翻訳の近未来予測

翻訳の近未来予測
翻訳ビジネスはこう変わる。フェーズ
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報道されておりますように、ここ数年は世界同時不況が進行するでしょうが、同時にビジネス・
産業の仕組みも構造的に変わっていくでしょう。翻訳業界は産業界からの発注を受けているの
ですから産業やビジネスの変化に大きく影響されます。次のような変化が翻訳産業に影響を与
えると考えられます。
■ 1 . グローバリゼーションの更なる進行
1980 年代末の社会主義圏の崩壊、中国の市場経済参加以来続いているグローバリゼーションは
更に急速に進行して行くでしょう。米国のサブプライム問題に端を発した世界同時大不況にも
かかわらず、世界各国の自由貿易体制は維持されています。保護主義に堕して自由貿易を捨てた
国はありません。このことはヒト・モノ・カネが世界の国と国の間で益々多く自由に、障害なく
流通することを意味します。国際分業、発展途上国の先進国化、先進国の社会経済の相似化は、連
れて益々進むでしょう。通信技術の高度化もあって世界中の情報の流通は飛躍的に増加してい
ます。情報量の増加と多様化は「翻訳」需要を増加させます。グローバリゼーションに対応する
言語は英語ですから、グローバリゼーションが進めば進むほど、英語をソース言語、あるいはター
ゲット言語とする「翻訳」は増えざるを得ないのです。
■ 2. ISO 化現象・文書が増える
ISO9000 とか ISO12000 とかいう言葉をお聞きになったことがありませんでしょうか。国際標
準機構のことで最近は製造業のみならずサービス業にも導入されています。製造工程から品質
管理そして内部統制に到るまですべての社内プロセスを国際標準にあわせて文書化する作業で、
大企業のみならず中小企業に到るまで広く普及して来ています。このシステムを採用しますと
社内のすべての手続を「文書化」することが必要となります。必然的に文書の数は増えます。 ISO
を使用しない企業でも多くが口頭の共有知あるいは暗黙知を文書化して明示するようになりま
した。派遣や期間工などの短期雇用が増え請負や独立事業者へのアウトソーシングが増えたた
め暗黙知を明示化する必要が生じたからです。企業内の文書はこのため激増しています。これ
を ISO 化現象と呼んでいます。
一方、国内における外国人労働者の増加や海外発展途上国への生産シフトの結果として、これ
ら ISO 化文書を翻訳しなければならない需要が増加して来ています。それも数多くの言語への
翻訳です。たとえば日本の企業が海外展開するに当って生産マニュアルや仕様書を日本語と英
語だけでなく、中国語、ブラジル(ポルトガル)語、ベトナム語、インドネシア語等いろいろな
言語で複数作らなければならないのです。ここにも「翻訳」を必要とする文書の増加があります。
■ 3. 先進諸国の法制の収歛傾向
いま先進各国の法制は似たようなものになりつつあります。たとえば株式会社法は日米欧同じ
ようなものですし、独占禁止法制も日米欧殆ど同じです。企業はそれに合わせて同時的に対応し
ようとしています。たとえば、特許の出願であれば、特許出願書を日英両語で作成し、日米欧の
特許庁に同時出願します。医薬品の承認申請であれば、日英両語で作成して日本と米国、英国の
厚生薬務当局に同時申請し、同時に仏・独語の申請をそれぞれの国の薬事規制当局に申請します。
食品、自動車、電子機器など規制当局の許認可が必要な商品の申請はすべて複数の言語で作成し
複数の国の行政当局に申請します。申請には多量の文書が必要ですがこればそれぞれの言語で
作成されなければなりませんから、ここにも「翻訳」が必要です。
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■ 4. 翻訳をめぐる技術革新
豊富な翻訳需要に支えられて、翻訳を大量に迅速に行うための技術革新が急速に進んでいま
す。技術革新のための資金も豊富に投じられています。 EU では EU 政府の公用言語が加盟 27
カ国の言語となっており全ての法令規則・議事録・報告類を 27 の公用言語で作成提供しなければ
ならないことから膨大な量の翻訳の需要(翻訳官 9000 人と言われています)がありますが、この
省力化のために大規模な言語研究開発の資金が投入されています。米国ではソフトウェアの
ローカライゼーションを中心に巨大な翻訳会社が存在しその需要に応ずるための技術開発投資
が行われています。日本も翻訳大国の一つとして翻訳ソフトメーカーや翻訳支援ツールメー
カーなどによる活発な投資が行われています。
翻訳ソフトはどんどん高度化・精密化して来ています。最近ではキーワード解析、データ言語
処理に統計的アプローチや確率計算を使った翻訳ソフトも登場しており、出力翻訳文も満足の行
くものになって来ています。少なくとも社内用途の翻訳文であれば充分に通用します。コン
ピューター製造企業などは特に社内利用に熱心で、社内のあらゆる部門で積極的に自動翻訳を
使って世界中の情報を集め共有しています。市販の翻訳ソフトも販売数が増加するにつれて価
格が安くなり、現在では一万円を切っています。アトラス、ロゴビスタ、オムロン、ソースネク
スト、イー・フロンティア、ソフトバー、クロスランゲージ、PC トランサーなどいろいろなブラ
ンドが市販ソフトとして売り
出されています。
翻訳支援ソフトは翻訳者が行う翻訳作業を対訳や辞書検索などで助けるソフトですが、性能も
向上し使い勝手のよいものになって来ています。翻訳支援ソフトは翻訳者が使い込めば使い込
むほどデータが蓄積して行きますので専門的な翻訳者にとって必要なツールになって行くで
しょう。市販の商品としてトラドス、トラツール、アトラスな
どが利用されています。
翻訳ウェブサイトは Google や YAHOO などの検索エンジンやエキサイトやインフォシークの
ようなプロバイダーが運営しているインターネット上の翻訳サイトです。自己のパソコンの
ハードディスクを使わず、ウェブサイトの側のコンピュータを使用して翻訳する、いわゆるクラ
ウドコンピューティングの一つです。無料で主要言語(日・英・中・韓)の自動翻訳を提供して
います。ウェブ検索した外国文をそのまま自動翻訳にかければ必要な訳文が一瞬で出て来るの
ですから大変に便利です。出て来る翻訳文も最近はずい分と良くなりました。翻訳ソフトは常
時更新をされていますのでこれからも更に精度は上がって行くと思われます。今後、端末である
小型ノートパソコンと携帯電話の融合が進めば、誰にでも翻訳がユービキタスなものになって行
くことになるでしょう。翻訳をめぐる技術革新は恐るべきものになります。
■ 5. 日本語が変わる
社会の高度化とあわせまた日本人の進化と合わせて「日本語」も変わって来ています。これも
翻訳に影響する変化の一つです。文の短縮化、カタカナ多用、英語風の日本語構文など実感して
おられるでしょう。日本語の変化も翻訳をめぐる変化の重要な一つです。
(文責 石田佳治)
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