Shiga University Seeds No. 12 しゃ 【代表的な研究テーマ】 ■ 社会的感情 ■ ポジティブ感情 ■ コミュニケーション 感謝が生じてその後の対人行動が起こるまでのメカニズム 課題解決に役立つシーズの説明 「感謝」という感情は、哲学や教育学、心理学といった分野において、サポーティブな人間関係を形 ■ 感情表出 成・維持・拡散するために重要な要素であると指摘されてきました。私は、この「感謝」という感情がどう ■ 援助行動 いう特徴を持っており、社会の中でどのように機能しているのかについて実証的な研究を行ってきまし た。具体的には、感謝がどのような内容の感情として体験されているのか、感謝がどのような認知によ って生じ、感謝を感じた後にどのような対人行動が生じるのかについて調査・実験を行ってきました。 【1】 日本人が日常生活で体験している「感謝」の内容 感謝にあたる感情は、欧米文化では、gratitude と呼ばれ、肯定的内容のみから構成される感情とさ れています。これに対して、日本人対象の調査研究では、日本文化における「感謝」が欧米文化の gratitude とは少し異なっていることがわかりました。日本文化における「感謝」は、嬉しさや満足感といっ た肯定的内容だけでなく、申し訳なさ、すまなさといった非肯定的内容も含まれているようです(図 1)。 蔵永 瞳 Hitomi Kuranaga 教育学部/講師 図 1 感謝の肯定的内容と非肯定的内容 【プロフィール】 【2】 「感謝」の体験下で動いている2つの機構 ●専門分野 ・社会心理学 ・教育心理学 ・感情心理学 ついて検討した結果、感謝に関連する認知や対人行動は、大きく 2 つの機構に分かれることがわかりま ●略歴 ・2007 年 岡山大学教育学部 卒業 ・2012 年 広島大学大学院 教育学研究科 修了 (博士(心理学)) ・2012 年 広島大学 特任助教 ・2013 年 広島大学 助教 ・2014~2015 年 就実短期大学 講師 ・2016 年~ 滋賀大学教育学部 講師 感謝がどのような認知によって生じるのか、感謝を感じた後にはどのような対人行動が起きるのかに した(図 2)。一つ目は、感謝の肯定的内容に関わる機構です。この機構は、自分は恵まれているといっ た価値の認知によって駆動される機構で、肯定的内容の感謝の体験を促すほか、返礼行動や、第三者 への親切を促します。また、感謝の気持ちは「ありがとう」等の感謝型と、「すみません」等の謝罪型の表 現があると言われていますが、価値の認知は、これらの表現型のうち、感謝型の表現を促していること が示されました。これに対して、2つ目の、感謝の非肯定的内容に関わる機構は、他者に負担をかけた といったコストの認知によって駆動され、謝罪型の感謝表現を促すことが示されました。これらのこと は、感謝に関連する一連の体験下で、肯定的内容に関わる機構と、非肯定的内容に関わる機構の2つ が並行して動いていることを示唆しています。 【主な社会的活動】 ●所属学会、学会活動 ・日本心理学会 会員 (2015 年~認定委員) ・日本教育心理学会 ・日本社会心理学会 ・日本感情心理学会 (2015 年~編集委員) ・日本パーソナリティ 心理学会 ・日本グループ・ダイナ ミックス学会 図 2 感謝の肯定的内容と非肯定的内容に関わる2つの機構 <主要研究業績> 蔵永 瞳 (2015). 第 2 章 第 2 節 罪悪感・共感・感謝 有光興記・藤澤 文(編) モラルの心理学―理論・研究・道 徳教育の実践 pp.47-62. / 蔵永 瞳・樋口匡貴 (2011). 感謝生起状況における状況評価が感謝の感情体験に 及ぼす影響 感情心理学研究, 19, 19-27. / 蔵永 瞳・樋口匡貴 (2011). 感謝の構造―生起状況と感情体験の多 様性を考慮して― 感情心理学研究, 18, 111-119. / 蔵永 瞳・樋口匡貴 (2013). 感謝生起状況における状況評 価と感情体験が対人行動に及ぼす影響 心理学研究, 84, 376-385.
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