最終提言 - 東京都教育委員会

東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議
最終提言
平成27(2015)年12月
はじめに
オリンピック・パラリンピックは、開催都市と国に大きな社会変革をもたらし、
とりわけ若者や子供たちを鼓舞し、勇気と感動を与えてきた。
来年2016年のリオデジャネイロ大会が終わると、次は東京へと世界の注目が
集まる。東京は2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催都市とし
て、子供たちがオリンピック・パラリンピックの精神を学習し、そのすばらしさを
体感できるような、東京ならではの多彩な教育プログラムを推進していく必要があ
る。
歴史上、本格的なオリンピック教育が開始されたのは、1964年の東京大会と
言われている。このいわば日本発の教育プログラムを更に充実、深化させ、後世に
語り継がれるようなオリンピック・パラリンピック教育を展開し、新たな歴史を開
いていくことが期待される。
本有識者会議は、昨年10月の発足以降、東京都におけるオリンピック・パラリ
ンピック教育の目標と内容について検討し、子供たちにどのような力を育み、何を
レガシーとして残していくかについて、11回にわたり議論を重ねてきた。
その結果、子供たちがスポーツの持つ力や価値を実感し、スポーツが平和な社会
の実現と持続可能な社会づくりに貢献することに気付くこと、また子供たちの自己
実現を促し、これからの共生社会や国際社会を担う資質・能力を身に付けることな
どについて、オリンピック・パラリンピック競技大会の機会を最大限に活用すべき
であるとの共通認識を得た。
今般、これまでの議論を整理し、最終提言として公表する。
今後、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以
下「組織委員会」という。)が取りまとめる予定の「アクション&レガシープラン」
に、本提言を踏まえた東京都の取組内容を確実に反映させてほしい。
あわせて、東京の子供たちが、本会議が提言するオリンピック・パラリンピック
の学習を通じて更に大きく成長することを、切に期待している。
平成27(2015)年12月
東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議
目 次
第1章 オリンピック・パラリンピックの価値・精神と東京2020大会ビジョン
・・・・・・・・・1
第2章 東京 2020 大会ビジョンとオリンピック・パラリンピック教育の特長
1 日本の良さを子供たちに伝え、世界へアピール
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2 多様性を認め合う「心のバリアフリー」を子供たちに浸透
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
3 震災・災害からの復興に果たすスポーツと文化の役割を子供たちとともに発信
第3章 東京のオリンピック・パラリンピック教育の目標と基本的視点
1 オリンピック・パラリンピック教育の目標
・・・・・・2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2 オリンピック・パラリンピック教育の基本的視点
(1) 全ての子供が大会に関わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(2) 体験や活動を通じて学ぶことを重視する
(3) 計画的・継続的に教育を展開する
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第4章 オリンピック・パラリンピック教育の具体的な推進策
1 招致決定からこれまでの東京都における取組
2 今後の取組に当たっての基本的枠組
(1) 4つのテーマ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(2) 4つのアクション
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(3) 「4×4の取組」による教育実践の展開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
(4) オリンピック・パラリンピック教育の段階的な推進
3 学習・教育活動の進め方
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
4 重点的に育成すべき5つの資質
(1) ボランティアマインド
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(2) 障害者理解
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(3) スポーツ志向
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(4) 日本人としての自覚と誇り
(5) 豊かな国際感覚
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
5 5 つの資質を伸ばすための 4 つのプロジェクト
(1) 東京ユースボランティア
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(2) スマイルプロジェクト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(3) 夢・未来プロジェクト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
(4) 世界ともだちプロジェクト( Global Friendship Project )
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
6 オリンピック・パラリンピック教育を活発化させる仕組みづくり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
第5章 オリンピック・パラリンピック教育を支えるツールと基盤
1 学習読本と映像教材(補助教材)
2 教員研修の充実
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
3 教育をサポートするウェブサイトの構築
4 学校を支援するコーディネート機能
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
第6章 組織委員会や関係機関との連携・協働
1 組織委員会や関係機関との連携・協働の必要性
2 大会関連ボランティアの体験機会の確保
3 文化プログラムとの連携
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
4 大会のオフィシャルパートナー等が実施する教育プログラムとの連携
第7章 オリンピック・パラリンピック教育の3つのレガシー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
参考資料
○ 東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議設置要綱
・・・・・・・・・・・・・28
○ 東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議委員名簿
・・・・・・・・・・・・・29
第1章 オリンピック・パラリンピックの価値・精神と東京2020
大会ビジョン
オリンピック・パラリンピック教育を進めるに当たっては、国際オリンピック委
員会(以下「IOC」という。)や国際パラリンピック委員会(以下「IPC」と
いう。)が示しているオリンピック・パラリンピックの価値・精神に加え、202
0年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」と
いう。)ビジョンが示す3つの基本コンセプト等を踏まえることが必要である。
ま た 、 I O C の 示 す オ リ ン ピ ッ ク の 3 つ の 価 値 ( 卓 越 Excellence 、 友 情
Friendship、敬意/尊重 Respect)と、IPCの示すパラリンピックの4つの価
値(勇気 Courage、決断力 Determination、平等 Equality、鼓舞 Inspiration)
を、東京2020大会が世界に示す価値として子供たちに伝えていくべきである。
オリンピック・パラリンピックの価値・精神
○
オリンピズムは肉体と意志と精神の全ての資質を高め、バランスよく結合させる
生き方の哲学である。オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の
創造を探求するものである。
○ オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励するこ
とを目指し、スポーツを人類の調和の取れた発展に役立てることにある。
(以上、オリンピック憲章より抜粋)
※
IOCはオリンピック精神の中でも、卓越 Excellence、友情 Friendship、敬意/尊重 Res
pect が3つの中心的な価値であると強調している。
※
IPCはパラリンピックの価値として、勇気 Courage、決断力 Determination、平等
Equality、鼓舞 Inspiration の4つを掲げている。
東京2020大会ビジョン
○ スポーツには、世界と未来を変える力がある。
1964年の東京大会は、日本を大きく変えた。2020年の東京大会は、
① 全員が自己ベスト
アスリートだけでなく、全ての人々が東京2020大会を単に楽しむだけでな
く、それぞれのやり方で参画し、ベストを尽くす。
② 多様性と調和
世界は多様であり、均質ではない。人類も多様であり、均質ではない。これら
の違いを肯定し、互いに認め合うことで、平和を維持し、更なる発展を遂げる。
世界中の人々がそのことに気づく契機となる大会、共生社会を育む大会としたい。
③ 未来への継承
今や成熟国家となった日本が、東京2020大会で世界にメッセージを発出し、
世界の変革を促すような大きな課題に対し、計画当初の段階から問題意識を持っ
て取り組み、レガシーとして未来につなげたい。
を3つの基本コンセプトとし、史上最もイノベーティブで、世界にポジティブな改
革をもたらす大会とする。
(以上、「東京2020大会開催基本計画(2015 年 2 月)」から要約)
-1-
第2章
東京2020大会ビジョンとオリンピック・パラリンピック
教育の特長
東京が推進していくオリンピック・パラリンピック教育は、以下の3点をその
背景や意義として特長付けることができる。
1
日本の良さを子供たちに伝え、世界へアピール
東京2020大会は、成熟した大都市東京が、日本の伝統・文化や、「おも
てなし」、「和の精神」などの日本的な価値観、更に最先端技術等を世界へ「発
信」する、またとない機会である。
そのため、大会に向け、子供たちが自国の文化を学び、日本人としての自覚
と誇りを身に付け、日本の良さを世界へ示す意欲と力を育むことが不可欠であ
る。
更に、世界各国の子供たちとの交流を促進し、異文化を尊重し理解する態度
を身に付け、国際親善と平和な社会の発展に貢献できる意欲と行動力を育てる
ことが重要である。
2
多様性を認め合う「心のバリアフリー」を子供たちに浸透
大会ビジョンの一つ「多様性と調和」を実現する上で、パラリンピック競技
大会の成功は極めて重要な意義を持ち、東京2020大会全体に対する国内外
からの評価においても、極めて重要な要素となる。
また、同一都市として世界で初めて2度目のパラリンピック競技大会を開催
する東京2020大会は、大会の新たな価値と意義を見いだす契機として、東
京で暮らし、東京を訪れる全ての人々が、夢と希望、幸せを実感できる社会を
実現していくものでなければならない。
そのためには、都市全体のバリアフリー化を一層促進することはもとより、
障害者理解の促進を通して、多様性を尊重し、障害のある人や外国人と共に生
きる「心のバリアフリー」を子供たちに浸透させることが重要である。
3
震災・災害からの復興に果たすスポーツと文化の役割を子供たちとともに発信
1964(昭和39)年の東京大会も、東京2020大会も「復興」が大会
テーマの一つである。
とりわけ、スポーツや文化が、震災や災害からの復興に果たす役割について
発信することは、日本と同様、災害により甚大な被害を受け、復興を目指す世
界の国々に勇気と活力を与えるとともに、日本が世界から受けた支援への感謝
の念と復興した姿を示すことにつながる。
また、被災地の学校や子供たちと連携して教育活動やイベントに取り組むこ
とは、日本独自の新たなオリンピック・パラリンピック教育を世界に示すこと
にもなる。
-2-
第3章
東京のオリンピック・パラリンピック教育の目標と基本的視点
1
オリンピック・パラリンピック教育の目標
「オリンピック・パラリンピックの価値・精神」及び「東京2020大会ビ
ジョン」などを踏まえ、東京のオリンピック・パラリンピック教育を通して次
のような人間を育成していくことを目標とすべきである。
(1) 自らの目標を持って自己を肯定し、自らのベストを目指す意欲と態度を備
えた人
(2) スポーツに親しみ、「知」、「徳」、「体」の調和のとれた人
(3) 日本人としての自覚と誇りを持ち、自ら学び行動できる国際感覚を備えた人
(4) 多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる人
2
オリンピック・パラリンピック教育の基本的視点
上記の目標とすべき人間像を踏まえ、オリンピック・パラリンピック教育を
具体的に進めていく上で、重視すべき視点は次の3点である。
(1)
全ての子供が大会に関わる
全ての子供が、発達段階や興味・関心に応じて、オリンピック・パラリンピ
ックに何らかの形で関わり、それらを通して、オリンピック・パラリンピック
の価値や意義を学ぶことが大切である。
そのために、例えば、来年のリオデジャネイロ大会期間中や東京2020
大会期間中に催されるライブサイトでの観戦、開催○年前、○日前といった
節目(マイルストーン)を捉えた行事や、オリンピック・パラリンピックの
文化プログラムへの参加、沿道での聖火リレーの応援、競技の観戦、大会関
連ボランティア等、今後展開される多様な機会を最大限活用すべきである。
(2)
体験や活動を通じて学ぶことを重視する
子供たちがオリンピック・パラリンピックについての知識を習得するだけで
なく、実際に体験や活動することを通じて学びを深めていくことが重要である。
例えば、上記1の例のほか、オリンピックやパラリンピック・障害者スポー
ツの競技を実際に体験すること、地域清掃や街中緑化の活動に関わり、地域行
事を支えるなどの身近なボランティア活動、更には在京留学生や外国人、海外
の学校等と国際交流を進めることなどが挙げられる。
(3)
計画的・継続的に教育を展開する
東京2020大会と、更にその先を見据え、計画的・継続的に教育を展開
していくことが重要である。
例えば、現在の小学校第5学年が大会時には高校第1学年となり、現在の
中学校第2学年は高校を卒業して1年目の年を迎える。大会までにそれぞれの
子供たちに何をどのように教え、体験させるか、系統的できめ細かな取組が求
められる。
-3-
また、この取組を一過性のものとせず、大会後も継続・発展させていく取
組が必要である。
第4章
1
オリンピック・パラリンピック教育の具体的な推進策
招致決定からこれまでの東京都における取組
(1)
オリンピック・パラリンピック教育推進校の指定
都教育委員会は、平成26(2014)年度からオリンピック・パラリン
ピック教育推進校(以下「推進校」という。)を300校指定し、平成27(2
015)年度からはこれを600校に拡大した。
推進校では、オリンピック・パラリンピック精神の学習、スポーツに親し
む取組、国際理解教育や国際交流、日本の伝統・文化の継承、障害者スポー
ツの理解等の学習に取り組んでいる。
推進校におけるこれらの成果を、私立学校も含め多くの学校に普及すると
ともに、更に教育内容を充実させていくことが必要である。
(2)
オリンピアン・パラリンピアン等の学校派遣
東京都では、オリンピアン、パラリンピアン、外国人アスリート等を学校
へ派遣し、対話やスポーツを通して子供たちと直接、交流事業を実施してい
る。オリンピアン等を通じて、児童・生徒がオリンピック・パラリンピック
のすばらしさを実感し、夢や希望を持ち続けることができるようにするとと
もに、ボランティアマインド、障害者理解、国際感覚を培う取組を進めてい
る。
このような取組は、今後も着実に展開していくことが求められる。
(3)
学習読本と映像教材(補助教材)の作成に着手
都教育委員会は、小学校、中学校、高等学校向けに、オリンピック・パラ
リンピックについての基礎的な理解や、今後の諸活動への関心・意欲喚起の
ための学習読本を作成中である。また、同様の趣旨で映像教材の作成にも着
手している。
これらを平成28(2016)年度から都内全ての学校で活用することに
より、各学校におけるオリンピック・パラリンピック教育を更に加速させて
いくべきである。
2
今後の取組に当たっての基本的枠組
スポーツを通じて平和でより良い世界の構築に貢献することを究極の目標
とするオリンピック・パラリンピックの精神の学習は、オリンピック・パラリ
ンピック教育の基本である。
オリンピック・パラリンピック教育を展開するに当たっては、この「オリン
ピック・パラリンピックの精神」に加え、IOCが主導し、オリンピック精神
-4-
を推し進める運動であるオリンピズムの3つの柱「スポーツ」、
「文化」、
「環境」
を合わせた4つのテーマを設定し、
「学ぶ」
「観る」
「する」
「支える」の4つの
アクションを組み合わせた多彩な取組(以下「4×4の取組」という。)を促
していくことを基本にすることが望ましい。
この「4×4の取組」は、子供の自己肯定感やボランティア活動への興味・
関心の向上を図る、あるいは外国語でコミュニケーションをとることへの意欲
を高めることなどにもつながるものであり、東京2020大会を絶好の機会と
して、既存の教育活動のねらいを生かし、充実させることも含め、様々に展開
されることを期待する。
(1)
4つのテーマ
① オリンピック・パラリンピックの精神
オリンピック・パラリンピック競技大会の究極の目標は、平和でより良
い世界の構築に貢献することである。これは、教育基本法及び学校教育法
における教育の目標の一つである「伝統と文化を尊重し、それらを育んで
きた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発
展に寄与する態度を養うこと」にもつながるものである。このため、卓越、
友情、敬意/尊重の3つの中心的価値を実現し、人間の尊厳保持に重きを
置いて、スポーツを通じ、平和な社会を推進することを目指すオリンピッ
クの精神(オリンピズム)と、勇気、決断力、平等、鼓舞の4つの中心的
価値を具現化するパラリンピックの精神は、
「人間尊重の精神と生命に対す
る畏敬の念を培う」
「豊かな心を育む」ことを目標とする道徳をはじめとし
た学校教育との親和性が非常に高いと言える。
今後、これらのオリンピック・パラリンピックの持つ精神や意義は、オ
リンピック・パラリンピック教育全体を貫く基本理念として、全ての教育
活動の中で、関連付けて学習することが重要である。
また、具体的な教育内容では、組織委員会や関係機関とも連携しながら、
オリンピック休戦センターの活動、オリンピック休戦賛同の壁など、オリ
ンピックが平和な社会の構築に貢献してきた様々な側面についても学ぶ
ことが望まれる。
② スポーツ(オリンピック競技、パラリンピック競技・障害者スポ-ツ)
スポーツを人類の調和のとれた発展に役立てることはオリンピック精
神の目的とされており、スポーツは正に人間の知・徳・体の均衡のとれた
総体としての発達・形成にとって不可欠なものである。
また、努力して達成することから得られる喜び、フェアプレーの精神な
ど、スポーツそのものが教育的な価値を有し、倫理的な生き方を探究する
動機を与えてくれる。
こうしたスポーツの意義や精神を学ぶことが、保健体育・体育科の目標
である「生涯にわたって豊かなスポーツライフを継続する資質や能力を育
てるとともに健康の保持増進のための実践力の育成と体力の向上を図り、
明るく豊かで活力ある生活を営む態度を育てる。」ことにつながる。
更には、障害者スポーツの体験や特別支援学校の児童・生徒と公立小・
-5-
中・高校生との交流などを通じ、障害者理解教育を充実させていくことも
重要である。
③ 文化(日本文化、国際理解・交流)
オリンピック・パラリンピックは、世界最大のスポーツの祭典であると
同時に、文化の祭典でもある。
東京2020大会においても、文化プログラムを展開することにより、
我が国の文化を再認識し、世界に発信していく絶好の機会になる。
我が国には、長い年月を経て育まれた伝統・文化があり、それらは、
「技」
や「心」の精錬を通じ、深く人間形成に根差し受け継がれている。また、
いわゆる「クールジャパン」と呼ばれる若者のファッション、漫画やアニ
メ、安全・安心でおいしい食材や医薬品など、世界で高く評価されている
現代の文化や技術もある。オリンピック・パラリンピックを通じて、それ
らのすばらしさを、次代の子供たちへと引き継いでいくようにするべきで
ある。
一方、東京2020大会に向けて、東京では、外国人との交流機会が飛躍
的に増大することが予想される。こうした中で、異文化に対する理解を深め、
異なる文化を持つ人々と認め合い、広い視野を持ち共に生きていく態度など
を育成することは、子供たちにとって極めて重要なことである。
そのためには、オリンピック・パラリンピックの参加予定国の歴史、生
活・習慣・価値観などについて学ぶことを通じて、相互に共通している点
を見付けていく態度や、異なる価値観を尊重し合う態度などを育成してい
くべきである。
同時に、海外の学校との姉妹校提携等の国際交流活動により、子供たち
をはじめ多くの人々と積極的にコミュニケーションをとろうとする態度
を培うことが重要である。更に、こうした活動を通じて、日本のすばらし
さ、伝統・文化の価値、世界に誇る最先端技術等の理解を深め、発信でき
るようにすることも大きな意義がある。
④ 環境(持続可能性)
近年、IOCは、環境保全を重視し、大会開催計画の策定、施設建設や
大会運営において、自然や生態系への影響を最少限にし、エネルギーや資
源の節減、クリーンな廃棄物処理とリサイクルの徹底を図る取組等を推進
している。
また、ユネスコにおいては、現在、世界が直面している資源エネルギー
や食料問題等の課題を相互に関連付けるとともに、自らの暮らしや地域の
課題と結び付けて考え、将来にわたって安心して生活できる持続可能な社
会の実現に向けて取り組むための教育(ESD)を提唱しており、国内及
び都内においても、ESDを推進する学校が、年々増加している。
更に、東京2020大会の運営に、持続可能性への取組が強く求められ
るようになり、日本が誇る最新の環境技術が、新たな時代を画す可能性も
秘めている。
こうしたことから、オリンピック・パラリンピック教育において、環境
-6-
保全や持続可能な開発という課題は欠くことのできないテーマと言える。
オリンピック・パラリンピックを通じて環境問題について学習すること
で、次代を担う子供たちが、自主的・積極的に環境保全活動に取り組み、
世界の人々と協調し共存できる持続可能な社会の担い手になっていくこと
を期待する。
(2)
4つのアクション
今後4年間にわたって展開されるオリンピック・パラリンピック教育で何
よりも重要なのは、子供たちがオリンピック・パラリンピックに関心を持ち、
自ら意欲的に学び続けていくことである。このため、多様な学習形態を取り
入れるべきであり、とりわけ活動や体験を重視する必要がある。
こうした観点から、次の4つのアクションで展開を図っていくべきである。
① 学ぶ(知る)
② 観る
③ する(体験・交流)
④ 支える
まずは、子供たちに、4つのテーマについて学習する基盤が培われるよう、
基礎的な知識及び技能を習得させる(「学ぶ(知る)」)ことが必要である。
その上で、子供たち自身が、興味・関心を持ち、自ら抱いた疑問や課題を解
決するためには、実際に観たり(「観る」)
、体験や交流をしたりする(「する
(体験・交流)」)といった活動を重視することが重要である。
特に、4年間をかけて、子供たち自身が何らかの形で大会を支えていこう
という意識を醸成することが、大会の成功のみならず、子供たち自らのレガ
シーの形成にもつながっていく。このことから、「支える」というアクショ
ンは、ボランティアや社会貢献の心の醸成を想定し、4つのテーマを横断し
て考えるべきである。
(3)
「4×4の取組」による教育実践の展開
オリンピック・パラリンピック教育を効果的に進めるためには、「4×4
の取組」により、多彩な教育実践を展開していくことが望まれる。
この「4×4の取組」は、
「基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変
化しようと、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行
動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「自らを律しつつ、他人とと
もに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性」、「たく
ましく生きるための健康や体力」といった力を育む学習指導要領の理念を、
オリンピック・パラリンピック教育を通じて実現することを目指していくも
のである。
このため、各学校におけるオリンピック・パラリンピックの学習は、これ
まで行ってきた教育実践を活用しながら、新たな取組を工夫して展開するこ
とが望ましい。
-7-
【図1】「4×4の取組」の展開イメージ
4つの
テーマ
オリンピック・
パラリンピックの
精神
スポーツ
文化
環境
4つの
アクション
学ぶ
(知る)
観る
する
(体験・交流)
支える
4×4=16種の取組を展開
(注)
は例示
-8-
【図1-2】
「4×4の取組」の具体的な実践例
学ぶ
(知る)
○
オリンピック・
パラリンピック
の精神
ス ポー ツ
オリンピ
ック競技
パラリン
ピック
競技・
障害者
スポーツ
運動会や体育祭をオリンピックに関 <異校種間の連携
連付けて企画したり、外部指導者を招い >
てオリンピックの各種目を体験したり ○ 中学生が小学
することなどにより、体育授業の充実を
生のスポーツ
図り、体力向上を図る。
活動や運動会
(保健体育、特活)
をサポートす
る。(特活)
○ 高校生が中学
校の部活動を
○ パ ラ リ ン ピ ッ ○ 外部指導者を招いてパラリンピック
サポートする。
クの歴史、意義、
の各種目や障害者スポーツを体験した
人物、競技種目等
り、体育授業の充実を図ったりすること
や、障害者スポー
などにより、障害者理解を促進するとと
ツのルールなど
もに、体力向上を図る。
を学ぶ。(総合)
(保健体育、特活)
○
○
東 京 や 郷 土 の ○ 外部人材や民間芸術文化団体と連携
伝統文化・芸能を
し、東京や日本の伝統文化・芸能等を鑑
学ぶ。(国語、社
賞するとともに、実際に体験することに
会、音楽、道徳、
より、深く理解する。(特活、総合)
外国語、総合)
○
世界の国々の
歴史・文化・芸能
等の特徴や多様
性を学ぶ。
(社会、音楽、道
徳、外国語、総合
など)
○
大会の歴史と環 ○ 環境分野で先進的な取組を行う企業が ○ 地域の美化活
境、大会で使われ
主催する展示会や工場の見学・体験などを
動、ゴミ減量、
る環境テクノロジ
通じて、日本の最新の環境テクノロジーを
節電、リサイク
ーなど、オリンピ
学ぶ。
(社会、総合)
ル活動等を通
ックと環境との関 ○ 東京2020大会の会場予定地・周辺
じて、環境を守
わりについて学
等を見学し、大会運営や街づくりにおけ
ることへの意
ぶ。
(国語、社会、
るバリアフリーへの対応を学ぶ(社会、
識を高める。
道徳、総合など)
総合、特活)
(総合、特活)
文化
国際理解
・交流
[注]
する
支える
(体験・交流)
歴史、意義、人 ○ マイルストーンイベント(オリンピック・パラリンピックに関わる特
物 、 国 際親 善 や
別日に開催される行事)の機会や、教育庁、オリンピック・パラリンピ
世 界 平 和に 果 た
ック準備局、組織委員会等が主催する行事に参加し、オリンピック・
してきた役割
パラリンピックへの理解を深める。(総合、特活)
等 、 オ リン ピ ッ ○ リオデジャネイロ大会期間中のライブサイトに参加した
ク ・ パ ラリ ン ピ
り、その運営をボランティアとして支えたりする。(総合)
ッ ク の 精神 や 価 ○ 1964 年当時の資 ○ 子供たちが学習した成果を、被災地
値について学
料映像等を鑑賞
をはじめ各地の子供たちに、交流や展
ぶ。
し、大会がもたら
示等を通じて披露し、大会への気運を
(各教科、道徳、
す社会への影響等
醸成する。
特活、総合)
について学ぶ
(総合)
(社会、総合)
○ 陸上競技が、古
代オリンピック、
近代オリンピック
競技大会で主要な
競技として発展し
た成り立ちを学
ぶ。
(保健体育)
日本
文化
環境
(持続可能性)
観る
○
海外の学校や団体と様々な文化交流
を進める。(総合)
○ 地域や近隣の大学等と連携し、在日外
国人や留学生等との交流により、日本の
良さを発信する。
(社会、外国語、総合)
○
「おもてなし
親善大使」育成
塾(中・高校生)
や「外国人おも
てなし語学ボラ
ンティア育成講
座」等の各種講
座等に参加し、
東京の魅力への
理解を深め、お
もてなしの心や
態度を身に付け
る。
「総合」は「総合的な学習の時間」を、「特活」は「特別活動」を示す。
以下、同じ。
-9-
(4)
オリンピック・パラリンピック教育の段階的な推進
―準備期と3つのフェーズー
東京におけるオリンピック・パラリンピック教育は、リオデジャネイロ大
会が終了し、次はいよいよ東京という国内の気運が盛り上がる平成28(2
016)年9月頃から本格的にスタートさせることが適当である。
東京2020大会の開催までに現時点から4年間をかけて、段階的に深
化・拡充させつつ、展開していくべきである。
大会準備の進捗や大会までの様々なイベント等の開催を考慮し、リオデジ
ャネイロ大会までの準備期と、その後の期間を3つのフェーズに分けて段階
的に展開することが望まれる。
① 準備期 [~平成28(2016)年8月]
平成27(2015)年度は、オリンピック・パラリンピック教育推進
校600校で、先導的・試行的な取組を進める期間としてきた。
平成28(2016)年リオデジャネイロ大会終了までをオリンピッ
ク・パラリンピック教育を本格的にスタートさせる前の準備期間として位
置付ける。このため、同年4月からは、全校でオリンピック・パラリンピ
ック教育を開始し、本格的な取組に向けた準備を進めていくことが望まし
い。
② 第1フェーズ [平成28(2016)年9月~平成29(2017)年]
平成28(2016)年リオデジャネイロ大会終了後を、各学校がオリ
ンピック・パラリンピック教育を本格的に開始する時期として位置付ける。
この時期から平成29(2017)年までの約1年半の間で、各学校の特
色を生かし、「4×4の取組」による多彩な教育活動が展開できるよう、
創意工夫をし、軌道に乗せることが望ましい。
③ 第2フェーズ [平成30(2018)年~平成31(2019)年]
大会が近付いてくるこのフェーズでは、オリンピック・パラリンピック
参加国・地域(以下「大会参加国」という。)への理解・交流等を深めて
いくとともに、障害者理解やボランティア活動などの取組を一層活発化さ
せていく期間となる。
この期間には、ほとんどの競技会場がしゅん工するとともに、各競技の
テストイベントが組織委員会等により催され、各国選手団の事前キャンプ
や大会関連ボランティアの募集、多彩な文化プログラムの展開など、東京
2020大会を控え、盛りだくさんのイベントが見込まれる。
これらのイベント等は、子供たちが各競技を観戦・応援するほか、選手
団と交流したり、ボランティアに参加したりするなど、本番さながらの雰
囲気が味わえる好機である。
また、平成31(2019)年9月からはラグビー・ワールドカップが
日本で開催される。世界の人々が注目し、東京にも多くの外国人が訪れる
ことが予想され、オリンピック・パラリンピック教育で子供たちが培って
きた力を本格的に実践する最初の大きな機会となる。このため、この大会
を東京2020大会と一体のものとして最大限、有効に活用していくべき
- 10 -
である。
④
第3フェーズ [平成32(2020)年]
開催年には、選手村での歓迎イベントや競技会場での観戦・応援、大会
ボランティアや観光客をサポートする都市ボランティアへの参加、文化プ
ログラムやライブサイトなど大会関連イベントへの参加など、大会や関連
事業を直接・間接に、子供たちが支え、体験するという、オリンピック・
パラリンピック教育のピークを迎える。
4年間にわたるオリンピック・パラリンピック教育の集大成でもあり、
これまでに培ってきた資質・能力、あるいは、大会での感動体験等によ
り、子供たち一人一人の心と体に、その後の人生の糧となるレガシーが
形成されることが望まれる。
- 11 -
【図2】段階的な推進
※
-準備期と3つのフェーズ-
東京2020大会に向け、オリンピック・パラリンピック教育を「4×4の取組」で実
践するとともに、準備期と、更に段階的に3つのフェーズに分けて展開する。大会開催時
には、大会に直接・間接に関わる「観る」「する」「支える」に収れんさせていく。
- 12 -
3
学習・教育活動の進め方
平成28(2016)年度から都内の全ての学校でオリンピック・パラリン
ピック教育に取り組んでいくべきである。
オリンピック・パラリンピック教育を展開するに当たっては、各学校の特色
や校長の経営方針等に基づいて、年間指導計画を作成し、年間35時間程度を
目安とし、学校全体で組織的・計画的に実践していく必要がある。
また、これまで述べてきたように、オリンピック・パラリンピックは、教材
の宝庫であり、特定の教科等に偏ることなく、各教科、道徳、外国語活動、総
合的な学習の時間及び特別活動(特別支援学校では自立活動も含む。)並びに
教育課程外の教育活動である部活動等を含む全教育活動で展開することが重
要である。
4
重点的に育成すべき5つの資質
オリンピック・パラリンピック教育の推進に当たっては、第3章で述べた目
標を実現するため、全校で多彩な「4×4の取組」を展開する中で、「ボラン
ティアマインド」「障害者理解」「スポーツ志向」「日本人としての自覚と誇
り」
「豊かな国際感覚」の5つの資質の育成に特に力を入れていくべきである。
(1)
ボランティアマインド
「多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる
人間」を育成していくためには、人と人との関わりの中で、子供たちが互い
を尊重する豊かな心を育むことが大切である。特に、少子高齢化が一層進む
これからの時代にあっては、社会性や規範意識、思いやりなどの心を持って、
高齢者や障害者をはじめとする他者に接する力を身に付けさせることがま
すます重要となる。
社会に貢献しようとする意欲や他者を思いやる心などのボランティアマイ
ンドを醸成することは、共生社会の構成員となる子供たちにとって不可欠な要
素であるとともに、自尊感情を高める上でも非常に効果があると考えられる。
ところが、平成25年の内閣府の調査によると、自尊感情に関する肯定的
な回答の割合や、ボランティア活動に興味があると回答した若者の割合が、
我が国は諸外国と比べて低いという結果が表れている。
こうした現状を踏まえ、4つのアクションのうち、特に「支える」活動を通
じ、発達段階に応じてボランティアに関わる取組を推進することで、継続的・
計画的にボランティアマインドを醸成し、自尊感情を高めていく必要がある。
とりわけ、現在の高校生は、平成32(2020)年に大学生あるいは社
会人となることから、組織委員会や都が募集する東京2020大会関連ボラ
ンティアへの参加など、大会成功の重要な役割を担うことが大いに期待され
る世代でもある。
こうした取組を重ね、子供たちのボランティアマインドを高めていくこと
により、子供たちが原動力となって、将来の日本がボランティア文化が進ん
だ社会へと変わっていくことも期待できる。
- 13 -
【図3】ボランティアマインドを醸成する具体的実践例
平成 28 年度
中学生
小学生
(2016 年)
○
学ぶ
(知る)
支える
平成 32 年度
(2020 年)
思いやりの心を届け
よう
(道徳)
相手の置かれている
状況や困っているこ
と、悲しい気持ちでい
ることなどを自分のこ
ととして想像すること
を通して、相手の気持
ちを考える行動につい
て理解を深める。
○ 街をきれいにしよう
(特活)
「おもてなし講座」
を通して学んだ心や態
度を発揮し、地域の公
園や道路の清掃に参加
する。
また、地域の方々と
協力し、グリーンカー
テンの栽培や花いっぱ
い運動に参加する。
○ 避難所運営で何がで ○ 大会への貢献につい
きるか考えよう
て考えよう
(総合、特活)
(人間と社会、特活)
保護者や地域の方々
これまでのオリピッ
と一緒に、避難所運営
ク・パラリンピックの
計画を作成し、地域の
大会運営に取り組んで
方々と関わることの大
きた方からの話を聞
切さを実感するととも
き、自分たちの貢献が
に、地域の一員として
大会の成功につながっ
貢献したいという意識
ていくことを学ぶ。
や態度を身に付ける。
○ 歓迎セレモニーのボ ○ 各種のスポーツ関連
ランティアとして参加
イベントにボランティ
しよう
アとして参加しよう
(特活)
(人間と社会、特活)
地域行事やスポーツ
リオデジャネイロ大
大会の運営等にボラン
会時に東京で行われる
ティアとして参加し、
イベントにボランティ
運営の仕方やおもてな
アで参加したり、被災
しについて学び、歓迎
地における選手団との
セレモニーのボランテ
交流会等のイベントを
ィアで実践する。
サポートしたりする。
小学校6年生
高校2年生
~高校1年生
~19 歳
街中緑化(植栽の管理等)
空港や観光名所での案内
選手団の歓迎や式典でおも
20~22 歳
学生・社会人として
地域清掃
活躍する姿
高校生
大会ボランティアを
大会ボランティア
はじめ、各種のボラン
都市ボランティア
ティアに従事
被災地復旧復興ボラン
てなしを実践
ティアへの参加
- 14 -
(2)
障害者理解
障害の有無にかかわらず、全ての人々が、同じ社会に生きる人間として、
互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていく力を身に付ける
ことは、真の「共生社会」を実現する上で非常に重要である。
このため、障害者理解の学習、障害者スポーツの体験や障害者との交流な
ど障害者理解を進める教育を一層充実させ、多様性を尊重し、障害を理解す
る心のバリアフリーを子供たちに浸透させることが必要である。
また、子供たちが、パラリンピアンの活躍を自らの目で観たり、選手から
直接、話を聞いたりすることにより、自己実現へ向けて努力する喜びや、困
難に立ち向かう意欲等を学ぶことも大変意義あることである。
こうした取組は、東京で開催される2度目の大会である2020年のパラ
リンピック競技大会を成功に導くものになると考える。
【図4】障害者理解を促進する具体的実践例
中学生
小学生
○
障害者スポーツを知
ろう
(道徳)
パラリンピアンが全
力を出し切り努力する
話を聞き、障害者スポ
ーツへの理解を深める
とともに、勉強や仕事
をやり遂げる大切さに
ついて考えを深める。
○
障害者スポーツを観
戦しよう
(総合)
都内の障害者スポー
ツ大会や関連行事を見
学したり、選手にイン
タビューしたりするな
どして障害者スポーツ
への理解を深める。
○
アスリートを招待し
よう
(特活)
運動会にパラリンピ
アン等を招待し、一緒
にパラリンピックの
各種目や障害者スポ
ーツに挑戦する。
学ぶ
(知る)
観る
する
(体験・交流)
○
高校生
障害者スポーツへの ○ 障害者スポーツへの
理解を深めよう
理解を深めよう
(総合)
(総合、保健体育)
パラリンピック競技
パラリンピアンを学
大会の概要(歴史、意
校に招き、障害者スポ
義、人物、競技種目等)
ーツ・パラリンピック
について調べ、障害者
の醍醐味や選手の卓越
スポーツに関わる話や
した能力について学び
交流等を通じて、互い
理解を深める。
を理解する心を育て
る。
○ 本物のパラリンピッ ○ パラリンピックを応
クを伝えよう
援しよう
(総合)
(特活)
2016 リ オ デ ジ ャ ネ
2016 リオデジャネ
イロ大会や 2018 平昌
イロ大会や 2018 平昌
冬季大会等を観戦し、
冬季大会のパラリン
パラリンピック競技の
ピック競技をライブ
楽しさや迫力を広める
サイト等で観戦する
ための模擬CMを作成
ことを通して、障害者
し、発表する。
スポーツへの理解を
深める。
○ 障害者スポーツを楽 ○ パラリンピック競技
しもう
を体験しよう
(特活)
(特活)
特別支援学校の生徒
障害者スポーツ団体
と共に、障害者スポー
の方と一緒に、障害者
ツを体験したり、交流
スポーツを体験し、共
したりすることを通し
に汗を流すことにより
て互いの理解を深め
障害者理解を深める。
る。
- 15 -
(3)
スポーツ志向
スポーツは、心と体の健全な発達を促し、人生をより充実したものとする
ことに寄与するものである。とりわけ、利便性の高い生活環境の中で体を動
かす機会が減少している東京の子供たちにとって、スポーツに親しむことは
重要である。
「世界最大のスポーツの祭典」と言われるオリンピック・パラリンピック
では、世界のトップアスリートたちが、自らのベストを尽くした戦いを繰り
広げる。世界最高峰の熱い戦いを目の当たりにして得られる感動は、スポー
ツへの関心や、自らも「やってみたい」という意欲を高めるものである。
また、子供たちが、様々なスポーツを体験することは、フェアプレーやチ
ームワークの精神、相手を思いやる心を身に付けさせるとともに、体力の向
上や健康づくりに自ら意欲的に取り組む態度を養い、心身ともに健全な人間
へと成長させる大きな契機となる。
更に、こうした取組は、学校における部活動の活性化にもつながるものと
考えられる。
- 16 -
【図5】スポーツ志向を高める具体的実践例
中学生
小学生
○
高校生
オリンピック・パラ ○ 運動やスポーツの
○ スポーツへの関わ
リンピックスポーツ
役割
り方
を知ろう
(保健体育)
(保健体育)
(総合)
体育理論の学習を
体育理論の学習を
オリンピック・パラ
通して、運動やスポー
通して、スポーツに
学ぶ
リンピックで行われ
ツには、身体の発達や
は、ライフステージや
る競技のルールや歴
その機能の維持、体力
個人のスポーツに対
(知る)
史等を調べ、スポーツ
向上、自信の獲得、社
する欲求に応じた楽
への関心を高める。
会性を高めるなど
しみ方があることを
様々な効果があるこ
理解する。
とを理解する。
○ 障 害 者 ス ポ ー ツ を ○ スポーツ本物体験
○ オリンピック・パラ
知ろう
(特活)
リンピックを見よう
(総合)
オリンピアン・パラ
(保健体育)
パラリンピックや
リンピアンとの交流
オリンピック・パラ
障害者スポーツの映
やスポーツ観戦を通
リンピックの映像を
観る
像を見て、様々なスポ
して、卓越性や可能性
見て、スポーツに進ん
ーツを体験しようと
を学び、スポーツに進
で取り組もうとする
いう意欲を持つ。
んで取り組もうとす
意欲を高めるととも
る意欲を高める。
に、多様な価値を学
ぶ。
○ 目 指 せ 優 勝 ! 目 指 ○ 体験!世界記録
○ (学校名)オリンピ
せフェアプレー賞!
(保健体育)
ック
(体育)
10 秒間走を行い、オ
(保健体育・特活)
態度面を重視した
リンピアンの卓越性
球技の学習のまと
ボール運動やゲーム
を体感して学習への
めとして球技大会を
する
の学習を通して、基本
意欲を高め、オリンピ
行い、選択したスポー
(体験・交流)
的な技能を身に付け、
アンの映像から学ん
ツの技能や必要な体
体力を高めるととも
だ効率的な動きを身
力を高めるとともに、
にフェアプレー精神
に付け、体力を向上さ
計画・運営・応援等、
を身に付ける。
せる。
様々なスポーツへの
関わり方を体験する。
○ 運動会
○ スポーツの楽しさ ○ スポーツ大会ボラ
(特活)
を教えてあげよう
ンティアをしよう
係活動、応援、下級
(特活)
各種スポーツ大会
生への指導などを通
小学生の部活動体
などにボランティア
支える
して、人の役に立つ喜
験やスポーツ指導等
や審判として関わり、
びを味わう。
を通して、社会貢献の
地域に貢献する良さ
良さを味わう。
を味わう。
- 17 -
(4)
日本人としての自覚と誇り
東京の子供たちが、世界各国の子供たちと交流し、異文化を尊重しつつ、積
極的にコミュニケーションをとれるようにするためには、まず、子供たち自身
が日本や東京の良さを十分理解しておくことが極めて重要である。
我が国には礼節を重んじ、他者を思いやり、マナーを守り、助け合って生
活する国民性があり、海外からも高い評価を受けている。こうした規範意識、
公正・公平な態度や公共の精神などを改めてしっかりと身に付けることによ
り、自分を見つめ直し、日本人としての自覚と誇りを持てるような教育を進
めていくことが望まれる。
その上で、日本や郷土の歴史・文化、日本の良き伝統、最新の文化・技術
の卓越性を海外の人々へ発信する力を育んでいくことが重要である。また、
この発信に当たっては、被災地をはじめ地方の子供たちの取組と連携するこ
とも検討すべきである。
【図6】日本人としての自覚と誇りを高める具体的実践例
中学生
小学生
学ぶ
(知る)
観る
○
和紋様の手ぬぐい
(図画工作)
東京の「粋」の心や
日本の文化を伝える
ために、東京染小紋を
鑑賞し手ぬぐいの作
成方法を学ぶ。
○ 地域の特産品のよさ
を学ぼう(社会)
地域の特産品の生
産の様子を調べ、生産
している人々の工夫や
努力を理解し、地域へ
の誇りと愛情を育て
る。
○ 「礼儀」の基本を知っ ○ 日本の美しさを伝え
ていますか?-東京都
よう
道徳教育教材集「心を見
(特活、芸術)
つめて」を活用して-
日本の文化と過去の
(道徳)
大会開催国の民族舞
時と場に応じ、主体
踊・音楽を比較しなが
的に適切な言動がと
ら学び、実際に音楽を
れるようにするため
演奏したり、踊りを実
に、我が国の伝統的な
演したりして発表す
礼儀作法について理
る。
解を深めるとともに、
他国の礼儀作法につ
いても理解する。
○
○
和楽を鑑賞しよう
(音楽)
過去の大会開催国か
ら来日した留学生やア
スリートを招き、一緒
に和楽器を使った演奏
会を鑑賞する。
○
する
(体験・交流)
高校生
日本の伝承遊び
(国語)
日本の伝承遊びの中
から話題を決め、必要
な情報を収集し、来校
した外国の方に分かり
やすく説明する。
- 18 -
国技に触れよう
○ 日本の祭りを観よう
(保健体育)
(総合、特活)
「相撲」について、
日本の各地域の祭り
力士が稽古している様
について鑑賞したり、
子を見学したり、取組
参加したりすること
を実際に観戦したりす
を通して、日本の伝統
る。
文化を大切にする心
を育む。
○ 地域の魅力を発見・ ○ 日本の伝統文化に触
発信
れよう
(総合)
(総合、特活)
フィールドワークや
地域在住の外国人や
インタビュー活動を通
留学生と、日本の伝統食
して、自ら発見した地
の調理実習や和装の着
域の魅力を、ALTや
付けなどを一緒に体験
姉妹都市の中学生等に
し、日本の文化を伝えな
英語で紹介する。
がら、日本人としての自
覚や誇りを身に付ける。
(5)
豊かな国際感覚
東京2020大会に向け、東京に世界中から多様な人々が集まり、子供た
ちが外国語で交流する機会も増える。
我が国と異なる歴史的・文化的背景や価値観を持つ人々と共生していくた
めには、海外の人々と積極的に交流し、自分とは異なる文化や考え方に触れ
ることで、世界の国・地域の歴史や伝統、文化・芸術に対する理解を深める
ことが大切である。
とりわけ、子供たちが東京2020大会に向け、ボランティアとして大会
に関わることや、「おもてなし」の心を持って海外の人々を歓迎するなどの
機会は、幅広く世界の国々を知り、異なる価値観や文化を体験的に学べると
いう点で、非常に大きな意味がある。
そのためには、あらかじめ、子供たちが世界で通用する英語力を身に付け
ることはもとより、相手の意図・考え方を的確に理解し、世界各国の人々と
臆せず積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するととも
に、文化プログラムなども活用し、豊かな国際感覚を醸成し、世界の多様性
を受け入れる力を身に付けていく必要がある。
また、こうした取組を今後更に充実させることは、将来、世界を舞台に活
躍し、東京や日本の次代を担う人材を育成していくことにもつながる。
- 19 -
【図7】豊かな国際感覚を醸成する具体的実践例
中学生
小学生
○
学ぶ
(知る)
観る
する
(体験・交流)
知ろう、学ぼう世界の ○ 知ろう、学ぼう世界
国々
(総合)
の国々(社会、総合)
世界の国々のスポー
各国について調べた
ツ、歴史、文化、自然、 上で、大使館の職員や
食べ物、建物、言語等
留学生等を招き、各国
について調べ、発表す
の特徴や文化などにつ
る(クイズ大会を開
いて講話をしてもら
く)。
う。
○ 「おもてなし」につ
いて考えよう(総合)
茶道体験において、
もてなしを受けること
を通して「おもてなし」
とは何かを学ぶ。
○ 身近な地域にある世界○ 日本の技術を観に行
界の文化に触れよう
こう
(音楽、図工、特活)
(社会、総合、特活)
地域在住の留学生
オリンピック・パラ
や外国人、国際団体、
リンピックを支える、
スポーツクラブ、芸
世界に誇る日本の中小
術団体を招き、世界
企業のものづくりや日
の文化、スポーツ、
本の最先端技術等を見
芸術等の実演を見学
学する。
する。
○ 世界の人々と仲良く ○ スポーツで交流しよ
なろう
(総合)
う
(特活)
地域在住の外国人や
外国人アスリート等
留学生、国際団体、駐
を招き、スポーツ交流
日大使館関係者と交流
会を開催する。
会を開催する。
○ 私の国を紹介します
○ 世界の伝統料理を味
(社会、外国語、美術、
わおう
(家庭)
技術、総合)
各国の伝統料理を調
日本の文学、芸術、
べ、地域在住の外国人
食、遊び、先端技術な
や留学生を招き、一緒
どを調べ、外国人に英
に作って味わう。
語で紹介する。
- 20 -
高校生
○
「おもてなし」の心
を学ぼう
(総合)
日本や郷土の歴史・
文化、風習等を学習し、
日本人らしい考え方や
もてなしの仕方を学
び、英語でプレゼンテ
ーションを行う。
○
世界各国の文化・芸
術を鑑賞しよう
(総合、特活)
文化プログラム、民
間芸術文化団体や駐日
大使館等と連携し、世
界各国の伝統文化・芸
能等を鑑賞する。
○
共同制作に取り組も
う
(美術、総合、特活)
交流国の生徒と、共
同で絵画を制作する。
○
食文化フォーラムを
開こう(総合、特活)
JET青年や留学生
を招き、互いの国の伝
統・文化、芸能、食文
化などを伝え合う交流
会を実施する。
5
5つの資質を伸ばすための4つのプロジェクト
オリンピック・パラリンピック教育では、体験や活動を重視していることを
踏まえ、重点的に育成すべき5つの資質を伸ばすために、主に以下の4つのプ
ロジェクトを推進していくことを提案する。
なお、各学校においては、これらのプロジェクトを活用することにより、そ
れぞれの状況に応じて、日常的に行っている独自の取組をさらに活性化させて
いくことを期待する。
(1)
東京ユースボランティア
子供たちのボランティアマインドを育むとともに、自尊感情を高めていく
ためには、発達段階に応じて、ボランティア活動を計画的・継続的に行う必
要がある。
「東京ユースボランティア」という取組は、これまで各学校が取り組んで
きた社会奉仕の精神を養う取組を充実・拡大させていくものである。
具体的には、地域清掃、地域行事、地域防災活動、スポーツ大会、障害者・
高齢者施設等でのボランティアなど、これまでの教育活動の中で取り組んで
きた活動を中心に構成しつつ、被災地ボランティアなど新たな取組も積極的
に取り入れていく工夫が望まれる。
また、今の高校生等は、大会開催時には、大学生や社会人として、大会関
連ボランティアに従事できる可能性が高いと考えられるため、学校における
計画的なボランティアマインドの醸成の取組に加えて、生徒が自ら積極的に
地域のボランティア活動やスポーツ大会の運営ボランティアなどに参加で
きるような仕組みを構築する必要がある。
(2)
スマイルプロジェクト
「スマイルプロジェクト」は、これまで各学校で行ってきた思いやりの心
を育てる取組や、障害の有無にかかわらず、子供たちの相互理解を図る教育
を充実・拡大するものである。
この取組は、オリンピック・パラリンピックが目指す「共生社会」の実現
に大きく関わるものであり、子供たちに、お互いの人格や個性についての理
解を深め、自ら主体的に関わる方法を考えさせ、思いやりの心を育成しよう
とするものである。
具体的には、小・中・高校生や特別支援学校の児童・生徒が、計画的・継
続的に障害者スポーツの観戦や体験等をする機会の拡充を図ることが重要
である。
また、特別支援学校や特別支援学級の児童・生徒と小・中・高校生とが、
障害者スポーツをはじめとした様々な取組を通じて、交流していくことを充
実させる必要がある。
これに加えて、高齢者介護施設や障害者施設の訪問、障害のある人が感じ
る不便や不安を直接体感する疑似体験活動、障害者アートの鑑賞、バリアフ
- 21 -
リーの街づくりの学習等を進めることが推奨される。
更に、こうした機会に地域住民への参加を促すことで、地域における障害
者理解や障害者スポーツの普及促進に努めるべきである。
(3)
夢・未来プロジェクト
現在、東京都は、子供たちがアスリート等との直接交流を通じてスポーツ
のすばらしさを実感し、夢や希望を持ち続けることができるよう、「夢・未
来プロジェクト」として、オリンピアンやパラリンピアンを派遣する事業を
展開している。(第5章1(2)の事業)
この事業は、子供たちがオリンピック・パラリンピックの理念や価値を理
解し、スポーツへの関心を高め、夢に向かって努力したり困難を克服したり
する意欲を培っていくうえで非常に有効である。
平成28(2016)年度からのオリンピック・パラリンピック教育の全
校展開に伴い、この事業を更に拡大・充実させていくことが求められる。
「夢・未来プロジェクト」を構成する3つのプログラム
1
YOKOSOプログラム
[派遣者] 我が国のオリンピアン、パラリンピアン又は著名な指導者
[ねらい] 夢・希望・感動との出会いや自己実現に向けての努力、困
難に立ち向かう意欲等を育成する。
[内 容] 特別講演、競技紹介、実技指導等を実施する。
[規 模] 72校
2
Welcomeプログラム
[派遣者] 在日の外国人アスリート 日本人のマナー講座の講師
[ねらい] 外国人との交流を通じた国際理解の推進、スポーツへの
興味・関心の向上等を図る。
[内 容] 外国の文化・習慣の紹介、スポーツを通じた交流等の実施及
び外国人に対する挨拶や日本文化を紹介する方法等を実践す
る。
[規 模] 30校
3
自分にチャレンジプログラム
[派遣者] パラリンピアン
[ねらい] パラリンピック競技等の障害者スポーツへの興味・関心の
向上や、障害のある人への理解を深める。
[内 容] 特別講演や障害者スポーツの体験教室等を実施するととも
に、近隣の特別支援学校の児童・生徒との交流を実施するこ
とにより、共生社会の意義を学ぶ。
[規 模] 20校
※ 以上は東京都が実施している事業内容(規模は平成27年度実績)
(4)
世界ともだちプロジェクト( Global Friendship Project )
平成10(1998)年の長野冬季オリンピック・パラリンピック競技大
- 22 -
会で始まった「一校一国運動」は、その後の大会でも引き継がれてきた教育
プログラムの一つである。
「世界ともだちプロジェクト」は、東京において、そのレガシーを受け継
ぎ、更に発展させ、東京ならではの国際交流を推進していくものである。
世界には多くの国があり、様々な人種や言語、文化、歴史などを学ぶこと
を通して、単に知識を広げるだけではなく、世界の多様性を知り、様々な価
値観を尊重することの重要性を理解することが大切である。
東京には大使館が集中し、留学生や多様な国籍の人々が住み、また多くの
外国人が訪れる、といった東京ならではの特徴がある。
更に、長野では大会の2年前から一校一国運動が開始されたが、東京は大
会まで約4年という期間の中で、段階を踏んで計画的、継続的な教育に取り
組むことも可能な状況にある。
このため、東京で行う国際交流は、その特徴を最大限に生かしたものにす
るとともに、大会参加国を5大陸に分け、バランスよく学び、可能な限り実
際の交流へと深化させていく活動としていくべきである。こうした取組によ
り、東京都全体で見れば、全ての大会参加国を学習することが可能となる。
具体的な交流活動としては、地域在住の留学生、大使館等との交流や、手
紙、メール、直接交流等による海外の姉妹校等との交流などが考えられる。
また、各地区の教育委員会や各学校で既に行っている海外派遣研修や姉妹都
市交流に基づく活動を、更に深めることも考えられる。
こうした取組は東京2020大会後も継続し、教育のレガシーとして発展
させていく息の長い交流活動としていくことが重要である。
なお、各学校が大会参加国を幅広く学ぶことができるよう、5大陸のバラ
ンスを考慮した国割のグループ表を都教育委員会が示し、区市町村教育委員
会や都立学校に割り当てるような仕組みを構築する必要がある。
【図8】5大陸のバランスを考慮した国割表のイメージ
6
オリンピック・パラリンピック教育を活発化させる仕組みづくり
オリンピック・パラリンピック教育を加速させるため、優れた取組を実施し、
実績を重ねた学校に対しては、表彰するなど、各学校の先進的な教育実践を引
き出し、他校へも波及させるような仕組みを検討すべきである。
- 23 -
第5章
オリンピック・パラリンピック教育を支えるツールと基盤
1
学習読本と映像教材(補助教材)
都教育委員会が作成する「オリンピック・パラリンピック学習読本」には、
「4×4の取組」の具体的な内容を盛り込み、それらを題材として、子供たち
の自発的な学習を促すとともに、体験や活動を重視した取組ができるようにす
ることが重要である。
また、学習読本を一層効果的に活用するため、映像等を使った教材も作成し、
視覚を通してオリンピック・パラリンピックを幅広く理解することができるよ
うにする必要がある。
更に、前述の教材を実際に活用する教員向けの指導書や、優良な指導事例な
どを集めた実践事例集などの作成も必要である。
2
教員研修の充実
子供たちへの教育効果を高めていくには、教員自らが、オリンピック・パラ
リンピックの歴史や意義、価値について学ぶとともに、オリンピアン・パラリ
ンピアンに加え、大会を支える人々の努力や生き方を学ぶことなど、オリンピ
ック・パラリンピックを多面的に知ることも重要である。こうした観点から、
今後、教員研修を更に充実させ、教員の指導力の向上を図る必要がある。
また、障害者スポーツの実技研修会や、授業計画を立案するためのグループ
ワーク等を取り入れた、指導法等に関する研修プログラムの開発も検討する必
要がある。
3
教育をサポートするウェブサイトの構築
都内の各学校のオリンピック・パラリンピック教育をサポートするため、教
員や子供たちが利用できる教育のポータルサイトを構築することが望ましい。
例えば、次のような内容を持たせたウェブサイトを構築し、参加予定国のス
ポーツや文化等の特徴を紹介し、国際理解学習の導入に活用できるようにする
など、学校や子供たちの国際理解・交流を支援するような仕組みを作ることが
重要である。
<教員対象の内容>
・ 東京2020大会に関わるイベント等の情報提供
・ オリンピック・パラリンピック教材や優良な実践事例の紹介など
<児童・生徒対象の内容>
・ 東京2020大会の概要や、オリンピック・パラリンピックの基礎知
識の提供
・ 海外の選手、人気スポーツ、人々の生活や文化等を知ることができる
情報の提供など
4
学校を支援するコーディネート機能
学校や区市町村教育委員会が推進するオリンピック・パラリンピック教育を
- 24 -
支援していくため、 都教育委員会が次のような役割を果たすことが期待され
る。そのため、これらの取組を円滑に進めるための仕組み作りを検討すべきで
ある。
(1) 各学校が行う国際交流を促進するために、学校や区市町村教育委員会と、
都内の大使館や国際機関、外国語系大学、留学生、JICA 等の日系国際団体、
更には世界各国の学校や国際機関・団体等とをつなぐことを支援し調整する
役割
(2) 各学校が行う障害者理解や障害者スポーツの体験等を促進するため、学校
や区市町村教育委員会と、障害者スポーツ団体やパラリンピアン、障害者ア
スリート等とをつなぐことを支援し調整する役割
(3) 各学校におけるボランティアマインドの計画的な育成に向けた取組を支
援し 、ボランティア活動の体験機会を充実していくため、学校や区市町村
教育委員会と、ボランティア活動団体やボランティアを受け入れる企業・団
体等とをつなぐことを支援し調整する役割
(4) 学校が、競技会場予定地の見学や、文化プログラム、大会関連行事へ参加
することを支援するため、学校と各施設管理者、各主催機関等とをつなぐこ
とを支援し調整する役割
第6章
組織委員会や関係機関との連携・協働
1
組織委員会や関係機関との連携・協働の必要性
子供たちに対するオリンピック・パラリンピック教育は、当然のことながら、
教育関係者だけの取組では十分なものとはなり得ない。東京都、国、組織委員会
の関係部署やその他関係機関との連携・協働があって初めて成り立つものである。
このため、都教育委員会は、こうした関係者・関係機関との調整を十分行い、
緊密な連携の下に、子供たちにとっての有意義な学習・体験の場が、可能な限
り多く確保できるよう努めるべきである。
2
大会関連ボランティアの体験機会の確保
中学生や高校生等が大会に関連するボランティアに一人でも多く参画でき
るよう、組織委員会や東京都が募集するボランティアに一定の生徒枠を設けた
り、開・閉会式や競技会場の一定の席数を、児童・生徒の観戦や応援のために
利用できるようにすること(チケットシェア)や、選手団の歓迎行事に参画し、
直接交流の機会を設けたり、聖火リレーのランナーや伴走者として、できるだ
け多くの子供たちを参加させるなど、今後、具体的な体験・行動の機会の確保
に向け、関係機関との調整を進めていくことが望まれる。
- 25 -
3
文化プログラムとの連携
オリンピック・パラリンピックはスポーツのみならず、文化の祭典でもある。
このため、今後、展開されるオリンピック・パラリンピックの文化プログラム
と教育プログラムとの連携が重要である。
文化プログラムを通じて、世界中からトップレベルのクリエーターやアーテ
ィストが来日し、公演や展覧会などが実施されることに加え、日本のアーティ
ストとの国際共同制作やイベントが行われることなども予想される。こうした
アーティストたちが学校を訪問し、クリエイティブで質の高い芸術を提供する
ことなどを通して、子供たちの自己表現力や豊かな情操を育む機会とすること
も可能である。
障害者アートの鑑賞や、日本の伝統文化芸能の体験を含め、今後、子供たち
がより多くの芸術文化に触れる場や機会の創出に向け、関係機関との連携を検
討していくべきである。
4
大会のオフィシャルパートナー等が実施する教育プログラムとの連携
組織委員会のオフィシャルパートナー等も、今後、教育プログラムを主催あ
るいは支援する可能性がある。学校でのオリンピック・パラリンピック教育活
動に加え、こうしたプログラムの活用により、取組を一層充実させることがで
きるとともに、子供たちが最先端の産業技術や様々な企業活動を知る機会を得
ることにもつながる。
今後、こうした教育プログラムの活用を図っていくことが重要であり、オフ
ィシャルパートナー等との連携を検討していくべきである。
第7章
オリンピック・パラリンピック教育の3つのレガシー
これまで述べたように、オリンピック・パラリンピック教育に関わる体験や活
動を通して、子供たち一人一人の心と体に、人生の糧となるかけがえのないレガ
シーを残していくことが重要である。
更に、これから大会までの経験や成果を生かし、大会後も教育活動を長く継
続・発展させていくことも大切である。例えば、多様性への理解、語学教育・国
際交流、伝統・文化理解、ボランティア、体力向上、環境教育などの取組は、今
後4年間で蓄積されるノウハウや人的ネットワーク等を活用して、大会後も継続
していくことが望まれる。
また、オリンピック・パラリンピック教育がもたらす子供たちの成長や変化は、
子供たちを通じて家庭や地域に波及し、大人たちをも変える力を持ち、ひいては、
社会全体を変えていく可能性を秘めている。
このため、子供たちを対象として行うオリンピック・パラリンピック教育活動
は、保護者や地域住民の参加を促す取組や、学校と家庭とが連携できる学習方法
を取り入れ、子供たちが親の世代、祖父母の世代と共に学ぶ取組などを積極的に
行っていくべきである。
とりわけ、ボランティアマインドの醸成と障害者理解の促進は、家庭や地域へ
- 26 -
の波及が重要である。子供たちだけでなく、家庭や地域も参画した取組にするこ
とは、大人たちのボランティアマインドや障害者理解を高めることになり、こう
した環境が子供たちへの教育効果を更に高めるという相乗効果を生み、ひいては
共生・共助社会の形成につながっていくということが期待できるからである。
また、こうした取組は、都民、国民のオリンピック・パラリンピックへの参画
意識を盛り上げる効果も期待できる。
以上のように、オリンピック・パラリンピック教育のレガシーには、①子供
たち一人一人の心と体に残るレガシー、②教育として受け継がれていくレガシー、
③地域社会に広がり定着するレガシーの3つが考えられる。今後の具体的取組に
当たっては、関係者が常にこのことを念頭に置かれることを期待する。
【図9】 オリンピック・パラリンピック教育(ボランティア、障害者理解)
のレガシーのイメージ -共生・共助社会の実現-
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参考資料
東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議設置要綱
(設
置)
第1
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、教育庁としての取組の
基本理念や方向性、具体的施策を検討するため、
「東京のオリンピック・パラリンピック教
育を考える有識者会議」
(以下「本会議」という。
)を設置する。
(所掌事項)
第2
本会議は、大会開催を契機としたオリンピック・パラリンピックに係る教育施策や教
育プログラムの進め方等について具体的に検討し、その結果を東京都教育委員会教育長(以
下「教育長」という。)に報告する。
(構
成)
第3
本会議は、学識経験者、産業界、サービス業界、放送業界、オリンピアン・パラリン
ピアン、国際機関、その他本会議の目的を達成するため適当と認められる者のうちから、
教育長が委嘱する者をもって構成する。
(座長等)
第4
本会議に座長及び副座長を置き、委員のうちから互選する。
2
座長は本会議を主宰し、会務を総括する。
3
副座長は、座長を補佐し、座長が不在のときは、その職務を代理する。
(設置期間)
第5
本会議の設置期間は、平成26年10月1日から平成28年3月31日までとする。
(庶
務)
第6
本会議の庶務は、教育庁総務部教育政策課が行う。
(その他)
第7
附
本要綱に定めるもののほか、本会議の運営に関する事項は、座長が別に定める。
則
この要綱は、平成26年9月10日から施行する。
- 28 -
参考資料
東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議 委員名簿
分 野
オリンピック
研究者
オリンピック
研究者
氏 名
座長
真田 久
副座長
舛本 直文
職 名 等
筑波大学 体育専門学群 学群長
博士(人間科学)
首都大学東京 大学教育センター・大学院人間健康科学研究科 教授
博士(体育科学)
パラリンピック
田中 暢子
研究者
桐蔭横浜大学 スポーツ健康政策学部 スポーツ健康政策学科 准教授
博士(スポーツ政策学・スポーツマネジメント学)
産業界
パナソニック株式会社
ブランドコミュニケーション本部 スペースクリエイツ部 企画総括担当 主幹
西貝 宏伸
備 考
サービス業界 宮坂 久美子
日本航空株式会社
客室本部 客室品質企画部 客室教育・訓練室 アドバイザーグループ長
~H27.4.30
サービス業界 崎原 淳子
日本航空株式会社
客室本部 客室品質企画部 客室教育・訓練室 室長
H27.5.1~
放送業界
新山 賢治
株式会社NHKエンタープライズ
制作本部 シニア・エグゼクティブ・プロデューサー
オリンピアン
朝日 健太郎
元バレーボール/ビーチバレーボール日本代表
NPO法人 日本ビーチ文化振興協会理事長
オリンピアン
萩原 智子
元シドニーオリンピック競泳日本代表
日本水泳連盟理事
パラリンピアン 田口 亜希
元アテネ・北京・ロンドンパラリンピック射撃日本代表
日本パラリンピアンズ協会理事
民間団体
寺尾 明人
公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟 事務局長
~H27.6.2
民間団体
野口 昇
公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟 理事長
H27.6.3~
シンクタンク
松下 和彦
株式会社船井総合研究所
経営戦略事業部 チーフプロジェクトマネージャー
シンクタンク
吉本 光宏
株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事
学校関係者
宮城 千鶴子 学校法人聖ドミニコ学園 理事長
学校関係者
高橋 あゆち 学校法人井之頭学園 理事長
学校関係者
齊藤 進
中央区教育委員会 教育長
~H27.8.3
学校関係者
岩佐 哲男
江東区教育委員会 教育長
H27.8.4~
学校関係者
真如 昌美
東大和市教育委員会 教育長
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