オープンアーカイブとそれらが雑誌の購読中止に及ぼすインパクト(Mark

オープンアーカイブとそれらが雑誌の購読中止に及ぼすインパクト(Mark
Ware)
Ware, Mark. Open archives and their impact on journal cancellations.
Learned Publishing Vol.19, No.3, 2006, p.226-229.
抄録
私たちは,雑誌の購読中止に影響を及ぼす要因,特に,オープンアクセス・リポジト
リによる雑誌論文の無料入手可能性(availability)のインパクトについて ALPSP が委
託した調査研究を報告する。
はじめに
雑誌の著者によるプレプリントおよびポストプリントあるいはそのいずれかの一方
のセルフアーカイビングが,雑誌の購読数に著しいインパクトを与える見込みがあるか
どうかについての質問は,現在出版社にとってかなりの重要性を持つ白熱した議論の的
になっている問題である。
(米国衛生研究所(National Institute of Health)や英国のウ
ェルカム財団(Wellcome Trust)のような)助成機関や著者にポストプリントの保管を
要望または要求する一部の機関の動きは,現在,アーカイブが数の上で,もっと重要な
ことは,それらの領域やコンテンツの範囲で増加しそうなので,この問題を一層,切羽
詰まったものにしている。
二つの考え方のグループがある。一方のグループは,財政が逼迫している図書館は,
コンテンツがインターネット上で無料で利用できる場合に,極めて当然のことながら雑
誌を購読しないに違いないと思っており,アーカイブの増加を脅威-明白かつ現在の危
険-と見ている。別のグループは,プレプリントやポストプリントのアーカイブは,雑
誌システムと競争するのではなく同時に存在すると主張する。著者のポストプリントへ
のアクセスは,雑誌へのアクセスを補完し,特定の雑誌を購読できない機関の利益とな
るが,雑誌購読に別にダメージを与えない。一般に(だがそうとは限らないが),雑誌
出版社はオープンアーカイブをオープンアクセス出版-後者は少なくも検証可能で有
力な事業モデルを提供する-よりも脅威とみなす傾向がある。
この議論に関連する問題の一つは,いずれかの立場を裏付ける確かなデータが不足し
ていることである。物理学のある領域(主に高エネルギー物理学や理論物理学)では,
オープンリポジトリである arXiv が雑誌と約 15 年共存していることが周知されており,
arXiv が扱うテーマの雑誌の購読の減少については,物理学出版社によって他の物理学
の雑誌と統計的な差異がないと報告されている。この事実は,オープンアクセスの提唱
者から注目され,広く引用されている。だが,最近になって IOP Publishing は,arXiv
が扱う雑誌には,公式の雑誌サイトでの利用の激減(例えば,同じ品質の雑誌に比べて
論文当りのダウンロード数が二桁少ない)が見られ,この利用の少なさは,読者が雑誌
1
のサイトの代りに arXiv を介した論文へのアクセスを行っているからだという仮説を報
告した。それで,これらの雑誌は,(本当にそうなりそうなので)雑誌の価格体系が利
用に基づくモデルに移行したり,雑誌の購読中止が出版社(あるいは仲介業者)の利用
統計に基づいて行われる場合には脅威にさらされるかもしれない。
雑誌の購読中止に影響を及ぼす主な要因を調査し,今までのところ明らかに事実が不
足している議論に新しいデータを部分的に提供するため,ALPSP が新たなこの調査
1)
を委託することを決定したのは,このような背景においてであった。
本調査は,雑誌の購読中止に影響を及ぼす要因に関連した図書館員の方針や実務を探
り,さらに,将来これがどのように変化すると考えているかを探索することを目的とし
たオンラインアンケートから構成されていた。アンケートの文章は,多数のベテランの
図書館員からのフィードバックに基づいて作成された。標本は,Liblicense や SerialST
のような多数のメーリングリストに依頼を出すことによって入手した。このように標本
は(メーリングリストへの参加を選んだ)非無作為グループから選択され,これは本調
査の制約を示している。しかしながら,340 件という良い反応の完全回答を受け取った
(回答率はおよそ 4-7%)。回答は,主に広い主題範囲にわたる学術機関からであった。
結果
私たちは何を発見したか?雑誌の購読中止のプロセスは多様なものであるが,通常は,
図書館員と教員(あるいは図書館顧客)を巻き込んだ協議プロセスを必要とする。ほと
んどの場合,(例えば,利用や他の要因の分析による)雑誌の講読中止の決定の開始や
購読中止の最終決定に責任を持つのは図書館員である。
従って,通常の購読中止のプロセスは,分析,協議,評価,最終決定の筋道を辿る。
協議には,図書館員による購読中止候補の提案あるいは,データは提供するが,顧客へ
の購読中止提案の依頼が含まれるかもしれない。また,それには精度がまちまちの読者
調査が含まれるかもしれない。
雑誌の講読中止を決定する三つの最も重要な要因を重要な順に挙げると,問題となっ
ている雑誌を教員がもう必要としなくなったこと(言い換えると,機関の研究や教育プ
ログラムとの関連性),利用,価格となる。OA アーカイブを介したコンテンツの入手
可能性とアグリゲータ経由の入手可能性は同じく 4 番目の順位にあるが,最初の三つの
要因よりは少し重要性が低かった。雑誌のインパクトファクターや遅延 OA を介した入
手可能性の重要性は比較的低かった。他の重要な要因は,雑誌の認知された必要性,重
要性または中心性や,ある種のパッケージに含まれているか所属教員の関与(例えば編
集委員会)による一部の雑誌の講読を可能にする購読中止の保護であった。
これらの要因をつぶさに取り上げてみると,価格について最も重要な要因は,絶対価
格と値上がり率であった。利用単価(Price per use)は,自由記述の回答で回答者がし
ばしば言及していたが,重要性の順位は中ほどであり,一方,論文単価(price per article)
2
あるいはページ単価(price per page)は利用が全くといっていいほどなかった。
利用については,最も重要なデータが,出版者や仲介業者が提供するオンライン利用
統計であると言及されていた。図書館独自のオンライン統計の順位は著しく低かったが,
印刷体の利用は(たぶん驚くべきことではないが),最も重要度が低かった。
私たちは,
(EBSCOhost や ProQuest のような)アグリゲーション製品に[雑誌が]含
まれる度合いが購読中止される雑誌の可能性にどのような影響を与えそうかについて
質問した(これは John Cox による ALPSP のための報告書 2)で以前かなり詳細に探求
されたテーマである)。雑誌が購読中止の候補である場合,意思決定に役割を果たすア
グリゲーション製品の収録の有無に影響を及ぼす重要な要因は,重要な順にあげると,
エンバーゴの期間,アグリゲーションのアーカイブの範囲,新規資料の追加の早さであ
った。図書館員がアグリゲーションは雑誌購読の代わりにならないと考えている重要な
理由の一つが,コンテンツが安定せず,以前に削除されたコンテンツへのアクセスがな
いという認識であることは自由記述の回答から明らかだった。
遅延オープンアクセスを介したコンテンツの入手可能性は,既に見たように,雑誌購
読における重要な要素とは考えられていなかった。私たちの調査で,雑誌購読と競争す
るどのような遅延サービスでもエンバーゴは事実,非常に短期間でなければならないこ
とがわかった。82%は 3 ヶ月以内,92%の回答者は 6 ヶ月以内でなければならないで
あった。許容範囲のエンバーゴ期間は分野によってまちまちであり,STM 雑誌ではエ
ンバーゴが余り許容されていない。また,エンバーゴのあるアクセスは,中核テーマよ
りは周辺的な雑誌で我慢できると考えられていた。
オープンアクセス・アーカイブの課題の調査に入ると,オープンアクセス・アーカイ
ブは雑誌購読に直接インパクトを与えていなさそうだという考えを支持していること
が次のデータでわかった。
・回答者の 97%は,出版社の PDF 最終版のアーカイブ・コピーが雑誌の代替として容
認できると考えていたが,これはポストプリントについては 39%,プレプリントに
ついてはたった 9%であった。
・図書館員の大半(76%)にとって,アーカイブは雑誌コンテンツの 90%以上を収録
すべきでものであり,48%は,アーカイブが雑誌の代替となりうるとみなすには
100%含まれることが前提となると考えていた。
・さらに,回答者の 16%しか現在,購読雑誌とアーカイブの重複を見積もっておらず
このような重複を測定するシステムの導入を計画していたのは 31%だけであった。
本調査の重要な質問は,図書館員がオープンアクセス・アーカイブのコンテンツが無
料で利用できることを雑誌の講読中止を行う相応の理由と考えていない場合,なぜそう
なのかであった。もっとも頻繁に言及された理由は,重要な順に挙げると,無料アーカ
イブの長期間の入手可能性への懸念,アーカイブの網羅性や完全性への懸念,教員の「雑
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誌の現物(the real journal)」への要求,プレ/ポストプリントは雑誌論文の最終版の適
切な代替物と考えられていないという事実であった。
私たちは,アンケートの最後の部分で,雑誌の所蔵を管理する現在のシステムについ
てのデータ収集から,そのようなシステムが将来どのように変化するかについて図書館
員の意見[の聴取]に切り替えた。最初に雑誌の講読中止の決定に使用する可能な要因(上
記参照)を再検討するように質問したが,今回は,今後 5 年以内にどの程度重要と考え
たかも言わせている。[現在と]同じ 4 つの要因が最も重要であるらしいと考えられてい
るが,重要度の順位と程度はいくらか変化した(図1参照)
。
図 1 購読中止要因に関する現在の重要性についての回答者の見解と 5 年内のそれらの重要性に
ついての見解の比較
価格は,将来最も重要な要因になると考えられており,順位が 1 位に動いた。98%がそ
れは重要か非常に重要であると述べた。オープンアクセス・アーカイブを介した入手可
能性は依然として 4 番目の順位であるが(そして最初の三つの要因よりもかなり低いま
まである)
,回答者は次の 5 年間で重要性が大幅に増加すると考えていた。81%はそれ
が重要か最も重要になると述べた。
最後に,私たちは回答者に彼らの見方をまとめるように質問した。オープンアクセ
ス・リポジトリが雑誌の所蔵に及ぼすインパクトは何か?結論をいうのには時期尚早
か?なぜか,なぜそうでないか?過半数ちょっと(54%)が結論をいうのに時期尚早だ
と述べた。彼らについてはあえて危険に身をさらす覚悟があった。だが,32%はインパ
クトがないと考えていると述べ,それは何らかのインパクトがあると考えている回答者
(11%)の 3 倍であった。
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まとめ
本調査全体は,プレ/ポストプリント・リポジトリが雑誌の購読部数を減少させるか
どうかについての議論にどのような重要性を持つのか?たぶん,驚くことはないが,ほ
とんどの分野でセルフアーカイビングが初期の発展段階であることを考えると,本調査
は最終的な答えを与えていない。セルフアーカイビングが雑誌に害を及ぼさないという
見方を支持するために,私たちは次のような知見を引用することができる。
・図書館員が,リポジトリを適正に管理された所蔵雑誌の代替物と考えていないことは
明らかである。彼らは,長期間の入手可能性,安定性,網羅性,完全性についての懸
念を指摘する。教員は「雑誌の現物」を要求する。3 ヶ月のエンバーゴでさえも重大
な障害である。ポストプリント(プレプリントは除外して)は雑誌論文の適切な代替
と考えられていない。
・さらに,図書館員の大半はアーカイブのコンテンツと所蔵雑誌が重複しているかどう
か分かっていないし,そのほとんどはこれを測定するシステムを導入する計画を持っ
ていない。
・オープンアクセス・アーカイブを介した入手可能性は,雑誌の購読中止を決定する場
合,教員の要望,利用,価格よりもはるかに低い順位である。
・所蔵雑誌に何らかのインパクトがあると考えている回答者の 3 倍の回答者が,所蔵雑
誌にインパクトを与えていないと考えていた。
他方,出版社(や実際に雑誌の将来に関心のある者)は次のように危惧していた。
・53%がオープンアクセス・アーカイブを介した入手可能性は雑誌の講読中止を決定す
る重要か非常に重要な要因であると述べ,これは今後 5 年で 81%に増加する。
・出版社あるいは仲介業者の統計を介した雑誌の利用測定の重要性が明らかに増してい
ることに出版社は明確な関心を示している。というのは,利用の活発なアーカイブは
雑誌サイトの利用を大幅に削減することができるという以前に議論された(例えば,
物理学分野からの)根拠があるからである。
今のところ,利用についてのこのようなインパクトは上記の理由から考えると雑誌の
講読中止の原因にならない状況であるように思われる。つまり,教員は依然として「雑
誌の現物」を要望し,図書館員は所蔵雑誌の維持を要望し,ポストプリントは出版社の
最終版の適切な代替とは考えられていない等である。利用数値は分野を横断するという
よりは単一分野で解釈されている。それで,例えば,高エネルギー物理学のすべての雑
誌は皆同じように影響を受けるだろう。
本調査には,コア雑誌(言い換えれば,所属機関の中核となる研究や教育の中心とな
る質の高い雑誌)が現在,リポジトリの脅威にさらされているという証拠が少ない。け
れども,周辺的な雑誌は圧迫を受けていることが分かっているかもしれないという手が
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かりがあり,この理由で雑誌よりも先ず,アグリゲータが脅威を感じるかもしれないが,
それは文献のリポジトリによって網羅的に収録される場合に限られていた。
謝辞
本稿は,ALPSP が助成し,委託した調査研究に基くものであり,出版許可を得てい
る。詳細調査は ALPSP から入手できる。
注
1) 以下の報告書が刊行されている。
Ware, Mark. ALPSP Survey of Librarians on Factors in Journal Cancellation.
ALPSP, 2006.
ISBN 978-0-907341-31-4
要旨と結論、調査結果は ALPSP のウェブサイト<http://www.alpsp.org/>から入手でき
る。
2) Cox, John. An ALPSP Report on the Impact of Aggregated Databases on Primary
Journals in the Academic Library Market and a Review of Publisher Practice.
ALPSP, 2004. ISBN: 0-907341-28-4
著者連絡先
Mark Ware
Mark Ware Consulting Ltd 代表者
14Hyland Grove, Wesbury-on-Trym
Bristol BS9 3NR, UK
電子メール:[email protected]
ウェブサイト:www.markwareconsulting.com
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