コウモリが超音波で行く先を“先読み”し、ルート選択を行う

解禁時間(テレビ、ラジオ、WEB):平成 28 年 4 月 12 日(火)午前 4 時(日本時間)
(新聞)
:平成 28 年 4 月 12 日(火)付朝刊
平 成 2 8 年 4 月 1 2 日
同
志
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大
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コウモリが超音波で行く先を“先読み”し、ルート選択を行うことを発見
ポイント



コウモリは飛びながら小さな昆虫を次々と捕食するが、その際の超音波によるセンシングと飛行
ルートの関係はこれまで明らかではなかった。
コウモリが複数の獲物に注意を分散させ、またそれらを高確率で捕らえる飛行ルートを選択して
いることを発見した。
ナビゲーション研究における軌道計画法や選択的注意機構に関する研究分野においてコウモリが
新しいモデル動物として有用であることが示された。将来的には高機能の飛行ドローンなど自律
移動ロボット分野等への工学応用が期待される。
同志社大学研究開発推進機構の藤岡慧明博士は、同生命医科学部の飛龍志津子准教授(兼・さ
きがけ研究員)、東京大学生産技術研究所の合原一幸教授らとともに、採餌のためにナビゲーシ
ョン飛行するコウモリが、目前の獲物のみならず、その先にいる次の獲物の位置までも超音波で
先読みすることで、より多くの獲物を確実に捕らえる飛行ルートを選択していることを発見しま
した。
日本でも広く見られるアブラコウモリは高度に発達した超音波ソナー注1)の能力を有してお
り、体長数ミリメートルの蚊などの微小な飛翔昆虫を正確に探知・定位し、飛びながら次々と捕
食を行っています。しかしながら、このような高度な採餌行動を可能とするソナーの情報と飛行
ルートとの関係については、これまで明らかにされていませんでした。
本研究グループは、野生コウモリのナビゲーション行動を大規模なマイクロホンアレイ注2)を
用いて計測し、その行動原理を数理モデリングによって解析しました。その結果、野生のコウモ
リが目前の獲物だけでなく、その次の獲物に対しても注意を分散させ、高確率で複数の獲物を連
続的に捕らえることが可能な飛行ルートを選択していることを明らかにしました。
この発見により、コウモリが軌道計画注3)や選択的注意注4)研究に関する新しいモデル動物と
なることが示されました。このようなコウモリのナビゲーションアルゴリズムからはアクティブ
センシング注5)を行う自律移動ロボット等への応用研究へも期待できます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究
(さきがけ)の研究課題「コウモリの生物ソナー機構に学ぶ、ロバストな実時間空間センシング
技術の創出」
(研究者:飛龍 志津子)
、内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)などの
一環として行ったものです。
本研究成果は、2016 年 4 月 11 日(米国東部時間)の週に米国科学アカデミー紀要(PNAS)
のオンライン速報版で公開されます。
<研究の背景と経緯>
コウモリは超音波を放射し、その反響音を聴取・分析することで獲物を正確に探知・定位し、
飛行しながら捕食行動を行っています。このような高度に発達した生物ソナー機構を解明するた
めに、これまでの多くの研究では、単一の獲物を捕らえる際のコウモリの音声の分析などが行わ
れてきました。一方で、食虫性コウモリは一晩に数百匹もの獲物を捕食すると言われており、近
年の研究からは、獲物の捕食を短い時間間隔(短いときには 1 秒未満)で次々と繰り返している
ことが分かってきました。そこで本共同研究グループは、コウモリが特定のターゲットだけでは
なく複数のターゲットに注意を分散させることで、連続的に捕食を行うのに効率的な軌道を計画
していると考え、音響計測と数理モデリングを用いたナビゲーション行動の分析によって検証を
試みました。
<研究の内容>
上述の仮説を検証するために、コウモリが 2 匹の獲物の位置情報に基づいて飛行方向を調整し
ていると仮定して(図1)
、飛行ルートに関する数理モデルを構築しました。この数理モデルを用
いることで、コウモリが目前の獲物だけでなくその次の獲物を意識して軌道を変化させているか
どうかについて、2 匹の獲物に対する“飛行制御に関する選択的注意”をパラメータとして分析
することができます。数値シミュレーションの結果、コウモリの飛行の選択的注意が双方の獲物
に対して分散する場合に、最も高確率で双方の獲物を捕食できる飛行ルートとなることがわかり
ました。
また、野外にて大規模マイクロホンアレイシステムを用いて、野生コウモリの 3 次元飛行軌跡
と超音波の放射方向を計測しました(図2)。この結果、実際にコウモリが連続して捕食を行う際
にはソナーの選択的注意(超音波の放射方向であり、ヒトの視線に相当)を目前の獲物だけでな
く、その次の獲物にも向けていることが分かりました(図2C)
。
そして、計測したコウモリの飛行軌跡から飛行の選択的注意を、上述の数理モデルを用いてパ
ラメータ推定した結果、長い時間間隔で 2 匹の獲物を捕食した際の飛行軌跡は、ほぼ直近の獲物
(獲物1)に対する選択的注意にのみ基づき軌道が計画されていることがわかりました(図3A)
。
一方で、短い時間間隔で 2 匹の獲物を捕食した際には、コウモリが目前の獲物だけでなく次の獲
物にも飛行中の注意を分散させていること、また選択的注意の分散の割合は数値シミュレーショ
ンにおける最適値とほぼ一致することがわかりました(図3C)。これらの結果から、コウモリは
短い時間間隔で獲物を捕食する際には複数の獲物に対して注意を分散させ、高確率でそれらの獲
物を捕食できる飛行ルートを選択していたことが分かりました。
<今後の展開>
本研究によって、コウモリが複数の標的に対して、音響と飛行中の選択的注意をダイナミック
に制御していることが明らかとなり、コウモリのナビゲーション研究が、分散する複数の標的に
効率よく注意を向ける機構(選択的注意機構)を解明する新しいモデルとなることが期待されま
す。また動物の注意方向や意思判断を読み解く数理モデリングは、音響センシングと移動の高度
な協調行動から実現されるコウモリのナビゲーション行動を解明する有用な手段であることが示
されました。
今後、アクティブセンシングによって検知した複数の標的を効率的に捕捉するための軌道計画
や、本研究で構築した数理モデルをさらに発展させることによる高機能の飛行ドローンなど自律
移動を要するロボット技術分野等への応用も期待されます。
<参考図>
獲物 1
飛行方向
獲物 2
qb
qbp1
qbp2
fbp2
fbp1
fb
Y
Z
X
0°
コウモリ
図 1.コウモリの数理モデルを構築するための枠組み。コウモリが目前の獲物(獲物1)とその
次の獲物(獲物2)の位置情報(qbp1,fbp2 など)を利用して自身の飛行方向(qb とfb)を変化さ
せていると仮定した。fは水平面における角度、qは垂直面における角度をそれぞれ示している。
A
Y
マイクロホンアレイシステム
Z
X
B
C
獲物 1
獲物 2
上面図
7
獲物 1
9
-0.5
-2.5
-4.5
9
獲物 2
コウモリ
2m
7
5
3
8
Y
10
X
12
Z
14
6
11
13
X
8
Z
6 コウモリ
4
図 2.マイクロホンアレイシステムを用いた野生コウモリの3次元動態音響計測。川の上空で採
餌飛行するコウモリの音声を 32 個のマイクロホンで構成されたマイクロホンアレイシステムで
録音した(A)
。4 基のY字型アレイユニット(図中桃色のユニット)を用いて、コウモリの放射
超音波の到達時間差を利用することで、3 次元飛行軌跡を構築できる(B)
。また、同じ高さに並
んだマイクロホンで録音したソナー音声の音圧差を利用することで、ソナーの選択的注意方向(C,
青矢印)を計測することができる。ソナーの選択的注意方向の推移を見ると、獲物1にアタック
する前から獲物2の方向にソナーの選択的注意を向けていることが分かる。
A
C
次の捕食まで:長時間
次の捕食まで:短時間
0.5p
0.5p
p
-p
割合 [%]
p
-p
0
0
20
割合 [%]
40
-0.5p
B
40
D
-2
2 3
1 0
1
-1 -2 0
0
-1
y
z
gh = 0.65p
gv = 0.65p
獲物 2
1
コウモリ
(20フライトデータ)
数値シミュレーション
獲物 1
[m]
[m]
-1
gh = 0.5p
gv = 0.5p
獲物 2
1
0
-0.5p
(15フライトデータ)
数値シミュレーション
獲物 1
0
0
20
コウモリ
-2
2 3
1 0
1
-1 -2 0
x
図 3.計測したコウモリの飛行軌跡から飛行の選択的注意をパラメータ推定した結果(A, C)と数
値シミュレーションの例(B, D)
。獲物1の捕食から獲物2の捕食までの時間(捕食時間間隔)が
長い際は、0.5p付近(獲物1)に選択的注意が集中していることが分かる(A,灰色のヒストグラ
ム)
。獲物1に注意を集中している際の飛行ルートは、数値シミュレーションの例(B)で示すよ
うに、獲物1を捕食するまでの軌道において獲物2の影響を受けない。一方で、捕食時間間隔が
短い際は(C)
、第二または第四象限に注意が集中しており、これは獲物2の影響を受けた軌道を
選択していたことを意味する。例えば、選択的注意が第二象限に集中した際は、数値シミュレー
ションの例(D)で示すように、獲物2から離れるような軌道を描きながら獲物1に接近する。
さらに、A と C のヒストグラムの背景に示すカラーマップは、数値シミュレーションにより求
めた捕食成功率分布を示しており、成功率が高くなる最適な注意の割合(赤)とコウモリの飛行
軌跡から推定した選択的注意(灰色のヒストグラム)が、捕食時間間隔が短い場合に合致してい
ることがわかる(C)
。これらの結果は、コウモリが目前の獲物だけでなくその次の獲物に対して
も注意を分散させることで、高確率で獲物を連続的に捕らえることが可能な飛行ルートを選択し
ていたことを示している。

<用語解説>
注1) ソナー
音によって物体を探知また測距する技術。SONAR(SOund NAvigation and Ranging)の頭字語。
注2) マイクロホンアレイ
複数のマイクロホンを配列(array)した装置。マイクロホン間の音の到達時間差を利用して、音
源座標の位置を高精度で計測することができる。
注3) 軌道計画
目標までに無数に存在する軌道から、一つの軌道を計画すること。
注4) 選択的注意
複数存在する感覚情報から、特定の情報のみを選択して認知すること。
注5) アクティブセンシング
行動しながら観測(センシング)を行うことで、ここではコウモリが自ら超音波信号を発し、そ
のエコーを聞くことで能動的に外界の情報をセンシングする様子を指す。これに対して、パッシブ
センシングとは受動的な感覚を利用したセンシングを言う。
<論文情報>
タイトル:Echolocating bats use future-target information for optimal foraging
(コウモリは最適採餌のために次の標的の情報を利用する)
著者:Emyo Fujioka, Ikkyu Aihara, Miwa Sumiya, Kazuyuki Aihara and Shizuko Hiryu
(藤岡慧明、合原一究、角谷美和、合原一幸、飛龍志津子)
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
(米国科学アカデミー紀要)
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
藤岡慧明(ふじおか えみょう)
同志社大学 研究開発推進機構 助手
Tel&Fax: 0774-65-6364
E-mail: [email protected]
飛龍志津子(ひりゅう しづこ)
同志社大学 生命医科学部 准教授 / JST さきがけ研究員
Tel&Fax: 0774-65-6364
E-mail: [email protected]
合原一幸(あいはら かずゆき)
東京大学 生産技術研究所 教授
TEL: 03-5452-6691
FAX: 03-5452-6692
[email protected]
<JSTの事業に関すること>
松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICT グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s 五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2066
E-mail:[email protected]
<報道担当>
同志社大学広報部広報課
〒602-8580 京都府京都市上京区今出川通烏丸東入
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東京大学生産技術研究所
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〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
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