平成5年(行ウ)第4号再処理事業指定処分取消請求事件 原 告 大下由宮子 外157名 被 告 原子力規制委員会 準 備 書 面(132) むつ小川原石油備蓄基地の火災・爆発等による再処理工場への影響 青森地方裁判所 民事部 御中 2014年(平成26年) 9月 5日 原告ら訴訟代理人 弁 護 士 浅 石 紘 爾 弁 護 士 内 藤 弁 護 士 海 渡 雄 一 弁 護 士 伊 東 良 徳 隆 外13名 1 1.はじめに ⑴ 本件六ヶ所再処理施設の安全性を検討する場合、原告らは平成 16 年 2 月 10 日付準備書面(43)「国家石油備蓄基地における火災事故の危険性と「むつ小 川原港」の問題点」をすでに提出している。 しかし、これまで石油備蓄基地のタンク火災や爆発による隣接している再処 理工場に対する輻射熱の影響や、外洋シーバースからの重油漏れにより引火し た場合の洋上火災の沿岸の建物や住民への影響範囲などについては、十分な検 討がなされてこなかった。 ⑵ 本準備書面では、新たに長崎大学大学院の小川進教授作成にかかる 2014 年 8 月 27 日付の鑑定意見書「むつ小川原石油備蓄基地の火災・爆発等による再処 理工場への影響」 (甲 D185)をもとに、小川教授が指摘する新たな問題点につ いて、さらに地震以外での火災原因となりうる飛行物体落下の危険性や、現在 行われている消防訓練の実態について、その問題点を検討する。 2.これまでの争点 ⑴ 旧再処理施設安全審査指針に基づき行われた本件安全審査では、隣接してい る石油備蓄基地に関しては「火災の影響が考えられる石油備蓄基地距離が離れ ていることから、本施設の安全確保上支障がないと判断する」とされてきた。 これに対して、原告らは、前記準備書面(43)において、 「再処理工場には、 1985 年末にオイルインが完了した 570 万 kl の原油を備蓄している国家石油備 蓄基地が北西方向約 900m の距離で隣接しており、石油備蓄基地の建設に関し ては当時からその防災上の安全性について種々の問題点が指摘されていたにも かかわらず、それが未解決のまま今日に至っている」(2 頁)と主張し、2003 年 9 月、M=8.0(苫小牧市における震度は 5 弱)の平成 15 年十勝沖地震によ る出光興産北海道製油所(苫小牧市)のタンク火災を具体例に挙げて、隣接し ている再処理工場等への影響を指摘した。 2 ⑵ 一方、被告は、平成 17 年 7 月 8 日付準備書面(14)において、 「本件敷地の 西側境界から石油備蓄基地まで約 900m 離れていることから、石油備蓄基地に 火災事故が発生したとしても、本件再処理施設の安全確保上支障がないと判断 されている。これは「青森県石油コンビナート等防災計画」において、仮に、 石油備蓄基地の最大容量タンクから原油が流出し、本件敷地の境界に最も近い 防油堤内に全面的に火災が発生した場合を想定しても、その輻射熱による影響 (有炎火の粉があるときの木材等の有機物が引火する限界値)が及ぶ範囲は 380m と予測されており、この点からも、上記判断に合理性があることは明ら かである」(20 頁)と反論していた。 ⑶ しかし、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災による福島原発事故に伴い策定さ れた再処理工場の新規制基準案にかかるパブリックコメントの募集(2013.8.) に際し、 「六ヶ所再処理施設の隣地には、近接して総容量 570 万 kl の国家石油 備蓄基地があり、地震等で原油タンクからの流出、火災事故が引き起こされる と、 再処理施設のみならず、隣接している核関連施設の災害要因となりうるが、 これら近隣の大型施設に対する検討が欠落している」との意見に対し、被告の 規制委員会の回答は、 「外部人為事象とし考慮されます。具体的には、施設の外 部で発生する火災に対する影響評価について、 『実用発電用原子炉及びその付属 施設の火災防御に係る審議基準』(平成 25 年 6 月 19 日 原子力規制委員会決 定)、 『原子力発電所の外部火災影響評価ガイド』(平成 25 年 6 月 19 日 原子 力規制委員会決定)を参考に行います」というものであった。 ⑷ その後、平成25年12月18日に施行された新規制基準によると、 (3)外 部からの衝撃(外部火災) ④近隣工場等の火災 に関しては「安全機能を有す る施設は、近隣工場等において想定される火災が発生した場合においても安全 機能を損なわないものでなければならない」と規定された。 ⑸ 平成26年(2014 年)1月17日、日本原燃株式会社は、 「再処理事業変更 許可申請」を行ったが、その概要(甲 A304)によると、 「近隣工場等における 3 火災の想定」については、「再処理施設の周辺10km以内に設置されている、 むつ小川原国家石油備蓄基地における火災を想定する」とし、 「安全機能が維持 されることの確認」については以下のように記述している。 ア 上記備蓄基地にて想定される災害及びその影響については、消防庁指針 (石油コンビナートの防災アセスメント指針)に基づいて算定されており、 「青森県石油コンビナート等防災計画」に示されている。 イ 上記計画によれば、発生頻度が10-5 /年以上となる災害のうち規模が 大きいものとしては中量流出による火災があげられているが、災害発生時 の影響範囲は20~50mであり、上記備蓄基地の事業所内に止まるとさ れていることから、再処理施設への影響はない」(37 頁)。 この点について、2014 年 1 月 18 日付の朝日新聞は、原子力規制委員会によ る本格審査では、「むつ小川原国家石油備蓄基地で災害発生時の影響範囲は 20 ~50 メートルで、基地内にとどまるとされ影響されない」との日本原燃の主張 を一方的に報じている。 しかし、上記変更許可申請内容は、第4項で詳述するように、石油備蓄基地 での火災事故による再処理工場への影響を極端に過小評価している。 3.石油備蓄基地の実態と過去の事故例 ⑴ むつ小川原石油備蓄基地の実態 むつ小川原石油備蓄基地には、1基 11 万 kl×51 基のタンク群が日本で使用 する原油の約 12 日分を貯蔵している。 ⑵ 事故想定と過去の事故例 1964 年 6 月の新潟地震(M=7.5)では、震度5で昭和石油新潟製油所の 16 日間に及ぶタンク火災が起き、2003 年 9 月の平成 15 年十勝沖地震(M=8.0) では、震度 5 弱で出光興産北海道製油所(苫小牧市)の 44 時間に及ぶタンク 火災等が引き起こされた。 4 これらはいずれもタンクの固有振動と地震の長周期振動が共振した場合、タ ンク内で揺れた油が上部にある浮き屋根を押し上げるスロッシング現象により 浮き屋根を破壊したり、タンクの浮屋根が側板に激突して火花が着火しタンク 火災を引起こしたことが原因であった(甲 D 第 71、72 号証)。 4.小川教授の鑑定意見書による新たな問題点の指摘 小川教授は、鑑定意見書において、むつ小川原石油備蓄基地で、震度 5 の地震 に襲われスロッシング火災が起きた場合を想定し、タンク火災・爆発、防油堤火 災等による再処理工場への影響、洋上タンカー係留視地点付近からの海面流出火 災等による沿岸への影響等を具体的にシミュレーションして、隣接している再処 理工場の安全性にどのような影響を与えるかを検討し、以下のような結論に至っ た。 ⑴ 火災原因 過去の主な石油基地の事故例から、タンクは底板溶接部に弱点があり、地盤 の変形で流出事故が起こる。また、軟弱地盤上では、震度 3 であっても大型タ ンクはスロッシングによるタンク上部からの溢流が起こる。震度 5 では、スロ ッシングから火災が起きている。いったん火災になった場合、消火不能で 16 日間炎上した事例が 2 回あり、全面火災に至った事例が 2 回ある(甲 D185・付 録 3)。 ⑵ ① 火災の影響 石油備蓄基地でのタンク火災、防油堤火災、全面火災の影響範囲を計算し た結果は下記のとおりである。 防油堤火災がタンク 3 基まで拡大すると、隣接する再処理工場では、引火 点が 100℃以下の有機溶媒、例えばn-ドデカンが発火し、再処理工場が全面 火災に及ぶ可能性が大きい。 5 影響範囲 木造家屋延焼限界 人体接近限界 火災の規模 (m) (m) タンク火災 85 163 防油堤火災 199 508 407 1014 (タンク1基) 同上 (タンク3基) 全面火災 970 3070 なお、 「防油堤」とは、タンクの漏油対策としてタンク2~4基を1グルー プとして高い堤で区切り、その堤内に油を閉じ込める構築物である。 ② 防油堤火災では、火柱は 300m~400mの高さに及び、それに伴う有害ガス による周辺風下での被害も加わる。 ③ 石油備蓄基地の可燃性ガスが充満している最近接タンク 1 基が爆発した場 合、爆風による風下の構造物や人的被害等の影響が出る「危険限界距離」は 1,381mとなり、約 900m離れている再処理工場の窓ガラスが破損し、従業員 にも影響が及ぶ(甲 D185・付録 2)。 ④ 六ヶ所沖合 2,600m のタンカー係留地から原油が流失して火災が発生した 場合、風速 6m/秒の条件で、波の高い洋上ではオイルフェンスは役に立た ず、流出後 120 分後には拡散した油面の半径は 560m に達し、木材が発火す る「木造建物延焼限界距離」は 2,470m に及んで沿岸の建物が延焼し、 「人体 接近限界距離」は 3,930m に至って沿岸の住民は火傷などの多大な被害を受 ける(甲 D185・付録 1)。 6 5.公正・厳格な適合性審査を 今回の小川教授の指摘に照らすと、被告のこれまでの見解及び日本原燃の申請 内容は、科学的な論拠を欠き、再処理工場に隣接している石油備蓄基地の火災事 故を過小評価していることは明らかである。 被告は、今後の適合性審査にあたり、上記小川論文の指摘を踏まえ、日本原燃 の申請をすみやかに不許可にすべきである。 6.石油備蓄基地での地震以外の火災原因 ⑴ 先の原告らの準備書面(43)でも縷々指摘した通り、石油備蓄基地の軟弱な 地盤の上に造られたタンク群には、水封試験の段階で 51 基中実に 6 基も消防 法に定める地盤沈下の基準を超える不等沈下が発覚し、地盤の補修工事を強い られたことがあり、1994 年 12 月 28 日の八戸沖を震源とする三陸はるか沖地 震でも、六ヶ所村の核燃用港湾や石油備蓄基地で地盤沈下が生じた事実がある (甲 D 第 32、33、34、35、36 号証)。 前出の準備書面(43)でも指摘したが、タンク群の直下には 10m~20m に 及ぶ地層のずれが地質構成図(甲 D 第 74 号証)に見られ、南北につながった 断層が石油備蓄基地の直下に存在していることが推定され、地震に対して極め て弱い軟弱な地盤であることを再度強調したい。 ⑵ さらに、石油備蓄基地の火災の原因には地震のみでなく、隣接している米軍 の天ケ森射爆場で旋回した戦闘機等からの落下物の危険性も指摘されている。 すなわち、核燃料サイクル施設の南南東約 46 キロメートルのところには米 軍・自衛隊が共同利用している三沢基地があり、同じく約 20 キロメートルに ある天ケ森射爆場では、F16 戦闘機やF1 支援戦闘機のロケット弾による射撃 訓練が行われているが、 例えば、 2010 年 1 月 22 日 危険回避のためF16 が本件沖に燃料タンクを投下(平 7 成 22 年 1 月 23 日 2014 年 2 月 11 日 東奥日報 三沢沖 異常感じ緊急措置 甲 D186) 。 米軍F16、タンク投下(長 さ約 4.5 メートル、直径約 1 メートルの円筒状で重さ 約 169 キロ)(平成 26 年 2 月 12 日 東奥日報 甲 D187) 。 など、三沢基地周辺への飛来物落下等の事故が絶えず、今後もタンク火災事 故の原因となる可能性が高い。 ⑶ その他に、民間航空機や軍用機の墜落(2012 年 7 月燃料系トラブルでF16 戦闘機 1 機が北太平洋に墜落) 、ミサイル攻撃などによる石油備蓄タンクの破損 等による火災・爆発炎上等も考えられるが、これらに対しては無防備であり対 策は全くなされていない。 7.火災訓練の現状 ちなみに、現在、石油備蓄基地で行われている毎年のタンクの火災想定訓練で は、例えば今年の訓練は 7 月 23 日に行われたが、 「『大地震と火災想定の訓練』今 年で 31 回目。本県東方沖で M=7.8 の地震が発生、タンク 1 基から原油が漏れ、 タンク上部で火災が起きたと想定し、むつ小川原石油備蓄会社などが主催。9 団体 から約 150 人が参加し、消防車 11 台がタンクに向け放水した」(平成 26 年 7 月 24 日 東奥日報 甲 D188)と報じられたように、51 基のタンク群のうち、火災 想定訓練にはたった 1 基のタンク火災しか想定されていないのである。 一方、前出の出光興産北海道製油所でのナフサタンク火災では、道路のひび割 れが消防活動を不能にし、風で泡消火剤が吹き飛ばされて、期待した消火効果を 発揮できなかったことなど、今後に残されている検討課題は多いのである。 8.まとめ 以上のように、本件安全審査では、再処理工場に隣接する石油備蓄基地の安全 8 性に対する評価は過小評価されており、小川教授が指摘したような重要な問題点 が看過されており、ひとたび石油備蓄基地で火災が起きれば、油が燃え尽きるの を待つ以外に消火の方法がなく、隣接している再処理工場が全面火災に及ぶ可能 性が大きい。 これらの論点を踏まえて、被告による根本的かつ公正な適合性審査が求められ る。 以上 9
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