明日に広がるシリーズ 実践の窓 1 総合的な学習の時間の中で情報活用能力を高める指導の工夫 福山市立南小学校 岡崎 孝史 【本実践の特色】 本実践は,総合的な学習の時間の中にディジタルポートフォリオを導入することによって,児童 の情報活用能力を高める指導の在り方を探ったものである。ポートフォリオをディジタル化するこ とで,児童は収集,作成した資料を容易に保存することができるだけでなく,まとめの段階におい ては資料を的確に検索することもできる。さらに,再編集も簡単に行えるなど,ポートフォリオの 利点を生かすことが可能となっている。また,個々の児童が収集したデータを共有化することで, グループでの共同制作(コラボレーション)など,学び合いの中でお互いの考えを紡ぎ合わせた成 果物を作り出すことにもつながっている。 このディジタルポートフォリオ作成の過程を通して,児童は情報機器を,情報の収集や処理,発 信の手段として積極的に活用している。これから児童生徒に求められる情報活用能力の育成が,効 果的に行われている実践事例である。 (教育情報部 指導主事 坂 英明) 1 ねらい 2 情報化社会の進展に伴い,あふれる情報の中か ら,自分に本当に必要な情報を選択し,主体的に自 らの考えを築き上げていく力,すなわち,情報活用能 力を育成することが求められている。 本校では,昨年度より総合的な学習の時間の評 価方法として,ポートフォリオ評価を取り入れて いる。このポートフォリオ評価は,児童が学習の 足跡を振り返ったり,他人の作成した情報を参考 にしたりする場合に有効な方法である。しかし, 実際の学習活動では,収集・作成した情報量が増 えるにしたがって,必要な情報を探し出すのに多 くの時間を費やすだけでなく,必要な情報を見逃 してしまう場面も少なくなかった。 そこで,収集・作成した資料をディジタル化し, そこに学習のめあてやコメントを添えて保存して いくディジタルポートフォリオの活用に着目し た。これにより,児童は効率的にポートフォリオ を作成・活用することができ,またこの活動を通 して,児童の情報活用能力が育成できると考えた。 本実践は,総合的な学習の時間の中で,ディジ タルポートフォリオを導入した授業実践を通し て,児童の情報活用能力を高める指導の在り方を 探ることをねらいとした。 取組みの実際 (1) 情 報 活 用 能 力 の 育 成 に 向 け て ア 小学校における情報活用能力 情報活用能力は「情報活用の実践力 」「情報の 科学的理解」及び「情報社会に参画する態度」の 三つに分類される。その中でも,小学校段階では 特に「情報活用の実践力」の育成が中心となると 言われている。この「情報活用の実践力」につい て,田中克昌は図1のように四つのカテゴリーに まとめている。(注 1) 情報活用の実践力 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な 情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを 踏まえて発信・伝達できる能力 <カテゴリー> 情報の収集 情報の処理 選択する,分析する,配列する,分類する 比較する,整理する コンピュータで処理する 情報の発信 発表,報告,説明,解説 話し合う 文章,図,表を書く 機器で表現する コンピュータで表現する 情報の蓄積 分類整理する ノート,カード,機器で記録する コンピュータで記録する 図1 −52− <指導項目例> 話,音楽,音を聞き取る 文章,図表,画像,記号を読み取る 観察する,測定する 辞典,図鑑,事典等を検索する 視聴覚機器を使って収集する コンピュータで収集する 情報活用の実践力の構造図 このカテゴリーを基にして,具体的な指導目標 を単元計画の中に位置付けることにした。 イ ディジタルポートフォリオの利点 余田義彦は,ディジタルポートフォリオの利点 を,図2に示すように8点にまとめている。( 注 2) ○活動表現を映像や音声で記録できる ○いつまでも色褪せない ○再編集ができる ○保管に場所をとらない ○持ち運びが容易になる ○成果物を検索できる ○複製が簡単にできる ○評価と成果物を関連付けられる 図2 ディジタルポートフォリオの利点 また余田は,ディジタルポートフォリオを総合 的な学習で扱うことの意義として,次の2点を挙 げている。 ○ ディジタルポートフォリオ作りの活動には, 「情報活用の実践力」の育成にかかわる活動が 多く含まれており,情報教育を自然な形で統合 することができる。 ○ 子どもたちの学習成果を広く社会に公開する ための手段として適している。 総合的な学習 の流れ ① 目的をはっきりさせる 情報の発信 ・話し合う ② 学習物を集める 情報の収集 ・聞き取り ・観察,測定 ・辞書,事典,図鑑の検索 ・情報機器を使って収集 情報の蓄積 ・ノート,カード,機器で記録 情報の処理 ・意見,感想,考えをまとめる ③ いつでもどこでも 何でも評価 ④ 評価基準にそって選ぶ 構 築 ⑤ 検討会(中間発表会) ⑥ 学習物の入れ替え 凝縮ポート フォリオ ひろげる ⑦ 発 表 会 報告書作り 情報の処理 ・選択,分析,整理,共有 情報の処理 ・加工,構成 情報の発信 ・発表,説明,解説 情報の処理 ・再構成 情報の発信 ・発表,機器で表現する ・報告,文章,図で書く 情報の蓄積 ・分類し整理する ・ファイルに蓄積,機器で保存 ポートフォリオ 作成ツール 「 デ ジ ポ ケ ッ ツ 」 の活用場面 めあて,キーワードの入力 データの入力 ・写真,動画,音声 ・文字 ・URL 追加コメント・キーワードなど の入力 個人用・グループ用フォルダ 再 まとめる 情報活用の実践力 作 業 用 フ ォ ル ダ しらべる 元ポートフォリオ つ か む ポートフォリオ 作成の流れ これらのことから,ディジタルポートフォリオ を学習活動で活用すれば,児童の「情報活用の実 践力」の育成につながると考えた。 ウ ポートフォリオ作成ツールの利用 今回の授業実践に当たっては,Web上で公開 されているフリーソフト「デジポケッツ」を利用 した。このソフトは,堀口秀嗣と教育ソフト開発 グループが,総合的な学習で利用することを想定 して開発したソフトである。保存したいと思った 画面や文章などを,保存しようとした理由と一緒 に,付箋を貼るような感覚で保存できるという特 徴がある。また,プレゼンテーション作成やデー タの共有も容易に行えるなど,ディジタルの利点 を生かしたポートフォリオ作成が行えるツールで ある。フリーソフトなので,導入時の費用負担が 少ないという利点もある。 図3は,ポートフォリオを作成・活用する過程 と,四つのカテゴリーに分けた「情報活用の実践 力」の育成場面や「デジポケッツ」の活用場面を 総合的な学習の時間の流れに沿って一覧にしたも のである。 データの検索・整理・共有 プレゼンテーションの作成 プレゼンテーションの実施 データの再構成 プレゼンテーションの実施 Webページ作成 CD−Rへの保存 図3 総合的な学習とポートフォリオ作成,情報活用能力の関係 −53− (2) 授 業 実 践 本年度,第5学年において実施した単元の流れ 単元名 学 つ か む 習 活 「なりたいな!心のやさしさ広げる人に」 動(○数字は時間数を示す) 学習計画を立てよう。 ◎学習計画を書き込めるワー クシートを用意しておく ② 会いたい人を見つけ,取材計画を 立てよう。 い つ だれに どこで 取材内容 準備物 ③ ⑩ 町内にはもっとすてきな人がい るのかな。 街にくわしい人の話を聞こう。② 課外 見つけた人を講師によぼう。 ② 取材したことをまとめよう。 ⑨ べ 出会った人について交流し, 気付きをまとめよう。 ④ る 活動を振り返り,自分のすて きな人を決めよう。 ③ すてきな人のことをもっと知ろう。⑦ 街の活性 文化 化・老人 道三川 芸術 ボランティア 町内 福祉 Bさん Cさん ま Dさん E親子 Fさん Gさん Hさん Iさん Jさん Kさん Lさん 警察官 ◎活動依頼先と連携をとって おく 調べたことをまとめよう。 ・写真 パソコン 実演 ・新聞 ◎まとめ方・学び方カードを 用意する ⑨ 交流して気付きを出し合おう。 ③ ◎相手意識を持って表現する よう助言する ◎お互いに気付きを交流する 場を設定する ◎連携をとっておく もっと調べてみよう。 ③ る すてきな人を紹介したいな。 ふれあい広場の計画を立てよ う。 ◎学習計画を立て発表への見 通しを持たせる ふれあい広場で発表する準備をしよう。 ◎情報モラルについての学習 を設定し,情報の発信者と しての自覚を持たせる ② ⑦ ひ ろ ふれあい広場で発表しよう。 ② ◎ゲストティーチャーにふれ あい広場に来てもらうよう に連携をとっておく 学習の振り返りをしよう 。② ◎振り返りカードを用意して おく げ る 自分にできることを続けていこう。③ ◎学習の発展として,Web ページ作りを行う 併せて情報モラルの学習を 行う 図4 動 の 様 子 情報の発信 ・話し合う 情報の収集 ・聞き取り ・観察 情報の蓄積 ◎連携(お願い)をしておく ○デ ィ ジ タ ル カ メ ラ 等により必要な ・ノート, カ ー ド , 情報を収集する 機器で記 録 情報の処理 ◎ デ ィ ジ タ ル ポ ー ト フ ォ リ オ 作成学び方カ ○デ ィ ジ タ ル カ メ ラ の画像から必要 ・意見,感想 ードを用意しておく なものを取り込んだり, 考えをま 気付きや感想を話し合っ とめる ◎人材一覧表を用意しておく て入力したりする 情報の収集 連合町内会長さんと連携を ・聞き取り とっておく ・観察 情報の蓄積 ○デ ィ ジ タ ル カ メ ラ 等により必要な ・ノート, カ ー ド , 情報を収集する 機器で記 録 ◎学習を深め合う場の設定を 情報の処理 する ・意見,感想 考えをま ◎成果と今後の課題がまとめや ○デ ィ ジ タ ル カ メ ラ の画像から必要 とめる すいようなワークシートや学 なものを取り込んだり, 情報の発信 び方カードを用意しておく 気付きや感想を話し合っ ・ 発 表 , 説 明 て入力したりする 解説 ◎「すてきな人一覧表」を掲 ○ス ラ イ ド シ ョ ー や プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 機 ・ 機 器 で 表 示しておく 能を使って,調べたこと 現 を発表しあう 情報の蓄積 ◎選定のポイントを掲示して ・カ ー ド ,ファイル おく に記録 ◎取材先との連携をとってお く ◎取材に必要な機器を準備し ておく ◎調査活動の参考になるよう な資料・リンク集を用意す る 活 ○めあて・キーワードを入 情報の発信 力する ・話し合う ◎ デ ィ ジ タ ル ポ ー ト フ ォ リ オ の紹介をし, 意欲を持たせる 自分にできることをやってみよう。 ⑤ と め 情報活用の 実践力 ◎元ポートフォリオにするフ ァイルを用意しておく 課外 もっと取材を広げよう。 (全80時間) デ ィ ジ タ ル ポ ー ト フ ォ リ オ における 「デ ジ ポ ケ ッ ツ」の活用場面 援 ◎昨年度の学習を想起させる ような声かけをする 取材したことをまとめよう。 ら 支 今年も大勢の人と出会いたいな。 南学区には,Aさんのほかにも人のた め,街のためにがんばって,生き生きし ている人がいるのかな? ② 会ってみたいな。 取材に行こう。 し を図4に示す。 情報の収集 ○デ ィ ジ タ ル カ メ ラ ・ビデオ等を使 ・ 聞 き 取 り って必要な情報を収集す ・ 観 察 る ・辞典,事典 図鑑の検 ○インターネットで調べた 索 ことを自分のリンク集に ・ 情 報 機 器 したり,説明や写真をコ を使って ンピュータに取り込んだ 収集 りする 情報の蓄積 ・機器で記 録 情報の処理 ○集めた情報を一覧表示し ・選択,分析 て追加コメントやスライ 整理,共有 ド掲示文を入れる 構成,加工 ・意見,感想 考えをま ○ス ラ イ ド シ ョ ー や プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 機 とめる 能を使って,調べたこと 情報の発信 を発表しあう ・発表 ・機器で表 現する ・話し合う 情報の収集 ・聞き取り ・観察 情報の発信 ・話し合う ○集めた情報をもとにグラ 情報の処理 フや図・絵を作成する ・加工 ○伝える相手に合わせた プ レ 情報の処理 ゼ ン テ ー シ ョ ン を作成する ・再構築 情報の発信 ○プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を使って発表 ・発表,説明 する ・機器で表 現する ・演じる ○作成した プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン をも 情報の発信 とにWebページを作成 ・Web ペ ー ジ を する 作成 ○デ ィ ジ タ ル ポ ー ト フ ォ リ オとして蓄 情報の蓄積 積してきた情報をCD− ・ 機 器 で 蓄 Rに保存する 積 単元の流れ −54− 取材計画を立てている様子 取材の様子(民生委員さんに 道三川の美化活動について取 材) キ ー ワ ー ド やコメントを相談しながら 入力している様子 敬老会での体験活動の様子 評価基準にそって入力した データを見直している様子 プレゼンテーションを使って 発表している様子 3 指導上の留意点 ○ 総合的な学習の時間にディジタルポートフォリ オを取り入れた授業を行う際,次の点に留意した。 (1) 「 つ か む 」 活 動 の 中 で ○ 内容や目的を明確にするためのワークシート, インタビューなどの学び方カードを準備する。 (2) 「 し ら べ る 」 活 動 の 中 で ○ 「人材一覧表」を準備し,テーマに沿った取 材先を,児童に主体的に決めさせる。 ○ インターネットを利用して,調べ学習を効果 的に行わせるために,関連するリンク集を準備 しておく。 ○ 収集・作成した資料は,まず個人のファイル に入れて,元ポートフォリオを作らせる。 ○ 集めた資料を定期的にディジタル化させ, 「デ ジポケッツ」を利用して保存させる。 ○ 保存する際には,必ず意見や感想,コメント などを書き込むように指導する。 ○ 入力したデータを共有化し,グループでの共 同制作(コラボレーション)の効率化を図る。 (3) 「 ま と め る 」 活 動 の 中 で ○ 発表資料を作っていく上での評価基準を決 め,それに基づいてグループで集めたデータを 選択,整理させるようにする。 ○ 中間発表会を持ち,学び合いと次への方向付 けの場とし,発表資料の再構築をさせるように する。 ○ 情報モラルについての学習を設定し,情報の 発信者としての自覚を持たせる。 (4) 「 ひ ろ げ る 」 活 動 の 中 で ○ 調べたことを発表する際には,写真や動画を 用いた発表にするよう指導する。 ○ ディジタルポートフォリオとして1年間蓄積 してきたものを基に,学年のWebページを作 成させる。 ○ 発表資料とともにCD−Rに保存し,学習資 料のデータベース化を図る。 4 成果と今後の課題 学習を進める道具の一つとして,この情報機器 を積極的に活用したディジタルポートフォリオの 授業実践は,児童の情報活用の実践力を高めるこ とができ,児童の学習活動を意欲的にした。この ことは,授業実践後に書かせた児童の感想にもう かがえた。 (1) 研 究 の 成 果 児童はディジタルカメラやインターネットを, 情報収集の新たな手段の一つとして積極的に利 用することができた。 ○ 発表資料を作る際,収集・作成した多種多様 の資料の中から,必要なものを選択したり検索 したりする力を高めることができた。 ○ ネットワークを通じてデータを共有すること で,共同制作(コラボレーション)による作業 の効率化を図ることができた。 ○ 知の共有化による学び合いの中で,お互いの 考えを紡ぎ合わせた成果物を作り出すことが可 能となった。 ○5年生になって初めてディジタルポートフォリオ をやって手書きの時よりもはやく,パソコンの方が 時間がたんしゅくできて楽だと思いました。 ○相手を思いやるということをJさんから学びまし た。ディジタルポートフォリオというパソコンの発 表の仕方を知り,ディジタルカメラの使い方もわか りました。課題に向かってみんなで協力するという 事が楽しかったです。これから取材したことをホー ムページで紹介したいです。保育所の人にも本の読 み聞かせをしたいです。 児童の感想 (2) 今 後 の 課 題 今後,ディジタルポートフォリオを活用した学 習活動を更に進めていくためには,校内LANを 整備し,各教室からインターネットが使えるよう にネットワーク化を進めることが必要である。 【引用文献】 (注1) 「情報活用能力の育成と総合的な学習」 日本教育情報学会 年会論文集14 1998 pp.281-284 (注2) 「NEW教育とコンピュータ7月号」学研 2000 pp.31-33 【参考文献】 ( 1 ) 加藤幸次・安藤輝次『総合学習のための ポートフォリオ評価』黎明書房 1999 (2) 鈴木敏恵 『 ポートフォリオで評価革命! 』 学事出版 2000 (3) 堀口秀嗣「ディジタルポートフォリオ『デ ジポケッツ 』」 2001 http://www.nier.go. jp/horiguti/dpf1.htm −55−
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