スペシャルアプリケーションノートICP-OES高合金鋼

SPECIAL APPLICATION NOTE
PlasmaQuant® PQ 9000 Elite
高分解能 ICP-OES による高合金鋼の分析
1. はじめに
超微量や微量の添加剤や不純物は高合金鋼の性能やグレードに大きな影響を与えます。信頼性の高い微量検出は、スチール
製品の管理や品質保証を行う上で大変重要です。
従来のICP発光分析法では、微量、超微量の高合金鋼サンプルの分析には様々な問題がありました。それは、深刻なスペク
トル干渉を引き起こす3300本以上の鉄の発光線の存在です。
更に、モリブデンやバナジウムなどの耐火性添加剤は多く
の発光線を持ち、発光スペクトルを一層複雑にしています。
高合金鋼サンプルのスペクトル干渉はリンやアルミニウム、
ホウ素など微量元素の定量に大きな影響を与えることが知
られています。アナリティクイエナ社のPlasmaQuant®
PQ 9000 Eliteの、高いスペクトル分解能と感度は、分析に
新しい可能性をもたらします。
Optics
V Shuttle Torch
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PLUS
High Frequency
1
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PlasmaQuant® PQ 9000 Elite
高分解能ICP-OESによる高合金鋼の分析
2. 測定
PlasmaQuant® PQ 9000 Eite とHFキットを使用して、高合金鋼の認証標準物質(EURONORM標準物質 284-2)の微量及び主要元素の
分析を行いました。
試料をHCI,HNO3、HFで分解し、Al、B、Co、Cr、Cu、Mo、Ni、P及びVを、3.5 g/Lの鉄を使ったマトリックスマッチングの
3点キャリブレーションによって分析しました。CRM中のあらゆる元素の測定に対応するため、検量線用標準液はカスタムメ
イドの混合標準溶液を使用して作成しました。
検量線用標準液は、クロムとニッケルを40 mg/Lと100 mg/L、銅とモリブデンは5 mg/Lと10 mg/Lずつで調整しました。
これらはすべて認証標準物質の主成分です。コバルトとバナジウムの微量レベル分析については、それぞれ1 mg/Lと5 mg/Lの
濃度、アルミとホウ素、リンは超微量範囲で400 μg/Lと1000 μg/Lの濃度で検量線を作成しました。
装置の測定条件を表1に示します。
表1 : HFキット使用時のPlasmaQuant® PQ 9000 Eliteの測定条件
項目
設定
パワー
1200 W
プラズマガス流量
12 L/min
補助ガス流量
0.5 L/min
ネブライザーガス流量
0.5 L/min
ネブライザー
パラレルパスネブライザー, PFA, 1.0 mL/min
スプレーチャンバー
PTFE サイクロンスプレーチャンバ, 50 mL
室温
20°C
インジェクター
アルミナ, 内径 2 mm
アウター / インナーチューブ
サイアロン / アルミナ
ポンプチューブ
PVC
サンプル流量
1.0 mL/min
洗浄 / 遅延時間
45 秒
積分時間
3 秒 (3 回)
プラズマビュー
axial
ベースラインフィット
自動ベースライン補正(ABC)、Alのみ2点補正
2
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PlasmaQuant® PQ 9000 Elite
高分解能ICP-OESによる高合金鋼の分析
3. 結果
高合金鋼の主要元素のCr、Ni、Mo、銅に関しては良好な結果が得られました。認証値に対しての 回収率は95%から
103%の範囲で、良好な結果が得られました(表2)。更に、微量(CO、V)と超微量(Al、B、P)の各元素においても、
90%以上の回収率でした。
表2 : PlasmaQuant® PQ 9000 Eliteを使用したEURONORM認証標準物質の測定結果
1
元素/波長
CRM No. 284-2 [mg/kg]
測定値 [mg/kg]
回収率 [%]
検出限界 1 [mg/kg]
Al 394.401 nm
27
28.5
105
0.64
B 182.581 nm
26
24.8
95.4
0.64
Co 228.615 nm
530
498
94.0
0.76
Cr 267.716 nm
168,110
173,460
103
0.14
Cu 327.396 nm
1,831
1,865
102
0.24
Mo 202.030 nm
21,110
20,980
99.4
0.52
Ni 341.476 nm
107,200
102,400
95.5
0.22
P 178.224 nm
258
248
96.1
9.78
V 290.881 nm
425
400
94.1
0.20
積算時間10秒で11回測定でのブランクの
B182.581 nmの ICP発光スペクトルで、高合金鋼の分析における高分解能の利点について説明します。図1は、182.50 nm
から182.67 nm範囲を示しています。複雑な発光スペクトル中にホウ素のスペクトルは存在しますが、近接線とは十分に
分離しています。これらの近接線はほとんどが鉄とモリブデンによるものです。182.581 nmはホウ素の最も感度の良い波
長ではありませんが、近接線による干渉の影響がなく、0.64 mg/kgという優れた検出限界と感度で測定ができました。
図1の緑のベースラインが自動ベースライン補正によるベースライン
です。近接線が混み合っている場合には、マニュアルで補正ポイント
を設定する事が非常に困難です。この様な場合には、特許の自動ベー
スラインフィッティングにより補正ポイントの設定が容易になること
は、このスペクトルで明らかです。PlasmaQuant® PQ 9000 Elite では、
時間のかかるベースライン補正ポイントの設定は過去の物となりまし
た。これは高合金鋼のルーチン分析においてPlasmaQuant® PQ 9000
Eliteの分解能と同様にオペレーターにとって大きな利点と言えます。
洗浄と遅延時間を含めたサンプル1個あたりの分析合計時間は150秒
未満でした。
図1 : 高合金鋼のB 182.581 nm付近の発光スペクトル
試薬はSigmaAldrich ® とMerck ® を使用しました。
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