不動産に関する解釈ガイダンス

採 択 日:2004 年 2 月 1 日
改訂発効日:2006 年 1 月 1 日
遡 及 適 用:なし
公開コメント期間:2002 年 7 月~12 月
不動産に関する解釈ガイダンス
序論および範囲
GIPS の不動産基準は、不動産の所有、取引、開発、または運用をリターンの主な源泉とする投資すべてに
適用される。不動産には、投資目的で保有される、土地、開発中の建物、完成した建物、その他の構造物また
は建築物を含む。本基準は、会社が不動産投資の運用についてどの程度決定権を有しているかにかかわらず、
不動産を運用する会社に適用される(後述の投資一任に関する解説参照)。本基準は、不動産投資が収益を生
んでいるかどうかに関係なく適用され、また、レバレッジまたはギアリングを伴う不動産投資にも適用される。
不動産とはされず、したがって GIPS の一般的基準が適用される投資の種類には、次のものが含まれる。
•
公開会社が発行する上場証券を含む、公に取引される不動産証券
•
商業用不動産担保証券(CMBS)
•
商業用および居住用不動産ローンを含む私募型デット投資であって、期待リターンが契約金利のみに連
動し、原資産となる不動産の経済的なパフォーマンスには関連しないもの
ポートフォリオが不動産および不動産ではないその他の投資の両方を含むときは、当該ポートフォリオのう
ち不動産部分についてのみ GIPS の不動産に関する必須基準および勧奨基準を適用し、かつ、会社が当該ポー
トフォリオの不動産部分をカーブアウトする場合には、カーブアウトに関する GIPS 基準(第 II 章 3.A.7)も
適用しなければならない。
過去 5 年分のパフォーマンス記録を作成するために不動産の評価ないし取引記録を集めることが不可能であ
ることが考えられるため、会社は、2006 年 1 月 1 日より以前の期間については、基準に準拠していない理由
について適切な開示が行われる限り、非準拠のパフォーマンスを準拠パフォーマンスにリンクしてもよい。
基準への準拠
不動産の投資運用を行う会社は、GIPS 基準への準拠が、会社全体での準拠を意味しており、準拠のために
は GIPS の不動産基準のみならず全基準に従わなければならないことを理解することが重要である。
コンポジットの構築
不動産投資業界では、コンポジット構築のあり方、いくつかの方法、妥当性について取り組みが続けられて
いる。GIPS 基準の重要な原則の 1 つは、コンポジット・パフォーマンスの提示という考え方である。コンポ
ジットは、ある投資目的または投資戦略を代表する 1 つ以上のポートフォリオを 1 つに集めたものと定義され
る。GIPS の不動産基準は、コンポジットレベルの報告という考え方に基づいており、不動産投資運用会社が、
投資目的または投資戦略により定義されたコンポジットのパフォーマンスを提示することを必須としている。
しかしながら、パフォーマンス提示のユーザーや受け手は、プロパティ・レベルのパフォーマンス提示を要
請することがしばしばあり、このことは GIPS 基準のコンポジット構築原則と合致しないかもしれない。会社
は、見込顧客からの要請により情報を提示することは禁止されないが、投資目的または投資戦略に基づくコン
ポジットの完全に基準に準拠したパフォーマンスを提示するよう、あらゆる合理的な努力を行わなければなら
ない。
本資料は、GIPS Executive Committee (前身は IPC) が採択した GIPS の 「不動産に関する解釈ガイダンス (Interpretive
Guidance for Real Estate)」全文(英語)の日本語訳である。翻訳は、日本における GIPS カントリー・スポンサーである(社)日本証券
アナリスト協会が行った。本ガイダンスの日本語訳と原文である英語版との間に矛盾があるときは、英語版を正本とする。
本翻訳物の著作権は、(社)日本証券アナリスト協会に属する。
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例えば、GIPS のコンポジット構築に関する基準では、会社が、顧客または顧客グループのために実行され
る投資戦略をトラックするコンポジットを策定することが必須とされている。しかし、不動産投資運用会社は、
オフィスビル投資だけからなるパフォーマンスの提示を顧客から要請されるかもしれず、そのためには、会社
は、複数のポートフォリオからすべてのオフィスビル投資のパフォーマンスを取り出さなければならない。
このグループ化が、オフィスビル投資で採用した戦略によって達成された結果を代表する場合には、会社は、
これをカーブアウトから成るコンポジットと見なして、GIPS のカーブアウトに関する基準とガイダンスを適
用することができる(カーブアウトの取扱いに関するガイダンス・ステートメント参照)。このグループ化が、
オフィスビル投資で採用された戦略によって達成された結果を代表しない場合には、投資目的・戦略の全く異
なる複数のポートフォリオからプロパティ・レベルのオフィスビル投資リターンをカーブアウトすることは、
コンポジット構築に関する必須基準を満たしていないことになろう。その場合には、このプロパティ・レベルの
グループ化は、基準に準拠したコンポジット提示の補足情報としてのみ提示すべきである(補足情報の使用に
関するガイダンス・ステートメント参照)
。
投資一任
投資一任の定義は会社に委ねられるが、GIPS 基準は、フィー(運用報酬)を課す投資一任ポートフォリオ
はすべて、少なくとも 1 つのコンポジットに組み入れることを必須としている。投資一任は、会社によって定
義されるが、会社が意図した戦略を実行する能力をいう。コンポジットの定義に関するガイダンス・ステート
メントにあるように、投資一任には程度の差があり、必ずしも、顧客の課す制約のすべてがポートフォリオを
非一任であるとするわけではない。会社は、当該制約により、意図した戦略の実行が、当該ポートフォリオが
もはやその戦略を代表しているとはいえないほど妨げられるのか、あるいはその可能性があるのかどうかを判
定しなければならない。
次のガイドラインは、不動産ポートフォリオを投資一任あるいは非一任として適切で一貫した方法で分類す
ることを促進するために、勧奨されるものである。
投資一任運用:
不動産ポートフォリオは、会社がその主要な投資決定に唯一のあるいは主たる責任を有している場合には、
投資一任であると見なされる。主要な決定には、ポートフォリオ戦略、投資リサーチおよび選定、購入、売
却、投資ストラクチャリング、資金調達、資本増強、業務予算などが含まれる。顧客が不動産投資に関する
完全な投資一任権を会社に委ねることはないかもしれないが、多くの場合、同意した要件や投資制約が、会
社の投資方針または意思決定をそれほど妨げるものではない。したがって、レバレッジ制限のような顧客の
課す投資制約、あるいは主な決定について顧客の承認を必要とすることは、不動産ポートフォリオを投資一
任に分類することの妨げとはならない。会社の報酬の一部がパフォーマンスに連動している場合、あるいは
会社の実績が選定されたベンチマークに対するパフォーマンス比較に基づき評価されている場合には、会社
は主な責任を引き受けていると考えられ、したがって、投資一任関係があると推定することができる。
非一任:
顧客の課す投資制限や制約が会社の望む投資戦略の適用を阻害または禁止する場合には、当該不動産ポート
フォリオは非一任と見なされる。例えば、課税顧客は、キャピタルゲイン税を最小限にするため、積極的ま
たはタイムリーな売却によりポートフォリオを変更することを禁止または実質的に制限するかもしれない。
あるいは、価格形成が最適ではないと会社が判断しているときに、顧客がポートフォリオの流動化を指図す
るかもしれない。さらに、会社が、会社の投資戦略とは一致しない投資マンデートを有するポートフォリオ
を、他の会社から引き継ぐことがあるかもしれない。
時間加重収益率と内部収益率
GIPS 基準は、一般的に顧客主導で発生するキャッシュフローの影響を排除するため、時間加重収益率の使
用を必須としている。したがって、時間加重収益率は、会社が特定の戦略または目的に従って資産を運用する
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能力を最もよく反映しており、グローバル・ベースでの会社のコンポジット・リターンの比較可能性の基本と
なるものである。
時間加重収益率の適用が除外されているのは、内部収益率(IRR)が必須とされるプライベート・エクイティ投
資である。IRR は、ポートフォリオにおけるキャッシュフローのタイミングの効果を反映しており、プライベート・エク
イティ資産では、会社がポートフォリオの資金流出入をコントロールしているため、IRR の使用が必須とされ
る。時間加重収益率は、プライベート・エクイティ運用会社のコントロール下にあるキャッシュフロー・マネジメントの
効果を捕捉しないため、プライベート・エクイティ・ファンドのリターン比較のための最良の尺度とはいえない。
不動産は、その流動性、評価の頻度と信頼性、長期保有という点でプライベート・エクイティと類似性があ
るため、アセットクラスとしてプライベート・エクイティに相当するという見方がある。したがって、不動産
投資運用会社は、時間加重収益率に加えて、設定来内部収益率の提示が勧奨されている。
インカム・リターンとキャピタル・リターンの区分
GIPS の不動産基準では、構成リターン、特に(1)インカム・リターンと(2)キャピタル・リターン(the
change in capital value)を提示することが必須とされている。不動産投資は流動性に欠けているため、構成
リターンの報告は重要である。トータル・リターンの達成においてインカムはリスクを低減させるため、不動
産投資では、他の要因がすべて同じであるとすれば、インカムが高いほうが一般的により望ましいとされる。
構成リターンの計算方法も開示されなければならない。特に、構成リターンは、チェーンリンク(幾何リンク)
した時間加重収益率を使用して別途計算される。必須ではないが、運用会社によっては、チェーンリンクした
構成リターンを、インカム・リターンとキャピタル・リターンの合計がトータル・リターンと等しくなるよう
に調整するかもしれない。運用会社は、この方法を開示することが必須とされる。
開 示
不動産評価には主観的な側面があること、また、世界共通の一貫した評価方法が存在していないことから、
不動産コンポジットについては、GIPS 基準(第 II 章第 0 節~5 節)に定める開示事項のほか、追加的な開示
(第 6 節に規定)が必須とされる。
必須の提示・開示事項:
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トータル・リターンに加えて、その構成リターンであるインカム・リターンおよびキャピタル・リターン
構成リターンの計算方法
会社の投資一任の概略
評価方法および手続(例えば、DCF 法、直接還元法、取引事例比較法、レバレッジ不動産の債務評価)
コンポジット内の個別口座のリターンの範囲
各期について、評価の情報源―独立の評価人による評価か内部評価であるか―
各期について、コンポジット資産の市場価値総額に占める外部評価された不動産資産の割合(等加重で
はなく資産額加重)
•
外部評価人による不動産投資の評価の頻度
評 価
市場価値とは、ある不動産が、公正な取引に必須のすべての条件を備えた、競争的かつ公開の市場において、
買い手と売り手がそれぞれ十分な知識と思慮に基づき行動し、価格は不当な影響を受けない前提のもとで、売
却されるであろう最も確からしい価格をいう。この定義においては、ある特定の日現在での売買の成立と、売
り手から買い手への権原の譲渡が、以下の条件で行われることが、暗黙の了解となっている。
a
買い手と売り手の取引動機が典型的であること
b
両当事者がともに十分に情報を得ているか、十分に助言を受けており、自己の最善の利益と見なされる
ことのために行動すること
c
公開市場に、相当な時間(reasonable time)さらされていること
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d
支払いが通貨または通貨に相当する金融上の取り決めでなされること
e
価格は、特別または独特の資金調達の影響、あるいは当該売買に携るいずれの者による譲歩(sales
concessions)の影響も受けることなく、売買される不動産の正常な対価を表すものであること
評価の情報源
評価手続および評価方法はグローバル・ベースで一貫しておらず、このため評価方法には幅がある。しかし
ながら、GIPS 基準では、不動産投資について会社が特定の評価手続を行うことを必須としている。
不動産評価には次の 2 つの情報源がある。
独立の評価(independent valuation):
独立の評価は、事前に合意した報酬で雇われる、第三者である評価人によって行われる。報酬は、評価の目
的が市場価値の推定である場合には、常に結果とは関係なく決められる。市場価値の評価は、専門職として
認定、公認、または免許された評価人である第三者によって行われなければならない。当該評価人は、各国
の評価団体の評価基準に従って、外部評価を実施しなければならない。独立の評価人は、専門職として認定、
公認、または免許された評価人で、各国または州で評価基準を所管する専門職団体または政府機関によって
認められた者でなければならない。有力な(predominant)専門職団体(例えば、Appraisal Institute や
Royal Institute of Chartered Surveyors)は、基本的には同じ評価理論、原則、実務に則っている。特に、
評価人は、認定されるためには、正式の厳格なトレーニングと試験を受け、かつ、十分な実務経験を積んで
いなければならない。
内部評価(internal valuation):
第二の評価の情報源は、不動産投資運用会社による内部評価である。内部評価では、価値を推定するために
業界で使用されている専門的なアプローチ(例えば、DCF 法、直接還元法、取引事例比較法、原価法)に
ついて検討し、また、不動産投資の価値に重要な変更をもたらすおそれのある、経済、市場、金融における
変動要因に関する専門的なレビューおよび評価を考慮に入れるべきである。注意深い(prudent)仮定を用
いなければならず、また、内部評価プロセスは、プロセスの変更によって市場価値の推定がより正確になる
場合を除き、期間から期間を通じて一貫して適用されなければならない。内部プロセスの目標は、パフォー
マンス提示が、運用会社の採用する専門的な評価プロセスに基づき確認された投資価値に裏づけられている
ことである。運用会社内の評価プロセスは、運用会社が不動産の取得および売却を通じてその価値を指定す
る際に採用するプロセスと一般的に同じものであると考えられる。
不動産評価の頻度
必須基準:
•
不動産投資は、少なくとも 12 ヶ月ごとに市場価値で評価しなければならない。2008 年 1 月 1 日以降の
運用実績については、不動産投資は、少なくとも四半期ごとに評価しなければならない。
•
不動産投資は、専門職として認定、公認、または免許された商業用資産の評価人または鑑定人により、
少なくとも 36 ヶ月ごとに外部評価(external valuation)しなければならない。
勧奨基準:
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•
•
不動産投資は、少なくとも四半期ごとに評価すべきである。
不動産投資は、外部の評価人または鑑定人により、少なくとも 12 ヶ月ごとに評価すべきである。
内部収益率を計算および提示するときは、会社は、少なくとも四半期ごとのキャッシュフローを使用す
べきである。
インカム・リターン
インカム・リターンとは、すべての資産(現金および現金同等物を含む)から測定期間中に発生する、回収
不能な支出、負債に対する利払い、および不動産に係る公租公課を控除した後の投資インカムと定義される。
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このリターンは、測定期間中の投下資本(下記参照)に対する割合(%)として計算される。
キャピタル・リターン
キャピタル・リターン(キャピタル・アプリシエーションまたはアプリシエーション・リターンとも言う)
の計算式における分子は、測定期間を通じて保有されていた不動産および現金/現金同等物の市場価値の期中の
変化(期末市場価値と期初市場価値との差)である。ただし、資本的支出はすべて減算し、売却純利益は加算
する調整がなされる。キャピタル・リターンは、測定期間中の投下資本(下記参照)に対する割合(%)とし
て計算される。
投下資本
リターン計算式の分母であり、測定期間中の「加重平均持分」(加重平均資本)と定義される。期初の資本
は、期中のキャッシュフローのタイミングを反映するウエイト(資金が滞在または流出した期間の日数)によ
り加重された資本的支出を加算し、同様に加重された分配金を減額する調整がなされる。その他の加重方法も
許容され、時間加重収益率の計算頻度がより高くなれば、加重されたキャッシュフローを含める必要はないか
もしれない。しかしながら、いったん決定された方法は一貫して使用すべきである。
適用事例
1. GIPS 基準は、不動産ポートフォリオは、少なくとも 12 ヶ月ごとに評価しなければならないとしている。
これは、内部評価(internal review)により行えばよいのか。その場合には何が必要となるか。
基準で必須とされる 12 ヶ月ごとの不動産評価は、内部評価(internal review)または外部評価(external
valuation)により行うことができる。内部評価の場合には、評価は、会社のマネジメントにより社内で決定さ
れる。年次報告書には、不動産ポートフォリオの評価、パフォーマンスを見るうえでの純資産の評価、純資産
に重要な変更をもたらすおそれのある要因についてのレビューと開示が含まれているべきであり、このため、
会社は、年次報告書に報告される価値に依拠することにより、基準で必須とされる 12 ヶ月ごとの評価を満た
すものとすることができる。
2. 不動産抵当証券は、GIPS 基準ではどのような位置付けになるか。
パフォーマンス報告の目的上、確定利子または変動利子を伴う不動産抵当証券は、確定利付証券と見なされ
る。したがって、GIPS 基準の中核となるセクション(第 II 章第 0 節~5 節)が適用される。参加型および転
換型の抵当証券(すなわちハイブリッド抵当証券)は、不動産投資と見なされる。その構成リターンは、次の
ように配分されるべきである。
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基本的な利子(受取):インカム・リターンに配分
偶発的な利子(受取):インカム・リターンに配分
基本的な経過利子(繰延):アプリシエーション・リターン(キャピタル・リターン)に配分
追加的な偶発的利子(繰延<満期時支払い>、前払い、または売却):アプリシエーション・リターンに
配分
したがって、リターンが現在運用から支払い可能なものである場合には、インカム・リターンに配分すべき
である。繰延べまたは将来実現される、その他のすべてのリターンの源泉は、アプリシエーション・リターン
に配分すべきである。
3.
不動産リターンは、抵当および類似の長期負債に関する影響を反映した後の、レバレッジを除いたリター
ンを提示すべきであるのか。
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不動産リターンは、レバレッジ(第三者からの借り入れに対する利払い)控除後で提示すべきであり、提示
する際には、リターンを生み出すために使用したレバレッジの額について適切な開示を行うべきである。
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