天然多孔質材料(珪藻土及びゼオライト)の高度利用化と 環境に優しい有害生物駆除剤並びに放射能除染技術の開発 地球環境研究分野 講師 村上英樹 技術専門員 菊地良栄 秋田県の主要鉱産資源である天然多孔質材料(珪藻土並びにゼオライト)の高度利用化や、環境に優しい 有害生物駆除剤の開発(主にヤマビルが対象)を中心に研究を進めています。また、この有害生物駆除剤の 技術を応用して、福島第一原子力発電所の事故により、環境中に放出されてしまった放射性セシウムやスト ロンチウムの農作物への移行(汚染影響)を最小化する研究も開始しています。 珪藻土は植物プランクトン由来の多孔質物質で、その強力な吸水力や軽量特性を活かして、主に食品の濾 過助剤や工業製品の充填剤等として使われています。当研究室では、この珪藻土の更なる高度利用化を目標 として、原子力施設災害時用放射線遮蔽材や低放射化コンクリートを開発しています。この他では、廃棄物 の資源化を目指し、珪藻土食品濾過助剤の使用後に発生する廃ケークと、稲作で排出される籾殻を原料とし て、太陽電池の原料にもなり、アルミ精錬過程で大量に消費されている金属シリコンの作製も行っています。 また、近年、秋田県を始めとする全国 31 府県で問題化しているヤマビルによる吸血被害対策の一環として、 リンゴ酸等の無害な有機酸を基材とした有害生物駆除剤を開発し、環境に負荷を与えない駆除方法を確立し ました。本研究で得られた知見は放射性セシウムやストロンチウムの土壌からの抽出にも応用でき、この手 法を用いれば、作物の生育に必要な粘土や有機物を除去することなく、農地の除染を行うことができます。 更に、珪藻土、ゼオライトや有機酸を活用して、低農薬・低肥料農業の実現を目指した研究も行っています。 key words 珪藻土、ゼオライト、放射線遮蔽材、低放射化コンクリート、シリコン、ヤマビル駆除剤、除染 原子力施設災害時用放射線遮蔽材並びに低放 射化コンクリートの開発 1999 年 に 茨 城 県 の JCO で 臨 界 事 故 が 発 生 し 、 大量の中性子線が周辺地域に放射されました。 中 性 子 は 電 気 を 持 た な い の で 、遮 蔽 す る に は 、 直接、運動エネルギーを奪わなければなりま せん。中性子とほぼ同じ質量を持つのは水素 で、水素に衝突させることでのみ中性子を止 めることができます。この水素を多く持つ物 質は水であり、水の壁を造るのには珪藻土の 様な吸水性物質が役に立ちます。珪藻土は、 そ の 体 積 の 60~ 70%ま で 吸 水 す る こ と が で き ます。また、非常に軽いので、緊急時でも、 一度にたくさん運ぶことができ、迅速な対応 が可能です。珪藻土を土嚢にして、現場で積 み重ねて、遠隔から放水するだけで中性子遮 蔽壁を構築できます。また、原子力災害では ガンマ線も発生しますが、この遮蔽も可能で す。ガンマ線の場合は、できるだけ電子を多 く持つ物質(重たい物質)を水に溶かし込ま せ、中性子線遮蔽の時と同様に珪藻土に吸収 させます。珪藻土は耐熱性や断熱性も高く、 中性子線やガンマ線 重金属(ジルコニウム)の 溶液を放水。 珪藻土の土嚢 放射線源 最初に、重金属(ジルコニウム)の溶液を作業場近 くに設置した珪藻土に染み込ませて、消防隊員や 作業員の安全を確保。珪藻土は、強力な吸水力を 持ち、その体積の70%程度まで溶液を保持できる。 放射線源の周りに珪藻土を積上げ、遠隔から重金属 (ジルコニウム)の溶液を放水して染み込ませる。珪藻 土は、軽いので、一度に大量に運べる。又、耐熱性や 断熱性にも優れている。 図 1.珪 藻 土 に よ る 原 子 力 施 設 災 害 時 の 放 射 線 遮 蔽実施例 珪藻土は、非常に軽いので、空中からの散布 や大量輸送が可能。土嚢の様な形態で現場に設 置した後に、遠隔から溶液化したジルコニウム の様な重金属やカルシウムを吸水させて、中性 子線やガンマ線を遮蔽する。 火災を伴う事故でも放射線遮蔽が可能です。 中性子が引き起こすもう一つの問題として、 物質の放射化があります。これは、中性子を 照射された物質が放射能を持ってしまう現象 です。放射化を防ぐには中性子を吸収する物 質が必要で、安価で代表的なものがホウ酸で す( ホ ウ 酸 に 含 ま れ る ホ ウ 素 が 中 性 子 を 吸 収 )。 従って、一般的な放射線遮蔽材であるコンク リートにホウ酸を添加できれば、その放射化 を防げるのですが、ホウ酸は酸性なのでコン ク リ ー ト の 固 化 を 阻 害 し ま す 。当 研 究 室 で は 、 ホウ酸を珪藻土の細孔に吸着させ、更にパラ フィンを充填することで、この問題を解決し ました。ホウ酸含有パラフィン充填珪藻土を 骨材にしてコンクリートを作製した所、通常 の コ ン ク リ ー ト の 80%の 強 度 を 得 る こ と が で きました。現在は、骨材の形状の工夫や、ア ラミドや炭素繊維を添加することで、高強度 化の達成や靱性の付与を目指しています。 図 2. 珪 藻 土 と ゼ オ ラ イ ト を 骨 材 に し た 軽 量 低 放 射 化 放 射 線 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト ( 板 の 厚 さ は 5cm) 珪藻土の細孔にホウ酸を吸着させて、放射化 の原因となる熱中性子を吸収させる。更にパラ フィンを充填することにより、中性子遮蔽性能 や骨材強度を向上させている。 廃棄物からの金属シリコンの作製 食 品 産 業 で 使 用 さ れ た 珪 藻 土 は 、そ の ほ と ん ど が 埋 め 立 て 処 分 さ れ て い ま す 。こ の 廃 棄 珪 藻 土 は 、細 粒 の 二 酸 化 珪 素 物 質 に 有 機 物 が 充 填 さ れ た 状 態 に な っ て い て 、加 熱 を し た 際 に 効 率 良 く 還 元 反 応 が 進 み 、従 来 の 方 法 よ り 少ない電力で金属シリコンを作製できます。 本金属シリコンは鉄やアルミニウム等の不 純物を含みますが、これらはシリコン結晶間 の隙間を充填する形で析出していますので、 粉砕と磁選を組み合わせれば除去が可能です。 高純度部分 的な問題になっているため、その駆除方法を 開発しました。これまでにもヤマビル駆除剤 は開発されていますが、主成分が低毒性の DEET( 一 般 的 な 害 虫 忌 避 剤 ) で あ る た め 、 妊 婦や子供への影響が懸念され、水源地等では 散布できないのが課題でした。本研究では、 駆除剤を安全な有機酸にして、薬液の粘性を 調整することで、効率的なヤマビルの駆除を 可能としました。現在、秋田県井川町、五城 目町、群馬県中之条町等で実証試験を行い、 平 成 24 年 度 中 の 商 品 化 を 目 指 し て い ま す 。 図 4.リ ン ゴ 酸 と カ ラ ギ ー ナ ン か ら 作 製 し た ヤ マ ビル駆除剤の散布の様子(秋田県井川町にて) セシウム及びストロンチウム除染技術の開発 福島第一原子力発電所の事故で放出された セシウムやストロンチウムの農作物への移行 を抑えるために、低コスト・低環境負荷での 除 染 技 術 の 開 発 を 進 め て い ま す 。具 体 的 に は 、 植物が根から分泌する根酸と同等の有機酸で 農地土壌を洗浄して、予め植物が吸収し易い 放射性元素を除去します。常温での除染効果 は 不 十 分 で す が( 表 1)、加 熱 を す れ ば リ ン ゴ 酸 で も 90%以 上 の セ シ ウ ム の 回 収 が 可 能 で す 。 表 1 乾燥させた各土壌・鉱物からのセシウム抽 出率(添加したセシウムの回収率) 水 酢酸 酒石酸 リンゴ酸 クエン酸 コハク酸 1 フマル酸 2 マロン酸 不純物の多い部分 図 3.使 用 済 み 珪 藻 土( 食 品 濾 過 助 剤 )と 籾 殻 を 原料にして作製した金属シリコン アーク炉による金属シリコン製造の様子と坩 堝から取り出した金属シリコン結晶。 環境に優しい有害生物駆除剤の開発 秋田県の資源の活用と直接の関係はありま せんが、ヤマビルは秋田県を始めとして全国 乳酸 単位は% 水田土 黒 土 鹿沼土 ゼオライト 19.8 19.4 19.1 22.2 22.8 29.8 28.9 25.5 29.2 18.5 27.8 58.0 50.5 46.7 52.7 41.6 48.0 53.9 30.7 66.3 95.3 95.7 98.2 85.0 98.1 98.0 98.4 7.8 ― ― ― ― ― ― ― ― 1:コハク酸 濃 度 は 3wt.% 2:フマル酸 濃 度 は 0.3wt.% これら以 外 の有 機 酸 濃 度 は 5wt.% ―:検 出 限 界 以 下 珪藻土の高度利用化(公開準備中の技術) 1.珪 藻 土 の 農 業 資 材 へ の 展 開( 低 農 薬 、低 肥 料農業の達成や塩害対策) 2. 低 メ ン テ ナ ン ス 屋 上 緑 化 シ ス テ ム の 開 発 3. 珪 藻 土 融 雪 剤 の 開 発
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