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人とふれあうことが碁の魅力

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人とふれあうことが碁の魅力
小川誠子
14 歳のとき女流アマチュア本因坊戦で、史上最年少の優勝をしたことがきっかけで碁の世界に入った
小川誠子こさん(6段)に、碁の魅力や山本圭さん(俳優)との夫婦円満の秘訣、子育てでだいじにし
てきたことなどを伺いました。
―碁はいつから始められたのですか。
6歳のときに父親から手ほどきを受けました。将来、女性でも自立できるようにという思いもあった
のでしょう。
まもなく中学3年生になる春休み、14 歳のときに名古屋で女流アマチュア本因坊戦の地区大会があり、
勝ち進んで東京でおこなわれた全国大会に参加しました。そして幸運にも最年少で優勝しました。その
ときに会場に来られていた木谷実先生(9段)に、道場に遊びに来ませんかと声をかけていただいたの
です。
いったんは名古屋に戻り、夏休みに木谷先生の道場に内弟子として1か月間滞在しました。そしてそ
の年の暮れには本格的に碁を勉強するために上京したのです。ちょうど、父が東京に転勤になったため
一家で上京しました。
―碁の魅力とは何でしょうか。
碁は何の変哲もない白石と黒石を動かすだけのシンプルなゲームです。将棋のようにそれぞれの駒の
役割と力がちがうということもありません。しかし、碁は十の七百乗もの展開があるといわれ、展開を
考える楽しさがあります。一つの石が生きるのも死ぬのも全部自分の力一つにかかっているゲームなの
で、潔い感じがします。
また、碁を打つときは自分の心がそのままあらわれるのです。調子がよいからといって慢心している
と思わぬ落とし穴が待っていたり、あきらめないで努力しているうちに活路が見いだせたり、囲碁は人
生の縮図といわれていますが、まさにその通りです。
碁を通して年齢や職業、国籍、男女差を超えていろいろな方とお会いしてコミュニケーションができ
ることが何よりの魅力です。
わたしは 18 歳のときにプロになりましたので、日頃お会いできない大企業の社長さんなど各界の方
とお会いしていろいろなことを教えていただいたことにとても感謝しています。碁を通して多くの友人
ができました。
―碁には性格があらわれるのですか。
あらわれるときとあらわれないときがありますね。いろいろな性格の方と碁をさせていただいている
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と、真面目な銀行員の方で碁くらい自由奔放に打ちたいという方もいますし、真面目な性格がそのまま
あらわれる方もいます。いずれにしても決定的な手を打つ瞬間は、その人の性格がでるように思います。
―碁は世界に普及されているのでしょうか。
碁は世界約 65 か国に普及されています。プロがいる国はアジアでは、日本、中国、韓国、台湾など
です。ヨーロッパでもプロの棋士はいますが、まだプロ制度はありません。
碁は中国で 3000 年以上前に始まったといわれています。非常にシンプルなルールなので、碁盤に向
かってから5分間で覚えられます。入り口は入りやすいのですが、強くなればなるほど奥が深くなって
いきます。
プロの世界選手権は毎年開催されています。アマチュアのヨーロッパ選手権などもあります。やはり
国内での対戦が多いのですが、そのなかの一つとして世界選手権メークがあります。
伝統的に強い日本人も、最近は韓国にややおされています。韓国は、教育の一貫として碁にとても力
を入れています。授業に碁を取り入れたり、塾で教えたりもしています。日本の塾と同じように幼いと
きから塾で碁を教えたり、研究しています。
日本では高学年になると部活動や受験勉強などで碁の勉強ができなくなる傾向がありますが、韓国は
国をあげて碁に力を入れているので、プロになる人も低年齢です。碁が強いとよい学校に入れるようで
す。
今年から、日本でも学校の授業に碁を取り入れたり、正課に入れようという運動がおきているところ
です。
コミュニケーションの手段
―日本では最近、マンガ『ヒカルの碁』の影響で碁がブームになりましたね。
わたしが『囲碁・入門から初段まで』を書いたのは『ヒカルの碁』の少し前です。親子やおじいさん、
おばあさんと孫など世代がちがうと、どうしてもコミュニケーションをとることがむずかしくなります。
とくに最近は学校の先生と生徒のあいだでコミュニケーションをとることがむずかしくなっているよ
うです。
わたしは先生が一方的に生徒に教えるというかたちではなく、碁をまったく知らない状態から、先生
と生徒がいっしょに碁を学べる本があればよいと考えていました。
わたしは子どものときはいるかいないかわからないようなとてもおとなしい性格だったのですが、碁
をやっていたおかげで教頭先生から声をかけていただいたり、たまには先生方の碁の相手をしたりして
いました。そのことがとてもうれしかった記憶があるので、碁を通していろいろな世代の方がコミュニ
ケーションをとる機会になったらよいのではないかと考えて本を書きました。
おじいちゃんやおばあちゃんがお孫さんといっしょに碁を始めたという話を聞くと、とてもうれしく
なります。おじいちゃんがお孫さんに「碁を教えてあげよう」と話しかけたり、反対にお孫さんが「お
ばあちゃん、いっしょに碁を覚えよう」と言ったり。そこでよいコミュニケーションがとれますね。碁
を覚え始めたお孫さんが、おじいちゃんがこんなに碁が強いとは知らずに驚いたり。
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碁は人間関係を豊かにするし、またじっとすわって考えるので、落ち着きや集中力がつきます。これ
から先の展開をよむために考える力もつきます。
毎年、少年少女囲碁全国大会が開催されていますが、今年は約 6500 人が参加し、過去最高を記録し
ました。わたしは大会の審判長をつとめました。
この大会は子どもだけが参加し、日本の子どもの選手権の集大成となっています。子どもたちが「ぼ
く、碁のおかげで明るくなったんだよ」とか「活発になったんだよ」などと、いろいろ話しかけてくれ
るのがとても楽しみです。
また、子どもたちが大会が終わって帰るときに「楽しかったね」「ありがとう」などと言ってくれて
とてもかわいいのです。
少年少女囲碁全国大会は、子どもたちに碁が楽しいことを感じてもらうよい機会となっています。
2年ほど前、
「切れる 17 歳」などと青少年のことが社会的にもとりあげられたことがありました。碁
を打っている同年齢の子どもに意見を聞くと、
「碁を打っていると楽しい」
「友だちがいるとグレている
暇がないよ」という答えが返ってきました。碁でなくても何でも打ち込めるものがあるとよいと思いま
す。
青少年と話せば話すほど、よいコミュニケーションが必要だと思います。とてもよい意見をもってい
る青年が同世代の友だちに、自分はこう考えるという意見を伝えられたら、おたがいによい影響を与え
あうことができていいのではないでしょうか。同世代が同世代を知るときによい結果がでると思います。
プロになるのは一握り
碁の世界は女性と男性ではちがいはないのでたいへんですが、やりがいがあります。年を重ねるにつ
れうちこめて勉強できることがあることはとても幸せだと思います。
アマチュアで碁を楽しむならばいつから始めてもよいし、70 歳で碁を覚えられた方もいますが、プロ
になる場合は、5、6歳から始めなければなりません。プロになるのには年齢制限があって、一応 18
歳までとなっているからです。女性は 18 歳以上になってもまだ可能性はありますが、男性は 18 歳まで
が限度でしょう。
道場などに入門して修業し、多くのことを肌で覚えていかなくてはならないのです。道場で修業して
いたとしても全員がプロになれるとはかぎりません。毎年プロになれるのはごくわずかです。わたしが
プロになった年は、わたしを入れて3名でした。
翌年はまた下から若い人が追い上げてくるので、だんだん年をとってしまい、プロになることをあき
らめざるを得なかった人もたくさんいます。底辺が広がり、碁を覚える方は増えましたが、プロになる
人が増えたわけではありません。
マンガでは碁を覚えて2年くらいでプロになっていましたが、実際にはそのようなことはありえませ
ん。マンガを読んですぐにプロになれると思って稽古をはじめ、結局なれなかったためにやめた方もい
ました。しかし、マンガによって碁の面白さ、奥深さを多くの人が知るきっかけになったことはたしか
です。
女性と男性の割合は1対9くらいです。男性は高校や大学に進学しないで、中学を卒業後、碁にうち
こんでいる人が多いのです。
わたしは高校に進学しましたが、道場では高校にいかないで修業に集中する規則だったので、当時は
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ルール違反だったのです。わたしは大学までいきたくて進学先は決まっていたのですが、その前にプロ
になったので大学は断念しました。いまは大学に進学してプロになっている人も多くいます。
18 歳までにプロになれなかった場合は他の道にすすむことができるので、年齢制限が 18 歳となって
いるのは考えようによってはよいことだと思います。
わたしもプロになれる保証はなかったので、プロになれて本当にうれしかったです。
個性を育てる
―子育てをするなかで大切にしてきたことは何でしょうか。
いま高校生の娘が生まれたときに、産声を聞いた看護婦さんから「とても個性的なお子さんですね」
と言われました。生まれた瞬間の泣き声も一人ひとりみなちがうのですね。わたしはそれを聞いて、生
まれる前には勝手におとなしい女の子をイメージしていたのですが、わたしの思いではなく、この子の
個性を尊重しないといけないのだと思いました。そして、だれもが個性をもって生まれてくるのだとい
うことを知りました。
娘はわたしとはまったく性格がちがうので、それはそれでおもしろい部分でもありました。わたしは
父親から碁を教わり、素直にプロをめざしてすすんできましたが、娘は強制しても言うことをきくタイ
プではありません。
わたしは娘には自分の好きなことをみつけなさいと言って自由にさせました。絵が好きなので、窓ガ
ラスに絵を描いても、自由に描きなさいと描かせていました。夫はやめなさいとよく注意していました。
二人の性格がちがうのでちょうどよかったですね。
また、小さいときからよい絵や音楽、映画などにどんどん触れさせました。映画や演劇は子ども向け
のものではなく、大人向けのものをいっしょに観に行きました。いまでは一人でも絵を観にいったりし
ています。
心配なのは友だちですね。よい友だちと触れあうことが大事だと思っています。勉強についてはあま
り口をだしていません。
―山本圭さんは俳優で、おたがいまったくちがう世界ですが、夫婦円満の秘訣は何でしょうか。
碁の世界は静の世界で、夫は俳優として動の世界ですから、最初は戸惑うことが多くありました。
わたしは家では感情をだしてはいけないとしつけられていたので、あまり自分の意見もポンポンと言
えなかったのです。
俳優の世界はみんなで議論しあったりすることに慣れていて、感情を率直にだしてみんなが大きな声
で言いあうので、最初はびっくりしました。
わたしには弟がいるのですが喧嘩もしたことがなかったのです。
夫はわたしが仕事をしていることを認めてくれています。おたがいの仕事を認めあっていることが仲
良く暮らす秘訣ではないかと思います。
女性も一生つづけられる仕事をもっていて、経済的にも自立していると、何があってもがんばれると
思います。
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夫が舞台で半年間くらい家をあけるときもありますので、そういうときには自分に仕事があり、勉強
することがあってよかったと思います。これからは、だれかに依存するのではなく、精神的にも経済的
にも自立して生きていく女性がもっと多くなっていくと思います。
助けあう社会
―世界をみると貧しい国や豊かな国があり、また国内的には障害者やアイヌ民族、高齢者など苦労して
いる人たちがまだまだ多くいますが、みんながたがいに助けあう社会にしていくうえで何が大切でしょ
うか。
外国ではボランティアをしている方が多いですね。日本でも苦労している人のためにつくすことを生
き甲斐としている方も増えてきました。
わたしの友人に聴導犬の育成、普及を支援している方がいて、わたしもこれまで何度かチャリティに
参加しました。そういう集まりに参加すると、一生懸命生きている方が多いと思いますね。チャリティ
や募金があればわたしも参加したり、友だちにも声をかけたりしています。
無理をしないでいろいろなことに関心をもったり、できるところからやっていけばよいのではないか
と思います。聴導犬のチャリティから人の輪が広がったりもします。今度またチャリティがあると人を
紹介するだけでも応援になりますね。実際にわたしも聴導犬を見て涙がでましたけれども。このような
取り組みを知らせていくだけでもよいと思います。
―今後の目標は何でしょうか。
4月から半年間、NHKの囲碁講座の講師をすることになりました。碁の対戦もありますし、いろい
ろやらなくてはいけないことがたくさんあります。
若いころボランティアで養老院を訪ねていき、入所者に碁をお教えしていたとき、入所されている皆
さんが「ともちゃん、ともちゃん」ととても喜んでくださいました。そのときに碁を打っていてよかっ
たと思いました。いまはあまり時間的な余裕はないのですが、これからも多くの方に喜んでいただける
ことをやっていきたいと思います。
碁を通して多くの人から喜んでいただけることは、自分にとってもありがたいことだと思います。
またよくばりですが、碁ももう少し強くなりたいですね。
(日本棋院6段)
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