オームの法則、抵抗の直列並列接続、キルヒホッフの法則、テブナンの定理

電気工学 講義資料
2.直流回路計算の基礎(オームの法則、抵抗の直並列接続、キルヒホッフの法則、テブナンの定理)
2.1 オームの法則(復習)
図1に示すような物体に電圧 V (V) の直流電源を接続すると物体には電流が流れる。物体を流れ
る電流 I (A)は、物体に加えられる電圧の大きさに比例し、次式のように表すことができる。
1
R
I
V
(1)
これをオームの法則(実験式)といい、このときの R は比例定数であり、物体の電気抵抗と呼ぶ。電気
抵抗 R の単位は、(1)式より[V/A]だが、これをオーム( )と定めている。
ℓ [m]
I [A]
S [m2]
R[ ]
V [V]
I [A]
図1
V [V]
なお、物体の電気抵抗は、長さ ℓ(m)に比例して大きくなり、断面積 S (m2)に反比例して小さくなるこ
とが分かっており、次式のように表すことができる。
R
S
.
(2)
このとき比例定数 を物体の抵抗率といい、物質固有の抵抗値である。抵抗率の単位は[ ・m]で、
代表的な物質の抵抗率(20℃)を、次表に示す。
単位: [ ・m]
銅(Cu)
アルミニュウム(Al)
銀(Ag)
鉄(Fe)
ベークライト
1.72×10-8
2.75×10-8
1.62×10-8
9.8 ×10-8
106 ~1010
2.2 抵抗の直列・並列接続の合成抵抗(復習)
(A)抵抗の直列接続
直列接続とは、回路を流れる電流が途中で分岐したり加わったりすることのない回路である。図2
に示す回路では、抵抗 R1 と R2 を流れる電流が同一で I (A)であるため、オームの法則より各抵抗両
端の電圧には(3)式の関係が成り立つ。
V12
R1 I , V 23
R2 I , V13 V12 V 23 V13
( R1 R2 ) I
(3)
(3)式は、直列接続された抵抗 R1 と R2 を一つの抵抗で置き換えれば、その値は R1+R2 となることを
示している。このように複数の抵抗を一つの抵抗で置き換えたとき、この一つの抵抗を合成抵抗とい
う。一般に、直列接続の合成抵抗は、各抵抗値の代数和で与えられる。
(B)抵抗の並列接続
並列接続は、直列接続とは逆に、回路を流れる電流が途中で分岐したり加わったりする回路であ
る。図3に示す回路では、抵抗 R1 と R2 に加わる電圧が同一でV12(V)であるため、オームの法則より、
各抵抗を流れる電流 I1 と I2 及び I は、次式のように求めることができる。
-1-
I1
V12
, I 2
R1
V12
, I
R2
1
I1 I 2 V12
1
R1
I
1
R2
(4)
(4)式より、並列接続された抵抗 R1 と R2 の合成抵抗は、抵抗値 R1 と R2 の逆数和の逆数となることを
示している。 一般に、並列接続の合成抵抗は、各抵抗値の逆数和の逆数で与えられる。
I [A]
R1
[ ]
I [A]
1
V13 [V]
2
I2
[A]
I1
[A]
V12 [V]
R2
[ ]
1
R1
[ ]
V23 [V]
V12 [V]
2
3
3
R2
[ ]
図2 直列接続
図3 並列接続
起電力
(注:起電力と電圧降下)
図4は、R ( )の抵抗に V (V)の直流電源を接続した場
合の各部の電圧(電位)を太線で示したものである。回路を
右回り一巡でたどると、電圧は直流電源で V (V)上昇し、抵
+
抗 R がある端子 1-2でV12(V)降下する。
V [V]
このとき、電源の電圧を起電力、抵抗両端の電圧を電圧
-
降下と呼び両者を区別する。
電圧降下の極性は、図示のように、電流が流れ込む端
子1を+とする。
+
V12 [V]
1
I [A]
-
V [V]
2
1
R[ ]
電 圧
降下
2
図4 起電力と電圧降下
2.3 キルヒホッフの法則
キルヒホッフ(Gustav Robert Kirchhoff、 独、1824~1887)は、初めて複雑な回路の電気計算法を
考案した人である。19世紀半ばは、多重通信が発達し、回路網がますます複雑になっていった。こ
れらの複雑な回路の電気計算は、それまで、オームの法則で一つひとつ具体的に計算する以外に
なかった。キルヒホッフは1847年に集中定数回路の一般的取り扱いの最初の理論を発表し、回路
網の科学的取り扱いに貢献した。これをキルヒホッフの法則といい、第1法則と第2法則から成る。
[1]第 1 法則
回路網中の任意の接続点において、流入する電流と、流出する電流の代数和は零である。
図5に、回路網中の接続点の例を示す。この接続点に流入する電流は、I1,I3 及び I4 であり、流出
する電流は、I2,I5 及び I6 である。いま、流入する電流に正符号(+)を、流出する電流に負符号
(-)を付し、接続点における電流の代数和を計算すると、第1法則より次式が得られる。
I1 ( I 2 ) I 3 I 4 ( I 5 ) ( I 6 )
0.
(5)
(5)式は、接続点に流入する電流の総和と、流出する電流の総和が相等しいことを示している。一般
に、接続点の個数を n とすると、第1法則より n -1 個の独立した方程式が作成できる。
-2-
[2]第2法則
回路網中の任意の閉回路において、電圧降下の総和と起電力の総和は相等しい。
図6に、回路網中の任意の閉回路を示す。各岐路に流れる電流をそれぞれ、I1,I2,I3 及び I4 でと
し、閉回路で点線の矢印の順に電圧降下の総和( IR )を求めると、
IR I1R1 I 2R2 I 3R3 .
(6)
ただし、電圧降下の極性は、電流が流れ込む方を正(+)極、電流が流れ出る方を負(-)極とする。
次いで、この閉回路で点線の矢印の順に起電力の総和( E )を求めると、
E E1 E 2 E 3 E 4 .
(7)
従って、第2法則によると(6)式と(7)式より、次の関係が得られる。(起電力の総和を求めるときの方
向に注意が必要)
接続点
I6
I5
I1
E4
E1
-
I2
R3 +
E2
I3
図5 任意の接続点
I1
+ R2
I3 -
I2
I4
+ R1
I4
図6 任意の閉回路
I1R1 I 2R2 I 3R3
E1 E 2 E 3 E 4 .
(8)
一般に、m 個の未知電流があり、n 個の接続点がある場合、第2法則により m -n+1 個の独立した方
程式が作成できる。
キルヒホッフの法則を利用して回路を解析するということは、各岐路の電流を未知として、第1法則
と第2法則を用いて未知電流の数だけの独立した回路方程式(連立方程式)をつくり、これを解いて
未知の電流を求めることである。
例題: 図7(a) に示す回路で、各抵抗 R1,R2 及び R3 を流れる電流を計算せよ。
I1 a
E1
E2
R3
R1
(a)
R2
I3
E1
R1
I1
I2
-
-
+
R3
+
b
E2
-
R2
+
-
(b)
図7 キルヒホッフの法則による解析手順
-3-
I3
E1
R1
I2
+
Ⅰ-
E2
Ⅱ
+ R3
Ⅲ
-
R2
+
(c)
手順①: 抵抗 R1,R2 及び R3 を流れる電流(I1,I2 及び I3)とその方向を自由に定める。図7(b)に
各電流とその方向を示す。この電流の方向により各抵抗の電圧降下の極性が図示のように
仮に決定する。接続点を図示のように a, b とする。
手順②: 接続点aとbについて、第1法則を適用して方程式をつくる。図7(b)の回路では、接続点の
数 n = 2 なので n -1 = 1 個の方程式(a点)が次式のように得られる。
I1 I 2 I 3
(9)
0.
手順③: 閉回路を自由に定める。ここでは、図7(c)に示すように、閉回路をⅠ、Ⅱ及びⅢとする。
(破線の矢印に注意)
手順④: 閉回路Ⅰ、Ⅱ及びⅢについて、第2法則を適用して次式(左から順に、閉回路Ⅰ、Ⅱ及び
Ⅲにおける方程式)を作成する。
R1I1 R3I 3
E1 , R2I 2 R3I 3
E 2 , R1I1 R2I 2
E1 E 2 .
(10)
未知電流の数 m = 3 で、接続点の数 n = 2 なので、m – n +1 = 2 個の方程式が独立であ
る。ここでは、(10)式より第1と第2式を選択する。
手順⑤: (8)式と(10)式の第1式と第2式を次式のように連立させる。
I1
R1I1
I2
R 2I 2
I3
R3I 3
R3I 3
0
1
E1 . R1
E2
0
1
0
1
R3
R2
R3
I1
I2
I3
0
E1 .
E2
(11)
手順⑥: (11)式を解くと、未知電流 I1,I2 及び I3 が、次式のように得られる。
I1
E 1 ( R 2 R3 ) E 2R3
,
R1R 2 R 2R3 R3R1
E 2 ( R1 R3 ) E1R3
,
R1R 2 R2R3 R3R1
I2
I3
E1R2 E 2R1
.
R1R 2 R 2R3 R3R1
(12)
(12)式が求める電流である。なお、I 3 に負符号が付いているが、これは実際の電流 I3 が手順①で
定めた方向とは逆方向であることを示している。
2.4 テブナンの定理
テブナンの定理は、キルヒホッフの法則と同様に、複雑な回路網を解析するための有効な手段で
ある。図8(a) に示すように、起電力を含む回路網中の任意の端子a-b 間に現れる電圧を E (V)、
端子a-b から回路網をみた合成抵抗が R0 ( )であるとき、図8(b) に示すように、この回路網の端
子a-b に R ( )の抵抗を接続すると、この抵抗には次式の電流 I(A)が流れる。
a
任意の回路
網(起電力
を含む)
R0
a
I
E
R
b
b
(b)
(a)
図8 テブナンの定理
-4-
I
E
R0
R
.
(13)
テブナンの定理では、複雑な回路網の内部を図9(a) に示すように起電力 E と抵抗 R0 の直列回
路と見なす。起電力の内部抵抗が零(電圧源の内部抵抗はゼロ、電流源の内部抵抗は無限大と見
なす)であるため、端子a-b から回路網をみた抵抗は R0 となる。
一方、端子a-b が開放状態であるため電流が流れず、(R0 による電圧降下が零であるため)端
子a-b に発生する起電力は E となる。
従って、図9(b)に示すように端子a-b に抵抗 R( )を接続すれば、オームの法則より抵抗 R には
(13)式で示す電流が流れることになる。
a
a
R0
R0
R0 E
E
I
R
E
b
b
(b)
(a)
図9 テブナンの定理による回路内部の等価回路
2.5 演習問題
1. 抵抗10Ωをもつ電熱器の発熱体に直流100V を加えたとき、電熱器に流れる電流を求めよ。
2. 抵抗10Ω、20Ω、50Ωの3個の抵抗を直列に接続した回路に、100V の直流電圧を加えたとき、
20Ωの抵抗に生じる電圧降下を求めよ。
3. 最大150V まで測定できる直流電圧計がある。この電圧計の内部抵抗を18000Ωとすると、この
電圧計で1200V まで測定できるようにするためには、何Ωの抵抗を直列に接続すればよいか。
4. 10mA の直流電流計に並列に抵抗を接続して、1A までの電流を測定できるようにしたい。何Ω
の抵抗を並列に接続したらよいか。ただし、電流計の内部抵抗は2Ωとする。
6. ある電池に 5A の電流を流すと、その端子電圧は 0.7V になり、2A を流すと 1V の端子電圧を示
す。この電池の内部抵抗を求めよ。
7. 4.2V の起電力をもつ電池 3 個を直列に接続して、これに 2.7Ωの抵抗負荷を接続したとき、直
列に接続した電池の端子電圧は 5.4V に降下する。この電池を接続した回路を短絡すると、何 A
の電流が流れるか。
8. 右図に示す回路において、抵抗10Ωを流れる電流の大きさと、方
向をキルヒホッフの法則を用いて計算せよ。
5Ω
2Ω
10Ω
9. 上記8の問題を、テブナンの定理を利用して計算せよ。
2Ω
5Ω
10V
-5-