石跳川の風景 - 県立自然博物園

自然博物園ブナの森情報誌
〒990-0734
山形県西村山郡西川町志津
発行:山形県立自然博物園
(冬期:℡ 75-2040
第142号
℡0237-75-2010 Fax75-2020
Fax 75-2301)
2008 年 8月
石跳川の風景
玄海口(月山八方七口の一つ)と密接に結び付き、
地元の人から親しまれてきた石跳川。
湯殿山と姥ヶ岳の間を流れ、装束場コースに平
行して走っている石跳川。
南に大井沢、北に立谷沢川が一直線に結ばれる、
いわゆる「大井沢・立谷沢川構造線」と呼ばれる
断層がある川としても有名です。
今号の内容
p1 石跳川の風景
p2 ブナの森情報
p3 志津の降水量
p4 『スケッチクラブ』例会
p5 トピックス=ブナ虫=p6 インタープリターの声
雨の中のスケッチとなった。石跳川の流れを絵に表現する難しさを実感。
この沢を登り、装束場、金姥、姥ヶ岳と紅葉の頃、また歩いてみたい。
P1
自然博物園情報誌『ネットワーク月山』
第142号
2008 年8月の『月山ブナの森情報』
□ウエツキブナハムシ大量発生
8/15 の夜、月山志津温泉に、これまで見たことが無い甲虫のハムシが大群で現れました。
弓張平地区では 8/13 頃から現れ、8/17 には下火になりました。この虫は昨年、庄内側で、
そして今年の春には内陸側の朝日町で「ブナ枯れ現象」として話題となった、ブナの葉を食い
荒らすハムシと判りました。(P5 参照)
「ブナ枯れ」といっても「ナラ枯れ」と異なり、木を枯らすまでには至らないと言われるが、
大群で食い荒らすわけで、ブナへのダメージは相当なもので、その証拠として、現在月山山麓
は、至る所で紅葉がすでに始まったような、異様な印象を与えています。
まだ正確な生態が解らないらしいが、この虫は、月山の最大の壁と思われる積雪の多さと根
雪期間の長さをクリアできるのでしょうか。志津・弓張平地区では、これまで確認されてこな
かったということは、この壁を超えられなかったから、と思うのですが、この度、これをクリ
アしたとしたら、厄介な問題となる、と感じた 8 月でした。
□ススメバチに注意
スズメバチ対策は毎年のように問われるテーマです。巣が届かない高さにある場合は刺激を
しないように移動することで特別な対策はしませんが、通り道に営巣されれば、襲われる危険
が高いので、駆除せざるを得ません。今回は遊歩道沿いの立ち枯れで地上 4m 弱の高さだった
ので、一部区間の通行止めをして、駆除を実施しました。
今後、しばらくは様子を見るために通行止めは続ける予定ですのでご協力をお願いします。
*
今回の駆除方法は、枯れ木のうろに営巣した
キイロスズメバチで、巣そのものを取り除く
ことができなかったので、殺虫剤及び灯油を
使って実施しました。
巣が残ったために一回で駆除できず、3 回
も繰り返すことでようやく完了しました。
□志津の降水量について
詳細は P3 を参照してもらいたいですが、
今年の 6∼7 月の、いわゆる梅雨の時期の雨
が志津地区では異常に少なく、平年の 4 割以
下であることが判りました。
8 月の中旬になってようやく、梅雨の雨の
少なさを取り戻すかのように雨の日が多く
なり、乾ききった森が本来の潤いを取り戻し
ましたが、前半は少雨、後半はハムシ食害の
ダブルパンチ。いつもの夏の暑さとは違う厳
しさがあった今年の夏でした。
P2
自然博物園情報誌『ネットワーク月山』
5年平均
400
第142号
2008年
志
津
の
降
水
量
350
300
250
200
150
100
50
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
上図の数値は寒河江ダム管理所が志津地区で自動計測しているものです。
これを見ると今年は明らかに 3 月からの雪や雨の量が少ないことが判ります。他になるほ
どと思えることがありました。一つは、四季を比較してみると、春(3∼5 月)の降水量を 1 と
した場合、夏(6∼8 月)は 1.4、秋(9∼11 月)は 1.5、冬(12∼2 月)は 1.9 の割合となり、雪の比
重が高いということに改めて気付きます。
もう一つは、年間降水量が 3000mm ということ。山形市の年間降水量は 1400mm 程度な
ので志津はその倍以上であるということです。
日本の平均降水量は約 1700mm で世界平均
の約 2 倍あるわけですが、必ずしも水に恵まれ
た国とはいえないのです。それは国土の 7 割を
占める森林が傾斜地で、河川の勾配が急で短く、せっかくの降雨もすぐに海に流れ出てしま
うこと。その上に、降雨が梅雨期(6∼7 月)と台風期(9∼10 月)に片寄っているためです。
志津の降水の特徴である冬季の雪はそれらの弱点をフォローする役割を果たしていると
いえるのです。何といっても大切なことは、雪のダムと緑のダムが健全であるということで
はないでしょうか。
P3
自然博物園情報誌『ネットワーク月山』
第142号
『スケッチクラブ』例会報告
08 年8/21 開催
長岡氏コメント
スケッチクラブとは
P3
毎月第三木曜日に、森を歩き、スケッチを通して、じっくりと動植物と
対峙し、会話し、何気ないことに気付くことを目的に、博物園スタッフ
の長岡信幸氏が主宰するクラブ活動です。
渓流石跳川に曇天の大気も自然に映る一滴の水玉が命を支える。ブナの森にしみ込
んだ天命水は渓流に注ぎ川となり私達の口に入る。まさに水は命だ。沢沿いにだけ
咲く草類の息吹を肌で感じながら歩くのもスケッチの醍醐味だ。
■委員長大場氏コメント
朝から強い雨。これでは森の中に入るのは無理に違いない。でもぼくは甘かった。
きょうのテーマは「石跳川」と長岡先生はこともなげに言う。雨のことなんか全く意
に介さないのである。「吹雪の時だって森の中
に入るのだ」じっとりと雨に濡れている森はよ
く見るとなんでもが皆輝いていて、ぼくの心を
強烈に引き込んでくれる。こんな光景は意識し
ないと見落としてしまう。
わが師は単に奇人変人と思っていたが、粋人
の域にも達しているのをぼくは見落としてい
たのだった。
□田中氏
雨の中の散策だった。朝から雨降りなのに石跳川はにごっていない。まわりの葉っぱ
も雨にぬれてきれいだった。チョウジギク、クロクモソウ、ソバナ、アオチドリなどの
花を見ることができた。
P4
自然博物園情報誌『ネットワーク月山』
第142号
トピックス=ブナ虫=
ウエツキブナハムシとは?
県森林整備課より標記ハムシについて確
認できたことを紹介します。
50 年程前に岡山県での発生が最初の記録
で、研 究者植 月氏 が命名 。成 虫の体 長は
6.5mm と小さく、6 月下旬から 7 月上旬に
かけて羽化し、葉っぱに群がって葉を摂食し
して加害します。
加害されたブナは、葉が黄色から赤色に変
色し、落葉時期が早まるものの、枯死するこ
とはめったにないことから、特別な対策は必
要ないとのことです。
これまでの被害履歴としては、数年に一度
大発生するといわれ、県内での被害は平成
15 年に戸沢村と旧松山町の境に位置する田
代山山頂付近で確認され、翌年には終息して
いるが、これまでの事例では被害終息まで数
年かかるだろう、とのこと。
現在の発生地域としては、鶴岡市田麦俣(湯殿山スキー場周辺)、庄内町立谷沢川上流、酒
田市山元(田沢川ダム周辺)、酒田市青沢(国道 344 号線沿線)、戸沢村(最上峡)、大蔵村南山
などがひどい状況です。
被害樹種は標高 500m 以上に分布するブナ
林で、ブナ虫と言われる所以です。
西川町は現在、志津・弓張平地区、本道寺
及び大井沢地区で、車道から確認できるほど
に赤茶けた風景になっている。
枯死することは無いと言われるが、成虫
の大群を見て、ナラ枯れと同じような風景
を見ると、町内では過去に例が無いだけに、
不安になってしまいます。
* 地元では 40 年前にも大発生したとの証言
もあります。
今後も、何らかの原因があるのだろう、
と踏み込んだ経過観察が必要であると
思います。
P5
自然博物園情報誌『ネットワーク月山』
第142号
インタープリターの声
博物園には様々な立場からのインタープリターが関わって
昨年からインタープリターとして参
います。呼び方にも変遷があるのですが、現在はインタープリ
加させていただいております。おかげ
ターと呼んでいます。インタープリターが森を案内する際のこ
さまで私にとって経験を積むのに貴重
だわりやメッセージなどを紹介します。
な場となっています。
第2回目は、遠く米沢市から駆けつけてくれる塚田氏です。
県内には、庄内、最上、村山、置賜
各地に「眺海の森」「遊学の森」「県民
の森」
「源流の森」と 4 つの県民の森があり、さらに各地に市民の森などがあります。私はそれらの森す
べてを知っているわけではありませんが、自然博物園の魅力は、人工林あり、二次林あり、原生的な天然
林ありとその多様な林相にあると思っています。また、石碑などもあることから、最近になって新しく「造
った森」ではなく、昔からの人々との関わりのなかで「創られてきた森」とでもいいましょうか、そうい
うものを感じます。
太古の昔、狩猟採集の時代、あるいは文明生活を営むようになっても、人間にとって自然や森林は日常
生活に密着した存在であり、むしろそういう時代のほうがずっと長かったし、これからも自然と共生する
ことは重要だと考えます。しかしながら、自然体験することが「非日常」などといわれる現代社会ではそ
ういったことを実感するのは難しくなってしまったのではないでしょうか。
こういう状況のなかで、森林の重要性を認識してもらうために「水」を手がかりにプログラムを構成す
ることは良い方法だと思います。なんといってもコースの途中に湧水があるのは自然博物園の「強み」と
いえます。私が案内する場合、湧水を飲んでもらう前に参加者に質問することがあります。
「甘いかしょっ
ぱいか普通か、このうちどれだと思う?」です。おもしろいのは答が決して偏らない。全員が「普通と思
う」には手を挙げないということです。中学生などはふざけた気持ちもあるのか答がわりと均等にばらつ
く感じがします。これは何かの意外性に期待しているということではないでしょうか。
実際に飲んでみると、必ずしも全員ではないけれど「あまーい」と言って飛び上がるように喜んでいる
小学生、わざわざ水筒に詰めてきた水を捨てて湧水に詰め替える子もいます。反対に「普通の水ですね」
と言って冷めたふり?をする中学生もいます。
「これはミネラルウォーターです」
と言ったら、
「硬水ですか軟水ですか」と訊ねたお母さんも
いました。さすがにそのときは「日本では軟水
で良いんではないでしょうか」と答えておきま
したが、そんなふうに意表を突かれるのも私に
とっては刺激になります。
自然観察会でも何でも良いのですが、
ある「自
然体験イベント」があるとすれば、たとえはっ
きりとした「テーマ」があったとしても、参加
者は自分なりの思惑を持って参加する。また、
主催者側にはそのテーマに沿ってまとめようと
する。こんな具合に双方の「ニーズ」を探り出
すことを楽しんでいます。
インタープリター 塚田哲也
P6