高校生の地域に対する考え方と進路意識―就職先をどのような要因で

高校生の地域に対する考え方と進路意識―就職先をどのような要因で意思決定するのかー
佐々木みどり(法政大学大学院 修士課程)
Keyword:地域定着・地域人材育成・キャリア教育
【問題・目的・背景】
りとして、その成果を演劇に構成して学習発表会で上演
現在、少子高齢化が進む我が国では、若者の地域離
し、UD商品2とまちづくりへの提案を行った。
れ、都市部への流出が地域の衰退につながっていると言
中学生になるとさらに具体的な商店街活性化のプラン作
われている。地域の活性化、再生のために、若者の地域
りなどグループワーク・フィールドワークの要素が加わ
離れを食い止めようと、若年者の雇用先確保など、地方
り広がってゆく。実際の発表を聴くと内容・プレゼン力
自治体はさまざまな試みを行っている。高校生が卒業後
は目を見張るものがあり、生徒個人の成長への効果は素
に地域に留まるには、若年者の就職先が必要であり、地
晴らしく教育効果は上がっている。
方自治体が就労先確保のために大企業誘致を行い、雇用
郷土愛を胸に地域活性化に取り組む人材育成の必要性
規模を確保するため結果として製造業(工場)が建設さ
は、今後の地域に欠かせないが、地域の活性化や、まち
れてきた。雇用を確保する一方で、地域への関心を高め
が再生するメカニズムや目標が十分に検討されないまま
る取り組みとしてキャリア教育の一環が地元を知り地域
の「ふるさとキャリア教育」は、目標設定が十分ではな
を担う人材を育てる「ふるさとキャリア教育」という新
く、
「地域のため」
「頑張っている若者には協力したい」
しい分野として文部科学省から推奨されている。
といった感情面で地域住民の協力を得ているが、地域へ
近年、高校の新規学卒者の就職希望地は地元志向が非
の関心度が高まっているのかは、個々のプログラムの前
常に高い。しかし、そのことが中学生・高校生の中に
後に、
「自分達のまち」といった意識づけ動機づけが行
「郷土愛」
「地域の次世代人材の自覚」が育っていると
われるかによって効果が大きく異なる。
いえるのだろうか。また、就職先を決める要素に、
「ふ
さらに、高校生になると、地場産品を使った商品開発、
るさと教育」が関係しているのだろうか。
観光資源を再発見した観光ルートづくりなど、マーケテ
過疎化が進む中山間地域以外であっても、人口減少
とコミュニティの弱体化は進んでおり、大きな課題であ
る。地方における活性化は、若年者の流出防止と人材育
ィングやPR戦略まで地域と高校の特性を活かした取り組
みが全国的に行われている。
次世代の担い手である中学生、高校生が、まちづくり
成、若者の地域コミュニティへの参加が必須事項であ
に直接関りを持ち、10代から「地域への意識の醸成」が
る。現在、義務教育では従来あった「未来のまち」の絵
地域活性化・再生につながることが期待されている。
を描く未来の夢物語りから、実際の商店街活性化プロジ
東京都23区3以外の都市部でも、生徒は自宅近くの公立
ェクト参加や、ユニバーサルデザインの街づくりを考え
小学校から中学校へ、公立高校へと進学している。公立
るイベントの企画など、より具体的な「まちづくり参
高校は中学区制が多く、進学や部活動のための他府県の
加」を教育行事として行っている。
私立高校への入学者は全体からみれば少数といえる。地
市町村が管轄する義務教育では、キャリア教育の一
環として、地元の産業振興やまちづくりプロジェクトへ
1
方においてはさらに公共交通機関での通学が難しいこと
から、いわゆる「自転車で通える範囲」の圏域にある高
の児童・生徒の参加を推進している。小学校 の事例では
校から進学先を選択する。よって、地方の公立高校には
商店街での障害者疑似体験の実施から、その経験を「バ
その地域の次世代を担う若者が学んでいるといえる。そ
リアフリー」から「ユニバーサルデザイン」のまちづく
の若者は、自身の地域についてどのように考えているの
だろうか。
1
2
3
2014 年度 北海道 A 小学校 6 年生の事例
UD:ユニバーサルデザイン
23 区内は中学から 4 割が私学に進学する。公立高校は大学区
制で高校の階層が細分化されている。本人の学力・能力・保護
者の階層など階層化、分化がなされニーズに合った高校に進学
できる。都市部でも通学圏域が狭い大阪は、保護者の通勤時間
も比較的短く、長距離通勤を好まないと言われている。
現在、高校生の保護者は、大学進学率が30%程度で
地方自治体はこれまで、製造業の工場誘致による雇用
あった世代である。小学校から現在まで同じ地元の同級
を確保、新エネルギー事業としてのバイオマス発電、野
生と育った保護者は、自身の子どもには、一度は外の世
菜工場など新分野を地元企業に助成金を出して行ってき
界を知っておくことが、本人を成長させるうえでも、地
たが、結果として人口減少を歯止めできていない。地域
域を発展させる上でも重要と考え、若者の流出を受容す
の第1次産業のうち、農業・水産業は環境問題・異常気
る文化を根付かせている。
象や、国際的な競争力の低下の課題はありつつも、厳し
このことは、地域活性化の推進役である地域住民である
いながらも未来はあるといえる。しかし若年者の大卒後
保護者の当事者意識をも低くさせていると考えられる。
のUターンもさほど進んでいない。
このような状況を受け本稿では、高卒時に初職を地域
このような状況の中で、
「若者の流出」とは高校卒業時
に求める高校生の意識と、高校生の就職先を決定する要
に都市部にあこがれ仕事を求めるのではなく①進学で都
因・条件をさぐり「高校生の地域への関心を高め、卒業
市部に転出し、そのまま就職する者②上級学校卒業後に
後も地域への関心を活発化させる要件とは何か」地域活
一旦は故郷に戻り、転職のためにふたたび都市部に戻る
性化の次世代人材育成に向けた課題を検討することを目
ものの二つである。
的とする。
では高校卒業後に地域に就職する者の考え方は、どの
【地方の若者を取り巻く現状と背景】
ようなものなのだろうか。
都市部と地方の生活格差
次世代の担い手である高校生の「地域への意識の醸成」
地方の人口が減少に転じて約20年を経過するが、北海
が地域再生に繋がっているのだろうか。
道を事例にとれば、第1には少子高齢化、特に出生率の
【研究方法・研究内容】
低下による自然減が非常に大きい。若者の人口流出は、
先で述べたことを明らかにするため、研究方法と内容と
各地域からは都市である札幌圏に人口が集中し、札幌圏
以下に記述する。
からは、道外へ20代~30代の流出が大きく出生率低下に
もつながっている。
1.方法
公共職業安定所の「新規学卒予定者職業動向調査」と
日常生活はインターネットの普及で情報も、商品もどこ
「新規学卒者 就職内定調査」のデータを用いて分析を行
に住んでいても同じものが手に入り、都会でも地方でも
う。高校のホームページに掲載された就職内定先(企業
生活そのものに大きな差が見られなくなっている。特に
名)から地域内、地域外、他府県に分類する。高校を学科
スマートフォン・タブレットを中高生の多数が手にする
別(普通科・商業科・工業科・農業科)に、上記の分類を
ことで、音楽もCDではなくダウンロードして聴き、本も
行う。さらに、高校設立時の条件・生徒の通学圏域・高校
コンビニかネットで手に入れる。都会にしかないのは体
の階層にわけて、典型的な事例をもとに検討する。
験型のレジャーだけとなった。TDLやUSJ、アイドルの大
【先行研究】
規模コンサートも高校生のアルバイトが比較的自由な現
全国高等学校針路指導協議会の調査から以下が得られた。
在では、飲食店でのアルバイト収入で仲間と出かけるこ
1.高校 2 年次までは、高校選択と同様に親・親戚の意向
とができるようになった。都市部に住まなければ手に入
が大きく影響しているが、最終的な進路の意思決定は
らないものは、今やほとんどないと言える。ここで見え
本人が行う。
てくるのは、都会の暮らしに憧れて大都市を目指す若者
2.2010年以降は就職難が解消し、就職する地域は
の姿というより、仲間意識を共有する友人が暮らす生活
選択できるようになった。しかし、都市部の方が職
圏を変えたくないという意識である。都市部への移動
域は広がるが、生活圏を今後も変えたくないという
は、一度地元に就職したのちに、仕事内容の充実、収入
生徒の意向により、地元志向が強く生活圏を優先し
などの面での転職によるものが大きいと思われる。賃金
た仕事選びが成されている。
の地域間格差はあるが、個人の生活様式の格差は縮小し
3.秋田県・岐阜県の事例では、地元に仕事がなく優秀
ている。地方の国道沿いは同じ看板のチェーン店が立ち
な生徒は県外で就職せざるを得ない。
並びどこも同じような景観が全国でみられる。4
職業高校には地元企業の指定校求人もあるが、より
ファッションセンターしまむらは全国 2 千店舗以上
1980年代前半に数千店舗だったコンビニエンスストア
4
は現在、5 万 6 千店舗以上である。平成 25 年のカラオ
ケボックス施設数は 9,363 施設。
有利な条件の大企業の求人があれば、周囲の期待に
査を受ける。ハローワークの紹介(求人票)を利用するか
より他府県へ就職指導がなされ人材が流失する。
また、希望地域と職種について調査する。
【現状】
少子高齢化と若者の地域離れの現状
■中学入学時と卒業時の意識の変化
中学校では前述のとおり「地域ダイスキプロジェクト」
などの名称で、地域づくり事業への参加などがキャリア
教育の一環として実施されている。
一方で修学旅行で専門学校・大学の見学、模擬授業の受
講が、プログラムのひとつになっている。
「郷土に愛着があり中学生として地域貢献の気持ち」が
培われているが、都市部に住み一度は外の世界を知るこ
「北海道北見職業安定所の管轄16校の調査より筆者作成」2016.5
とが同時にイメージされてゆく。
就職者の動向調査は、全国の職業安定所で実施され北海道
■高校の選択
全域では北海道内に就職する生徒は97%前後で推移して
中学生は学力以外に親や親せきの意向に、大きな影響を
いる。北海道労働局では高校所在地がある地域(管内)
、
受ける。地方では自宅からバス・自転車で通学できる圏
地域外の北海道内(管外)
、他府県への就職と 3 つに分け
内n高校から選択する。
(公共交通機関の問題)
て希望地を集計する。本年度の北海道北見地区職業安定所
学科の選択要件は①学力②通学圏域③就職に有利である
管内 16 校の動向調査では、卒業予定者は 1507 人、うち就
④進路未定のため、選択を先送りするための普通科か総
職希望は 323 人(約20%)である。就職希望者の内訳で
合学科の選択
以上の4点であり、地域の伝統校の場合は親や親族が、
は67%が地元希望である。
卒業予定者 1507 人に対する割合
卒業生であれば考える余地がなく進学し生徒本人の「地
進学・
域への思いや考え」は選択の大きな要素ではない。
その他
■高校生の進路決定
1184 人
高校 2 年生までの学校内調査では、保護者や親せきの意
79%
向が大きく影響する。深く検討せず家族とも相談せずに
就職希望・地域別の割合
アンケートに回答する生徒層では、この時点では現実的
な選択に至っていない。この層はその後、選択時期が迫
り具体的に考えることなく地元仲間とのつながりで、地
元就職を選択するケースが多い。
高校 2 年次の11月には進学か就職かの進路選択を迫ら
れるが、進学希望者は2年次のオープンキャンパスで、
ほぼ志望校を決定している。専門学校、大学ともに志望
校は出来るだけ同じ都市にある学校を選択して、保護者
とオープンキャンパスに参加し、住む部屋を仮予約して
いる場合も多い。受験する以前に居住する部屋を決めて
いるのである。それは、卒業後もその部屋に住む可能性
があるか・卒業後は地元(もしくは周辺都市)に帰って
くるのかを大まかにイメージしての選択である。
■就職希望者
就職希望
管内(地元)
管外(地域外)希
道外希望者
希望者
望者
323 人
218 人
74 人
31 人
21%
14%
5%
2%
67%
23%
10%
道外を希望している者は、卒業者全体の2%と非常に少数
である。就職活動が開始する 9 月 16 日以降、就職が決ま
らずに専門学校へ進路変更する者もいるものの、就職先が
なく地元から地域外に希望地を変更することは、ほぼない
と言ってよい。
【研究・調査・分析結果】
1. 状況 「高校の新規学卒者の意識」
職業を決める際に、地元志向が強い。この傾向は全国的
なものである。5
道外地域に就職者がいる場所は工業高校が設置されてい
た。工業高校へは道外大手企業から専門的な職種の指定
校求人がある。北海道の場合、2010 年以降は、卒業者が
極端に減少しているため、地方では正社員で採用される
ことが比較的容易になっており、生徒の進路選択が安易
就職希望者は3年生の5月時点で公共職業安定所の動向調
5 公共職業安定所の希望調査および内定調査のデータから、求人数と就
職希望者のバランスがとれていれば地元希望は70%程度である。
になされているとの報告がある。
の参加が、就職希望地にどれくらい影響があるのかを検
討した。地域内の企業との強い関係性や卒業生が働いて
高等学校卒業時の就職地域
いるかが指定校求人の基盤にあるが、高校生本人の地元
100%
80%
60%
40%
20%
0%
への帰属意識との関りは見出すことができなかった。能
力や家庭環境などあくまでも生徒個人の条件での選択と
道内
236 北斗市
213 苫小牧市
208 北見市
207 帯広市
206 釧路市
205 室蘭市
204 旭川市
203 小樽市
107 西区
202 函館市
102 北区
全道計
なり、最終的には生徒の個人的な友人関係が影響してい
るのではないかと考えられる。
【考察・今後の展開】
キャリア教育の実践発表やプレゼン力を見ると、教育効
果は大きいと評価できる。しかし、その成果を活かした就
職や、進学後に起業につながった事例を聞くことはほと
道外
んどない。なんとなく地元に就職する動機は、彼らの個人
平成 28 年度学校基本統計速報(学校基本調査の結果速報:北海道分)
筆者作成
アアップの転職も望めない。地方自治体が考える教育施
道外へ就職した高卒者人数が 10 名以上の市区町村のみ選んでグラフ化
2. 進路選択の要件~保護者の経済力
できる経済力がある②奨学金の貸与を含めてもギリギリ
の経済力③生活保護受給か老齢年金生活で給与所得・預
貯金がほとんどないー以上の 3 つに大別される。新規学
卒者の賃金は一人暮らしができるほど、給与水準が高く
ない。よって、経済力がある保護者①は、広い世界を知
って欲しいが、家賃の補助として数万円の仕送りをして
就職させるより、専門学校で 1 年~2 年間学び、資格や
専門知識によってその後の待遇・収入が安定する仕事に
就いて欲しいと考える。
生活保護受給家庭では、高校卒業後は世帯分離が保護者
の受給継続の条件である。住所地の世帯分離の上での、
地元就職の選択が現実的である。
2012年3月卒
2013年3月卒
2014年3月卒
男
女
19.8%
17.1%
23.6%
北海道
25.9%
24.5%
27.6%
全 国
20.0%
17.5%
23.6%
北海道
25.9%
24.2%
27.7%
全 国
19.4%
16.8%
23.0%
24.1%
23.2%
24.9%
北海道労働局統計情報より筆者作成
方の人材確保としても移住促進、人材育成が重要なのは
間違いない。I ターン人材は地域の刺激として重要な起爆
剤である。しかし、地域の人材育成は、今足元にある、
「ふ
るさとキャリア教育」を受けて育ってきた「磨けば光る」
存在の地元の若年者層が、磨かれるチャンス、本来の意味
での深い知識や教養をつける機会が得られることが重要
の企画者・実行者として行う中での起業家教育である。従
来の若年者就労支援、資格取得講座ではない、大学卒業資
ンスとなり、それまでのふるさと教育・キャリア教育の成
果が地元にもたらすものとして今後も研究してゆきたい。
【引用・参考文献】
佐藤眞 2011 「岩手県における新規高卒就職者の労働市場分析」
小西尚之 2014「高校生はいつ、どのように進路を決めるのか」
商業科
工業科
農業科
条件1 旧制中学
旧制女学校
分校
新設校
条件2 進学校
大学進学・就職 専門学校・就職 就職
条件3 学力選抜なし学力選抜あり
の中で経験した、地域への関心を地元活性化計画の実際
岩手大学教育学部付属教育実践総合センター研究紀要第 10 号 37-47
3.高校の分析「高校の学科・条件分け」
普通科
課題である。人口の東京一極集中を緩和する意味でも、地
で生活する若者に与えられるなら、本人にとってもチャ
計
全 国
北海道
と考えられる。地方版総合戦略では地域人材育成が重要
格とも別の新しい起業家教育とでもいうべきものが地元
新規高卒就職者の1年目の離職状況
区分
自覚には、地域の若者を動機づけるまでに至っていない
ではないかと考える。中学・高校時代に「キャリア教育」
②と③の家庭では、自宅からの通勤が絶対条件である。
卒業年度
策は、雇用の場の確保と地域に定着する人材育成という
立案者視点で、
「地域の次世代を担う人材」であるという
保護者は①家庭または祖父母に進学にかかる費用を負担
学科
的な意識で内向きに作用しており、早期離職ではキャリ
学力選抜あり3%
6%
北陸大学紀要 第 38 号
小宅優美 小山田健太 2016 地域の特性と活かしたキャリア教育の可
能性-岩手県気仙郡住田町における森林環境学習を事例に- 筑波大学
キャリア教育学研究 創刊号
学科によって、就職と地域への意識は異なる。そこで、
学科と条件1から条件3について分類し、まちづくりへ
大坂祐二 2011 礼文島の「ふるさと学習」における中・高校生の地域
意識 名寄市立大学 道北地域研究所「地域と住民」第 29 号