小学理科通信 2016 年 秋号

小学理科通信
2016 年 秋号
2016 年 秋号
巻頭言
時空のさざ波が検出された!
大橋正健…………………………………… 3
わたしの授業実践
3年「ものと重さ」
切磋琢磨する子どもを育む理科学習
徳永 悟…………………………………… 4
4年「もののあたたまり方」
これまでの学びを基に
自ら実験を構想する
辻 健 …………………………………… 6
5年「流れる水のはたらき」
都市型河川の学習への活用と
地形模型の有効性について
緒方康重…………………………………… 12
6年「土地のつくりと変化」
新しく考案した津波発生装置を
用いた学習
児島昌雄…………………………………… 14
研究室発
子どもたちが科学概念を深く理解するためのディープ・アクティブラーニング
小林和雄…………………………………… 8
子供の視点・教師の視点
理科授業改善のポイントを探る
林 四郎…………………………………… 10
お役立ち情報
世界科学者列伝
ジャン・アンリ・ファーブル …………………………………………………………… 16
日本の希少な生き物
アカウミガメ/イトウ …………………………………………………………………… 18
【表紙の写真】朝焼けの剱岳
飛騨山脈(北アルプス)の立山連峰北部にある剱岳は,「岩と雪の殿堂」と呼ばれる。
山の上部は,ライチョウの生息地として,また,高山植物の自生地として知られる。
表紙・本文デザイン:佐野裕美子
表紙イラスト:石山綾子
巻頭言
時空のさざ波が検出された!
東京大学宇宙線研究所 教授
重力波観測研究施設
大橋 正健(おおはし まさたけ)
2016年2月11日,宇宙天文分野で特大のニュースが世界を駆け巡
りました。それによれば,13億光年先の連星ブラックホールの合体が,
重力波によって観測されたというのです。重力波というのは一般相対性
理論から予言されていた時空の波で,
「アインシュタインの最後の宿題」
として,多くの研究者がその検出一番乗りを目指してきました。その課題についに決着がつき,
一般相対性理論の正しさもあらためて確認できました。
重力波望遠鏡は L 字型のレーザー干渉計です。重力波は,L 字の一方を引き伸ばし,他方を
縮めるという影響を与えます。この伸び縮みの差をレーザー光の干渉によって精密に測るとい
うのがこの装置の原理です。この世界最大のものがアメリカにある LIGO(ライゴ)という装置
で,
基線長4kmの巨大なレーザー干渉計が西海岸と東海岸に1台ずつ設置されています。昨年,
重力波の初検出に成功したのがこの 2 台です。その際には,地球と太陽の距離(1億5千万km)
が水素原子1個分だけ伸び縮みするような時空の歪を,この装置が感じました。こんなに極微
の歪を検出するには,これほど大きな装置が必要ということになります。
その他に,ピサの斜塔の近くに基線長3kmの装置 Virgo(ビィルゴ)が設置されています。
そして現在,日本では神岡鉱山内に基線長3kmの装置 KAGRA(かぐら)を建設中です。この
世界に配置された4台の装置を使えば,どちらの方角から重力波がやってきたのかがわかるよ
うになり,重力波天文学が確立します。
さて,このような巨大な装置により重力波をとらえることで,何が知りたいのでしょうか?
我々は,ブラックホールができる瞬間をとらえたいのです。ここで一番ありそうなシナリオは,
2つの中性子星(1cc の重さが数トンもある高密度星)が互いの周りを回りながら近づいていき,
ついに合体するという天体現象です。このとき確実にブラックホールが生まれるはずです。こ
のようなイベントを狙っていたのですが,少し思惑が外れて,2つのブラックホールが合体す
るイベントをとらえてしまったというのが,今回の出来事の真相でした。連星ブラックホールは,
予想はされていましたが,実際に存在するかどうかは誰にもわからなかったのです。しかも2
回続けて検出されるなど,誰も想像していませんでした。
今後も,思いもかけないような天体現象からの重力波がとらえられると思いますので,どう
ぞご期待ください。子供たちにもそういうワクワク感を持ってほしいと願います。■
3
わたしの 授業実践 ■ 3年
「ものと重さ」
~切磋琢磨する子どもを
育む理科学習~
宮崎大学教育学部附属小学校
徳永 悟 とくながさとる
はじめに
形を容易に変えられる物や,素材が異なる物
の重さを,手ごたえやてんびんを用いて比較さ
子どもは,自然事象に対して,自らの生活経験
せ,物と重さについて問題意識をもてるように
や学習経験をもとにした素朴な見方や考え方を
した。ここで用いた物は,前単元「じしゃくの
もっている。理科学習は,この子どもの素朴な見
ふしぎ」でも使用したものである。
方や考え方を科学的な見方や考え方に高めていく
営みである。また,問題解決の過程を大切にする
プラス
チック
理科学習において,他者とのかかわりは不可欠な
ことである。
木
鉄
アルミ
カップ
折り紙
そこで,自然事象に対する,
「おもしろい!」
「あ
そうすることで,子ども自ら「鉄で作られて
れ?どうして?」といった気付きや疑問,
「確かめ
いるものは重い!?」といった素材に着目する
たい!」といった思いを学級全体で共有しながら
姿が見られた。また,アルミカップや折り紙等
追究活動を展開した。また,実験中における子ど
を用いたことで,ギュッと小さく丸めたり,折
も一人一人の思いを共有できるように,板書上で
り曲げて変形させたりしながら,重さを比較す
の結果の整理の仕方についても工夫を行った。
る子どももいた。
学習のねらい
(2)物の形と重さの関係 まず,単元
本単元は,物と重さの関係について興味・関
導入に提示し
心をもって追究する活動をとおして,物の性質
た 物 に 加 え,
についての見方や考え方をもつことができるよ
変形して用い
うにすることをねらいとしている。
る身近な物として,ブロック,傘を提示し,変
物は,どんなに小さくても重さがあり,小さ
形させたときの重さを手ごたえで比較させた。
く分けても全体の重さは変化しない。また,重
手ごたえの微妙な違いから,
「重さが変わって
さは,長さや体積と異なり,目に見えない量で
いるかも…」と物の形を変えたときの重さにつ
あるところにおもしろさがある。そのようなお
いての問題意識が高まり,
「確かめたい!」とい
もしろさを仲間と共有させながら,物の性質に
う強い思いにつながった。
ついて捉えさせたいと考えた。
次に,学習問題「物は形が変わると,重さが
授業の実際(全12時間)
(1)単元導入 4
変わるのだろうか。
」に対して,
「変わる・変わ
らない」で予想させ,自分の立場を明確にした
後,その根拠について話し合わせた。
「物が増
えたり,減ったりしなければ重さは変わらない。
」
い」という考えは変わらなかった。てんびんの
といった多数の意見の中,
「変わる」とした意
見方の技能の習熟を十分に図ることができてい
見に,
「ばらばらの形は,重さが広がって重く
なかったことが課題であった。その後,改めて
なる。
」といった興味深いものもあった。それ
同一のブロックの変形前・変形後の重さを電子
ぞれの立場での考えをもとに話し合いを進める
てんびんで数値化して,
「物は形が変わっても,
ことで,互いに自分たちの考えを深めたり,広
重さは変わらない。
」と結論付けた。
「
(物の形
げたりすることにつながったと考える。
を変えると)手に持って比べたときは重さが
実験においては,ブロックを様々な形に変形
違ったように感じるのに,
(重さは)変わってい
し,てんびんを用いて二人一組で検証を行った。
なかった。重さって不思議!」と,物の重さに
同じ形,同じ重さのブロックの塊を2個用意し,
対する子どもの素直なつぶやきが見られた。
片方だけ変形させて重さを比較させた。本時に
(3)物の体積と重さの関係 おける検証方法としては,粘土を用いた実践が
いろいろな物の体積を同じにしたときの重さ
多いが,実験の過程で粘土の破片がこぼれ落ち
を比較する実験では,市販の実験セット(鉄の
るなどして誤差が生じやすいといった課題があ
玉,
ガラスの玉,
木の玉)を用いて検証を行った。
る。そこで,誤差が生じにくく,子どもにとっ
しかし,この実験だけでは,物の体積と重さの
て変形しやすいブロックを用いた。そうするこ
関係について追究するおもしろさを実感するこ
とで,
ペアで,
「こんな形なら…」と様々な形(ば
とができないと考えた。
らばら,ピラミッドの形,隙間のない形,空洞
そこで,この3種類の玉と同じ重さの綿は,
の形,細長い形等)について何度も繰り返し実
それぞれどれぐらいの体積になるかを確かめる
験を行うことができた。
ことにした。この実験によって,子どもたちは,
実験した中で,全体に一番報告したい形の結
同体積の鉄とガラス,木の重さの違いを,
「こ
果について,ブロックの実物を黒板に提示しな
んなに違うの!」と綿の体積によって視覚的に
がら整理していった。全ペアのブロックを実物
実感することができた。
で示すことで,様々な形についての結果を共有
おわりに
することができた。
前単元とのつながりを意識した物や,子ども
の思いを表出しやすい物等を準備したり,板書
上に子どもが実際に実験した実物を掲示したり
することで,本単元のねらいにつながる気付き
や疑問,思いを共有することができた。また,
そのことが実感を伴った理解につながったと考
える。
てんびんの実験において,2つのペアが「形
今後,自然事象に対する子どもの様々な気付
を変えると重かった(つり合わなかった)
」と
きや疑問,思いを,追究する仲間とのかかわり
いう結果だった。そこで,全体で実験の方法を
の中で,さらに価値付けながら追究活動を展開
確認した後,再実験を行ったが,
「つり合わな
していきたい。■ 5
わたしの 授業実践 ■ 4 年
「もののあたたまり方」
~これまでの学びを基に 自ら実験を構想する~
筑波大学附属小学校
辻 健 つじたけし
はじめに
ての見方や考え方の深まりがみられた。
このような見方や考え方を使うと,子どもた
目の前で起こる自然事象を目の当たりにした
ちはどのように水の温まり方を解釈し,理解し
子どもたちは,自分たちのこれまでの経験で
ていくのか,授業を通して検証していく。
培ってきた見方や考え方をもとに,その事象を
解釈し,説明しようとするだろう。そうである
授業の実際
ならば,子どもたちが自然事象と出会う際に, (1)問題の醸成
授業者はこれまでの学習経験,既習事項を通し
金属の温まり方を学習した後,水の温まり方
て得られた見方や考え方を子どもたち自身に意
を調べた子どもたちは,金属は広がるように温
識させることが必要であると考える。
まるのに,水はどうして上から温まるのだろう
本稿では,単元と単元の内容の関連性を意識
かという問題をもった。よく観察してみると,
した授業展開を通して,子どもの見方や考え方
水が動いているように見える。どうして水が動
のつながりについて論じていきたい。
くのだろう。動いていくのには,きっとわけが
授業までの子どもたちの姿
あるに違いない。
子どもたちは,これまでの学習を振り返って
閉じ込めた水を温めたり,冷やしたりすると,
考えているうちに,水が温めると膨らむことを
水の体積はどのようになるのだろうか。この問
使って考え始めた。
題に対して,子どもたちの意見は2つに分かれ
C:温めたら水が膨らむということは,その分
た。温度変化によって体積は変化すると予想し
軽くなってるのかもしれない。
た子どもたちは,温度変化に伴って空気の体積
T:どういうこと?
が変化したことをもとにして考えた。
C:もし,温めた水が膨らむときに,重さが
また,少数ではあったが,温度変化によって
変わっていなければ,軽くなったというこ
体積は変化しないと予想した子どもたちは,閉
とになる。
じ込めた水が圧縮によって体積を縮めることが
C:重さが1として,温めた後も変わらずに
できなかったことを根拠とした。
1とするなら,大きさが1から 1.5 になって
その後,実験により温度変化によって水の体
いれば,軽くなったことになる。
積が変化することは証明されたものの,やはり
T:実験で確かめられるかな。
変化の量が空気と比べて小さいということが話
C:同じ体積にして重さを比べるとわかる。
題になった。水や空気について共通点や相違点
この後,子どもたちは,温めた水が軽くなる
を明らかにすることを通して,水や空気につい
ことを確かめる実験を計画した。
6
(2)計画した実験
しかし,実験②③では,液体の体積を揃える
具体的にどのような実験を行うと,自分たち
という実験となるため,体積が揃わなければ実
の予想は証明されるのだろうか。子どもたちは,
験にはならないと,どのグループもピペットを
下の①〜③のように,温めた水が軽くなってい
手に真剣な表情で実験に取り組んだ。また,同
るのではないかという予想を証明するための実
様に実験①では,重さを量る前に,温めるとき
験を考えた。
に周りについた水滴を拭い取って重さを量る姿
①温める前後で重さを比べる実験
が見られた。自分たちの予想を確かめるために
温める前の全体の重
は,より精度の高い実験を行わねばならないと
さを量りガスコンロでフ
いう姿勢が実験中の態度として現れたと考えら
ラスコ内の水を温めた
れる。
後,全体の重さを再度量
(4)実験の結果から
る。2分30秒という加
子どもたちは,3つの実験の結果をもとに考
熱時間,フラスコの口に
察を行った。12グループの結果も合わせると
付けた蒸発を防ぐための
どのような結論が導き出されるか。グループで
風船については,子どもが構想した後に教師が
の考察は時間を要した。
付け加えた。
クラス全体での話し合いでは,
「温める前の
②温める前後で体積を揃えて重さを量る実験
水と温めた後の水を比べたとき,温めた後の水
温める前の全体の重
は軽くなる。だから温められた水は上に行く。
」
さを量り,温めた後で膨
と結論付けた。
らんだ体積分の水を取り
除き,体積を揃え重さを
量る。
おわりに
後日,子どもたちが記述した水の温まり方に
ついての説明には次のようなものが見られるよ
③温める前後の水の体積を揃えて重さを比べる
実験
うになった。
「水は温められると膨らむ。膨らん
だ水は,周りより軽くなるので,上に行って上
同じ 容 器を
の方から温まる。
」
準備し,温めた
この記述は,水の膨張と対流を結び付けて考
水(50 ℃)と 水
えたものである。このように,子どもがこれま
(14 ℃)を 同 じ
での見方や考え方をつなげ,目の前の現象につ
量入れて,重さ
いて問題解決を行うためには,授業者が単元の
を比べる。
関連性や系統性を把握し,子どもの持つ既習経
(3)実験の経過
験をもとに授業を展開することを心がける必要
体積を揃えて重さを比較するという実験は,
がある。また,既習経験を使って考えた際に,
既に第3学年「ものと重さ」の学習で既習して
即時的に評価し,価値付けすることも重要であ
いる。そのため実験そのものの発想が真新しい
ろう。既習事項をもとにした問題解決について
わけではない。 は,今後も追究を行っていきたい。■
7
研究室発
子どもたちが科学概念を深く理解
するためのディープ・アクティブ
ラーニング
小林 和雄 こばやしかずお
福井大学大学院教育学研究科 准教授 1
良い理科の授業とは,どのような授業でしょ
はじめに
うか。これは教師の授業観,子ども観,学習観
学習指導要領の改訂で,平成32年度にも学
などに依存しますから,前述のアクティブラー
校教育に本格的に導入される見通しとなってい
ニングより多様性があります。
るアクティブ・ラーニングですが,その意味の
アクティブ・ラーニングは最近よく参照され
分からなさから,研修会場は一刻も早く先取り
る論点整理でも授業改善のキーワードのひとつ
したいと願う多くの教員で溢れています。しか
と言われていますが,論点整理における本当の
し,質的転換答申で定義された「学修者の能動
授業改善のキーワードは,
「真の理解」
「深い
的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の
理解」ではないでしょうか。アインシュタイン
総称」という意味が,まるで伝言ゲームが繰り
は「6歳の子どもに説明できなければ,理解し
返されて変容したかのように,
「能動的な学び」
たとは言えない」と述べていますが,私自身も,
「活動的な学び」
「主体的で協働的な学び」
「主
理科が始まる小学校3年生以上に説明できなけ
体的で対話的で深い学び」
「子どもが自ら課題
れば,教師も児童も科学概念を真に理解できた,
を発見して調べ,友達と議論して考える力を育
或いは深く理解できたと言えないと考えていま
てる学習法」等々,実に多様な意味をもつよう
す。目新しい言葉ではなく新鮮味はありません
になってきました。
が,授業改善のキーワードとしては不易なもの
更に,グループ・ディスカッション,グループ・
と言えるでしょう。
ワーク,問題解決学習などが有効なアクティブ・
学びを通じて子供たちに真の理解,深い理解
ラーニングの事例として列挙されているため,
を促すためには「主題に対する興味を喚起して
ある学校の研修会で「問題解決学習は,本校で
学習への動機付けを行い,目の前の問題に対し
はもう既に取り組んで来ているので,特に改め
ては,これまでに獲得した知識や技能だけでは
てアクティブ・ラーニングを導入して授業作り
必ずしも十分ではないという問題意識を生じさ
をする必要はありません!」といった混乱状況
せ,必要となる知識や技能を獲得し,さらに試
が,小学校の教育現場に起こり始めています。
行錯誤しながら問題の解決に向けた学習活動を
どんな問題状況を解決するために,どのよう
行い,その上で自らの学習活動を振り返って次
1)
なアクティブラーニング
を,どの程度導入す
るのかが問われているのではないでしょうか。
2
8
ディープ・アクティブラーニングの勧め
4
4
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4
の学びにつなげる」
(傍点は筆者)ようなアク
ティブラーニング2)が求められます。このよう
に,質の高いインターラクション,コラボレー
ション,リフレクションが学習プロセスの中に
有り,学習者に認知プロセスの外化,或いは思
るのです。この際,児童の認知のプロセスや思
考の可視化を促して,学習者に教科内容の真の
考を可視化し3),考えを類型化したり,食い違
理解,深い理解を促す様々なアクティブラーニ
いを要約して焦点化して深く追求させる教師の
ングを,私はディープ・アクティブラーニング
ファッシリテーションの精度を上げることも重
と称して,各種の研修会で推奨し,授業改善に
要です。そして,全ての児童が「はじめは○〇
向けた具体的な指導方略の研究を,小中高等学
だと思いましたが,今は△△だと思います。理
校の先生方と進めています。
由は……だからです。
」といった,自分の思考
3
の深まりや認知のプロセスをメタ認知するよう
楽しく,愉しい理科学習へ
な振り返り4),すなわち,リフレクションが不
アクティブ・ラーニングというキーワードは,
可欠です。単に実験や学習活動が楽しいだけで
問題解決学習や探究的な学習より広範囲な教
なく,
「なるほど,そういうことか」
「Ah,わかっ
科領域,学習内容をカバーしている優れたキー
た!」のように全ての児童が自分の学びを実感
ワードです。しかし,単に学習者を能動的に学
できる愉しい授業を目指すことが大切です。
習に参加させる教授法や能動的な学びのように
捉えて,課題に対して興味をもたせ,グループ
4
おわりに
で楽しく活動し,授業後に学習者が「楽しかっ
わかったことより,わからないことが大切に
た」という感想をもつだけの授業で満足してい
される考える教室文化の構築が大前提となっ
て良いのでしょうか。これでは,理科は好き,
て,前述のようなインターラクション,コラボ
理科は楽しいという児童は多いけど,実験結果
レーション,リフレクションの精度を高めた
を解釈し,結論を導き出す局面になると,一部
ディープ・アクティイブラーニングを,日々の
の児童しか発言しなくなる授業も多いという問
ありふれた授業の中に着実に導入して授業の質
題は解決できないのではないでしょうか。
を高め,全ての児童が科学概念に関する理解を
特に難しい科学概念を児童に深く理解させる
深めていく授業作りを研究しています。■
には,教材研究の段階で,児童がどのような先
行概念をもっているのか,どのように考える傾
4
4
4
4
向があるのかなどを教師が把握し,
「目の前の
4
4
4
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4
4
4
問題に対しては,これまでに獲得した知識や技
4
4
4
4
能だけでは必ずしも十分ではないという問題意
4
識を生じさせ」
ることが求められます。たとえば,
「なぜだろう?」
「〜は何だろう?」のような問
いに対して原因やしくみを説明する仮説を設定
させたり,
「どうなるだろう?」のような問いに
対して結果の予想とその理由といった自分の
考えを,全ての児童が他者とのコラボレーショ
ン,インターラクションによって深めたりする
ようなアクティブラーニングの導入が求められ
参考・引用文献
1)溝上慎一:
『アクティブラーニングと教授学習パラ
ダイムの転換』東進堂 , 2014。溝上は active learning
は「アクティブラーニング」と表記して日本語に翻訳し
ない方が良いとし,
「認知的なプロセスの外化」がアク
ティブラーニングの要件のひとつであると指摘している。
2)文部科学省:
「教育課程企画特別部会 論点整理」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/
chukyo/chukyo0/gi jiroku/ _ _ icsFiles/a f ieldf i
le/2015/09/29/1362371_2_1_1.pdf.,8 頁。
(2016 年 7 月 15 日アクセス)
3)4)Ron Ritchhart, Mark Church, Karin Morrison,
" Making Thinking Visible: How to Promote
Engagement, Understanding, and Independence for
All Learners ", Jossey-Bass, 2011.
9
理科授業改善の
ポイントを探る
東京家政大学児童教育学科准教授
お茶の水女子大学客員教授
北区教育委員会理科教育アドバイザー
林 四郎 はやし しろう
1
はじめに る問題」ととらえてしまい,直ぐに教師から問
題が提示されてしまう事例が多い。
しかし,
「子供が自分の考えをもって自ら確
前回(2016春号)の拙稿にて,理科授業の
かめる活動のきっかけをつくる」ことが,主体
質的な変換を図るためのポイントについて簡単
的な学習の実現を目指す際の教師の役目であり,
に述べたが,今回は,原点に立ち返って,
「主
自ずと子供が考え始めるように授業づくりを工
体的・協働的な問題解決」を実現する授業の基
夫することが重要である。
本的な考え方と具体的な授業場面を分析しなが
➡「問題づくり」のための事象提示や共通体験
ら,改善のポイントについて検討していきたい。
2
子供が主体的・協働的に学ぶ
理科授業の実現を目指して
問題解決の過程に沿って,子供の主体的・協
働的な問題解決を実現する学習の流れと教師の
工夫を考えていくと,右ページの表のようにま
とめられるであろう。
3
主体的・協働的な問題解決を
目指す上での実践的課題と対応
を工夫し,子供が矛盾や疑問を感じたり考え
たりできる場を設定し,主体的に問題づくり
を行うことができるようにする。
➡どのように事象を見せるかが教師には問われ
る。
「その提示で,子供が矛盾や疑問を感じ
るだろうか」と常に見直す必要がある。
(2)子供一人一人が十分に考える
学習展開を目指す
教師は子供に「みんなよく考えて」と言うが,
本当に一人一人が十分に考える場を保障してい
るのかどうかと問われると,
時間的な事情もあっ
て難しい場合が多いように見える。
(1)真に子供が主体の学習ならば,
「問題づくり」から子供の手で
➡先ず,常に考える習慣を身に付けていく。そ
のためにノート等へ記述する力を高めていく
主体的な問題解決で先ず重要なことは,
「問
必要がある。考えるときは,根拠のある考え
題づくり」である。
「問題把握」とか「問題設定」
になるように導く。根拠を考えることにより,
等と名付けられていることから「教師から与え
考えを客観視し自分の考えに対する自己責任
10
をもつことができる。
➡一人一人の考える習慣に個人差が大きい場合
➡「結論」は子供の言葉を紡ぎ,
よりよい「問題」
の答えとなるよう協働的に全体で作り上げる。
には,適宜グループでの活動を挟み安心して
問題解決の過程
自分の考えをもつことができるようにする。
事象提示や
(3)子供が「方法」についても考え
主体的・協働的な問題解決を
自ら問題づくりを行って,根拠のある「予想・
共通体験
を設定する。➡ 問題づくりにつながっていく。
グループや全体での情報交換等を加える。
問題づくり
支援の下で,問題を成文化し共通理解を図る。
※一人一人の子供が主体的に参加し,協働的に
学級の問題につくり上げていく。
予想・仮説
己責任」
※グループでの話し合いや全体での話し合い等
しまい,意味をもたない。
を通じて,各自の予想・仮説をより具体的で
➡観察や実験等の方法については,
「子供が発
実証的なものにできるようにする。
方法
②教師の提案を受けながら,実際の方法を決定
する。➡「教師から提案」
先生の意見を入れて決めた」と考えられるよ
③結果の予想をする。➡「予想・仮説を意識」
「結
うにしていく。子供の考えを支援する積極的
果への期待感」
(2) 観察・実験を実行する。➡「より誠実に,
な教師のかかわりが必要である。
より正確に」「全員が十分に活動できる係分
担」「グループ内でのデータの共有」
結果の整理
るので,時間の関係もあって,教師の急ぐ気持
※板書計画上,グループごとの結果を記述する
スペースを確保し,全体で共有する。
考察
➡ 協働的な問題解決の活動を十分に行うこと
ができるように配慮する。
段階で子供の考えを十分に交流させなければ,
※個人で考えてから,グループでの情報交換を
協働的な問題解決はおぼつかなくなってしまう。
経て,全体での話し合い活動を行う。
※結論の導出を主とするが,新たな問題につな
➡考え合う時間を確保するためにも,
「結果の
して,結果の共有がスムーズかつ効率よく行
がる疑問や感想,活用につながる内容等も出
されるので,次に生かせるよう副次的に扱う。
結論
理解して自分のものとできるようにする。
※子供どうしで十分に話し合い,自分たちの言
板書したり板書カードとして貼り出したりす
プが直ぐにその作業に入り,最後のグループ
が終了次第,全体で話し合いを行えるように
する。
○考察して全体で共通理解できた問題の答えを
「結論」として明記し,全員で文言と意味を
われるように工夫する。例えば,子供が直接
る場合は,観察・実験等が終了次第,各グルー
○予想・仮説と結果を照らし合わせて考え,問
題の答えとなる結論を考える場を設定する。
ちが痛いほど分かる事例が多い。しかし,この
整理」の過程で,板書やICT機器等を活用
○観察・実験の結果を整理し,全体で共有でき
るようにする。
「考察」や「結論(=問題の答え)
」を導き出
す過程は,授業時間の後半・終末に位置してい
(1) 方法を考える。
①観察・実験の方法を考える。➡「子供が発想」
的には,子供が主体的に「自分たちの考えを
(4)協働的に結果と予想・仮説を
照合して考察し結論を導き出す
○子供が個人で根拠のある予想・仮説を考えら
れる場を設定する。➡「問題意識の持続」「自
の連続になって,結局,学習意欲を低下させて
想し,教師が提案する」ことを原則に,最終
○子供が「問題」をつくれるよう教師が働きか
ける。子供の実態等に応じて,教師の有効な
たい」と考えている。ただ,その「方法」が現
く,ただ考えさせるだけでは,
「それはできない」
て,矛盾や疑問を感じたり考えたりできる場
※個人を基本とするが,子供の実態等に応じて
仮説」を考えている子供は,
「こうして確かめ
実の学習の場では実現不可能であることも多
教師の工夫や配慮
○子供が既習事項や生活経験との比較を通し
葉で集約できるようにする。
活用に
向けて
○共通理解できた内容等をもとに,実生活や他
の自然現象等に目を向ける。
※学習したことと実生活や他の自然現象等と関
係付けていく意識をもち,実際に考えようと
する意欲をもたせる。
11
わたしの 授業実践 ■ 5 年
「流れる水のはたらき」
~都市型河川の学習への活用と
地形模型の有効性について~
東京都文京区立関口台町小学校
緒方 康重 おがたやすしげ
はじめに
を埋めるために視聴覚教材を用いるが,直接体
験と比べると「実感を伴った理解」からはるか
いろいろな先生に理科の教えにくい分野を伺
に遠いと考えられる。
うと,B区分「生命・地球」の地球分野という
そこで,これを克服するため,都市型河川で
声をよく聞く。これは,対象とする時間経過が
も可能な実験を行い,自分たちの郷土を考える
長かったり,空間的広がりが大きかったりする
ために地形模型や古い地形図を活用すること
ためだろうと考えられる。特に,
「流れる水の
で,
「実感を伴う理解」が得られるのではない
はたらき」と「土地のつくりと変化」は嫌われ
かと考えた。
る傾向が強いように思う。その理由として,こ
れらの単元は,フィールドに出て観察する機会
授業の実際
に恵まれにくいためだと推測する。
単元名「流れる水のはたらき」
(13時間)
一方,理科教育では「実感を伴った理解」が
第1次 流れる水を調べよう(3時間)
強調され,これらの単元においても授業を工夫
第2次 川を調べよう(3時間)
することが必要だと考えられることから,
「流れ
第3次 流れる水と変化する土地(5時間)
る水のはたらき」の単元で都市型河川と地形模
第4次 川と私たちの生活(2時間)
型を活用した実践を行った。
ア)川を調べる道具
「実感を伴った理解」とはなにか
今回の実践では,都市型河川の白子川を対象
にした。白子川は護岸工事がされており,川原
教育の場では,
「わかった」という言葉がよ
に入ることはできないので,流速を測る際には,
く使われるが,
この「わかった」はしばしば「わ
左右の両岸および橋の上から紐をつけたペット
かったつもり」になることが多い。本単元にお
ボトルを投げ込み,流速を測定することにした。
いては,
「流れる水は土地を削るはたらきがあ
なお,紐ごとペットボトルを流してしまう場合
る」という知識を得ても,実際の自分たちの暮
も想定し,紐を引っ掛けて上に上げる道具も準
らしと結び付かず,実感できないことがしばし
備した。これは川を汚さないための配慮で,当
ば感じられる。教科書のように,学校内の実験
然この作業は教師が行った。
と実際の川に入る学習をあわせて展開できれば
川での測定結果から,流速を紐が伸びきる時
よいが,自然の川に入って実験できる環境にあ
間の長短で比べさせた。流速の遅い場所には堆
る学校は多くないと思われる。このような場合,
積物があり,児童は,校庭で実験した結果と比
「実感」という点で,多くの児童が理解の浅い
ままになってしまう。たいていはそのギャップ
12
べながら,実際の河川の運搬,堆積の作用を確
認していた。
イ)地形模型・古い地形図
番集中するため,5年生のうちから地形をきち
5万分の1の地形図をもとに,5メートルご
んと認識させておきたい。
とに等高線を色画用紙に写し取って切り抜いた
質問:練馬の地形が流れる水のはたらきと関係
ものを貼り合わせ,地形模型を作製した。現在
が深いと思いますか。
は河川が暗渠になっているため,本来の河川の
わかるようになった…56名
流れを確認するために古い地形図を地形模型と
どちらでもない…7名
いいえ…34名
対比して,模型を指でなぞったり,古い地形図
から昔の川の流れと地形模型を比べたりする活
最後に,練馬の地形が流水のはたらきと関係
動を行った。
が深いと答えた児童は56名で,6割程度しか
児童の意識調査について
流れる水のはたらきによって練馬の地形ができ
たことを認識していなかった。等高線の見方が
単元の学習終了後に,5年生97名に意識調
十分でない児童の現状を考えると,地形と流水
査を行った。
のはたらきについて十分考えられていないと推
質問:白子川に行ったあとで流れる水のはたら
きについてどう思いますか。
わかるようになった…82名
どちらでもない…12名
いいえ…3名
最初に,白子川に行ったことで流れる水のは
たらきがわかるようになったと回答した児童は
82名だった。このことから,たとえ都市型河
測するが,地形模型がなければ侵食された地
形の認識が不十分なままに終わったと考えられ
る。なお,この設問では,
「深い関係」と問う
たために,
「関係がある」と思いながら「いいえ」
と回答した児童がいた可能性がある。今後は設
問の文言をもっと吟味するように心がけたい。
5
おわりに
川であっても実際の川にふれることが理解を深
「流れる水のはたらき」は,学校を離れた場
めていると考えられる。自分の得た知識が現実
所での観察があるため指導しにくい単元の1つ
の場面で確認され,
「実感を伴った理解」が得
だと考えられる。しかし,理科という教科の特
られたのではないだろうか。
性上,経験と理論の一致なしには「実感を伴っ
質問:練馬の地形がわかったと思いますか。
わかるようになった…72名
どちらでもない…22名
いいえ…3名
た理解」は得られないと考える。
今回の実践では,都市型河川でも学習に十分
活用できることが児童の意識調査から明らかに
なった。また,児童の認識として空間の広がり
次に,練馬の地形がわかるようになったと回
を実感させたり,学習内容を確認させたりする
答した児童は72名だった。このことは,
「流れ
ために,地形模型は有効な手立ての1つである
る水のはたらき」を考えるうえで地形は重要だ
ことを明らかにできたと思う。
が,児童はなかなかそのような視点で見ている
今後,今回紹介したように,都市型河川や地
わけではないことを裏付けている。しかし,6
形模型が学習に活用されたり,もっと新しい教
年生の「土地のつくりと変化」では,
「自分の
材が開発されたりすることを望む。■
足元がどうなっているのか」に児童の関心が一
*この実践は,筆者が練馬区立大泉学園緑小学校に
勤務していたときのものである。
13
わたしの 授業実践 ■ 6 年
「土地のつくりと変化」
~新しく考案した津波発生装置を
用いた学習~
大阪府枚方市立招提小学校
児島 昌雄 こじままさお
はじめに
の2つの点がポイントであると考えた。
①東日本大震災などの地震に伴う津波やその
東北太平洋沖地震 ( 以後,東日本大震災と記
被害を映像等で見せ,実際に起こったことを
す ) で発生した津波被害以後,津波の様子,津
事実としてとらえさせる。
波発生のメカニズム,津波被害や津波から逃れ
②津波発生のメカニズムを簡単な実験装置で
る方法といったことがメディアなどで一般に報
示す。
道されることが増えた。
大自然が対象となる学習では,実際に体験し
学校教育で津波について最初に学ぶ機会は,
て学ぶことがほとんどできないため,①のよう
地震による大地の変化を学習する小学校 6 年生
に動画映像や写真を使うことが多い。しかし,
理科「大地のつくりと変化」の単元である。た
児童の理解には,②のように児童が目の前で演
だ,ここで学ぶのは,地震による地割れや断層
示実験を見たり,自ら操作して実験を体感した
といった大地の変化と,人工建造物などの崩壊
りすることもまた重要である。
といった自然災害に関する内容であり,津波に
そこで,本研究では,小学校の授業で扱える
関する内容はほとんど取り扱われていない。
津波発生装置を開発し,それを使って授業をす
しかし,東日本大震災や,今後起こる可能性
ることにした。その装置とは,児童が津波発生
が高い南海トラフ地震などを考えると,この単
のメカニズムを視覚的にとらえ,かつ津波のイ
元で津波と津波災害についてふれておくことは
メージをしっかりともてる装置である。
とても重要であると考える。また,津波に備え
た防災教育は,津波のメカニズムなどを学習す
る機会とともに取り扱うことが有効ではないか
と考える。
学習のねらい
授業の実際
(1)津波発生装置の製作
●装置のコンセプト
どの小学校でも扱えるためには,簡単な仕
組みで費用があまりかからないことが大切であ
それでは,小学校理科の授業で,津波のよう
る。教材会社が市販している津波発生装置もあ
にめったに起こらない大自然の現象をどのよう
るが,一般にはとても高価である。
に扱えばよいだろうか。また,
児童に実感を伴っ
また,津波発生装置の多くは,閉じた空間に
て理解させるにはどのようにすればよいだろう
水を入れ,片方の壁を水平移動させる仕組み
か。これが,本研究のスタートである。
によって津波を発生させている。しかし,これ
津波のように大きなスケール,そしてめった
は実際の津波発生のメカニズムとは異なってい
に起こらない現象を児童に理解させるには,次
る。実際の津波は海底プレートが隆起すること
14
に起因するので,そのメカニズムに近い仕組み
④何人かの児童に,②と③の操作をさせる。
にしたい。
⑤台風などの風による波と,地震による津波を
●装置の製作
比較させ,その違いを発表させる。
〔外枠〕
⑥台風などの風による波と,地震による津波を
装置は,児童が視覚的に理解しやすいよう
比較した結果をまとめ,なぜそのような違い
に,
透明のアクリル板を用いることにした。様々
が起こるのかを考えさせたあとに解説する。
な厚さのアクリル板を検討した結果,厚さ2m
(3)授業後の児童の感想
mのものを採用した。この厚さだと,アクリル
授業後の感想では,多くの児童が「津波が
カッターを用いて加工が容易なうえ,仕上がり
どのようにして起こるかわかった」
,
「風による
もしっかりとした装置となるからである。外枠
波は,表面だけで高さも低く,小刻みな波であ
の大きさは,児童が扱いやすく,製作上,材料
る」
,
「津波は海の水全体が動き,波の長さは長
に無駄が出ない大きさにした。
く,威力がすごい。陸地まで波が上ってきた」
,
〔波を発生させる部分〕
「言葉だけではわからなかったところも,実験
津波は,地震の際に海底のプレート(岩盤)
装置を使った実験でよくわかった」と書いてい
が動くことにより発生する。プレートに見立て
た。また,風による波と津波との違いを理解し,
た板を紐で引っ張り上げることで,水面(水塊)
津波の恐ろしさを実感した様子であった。
が持ち上げられるという津波のメカニズムに近
いものとなるようにした。
〔陸地部分〕
陸地にはフラワースポンジを加工したものを
使用し,陸上の建造物などの模型は紙粘土で作
成した。フラワースポンジは,カッターナイフ
等で容易に成型できるため,入り組んだリアス
式海岸地形も容易につくることができる。
(2)授業の展開
おわりに
今回は,新たに製作した津波発生装置を使用
児童は,言葉での説明を聞く,あるいは津波
して,次のような展開で授業を実施した。
の解説図や動画映像を見たりするだけでは,津
①スマトラ島沖地震や東日本大震災の津波映像
波現象をなかなか理解できない。しかし,今回
を児童に視聴させながら,津波の実態や津波
の実践によって,簡単な津波発生装置ではある
のメカニズムについて解説する。
が,実際に津波実験を目の当たりすることで,
②津波発生装置の水面に,送風機を使って風を
風による波と地震による波の違いや津波の威力
送り,台風などの強い風によっておこる波を
を,児童が実感を伴って理解することができた
つくって観察させる。
と考えられる。
③海底プレートに見たてた,津波発生装置のア
なお,授業の中で津波実験を児童により体感
クリル板を紐で引っ張って津波を発生させ,
させるためには,グループに実験装置を一台ず
その様子を観察させる。
つ置いて行うのがよいであろう。■
15
Vol.
8
ジャン・アンリ・ファーブル
この博物学を,若者たちが愛す
るようにしたいのだ。
た状態にあるのではないかと推論した。次に,
●腐敗しない死体の謎
コブツチスガリがゾウムシをどのようにして捕
ファーブルは,昆虫の行動を詳細に観察して
獲するのかを観察した。歩き回っても,捕獲の
記述し,
「昆虫の詩人」とも呼ばれるフランス
瞬間には出会えなかった。ゾウムシを採集し,
の博物学者である。その手法は,動物行動学の
コブツチスガリに与えてみても捕獲行動を見せ
先駆けであり,いきいきとした魅力的な文章で
ない。びんに閉じ込めても結果は同じであった。
昆虫の生態を記した『昆虫記』は,100 年を経
獲物を抱えて飛んできたコブツチスガリは,巣
た現在も多くの読者を魅了している。
穴から少し離れた斜面に着地して獲物を引きず
ファーブルは,優れた観察力と適切な実験,
る。そこで,このときに獲物を取り上げて代わ
的確な推論で,昆虫の生態を追究した。コブツ
りのゾウムシを与えてみた。すると,コブツチ
チスガリというツチバチが幼虫の餌となるゾウ
スガリは,抵抗するゾウムシの前あしと中あし
ムシを捕獲する方法を調べた最初の研究の中に
の間にある胸の関節部分に巧みに針を刺し,ゾ
も,この特長は明確に見られる。
ウムシの動きを止めた。観察を何度か繰り返し
フランスの昆虫学者レオン・デュフールは,
たが,結果は同じで,刺す場所は毎回決まって
タマムシツチスガリというツチバチが捕獲した
いた。刺す場所に何か秘密がある。昆虫の運
タマムシが,ハチの産み付けた卵がかえって幼
動を支配する中枢,胸部神経節は3つあり,動
虫の餌になるまで新鮮な状態を保っていること
きを止めるには,3つを同時に傷つける必要が
を発見し,防腐剤のようなものを注入している
あった。タマムシやゾウムシはこの3つの神経
と推論した。この論文に感銘を受け,自分も昆
節が非常に接近していた。そこへ針を刺されて
虫学者を目ざそうと考えたファーブルは,一方
毒液を注がれると,一瞬で動きが止まる。ツチ
で,デュフールの推論に疑問を感じた。近くに
スガリの仲間は,そういった昆虫を選んで獲物
いないタマムシツチスガリに代えてコブツチス
にし,生きたままの状態で幼虫の餌にしていた
ガリを研究対象にし,コブツチスガリが捕獲し
のである。このコブツチスガリの話は,
『昆虫記』
たゾウムシの様子を詳細に観察するなかで,ゾ
第1巻に収録されている。
ウムシが排便していることに気づく。ゾウムシ
は生きている。そう考えて,薬品や電気で刺激
●貧困と学問
するとあしが動いた。死んでいれば,このよう
幼少期に祖父母の家に養子に出されるなど,
な反応は見られないはずで,ゾウムシは生きて
ファーブルの生い立ちは経済的に厳しいもので
いるのに動けない状態,運動神経を傷つけられ
あった。師範学校に1番で合格して給費生とな
16
り,最貧の状況は脱するが,教職を得たあとも,
ジャン・アンリ・ファーブルの生涯(略年譜)
裕福な生活には遠かった。生活の苦しみから脱
●
したいと考えたファーブルは,得意とする学問
1823南フランスのサン・レオンに生まれる。
にその道を求めた。あるとき,数学の指導を乞
1827マラヴェルの祖父母の家に預けられる。
われたファーブルは,独学で学びながら同時に
1830サン・レオンに戻り,学校に入学。
1834一家でロデーズの町に移る。王立中学に入学。
教授する方法で数学を習得し,その後,大学で
数学の学士号を取得するにいたった。
ライフワークである昆虫の研究を続けなが
ら,ファーブルは教師として長く働いた。博学
1840アヴィニョンの師範学校に入学。
1842師範学校卒業。カルパントラの小学校教師となる。
1843『節足動物誌』を読み昆虫学に目覚める。
1844結婚。数学,物理学,化学などを独学する。
1847数学の学士号を取得。
1848物理学の学士号を取得。
と実学に裏打ちされた授業は生徒には好評だっ
1849 コルシカ島のアジャクシオの高等中学教師となる。
たようである。さまざまな学校を歴任したが,
1851 博物学者のタンドンにすすめられ,博物学者を目
当時の大学教授は名誉職で俸給が低く,資産の
ないファーブルはその職を受けられなかった。
そこで,ファーブルは,色素取り出しの研究に
取り組んで成功する。アカネは,根から赤い染
植物学者のルキヤンと知り合い,植物採集をする。
ざす。
1853 病気となり,フランス本土に戻る。アヴィニョン
の高等中学の自習監督となる。
1854博物学の学士号を取得。
1855 博物学の博士号を取得。コブツチスガリに関する
論文を発表。
料を取り出すことのできる植物で,赤い色素を
1856 コブツチスガリの研究で,フランス学士院の実験
アカネから効率よく取り出す方法を見つけて特
1858アヴィニョンの高等中学教師となる。
許化すれば,大きな収入源になる。しかし,ド
イツで合成染料が発明されて,この発明はすぐ
に二束三文になってしまった。
生理学賞を受賞。
1861『農業化学の話』出版。植物学者のドラクールや経
済学者のミルと親しくなる。
1864『科学入門』シリーズの『物理学』を出版。
1866 ルキヤン博物館の館長となる。アカネの色素の取
り出しに成功。師範学校教授となる。
●『昆虫記』
1868 デュルイ文部大臣が訪問。デュルイの推薦でレジ
ファーブルはくじけなかった。初めての著書
1870教職を辞してオランジュに移る。
『農業化学の話』が出版社の社主の目にとまり,
本の出版を後押ししてくれた。ファーブルは,
教科書や入門書,啓蒙書などを数多く執筆し,
オン・ドヌール勲章を受ける。
1871『子どものための科学ものがたり』を出版。
1879 セリニャンのアルマスに移り,庭を研究室に昆虫
観察と執筆活動を行う。『昆虫記』第1巻を出版。
1885妻が死去。
1887再婚。フランス昆虫学会からドルフュス賞を授与。
文筆で生計を立てるようになる。
1905フランス学士院からジェニエ賞を授与。
ライフワークの集大成『昆虫記』は,ファー
1909『昆虫記』の第 11 巻の執筆に取りかかる。
ブルが 55 歳のときに第1巻が発行され,最終
刊となる第 10 巻が発行されるまで,およそ 30
年をかけて執筆された。学術論文でも図鑑でも
なく,観察や実験をとおして明らかにした昆虫
の生態に関するおもしろい事実が一般の人に読
めるように書かれている。ファーブルの生涯を
凝縮した大著は,さまざまな国で翻訳され , 読
み継がれている。■
1907『昆虫記』の第 10 巻を出版。最終巻となる。
1913ポワンカレ大統領が訪問。
1915永眠。
《参考文献》
1) イヴ・カンブフォール著 , 瀧下哉代・奥本大三郎著『ファーブ
ル驚異の博物学図鑑』2016,エクスナレッジ
2) 奥本大三郎『博物学の巨人 アンリ・ファーブル』1999,集英社
3) イヴ・ドゥランジュ著 ベカエール直美訳『ファーブル伝』
1992,平凡社
5) 砂田弘『ファーブル』
,1999,ポプラ社
6) ジャン・アンリ・ファーブル著 奥本大三郎訳『ファーブル昆
虫記』
,2005,集英社
17
日本の希少な生き物
Endaugered Wildlife
Species of Japan
アカウミガメ【カメ目ウミガメ科】
洋の産卵場所は日本のみである。5月〜8月末
頃の夜中から明け方にかけ,静かな砂浜に70
〜150個ほどの卵を産む。産卵シーズンになる
と,2週間おきに1〜5回の産卵をする。卵の
外見はちょうど白い卓球のピンポン玉のようで
あり,35〜38g の重さである。
雌は,上陸してから産卵場所を慎重に探し,
海水が及ばないところまで20m ほどはい上
がって卵を産む。
産卵前に場所が適しているかどうかを確かめ
【環境省レッドデータブック (2015) カテゴリー】
るため,
前肢で地表を削る作業(いわゆるクリー
絶滅危惧IB類(EN)
,近い将来における
ニング行動)を行う。そのあと,ピット堀りで
野生での絶滅の危険性が高いもの。
くぼみを作って体を安定させ,続いて,後肢を
力強く交互に動かして産卵するための穴掘りを
【分布】
始める。穴は深さ50〜60cm で,この深さは
回遊性のため,太平洋,インド洋,大西洋,
後肢をいっぱいに伸ばした長さに相当する。産
地中海など熱帯から亜熱帯の海に生息。
卵後,埋め戻した穴の上を体全体で押し固めて
から海へ帰る。クリーニング行動から穴の埋め
【特徴】
戻しまで,1時間ほどかかる。
甲長は,65〜100cm で,体重は70〜180
卵は砂の中であたためられて育つ。このとき
kg である。背甲は赤褐色や褐色,腹甲は淡黄
の温度が子ガメの性別に影響を与えている。温
色である。甲羅の形は平たく滑らかで,水の抵
度が29℃よりも低いと雄が多くなり,逆に高い
抗を減らす。前肢がオールのようになっており,
と雌が多くなる。50〜80日後に次々に孵化し
泳ぐときにはこの前肢で水をかき,後肢で舵を
ていき,4〜6日をかけて子ガメが出揃う。穴
とっている。雄は前肢の爪が鉤状に湾曲し,雌
の中で子が動き出すことで天床の砂が落ち,そ
より尾が長い。これは産卵地の沖合で交尾をす
れを踏み込んで少しずつ地上へ向かっていく。
る際に雌をつかむためである。
そして,地上に出た子ガメはいっせいに海に向
動物食に近い雑食で,前肢で海底の砂泥を舞
かって移動する。
い上げ,動きの遅い貝類や甲殻類を見つけて食
アカウミガメの産卵には静かで安全な環境と
べている。
十分なスペースが必要であるが,そのような砂
広範囲を回遊するウミガメであるが,北太平
浜は日本では減少している。■
18
イトウ【サケ目サケ科】
どにも生息するが,日本のイトウだけは降海性
をもち,3歳くらいになると汽水域や沿岸部に
移動する。降海後の生活についてはまだ十分に
解明されていない。3〜5月の産卵期になると
流れの緩やかな川を好んで上る。
雌だと6〜8歳で全長55〜60cm,雄だと4
〜6歳で全長40〜45cm の頃に性成熟を迎え
る。産卵期には雄は全体的に赤みを帯びる婚姻
色が現れる。浅い早瀬で産卵するが,他のサケ・
【環境省レッドデータブック (2015) カテゴリー】
マス類と違って産卵後も死なず,一生のうちに
絶滅危惧IB類(EN)
,近い将来における
何度も産卵することができる。寿命は15〜20
野生での絶滅の危険性が高いもの。
年以上ととても長い。
他のサケ・マス類と比べると成長がはるかに
【分布】
日本では北海道の一部の河川や湖沼。
遅く,全長1m を超えるには15年もかかると
いわれている。最近では1m を超えるものが珍
しくなってしまっている。
【特徴】
幻の魚と語られるイトウは減少の一途をた
全長が1〜1.
5m,体重が最大で45kg に達
どっている。もともと北海道の42水系と北東
する,日本最大の淡水魚である。1937年には
北の3水系で生息が記録されていたが,現在で
2m を超えるイトウが捕獲された記録がある。
は北海道の6水系でしか安定した生息が報告さ
イド,チライ,オビラメなどとも呼ばれる。
れていない。
頭部はやや上下に平たく,その背面が平坦で
イトウの減少の主な原因は環境破壊である。
ある。背面は黒褐色で小さな黒い点が散りばめ
イトウは河川の上流から海までの移動を繰り返
られており,腹部は銀白色である。尾びれの後
すため,道のりに河川構造物ができてしまうと
縁の切れ込みが深くなっている。
産卵するための移動などが妨げられてしまう。
歯は鋭く,両あごは頑丈である。大きなイ
この問題を解消するために魚道を設置している
トウは川に入ったカエルやヘビ,ネズミ,水鳥
が,うまく機能していないのではないかという
の子なども食べてしまうほどの悪食ぶりで知ら
指摘もある。また,人の手によって河川を直線
れ,アイヌの民間伝承ではシカや人を襲う怪魚
化されたり,河川沿いの木がなくなったりして
として登場している。
しまうことで,産卵場所や子の生育環境が減っ
イトウの仲間は,ロシアや中国,モンゴルな
ているという問題もある。■
19
□第 14 回なかよしメッセージ - 教科通信広告 _ 小学校 B5-1/2 / 4C 2016.5.26
り
まもなく締め切
14回
第
メッセージ
作品募集(2016年度)
「地球となかよし」という言葉から感じたり,考えたりしたことを,
写真(またはイラスト)にメッセージをつけて表現してください。 応募者全員に
参加賞が
もらえるよ!
小学生・中学生
(数名のグループ単位での応募も可)
応募期間
2016年 7月1日 ∼ 9月 30日
作品
テーマ
詳細は「優秀作品展示室」とあわせてホームページをご覧下さい。
前回
入選作品
応募資格
①身のまわりの自然が壊されている状況を見て感じたことや,自然環境
や生き物を守るための取り組み
②さまざまな人との出会いを通して,友好の輪を広げた体験,異文化交
流,国際理解に関すること
③その他,
「地球となかよし」という言葉から感じたり,
考えたりしたこと
◎主催/教育出版 ◎協賛/日本環境教育学会
◎後援/環境省,日本環境協会,全国小中学校環境教育研究会,毎日新聞社,毎日小学生新聞
*協賛・後援団体は昨年実績で,継続申請中です。
応募の決まりなど詳しくはホームページを見てね
http://www.kyoiku-shuppan.co.jp/
「地球となかよし」事務局
TEL. 03-3238-6862 FAX. 03-3238-6887
〒101- 0051 東京都千代田区神田神保町 2 −10
年の差 何才?
ぼくは,この夏,鹿児島県にある屋久島に行きました。
屋久島には,まるで今にも動きだしそうな不思議な形を
した屋久杉がたくさんありました。材木に適さないくら
いねじれたり曲がったりしているものや,伐採された後
の切り株や倒木の上に種が落ちて育ったもの。理由はさ
まざまです。その中で,ぼくは,まるで握手を求めてい
るようなコケむした大きな樹を見つけました。
「やあ,
よく来たね。」
「こんにちは。おじゃましています。きれ
いな森ですね。あの,ぼく達の年の差は何才でしょう
か?」
「さあ,何千才かのぉ?」そんな会話が,聞こえ
てきませんか?
小学理科通信 こぱ 〔2016年 秋号〕
2016年8月31日 発行
編 集:教育出版株式会社編集局
発 行:教育出版株式会社 代表者:小林一光
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