感謝感情と心理的負債に及ぼす「利益の評価」と「知覚

感謝感情と心理的負債に及ぼす「利益の評価」と「知覚された応答性」の影響
○吉野優香 1・相川
充2
(1筑波大学大学院人間総合科学研究科・2 筑波大学人間系)
キーワード:感謝感情・心理的負債・知覚された応答性
Effects of “beneficial appraisal” and “perceived responsiveness” on the state gratitude and the indebtedness
Yuka YOSHINO1 and Atsushi AIKAWA2
( Graduate School of Comprehensive Human Science, Univ. of Tsukuba, 2Faculty of Human Science, Univ. of Tsukuba)
1
Key Words: State gratitude, Indebtedness, Perceived responsiveness
目 的
応答性」の変数を重回帰式に投入した。
感謝感情は,他者の善意により利益を与えられたと認知す
従属変数【感謝感情】階層的重回帰分析の結果(Table1)
,
るときに生じるポジティブな感情であり(Tsang, 2006),対人
Step2における「知覚された応答性」の重回帰式への投入は,
関係の形成・維持・発展に寄与する機能を持つと考えられて
決定係数を Step1よりも有意に増加させた(ΔR2= 0.03,
いる(e. g. Algoe, 2012: Watkins, 2014)。
p< .01)。Step2での各独立変数は,「価値」と「知覚された
感謝感情の規定因に関しては,援助者が支払った「コスト」
応答性」が感謝感情に正の影響を与えていた(F(4, 167)=
の推測,被援助者が受けた「価値」の評価,援助者が行った
31.39, p< .001, R2= .44)。また,Step1では有意な弱い正
援助の「誠実性」の推測から成る「利益の評価」が規定因で
の影響がみられた誠実性が,Step2では,非有意となった。
あるという主張と(Wood et al., 2008),
「利益の評価」だけで
従属変数【心理的負債】階層的重回帰分析の結果(Table1)
,
はなく,
「知覚された応答性(Reis, Clark, & Holmes, 2004)」
Step2における「知覚された応答性」の重回帰式への投入は,
が重要であるとする主張がある(Algoe, 2008)。
決定係数を Step1よりも有意に増加させた(ΔR2= 0.06,
日本では,この2つの主張のうち「利益の評価」と感謝感
p< .001)。Step2での各独立変数は,
「価値」と「知覚された
情の関係は,検討されているが(吉野・相川,2014),
「知覚さ
応答性」が心理的負債に正の影響を与えていた(F(4, 167)=
れた応答性」との関係は明らかではない。
「知覚された応答性」 18.62, p< .001, R2= .31)。また,Step1では有意な弱い正
は,感謝の機能を説明するときに有益であると主張されてい
の影響がみられた誠実性が,Step2では,非有意となった。
るため(Algoe, 2012),検討に値する。
Table 1: 「感謝感情」と「心理的負債」を規定する要因を検討した階層的重回帰分析の結果
他方,
「心理的負債(Greenberg, 1980)」は,感謝感情の規
Step 1
Step 2
b
β
t値
b
β
t値
定因を構成する要素と類似した,
「コスト」と「利益」という
Step 1 コスト
.01/..05
.02/.10
.33/1.35
.00/.04
.01/.08
.16/1.16
2つの要素から規定されるとされているため(e. g. Greenberg,
価値
.38/.29 .54***/.34*** 7.97/4.47
.37/.31 .53***/.31*** 7.81/4.24
1980),心理的負債にも「知覚された応答性」が影響を及ぼし
*
*
誠実性
.09/.13
2.35/2.50
.03/.02
.05/.02
.60/.27
.16 /.19
知覚された
ていることが予測できる。
**
***
Step 2 応答性
.15/.31
2.72/3.69
.21 /.31
以上より,本研究の目的は,感謝感情と心理的負債の両概
Δ R2
.03**/.06***
念に与える「知覚された応答性」の影響と,
「利益の評価」を
F値変化量 7.43/13.61
注) ***: p< .001, **:p< .01, *:p<.05
左が感謝感情の結果/右が心理的負債の結果
構成する各要素の影響を検討することである。
方 法
考 察
調査方法:質問紙法 調査対象者:大学生 168 名(男性 91
「知覚された応答性」及び「利益の評価」を構成する一部
名・女性 76 名・不明 1 名)
の要素は,感謝感情と心理的負債に影響を与えることが明ら
質問紙の内容:他者からの受益場面を調査対象者に思い出さ
かになった。
「利益の評価」を構成する要素は,
「価値」のみ
せ,その出来事について記述しながら質問に回答させた。質
が,両概念に影響を与えることが明らかになり,従来の感謝
問項目は,受益場面の「利益の評価」を測定する3項目(
「価
感情の規定因は一部のみ支持した。
引用文献
値」
,
「コスト」
,
「誠実性」
)
(Wood et al., 2008)
,
「知覚され
Algoe,
S.
B.,
Haidt,
J.,
&
Gable,
S. L. (2008). Beyond reciprocity:
た応答性」を測定する3項目(
「思いやり」,
「理解」
,
「案じる」
)
gratitude and relationships in everyday life. Emotion, 8(3), 425.
「感謝感情」を測定する3項目,
「心理的負債」を測定する2
Greenberg, M. S. (1980). A theory of indebtedness. In Social
項目(一言ら,2008)であった。
exchange (pp. 3-26). Springer US.
結 果
一言英文・新谷 優・松見淳子. (2008). 自己の利益と他者のコスト.
変数の作成のため,
「知覚された応答性」と,
「感謝感情」
感情心理学研究, 16(1), 3-24.
Reis, H. T., Clark, M. S., & Holmes, J. G. (2004). Perceived
「心理的負債」の質問項目の項目平均を算出した。
「利益の評
partner responsiveness as an organizing construct in the
価」は,本来は1つの因子として扱うものであるが,知覚さ
study of intimacy and closeness. Handbook of closeness and
れた応答性との影響の比較のため,利益の評価を構成する「コ
intimacy, 201-225.
スト」
,
「価値」
,
「誠実性」の得点をそのまま用いた。
Tsang, J.A. (2006). The effect of helper intention on gratitude
「利益の評価」と「知覚された応答性」が与える「感謝感
and indebtedness. Motivation and Emotion, 30, 199-205.
情」と「負債感情」への影響を検討するため,独立変数を「利
Wood, A. M., Maltby, J., Stewart, N., Linley, P. A., & Joseph,
S. (2008). A social–cognitive model of trait and state
益の評価(コスト,価値,誠実性)
」と「知覚された応答性」
,
levels of gratitude. Emotion, 8, 281−290.
従属変数が「感謝感情」のときと,
「負債感情」のときで,階
吉野優香・相川 充(2014).被援助場面における感謝の社会的認知
層的重回帰分析を行った。Step1では,
「利益の評価」である
モデルの検討.筑波大学心理学研究,47, 47-53.
「コスト」
,
「価値」,
「誠実性」を,Step2では,
「知覚された