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第9回日本歯科骨粗鬆症研究会
骨粗鬆症の最近のトピックスから歯科医療を考える
第9回日本歯科骨粗鬆症研究会大会長
九州歯科大学
感染分子生物学分野 教授
西原 達次
今回、第9回日本歯科骨粗鬆症研究会を北九州にて開催することになりました。これ
まで、本研究会では、歯科領域の疾患と骨粗鬆症の関連を様々な視点でとらえ、ユニー
クなテーマのもとで学術活動が展開されています。現在、藤田拓男先生(神戸大学名誉
教授)が理事長を務められ、毎年研究会が全国各地で開催されていますが、今年度は、
九州歯科大学が大会の運営をさせていただくことになりました。
本大会では「骨粗鬆症の最近のトピックスから歯科医療を考える」というテーマを掲
げ、現在、臨床で問題となっているビスフォスフォネートや新たな骨代謝に関する研究
成果を紹介できればと思っています。まず、基調講演で、藤田拓男先生に、ビスフォス
フォネートの功罪をお話しいただくことになっています。教育講演では、自見英治郎先
生、高石佳知先生、平田雅人先生に、骨粗鬆症を基礎と臨床の視点で、分かり易くお話
しいただく予定です。さらに、特別講演では、齊藤充先生に骨粗鬆症の治療において、
骨密度を増加させるだけでなく、骨質の改善も重要な役割を果たしていることを治療学
の視点でお話しいただきます。そこでは、骨質务化型骨粗鬆症に対するテーラーメイド
治療の現状についても言及していただけると聞いています。
このような基調講演、教育講演、特別講演に加え、日本歯科骨粗鬆症研究会の会員か
らポスター発表を募り、今回のテーマに即して、明日からの臨床に役立つ話題を提供す
ることができれば、今回、企画運営を担当したものとしてこの上ない慶びと思っており
ます。
それでは、北九州で活発な意見交換がなされ、本学会の発展につながることを祈念し
て、冒頭のご挨拶とさせていただきます。
関連事業
・平成22年度知的クラスター創成事業「MEMS センサ・デバイスの高感度化と
システム化技術の研究開発」(代表:西原 達次)
・厚生労働省長寿科学総合研究事業「高齢者のドライマウスの実態調査および
標準的ケア指針の策定に関する研究」(代表:柿木
保明)
<大会事務局>
事務局長:九州歯科大学 分子情報生化学分野 教授 自見
― 1 ―
英治郎
プログラム
11:00-12:00
理事会
12:10-12:20
受付
12:20-12:40
開会の挨拶
大会長 西原 達次(九州歯科大学
12:40-13:10
歯学部 教授)
基調講演
演者:藤田
拓男(日本歯科骨粗鬆症研究会 理事長)
演題:骨粗鬆症患者の現状
~ビスフォスフォネートの光と影~
13:10-13:40
教育講演Ⅰ
演者:自見
英治郎(九州歯科大学
歯学部 教授)
演題:次世代の骨粗鬆症治療薬の標的分子の可能性
13:40-14:10
教育講演Ⅱ
演者:高石
佳知(日本歯科骨粗鬆症研究会 副理事長)
演題:歯科医の新しい責任と大きな可能性
―Bone・Rightで骨粗鬆症の発見―
14:10-14:40
総会
14:40-15:00
休憩
15:00-15:30
教育講演Ⅲ
演者:平田
雅人(九州大学
大学院歯学研究院 教授)
演題:PRIP の骨代謝における機能
15:30-16:30
特別講演
演者:齋藤
充(東京慈恵会医科大学 整形外科 講師)
演題:なぜ高い骨密度でも骨折するのか?
―骨質务化型骨粗鬆症に対するテーラーメイド治療の実際―
16:30-16:40
閉会
― 2 ―
基調講演
骨粗鬆症患者の現状
~ ビスフォスフォネートの光と影 ~
藤田
拓男
歯科骨粗鬆学会理事長 神戸大学名誉教授
葛城病院名誉院長
骨粗鬆症は昔も今も人類のかかる病気の中で最も多い、したがって最も重要な疾患で
ある。その原因はカルシウムの欠乏に尽きる。昔は治療不可能と言われていたが、現在
ではビスフォスフォネートの導入により初めて治る病気になった。したがって、ビスフ
ォスフォネートによる治療の現状が骨粗鬆症の現状そのものであり、ビスフォスフォネ
ートを数億人の骨粗鬆症の患者、骨転移予防の求められる患者の治療薬として正しく認
識することが人類の未来を決定すると言える。
骨粗鬆症は確かに骨密度の減尐とともに骨折の危険を増大しそれ自身治療すべき疾
患であるが、その本当の脅威は骨のカルシウム欠乏とは逆にすべての細胞、組織に骨か
ら放出される大量のカルシウムが洪水のように侵入するカルシウム・パラドックスであ
る。隣接する軟骨・靭帯・腱へのカルシウム流入による硬化・摩耗は変形性関節症を引
き起こし、細胞内カルシウムの増加は免疫細胞、血管細胞、神経細胞、などあらゆる細
胞の情報伝達と機能を阻害し、過酸化物の生成とあわせて老化・がん化等多くの疾患の
原因となる。 ビスフォスフォネートの骨からのカルシウムの流出の抑制によるこれら
の疾患に対する輝かしい成果をその「光」とするならば、最近注目されているその副作用
は「影」とも言える部分である。
特に歯科医に恐れられている抜歯等の合併症である顎骨壊死を始め、骨折を予防する
はずであるのに逆に増える非典型的な大腿骨骨折、心房細動、食道癌の問題が解決され
なければ、さらに広い応用は困難であるかも知れない。この謎を解く鍵は十分なカルシ
ウムの併用にある。顎骨炎・顎骨壊死は、吸収の良いカルシウム(例えばAAACa)
を十分に加えて、免疫細胞の不活性化を避ければ防止できる。ビスフォスフォネートだ
けでカルシウムがこれに伴わないと、骨以外ではカルシウムは却って不足し、新しいカ
ルシウム・パラドックスの火種にもなる。カルシウム・パラドックスを克服すればビス
フォスフォネートの影は消えて新しい光が見えてくる。
― 3 ―
略 歴
1952年
東京大学医学部医学科卒業
Fulbright - GARIOA 資金により
New York 州 Buffalo 大学留学
1956年
東京大学第3内科研究生、助手
1969年
東京大学老年病學教室助手、講師
1975年
和歌山県立医大高年病内科教授
1978年
神戸大学第3内科教授
1991年
神戸大学名誉教授
1994年
葛城病院名誉院長
国立療養所兵庫中央病院長
学会活動等
日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会、骨粗鬆症財団、関西カルシウム懇話会の
設立に関与、8th International Conference on Calcium Regulating Hormones、
First International Conference on New Actions of Parathyroid Hormone、
Second International Conference on Osteoporosis、日本内泌学会、日本結
合組織学会会長を歴任
― 4 ―
教育講演Ⅰ
次世代の骨粗鬆症治療薬の標的分子の可能性
自見 英治郎
九州歯科大学 生命科学講座
分子情報生化学分野
教授
ヒトの骨格は約200本の骨から構成され、その重さは約9 kgである。骨は強靭な支持
組織であり、筋肉と共同で運動や姿勢の維持をはかっているが、一方ではカルシウム代
謝において重要な役割を担っている。骨は一見静的な組織のように思われるが、骨組織
内部では一生涯骨吸収と骨形成がバランス良く繰り返されている非常に動的な組織で
ある。この過程を骨のリモデリングという。
骨は構造上、皮質骨と海綿骨に分けられる。成人の皮質骨と海綿骨の比率は9:1と
圧倒的に皮質骨の方が多い。しかし、リモデリングされる比率は皮質骨が1年当り約
3%であるのに対し、海綿骨は年30%にもおよぶ。その結果、ヒトの骨は全体として1
年間に約6%が作り換えられることになる。さらにヒトは20歳代に最大骨量に達した後、
加齢とともに骨量が減尐するが、これは加齢に伴って骨吸収のスピードが骨形成を上回
るためである。ヒトは1年間に約1%骨量を減尐するが、女性は閉経を迎えると年平均
3%骨量を失うと言われている。
骨粗鬆症は、「骨強度の低下を特徴とし骨折リスクが増大しやすくなる骨格疾患」と
定義される。日本では 1100 万人の患者がいるが、大腿骨頸部骨折の発症頻度は 1987 年
から 2002 年まで、5 年ごとの調査で上昇の一途をたどり、2005 年には予想を大きく上
回る 14 万人が大腿骨頸部骨折を起こしている。このような観点から、骨粗鬆症の治療
を考えるとき、いかに骨折を予防できるかという点を重要視せざるを得ない。「骨粗鬆
症の予防と治療ガイドライン(2006 年度版)
」の中に骨粗鬆症による脆弱生骨折予防の
ための薬物療法開始基準が示されているが、アレンドロネートやリセドロネートなどの
ビスホスホネート製剤は、骨密度、椎体骨折、非椎体骨折、総合評価の全4項目におい
て有効であることが報告されている。
その一方で特に癌の骨転移症例にビスホスホネート製剤を頻回投与した例や、頻度は
尐ないものの骨粗鬆症の治療でビスホスホネートを服用した患者に抜歯などの歯科治
療が施された例において顎骨壊死が発症することが報告され、歯科臨床において大きな
問題となっている。
本講演では骨吸収と骨形成の調節機構を解説するとともに、次世代の骨粗鬆症治療薬
の標的分子の可能性について紹介したい。
― 5 ―
略 歴
1991年
九州大学歯学部卒業
1994年
九州大学大学院歯学研究科外科系専攻修了(歯学博士)
1994年
昭和大学歯学部生化学講座
1998年
ハワードヒューズ医学研究所研究員(Yale 大学医学部)
2003年
福岡歯科大学細胞生物学講座
細胞生理学分野 助教授
2005年
九州歯科大学 生命科学講座
生化学分野
2007年-
公立大学法人 九州歯科大学
分子情報生化学分野
助手
教授
教授
学会活動等
歯科基礎医学会、分子生物学会、日本骨代謝学会、小児歯科学会、日本歯科教
育学会、九州歯科学会、American Society of Bone and Mineral Research、
International Association of Dental Research
研究テーマ
骨代謝研究
1) 破骨細胞分化および骨吸収の分子機構の解明
2) BMP による骨芽細胞分化の分子機構の解明
3) 口腔扁平上皮癌による顎骨浸潤の分子機構の解明
― 6 ―
教育講演Ⅱ
歯科医の新しい責任と大きな可能性
―Bone・Rightで骨粗鬆症の発見―
高石
医社)天聖会 高石歯科医院
佳知
日本歯科骨粗鬆症研究会副理事長
骨粗鬆症は、世界で 7500 万人以上が罹患し、WHO 非感染性疾患予防対策の最優先疾
患である。急速な高齢化により、我が国でも骨粗鬆症の患者は年々増加し、現在110
0万人と推計されている。骨粗鬆症は、全身の骨密度が低下し、骨折を誘発するのみな
らず、顎骨代謝に影響を及ぼす。特に歯槽骨頂部に最初に骨粗鬆症徴候が発現する。
最近では、わが国で 2000 万人以上が罹患している歯周疾患の進展を促進し、歯の喪
失に繋がると考えられ、骨粗鬆症と歯周病の連関から、骨と歯との相互関係が注目され
ている。骨と歯の唯一の接点が顎骨、特に歯槽骨である。歯周疾患は、特に歯槽骨頂部
から発症することから、歯槽骨こそが骨と歯の間に存在する生理的、臨床的に密接な関
係の鍵を握る組織と考えられる。
こうした背景のもと、歯槽骨骨密度(al-BMD)評価装置(Bone・Right,デンタルグラ
フィック・コム社)の有用性が注目されている。すなわち、歯科骨粗鬆症検診における
al-BMD 評価によって、歯槽骨骨粗鬆症のみならず、全身性の骨粗鬆症、さらには顎骨
壊死(ONJ)のリスク予知を含めたビスフォスフォネート製剤(BP)による骨粗鬆症治
療の有効性の評価を、一般歯科臨床できわめて安価に、短時間で行うことが出来るので
ある。簡便な歯科骨粗鬆症検診時の al-BMD 評価が、骨粗鬆症患者のスクリーニングに
加えて、BP 関連顎骨壊死(BRONJ)のリスク回避に有用であることから、ひいては医科
歯科連携による骨粗鬆症受診率の向上にも貢献するものと期待できる。
本講演では al-BMD 評価の意義とその装置の実際について紹介し、骨粗鬆症における
今後の可能性についても解説する。
― 7 ―
略 歴
1979年
大阪歯科大学卒業
1980年
高石歯科医院院長
1993年
歯学博士授与(大阪歯科大学)
1999年
骨粗鬆症ネットワーク理事
2001年-
日本歯科産業学会評議員
2001年-
日本骨粗鬆症学会評議員
日本歯科骨粗鬆症研究会常務理事
2004年-
大阪歯科大学非常勤講師(生化学)
2005年-
医療法人社団 天聖会 高石歯科医院設立
2005年-
骨粗鬆症・生活習慣病ネットワーク兵庫支部会長
2005年-
骨粗鬆症・生活習慣病ネットワーク代表
2005年-
日本歯科骨粗鬆症研究会副理事長
学会活動等
日本骨粗鬆症学会、日本歯科骨粗鬆症研究会、米国骨ミネラル学会(ASBMR)、
運動器内科研究会、日本歯周病学会、米国審美歯科学会(AACD)、日本歯科審美
歯科学会、日本口腔インプラント学会、日本小児歯科学会、生体材料学会、日
本歯科産業学会
研究テーマ
歯槽骨骨粗鬆症
1) 骨粗鬆症の病態に基づいた歯科治療法の確立
2) 顎骨代謝の臨床的研究
― 8 ―
教育講演Ⅲ
PRIP の骨代謝における機能
平田
雅人
九州大学 大学院歯学研究院
口腔細胞工学 教授
PRIP (phospholipase C-related, but catalytically inactive protein, PRIP-1 と
PRIP-2 の2つの型が存在) はイノシトール 1,4,5-三リン酸と結合するタンパク質とし
て発見された新規分子である。本分子の機能を解明するために PRIP 遺伝子欠損マウス
(KO)マウスを作製した。KO マウスのメスでは卵胞形成ホルモン、黄体ホルモンいず
れも恒常的に高値を呈したが、これらに呼応して分泌量が増加するはずのエストロゲン
やプロゲステロンといった性ステロイドホルモンは KO マウスではむしろ低値を示した。
この遺伝子欠損マウスの示したゴナドトロピンや性ステロイドホルモンの分泌異常は
閉経後女性などに見られるホルモン・アンバランスに傾向が類似しており、骨粗鬆とい
った骨組織の異常が予測された。
そこで、KO マウスの骨組織について解析した。6, 12 ヶ月齢のメスより大腿骨を摘出
し骨状態の 3 次元計測をしたところ、予測とは反対にいずれの月齢でも KO マウスにお
ける骨密度および海綿骨の骨量が増加していた。この増加がホルモンの影響によるもの
かを調べるために、8 週齢のマウスを用いて卵巣を摘出し、8 週間後に大腿骨の 3 次元
計測を行った。野生型では著明な骨量の減尐が見られたが、KO マウスでは明瞭な変化
は認められなかった。次に、8 週齢マウスの大腿骨の形態計測を行ったところ、KO マウ
スにおいて骨吸収パラメーターがやや亢進していたが、統計的有意を示す程ではなかっ
た。一方、骨形成パラメーターは KO マウスで著明な亢進が見られた。そこで、新生マ
ウスの頭蓋骨より調製した骨芽細胞の初代培養を用いて解析を行なったところ、KO マ
ウスから調製したものでは骨芽細胞の分化能が高く、また、種々の骨芽細胞分化マーカ
ー遺伝子の早期の発現を認めた。更に、Smad1/5/8 のリン酸化について検討したところ、
KO マウスからのものでリン酸化レベルの延長を観察した。
これらのことから、KO マウスでは骨形成が促進していると考えられた。この現象は
ホルモンの直接的な影響を受けていないことが示唆され、PRIP 自身が直接的に骨形成
の制御を抑制していることが示唆された。
― 9 ―
略 歴
1976年3月
九州大学歯学部 卒業
1980年3月
九州大学大学院歯学研究科修了
(この間東京大学医学部薬理・江橋節郎先生の研究室に出
向く)
1980年4月
九州大学助手(医学部・臨床薬理学教室)
1981年3月
九州大学助手(歯学部・生化学教室)
1984年1月
同上
講師
1988年4月
同上
助教授
1996年8月
同上
教授
2009年5月
同上
主幹教授
(この間、九州大学アイソトープセンター長、歯学研究院
副研究院長などを歴任、現在
九州大学研究戦略企画室室
員、九州大学教育研究評議員を兼ねる)
資 格
歯科医師免許
歯学博士(九州大学)
学会活動等
日本生化学会(理事・評議員)、日本薬理学会(評議員)、歯科基礎医学会(評
議員)、細胞生物学会(評議員)、岩垂育英会(評議員)
受賞歴
2002年10月
第2回ライオン学術賞
― 10 ―
特別講演
なぜ高い骨密度でも骨折するのか?
―骨質务化型骨粗鬆症に対するテーラーメイド治療の実際―
齋藤
充
東京慈恵会医科大学 整形外科 講師
【背景・基礎研究】これまでに我々は,酸化ストレスの亢進[1]や糖化[2]といった生活
習慣病因子や,ステロイド(GC)[3]あるいは関節リウマチ(RA)に関わる因子が,骨質因
子であるコラーゲンの質を务化させ,骨脆弱化をまねくことを動物モデルやヒト検体か
ら明らかにした[4].また,コラーゲンの分子間架橋が基質の石灰化過程[5,6]や骨強度
を規定しすること[4],さらには架橋の異常によりマクロレベルの骨質異常であるマイ
クロダメージの原因となることを見出した[7].コラーゲン架橋の適正な制御は種々の
成長因子のみならず,非コラーゲン蛋白が担っていることも明らかにした[8-10].
【基礎から臨床へ】これまでの動物およびヒト骨生検の検討から,骨質の異常を誘導す
る要因として,(1)加齢[11],(2)ステロイド投与[3], (2)RA,(3)糖尿病[2],(4)酸化
ストレス増大[1,12,13]の関与を明らかにした.ミクロレベルでの研究成果をコホート
研究に当てはめると,骨粗鬆症は 3 つのタイプに分けることができる.(1)低骨密度型,
(2)骨質务化型,(3)低骨密度+骨質务化型である.また,骨質务化型を見つけ出すバイ
オマーカーとして,血中ホモシステイン(Hcys) ,尿中ペントシジン測定の有用性を明
らかにした[14,15].さらに尿中ペントシジンの高値が,椎体の骨折の重症度(Genant
分類Grade3)に影響を及ぼす独立したリスクマーカーとなることを見出した
[unpublished]
【治療への応用】骨質务化型例では,ビスフォスフォネート(BP 剤)で骨密度を高めて
も,新規骨折を生じるリスクが 1.6 倍高いことがわかった[16].BP 剤による過度のリ
モデリング抑制は骨量にはプラスに作用するが,コラーゲンからみた骨質改善効果は期
待できない[7].すなわち,骨粗鬆症の治療に際しては,骨質の善し悪しを骨質マーカ
ーによって評価し,その対処も同時に行う必要がある.骨密度と骨質により病型分類を
した場合,低骨密度型にはBP 剤が有効であり[7],骨質务化型には,Vit. K2[17], Vit.
D[3,18],SERMs[1]が有効であることを明らかにした.また,副甲状腺ホルモン剤は骨
量,骨質を同時に改善することを明らかにした[19].
【展望とピットフォール】病態解明のためには,ヒト・動物の生検組織を用いて,遺伝
子発現から蛋白の翻訳後修飾まで網羅的に解析することが重要である.また,基礎研究
― 11 ―
から得られた知見を,臨床コホートへと展開し,
「普遍化できるか?」という課題にも
取り組む必要がある.さらに,病態に応じた適切な動物モデルの選択,確立についても
ピットフォールが存在する[4].
― 12 ―
略 歴
1992年
東京慈恵会医科大学卒業
1994年
東京慈恵会医科大学 大学院入学
2001年
国立宇都宮病院 整形外科リハビリ科医長
2007年
東京慈恵会医科大学病院 整形外科
講師
学会活動等
日本骨代謝学会(評議員)、日本骨粗鬆症学会(評議員)、日本骨形態計測学会
(評議員)、日本ビタミン学会(評議員)
、日本抗加齢医学会(評議員)
、日本
股関節学会
学会
変形性股関節症 ガイドライン作成委員会
委員、日本整形外科
骨粗鬆症委員会 委員、日本骨粗鬆症学会 生活習慣病における骨折リ
スク評価委員会 委員、骨質研究会
世話人、日本メイラード学会
日本生体電気・物理刺激研究会 幹事
Editorial Board
Journal of Bone and Mineral Metabolism (JBMM)
Journal of Orthopaedic Science (JOS)
受賞歴
2004年
日本骨代謝学会優秀賞
2006年
日本結合組織学会大高賞
2007年
日本骨粗鬆症学会研究奨励賞
2007年
日本骨粗鬆症学会第2回森井賞
2007年
日本骨形態計測学会学会賞
2007年
中冨健康科学財団助成
2008年
日本骨代謝学会研究奨励賞
2009年
科学技術映像祭優秀賞
2009年
日本骨粗鬆症学会研究奨励賞
2009年
米国骨代謝学会 Plenary Poster
2010年
日本骨粗鬆症学会研究奨励賞
2011年
日本総合健診学会学術奨励賞
業 績
[1] Saito M, Osteoporos Int, 21:655, 2010
[2] Saito M, Osteoporos Int, 18:1514, 2006
[3] Saito M, Calcif Tissue Int, in press
[4] Saito M, Osteoporos Int, (REVIEW), 21:195, 2010
[5] Saito M, J Bone Miner Res, 18:1695, 2003
― 13 ―
広報委員、
[6] Saito M, Bone, 35:644, 2004
[7] Saito M, Osteoporos Int, 19:1343, 2008
[8] Maruhashi T, Saito M, J Biol Chem, 285:13294 2010
[9] Kii I, Saito M, J Biol Chem, 285:2028, 2010
[10] Shimazaki M, Saito M, J Exp Med, 205: 295, 2008
[11] Saito M, Anal Biochem, 253:26, 1997
[12] Saito M, Calcif Tissue Int, 79:160-8, 2006
[13] Saito M, Osteoporos Int, 17:986, 2006
[14] Shiraki M, Saito M, JBMM, 26:93, 2008
[15] Shiraki M, Saito M, JBMM, 26:595, 2008
[16] Shiraki M, Saito M, JBMM, 29:62, 2010
[17] Saito M, ASBMR, 2005
[18] Saito M, Bone, 46:1170, 2010
[19] Saito M, Osteoporos Int, 2010, online
― 14 ―