補足ファイル 医療イノベーションに向けた腸管微生物叢研究の展開 ―微生物叢移植とその発展型を巡る研究開発と実用化の動向― 本間 央之 3-3 米国での規制をめぐる議論 1-4) 2012 年 12 月の FMT 作業部会では、FMT に関する規制は不明確であるとのコンセンサスであった。米 国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は 2013 年 1 月、臨床試験実施にあたって問い 合わせた臨床医に、FMT の実施には新薬治験許可申請(Investigational New Drug Application:IND)が 必要であると勧告した。しかし、個別の議論以外に公式な文書がないため、米国消化器病学会(American Gastroenterological Association:AGA、会員数 1 万 7 千名)等 4 つの学会は 2013 年 3 月、FDA に FMT の ガイダンスを求める連名の書簡を出した。それに対し、FDA は 2013 年 4 月、FMT の重要性は認識しつつ も、予防や治療用の糞便は、定義上、生物学的製剤であって医薬品に該当し、IND は必要であるとの回答を 示した。 FDA は 2013 年 5 月、2 日間にわたるワークショップを開催し、臨床医や研究者らと情報・意見交換して、 FMT の複雑な性質に由来する課題を認識した。その後も、FMT の治療と研究を広く普及させたい AGA 等 が、膨大な作業を要する IND の簡素化を、FDA に要求した。そういった意見を受け、FDA は 2013 年 6 月、 標準治療に反応しない CDI には IND を必要としない旨の 7 月付けのガイダンスを発出した。しかしこのガ イダンスは、さらに検討する間の期間限定的なもののつもりであるとされた。2013 年 7 月には、AGA 等 5 つの学会(会員数単純合計 5 万 2 千名)が連名で、FMT への適切なアクセスを可能とすべく FDA と協力す ることを期待して、FMT の糞便提供者スクリーニングと糞便検査のコンセンサス・ガイダンスを FDA に書 簡で送付した。それでも 2013 年 12 月の AGA の討論誌では、『FDA の規制に埋もれて』という題で、FMT の規制の問題を巻頭特集し、FMT 用の糞便を医薬品として扱うのは高圧的で重荷であり、患者とイノベー ションにとってマイナスであるとした。FMT を実施する臨床医らは、FMT 用の糞便を医薬品としてではな く、手続きがより簡素な、移植用の臓器や組織のように扱うのが望ましいと考えている。 ところが FDA は 2014 年 3 月、糞便供給組織に制約をかけるようなガイダンス案を発出し、パブリックコ メントを求めた。IND を要しない標準治療抵抗性 CDI 治療において、糞便提供者は患者または治療医師に知 られていること、および提供者スクリーニングと糞便検査は治療医師の指示のもと実施されること、が必要 とした(2014 年 8 月現在、ガイダンス案は最終化されていない) 。これらの制約は、OpenBiome のような糞 便供給機関の操業を停止させるようなものであり、「理解しがたい」等の声もあるが 3)、OpenBiome は FDA と生産的な対話を持ったようである4)。 参考文献 1) Gut Microbiota for Health:http://www.gutmicrobiotaforhealth.com/ 2) “Vaccine and Related Biological Product Guidances.”&“Public Workshop: Fecal Microbiota for Transplantation.” FDA:http://www.fda.gov/ & The American Gastroenterological Association:http://www.gastro.org/ 3) Ratner M.“Fecal transplantation poses dilemma for FDA.”Nature Biotechnology 2014;32(5):401-2. 4) “FDA struggles to regulate fecal transplants.”CBS News/AP 2014 年 7 月 26 日:http://www.cbsnews.com/news/fdastruggles-to-regulate-fecal-transplants/ STT146_レホ ート6_補足ファイル.indd 1 14/08/28 13:40
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