部脊柱管狭窄症の治療
まず、手術でない治療を2-3ヶ月行い、
症状の改善の得られない場合手術治療を行う。
①腰痛・下肢痛に対して
消炎鎮痛剤(痛み止め)
神経ブロック療法
コルセット
運動療法(腹筋背筋の強化)
②下肢のしびれ・間欠的跛行に対して
血流改善剤(プロスタグランジンE1剤)
コルセット
ウイリアムス型装具-腰椎の後屈を制限する
4
手術療法
日常生活における注意
絶対適応(手術が避けられない症状)
「歩くと足が痛くなるからあんまり歩かず、じっとしとったほ
うがが良いでしょうか??」
歩行により下肢の痛みが出現するが、歩くことによって
病気が進行するわけでは決してない。
「安静」は必要ない。
ただし腰をそらす動作は避ける。
前かがみで歩く
杖・シルバーカーで歩く
スーパーの中をカートを引いて歩く。
自転車を使用する
足腰の筋力を落とさないことが大切!!!
①重度の麻痺
下肢の筋力低下で
歩行が困難な場合
②重度の馬尾症状
著しい排尿障害を
きたしている場合
③耐えられない痛み
痛みにより歩行や
立位が困難な場合
相対的適応(手術が望ましい症状)
日常生活に支障はあまりないが・・・・・・
立ち仕事が困難
ゴルフにいけない
旅行にいけない
デパートに買い物にいけない等々・・
患者様の生活レベルに応じて手術を決定
神経根型のものは自然軽快する症例もあるが、馬尾型は
時間の経過とともに悪化する症例が多いため、漫然と保存療法を
行うべきではない。
手術の内容
神経除圧術 ー 後方より骨、軟部組織を除去
椎体固定術 ー すべり症の合併等で、神経除圧を
行った後に脊椎の不安定性が生ず
る可能性がある場合固定術を追加
する。
METRx MDsystemを用いた
顕微鏡下腰椎片側進入両側除圧術
b
a
(図6 a.b)
5
a 術前
腰椎鏡視下片側進入両側除圧手術後スケジュール
術翌日
ベッド上で寝返り・ベッドアップは制限なし
午前中に点滴除去
歩行開始(コルセットなし)
術後3日~ 創部にフィルムはってシャワー浴許可
術後4-7日
手術療法の限界
手術により痛み・間欠性跛行は軽快する。
術前日 入院
術後
b 術後
抜糸・退院
①手術前、安静時に存在する下肢のしびれは、神経自体
の不可逆性変化(=圧迫を取り除いても回復しない)
に由来するものであり、手術を行っても残存することが
多い。
②手術前、知覚鈍磨(触った感じが鈍い)を生じている場合、
神経の圧迫を取り除くと、術後「しびれ」として症状が
残存することがある。
手術をすればすべての症状がなくなるわけではない。
担当医とよく相談を!!
ご静聴ありがとうございました。
藤田保健衛生大学整形外科
志津直行 花村俊太朗 中井定明
山田治基
6
《腰骨の変形と、ずれる病気(すべり症)に対応するには》
藤田保健衛生大学整形外科学教授
中井 定明
腰部脊柱管狭窄症の中には背骨がずれたり曲がったりする結果、脊柱管狭窄の状態にな
る病気が含まれます。一般的な治療方法は通常の脊柱管狭窄症と似ています。どの治療が
有効であるかは病気の程度の差により決まりますが、背骨がずれていますので、通常の脊
柱管狭窄症に比べると手術に移行する率がやや高いようです。
手術では神経を圧迫しているものを取り除きますが、取り除くだけでは背骨のずれなどが
余計にひどくなりますので、金属を使って背骨を固定しなければなりません。除圧だけの手
術よりも規模がやや大きくなります。手術の結果、8 割程度の症状はなくなり、たいていの方
には満足、あるいはほぼ満足と答えていただけます。不満足と回答された方の問題は、手
術の時期が遅すぎたために神経が麻痺してしまったことによる遺残症状、あるいは他の病
気が合併していることから腰の問題が解決しただけでは日常生活動作が改善しない方々で
す。
手術の安全性を大きく左右するのは、心筋梗塞などの循環器系の合併症や糖尿病のコン
トロールなどの内科の問題です。また、骨粗鬆症がひどくなると手術後にトラブルが生じる危
険性があります。年齢が高くなりますと、内臓の予備能力が低くなりがちです。
今回、お話しいたします病気は自然経過が大体判っている病気ですので、体力があまり
なくならないうちに、また、症状が不可逆性にならないうちに手術を選択するグループが出
現し始めました。今後、皆様がこれらの病気に対応していく上に、私の話が参考になること
があれば、望外の喜びです。
【講師プロフィール】
1947 年年生まれ。1973 年慶応義塾大学医学部卒業。本学に着任後、助教授を経て、教授
に昇任し現在に至る。
変性すべり症 67歳女性
日本国民の高齢化
高齢者であっても変性すべり症に腰椎固定
除外症例:
重症の循環器疾患・極度の肥満・DM
症状増悪前のADLが低い
80歳以上
„
„
今回、成績・問題点を報告
体幹筋の機能: 支持&運動
„
„
„
„
腰椎変性すべり症の症状
脊椎症性脊柱管狭窄症+腰痛
体幹の支持
脊柱全体の支持:体幹筋全体が関与
分節的安定性:深部筋が関与
腰椎の同一姿勢保持
„
„
体幹の運動
„
表層筋が主に関与する
深部筋が分節的安定性を保持し、表層筋が
能動的に脊柱を動かす
„
„
腰部脊柱管狭窄症に対する運動療法
の適応と目的
安 静
„
腰部脊柱管狭窄症を有する高齢者に対して、
安静は、むしろ“禁忌”と考えるべき
► “Stay active !!”
!!”
ƒ 姿勢の工夫 (前屈位)
ƒ 補助具の使用 (手押し車/杖等)
ƒ 薬物療法・その他の保存療法の併用
60歳以上の方
症状:馬尾・神経根の慢性圧迫による下肢痛・
シビレ感・神経因性間欠跛行・膀胱直腸障害
神経因性間欠跛行:腰椎前屈にて改善(自転
車・シルバーカーならいくらでも歩ける)
臨床診断:安静時の腰痛・下肢痛がない・下肢
筋力・知覚異常
►
„
原則として、全ての患者が適応
„ ただし、重度の心・血管系、呼吸器系、その
他内科的合併症を有する場合は運動強度
に注意する
三大目的
„ 軟部組織の拘縮除去;「良肢位の保持」
„ 体幹・下肢筋力および体力低下の改善
„ 不安定性の改善
1
体幹筋力増強訓練の実際
Stretching Exercises
胸筋
訓練時に最大筋収縮を得る効率的な肢位
„
„
„
腹筋訓練だけに偏らず、背筋訓練も考慮した
バランスの良い運動が重要
背筋
胸筋&背筋
脊柱管狭窄症に対するブロック療法
„
„
種類
„ 硬膜外ブロック
„ 神経根ブロック
„ 腰部交感神経節ブロック
症状別のブロック有効性
„ 下肢痛・腰痛=神経根の圧迫:有効
„ しびれ、脱力、膀胱直腸障害=馬尾の圧迫:
無効
腰椎前弯を減少させる
頚椎を最大前屈
大殿筋を同時に収縮させる(骨盤の固定)「お尻をすぼめる」
間歇性跛行に対する屈曲装具
„
„
後屈を阻止
有効性あり
„
„
„
„
„
脊柱管狭窄症
神経学的所見(-)
良好な成績
適応・真の効果?
Complianceが問題
Ant.
Post.
52歳 女性 変性すべり症
L4
L5
座位前屈
2
腰椎変性すべり症116例
„
64歳 女性 腰椎変性すべり症に脊柱側弯
が合併 症状は腰痛と下肢痛・シビレ感
„
„
1983年 ー 2003年9月
男性25例、女性91例
手術時年齢:平均59歳(41-77)
30
25
20
例数 15
10
5
0
-45
41
術後2年以上経過
手術の満足度を往復はがきでアンケート調査
-50
46
-55
51
-60
-65
-70
66
56
61
手術時年齢(歳)
-75
71
-80
76
アンケート調査
返事あり 79/93例85%
3. 受けた手術に不満足である理由を診療録で
調査
アンケ-ト調査による症状の自己評価点数
(手術前の自覚症状を10点とすると)
術前 術後1年 調査時
全例
10 → 3.6 → 2.7 (0-10)
満足
10 → 2.1 → 0.8 (0-3)
まあまあ満足 10 → 4.5 → 4.4 (0-8)
不満足
10 → 7.8 → 7.6 (3-10)
アンケート調査による手術の満足度
遺残症状:各群におけるアンケート項目陽性率
1.手術前の自覚的症状を10点とすると、手術後
1年の時点と調査時には何点に相当する症状
が残存しているか
2.受けた手術の満足度はどうか
満足 まあまあ満足 不満足
腰痛
100
13%
80
歩行障害
60
40
殿部痛
20
31%
0
56%
会陰部シビレ
下肢シビレ
下肢痛
満足
まあまあ満足
不満足
満足
まあまあ満足
不満足
3
不満足群 9例
„
„
„
片側下垂足. 両側足底ビリビリ感
両側下垂足.下腿知覚障害.腹圧性尿失禁. SLE
両側下肢にシビレ感・痛みが遺残
会陰部シビレ感. 歩行障害
術後片側足背知覚障害.両側下腿静脈瘤. 浮腫
脳梗塞により術後ADL低下し車椅子
RA. 両側TKA
骨癒合しなかった例: DXA値が
正面で0.617g/cm2 ,0.637g/cm2 と最低値
腰椎正面
1.6
1.4
BMD(g/cm2)
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
症例
アンケート調査では不満足である理由:
重度の馬尾・神経根症状の遺残.ある
いは他科の合併症
手術後の合併症・問題点:最も多くは骨
粗鬆症に基づく
手術可能かどうかは循環器や糖尿病な
どの合併症の重症度による
L3
53歳女性
腰背部痛 右腰部隆起
80歳 女性
椎体間癒合と椎間狭小化による腰椎後弯
腰椎後弯による立位保持困難
53歳女性 腰背部痛 右腰部隆起 手術後
4
80歳 女性
手術後3年: 杖歩行 外来に通院中
第4腰椎圧迫骨折による遅発性麻痺
L4
御清聴ありが
とうございまし
た
5
《腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線》
藤田保健衛生大学医学部脳神経外科学教授
庄田
基
魔女の一撃
腰椎椎間板ヘルニアによる激痛を表現した言葉です。
会社を休む最も多い理由は腰痛で、腰椎椎間板ヘルニアはその内でも一番多
い病気です。最近の厳しい社会状況では長期休暇は困難です。早く治して激痛
から解放され、仕事に戻りたい。このつらい症状を改善するため、腰椎椎間板
ヘルニアの治療は変わりつつあります。今回は藤田保健衛生大学で取り組んで
いる、腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線についてお話します。
腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の中にある髄核が周囲を取り囲んでいる線維輪
を押し出して神経を圧迫する事により発症する病気です。激痛は腰だけではな
く下肢にも起こります。
まず保存的に治療しますが、激痛と下肢に麻痺を認める場合は手術が必要に
なります。局所麻酔で行なえる方法にはレーザーで椎間板を減圧する経皮的椎
間板減圧術(PLDD)と経皮的内視鏡下椎間板摘出術(PELD)があります。
そして切開して行なう方法には顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術と内視鏡を併用
した方法があります。
最も確実で、安全な方法は顕微鏡手術です。顕微鏡手術は非常に良好な成績
が得られています。ただ、入院は数日を要し、退院後もすぐには事務職以外の
仕事に復帰できません。
PLDD は2mm 程の細いレーザー針を挿入して椎間板ヘルニア内圧を減圧す
る方法です。有効率が 70~80%で、完全に飛び出してしまった椎間板ヘルニア
には有効ではありません。1日で治し早期に社会復帰したいという問題に対し
て、われわれが現在取り組んでいる治療方法は、細い内視鏡にて椎間板ヘルニ
アを摘出し腰痛を治療する手術方法です。顕微鏡手術の次世代の治療方法とし
て大いに期待されます。
最も適した治療法を選択しておりますから、安心してご相談ください。
【講師プロフィール】
藤田保健衛生大学医学部卒業。本学脳神経外科にて講師、助教授をへて、平
成 18 年、脳神経外科教授。現在、脳神経外科専門医、日本脊髄外科指導医、
日本脳卒中学会専門医、日本救急学会専門医。
ぎっくり腰(急性腰痛症)
Hexen‐schuβ 魔女一撃
腰椎々間板ヘルニア治療の最前線
藤田保健衛生大学 脳神経外科
庄田 基
腰痛
1. 生涯のうち腰痛を経験する人の割合は50~80%。
2. 坐位労働者35%、重労働者の45%が腰痛で医
療機関を受診
3. タクシー運転手の60%が腰痛を経験、その60%
が腰痛で欠勤
4. 男性で一番多く、女性でも肩こりについで多い。
(2001年厚生労働省国民生活基礎調査)
5. 日本人の10人に1人、1千万人以上が腰痛に悩ん
でいる。
ぎっくり腰
1. 急性腰痛の総称
2. 原因がはっきり証明できないも
のが多い(筋膜炎、椎間関節炎
など)
3. 安静にして2~3週間で治る事
が多い
1
腰椎椎間板ヘルニアの疫学
腰椎々間板ヘルニア
• 腰椎々間板ヘルニアが突出して
神経を圧迫する。
• 激痛が腰だけでなく、
下肢にも走る。
• 比較的若年者に多い。
• 治療法の進歩が、今後最も期待できる。
1. 男性に多い。
2. 好発年令 20~40歳
3. 好発部位
①L4/5
②L5/S1
③L3/4
腰椎椎間板ヘルニアの診断
腰椎椎間板ヘルニアの手術適応
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
神経症状(腰痛、下肢痛の部位)
レントゲン検査
MRI
CT
脊髄造影検査
脊髄造影後CT
神経根造影
椎間板造影
1.
2.
3.
4.
保存療法によって激痛が改善しない
何回も症状が反復し、社会生活に支障がある
下肢の麻痺
膀胱直腸障害
レーザー治療
2mmのレーザー針
局所麻酔
低侵襲手術
有効率は70%位(きちんとした適応基
準)
5. 腰椎々間板の突出した部分は取れない
適応があり、すべてに有効ではない
6. 保険適応がないため、高額な治療費
1.
2.
3.
4.
PLDD ( レーザー手術)
2
顕微鏡下髄核摘出術
最も安全、確実な手術法
腰椎々間板ヘルニア
MRI
顕微鏡下腰椎々間板ヘルニア摘出術
CT
腰椎々間板ヘルニア
腰椎々間板ヘルニア 顕微鏡手術
内視鏡手術
1. 5mmの内視鏡を使用
2.
3.
4.
5.
局所麻酔
より低侵襲
術後が楽
腰椎々間板ヘルニア
全ての症例にできる訳ではない
3
内視鏡手術器械
透視
刺入路
ガイド針挿入
内視鏡手術
内径 5mm
内視鏡手術
すこし特殊な腰椎々間板ヘルニア
術前
術後
5mm
内視鏡手術(PELD)の特徴
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
局所麻酔での治療の可能性
日帰り手術の可能性
脱出したヘルニアの摘出が可能
骨切除が難しい
手術野が狭い
新しい手術道具の開発が必要
外科医の十分なトレーニングが必要
最先端腰椎手術の目標
1.
2.
3.
4.
腰痛、下肢痛が直ちに治る。
安心して治療が受けられる。
短い入院で、早く社会復帰できる。
辛い手術ではない。
4
腰椎々間板ヘルニアになったなら
1.
2.
3.
4.
病状をよく調べ説明してもらう。
いろいろな治療法の成績について聞く。
自分に最もあった、治療法を選択する。
腰をいたわる生活を心がける。
5
《腰痛リハビリテーション―日常生活の運動と姿勢について―》
藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科
岡西 哲夫
日頃、腰痛体操としてよく知られている運動療法の科学的根拠は、必ずしも確立され
てはいません。しかし、最近の「科学的根拠に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定
に関する研究(2001)
」によれば、慢性腰痛症の治療法として運動療法は有効であるが、
その効果は疼痛そのものに対する有効性を意味するものではなく、日常生活動作の改善
や疼痛による休業状態からの職場復帰など、幅広い視点から判断しなければならないと
結論づけています。
「腰痛リハビリテーション」の目標は、腰痛そのものと戦うのではなく、腰痛を自分
の体の一部として受け止め、痛みをコントロール(自己管理)して日常生活の改善、ひ
いては QOL(人生の質)の改善をめざすことにあります。
人類が立位をとり、二足歩行を開始して以来、すでに腰痛という宿命的な苦痛を負わ
されていると言われています。腰痛体操として知られている Williams の体操の目的は、
二足立位姿勢がとる腰椎前彎を減少させ、
椎間孔や椎間関節を拡大することにあります。
そのため、腹筋や殿筋を強化して、腸腰筋や脊椎起立筋のストレッチングが組み合わさ
れているのです。また、日常生活における不良姿勢の持続は、いわゆる Janda の交差性
症候群と呼ばれる脊椎の機能障害を引き起こします。このような脊椎機能障害を改善す
るためには、徒手的治療よりも患者さんが治療に参加して、脊柱の動的安定性を維持・
改善する技能を身につけることが優先されます。
今回は、腰痛に対する運動療法の原理や、日常生活を改善するための諸条件について
一緒に考えてみたいと思います。
【講師プロフィール】
1970 年、国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院卒業。函館共愛会病院勤務。
1974 年、名古屋保健衛生大学病院(現藤田保健衛生大学病院)リハビリテーションセン
ター勤務。1992 年、藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校専任教員。教務主任
を経て 2004 年、藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科教授、現在に至る。
専門理学療法士(骨・関節系)
。愛知県理学療法士会副会長、日本私立医科大学理学療法
研究会副会長。
日常生活の運動と姿勢について
腰痛リハビリテーション
ー特に日常生活の運動と姿勢についてー
腰痛リハビリテーションの目標。
腰の痛みは人類として宿命的な痛み。
腰痛体操の目的。
不良姿勢の持続は脊椎機能障害を引
き起こす。
• 脊椎機能障害を改善するための方策は、
腰痛の理解と改善技能の取得。
• 腰痛予防姿勢と日常生活改善のため
の諸条件。
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藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科
岡西哲夫
Ian Macnab:BACKACHE,1977
慢性腰痛の治療として運動療法は有効か
腰痛リハビリテーションの目標
• 腰痛症の治療法として運動療法は効果はあると判
断されるが、その効果とは疼痛に対しての有効性
はさほどではないが、日常生活動作に関する改善
や、疼痛による職場からの逃避や休業が減少し、
職場復帰が促進されるなど、幅広い視点から判断
しなければならないと結論づけている。
• 腰痛はコントロールすべきものであり、戦うもので
はない。腰痛は自分自身の体の一部でもある。
腰痛治療の目標は、漠然とした治療ではなく、日
常生活の改善であり、QOL(人生の質)の改善で
あるというふうに考えたい。
臼井康生:腰痛の運動療法、Evidence Based Medicineに基づく運動
療法第76回日本整形外科学会学術集会教育研修講演、2003
腰の痛みは人類の宿命
腰仙角の増加
Williams,P.C:The Lumbosacral spine,1965 改変
土肥信之:腰痛の運動療法と物理療法
腰痛の病態・診断・治療:別冊・医学のあゆみ、1998
Williams体操の原理
• 二足立位姿勢がとる、腰
椎前彎を減少させ、椎間
孔や椎間関節を拡大する
ことにある。そのため、腹
筋や殿筋を強化して、腸
腰筋や脊柱起立筋のスト
レッチングが組み合わさ
れている。
脊柱が垂直位をとったため、力学的負担が
腰部に集中し、その結果、腰痛は人間の宿
命となった
Williams,P.C:The Lumbosacral spine,1965改変
1
Williams体操の内訳
腹筋強化
骨盤傾斜
腸腰筋伸張
脊柱の彎曲の発達
腰椎屈曲・脊柱起立筋伸張
下腿三頭筋伸張
Steindler:Kinesiology,1973
脊柱起立筋、ハムストリングス伸張
Williams,P.C:The Lumbosacral spine,1965、改変
新生児に、一次カーブ(後彎)であった脊柱は、
首がすわり座位が可能となって頸椎前彎が形
成される。
腰椎前彎
は、立位が可能になって形成される。これらを2
次彎曲という。
よい姿勢は、なぜ疲れない?
重心線が通る指標点
J.V.Basmajian:Grant`s Method of
Anatomy,1980
人体は積み木
• よい姿勢と不良姿勢の違いはどこにあるの?
• 積み木が良好な整列(アラインメントが良好)ならば、バランス(均衡)が
よくとれて、くずれない(a)。
• 積み木の整列がわるいと、バランスがくずれてしまう。バランスを保持
するために、余分な力が必要となる(b)。
• よい姿勢とは、努力なしで
疲労がなく、比較的長時間
立位を維持できて痛みも
なく、美的にも受け入れら
れるもの
余分な力が必要となる
R.Cailliet(荻島秀男訳) : 腰痛症,1996
Kendall,:Muscles Testing and Function,2nd Ed,1971
不良姿勢は、なぜ疲れや痛みを起こす?
• 不良姿勢の特徴
体幹上部・下部のアラインメント
の不良(諸筋肉の不均衡)は、余
分な筋活動を招く。
a
b
上体起こし(腹筋)の年齢的変化
頭部の重さを支
えるために背部
筋の余分な筋活
動が働く
腰椎前彎の増強をみる
腰椎前彎の増強
椎間関節のストレスの増大
骨
盤傾斜の増加(腰仙角の増加)
椎間板内圧の上昇
仰臥位姿勢から上体を起こす動作が30
秒間に何回できるかを測定する。
Daniels:Therapeutic exercise,1977改変
東京都立大学体育学研究室:日本人の体力標準値 第4版、1989
2
交叉性症候群
腰痛教室(Back school)
crossed syndrome
• 体幹の上部・下部における、
筋不均衡と、頸椎前屈姿勢、
腰椎前彎姿勢がみられる。
肩甲帯、骨盤帯において2本
の線が交叉し、反時計回りの
悪循環を形成している。
深部頸屈曲筋
群の筋力低下
僧帽筋の短縮
脊柱起立筋の
短縮
腹筋群筋力
の低下
股屈曲筋群
の短縮
殿筋群筋力の低下
辛島修二、他:腰痛患者に対する教育的アプローチ、PTジャーナル、1991
反時計回りの悪循環を形成している
筋肉の役割と腹圧の影響
頸部・肩甲帯・体幹筋はちょうど垂直の棒を支え
る張り綱の緊張に例えられる
腹圧をしっかりとかけることにより、
腹腔が支点となって、背筋力(F)へ
の負荷が少なくなる。
(ラグ
ビーボール理論)
種々の姿勢における椎間板内圧の変化
• 第3 ・4腰椎間の椎間板にかかる圧力は立位時には、体重の2倍となる。
• 最大にかかる姿勢は、座位時の体幹前屈位である。
(Nachemson
et al,1968)
腰痛体操の考え方
腹筋(腹横筋)の重要性
•
•
腹筋(腹直筋、腹斜筋、腹横筋)は。咳、排尿、
排便に腹圧をかけ、腰椎を支持する。これら
の筋力低下により、腰椎前彎が異常に増強し、
その結果、姿勢の変化によって腰痛が起こっ
てくる。
中でも腹横筋はコルセット筋と呼ばれ、腰部
の安定作用として重要である。
深部頸屈曲筋群
の筋力強化
腹筋群筋力
の強化
腹直筋
股屈曲筋群
の伸張
僧帽筋の伸張
脊柱起立筋の伸張
殿筋群筋力の強化
• 肩甲帯、骨盤帯における
2本の線の反時計回りの
悪循環を断ち切る(時計
回りの良循環の流れにす
る)運動療法を行う。
時計回り良循環の流れにする
腹斜筋
腹横筋
3
作業時座位姿勢が、頭・頸移行部、腰部の整列(アラインメ
ント)に与える影響
• (A)頭部を前に突き出した(猫背)アラインメントがわるい姿勢
頸部から腰
部を伸展する筋肉は、過度の活動を生じねばならない。
前傾姿勢は、腰部
椎間板の内圧を増大させる。
• (B)生理的前彎を保つ(顎を引いた)よい姿勢
頸部から腰部
にかけて、余分な筋活動は生じない。
持ち上げ時(リフティング)の2種類の
姿勢
対照的な
• a)膝を伸展(軽度屈曲)して行われる。
荷物と体幹の
距離が離れすぎている。
腰部にかかる力(モーメント)
は大きい。
体幹伸展筋は過度に活動しなければならない。
• b)膝関節最大屈曲位で行われる。
腿四頭筋)して行われる。
幹伸展筋の余分な活動を減少できる。
膝関節を伸展(大
荷物と体幹の距離を減らし、体
膝関節には過度の負担が生じる。
B
A
Donald A.Neumann:嶋田智明、平田総一郎監訳、2005
日常生活で、よい姿勢を学習する
• 荷物を持ち上げる時の姿勢、ま
た、座位、運転時、寝る等にとる
べき姿勢は、腰椎前彎の減少
(腰仙部の屈曲)姿勢である。
• 作業時、股、膝関節は屈曲位。
重い物は体の近くに保持する。
• 座位では、膝関節は股関節より
高くする。(Williams)
a)前屈みリフティング
b)しゃがむ込みリフティング
腹式呼吸と骨盤傾斜(前傾・後傾)運動
吸気と呼気の仕方を、腹部に両手をおいて体得する。
次
に吸気に続いて、骨盤傾斜運動(腰部をベッドにつけて、殿筋と腹筋の収縮と弛
緩)を体得する。
腹筋の収縮ー弛緩
姿勢指導用紙改変
殿筋の収縮ー弛緩
Williams, P.C :The Lumbosacral spine,1965改変
Williams,P.C:The Lumbosacral spine,1965
圧バイオフィードバック(筋再教育)装置を用いた骨
盤傾斜運動
圧バイオフィードバック装置を用いての骨
盤傾斜運動の習得
圧バイオフィードバック装置
(STABILIZER Pressure Bio-Feedback)
座位・立位での骨盤傾斜運動の習得
さらに交互に下肢のステップを行うと、脊柱・下肢の協調運動が促される。
4
腰に意識を向けて、よく動かそう
• よく使うところほど大きな面
積(多くの神経細胞)をもっ
ている。
• 最も広い領野を占めるのは
指と手であって、最も狭い
のは体幹(☆印)である。
PenfieldとRasmussenによる体性機能の局在
半田 肇 監訳:神経局在診断 改変
体幹の領域は狭い
名古屋市立大学 健康科学講座オープンカレッジ、
心を元気に、2005,改変
脳と
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