MSHT カーボンフードの猫腎不全に対する臨床試験 Clinical Study of

MSHT カーボンフードの猫 腎不全に対する臨床試験
Clinical Study of MSHT Carbon Food on Feline renal failure
喜綿和美1),粟津孝子2),網本昭輝3),長谷川眞4),阿部泰朗5),園田龍一郎6),
旗谷昌彦7),井上緑8),前田茂樹9),山本修二9),三井秀記10),内野富弥1)
Kazumi KIWATA1),Takako AWAZU2),Akiteru AMIMOTO3),
Makoto HASEGAWA4),Yoshiaki ABE5),Ryuichiro SONODA6),
Masahiko HATAYA7),Midori INOUE8),Shigeki MAEDA9),
Shuji YAMAMOTO9),Hideki MITSUI10),Tomiya UCHINO1)
要約
MSHT カーボンフード(ヘルスカーボンを 0. 2%配合)を腎不全と診断された猫 18 例に給与し,その嗜好性,
効果について検討した。18 例のうち 4 例は試験途中で死亡し,6 ヵ月試験継続ができたものは 14 例であった。
その結果,血液検査において,BUN,クレアチニンの上昇を抑制できる可能性が示唆された。また,臨床症状
については,有意的な変化ではなかったが,口臭の改善傾向がみられた。また飼主判定および獣医師判定ともに
有効率が 85. 7% であり,高い有効率を示した。嗜好性においては,良いと普通の合計比率が平均 77. 7%とほぼ
問題ない結果であった。また,全症例で副作用は認められなかった。現在,猫の腎不全において,活性炭製剤の
使用は一般的な治療方法であるが,今回の試験に用いた MSHT カーボンフードでも同様の効果が期待できると
考えられた。
はじめに
便秘しないという特徴がある。
猫の腎不全に対する活性炭製剤の使用は一般的な
材料および方法
治療法となっている。そこで今回,MSHT カーボ
ンフード(以下 MSHT と略す)を猫の腎不全症例
1.MSHT
に給与し,
その効果を検討した。MSHT の原材料は,
ヘルスカーボンを 0. 2% 配合する。
植物を原料とした多孔性吸着毒体であるヘルスカー
ボンである。ヘルスカーボンは薬用炭の評価試験に
2.調査施設(表-1)
合格した炭素製剤を物理科学的手法で処理し,細孔
全国 8 ヵ所の動物病院で実施した。
径を中心に改質した経口吸着用炭素製剤である。ま
たアルギニン酸塩で包み込まれているため,消化酵
3.供試猫(表-2)
素で分解されずそのままの形で排泄され,ほとんど
上記 8 ヵ所の動物病院で腎不全と診断された猫
1)動物エムイーリサーチセンター:〒 140-0142 東京都あきる野市伊奈 487-10 小峰ビル増戸
2)あわづ動物病院:〒 580-0012 大阪府松原市立部 2-6-21
3)アミカペットクリニック:〒 755-0023 山口県宇部市恩田町 3-2-3
4)エンジェル動物病院:〒 953-0041 新潟県新潟市西蒲区巻甲 1537-2
5)吉小路動物病院:〒 023-0054 岩手県奥州市水沢区吉小路 7-1
6)そのだ動物病院:〒 861-4403 熊本県下益城郡美里町中郡 1504
7)旗谷動物病院:〒 655-0014 兵庫県神戸市垂水区大町 3-3-9
8)村山共同家畜診療所:〒 990-0065 山形県山形市双月町 3-11-40
9)イースター株式会社:〒 140-0001 東京都品川区北品川 3-6-9
10)協和発酵工業株式会社:〒 100-0004 東京都千代田区大手町 1-6-1
小動物臨床 Vol.28 No.3(2009.5)173 ◆
18 例である。選択基準は,BUN35 mg/dl 以上,ク
嘔吐,便性状,嗜好性,削痩状態,被毛状態の 12
レアチニン 1. 8 mg/dl 以上が必須基準であり,その
項目とし,観察は 1 ヵ月間隔で行った。血液検査は,
他,選択項目として,活動性の低下,食欲の低下,
Ht,WBC,TP,ALT,BUN,クレアチニンの 6
口臭,嘔吐,飲水欲亢進,可視粘膜異常,定期的に
項目とし,検査は 2 ヵ月間隔で行った。そして,
来院できるという項目のうち 2 つ以上を有すること
BUN およびクレアチニンの推移について検討した。
を条件とした。18 例のうち 4 例は試験途中で死亡し,
6 ヵ月継続試験ができたものは 14 例であった。年
5.効果判定法(表-3)
齢は平均 14 歳(9 歳 5 ヵ月∼ 17 歳)
,体重は平均
効果判定は,飼主および獣医師によって行われた。
4. 1 kg(2. 6∼5. 8 kg)
,去勢 6 例,避妊 8 例であった。
以降の成績は 6 ヵ月継続試験を終了した 14 例の成
表-3 効果判定法
績である。
飼主判定
著効な改善:給与前と比べ明らかに症状が改善したもの
改善:
給与前と比べ症状改善が,すぐわかる程度改善
したもの
やや改善: 給与前と比べ一般状態の一部にでも症状の改善
が認められたもの
不変:
給与前と全く変わらなかったもの
悪化:
明らかに症状が悪くなったもの
4.試験方法
給与期間は,6 ヵ月間であり,給与方法は,単味
または混餌であった。1 日の給与量は,MSHT とし
て平均 55. 2 g(給与量不明を除く)
,ヘルスカーボ
ンとして,
1 日平均 110. 0 mg であった。臨床観察は,
体重,体温,心拍数,活動性,食欲,口臭,飲水欲,
獣医師判定
著効:
給与前と比べ一般状態に明らかな改善が認めら
れたもの。BUN,クレアチニンが
明らかに持続的に減少したもの。
有効:
給与前と比べ一般状態に改善が認められたも
の。BUN,クレアチニンが持続的に
減少したもの。
やや有効: 給与前と比べ一般状態の一部にでも症状の改善
が認められたもの。
無効:
一般状態に改善がなく,
BUN,クレアチニンが
増加したもの。
悪化:
一般状態がさらに悪化し,
BUN,クレアチニン
が著明に増加したもの。
判定不能: 効果判定ができなかったもの。
表-1 調査実施施設
動物病院名
責任者氏名
実施場所
あわづ動物病院
アミカペットクリニック
エンジェル動物病院
吉小路動物病院
そのだ動物病院
動物MEリサーチセンター
旗谷動物病院
村山共同家畜診療所
粟津孝子
網本昭輝
長谷川眞
阿部泰朗
園田龍一郎
内野富弥
旗谷昌彦
井上緑
大阪府松原市
山口県宇部市
新潟県新潟市
岩手県奥州市
熊本県下益城郡
東京都あきるの市
兵庫県神戸市
山形県山形市
表-2 MSHT カーボンフード 6 ヵ月給与した供試猫 14 例の概況
No
種類
性別
月齢
体重(kg)
飼育環境
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
日本猫
雑種
雑種
日本猫
日本猫
雑種
雑種
チンチラ
日本猫
日本猫
雑種
雑種
雑種
雑種
避妊雌
去勢雄
避妊雌
避妊雌
去勢雄
避妊雌
避妊雌
去勢雄
去勢雄
避妊雌
去勢雄
去勢雄
避妊雌
避妊雌
204
122
180
203
120
204
171
125
158
204
114
180
203
169
2.6
4.6
5.7
2.9
4.5
3.2
3.8
4.1
5.8
2.7
4.7
4.8
4.0
3.4
室内
室内
室内
室内
室内外
室内
室内
室内
室内
室内
室内
室内外
室内
室内
168.4
34.99
4.1
1.0
平均
±SD
◆ 174 小動物臨床 Vol.28 No.3(2009.5)
MSHTカーボンフード
用量(g/日)
給与方法
ヘルスカーボン量(mg)
50
67
不明
50
不明
60
不明
80
80
20
40
不明
不明
不明
混餌
単味
単味
不明
混餌
単味
単味
不明
単味
単味
混餌
混餌
混餌
単味
100
134
不明
100
不明
120
不明
160
160
40
80
不明
不明
不明
MSHT カーボンフードの猫腎不全に対する臨床試験
飼主による判定は,症状の改善した程度から著効な
がって,やや有効以上を示した有効率は,飼主判定
改善,改善,やや改善,不変,悪化の 5 段階とした。
と同様に 85. 7% であった。また,全症例で副作用
獣医師による判定は,一般状態および血液検査結果
は認められなかった。嗜好性の判定は,良いと普通
から,著効,有効,やや有効,無効,悪化,判定不
の合計比率は,給与 1 ヵ月後から 6 ヵ月後までに,
能の 6 段階とした。そして,飼主判定では,やや改
86. 7%,80. 0%,73. 4%,73. 3%,80. 0%,73. 3% と
善,獣医師判定では,やや有効以上を効果ありと考
推移した。
え,有効率を算出した。また嗜好性の判定は,良い,
普通,悪いの 3 段階とし,副作用の有無についても
考 察
調査した。
獣医学領域において,腎不全に対して従来より食
事療法,内科療法そして透析に加え,経口吸着用炭
試験成績
素製剤や健康補助食品である吸着性多孔体,ヘルス
1.臨床症状の変化
カーボンの給与が試みられ,その有用性が報告され
各項目において明らかな傾向はみられなかった。
ている1∼5)。また,ヒトの腎不全患者においては,
かねてから多孔質炭素製剤などの経口吸着剤を使用
2.血液検査所見の変化(表-4,5,図-1,2)
した治療は,消化管で生産または分泌される尿毒症
BUN, クレアチニンは,MSHT の給与前,2 ヵ月,
代謝産物や尿毒症関連物質の除去を目的とした治療
4 ヵ月,6 ヵ月目では増加はみられず,ほぼ前値を
法でありその有用性が示されている6,7,8)。
維持した。Ht,WBC,TP,ALT 値に関しては,一
ヘルスカーボンは,吸着分子量の大きさは,100
定傾向は認められなかった。
∼90, 000 までに及び,アルギニン酸塩で包み込ま
れているため,消化酵素で分解されずそのままの形
3.MSHT の有効性,副作用,嗜好性(表-6,7,
図-3)
で排泄され,ほとんど便秘しないという特徴がある。
実験的にはヘルスカーボンと同様の成分からなる活
飼主による判定では,著効な改善が 1 例,改善が
性炭入り機能性ゲルが,大腸菌 O-157 が産生するベ
6 例,やや改善が 5 例,不変が 1 例,悪化が 1 例で
ロ毒素(VT1,VT2)を吸着するといわれている9)。
あった。したがって,やや改善以上を示した有効率
今回,ヘルスカーボンを原材料とする MSHT を
は 85. 7% であった。また,獣医師による判定では,
猫の腎不全症例に給与し,その効果について検討し
著効が 0 例,有効が 7 例,やや有効が 5 例,無効が
た。その結果,血液検査において,図-1,2 に示
0 例,悪化が 1 例,判定不能が 1 例であった。した
表-4 MSHT 給与による BUN の変化(単位:mg/dl)
表-5 MSHT 給与によるクレアチニンの変化
(単位:mg/dl)
症例No
給与前
2ヵ月目
4ヵ月目
6ヵ月目
症例No
給与前
2ヵ月目
4ヵ月目
6ヵ月目
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
No.10
No.11
No.12
No.13
No.14
52.5
30.0
48.8
50.8
52.0
56.7
36.2
72.9
51.9
58.8
44.7
44.8
59.7
45.2
49.4
32.7
35.6
33.2
22.0
50.9
33.4
104.3
49.2
51.9
44.4
43.0
47.4
48.1
36.6
40.8
32.7
30.6
26.0
63.3
23.1
90.3
44.4
46.1
40.5
43.1
45.3
51.9
37.1
34.7
36.8
37.6
24.0
59.2
25.8
86.8
40.4
73.1
42.1
51.6
40.3
49.3
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
No.10
No.11
No.12
No.13
No.14
1.9
2.2
1.6
2.1
2.2
2.8
2.2
4.3
2.7
3.2
2.4
2.0
2.7
2.6
1.9
1.8
1.9
2.0
1.9
2.7
2.0
5.0
2.1
3.8
2.0
1.8
2.1
3.8
2.8
2.1
1.8
2.3
2.3
3.0
1.8
4.7
1.9
3.1
2.3
2.0
2.4
2.1
1.9
2.1
1.4
2.1
2.0
2.7
1.6
4.9
1.9
3.8
2.0
2.2
2.2
2.0
平均
±SD
50.4
10.46
46.1
18.98
43.9
16.94
45.6
17.42
平均
±SD
2.5
0.67
2.5
0.99
2.5
0.76
2.3
0.93
小動物臨床 Vol.28 No.3(2009.5)175 ◆
図-1 14 例の MSHT 給与による BUN の変化
図-2 14 例の MSHT 給与によるクレアチニンの変化
表-6 MSHT 給与による効果判定
飼主判定
著効な改善
有効
やや改善
不変
悪化
有効率(%)
14例
1
6
5
1
1
85.7
有効率(%):著名な改善+改善+やや改善/14×100(単位:症例数)
獣医師判定
著効
有効
やや有効
無効
悪化
判定不能
有効率(%)
14例
0
7
5
0
1
1
85.7
有効率(%)
:著効+有効+やや有効/14×100(単位:症例数)
すように BUN,クレアチニン値はほぼ前値を維持
あり,高い有効率を示した。
し,これらの値の上昇を抑制できる可能性が示唆さ
嗜好性においては,良い例と普通例の合計比率が
れた。また,臨床症状については,有意的な変化で
平均 77. 7%とほぼ問題ない結果であったが,図-3
はなかったが,口臭の改善傾向がみられた。また飼
に示したように,嗜好性の良い例と普通例の合計比
主判定および獣医師判定ともに有効率が 85. 7% で
率が 1 ヵ月目 86. 7%から緩やかに低下し 6 ヵ月目
◆ 176 小動物臨床 Vol.28 No.3(2009.5)
MSHT カーボンフードの猫腎不全に対する臨床試験
表-7 MSHT の嗜好性の推移
1ヵ月目
2ヵ月目
3ヵ月目
4ヵ月目
5ヵ月目
6ヵ月目
良い(例数)
(%)
6
40.0
5
33.3
4
26.7
5
33.3
4
26.7
2
13.3
普通(例数)
(%)
7
46.7
7
46.7
7
46.7
6
40.0
8
53.3
9
60.0
悪い(例数)
(%)
2
13.3
3
20.0
3
20.0
4
26.7
2
13.3
2
13.3
不明(例数)
(%)
0
0.0
0
0.0
1
6.7
0
0.0
1
6.7
2
13.3
良い+普通の
合計比率(%)
86.7
80.0
73.4
73.3
80.0
73.3
スカーボン)の臨床応用 第 20 回動物臨床医学会
2)小山秀一,喜綿和美,上田耕司,小林由美子,高畑尚康,
野矢雅彦,
島田健次郎
(2004)
:犬猫の慢性腎不全に対する
多孔性吸着解毒体
(100%ヘルスカーボン)
の臨床効用 小
動物臨床 23:325-329
3)中尾正明,山根義久,内野富弥ら(1998)
:慢性心不全猫
を対象とした経口吸着剤 AST-120 の臨床的検討 多施設
共同臨床試験 第 19 回動 物臨床医 学会年 次 大 会 3:
77-81
図-3 MSHT の嗜好性の推移
では 73. 3%であったことは,猫がフードに飽きた
可能性も考えられた。
今 回 の 結 果 か ら, ヘ ル ス カ ー ボ ン を 含 有 す る
MSHT は猫の腎不全症例において,従来からの経
口吸着用炭素製剤や健康補助食品である吸着性多孔
体,ヘルスカーボンと同様に,腎不全の臨床症状の
改善や病態の進行を抑制する効果が期待できると考
えられた。
参考文献
1)小山秀一,本郷久仁冶,中津賞,高橋徹,島田健次郎
(2000):犬猫の腎不全に対する多孔性吸着解毒体(ヘル
4)下山和哲,澤邦彦,宮田雄吉ら(1997)
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5)谷村昌宏,菅野紘行(1995)
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のクレメジンの投与例 日獣会誌 48:689
6)小出桂三,越川昭三,山根至二ら(1991)
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:The
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indoxyl sulfate level in undialyzed uremic patients,
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:機能性ゲルを
用いた有害物質,毒素の吸着除去に関する研究 第 12 回
日本環境感染学会総会 103
小動物臨床 Vol.28 No.3(2009.5)177 ◆