平成19年度原子力人材育成プログラム事業成果報告書(概要版) 原子力教育支援プログラム(経済産業省) 国立大学法人北海道大学 大学院工学研究科 連携推進部ディレクター/エネルギー環境システム専攻 奈良林 直 <提案事業概要> 炉物理実習教材、保全工学基礎強化プログラムの開発及び放射線計測やリスクの理解促進等。 1.目的・背景 北海道大学の機械知能工学科・エネルギー環境システム専攻・量子理工学専攻は、法人化を機会に原子力工学系と 機械工学系を発展的に統合し、原子力工学基礎、機械(保全)工学基礎を学べる全国的にユニークな学科・専攻として、 既に実践的な原子力人材育成の教育人材が組織化されている。本事業は、原子力人材育成を更に充実・強化するため に教育支援プログラムを構築し、実際に教育現場で実践する。 2.実施概要 本事業は、実践的演習・実験教材開発(特に原子炉シミュレーター開発)を重点項目とし、合わせて効果的な原子力基 礎・放射線計測・保全工学基礎強化カリキュラム開発、原子力理解促進カリキュラム開発および北海道の施設を活用 した実践カリキュラム開発を達成し、北海道大学として産・官・学で活躍できる人材育成のための実践的な原子力教 育カリキュラムの強化を以下の3項目を柱として実施する。 (1)電子化ハイパーテキスト・可視化技術・ディジタルシミュレーション技術の高度活用による初等炉物理教材の開発 (2)放射線理解促進のための放射線利用と放射線検出技術の習得、霧箱の製作による放射線の可視化 (3)保全工学基礎強化プログラムの開発 これらの教育に関連して、北海道電力株式会社泊発電所、同訓練センター、株式会社日本製鋼所の原子炉圧力容器 やタービンローターの製造現場の見学、東海地区の独立行政法人日本原子力研究開発機構の見学や原子力プラントメ ーカーや燃料会社の工場見学を行い、講義・実習・産業界や研究所の見学により、実践的な人材総合育成を行う。 2−1.実践的演習・実験教材開発(教材作成、講義) ①原子炉物理理解促進プログラムの開発 (電子化ハイパーテキスト・理解促進用可視化技術) 原子炉物理は、ミクロ現象からマクロ現象へ集約化プロセス過程で、 複雑多岐にわたる核物理現象を物理的考察に基づく単純化や近似化 手法が巧妙に精緻に組み合わされた理論体系であり、学生にとっては 習得が困難で、最も苦手な教科の1つになっている。本教材では可視 化技術やハイパーテキスト技術を利用し、教科書のコンテンツは DVD などの高密度記憶媒体に記録し、図1の通り、これを WEB から PC 上 で閲覧可能とした。中性子との様々な核反応現象、中性子減速過程等 を臨場感豊かに可視化した。また、工学部機械知能工学科3年生約 100 が受講する「原子炉工学」では、PBL(Project Based Learning)の手法 を取り入れた学生達が選択した様々な原子炉を設計するプロジェク ト形式の実践的演習形式で教えることにより、学習意欲の向上・促進 に大きく役だった。大学院1年の「原子炉物理特論」は、北大工学系 教育センター(CEED)の全面的協力の下、e-learning の教材を作成し た(DVD 作成)。 図1 炉心の中性子振る舞い可視化画像 中性子減速過程を WEB 上で3次元表示 ②放射線計測・可視化(霧箱)実験装置開発 北大所有の電子加速器で発生する中性子のエネルギースペクトル は核分裂のものに近く、吸収体、大きさ等にも依存して変化する減速 材中性子スペクトルの様子を実測し、原子炉内の中性子輸送、放射線 取扱いなど放射線の基礎となる事柄を実体験的に理解させる。平成 19 年度は、自然界の放射線理解のため、霧箱実験装置を製作した。 ③保全工学基礎実験装置開発 保全工学基礎に関連する教科の講義内容を具体的な実験を通して 理解させることを目的として、ポンプ、弁、熱交換器、圧力計、オ リフィス流量計、熱電対、インバータ電源などから構成される保全工 学基礎実験装置を製作した。発電設備の機能要素としての重要性・信 頼性が学べるよう工夫をし、今後2年間で整備すると共に保 連絡先;北海道大学 大学院工学研究科 エネルギー環境システム専攻 図2 「原子炉工学」の講義風景 PBL 方式を採用した原子炉の炉心核・熱 水力設計、安全系システム設計を実施。 原子炉工学研究室 奈良林 直 全工学の教材を作成する。分解・組立により、機能、材質、事故・ト ラブル事例を具体的に理解をさせ、温度・圧測計測についても測定原 理、構造を理解すると共にその信頼性を向上させるための点検ルール 等についても学ぶ場とする。 図3 霧箱と保全工学基礎実験装置 放射線理解の霧箱とポンプ・弁、計装・制 御系を有する保全基礎実験装置(教材) 2−2.原子力基礎・保全基礎強化カリキュラム開発(見学、講義) 機械知能工学科に所属する原子力系および機械系の教員間の連携・協力体制を強化することを目的として、三菱重 工神戸造船所の大型原子炉機器製造の工場見学を実施した。また、図4に示す北海道電力泊原子力発電所の運転シミ ュレータや原子力訓練センターでの研修体験、図5に示す日立・東海村の学部学生の見学をほぼ計画通り実施した。 これらの講義では原子力基礎を強化するカリキュラムの検討と各教科の役割の明確化、学生の質の向上のための方 策を具体化するため、毎回の講義で理解度テストや感想文記入の時間を取り、学生の講義の理解度、インセンティブ の向上度を把握し、講義にフィードバックした。また、大学院の「原子炉物理特論」では産業界からの外部講師を適 宜招き、我が国の原子力産業界の次世代プラント構想や最新鋭の炉心核設計コードの開発状況を解説いただいた。 図4 北海道電力(株)泊原子力発電所の運転シミュレータと 原子力訓練センター(非破壊検査、体感訓練)での研修体験 図5 日立製作所の原子炉製造部、JAEA の陽子線 加速器 J-Park と核融合研究施設の見学風景 他に東芝、原電東海発電所、三菱原子燃料を見学 2−3.原子力理解促進カリキュラム開発(他学科用教材作成・講義) 機械知能工学科以外の他学科の学生へのエネルギーと原子力の教育では、約200名が受講する「エネルギー工学 概論」)に機械知能工学科の原子力や流体・伝熱・熱機関の教員が講師として講義を実施した。また、放射線や原子力 発電所のリスク等について外部講師に講義をしていただいた。これらはほぼ計画時のシラバスにて実施できた。学生 の評判はすこぶる良く、従来、原子力を学ばない他学科の学生への原子力の理解促進に大きな効果を発揮した。 2−4.泊原子力発電所・日本製鋼所を活用したカリキュラム開発(見学) 図4に示した通り、北海道電力泊原子力発電所の運転シミュレータや原子力訓練センターでの研修体験を実施した。 3.成果 平成19年度については以下の成果を上げた。 (1)実践的演習・実験教材開発 ①可視化技術を用いた炉心の中性子振舞い可視化画像と電子化ハイパーテキスト(DVD)の初等炉物理教材(第1 段階)、②放射線理解促進のための霧箱、③保全工学基礎実験装置の3つの重点分野について計画通り製作を遂行し た。特に機械知能工学科3年生約 100 名約 100 名が受講する「原子炉工学」は実践的演習を取り入れた結果、授業 アンケートで工学部専門教育選択科目 146 人中第1位の満足度となった。 (2) 原子力基礎・保全基礎強化カリキュラム開発 ①機械知能工学科の教員に対し原子力メーカ(三菱重工)の工場見学を計画通り実施した。特に、参加した機械系 の教員間で原子力基盤教育としての機械系各講義の重要性が認識された(国際会議での発表論文を添付)。 ②学部3年生を対象に日立・東海村の見学を実施した結果、学生の原子力を学ぶインセンティブが向上した。 (3) 原子力理解促進カリキュラム開発 ・機械知能工学科以外の他学科の学生へ「エネルギー工学概論」のエネルギーと原子力の教育を当初計画したシラ バスに従って講義したが、受講生が約 200 名に達し、極めて好評であった。 (4) 泊原子力発電所・日本製鋼所を活用したカリキュラム開発 「原子炉物理特論」を受講した大学院修士課程の学生に対して、当初計画した通り、泊原子力発電所の運転シミュ レータや原子力訓練センターでの研修体験を実施した。日本製鋼所は原子力学会北海道支部の講演会を開催した。 4.取組の評価と今後の展開 ・「原子炉工学」の充実に加え、大学院の「原子炉物理特論」は平成 20 年度に、今回開発した炉物理教材を用いて、 原子炉内の核分裂の物理と制御を実践的演習により修得させ、PDCA サイクルを回し、平成 21 年度に完成させる。 ・今後のカリキュラム強化では、外部講師および道内施設での実習を通して原子炉物理学、放射線安全学、核燃料サ イクル工学の一層の基盤強化を計る。また、平成 19 年度に設置した保全工学基礎実験装置を活用して構造強度、材 料強度、腐食、溶接、熱流体、振動等の基礎が学部レベルで効果的に学べることを目指す。また、霧箱実験装置を 用いた観察実験を通して放射線を身近な存在とさせ、原子力のリスク・ベネフィット論の効果的教材を作成する。
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