新しい熱間圧延鋼矢板「ハット形鋼矢板 900」

JFE 技報 No. 10
(2005 年 12 月)p. 32–34
製品・技術紹介
新しい熱間圧延鋼矢板「ハット形鋼矢板 900」
“Hat-Shaped Steel Sheet Piles”
—The Widest (900 mm) Hot Rolled Steel Sheet Piles in the World—
13.2
10.8
1. はじめに
300
230
1931 年に鋼矢板の生産が開始されて以来 70 余年が経過
900
900
した。その間,鋼矢板は戦災復興期・高度成長期における
unit: mm
国土保全や国土開発の一翼を担い,その生産量を飛躍的に
Fig. 1
Shapes of section
伸ばし,1970 年代には年間約 100 万トンに達した。その後,
1980 年代以降には 80 万トンレベルで推移してきたが,バ
(溶接用熱間圧延鋼矢板)に準拠している。なお,呼称
ブル経済崩壊後の経済減速期に入り,鋼矢板需要も停滞し,
(10H,25H)は断面二次モーメントを 1 000 cm /m 単位で
4
現在は 60 万トン台で推移している。このような背景のもと,
表した時の概数と,ハット形を意味する英文字の H で表記
公共事業の重点化と工事コストの縮減など社会資本整備に
したものである。
対して一層の効率性が要求され,より信頼性の高い製品や
工法の開発が求められている。また,常に地震などの自然
3. 開発目標と着眼点
災害の脅威にさらされている我が国においては,構造信頼
性の高い製品・工法の出現が望まれる。今回紹介するハッ
ト形鋼矢板はこのような認識のもとに,鉄鋼メーカー 3 社
(JFE スチール,新日本製鐵
(株)
,住友金属工業
(株)
)にて
ハット形鋼矢板 900 の開発にあたっては,次の各項の点
に着目し断面設計を行った。
(1) 優れた施工性
共同開発した「新しい時代の鋼矢板」である。
ハット形状の採用により,継手近傍に平坦部を設け
部材一枚あたりの剛性を高くし,施工時における土中
2. ハット形鋼矢板 900 の概要
での変形を小さくした。さらに,U 形鋼矢板の打設時
の向きが互い違いになるのに対して,嵌合時において
ハット形鋼矢板 900 の断面形状を Fig. 1 に示す 。 特長は
隣り合う部材の向きを揃えることにより(Fig. 2)
,施
有効幅(継手中心間の長さ)を 900 mm とし,大断面で薄
工時に部材が変形する方向を一致させた。その結果,
肉のハット(帽子)形としたことである。また従来の U 形
継手の競り合いによる貫入抵抗が小さくなり,大断面
と異なり 、 嵌合継手の位置を鋼矢板壁体の最外縁部になる
でありながら極めて優れた施工性を実現させた。
ようにするため,両継手を非対称の形状としている 。 形状
(2) 高い構造信頼性
および寸法の許容差,化学成分・機械的性質は JIS A 5523
Fig. 2 に示すように,壁体構築後の中立軸と鋼矢板
Hat-shaped steel sheet piles
The neutral axis of one (single) sheet pile corresondes
with that of the wall formed with the sheet piles.
U-Shaped steel sheet piles
Neutral axis of one (single)
sheet pile
Neutral axis of the wall formed with
sheet piles
Fig. 2 General figure on ration of joint efficiency
− 32 −
新しい熱間圧延鋼矢板「ハット形鋼矢板 900」
25H
25 000
Joint efficiency:
0.8
20 000
15 000
Joint efficiency:
0.45
3W
10H
10 000
5 000
2W
0
60
80
100
120
140
Section modulus (cm3/m)
Geometrical moment of inertia
(cm4/m)
2 000
30 000
1 200
10H
3W
800
Steel weight (kg/m2)
Joint efficiency:
0.6
2W
400
0
60
160
Joint efficiency:
1.0
25H
1 600
80
100
120
140
Steel weight (kg/m2)
160
Fig. 4 Relation between steel weight and efficiency of section
1.6 m
1.6 m
1.6 m
板に適用されているものを準用してよい。なお,その際に,
600
継手効率については,上部工の有無に関わらず低減の必要
Pm: fully plastic load (Experiment value)
はなく,1.0 として計算を行う。
500
Load (kN)
400
5. 施工
Py: Yield load (Experiment value)
Pm: fully plastic load (Design value)
300
ハット形鋼矢板 900 の施工性検証を目的に,現場打設試
Py: Yield load (Design value)
験を行ってきた。ここでは,バイブロハンマを用いた砂質
200
土主体の地盤での事例を紹介する。試験はハット形鋼矢板
Experiment value
Design value
100
0
900(10H  12 m)と広幅鋼矢板(3W  12 m)との比較
打設で確認した。ハット形鋼矢板 900 では,バイブロハン
Material standard, σy  295 N/mm
0
50
100
150
マの振動荷重作用点を鋼矢板の図心に一致させてより効率
200
的な打設性を確保するためにフランジ部を 2 点でつかみ固
Displacement (mm)
Fig. 3
Results on bending test for hat-shaped steel sheet piles
(10H)
定できるように開発したダブルチャックを採用した。広幅
鋼矢板では汎用チャックを使用している。Fig. 5(次のペー
ジ)より打設時間を比較すると一枚当たりでは広幅鋼矢板
一枚あたりの中立軸とが一致する断面形状を採用する
の方が若干短かったが,単位壁長さに換算すればハット形
ことで,頭部拘束の有無に関わらず,継手効率による
鋼矢板 900 の方が幅広のために短い時間で施工できること
断面性能低減が不要となった。また,Fig. 3 に示すよ
を 確 認し た。 打 設 され た ハット形 鋼 矢 板 900 の 一 例 を
うに大断面でありながら全塑性荷重に至るまで安定し
Photo 1(次のページ)に示す 。
た塑性変形性能が確保されており,地震時等に対する
また,専用の油圧圧入引抜機の開発も進められている 。
塑性化を考慮できる高い構造信頼性を実現させた。
6. おわりに
(3) 優れた経済性
Fig. 4 に示すように,単位壁面積あたりの鋼材質量
を,継手効率を考慮した同じ断面性能の 600 mm 幅の
ハット形鋼矢板 900 は,これまでも鋼矢板が多く用いら
U形鋼矢板(以下,広幅鋼矢板)より低減させた。さ
れてきた河川・港湾・農水分野の護岸や岸壁以外にも,道
らに,有効幅を 900 mm としたことにより,施工枚数
路・宅地造成の擁壁,雨水幹線下水路などの構造壁,圧密
を広幅鋼矢板と比ベ 2/3(Fig. 2)に削減し,優れた経
沈下などによる地中応力の遮断壁,止水壁などを構築する
済性を実現させた。
資材としての用途が期待される 。 これらの分野においても,
その「優れた施工性」
,
「高い構造信頼性」
,
「優れた経済性」
4. 設計
を発揮できるものと考えている。今後とも良質な社会資本
形成を担うべくさまざまな用途開発や技術開発を進めてい
ハット形鋼矢板を用いた壁体の設計には,現在 U 形鋼矢
く所存である。
− 33 −
新しい熱間圧延鋼矢板「ハット形鋼矢板 900」
Time (minute: second)
N-value
0
10
20
30
40
0
50
GL
02’00 04’00 06’00 08’00 10’00
1 000
Layer
0
Bank
2
Silty clay
4
Silty sand
8
Silty clay
10
12
Depth (GL-m)
11 000
Depth (GL-m)
4
6
6
8
10H
10
Sand mixed
gravel
11.0
Sandy silt
12
Silty sand
14
14
Fig. 5
Photo 1
10H
2W
2
Sand
Example of construction test
Hat-shaped steel sheet piles (under construction)
− 34 −
2W