1 経済のしくみ 1 経済社会の変容 学習の要点 産業革命と資本主義の成立 産業革命(18世紀後半~19世紀初期)…産業技術の一大革新 ↓ 工場制機械工業=生産規模の飛躍的拡大 資本主義経済の成立⇒資本家・労働者の階級分化 第二次産業革命(19世紀後半) 企業間・国家間で技術革新競争展開 資本主義の変容 アダム・スミス『国富論』(1776年) 利己心による自由競争・自由売買 ↓ 富の増進 「見えざる手」による予定調和の実現 =自由放任主義にもとづく 「小さな政府」(安価な政府,夜警国家)の主張へ 自由放任主義の弊害=競争激化,労働者の貧困化 ↓ 19世紀…社会主義思想の芽生え 生産を国家が統制・労働者主体の国家 ⇒マルクスによる体系化 ロシア革命(1917年)により社会主義国家ソ連誕生 20世紀…資本主義内での改革の動き ⇒ケインズによる自由放任政策批判 国家の有効需要創出による景気の安定化,完全雇用の実現 政府の経済政策による国民福祉の向上をめざす考え方 =修正資本主義(混合経済)とよばれる 世界恐慌時のニューディール政策もこの例 資本主義の現在 第二次世界大戦後の各国=経済成長・福祉国家実現が目標 ↓石油危機と経済環境の激変 経済政策の転換不可避 ケインズ主義・「大きな政府」⇒新自由主義・「小さな政府」 新自由主義による経済競争激化 経済の自由化…金融界を巻き込む経済の不安定化 〔p.102〜103〕 2 現代の企業 〔p.104〜106〕 学習の要点 企業とは 企業=財・サービスを生産する経済主体 公企業…国や地方公共団体が所有・経営,公共目的に奉仕 私企業…企業の基本的・中心的存在,利潤追求をめざす 個人企業…一人が出資・経営,小売業などに多い 法人企業…共同出資(組合企業・会社企業) 株式会社=現代の中心的な企業形態(法人企業の代表的存在) 企業の活動 企業の目的=利潤の追求→そのためのさまざまな活動 利潤=販売収入−諸経費(費用) 生産活動…企業活動の中心 設備投資…生産拡大のための生産設備増強 研究・開発(R&D)…基礎研究,応用研究,技術開発 活動資金の調達方法 ①自己資金 ②株式・社債の発行 ③銀行からの借り入れ 株式会社 株式会社…株式(企業に対する権利・持ち分を表す有価証券)を 発行して多くの出資者(株主)から資金を調達 株主…出資比率(持ち分比率)に応じた権利(株主総会を通じた 経営参加・配当の受け取り)の行使ができ,有限責任(企 業倒産に際し,自己出資分のみの負担) 所有と経営の分離…20世紀初頭から 所有者(株主)は総会で経営者を選任 経営者は利潤をあげ,株主への配当を高める努力 多様化と国際化 企業の多様な動き 規模拡大…スケールメリットを求め,合併・買収(M&A) 経営の多角化(新事業の展開) コングロマリット(複合企業)の増加 持株会社による関連企業支配 経営の集中…分社化,外注(アウトソーシング)の動き 国際化の進展 海外に現地企業設立…国境をこえた活動(多国籍企業) 企業の社会的責任 企業も社会の一員→企業の社会的責任(CSR)が問われる メセナ(文化支援),フィランソロピー(社会貢献) 地球環境に優しい商品の開発 ディスクロージャー(情報開示) コンプライアンス(法令遵守) コーポレート・ガバナンス(企業統治) 社内管理体制の整備(内部統制) などの動き 3 市場経済のしくみ 〔p.107〜109〕 学習の要点 価格の働き 資本主義経済=市場経済(自由経済) →市場での自由な売買を通して財やサービスが供 給され,消費される 市場における価格の機能 ①需要と供給を自動的に調節する(価格の自動調節機能) 需要>供給⇒価格上昇→需要減少・供給増大→需給一致 需要<供給⇒価格下落→需要増大・供給減少→受給一致 需要=供給のときの価格…均衡価格 ②生産資源の効率的な配分をおこなう 価格上昇⇒他部門から資源流入 価格下落⇒他部門へ資源流出 諸価格の相対的変動→資源を効率的な配分に導く ※商品により需給調整時間に差が存在 寡占化と独占化の傾向 寡占:数社でその産業の生産全体の大半を占めている状態 独占:1社がその産業の生産のほとんどを占めている状態 →「価格の下方硬直性」が起きやすい →管理価格(プライス・リーダーによって固定された価格)が 形成されやすい ↓ 非価格競争(品質,デザイン,広告・宣伝による他社製品との差 別化競争)によるマーケットシェア争い →独占禁止法(公正取引委員会が運用)による価格競争の確保が 必要 市場の失敗 市場の失敗=市場機構(価格変動による需給調節・資源の適正配 分)が機能しない場合 寡占・独占,公共財,外部経済・外部不経済 情報の非対称性が存在する場合 →企業活動の規制・制限,市場外での供給が必要となる 4 国民所得と経済成長 〔p.110〜111〕 学習の要点 GDPとGNP GDP:一年間に一国の領域で生産された付加価値の合計 (国内総生産:来日している外国人の日本での所得を含む) GNP:一年間に一国の国民が生産した付加価値の合計 (国民総生産:海外の日本人が日本に送金した所得を含む) =GDP+海外からの純所得 (海外からの所得−海外への所得) 三面等価の原則:GDPなどの国民所得指標は 生産・分配・支出のどの面からとらえても等しい ※今 日ではGNPよりGDPが用いられるが,GNPにかわりGNI (国民総所得)が用いられることがある フローとストック GDPやNI(国民所得)など…一定期間の経済活動状況を示す =フローの量(概念) 「国富」(実物資産+対外純資産):過 去からの蓄え,その国の資 産を示す(その国の豊かさを 示す重要な指標)=ストック の量(概念) 経済成長 経済成長率:GDP(GNP)の増加率 名目経済成長率=GDP増加分(今年のGDP−前年のGDP) ÷前年のGDP×100 実質経済成長率=名目経済成長率から物価変動分を除外 景気変動と物価 資本主義経済には景気変動(景気循環)が不可避 景気変動は 好景気(好況):生産,売買が活発で資金の回転がよい状況 不景気(不況):経済活動が低下・停滞した状況 が好況→後退(恐慌)→不況→回復の4局面を通して交互に現れ ること ※4局面の周期には, 短期(40か月) ・中期(10年) ・長期(50 ~60年)などの波がある 好況期→インフレーション(物価上昇)発生 不況期→デフレーション(物価下落)発生 70年代の石油危機時…スタグフレーション (不況+インフレーション)発生 近年…デフレスパイラルをはじめ,デフレ状態が続いている 5 金融のしくみと働き 〔p.112〜113〕 学習の要点 金融のシステム 金融:経済主体間で資金を融通しあうこと(貸し手➡ ➡借り手) 金融機関:貸し手と借り手の仲立ちをする 金融市場:資金の貸し手と借り手との間で資金が取り引きされる 場 金融システム:金融機関,金融市場,金融の制度やルールは,全 体としてみると,一つのシステムを形成している 直接金融と間接金融 間接金融:金融機関を介しておこなわれる金融 直接金融:企業や政府が株式や債券の発行により,資金提供者 から直接資金を集める金融 証券市場:株式市場,公社債の売買市場の総称 コール市場:金融機関同士でおこなう,短期間の資金調達をす る場→その際の金利=コールレート 通貨と信用創造 通貨:経済的取引を仲立ち 金本位制:一定量の金を尺度として通貨の価値が決められる貨幣 制度→金との交換を義務づけられた紙幣(兌換紙幣) を使用 管理通貨制度:国家の管理にもとづく通貨(不換紙幣=金と交換 できない紙幣)の発行と通貨価値の安定化 通貨の種類 現金通貨:日本銀行発行の紙幣(千円札・一万円札など) 政府が発行する補助貨幣(硬貨) 預金通貨:普通預金,当座預金などの預金も一種の通貨とみな す マネーストック(旧マネーサプライ=通貨供給量) →増減は経済に大きな影響 中央銀行が金融施策を通じてコントロールする 信用創造:銀行が預金の一部を残し,貸し出しを繰り返すことで 最初の預金量の数倍の預金通貨を創造すること 6 中央銀行の役割と金融の自由化 学習の要点 中央銀行の役割 中央銀行:国全体の立場から金融活動をおこなう銀行=日本銀行 日本銀行の役割 ①発券銀行:日本銀行券(紙幣)の発行 ②銀行の銀行:民間金融機関との間で預金の受け入れや資金の 貸し出しなど→最後の貸し手 ③政府の銀行:国庫金の管理・国債事務・外国為替事務など 金融政策 中央銀行の本来の役目 ①通貨価値の安定 ②物価変動の抑制 さらに「景気の安定化」 ↓ これらの目的を果たすため 金融政策 ①公開市場操作(オペレーション) ②金利政策(公定歩合操作) ③預金準備率操作 ゼロ金利政策:コールレートをほぼ0%にすること コールレート:金融機関同士で,短期間の資金調達をする際の金 利 質的緩和→政策目標の主眼を金利として通貨量を増加させる 量的緩和→政策目標の主眼を通貨量として通貨量を増加させる 金融の自由化・国際化 金融の自由化・国際化…1980年代に進行 ↓ 護送船団方式の終焉 ↓ 「金利の自由化」 ⇒日本版金融ビッグバンへ 「金融業務の自由化」 ペイオフ解禁・・・預金者側の自己責任が求められる時代 バブル経済崩壊後…貸し渋り(BIS規制の影響) 〔p.114〜115〕 7 政府の役割と財政 学習の要点 政府の経済的役割 政府(中央・地方):家計や企業同様,収入を得てさまざまな公 共サービスを提供 ↓ 三つの機能 ①資源配分の調整…公共財のアンバランスの是正 ②所得の再分配…所得税などへの累進課税制度の適用,低所得者 層への支出などにより所得格差を是正 ③景気の安定化…景気変動の波をなだらかに ↓ フィスカル・ポリシー 政府が景気の状況に応じて裁量でおこなう財政政策 ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置) 累進課税制度や社会保障給付制度などに内在する財政政策 財政制度 財政:政府がおこなう歳入(収入)・歳出(支出)の活動 予算:年度前に立てられる歳入・歳出の計画 租税法律主義:租税の賦課・徴収については法律に則っておこなう 会計:歳入・歳出を管理 →一般会計・特別会計・財政投融資など 財政投融資:財投債,財投機関債により資金調達 租税と公債 歳入…おもに租税と公債から構成 直接税:納税者と担税者が同じ税 租税 (所得税・法人税など) 間接税:納税者と担税者が異なる税 (消費税・酒税など) 財政赤字…国民からの借金(国債)により補う ↓ 国債(これに地方債を合わせて公債という) ↓ 建設国債…公共事業をおこなうため 特例国債(赤字国債)…公共事業費以外の財源不足 借換国債…既存の国債を返済するため 財政問題と財政危機 財政の硬直化…国債返済のため,行政サービスの資金不足 財政危機…現在の日本の大きな課題 プライマリー・バランス…国債発行による収入を除いた税収など の歳入と,国債返済を除いた歳出の差 〔p.116〜118〕
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