CODEN : HIKGE3 ISSN 0916-0930 VOL. 29 2013 黒鉛 パーライト 20 μm 【表紙写真】 フェライト パーライト 黒鉛 フェライト パーライト 【光学顕微鏡組織写真①】 開発材組織 黒鉛 フェライト 30 μm 【光学顕微鏡組織写真②】 FCD450 材(ブルス ・ アイ)組織 表紙写真説明 表紙の SEM(Scanning Electron Microscope)像は,自動車の軽量足回り部品用 に開発された材料で,高強度・高靭性などの特性を有する球状黒鉛鋳鉄のミクロ組 織である。特殊製法により,従来のフェライトとパーライトが明瞭に分かれたブル ス・アイ組織を有する球状黒鉛鋳鉄(代表材質 : FCD450)よりも基地組織のパー ライトを微細化し,さらに微細なフェライトを均一分散させた組織となっている。 これにより,同一強度の球状黒鉛鋳鉄と比較して,靱性を大幅に向上させている。 自動車用足回り部品には FCD450 が多く用いられている。自動車部品には,軽 量化要求から高強度と高靱性が同時に求められる。従来材ではパーライト量を増や せば高強度化は行えるが,そのトレードオフとして靭性が低下する。開発材は上述 したように,ミクロ組織を改質することで高強度・高靭性を両立させた。 球状黒鉛鋳鉄は 1947 年に H.Morrogh らが鋳鉄中に球状黒鉛を発見し,K.D.Millis らにより工業的に実用化されてから 65 年が経過し,自動車部品や鋳鉄管などに広 く利用されている。このように昔から使用されている材料においても,最新のミク ロ解析技術を用い材料の本質を捉え,新たな材料開発を行うことで技術革新が可能 となる。日立金属は,こうした材料開発技術と設計解析技術を用い,自動車用足回 り部品の軽量化を推進し,自動車の低燃費化に貢献している。 VOL. 29 2013 ®は当社の登録商標です。 本文中に記載のデータ,グラフおよび実験結果の記述は,特に明示しないかぎり製品の規格値や保証値ではありません。 目次 VOL. 29 2013 ■ 巻頭言 6 コンピュータ雑感………………………………………………………………………………………………… 6 東北大学大学院・工学研究科 マテリアル・開発系 系長 教授 安斎浩一 ■ 論 文 8 〜 45 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストの鋳肌曲げ変形挙動 ……………………………………………………… 8 山浦秀樹・渡邉秀綱・中野英治・島崎真一 補強金物を用いる鋼構造柱梁接合部の耐力評価……………………………………………………………… 14 田中秀宣・高橋秀明 航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の改善……………………………………………………………… 20 上野友典・上原利弘・中務真一 Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響 ………………………………………… 26 横山紳一郎・森英樹 HRC40 プリハードン鋼切削時の工具損傷機構……………………………………………………………… 32 森下佳奈・井上謙一 水素化-不均化-脱水素-再結合(HDDR)プロセスで作製した 微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 …………………………………………………… 38 西内武司・野澤宣介・村田剛志・川田常宏・広沢哲 ■ 新製品紹介 46 〜 61 電気自動車(EV)用アルミニウム合金鋳物部材 …………………………………………………………… 46 オフィス用フリーアクセスフロアシステム…………………………………………………………………… 47 空調用コントローラ……………………………………………………………………………………………… 高耐酸化・耐湿性 Mo 合金膜用タ-ゲット…………………………………………………………………… 単分散導電性微粒子……………………………………………………………………………………………… 太陽電池用インターコネクタ材………………………………………………………………………………… 高負荷圧延対応軸一体式複合超硬ロール……………………………………………………………………… 深彫り加工用小径エンドミル…………………………………………………………………………………… 小径穴あけ高硬度用ドリル……………………………………………………………………………………… 低抵抗ラジアス工具……………………………………………………………………………………………… ステンレス系材料加工用インサート…………………………………………………………………………… Dy 拡散技術を用いた Nd-Fe-B 焼結磁石……………………………………………………………………… 高周波用高集積 LTCC 基板 …………………………………………………………………………………… 高透磁率コモンモードチョークコイル………………………………………………………………………… 小型 NFC アンテナ ……………………………………………………………………………………………… デジタル一眼レフカメラ AF 用小型 GMR センサー ………………………………………………………… 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 ■日立金属グループ主な営業品目 ………………………………………………………………………………… 62 ■日立金属グループ2012 年主な技術受賞 ……………………………………………………………………… 64 4 日立金属技報 Vol. 29(2013) INDEX VOL. 29 2013 ■ Foreword 6 ImpressiononDevelopmentofComputerTechnology……………………………………………………… 6 Koichi ANZAI Professor, Head Department of Materials Science and Engineering Graduate School of Engineering TOHOKU UNIVERSITY ■ Articles 8 〜 45 BendingBehaviorofCastingSurfaceinHighDuctilityAl-MgSystemAlloysforHigh-PressureDieCasting……… 8 Hideki Yamaura • Hidetsuna Watanabe • Hideharu Nakano • Shin-ichi Shimasaki StrengthAnalysisofBeamtoColumnConnectionUsingReinforcingBlock ……………………………………… 14 Hidenori Tanaka • Hideaki Takahashi ImprovementofStrengthPropertiesofHighStrengthStainlessSteelforAircraft …………………………………… 20 Tomonori Ueno • Toshihiro Uehara • Shinichi Nakatsuka EffectsofMicrostructuresonMagneticPropertiesofFe-Ni-MoSemi-HardMagneticMaterial…………………… 26 Shin-ichiro Yokoyama • Hideki Mori DamagingPhenomenaofCuttingToolsUsingPlasticMoldSteelsofHRC40 …………………………………… 32 Kana Morishita • Kenichi Inoue EnhancementofCoercivityinHydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination(HDDR)-Processed Nd-Fe-B-BasedFine-GrainedMagnetwithDiffusionTreatment ………………………………………………… 38 Takeshi Nishiuchi • Noriyuki Nozawa • Takeshi Murata • Tsunehiro Kawata • Satoshi Hirosawa ■ New Products Guide 46 〜 61 AluminumAlloyCastingPartsforElectricVehicles ………………………………………………………… 46 RaisedFloorSystemforOffices ……………………………………………………………………………… 47 ControllerforAirConditioning ………………………………………………………………………………… TargetMaterialsforMoAlloyFilmsofHighOxidationandHighHumidityResistance ………………… MonodispersedConductiveParticles ………………………………………………………………………… InterconnectRibbonforSolarPVModules…………………………………………………………………… CompositeTungstenCarbideRollforHighLoadRolling …………………………………………………… MiniatureEndMillforDeepCutting …………………………………………………………………………… MiniatureDrillforHighHardSteel……………………………………………………………………………… MillingCutterwithRoundInserts ……………………………………………………………………………… InsertforProcessingStainlessSteel ………………………………………………………………………… SinteredNd-Fe-BMagnetsUsingDyDiffusionTechnique ………………………………………………… High-IntegratedLTCCSubstratesforRFFront-End ………………………………………………………… HighPermeabilityCommonModeChokeCoil ……………………………………………………………… SmallSizeChipAntennaforNFC……………………………………………………………………………… SmallTypeGMRSensorforAFofDigitalSingle-LensReflexCamera…………………………………… 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 ■ProductsofHitachiMetalsGroup ……………………………………………………………………………… 62 ■TechnicalAwards2012…………………………………………………………………………………………… 64 日立金属技報 Vol. 29(2013) 5 巻頭言 コンピュータ雑感 東北大学大学院・工学研究科 マテリアル・開発系 系長 教授 安斎 浩一 1. はじめに り短時間でデバッグできたような気もする。紙カー スマートフォン,タブレットの時代になった。こ ドを入れた箱をひっくり返そうものなら大騒ぎで, れらを敢えてコンピュータと呼ぶ人はいないだろ ソースコードリストを眺めながら何時間もかけて紙 う。自動車にだって,冷蔵庫にだって,私が学生の カードの並べ替えをしなければならなかった。 頃使っていた汎用コンピュータの性能をはるかに凌 3. 仕事とコンピュータ ぐコンピュータが使われているのだが,コンピュー 大学を出た後は,縁あって日立製作所に雇っても タのお世話になっているなんて意識することもなく らい日立研究所に配属となった。与えられた初仕事 なった。何にでもコンピュータが組み込まれている は,汎用コンピュータを使った 3 次元凝固解析技術 のが当たり前の時代になった。コンピュータは,人 の開発であった。水力,火力,原子力等に用いら 類が作り出した最大級の発明品の一つであることに れる大物鋳鋼品の信頼性向上や原価低減等にコン 間違いはない。 ピュータを利用しようという仕事だった。金属の 以下,私とコンピュータとの関わりについて思い 凝固現象は大変複雑で,未だにコンピュータで再 つくままに綴ってみたい。 現できるのはごく一部の現象だけである。ところ 2. コンピュータとの出会いの頃 が,私が配属になったグループは,コンピュータで 私が大学に入学した 1974 年は,計算尺に替わっ 伝熱解析するだけで鋳物の致命的な欠陥である引け て電卓が学生レベルでも使われ始めた頃だ。手回し 巣の発生が予測できる技術をすでに開発していた。 式のタイガー計算器も研究室には残っていた時代で 現 在 で は, 世 界 中 の 鋳 造 CAE(Computer Aided ある。大学の計算機センターには汎用コンピュータ Engineering)システムで利用されている,簡便で効 があり,Fortran 言語でプログラム演習をした。紙 果的な NIYAMA パラメータと呼ばれている工学量 カードを入れた重い箱を原付に乗せて,計算機セン を導入したのが最大の特徴だった。この方法は鋳鋼 ターと研究室の間を往復した。TSS(Time Sharing ロールなどの 2 次元凝固問題などにすでに適用され System)端末機が導入されたのは修士の頃で,それ ており,高精度で引け巣欠陥発生予測ができること まではプログラムの一行の情報が紙一枚にパンチ穴 が 判っていた。私の仕事は,その技術をタービンケー で記録された多数の紙カードを計算機センターまで シングのような複雑 3 次元形状をした鋳鋼品にも適 持参して計算を実行する必要があった。計算結果は 用可能にすることだった。大学時代に Fortran 言語 翌日ぐらいに出力され,エラーがあれば新しい紙カー を用いて熱伝導方程式を差分法で解くプログラムを ドをパンチしてプログラムを修正し実行させる。の 作成した経験があったので,いわゆるソルバーの開 んびりした時代ではあったが,計算の実行に時間が 発にはさしたる困難は感じなかったが,解析のため かかる分じっくりと考えてデバッグしたので,今よ の 3 次元形状データをどのように作成し計算結果を 6 日立金属技報 Vol. 29(2013) どのように整理して表示するかは,何ともやっかい に無いものを作り出すための学問であり,想 像 力 と な問題であった。いまでこそ,3 次元 CAD がパソ 創造力が決め手」と,自分なりに表現してみた。人の コンでも利用可能であるが,当時は 2 次元 CAD で 能力のすばらしさは,頭の中に複雑なモデルを構築 さえ研究・開発途中であった。結局,有効なツール (想像)することができることである。さらに,その もないので,鋳造方案用青焼の三面図をにらみなが モデルを実在の物質・材料を用いて現実のものとす ら差分用の要素分割線を図面に引いていき要素分割 る(創造)ことができる,もの作り能力である。加え をしたのだった。 て,この 30 〜 40 年で人間はコンピュータという新 そうこうする内にグラフィック端末の試作機を しい頭を発明・進化させ,その頭の中に仮想現実を 利用できるようになり,計算用 3 次元形状データお 実現しだした。今後,コンピュータ関連技術がいっ よび解析結果を 3 次元 CG で出力できるようになっ たいどこまで進化してゆくのか私には想像もつかな た。MS-DOS を OS とする 16 ビットパーソナル・コ いが,人間の生活に多大な影響を及ぼし続けること ンピュータ(パソコン:PC)が出現したのがその頃 は間違いないだろう。 である。その数年後には,32 ビット PC が登場した。 5. おわりに 汎用機で培った技術を応用して PC で動作する凝固 以上,振り返ってみると,私はその時その時の最 解析システムを試作し,試行錯誤の末に製品化する 新のコンピュータを利用できる環境におり,それら ことができた。当時は,はっきりした CAE の概念 を利用しながら仕事をしてきたことになる。最近は, もなかったが,プリ,ソルバー,ポスト,データベー メールやインターネットに加えてせいぜいワープロ スを一体化した凝固解析システムとしては,世界初 や表計算を使う程度なので,パソコンを使わずス だったと思う。当事出たばかりの C 言語を勉強し マートフォンやタブレットで済ませる機会も増えて ながら,パソコン上で 3 次元 CG を実装していった いる。今私たちは,コンピュータとは呼ばれないコ のは楽しい思い出である。MS-DOS の制約からメモ ンピュータに囲まれて暮らしている。もちろん,京 リーが 512KB しか使えなかったため,計算が実行で のように一部の技術者・科学者が操作する特別なコ きるのは数千要素程度だったが,計算上の工夫に ンピュータも存在するが,身の回りのあらゆるもの より鋳鋼品の信頼性向上,原価低減に大いに利用で にコンピュータが組み込まれている。いまでも紙の きることが判った。今では 64 ビット機となり,数億 本が大好きだが,電子本の便利さも感じている。最 要素をパソコン上で扱うことができるまでになって 近楽しんだ映画は,実際の映像なのか CG なのか区 いる。 別がつかないくらい精巧だ。進歩が著しいインター その後,縁あって大学の教員となり,当事,出初 ネット関連技術は物理的な空間を仮想化し,瞬時に めだったワークステーションを使った鋳造 CAE シ 世界中の情報を入手することができる。初めての場 ステムを産学連携コンソーシアムを通じて開発し, 所へ行っても GPS 機能によりほぼ間違いなく目的地 これも実用化することができたのは大変幸運で幸福 にたどり着けるし,店の検索も簡単にできる。イン なことであった。恩師の新山先生の発案でコンソー ターネット上の膨大な情報は我々の生活を確実に変 シアムを開始した当時は 20 社程度の参加であった 化させ,政治・経済にも多大な影響を及ぼしている。 が,3 年,5 年,7 年と続けてゆく内に最終的には 人間の欲には限りがないだろう。今後は,視覚以外 40 数社にまで仲間が増えた。会社代表でコンソーシ の感覚を仮想化する技術も大いに進歩するのではな アムに参加してくれた技術者の中から,5 名を超え かろうか。音声認識技術と自動翻訳技術との組み合 る工学博士が生まれたのも大変幸福なことであった。 わせは,簡単な会話なら実用レベルに達していると 4. 工学とコンピュータ いえる。各種センサーとコンピュータとの組み合わ 最近,高校生へ工学部を PR する仕事をやる中で, せは,人間の生活を益々豊かにしてくれるだろう。 工学とは何かを自分なりに考える機会があった。ご 一方で,ウィルスが繁殖したり泥棒・詐欺が暗躍し 賛同が得られるかどうか 判らないが, 「工学とは, たりと,負の面でも実社会に似てくるのは如何なも 人類が幸福になるために自然科学を利用して今まで のか,とも思う。 けい 日立金属技報 Vol. 29(2013) 7 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストの鋳肌曲げ変形挙動 Bending Behavior of Casting Surface in High Ductility Al-Mg System Alloys for High-Pressure Die Casting 山浦 秀樹* 渡 邉 秀 綱 ** 中野 英治* 島 崎 真 一 ** Hideki Yamaura Hidetsuna Watanabe Hideharu Nakano Shin-ichi Shimasaki 自動車の車体構造部品を想定した高延性 Al-Mg 系合金ダイカストのミクロ組織や内部品質の状態 と機械的性質,特に実際の部品の変形を想定した鋳肌の曲げ特性への影響について,基礎的な研 究を行った。この合 金は難鋳造材であるため,ダイカスト品には微小ひけ巣が存在する。しかし, 材料自体の延性が高いことで,破断することなく屈曲することがわかった。実際に車体衝撃吸収部 材を試作して圧潰試験を行ったところ,アルミニウム展伸材に匹敵する変形挙動を示すことから,高 延性 Al-Mg 系合金ダイカストは車体部品に使用できる可能性がある。 Basic research on high ductility Al-Mg system alloys for high-pressure die casting, which is assumed to be automobile body structure parts, was studied. The investigation was focused on the effect of micro structure and internal conditions upon mechanical properties, especially bending performance with casting surface, which is the main transformation of actual components. This alloy has such poor castability that micro shrinkage often exists in castings. However, this alloy casting can be flexure without fracture by bending formation due to the high ductility of the material. The compression tests of an impact absorbed parts model from die castings of this alloy were carried out experimentally and the results showed the deformation behavior is equivalent to that of expanded aluminum alloys. Therefore, die casting products with this alloy can be used for automobile body parts. ● Key Word:Al-Mg 系ダイカスト,高延性,車体構造部品 ● Production Code:Aluminum alloy die casting ● R&D Stage:Research マグネシウム合金,CFRP(Carbon Fiber Reinforced 1. 緒 言 Plastic)などを適材適所で組み合わせて,軽量化とコスト 自動車など 輸送機器の燃費向上は,化石燃料の枯渇と二 の両立を狙う車種が登場している4)。どちらの車体も骨格 酸化炭素の増加を抑制するために取り組み続けなければな を有するスペースフレーム構造が主流になるとの報告があ らない課題である。そのための一つの手段として軽量化が り2),スペースフレーム構造では,板以外にも押出し材や 挙げられる。しかし,自動車は安全性や快適性の向上を目 鋳造品が多用されることから2)∼ 4),アルミニウムダイカス 的とした機能が増えているため,むしろ車両重量は増加す トの新たな用途として有望である。 る傾向にあり1),この観点からも軽量化の推進が強く求め このような車体構造部品は,衝突安全性の確保のために られている。軽量化を達成する手段は,部品統合などによ 高延性を有することが必須条件と考えられ,従来のアルミ る構造変更と,より低密度の材料を採用する材料置換のい ニウムダイカスト部品よりも高い伸びや曲げ特性が求めら ずれかで実現されるが,現実には両方の考えを合わせて具 れる。そこで,アルミニウム鋳造合金の主流であるAl-Si系 体化されている1),2)。 でさらなる延性向上を図る取り組みと,材料特性として アルミニウム合金による軽量化はエンジン・駆動系部品 Al-Si系よりも高い延性が見込めるAl-Mg系合金をダイカス への採用が進んでおり,1990年以降には車体そのものをア トに使用する取り組み,それぞれで材料と工法の開発が進 ルミニウム合金とする車種が量産され始めた3)。21世紀に められている5)。 入ると,オールアルミニウム車体とともにマルチマテリア Al-Mg系合金は,成分調整によって熱処理をしなくても ル車体と称して,一般鋼板,ハイテン,アルミニウム合金, 220 MPa以上の高耐力から25 %以上の伸びを示す高延性ま * ** 8 日立金属株式会社 自動車機器事業部 株式会社アルキャスト 日立金属技報 Vol. 29(2013) * ** Automotive Components Division, Hitachi Metals, Ltd. Alcast, Ltd. 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストの鋳肌曲げ変形挙動 で,機械的性質を変化させることが可能な材料である。し かし,Al-Si系共晶合金と比べると,凝固開始温度が高く, φ13 凝固時に体積が膨張するSiを含まない合金であることから, 凝固時の溶湯補給が完全でない限り微小ひけ巣の発生は不 φ8 15.4 可避と考えられ6),7),凝固割れが発生しやすいなど,いわ ゆる難鋳造合金である。したがって,ニアネットシェイプ で鋳造することは困難で,採用例は少ない。 一方で1990年代から高真空ダイカスト技術が大きく進歩 し,溶湯の射出機構も高精度で高速に充填できるように なったことから,鋳造性の欠点を鋳造技術である程度は補 (mm) えるようになってきた5)。実際に日立金属では,種々のダ イカスト合金における内部品質と射出条件の関係を適正化 する手法の研究に取り組み8),9),材料ではAl-Mg 2 Si 擬共 晶組成を基本にして,現在のダイカスト合金の主流である 50 mm JIS-ADC12(Al-Si-Cu系合金)よりも高い耐力を持つダイ カスト用Al-Mg系合金を開発してきた経験がある10)。そこで, さらにAl-Mg系合金を車体部品に適用することを目標に展 図 1 鋳肌付き引張試験片の外観 Fig. 1 Shape of a tensile test piece with casting surface 伸材に匹敵する高延性ダイカストの研究に着手した。 曲げ試験片は,図 2 に示す一般肉厚が 3 mmの舟型形状 本報では,高延性のダイカスト用Al-Mg系合金の選定と のテスト品と車体衝撃吸収部材を模したダイカスト品を鋳 鋳造後のミクロ組織や内部品質の状態と機械的性質,特に 造して,複数の部位から幅 12 mmの試験片を切り出した。 実際の部品の変形を想定した鋳肌の曲げ特性への影響につ 衝撃吸収部材とは,高延性を必要とする車体部品のひとつ いての基礎的な検討と,衝撃吸収部品を想定したモデルの で,これを模して,図 3 に示す胴部の平均肉厚が 2.5 mm 試作・評価結果について述べる。 のカップ状の鋳造品を試作した。 これら試験鋳造品は,型締め力3,430 kNの鋳造機を使用 2. 実験方法 し,射出条件は低速射出速度を0.3 m/s,高速射出速度を2.0 ∼4.0 m/s,鋳造圧力を70∼100 MPaの範囲で適宜調整し 2. 1 供試材 ながら,真空ダイカスト条件で成形した。 Al-Mg系ダイカスト合金の成分と機械的性質の関係を調 べるにあたって,添加元素であるMn,TiはJIS-AC7Aや 主なJ I S -5000系展伸合金の成分を参考にして,それぞれ 0.5 mass%と 0.15 mass%(以下,%は mass%を表す)を 基本組成とした。Mgは 3.0 %から 8.0 %の範囲で基礎調査 を行い,その結果に基づいて以後の組成を決定した。 供試材は,工業用純アルミニウムと純マグネシウム, Al−10 %Mn,Al−5 %Ti母合金を用い,ダイカストの手 (t=3 mm) 20 mm 図 2 舟型形状テスト品の外観 Fig. 2 Shape of a ship form casting 元炉を兼ねた黒鉛るつぼ炉にて狙いの成分に溶製した。溶 Φ105 (mm) 3 解後にフラックスによる除滓とArガス吹き込みによる脱ガ ス処理を実施した。 また,アルミニウム合金は,凝固速度に依存する結晶粒 R10 1.7 の大きさやデンドライトの 2 次枝の間隔が機械的性質に大 に規定されている,金型試験片採取用金型を用いず,すべ 140 きく影響する。したがって本実験では試験片にJIS H5202 てをダイカストで作成した。そして,鋳造品は,鋳肌のま 3.3 態で引張試験や曲げ試験を行うこととした。 引張試験片は,各種試験片を鋳造できる金型にて成形し, ここから図 1 に示す鋳肌付き引張試験片を得た。この試験 片は,溶湯射出時の鋳造圧力が伝達しやすい位置に配置さ れているので,難鋳造合金であっても鋳造欠陥の少ない引 張試験片が容易に得られる。よって概ね合金自体が持つ機 械的性質を把握することができる。 Φ107 Φ116 5 R4 7 まで使用される例が大半を占めることから,鋳肌付きの状 50 mm Φ135 図 3 衝撃吸収部材モデルの形状および鋳造品の外観 Fig. 3 Shape and external appearance of an impact absorbed parts model 日立金属技報 Vol. 29(2013) 9 2. 2 材料評価 (a) (b) 各合金のミクロ組織および内部品質の観察は,光学顕微 鏡,F E - S E M(F i e l d E m i s s i o n - S c a n n i n g E l e c t r o n Micro-scope: 電界放射型走査電子顕微鏡)を用い,晶出物 の面積率は,無腐食状態の光学顕微鏡画像をコンピュータ の画像解析を用いて定量化した。また,金属間化合物の特 50 μm 50 μm 定 に はFE-SEMに 併 設 し て い るEDX分 析(Energy Dispersive X-ray specroscopy:エネルギー分散型X線分 (c) (d) 光法)を使用した。 引張試験は50 kNの電気サーボ型万能試験機にて,引張 速度を2 mm/minとして,室温中で実施した。 曲げ試験は,先端の半径が1.5 mmの治具を4 mm/min の速度で支点間距離 20 mmの治具に押し付け,その過程で 亀裂が入るまでの曲げ角度で評価した。さらに押し付け治 50 μm (e) 50 μm (f) 具の変位が 6. 8 mmに達すると曲げ角度が約 90°になり, 3点曲げではこれ以上に曲げることができない。この場合 は試験片を万力で挟んで徐々に曲げていき,亀裂を目視し た時点の曲げ角度を求めた。 なお,鋳肌に存在する微小ひけ巣の影響に注目した試験 50 μm では,浸透探傷試験の反応の有無で区別してから最大応力 部の位置を決めて実施した。 衝撃収集部材モデルの圧潰試験は,アムスラー型万能試 験機を用い,約20 mm/minの速度で荷重を加えた。 3. 実験結果および考察 50 μm 図 4 Al-Mg 系合金ダイカストのミクロ組織(a)3 % Mg, (b)4 % Mg, (c)5 % Mg ,(d)6 % Mg ,(e)7 % Mg ,(f)8 % Mg Fig. 4 Microstructures of Al-Mg system alloys from tensile test pieces (a) 3 %Mg ,(b) 4 %Mg ,(c) 5 %Mg ,(d) 6 %Mg ,(e) 7 %Mg , (f) 8 %Mg (b) (a) Mg2Si Mg2Si 3. 1 引張特性に及ぼす Mg の影響 表 1 は鋳肌付き試験片の化学成分で,それぞれの無腐食 状態のミクロ組織を図 4 に,その中で 5 %Mgと 8 %Mgの 高倍率の写真を図 5 に示す。この観察によると,Mg濃度 の増加に従ってMg 2 SiやAl-(Mn,Fe)系の金属間化合物の 晶出量が増えており,8 %MgではAl 3 Mg 2の存在も認めら れた10)。 次に本実験のAl-Mg系合金におけるMg濃度と耐力,伸 Al3Mg2 Al(Mn, Fe) 6 10 μm 10 μm 図 5 図 4 の Al-Mg 系合金ダイカスト組織の拡大写真 (a)5 %Mg(b)8 %Mg Fig. 5 Microstructures in high magnification of Fig. 4 (a) 5 % Mg and (b) 8 %Mg びの関係を図 6 に示す10)。各プロットは複数の試料の平均 4 から 6 %の範囲で急激に低下した。その要因は,図 7 に 示す Mgとミクロ組織中の金属間化合物晶出面積の関係か 表 1 鋳肌付き引張試験片の成分(mass%) Table 1 Chemical composition of tensile test pieces with casting surface Mg Mn Ti Si Fe Al 3 %Mg 2.70 0.48 0.16 0.08 0.11 Bal. 4 %Mg 4.22 0.51 0.16 0.08 0.11 Bal. 5 %Mg 5.07 0.53 0.14 0.08 0.11 Bal. 6 %Mg 6.00 0.51 0.14 0.05 0.11 Bal. 7 %Mg 7.17 0.53 0.14 0.05 0.12 Bal. 8 %Mg 8.21 0.53 0.13 0.06 0.15 Bal. 10 日立金属技報 Vol. 29(2013) 260 40 Elongation Proof stress 35 240 30 220 25 200 20 180 15 160 10 140 5 120 Elongation(%) はMgの増加と共に直線的に増加するのに対して,伸びは 280 0.2 % proof stress(MPa) 値で,測定値のばらつきの範囲も示している。結果,耐力 0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 Mg(mass%) 図 6 Al-x %Mg-0.5 %Mn-0.15 %Ti における耐力と伸びに及ぼす Mg の影響 Fig. 6 Effect of Mg for proof stress and elongation in Al−x % Mg−0.5 %Mn−0.15 %Ti 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストの鋳肌曲げ変形挙動 Area fraction of intermetallic compounds(%) 4.0 3.0 2.0 1.0 50 μm 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 Mg(mass%) 図 7 Al-Mg 系合金ダイカストのミクロ組織における Mg と金属間 化合物の面積率の関係 Fig. 7 Relationship between Mg % and area fraction of intermetallic compound in micro structure of Al−Mg alloys from high pressure die−castings 図 8 ダイカスト鋳肌に存在する微小ひけ巣の例 Fig. 8 Example of micro shrinkage on casting surface (a) ① ② 10 mm (b) ら推測すると,金属間化合物の晶出量の増加が 4 %Mgを 超えたあたりから顕著になることで伸びの低下を招いてい ると考えられる。 林の報告によると,車体に適用される主なアルミニウム 合金は,機械的性質の伸びが 2 5 %以上を有するものが選択 3 mm 3.0 されている11)。そこで,本研究の高延性の狙いを25 %以上 として,さらに検討を進めた。 3. 2 鋳肌に露出した微小ひけ巣の影響 2.5 Load(kN) と設定すると,図 6 ,7 の結果からMg 濃度の上限を4.5 % 3 mm (c) ②: Without micro shrinkage on casting surface 2.0 1.5 1.0 曲げ試験は,表 2 に示す成分で舟型形状テスト品(S1) ①: Micro shrinkage on casting surface 0.5 と衝撃吸収部材モデル(M1,M2)を鋳造し,そこから切り 0 出した試験片で実施した。 表 2 舟型形状テスト品(S1)および衝撃吸収部材モデルの成分(M1, M2)(mass%) Table 2 Chemical composition of specimens from ship form casting (S1) and impact absorbed parts model (M1,M2) Mg Mn Ti Si Fe Al S1 4.04 0.44 0.12 0.03 0.08 Bal. M1 4.51 0.53 0.17 0.05 0.08 Bal. M2 3.01 0.47 0.15 0.03 0.08 Bal. 10 20 30 40 50 60 70 80 90 Bending angle(degree) 図 9 曲げ特性に及ぼす鋳肌の影響 (a)浸透探傷試験後の試験片の外観,(b)曲げ試験後の試験片 の外観(c)曲げ試験における荷重−変位曲線 Fig. 9 Effect of casting surface on bending properties (a) external appearance of test piece after penetrant inspection (b) external appearance of test piece after bending tests (c) displacement-load curve of bending tests 曲げ変形は,外周側表面の引張応力が亀裂発生の原因に 3. 3 亀裂発生角度に対する微小ひけ巣分布の影響 なるので,鋳肌付き試料における延性評価を目的とした本 図 10は同一の舟型形状テスト品の異なる部位から切り 研究では,鋳肌の状態が亀裂発生に強く影響することが十 出した試験片での90°曲げ試験結果の一例である。グラフ 分に予想される。試料の鋳肌を実体顕微鏡で観察した例を 上の試験片2は試験中に10 %以上の荷重低下が認められた 図 8 に示す。写真点線の右側の領域に認められる亀甲模様 のに対して試験片1は荷重低下が認められなかった。 は初晶デンドライト間の隙間で,微小ひけ巣が表面に露出 試験後の断面をマクロ観察すると,両者ともに黒色層状 している状態である。そこで,鋳肌の状態と曲げと角度の に微小ひけ巣が認められた(図 11) 。本試料はSiを含まな 関係に注目し,影響を確認した。 い合金である上に,共晶凝固領域を持たない亜共晶組成であ 鋳肌の微小ひけ巣は浸透探傷試験で検出することができ ることから,凝固時の溶湯補給が完全となる鋳造条件を得な るので,探傷試験の反応が認められた部位に最大曲げ応力 い限り微小ひけ巣の発生は不可避と考えられる。同一の鋳造 が負荷されるように荷重をかけた試験と,反応が認めら 品からの切り出し試験片でも部位によりひけの発生傾向が異 れなかった部位に荷重をかけた試験を行った。その結果を なっていたためにこのような結果になったと考えられる。 図 9 に示した。予想どおり,鋳肌のひけ巣の存在は曲げ特 また,断面観察によると,図 11 (a)の試験片1にも微小 性の劣化の原因であることが明らかになった。 な亀裂が発生していたが,表層で伸展が止まっていた。ここ 日立金属技報 Vol. 29(2013) 11 図13に示す。横軸は,板厚に対する外周側の健全層厚さの 3.0 割合(最大で 5 0 %)とし,舟型形状品から切り出した試料 Load(kN) 2.5 (S1)の一次関数で回帰分析をした結果を加えている。4.0 % Test piece1: Crack is barely visible. 2.0 Mgの舟型形状品(S1)と4.5 %Mgの衝撃吸収部材モデル 1.5 (M1)の試験結果は予想どおり,鋳肌からの健全層が厚い 1.0 ほど,亀裂発生角度が大きくなる傾向がある。これは, Test piece2: Cracks occur 一番外側の面になるほど大きな曲げ応力が生じることで, 0.5 健全層が薄いと変形能が小さいために,亀裂が発生すると 0.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 考えられる。そして,図13中(S1)の回帰直線の外挿から, 4.0 %Mgであれば健全層の厚さが 50 %に近づく。すなわち Bending angle (degree) 微小ひけ巣がほとんど存在しなくなれば亀裂なく180°まで (a) Test piece1 (b) Micro shrinkage layer Test piece2 Micro shrinkage layer 1.0 mm 1.0 mm 図 11 図 10 における曲げ試験後の試料断面 Fig. 11 Sections of specimens after bending tests in Fig. 10 屈曲する可能性があると推定できる。 180 Benging angle at crack occer (degree) 図 10 90°曲げ試験の荷重−変位曲線例 Fig. 10 Example of displacement−load curves of 90° bending tests 160 : S1 : M1 : M2 140 120 100 80 60 40 20 0 10 20 30 40 50 Fraction of sound layer from surface(%) から微小ひけ巣の密度が小さければ,材料自体の延性が高い これまで述べたように,曲げ角度は鋳肌に露出した微小 図 13 健全層厚さと亀裂発生角度の関係 Fig. 13 Relationship between the fraction of sound layer thickness and the bending angle until the occurrence of cracking ひけ巣の影響を受けるが,内部にも微小ひけ巣は層状にし 一方,3.0 %Mgで鋳造した衝撃吸収部材モデルから切出 ばしば存在しており,測定結果から亀裂が発生するまでの した試験片M2は,少なくとも健全層の厚さが13 %の状態 曲げ角度は,そのひけ巣の分布に影響されることが予想さ でも破断なく180°まで屈曲した。図14は,屈曲部断面の れる。図 12 はそれらのひけ巣分布を模式的に整理したも マクロ組織の一例で,内部には微小ひけ巣層が存在してい のである。ほとんどすべての薄肉部位で内部にはひけ巣層 るが,破断することなく屈曲していることが確認できる。 ことで亀裂が進まずに変形することがあると推測される。 が存在するが,図 12(a)のように表面近傍にも存在する場 すなわち,表面に露出しない微小ひけ巣は許容して大変形 合に,亀裂発生に至るまでの曲げ角度が小さくなると考え に耐えていることになる。 た。そこで、新たな組織の定義として、鋳肌から連続した 以上の結果から,微小ひけ巣がほとんど存在しないダイ 組織がひけ巣によって区分けされるまでの層を“健全層” カスト品を得ることができれば,4.0 %Mgで大きな曲げ変 とし,この厚さと亀裂発生角度の関係を整理した。ちなみ 形に耐え得る可能性はあるが,難鋳造合金であるこの組成 に図 8 のようなひけが表面に露出した試料の場合,健全層 で,鋳造品の微小ひけ巣を完全に無くしていくことは現実 は存在しない。 的ではない。むしろ,少量の微小ひけ巣を許容して大変形 舟型形状品と衝撃吸収部材モデル,それぞれから切り出 に耐える材料という観点から,3.0 %Mgを採用する方が車 した試験片における,亀裂発生角度と健全層厚さの関係を 体部品に応用できると考えた。 Region of micro shrinkage (near the surface) (a) (a) (b) Sound layer Sound layer (b) Region of micro shrinkage (inside) Region of micro shrinkage (near the surface) Region of micro shrinkage 2 mm 図 12 Al-Mg 合金ダイカストにおける薄肉部断面の模式図 (a)曲げ角度が小さくなる状態(b)曲げ角度が大きくなる状態 Fig. 12 Schematic drawing of thin-walled section in high pressure die casting from Al−Mg alloy (a) state of small bending angle (b) state of large bending angle 12 日立金属技報 Vol. 29(2013) Sound layer 2 mm 図 14 屈曲部断面の微小ひけ巣層 (a)マクロ組織写真,(b)(a)中の四角で囲まれた部位の拡大 Fig. 14 Micro shrinkage layer in section of flexure region (a) macro structure, (b) high magnification photo of the square in (a) 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストの鋳肌曲げ変形挙動 3. 4 衝撃吸収部材モデルの圧潰試験 (4)微小ひけ巣が存在していても,材料固有の延性が高 これまでに日立金属は,衝撃吸収部材モデルの形状を圧 くなることで,曲げ応力に対して破断せずに屈曲する。 潰する際に薄肉部から徐々に屈曲させることで,吸収荷重 (5)Al-3 %Mg 合金で試作した衝撃吸収部材モデルは,圧 を制御することを想定して設計し, JIS-5052合金(Al-Mg-Si 潰試験において破断することなく,屈曲して潰すこと 系合金)のブロックから削り出して製作した同形状の衝撃 吸収部材モデルにて検証してきた12),13)。 ができた。 (6)この衝撃吸収部材モデルの圧潰時の挙動や吸収エネ 今回のAl−3.0 % Mgダイカスト品では,圧潰の過程で非 ルギーは,JIS-5052 展伸合金と同等であることから, 軸対称変形が生じているが,想定どおり胴部は薄肉側から 高延性 Al-Mg 系合金ダイカストは車体部品に使用でき 順番に屈曲が進み,破断することなく蛇腹状に潰れていっ る可能性があると考える。 た(図 15) 。このダイカスト品にも図 14に示すような微小 ひけ巣層が内部には存在しているが,合金固有の延性ゆえ 引用文献 に,破断しなかったと考えられる。 50 mm 図 15 衝撃吸収部材モデルの圧潰過程の様子 Fig. 15 Photos during squashing process of impact absorbed parts model 図 16は JIS5052 合金から削り出したモデルとの圧潰挙 動の比較結果である。両者の荷重−変位線図は,2番目の 屈曲の発生タイミングがずれているものの,吸収エネル ギーを表すグラフ上の横軸と変位曲線で囲まれた面積が概 ね等しいことから,ダイカスト品でも展伸合金の板や押出 し材と同様の変形挙動とエネルギー吸収性能を有する車体 部品を得ることが可能であると考えられる。 200 1) 三部隆宏:アルトピア(カロス出版),38(2008),No.1,p.17 2) 木山 啓,北野泰彦,中尾敬一郎:軽金属,56(2006),p.63 3) 神戸洋史:軽金属,55(2005),p.435 4) 千葉晃司:素形材,50(2009),No.6, p.16 5) 渡邉修一郎:素形材,50(2009),No.9, p.23 6) 高瀬孝夫 : 日本金属学会誌,3(1939),p.53 7) 高瀬孝夫 : 日本金属学会誌,3(1939),p.114 8) 金内良夫:日立金属技報,23(2007),p.27 9) 金内良夫,中野英治,島崎真一:2008 年日本ダイカスト会 議論文集,p.131 10)渡 邉 秀 綱,金内良夫,島崎真一,山浦秀樹,中野英治: 2010 年日本ダイカスト会議論文集,p.109 11)林 央 : 軽金属,55(2005),p.371 12)増田健一,森田茂隆,牛島 邦晴,春山繁之,赤星保浩, 陳 玳珩:自動車技術会学術講演会前刷集 No.48-05(2005), No.20055301 13)森田茂隆,原 雅徳,陳 玳珩,春山繁之,赤星保浩 : 自動 車技術会学術講演会前刷集 No.48-05(2005),No.20055303 Load(kN) Machined sample from JIS5052 block 150 High pressure die-casting from Al-3 % Mg 山浦 秀樹 100 Hideki Yamaura 日立金属株式会社 50 自動車機器事業部 0 素材研究所 0 20 40 60 80 100 博士(工学) ,技術士(金属) Squashing displacement(mm) 図 16 衝撃吸収部材モデルの圧潰試験における荷重−変位曲線 Fig. 16 Displacement−load curve in squashing tests of impact absorbed parts model 渡邉 秀綱 Hidetsuna Watanabe 株式会社アルキャスト 4. 結 言 車体構造部品に使用できるアルミニウム合金ダイカスト 中野 英治 を想定して,高延性Al-Mg系合金ダイカストの曲げ特性を Hideharu Nakano 中心に基礎検討を行った。その結果を以下に示す。 日立金属株式会社 (1)引張試験で,車体部品への採用の目安とした 2 5 % 以 上の伸びが期待できる基本組成は,4.5 %Mg 未満の合 金である。 (2)亜共晶 Al-Mg 系合金のダイカスト品には不可避な微 小ひけ巣領域が存在し,条件によっては鋳肌に露出する。 自動車機器事業部 素材研究所 技術士(金属) 島崎 真一 Shin−ichi Shimasaki 株式会社アルキャスト (3)微小ひけ巣の存在部位が鋳肌から遠い距離になるほ ど,亀裂発生までの曲げ角度は大きくなる。 日立金属技報 Vol. 29(2013) 13 補強金物を用いる鋼構造柱梁接合部の耐力評価 Strength Analysis of Beam to Column Connection Using Reinforcing Block 田中 秀宣* 高橋 秀明* Hidenori Tanaka Hideaki Takahashi 梁段差を有する柱梁接合部において内ダイアフラムを用いず,補強金物「スマートブロック」で柱 の外側を補強する工法を開発した。要素実験により本工法を用いることで角形鋼管の面外強度が 74 ∼ 110 % 向上することを確認した。実大実験および FEM 解析により本工法の終局補強強度を 確認した。 A construction method that reinforces the outside of a column with a reinforcing block, “Smart Block”, without using an inner diaphragm in a panel zone with a beam level difference was developed. Using an element experiment we confirmed that the strength outside the column field improved 74 to 110 % using this construction method. The ultimate reinforced strength of this construction method was checked using an column-beam experiment and FEM analysis. ● Key Word:角形鋼管,柱梁接合部,面外変形 ● Production Code:スマートブロック ● R&D Stage:Development 1. 緒 言 (a) 日本の鉄骨造建築物の多くは,柱に角形鋼管を使用して Joint panel (b) Column Joint panel Column いる。また,建築物は,同一柱梁接合部に梁高さ寸法の異 なる梁を使用し,梁と梁に段差が生じることが多々ある。 Beam Beam Beam Beam この場合,角形鋼管の内部を内ダイアフラムと呼ばれる鋼 Inner diaphragm 板で補強する(図 1 (a)) 。内ダイアフラムは,角形鋼管 の内部に鋼板を溶接するために作業性が悪く,検査工数も 増えるため,一般的な柱梁接合部よりも鉄骨製作時間がか かる。 筆者らは,鉄骨製作時間を減少させるため,梁段差を有 する場合に内ダイアフラムを使用しない柱梁接合部の開発 Through diaphragm Column Smart Block Through diaphragm 図 1 柱梁接合部の概要(a)内ダイアフラム(b)スマートブロック Fig. 1 Skeleton framework of beam to column connection (a) inner diaphragm (b) Smart Block に取り組み,角形鋼管の外側に補強金物「スマートブロッ ク」 (図 2 )を溶接することにより補強することで内ダイ アフラムを省略する柱梁接合部補強工法(図 1 (b),以下 本工法)を開発した。 本開発は,まず,本工法の効果を把握するために補強部 周囲の要素実験を行い,その後,実大実験を行って本工法 を用いた柱梁接合部の構造性能を確認した。また,実験と 併 せ て 有 限 要 素 法 解 析(FEM解 析:Finite Element Method analysis)を行い,実験結果を補足した。 本報は,これらの本工法の開発に伴う実験,解析に関す る報告と補強金物の効果について述べるものである。 * 14 日立機材株式会社 日立金属技報 Vol. 29(2013) * Column 図 2 補強金物 「 スマートブロック 」 Fig. 2 Reinforcing block “Smart Block” Hitachi Metals Techno, Ltd. 補強金物を用いる鋼構造柱梁接合部の耐力評価 表 2 鋼材の材料特性(要素実験) Table 2 Material characteristics (elemental experiment) 2. 要素実験 2.1 実験方法 部品(材質) 降伏点 (MPa) 引張強さ (MPa) 破断伸び (%) 鋼管(BCR295) 407 485 34 験を行った(図 3 ) 。本実験では,角形鋼管柱に梁フラン フランジ(SN490B) 397 521 26 ジを模した鋼板を溶接し,梁フランジと通しダイアフラム ダイアフラム(SN490B) 384 516 27 補強金物(SN490B) 367 518 32 本工法の補強強度を把握する目的で,補強金物による補 強部の周辺のみを取り出した形状の試験体を製作し要素実 の間に補強金物を設置した。 実験パラメータは,補強金物の有無,段差距離,梁フラ ンジ幅であり(表 1 ) ,角形鋼管(□200×200×6)と梁フ 2.2 実験結果・考察 ランジ厚(12 mm)は共通とした。 本実験の梁フランジ引張荷重と鋼管面外変形の関係を 図 4 に示す。同図中の点線が補強金物がない試験体であり, (a) 実線が補強金物を有する試験体である。また,同図中の△ □200×200×6 印は各試験体の終局強度時を表し,右縦軸は補強金物がな い試験体の終局強度を1とするときの荷重比である。 (a) 230 (b) (c) Column Flange Smart Block 3.5 3 10-A-10 300 2.5 2 200 1.5 1 100 10-N-10 0.5 L Through diaphragm 380 12 Flange Tension P(kN) Fixed base Column 4 400 Flange 0 0 Smart Block Load ratio by“10-N-10” B Tension(P) 2 4 6 8 10 12 14 Deformation δ(mm) (単位 mm) (b) 表 1 試験体一覧(要素実験) Table 1 List of specimens (elemental experiment) 10-A-5 15-A-10 10-N-10 10-N-5 15-N-10 100 150 100 150 段差距離 L (mm) スマート ブロック補強 2.5 10-A-5 2 300 1.5 200 1 10-N-5 100 0.5 100 50 0 あり 0 2 4 8 10 12 14 Deformation δ(mm) 100 (c) 100 50 6 なし 100 角形鋼管には国土交通大臣認定規格の冷間成形角形鋼管 BCR295を用い,梁フランジはJISに規定される一般構造用 圧延鋼材SS 400,補強金物は建築構造用圧延鋼材SN490B 400 3 15-A-10 2.5 300 2 1.5 200 15-N-10 1 100 0.5 を用いた。これらの材料特性を表 2 に示す。また,梁フラ ンジは角形鋼管の降伏に先行して塑性化しない板厚とし た。 加力は,角形鋼管の一端を固定し梁フランジに水平方向 の引張力を作用させる一方向単調載荷とし,角形鋼管の塑 性化を確認後,所定の変形まで実験を進めた。 測定は,載荷荷重と鋼管(梁フランジ接合位置)の面外 変形について行った。 Load ratio by“15-N-15” 10-A-10 フランジ幅 B (mm) Tension P(kN) 試験体 Tension P(kN) 400 Load ratio by“10-N-5” 図 3 試験体(要素実験)(a)上面(b)正面(c)側面 Fig. 3 Specimen (elemental experiment) (a) upper (b) front (c) side 0 0 2 4 6 8 10 12 14 Deformation δ(mm) 図 4 引張荷重−変形関係(要素実験) (a) “B=100,L=100”の場 合(b) “B=100,L=50”の場合(c) “B=150,L=100”の場合 Fig. 4 Tension−deformation relationships (elemental experiment) (a) case“B=100, L=100” (b) case“B=100, L=50” (c) case“B=150, L=100” 日立金属技報 Vol. 29(2013) 15 終局強度は,荷重−変形関係の接線剛性が初期剛性の Axial load 1/6となる点とした1)。 Horizontal load 段差距離が小さい試験体,10 -A-5と10-N-5は,鋼管面にフ (−) 940 (+) ランジ幅方向に沿ったせん断亀裂が発生し荷重が低下した Column が, その他の試験体では鋼管にせん断亀裂が発生しなかった。 補強金物を用いることにより,強度と剛性は向上する。 2,350 い場合,梁フランジ幅が大きい場合のほうが終局強度は大 Smart Block Roller 150 験体の終局強度の1.74∼2.10倍である。また,段差が小さ 350 補強金物を有する試験体の終局強度は,補強金物がない試 Beam 補強金物を有する試験体の終局強度の実験値(eP)と計 940 きくなった。 Through diaphragm 算値(cP)の比較を表 3 に示す。終局強度の計算値は,フ ランジ引張力の外部仕事と鋼管面外変形の内部エネルギー Pin (単位 mm) のつり合いによる降伏線理論2)に基づく(1)式により算 出した。 2(bc−2y) bc−2y+B 4t π・y π・y cP= + + + + x2 x3 y x1 x2 { π(x1+x2) t f・bσy 2 (1) + M0+ (y−m) y y } :スマートブロック幅(50 mm) t :tf + tc tf:フランジ厚 tc:鋼管厚 cσy:鋼管の降伏点 を補強した。また,比較のために梁降伏が先行する試験体 試験体 2S-0 :鋼管平坦部端−フランジ降伏域端部距離(表 3 参照) m :鋼管平坦部端−フランジ側端距離 柱 梁 備考 □ 200×200×12 H 200×100×5.5×8 2S-C 段差150 mm 圧縮軸力(0.35 Ny※) 4S-O □ 400×400×19 H 500×200×9×19 段差200 mm bσy :フランジの降伏点 2S-y 梁降伏 □ 200×200×12 H 200×100×5.5×8 梁降伏+内ダイアフラム 2D-y 表 3 終局強度(要素実験) Table 3 Ultimate strength (elemental experiment) 試験体 柱軸力とし,鋼管の面外変形が先行するように梁フランジ 表 4 試験体一覧(実大実験) Table 4 List of specimens (beam to column connection experiment) x1,x2,x3:降伏線鉛直方向距離(表 3 参照) y 試験体の一覧を表 4 に示す。実験パラメータは柱サイズ, と内ダイアフラムを用いる試験体の実験も行った。 bc :鋼管平坦部幅(170 mm) B M0 :tc2/4・cσy 図 5 試験体例(2S-0) Fig. 5 Example of specimen (2S-0) ※:Ny:柱降状軸力 x1 x2 x3 y eP cP eP/cP (mm) (mm) (mm) (mm) (kN) (kN) 10−A−10 33.5 56.9 4.29 32.6 233.1 226.9 1.03 10−A−5 18.5 49.7 4.54 40.6 292.4 300.5 0.97 15−A−10 24.4 41.4 17.1 16.6 253.7 263.8 0.96 実験値と計算値の比(eP/cP)は,0.96∼1.03(平均0.99) であり,計算値は本実験の結果にほぼ一致した。したがっ て,補強金物を有する試験体の終局強度の推測には, (1) 式が有効である。 3. 柱梁接合部実大実験 角形鋼管にはBCR295を用い, 梁フランジにはSS400 (4S-0 以外)またはSN490B(4S-0) , 補強金物はSN490Bを用いた。 実験に使用した鋼材の材料特性を表 5 に示す。 表 5 鋼材の材料特性(実大実験) Table 5 Material characteristics (beam to column connection experiment) 降伏点 (MPa) 引張強さ (MPa) 破断伸び (%) 柱(4S−0以外) 314 483 41 柱(4S−0) 316 456 45 梁(4S−0以外) 346 464 30 部品 梁(4S−0) 360 526 28 3.1 実験方法 補強金物(4S−0以外) 381 529 38 本工法を用いる柱梁接合部を有する鉄骨骨組の強度や変 補強金物(4S−0) 408 566 37 形性能を把握する目的で柱梁接合部実大実験を行った。本 実験は, 柱に片持ち梁を接合するトの字形試験体を用い(図 加力は,正載荷と負載荷(下フランジが引張となる場合 5) ,柱下端部をピン接合,梁端部をローラー支持し,柱上 を正)でRは1/50radまで変形後,正載荷側で1/20radまで 端部に水平力を与えることにより柱梁接合部に曲げモーメ 変形させた。ここで,Rは梁部材角(柱面から距離Lの梁変 ントを発生させる形式とした。 位をLで除した値。本件ではL=500 mm)とする。 16 日立金属技報 Vol. 29(2013) 補強金物を用いる鋼構造柱梁接合部の耐力評価 先行させる設計を行えば,本工法は内ダイアフラムを用い 3.2 実験結果・考察 る場合と同等の強度と剛性を有すると考える。 柱梁接合部側の梁端部の曲げモーメント(M)と梁部材 角(R) の 関 係 を 図 6 に 示 す。 図 6 の(a) ∼(c) 中 の 4. 補強強度 cMは,後述の(2)式により算出した補強強度の計算値で あり,図 6 の(d)中のbMpは梁の全塑性モーメントの計 4.1 FEM 解析 算値である。また,図 6 中の△印は各試験体の終局強度時 実大実験の結果を補足する目的で柱梁接合部モデルの の点である(2S-yと2D-yは梁端部の終局強度時の点) 。 FEM解析を行った。 解析モデルのパラメータは,柱サイズ(梁サイズ,梁段 c M= c P・db (2) 差) , 柱軸力とした (表 6 ) 。解析モデルは片持ち梁形状とし, c P: (1)式による終局引張強度 柱下端をピン接合,柱上部をローラー支持し,柱上端に柱 db:梁のフランジ中心間距離 軸力を作用させ,梁端部にせん断力を一方向単調載荷する 終局強度時の△印はcMの直線近傍に存在し, (2)式によ 表 6 解析モデル一覧 Table 6 List of analysis model る計算値が補強強度を概ね推測していることがわかる。 2S-0と2S-Cは,鋼管の塑性化を確認後に下側の梁フラン ジに亀裂が発生した。また,2S-0と2S-Cの終局強度の差は モデル 柱 T30−10N ほとんどなく,本実験範囲では柱軸力が補強強度に影響を T30−10C 与えなかった。 T40−20N 4S-0は,補強金物の溶接を必要溶接量の1/2程度としてい T40−20C たため,実験中に補強金物溶接部に亀裂が発生した(図 6 T50−20N の(c)中の×印) 。 T50−20C 2S-yと2D-yのM−R関係はほとんど差がなく,梁降伏を (a) 100 □ 400×400×19 H 500×200×9×19 200 0 0.5 Ny 0 □ 500×500×19 H 500×200×12×19 200 0.5 Ny 150 cM 100 50 0 −50 −100 −150 −3 −2 −1 0 1 2 3 4 5 50 0 −50 −100 −150 −3 6 cM 100 −2 −1 Rotation R(×10−2 rad.) 0 1 2 3 4 5 6 Rotation R(×10−2 rad.) (d) 150 1,000 600 Moment M(kN・m) 800 Moment M(kN・m) 0 0.5 Ny (b) Moment M(kN・m) Moment M(kN・m) □ 300×300×12 H 350×200×9×16 ※:Ny:柱降状軸力 150 (c) 梁段差 柱軸力 (mm) 梁 cM 400 200 0 −200 −400 −600 2S-y 100 bMp 50 0 −50 −100 2D-y −800 −1,000 −3 −2 −1 0 1 2 3 −2 Rotation R(×10 4 rad.) 5 6 −150 −3 −2 −1 0 1 2 3 −2 Rotation R(×10 4 5 6 rad.) 図 6 モーメント−変形角関係(実大実験)(a)2S-0(b)2S-C(c)4S-0(d)2S-y&2D-y Fig. 6 Moment-rotation relationships (beam to column connection experiment) (a) 2S-0 (b) 2S-C (c) 4S-0 (d) 2S-y&2D-y 日立金属技報 Vol. 29(2013) 17 (a) した。各鋼材は,降伏点と引張強さが規格下限値である Moment M(kN・m) 方 法 と し た( 図 7 ) 。 柱 の 材 質 はBCR295, 梁 の 材 質 は SS4 00,ダイアフラムおよび補強金物の材質はSN490Bと bi-linear形の応力−ひずみ関係を有する材料とした。 Axial load Roller 1,000 T30-10N 800 600 cM 400 T30-10C 200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Deformation δ(mm) Beam Through diaphragm Smart Block (b) Moment M(kN・m) Column T40-20N 1,500 cM 1,000 T40-20C 500 0 Shearing load 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Deformation δ(mm) Column Pin 図 7 解析モデル例(T30-10C) Fig. 7 Example of analysis model (T30-10C) Moment M(kN・m) (c) T50-20N 1,500 cM 1,000 T50-20C 500 0 FEM解析の梁端部の曲げモーメント(M)と梁接合面の 1 2 面外変形(δ)の関係を図 8 に示す。同図中の△印は終局強 度時であり, cMは(2)式による終局強度の計算値である。 終局強度時の△印は,全てのモデルでcMの直線近傍に 存在し,柱サイズに関係なく(2)式による計算値が終局強 度と概ね一致していることがわかる。 3 4 5 6 7 8 9 10 Deformation δ(mm) 図 8 モーメント−変形関係(FEM)(a)T30-10N&T30-10C (b)T40-20N&T40-20C(c)T50-20N&T50-20C Fig. 8 Moment-deformation relationships (FEM) (a) T30-10N&T3010C (b) T40-20N&T40-20C (c) T50-20N&T50-20C 柱軸力の有無による終局強度時のモーメント,変形(△ 印位置)の差は小さく,柱軸力が本工法の終局強度に与え る影響は小さいと考える。 1,400 係の差は小さく,本解析の柱軸力範囲では,柱軸力がM-δ 1,200 関係に与える影響は小さいと考えられる。 4.2 終局強度 実大実験とFEM解析の終局強度(eM,実験値または解 析値)と(2)式による計算値(cM)を比較して図 9 に示す。 実験値は●印,解析値は○印で示す。 Ex perimental bending moment e M (kN・m) また,柱軸力が作用する場合と作用しない場合のM-δ関 T50-20N T50-20C 1,000 800 600 eM=1.2cM T30-10N&T30-10C eM=0.8cM 4S-0 eM=cM 400 実験値・解析値と計算値の比(eM/cM)は, 0.99∼1.19(平 200 均1.08)であり,計算値は柱サイズや梁段差が異なる試験 0 体(解析モデル)の実験値,解析値とほぼ一致している。 T40-20N&T40-20C Experiment Analysis 2S-0&2S-C 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 Ca lculated bending moment cM(kN・m) このことから, (2)式による計算値は,本工法の終局補強 強度の推測に有効であることがわかる。 18 日立金属技報 Vol. 29(2013) 図 9 終局曲げモーメントの計算値と実験値 Fig. 9 Calculated and experimental ultimate bending moment 補強金物を用いる鋼構造柱梁接合部の耐力評価 5. 結 言 引用文献 梁段差を有する柱梁接合部において内ダイアフラムを用 1) 独立行政法人建築研究所,社団法人日本鉄鋼連盟:鋼構造 いない補強工法の開発にあたり,補強部要素実験や柱梁接 建築物の構造性能評価試験法に関する研究委員会報告書, 2002.4 2) 森田耕次ら:箱形断面柱−剛性梁無補強接合部の力学挙動 に 関 する 研 究, 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 集,No.463, pp.115-124,1994.9 合部実大実験,および柱梁接合部モデルのFEM解析を行っ た。これらの実験結果,解析結果から柱梁接合部の補強工 法に関する次の知見が得られた。 (1)角形鋼管の外側を補強金物で補強することにより鋼 管面外変形の終局強度と剛性は増加する。 (2)補強金物による柱梁接合部の終局補強強度は,(2) 式により推測することができる。 (3)柱軸力が 0.5Ny 以下の範囲(Ny:柱降伏軸耐力)では, 田中 秀宣 Hidenori Tanaka 柱軸力が補強部の終局強度や剛性に与える影響は小さ 日立機材株式会社 い。 テクニカルセンター 博士(工学) (4)梁端部に対して適切に補強された柱梁接合部は,内 ダイアフラムを用いる柱梁接合部を同等の構造性能を 有する。 高橋 秀明 Hideaki Takahashi 日立機材株式会社 テクニカルセンター 日立金属技報 Vol. 29(2013) 19 航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の改善 Improvement of Strength Properties of High Strength Stainless Steel for Aircraft 上野 友典* 上原 利弘* 中 務 真 一 ** Tomonori Ueno Toshihiro Uehara Shinichi Nakatsuka 航空機の降着部材に適した高強度ステンレス鋼の強度特性を改善した。マルテンサイト系析出強 化型ステンレス鋼に着目し,Mo 添加量,Ni 添加量の検討および析出強化元素である Al および Ti の添加比率の検討を行った。その結果,航空機の降着部材に適した強度特性(引張強さが 1,850 MPa 以上),破壊じん性(約 60 MPa √m)と高耐食性を併せ持つ高強度ステンレス鋼の組成を明 らかにした。 A high strength stainless steel that is suitable for aircraft landing gear systems was improved. We focused on precipitation hardening martensitic stainless steel and optimized the Mo content, Ni content and ratio between Al and Ti as precipitation strengthening elements. The stainless steel improvement objective was to obtain a high tensile strength (not less than 1,850 MPa), fracture toughness(about 60 MPa √m)and good anti-corrosion properties for aircraft landing gear systems. ● Key Word:高強度ステンレス鋼,航空機,降着装置 ● Production Code:なし ● R&D Stage:Development 1. 緒 言 2. 航空機脚用材料の特性および目標 航空機降着装置の構造部材は重量軽減と小型化を図るた 代表的な航空機降着装置材料3)を表 1 に示す。表 1 に示 め高強度を有する低合金鋼が中心となって構造部材を構成 す300M鋼や4340鋼といった低合金鋼は,強度特性に優れ してきた。これらの低合金鋼は耐食性を有しないことから, るが十分な耐食性を得るためにはメッキが行われて使用さ 実機使用に伴う腐食,応力腐食破壊や水素脆化破壊が原因 れる。一方,ステンレス鋼である15 - 5PH等は,優れた耐食 となる破損を抑制するため,高強度鋼の表面に耐食性の高 性を有するが,低合金鋼と比較すると強度特性がやや劣る いメッキ(チタン−カドミウムメッキ等)を施すことによっ ことがわかる。 て耐食性を高める方策を採っている1)。このような状況に おいて,降着装置メーカーからの要求として,降着装置部 材に求められる高強度・高じん性に加えて高い耐食性を付 度ステンレス鋼の強度特性の改善を行った。 20 日立金属技報 Vol. 29(2013) * ** ∼ ∼ ∼ 1,040∼1,170 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 1,520∼1,660 ∼ 社団法人 日本航空宇宙工業会の委託研究にて航空機用高強 1,930∼2,070 ∼ 密工業株式会社と日立金属株式会社は,平成21∼22年度の 1,790∼1,930 ∼ からのより高強度のステンレス鋼の要求に対応し,住友精 Strength level (MPa) ∼ 低く,さらに航空機機体の軽量化に伴う,降着装置メーカー ∼ た特性を有する高強度ステンレス鋼であるが,耐力がやや ∼ ステンレス鋼HSL ®180の開発を行った2)。HSL180は優れ ∼ 110 MPa√mを超える破壊じん性を有する航空機用高強度 ∼ 業会の委託研究で引張強さが1,760 MPaを超え,さらに Low-alloy steel 属株式会社は,平成元∼3年度の社団法人 日本航空宇宙工 Stainless steel このような背景の中,住友精密工業株式会社と日立金 日立金属株式会社 特殊鋼事業部 住友精密工業株式会社 Chemical composition (mass%) C Cu Ni Cr Mo V Mn Si others 0.38 0.60 0.20 1.65 0.70 0.20 P: 0.010max 4340 − − S: 0.010max 0.43 0.90 0.35 2.00 0.90 0.30 0.40 0.60 1.45 1.65 0.70 0.30 0.05 P: 0.010max 300M − S: 0.010max 0.45 0.90 1.80 2.00 0.95 0.50 0.10 0.28 0.65 0.15 1.65 0.75 0.35 0.05 P: 0.015max 4330V − S: 0.015max 0.33 1.00 0.35 2.00 1.00 0.50 0.10 3.00 3.00 15.0 P: 0.040max 0.07 1.00 1.00 0.50 17-4PH − S: 0.030max max max max max 5.00 17.5 5.00 3.50 14.0 2.50 P: 0.030max 0.07 1.00 1.00 0.50 15-5PH − S: 0.015max max max max max 5.50 15.5 4.50 Steel grade 与した材料の開発が挙げられる。 * ** 表 1 代表的な航空機降着装置材料 Table 1 Typical materials used for aircraft landing gear 1,170∼1,310 Specialty Steel Division,Hitachi Metals,Ltd. Sumitomo Precision Products Co.,Ltd. 航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の改善 そこで,航空機降着装置に適用する低合金鋼のステンレ ス鋼への置き換えを目的に低合金鋼並の強度特性を有する Vacuum induction melting ステンレス鋼として,0.2 %耐力が1,700 MPa以上,引張強 さが1,850 MPa以上の強度特性に加えて,破壊じん性が60 Casting MPa√m以上,1,000 hの塩水噴霧試験で錆が発生しない高 強度ステンレス鋼を目標とした強度特性の改善を行った。 一般的に,航空機用に使用される高強度のステンレス鋼 Hot forging としては, 析出強化型ステンレス鋼4)が知られている。特に, マルテンサイト系の析出強化型ステンレス鋼は,高強度ス テンレス鋼として有望である。マルテンサイト系の析出強 Heat treatment 化型ステンレス鋼は,鉄(Fe)を主成分として,耐食性を Solution heat treatment 向上させるためのクロム(Cr) ,固溶化処理温度でオース Sub-zero treatment テナイト相を安定にするニッケル(Ni)やコバルト(Co) , Aging treatment 時効処理において析出強化をもたらす析出強化元素が主成 分となる。析出強化元素には,Ni等と金属間化合物を形成 することにより析出強化がなされる元素(例えば,アルミ Test specimen ニウム(Al)やチタン(Ti) )と,析出強化元素が金属相 として析出することにより析出強化がなされる元素(例え ば,銅(Cu) )がある。これらに加えて,耐食性,強度等 図 1 試験片作製方法 Fig. 1 Manufacturing process for test pieces の改善のために,微量添加元素が添加され特性の改善がな される。ただし,添加元素量のバランスが悪いと固溶化処 0.2 %耐力,引張強さ,伸びおよび絞りを測定した。 理温度にてδフェライトが残存する場合や,マルテンサイ 破壊じん性試験は,試験片サイズ15 mm×36 mm×38.5 ト変態開始温度が低くなることより,固溶化処理後にオー mmのコンパクトテンション型試験片(ノッチはT方向) ステナイトが残存する場合があり,このようなδフェライ を用いて, ASTM E399に基づいて実施した。耐食性評価は, トや残留オーステナイトの存在はマルテンサイト系析出強 塩水噴霧試験をJIS(日本工業規格)Z2371に基づいて, 化型のステンレス鋼の特性を劣化する場合があるため,極 35 ℃の5 %塩水噴霧の条件で実施した。試験片サイズは 力低減することが望ましい。 5 mm×18 mm×50 mm,仕上げは#800研磨紙でペーパー 本研究では,航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の 研磨とした。 改善のため析出強化元素としてAlとTiを複合添加した Fe-Cr-Ni-Co-Mo-Al-Ti系でのマルテンサイト系析出強化 4. 実験結果 型ステンレス鋼を検討することとした。 4. 1 第一回検討(Mo 添加量の検討) 3. 実験方法 Mo添加量の検討として,Mo以外の成分は固定し,Mo 添加量を質量比で0 %(以下,mass%と表記) ,0.5 mass% 3. 1 試験片作製 および1.0 mass%とした第一回検討材を作製した。なお, 検討合金の狙い成分に秤量した原材料を真空誘導溶解炉 Crは13.5 mass%,Niは9.0 mass%,Coは3.0 mass%とし, にて溶解後,約10 kgのインゴットを鋳型鋳造法により作 析出強化元素としてAlを0.4 mass%およびTiを1.75 mass% 製した。作製したインゴットを1,100 ℃に加熱した後,熱 添加した。作製した各合金の成分分析値を表 2 に示す。 間鍛造を行い厚さ20 mm×幅45 mm×長さ1,000 mmの素 各合金の固溶化処理として,1,000 ℃で1時間保持した後, 材を作製した。鍛造を施した素材に,必要な熱処理を行っ 油冷を行った。油冷後,サブゼロ処理(サブゼロ処理は, た上,機械加工により各種試験片形状に仕上げた。本研究 0 ℃以下の温度へ冷却する処理)として,−75 ℃で2 時間 に用いた試験片作製方法を図 1 に示す。 保持した。各合金について固溶化処理後の硬度,結晶粒度 番号および残留オーステナイト量の評価を行った。各合金 3. 2 試験方法 本研究では,必要に応じてミクロ組織観察,残留オース テナイト量,硬度,常温引張試験,破壊じん性および耐食 試験で材料特性の評価を行った。 常温引張試験は,ASTM(the American Society for Testing and Materials)E8に基づいて,平行部直径 6.35 m m,ゲージ長さ25.4 m mの丸棒試験片(圧延方向より 試験片を採取)を用いて,インストロン型試験機にて行い, 表 2 第一回検討材の成分分析値 Table 2 Chemical compositions of the first trial alloys Alloy C P S Ni No. Alloy 0.0041 0.013 0.002 8.94 1-1 Alloy 0.0066 0.013 0.002 8.98 1-2 Alloy 0.0051 0.012 0.002 8.99 1-3 Co Cr Mo Al Ti 3.02 13.33 <0.01 0.39 1.76 3.02 13.37 0.51 0.40 1.76 3.02 13.35 1.02 0.42 1.75 (mass%) 日立金属技報 Vol. 29(2013) 21 の硬度,結晶粒度番号および残留オーステナイトをそれぞ の固溶化処理後のミクロ組織を図 3 に示す。図 2 より,固 号および残留オーステナイト量はほぼ同等で,Mo添加量 の増加に伴い,硬度はやや軟化する傾向が見られる。なお, ミクロ組織観察より,すべての合金においてδフェライト の存在は確認されなかった。 Hardness(HV) 360 Grain size No. Retained austenite 12 Alloy 1-1 10 Alloy1-2 345 8 Alloy1-3 330 6 4 315 2 300 0 Grain size No.(−) Retained austenite(%) Hardness 0 1.0 0.5 Mo(mass%) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) 溶化処理後の素材は,Mo添加量にかかわらず結晶粒度番 2,000 Alloy 1-1 1,900 Alloy1-2 100 Alloy1-3 90 1,800 80 1,700 70 1,600 60 1,500 50 1,400 40 1,300 30 1,200 20 1,100 10 1,000 0 0 0.5 1.0 Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) れ図 2 に示す。また,代表的なミクロ組織として合金1-2 Mo(mass%) 図 4 時効処理を行った第一回検討材の評価結果 Fig. 4 Evaluation results of aged first trial alloys が抑制され延性が改善されることが報告されている5)。 4. 2 第二回検討(Al および Ti 添加比率の検討) 析出強化元素としてのAlおよびTiの添加比率の検討とし 図 2 固溶化処理を行った第一回検討材の評価結果 Fig. 2 Evaluation results of the solution treated first trial alloys て,AlとTi以外の成分は固定し,AlおよびTiの添加量を, AlおよびTiの総添加量は3原子%としてAl/Ti比率(すなわ ちAl(mass%)/Ti(mass%) )を3水準に変化させた第二 回 検 討 材 を 作 製 し た。 な お,Crは11 mass%,Niは9 mass%,Coは3 mass%,Moは2 mass%とした。作製した 各合金の成分分析値を表 3 に示す。 表 3 第二回検討材の成分分析値 Table 3 Chemical compositions of the second trial alloys 100 μm 図 3 固溶化処理を行った合金 1-2 のミクロ組織 Fig. 3 Microstructure of solution treated alloy 1-2 次に,固溶化処理(1,000 ℃で1時間保持後油冷)後に Alloy C P S Ni No. Alloy 0.0086 0.012 0.002 9.00 2-1 Alloy 0.0087 0.012 0.002 9.05 2-2 Alloy 0.0085 0.013 0.002 8.94 2-3 Co Cr Mo Al Ti 3.02 11.08 2.07 0.36 2.03 2.94 11.04 2.04 0.71 1.48 2.94 10.91 2.02 0.87 1.18 (mass%) −75 ℃で2時間保持のサブゼロ処理を行った各合金に時効 各合金の固溶化処理として,950 ℃で1時間保持した後, 処理を行った。時効処理として, 510 ℃で16時間保持した後, 油冷を行った。油冷後,サブゼロ処理として,−75 ℃で2 空冷を行った。時効処理材から常温引張試験および破壊じ 時間保持した。固溶化処理後の硬度,結晶粒度番号および ん性評価を実施した。Mo添加量と引張特性および破壊じ 残留オーステナイト量の評価を行った。各合金の硬度,結 ん性の関係を図 4 に示す。図 4 より,同一の熱処理条件で 晶粒度番号および残留オーステナイト量をそれぞれ図 5 に は,Mo添加量が増加するにつれて,0.2 %耐力はやや低下 示す。また,代表的なミクロ組織として合金2-2の固溶化処 する傾向が確認されるが,伸び,絞りおよび破壊じん性が 理後のミクロ組織を図 6 に示す。図 5 より,固溶化処理後 向上することが確認された。 の素材は,結晶粒度番号および残留オーステナイト量はほ この結果より,検討しているFe-Ni-Cr-Mo-Al-Ti系のマ ぼ同等で,Al/Ti比率の増加に伴い,硬度はやや軟化する ルテンサイト系析出強化型ステンレス鋼において,適量の 傾向が見られる。なお,ミクロ組織観察より,すべての合 Mo添加は,延性および破壊じん性の改善に有効であると 金においてδフェライトの存在は確認されなかった。 考えられる。 次に,固溶化処理(950 ℃で1時間保持後油冷)後に−75 ℃ このようなMo添加による延性改善効果は,強化機構と で2時間保持のサブゼロ処理を行った各合金に時効処理を して析出強化を用いるマルエージング鋼において2 mass% 行った。時効処理条件として520 ℃で16時間保持した後, 程度のMo添加により析出強化(Ni3Ti)相の粒界優先析出 空冷を行った。時効処理材から常温引張試験および破壊じ 22 日立金属技報 Vol. 29(2013) 航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の改善 Grain size No. Retained austenite 12 Hardness(HV) 360 10 345 Alloy2-1 Alloy2-2 Alloy2-3 8 6 330 4 315 2 300 0 0.25 0.5 Grain size No.(−) Retained austenite(%) Hardness 0 1.00 0.75 4. 3 第三回検討(Ni 量の検討) Ni量の影響を確認するため,特性のバランスが良かった 合金2-2を基準としてNi量を変化させた2組成を選定し第三 回検討材を作製した。作製した各合金の成分分析値を表 4 に示す。なお,Cr量および析出強化元素(AlおよびTi)量 は固定した。ただし,Ni量を増加させると残留オーステナ イトが増加することが予想されるため,Mo量およびCo量 は, Ni量に合わせて調整をした。そのため, 第三回検討では, Ni量以外の影響も含まれている。 Al(mass%)/Ti(mass%)ratio 図 5 固溶化処理を行った第二回検討材の評価結果 Fig. 5 Evaluation results of the solution treated second trial alloys 表 4 第三回検討材の成分分析値 Table 4 Chemical compositions of the third trial alloys Alloy C P S Ni Co Cr Mo No. Alloy 0.0033 0.013 0.001 11,73 0.01 10.97 1.02 3-1 Alloy 0.0093 0.012 0.002 10.01 0.01 11.04 2.06 3-2 Alloy 0.0087 0.012 0.002 9.05 2.94 11.04 2.04 2-2 Al Ti 0.70 1.44 0.73 1.47 0.71 1.48 (mass%) 各合金の固溶化処理として,950 ℃で1時間保持した後, 油冷を行った。油冷後,サブゼロ処理として,−75 ℃で2 時間保持した。固溶化処理後の硬度,結晶粒度番号および 100 μm 残留オーステナイト量の評価を行った。各合金の硬度,結 図 6 固溶化処理を行った合金 2-2 のミクロ組織 Fig. 6 Microstructure of solution treated alloy 2-2 晶粒度番号および残留オーステナイト量をそれぞれ図 8 に 示す。図 8 より,残留オーステナイトはNi量が多い合金で ん性評価を実施した。Al/Ti比率と引張特性および破壊じ は高くなり,Ni量が11.73 %である合金3-1では10 %程度の ん性の関係を図 7 に示す。 残留オーステナイトが確認される。なお,ミクロ組織観察 同一の熱処理条件では,Al/Ti比率の増加に伴い,引張 より,すべての合金においてδフェライトの存在は確認さ 強さおよび0.2 %耐力は低下するが,伸び,絞りおよび破壊 れなかった。 じん性は向上することが確認された。 Hardness ルテンサイト系析出強化型ステンレス鋼において,Al/Ti 比率が0.5程度で強度と延性のバランスが良好であると考 2,000 Alloy2-1 1,900 Alloy2-2 Alloy2-3 100 90 1,800 80 1,700 70 1,600 60 1,500 50 1,400 40 1,300 30 1,200 20 1,100 10 1,000 0 0 0.25 0.50 0.75 1.00 Al(mass%)/Ti(mass%)ratio 図 7 時効処理を行った第二回検討材の評価結果 Fig. 7 Evaluation results of the aged second trial alloys Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) Retained austenite 12 360 Hardness(HV) えられる。 Grain size No. Alloy3-1 10 345 Alloy2-2 8 Alloy3-2 6 330 4 315 300 8.5 2 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 Grain size No.(−) Retained austenite(%) この結果より,検討しているFe-Ni-Cr-Mo-Al-Ti系のマ 0 12.0 Ni(mass%) 図 8 固溶化処理を行った第三回検討材の評価結果 Fig. 8 Evaluation results of the solution treated third trial alloys 次に,固溶化処理(950 ℃で1時間保持後油冷)後に−75 ℃ で2時間保持のサブゼロ処理を行った各合金に時効処理を 行った。時効処理条件として520 ℃で16時間保持した後, 空冷を行った。時効処理材から常温引張試験および破壊じ ん性評価を実施した。Ni量と引張特性および破壊じん性の 関係を図 9 に示す。 日立金属技報 Vol. 29(2013) 23 同一の熱処理条件では,Ni量が高くなるにつれて,引張 強さおよび0.2 %耐力は低下し,伸び,絞りおよび破壊じん 性は向上することが確認される。これは,残留オーステナ イト量による影響が大きいと考えられる6)。 この結果より,検討しているFe-Ni-Cr-Mo-Al-Ti系のマ 表 6 固溶化処理を行った第四回検討材の評価結果 Table 6 Evaluation results of the solution treated fourth trial alloy Alloy No. Solution treatment condition Hardness (HV) Grain size No. Retained austenite (%) Alloy 4-1 1,000 ℃×1 h 306 5.8 7.1 ルテンサイト系析出強化型ステンレス鋼において,Ni量お よび残留オーステナイト量の制御により強度と破壊じん性 のバランス調整が可能であると考えられる。 2,000 1,900 Alloy2-2 Alloy3-2 Alloy3-1 100 90 1,800 80 1,700 70 1,600 60 1,500 50 1,400 40 1,300 30 1,200 20 1,100 10 1,000 0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) Tensile strength(MPa) 0.2 % proof strength(MPa) Elongation(%) Reduction of area(%) Fracture toughness(MPa√m) 100 μm 図 10 固溶化処理を行った合金 4-1 のミクロ組織 Fig. 10 Microstructure of solution treated alloy 4-1 次に,固溶化処理(1,000 ℃で1時間保持後油冷)後に −75 ℃で2時間保持のサブゼロ処理を行った合金に時効処 理を行った。時効処理条件として500 ℃で16時間保持した 後,空冷を行った。時効処理材から常温引張試験および破 Ni(mass%) 壊じん性評価を実施した。試験結果を表 7 に示す。表 7 よ 図 9 時効処理を行った第三回検討材の評価結果 Fig. 9 Evaluation results of the aged third trial alloys り合金4-1は,強度および破壊じん性に関して目標に近い特 性であることがわかる。 次に,時効処理材の塩水噴霧試験を実施した。塩水噴霧 4. 4 第四回検討(特性改善組成の検討) 試験を行った試験片の外観写真を図 11に示す。合金4-1は, ここまでの実験結果より,Moは1 mass%程度添加する 塩水噴霧試験において耐食性の目標である1,000時間で錆は ことで延性が向上すること, 析出強化元素のAl/Ti比率は0.5 認められなかった。 程度で強度と延性のバランスが優れること,Ni量および残 留オーステナイト量を制御することで強度と破壊じん性の バランス調整が可能であると考えられる。そこで,第四回 検討材として,破壊じん性は目標を超えているが強度レベ ルが目標に未達である合金3-1をベースとし,強度向上の ため析出強化元素の総添加量を微増させ,破壊じん性を維 持するためNi量を12.3 mass%とした。また,Ni量増加に 表 7 時効処理を行った第四回検討材の評価結果 Table 7 Evaluation results of the aged fourth trial alloy Alloy No. 0.2 % Tensile Reduction Fracture Proof strength strength Elongation of area toughness (%) (MPa) (MPa) (%) (MPa√m) Alloy 4-1 1,743 1,873 11.4 46.8 59.8 Target ≧1,700 ≧1,850 − − ≧60 よる残留オーステナイト量増加を抑制するため,Cr量を 10 mass%とした。作製した合金の成分分析値を表 5 に示 す。 表 5 第四回検討材の成分分析値 Table 5 Chemical composition of the fourth trial alloy Alloy C P S Ni Co Cr Mo No. Alloy 0.0032 0.012 0.002 12.14 0.01 10.04 1.02 4-1 Al Ti 0.67 1.57 (mass%) 固溶化処理として,1,000℃で1時間保持した後,油冷を 行った。油冷後,サブゼロ処理として,−75 ℃に2時間保 持した。固溶化処理後の結晶粒度番号,残留オーステナイ ト量および硬度の評価を行った。結晶粒度番号,残留オー ステナイト量および硬度をそれぞれ表 6 に示す。また,固 溶化処理後のミクロ組織を図 10に示す。ミクロ組織観察 結果より,δフェライトの存在は確認されなかった。 24 日立金属技報 Vol. 29(2013) 10 mm 図 11 塩水噴霧試験 1,000 時間後の外観写真 Fig. 11 Appearance of test piece after 1,000hours’ salt spray test 航空機用高強度ステンレス鋼の強度特性の改善 5. 結 言 引用文献 Fe-Cr-Ni-Co-Mo-Al-Ti系でのマルテンサイト系析出強 1) 高田幸路:表面技術,49(1998),121 化型ステンレス鋼による航空機用高強度ステンレス鋼の強 2) 社団法人日本航空宇宙工業会 : 航空機部品・素材産業振興 に関する調査研究成果報告書 No.605 脚用高強度ステンレ ス鋼の開発, (1991) 3) 佐藤豊弘:特殊鋼,44(1995),45 4) ステンレス協会編:ステンレス鋼便覧−第 3 版−,日刊工業 新聞社, (1995),640 5) 細見広次ら:鉄と鋼,74(1988),2025 6) 中川英樹ら:鉄と鋼,84(1998),363 度特性の改善を検討し,次の結果を得た。 (1)Mo を添加することにより延性が改善されることを確 認した。 (2)析 出 強 化 元 素 で あ る Al と Ti の 添 加 比 率 は,Al (mass%)/Ti(mass%)≒ 0.5 程度で強度と延性のバ ランスが良いことを確認した。 (3)Ni 量を増加させることにより,破壊じん性が改善さ れるが,残留オーステナイト増加に対応し強度が低下 することを確認した。 (4)目標である引張強さが 1,850 MPa 以上,0.2 % 耐力が 上野 友典 1,700 MPa 以上,破壊じん性値が 60 MPa √ m 以上で Tomonori Ueno 塩水噴霧試験 1,000 時間で発錆しないことをほぼ満た 日立金属株式会社 す組成を見出した。 特殊鋼事業部 安来工場 冶金研究所 博士(工学) 技術士(金属部門) 6. 謝 辞 上原 利弘 Toshihiro Uehara 本研究は,平成21∼22年度の社団法人 日本航空宇宙工 日立金属株式会社 業会からの委託研究にて行った内容である。ここに記して 特殊鋼事業部 謝意を表す。 博士(工学) 技術士(金属部門) 安来工場 冶金研究所 中務 真一 Shinichi Nakatsuka 住友精密工業株式会社 創事業研究部 日立金属技報 Vol. 29(2013) 25 Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響 Effects of Microstructures on Magnetic Properties of Fe-Ni-Mo Semi-Hard Magnetic Material 横山 紳一郎* 森 英樹* Shin-ichiro Yokoyama Hideki Mori 半硬質磁性材料である Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo 合金の磁気特性と材料組織の関係を明ら かにする目的で,この合金の磁気特性と組織に及ぼす冷間圧延率と熱処理温度の影響を調べた。こ の材料の磁気特性は,冷間圧延率と熱処理温度に依存して変化し,圧下率 96 % の冷間圧延後に 500 ℃で 1 h の熱処理を行うことにより,B r:1.44 T,B r/B 8000:0.83,H c:2,089 A/m の高角 型比の半硬質磁気特性が得られた。500 ℃での熱処理後には, (1)わずかな結晶方位変化を伴う 母相の回復, (2)常磁性の逆変態オーステナイト相の生成, (3)微細金属間化合物の析出,の 3 つ の組織的因子が,磁 気特 性に複合的に関与することが示唆された。また,冷延率が増加すると, 500 ℃で熱処理時の金属間化合物の析出と bcc から fcc への逆変態が促進され,熱処理後の B r, B r/B 8000 ,H c の値が増加した。 Effects of reduction in cold rolling and heat treatment temperatures on magnetic properties and microstructures of Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo semi-hard magnetic alloy were investigated in order to clarify the correlation between microstructures and magnetic properties of the alloy. Magnetic properties varied depending on reduction and heat treatment temperatures, and exhibited semi-hard magnetic property with high squareness of Br : 1.44 T, Br/B8000 : 0.83 and Hc : 2,089 A/m by heat treatment at 500 ℃ for 1h after cold rolling with high reduction of 96 %. It was suggested that three metallographic factors of (1) recovery of matrix with slight change of texture, (2) formation of paramagnetic austenitic phase, and (3) precipitation of a fine intermetallic compound, contributed to the magnetic properties after heat treatment at 500 ℃ . In addition, the values of Br, Br/B8000 and Hc increased with the increase of reduction in cold rolling due to enhancement of precipitation of a fine intermetallic compound and reverse transformation from the bcc to the fcc phase. ● Key Word:半硬質磁性材料,高角型比,Fe-Ni-Mo ● Production Code:Fe-Ni-Mo semi-hard magnetic material ● R&D Stage:Research 化方向を一致させる必要があるとされており2),そのため 1. 緒 言 には高圧下の冷間圧延を施すことが有効とされている2)。 大型量販店における盗難防止を目的として,磁気センサー また,半硬質レベルでの保磁力の調整には,磁壁の移動を を用いた不正持ち出し監視システムが実用化されている1)。 妨げる必要があり,強磁性相中に常磁性相や微細析出物等, このシステムは,商品にタグを取り付け,店舗の出入口に 異相の存在する組織とする必要があるとされている3)。こ 設置するゲートのセンサーと連動して動作するものであ のような高角型比を示す半硬質磁性材料の一つとして,質 り,このタグの中にはレゾネータ(共鳴子)と呼ばれる軟 量比でFe-20 % Ni -(4∼6)%Mo合金(以下,mass%と示 磁性のアモルファス薄帯と,このレゾネータに磁場を与え す)の磁気特性が,TiefelとJinによって1984年に報告され るバイアス(励磁子)と呼ばれる半硬質磁性材料が用いら ている4)。それによると,冷間加工→(α+γ)二相域での れている1)。料金が正規に支払われた時のセンサーの誤作 熱処理→最終冷間加工→最終時効処理の工程を経ることに 動を防ぐ目的で,バイアスには着磁状態と脱磁状態の区別 よ っ て,B r:0.4∼1.6 T,H c:1,600∼17,600 A / m,B r / が付きやすい高角型比の半硬質磁性材料が用いられている B s:0.8∼0.99の高角型比の半硬質磁気特性が得られている 1) 。 4) 。しかし,この工程によってできる材料組織と磁気特性 高角型比の磁気特性を得るためには,着磁方向と容易磁 の関係についての議論は十分になされておらず,この組成 * 26 日立金属株式会社 特殊鋼事業部 日立金属技報 Vol. 29(2013) * Specialty Steel Division, Hitachi Metals, Ltd. Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響 の合金で高角型比の半硬質磁性材料が得られる材料組織的 2 な理由は明らかになっていない。それ故,本研究の目的は, Cold rolling 96 %→heat treatment T(℃)×1 h air cooling Fe-20 mass%Ni- 4 mass%Mo合金の磁気特性に及ぼす冷間 (b)T=500 圧延率と熱処理温度の影響を系統的に明らかにし,磁気特 性と材料組織の関係を議論することである。 1 (a)As cold rolled 2. 実験方法 B(T) (d)T=600 0 (c)T=575 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo組成の合金の熱間圧 延材(板厚2.5 mm)に対し,830 ℃で1 h保持後に空冷す −1 る溶体化処理を施して出発材とした。この出発材に対して 圧下率60∼ 96 %の範囲で冷間圧延を行った後,各冷延材 より各種の試験片を切り出し,425∼650 ℃の各温度に保 持したAr雰囲気炉中で1 h加熱後,空冷する熱処理を施し −2 −8,000 −4,000 て評価に供した。 直流磁束計を用いて最大印加磁場8,000 A/mの条件で B-H特性を測定し, 直流磁化曲線を得た。この磁化曲線より, 残留磁束密度B r,角型比B r /B8000と保磁力H cを決定した。 また,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, 以下,SEMと表記)により組織観察を行い,ビッカース硬 0 4,000 8,000 H(A/m) 図1 96 % 冷延材および冷延後に熱処理した Fe-20.13 mass%Ni4.14 mass%Mo 合金の磁化曲線 (a)冷延まま(b)500 ℃× 1 h(c)575 ℃× 1 h(d)600 ℃× 1 h Fig. 1 B-H curves of 96 % cold rolled, and then heat treated Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy (a) as cold rolled (b) 500 ℃×1 h (c) 575℃×1 h (d) 600 ℃×1 h 度計により硬さを測定した。さらに,X線回折装置を用い てX線回折図形を測定し, 検出されるbcc(110) , bcc(200) , Cold rolling 96 %→heat treatment T(℃)×1 h air cooling bcc(211) ,fcc(111) ,fcc(200) ,fcc(220) ,fcc(311)の各 1.5 (a) 集積度を決定した。また,このI値を用いた強度平均法5) により,次式(1)を用いて常磁性相であるfccのオーステ ナイト量Vγ(%)を決定した。 Br(T) 回折ピークの積分強度Iを測定し,このI値から各方位の面 1.0 0.5 0 1.0 (b) ) (1) Vγ(%)=100×(ΣIfcc/Σ(Ibcc+Ifcc) 3. 実験結果と考察 Br/B8000 0.8 3.1 磁気特性と組織に及ぼす熱処理温度の影響 延材に図 1(b)500 ℃,図 1(c)575 ℃,図 1(d)600 ℃ A/mの高角型比の半硬質磁気特性が得られることがわか 6,000 Hc(A/m) の500 ℃での熱処理後にBr:1.44 T,Br /B8000:0.83,Hc:2,089 0.4 0.2 図 1 は,図 1(a)圧下率96%の冷延材,および,この冷 の各温度で1 h熱処理後の直流磁化曲線を示す。図 1(b) 0.6 (c) 4,000 2,000 る。また,各磁化曲線の形状は,熱処理温度ごとに顕著に 異なっており,この材料の磁気特性が,大きな熱処理温度 依存性を持つことを示唆している。これらの各直流磁化曲 As(CR) 400 450 500 550 600 650 Heat treatment temperature(℃) 線から決定されるB r,B r /B8000,H cに及ぼす熱処理温度の 影響を図 2 に示す。Brは,冷延後に0.95 Tであるのに対し, 425∼500 ℃で熱処理後には1.36∼1.44 Tに上昇している。 熱処理温度がさらに高温になると,Brは,一旦低下して 575 ℃での熱処理後に最低値0.03 Tを示した後,600 ℃以 上で再び上昇している。角型比B r /B8000も,B rとよく似た 挙動を示している。また,H cは,冷延後に1,301 A/mであ 図 2 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 冷延材(圧下率 96 %) の磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響 (a)残留磁束密度 Br(b)角型比 Br/B8000(c)保磁力 Hc Fig. 2 Effects of heat treatment temperatures on magnetic properties of cold rolled Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy with reduction of 96 % (a) residual magnetic flux density, Br (b) squareness ratio, Br/ B8000 (c) coercive force, Hc るのに対し,425 ℃で熱処理後には736 A/mまで低下し, その後425∼525 ℃の範囲では,熱処理温度の高温化とと を示した後,525∼575 ℃の範囲で低下,575∼600 ℃の範 もに上昇している。H cは525 ℃での熱処理後に4,226 A/m 囲で上昇,600∼650 ℃の範囲で低下し,熱処理温度とと 日立金属技報 Vol. 29(2013) 27 (a) (b) Cold rolled Matrix bcc→fcc bcc→fcc→bcc Amount of fine precipitates Intermetallic compound 10 μm Recrystallization Recovery bcc Fewer → Many ← Fewer 10 μm Cold rolling 96%→heat treatment T(℃)×1h air cooling (c) (d) 550 (a) Hv 500 450 400 10 μm 10 μm 350 60 Vγ(%) 図 3 96 % 冷延材および冷延後に熱処理した Fe-20.13 mass%Ni4.14 mass%Mo 合金の SEM 観察組織 (a)冷延まま(b)500 ℃× 1 h(c)575 ℃× 1 h(d)600 ℃× 1 h Fig. 3 SEM microstructures of 96 % cold rolled, and then heat treated Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy (a) as cold rolled (b) 500 ℃×1 h (c) 575 ℃×1 h (d) 600 ℃×1 h (b) 40 20 0 図 3 は,図 1 に示した各磁化曲線の状態における組織の SEM観察像を示す。図 3 中(a)の冷延96 %材では,圧延 方向に細長く伸ばされた圧延組織が観察されている。一方, 冷延後に熱処理を施した図 3 中(b)(d)では,冷延後と 比較して組織が微細に変化している。この内,図 3(b)の 500 ℃熱処理材には圧延方向に伸ばされた母相の形態を確 認することができるが,図 3(c)の575 ℃熱処理材と図 3 (d)の600 ℃熱処理材では,図 3(a)の冷延材に見られ た圧延組織を識別することが難しくなっている。また,熱 処理材では微細な粒子が析出しているようにも見られ,そ の量や大きさは,熱処理温度とともに変化している。すな わち,磁気特性と同様に,組織も大きな熱処理温度依存性 を持つことが分かる。 この熱処理温度の変化に伴う材料組織の変化を定量的に Texture of bcc(%) もに大きく変化している。 80 60 40 (c) (211) (200) 20 0 (110) As(CR) 400 450 500 550 600 650 Heat treatment temperature(℃) 図 4 96 % 冷間圧延した Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合 金の硬さ,γ量と集合組織に及ぼす熱処理温度の影響 (a)硬さ(b)γ量(c)bcc の面集積度 Fig. 4 Effects of heat treatment temperatures on hardness, Vγ and texture of 96 % cold rolled Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy (a) hardness (b) Vγ (c) texture of bcc 把握するため,硬さHv,オーステナイト量Vγ(%)とbcc (マルテンサイト)の面集積度に及ぼす熱処理温度の影響 方で, (211)は,575 ℃までは低下した後,600 ℃以上の を図 4 に示す。硬さは,熱処理温度に対して逆V字型の熱 温度で増加している。このことから,bccの面集積度は, 処理温度依存性を示しており, 冷延後のビッカース硬さ(以 575 ℃を境に大きく変化することがわかる。575 ℃で熱処 下,Hvと表記)378に対し,425 ℃での時効処理後には 理後の図 3(c)の組織において, 圧延組織の識別が難しく, Hv459まで高硬度化し,以後,475 ℃で最高硬さHv498を 組織が微細化していることから,575 ℃での面集積度の変 示した後に熱処理温度とともに軟化している。この475∼ 化は,母相の再結晶が始まった結果,圧延集合組織から再 525 ℃で熱処理後の高硬度化は,金属間化合物の析出硬化 結晶集合組織へと優先方位が変化するためと考えられる。 によると考えられ,Fe-18 mass%Ni-5 mass%Mo合金の時 また,常磁性のfcc相(γ)は,冷延後および425∼450 効析出挙動について調べたSpeich6) ℃での熱処理後には存在しておらず,475 ℃以上での熱処 Ni3Moが析出していると思われる。最高の硬さとなる475 ℃ 理によって生成している。475 ℃以上でのγ量は,逆V字 付近では,微細な金属間化合物の析出量が多いと考えられ 型の温度依存性を示しており,575 ℃までは熱処理温度の る。 高温化とともに増加し,575 ℃での熱処理後に最高値48.7 一方,母相であるbcc相の面集積度に着目すると, (110) %を示した後,さらに高温側では低下している。このこと の集積度は熱処理温度を変えてもほとんど変化せず,ゼロ から,475 ℃以上の温度ではbcc→fccの逆変態が起きるが, 近傍の値を示しているが, (200)と(211)の集積度は, 熱処理温度が575 ℃を超えて生成した逆変態γ相の再結晶 の研究結果と併せると, 500 ℃以上の範囲で,熱処理温度とともに変化している。 が 始 ま る と, 冷 却 中 の マ ル テ ン サ イ ト 変 態 開 始 温 度 (200)は,熱処理温度の高温化とともに単調に低下する一 (Martensite start temperature, 以下,M s点と表記)が 28 日立金属技報 Vol. 29(2013) Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響 上昇して,冷却中にfcc→bccの変態が起こった結果、逆変 る。換言すれば、圧下率96 %の冷間圧延後に行う500 ℃で 態γ相の不安定化が起きると考えられる。熱処理温度の高 の熱処理には,母相の回復,逆変態オーステナイトの生成, 温化に伴う逆変態γ相の不安定化現象については,Fe-Cr- 金属間化合物の時効析出,の3つの材料組織的な意味があ Ni系の準安定オーステナイト系ステンレス鋼においていく ると言える。 つかの報告がされているが 7)∼9),これらの報告では,γ化 温度が750∼1,100 ℃,γ粒径が2∼115 μmの範囲での結 3.2 磁気特性と組織に及ぼす冷間圧延率の影響 晶粒成長に伴うMs点の上昇について述べている。しかし 図 5 は,冷延後,および冷延後に500 ℃で1 h熱処理後の ながら,図 4 のようにγ化する熱処理温度が575∼650 ℃ 磁気特性に及ぼす冷延率の影響を示す。Br,Br/B8000,Hcの と低く,また,図 3 のように結晶粒径を特定できない程の 各特性値は,冷延ままの状態では冷延率が変化しても,あ 亜結晶粒域においては,結晶粒成長によるM s点の上昇は考 まり変わらないが,500 ℃での熱処理後には冷延率の影響が え難い。それ故,575 ℃以上の熱処理温度でのγ相の不安 顕著に現れており,高冷延率材ほど高い値を示している。 定化の要因としては, (1)金属間化合物の析出によるγ相 1.8 理温度の高温化によりγ相中の格子欠陥が除去されると, 1.6 マルテンサイト変態時のせん断変形の障害が減る結果,せ 1.4 ん断エネルギーに要するエネルギーが低下すること10),お よび(3)熱処理温度の高温化により,冷却時のマルテン Br(T) 中のNi濃度とMo濃度の低下によるM s点の上昇, (2)熱処 0.8 0.9 Br/B8000 先述したように,この硬さの変化は,金属間化合物の析出 0.7 0.5 3,000 合物がB rとB r /B8000に及ぼす影響は大きいと考えられる。 併せて,この温度範囲では母相の回復も起きていると考え 2つの組織的因子が影響していると考えられる。また,450 (c) Hc(A/m) が生じる要因として,金属間化合物の析出と母相の回復の (b) 0.8 0.6 によると考えられることから,微細析出物である金属間化 られるので,冷延材と425∼450 ℃での熱処理材のB rに差 As cold rolled 1.0 図 2 と図 4 から,磁気特性と材料組織の関係に着目する 挙動は,同じ熱処理温度範囲での硬さの挙動と似ている。 Cold rolling→500 ℃×1 h air cooling 1.2 サイト変態の駆動力が増加すること11)などが考えられる。 と,冷延後および425∼450 ℃で熱処理後のBrとBr /B8000の (a) 2,000 1,000 ∼500 ℃の範囲でのBrの変化は,1.36から1.44 Tとわずか であるが,この範囲では常磁性相である逆変態γの影響も 現れ始めると考えられる。さらに500 ℃以上の温度で熱処 60 70 80 90 100 Reduction in cold rolling(%) 理後のB rは、Vγ と裏返しの関係となっており,またbcc (211)集積度の挙動とも似ている。よって,500 ℃以上の 熱処理温度でB rとB r /B8000に影響を及ぼす組織因子は,Vγ と結晶方位が支配的であると考えられる。 一方、熱処理温度の変化に伴うH cの変化に着目すると, 425 ℃で熱処理後のH cが冷延後より低い原因は,母相の回 復により母相内の転位密度が減少して,磁壁が移動しやす 図 5 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合金の磁気特性に及ぼ す冷間圧延率の影響 (a)残留磁束密度 Br(b)角型比 Br/B8000(c)保磁力 Hc Fig. 5 Effects of reduction in cold rolling on magnetic properties of Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy (a) residual magnetic flux density, Br (b) squareness ratio, Br/ B8000 (c) coercive force, Hc い状態になるためと思われる。その後,425∼475 ℃では また,図 6 は,冷延後,および冷延後に500 ℃で1 h熱処 微細析出物である金属間化合物の時効析出,475∼525 ℃ 理後の硬さ,Vγ(%)とbccの面集積度に及ぼす冷延率の では金属間化合物と常磁性相であるVγ の増加によって, 影響を示す。硬さは,冷延後,熱処理後のいずれの状態に H cが増加すると考えられる。また,高温側の525∼575 ℃ おいても,冷延率の増加とともに上昇しているが,冷延率 では,Vγ の変化によってH cが変化し,さらに高温側の575 60 %材では冷延後(Hv336)と熱処理後(Hv417)の硬さの ∼650 ℃では,Vγの変化と併せて,母相の再結晶によって 差がHv 81であるのに対し,冷延率96 %材では,冷延後 も,Hcが変化すると考えられる。 よって,図 1 ∼2 において,高B rと高角型比の半硬質磁 (Hv378)と熱処理後(Hv484)の硬さの差がHv106まで広 がっている。また,冷延後のVγ は,いずれの冷延率の材 気特性が得られる500 ℃での熱処理後には, (1)わずかな 料においても0 %であるが,熱処理後のVγは,冷延率60 % 結晶方位変化を伴う母相の回復, (2)常磁性相である逆変 材で1.2 %,冷延率96 %材で6.3 %と冷延率とともに増加して 態γ相, (3)微細析出物である金属間化合物,の3つの組 いる。このように熱処理後の硬さとVγに冷延率依存性が 織的因子が,磁気特性に複合的に関与していると考えられ ある要因は,冷延率の増加により金属間化合物の時効析出 日立金属技報 Vol. 29(2013) 29 4. 結 言 600 (a) Cold rolling→heat treatment 500 ℃×1 h air cooling (1)Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo 合金の磁気特性は,冷 500 Hv 間圧延率とその後の熱処理温度に依存して変化する。 冷延率 96 % の冷間圧延後に 500 ℃で 1 h の熱処理を行 400 300 Vγ(%) 10 うことにより,B r:1.44 T,B r/B8000:0.83,H c:2,089 As cold rolled A/m の高角型比の半硬質磁気特性が得られた。 (b) (2)熱処理温度が 425 ∼ 650 ℃の範囲で変化すると,組 織形態,硬さ,結晶方位、逆変態オーステナイト量が 5 変化し,これらの組織的因子の変化に伴って磁気特性 が変化する。高角型比が得られる 500 ℃での熱処理後 0 Texture of bcc(%) (c) As cold rolled Cold rolling→500 ℃×1 h air cooling 80 (110) (200) (211) には,僅かな結晶方位変化を伴う母相の回復,逆変態 オーステナイト,金属間化合物の 3 つの組織的因子が, (110) (200) (211) 磁気特性に複合的に関与することが示唆された。 60 (3)熱処理前の冷間圧延率が増加すると,500 ℃で熱処 理後に高 B r,高 B r /B8000,高 H c が得られる。この磁 40 気特性の変化には硬さと逆変態オーステナイト量の増 加が伴っており,冷間圧延率が増加すると,500 ℃で 20 熱処理時の金属間化合物の析出と bcc → fcc の逆変態 0 60 70 80 90 100 Reduction in cold rolling(%) が促進されることが示唆された。 本研究により,Fe-20 mass%Ni- 4 mass%Mo合金で高角 型比の半硬質磁気特性を得るための材料組織についての知 図 6 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合金の硬さ,γ量と集 合組織に及ぼす冷間圧延率の影響 (a)硬さ(b)γ量(c)bcc の面集積度 Fig. 6 Effects of reduction in cold rolling on hardness, Vγ and texture of Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy (a) hardness (b) Vγ (c)texture of bcc サイトとbcc→fccの逆変態の駆動力が増加するためと考え られる。 一方,冷延後のbccの面集積度は,冷延率の増加ととも に変化しており, (100)は減少する一方で, (200)と(211) は増加している。しかし,このような結晶方位の変化が起 きていても,図 5 に示すように,冷延後の磁気特性は,ほ とんど変化していない。さらに,この面集積度は,冷延後, 熱処理後ともによく似た挙動を示しており,冷延後と熱 処理後での明確な結晶方位差は認められない。それゆえ, 図 5 に示した高圧下の冷間圧延が熱処理後の磁気特性の発 現に対する役割は,圧延による集合組織の形成よりもむし ろ,上述した金属間化合物の時効析出とbcc→fccの逆変態 を促進させることにあると考えられる。 30 日立金属技報 Vol. 29(2013) 見が得られた。今後,この知見を活かし,レアメタルであ るNiやMoの含有量を減らした省資源型の半硬質磁性材料 を開発する所存である。また,盗難防止タグ以外の新たな 用途の開発にも注力していく所存である。 Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響 引用文献 横山 紳一郎 Shin-ichiro Yokoyama 1)日本国特許 特表 2001- 502759 号公報 日立金属株式会社 2)太田恵造 著: 「磁気工学の基礎 II」共立全書(1973)p.290 3)本間基文,日口章 編著: 「磁性材料読本」工業調査会(1998) p.162 4)T.H.Tiefel and S.Jin : Journal of Applied Physics 55 (1984)p.p.2112-2114 5)B.D.Cullity 著、松村源太郎訳:「新版 カリティ X 線回折 要論」アグネ(1980)p.p.374-385 6)G.R.Speich:Transactions of the Metallurgical Society of AIME, 227(1963)p.p.1426-1432 7)藤倉正国,加藤哲男:鉄と鋼 64(1978)p.p.1179- 1188 8)竹内桂三,杉浦慎也,片山義唯,乾勉:日本金属学会会 報 36(1997)p.p.358 - 360 9)乾勉.砂川淳:日立金属技報 13(1997)p.p.33 - 36 10)西山善次 著: 「マルテンサイト変態 基本編」丸善(1971) p.221 11)尾崎良平,長村光造,足立正雄,田村今男,村上陽太郎 著: 「金属材料基礎学」朝倉書店(1978)p.p.125 -126 特殊鋼事業部 安来工場 博士(工学) 森 英樹 Hideki Mori 日立金属株式会社 特殊鋼事業部 安来工場 日立金属技報 Vol. 29(2013) 31 HRC40 プリハードン鋼切削時の工具損傷機構 Damaging Phenomena of Cutting Tools Using Plastic Mold Steels of HRC40 森下 佳奈* 井上 謙一* Kana Morishita Kenichi Inoue 本研究では,異なる特徴を持つ 2 種類のプラスチック金型鋼切削時における工具損傷機構につい て考察した。日本国内で主に用いられている P21 系改良鋼(鋼材A)と特性バランスが良い鋼材(鋼 材B)を評価に使用した。特に,切削時に工具と被削材間で生じる溶着現象に着目し,FE-EPMA, TEM を用いて調査した。 鋼材A 切削時はチッピングを伴う摩耗,鋼材 B 切削時は純粋な摩耗により工具が寿命に至り,損 傷形態が大きく異なった。また,鋼材B 切削時は切削速度の上昇に伴い,工具摩耗の進行が遅くな る傾向であった。溶着物を調査した結果,鋼材A 切削時は Al 系酸化物,鋼材B 切削時は Mn-Si 系 酸化物が工具刃先に形成され,Mn - Si 系酸化物は切削速度の上昇に伴い,工具刃先に形成される 量が増加した。工具寿命の結果から判断すると,Mn - Si 系酸化物が保護膜として作用し,工具の損 傷を抑制したと推測され,溶着物と工具寿命には強い関係があることが示唆された。 In this paper, damage modes of cutting tools and their mechanisms are investigated aiming to improve machinability of plastic mold steels. Steel A is commonly used in Japan, which is known as P21 grade steel. While, steel B is a new HRC40 grade steel. For this purpose, the tool edge-steel work piece interface was investigated using FE-EPMA, TEM, and STEM. Particularly, the adhesive materials formed on the tool edges were analyzed and tools damage was studies. To understanding the difference between the two modes of tool edge damage, adhesive materials on the tool edges were investigated. As the result, when steel A was cut, an Al-based oxide was formed on the tool edge, whereas an Mn-Si-based oxide layer was formed on the tool edge when steel B was cut. In addition, the Mn-Si-based oxide content increased with higher cutting speed. It can be speculated that there is a strong correlation between the formation of some adhesive materials and damage mode of cutting tool. ● Key Word:プラスチック金型鋼,直彫り加工,溶着物 ● R&D Stage:Research 定可能であると考える。本研究では,まず高硬度材の中で 1. 緒 言 も比較的加工が容易とされるプラスチック金型用のHRC 40 金型の製作費低減や短納期化により,焼きなまし材での プリハードン鋼で評価を実施した。 荒加工を省略し,焼入れ焼き戻し材を直接加工する「直彫 り加工」が拡大しており,ロックウェル硬さが HRCで40程 2. 実験方法 度まではすでにさまざまなプリハードン鋼が用いられてい る。しかし,HRCで 50以上は,加工自体は可能 1)であるが, 表 1 に,本研究に使用した被削材の主要化学成分を示 工具費がかさむなどの理由から量産レベルの技術として定 す。鋼材Aは日本国内で主に用いられているP21系改良鋼 着していない。そこで,本研究では,難削性を示す高硬度 (NiAl析出硬化低炭素鋼)である。鋼材Bは磨き性および 金型鋼の被削性改善を目的とし,切削加工時の工具損傷メ カニズムの解明を行った。工具摩耗を抑制させる方法とし 表 1 被削材の主要化学成分 Table 1 Chemical compositions of work materials て,材料中に存在する非金属介在物を保護膜(Belag)と して工具表面に形成することが有効であると知られている 2) 。このことから,特に,切削時に工具と被削材間で生じ る溶着現象を調査することにより,工具損傷の主要因が特 * 32 日立ツール株式会社 日立金属技報 Vol. 29(2013) * C Si Mn S Ni Al Steel A 0.12 0.3 1.4 0.004 3.0 1.0 Steel B 0.16 0.3 1.5 0.015 1.0 Hitachi Tool Engineering, Ltd. − (mass%) HRC40 プリハードン鋼切削時の工具損傷機構 被削性および靭性などの特性バランスが良いとされる鋼材 0.4 HRC40に調質したものを使用した。 表 2 に,切削条件を示す。加工機は,主軸テーパー 50番 の立形マシニングセンター(日立精工製 MACCMATIC610V) を用い, 直径 63 mmのスローアウェイ式フライスカッ ターにより正面切削を行い,工具寿命を評価した。使用刃 数は1枚とした。試験片は120 mm角× 250 mm長さの試験 片を用いた。溶着現象は,切削時の工具表面温度により変 化すると考えられるため,切削速度を変えることで切削面 の温度を変化させて評価を実施した。使用したカッターで Maximum flank wear(mm) である。これらの特性が異なるプラスチック金型鋼 3)を したときの切削距離を工具寿命とした。使用工具は超硬 インサート工具とした。その皮膜は被削材成分を含まない TiN組成とし,溶着物と皮膜成分が混同しないように留意 着 物 の 評 価 は,FE-EPMA(Field Emission-Electron 表 2 切削条件 Table 2 Cutting conditions 0 Diameter 63 mm 1/6 Carbide P40 Coating TiN Axial depth of cut 1 mm Radial depth of cut 42 mm Cutting speed 60∼150 m/min Feed per tooth 0.8 mm/tooth Revolution 303∼758 min−1 Feed rate 242∼606 mm/min Cutting method Down cut Cutting fluid Dry Insert Cutting conditions 5 10 15 20 25 Cutting length(m) 図 1 切削距離と工具の逃げ面最大摩耗幅の関係 Fig. 1 Relationship between cutting length and flank wear (a) Cutting speed SEM images of cutting tool edges Cutting face 60 m/min Honing Cutting length = 3.0 m Chipping Relief 90 m/min Cutting length = 4.5 m Number of teeth Cutter B(60 m/min) B(90 m/min) B(120 m/min) B(150 m/min) 0.1 Probe Micro Analyzer) により表面から, TEM (Transmission Electron Microscope)により断面から実施した。 Steel B 0.2 した。TiNコーティングはPVD-AIP法(Physical Vapor Deposition-Arc Ion Plating Method)により成膜した。溶 Steel A 0.3 の推奨切削速度は 90 m/min程度である。一定距離ごとに 工具の摩耗幅を測定し,最大逃げ面摩耗幅が 250 μmに達 A(60 m/min) A(90 m/min) A(120 m/min) A(150 m/min) Criterion for tool life(flank wear = 250 μm) 120 m/min Cutting length = 3.0 m Weld deposit 150 m/min 500 μm Cutting length = 2.3 m (b) Cutting speed SEM images of cutting tool edges Abrasion Cutting face 60 m/min Cutting length = 18 m Honing Relief 90 m/min Cutting length = 18 m 3. 実験結果および考察 120 m/min 3. 1 切削試験 Cutting length = 21 m 図 1 に,加工時の切削距離と工具の最大逃げ面摩耗幅の 関係を示す。すべての切削速度において鋼材B切削時の工 具寿命は,鋼材A切削時より長く,鋼材Bは切削速度の上 昇により,工具摩耗の進行が遅くなる傾向にあった。工具 寿命は切削速度の上昇に従い短くなる4) とされており,鋼 材B切削時の現象は特殊であるといえる。 図 2 に,各切削速度における工具寿命到達時の損傷状況 150 m/min Cutting length = 21 m 500 μm 図 2 工具寿命到達時の工具の SEM 像(a)鋼材 A を切削した場合 (b)鋼材 B を切削した場合 Fig. 2 SEM images of coated tool (a) Steel A (b) Steel B を示す。鋼材A切削時の工具はチッピングを伴う摩耗,鋼 図 3 に,工具が寿命に到達する以前,切削速度 9 0 m/min 材Bは純粋な摩耗により寿命に至り,工具の損傷形態が大 で1.5 m切削時の工具損傷状態を示す。工具寿命が短い鋼材 きく異なった。同一鋼材では切削速度が変化しても工具損 A切削時は鋼材Bよりも逃げ面(Relief)側での純粋な工具 傷形態は類似していた。 摩耗の進行は遅い。一方,刃先強度アップのために逃げ 日立金属技報 Vol. 29(2013) 33 面(Relief)とすくい面(Cutting face)の間に形成される 図 2 の切削速度 150 m/min切削時,□囲みで示すような鋼 ホーニング(Honing)部では,鋼材Aは鋼材 B 切削時より 材の付着が生じていた。このことから,鋼材A切削時は, も皮膜剥離が多く発生している。また,鋼材A切削時には, 工具皮膜の剥離発生後,鋼材の付着が起こり,切削中に付 着物が剥がれる際に,突発的な欠損を生じやすく,短寿命 (a) Cutting speed = 90 m/min Cutting face であったと考えられる。 Honing 3. 2 溶着物解析 鋼材AとB では切削時の工具損傷形態が大きく異なるこ と,鋼材B切削時は切削速度の上昇に伴い工具摩耗の進行が Flaking Relief 遅くなる傾向であることが判明した。図 2 ,3 の切削時に 200 μm おける工具刃先のSEM(Scanning Electron Microscope) (b) 観察結果から,切削時に工具と被削材間で生じる現象が異 Cutting speed = 90 m/min Cutting face なると推測される。そこで,鋼材成分から付与される溶着 Honing 物の種類と工具損傷形態の関係性についてさらに考察を 行った。 Relief 3. 2. 1 EPMA による溶着物の表面解析 Abrasion 200 μm 図 4 に,切削速度 90 m/minで0.75 m切削時の工具にお いて,すくい面側全体と図中□範囲のホーニングを拡大し 図 3 1.5 m 切削時の工具の SEM 像 (a)鋼材 A を切削した場合(b)鋼材 B を切削した場合 Fig. 3 SEM images of coated tool (cutting length = 1.5 m) (a) Steel A (b) Steel B (a-1) SL た箇所の面分析結果を示す。工具摩耗は逃げ面側に進行し Cutting speed = 90 m/min Cutting face (b-1) SL Cutting speed = 90 m/min Cutting face Low magnification 1 mm Low magnification 1 mm (a-2) Fe (a-3) Si (a-4) Mn (b-2) Fe (b-3) Si (b-4) Mn (a-5) S (a-6) Al (a-7) O (b-5) S (b-6) Al (b-7) O (A-1) SL (B-1) Cutting face SL Cutting face Honing High magnification (A-2) Fe (A-3) Honing 200 mm Si (A-4) Mn High magnification (B-2) Fe (B-3) ① Qualitative analysis area (A-5) S (A-6) Al (A-7) ②Qualitative analysis area O (B-5) S (B-6) 200 mm Si (B-4) ③ Mn ④ Qualitative analysis area Al (B-7) O 図 4 0.75 m 切削時の工具面分析結果 (a-1)∼(a-7)鋼材 A を切削した場合,低倍率観察(A-1)∼(A-7)鋼材 A を切削した場合,高倍率観察 (b-1)∼(b-7)鋼材 B を切削した場合,低倍率観察(B-1)∼(B-7)鋼材 B を切削した場合,高倍率観察 (a-1, A-1, b-1, B-1)SEM 像,(a-2, A-2, b-2, B-2)Fe,(a-3, A-3, b-3, B-3)Si,(a-4, A-4, b-4, B-4)Mn,(a-5, A-5, b-5, B-5)S (a-6, A-6, b-6, B-6)Al,(a-7, A-7, b-7, B-7)O Fig. 4 WDS maps of coated tool (cutting length = 0.75 m) (a-1) ∼ (a-7) Steel A, low magnification (A-1) ∼ (A-7) Steel A, high magnification (b-1) ∼ (b-7) Steel B, low magnification (B-1) ∼ (B-7) Steel B, high magnification (a-1, A-1, b-1, B-1) SEM images, (a-2, A-2, b-2, B-2) Fe, (a-3, A-3, b-3, B-3) Si, (a-4, A-4, b-4, B-4) Mn, (a-5, A-5, b-5, B-5) S (a-6, A-6, b-6, B-6) Al, (a-7, A-7, b-7, B-7) O 34 日立金属技報 Vol. 29(2013) HRC40 プリハードン鋼切削時の工具損傷機構 ていくが,すくい面側の溶着物が観察しやすいこと,ホー 3. 2. 2 TEM による溶着物の断面解析 ニング部に皮膜剥離が観察され,鋼材により工具皮膜の損 溶着物についてさらに詳しく調べるため,図 4 中 ②,③ 傷状態が異なったことから,特にホーニング部の溶着物に 矢印付近について,溶着物断面構造,厚さ,結晶構造,組 着目した結果を示す。表示元素は,溶着物主成分であった, 成の調査を実施した。 Fe,Si,Mn,Al,O,Sである。SLは二次電子像を示す。 図 6 に,溶着物の暗視野 STEM(Scanning Transmission 両鋼種ともホーニング部に酸化物が形成されていた。一部, Electron Microscope)像を示す。鋼材A切削時の溶着物厚 鋼材B切削時に硫化物が形成されていた。また,工具寿命 さは,1.2 μm程度であり,灰色の領域と白色の領域が交互 を悪化させると考えられるFeの付着 5)は,鋼材Aを切削し に積層する構造であった。一方,鋼材Bは0.8 μm程度であ た刃先に多く存在した。 り,灰色の領域内に粒状の白色の領域を含む単層構造の溶 表 3 に,図 4 中矢印で示す箇所における定性分析結果の 着物であることを確認した。 主要成分を示す。測定範囲は1 μm程度であり,Tiは皮膜 (a) 成分を検出した結果である。鋼材中のAl 量が多い鋼材A切 Low magnification Area 2 Adhesive materials 削時はAl 系酸化物,鋼材B切削時はMn-Si系酸化物が確認 High magnification Area 1 され,鋼材成分中のSi ,Mn,Alが濃化し,酸化物として 形成していると考えられる。鋼材B切削時にはMnSも一部 Spot 4 Spot 2 Spot 3 確認され,鋼材中に含有されるMnSが工具に付着したと考 Spot 1 えられる。 20 nm TiN Coating 0.2 μm (b) 表 3 溶着物表面の定性分析結果 Table 3 Results of qualitative analysis Fe Si Mn Al S O Ti Steel A ① 46.9 0.9 7.6 5.5 0.02 20.6 6.3 ② 1.8 0.3 0.6 57.8 0.00 15.1 0.7 Steel B ③ 4.6 12.0 47.9 0.0 1.59 28.4 1.7 ④ 3.7 0.2 50.5 0.0 7.9 2.2 11.2 (mass%) 図 5 に,溶着物の分布模式図を示す。図は,各切削速度 Low magnification High magnification Adhesive materials Area 1 Spot 4 Spot 3 Spot 2 Area 2 Spot 1 20 nm TiN Coating 0.2 μm 図 6 溶着物の暗視野 STEM 像 (a)鋼材 A を切削した場合(b)鋼材 B を切削した場合 Fig. 6 STEM images of coated tool (a) Steel A (b) Steel B で図 4 と同様の評価を実施した結果より作成した。鋼材A 切削時は切削速度の上昇に伴い付着するAlが減少し、Feが 表 4 に,図 6 に示す各箇所の定性分析結果を示す。Area 増加する。一方,鋼材Bは切削速度の上昇に伴い,Mn-Si 部は図中に示す範囲,Spot部はすべて5 nm 角範囲を分析 系酸化物が増加し,MnSが減少する。工具寿命の結果から した。O は検出されたが信頼性が低いため金属成分のみを 判断すると,Mn-Si系酸化物が付着することは保護膜とし 示す。白い領域は,鋼材A,BともにFeが主成分であり, ての作用があり,工具の損傷を抑制すると考える。また, 高速度側において特にFeが付着する鋼材Aは,本研究の加 工方法では,保護膜としての作用が低く,皮膜剥離や,チッ 表 4 溶着物断面の定性分析結果 Table 4 Results of qualitative analysis ピングなどの損傷に至ると推測される。これまでの実験結 果より,それぞれの鋼材において最適な切削条件は存在す るが,溶着物と工具寿命には強い関係性があることが示唆 された。 Steel A Low speed(60 m/min) Midium speed High speed(150 m/min) Fe(O) Al-O Fe Si Mn Area 1 3.6 1.2 2.8 Area 2 91.1 0.3 3.4 0.00 0.7 0.1 Spot 1 0.1 0.3 0.0 0.52 0.3 98.1 Spot 2 8.8 3.0 7.8 0.88 70.6 6.4 Spot 3 47.1 3.1 9.9 0.00 34.7 1.2 Spot 4 4.3 1.6 3.3 0.66 85.9 2.2 Fe Si Mn S Al Ti 23.1 72.5 2.07 0.3 0.0 Steel A MnS Mn-Si-O Steel B Steel B Al-O Fe(O) MnS 図 5 各鋼材切削時における溶着物の分布模式図 Fig. 5 View showing frame format of adhesive materials Mn-Si-O S Al 0.10 91.1 Ti 0.1 Area 1 0.6 Area 2 93.6 0.4 1.9 0.12 0.2 0.0 Spot 1 0.1 0.3 0.0 0.07 0.2 99.2 Spot 2 0.0 26.5 56.1 1.12 0.5 7.7 Spot 3 0.1 24.7 69.7 1.84 0.6 0.7 Spot 4 80.7 6.0 9.9 0.22 0.5 0.1 (mass%) 日立金属技報 Vol. 29(2013) 35 灰色の領域は,鋼材AはAl系酸化物,鋼材BはMn-Si系酸 4. 結 言 化物であった。 Al 2 O 3の融点は2,050 ℃程度,MnO・SiO 2は1, 200 ℃程 異なる特徴を持つ2種類のプラスチック金型鋼(HRC40 度である。つまり,鋼材Aで形成されたAl系酸化物は融点 プリハードン鋼)切削時の工具損傷形態と溶着物の関係を が比較的高いため,工具刃先に形成される場合,保護膜の 調査した結果,同一硬さの鋼材でも,成分が異なると切削 機能は高く,工具の損傷抑制効果が期待できるが,Al 系酸 時における工具損傷形態,溶着物,最適切削条件が異なる 化物上にはFeが付着しやすく,溶着物が厚く堆積する傾向 結果を得た。以下,スローアウェイ式フライスカッターの にあるため,チッピングなどの損傷に至ると推測される。 正面切削結果により,鋼材成分から付与される溶着物の種 一方, 鋼材Bで形成されたMn-Si系酸化物は融点が低いため, 類と工具寿命には強い関係性があることが示唆された。 潤滑性に優れ,保護膜として機能を十分に発揮する最適温 (1)鋼材 A 切削時はチッピングを伴う摩耗,鋼材 B 切削 度領域が存在し,切削条件の選定が重要であると推測され 時は純粋な摩耗により工具が寿命に至り,損傷形態が る。 異なった。 図 7 に,図 6 に示す箇所の制限視野回折像を示す。測定 (2)鋼 材 A 切 削 時 は Al 系 酸 化 物, 鋼 材 B 切 削 時 は 範囲は図 6 中に示す。鋼材A切削後の溶着物は,Al-Oとし Mn-Si 系酸化物の溶着物が工具刃先に形成された。 ての指数付けはできなかったが,AlN(hexagonalとfccの (3)切削速度の上昇に伴い,鋼材 A 切削時に形成される 混在)型と仮定しての指数付けが可能であった。鋼材Bは, 溶着物は,Al が減少し,Fe が増加した。 Mn 2 SiO(Orthorhombic) で指数付け可能であった。さら 4 (4)切削速度の上昇に伴い,鋼材 B 切削時に形成される に,溶着物と皮膜の界面付近では,鋼材AはAlN(fcc) ,鋼 溶着物は,Mn,Si が増加し,工具摩耗の進行が遅くな 材BはMn 2 SiO(Orthorhombic) , 皮膜はTiN(fcc)であり, 4 った。 鋼材Aの溶着物とTiNは結晶構造が一致していた。よって, 溶着物と皮膜間の密着性が皮膜と工具母材よりも良いた め,鋼材A切削時,工具の皮膜剥離や欠損が生じやすいと も推察される。 (a) (b) (c) Determining area=650 nm Determining area=50 nm Determining area=5 nm (d) (e) (f) Determining area=650 nm Determining area=30 nm Determining area=5 nm 図 7 電子回折パターン (a)鋼材 A を切削した場合,エリア 1 (b)鋼材 A を切削した場合,スポット 1 (c)鋼材 A を切削した場合,スポット 2 (d)鋼材 B を切削した場合,エリア 1 (e)鋼材 B を切削した場合,スポット 1 ( f )鋼材 B を切削した場合,スポット 2 Fig. 7 Diffraction patterns (a) Steel A, Area 1 (b) Steel A, Spot 1 (c) Steel A, Spot 2 (d) Steel B, Area 1 (e) Steel B, Spot 1 ( f ) Steel B, Spot 2 36 日立金属技報 Vol. 29(2013) HRC40 プリハードン鋼切削時の工具損傷機構 引用文献 森下 佳奈 Kana Morishita 1) 藤井利光,松田幸紀:熱間工具鋼の被削性におよぼす Si 量 日立ツール株式会社 の影響,電気製鋼,第 71 巻,第 2 号,p.119-129(2000) 2) 古屋諭,尾添伸明,臼杵年,山根八洲男:非介在物を利用 した片状 黒鉛 鋳 鋼高速切削時の快削化,精密工学会誌, Vol.71,No.6,p.750-755(2005) 3) 福島有一:プラスチック金 型の最 新動向,プラスチックス, Vol.59,No.12,p.18-22(2008) 4) 小野浩二,河村末久,北野昌則,島宗勉:切削工具の摩耗 と寿命,理論切削工学,現代工学社,2003,p.109 5) 小野浩二,河村末久,北野昌則,島宗勉:切削工具の摩耗 と寿命,理論切削工学,現代工学社,2003,p.102 基盤技術研究センター 井上 謙一 Kenichi Inoue 日立ツール株式会社 基盤技術研究センター 日立金属技報 Vol. 29(2013) 37 水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR)プロセスで作製した 微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 Enhancement of Coercivity in Hydrogenation - Disproportionation - Desorption - Recombination (HDDR) - Processed Nd-Fe-B-Based Fine - Grained Magnet with Diffusion Treatment 西内 武司* 野澤 宣介* Takeshi Nishiuchi Noriyuki Nozawa 村田 剛志* Takeshi Murata 川田 常宏* 広 沢 哲 ** Tsunehiro Kawata Satoshi Hirosawa 重希土類フリー高保磁力磁石の作製に向け,水素化 - 不均化 - 脱水素 - 再結合(HDDR)プロセ スで作製した Nd - Fe - B 系磁石粉末に Nd 合金拡散源を混合して熱処理する拡散処理を検討した。 Nd - Cu 合 金に加え,Nd - Ga 合 金や Nd - Al 合 金の拡散処理でも保 磁力が向上することが確認さ れ ,Nd-Al 拡散源において cJ の最大値は 1,645 kA/m になった。Nd-Al 合金を用いた拡散処理の 保磁力向上は Nd 2 Fe14 B 相の粒界組織の適正化に加え , 主相内部に導入された Al による異方性磁 界( A )の向上によるものであることが示唆された。また,Nd-Al 拡散源を混合した後 600 ℃以下 のホットプレスで緻密化した HDDR 磁石粉末を 700 ℃で熱処理することにより , 保磁力が向上する ことが確認された。 Diffusion treatment, which consists of blending hydrogenation-disproportionation-desorptionrecombination (HDDR) -processed Nd-Fe-B-based magnet powder with diffusion sources of Nd-based alloy and then annealing the mixture, was studied in order to manufacture a high coercivity magnet without usage of heavy rare-earth elements. Beside Nd-Cu alloys, using Nd-Ga and Nd-Al alloys as diffusion sources was proven to be effective in increasing coercivity. In particular, the coercivity of the magnet powder prepared with the diffusion treatment of Nd-Al alloy reached a maximum value of H cJ=1,645 kA/m. Enhancement of coercivity with the Nd-Al diffusion source was attributed to modification of nanostructure around the grain boundary region between the Nd2Fe14B phases and an increase in the magnetic anisotropy field (H A) by substitution of Al in the Nd2Fe14B phase. Furthermore, HDDR-processed powder, mixed with the Nd-Al diffusion source and then consolidated by hot-press below 600 ℃ , showed an enhanced coercivity when it was annealed at 700 ℃ . ● Key Word:Nd-Fe-B 磁石,水素化 - 不均化 - 脱水素 - 再結合(HDDR) ,保磁力 ● Production Code:Nd-Fe-B magnet ● R&D Stage:Research 重希土類元素を添加して磁石の保磁力( 1. 緒 言 cJ )を向上させ ている。しかし,DyやTbは自然存在比が小さく,かつ特 Nd-Fe-B系焼結磁石(当社商品名:NEOMAX ®)は,そ 定地域に偏在していることから,これらに依存しない永久 の高い磁気特性によりハードディスクドライブのボイスコ 磁石の開発が強く求められている1)。重希土類元素を使用 イルモーター(VCM: Voice Coil Motor)や各種回転モー しない Nd-Fe-B系焼結磁石の保磁力は,この磁石が発明さ ター,産業機械用のリニアモーターなど多くの用途に使 れた1982年以来,Nd 2 Fe 14 B 化合物の異方性磁界 用されている。特に,急激に生産が拡大しているハイブ MA/m)2)の20 リッド自動車(HEV: Hibrid Electric Vehicle)や電気自 結磁石の組織が理想的な組織からかけ離れていることによ 動車(EV: Electric Vehicle)の心臓部である駆動モーター ると考えられ,材料組織を適正化することができれば,重 には数百gから1 kg程度のNd-Fe-B系焼結磁石が使用され 希土類元素に依存しなくても自動車用途に使用可能な高保 ているが,高温での性能を確保するためにDyやTbなどの 磁力を有するNd-Fe-B 磁石が得られる可能性がある。 * ** 38 日立金属株式会社 NEOMAX 事業部 独立行政法人物質・材料研究機構 日立金属技報 Vol. 29(2013) * ** (5.6 A %未満にとどまっていた。これは実際の焼 NEOMAX Division, Hitachi Metals, Ltd. National Institute for Materials Science 水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR)プロセスで作製した微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 Nd-Fe-B系磁石において保磁力を向上させる組織制御の た。本論文では,これら一連の研究で得られた成果ならび 手段として,結晶粒の微細化が有効であると報告されてい に今後の課題についてまとめる。 る3 ∼10)。焼結磁石においてこれを実現するためには,焼結 前の粉砕粉の粒度を小さくする必要があり,例えばジェッ トミル粉砕にHeガスを用いて 50 %中心粒径( の微粉末を作製し,これを焼結して得られた磁石が報告さ 10) れている 2. Nd 合金を用いた拡散処理の検討 が1.1 μm 50) 。しかし,Nd-Fe-B系合金が本質的に活性で, 2. 1 実験方法 Nd12.5Fe72.8Co8B6.5Ga 0.2 組成の鋳造合金を1,110 ℃の減圧 微粉化すると取り扱いが困難になることや,粉砕工程にお Ar雰囲気中で16時間熱処理を行った後,機械的に粉砕して ける生産性などを考慮すると,焼結法で得られる磁石の結 300 μm以下の粉末を回収した。得られた粉末をAr 雰囲 晶粒径を1 μm以下にするのは依然として容易ではない。 気中で840 ℃まで加熱し,雰囲気をH2に切り替えて840 ℃ これに対し,水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR: で 4 時間保持して水素化−不均化(H D)処理を行った。 Hydrogenation-Disproportionation-Desorption- その後,5 . 3 kPaの減圧Ar雰囲気に切り替えて,840 ℃で Recombination)法11∼14)は焼結法では作製困難なサブミ 1 時間保持することにより,D R処理を行った。得られた クロンサイズの結晶粒からなる異方性磁石が作製できるこ サンプルの磁気特性を振動試料型磁束計(VSM: Vibrating とから,焼結磁石よりもさらに高い保磁力を有する重希土 Sample Magnetometer)で評価した結果,残留磁束密度 r Nd-Fe-B系磁石が得られる可能性がある15)。 (反磁界補正なし,密度 7.6 g/cm3と仮定)は0.96 Tとあまり HDDRプロセスで得られるNd-Fe-B系磁石(以下“HDDR 高くないが, cJは1,323 kA/mと比較的高い値が得られた。 類フリー 磁石”と呼ぶ)においてDyやTbを用いずに保磁力を高め 一方,さまざまな元素MにおけるNd-M合金を単ロール る手法としては,本プロセスを見出した初期にNakayama 超急冷法で作製し,Ar雰囲気中でコーヒーミルを用いて粉 とTakeshitaらが行った研究など,いくつかの報告がある 砕した後,150 μm以下の粒子を回収して拡散源を得た。 14,16∼20) 。しかしながら異方性HDDR磁石の保磁力( これらHDDR磁石粉末と拡散源を混合して真空炉に導入 cJ) はこの時に得られた1.2 MA/m程度にとどまっており, し,10−2 Pa以下の高真空中で, 室温から拡散処理温度( d) HDDR磁石の微細結晶粒から期待される1.6 MA/mを超え まで 1 時間で昇温し,その後 る高い保磁力は得られていなかった。 にArガスを導入して室温まで冷却した。なお,この条件は 筆者らは2007年度から2011年度まで実施した文部科学省 Sepehri-Aminらの研究 25)と比較すると昇温および冷却速 「元素戦略プロジェクト」 ( 「低希土類元素組成高性能異方 度が小さくなっている。得られたサンプルの一部は,熱 性ナノコンポジット磁石の開発」15))において独立行政法 処理中に溶融したNd-M合金によって塊状になったため, 人物質・材料研究機構と共同で,HDDR磁石の保磁力に影 Ar 雰囲気中で300 μm以下まで解砕した後,VSMで磁気 響を与える組織要因の解析を進めた。その結果,脱水素- 特性を評価した。 dで30分間保持した後,炉内 再結合(DR)処理において再結合Nd2Fe14B相の生成がほ ぼ完了した後にNd 2 Fe14 B 相の粒界に生成したNdリッチ 2. 2 実験結果 相が保磁力発現に寄与していること21,22),ホットプレス Sepehri-Aminらの検討 25)では,Ndリッチ側の共晶点 によるHDDR磁石粉末の緻密化過程で保磁力が大きく変 近傍組成のNd-Cu合金を拡散源として用いることで,保 化し,これが Ndリッチ相分布の変化で説明できること 磁力が向上できることが示されている。そこで,Ndリッチ 23) ,三次元アトムプローブ( 3 DAP: 組成側に比較的低温の共晶点を有するNd-M二元系(表 1 ) Three Dimensional Atom Probe)による組成分析結果からNdリッチ相は強磁 を選択し拡散処理の効果を調査した。具体的には,単 性で主相結晶粒間の磁気的な結合を十分分断できていない ロ ー ル 法 で 作 製 し たNd 80 Cu20 ,Nd 90 Al10 ,Nd 80 Ga20 , と考えられること22,24)などが明らかになった。これらの知 Nd 90 Mn10 ,Nd 80Co 20 ,Nd 80 Ni20 組成の超急冷合金を拡散 見を踏まえ,Nd12.5 Fe 72.8 Co 8 B 6.5 Ga 0.2(mol%,以下も特別 源とした。なお,これらの組成は,表 1 に示す共晶組成近 に記載のない限り同様)組成のHDDR磁石粉末に超急冷法 傍もしくはそれよりもNdリッチ側となるように設定してい で作製した共晶組成(Nd 70 Cu 30 )近傍のNd-Cu合金を混合 る。また,比較としてMを含まない金属Ndを拡散源とし して熱処理することで,NdやCuが磁石粉末の結晶粒界近 傍に拡散導入されて保磁力が大幅に向上できることが Sepehri-Aminらによって示された25)。この方法(以下“拡 表 1 Nd-M 二元系の共晶組成および温度 Table 1 Eutectic compositions and temperatures for Nd-M binary systems Alloy system Eutectic composition※ Eutectic temperarture※ (℃) Nd-Cu Nd70Cu30 520 Nd-Al Nd85Al15 635 Nd-Ga Nd80Ga20 651 Nd-Mn Nd73Mn27 700 す ) を 用 い た 拡 散 処 理 の 効 果 を 調 査 す る と と も に, Nd-Co Nd80Co20 625 Nd-Fe-B系焼結磁石からの置き換えに必須であると考えら Nd-Ni Nd81Ni19 散処理”と記す)はNd-Cu合金以外にも幅広く活用できる と考えられ,また作製条件を適正化することで,さらに高 い保磁力を有する微細結晶磁石を作製できる可能性があ る。そこで,著者らは種々のNd合金(以下“拡散源”と記 れる緻密化と高保磁力化の両立可能性について検討を進め 570 ※ Nd-rich side of binary system 日立金属技報 Vol. 29(2013) 39 た実験も行った。 1,800 HDDR磁石粉末と拡散源の混合比を 5:1(質量比)とし て800 ℃,30分の条件で拡散処理を行った粉末サンプルの 1,600 きなかったことに加え,処理後のサンプルが凝集して十分 に解砕ができない場合があったため正確な評価ができな かったが,密度を7.6 g/cm3と設定するといずれの拡散処 理条件においても0.7∼0.8 Tまで低下した。これは,Nd-M 合金の混合量が比較的多く,拡散処理後の主相比率が処理 1,400 1,200 cJ 体積磁化を計算するためのサンプルの密度が正確に把握で (kA/m) rの値はVSM測定結果から Coercivity, 磁気特性をVSMで評価した。 前よりも大きく低下したことに加え,例えば MがAlの場合 Initial powder 1,000 800 には後述するとおり,主相へAlが導入されて飽和磁化が低 下したことも一因であると考えられる。これに対し,図 1 に示すように, : w/o diffusion source : Nd80Cu20 : Nd90Al10 200 0 400 25)にある cJは,Sepehri-Aminらの報告 500 Nd80Cu20合金に加え,Nd90Al10やNd80Ga20合金でも大幅に 向上することが確認された。特にNd 90Al10合金では1,600 kA/mを超える cJが得られることがわかった。また,今 回の検討では,金属Ndを拡散源とした場合も1,500 kA/m程 度の保磁力が得られた。一方,Nd 80 Co 20やNd 80Ni 20では拡 600 700 Temperature, 800 900 d(℃) 図 2 Nd80Cu20 および Nd90Al10 合金を拡散源としたときの保磁 力の拡散処理温度依存性(拡散処理時間:30 分) Fig. 2 Dependence of coercivity on diffusion treatment temperature for Nd80Cu20 and Nd90Al10 diffusion sources (diffusion treatment time: 30 min) 散処理における保磁力向上効果は大きくなく,Nd80Mn20合 金では保磁力が低下した。 温度は表 1 に示す共晶温度よりも低くなっている。これは, 間で反応が生じてNd−M合金の拡散が起こっていることを 1,600 示唆している。一方, ℃以上の条件では拡散源の 有無に関わらず 1,400 高すぎるために粒成長が顕在化したことによるものである cJ dが900 1,500 1,300 と考えられる。 Coercivity, (kA/m) 拡散源単独で液相が生成しなくとも,拡散源と磁石粉末の 1,700 1,200 ここまでの検討で保磁力向上効果が一番大きくなった 1,100 1,000 cJが大幅に低下した。これは処理温度が Nd-Al合金について,合金組成と拡散処理後の保磁力の関 係を調査した。具体的には, Nd100-x Alx(mol%)でAl量(x ) Initial powder Nd80Ni20 Nd80Co20 Nd80Mn20 Nd80Ga20 Nd80Al20 Nd80Cu20 と拡散源を5:1(質量比)で混合して800 ℃,30 分の条件 Nd100 を0から100まで変えた一連の拡散源を作製し,HDDR磁粉 800 w/o diffusion source 900 で拡散処理を行った。x と cJの関係を図 (Nd金属)からAl量を増加すると 3 に示す。x が 0 cJは向上し,x が10以上 55以下の比較的広い組成範囲で1,600 kA/m以上の 図 1 種々の Nd-M 拡散源を用いて 800 ℃,30 分間拡散処理を行っ たサンプルの保磁力(HDDR 磁石粉末と拡散源の混合比は 5:1) Fig. 1 Coercivity of samples prepared with diffusion treatment at 800 ℃ for 30 min with various Nd-M diffusion sources (the mixing ratio of HDDR powder to diffusion source is 5 : 1) 次に,Nd80Cu20合金および Nd90Al10合金を拡散源とした cJが得 られ,x が40のときに本検討における最大値となる1,645 kA/mの は, cJ が得られた。一方,x が 60以上75以下の組成で cJは x の増加とともに徐々に低下し,x が75のときに 処理前の磁石粉末の水準となった。また,x が100(すなわ ち金属Al)では cJは大幅に低下した。ここで,x の小さな (すなわちNdリッチ組成の)拡散源を用いた場合は,拡散 の関係を cJ) 処理後に磁石粉末の凝集が見られたのに対し,x が 75の場 調査した。なお,拡散処理時間は30分である。検討結果を 合には凝集がほとんど確認されなかった。このことから,x 図 2 に示す。この図には,HDDR磁石粉末のみを拡散処理 が 75の場合は磁粉と拡散源の反応がほとんど起こらず,磁 温度で熱処理した時の結果もプロットしているが,この場 粉内部へのNdやAlの拡散が進行しなかったために,保磁力 合の が未処理の水準と同等レベルになったと考えられる。なお, 場合について,拡散処理温度( と保磁力( d) cJは熱処理前の水準以下にとどまった。これに対し, Nd 80 Cu 20合金を用いた拡散処理では d が 500 ℃以上で, さらにAl量が増加した場合にはNd-Al二元系合金のAlリッ cJ チ側の共晶温度(640 ℃)で溶解した拡散源が磁粉と反応 が大幅に向上し,Nd90Al10合金の方がNd80Cu20合金よりも することにより高保磁力が発現する組織が得られなくなる 高い ものと思われる。 Nd90Al10合金を用いた拡散処理では 40 cJが得られた。これら 日立金属技報 Vol. 29(2013) dが550 ℃以上で cJが向上し始める拡散処理の 水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR)プロセスで作製した微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 の結果,x が0,40のいずれの組成においても拡散源の混合 1,800 量が多くなると cJ側を推移した。また,混合比が3:1になると5:1と比 較して 1,400 r, cJともに低下した。 今回の検討において cJ (kA/m) cJが向上していくが,いずれ の混合比においてもx を40とすると,x が0の場合よりも高 1,600 Coercivity, rが低下し cJが最大(1,646 kA/m)となった x が 40,混合比 5:1のサンプルについて,拡散処理前後の 1,200 組織観察を行った。走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Initial powder 1,000 Electron Microscope)観察で得られた反射電子像を図 5 に示す。拡散処理後のサンプルでは,観察視野において明 200 るいコントラストの割合が処理前よりも明らかに増加して いる。これはSepehri-Aminらが検討したNd-Cu拡散処理 0 0 20 40 60 80 100 の結果25) でも確認されており,拡散処理によってNdが HDDR磁石粉末の個々の粒子内に導入されたためにNdリッ in Nd100- Al (mol%) チ相が増加していることによるものであると考えられる。 図 3 Nd-Al 合金を拡散源としたときの保磁力の合金組成依存性 (拡散処理条件:800 ℃,30 分) Fig. 3 Dependence of coercivity of the diffusion- treated samples on alloy composition of Nd-Al diffusion sources (diffusion treatment: 800 ℃,30 min) しかし,図 5(b 2) (b 4)に示すようにNdリッチ相があまり 存在しない大きさ5∼10 μmの領域も確認された。 次に拡散処理前後のサンプルについて透過電子顕微鏡 (TEM: Transmission Electron Microscope)およびエネ ル ギ ー 分 散 型X線 分 光 器(EDX: Energy Dispersive cJが得られた,x を40とした拡散源に X-ray Spectrometer)を用いて組織分析を行った。結果を おいて,磁石粉末と拡散源の混合比を3:1から30:1まで 図 6 に示す。拡散処理後サンプルのSEM観察において図 5 変えた混合粉末を800 ℃,30分保持することで得られたサ (b4)で示されるような, Ndリッチ相があまり存在しなかっ 先の検討で最大の cJとし た部分をTEM で観察したところ,図 6(b 2)で示される たマップ上に,得られた特性値をプロットした結果を図 4 ように数μm の大きな結晶粒になっていることが確認され に示す。この図には比較としてx が 0(金属Nd)で同様の検 たが,サンプルの大部分(図 6(b 1) )では拡散処理に伴う ンプルの磁気特性を評価した。縦軸を r,横軸を 討を行った結果も示している。なお,先述したとおり 顕著な粒成長は確認されなかった。図 6(b 2)で示された VSM測定において rの値を正確に見積もるためのサンプ 領域では局所的な磁化反転が容易に起こってサンプル全体 ルの密度がわからなかったため,いずれのサンプルも密 の減磁曲線の角型性を悪化させる可能性があるため,これ 度が7.6 g/cm3であるとして を低減することは今後の課題である。また,EDXによる元 rを求めている。一連の検討 素マッピングを行った結果を図 7 に示す。拡散処理前のサ 1.00 0.95 Remanence, r (T) 0.90 ンプルでは,明視野像で確認される結晶粒の分布とNdの分 w/o diffusion source 30:1 0.80 布を対応づけることは困難であったが,拡散処理後の磁粉 : x=40 ではいわゆる粒界三重点に対応した位置に,Ndが濃化して 15:1 30:1 0.85 : x=0 15:1 Fe がほとんど存在しない領域が存在することが確認され た。これらの領域においてEDXスペクトルから求めた組成 10:1 10:1 7:1 を表 2 にまとめる。なお,測定は各領域で3点行っている。 7:1 拡散処理後のサンプルでは主相内にAlの存在が確認される 0.75 0.70 0.65 とともに,拡散処理前サンプルの主相と比べFeやCo の量 5:1 5:1 が低下した。これは,拡散処理によってAlが主相のFeやCo 3:1 と置換したことを示している。Nd 2Fe14 BのFeサイトをAl 0.60 で置換すると室温の 3:1 0.55 1,300 1,400 1,500 Coercivity, cJ 1,600 1,700 (kA/m) 図 4 金属 Nd(x =0)および Nd 60 Al 40 合金(x =40)を拡散源とし, HDDR 磁石粉末と拡散源の混合比を変えて拡散処理を行ったサ ンプルの r および cJ(拡散処理:800 ℃,30 分) Fig. 4 B r and H cJ of the diffusion-treated samples with different mixing ratios of HDDR powder and diffusion sources for Nd metal (x =0) and Nd60Al40 alloy (x =40) (diffusion treatment: 800 ℃, 30 min) Aは向上するのに対し,拡散処理前 後における主相中のCo量の変化ではNd 2(Fe,Co)14 B 化 合物の 26) 。従って, Aは大きく変わらないと考えられる Nd-Al合金の拡散処理による保磁力向上には,処理によっ て主相中のFeやCoをAlが置換することで主相の Aが 向上 したことも寄与していると考えられる。なお,TEM/EDX 分析の結果からは粒界相にもAlが存在することが確認され たが,今回の検討では従来のHDDR磁石において強磁性で ある可能性が示された22,24)いわゆる二粒子粒界のNdリッ 日立金属技報 Vol. 29(2013) 41 チ相の組成分析ができていないことから,Nd-Al拡散にと には,TEMの高分解能観察や3DAPなど原子レベルでの組 もなう粒界相の変化が保磁力に与える影響を考察するため 織および組成の解析が必要である。 (a1) (a2) 1 μm 5 μm 20 μm (b1) (a3) (b2) (b3) 5 μm 20 μm 1 μm (b4) 1 μm - a3)拡散処理前, (b1)( - b4)拡散処理(800 ℃,30 分) 図 5 Nd60Al40 拡散源を用いた拡散処理前後のサンプル断面の反射電子像,(a1)( 後 Fig. 5 Cross sectional back scattered electron images of the samples before and after diffusion treatment with a diffusion source of Nd60Al40 alloy,(a1) - (a3) before diffusion treatment, (b1) - (b4) after diffusion treatment (800 ℃, 30 min) (a) (a1) (a2) (a3) (a4) (a5) (a6) 500 nm 500 nm (b1) (b2) 500 nm 日立金属技報 Vol. 29(2013) (b2) (b3) (b4) (b5) (b6) 500 nm 図 6 Nd60Al40 拡散源を用いた拡散処理前後のサンプルの TEM 像 , (a)拡散処理前, (b1) (b2)拡散処理(800 ℃,30 分)後 ,(b1) (b2)はそれぞれ図 5(b3)(b4)の領域に対応する) Fig. 6 TEM images of the samples before and after diffusion treatment with a diffusion source of Nd 60Al40 alloy, (a) before diffusion treatment, (b1) (b2) after diffusion treatment (800 ℃, 30 min). (b1) and (b2) correspond to the region shown in Figs. 5 (b3) and (b4), respectively 42 (b1) 500 nm 図 7 Nd60Al40 拡散源を用いた拡散処理前後のサンプルの TEM/ EDX による元素マッピング(a1) , ( - a6)拡散処理前(b1) , ( - b6) 拡散処理(800 ℃,30 分)後, (a1) (b1)Nd マップ, (a2) (b2) Fe マップ,(a3) (b3)Co マップ,(a4) (b4)0 マップ,(a5) (b5)Al マップ,(a6)(b6)明視野像 Fig. 7 Elemental maps of the samples before and after diffusion treatment with a diffusion source of Nd60Al40 alloy observed by TEM/EDX, (a1) - (a6) before diffusion treatment, (b1) - (b6) after diffusion treatment (800 ℃, 30 min), (a1) (b1) Nd mapping, (a2) (b2) Fe mapping, (a3) (c3) Co mapping, (a4) (b4) 0 mapping, (a5) (b5) Al mapping, (a6) (b6) bright field images 水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR)プロセスで作製した微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 表 2 Nd60Al40 拡散源を用いた拡散処理前後のサンプルの EDX 分 析結果(図 7(a6)(b6)の視野で測定) Table 2 EDX analyses of the samples before and after diffusion treatment with diffusion source of Nd60Al40 alloy (observed area is selected in Fig.7 (a6) (b6)) Sample Analized region Before diffusion treatment After diffusion treatment (Nd60Al40) Nd2Fe14B Nd2Fe14B Nd-rich Nd Composition (mol%) Fe Co Al O 10−2 Pa以下の真空中で金型温度が室温から580 ℃になる まで1分間で昇温した後,580 ℃で10分間保持し,その後, Heガスを導入して冷却し,サンプルを作製した。なお, この条件ではホットプレスに伴う液相の排出が起こらない ことを予備検討で確認している。得られたサンプルの磁気 特性をBHトレーサで測定した後,10−2 Pa以下の真空中, 1 11.0 79.3 8.9 − 0.8 2 11.5 78.7 8.5 − 1.2 700 ℃で150分間熱処理を行い,その後再びBHトレーサで 3 11.0 77.4 9.1 − 2.5 磁気特性を評価した。 1 10.6 76.7 6.2 6.2 0.3 2 10.3 76.9 6.6 5.3 0.9 3. 3 実験結果 3 10.2 75.7 6.7 6.1 1.2 a 52.5 6.5 19.2 15.5 6.5 ホットプレス後および熱処理後の減磁曲線を図 8 に示 b 51.1 14.4 19.0 14.1 1.4 c 70.9 4.9 1.2 11.2 11.8 す。この図では,拡散源と混合していないHDDR磁石粉末 およびそれを586 MPaの圧力下,580 ℃で10分間ホットプ レスを行ったサンプルの減磁曲線も示している。拡散源と 混合したときのホットプレス後のサンプルの密度は7.43 g/ 3. ホットプレス体の高保磁力化検討 cm3となり, 拡散源がない場合よりも高い (1,000 cJ kA/m) を示した。さらに,このサンプルに対し700 ℃で熱処理を 3. 1 検討の目的 行うと HDDR処理で得られた粉末は通常,樹脂と混合した後圧 熱処理前後の 縮成形や射出成形を行ってボンド磁石として用いられる。 いることがわかる。この原因を調査した結果,ホットプレ しかし,ボンド磁石における磁粉の充填率は最大でも85 スで一旦緻密化されたサンプルがその後の熱処理によって vol.%程度であることから,本質的に焼結磁石よりも低い 体積が増加し,密度が6.80 g/cm3まで低下していることが rしか得られない。著者らは,この磁石を従来の焼結磁石 わかった。このような現象を抑制することができるHDDR cJは1,410 kA/mまで向上した。一方,700 ℃での rに着目すると,熱処理により rが低下して 同様に使えるようにするためには,磁石粉末のみを真密度 磁石粉末および拡散源の適正化が今後の課題である。 近くまで緻密化することが重要であると考えている。ここ このような課題が明らかになったものの,本検討で期待 で,図 2 で示したように,900 ℃以上の温度になると保磁 されたホットプレス後の熱処理による保磁力の向上を確認 力が大幅に低下することから,900 ℃より低温で緻密化で することができた。 きる手法としてホットプレスを採用し,第2章で示した拡 散処理による保磁力向上との両立可能性を検証した。 Nd-M合金を拡散したHDDR磁石粉末はサンプル全体のNd 量が増加しており,高温にした時の液相量が増加する。こ Magnetization, (T) Initial powder のような粉末をホットプレスすると,液相が排出されて金 型に固着するなどのトラブルが発生することが初期の検討 で明らかになった。そこで,本検討ではHDDR磁石粉末と 拡散源を混合したのち,液相の生成量が少ない低温・短時 間でホットプレスを行って緻密化のみを行い,その後,高 1.2 Initial powder(hot-pressed) 1 Nd 60Al40 mixed(hot-pressed) 0.8 Nd 60Al40 mixed(annealed) 温で熱処理を行うことで拡散を促進させて保磁力を向上さ 0.6 せる手法の可能性について検討した。 0.4 3. 2 実験方法 0.2 過去の検討で磁石粉末単独でのホットプレス条件と保磁 力の関係23)が明らかになっているNd13.5Fe72 Co8B6.5組成の −1,500 −1,000 −500 0 500 HDDR磁石粉末と,超急冷合金を粉砕して150 μm以下と したNd 60Al 40 組成の拡散源を質量比10:1で混合した。なお, Applied field, (kA/m) 本検討では第2章での検討よりも拡散源の混合量を少なく しているが,これは先述したホットプレス時の液相の排出 によるトラブルを回避するためである。 混合粉末は,平行磁界中プレスを用いて,0.8 Tの磁界を 付与しながら140 MPaのプレス圧力で仮成形を行い,得ら れた仮成形体を超硬合金製の金型に挿入してホットプレス 装置にセットした。ホットプレス圧力は 586 MPaとし, 図 8 Nd60Al40 合金を混合した HDDR 磁石粉末のホットプレス後 および熱処理後の減磁曲線(比較として,HDDR 磁石粉末およ びそのホットプレス体の結果も示す) Fig. 8 Demagnetization curves for HDDR-processed powder mixed with Nd 60 Al 40 alloy after hot-pressed at 580 ℃, and then annealed at 700 ℃ (curves for the HDDR-powder and hot-press body with it are also shown in the figure) 日立金属技報 Vol. 29(2013) 43 4. 焼結磁石代替に向けた課題 5. 結 言 一連の検討の結果,HDDR磁石粉末に対し,Sepehri- 本研究では,HDDR磁石粉末とNd合金を混合して熱処 Aminらが見出したNd-Cu合金25) に加え,Nd-Al合金や 理を行う拡散処理,および拡散処理とホットプレスによる Nd-Ga合金を拡散処理することでDyに依存せずに保磁力を 緻密化を組み合わせた処理について検討を行い,以下の結 向上できることが確認できた。特にNd-Al合金においては, 果を得た。 広い組成範囲で拡散処理による保磁力向上効果が確認さ (1)HDDR 法で作製した微細結晶を有する Nd-Fe-B 系磁 cJが 1,645 kA/mとなった。なお,同 石に Nd-Cu や Nd-Ga,Nd-Al 合金を用いた拡散処理を 様の処理による保磁力向上効果は,我々の検討とほぼ同時 採用することにより,保磁力が大幅に向上することを れ, rは低いものの 期にMishimaら27,28)によっても報告されており,HDDR 磁石粉末や拡散源の組成・粒度・熱処理条件などを適正化 確認した。 (2)Nd-Al 合金では広い組成範囲で拡散処理により保磁 することによってさらに保磁力を向上できる可能性があ 力( る。 れた。 の向上が確認され,最大で cJ) 1,645 kA/m が得ら 一方,HDDR法によって得られた磁石を従来の焼結磁石 (3)Nd 60Al 40 合金の拡散処理では,いわゆる粒界三重点 から代替するにはいくつかの大きな課題があると考えられ の Nd リッチ相の体積割合が増加することに加え,主相 る。一つは減磁曲線の角型性が焼結磁石よりも悪いという (Nd 2 Fe 14B 相)の Fe サイトに存在していた Fe や Co 点である。一般的にHDDR磁石の角型比( kはサンプルの磁化 が k/ ただし cJ , r×0.9となる減磁界の大きさ)は, 最大でも0.6程度である。本研究に用いた拡散処理前の磁石 粉末は k/ cJが0.39であったが,拡散処理を行った後も角 型性の改善は見られなかったため,同程度の cJを有する 焼結磁石よりも不可逆熱減磁などの耐熱性は悪くなる。 と外部から導入された Al が置換していることが確認さ れ,粒界近傍組織の適正化に加え,主相の A の向上 が保磁力向上に寄与していると考えらえる。 (4)HDDR 磁石粉末と拡散源の混合粉末を低温・高圧で ホットプレスして得られたバルク体を 700 ℃で熱処理 することにより保磁力が向上することを確認した。 MakiらはHDDR磁石における角型性の問題について,材 料内で低磁界で不可逆反転する領域の割合が焼結磁石より 6. 謝 辞 も高いことを指摘しており29),このような領域で低減可能 なHDDR処理条件を見出すことが,角型性の改善に重要で 本研究の一部は2007年度から2011年度に遂行された文部 あると考えられる。また,もう一つの課題はHDDR法で得 科学省「元素戦略プロジェクト」 ( 「低希土類元素組成高性 られる異方性磁石の主相配向度が焼結磁石よりも悪いため 能異方性ナノコンポジット磁石の開発」 )の支援を受けて に 行われた。ここに謝意を表する。 rが焼結磁石よりも低く,これに拡散処理を行うと主相 比率が低下してさらに rが低下するということである。 r の向上にはNd-Fe-B系合金のHDDR法で特異的に起こる異 方化のメカニズム(方位メモリメカニズム)を解明して配 向度の改善につなげるとともに,拡散処理における拡散源 の混合量を減らすことで rの低下を抑制しながら大幅に保 磁力を向上させる必要がある。これらの研究を進めて磁石 粉末の性能をさらに向上させるとともに,真密度近くまで の緻密化と拡散による保磁力向上が両立できる生産技術を 確立することが,重希土類に依存しない高保磁力磁石の実 用化のために必要である。 44 日立金属技報 Vol. 29(2013) 水素化−不均化−脱水素−再結合(HDDR)プロセスで作製した微細結晶 Nd-Fe-B 系磁石の拡散処理による保磁力向上 引用文献 1) S . Sug imoto: J. Jpn. I nst . Meta ls 71(2007)850(in Japanese). 2) S. Hirosawa, Y. Matsuura, H. Yamamoto, S. Fujimura, M. Sagawa and H. Yamauchi: J. Appl. Phys. 59(1986)873. 3) R. Ramesh, G. Thomas and B. M. Ma: J. Appl. Phys. 64 (1988)6416. 4) P. Nothnagel, K. -H. M ller, D. Eckert and A. Handstein: J. Magn. Magn. Mater. 101(1991)379. 5) D. W. Scott, B. M. Ma, Y. L. Liang and C. O. Bounds: J. Appl. Phys. 79(1996)5501. 6) K. Uestuener, M. Katter and W. Rodewald: IEEE Trans. Magn. 42(2006). 2897. 7) K. Kobayashi, T. Takano and M. Sagawa: The Papers of Technical Meeting on Magnetics, IEE Japan(2005) MAG-05-118(in Japanese). 8) M. Sagawa and Y. Une: Proc. 20th Int. Workshop on Rare-Earth Permanent Magnets and their Applications, Crete,(2008)p. 103. 9) W. F. Li, T. Ohkubo, K. Hono and M. Sagawa: J. Magn. Magn. Mater. 321(2009)1100. 10)Y. Une and M. Sagawa: J. Jpn. Inst. Metals 76(2012)12 (in Japanese). 11)T. Ta ka s h it a , a nd R . Na kaya ma : P ro c . 10t h I nt . Workshop on Rare-Earth Magnets and their Applications, Kyoto, Vol. 1,(1989), p. 551. 12)P. J. McGuiness, X. J. Zhang, X. J. Jin, and I. R. Harris: J. Less-Common Metals 158(1990)359. 13)R. Nakayama, T. Takeshita, M. Itakura, N. Kuwano and K. Oki: J. Appl. Phys. 70(1991)3770. 14)R. Nakayama and T. Takeshita: J. Alloys Compd. 193 (1993)259. 15)S. Hirosawa, T. Nishiuchi, T. Ohkubo, W. F. Li, K. Hono, J. Ya masa k i , M . Ta kezawa , K . Sum iya ma a nd S . Ya ma mu ro: J. Jpn . I nst . Met a ls 73(2 0 0 9)135(i n Japanese). 16) H. Nakamura, K. Kato, D. Book, S. Sugimoto, M. Okada and M. Homma: IEEE Trans. Magn. 35(1999)3274. 17)C. Mishima, N. Hamada, H. Mitarai and Y. honkura: J. Magn. Soc. Jpn. 24(2000)407(in Japanese). 18)O. M. Ragg, G. Keegan, H. Nagel and I. R. Harris: Int. J. Hydrogen Energy 22(1997)333. 19)K. Morimoto, R. Nakayama, K. Mori, K. Igarashi, Y. Ishii, M. Itakura, N. Kuwano and K. Oki: IEEE Trans. Magn. 35(1999)3253. 20)K. Igarashi, K. Mori, K. Morimoto, R. Nakayama, M. Itakura, N. Kuwano and K. Oki: Proc. 16th Int. Workshop on Rare-Earth Magnets and their Applications, Sendai, (2000)p. 865. 21)T. Nishiuchi, S. Hirosawa, M. Nakamura, M. Kakimoto, T. Kawabayashi, H. Araki and Y. Shirai: IEEJ Trans. Electr. Electr. Eng. 3(2008)390. 22)W. F. Li, T. Ohkubo, K . Hono, T. Nishiuchi and S . Hirosawa: Appl. Phys. Lett. 93(2008)052505. 23)N. Nozawa, H. Sepehri-Amin, T. Ohkubo, K. Hono, T. Nishiuchi and S. Hirosawa: J. Magn. Magn. Mater. 323 (2011)115. 24)H. Sepehri-Amin, W. F. Li, T. Ohkubo, T. Nishiuchi, S. Hirosawa and K. Hono: Acta Mater. 58(2010)1309. 25)H. Sepehri-Amin, T. Ohkubo, T. Nishiuchi, S. Hirosawa and K. Hono: Scripta Mater. 63(2010)1124. 26)広沢哲:「永久磁石」(佐川眞人,浜野正昭,平林眞 編, アグネ技術センター,2010),p. 231. 27)C. Mishima, K. Noguchi, M. Yamazaki, H. Mitarai and Y. Honkura: Proc. 21st Int. Workshop on Rare-Earth Permanent Magnets and their Applications, Bled,(2010) p.253. 28)C. Mishima, K. Noguchi, M. Yamazaki, H. Matsuoka, H. Mitarai and Y. Honkura: J. Jpn. Inst. Metals 76(2012) 89(in Japanese). 29)T. Maki and S. Hirosawa: J. Appl. Phys. 103(2008) 043904. 西内 武司 Takeshi Nishiuchi 日立金属株式会社 NEOMAX 事業部 磁性材料研究所 博士(工学) 野澤 宣介 Noriyuki Nozawa 日立金属株式会社 NEOMAX 事業部 磁性材料研究所 村田 剛志 Takeshi Murata 日立金属株式会社 NEOMAX 事業部 磁性材料研究所 博士(工学) 川田 常宏 Tsunehiro Kawata 日立金属株式会社 NEOMAX 事業部 磁性材料研究所 広沢 哲 Satoshi Hirosawa 独立行政法人物質・材料研究機構 元素戦略磁性材料研究拠点 工学博士 日立金属技報 Vol. 29(2013) 45 新製品紹介 電気自動車(EV)用アルミニウム合金鋳物部材 Aluminum Alloy Casting Parts for Electric Vehicles Aluminum casting parts:Battery case 2012 年 10 月現在販売されている ケースである本製品が軽量であるこ 造機を用いた重力鋳造法を選定し EV(Electric Vehicle)は,車体構造 と,さらに,そのバッテリーを厳し た。 を 含 め た 専 用 設 計 が 主 流 で あ り, い車載環境から保護するために,強 また,開発にあたっては日立金属 バッテリーはフレームに内蔵されて 度,放熱性,および外部からの水の の主力製品であるインテークマニ いる構造が一般的である。それに対 侵入を防ぐ高い気密性が求められる。 ホールドやコレクター等の吸気系部 し,図 1 に示す EV 商用車は,既存 日立金属は,アルミニウム合金鋳 材で培った,鋳物では難しいとされ のガソリン車の車体をベースとし, 物の特長である,複雑形状の一体成 る薄肉かつ平面形状での均一な溶湯 エンジンをモーターへ,ガソリンタ 型が可能であること,それに伴う複 充填,大型部材特有の問題である金 ンクをバッテリーへ置き換えた構造 数部品の組み立てなどの複雑工程を 型や製品の変形抑制,部材の気密性 となっている。このため,当該車種 極力排除できることなどを活かし, 評価方法等の技術やノウハウを活用 に使用されるバッテリー搭載用ケー 前述した要求事項を満足するアルミ した。これにより,1,210 × 800 × スは,車体構造上のスペース制約に ニウム合金製バッテリーケース(図 2) 160 mm の大型アルミニウム合金鋳 より,複雑な形状の大型部材となっ の量産を可能にした。その概要を 物の開発期間をこれまでより約 2 割 ている。要求事項として,内蔵物の 表 1 に示す。 削減(当社比)することができた。 バッテリーが重量物であるためその 工法として日立金属保有の大型鋳 (自動車機器事業部) 表 1 バッテリーケースの概要 Table 1 Specifications of battery case Upper Battery case Gravity die casting Gravity die casting 1,210×800×160 mm 1,210×800×170 mm Thickness 5 mm 5 mm Weight 16 kg 28 kg Casting process Size 500 mm Lower 図 1 ルノー殿 「カングー Z.E.」 Fig. 1 RENAULT “KANGOO Z.E.” (a) (b) A’ B Upper 100 mm (c) A Lower 100 mm 図 2 バッテリーケース(a)製品外観(b)A − A’断面(c)B 部拡大 Fig. 2 Battery case upper and lower (a) appearance (b) section A-A’ (c) detail B 46 日立金属技報 Vol. 29(2013) 20 mm 新製品紹介 オフィス用フリーアクセスフロアシステム Raised Floor System for Offices Office floor system:STEEL LIGHT FLOOR 日立機材はオフィス用フリーアク スチールライトフロアのパネル構 して軽量でありながら高い耐荷重性 セスフロアシステム「スチールライ 造は表面および裏面に 0.5 mm 厚の 能を持つ。図 3 に従来フロアパネ トフロア」を開発した。 溶融亜鉛めっき鋼板を使用し,中間 ルとの比強度(単位重量あたりの強 PC や電子機器の需要の高まりか にコア材としてパーティクルボード 度)の比較を示す。 ら, 二重床(フリーアクセスフロア) を使用している。 フリーアクセスフロアは施工を含 を採用して配線類を床下に収納し, 表裏面の鋼板とパーティクルボー めて販売するため,パネルの重量は オフィスの居住空間を快適にするこ ドはウレタン系接着剤にて強固に接 施工効率にも大きく影響する。 とが一般的に行われている。 着されている。図 2 にパネルの断 スチールライトフロアは図 3 に スチールライトフロアは,支持脚 面を示す。 示すようにモルタル充填スチールパ をスラブ面に接着固定し,その上に パネル表面に荷重が加えられた ネルやコンクリートパネルに対して 500 mm × 500 mm サイズのパネル 際,その荷重は接着の効果により, 40 % 以上の重量低減を実現してお を敷き並べて,配線の保護や取り出 パーティクルボードを介して裏面鋼 り,搬入施工の作業効率向上にも貢 し,レイアウト変更に容易に対応で 板に効率良く伝達され,強い補強効 献している。 きるシステムを採用している(独立 果を発揮する。 図 4 に製品施工後の仕上がり状 支柱方式)。図 1 にスチールライト このため,スチールライトフロア 況を示す。 フロアの製品形状を示す。 パネルは従来のフロアパネルと比較 (日立機材株式会社) 表面鋼板 パネル m 0m 50 パ ーティ クルボ ード 26 mm 支持脚 裏面鋼板 20 mm 図 1 スチールライトフロアの製品形状 Fig. 1 Shape of STEEL LIGHT FLOOR 図 2 パネルの断面状況 Fig. 2 Cross section of STEEL LIGHT FLOOR 90 比強度(N・m/kg) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1,000 mm スチール ライトフロア スチール (モルタル充填) パネル材質 コンクリート 図 3 スチールライトフロアと従来パネルの比強度比較 Fig. 3 Comparison of STEEL LIGHT FLOOR to conventional panels 500 mm 図 4 製品施工後の仕上り状況 Fig. 4 Appearance of STEEL LIGHT FLOOR 日立金属技報 Vol. 29(2013) 47 新製品紹介 空調用コントローラ Controller for Air Conditioning Controller:FCCT series ビルオートメーションでは,各種 アの割合が大きくなってしまう。 ターフェースは,この PLC を介して 機器をネットワークに接続し管理し 空調機器の場合,リアルタイムで 行い,必要に応じて階層的なネット ている。このネットワークは信頼性, 中央監視が必要なデータは多くな ワークを構成する。ネットワーク形 リアルタイム性が重視されるため, い。そこで分散管理を前提とした, 態のイメージを図 2 に示す。 大手機器メーカー,ビル管理会社の 汎用インターフェースにてローカル 独自仕様でネットワークを構築され での小規模ネットワークが構築可能 ることが多かった。しかし,2000 年 な空調用コントローラを開発した。 ムウェアを最小限におさえ,部品 頃から仕様が公開され,オープン化 外観を図 1 に,基本仕様を表 1 に, 点数を削減した。 されたビルオートメーション用ネッ 実装した汎用インターフェースの通 トワーク仕様に移行しつつある。 信仕様を表 2 に示す。 めの専用パラメータを用意し,ホ これらのオープンネットワークに 汎用インターフェースを用い,簡 スト側機器の制御負担を軽減した。 対応した機器であれば,直接,中央 易なプロトコルの通信で,運転監視, 監視で一括管理を行うことができる。 設定を可能とした。ホスト側機器を に依存しないハードウェアでのリ ただし,汎用ネットワーク仕様であ 特定せず,一般的なプログラマブル・ アルタイム緊急停止,異常信号出 るため,単一機能の末端機器ではネッ コントローラ(PLC: Programmable 力の機能を持たせた。 トワーク対応にするために必要な専 Logic Controller)でも管理可能で (配管機器事業部) 用ハードウェア,通信管理ソフトウェ ある。中央監視システムとのイン (日立バルブ株式会社) 1.特 長 (1)通信用のハードウェア,ファー (2)省エネ運転,連動運転対応のた (3)汎用接点入出力を実装し,通信 表 1 開発品の基本仕様 Table 1 Basic specifications of the development product 項目 仕様 AC 85∼264 V 1 φ 電源電圧 AC 24 V±10 % 消費電力 7 VA以下 耐電圧 AC 300 V 1分間 絶縁性能 50 mm 0∼50 ℃ 動作周囲湿度 30∼90 %RH(結露なきこと) 外形寸法 図 1 空調用コントローラ Fig. 1 Controller for air conditioning 表 2 開発品の通信仕様 Table 2 Communication specifications 通信方式 伝送路接続 RS-485(2線式半二重) 線形バス接続方式 同期方式 Start Bit/ Stop Bitに依る 調歩同期方式 通信速度 19,200 bps DC 250 V 100 MΩ以上 動作周囲温度 W140×D185×H63 mm 質量 0.7 kg (a) (b) 中央監視 中央監視 コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット PLC コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット PLC コントローラ 空調ユニット フロー制御 誤り検出 リトライ機能 48 なし チェックサム なし 日立金属技報 Vol. 29(2013) コントローラ 空調ユニット コントローラ 空調ユニット 図 2 ネットワーク形態の例(a)中央一括管理(b)分散管理 Fig. 2 Network form example (a) central dispatching (b) decentralized management 新製品紹介 高耐酸化・耐湿性 Mo 合金膜用タ−ゲット Target Materials for Mo Alloy Films of High Oxidation and High Humidity Resistance Mo alloy targets materials:MTD-4X スパッタリングターゲットは,フラッ の 適 応を考 慮し, 新 たな Mo 合 金 トパネルディスプレイ(FPD)やハー 「MTD-4X」 を開発した。 を有し抵 抗値の増 加を低 減できる (図 3)。このため,水分を透過しや すい樹脂フィルム等への採用が期待 1. 特 長 ドディスク(HD)等の基板に薄膜を形 できる。 (1)耐酸化性 成する際に用いる材料であり,日立 (3)バリヤ性 金属は金属材料に特化し,種々の合 Mo は大気中で加熱すると膜表面 金開発を行っている。特に,純 Mo に酸化物が生成する。このため,酸 MTD-46 は Mo 同様に酸化物半導 および Mo 合金ターゲットは,多くの 化しやすい Cu 膜のキャップ膜に使用 体 膜である InGaZnOx(IGZO) や 液晶パネルメーカーの Al や Cu など することができなかった。それに対し Cu 膜に熱拡散せず高いバリヤ性を有 低抵抗膜と半導体膜や透明導電膜と て MTD-46 は酸化物の生成を抑制 する(図 4)。 のバリヤ膜に用いられ,スマートフォ し,350 ℃の高温まで Cu 膜の酸化 上記のように MTD-46 は Mo の利 ン等のガラス基板を用いたタッチパネ を防ぎ,低い電気抵抗値を有する配 点を維持しながら,欠点を改善した ル電極膜にも採用されている。 線膜を得ることが可能である(図 1, 新たな Mo 合金であり,新たな用途 さらに,次世代駆動素子である酸 図 2) 。 の薄膜デバイスの信頼性向上や歩留 まり改善への貢献が期待できる。 (2)耐湿性 化 物 半 導 体(TAOS: Transparent Amorphous Oxide Semiconductor) Mo は耐湿性が低く,高温高湿雰 を用いた高品位 TV や,樹脂フィルム 囲気では数時間で変質し,抵抗値は を用いたフレキシブルディスプレイへ 増 加する。MTD -46 は高い耐 湿性 (a) (b) (特殊鋼事業部) 8.0 250 nm 250 nm Mo film 図 1 Mo 合金膜の FE-SEM 観察像(大気中 350 ℃加熱後) (a)MTD-46(b)Mo Fig. 1 FE-SEM image of Mo alloy films after heating of 350 ℃ in atmosphere (a) MTD-46 (b) Mo Resistivity x10−2(μΩm) Oxidation layer appeared Cu-single layer Mo/Cu/Mo 6.0 MTD-46/Cu MTD-46 4.0 2.0 0 100 200 300 400 Heat temperature(℃) Resistivity x10−2(μΩm) 8.0 図 2 Cu および Cu 積層膜の大気加熱時の電気抵抗変化 Fig. 2 Effects of heat temperatures in atmosphere on resistivity of Cu and laminated Cu films 6.0 Overcoat Mo/Cu/Mo 4.0 Cu MTD-46 IGZO MTD-46/Cu/MTD-46 2.0 0 100 200 300 Time(hr) 図 3 Cu 積層膜の高温高湿試験時の電気抵抗変化(85 ℃ x85 %RH) Fig. 3 Results of humidity resistance test on resistivity of laminated Cu films (test condition of 85 ℃ x 85 % RH) Glass 200 nm 図 4 加熱後の MTD-46 と Cu 積層膜の断面 TEM 観察像(加熱 温度:350 ℃) Fig. 4 TEM images by cross section view of laminated Cu with MTD-46 films after heating of 350 ℃ 日立金属技報 Vol. 29(2013) 49 新製品紹介 単分散導電性微粒子 Monodispersed Conductive Particles Au coated Ni-P particles :NIP-AUP, NISP-AP スマートフォンやタブレット型 PC を 日立金属は秋田県資源技術開発機 り,表面に均一な Au めっき層が成 はじめとするモバイル機器は急速な 構と共同で,湿式還元法による球状の 膜されている(図 3)。そして,粒子の 需要の伸びを示しており,今後も新興 金属微粒子の製造方法を開発した。 状態変化を評価するため,加速試験 国を中心に需要拡大が見込まれてい 図 1 に示すように,平滑な表面の (125 ℃/ 95 RH%,0.2 MPa,RH は る。 真球状であり,個々の粒子サイズが 相対 湿度)を行った結果,Au 膜 厚 モバイル機器は,高精細,多機能 均一で,分散性に優れていることが 15 nm あるいは 30 nm という極薄い 化,薄型化の一途を辿っており,実 確認できる。その粒子サイズにバラツ 被膜の粒子においても,初期の体積 装技術はさらなる進化をし続け,高 キが少ないことは,レーザー回折・ 抵抗率に対し,約 2 倍程度の上昇に 性能,高密度化が進んでいる。 散乱法による粒度分布の測定結果か 抑えられていることが確認されている (図 4)。 基板やドライバ IC などの実装に欠 らも明らかである(図 2)。 かせない異方性導電フィルムは,絶 また,導電性粒子には過酷な環境 現在,2 ∼ 30 μm サイズの微粒子 縁性の接着剤に導電性粒子を分散さ 下においても,常に安定した導電特 について,異方導電用途を中心にサ せた接続材料であり,上記,高性能, 性が要求される。これに対し,従来 ンプル提供を行っている。 高密度化の伸展により,高い導電性 困難とされてきた,比表面積の極め とサイズの揃った微粒子が必要とされ て大きい微 粒子への Au めっき技術 ている。 を確立した。粒子表面の断面観察よ (株式会社NEOMAX マテリアル) 100 Cumulative(%) 90 80 70 60 50 40 30 Particle size: 3μm Particle size: 6μm Particle size: 10μm 20 10 0 0.1 1 図 1 Ni-P 粒子の外観 Fig. 1 SEM image of Ni-P particles 10 100 1,000 Diameter size(μm) 10 μm 図 2 粒度分布 Fig. 2 Particle size distribution Volume resistivity(×10 -5 Ωm) 2.0 Au layer Ni-P core 1.6 1.4 150 mm 図 3 粒子断面 Fig. 3 Cross-sectional appearance of Au plated Ni-P particle 50 日立金属技報 Vol. 29(2013) Au layer: 15 nm Au layer: 30 nm 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 これらのデータは保証値ではありません。 These data are not guarenteed values. 0.2 0 2 μm Test piece: Consolidation particles Test condition: 125 ℃/95 RH%、0.2 MPa 1.8 0 50 100 150 Exposure time(hours) 図 4 Au めっき Ni-P 粒子の体積抵抗率 Fig. 4 Volume resistivity of Au coated Ni-P particles 200 250 新製品紹介 太陽電池用インターコネクタ材 Interconnect Ribbon for Solar PV Modules Pv interconnect ribbon:CUPSD, CUHSD, CUPSAD 太陽電池モジュールは,生涯発電 1.特 長 の低耐力材を使用した場合には,90 量に対するコストが重視されており, 開発材は圧延と熱処理プロセスコ MPa の材料を使用した場合と比較し 高出力化と長期信頼性の両立が強く ントロールにより結晶方位を制御した てインターコネクタ材の断面積を増大 求められている。これまでシリコン 非常に軟らかい銅を使用してシリコン させることができるため,電気抵抗を セルに直接はんだ接続されるインター セルに加わる熱応力を軽減すること 約 30 % 低減し発電量の向上も可能と コネクタ材には,主に無酸素銅が使 ができる(表 1) 。サイズと 0.2 % 耐力 なる。 用されてきたが,電気抵抗を下げるた 値の異なるインターコネクタ材をシリ 上記開発材の採用により,シリコン めに断面積の拡大が検討されている。 コンセル(厚み 200 μm)に接続した セルへの応力や接続時に発生する反 これによってシリコンセルに加わる熱 ときのシリコンセルにかかる応力と反 り量を低減することができ,セル割れ 応力は増加するので,セルのクラック り量の応力解 析結果を図 2 に示す。 防止による歩留まり向上や太陽電池 を誘発し,信頼性は悪化する。これ 明るい色ほど応力が高いことを示し, モジュールの発電量増加,長寿命化 らの問題解決のために,NEOMAX 形状で反り量を表している。0.2 % 耐 等が期待される。 マテリアルは接続時の熱応力緩和効 力値が低いインターコネクタ材はシリ 果に優れた極低耐力材料を開発,量 コンセルへの応力と反り量の低減効 産化した(図 1) 。 果が高いことが確認できる。45 MPa (株式会社 NEOMAX マテリアル) 表 1 開発材の機械特性 Table 1 Mechanical characteristics of interconnect ribbon 0.2% Yield strength Tensile strength Elogation ≦ 50 MPa 120∼240 MPa ≧ 15% 80∼100 MPa 120∼240 MPa ≧ 15% NEOMAX MATERIALS Competitor 50 mm 図 1 開発材の外観 Fig. 1 Appearance of interconnect ribbon Interconnect ribbon size Von mises stress (×102 MPa) +1.0000 +0.9000 +0.8000 +0.7000 +0.6000 +0.5000 +0.4000 +0.3000 +0.2000 +0.1000 0.0000 (単位:mm) Solder(Sn-40Pb) 0.34 0.29 0.24 0.20 0.30 0.25 Cu Cu: T 0.20×W 1.5 Cu+Eutectic solder: T 0.24×W 1.5 -2 Cu: T 0.25×W 1.5 Cu+Eutectic solder: T 0.29×W 1.5 Cu: T 0.30×W 1.5 Cu+Eutectic solder: T 0.34×W 1.5 -2 (Electrical resistance R=5.7×10 Ω/m)(Electrical resistance R=4.5×10 Ω/m)(Electrical resistance R=3.8×10-2 Ω/m) 0.2 % Yield strength 45 MPa Amount of curvature: 2.2 mm Amount of curvature: 2.8 mm Amount of curvature: 3.5 mm Amount of curvature: 3.7 mm Amount of curvature: 4.8 mm Amount of curvature: 6.1 mm 90 MPa (Competitor) 図 2 シリコンセルの応力解析(シミュレーション結果) Fig. 2 Stress analysis of Si cells 日立金属技報 Vol. 29(2013) 51 新製品紹介 高負荷圧延対応軸一体式複合超硬ロール Composite Tungsten Carbide Roll for High Load Rolling Composite tungsten carbide roll:DUPLEX® 生・進展を抑制できる。 日立金属は,より高負荷の圧延に DUPLEX を開発した。これは,内層 耐用可能とするために,従来のスリー が合金鋼のため焼嵌めもしくはキー ブ構造から軸一体構造にした複合超 溝による組み立てが可能で,外層の 層)と超硬(外層)の接合強度を高 硬ロール DUPLEX® を開発した。 滑りを解消し,胴長すべてが超硬部 めた(図 2)。 超硬合金は,非常に優れた耐摩耗 のためロールの長寿命化を実現した 性を有するとともに熱衝撃等による が,より高負荷の圧延スタンドへの (1)組立式・スリーブ焼嵌式超硬ロー 耐クラック性にも優れるため,鉄鋼 使用は困難であった。そこでスリー ルが耐用困難な高負荷・高トルクの 圧延用ロールに多く用いられてい ブ式から軸一体式構造へと製造方法 圧延スタンドでの使用が可能となっ る。その構造は一般的に超硬リング を変更し,より高負荷・高トルクの た。具体的には図 3 に示すような, を軸に挿入し側圧を付与させて固定 圧延スタンドにも使用可能とした。 これまで超硬組立ロールが使用で した組み立て式構造である。 しかし, 構造比較と特性を図 1,表1に示す。 きなかった線材第1中間列や棒鋼ミ この構造では超硬リングが軸に対し 滑り,ずれると圧延できなくなる。 (3)スリーブ式 DUPLEX より軸(内 2.効 果 ル中間列での使用が可能となった。 1.特 長 (2)特に,第一中間スタンドは,現状鋳 (1)軸(内層)に直接外層超硬合金を また,組み立て固定部分が必要とな 金属接合一体化することで高負荷 鉄ロールが多く使用されているが, るためロール胴長に対し圧延可能な 圧延条件下においても滑りの問題 その代替ロールとして適している。 (3)前段ロールの耐摩耗性が向上し を解消した。 超硬部分が制限される。これらの課 題を解消するため日立金属は 1997 (2)ロール表面に超硬と軸(内層)の 年,超硬と合金鋼を金属的に接合し 熱膨張差により生じる高圧縮残留 た複合スリーブ式の複合超硬ロール 応力を付与し表面からのクラック発 鋼材の寸法精度が改善され,後段 ロールの負荷も軽減される。 (ロール事業部) ® 境界:金属接合 軸一体式 高負荷圧延で使用可 軸(内層) :合金鋼 項目 境界:金属接合 外層:超硬 スリーブ式 内層 外層材 高負荷圧延:滑り等 ⇒耐用不可 軸:合金鋼 焼嵌組立 ® 軸 材 ® 図 1 軸一体式 DUPLEX とスリーブ式 DUPLEX の構造比較 Fig. 1 Structure comparison of sleeve and mono-block type of ® DUPLEX 軸一体式 780∼972 スリーブ式 551∼746 外層 試験片 境界 内層 境界部引圧疲労試験結果 応力振幅(MPa) 境界部引張試験結果 (MPa) 引張強さ 600 550 500 450 400 350 300 250 200 150 100 104 日立金属技報 Vol. 29(2013) 寸 法* 特性値 曲げ強さ (MPa) >2,000 破壊靱性値(MPa m) 10 ∼ 30 ヤング率 (GPa) 430 ∼ 590 密度 (X103 kg/m3) 12.3 ∼ 14.3 硬さ (Hv) 800 ∼ 1,200 引張強さ (MPa) >700 胴径 (φmm) φ500 胴長 (mm) 1,600 *最大製造可能寸法 線材・棒鋼ミルのスタンド配置例 スリーブ式 DUPLEX 軸一体式 DUPLEX 組立式超硬ロール 軸一体式 DUPLEX スリーブ式 DUPLEX 106 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 ∼ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 26 棒鋼 破断位置:境界 105 超硬リングロール 線材 破断位置:軸材 107 108 破断繰り返し数(サイクル) 図 2 軸一体式 DUPLEX ® ロールの複合境界部の強度 Fig. 2 Boundary strength of mono-block type of DUPLEX ® between tungsten carbide and alloyed steel 52 表 1 軸一体式 DUPLEX ロールの主な特性 Table 1 Mechanical properties of mono block type of DUPLEX ® 【高負荷圧延列】 ® 【仕上圧延列】 図 3 軸一体式 DUPLEX ロールの採用例 Fig. 3 Suitable application for mono-block type of DUPLEX ® 新製品紹介 深彫り加工用小径エンドミル Miniature End Mill for Deep Cutting End mill:EPDB(P)E-ATH/PN, EPDSE-ATH/PN, EPDRE-ATH 金型の小径加工の時間短縮を図り, を及ぼす。工具のたわみを低減でき 準としてラインアップしている。トータ 放電加工からの置き換えや高能率加 るようホルダーなどで掴むシャンク部 ルで 1,195 アイテムになり,金型形 状 工に必要な皮膜や形状開発に取り組 とのつなぎ部の形状を図 1 のように, に適した工具選定が 可能である。1 み,エポックディープエボリューション 首 R 部と呼ばれる部分を短くし改良 mm や 1. 2 mm 幅のリブ溝加工に刃 (EPDBE/EPDSE/EPDRE)シリー した。これにより,工具たわみを抑制 径 0.9 mm,1.1 mm といった特殊寸 ズを開発した。以下にその技術と特 し,耐荷重を確保した(図 2)。 法も取り揃えた。これにより,切り屑 長および加工事例を示す。 さらに表 1 に示す 2 種の工具皮膜を の詰まりやすい加工領域でも,最低限 開発品は,刃先強度を重視し,刃先 標準化した。HRC40 ∼ 60 の高硬度 の L/D(刃径に対する首下長さ)の の欠けにくさを向上させる刃形を採用 材には耐熱性の高い ATH コーティン 確保と良好な切り屑排出を両立するこ した。これにより,小径で首下長さの グを採用した。そして,HRC45 以下の とができる。図 3 に直彫りが放電加 長い,いわゆるロングネック工具を使っ 軟鋼材の領域においては,PN コーティ 工より効果的だった切削事例を示す。 て振動が発生しやすい加工において ングを採用することで被削材に合わせ エポックディープエボリューショ も,刃先がチッピングすることなく安 て長距離の安定加工が可能になる。 ンシリーズは加工の安定向上,豊富な 定加工が可能になる。 開発したシリーズは,ボール,スク 品揃えで適切な選定が可能になった。 また, ロングネックの加工になると工 エア,ラジアスの刃形形状の他にスト 具のたわみが加工精度に大きく影響 レートネックおよびペンシルネックを標 (a) 65 エポックディープ エボリューションシリーズ 64 荷重(N) 63 首R部が短い ⇒たわみにくい (b) (日立ツール株式会社) 62 従来ディープ シリーズ 61 60 59 58 57 56 テスト工具サイズ:φ1×首下6(mm) 55 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 たわみ量(mm) 首R部が長い 1 mm 図 1 首部形状(a)エポックディープエボリューション シリーズ(b)従来ディープシリーズ Fig. 1 Neck form geometry picture (a) Epoch Deep Evolution Series (b) Conventional Deep Series 図 2 静荷重テスト結果 Fig. 2 Static load test result 被削材: S50C相当材 0.5° Item-No. 6 mm 表 1 エポックディープエボリューションに採用してい る膜質一覧 Table 1 Coating table adapted by Epoch Deep Evolution Series コート名 ATH 構成要素 TiSiN 加工領域 高硬度鋼 (HRC60∼) 特長 超高硬度皮膜 超耐熱性 PN (Panacea) AlCrSiN 従来品コート TiAlN 炭素鋼、 工具鋼、 炭素鋼、 工具鋼 プリハードン鋼 (soft∼HRC45) (soft∼HRC52) 低摩擦係数 高密着強度 3,000 2,800 酸化開始温度 (℃) 1,200 1,200 800 0.9 0.5 0.8 − 0.7 0.6 − 31.9 27.3 Revolution per minute(n) − 14500 14500 Feed per minute(Vf) − 870 870 Feed per tooth(fz) − 0.03 0.03 Axial depth of cut(ap) − 0.048 0.048 Radial depth of cut(ae) − 0.5 0.5 Tool life(mm) − 深さ6 深さ1.5 0.02088 − 0.02088 Tool cost ratio(%) 330 110 100 Cutting time(min) 150 80(1本) 80(4本) Machine cost(Yen) 1.5 mm 3,800 Tool dia. Cutting speed(Vc) Volume(Q) 市販品で 加工した溝 高硬度皮膜 膜硬さ(Hv) 荷重(:9.8 mN) 摩擦係数 0.9 mm エポックディープ エボリューション シリーズで加工した溝 Electrical discharge EPDBE2007-6-PN Competitor machining Production cost(Yen) 50 100 100 30,000 9,700 18,889 図 3 放電加工からの直彫り切り替え事例 Fig. 3 Cutting data exchange direct cutting to electrical discharge machining 日立金属技報 Vol. 29(2013) 53 新製品紹介 小径穴あけ高硬度用ドリル Miniature Drill for High Hard Steel Miniature drill:Epoch Micro Step Borer H(EMSBH) 切削加工による高硬度焼き入れ鋼 テップ加工を前提とした EMSBS の して,トータル加工費を 70 % 以上削 への小径穴あけの要望が増加してい 特殊な工具形 状を基本とし,高硬度 減した。さらに,切削加工のみで仕上 る。例えば金型ではエジェクターピン 焼き入れ鋼用として専用の刃形に改良 げ加工までを完了するため,加工工程 やガス抜き穴などがあり,これらは放 したものである。 を短縮し, リードタイムの短縮にも寄与 電加工で行われていることが多い。 開発品の特長を図 2 に示す。切れ している。 日立ツールは,放電加工からの置き 刃のすくい面に特殊なフェイスおよび また,開発品では最小径としてφ 0.1 * 換えを図り,加工費を低減する高硬度 シンニング を形成することで,高硬度 mm の穴あけにも対応する。図 3 に 焼き入れ鋼用の小径穴あけドリル「エ 焼き入れ鋼を加工する際に切れ刃に SKD11 の焼き入れ材への穴あけ事例 ポックマイクロステップボーラー H 生じる欠けを抑制し,大幅に寿命を を示す。最小径においても市販品と (EMSBH)」を開発した。本工具の 向上した。また,工具素材,およびコー 比較して,大幅に寿命を向上している。 対象とする加工領域を図 1 に示す。 ティングはそれぞれ,最新の日立ツー EMSBH は 2012 年 4 月より受注生 日立ツールでは,既に深穴加工用 ルオリジナル高硬度用のものを採用 産にて発売している。 ドリルとしてエポックマイクロス した。 (日立ツール株式会社) テップボーラー S(EMSBS)を販 表 1 に金型メーカーにおける加工 売している。開発品の EMSBH はス 費削減事例を示す。放電加工と比較 * シンニング:加工中の真直性を高めるための 先端形状のこと 対象加工領域 硬度(HRC) 60 EMSBH 50 特殊フェイス 40 エポックマイクロステップボーラーS(Sharp) EMSBS 30 0 5 30 50 80 100 L/D(L:穴深さ/D:穴径) シンニング(φ0.1∼) 図 2 高硬度用に開発した専用刃形 Fig. 2 Special geometry drill for high hardness steel 図 1 開発品 EMSBH の対象加工領域 Fig. 1 Target area of EMSBH 表 1 放電加工との加工費比較事例(ユーザー実例) Table 1 Comparison with electrical discharge machining 18 金型エジェクターピン穴加工 被削材: SUS420J2(HRC52) 穴径: Φ0.5 穴深さ: 11 mm(L/D=22倍 (L: 穴深さ/D:穴径)) 穴数:(300穴) EMSBHによる 加工の場合 工程 14 12 8 6 (¥/本) 9,500 250 工具寿命 (穴/本) 300 6 2 1ロットの加工時間 (分/ロット) 750 3,000 0 1ロットの加工費 (¥/ロット) 47,000 165,000 (%) 28.5 加工費 71.5 %削減 日立金属技報 Vol. 29(2013) 工具サイズ: φ0.1×1 mm(有効深さ) 被削材: SKD11(HRC60) 10 工具単価 加工費の比率 54 放電加工の場合 16 加工穴数 従来の加工方法 1.細穴放電 2.焼き入れ 3.ワイヤー放電にて仕上げ 100 4 EMSBH 市販品 高硬度用ドリル 回転数: 12,500 min−1 切削速度: 3.9 m/min 送り速度: 87 mm/min 1回転送り量: 0.007 mm/rev ステップ量: 0.01 mm 加工深さ: 1 mm 加工機: 縦型マシニングセンター 図 3 市販品と EMSBH による SKD11 の小径深穴加工事例 Fig. 3 Application data of SKD11 by EMSBH and conventional tool 新製品紹介 低抵抗ラジアス工具 Milling Cutter with Round Inserts Indexable radius cutter:Radius mill RV type ステンレス鋼は装置部品から発電 め,インサートの回動を防止する機 イプ」と,乾式加工用としてスクイ 部品,航空・宇宙関連部品など,幅 構を備えている工具が必要となる。 角 10 度の「刃先強化ブレーカ:C8 広い分野で使用されている。 しかし, 日立ツールは,これらの要望に応 タイプ」の 2 種類を開発した。コー ステンレス鋼は一般的な鋼材に比べ えるため「アルファラジアスミル テ ィ ン グ に は, 湿 式 加 工 向 け に ると切削の難易度が高く,工具折損 RV 形」(図 1)を商品化した。 PVD(Physical Vapor Deposition) のトラブルや工具寿命が短命である 図 2 にインサート取り付け部詳細 コーティングである「JM4060」を, など,切削上の課題がある。そのた を示す。インサートの回動防止を目 乾式加工向けとして CVD(Chemical め,市場からはステンレス鋼の高能 的として,取り付け座の側面および Vapor Deposition)コーティングで 率加工が行える工具の要求が非常に 底面の 2 か所に回動防止部を配置し ある「GX2160」を採用した。 高い。 た。このような形状を採用すること 開発した工具を用いて, 湿式加工, また一方で,このような加工で主 で, 確実にインサートの締結ができ, 乾式加工それぞれの切削性能を評価 に荒加工用工具として使用される汎 切削加工の安定化を図れた。 した結果,図 3,図 4 に示すとおり 用的なラジアス工具では,インサー インサートのブレーカ形状(切屑 他の市販工具に比べて最大 1.2 ∼ 1.5 ト(取り替え刃)形状が円形である を分断するためのインサート表面形 倍の長寿命化が達成できた。 ために,切削加工中にインサートが 状)には,低抵抗加工用としてすく 回動してしまう課題もある。そのた い角 23 度の「快削ブレーカ:B8 タ (日立ツール株式会社) 10 mm 図 1 アルファラジアスミル RV 形 Fig. 1 Radius mill RV type Bottom rotation prevention Side rotation prevention 2 mm 図 2 回動防止機構 Fig. 2 Anti-rotation mechanism 0.4 JM4060 Competitor A Competitor B 0.3 0.2 0.1 0 0 5 [Cutting conditions] Work material: SUS630 (HRC 36.6),Dry cutting Cutter: RV4B050R-5 (diameter: 50 mm) , Inserts: RPMT1204M0EN-C8 (GX2160) Cutting speed (Vc) : 300 m/min, Feed rate (Vf) : 1430 mm/min Axial depth of cut (ap) : 1 mm, Radial depth of cut (ae) : 31 mm Maximum flank wear VBmax(mm) Maximum flank wear VBmax(mm) [Cutting conditions] Work material: SUS630 (HRC 36.6),Wet cutting Cutter: RV4B050R-5(diameter: 50 mm), Inserts: RPMT1204M0EN-B8 (JM4060) Cutting speed (Vc) : 150 m/min, Feed rate (Vf) : 1430 mm/min Axial depth of cut (ap) : 1 mm, Radial depth of cut (ae) : 31 mm 10 Cutting time(min) 図 3 湿式加工における加工性能比較 Fig. 3 Cutting performance of wet cutting 15 20 0.4 GX2160 Competitor A Competitor B 0.3 0.2 0.1 0 0 5 10 15 20 25 Cutting time(min) 図 4 乾式加工における加工性能比較 Fig. 4 Cutting performance of dry cutting 日立金属技報 Vol. 29(2013) 55 新製品紹介 ステンレス系材料加工用インサート Insert for Processing Stainless Steel Insertion tool:JM4060, GX2160 一般的にステンレス鋼系の被削材 の加工により発生する被削材の工具刃 用した高能率加工が採用されつつあ は,被削材の熱伝導率が低いことか 先への溶着は,加工中に脱着を繰り返 るが,このような加工条件下におい らミーリング加工において工具刃先 すためコーティング膜が溶着物と共に てはインサート刃先部にヒートク に切削熱が集中し,被削材成分が溶 剥離する傾向にあり,工具の短寿命原 ラックが発生し,突発的な欠損の原 着しやすい。また,ステンレス鋼は 因となる。JM4060 は,新たに開発し 因となる。このため,高速切削速度 加工硬化を生じやすく,工具の突発 た技術の採用により,コーティング膜の 条件においては乾式加工が適用され 的な欠損が発生しやすい材料であ 残留応力を低減し,工具の長寿命化を る傾向にある。GX2160 は,耐摩耗 る。このような被切削特性を有する 実現した。図 1 に,JM4060 のコーティ 性が高い Ti(C,N)膜上に耐溶着性 ステンレス鋼系材料を長寿命かつ ング膜破断面組織写真を示す。図 2 と耐熱性に優れる平滑α− Al2 O 3 膜 高能率加工条件下で安定的に使用す は,SUS316 の切削評価結果である。 を採用し,工具の長寿命化を実現し ることを可能とする新コーティング JM4060 は従来品と比較して,約 1.5 た。図 3 に,GX2160 のコーティン インサート「JM4060」 「GX2160」を 倍の寿命を示した。 グ膜破断面組織写真を示す。図 4 は, 開発した。 GX2160 は,CVD 法(Chemical SUS630 の 切 削 評 価 結 果 で あ る。 J M4060 は,PV D 法(Physica l Vapor Deposition)を用いたコーティ GX2160 は従来品と比較して,約 1.5 Vapor Deposition)を用いたコーティ ングインサートである。ステンレス 倍の寿命を示した。 ングインサートである。ステンレス鋼系 鋼系の加工は,高切削速度条件を採 (日立ツール株式会社) VBmax(mm) 0.5 TiAl系硬質皮膜 (耐摩耗性の改善) (耐衝撃性の改善) (残留応力低下の新技術の採用) [Cutting condition] Work: SUS316 0.4 Tool: ASRS2032-5 Conventional 0.3 Insert: EPMT0603EN-8LF型 Vc: 90 m/min 0.2 fz: 0.8 mm/tooth ap×ae: 0.5×20 mm 0.1 JM4060 Wet cutting 0 1 μm 0 強靭性超硬母材 (靱性・耐熱衝撃性の改善) 図 1 JM4060 のコーティング膜破断面組織写真 Fig. 1 Cross-section of coating for JM4060 60 80 100 図 2 JM4060 の SUS316 切削試験結果 Fig. 2 SUS316 cutting-test result of JM4060 0.5 VBmax(mm) Ti(C, N)膜 (耐摩耗性の改善) 40 Cutting lengh(m) 表面平滑α−Al2O3膜 (耐溶着性・耐熱性の改善) 新アンカー効果結合膜 (膜間の密着性の改善) 20 [Cutting condition] Work: SUS630 0.4 Tool: ARV4050R-5 Conventional 0.3 Insert: RPMT1204M0TN-B8型 Vc: 300 m/min 0.2 fz: 0.15 mm/tooth ap×ae: 1.0×30 mm 0.1 GX2160 Dry(air blow)cutting 0 0 1 μm 強靭性超硬母材 (靱性・耐熱衝撃性の改善) 図 3 GX2160 のコーティング膜破断面組織写真 Fig. 3 Cross-section of coating for GX2160 56 日立金属技報 Vol. 29(2013) 1 2 3 4 5 Cutting lengh(m) 図 4 GX2160 の SUS630 切削試験結果 Fig. 4 SUS630 cutting-test result of GX2160 6 新製品紹介 Dy 拡散技術を用いた Nd-Fe-B 焼結磁石 Sintered Nd-Fe-B Magnets Using Dy Diffusion Technique Nd-Fe-B magnet:NEOMAX® using DDMagic® 高 い エ ネルギー積を有 する Nd- スクから使用量の低減が求められて 材の磁気特 性を示す。 Fe-B 焼結磁石は,モーターの小型化・ いる。 従 来 材 対比で, 高 効 率 化を支 えるキー材 料として 日立金属では,これら課題に対し 向上している。 HEV(Hybrid Electric Vehicle)の て,制御された雰囲気中で Dy を磁 これ ら 従 来 材と拡 散 材 を SPM 発電機や駆動モーター,またエアコン 石に供給しつつ熱拡散させる蒸着拡 (Surface Permanent Magnet)モー のコンプレッサー用モーターなどの省 散法(Deposition diffusion process) ターに組み込んだときの減磁特性を ® が同等の は 0.35 MA/m エネ・環境適合製品に多く使われてい DDMagic を開発し,HEV 用モー 図 3 に示す。2 %減磁時の耐熱性で る。これら製品への市場要求が高ま ターなどのアイテムを中心に量産を開 比較すると,従来材対比で約 30 ℃ る中,Nd-Fe-B 焼結磁石の高特性化・ 始した。 向上しており,より過酷な環境下での 低価格化が求められている。 本技術の狙いは,保磁力の発現を 使用が可能である。一方,耐熱性を 一方,希土類元素の資源問題もひっ 担う結晶粒界近傍に Dy を偏在化さ 同等とした場合には, 迫している。Nd-Fe-B 焼結磁石の保 せることである。図 1 に拡散材の断面 ため,磁石重量が低減でき,モーター 磁力( 観察像と Dy マッピングを示す。結晶 の小型化に貢献できると考えられる。 プロシウム (Dy)が使用されているが, 粒界に沿って Dy が濃化し,また結 本技術により,高グレード磁石の 中国南部のイオン吸着鉱以外では商 晶粒内部では Dy が希薄になってい 製品ラインアップが可能となった。 業的に採掘されておらず,その供給リ ることがわかる。図 2 に拡散材と従来 )を増加させるためにジス (a) が向上する (NEOMAX 事業部) (b) 1 μm 1 μm 図 1 拡散材の断面観察像(a)透過電子顕微鏡像(b)Dy マッピング Fig. 1 Cross section image of Dy diffusion treated magnet (a) TEM image (b) Dy mapping 1.50 Demagnetization rate(%) 0 (T) 1.45 拡散材 Dy diffusion magnet Remanence, 1.40 1.35 従来材 Conventional magnet 1.30 1.25 1.0 −3 −6 従来材 Conventional magnet 1.43 T 0.90 MA/m −9 拡散材 Dy diffusion magnet 1.43 T 1.25 MA/m −12 −15 1.4 1.8 Intrinsic coercivity, 2.2 (MA/m) 図 2 拡散材の磁気特性 Fig. 2 Magnetic properties of Dy diffusion treated magnet 2.6 60 80 100 120 140 Temperature(℃) 図 3 減磁特性比較 Fig. 3 Comparision of demagnetization characteristics 日立金属技報 Vol. 29(2013) 57 新製品紹介 高周波用高集積 LTCC 基板 High-Integrated LTCC Substrates for RF Front-End LTCC substrate : LSB-series, LSC-series ルター等の機能回路。 携帯端末の用途は音声通話から, る。日立金属では AS/M(Antenna メールやインターネット等のデータ Switch Module)をはじめとするフ 2.提供技術 通信へ移り変わり,PC 並みの処理 ロントエンドモジュールの開発で (1)材料技術 能力とタッチパネルの使い勝手の良 培った技術を応用し,高集積 LT C C さから,スマートフォンが急激に (L o w T e m p e r a t u r e C o - f i r e d 材料と最適化した Ag 電極(表 1) シェアを伸ばしている。スマート Ceramics)基板の提供を開始した により,高性能な電気特性を実現 フォンでは液晶パネルとバッテリー (図 1) 。カスタム設計等の顧客サ の大型化が進み,電子部品に許され ポートにより高付加価値化したビジ る実装面積は従来機種よりもさらに ネス展開を図る。本 LTCC 基板およ 小さくなっている。 び提供技術は以下のとおりである。 微細パターン化を可能(図 3)とし, 一方,新たな高速通信規格である 1.基板概要 高密度な回路集積を実現。 低損失(fQ: 13,000 GHz)LTCC (図 2)。 (2)プロセス技術 高精度印刷・薄層積層技術により (3)設計技術 (1)サイズ LTE(Long Term Evolution)もサー 各種モジュール,フィルター回路 ビスが始まり,端末のマルチバンド 標準サイズ:75 mm × 68 mm 化も進んでいる。マルチバンド対応 厚さ:0. 3 ∼ 1 mm 設計,LTCC 内部構造設計により, の高周波回路(フロントエンド部) (カスタム対応可能) 市場,顧客ニーズに合った機能回 路の高集積化が可能。 (2)内層回路 を限られた実装面積で実現するには (情報部品事業部) インダクタ,コンデンサ,各種フィ 高集積モジュール基板が必須とな 表 1 高周波用 LTCC の材料一覧 Table 1 Material line-up of LTCC for RF 10 mm 図 1 高周波用高機能 LTCC 基板の外観 Fig. 1 Appearance of high-integrated LTCC substrate Item (unit) Er8 material Er15 material Er70 material Er6 material Material/sintering temperature (deg C) Pb free ceramics 900 ← ← ← Inner conductor Ag ← ← ← Inner conductor resistivity (ohmm) 2.1x10-8 2.1x10-8 2.1x10 -8 2.1x10-8 Flexural strength (MPa) 300 150 150 150 Thermal expansion (RT∼400deg C) (ppm/deg C) 6 6 9 9.5 Dielectric constant 8.1 15 68 6 15 10 (13GHz) (9 GHz) Tan δ (x10-4) −0.2 100 Development material −0.4 General LTCC −0.6 Organic −0.8 −1.0 0.80 0.85 0.90 0.95 Frequency(GHz) 図 2 ローパスフィルタの挿入損失比較 Fig. 2 Comparison of insertion loss(low pass filter) 58 Machining size(μm) Insertion loss(dB) 0.0 13 13.5 (4 GHz) (15 GHz) 日立金属技報 Vol. 29(2013) 1.00 80 75 65 Via diameter 60 50 50 25 50 Line/Space 40 Layer thickness 10 5 15 30 20 5 0 2010 2012 2014 図 3 高密度プロセスの開発ロードマップ Fig. 3 Road map of fine patterning technology 2016 Year 新製品紹介 高透磁率コモンモードチョークコイル High Permeability Common Mode Choke Coil Common mode choke coil:FM-C Series エアコン,薄型 TV といった家電 チョークにはさらなる小型化,高性 対して 150 kHz 以上の全周波数域 製品から太陽光発電システム,プラ 能化が求められ,その対応のため, でインピーダンス特性が向上してい グインハイブリット自動車,電気自 より高い透磁率の材料が求められて る。特に高い特性が求められる 150 動車,電鉄車両などにいたる幅広い いる。 kHz でのインピーダンスは FM-A 用途で,省エネ化,高効率化,小型 このような市場の要請にこたえる シリーズの約 1.4 倍,Mn-Zn フェラ 軽量化を目的にスイッチング電源が ため,日立金属は磁心製造プロセス イトに対しては約 4 倍の値を有して 用いられている。 の改良を進め,新たに小型薄型化に おりノイズ抑制効果が高い(図 1) 。 スイッチング電源にはノイズ対策 適した高透磁率な FT-3K50T 材を この特徴を小型化に生かした場 としてコモンモードチョークが常用 開発し,FM-C シリーズとして製品 合,FM-C シリーズは Mn-Zn フェ さ れ, 日 立 金 属 は こ の 用 途 に 化した。 ライト品の約 1/2 のサイズで同等の “FINEMET®”FT-3KM 材を用いた その代表的なコイルのラインアッ 特性を実現でき,小型・高性能化が FM-A シリーズを提供してきた。 プを表 1 に示す。同形状のコア,巻 一方,150 kHz からのノイズ規制 き線仕様で比較した場合,FM-C シ の強化および低コスト化に伴う基板 リーズは高周波域での透磁率の向上 面積の縮小により,コモンモード により従来品(FM-A シリーズ)に 求められる用途に適した製品である (図 2)。 (情報部品事業部) 表 1 FM-C シリーズの代表的なラインアップ Table 1 Line-up of FM-C series Coil dimensions(mm) Part name Rated current (A) ¦Z¦(kΩ) 100 kHz (ref.) L(mH) 100 kHz (ref.) Rdc (mΩ) MAX. OD MAX. W MAX. H MAX. FM-C153V162PF-50T 15 1.9 2.2 5.1 37 32 37 FM-C253V132PF-50T 25 1.6 1.9 3.6 40 36 41 FM-C304V162PF-50T 30 1.9 2.2 2.6 46 32 46 FM-C405V152PF-50T 40 1.8 2.1 2.3 57 43 60 100 Impedance(kΩ) FM-C Series (a) 10 1 FM-A Series (b) Mn-Zn ferrite Core sharp(OD/ID/H:25 mm/15.3 mm/12.5 mm) Winding spec(φ1.5 mm 13 Ts) 0.1 100 1,000 10,000 Frequency(kHz) 図 1 インピーダンス周波数特性比較(日立金属評価) Fig. 1 Comparison of impedance frequency characteristics (measured by Hitachi Metals, Ltd.) 10 mm 図 2 (a)FM-C シリーズ(59 g)と(b)Mn-Zn フェライト (106 g)の外観と質量 Fig. 2 Appearance and mass of (a) FM-C series (59 g) and (b) Mn-Zn ferrite (106 g) 日立金属技報 Vol. 29(2013) 59 新製品紹介 小型 NFC アンテナ Small Size Chip Antenna for NFC Antenna:KSWA series 高透磁率,低損失フェライト材コアに に国際標準化機構,ISO によって規 そこで携帯端末基板への表面実装 巻線を施し,表面実装が可能でかつ小 格化された NFC の動作モードをまと を前提とし,小型設計が可能である 型な NFC(Near Field Communication) める。 チップタイプアンテナに着目した。ア 用アンテナを開発した。製品形状は, 既 存 の NFC 用アンテナは FPC ンテナの小型化と性能の維持を両立 14 × 14 × 1.5 mm と 10 × 10 × 1.5 (Flexible Printed Circuits)で巻き させるためには,高周波特性に優れた mm の 2 種 類である。図 1 に各アン 線部を構成し,シールド,ヨークとして 磁性材料が必要となるが,日立金属は テナの外観を,表 1 に各アンテナ仕様 フェライトシートを使用したパッチアン 独自の磁性材料技術により,NFC 動 をそれぞれ示す。 テナが主流である。しかし、アンテ 作周波数において高透磁率,かつ低 NFC は,13.56 MHz の周波数を利 ナ面積が大きく携帯電話のメインボー 損失のフェライト材料を有している。 用する通信距離 10 cm 程度の近距離 ド上への実装は困難であるため,裏 これに細線の巻線技術および,磁 無線 通信技術である。NFC の利用 ケース面への取り付けが必要となり実 気回路設計技術を組み合わせること 用途は,FeliCa * 1,Edy * 2 に代表され 装上の課題が大きい(図 3) 。さらに, でアンテナ構造の最適化を行い,一 る小額電子決済だけではなく,機器で 現在携帯端末への搭載が進んでいる 般的なパッチアンテナに比べ 1/10 の双方向通信,さらにポスター等に埋 非接触充電用受電システムでも類似 以下の実装面積で同等の送受信特性 め込まれた情報の読み込み等,多岐 形状・サイズのアンテナの使用が予定 を実現した(図 3)。 にわたっており,携帯情報端末を中心 されていることから両システムの共存 (情報部品事業部) に幅広い導入が見込まれている。図 2 ができないという課題も生じている。 *1 FeliCa はソニー株式会社の登録商標です。 *2 Edy は楽天 Edy 株式会社の登録商標です。 (a) 表 1 製品仕様(KSWA-N0013H,KSWA-N0013J) Table 1 Specification of KSWA-N0013H,KSWA-N0013J (b) Product number Specifications 10 mm 図 1 小型 NFC 用アンテナ外観 (a)KSWA-N0013H(b)KSWA-N0013J Fig. 1 Small size chip antennas for NFC (a) KSWA-N0013H (b) KSWA-N0013J NFC(Near Field Communication) 1. Card emulation mode Operate as a mobile electronic payment system (like a FeliCa*) 2. Peer to peer (P2P) mode Communication between NFC devices 3. Reader writer mode Read a tag information * KSWA-N0013J Inductance(μH) 3.3 ± 3 % 3.3 ± 3 % Q factor 35 38 Length 14.0 10.0 Width 14.0 10.0 Thickness 1.5 1.5 Dimension (mm) Product Developed chip antenna Current patch antenna Antenna size(mm) 14×14×1.5(KSWA-N0013H) 10×10×1.5(KSWA-N0013J) Typical value 40×30×0.4 Mount/ connection SMD available Use contact pin Mount position Corner of main board Attached rear (battery) case Front panel Main board Rear case Chip type NFC antenna Patch type NFC antenna FeliCa is a registered trademark of Sony Corporation. 図 2 NFC の動作モード Fig. 2 Operation modes of NFC 60 KSWA-N0013H 日立金属技報 Vol. 29(2013) Mobile phone structure 図 3 開発アンテナ(KSWA-N0013H,KSWA-N0013J)とその他アン テナとの比較 Fig. 3 Comparison with KSWA-N0013H, KSWA-N0013J and current antenna for NFC 新製品紹介 デジタル一眼レフカメラ AF 用小型 GMR センサー Small Type GMR Sensor for AF of Digital Single-Lens Reflex Camera Small type GMR sensor 一眼レフカメラ用交換レンズの 置調整が必要になるという課題が 同じ出力を得られた。 AF (オートフォーカス) 制御として, あった。 本開発品の外観およびセンサー設 日立金属では, 2000 年には AMR(磁 このような課題を解決するため 置模式図を図 1 に示す。また,機 気抵抗効果)センサー,2004 年に に,センサーの媒体(磁気シート) 能的な特長を以下に列挙する。 は GMR(巨大磁気抵抗効果)セン への接触追従性に優れる低剛性の板 サーを開発・販売してきた。 バネを開発した。 デジタル一眼レフカメラの一般 従来,センサーと媒体(磁気シー ユーザーへの普及や撮像素子の高画 ト)とのエアギャップが大きくなる (2)Azimuth 角依存性改善(図 3) 素化に伴って,より高精細な画像が と出力低下を招いていたが,先述の (3)高耐久性(20 万回の摺動試験 求められるようになり,2009 年以 板バネにより,開発した小型 GMR 降顧客から廉価で高分解能なセン センサーは従来比で約 3 倍のエア (4)低消費電力(高抵抗磁性膜の採用) サー開発の要求を受けてきた。 ギャップでも追従性が確保できた。 本開発品は,数社に認定され,使 分解能を高めるには,信号ピッチ さらに独自の素子設計により,取り い勝手の面で高い評価を得た。引き を狭くする必要がある。一方でピッ 付け時のセンサー姿勢ズレによる出 続き拡販を進めるとともに,さらな チが小さくなると,センサーの取り 力信号劣化の低下を図った。本開発 る高分解能化への開発も進めていく。 付け時のバラツキも無視できなくな 品では,センサーの Azimuth 角(方 り,レンズ組立時にはセンサーの位 位角)が約 2 倍の姿勢ズレでもほぼ 1.特 長 (1)規格化出力のエアギャップ依存 性改善(図 2) をクリア) (情報部品事業部) 小型GMRセンサー 板バネ 5 mm 媒体(磁気シ ート) 120 Normalized output voltage(%) Normalized output voltage(%) 図 1 小型 GMR センサー製品外観およびセンサー設置模式図 Fig. 1 Appearance of small type GMR sensor and schematic view Small type GMR sensor Current GMR sensor 110 100 90 80 70 60 50 40 Effective area 30 20 Effective area 10 0 0 5 10 15 Air gap(um) 図 2 規格化出力のエアギャップ依存性 Fig. 2 Normalized output voltage on air gap 20 25 120 Small type GMR sensor Current GMR sensor 110 100 90 80 70 60 50 40 Effective area 30 20 Effective area 10 0 −5 −4 −3 −2 −1 0 1 2 3 4 5 Azimuth angle(degree) 図 3 規格化出力の Azimuth 角(方位角)依存性 Fig. 3 Normalized output voltage on azimuth angle 日立金属技報 Vol. 29(2013) 61 日立金属グループ 主な営業品目 高級金属製品 ■ 高級特殊鋼 ■ 圧延ロール ■ 切削工具 金型材 ジェットエンジン・機体部材 ® の金型材は, 伝統の製鋼技術とその品質で, あらゆる産業分野で評価をいた だいています。 高い信頼性と耐久性が要求される 航空機用エンジンおよびランディ ングギアなどの機体部品の材料を 提供しています。 マグネット アモルファス金属材料「Metglas®」 世界トップブランドの希土類磁石 「NEOMAX®」をはじめ,異方性リン グ磁石や高性能フェライト磁石など, 永久磁石を幅広くお届けしています。 変圧器等の低損失化により,電力 の省エネルギーを実現し,CO2 排出削減に寄与する軟磁性材料 を提供しています。 耐熱鋳造部品「ハーキュナイト ®」シリーズ 高意匠アルミホイール「SCUBA®」 エキゾーストマニホールドやター ビンハウジングな ど, 耐 熱 性・ 耐酸化性が求められる自動車の 排気系部品に使用されます。 高強度とデザイン性を兼ね備え, 軽量化も実現したアルミホイー ルをお届けしています。 電子・情報部品 ■ マグネット ■ 軟磁性材料 ■ 情報通信用部品 高級機能部品 ■ 自動車用高級鋳物部品 ■ 配管機器 ■ 建築部材 62 日立金属技報 Vol. 29(2013) 発電用部品 圧延ロール 切削工具 タービンブレードをはじめ,発 電用部品として高い信頼性の求 められる部材を提供していま す。 鉄鋼用,非鉄金属用,非金属用 など,さまざまな圧延ロールを お届けしています。 金型から部品まで,幅広い分野 の加工に使用される「環境配慮 型」の高能率切削工具を提供し ています。 情報通信機器用部品 ファインメット® コモンモードチョークコア フェライト積層部品 ® スマートフォン,パソコンなど多様化 が進む無線通信機器に使用される部品 です。低損失・小型形状により各種通 信機器の小型・高性能化に貢献します。 当社開発のナノ結晶材料ファインメット を応 用したチョークコアです。従来品より高透磁率 で小型化が可能なので電装化が進み伝導ノイズ による誤動作が問題となる車載用に好適です。 スマートフォン,電子書籍などの携帯端末では 多機能化に応じて小型・低背・高周波化が進み 直流重畳特性が求められます。当社では各種 パワーインダクタをラインアップしています。 高靭性ダクタイル鋳鉄品「HNM®」シリーズ ガス用ポリエチレン配管システム 鉄骨建築接合部材「HIBASE®」 安定した材質特性と良好な被削 性, 優 れ た 低 温 靭 性 が 特 長 で, サスペンション部品や駆動系部 品などにお使いいただけます。 腐食がなく,施工性・耐震性に も優れた,埋設ガス配管用のポ リエチレン配管システムをお届 けしています。 鉄骨建築物の柱脚部に使用され, 優れた耐震性と施工の短縮が可 能な製品をお届けしています。 日立金属技報 Vol. 29(2013) 63 日立金属グループ 2012 年 主な技術受賞 ■日本鋳造工学会 CastingsoftheYear 賞 2012.11 日立金属の先進的技術により、高い強度と靭性を維持しつつ、従来品に比べ約 25%の軽量化を実現したことが評価された。 ○受賞案件:高強度高靱性鋳鉄製軽量サスペンション部品 ○受賞者:日立金属 表彰式 高強度高靱性鋳鉄製軽量サスペンション部品 ■粉体粉末冶金協会 論文賞 2011.5 ○受賞案件:HDDR 処理 Nd-Fe-B 磁石 ○受 賞 者:野澤宣介,西内武司,広沢哲 HDDR 処理 Nd-Fe-B 磁石 ■粉体粉末冶金協会 技術進歩賞 2011.5 ○受賞案件:フェライト磁石 12 シリーズ ○受 賞 者:小林義徳,尾田悦志,豊田幸夫,細川誠一 ■経済産業省 第 4 回ものづくり日本大賞製品技術開発部門優秀賞 2012.2 フェライト磁石 12 シリーズ CVT ベルト材 ○受賞案件:無段変速機用ベルト材 ○受 賞 者:岸上一郎,三嶋節夫,高尾秀実,谷口徹,菅洋一, 藤田悦夫,坂東直樹,稲葉栄吉,大石勝彦 無段変速機用ベルト材 ■モノづくり日本会議/日刊工業新聞社 2012 年 “超” モノづくり部品大賞機械部品賞 2012.10 ○受賞案件:エポック SUS シリーズ ○受 賞 者:日立ツール ■超硬工具協会 平成 24 年度超硬工具協会賞技術功績賞 2012.10 ○受賞案件: 「エポック SUS シリーズ」の開発 エポック SUS シリーズ ○受 賞 者:前田勝俊,熊谷英典,居原田有輝 ■超硬工具協会 平成 24 年度超硬工具協会賞 技術功績賞 2012.10 ○受賞案件: 「フライス用 CVD インサート材種 GX2140」の開発 ○受 賞 者:福永有三,今井真之,久保田和幸 フライス用 CVD インサート 材種 GX2140 64 日立金属技報 Vol. 29(2013) 日立金属技報 V o l . 2 9 発 行 日 2013 年 2 月 発 行 元 日立金属株式会社 〒 105-8614東京都港区芝浦一丁目 2 番 1 号(シーバンス N 館) 電話(03)5765 − 4000(ダイヤルイン案内) 0800 − 500 − 5055(フリーコール) E-mail:[email protected] 発 行 人 中西 寛紀 編 集 日立金属株式会社 開発センター 株式会社東京映画社 本誌の内容は,ホームページにも掲載されております。 http://www.hitachi-metals.co.jp/rad/rad02.html 禁無断転載 Printed in Japan 2013− 2(H)
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