球面収差補正TEMによるゼオライトの高分解能観察

Nanotechnology Platform
微細構造解析プラットフォーム:京都大学
平成24年度 成果事例
球面収差補正TEMによるゼオライトの高分解能観察
aファインセラミックスセンター
, b京都大学
吉田要a,佐々木優吉a,倉田博基b
【目
的】
ゼオライトは複雑な構造を有しているうえ、電子線照射に敏感であるため、これまで
透過電子顕微鏡を用いた構造観察においては、比較的大きな構造である骨格形態や細孔
チャネルを分解するにとどまっていた。特に、低周波成分のコントラストを増強するた
めにディフォーカス量を大きくした結像法を用いる場合も多く、微細な構造を可視化す
ることは困難であった。一方、球面収差補正技術の進展により、透過電子顕微鏡の結像
条件にも新たな提案がなされており、特に、球面収差補正係数をゼロから僅かに正もし
くは負の値に設定し撮影する結像法などが挙げられる。その際、像の非局在化を最小に
する重要性も指摘されている。本研究では、球面収差補正TEMによるゼオライトの高分
解能観察を試み、結像条件によるコントラストの違いを検討した。
【成
果】
図1に正の球面収差像(a)と負の球面収差像(b)を示す。球面収差係数は±15μmに設定さ
れ、その正負によりコントラストは反転している。撮影には最小ドーズ法を適用したた
め、試料の電子線損傷を極力抑えることに成功した。いずれの像においてもゼオライト
骨格の微細構造が明瞭に観察されるが、(b)の負の球面収差像では原子位置が明るいコン
トラストを呈しており、ゼオライト骨格がより微細に観察されていることがわかる。さ
らに、負の球面収差像で得られたゼオライト骨格の微細構造では、酸素サイトのコント
ラストが欠落していることも明らかになった。シミュレーション計算による検討の結果、
酸素原子の温度因子の効果が影響していると考えられる。球面収差補正されたTEMを用
い、負の球面収差に設定しオーバーフォーカス条件で撮影する際には、像の非局在化を
最小にする条件(Cs = −15μm, Δf = +7nm)がより有効であることが判明し、ゼオライト
の高分解能構造解析に今後有効に活用できるが示された。本研究成果は、AIP Advance 3,
042113 (2013)に発表された。
(a)
(b)
(c)
図1 MFI型ゼオライトの[100]投影の球面収差補正透過電子顕微鏡像。 (a) 正の球面収差像 (b) 負の球面収差像
(c) [100]投影の結晶構造モデルと投影ポテンシャル分布