特集 利用者がシステムを使いこなせない理由の 一つに,ユーザー教育の不備がある。 だがユーザー教育には手間やコストが かかる上,やる気を引き出す難しさがある。 成功の秘訣を紹介しよう。 (池上 俊也 [email protected] ) 理解度がみるみる上がる 特集 ユーザー教育 2 理解度がみるみる上がる ユーザー教育 「ユーザー教育の “軽視” がアダに いて何度も質問される。ユーザー教育 に必要なPCやソフトは準備したもの なった」—。医療機器の製造・販売 に不備があることは明白だった。 の,手本となる操作マニュアルや,操 を手掛けるフクダ電子の山口英治氏 「全社規模のシステム刷新とあって, 作に必要なデータは準備できていな (社長室 経営システム部 次長)らは, プロジェクト計画は綿密に組んだ。た かった。利用者の忙しさを考慮し,多 あるプロジェクトで苦杯をなめた。2 だしユーザー教育については,そこま 数の内容を短期間に詰め込むカリキュ 年前,SAP ERPによる基幹システム でコストや手間をかけられないので, ラムも災いした。 の刷新で,先行リリースした本社向け 具体的な計画を立てていなかった」 。 「このままではまずい」 。主要機能の の一部機能についてユーザー教育を実 山口氏はこう振り返る。そのユーザー リリースを控え,山口氏は危機感を募 施した。 すると教育を終えた直後から, 教育は,IT部門のメンバーが慣れない らせた。そこでユーザー教育に対する ヘルプデスクの電話が鳴りやまなく 手振りでシステムの目的や操作方法を 考え方を改め,教育コンサルタントを なったのだ。説明したはずの内容につ 説明するといったやり方だった。教育 招いて計画を練り直した。操作マニュ アルやデータの準備はもちろん,既存 ①やる気を引き出す ・当事者意識を持ってもらうには? ・通常業務で忙しい利用者に積極性を促すには? ②短期間で多くの人が学べる計画 / 環境を作る ・何を準備したらよいのか? ・限られた時間でどうやって日程を組むのか? ・拠点が分散していて集合研修ができない場合は? の伝票と照らしてデータの流れを確認 できる資料も用意。講師陣のトレーニ ングも実施した。山口氏は「はっきり 言ってユーザー教育は楽ではない」と 言い切る。それでも「妥協したら必ず 後で痛い目に遭う」 (山口氏)ことを身 をもって学んだ。主要機能のユーザー ③分かりやすく教える 教育後には,ヘルプデスクへの問い合 ・どうしたら理解してもらえる? ・業務に即したトレーニングにする工夫は? ・理解度や問題点を把握するには? わせがほとんどなかった。 1 ユーザー教育を成功させる3原則 図 ユーザー教育で理解度を上げるには図中①〜③の三つの原則を守る必要がある。そのためには「当事者意識 を持ってもらうには」などの着眼点を持つようにしたい 46 人材多様化で重要性高まる フクダ電子のように,ユーザー教育 の不備から利用者がシステムを使いこ NIKKEI SYSTEMS 2008.10 写真:アマナイメージズ なせない,操作ミスをたびたび起こす 取材を重ねた結果,ユーザー教育を 当事者意識を持ってもらえるか,通常 という状況を招くケースは珍しくな 成功させるには大きく三つの原則を守 業務で忙しい利用者に積極性を促すに い。日立インフォメーションアカデミー る必要がある(図1) 。例えば,やる気 はどうすればいいか,といった着眼点 の杉浦充氏(取締役 副学院長)は「コ を引き出すという原則がある。IT部 で考えなければならない。 ストやスケジュールなどプロジェクト 門が中心となって進めるユーザー教育 二つ目は,短期間で多くの人が学べ のしわ寄せがユーザー教育にくること では,利用者に当事者意識を持っても る計画/環境を作るという原則であ は多い。だがユーザー教育をおざなり らうのが難しい。そこで,どうすれば る。この原則においては,限られた時 にすると, 利用者の理解度が上がらず, その後のサポート業務に追われること になる」と指摘する。 ユーザー教育に必要な六つの準備 要であれば,倍の120時間を要す をユーザー教育に押し付けるのは酷で まざまな準備が必要になる。表A る。この工数をカレンダーに当て に挙げたのは,最低限必要なモノ はめ,講師数や会場数を考慮すれ やリソースだ。オリンパスの山下 ば期間を想定できる。 浩司氏(コーポレートセンター IT ②PCやeラーニングの環境とは, 開発サポート部 ITサポートグルー 操作が可能なハードやソフトを指 プ チームリーダー)は「システム す。フクダ電子の山口氏らは,利 の規模や種類 ,対象者の人数 ,投 用者が普段使っているタイプのデ せるか否かは,ユーザー教育にかかっ 入できるコストや工数など,さま スクトップPCを準備した。 「操作 ている」 (富士通 アシュアランス本部 ざまな点を考慮して計画や環境 性など問題を洗い出すには,通常 を検討することが大切」と説明 業務の環境になるべく近い状況を する。 作ることが重要」 (山口氏)と考え 例えば,①スケジュールでは, たからである。 無理なく効率的な計画を立てる必 利用者が実際にデータの追加/ 要がある。多くのスケジュールを 参照/更新/削除をするには,顧客 ティングを手掛けるRWDテクノロ 作成してきたRWDテクノロジー マスターや商品マスターなど「③ ジーズジャパンの吹田順一郎社長は ズジャパンの田中美穂氏(エデュ マスター・データ」も必要になる。 「最近は大半の社員がシステムを利用 ケーションサービス事業部 シニア 富士通の丹下氏は「新システムに マネジャー)は「1人の講師がサ マスター・データを取り込むには, ポートできる人数は15人程度 ,集 データの変換などに時間がかか 中力を考えると3時間程度を1コ る。ユーザー教育を始める前にマ マとしたい」と説明する。そのた スター・データを準備できるよう, め,例えば300人の受講対象者が プロジェクトの初期段階で意識す いて主要機能を3時間内に説明す る必要がある」と語る。 る場合 ,300人÷15人×3時間で このほか,④マニュアルや⑤講 60時間の工数を見込む。2コマ必 師 ,⑥会場も準備する。 ある。本来は手離れのよい,教育いら ずのシステムを構築するのが筋だ。そ うしたことを踏まえた上で, 「ユー ザー教育は本番稼働で慌てないように する防波堤。システムの価値を引き出 契約・制度審査室 室長 丹下正昭氏) と認識する必要がある。 さらに,ここに来てユーザー教育の 重要性が高まっている。教育コンサル するほか,契約社員や派遣社員など短 期雇用者も増えた。こうした人材の多 様化と流動化によって,ITスキルを短 期間で大勢の人に身に付けてもらう必 要性が出てきた」と語る。 成功のカギは3原則の徹底 ユーザー教育の強化は多くの企業が A ユーザー教育に必要なモノやリソースをそろえる 表 直面する課題だ。必要なモノやリソー 内容 説明 スをそろえたとしても (別掲記事 「ユー ①スケジュール計画 日程や受講対象者,カリキュラムなどをまとめた文書 ②PC/e ラーニング環境 操作が可能なハードおよびソフト環境 ③マスター・データ データの追加 / 参照 / 更新 / 削除に必要なマスター・データ ④マニュアル 業務および操作に関するマニュアル ⑤講師 システムの目的や操作を教える担当者 ⑥会場 受講対象者を収容できる会議室やセミナー会場 ザー教育に必要な六つの準備」を参 照) ,ユーザー教育には独特の難しさ がある。冒頭のフクダ電子でも,計画 の立案や環境作りなどで苦労した。 2 理解度がみるみる上がる ユーザー教育 ユーザー教育を進めるには,さ 特集 もっとも,システムの機能上の問題 NIKKEI SYSTEMS 2008.10 47
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