健康保険組合による健康づくり共同モデル事業協議会 特定非営利活動法人 全国訪問健康指導協会 1.背景 保険者機能を推進する会(以下「推進会」という。 ) このような健康保険組合の活動の背景には、健康 は現在、参加健康保険組合数94(被保険者・被扶養 保険組合が保健事業を実施するにあたり、コスト面 者:約560万人)で構成される団体であり、 (1)良 や体制上の問題から、根拠となるデータ(レセプト・ 質な医療の確保、(2)保険料の効率的な活用、(3)健 健診データ等)の活用が十分できていないため、効 康づくりの推進、に向けて、2つの委員会(以下の URL 果的な保健事業が確立していないことが挙げられま 参照 す。したがって、根拠となるデータを分析・活用し、 http://www.kino-suishin.org/)と保健事業検 討部会を発足し、様々な研究と具体的対策の実施を行 個人特性に合った多様な保健事業を確立すること っています。 が、今強く求められています。 2.目的 本調査研究については、医療費が比較的高い九州エ モデル事業では、医療費等による保健事業評価を リアにて、推進会に参加している複数健康保険組合の 行うことで、根拠に基づく保健事業を確立し、医療 製造工場等(事業所)の被保険者・被扶養者数を対象 費の適正化、健康サービス産業の雇用創出の実現を とした疾病管理プログラムを作成し、共同保健事業の 目指します。また、モデル事業実施後には、推進会 実施等による被保険者及び被扶養者の健康増進に寄与 に参加している健康保険組合及び他の健康保険組 するモデル事業の調査研究を実施しました。 合への横展開を図ります。 3.実施概要 (1) モデル事業の概要 モデル事業の概要を図1に示します。 ① レセプト・健診データの電子化及びクロス分 析(疾病管理プログラム) ② 1次予防・2次予防(生活習慣病:高血圧・ 肥満・高脂血症・糖尿病)の対象者抽出 ③ 共同保健事業(集団・個別指導)及び e-Learning の実施 ④ 効果の確認(保健事業の効果測定)及び保健 事業の策定 図1.モデル事業概要図 Ⅲ− 54 (2) 本調査研究内容 ①では、保健事業への有効活用かつ医療費適正化 本調査研究では、以下の3つの内容について 検討を行いました。 に効果のある分析手法を、②では、1次予防・2 ① レセプトデータと健診データの分析 次予防対象者向けの集団・個別保健指導内容及び ② 保健事業内容の検討 e-Learning コンテンツ内容を、③では、①を実施 ③ 紙レセプトと健診データの電子化等につい する上で必要な、紙データの電子化手法及び管理 方法、e-Learning 環境を検討しました。 ての検討(システム検討) 4.調査研究結果 (1) レセプトデータと健診データの分析 (C)生活習慣病の発症リスク度分析 (A)分析の全体像(図2) 本モデル事業においては、以下の4つの分析手法 生活習慣病にかかる可能性を、過去の病歴、健診 を図2の流れで実施します。 結果、生活習慣等から算出します。解析手法は、 ① 疾病分類(ICD-10) :現状傾向把握 大きく以下の2つに分けられます。 ② 発症リスク度分析:保健事業対象者の抽出 ① 医学的見地による解析 ③ 介入プログラム評価:保健事業効果の確認 疾病との関係が医学的に検証されている健 ④ 医療費分解解析:複数傷病名レセプトの診療 診値を活用する場合は、周知のルールに基づ きリスク度を算出します。 行為疾病別振分け モデ ル事 業 での 目的 ② データ分析による解析(図4) 一次・二次予防の 対象者抽出 現状の把握 介入プログラムの 作成・実施 受診の有無と基本属性、生活習慣、性格等の 効果の確認 関係をモデル化することにより、対象者ごと 分析機能 に傷病発症率を算出し、これをリスク度に変 疾病分類統計 (ICD-10) 発症リスク度分析 介入プログラム評価 換します。 医療費分解解析 結果(レセプトデータなど) 図2.分析の全体像 要因の候補(アンケート、検診値など) (B)疾病分類統計 あらかじめ決められた分析軸・指標で集計・出力 を行う定型レポートだけではなく、分析者の要望 に応じて、分析軸・指標を動的に切り替えながら、 疾患発症の有無 = 基本属性 × 生活習慣 × 性格特性 年代 食生活 健康への関心 性別 運動習慣 自信 家族 タバコ 検診異常の指摘 職業 酒 専門家への相談 瞬時に集計表を作成する非定型レポート機能(図 3)を実現します。多様な観点から集計すること 人数 120 20代 180 30代 200 ・ ・ ・ ・・・ クロス集計(年代×性別) 男性 分析軸 指標 女性 10代 50 70 20代 80 100 30代 90 110 ・ ・ ・ ・・・ ・・・ 分析軸を対話的に切 り替えられるので、複 数の分析軸による集 計結果をすぐに確認 できる。 多次元データ分析 分析軸の例 性別 年代 時 年度 月 間: 指標の例 医療費 分析軸 居住地 分析軸 被保険者属性: 入院 合併症 注射 経口剤 医 療 費 指標 点数 患者数 糖尿病 高脂血症 高血圧 高尿酸血症 グラフ化 図3.非定型レポート(イメージ) Ⅲ− 55 図4.多変量解析によるモデル化 ・・ 年代 10代 ・・ 単純集計(年代別) 通常の集計表 ・・ で問題点の把握が容易になります。 (D)介入プログラムの評価 継続的に保健事業を行うためには、 定期的に保健 事業を評価し、必要に応じて保健事業の見直しを 行います。しかし、保健事業による効果は短期的 にはなかなか現れにくいので、短期評価、中期評 価、長期評価で、それぞれ評価する指標や観点を 変え、保健事業の評価を行います。 (図5) 短期評価 中期評価 行動評価 医学的評価 長期評価 ビジネスモデル評価 図7.保健事業の全体像 行動変容評価 行動変容評価 (B)プログラムの内容と流れ 満足度、QOL評価 満足度、QOL評価 ① 1次予防プログラム 検診値改善度評価 検診値改善度評価 内容:e-Learning 講座もしくは集団指導コース 重症度評価 重症度評価 医療費評価 医療費評価 より対象者が自由選択 図5.評価の観点 期間:5時間(2講座+2集団コース) (E)医療費分解解析 評価指標:e-Learning 受講率、集団指導参加率、 厳密に傷病名別に分析を行うには、診療行為の傷病 プログラムに対するアンケート 名への対応付けが必要です。(図6)その課題を解決 ② 1.5∼2次予防プログラム(図8) するために、以下の2つの方法を用いて解析します。 内容:看護師・保健師による個別モニタリング ① 単純数え上げ法 のもと e-Learning、集団指導コースを併用 ② ベイズ調整法 期間:6ヶ月間 評価指標:健診値改善度、生活習慣改善度、プ ログラム順守度、プログラムに対するアンケー ト 図6.診療行為の傷病への対応づけイメージ (2) 保健事業内容についての検討結果 (A)保健事業の全体像 (1)(C)で算出した生活習慣病発症リスク度よ り、対象となるプログラムを決定します。リスク度 の低い対象者には、集団指導や e-Learning を中心 とする「1次予防プログラム」を、リスク度の高い 対象者には、看護師・保健師による個別指導を主軸 とし、個人に合った集団指導や e-Learning を活用 する「1.5∼2次予防プログラム」を実施します。 (図7) Ⅲ− 56 図8.1.5∼2次予防プログラムの流れ (C)コース体系図 (3)システム検討結果 (A)システム全体像(図11) 本プログラムで使用するコースを図9に示しま す。 本モデル事業においては、以下の4つのシステ 看護師・保健師による個別指導は、疾病別に4コ ムにより実現します。 ース、e-Learning では、生活習慣病全般に関す ① レセプト電子化システム る講座と疾病に特化した講座を設置します。 ② レセプト分析・統計システム また、集団指導では、生活習慣病のリスク要因と ③ 保健事業システム(保健事業支援システム) 言われている、食生活、運動、たばこ、酒、スト ④ 保健事業システム(e-Learning システム) レスそれぞれについて、コースを設置します。 図11.システム全体像 (B)レセプト電子化システム 図9.コース体系図 本システムに求められる主な要件としては次の (D)プログラム実施(例) ようなものが挙げられる。 肥満症に罹患していて、リスク度が非常に高い場合 ① スキャニングして作成されたレセプトイメ のプログラム例を図10に示します。初回個別面談 ージデータについて、画像の歪みを補正で で、看護師・保健師が個人特性を十分把握し、個人 きる。 に最適なコースを選択します。 ② レセプトイメージの解像度補正ができる。 ① 個別指導:肥満コース選択 ③ レセプトイメージデータから文字認識処理 ② e-Learning:肥満講座選択 によりレセプトテキストデータを作成でき ③ 集団指導:居酒屋コース選択 る。 ④ レセプトテキストデータをコード変換処理 (個人特性:お酒を飲む機会が非常に多い) により、傷病名は ICD-10コードへ、摘要 欄内の各項目についてはレセプト電算処理 コードにそれぞれ紐付けできる。 ⑤ 文字認識処理またはコード変換処理にてエ ラーとなった項目については補正入力によ る修正ができる。 図10.プログラム実施例(高リスクの場合) Ⅲ− 57 (C)レセプト分析・統計システム ③ 被保険者や被扶養者へコーディネートした保 本システムに求められる主な要件としては次のよ 健事業サービスの内容や訪問指導の実績等を うなものが挙げられる。 登録・参照できる。 ④ 健康保険組合が保健事業コンサルティングや ① ICD-10の傷病名分類でデータ分析ができ 保健事業実施団体と結んだ、サービス提携内 る。 容を登録・参照できる。 ② 傷病名単位で医療費の計算ができる。 (E)e-Learning システム ③ レセプトデータ、健診データ、アンケートデ ータの関連性を分析できる。 本システムに求められる主な要件としては次のよ ④ 傷病重症度による医療費分析ができる。 うなものが挙げられる。 ⑤ 単純集計から多変量解析まで、分析者のスキ ① 被保険者や被扶養者(以下「受講者」という。 ) ルに合った分析ができる。 の学習状況が管理できる ⑥ 集計表の分析軸・分析指標を画面上で動的に ② 本システム利用環境についての制限を可能な 切り替えられる多次元データ分析ができる。 限り少なくする。 ⑦ スケジュール機能、バッチ処理機能により、 ③ 受講者の罹患状況等に対応した教材を、シス 分析レポートの作成を定型化できる。 テム側にて自動選択し提供する。 ④ 受講者が理解しやすいようにテキストだけで (D)保健事業支援システム 本システムに求められる主な要件としては次の はなく、画像や、可能であれば動画や音声も ようなものが挙げられる。 まじえたコンテンツを提供する。 ⑤ 受講者の理解をより深められるように、単元 ① 保健事業サービスの申込みをオンラインで ごとにトライアル(小テスト)を設ける等の 登録できる。 教材構成を採用する。 ② 保健事業サービスを実施する被保険者や被 扶養者の情報を、登録・参照できる。 5.今後の課題と展望 今後、本モデル事業を実施するにあたり、健康保 (1) 保健事業コンサルティング及び保健事業 険組合、事業主及び産業医との協力関係の構築が重 要であります。しかし、企業文化等の違いにより、 サービスの職務を担う人材育成 (2) 各健康保険組合における事業主・産業医 様々な協力体制が存在することが想定されるため、 との協力体制の構築と役割分担 各健康保険組合の事情に応じて、柔軟に対応できる また、(2)については、本モデル事業を通じて 保健事業を実施する必要があります。そのような保 本来あるべき健康保険組合、事業主及び産業医と 健事業を実施するためには、以下の2点の課題があ の協力関係を試行錯誤しながら構築していきま ります。 す。今後、これらの課題への対応策については、 本コンソーシアムで継続的に検討を行っていき ます。 当事業に関するコンソーシアムの連絡窓口 特定非営利活動法人 理事長 武田 全国訪問健康指導協会 節夫 Tel:03-5282-3781 FAX:03-3133-3785 e-mail:[email protected] Ⅲ− 58
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