第1部 「ワイン産地・空知の現状と将来性について (18:10~19:10

第1部
「ワイン産地・空知の現状と将来性について 」
(18:10~19:10)
10Rワイナリー
ブルース・ガットラヴ氏
皆さんこんにちは。今紹介のありましたブルース・ガットラヴと申します。今日は寒い
中お越しくださいまして、本当にありがとうございます。感謝いたします。
今日は面白い情報、役に立つ情報を少しでもお話しできれば幸いです。
説明はパワーポイントを使って行います。
今日の話は「ワイン産地・空知の現状と将来性について」というテーマです。空知では
今まで何をした、何ができる、これから何を期待してもいいかという今後の話もしようと
思っています。
少し風邪気味の声で失礼します。空知は醸造用ぶどうの栽培地としては非常に優れてい
る場所ですけれど、冬になって吹雪の中で剪定作業をすると風を引きやすい所です(笑)。
まずは画面をみてください。これはジョークですが、英語のジョークなので皆さんに通
じるか心配です。事前に妻と娘にもテストで見せてみたら笑わなかったので、笑わなくて
もいいです(笑)。
不動産に関するアメリカのジョークですが、日本語に直すと「不動産の取引に関する一
番重要なことは何ですか」です。これに対する答えは、1ロケーション、2ロケーション、
3ロケーション、日本語で言うと一番重要なのは場所、次は場所、3つ目は場所、つまり
不動産の取引では場所が非常な重要なポイントで、土地の売買は場所によってすべてが決
まるということ。
これは、土地の価格についてネットで拾った情報ですので、不動産関係の人がいらっし
ゃったらこれが正しいのか後で教えていただきたいのですが、去年の東京中心部の平均土
地価格は1平方メートル当たり百数十万円、北海道は、ある田舎の場所、もう少し具体的
に言いますと、岩見沢の栗沢の上幌で、1平方メートル当たり 15 円。随分違いますよね。
このように不動産に関しては場所が非常に重要であるということですね。
でも今は、空知の不動産の現状と将来性という話ではなくて、ワインについてですね。
皆さんワインについてはどう思いますか。ワインについても不動産と同じく、むしろ不動
産以上に場所の話が重要だと思います。
それではワインについて重要な4つのことは何でしょうか。答えは場所、場所、場所、
場所・・・5つでもいいくらいです(笑)。
ワインの話をするとき、場所は一番重要なポイントです。別の言い方をしますと、どこ
でぶどうを作るのかが一番重要なことです。ワイン造りを始めたいのであればどこの場所
で畑を開墾するのかというのが、一番最初で一番重要な質問です。
なぜなら場所を決めれば、そこから色々な答えが出てくるからです。場所によってどの
ぶどう品種が適しているのかが決まってきます。
例えば、カベルネソーヴィニョン。この品種が大好きな人は空知でワイン造りをしなく
てもいいと思います(笑)。温暖化がずっと続けば 100 年後に出来るかも知れませんが、
カベルネソーヴィニョンは、割と暖かい地方の晩熟品種ですから空知みたいな涼しい地方
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では熟しにくいので、成功する可能性は非常に低いと思います。
もう一つは、基本的に場所によってワインのスタイルが決まっています。空知は割と涼
しい所ですから、軽めで酸味の効いている香り高いワインには凄く向いてますが、どっし
りしたもったりした濃い、カリフォルニア、オーストラリア、チリのようなワインを造り
たい人は空知では非常に難しい。
ワインの話ですから醸造の話もしますと、最近の最先端の醸造技術を使えば、軽めのぶ
どうで濃いワインを造ることも可能ではあります。しかし私の今日の話はそのイメージの
ワイン造りではなくて、ワインが農産物として手をあまり加えず、素直にぶどうからワイ
ンにした場合です。その土地、場所を感じられる素直で自然なワイン造りは、その場所に
よってワインのスタイルが基本的に決まっています。
もう一つは、場所によってワインのポテンシャルが決まっているという話です。それぞ
れの場所にはポテンシャルが付いて来ていて、ある場所は高級ワインが出来ないかもしれ
ないが、ある場所は高級ワインに向いているかもしれない。ある場所は高級ワインは出来
ないけれど、日常的なワインがたくさん出来たり、ある場所は少量だけど高級ワインに向
いてるなど、それはすべて場所が決定したら、このようなすべてのことが決まってくるも
のです。
品種のポテンシャルの例について、画面を見てください。
とても美しい畑ですね。これは、残念ながらうちの畑ではありません。フランスブルゴ
ーニュ地方のジュヴレ・シャンベルタン地区の畑です。現地で買ったことがある人もいる
と思いますが、ブルゴーニュでは各畑のポテンシャルが決まっています。長年同じ場所で
ピノ・ノワール、シャルドネなどを数百年栽培し続けているので、各畑ごとの階級制が出
来上がってます。
一番最高級の特級畑グラン・クリュは、ブルゴーニュ地方の畑の2%だけで、そのすぐ
下の一級畑プルミエ・クリュは 15 %、その下の中程度のものは村の名前コンミューンの
み付けて、それが 30 %、その下の一番ベーシックなものは 50 %以上になります。
その情報を考えながらもう一度この畑を見てください。真ん中あたりにある3~5m位
のトラクターが通れる位の通路から左側は、中程度の村名のワインが造られる畑で、ポテ
ンシャルは中程度のものしか出来ない畑ですが、右側の方は最高級の有名なグラン・クリ
ュ畑になります。たった5mの通路を隔てて、中程度の畑とグラン・クリュの畑にポテン
シャルが変わってしまいます。おそらく、通路から左側の人達は右側の人達を羨ましく思
いながら働いていると思います。これらはポテンシャルだけではなく、ワインの値段も1
本当たり2~4倍程度違います。たった5mの違いで品質のポテンシャルが変わります。
以上のように場所は非常に重要なポイントです。
次は、ブルゴーニュから離れて空知の事ですが、まず、なぜ私が北海道に来たのか。
北海道に来て生産者の人達と話をすると、意外と元々北海道の人が少ないですね。その
中でも私は、よそ者の中のよそ者でかなり遠いところから来ています。その私がなぜ北海
道に、そして北海道の中の空知に来たのか。また、空知では今ままで何をしてきて、これ
からは何をしなければならないのか。空知はポテンシャルとしてはどこまであるのかとい
う話をしたいと思います。
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まず、なぜ私が北海道に来たんでしょうね。まず、その話をする前に一度、本州の話に
戻らなくてはなりません。この画像は本州の関東平野です。一番下の方は東京で、それよ
り少し北にあるのは足利市という街です。私が元々日本に来たのは、栃木県の足利市にあ
るワイナリーに勤めるためでした。その足利市は東京から 90 キロ程北にあります。これ
はそのワイナリーの写真です。下の真ん中の建物がワイナリーで、その一番下の方は急な
斜面、この写真は畑の一番上から下に見下ろして撮った写真で、ココ・ファームワイナリ
ーという場所です。私はココ・ファームに 1989 年から勤めたのですが、その当時はカリ
フォルニアのナパヴァレーでワインコンサルタントをやっていて、ココ・ファームに呼ば
れました。ココ・ファームの製造の皆さんと一緒に働いて、より良いワインを造るのが最
初の役割でした。
日本に来てすぐ、ココ・ファームでは、畑と言うより、醸造の技術に力を入れました。
ココ・ファームのスタッフの皆さんと、蔵の作業はどうやってスムーズにするか、蔵の掃
除をきちんとするとか、雑菌をあまり増やさないようにするにはどうやってタンクや瓶を
洗浄するか、ワインがあまり劣化しないようにするには、どうやってうまく醗酵・醸造の
管理をするかということを指導しました。
5年間位やってワインの質はだんだん良くなりましたが、あるところまで来たら天井に
ぶつかりました。それより良いワインを造りたいのなら、畑に戻って、ワイン造りの原料
にもっと力を入れなければならないと。
それから5年間位は、ココ・ファームの自社畑の品種や栽培の仕方を切り替えたりする
など、全てを考え直しました。
次に日本に来て 10 年経って、国産ぶどうへの切り替えをやりました。
1989 年ココ・ファームに勤め始めて、少しずつワインの質が良くなり、評判が良くな
って、売れるようになって、90 年代の半ばくらいには生産量は 160 トン、本数にすると
十数万本毎年造っていました。ただし、その大部分は海外のぶどう、海外の原料でした。
日本の法律では、今でも海外の原料を使うことが出来ます。カリフォルニア、オースト
ラリアのぶどうを買って、輸入して、日本で仕込んで醗酵して、出来上がったワインは日
本のワインとして売ることができます。極端な話、ぶどうでなくても良いのです。ジュー
ス、濃縮還元ジュースをドラム缶で輸入して、日本のワインで薄めて醗酵すると、日本の
ワインとして売れます。
カリフォルニアでも、オーストラリア、ニュージーランド、フランスでも基本的にそう
いう造り方はもう許されていない、違法です。
私はココ・ファームで皆さんにこれはおかしい、日本のワインというのは日本のぶどう
から造るべきでしょうと提案しました。
会社の決定としては基本的にはその方向に切り替えました。ただし、160 トンの 60 %、90
~ 100 トンは国産のぶどうを買い付けなどで増やさなければならない、そのぶどうはどこ
から手に入れるかということが次の悩みになりました。
それだけではなく、質が下がらない、コストが上がらないようにという専務からの命令
があったので、かなり難しかった。
その時から日本全国のぶどう作りを真剣にみて、それがどこであっても、良いぶどうが
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手に入りそうであれば、すぐに買い付けを検討しました。
ココ・ファームは栃木県ですから、ぱっと考えれば自分の畑を拡げればいいと思うでし
ょうが、足利は東京から 90 キロしか離れてなくて、東京のベットタウンです。少しでも
平らなところだと土地代は意外と高く、100 トンというのは 15ha 位の土地を用意する必
要があり、ワイナリーの周りで 15ha もの土地を買うのは現実的に不可能でした。
それで、全国の良さそうなぶどう、上手く出来そうなぶどう産地を探し、現地の皆さん
と話して、全国のぶどうの買い付けが始まりました。
では、どうやって良いぶどうを見つけるかというと、一つは気象データを全国細かく集
め調べました。
特に、春から秋まで、4月に本州だとぶどうが動き始める、春になって芽が出て枝が伸
びる、それが 10 月まで続いて収穫の時期になる。ですから4月から 10 月の間の雨量、日
照時間、積算温度などを細かく調べました。
北海道の気象データを調べた時には、買い付けの対象としてダメでした。私が判断した
のは、やっぱり難しい、寒すぎる、夏が短すぎる点です。積算温度が足りないから、ココ
・ファームのぶどうの買い先としては考えなくていいと思っていました。
もう一つの調べる方法はワインのテイスティングです。
日本全国のワインをできるだけ多く集めて飲み、美味しいと思うものがあったら、その
ぶどうはどこから来たかを調べて、その場所にすぐ行き、地元のぶどう農家の方にぶどう
を分けてくれないかとお願いしました。
その時には北海道のワインも沢山飲みました。意外と美味しくてびっくりしました。こ
んなに寒いところでも熟したものができるのかと。今でも思い出として残ってる2種類の
ワインがあります。
一つはヴィンテージは忘れましたが、北海道ワインの「光芒ケルナー」です。
もうやってませんが、昔は国税庁がほぼ日本全国全てのワインを買って、東京の九段下
のある広い場所で、生産者、造り手向けに、無料テイスティングができました。ただし、
一日中日本のワインをテイスティングすることはちょっと辛かった。数百種類のワインを
飲みましたが、当時の日本のワインはあまり良くなかった。大部分は酸化したり、酢の香
りや味がしたり、薄っぺらだったりで口に合わないものが多かったのですが、そこで、す
ごく不思議なワインを見つけました。
それは北海道ワインの「光芒ケルナー」でした。その時までは、こんなに果実味のある
香り豊かな綺麗な酸味の残るバランス取れたワインには出会わなかったので、かなり印象
的でした。
もう一つは三笠市にある、山﨑ワイナリーの初ヴィンテージの「ピノ・ノワール 2002」。
これはプレゼントでもらったものでしたが、実はあまり期待してませんでした。北海道
だからと言うよりも、ピノ・ノワールは作りにくい品種です。デリケートで栽培も非常に
難しいし、醸造もすごく難しい。繊細なぶどう品種なので、場所が合ってなかったり、作
り方が荒いと、ピノ・ノワール独特の香り・味、繊細な部分が完全に飛んでしまいます。
日本だけではなく、海外の沢山のピノを飲みましたが、大部分はがっかりするものでし
た。
しかし、山﨑さんのピノ・ノワールを飲んでみて、日本でもピノ・ノワールが上手くで
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きると思いました。
ココ・ファームでは 2002 年から北海道のぶどうを使い始めましたが、最初からかなり
いい結果が出ました。ワイナリーに届いたぶどうを見ると、北海道のぶどうは、香り・味
が豊か、酸味が綺麗で、病気がかなり少なかった。
良いぶどうの判断の一つは、糖度をみることです。
基本的にぶどうの糖分が醗酵することによって、アルコールに変わり、そのアルコール
が、ワインの丸み、コク、旨みの一つになります。
バランスのとれたワインには、だいたい 21 度ぐらいの糖度が必要です。
糖度の低い場合はどうしたらいいかというと、糖分を果汁に加えて醗酵させます。補糖、
そういう技術はどこでも使っていますが、日本では非常に重要です。
21 度にならないとグラニュー糖を沢山タンクに入れて、醗酵させる。しかし、我々は
そういう造りはしたくない。ワインは農産物だから添加物は出来るだけ少なめに造りたい。
工業的ではなく、農産物だから、糖分は加える必要がないのが一番嬉しいと考えています。
これはココ・ファームのデータの一つですが、県別に補糖する必要があるかどうかをみ
ますと、2005 ~ 2007 年の北海道のぶどうは 80 ~ 90 %は糖分を加える必要がありません
でした。しかし、他の県をみますとかなり低く、10 %、20 %、30%、40%です。
北海道のぶどうの良さのもう一つの要素は味です。
ココ・ファームで仕込んでいるぶどうは全て、ぶどうの熟し具合を見て、味見をして、
美味しいかどうか、香りがあるか、甘み、酸味、病気はあるか、熟し方は均一かバラバラ
かで、ランキングをしています。
A級は最高級、B級は十分、C級は若干難あり、D級は却下、使わなかったぶどう。3
年連続でココ・ファームで使った北海道のぶどうのうち、50%位がA級、トップクラスの
ものでした。これは、他の原産地より断然多く、それで北海道のぶどうは特別なものだと
思いました。
ココ・ファームでは、1道6県、北海道、山梨、長野、群馬、埼玉、栃木、山形のぶど
うを毎年使っています。自分の中で、一番良いぶどうは明らかに北海道でした。その結果、
2007 年に数トンだったものが、今年は 100 トン以上北海道のぶどうで仕込んでいます。
ココ・ファームがある程度大きくなって、若い優秀なスタッフが入ってくると、残念な
がら私は上の方に浮いてきました。そうなるとコンピュータワークなどが多くなり、おも
しろい仕事はだんだん出来なくなってきました。
それで 2008 年、ココ・ファームの皆さんに、出来ればワイン造りの原点に戻りたい、
ぶどうもワインも自分でつくりたいと相談し、独立のプロジェクトを始めました。
場所については、私が日本でワインを造るなら北海道しかないと思いました。何故かと
いうと、北海道では、熟した、病気の少ない、香りの高い、綺麗な酸味のぶどうができる
からです。
あと、北海道は、まとまった土地が手頃な値段で手に入りやすい。自分のイメージとし
ては、端から端まで全てぶどう畑ではなく、自然の中にぽつんぽつんといくつかの畑を作
りたいと思っていました。しかし、本州だと自然のままというのは土地代が高くて出来ま
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せん。
そして、持続的に栽培する、環境に優しい栽培の仕方、低農薬、有機栽培でやっていき
たいと考えました。
北海道は寒いから、夏でも夜は十分涼しく、病気がそれほど広がらない。他の地方に比
べると、腐っているぶどうの粒の数、房の数が少ないのです。
さらに北海道は冷涼な気候のお陰で、ぶどう栽培で使用する農薬が少なくて済むことに
一番の可能性を感じました。
寒暖差はぶどう栽培に非常に重要で、夏のぶどうの木の生育期間でも、昼間は温度がぐ
んと上がって、夜は若干寒いくらいの方がさらに良いぶどうができます。
カリフォルニアは暑いというイメージですが、昼間は夏 33 度、夜は 15 度位に下がり、
セーターがないと居られないくらいです。ワイン用ぶどうは、夜と昼の温度の差があると、
糖分が上がりやすく、ぶどう本来の香り、味が持ちやすいのです。
例として考えると、日本の出汁づくり。一瞬でも沸かしすぎると香りが全て飛んでしま
います。ワイン用ぶどうは基本的に、熱帯地方のような上がりすぎる温度で栽培すると、
ぶどうの香り、味、旨みが、沸かしすぎた出汁と同じように飛んでしまいます。寒暖差の
ある場所だと、ぶどう本来の風味が残りやすい。白ワイン、スパークリングワインには特
に重要な酸味もしっかりと残り、病果も少なめです。
こういう、寒暖差がちゃんとあるのは、どちらかというと内陸です。
内陸でも雪のある場所、なぜかというと、内陸は冬の間にはかなり冷え込み、内陸に行
けば行くほど最低気温が下がります。ワイン用ぶどう、特にヨーロッパからの品種、ピノ
・ノワール、ソービニオン・ブラン、シャルドネ等は、あまりにも寒いところだと、冬の
凍害で枯れてしまい、次の春に芽が開かないので、栽培はやりずらい。しかし雪が降れば、
苗が雪の下になって眠ってしまうから、気温がマイナス 20 度になっても、雪が毛布のよ
うに苗を守ってくれ、雪の下の温度はそこまで下がらない。だから、内陸でも雪がちゃん
と降る場所が必要です。
あとは、痩せて水はけがいい土地を探していました。土が痩せて水はけがいいと、苗は
そんなにぼうぼうに伸びず、実もそんなにならないですが、採れる実は味が深い。大雑把
な話ですが、収量が取れれば取れるほど質が下がります。
それで、北海道の内陸で雪が降り、痩せて水はけがいい土地を求めると空知になったの
です。
他にも色々土地がありますが、札幌とそんなに離れていないのも理由の一つです。田舎
に住むのは好きだけど、たまには文化が欲しいですから。
2009 年春に妻と娘の3人で北海道に移住して、空知・岩見沢の畑が始まりました。現
在は 2.3ha、ピノは 1.8ha、赤ワイン、シャンパン方式の発泡ワインを造るつもりです。
あと、ソービニオン・ブランが 0.5ha で、その他の品種も栽培しています。
2009 年の春、真南の斜面にピノ・ノワールを植え、今年ワイナリーが建って、秋から
ワイン造りが始まりました。地鎮祭には、地元のお酒とワインを両方用意しました。
9月の末にワイナリーが完成して、あまり時間が経たずに収穫の時期になり、10 月の
第3週に収穫、ぶどうをワイナリーに運んで、選果、収穫したぶどうをもう一度見て、傷
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んでる実、未熟な実を取り除いて、いいものだけを使って仕込みました。
10Rワイナリーの特徴は委託醸造です。自分のぶどうだけではなく、空知をメインに、
自分のワインを造りたい北海道中の農家の方が、ワイナリーにぶどうを持ってきてもらい、
一緒にワインを仕込んで、出来上がったワインを農家に売り戻します。
販売免許があれば、各農家の方が直接お客さんに売ることができ、収入も少しは増えま
す。
クリサワブランを造っている中澤さん、もともとは歌志内で農場長をやっていた近藤良
介さん、彼は今、三笠と岩見沢に畑を持っていますが、彼らも10Rワイナリーで自分の
ワインを造っています。
次にこれからどうするかという話ですが、まだまだ道が遠い。と言うより始まったばか
りです。
空知は非常にポテンシャルは高いと信じていますが、まだまだ我々を含め、空知でぶど
うを栽培し、ワイン造りをしている皆さんは知識不足です。
先ほどどこで栽培するかという問いの中で、場所は非常に重要だと言いました。しかし、
空知は千数百平方キロメートルの土地があると思いますが、大きな空知の中では、どの辺
が栽培に適しているのかはまだわからないので、我々がこれから色々調べ試してみて、答
えを出さなければなりません。
空知の各地区で、どのぶどう品種が一番適しているかはまだ分かりません。自分の畑で
は、ピノ・ノワールとソービニオン・ブランを主に植えましたが、それは何となく勘で、
この場所には向いているかなと思ったからです。
様子がうちの畑と少し似ていて、近くにある他の畑でできあがった、中澤さんや山﨑さ
んのピノ、歌志内のソービニオン・ブランから出来たワインがおいしいと思ったからです。
主にその2つの品種を栽培しましたが、本当にそれが適しているかどうかはわかりませ
ん。ですから、ピノ以外にも赤ワイン用の品種を4、5種類、ソービニオン・ブラン以外
に白ワイン用の品種を6種類くらい試しています。
これらは、植えてみてどの品種が一番いい結果になるか、収量も質も、病気の少なさな
どをみて、長年かけてやっていく大きなプロジェクトの一つです。
次にどのように栽培し、ワインにするかという話ですが、各地方で栽培の仕方が随分違
います。
ココ・ファームに来て最初は畑ではなく、醸造技術を磨いた理由は、カリフォルニアか
ら来た私は、日本の風土をみて、台風の中に立って、どうやって良いぶどうを栽培したら
いいか全くわからなかったからです。
農業は風土に合わせてやらなければならないので、夏には一滴の雨も降らないカリフォ
ルニアから来た私は、本州でのぶどう栽培には知識不足ばかりを感じました。
20 数年本州でぶどう栽培を経験しても、北海道に来るとある意味でまた素人に戻りま
す。だから、各地方、各地区、各畑のぶどう栽培のやり方を、我々はこれから勉強しなく
てはいけないのです。
必要なのは、時間と協力。空知の生産者同士、時間をかけて、情報交換したりすること
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で、少しずつ良いワインが出来るようになると思います。
時間と協力というのは何かといいますと経験です。良いワイン造りは経験から生まれて
くると思います。
ブルゴーニュ地方のフィリップ公爵は、1359 年、法令をだして、自分の管理してる畑
はこれからピノ・ノワールだけを栽培することにしました。それからは一種類のぶどうで
ワイン造りが始まった。そういう意味では、この地方の数千軒の農家、数百軒のワイナリ
ーでは、もう 600 年以上も同じぶどう品種を栽培し、同じ品種のワインを造っています。
だから、この地方で最高級のワインを造っているのは当然のことで、ブルゴーニュの皆
さんに比べると、我々は赤ちゃんと同じ、始まったばかり。まだまだ時間がかかると思い
ます。
もう一つの大きなポイントは、ワインが食卓文化に入り込むことです。そのためにはど
うするかというと、消費者の皆さんとのキャッチボール、協力です。
皆さんに飲んでもらって、正直に印象を言ってもらい、悪い印象だったらやさしく言っ
てもらって、我々は生産者同士で情報交換していけばいいものが出来ると思います。
空知の将来は、予想としては明るい未来が待っています。
痩せている土と、夏の気候、冬に雪がたっぷり降る。そういう自然資源をうまく活かし
て、空知でしかできないものを、がんばって造らなくてはいけない。
空知では、香りの高い、綺麗な酸味の白、そんなにこってりしてないエレガントな赤、
かなり優れたスパークリングができると信じています。そのために、我々は粘り強くがん
ばらなければいけない。
最終的に、空知はどこまでいけるか分かりませんが、ぜひ皆さんに見守ってもらえると
嬉しい。美味しいワインをがんばって造ります。
了
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