イギリスのコミュニティ技術援助組織の歴史的展開と活動実態

イギリスのコミュニティ技術援助組織の歴史的展開と活動実態
アメリカのコミュニティ・デザイン・センターとの比較
A STUDY ON THE HISTORICAL DEVELOPMENT PROCESS AND ACTIVITIES
OF COMMUNITY TECHNICAL AID CENTRES IN THE UNITED KINGDOM
Comparison with Community Design Centers in the United States
渡辺民代 *
Tamiyo WATANABE
This study aims to examine the historical development process, programs, and funding of Community Technical
Aid Centre, which is non-profit organization in the U.K that provide architectural and planning technical aid, and also
to compare with Community Design Centers in the U.S to clarify its similarity and difference. Community Technical
Aid Centre has developed in parallel with community-based organizations since 1960s, and has played important role
mainly in architectural design and feasibility study for community-based organizations through strong community
participation. However, even today, it is severe social and economic circumstance for them to maintain its service in
both countries.
Keywords: Community Technical Aid Centre, Technical Aid, Community Participation, United Kingdom
コミュニティ技術援助組織、専門家支援、住民参加、イギリス
造の3点について明らかにし、コミュニティ技術援助組織が地域の
1. 研究の背景と目的
建築・まちづくりにおいてどのような役割を果たしているのかを考
英米では住宅供給やコミュニティ開発の分野でコミュニティ・ベ
察する。英国内の 5 つのコミュニティ技術援助組織のディレクター
ースの非営利組織が発展しているが、建築・まちづくりには主体と
に対するヒアリングとコミュニティ技術援助組織が支援した現地に
なる住民組織と共に、それを支援する建築家・プランナーなどの専
おけるプロジェクト視察を実施した。
門家の存在が不可欠である。
イギリスでは 1970 年代後半からコミュ
3)イギリスのコミュニティ技術援助組織とアメリカのコミュニテ
ニティ技術援助組織(Community Technical Aid Centre)と呼ばれる、
ィ・デザイン・センターの設立の背景、活動内容、財政構造の3点
居住者・ユーザー主体の建築・まちづくりを支援する専門家による
に関して英米比較を行い、類似点と相違点を明らかにする。アメリ
支援組織が設立され始めた。1960 年代のコープ住宅運動や借家人組
カのコミュニティ・デザイン・センターについては、1999 年~2002
合による公営住宅管理に対する権利要求などの激しい住宅運動が展
年にわたり 13 の組織について現地でのヒアリング調査を行ってい
開されるようになり、それに応じて誕生したのが建築・プランニン
る1。
グの側面から技術的支援を行うコミュニティ技術援助組織であった。
コミュニティ技術援助組織は、近年ますます活発になりつつある居
2.コミュニティ技術援助組織の歴史的発展過程と英米比較
住者・ユーザー主体の地域環境改善活動を支える上で重要な役割を
2-1.歴史的展開と発展要因
果たしている。
本研究の目的は、以下の 3 点である。
イギリスにおけるコミュニティ技術援助組織の歴史的発展過は、
その活動の主体・内容・性質によって 6 期に分類することができる。
1)イギリスのコミュニティ技術援助組織の歴史的発展過程と発。
第 1 期(1960 年代~1970 年代半ば)は、自治体あるいは地域
展要因を明らかにする。既往文献の整理およびコミュニティ技術援
住民からの依頼を受けた建築家が居住者と共に住宅改善に取り組ん
助組織のスタッフや設立にかかわった建築かなどへのヒアリングを
だ時期である。 これらはすべて個人レベルの支援活動であり、それ
行った。
らが組織的・継続的に展開されることはなかった。
2)コミュニティ技術援助組織の設立の背景、活動内容、財政構
専門家に対する資金的支援は、
公営住宅の建替え計画を居住者とと
もに策定したアースキンの場合は直接自治体から支払われ、マチェ
* 京都大学防災研究所巨大災害研究センター
COE 研究員・博士(工学)
COE research fellow, Research Center for Disaster Reduction Systems,
Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University, Ph.D
スフィールド・ブラックロードにおける住宅改善事業を支援したハ
ィ・アーキテクチュアに取り組むことによって、経済不況下におけ
ックニーは General Improvement プログラム下の補助金が支給され
る建築家の仕事範囲を拡大することであった」と、批判的な見解を
た。この時期には、住宅運動団体による公営住宅への管理への参加
述べている。
要求が高まるともに、借家人による家賃値上げへのストライキ、ス
第 5 期(1970 年代後半~1980 年代)には、RIBA のコミュニティ・
ラムクリアランス事業への激しい抵抗運動などが展開された。従来
アーキテクチュア促進運動にはやや遅れる形で、1970 年代後半以降
の住宅開発、都市計画は中央政府・自治体の内部のみで行われてお
にコミュニティ技術援助組織の設立が相次いだ。1960 年代後半~
り、それらに対して社会的、経済的、政治的な状況を変革しようと
1970 年代前半にかけて、コミュニティ組織に対しては政府からの補
の社会の要請が高まっていったのである。また第1期は、中央政府
助金が支給されるようになったが、彼らが必要としていたのは資金
の法律・政策が大転換を遂げた時期でもある。1974 年の住宅法改正
的支援に加えて、
専門家による技術的な支援であった。
このように、
によって、Housing Action Area プログラムが開始され、ボランタリ
第 5 期のコミュニティ技術援助組織の設立は、コミュニティ・グル
ー・セクターは政府から多額の補助金が投じられるようになり、イ
ープのニーズに応じて設立されたものである。これに対して、第 4
ンナーシティ衰退問題に大きな役割を果たすまでに成長をとげた。
期における RIBA のコミュニティ・アーキテクチュア運動は、専門
都市計画の分野においては、1968 年の Urban Programme によって地
家の内在的な意識、すなわち、仕事範囲の拡大への期待によって生
方自治体とボランティア組織によるプロジェクトが支援された。
まれたものである。Woolley(1985)は「RIBA は社会からの批判が集
1969 年に中央政府が発行した“Skeffington レポート”では、都市計画
中した従来の行政および民間主導の建築・まちづくりの失敗を認め
における参加の規定が始めて公的に定められた。このように、イギ
ていない点がコミュニティ技術援助組織と異なり、両者は全く違う
リスにおける建築家の支援活動に対しては、初動期から何らかの公
質のものであると言える。
」と説明している。84 年には DoE から特
的な資金的支援が行われている点に特徴があり、その活動は中央政
別補助金を受けるなどして、コミュニティ技術援助組織はその活動
府の支援制度によって後押しされたといえる。
を拡大・発展させた。また同時期には、地方自治体によってコミュ
第 2 期(70 年代初め~半ば)には、多くの急進的な建築家集団が
ニティ・アーキテクチュアを促進する取り組みが展開されている。
結成され、建築家の社会的責任やユーザーとの関わり方について大
グレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)では「ポピュラー・プ
論争が巻き起こった時期である。地域主体の運動が高まり専門的技
ランニング」が登場し、
自治体職員がコミュニティ組織を技術的に支
術に対するニーズが拡大するのと並行して、専門家に内在する職能
援し、補助金が支給されている。
意識の改革に関する積極的な議論が展開された重要な時期とみるこ
しかし第 6 期 (1980 年代後半~)に入ると、RIBA がコミュニテ
とができる。特徴として指摘できるのは、これらの建築家集団の多
ィ・アーキテクチュア促進の取り組みから撤退した。また、1980 年
くは若手の建築家で構成されていた点である。建築のユーザーとな
代後半には中央政府・自治体からの補助金削減によって多くのコミ
る人々との何の関わりも持てない自らの仕事の手法に対して不満を
ュニティ技術援助組織が活動停止に追い込まれ、その連合組織であ
感じていた若手の建築家は、コミュニティ・アーキテクチュアを自
る Association of Community Technical Aid Centre(以下 ACTAC) も
らの表現の手段として用いるようになったのである。また、この時
1998 年に解散を余儀なくされた。しかし一方で、1992 年にはノッテ
期に設立された建築家集団は大きく分けると RIBA の建築家によっ
ィンガムでは Technical Aid for Nottinghamshire Communities(TANC)
て結成されたものと、RIBA を批判する建築家によって結成された
が設立され、
そのほかにも 10 数のコミュニティ技術援助組織が活動
ものであった。
を継続させている。このことから、今日まで生き残っているコミュ
第 3 期(1972 年~75 年)にはプランニング・エイドが登場し、市
ニティ技術援助組織は、RIBA によるコミュニティ・アーキテクチ
民に対して都市計画に関する制度・プロセスに関する助言や相談業
ュア促進の諸活動・制度にはそれほど恩恵を受けずに活動を継続さ
務が登場した時期である。プランニング・エイドは 1971 年の都市農
せていることがわかる 。
村計画法の成立後、住民参加を実質的なものとして保障するために
以上のように、イギリスにおける専門家による支援活動は、1960
開始された受け皿的活動である。この第 3 期におけるプランニン
年代後半の個人建築家による支援活動に始まり、1970 年代後半以降
グ・エイドが後に発展して、活動範囲を拡大させることで、第 5 期
には恒常的な組織として、コミュニティ技術援助組織の設立が始ま
のコミュニティ技術援助組織へと発達することになる。
った。その登場の要因は以下の 4 点に集約できる。
第 4 期(1970 年代半ば~1980 年代半ば)は、RIBA によってコミ
ュニティ・アーキテクチュアが強力に促進された時期である。RIBA
1) ユーザーのニーズを無視した従来型の建築に対する社会からの
反発とコミュニティ組織による地域改善活動の発展
の建築家で構成される Community Architecture Group が結成
2) 経済不況下における建築分野内の専門家の競争に伴い、非営利セ
され、地域の建築・まちづくり活動が促進された。また同時期、RIBA
クターのコミュニティ組織が新しいクライアントとなったこと
はコミュニティ組織に対して資金提供を行う Community Project
3) 建物のユーザーと直接関わりながら建築活動をしたいと望む若
Fund も創設している。Community Project Fund を利用することで、
手の建築家が登場してきたこと。建築のユーザーとなる人々との何
コミュニティ・グループは建築家に対して料金を支払い、建築のサ
の関わりも持てない自らの仕事の手法に対して不満を感じていた若
ービスやフィージビリティ・スタディを受けることが可能となった。
手の建築家は、コミュニティ・アーキテクチュアを自らの表現の手
Community Project Fund は専門家の支援活動に対する資金援助を行
段として用いるようになった。
う点において大きな意義を有していたが、Woolley(1985)は「RIBA
4) 第 1 期における中央政府による法律・社会政策の転換。コミュニ
のねらいは地域ベースの住宅・環境改善事業すなわちコミュニテ
ティ・グループが建築物の再生において主体となり、それらが建築
家を雇える環境を整備したこと
2-2.英米歴史比較
Technical Services Agency (以下、COMTECHSA)である。
CTAC は、1979 年に都市農村計画協会(TCPA)のプロジェクト
まず開始の時期であるが、アメリカの場合、1960 年代後半にコミ
としてスタートされた組織である。CTAC は TCPA が 1972 年に始め
ュニティ・デザイン・センターの設立が相次いだ のに対して、イギ
たプランニング・エイドを発展させたものであり、プランニング・
リスでは 1970 年代後半に英国初のコミュニティ技術援助組織がリ
エイドのみでは行えないような、コミュニティ組織に対する長期的
バプール、
マンチェスターにおいて設立されている。
英米の間には、
な建築・プランニングのサービスを行うことを目的として設立され
10 年間の開きがあることがわかる。また専門家による支援活動を開
た。COMTECHSA は 1979 年にリバプール市において設立された組
始した主体は、アメリカでは建築学科や都市計画学科の学生である
織である。産業構造の転換によって、工業都市であったリバプール
のに対して、イギリスではベテランの建築家であり、そこに学生の
市は大打撃を受け、1970 年代後半にはインナーシティの衰退、空き
参加は見られなかった点が異なる。アメリカでは学生が多数参加し
地の増加、人口減少などが深刻な問題となっていた。このような問
た公民権運動やベトナム反戦運動などの社会運動や、同時期に全米
題を討議するために、市当局、民間企業、コミュニティ組織などで
で巻き起こった大学紛争がコミュニティ・デザイン・センターの設
構成される連合組織が結成され、同組織が中心になって
立に大きく影響しているのである。単純化を恐れずに言うならば、
COMTECHSA を立ち上げた。
アメリカでは社会活動家、イギリスでは建築家が、専門家による支
CTAC、 COMTECHSA から 5 年遅れて設立されたのが、1984 年
援活動に取り組んだ主体であった。専門家による支援組織の発展要
に北アイルランド・ベルファストの Community Technical Aid(NI)
因は、英米ともに、①専門家自身による職能意識改革、②コミュニ
である。同組織はコミュニティ開発の活動家や大学教授などによっ
ティ組織の成長に伴う専門家へのニーズの拡大、③地域主体の建
て設立されたコミュニティ技術援助組織である。
築・まちづくりを促進する行政の法律・政策の転換、と共通してい
るが、特にアメリカでは公民権運動やベトナム反戦運動などの社会
イギリス全体では 1970 年代後半に設立された組織が多かったが、
1990 年代に設立されたものとして、ノッティンガム市の Technical
運動と共に発展を遂げていることと、アドボカシー・プランニング
Aid for Nottinghamshire Communities (以下、TANC)がある。TANC
の概念が大きな影響を与えていることがイギリスとの相違点である。
は 1991 年にノッティンガム市による再開発に危惧を抱いたコミュ
次に歴史的変遷であるが、
アメリカでは 1980 年代における政府補
ニティ・グループを支援するために設立されたコミュニティ技術援
助金の大幅削減や経済不況などによって多くのコミュニティ・デザ
助組織である。
イン・センターが消滅している。一方、イギリスでも 70 年代後半~
80 年代半ばに多くのコミュニティ技術援助組織が登場したが、1980
4.コミュニティ技術援助組織の活動実態と英米比較
年代後半に入ると中央政府・自治体からの補助金削減によって多く
4-1.コミュニティ技術援助組織の活動実態
のコミュニティ技術援助組織が活動停止に追い込まれ、その連合組
織である ACTAC も 1998 年に解散を余儀なくされた。このように
英米共に活動停滞・組織消滅の原因は、政府補助金の削減によるこ
5つのコミュニティ技術援助組織による活動内容を示したのが、
表 1 である。
まず、イギリスのコミュニティ技術援助組織についてみていく。多
とであることがわかる。1990 年代に入ると、アメリカでは住宅都市
くの組織で提供されているサービスは、
「建築設計・デザイン」
、
「建
開発省 HUD による Community Outreach Partnership Center プログラ
築のフィージビリティ・スタディ」
、
「コミュニティの組織化・参加
ム2 が登場し、大学が地域再生における支援活動が後押しされて、
促進」
、
「環境共生・エネルギー」
、
「資金調達の支援」などである。
その活動は復活の兆しを見せているが、イギリスではそのような動
次に、組織ごとに特徴的な活動内容について、以下で述べる。まず、
きは見られない。
マンチェスターの CTAC によって行われているグリーン・アーキテ
クチュア(Green Architecture Project)がある。これは 2000 年に
3.コミュニティ技術援助組織の設立の背景
本研究ではイギリス内の 5 つのコミュニティ技術援助組織の調査
を行っている。
European Regional Development Fund を受けて開始されたプロジェク
トで、マンチェスター市におけるグリーン・アーキテクチュアの普
及を促進している。具体的には、サステーナブル開発やエネルギー
最も古いのが 1969 年にロンドンにおいて設立された Free Form
の効率利用に関する関心を市内で高めること、エコロジカルでサス
Arts Trust である。組織名称があらわすように、芸術家や建築家がそ
テーナブルなデザインを進めるプロジェクトを推進していくことな
の能力を生かして、地域住民と共に地域の再生プロジェクトに取り
どを手がけている。リバプールの COMTECHSA による特有の活動
組むことを目的としている。そのねらいは、芸術家の活動の場を従
は、
コミュニティ・グループやボランティア組織へのオフィス賃貸、
来のギャラリーから地域生活空間に移し、彼らが媒体となって地域
である。設立の背景でも述べたように、Free Form Arts Trust は、ほ
づくりにおけるアートを進めることである。従来、プランニングや
かのコミュニティ技術援助組織と活動は少々異なり、特有の活動を
デザインの過程から排除されてきたコミュニティに対するエンパワ
展開している。近年、力を入れているのは、公営住宅の再生におけ
ーメントを行い、芸術によって地域再生を行い、芸術家の地域社会
る技術的支援およびデザイン活動を行う Building
における役割を拡大していくことを使命として掲げている。
ログラムである。中央政府 DTLR(旧 DoE 環境省)、保険会社
Communities プ
全英で数多くのミュニティ技術援助組織の設立が相次いだ 1970 年
(Provident Financial)
、Lottery Community Fund からの補助金を受け
代後半に活動を開始しているのが、マンチェスター市の Community
て、
公営住宅におけるデザイン改善に取り組んでいる。
比較的最近、
Technical Aid Centre (以下、CTAC)とリバプール市の Community
設立された TANC の活動内容の特徴は一般的にコミュニティ技術援
助組織が手がけている、デザイン業務やフィージビリティ・スタデ
る。これらはすべての建築家に求められる能力であるが、それを持
ィなどを行っていない点である。その主要な業務は、コミュニティ・
ち合わせていない建築家がいるのが実情であり、この領域において
グループに対するビジネスプランの作成やコンサルテーションであ
コミュニティ技術援助組織の果たす役割は大きいといえる。
る。コンサルテーションには、コミュニティ・ニーズの発掘や整理、
コミュニティ開発における複数の代替案の作成(Option Appraisal)
などがあげられる。
具体的なプロジェクトを通してコミュニティ技術援助組織の役割
についてみていくことにする。1992 年 9 月に、市当局やノッティン
ガム大学、コミュニティ・グループ Chase Action Group のパート
ナーシップのもとで、地域開発のプロジェクトが始動した。そこで
はコミュニティ・センターの地域住民による自力建設が行われた。
自力建設作業には 10 名が参加し、建設訓練の一環として行われた。
プロジェクト開始にあたっては、5 年間の City Challenge 補助金を
獲得し、これが起爆剤になって、TANC が設立されたのである。ス
ーパーなどの小売店舗、若者育成センター、生活サポートセンター
写真1 TANC の支援により完成したコミュニティ・センター
などを含むコミュニティ・センターの開発において、TANC は借地
のための手続き、デザイン、エコロジカルな分野などにおいて支援
4-2 英米活動内容比較
を行った。また、低所得地域では大きなニーズがあるコインランド
英米で共通して行われているサービス内容は
「建築設計・デザイン」
、
リーの建設をサポートし、その収益をコミュニティ・ファンドに還
「建築のフィージビリティ・スタディ」
、
「総合的な近隣計画の相談
元する仕組みをつくりあげた。また住民のニーズの把握とその具現
業務」である。アメリカで特徴的なのが、非営利型を中心とした「イ
化にむけての戦略策定、自力建設に関するリサーチも行っている。
ンテリア・デザイン」や大学ベース型による「学生の教育」
、
「トレ
TANC には建築家が在籍していないため、建築デザインは外部の民
ーニング・市民の教育」などであり、これらはすべてイギリスでは
間建築家によって行われた。その建築家と地域住民との会合の際に
見られない活動である。これに対してイギリスでは「環境共生・エ
は TANC は建築分野における専門用語や図面の読み方などを地域住
ネルギー」や「コミュニティ施設・事務所の管理サポート」などを
民にわかりやすく説明するといった「建築の通訳」として働いてい
展開している点がアメリカと異なっている。
(
表1 英米の専門家による支援組織が提供するサービス内容
○
○
○
○
○
(
○
○
○
Community Technical Aid
Northern Ireland
○
COMTECHSA
○
Community Technical Aid Centre
○
○
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○
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Community Design Center of San
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Community Based Project(Ball
State University)
Portland Community Design
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Center (University of Detroit,
Mercy)
Community Development
Group(North Carolina State
University)
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Free Form Arts Trust
Technical Aid for Nottingham
Communities
○
○
○
○
○
○
○
○
○
リカ平均で 33.5%であるのに対して、イギリス平均は 47.4%と、イ
5.コミュニティ技術援助組織が扱うプロジェクトの種類-アメリ
ギリスのほうが 1.4 倍多いことがわかる。これに対して、民間企業・
カのコミュニティ・デザイン・センターと比較して
財団からの献金に注目すると、アメリカ平均は 33%であるのに対し
表2は英米の専門家による支援組織が扱うプロジェクトを示して
て、イギリス平均は 18.8%と、アメリカのほうが 1.75 倍、民間セク
いる。イギリスのコミュニティ技術援助組織の中心は「コミュニテ
ターからの資金が多いことがわかる。この要因として考えられるの
ィ・センター」と「コミュニティ組織の事務所」の設計である。
は、イギリスの民間企業が非営利セクターに献金する際に、受ける
アメリカと比較して、社会弱者のための住宅供給をその活動対象と
ことができる税控除がアメリカと比べると低位にあることである。
していない点が決定的に異なり、これはイギリスにおいては戦後の
また、イギリスでは公益活動への寄付を行うには 3 年にわたること
福祉国家体制のもとで多くの公営住宅が建設されてきたことによる
が義務付けられていることから、アメリカに比べるとイギリスでは
ことが要因である。今日、アメリカでは低所得者層に対する住宅供
民間企業が非営利セクターに献金する際のインセンティブが小さい
給はコミュニティ開発法人をはじめとする非営利セクターがその中
と言える。
心的な役割を担っており、コミュニティ・デザイン・センターもそ
年 間 歳 入 額 に 関 し て 言 え ば 、 ア メ リ カ で は PICCED 、 Asian
れを技術的に支援組織する主体として活動している点で対称的であ
Neighborhood Design、イギリスでは Free Form Arts Trust が 2 億円~
るといえる。
11 億円と他の組織からずば抜けて多額の資金を有している。これら
を除いて英米の比較を行うと、アメリカでは 7 組織の年間歳入額平
均が約 7100 万円であるのに対して、イギリスの4組織の平
6.財源内訳
表3はコミュニティ技術援助組織の財源内訳と年間歳入を示して
均は 6045 万円である。アメリカの方が 1000 万円ほど多いことがわ
いる。全体的に言えることは、財源内訳は、中央政府 DoE からの補
かるが、この他にも多数組織が存在するので、一概にアメリカのほ
助金や Single Regeneration Budget(SRB)、自治体などの行政からの補
うが多額の年間歳入を有しているとは言えない。
助金が多くなっている。特に COMTECHSA が 70%、Free Form Arts
Trust が 61%と大きい割合を占めている。また EU 関連の European
7.結
Social Fund(ESF)や European Regional Development Fund(ERDF)
本研究では 1970 年代後半以降に登場したコミュニティ技術援助
なども受けている。北アイルランドの Community Technical Aid(NI)
組織が、コミュニティ施設やコミュニティ組織の事務所の設計、お
は有料サービス業務による収入が 63%と非常に高い。マンチェスタ
よび近隣計画の策定において、居住者・ユーザー主体の地域ベース
ーの CTAC は行政、民間、有料サービス業務による収入によって、
の建築・まちづくりを支援している実態を明らかにした。
バランスよく資金を集約していると言える。年間歳入額は£12 万~
コミュニティ技術援助組織の誕生は、建築やプランニングの技術的
£179 万と、幅広いことがわかる。
支援を必要としていたコミュニティ組織のニーズに応じる形で誕生
アメリカのコミュニティ・デザイン・センターとイギリスのコミュ
したものであり、専門家による支援組織はコミュニティ組織の発展
ニティ技術援助組織を比較すると、有料サービス業務による収入の
と共に成長をとげてきた。また、コミュニティ技術援助組織は実践
割合は、アメリカ平均は 32.3%、イギリス平均は 31.6%であり、ほ
ぼ同率であることがわかる。しかし行政からの補助金の割合はアメ
表2 英米の専門家による支援組織が扱うプロジェクト
○
○
○
○
○
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Detroit Collaborative Design Center (University of Detroit, Mercy)
Community Development Group(North Carolina State University)
Portland Community Design
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Community Design Center of San Francisco
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○
表 3 英 米 の 専 門 家 に よる支 援 組 織 の 財 源 内 訳 と年 間 歳 入 額
行政からの補
助 金 (% )
大
学
ベ
ュ
ー
コ
ミ
ス
型
ィ
(
ニ
テ
・
デ
ザ
イ
ン
・
セ
ン
タ
非
営
利
型
)
ア
メ
リ
カ
ィ
テ ボ
型
ラ
ア ン
ー
民
利
間
型
営
(
コ
ミ
ュ
ニ
テ
ィ
)
技
術
援
助
組
織
有料サー ビス
業務による収
入 (% )
そ の 他 (% )
年 間 歳 入 額 (円 )
P IC C E D
30
33
40
10
C ity D esig n C en ter( U IC )
72
28
0
0
C o m m u n ity B a sed P ro ject(B a ll S ta te U n iv ersity )
-
-
-
-
-
D etro it C o lla b o ra tiv e D esig n C en ter (U n iv ersity o f
D etro it, M ercy )
-
-
-
-
-
C o m m u n ity D ev elo p m en t G ro u p (N o rth C a ro lin a S ta te
U n iv ersity )
-
-
-
-
P o rtla n d C o m m u n ity D esig n
0
90
10
0
E n v iro n m en ta l W o rk s
24
0
76
0
1 2 5 ,0 0 0 ,0 0 0
A sia n N eig h b o rh o o d D esig n
15
9
76
0
1 ,1 2 5 ,0 0 0 ,0 0 0
C o m m u n ity D esig n C en ter o f S a n F ra n cisco
70
0
30
0
3 7 ,5 0 0 ,0 0 0
C o m m u n ity D esig n C en ter o f P ittsb u rg h
13
61
26
0
4 7 ,5 0 0 ,0 0 0
N eig h b o rh o o d D esig n C en ter
44
56
0
0
6 2 ,5 0 0 ,0 0 0
A b e K a d u sh in A sso cia tes
-
-
-
-
6 2 ,5 0 0 ,0 0 0
Jo h n T o m a ssi & A sso cia te
-
-
-
-
3 3 .5
33
3 2 .3
1 .2
アメリカ平 均
イ
ギ
リ
ス
民 間 企 業 ・財
団からの献金
(% )
2 3 7 ,5 0 0 ,0 0 0
9 3 ,7 5 0 ,0 0 0
6 2 ,5 0 0 ,0 0 0
-
C o m m u n ity T ech n ica l A id N o rth ern Irela n d
37
0
63
0
C O M T EC H SA
70
6
24
3
8 9 ,7 0 0 ,0 0 0
C o m m u n ity T ech n ica l A id C en tre
38
47
15
0
6 8 ,2 5 0 ,0 0 0
F ree F o rm A rts T ru st
61
6
31
2
3 4 9 ,0 5 0 ,0 0 0
T ech n ica l A id fo r N o ttin g h a m C o m m u n ities
31
35
25
9
2 3 ,4 0 0 ,0 0 0
4 7 .4
1 8 .8
3 1 .6
1 9 .2
イギリス平均
6 0 ,4 5 0 ,0 0 0
注 )US$:125円 、£ :195円 で 換 算 (2002年 )
活動を行うのと平行して、それらの活動を継続するための制度を政
5) Blackman, Tim, Community Technical Aid (Northern Ireland) Limited, Town
府に要求する運動を展開し、それによって DoE からの特別補助金や
Planning Review,1988
住宅・都市政策における諸政策における住民参加制度の創設を勝ち
6) Karpf, A., Radical Alternatives, Architects’ Journal, 19 October 1977, pp728-734
取ることに成功している。しかしそれらの支援制度は決して十分な
7) Community Technical Aid Northern Ireland, Annual Report 2001
ものではなく、今日においても、コミュニティ技術援助組織は資金
8) Community Technical Aid Centre,2002,Report & Financial Statements- 2001.3
不足に悩まされており、常に資金獲得のための業務に追われている
9) Community Technical Services Agency, Empowering Communities- Annual
状況にある。英米両国において、専門家による支援組織は居住者・
Report 2000-2001
ユーザー主体の建築・まちづくりを支える上で非常に大きな役割を
10) Technical Aid for Nottinghamshire Communities, Annual Report 2000/2001(10th
果たしているにもかかわらず、それらが安定して活動を継続するた
anniversary)
めの社会的基盤を整備するまでには至っていない状況が浮かび上が
11) Free Form Arts Trust, HOTHOUSE CREATIVE:Annual Report & Audited
った。
Financial Statement 2001-02
12) 渡辺民代、2003 年 3 月、英米の建築・まちづくりにおける専門家による
謝辞
支援組織に関する研究、神戸大学大学院自然科学研究科 学位論文
本研究は、住宅総合研究財団の研究助成を受けて行われました。ここで謝意
13) 渡辺民代・塩崎賢明、アメリカのコミュニティ・デザイン・センターに関
を表したいと思います。
する研究 -歴史的発展過程と組織状況、日本建築学会計画系論文集 第 541
参考文献
14) 渡辺民代・塩崎賢明、コミュニティ・デザイン・センターの組織構造と活
号、2001 年 3 月
(注:多数の文献を用いたが、紙面の関係上一部のみをあげる)
動実態 -非営利型とボランティア型の場合、日本建築学会計画系論文集 第
1) Woolley, T., May 1985, Community Architecture: An Evaluation of the case for
556 号、2002 年 6 月
user participation in architectural design, Oxford Polytechnic University
2) Wates, N.and C. Knevitt, 1987, Community Architecture – How people are
creating their own environment, Penguin Book
1 アメリカのコミュニティ・デザイン・センターの歴史的発展過程について
3) Towers, G., 1995, Building Democracy – Community Architecture in the Inner
は渡辺・塩崎(2001)
、活動実態に関しては渡辺・塩崎(2002)を参照された
い。
Cities, UCL Press
2 Community Outreach Partnership Center プログラムとは、住宅都市開発省に
4) Forsyth, L., User-Controlled Community Technical Aid: A Symposium, Town
よって 1994 年に開始されたプログラムで、大学などの高等教育機関に対して
補助金を支給し、大学がコミュニティとのパートナーシップの下で、地域の
住宅・都市問題、地域経済などの問題に取り組むことを支援する制度である。
Planning Review, Vol.59, No.1, January 1988