食事前の摂食ケア わたしたちのやりたいケア 介護の知識 50 食事前の摂食ケア 全身状態の低下、認知症の進行、口腔・嚥下機能の低下、傾眠な どにより、食事を十分に食べることができない方がいます。 そのような場合は、以下の点に注意して食事ケアを行います。 ≪食事前のチェック項目≫ ① 姿勢 ② 覚醒状態 ③ 口の中に痰や前に食べたものが残っていないか ④ 呼吸状態 ⑤ 空腹感 姿勢に関しては、テキスト第 12 回を参照してください。 高齢者の場合は呼吸数1分間に 15~20 回というのが目安です。 みぞおちや胸の上下運動で数えることができます。 呼吸が速い場合は、食事を十分にとることができません。 覚醒状態がよくなくても、食事を十分にとることができません。 1 覚醒をうながすケアを食事前に行うことが大切です。 Ⅰ.傾眠の方に有効的な運動 ○ 大きな筋肉を動かし、脳の血流を増やすことで覚醒を促す (写真1) 傾眠の原因の一つに、 『脳の酸素不足』があります。脳の酸素不足 を補うためには、脳へ酸素を多く運ぶことが必要です。 より効率よく酸素を運ぶためには、血液量の多い部位、大きな筋 肉を動かすとよいのです。 (1)写真1 >>> 『歩行』は全身の筋肉を使います。血液が全身を巡り、脳の血流 量が上がります。足踏みや腕の上げ下げ、腕まわし(肩まわし)も効 果があります。自分でできない方は、スタッフが手伝って行います。 食事前に実施したり、食事中に傾眠がちになったときに行ったり すると効果があります。 すべての入居者が対象ではありません。 傾眠傾向が強く、食事摂取がなかなかすすまない方が対象です。 くれぐれも入居者全員に行わないでくださいね。 全国高齢者ケア研究会 食事前の摂食ケア Ⅱ.嚥下機能が低下している方への効果的な運動 嚥下機能の低下といっても、さまざまな状態があります。その方 に合わせたケアを行います。 1) 嚥下反射を起こしやすくする、アイスマッサージ 飲み込みのタイミングがつかみにくい方、嚥下反射の起こりずら い方に効果的です。 図1のどのアイスマッサージ(引用1) ≪ 方法 ≫ (引用1)アイスマッ サージの方法 軟口蓋 >>>st-medicaHP より 咽頭後壁 口蓋弓 奥舌~舌根部 氷水にサッと (2)図1 >>> つけて水気を切る 2 ① アイスの棒(割りばしの先にガーゼを巻き水につけて凍らせた もの、口腔ケア用の綿棒に水をつけて凍らしたもの)などを用 意します。 ② アイスの棒に少量の氷水をつけて湿らせる。 ③ 食事の前に、アイスの棒を使って口の中の部位(口唇(こうし ん))、口蓋弓(こうがいきゅう)、舌根部(ぜっこんぶ)、咽頭後 壁(いんとうこうへき)図 1 参照)をなでるように刺激します。 ④ 口に溜まった唾液や水分を飲み込んでもらいます。 毎回 30 秒ほど実施します。 (2) 迷 走 (め い そ う) 嚥下状態が悪い時の食事前に実施します。 神経反射 マッサージによって刺激を与えるため、変化はすぐに出るケー >>> 主 に 内 臓 の 運 動 神 スが多いそうです。 経、副交感神経の知覚神 もちろん個人差があります。以下の点には、くれぐれも注意し 経であり、急激な刺激が てください。 あると、その防衛反応か ① 強くこすらない ら心拍数の低下や血圧 ② いきなり喉の奥を刺激しない。(嚥下反射や迷走(めいそう)神経 の低下を招く。 反射(2)が起こることがあります) ③ いやがる方に無理やりに行わない。 全国高齢者ケア研究会 食事前の摂食ケア 2) 唾液の分泌を促すマッサージ 高齢になると、唾液の分泌量が低下し、食事のときは食塊形成や 呑み込みがしにくくなります。マッサージにより、唾液腺を刺激 し、唾液の分泌を促します。 唾液腺には耳下腺(じかせん)、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっ かせん)があり、その部分を指で軽く押したり、ゆっくりと押した りします。 それぞれのマッサージ方法は 以下の通りです。 ① 耳下腺(じかせん) 3 人差し指から小指までの4本の指をほほに当てて、上の奥歯あた りを後ろから前へ向かってまわします(10 回)。 ② 顎下腺(がっかせん) 親指をあごの骨の内側のやわらかい部分に当て、耳の下からあご の下まで、5か所くらい順番に押す(各5回)。 ③ 舌下腺(ぜっかせん) 両手の親指をそろえて、あごの真下から下を突き上げるように、 ゆっくり押す(10 回)。 3) 唾液の分泌を減少させるマッサージ 2)とは対照的に、唾液が出すぎる方もいます。 多量の唾液は誤嚥性肺炎の原因にもなります。その場合は、唾液 腺へのアイスマッサージが効果的です。唾液腺への冷たい刺激に より、唾液の分泌が抑制されます。 全国高齢者ケア研究会 食事前の摂食ケア ≪ 方法 ≫ ① 容器(3)に氷を入れて、容器容量の8~9割くらいの水を入れ ます。 ② ふたをしてよく振ります。 ③ 唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)の上の皮膚をふたで滑らせる ようにマッサージします。 1日2回(朝食後~昼食前、おやつ後~夕食前)、午前と午 後で1回を目安に行います。 1分程度を3セット実施します。効果には個人差があります。 2週間くらい続けると成果の出始める方がいます。 (3)おすすめ容器 >>> 4 これらいずれの方法も、継続することで少しずつ効果が表れます。 嚥下反射を促す目的で、 「のどのアイスマッサージ」を行うことで、 嚥下の状態や開口がよくなってきます。 コーヒー缶を使ったマッサージは、覚醒を促すにも効果がありま す。唾液の分泌を促すマッサージは、自分たちでやってみても、じわ おすすめは、口が広いふ ~っと唾液が出てきます。 たの缶です。 唾液は、食べものをまとめやすくするほかに、嚥下時の潤滑剤がわ り、粘膜の保湿と保護、消化、口腔内の殺菌など、たくさんの重要な 缶コーヒーやコーンポ タージュ缶がいいかも。 役割をもっています。 食事前のこのようなケアをすることも「食事ケア」の一つです。 回数はいずれも目安です。 個人差がありますから、看護師や歯科衛生士と連携しながら行いま す。 全国高齢者ケア研究会
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