【2】研 究 の 推 進 (1)研究支援事業 ・ 「先進的な研究の成果を全市に広げます -新たな分野でも進む 研究・実践-」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.46 (2)研究の概要 ・ 「帰国・渡日の子どもの自己実現をめざす支援に関する研究 -在籍学級における受入れと学級集団づくり-」 教育振興担当 研究官 宋 英 子・・・・・・・p.48 ・「環境保全行動を促進する PDCA サイクルを導入した環境教育 -理科を中心とした教科横断的な学習プログラムの開発と実践-」 教育振興担当 研究官 谷村 載美・・・・・p.50 ・ 「言語活動の充実を図る『逆向き設計』による中学校英語科の指導に関する研究 -授業デザイン力を高める『逆向き設計シート』の開発と実践-」 教育振興担当 所員 高見 砂千・・・・・p.52 ・ 「小学校1年生における早期の支援に関する研究 -担任の気づきを生かした通常学級でのユニバーサルデザインの取組-」 教育振興担当 所員 今中 綾子・・・・・p.54 ・「国語科における言語活動の基盤となる『言語力』の育成(Ⅰ) -「読むこと」の領域を中核に異なる領域とのつながりに着目して-」 教育振興担当 所員 中西 康恵・・・・・p.56 ・「思考力・表現力を育てる算数科の指導 -ノート指導を通した言語活動の充実を目指して-」 教育振興担当 所員 片岡 (3)情報教育・長期研修 ・「未来につなぐロボット教育」 都島工業高等学校 教諭 蒲田 - 45 -− 45 − 誠・・・・・p.58 哲也・・・・・p.60 dw 研究支援事業 先進的な研究の成果を全市に広げます ~新たな分野でも進む 研究・実践~ 1 研究支援事業とは 践されました。 学力の向上をはじめとする教育課題の研究、 本年度、新しく設定された分野「小中一貫し 学校における教育目標の達成や課題解決に向け た教育を推進するための学校力の向上」では、 た研究を支援し、本市の児童・生徒に「確かな 花乃井中学校が、校区の西船場小学校・明治小 学力」 「豊かな人間性」 「健康や体力」など、 「生 学校・本田小学校と協働で研究、授業づくりに きる力」を育むことを推進します。 取り組まれました。11 月には校下小学校6年生 2 本年度の概要 を対象とした「ブリッジ授業(小中協働授業)」 研究分野として「学力向上クリエイト研究」 が国語・算数 数学・英語・理科・社会の5教 「小中一貫した教育を推進するための学校力の 科で実施されました。中学校入学後につまづき 向上」「今日的課題研究(テーマⅠ:学習指導要領の やすい領域や、カリキュラムにおいて、小中の 円滑な実施、 テーマⅡ:メンターの活用による若 接続の観点から大きな配慮を必要とする 部分 手教員の育成)」「学校アクションプラン推進研 で大変工夫され、また中学校入学後に夢を持た 究」「グループ提案型研究」の5分野を設定し、 せる研究授業でした。 研究校・グループ(40 校・40 グループ)を指定 しました。指定校等では各テーマに沿った実践 的研究、公開授業や研究発表等が実施され、そ の研究成果が全市に発信されています。 3 研究指定校の研究紹介 「クリエイト研究」分野では確かな学力の定 【花乃井中学校(理科のブリッジ授業)】 着をめざす外部人材を活用した PDCA に基づく 研究が行われます。聖和小学校では、子どもた 「今日的課題研究(テーマⅠ)」分野のうち中島中 ちの学校生活での満足度と意欲、学級集団の状 学校では、主題「学びの共同体」において、 「教 態を調べる質問紙(QU)」の分析を学級全体 えから学びへの転換」 「“どうして なぜ”という や個別の支援に生かすだけでなく、授業づくり ことばから生まれる論理的思考のはぐくみ」 「こ に生かす研究がなされました。「習得」と「活 とば(言語力)が育ち、学び合いが生まれる学校 用」を明確に踏ま づくり」等を目指したきめ細かな研究・授業実 えた指導計画の 践が行われました。 工夫、調べたこと 「学校アクションプラン推進研究」分野では や考えたことを 指定校 10 校が各学校のアクションプランをさ 表現するための らに深化させる研究が行われました。 工夫等が研究・実 【聖和小学校(社会科授業)】 - 46 − 46 − 【学力向上クリエイト研究】 6校(小学校5 中学校1) 学校名 西生野小学校 研 究 主 題 等 自ら学び、意欲的に取り組む子どもを育てるために 聖和小学校 自ら調べ、考えたことを表現し、共に学び合う子どもを育てる。 -QUの分析を授業づくりに生かして- 啓発小学校 授業力の向上 自分の生活をみつめ、課題に気づき、生活をよりよくしていこうとする子どもを育てる。 晴明丘南小学校 学び合い、高め合いながら基礎・基本の確かな定着を図るための指導方法を工夫する。 東都島小学校 わかりやすい授業の実現に向けて -電子黒板・実物投影機などのICT機器の効果的な活用を通して- 天満中学校 地域・家庭力の向上 コミュニティースクール事業の推進 【小中一貫した教育を推進するための学校力の向上】 2校(小学校1 中学校1) 学校名 研 究 主 題 等 鯰江東小学校 豊かなかかわりを通してよりよい生き方を考える道徳学習 -書く活動を取り入れ、自分の成長を実感できる指導法- 花乃井中学校 小中一貫した教育を推進するための花乃井中校区小学校との連携のあり方 -西船場小・明治小・本田小- 【今日的課題研究 (テーマⅠ)】 10校(小学校5 中学校4 特別支援学校1) 学校名 西淡路小学校 研 究 主 題 等 愉しい授業の創造を通した人間関係力・言語力の育成 仲間とともに考える力の育成 -話し合う力を育てる- 古市小学校 一人一人が楽しく主体的に学ぶ児童の育成をめざして -理科・生活科を通して- 田島小学校 新聞を活用した言語力の育成について -主に国語科との関連を通して- 三国小学校 意欲的に表現しようとする子どもを育てる。 -国語科「書くこと」の指導を通して- 姫里小学校 子どもの人間関係作りを通して、コミュニケーション能力を育成する。 大正東中学校 小中連携を基盤とした小学校外国語活動の充実、 指導者間連携体制と共同カリキュラムの開発 柴島中学校 特別支援教育に着目した校種間・地域連携 昭和中学校 電子黒板を活用した学ぶ意欲を高める授業づくり 中島中学校 学びの共同体 -グループでの話し合いをベースにした学びの共同体の構築- 光陽特別支援学校 個のニーズに応じた児童生徒の自立に向けての力を育むことを目指して 【今日的課題研究 (テーマⅡ「メンターの活用による若手教員の育成」)】 12校(小学校8 中学校2 特別支援学校2) 学校名 研 究 主 題 等 矢田北小学校 基礎・基本の徹底を図り学力を高める。 -算数科学習を核として- 九条北小学校 楽しく意欲的に課題を解決する子どもを育てる。 -教えたいことを考えさせる算数科の指導を通して- 栄小学校 平尾小学校 新森小路小学校 鶴見小学校 豊かなコミュニケーション能力の育成をめざして 人権を基底とし,一人一人の学びを大切にした指導方法の工夫 互いのよさを認め合い、運動に親しむ児童の育成 体力・運動能力の向上をめざして 若年者研修の取り組み 教師力の充実 校内若手教員育成のより効果的な方法についての研究 清水丘小学校 互いの良さを磨きあう若手教員による研修の推進 松之宮小学校 地域の人・こと・ものとの出会いを通して、確かな学力と豊かな人権感覚を育成する。 淡路中学校 学習指導要領の改訂に伴う評価の見直しを通して若手教員の授業力を高める。 西淀中学校 すべての教員が生き生きと活躍できる学校づくり 難波特別支援学校 特別支援教育の専門性の向上 視覚特別支援学校 ニーズに対応した視覚障害教育を実現するための人材育成、若手教員の育成とともに保護者との協働 【学校アクションプラン推進研究】 10校(小学校7 中学校2 特別支援学校1) 学校名 研 究 主 題 等 苅田小学校 意欲を引き出し、体力向上を目指した体育指導-児童が楽しみ喜んで体を動かす指導法の研究- 住吉小学校 基礎・基本を身につけ、自ら考え、問題を解決する力を養う。 -基礎学力の定着と充実を図る- 十三小学校 言語活動推進の充実に係るアクションプランの推進 -言語力の向上に向けた実践的研究- 瓜破西小学校 基礎・基本の定着を図り、学力を高める。 -読む力の育成を通して- 東中本小学校 豊かに感じ合って、なかよく活動する子どもを育てる。 -主体的に学ぶ道徳授業を創造する- 川北小学校 主体的・意欲的に学習に取り組む子どもを育てる。 -各教科・道徳等での言語活動の充実をめざして- 加賀屋小学校 国語科の研究(読み取る力を育てるための指導法の研究) -物語教材を通して読解力の向上を図る- 新北野中学校 運動の基本的動作と体力の向上 -小中一貫教育を通しての児童・生徒の体力の向上- 大和川中学校 OJTを活用した公開・研究授業の創造 -明日につながる研究協議の充実- 思斉特別支援学校 支援相談のあり方 -特別支援学校における地域支援のあり方を追求する- - 47 − 47 − 『研究紀要 第 198 号』 帰国・渡日の子どもの自己実現をめざす支援に関する研究 -在籍学級における受入れと学級集団づくり- 教育振興担当 研究官 1 研究の目的 宋 英 子 どもに対しての支援として、在籍校に日本語指 本研究では、帰国・渡日の子どもが自分の持 導協力者を派遣している。 つ可能性を発揮しながら自己実現をめざすため ③ に必要な教育の支援について明らかにした。 民間通訳者派遣事業は、大阪市立小・中学校 民間通訳者の派遣 に在籍する帰国・渡日の子どもの教育を保障す 2 大阪市における帰国・渡日の子どもへの教 るために実施された事業である。意思疎通が図 育の支援 れないために生じる子ども同士のトラブルや保 大阪市立小・中学校には中国やフィリピン、 護者との認識のずれを解消し、帰国・渡日の子 タイ等のアジアの子どもや、ブラジル、ペルー どもに教科の学習内容を十分に伝えるために、 等の南米日系人の子どもが多く在籍している。 民間通訳者を派遣している。 大阪市では帰国・渡日の子どもの教育を支援す (2)「センター校」担当者による支援 るため、次の教育施策や支援への取組がある。 ① (1)帰国・渡日の子どもの教育施策 「センター校」担当者は、日本語指導の方法や、 ① 教科学習につながる日本語指導 「帰国した子どもの教育センター校」へ 教科学習につながる日本語指導のあり方を追究 の通級 している。その手がかりの一つが、リライト教 帰国・渡日の子どもの受入れは、彼らが居住 材(子どもの日本語の力に合わせて教科書の文 する地域の公立小・中学校に就学し、在籍校で 章を分かり易く書き換えた教材)やデリート教 の指導を原則としている。しかし、受け入れた 材(難解な形容詞や語句をできるだけ尐なくし 子どもが、日本語指導の必要な子どもであった て教科書の文章表現を平易にし、読み易くした り、学校生活に慣れないために適応が難しかっ 教材)を用いた学習である。日本語が理解でき たりする場合は、 教育委員会指導部を通じて「帰 ないために教科の学習内容が理解できない子ど 国した子どもの教育センター校」 (以下、 「セン もが、事前にリライト教材やデリート教材を使 ター校」と称す)へ教育相談を依頼することが って学習し、難解な語句も学習しておくと、授 できる。また、 「センター校」の「日本語適応・ 業では学級のみんなと一緒に学習することがで 指導教室」へ通級し、指導を受けることができ き、学習内容も理解できるという安心感や満足 る。通級は小学校4年生以上が対象である。 感を得ることができる。 ② 日本語指導協力者の派遣 ② 母語支援教室の開設 就学前及び低学年で日本に帰国及び渡日した 母語支援教室は、帰国・渡日の子どもの母語保 子どもの中には、母語の読み書きが十分にでき 持と彼らの心の居場所づくり、アイデンティテ ず、言葉の概念も形成されていない子どもが多 ィの確立を図る場として開設された。日本語を くいる。そのため、教科の学習を通して学習言 習得する一方で、忘れてしまいそうな母語の綴 語の習得が十分にできず、低学年の教科の学習 りや発音を学習したり、自分の思いを母語で作 内容が定着していない場合がある。低学年の子 文に書いたりしている。母語支援教室で学ぶ子 - 48 − 48 − どもの発表の場として、 「ワールドトーク(多文 ンが泣くのを見るのが辛く、空港には来なかっ 化スピーチ大会) 」が開催されている。 たこと等を書いた。担任は、ソムボンがタイと ③ 進路保障の取組 日本の間に立ち、日本に来てからも心が揺れ、 進路保障は、学校教育において帰国・渡日の その揺れを隠しながら生活していたことを知っ 子どもの教育を推進していくうえで、学級担任 た。ソムボンの気持ちを学年のみんなにも知っ や在籍校の教員、「センター校」担当者にとって て欲しいと考え、学年集会を開いた。そこで、 も重要な取組である。中学校「センター校」担当 学年の子どもたちも、初めてソムボンの本心を 者は、子どもの在籍校の教員や高校の教員、関 知った。 「ワールドトーク、頑張れよ!」という 係諸機関とも連携を図りながら進路情報や進学 励ましの声が響き、自分たちも「ワールドトー 状況等を提供するための取組を行っている。 ク」に参加してソムボンを応援したいと言う子 どもたちも出てきた。 3 小・中学校教員の取組 「ワールドトーク」をきっかけに、その後の 次に、学級での取組を紹介する。 文化祭等の取組の中で、ソムボンは自分の内面 (1)みんなにとって居心地のよい学級集団 を尐しずつ見せるようになった。しかし、高校 小学校5年生で中国より帰国し、編入したレ 受検を目前にして、進路に対して不安を抱くよ イは、日本語で自分の気持ちを表現することが うになった。なぜなら、長吉高校への進学はソ できないため、担任が、 「レイは学級のみんなに ムボンの長年の夢だったからである。長吉高校 こうしてほしいと思っているよ」と、レイの気 では、日本語を学習する授業や母語・母文化を 持ちを代弁して学級の子どもに伝えていた。在 学習する授業があり、ソムボンの友達も長吉高 日韓国・朝鮮人のリファは、担任がレイのこと 校で学んでいる。担任や学級の子どもたちは、 ばかり気に掛けているのを見て、 「レイのことば ソムボンが夢を叶えることができるよう、ソム かり見て、私らのことを見ていない。 」と言うよ ボンを励ました。 うになった。 4 一方、レイは、いじめられたことや蹴られた 成果と課題 こと等、母語で自分の気持ちを日記に書いた。 本研究では次の点を明らかにした。 日記には涙の跡があったそうである。そこで初 帰国・渡日の子どもが自分の持つ可能性を発 めて、担任は、レイの気持ちをただ代弁してい 揮しながら自己実現をめざすために必要な教育 ただけで、レイやリファの気持ちをよく理解し の支援とは、子どもを学級集団に位置づけ、学 ていなかったことに気づいた。そして、みんな 習言語を獲得させ、学校が責任をもって進路保 にとって居心地のよい学級集団を築くことが大 障をすることである。そのためには、「センター 切だと考えるようになった。 校」担当者や日本語指導協力者、母語支援者等と (2)タイと日本の間で揺れるソムボンを支え 連携を図りながら、在籍校での受入れ体制をよ り充実しなければならない。 た学級担任 中学校3年生の時、ソムボンは「ワールドト 今後、帰国・渡日の子どもが自己実現をめざ ーク」の発表原稿に、母親と妹が先に日本に行 すために、子どもの個性や能力を発揮させ、子 き、タイで母親が迎えに来てくれるのを待って どもの未来にかかわる進路保障をどのように進 いたこと、しかし、本心では日本に行きたくな めるのかを追究する必要がある。 かったこと、タイを出発する日、父親はソムボ (子どもの名前は仮名を使用している) - 49 − 49 − 『研究紀要 第 199 号』 環境保全行動を促進するPDCAサイクルを導入した環境教育 -理科を中心とした教科横断的な学習プログラムの開発と実践- 教育振興担当 谷村 載美 【キーワード】持続可能な社会 1 環境教育 環境保全行動 PDCAサイクル 研究の目的 自然体験 省エネ・省資源 表1 環境教育プログラム開発にあたっての留意点 学校における環境教育では、学習者自らが環 ・関心のある身近な問題を取り上げる。 境問題に関する知識をもとに、よりよく生きら ・活動や体験の場を重視する。 れるための環境とは何かを考え、それを実現す ・情報を収集し、活用できる場を充実する。 るために主体的に行動できる能力・態度を育成 ・自分の考えや意見を発表し、話し合う場を重 視する。 することが求められている。そこで、本研究で ・活動をふり返る場を重視する。 は、学習者が環境保全に必要な能力・態度を身 ・友達と協力して行動できるようにする。 に付けていくことを可能とする指導・支援のあ ・各教科等における学習指導の関連を図る。 り方を明らかにし、その結果をもとにPDCA ・家庭、地域との連携を図る。 サイクルを導入した環境教育プログラムを開発 することを目的とする。 2 研究の内容 (1)環境保全行動を促進 する環境教育 ① 学習者の環境保全行動 を促進する要件 環境心理学等の知見をも とにして、学習者が環境保 全に必要な能力・態度を身 に付けるために必要な要件 を明らかにし、各要件をP DCAサイクルのどの過程 PDCAサイクル Research 現状把握 ○環境問題の現状把握 ○環境問題と我々の日常生活と の関連の理解 ○一人一人が取り組む必要性の 理解 Plan 環境宣言 ○環境宣言 学校や学級における省エネ・ 省資源、自然環境の保全など、 取組目標の設定 計画 ○具体的な取組項目の設定 省エネ・省資源、自然環境の 保全などに向けた計画の立案 に組み込めば効果的かを検 Do 討・整理した。 その結果が、 ○計画に基づいた実践 図1である。 Check ② 環境教育プログラム開 発にあたっての留意点 環境教育プログラムの開 発にあたっては、表1に示 すような点に留意する必要 があると考える。 実行 点検・評価 ○取組状況と成果の把握 Action 見直し・改善 ○目標の達成状況に合わせた改 善計画の立案、実践 Plan ・ ・ 学習者の環境保全行動を促進する要件 <現状把握> ○効果的な情報提供等によって、環境問題が我々 に与える影響は深刻であるという「危機感」を 感じ(過度にならない程度に)、環境問題への関 心をもてるようにする。 ○自分と環境とのつながりについて理解を深め、 環境問題の一端は自分たちのライフスタイルに あると認識できるようにする。 <環境宣言> ○当事者意識をもって環境を改善しようという意 欲をもつようにする。 ○自分や他者と共に取り組む行動目標を考え、そ れに従って実際に行動できる場を設定する。 <計画・実行> ○環境保全行動をとるために必要な実践的対処知 識や手続き的対処知識を身に付けられるように する。 ○個人による負担感を軽減し、所属する集団での 自分の役割を自覚して他者と協力しながら環境 保全活動を進められるようにする。 <点検・評価> ○自分たちのライフスタイルの改善が環境負荷低 減に貢献できることを認識し、その認識のもと に継続して環境保全行動ができるようにする。 <見直し、改善> ○学習者が取組みやすい行動から始め、段階的に 行動変容を促し、環境保全行動が持続するよう にする。 <発信> ○環境保全についての自分の考えを、様々な方法 を使って発信できるようにする。 自 然 体 験 図1 PDCAサイクルを導入した学習活動と学習者の環境保全行動を促進する要件 - 50 − 50 − 授業実践の結果、児童は環境問題の解決のた (2)PDCAサイクルを導入した環境教育 めに学級の全員と協力して実践するだけでなく、 プログラムによる実践 先述した「学習者の環境保全行動を促進する 学校全体で環境保全の取組を進められるように 要件」を組み入れ、 「環境教育プログラム開発に 行動した。その過程で、合意形成を目指して活 あたっての留意点」を考慮して環境教育プログ 発に話し合うようになり、環境保全のための実 ラムを開発し(図2) 、授業実践した。その成果 践的手法を身に付け、樹木の恵に感謝し自然を を評価マトリックスに基づく評価及び質問紙調 大切に思う気持ちを高めていった。こうした成 査等によって把握した。表2は、その一例であ 長ぶりを自分たちでも実感し、PDCAサイク る。 ルを他教科等や日常生活でも応用するようにな った。 教科等の関連 社会 「世界の中の 日本の役割」 国語 「イースター 島にはなぜ自 然がないのか」 「伝え合おう 私の意見」 「依頼の手紙 を書こう」 理科 「生物と環境」 「自然とともに 生きる」 図画工作 「使うもの飾 るものをつく ろう」 地球を守る エコレンジャー 環境保全に 主体的に取り組む 特別活動 「学校のみんな で、環境を守る 取組をしよう」 「夏休みも環境 を守る取組をし よう」 「夏休みの体験 談をしよう」 総合的な学習の時間 環境保全の取組 の計画、実行、点 検・評価、改善 表2 項目 環境保全への 意欲の向上と 活動の継続 樹木に対する 体験度・意識 の向上 「地球を守るエコレンジャー」 (第6学年)全 32 時間 Research 地球を守るエコレンジャーとして活動しよう ・第6学年における重点課題を探る。 ・森林破壊などの環境問題の現状とその要因、 対策について調べる。 Plan 行動目標を決め、行動計画を立てよう Do 計画に従って実行しよう ○ ゲー ムや 観察 活動 を通 し て、自然環境の保全の大切 さを学ぶ。 ○樹木とヒトや他の動物には どのようなかかわりがある のか調べる。 ・蒸散作用 ・光合成 ・校庭の樹木が1年間に吸 収する二酸化炭素の量の 換算 ・気温上昇抑制効果 主な記述内容 ・ごみの分別など、エコ活動に一生 懸命取り組んだ。 18 ・ステッカーやポスターを貼ったり 学校のみんなに節電・節水への協 力を呼びかけたりできた。 ・友達との話のときに樹木のことが 話題になるようになったり、樹木 17 と触れ合う機会が増えたりした。 ・樹木を守ることは自分たちにとっ て大事なことだとわかった。 ・「樹木プレート」づくりなど、最 12 後まであきらめずにがんばった。 協力的態度の 向上 10 ・みんなが協力して行動できるよう になった。 話し合い活動 の活発化 8 ・自分の意見を言える人が増えて、 話し合いが活発になった。 (対象 3 34 名) 研究の成果と今後の課題 過程に「学習者の環境保全行動を促進する要件」 を組み入れた環境教育プログラムは、学習者の 他学年への呼びかけ Plan Do 取組を継続・充実・発展させよう 計画に従って実行しよう 環境保全に必要な能力・態度を育成するのに有 効であることが明らかになった。体験を通した 自然環境保全の重要性の認識が、環境保全への 学校のみんな で省エネ・省 資源活動を継 続して行う。 行動意図につながることも再確認できた。 今後、ますます持続可能な社会の構築に向け て主体的に参画できる人材の育成が求められる 取組を点検・評価し、発展させよう なか、ESDの視点に立った環境教育プログラ ・「樹木マップ」を作製する。 Reflection 活動をふり返ろう 図2 記述数 授業実践の結果から、PDCAサイクルの各 取組を点検・評価し、改善しよう Check→Action 粘り強い態度 の形成 学校のみんな で省エネ・省 資源活動に取 り組む。 Check→Action ○樹木の特徴や名前を調べ、 「樹木プレート」を作製する。 ○樹木の枝や果実などを素材 にした工作を1年生と楽しむ。 「学級全体でよくなったことやできるよう になったこと」の記述例 ムとその評価方法の開発が課題であると考える。 「地球を守るエコレンジャー」の授業の流れ - 51 − 51 − 『研究紀要 第 200 号』 言語活動の充実を図る「逆向き設計」による中学校英語科の指導に関する研究 -授業デザイン力を高める「逆向き設計シート」の開発と実践- 教育振興担当 所員 高見 砂千 【キーワード】 逆向き設計 逆向き設計シート パフォーマンス課題 ルーブリック 言語活動 1 研究の目的 2 「逆向き設計」を取り入れた中学校英語科の 研究の内容 (1) 「逆向き設計シート」の開発 研究として3年次を迎える本研究では、1・2 「逆向き設計シート(以下、シート) 」は3枚 年次の成果に基づき、 「逆向き設計」に身近に取 組みの仕様である。手順にしたがってシートに り組めるよう 「逆向き設計シート」 を開発した。 記入することにより、 「逆向き設計」のポイント 授業設計論としては評価の高い「逆向き設計」 を踏まえた授業設計ができることをめざしてい であるが、実践者からは「初心者にとっては難 る。記入要領とともにシート1を次頁に示す。 しい」、 「一人で授業設計するには不安がある」 (2)シートを活用した授業実践 30 等の意見が聞かれる傾向がある。 シートを活用して英字新聞作成に取り組んだ そこで本研究では、初めて取り組む実践者で 24 25 事例では、実践後に、生徒の学習意欲と文章構 あっても、 「逆向き設計」の手順にしたがって授 成力に顕著な向上がみられた。実践の前後に5 20 業作りができるように配慮した「逆向き設計シ 分間英作文を実施して文章構成力の変容を見た 15 ート」を開発し、その有用性を検証した。 12 結果、実践後に評価規準を達成した生徒数は、 11 10 13 15 10 文章構造に関しては 608 名中 52 名(86%)、語数(評 7 「逆向き設計」の特徴 「逆向き設計」では、最終到達目標(中核 目標)を明確化し、習得した4技能を統合的 に活用させるパフォーマンス課題を設定す る。最終到達目標と評価内容・評価方法を指 導の前に生徒に明示して共有し、到達への見 通しを示すことが特徴である。指導者は、設 定したパフォーマンス課題の評価規準に生徒 が到達できるよう、生徒の実態に配慮しなが ら指導方法と指導内容を工夫する。 「逆向き設計」にはパフォーマンス課題が 組み込まれているため、基礎的・基本的な知 識・技能の総合的な活用を図る授業設計に適 する構造を有している。 価規準 255語以上)に関しては 47 名(78%)であっ 3 1 た。語数分布の変容について、図1に示す。 1 (人) 30 0~10 11~20 21~30 31~40 41~50 51~60 61~ 24 25 事前 事後 20 15 15 10 13 8 7 5 1 10 12 11 9 6 3 1 0 0 0~10 11~20 21~30 31~40 41~50 51~60 事前 事後 図1 3 61~ (語) 語数別に見る生徒の人数分布の変容 研究の成果と今後の課題 実際にシートを使用して指導計画を作成した 定的に評価した。特に、教職経験年数の少ない 求められている結果(目 標)を明確にする 教員が最終到達目標を明確化する際に役立つこ 承認できる証拠(評価方 法)を決定する とが認められた。また、6名全員から、シート を介して複数で協議することが有効であったと 学習経験と指導(授業の進 め方)を計画する の回答を得た。今後は、効果的なインタラクシ (西岡、2003) ョンの要素を明らかにする必要がある。 - 52 − 52 − 0 0 教員6名への聞き取りでは、全員がシートを肯 逆向き設計の3段階 9 6 − 53 − 【4技能別に整理する】 単元の最終到達目標の内 容を、4技能や音読などの スキルの項目別に整理す る。右欄の学期の最終到達 目標を参照しながら検討し 記入する。 【単元の見通しを立てる】 単元の最終到達目標を明 らかにし、単元の見通しを 立てる。この欄には、単元 の終了時に生徒がどのよう なことを理解すればよいの かについて、概要をおおま かに記入する。 【単元を決定する】 「単元」とは、 「生徒の学 習過程における学習活動の 一連のまとまり」である。 「逆向き設計」では単元の 内容を生徒が理解できたか どうかを、パフォーマンス 課題(習得した知識や技能 を総合的に活用する課題) によって評価する。短期の パフォーマンス課題が基本 であるが、長期に取り組ん だ帯活動などを単元とする パフォーマンス課題を設定 することもできる。 ・単元の最終到達目標を明らかにする。 ・単元の最終到達目標の評価方法と評価内容を整理する。 ・単元の授業設計の見通しを立てる。 シートの役割:「逆向き設計」により単元の概要をとらえる。 「逆向き設計シート1」 【最終到達目標の内容を明確にする】 最終到達目標に向けて、 「知の構造」 上の3つの段階(知っておくべき知 識・技能、活用すべき知識・技能、一 般化できる概念や原理)ごとに、生徒 が達成すべき内容を整理する。 (実際はA3版) 【評価を検討する】 手 順2 で整 理し た目 標に 関す る生徒の到達度について、どのよ うな評価方法で確認するかを、目 標と 評価 方法 とを 対応 させ なが ら検討する。 『研究紀要 第 201 号』 小学校 1 年生における早期の支援に関する研究 ―担任の気づきを生かした通常学級でのユニバーサルデザインの取組― 教育振興担当 所員 今中 綾子 【キーワード】特別支援教育,小学校1年生,通常学級,早期の支援,ユニバーサルデザイン,コンサルテーション Ⅰ ことが示唆された。 気になる子どもの現状とその実態 1 研究の目的 (2) 「教員の気づきチェックシート」の活用 通常学級に在籍する「特別な支援が必要な子 7月に研究協力校の5クラスで、身体面、行 ども」は、6.3%であるという調査から 10 年近 動面、対人面、聞く力、話す力、読む力、書く く経ち、昨今では気になる子どもはもっと多い 力、描画の8つの分野からの項目を見る「教員 と言われるようになり、特別支援教育のニーズ の気づきチェックシート(試案) 」をつけてもら は高まる一方である。さらに学校では、社会状 った。その結果、児童 117 人のうち担任が気に 況や家庭環境の変化の影響を受けて子どもの様 なる児童の特徴として、「気が散りやすい」 (25 子が変わってきているとの声も聞かれる。 人、21.4%)、「話の聞き取りが弱い」 (24 人、 そこで通常学級における子どもの現状につい 20.5%)、 「姿勢が崩れやすい」 (23 人、19.7%) 、 て、小学校 1 年生の学級担任が気になる子ども ということが明らかになった。 が実際にどれくらい存在するのか、 またその「気 (3)人物画の描画分析 になる」点がどのようなことなのか、検証が必 研究協力校の5クラスで、男の子と女の子 要であると考えた。そしてその結果を受け、通 の絵を描いてもらい、これら 115 名の人物画 常学級で気になる子どもの実態をどのようにと について、グッドイナフ人物画知能検査(DA らえ、どのような早期の支援を行うことが有効 M)の基準を用いて分析を行った。その結果、 であるか検討を行った。 115 名の結果は全体平均得点が 16.2(6歳1 カ月超)であり、「最近の子どもの人物画の描 2 研究の方法と結果 画発達は、以前と比べて幼児期後半から遅れが (1)巡回相談から見た担任が気になる子ども 大きくなる」という先行研究と一致した。特に 1学期に発達障害支援巡回相談を受けた学校 男女間で有意な差が見られ(p<.01)、女子に のうち、7校に同行訪問し、小学校1年生の担 比べて男子は発達年齢的に幼い子どもが多い 任が気になる子どもを調査した。その結果、訪 ことが明らかになった(図1)。 問した7校の 1 年生 321 人(特別支援学級在 14 籍者は除く)のうち、担任が気になるところ 12 10 女子 のある児童は合計 84 人、26.2%であった。非 8 男子 常に高い数字であるが、小学校に入学して間 6 4 もない頃にはまだ生まれ月の影響も大きいこ 2 0 3:01 3:06 3:08 3:10 4:01 4:04 4:08 4:10 4:11 5:01 5:07 5:09 5:11 6:01 6:04 6:08 6:09 6:11 7:01 7:03 7:05 7:08 とや、就学前の教育環境も影響があることを 加味したうえで、担任が児童の実態を丁寧に 観察し、適切な対応をすることが重要である 図1 - 54 − 54 − 人物画得点の男女別分布 また、担任が気になる子どもの得点も有意に 2 取組の実際 低かった(p<.01)ので、担任の気づきが客観的 実態調査からさまざまな発達の段階の子ども にも妥当なことが明らかになった。 がいることが明らかになったので、通常学級で できる特別支援教育の視点から、ユニバーサル 3 考察 デザインの取組を担任とともに考えた。学びや 「小学校に入学してくる これらの結果から、 すい環境とわかりやすい授業を目指し、次のよ 子どもには、さまざまな発達の段階の子ども うな工夫に取り組んだ。 がいる」、 「障害の診断等にかかわらず、丁寧 (1)環境調整と見てわかる工夫 に関わる必要のある子どもが増えている」と いうことが明らかになった。また、小学校1 年生の子どもの指導には、 「子どもの実態に応じ た柔軟な対応をする必要がある」こと、 「担任は 気になるが、特別な支援が必要かどうか迷うケ ースもあり、子どものより詳細な実態把握が求 められている」ことが示唆された。 Ⅱ コンサルテーションから 写真1 見てわかる工夫の例 (2)活動に適した机の配置 1 気になる児童への対応に関するアンケート (3)学び合いの導入 コンサルテーションを受けて指導実践を行っ た結果、 児童の様子はどう変化したのだろうか。 (4)注意集中力アップのための取組 取組の有効性を検証するべく研究協力校の担任 (5)ICTの活用と板書の工夫 に、アンケートを実施した。その結果、次のよ (6)集団づくりの工夫 うな回答が得られた。 Ⅲ ・コンサルテーション後、子どもの発達の様 研究のまとめと今後の課題 小学校入学段階の子どもたちは障害の有無に 子や課題が理解できるようになった。 関わらず、実にさまざまな発達の課題を持つと ・気になる子どものほとんどが落ち着いてき いうことが明らかになった。また、感情や行動 たが、一部の子どもは課題が顕著になって の自己コントロールが未熟である一部の子ども きた。 たちには、小学校での学習規律を身につけるた ・学級の規律に関しては全体的にかなり改善 めの配慮や支援が必要であることもわかった。 したが、「授業中の姿勢」はまだ改善され 幼児期の自己中心性からくる「落ち着きがな ていない子どもが多い。 い」、「気持ちの切り替えが難しい」行動と、発 ・社会性に関しては、全体的に自分の思いが 達障害の障害特性からくる「注意集中の弱さ」 、 言えるようになり、友だちとのトラブルが 「気持ちや行動の切り替えの難しさ」はよく似 減りつつある。 たところがあり、特別支援教育の視点を踏まえ ・現在の課題としては、「特定の子どもの対 たユニバーサルデザインの取組が有効であるこ 応が難しい」 、 「課題を個別に指導する時間 とが実践から検証できた。今後はさらに学習面 がとりにくい」ということがある。 の支援に関する研究が必要である。 - 55 − 55 − 研究報告 国語科における言語活動の基盤となる「言語力」の育成(Ⅰ) -「読むこと」の領域を中核に異なる領域とのつながりに着目して- 教育振興担当 所員 中西 康恵 【キーワード】言語力 言語活動の充実 説明的文章 異なる領域をつないだ単元構成 1 研究の目的 な言語活用のための諸能力である。 思考力・判断力・表現力等の育成を目的に、 その「言葉の力」を支えるものとして、 「言語 学習指導要領(平成 20 年告示)には、 言語活動の 力」がある。本論考では、言語力育成協力者会 充実が課題として挙げられている。また、全国 議(平成 19 年8月)の「言語力の育成方策につ 学力・学習状況調査(平成 22 年度)B問題に見 いて(報告書案)」にある「言語力は、知識と経 られる大阪市の結果からも、思考力・判断力・ 験、論理的思考、感性・情緒等を基盤として、 表現力を育てる言語活動の充実が課題といえる。 自ら考えを深め、他者とコミュニケーションを 教科等を横断して取り組まれる言語活動の基 行うために言語を運用するのに必要な能力」と 盤となる、汎用性のある言語力の育成が、国語 した考え方に則ることにする。これは、他教科 科には求められる。そこで、本研究では、この 等の学習や生活の中で生かせる言葉の知識や技 言語活動を支える「言語力」を育てるため、先 能である。そのような「言語力」は、充実した 行研究を検討・整理し、学習指導過程作成上の 言語活動を行うための基盤となり、思考力・判 要件を明らかにする。その上で、異なった領域 断力・表現力を育むことになる。 である「読むこと」と「書くこと」 、 「話すこと・ この「言語力」を高めるため、同答申で提言 聞くこと」の単元を相互に関連させることに着 されている国語科改善の方針から、特に本研究 眼し、指導を構想していく。そうして、異なる で重視したいと考えるのは次の2点である。 領域をどのように関連させ、展開することが有 ○論理的に思考できる力 効かという点について明らかにしていきたい。 ○考えたことを表現できる力 2 ② 研究の内容 (1)言語活動の充実に向けた国語科教育の課題 ① 応用できる言語力の育ちに向けて 学習指導要領に見られる、異なる領域の目標 今、求められている「言葉の力」 の共通性は、そこに働く言語力が相互に関連し 「言葉の力」とはどのような能力なのか、文 合っていることを表している。例えば中学年の 化審議会答申(平成 16 年2月) 「これからの時 「話すこと・聞くこと」の領域の目標にある「話 代に求められる国語力」 や甲斐睦朗の述べる 「国 の中心に気を付けて聞く」に対して「読むこと」 語力」 、田近洵一の「国語学力」の考え方を基盤 の領域の目標には「内容の中心をとらえ(途中 にして考察した。 略)読む能力を身に付けさせる(後略)」とある。 ここで述べる「言葉の力」は、教科の中だけ そこで、この関連性に着目し、異なる領域をつ でとどまるものではなく、豊かな人間性、社会 ないだ単元構成の在り方を探っていく。 人としての教養や価値観をもつ一人一人の言語 また、他教科の学習でも、比較や分類、関連 生活力に培い、変化の激しい社会をより良く生 付けといった考えるための技法、帰納的な考え き、生涯にわたって自己を変革するために必要 方や演繹的な考え方などを活用したレポートの - 56 − 56 − 作成や論述といった学習が多く取り組まれてい 出していくために、学習指導過程作成上の要件 くものと予想される。これに働き、直結する言 として、次の3点を挙げる。 語力として、ここでは、論理的思考力の育成を ① 異なる領域の単元をつなぐ 主眼に、読むことの教材としては、説明的文章 1単元内において「読むこと」と「書くこと」 を取り上げていくことにする。 や「話すこと・聞くこと」を関連させた学習指 (2)先行研究の検討 導も取り入れながら、さらに「読むこと」の領 ① 領域をつなぐ価値 域を中心にした単元とその他の領域を中心にし 中洌正堯による国語教育の枠組みについての た単元をつないでいく。そうすることで、習得 提案「国語教育の基本として『聞く・話す・読 した知識・技能の活用を、より効果的に図るこ む・書く』が『感じる/考える』をくぐりなが とができると考える。 ら関連し、思考力や想像力の育ちに培う」を基 ② 教材の特性と育てたい言語力を関連させ 本的な考え方においた。さらに、大熊徹による た学習指導過程の構想 書く力の構造の考え方、山元悦子等による論文 教材の特性を生かし、単元に共通する言語力 を基に、「読むこと」と「書くこと」、「読む を先の視点で分析・整理し、単元間のつなぎ方 こと」と「話すこと・聞くこと」という、異な を明らかにする。これにより、学習内容のつな る領域を関連づけて指導していく必要性と有意 がりが子どもにとって理解しやすくなり、既習 性について明らかにした。 の学習内容を生かして課題の解決に当たろうと ② 領域をつなぐ視点 する意識が無理なく育っていくと考える。 中洌正堯による国語教育の内容についての構 ③ 子どもの興味・関心を基盤にした価値あ 造化の試案、平成 21・22 年度の大阪市小学校教 る課題の設定 育研究会国語部による説明的な文章を読むため 子どもの興味・関心を基盤にした課題の設定 に必要な言語力についての系統の試案を勘案し、 は、 学習意欲を引き出し、 持続させる力となる。 単元をつなぐ言語力として、次の視点で教材を 課題設定にあたっては、言語力の育ちを見通し、 分析し、領域をつないでいく。 価値ある課題となるよう、関連させる単元の関 係から、どのような知識や技能の習得及び活用 ○知識・情報に関するもの を図るのかを明確にしておくことが必要である。 ○構成(段落相互の関係把握を含む) 3 ○表現(実証の方法) 研究の成果と課題 本年度は、言語活動の充実に向けた国語科教 ○発想・思考(自分の考えの形成・表 育の課題を文献等により検討、 整理した。 次に、 現に関わるもの) その課題解決に向かい、さまざまに応用できる 言語力の育成を図るため、 先行研究等を踏まえ、 学習指導過程作成上の要件をまとめた。 (3)学習指導過程作成上の要件 先に挙げた特に重要であると考えた2点「論 これを基に、今後は大阪市で採用されている 理的に思考できる力」 「考えたことを表現できる 教科用図書の教材を使い、学習指導過程の試案 力」に着目しながら学習指導過程を構想するこ を構想する。そして検証授業を通じ、その効果 とが思考力・判断力・表現力を育むことにつな について検討していく。 がるものと考える。これまでに述べてきた点を 踏まえ、子どもたちのより意欲的な学習を生み - 57 − 57 − 研究報告 思考力・表現力を育てる算数科の指導 ―ノート指導を通した言語活動の充実を目指して― 教育振興担当 所員 片岡 誠 【キーワード】 1 思考力・表現力 算数科 ノート指導 発達段階 研究の目的 (2)ノート指導が果たす機能 本研究は、小学校低学年児童の数学的な思考 ノートに言葉、数、式、図、絵、表等を使っ 力・表現力を育成するノート指導のあり方を検 て自分の考えを表現し、他者への表現活動を活 討することを目的としている。 性化していくことで、思考力・表現力を高める 2 ことができるものと考える。ノートに「かく活 研究の内容 (1)思考力・表現力の育成を目指すノート指導 動」 が、 児童にとって次のような機能を果たし、 小学校学習指導要領の解説(平成 20 年版)で 指導に工夫を加えていくことが重要になる。 は、数学的な思考力・表現力を育成するため、 見通しをもち根拠を明らかにし筋道を立てて体 系的に考えることや言葉や数、式、図、表、グ ラフ等の相互の関連を理解するとともに、それ らを適切に用いて問題を解決したり、自分の考 〇 学習の記録としての機能 〇 自らの考えを明確にし、表現するための機能 〇 自らの考えを他者へ理解してもらうための機能 〇 自らの考えを振り返るための機能 〇 自らの学びを評価するための機能 えを分かりやすく説明したり、互いの考えを表 (※新算数教育研究会著「算数ノートのとらせ方・生かし方」 ) 現し合ったりする学習活動などを充実すること を求めている。その課題解決の一方法として、 (3)ノート指導における留意点 見えない思考を見えるように視覚的に表現して、 以上をふまえて、小学校低学年におけるノー 自分の考えを整理し、見直し、練り上げるとい ト指導上の留意点を検討・整理した。表1は、 うノートに「かく活動」を重視したい。 その一例である。 表 1 ノート記述の視点および指導上の留意点(小学校 2 年 たし算とひき算の筆算) 学習場面 ノート記述の視点 課題把握 ・情報の選択 ・本時の課題 指導上の留意点 ・問題文から必要な情報を見つけ出して線を引き、その部分を抜き書きできるよう にする。 ・演算決定の根拠を考え、式をノートに記述できるようにする。 ・既習事項との相違点を見つけ、本時の学習課題を考えて記述できるようにする。 見通し ・結果の見通し ・方法の見通し ・どのような結果になりそうなのか自分なりの考えを記述できるようにする。 ・既習事項を活用して、自分なりの解決の見通しを言葉、式、図、絵等で記述でき るようにする。 自力解決 ・根拠の記述 ・どのように考えて解決したのか、操作活動、絵、図、数、式と言葉を繋いでわか りやすく記述できるようにする。 ・簡潔・明瞭・的確といった視点で友達と自分の解決方法の共通点や相違点を見つ け出し、友達の解決方法の良さを吹き出し等に記述できるようにする。 ・各々の解決方法の共通点から、本時の課題に対する学習のまとめを記述できるよ うにする。 ・わかったことだけでなく、友達の解決方法の良い点や次時への関心・意欲等につ いて吹き出し等に記述できるようにする。 ・比較検討 まとめ ・課題のまとめ ・学習の振り返り - 58 − 58 − (4)小学校低学年におけるノート指導の実際 考えを説明したりできる児童が増えた等の成果 表 1 に示したノート指導上の留意点を考慮し を得た。低学年からのノート指導を充実させて て、小学校第2学年の児童 27 名を対象に、「た いく重要性を確認することができた。 し算とひき算の筆算」の授業を実施した。 今後、その有効性をより確かなものにするた ここでは、自力解決の場面におけるノート指 めには、いく例かの実践を重ねなければならな 導の概要を示す(図1) 。 いと考えている。その際には、互いの考えを比 3 較検討する場や課題のまとめ方を工夫する等、 研究の成果と今後の課題 授業実践の結果、筆算や図だけでなく言葉を 低学年の発達段階に応じた、より綿密なノート 用いて自分の考えを記述したり、友達に自分の 指導のあり方を追究したい。 第1次第 1 時 (2位数)+(2位数)で十の位が繰り上がる場合の計算 自力解決の場面では、図のみで記述している児童が 6 名、筆算のみで記述している 児童が 9 名、図と筆算の 2 種類記述した児童が 12 名であった。 第2次第4時 (3位数)-(2位数)で百の位が繰り下がる場合の計算 計算の仕方を図や式と言葉を用いて説明したり、互いに考えを伝え合ったりできる よう思考過程を記述できるようにした。 記述の視点を示す基本的な発問 根拠の記述 ・筆算や図だけでなく、はじめにどう考え、次 にどのように考えたのかかきましょう。 ・友達に説明できるように、文章をそえて解決 方法をかきましょう。 ・一つできたら、他の方法にも取り組んでみま しょう。 児童がかいたノート 比較検討 ・自分の考えと友達の考えの同じところや違 っているところをかきましょう。 ・友達の良い点をかきましょう。 別の方法(図)で解決 している。 自分の言 葉で学習 課題をま とめてい る。 問題文から必要 な情報を抜き書 きしている。 自分の考えた 見通しを書い ている。 言 葉を 用い て筆 算 の 仕方を説明している 解決方法の発表 筆算のみ 第2次第4時 図のみ 第1次第1時 筆算と図 次時への 学習意欲 を書いて いる。 本時の学習を振 り返っている。 筆算と文 図と文 N=27 筆算と文、図 0 5 10 15 自力解決の表現方法の変化 図1 自力解決場面におけるノート指導の概要 - 59 − 59 − 情報教育・長期研修 未来につなぐロボット教育 大阪市立都島工業高等学校 蒲田 哲也 1 はじめに 「ライントレース」などを行うことができる。 中学校の新学習指導要領によれば、来年度よ さらに赤外線センサを使ってロボットサッカー り中学校の『技術・家庭』で「プログラムによ も行える。 る計測・制御」の授業が本格実施となり、高等 学校の専門教科( 「工業科」 )においても、中学 3 教育用ロボット(マイコン)とプログラム 校における学習内容を理解し、新たな授業展開 高等学校における教材として使用したい最新 と教材作りが必要となる。そこで情報教育長期 のロボットについて紹介する。 研修において、中高連携を意識しながら最新の (1)レゴ NXT ロボットと制御用マイコンプログラミングにつ レゴNXTはレ いて研究を行った。 「新たなロボット教育」とし ゴRCXの後継で、 てその成果の一部を報告する。 本体組み立ての 自由度の大きさ 2 中学校での取り組み が最大の特徴で まず、 「プログラムによる計測・制御」を授業 ある。写真はロ レゴ NXT に取り入れている先進的な中学校2校での授業 ボット風に組み立ててあるが、ブルドーザ、火 実践について簡単に紹介する。 星探査ロボット、アナログ時計など、様々な形 (1)レゴ RCX に組み立てて、 自由にプログラミングができる。 レゴ RCX を導入し、RoboLab を使用して授業 また、 組み立て見本やプログラム例もWeb上に豊 展開している。レゴ RCX は後述のレゴ NXT の一 富に存在する。さらに、Bricxccを利用すれば、 世代前のバージョンに当たり、2つのモータと ロボット内のプログラムをWindowsのフォルダ センサを使って線に沿って動く「ライントレー 感覚で移動・削除等することができる。以下に ス」などを行うことができる。 代表的なプログラミング環境を紹介する。 (2)ダイセン TJ2 ① RoboLab 生徒全員にダ RoboLabと次に紹介するNXTソフトウェアは測 イセン TJ2 ロボ 定器を自動制御するためのソフトを基に作成さ ットのキットを れている。具体的には、タイルを配置して線で 購入させ、生徒 つなげていくと が組み立てたも いうプログラム の(一人一台) を使用して、授業 スタイルである。 カーリングのようす このRoboLabは、 展開している。組み立てたロボットは、レゴ RCX タイルが小さく 同様2つのモータとセンサを使って、黒い円を て見にくいとい 検出して停止する 「カーリング」 プログラムや、 う難点はあるが、 - 60 − 60 − プログラム例 その分、画面に多くの情報を表示することがで し、見かけ上は配線がないという凝った構造に きる。なお、付属のファームウェアにはバグが なっている。プログラミングは以下の2種類の あるのだが、サポートが終了しており、残念な 言語で行うことができ、同じ環境から切り替え がら今後、改善される予定はない。 て利用できる。 ② NXT ソフトウェア ① C-Style RoboLab を 「タイルを選ん 改良したソフ で並べていく」 トで、タイル タイプのソフト が大きく、見 ウェアであるが、 やすくなって C言語の構造を いる。 一方で、 意識した構成に プログラム例 プログラム例 尐し複雑なプ なっていて、タイルを配置すると自然にC言語 ログラムになると、画面に入りきれなくなり、 風の記述ができてしまう。 プログラムの全体像はつかみにくい。加えて、 ② c-code 演算の表記はNXCに劣る。また、利点として様々 ①のウインド なメーカーからNXT用のセンサ類が発売されて ウから「ビルド」 おり、 サンプルプログラムはNXTソフトウェアが を す る と 、 最も多い。 C-Codeのプログ ③ Bricxcc/NXC ラムに変換さ BricxccはNXT用の統合環境であり、その上で れた後、PIC18 プログラムをビルドしたところ 実行されるプログラミング言語がNXCである。ど aasdafsdfaasdfasdfasdf へとコンパイルされ、途中のC-Codeも見ること ちらも無料でダウンロードすることができる。 が で き る 。 同 じ ソ フ ト ウ ェ アro上 で 最 初 か ら RoboLab等に比べ完成度が高く感じられ、 文字入 ro ろ C-Codeを利用してプログラムすることも可能で 力(若干の英語を含む)への抵抗がなければこ あり、C言語を意識したプログラミング入門に ちらを勧めたい。また、サンプルソフトウェア は非常によくできていると思われる。 の数も多く、膨大な量のマニュアルが付属する。 (3)Arduino(アルディーノ) 英文であるが日本語訳のサイトも複数あり、 Arduinoはイタリアで開発されたCPUボードで、 http://www2.ocn.ne.jp/~takamoto/の翻訳がわ USBケーブルで接続するだけでプログラミング かりやすい。 が可能である。扱いが簡単で、低価格、さらに なお、C言語との大きな違いはマルチタスク ライブラリが充実しており、ほとんどのプログ を実現していることで、様々な入出力を同時に ラムがすぐに実現可能である。 Arduino本体とブ チェックすることができる。 レッドボード、LEDと電池4本があれば、基礎的 (2)ダイセンe-Desシリーズ なプログラミング実習が可能である。 e-Desシリーズ組み立てキットがあり、 ソフト (4)PIC ウェアはTJシリーズと同じ感覚で利用できる。 PICはICチップであり周辺回路とソフトウェ 何よりも日本製(しかも大阪)であり、コスト アライブラリを自作する必要がある。さらに、 が安い。 コントローラ部分eDes-Coreとセンサ駆 書き込みに専用のライタも必要である。 一方で、 動部分eDes-2WDに分かれていて、I2C通信で連絡 とても丈夫であり「マイコンボードを設計して - 61 − 61 − ② 出力として みる」場合には良い教材である。 動物やトラックの効果音を出す・周囲の音を 周知のように、ロボット教育は今や世界中で 録音、再生・SDメモリ※・液晶ディスプレイ※ 行われ、教材開発も盛んに行われている。しか し、残念ながら「ロボット王国」と言われる日 ( ※ はArduino専用) 本製のものは尐なく、世界的に認知されていな い現状には、尐し寂しさを感じる。 4 自律ロボットとセンサの製作 最後に、自作ロボットについて述べる。 実習授業としては、自由な発想でセンサを作 ることは非常に重要であり、 最も楽しい。 また、 今回はArduinoとPICがどちらもコントローラだ けなので、シャシを付け加えてロボットらしく した。PICボードはオリジナル版で、シャシ部分 はArduinoとPICで共通に使え、センサはe-Des 製作例 にも接続できるように設計した。 左上から シャシとPICボード、ラインセンサ、GPS、液昌 (1)モータとシャシ 左下から 明るさ、音のセンサ、Arduino モータにはタミヤの「ツインモータギヤボッ クス」 、 シャシは「ユニバーサルプレートセット」 5 おわりに を利用した。これには、ビスナット類も同梱さ ロボット教育にとって重要なことは、生徒の れており、形態もかなり自由に設計することが 「こんなことをしてみたい」という発想に対し できる。 て「どうすればそれが実現できるか」を指導す (2)PICマイコンボード ることである。そのためには、教員自身が様々 PICには16F84Aを採用し、モータドライバと な回路やアイディアを持っておく必要があると LED2個及びIO3つ、 3V駆動するために昇圧回 思う。 路も搭載した。 紙面の都合で、ここでは各センサの回路図、 (3)Arduinoボード フリーウェアの入手及びインストールには触れ モータドライバが市販(自作も可能で、より ることができなかったが、今後、都島工業高等 安価)されている。 (1)のシャシにモータドラ 学校機械電気科のWebページや私個人のWebペー イバとともに組み込むだけで、自律ロボットを ジで公開する予定である。 組み立てることができる。センサ類の柔軟性も また、常に進化を続ける先端技術の指導につ PICに勝る。 いては、多くの仲間たちとの情報交換や連携が (4)センサ類 必要である。 「未来につなぐロボット教育」を目 以下のようなセンサ類を設計した。 指して、私自身も仲間の一員としてさらに研究 ① センサ を続けていきたい。 ライン・近接(赤外光の反射検出) ・明るさ・ 都島工業高等学校機械電気科アドレス 超音波距離・温度センサ※・音・タッチ(静電)・ ※ ※ GPS ・電子コンパス ・加速度 http://www.ocec.ne.jp/hs/ ※ miyakojima/me/index.html - 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